説明

二酸化炭素回収機能付き輸送手段および二酸化炭素の回収処理方法

【課題】 輸送手段の重量や容量のバランスが崩れることによる運行の支障のような回収した二酸化炭素に起因する問題が生じることのない二酸化炭素回収機能付き輸送手段および二酸化炭素の回収処理方法を提供する。
【解決手段】 二酸化炭素回収機能付き輸送手段は、炭化水素系燃料および二酸化炭素を貯蔵する内部タンク1Bを備えており、圧力を検出するタンク圧力センサ17、その検出結果に基づいて圧力を調整するタンク圧力調整器18、温度を検出するタンク温度センサ19、その検出結果に基づいて内部タンク1Bの温度を調整するタンク温度調整器20、内部タンク1B外部を覆っている外殻タンク1Aの温度を検出する外殻タンク温度センサ15、その検出結果に基づいて外殻タンク1Aを冷却する外殻タンク冷却器16により、内部タンク1B内に水素系燃料および二酸化炭素を貯蔵する貯蔵条件を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温室効果ガス(Greenhouse Gas、以下「GHG」という。)放出量を削減するために、船舶等の輸送手段から放出される二酸化炭素を分離・回収する二酸化炭素回収機能付き輸送手段および回収された二酸化炭素を海洋において処理する二酸化炭素の回収処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GHG放出量の削減はさしせまって解決されるべき国際的に重要な課題である。2007年に世界中の船舶から放出されたGHG量は、世界のGHG総放出量のうち3.3%を占めており(IMO海洋環境保護委員会、2009年)、これはドイツ一国からの排出量に相当する。
国際海事機関(International Maritime Organization、以下「IMO」という。)は、気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change、以下「IPCC」という。)からの要請に応じて、船舶から放出されるGHGを劇的に減少させる方法を検討している。なぜなら、GHGを劇的に減少させるためには、船体回りの摩擦力低減とエンジン効率の改善に加えて、他の新しいアイデアが必要となるからである。新しいアイデアとしては、船舶の推進に高効率の蓄電池を用いるものがあるが、このような高効率の蓄電池システムは、現時点においてすぐに入手可能なものではない。
上記のアイデア以外の有望な選択肢として、酸素中で燃料を燃焼させる方法がある。この方法は、燃焼した排気ガスを冷却することにより、二酸化炭素と水を容易に分離することが可能であり何ら新規開発技術を必要としないことから、高効率の蓄電システムが開発されるまでの代替手段として期待されている。この酸素中で燃料を燃焼させる方法では、適切な燃料、酸素供給、適切なエンジンシステム、エンジンとエネルギーのバランス、二酸化炭素を捕捉して蓄える船上のシステム、液化した二酸化炭素の海洋への移送(CCS、Carbon Capture and Storage)およびコスト評価が重要な要素となる。
【0003】
上述した酸素中で燃料を燃焼させる方法、より具体的には酸素中で燃料を燃焼させた際に生じた水と二酸化炭素とを分離させて二酸化炭素を回収する方法は、従来行われている(例えば、特許文献1〜3)。
特許文献1には、炭化水素燃料を純粋酸素と燃焼させることにより生じた二酸化炭素を回収する汽車や船のような大規模移動システムが開示されている。また、特許文献2には、炭化水素燃料を酸素と混合して燃焼することにより生じた二酸化炭素を回収するシステムが開示されている。しかし、特許文献1および2には、二酸化炭素を回収貯蔵する際の貯蔵条件を制御することについては何ら記載されていない。
特許文献3には、空気から窒素の少なくとも一部を除去した酸素濃厚空気と燃料を燃焼させることにより生じた水と二酸化炭素を含む燃焼生成物から、水を分離した後、二酸化炭素を液化して蓄積する自動車、トラック、列車、航空機、船舶などの運送用車両が開示されている。しかし、同文献にも、回収された二酸化炭素を貯蔵する際の貯蔵条件の制御については何ら記載されていない。
また、特許文献4には、純粋酸素を用いて燃料を燃焼させることに関するものではないが、燃料が燃焼した際に生じた二酸化炭素を低温のLNGと熱交換させて液化して回収するものが記載されている。しかし、同文献には、上記特許文献1〜3同様、二酸化炭素を回収貯蔵する際の貯蔵条件の制御については何ら記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平10−505145号公報
【特許文献2】特開平11−72009号公報
【特許文献3】特表2002−503782号公報
【特許文献4】特許2898092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
輸送手段のGHG放出量の削減を目的として、貯蔵された燃料を燃焼させる際に生じた二酸化炭素を空気中に放出せずに回収する場合、まず燃料や回収した二酸化炭素を適切な貯蔵条件で管理する必要がある。また、燃料の供給や回収した二酸化炭素に起因して輸送手段の貯蔵容量やバランスに変化が生じる。この燃料の供給や回収した二酸化炭素に起因する輸送手段の貯蔵容量やバランスの変化により、輸送手段の運行に支障を来すおそれがある。例えば、船舶がバランスを崩して一方に傾くことにより推進効率へ悪影響を及ぼすといった事態を招くおそれがある。また、輸送手段の回収した二酸化炭素を如何に処理するかという課題がある。
本発明は、貯蔵された燃料や回収した二酸化炭素の貯蔵に起因する問題、また重量や容量のバランスが崩れることにより、輸送手段の運行に支障を来たすという問題の発生を防止することを目的としている。また、回収した二酸化炭素を輸送手段として適切に移送し、貯留化することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の本発明の二酸化炭素回収機能付き輸送手段は、駆動手段と、炭化水素系燃料を貯蔵する燃料貯蔵手段と、この燃料貯蔵手段から供給される炭化水素系燃料と酸素を使用してエネルギーを取り出すエネルギー変換手段と、このエネルギー変換手段から排出される排気ガス中の二酸化炭素を貯蔵可能な状態に処理する二酸化炭素処理手段と、この二酸化炭素処理手段で処理した二酸化炭素を回収して貯蔵する二酸化炭素貯蔵手段と、前記燃料貯蔵手段と前記二酸化炭素貯蔵手段の貯蔵条件を制御する貯蔵条件制御手段とを備えていることを特徴とする。
ここで、「輸送手段」とは人や貨物を運ぶ手段をいい、例えば、船舶、車、列車等が該当する。また、「炭化水素系燃料」とは、炭素と水素からなる化合物の燃料をいい、例えばメタン、エタン、プロパン、天然ガス、アルコール類、軽油、重油、ガソリンなどの石油製品等が該当する。また、「エネルギー変換手段」とは、炭化水素系燃料の化学エネルギー、熱エネルギー、電気エネルギー等を変換して輸送手段に適した形のエネルギーに変換する手段をいい、例えば、エンジンやタービン等の熱機関をはじめ、ボイラーや改質手段を有した燃料電池等が該当する。また、「二酸化炭素処理手段」とは、二酸化炭素を貯蔵可能な状態に処理する手段をいい、例えば、二酸化炭素を冷却および/または加圧する手段が該当する。
「貯蔵条件を制御する」とは、例えば、燃料貯蔵手段、二酸化炭素貯蔵手段の貯蔵上の物理的条件である温度や圧力等を適切に制御すること、炭化水素系燃料と回収された二酸化炭素の密度や容量の差に伴う、重量バランスや容量バランスの崩れの影響を軽減するように制御すること、燃料貯蔵手段と二酸化炭素貯蔵手段の形態や形状、配置条件に応じ貯蔵を制御すること等をいう。
この構成により、輸送手段に搭載された燃料貯蔵手段から供給された炭化水素系燃料と酸素から生じた二酸化炭素が、輸送手段に搭載された二酸化炭素貯蔵手段に貯蔵条件を制御して貯蔵される。
【0007】
請求項2の本発明は、請求項1に記載の二酸化炭素回収機能付き輸送手段において、前記貯蔵条件制御手段が、前記燃料貯蔵手段および/または前記二酸化炭素貯蔵手段の温度を制御するものであることを特徴とする。
この構成により、燃料貯蔵手段および/または二酸化炭素貯蔵手段の貯蔵条件としての温度が制御される。
【0008】
請求項3の本発明は、請求項1または請求項2に記載の二酸化炭素回収機能付き輸送手段において、前記炭化水素系燃料が、エタン、または主成分であるエタンとエタン以上の飽和温度をもつ炭化水素との混合物であることを特徴とする。
ここで、「主成分」とは混合物中に含まれている成分のうち、最も大きな容積を占めている成分をいう。また、「エタン以上の飽和温度をもつ炭化水素」としては、例えばプロパン、プロピレン、ブタンなどが挙げられる。また、「主成分であるエタンとエタン以上の飽和温度をもつ炭化水素との混合物」には、天然ガスから抽出されたエタン以上の飽和温度をもつブタンやプロパンが混じった状態のエタン燃料が含まれる。
この構成により、例えば燃料貯蔵手段をエタンの飽和温度以下とすることにより、炭化水素系燃料を液体状態で扱える。
【0009】
請求項4に記載の本発明は、請求項3に記載の二酸化炭素回収機能付き輸送手段において、前記燃料貯蔵手段が前記二酸化炭素貯蔵手段を兼ねたものであることを特徴とする。
この構成により、燃料貯蔵手段を二酸化炭素貯蔵手段と同一の貯蔵手段として構成することが可能となる。
【0010】
請求項5に記載の本発明は、請求項1乃至請求項4のうちの1項に記載の二酸化炭素回収機能付き輸送手段において、前記燃料貯蔵手段と前記二酸化炭素貯蔵手段とが、前記輸送手段に対する重量的なバランスをとって配置されていることを特徴とする。
ここで、「輸送手段に対する重量的なバランスをとって配置されている」とは、燃料貯蔵手段と二酸化炭素貯蔵手段の重量の不均一に起因して輸送や作業等に支障が生じない位置、モーメント関係等にこれらが配置されていることをいう。
この構成により、燃料の供給や二酸化炭素の回収に伴って、輸送や作業等に支障が生じるような重量的なバランスの崩れが無くせる。
【0011】
請求項6に記載の本発明は、請求項1乃至請求項5のうちの1項に記載の二酸化炭素回収機能付き輸送手段において、前記貯蔵条件制御手段が、重量的および/または容量的なバランスをとることができるように前記燃料貯蔵手段と前記二酸化炭素貯蔵手段の貯蔵条件を制御するものであることを特徴とする。
ここで「重量的および/または容量的なバランスをとることができる」とは、炭化水素系燃料と回収された二酸化炭素の密度や容量の差に伴う、重量バランスや容量バランスの崩れの影響を軽減可能なことをいう。例えば、燃料貯蔵手段中の燃料および二酸化炭素貯蔵手段中の二酸化炭素の重量のおよび/または容量の不均衡により、輸送手段による輸送や作業等に支障が生じないようにすることをいう。また、「貯蔵条件制御手段が、重量的および/または容量的なバランスをとることができるように前記燃料貯蔵手段と前記二酸化炭素貯蔵手段の貯蔵条件を制御する」とは、例えば、輸送手段の進行方向に平行な軸により輸送手段を二等分した場合に、船首方向から見て前記軸の左右の重量バランスおよび/または容量バランスが保たれるように、燃料および/または二酸化炭素を貯蔵することをいう。
この構成により、燃料の供給や二酸化炭素の回収に伴って、重量的および/または容量的なバランスを貯蔵条件制御手段が制御することにより、輸送や作業等への支障が制御面からも軽減できる。
【0012】
請求項7に記載の本発明は、請求項1乃至請求項6のうちの1項に記載の二酸化炭素回収機能付き輸送手段において、前記二酸化炭素処理手段が、前記燃料貯蔵手段に液化状態で貯えられた前記炭化水素系燃料を前記エネルギー変換手段に供給する経路に設けられた冷熱交換手段を含むものであることを特徴とする。
この構成により、液化状態で貯えられた炭化水素系燃料の冷熱を二酸化炭素処理に利用することが可能となる。
請求項8に記載の本発明は、請求項1乃至請求項7のうちの1項に記載の二酸化炭素回収機能付き輸送手段において、前記酸素を供給する大気中より酸素を取り出す酸素分離手段をさらに備えたものであることを特徴とする。
この構成により、酸素分離手段より炭化水素系燃料のエネルギー変換に使用される酸素の一部あるいは全てを供給することが可能となる。
請求項9に記載の本発明は、請求項1乃至請求項8のうちの1項に記載の二酸化炭素回収機能付き輸送手段において、前記エネルギー変換手段でエネルギー変換を行う際に水を加える水添加手段をさらに備えたものであることを特徴とする。
この構成により、水添加手段から加えられた水によりエネルギー変換を行う際の変換条件を制御することが可能となる。
請求項10に記載の本発明は、請求項1乃至請求項9のうちの1項に記載の二酸化炭素回収機能付き輸送手段において、前記排気ガスから二酸化炭素を抽出する二酸化炭素抽出手段をさらに備えたものであることを特徴とする。
この構成により、二酸化炭素抽出手段を用いて排気ガスから例えば、水を除去することが可能となる。
【0013】
請求項11に記載の本発明は、請求項1乃至請求項10のうちの1項に記載の二酸化炭素回収機能付き輸送手段において、前記輸送手段が、船舶であることを特徴とする。
この構成により、船舶で使用される炭化水素系燃料から二酸化炭素を回収し、船舶に搭載した二酸化炭素貯蔵手段に回収できる。
請求項12に記載の本発明は、請求項1乃至請求項11のうちの1項に記載の二酸化炭素回収機能付き輸送手段において、前記炭化水素系燃料が、前記輸送手段の輸送対象燃料でもあることを特徴とする。
この構成により、輸送手段の輸送対象燃料をエネルギー変換手段に供給することが可能となる。
【0014】
請求項13に記載の本発明の二酸化炭素の回収処理方法は、請求項1乃至請求項12のうちの1項に記載の二酸化炭素回収機能付き輸送手段を用いて、前記二酸化炭素貯蔵手段に回収して貯蔵した二酸化炭素を所定場所まで輸送するものであることを特徴とする。
この構成により、二酸化炭素貯蔵手段に回収して輸送手段上に貯蔵した二酸化炭素を、輸送手段自身で所定場所まで輸送することができる。
請求項14に記載の本発明は、請求項13に記載の二酸化炭素の回収処理方法において、前記輸送手段は船舶とし、前記所定場所まで輸送された前記二酸化炭素を海中あるいは海底下に移送して貯留するものであることを特徴とする。
この構成により、船舶で所定場所まで回収した二酸化炭素を輸送し、海中あるいは海底下に移送することが可能となる。
請求項15に記載の本発明は、請求項14に記載の二酸化炭素の回収処理方法において、前記二酸化炭素の海中または海底下への貯留に当たっては、前記二酸化炭素の海中あるいは海底下への移送時に前記船舶のバラスト水張排水システムと連携して重量的なバランス制御を行うものであることを特徴とする。
この構成により、二酸化炭素の海中あるいは海底下への移送時に、船舶のバラスト水張排水システムと連携して重量的なバランスを取ることが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の二酸化炭素回収機能付き輸送手段は、燃料貯蔵手段と二酸化炭素貯蔵手段の貯蔵条件を制御する貯蔵条件制御手段を備えている。この貯蔵条件制御手段により、燃料貯蔵手段、二酸化炭素貯蔵手段の貯蔵上の物理的条件である温度や圧力等が適切に制御できる。また、炭化水素系燃料と回収された二酸化炭素の密度や容量の差に伴う、重量バランスや容量バランスの崩れの影響を軽減するように制御できる。例えば、輸送手段のバランスが崩れないように、炭化水素系燃料と二酸化炭素の貯蔵条件を制御することにより、輸送手段の運行に支障を来すといった問題の発生を防止することができる。さらに、燃料貯蔵手段と二酸化炭素貯蔵手段の形態や形状、配置条件に応じた貯蔵制御ができる。
また、貯蔵条件制御手段が、温度を制御することにより、炭化水素系燃料や二酸化炭素の相転移を制御することができ、例えば双方を液相に維持することが可能となる。
また、炭化水素系燃料としてエタンを用いる構成とすれば、二酸化炭素と貯蔵上の物理条件が近いところから、略同一の貯蔵条件で貯蔵することが可能となる。例えば、燃料貯蔵手段により二酸化炭素貯蔵手段を兼ねることができる。これにより、エタンが供給された後の燃料貯蔵手段の空間を用いて二酸化炭素を貯蔵することができるから、輸送手段上のスペースを有効に活用することが可能となる。
また、燃料貯蔵手段と二酸化炭素貯蔵手段とが、輸送手段に対する重量的なバランスをとって配置されている構成とすれば、これらの重量的な不均衡に起因した輸送や作業等における支障が生じることを防止できる。
また、貯蔵条件制御手段により重量的および/または容量的なバランスをとることができるように燃料貯蔵手段と二酸化炭素貯蔵手段の貯蔵条件を制御する構成とすれば、回収した二酸化炭素に起因して輸送手段のバランスが崩れることを防止できる。
また、二酸化炭素処理手段が、液化状態で貯えられた炭化水素系燃料をエネルギー変換手段に供給する経路に設けられた冷熱交換手段を含む構成とすれば、炭化水素系燃料の冷熱により二酸化炭素を冷却して液化することができる。
また、酸素分離手段を備えた構成とすれば、酸素分離手段により大気より濃厚酸素を抽出して濃厚酸素中で炭化水素系燃料を燃焼させることにより、排気ガスとして水と二酸化炭素のみを生じさせることができる。これにより、二酸化炭素抽出手段で排気ガスを冷却することにより水を取り除くことができるから、排気ガスから二酸化炭素を取り出すことが容易になる。
また、水添加手段を備えた構成とすれば、エネルギー変換を行う際に水を加えて燃焼温度を下げることができる。このため、純酸素中で炭化水素系燃料を燃焼する場合であっても、エネルギー変換手段を構成する装置の耐熱性能に応じた燃焼温度とすることができる。これにより、エネルギー変換手段として現在、通常に使用されている装置を用いることが可能となる。
【0016】
輸送手段が船舶である構成とした場合も、貯蔵条件制御手段により燃料貯蔵手段と二酸化炭素貯蔵手段の貯蔵条件を制御することにより、そのバランスが崩れることを防いで、回収した二酸化炭素に起因するバランスの崩れにより、推進効率の低下、船上における作業への支障、ひいては運行不能といった事態の発生を防止できる。
また、輸送手段が船舶であって燃料を輸送対象とするものである場合、その輸送対象燃料を炭化水素系燃料として用いる構成とすれば、輸送対象燃料の貯蔵手段を燃料貯蔵手段としても用いることができるから、燃料貯蔵手段を別に設ける必要がなくなる。
【0017】
本発明の二酸化炭素の回収処理方法は、上述した二酸化炭素回収機能付き輸送手段を用いて、二酸化炭素貯蔵手段に回収して貯蔵した二酸化炭素を所定場所まで輸送するものである。このため、輸送手段自身で回収された二酸化炭素を所定場所まで輸送でき、別の輸送手段を必要としない。また、回収された二酸化炭素に起因して輸送手段がバランスを崩すという問題を防止できる。
また、移送手段が船舶であり、所定場所まで輸送された二酸化炭素を海中あるいは海底下に移送して貯留する構成とすれば、貯留する余地の大きい海中あるいは海底下に二酸化炭素を貯留することができるから、GHG削減に有効である。
また、二酸化炭素の海中あるいは海底下へ移送時に船舶のバラスト水張排水システムと連携して重量的なバランス制御を行うものとすれば、二酸化炭素の海中または海底下への貯留の際に、船舶がバランスを崩すことにより支障が生じることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】エタン/二酸化炭素タンクの貯蔵条件制御についての機能ブロック図
【図2】実施の形態1の輸送手段である二酸化炭素隔離船の機能ブロック図
【図3】実施の形態1の二酸化炭素隔離船が備えているエタン/二酸化炭素タンクの構成を説明する説明図
【図4】二酸化炭素と炭化水素の圧力と飽和温度との関係を示すグラフ
【図5】二酸化炭素隔離船上のエタン/二酸化炭素タンクの積載状態の概略を示す斜視図
【図6】エタン/二酸化炭素タンクの概略構成を模式的に示した模式図
【図7】二酸化炭素隔離船の航行時おけるエタン/二酸化炭素タンクのエタン供給と二酸化炭素貯蔵を模式的に示した模式図
【図8】二酸化炭素隔離船の二酸化炭素海底貯留時おけるエタン/二酸化炭素タンクからの二酸化炭素の取り出しを模式的に示した模式図
【図9】二酸化炭素隔離船へのエタン貯蔵時おけるエタン/二酸化炭素タンクへのエタンの供給を模式的に示した模式図
【図10】エタン/二酸化炭素タンクの構成として採用することができる他の例を示した模式図
【図11】輸送対象として炭化水素系燃料であるLNG(液化天然ガス)を輸送する二酸化炭素隔離船を模式的に表した斜視図
【図12】本発明の実施の形態2の二酸化炭素の回収処理方法の概要を説明する模式図
【発明を実施するための形態】
【0019】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1につき、図1〜11を参酌しつつ、以下に説明する。
〔二酸化炭素隔離船の概略構成〕
図2は、本発明の実施の形態1の輸送手段である二酸化炭素隔離(ゼロエミッション)船(輸送手段)100の機能ブロック図である。同図に示したように、本発明の実施の形態1の二酸化炭素隔離船100は、エタン/二酸化炭素タンク(燃料貯蔵手段、二酸化炭素貯蔵手段)1、酸素発生器(酸素分離手段)2、ガスタービン(エネルギー変換手段)3、蒸気発生器4、蒸気タービン(エネルギー変換手段)5、コンデンサ6、プロペラモータ(駆動手段)7、排気ガス冷却器(二酸化炭素抽出手段)8、二酸化炭素/水分離器(二酸化炭素抽出手段、水添加手段)9、二酸化炭素圧縮器(二酸化炭素処理手段)10、二酸化炭素プレ冷却器(二酸化炭素処理手段)11、二酸化炭素第2冷却器(二酸化炭素処理手段)12、エタン/二酸化炭素冷熱交換器(二酸化炭素処理手段、貯蔵条件制御手段、冷熱交換手段)13および水供給管14(水添加手段)を備えたものである。以下に、二酸化炭素隔離船100の各構成要件について説明する。
【0020】
エタン/二酸化炭素タンク1は、例えば、図3(a)〜(c)に示したとおり、円筒状の外殻タンク1Aの内部に複数の内部タンク1Bを備えた構成である。図3(a)、(b)および(c)は、この順に内部タンク1Bを19個、7個および3個備えたエタン/二酸化炭素タンク1を示している。図3(a)〜(c)はいずれも、上の図がエタン/二酸化炭素タンク1内部を二酸化炭素隔離船100に備えられた状態において上方から見た状態を示しており、下の図がエタン/二酸化炭素タンク1内部の内部タンク1Bを1つ取り出して同状態において側方から見た状態を示している。ただし、エタン/二酸化炭素タンク1の構成はこれに限られるものではなく、外殻タンク1A内に設けられる内部タンク1Bの数は適宜設定することができる。以下の説明においては、図3(b)の内部タンク1Bを7個有したものを例として取り上げる。
【0021】
エタン/二酸化炭素タンク1は、燃料として用いるエタンと回収した二酸化炭素とを貯蔵するために用いられるものであり、燃料貯蔵手段と二酸化炭素貯蔵手段とを兼ねたものである。このため、エタン/二酸化炭素タンク1内の燃料が使用された後に生じる空間は、排気ガスから回収された二酸化炭素を貯蔵するために用いられる。
本実施の形態の二酸化炭素隔離船100は、燃料としてエタンを用いるものであるが、酸素中でエタンが燃焼して生じた二酸化炭素を全て回収する場合、この回収された液体状体の二酸化炭素は、燃料として用いられた液体状体のエタンよりも容量が24%増加する。このため、エタン/二酸化炭素タンク1の容量を燃料として用いるエタンの容量よりも24%大きくすれば、エタンの燃焼により生じた二酸化炭素の全てを回収して貯蔵することができる。
ただし、エタン/二酸化炭素タンク1の容量を燃料として用いられるエタンの容量と同程度として、エタンの燃焼により生じた二酸化炭素のうちの一部を回収せず大気中に放出することとしても良い。このように、酸素中でエタンが燃焼して生じた二酸化炭素の一部を大気中に放出することとしても、エタンの燃焼により生じた二酸化炭素の80%近くを回収することができるから、GHGを削減するために有効である。
また、エタン/二酸化炭素タンク1内の燃料であるエタンを完全に供給し消費するためには、エタン/二酸化炭素タンク1内のエタンと二酸化炭素とを分離するために高分子の隔膜(polymer membrane)を用いれば良い。
【0022】
酸素発生器2は、5つのコンプレッサー(図示せず)を備えている。そして、この5つのコンプレッサーにより、最初に空気を圧搾(pressurize)して、酸素を豊富に含んだ空気とする。そして、圧搾して得られた酸素を豊富に含んだ空気をさらに繰り返して圧搾することにより、酸素を豊富に含んだ空気の酸素含有割合を高くする。具体的には、圧搾回数が増えるにしたがって、得られた空気中の酸素含有割合は0.4、0.64、0.84、0.94となり、圧搾を5回繰り返すことにより最終的には酸素含有割合0.98のもの(濃厚酸素)が得られる。酸素発生器2においては、高効率の軸方向フローコンプレッサー(High-efficient axial flow compressor)が用いられる。
なお、酸素の供給に当たっては、酸素発生器2を有さずに酸素貯蔵手段に貯えた酸素を供給することも可能である。また、酸素発生器2とこの酸素貯蔵手段を組み合わせて酸素を供給することもできる。さらに、酸素貯蔵手段を二酸化炭素貯蔵手段としても利用できる。これら酸素貯蔵手段を有する場合は、燃料貯蔵手段や二酸化炭素貯蔵手段と同様に、重量的なバランスや容量的なバランスを取って配置したり貯蔵制御することが好ましい。
【0023】
ガスタービン3は、燃焼器とタービンとを有する本体3Aと発電機3Bとを備えており、燃焼器3Aにおける燃焼により生じた排気ガス(flue gas)によりタービンを回転させて発電機3Bにより発電して、プロペラモータ7の駆動用の電力や二酸化炭素隔離船100内で消費される電力を作り出すものである。この二酸化炭素隔離船100内で消費される電力には、酸素発生器2による空気から酸素を取り出すことのような炭素の回収貯蔵(Carbon Capture and Storage、以下、適宜「CCS」という。)のために必要な電力も含まれている。
酸素発生器2から供給された酸素とエタン/二酸化炭素冷熱交換器13を介してエタン/二酸化炭素タンク1から供給されたエタンとが、本体3Aの燃焼器において燃焼して生じた高温の排気ガスがタービンを回転させる。
エタンを酸素中で燃焼させると、燃焼により水と二酸化炭素のみを生じ、窒素が残らず窒素酸化物も生じない。このことから、燃焼により生じた排気ガスを冷却することにより簡単に二酸化炭素を分離回収することができる。これにより、CCSにおいて問題となる二酸化炭素の分離回収コストを低減させることが可能となる。また、酸素中で燃焼させること(酸素燃焼)により、空気中での燃焼(空気燃焼)よりも燃焼温度が高くなる。具体的には、酸素燃焼により温度が約2000℃近くになり、空気燃焼よりも数百℃も高くなる。高温域においては熱効率が高くなることから、酸素燃焼によれば、従来利用できなかった未利用エネルギーの回収を期待することができる。
【0024】
しかし、高温が得られる一方でこれに耐えうる材料が非常に限られることから、ガスタービン3として特別な開発や設計が必要となる。
この実施の形態1の二酸化炭素隔離船100では、現在、通常に使用されているガスタービン3を利用できるように酸素とエタンがガスタービン3内に供給される前に水を添加することにより温度を下げて、本体3Aのタービンの耐熱性能に応じた温度に調整されている。より具体的には、二酸化炭素/水分離器9で分離された水を、水供給管14を介してガスタービン3に供給される前の酸素とエタンとの混合物に添加することにより、排気ガスの温度を下げている。
通常、ガスタービン3から排出された排気ガスの温度は、依然として、蒸気を生成するために十分なものである。そこで、蒸気発生器4により熱交換を行って蒸気を発生させ、この蒸気を蒸気タービン5に送って蒸気タービン5により発電する。
なお、水と併せて発生した二酸化炭素を回収して再循環させて添加することや、二酸化炭素のみを添加して排気ガスの温度を下げたり、窒素酸化物の発生を抑制することも可能である。
【0025】
蒸気タービン5は、タービンを有する本体5Aと発電機5Bとを備えており、蒸気発生器4からの水蒸気の流れにより本体5Aのタービンを回転させて発電するものである。蒸気タービン5において発電に用いられた水蒸気はコンデンサ6に送られる。
【0026】
コンデンサ6は、蒸気タービン5から送られた水蒸気を、海水で冷却・凝縮して水にするものである。ここで冷却・凝縮された水は、再度、蒸気発生器4に送られて、ガスタービン3からの二酸化炭素と水蒸気との混合気体との熱交換により、蒸気となって蒸気タービン5による発電に用いられる。
【0027】
プロペラモータ7は、ガスタービン3および蒸気タービン5により発電された電力を用いて駆動されるモーターにより回転して、二酸化炭素隔離船100を推進させるものである。
【0028】
排気ガス冷却器8は、蒸気発生器4において熱交換に用いられた二酸化炭素と水蒸気の混合気体である排気ガスを、海水を用いて雰囲気程度(ambient level)にまで冷却するものである。排気ガス冷却器8は、水蒸気の容量が占める割合を二酸化炭素の容量が占める割合の1.5倍程度となるように濃縮するものである。
【0029】
二酸化炭素/水分離器9は、排気ガス冷却器8により濃縮された排気ガスを二酸化炭素と水とに分離するものである。排気ガス冷却器8からの排気ガスには、水の小滴がたくさん含まれている。この水は二酸化炭素が熱交換される前に取り除かれることが必要である。なぜなら、水は冷却器の中で氷になって問題を生じさせる原因となるからである。また、二酸化炭素/水分離器9において気液分離して取り除かれた水の一部は、水供給管14を介して供給されガスタービン3中の温度を下げるために用いられる。
【0030】
二酸化炭素圧縮器10は、二酸化炭素/水分離器9により水が取り除かれた二酸化炭素を、最初に0.5MPaに圧縮するものである。ここでの二酸化炭素の温度は、準静的過程(ポリトロープ変化、Polytropic Change)により、やや高くなる。
【0031】
二酸化炭素プレ冷却器11は、二酸化炭素圧縮器10で圧縮された高温の二酸化炭素を最初に海水を用いて、簡単な板型構造の熱交換器(simple plate-type heat exchanger)により熱交換して冷却するものである。
二酸化炭素第2冷却器12は、二酸化炭素プレ冷却器11により予め冷却された二酸化炭素を、ヒートポンプ型冷却機により、さらに冷却するものである。なぜなら、二酸化炭素プレ冷却器11の後段で利用されるエタンの潜熱および顕熱(latent heat and sensible heat)は、全ての二酸化炭素を臨界点まで冷却するためには十分ではないからである。また、二酸化炭素第2冷却器12は、二酸化炭素プレ冷却器11の冷却能力不足を補うものであるともいえる。
エタン/二酸化炭素冷熱交換器13は、エタンの潜熱および顕熱を用いて二酸化炭素を最終的にその臨界点まで冷却して、二酸化炭素隔離船100のエタン/二酸化炭素タンク1中に液化した二酸化炭素が冷却貯蔵される。
【0032】
〔炭化水素系燃料〕
本実施の形態1の二酸化炭素隔離船100において用いられる炭化水素系燃料とは、炭素と水素からなる化合物の燃料をいい、例えばメタン、エタン、プロパン、天然ガス、軽油、重油、ガソリンなどの石油製品等が該当するが、特にエタンを好ましく用いることができる。エタンが炭化水素系燃料として好ましい理由について、以下に述べる。
回収された二酸化炭素は、0.5MPaの圧力で約−50℃程度まで冷却して貯蔵される。約−50℃程度における容量と飽和蒸気圧において二酸化炭素と近似する炭化水素系燃料を用いると、炭化水素系燃料の燃料貯蔵手段を回収した二酸化炭素の貯蔵に用いることができる。炭化水素の中ではエタンの飽和蒸気圧が、二酸化炭素のそれに最も近い。このことから、炭化水素系燃料としてエタンを用いることにより、炭化水素系燃料の燃料貯蔵手段を二酸化炭素貯蔵手段としても用いることが可能となり、炭化水素系燃料が使用された後の燃料貯蔵手段を回収した二酸化炭素の貯蔵に用いることができる。
【0033】
図4は二酸化炭素と炭化水素の圧力と飽和温度との関係を示すグラフである。同グラフは、JSMEデータブック(JSME、1983)のデータに基づいて作成したものである。同グラフに示されている炭化水素の中では、エタンと二酸化炭素とが非常に近い曲線であることが分かる。また、同グラフ中に示されている炭化水素の比熱は同じオーダー(2.3〜2.6kJ/kg/K)である。これらのデータは、プロパンのようにエタンよりも高い飽和温度を有する炭化水素系燃料は、回収された二酸化炭素を冷却するのに十分な冷却エネルギーを供給することができないこと、およびメタンのようにエタンよりも低い飽和温度を有する炭化水素系燃料は、当該炭化水素系燃料を液化するためにより多くの冷却エネルギーを要することを示している。第1にこれらの理由により、二酸化炭素と略同一の貯蔵条件で貯蔵することが可能となる点から、炭化水素系燃料の中ではエタンが最も好ましいといえる。
さらに、天然ガス中の他の成分であるプロパンやブタンは、発展途上国におけるタンク燃料としての大きな需要を抱えているが、エタンはプロパンやブタン程の需要はなく、現在、蒸気クラッキングによりエチレンに変化させて使用されている。このように、エタンは天然ガス成分中に多く含まれていることから供給量が十分であり、かつ他の成分に比較すると需要量が小さいということが、炭化水素系燃料としてエタンが好ましいことの第2の理由である。
なお、エタンを純エタンとして工業的に抽出することはコスト面等から難しい場合は、エタンを主成分とした混合物としてもよい。この場合、ブタン、プロパン等エタン以上の飽和温度をもつ炭化水素の場合は、混合物が液相として扱えるため、燃料の貯蔵や供給の上で好ましい。
【0034】
酸素とエタンの燃焼の反応式は、以下の通りである。
+31/2O→2CO+3HO+1561kJ/mol…(1)
【表1】


表1は、JSMEデータブック(JSME、1983)のデータに基づいて作成したものであり、エタンの酸素中での燃焼により生じる液体の容量を示している。表1によれば、生じた二酸化炭素を回収して貯蔵するために必要な容量は、燃料タンクよりもたった24%大きいものに過ぎないことが分かる。
このため、エタン/二酸化炭素タンク1により、エタン貯蔵手段(燃料貯蔵手段)と二酸化炭素貯蔵手段とを兼ねることが可能となる。ただし、0.5〜0.6MPaにおける二酸化炭素の液体密度(1178kg/m)は、エタンの液体密度(497kg/m)の倍以上も大きい。例えば、日本と北米の東海岸の間の航路における15000kWの軸出力を備えた載貨重量30,000〜40,000トンのコンテナ船では、海洋において二酸化炭素を貯留することができる場所に制限があることから、同航路数回往復分に相当する120日分の二酸化炭素を船上に貯蔵することが必要となる。この場合、エタン1230mを燃料として消費して1522.2mの二酸化炭素(約1800トン)が回収されることとなる。
上記の15000kWの軸出力、貨重量30,000〜40,000トンのコンテナ船では、船のバランスをとるために通常10,000トン程度のバラスト水が用いられている。一般に、バラスト水の20分の1(500トン)を抜くと、船体の傾きが2度を超え船の推進効率や船上作業に悪影響を及ぼすと言われている。このため、約1800トンもの重量がある回収した二酸化炭素を船上に貯蔵する場合、重量バランスなどを考慮せずに貯蔵してしまうと、二酸化炭素の回収に伴い船体のバランスが崩れてしまうおそれがある。
このことから、エタン/二酸化炭素タンク1に回収された二酸化炭素を貯蔵する際には、その貯蔵条件を制御することが必要になる。輸送手段の中でも特に船舶は、船体のバランスをとるよう二酸化炭素の貯蔵条件を制御することが重要となる。そこで、以下に、燃料と二酸化炭素の貯蔵条件を制御するために二酸化炭素隔離船100が採用している構成について説明する。
【0035】
〔貯蔵条件の制御〕
図5は、二酸化炭素隔離船100上のエタン/二酸化炭素タンク1の積載状態の概略を示す斜視図である。同図に示すように、本実施の形態1の二酸化炭素隔離船100には、二酸化炭素隔離船100の進行方向に平行な二点鎖線で示したセンター軸Cの左右の均等の位置に各1つずつのエタン/二酸化炭素タンク1を備えている。なお、同図の手前側のエタン/二酸化炭素タンク1は、その内部構造を示すために外殻タンク1Aの一部を取り去った状態として示している。
また、図5では二酸化炭素隔離船100上の一点鎖線で示した部分を、右上に拡大して示している。同図右上に示したように、本実施の形態1の二酸化炭素隔離船100では、エタン/二酸化炭素タンクの外殻タンク1A内に7つの内部タンク1Bを備えたものとして構成されている(図3(b)参照)。なお、外殻タンク1A内の内部タンク1Bの構成は一例であり、これに限られないことは上述した通りである。
図5に示したように、本実施の形態の二酸化炭素隔離船100の備えているエタン/二酸化炭素タンク1は、円筒形の外殻タンク1Aの中心に設けられた内部タンク1Bを均等に取り囲むようにして6つの内部タンク1Bが配置されたものであるが、以下では、説明の便宜のため、外殻タンク1A内に備えられた内部タンク1Bを横に並べて示した図に基づいて、エタンおよび/または二酸化炭素の貯蔵条件の制御について説明する。
【0036】
図6は、エタン/二酸化炭素タンク1の概略構成を模式的に示した模式図である。同図に示すように、エタン/二酸化炭素タンク1は、二点鎖線により示した二酸化炭素隔離船100(図5参照)のセンター軸Cの両側に、外殻タンク1A1と外殻タンク1A2とが設けられている。
外殻タンク1A1の内部には、センター軸Cまでの距離が遠い方から順に内部タンク1B11〜17が設けられている。また、外殻タンク1A2の内部には、センター軸Cまでの距離が遠い方から順に内部タンク1B21〜27が設けられている。
なお、以下では、外殻タンク1A1と外殻タンク1A2とを区別しないときには外殻タンク1Aといい、内部タンク1B11〜17を区別しないときには内部タンク1B1といい、内部タンク1B21〜27を区別しないときには内部タンク1B2といい、内部タンク1B1と内部タンク1B2とを区別しないときには内部タンク1Bという。
【0037】
外殻タンク1Aは、外殻タンク温度センサ(貯蔵条件制御手段)15および外殻タンク冷却器(貯蔵条件制御手段)16を備えている。また、内部タンク1Bは、タンク圧力センサ(貯蔵条件制御手段)17、タンク圧力調整器(貯蔵条件制御手段)18、タンク温度センサ(貯蔵条件制御手段)19およびタンク温度調整器(貯蔵条件制御手段)20を備えている。なお、図6では内部タンク1B11および内部タンク1B21以外の内部タンク1Bでは省略されているが、タンク圧力センサ17、タンク圧力調整器18、タンク温度センサ19およびタンク温度調整器20は、全ての内部タンク1Bに備えられている。
【0038】
外殻タンク温度センサ15は、各外殻タンク1Aの内部温度を検知するものである。そして、外殻タンク冷却器16は、外殻タンク温度センサ15の検知結果に基づいて各外殻タンク1Aの温度を制御するものである。
タンク圧力センサ17は、内部タンク1Bそれぞれに設けられており、各内部タンク1B内の圧力を検知するものである。そして、タンク圧力調整器18は、タンク圧力センサ17の検知結果に基づいて各内部タンク1B内の圧力を微調整するものである。
タンク温度センサ19は、各内部タンク1B内の温度を検知するものである。そして、タンク温度調整器20は、タンク温度センサ19の検知結果に基づいて各内部タンク1B内の温度を微調整するものである。
【0039】
本実施の形態1の二酸化炭素隔離船100では、内部タンク1B11〜15および内部タンク1B21〜25がエタンと二酸化炭素の貯蔵に共用されるものであり、内部タンク1B16〜17および内部タンク1B26〜27が二酸化炭素の貯蔵にのみ用いられるものである。そして、内部タンク1B11〜17および内部タンク1B21〜27の全てに同じものを用いていることから、二酸化炭素の貯蔵可能容量が、エタンの貯蔵可能容量よりも40%程大きく構成されている。このため、エタン/二酸化炭素タンク1は、エタンの酸素燃焼により生じる二酸化炭素(容量においてエタンよりも24%増加する)の全てを回収して貯蔵することが可能である。
【0040】
内部タンク1Bは、それぞれタンクバルブ31とタンクバルブ32とを備えている。タンクバルブ31、タンクバルブ32の開閉により、内部タンク1B内のエタンを供給して燃料として用いることや、回収された二酸化炭素を内部タンク1Bに貯蔵することができる。
タンクバルブ31およびタンクバルブ32のうち、エタンと二酸化炭素の貯蔵に共用される内部タンク1B11〜15および内部タンク1B21〜25に接続されているものは、その開閉により、内部タンク1Bからエタン/二酸化炭素冷熱交換器13を介したガスタービン3(図2参照)へのエタンの供給、およびエタン/二酸化炭素冷熱交換器13を介した内部タンク1Bへの二酸化炭素の貯蔵を制御するものである。そして、二酸化炭素の貯蔵にのみ利用される内部タンク1B16〜17および内部タンク1B26〜27に接続されているものは、その開閉により、エタン/二酸化炭素冷熱交換器13を介した内部タンク1Bへの二酸化炭素の貯蔵を制御するものである。
【0041】
タンクバルブ31のうち、エタンと二酸化炭素の貯蔵に共用される内部タンク1B11〜15および内部タンク1B21〜25に接続されているものは、エタンの供給に用いられるエタンポンプ21に接続されている。エタンポンプ21は、それに通じる経路に設けられているポンプバルブ22の開閉により、内部タンク1Bからのエタンのエタン/二酸化炭素冷熱交換器13への供給を制御するものである。
タンクバルブ32は、二酸化炭素の貯蔵に用いられる二酸化炭素ポンプ23に接続されており、二酸化炭素ポンプ23は、それに通じる経路に設けられているポンプバルブ24の開閉により、エタン/二酸化炭素冷熱交換器13から内部タンク1Bへの二酸化炭素の貯蔵を制御するものである。
【0042】
内部タンク1B1側のタンクバルブ31とエタンポンプ21との間の経路、および内部タンク1B2側のタンクバルブ31とエタンポンプ21との間の経路には、それぞれ流量センサ25が設けられている。流量センサ25は、内部タンク1B1または内部タンク1B2からのエタンの流量を検知するものである。この流量センサ25による検知結果に基づいて、タンクバルブ31を制御することにより、適切なバランスと量で内部タンク1Bからエタンを取り出すことが可能となる。
【0043】
また、内部タンク1B1側のタンクバルブ32と二酸化炭素ポンプ23との間の経路、および内部タンク1B2側のタンクバルブ32と二酸化炭素ポンプ23との間の経路には、それぞれ流量センサ26が設けられている。流量センサ26は、内部タンク1B1または内部タンク1B2へ貯蔵される二酸化炭素の流量を検知するものである。この流量センサ26による検知結果に基づいて、タンクバルブ32の開閉を制御して適切なバランスと量で内部タンク1Bに二酸化炭素を貯蔵することが可能となる。
上述したように、内部タンク1B1側と内部タンク1B2側のそれぞれに、流量センサ25および流量センサ26が設けられていることから、エタンの供給および二酸化炭素の貯蔵を、二酸化炭素隔離船100のバランスをとりながら適切な量で行うことが可能となる。
なお、エタンや二酸化炭素の量の調節は、流量センサ25、流量センサ26の信号を用いてエタンポンプ21、二酸化炭素ポンプ23を用い、バランスの調整を左右のタンクバルブ31、タンクバルブ32の開度調節によって行うこともできる。
【0044】
内部タンク1B16〜17および内部タンク1B26〜27の上部に設けたタンクバルブ31は、二酸化炭素を貯蔵する際に開かれる。また、タンクバルブ31とエタンポンプ21との間には、通気バルブ27および圧力センサ28が設けられている。通気バルブ27は、内部タンク1B内に貯蔵されている二酸化炭素を海底に貯蔵する際に開かれることにより、内部タンク1B内の二酸化炭素が排出された空間に空気を供給するものである。また、圧力センサ28は、タンクバルブ31からポンプバルブ22までの経路の圧力を検知するものである。
【0045】
タンクバルブ32と二酸化炭素ポンプ23との間には、通気バルブ29および圧力センサ30が設けられている。通気バルブ29は、内部タンク1B内にメタンを供給する際に開くことにより、内部タンク1B内の物質を外部に排出するものである。また、圧力センサ30は、タンクバルブ32からポンプバルブ24までの経路の圧力を検知するものである。
圧力センサ30の検出値を利用して二酸化炭素ポンプ23の吐出圧力を制御し、内部タンク1B内の二酸化炭素の圧力を大まかに調整することができる。流量が増して不都合がある場合は、タンクバルブ32が協動される。同様に、圧力センサ28の検出値を利用して、ポンプバルブ22の開閉を切り替え、エタンポンプ21の吐出圧力を制御し、内部タンク1B内のエタンの圧力を大まかに調節することができる。各内部タンク1B内の圧力は、上記したように各内部タンク1B毎に微調節される。
なお、上述したバルブ、調整器、冷却器などは、各センサの検知結果に応じて、手動で制御することも可能であるが、中央演算処理装置(CPU、図示しない)により自動で制御される構成とすることが好ましい。
【0046】
以下では、図7〜8に基づいて、二酸化炭素隔離船100の航行時、二酸化炭素海底貯蔵時およびエタン供給時におけるエタン/二酸化炭素タンク1への貯蔵条件制御について説明する。
図7は、二酸化炭素隔離船100の航行時おけるエタン/二酸化炭素タンク1のエタン供給と二酸化炭素貯蔵を模式的に示した模式図である。同図では、ポンプバルブ22、ポンプバルブ24、通気バルブ27、通気バルブ29、タンクバルブ31およびタンクバルブ32について、閉状態のものを黒塗りで示し、開状態のものを白抜きで示している。また、内部タンク1B内のエタン(C)が入っている部分を濃い色で示し、二酸化炭素(CO)が入っている部分を薄い色で示し、エタンおよび二酸化炭素のいずれも入っていない部分を白抜きで示している。エタン、二酸化炭素等の経路を太線で示している。なお、バルブの開閉状態、内部タンク1B内のエタンおよび二酸化炭素、ならびにエタン、二酸化炭素等の経路の表し方については、図8、図9においても同様とする。
図7に示すように、二酸化炭素隔離船100の航行時においては、センター軸Cから最も遠い内部タンク1B11および内部タンク1B21のタンクバルブ31およびタンクバルブ32をセンター軸Cに対して対称的に開いて、エタンポンプ21によりエタンを対称的に取り出すとともに、二酸化炭素ポンプ23によりエタンが取り出された部分に、回収した二酸化炭素を対称的に貯蔵する。また、回収した二酸化炭素のうちエタンが取り出された部分に貯蔵できないものについては、エタンが充填されていない内部タンク1B16および内部タンク1B26に対称的に貯蔵する。この際、図7に示したように、センター軸Cからの距離が同じ内部タンク1Bからエタンの取り出しおよび二酸化炭素の貯蔵を対称的に行うことにより、二酸化炭素隔離船100のバランスをとることができる。このため、エタンを消費して排出される重量的に3倍近い重さの二酸化炭素を、バランス良く貯蔵することができ、重量の不均一に起因して輸送や作業等に支障が生じることが軽減できる。
なお、内部タンク1Bからエタンを取り出して二酸化炭素を貯蔵する順番は、特に限定されるものではないが、センター軸Cから遠い位置にある内部タンク1Bから先に行うことが、センター軸Cの左右のバランスをとり二酸化炭素隔離船100を一層安定化するために好ましい。
【0047】
図8は、二酸化炭素隔離船100の二酸化炭素海底貯留時おけるエタン/二酸化炭素タンク1からの二酸化炭素の取り出しを模式的に示した模式図である。同図では、二酸化炭素隔離船100が外殻タンク1A1内の内部タンク1B4本分、および外殻タンク1A2内の内部タンク1B4本分の合計内部タンク1B8本分のエタンを酸素燃焼した後の状態を示している。上述したとおり、エタンの酸素燃焼によって生じる二酸化炭素の容量は、エタンよりも24%増加することから、外殻タンク1A1および外殻タンク1A2内にはそれぞれ、内部タンク1B5本分の回収された二酸化炭素が貯蔵されている。
内部タンク1B内に貯蔵されている二酸化炭素を海底に貯留するときには、センター軸Cに対称に、かつ距離が近い内部タンク1Bの二酸化炭素から先に海底に貯留することが、二酸化炭素隔離船100の左右のバランスをとるために好ましい。なぜなら、センター軸Cから遠い位置にある内部タンク1Bをセンター軸Cから近い位置にある内部タンク1Bよりも重くすることが、センター軸Cの左右のバランスをとり二酸化炭素隔離船100を安定化するために一層好ましいからである。
【0048】
図9は、二酸化炭素隔離船100へのエタン貯蔵時におけるエタン/二酸化炭素タンク1の内部タンク1Bへのエタンの供給を模式的に示した模式図である。二酸化炭素隔離船100へのエタンの供給も、図7に基づいて説明した航行時に用いられるエタンポンプ21を用いて行うことができる。同図に示すように、エタンの供給時においても、センター軸Cに対称に、かつ遠い位置にある内部タンク1Bをセンター軸Cから近い位置にある内部タンク1Bよりも重くすることが好ましいことから、センター軸Cから遠い位置にある内部タンク1Bから順にエタンを供給する。このように、二酸化炭素隔離船100においては、内部タンク1Bからのエタンの取り出しと内部タンク1Bへのエタンの供給に、エタンポンプ21を共通に用いている。
【0049】
図1は、図6〜8に基づいて説明したエタン/二酸化炭素タンク1の貯蔵条件制御について機能ブロック図である。
同図に示すように、二酸化炭素隔離船100は、航行時における二酸化炭素の貯蔵時、二酸化炭素海底貯留時およびエタン供給時において、エタンの供給および取り出し条件、並びに二酸化炭素の貯蔵および取り出し条件を制御する設定器(貯蔵条件制御手段)40を備えている。
【0050】
設定器40は、タンクバルブ31、ポンプバルブ22、通気バルブ27、流量センサ25、エタンポンプ21および圧力センサ28を制御することにより、内部タンク1Bへのエタンの供給および取り出し条件を制御する。また、タンクバルブ32、ポンプバルブ24、通気バルブ29、流量センサ26、二酸化炭素ポンプ23および圧力センサ30を制御することにより、回収された二酸化炭素の内部タンク1Bへの貯蔵条件を制御する。この際、設定器40は、エタン/二酸化炭素タンク1に貯蔵されているエタンおよび/または二酸化炭素の重量および/または容量のバランスがとれるように貯蔵条件を制御する。
また、設定器40は、外殻タンク温度センサ15の検知結果に基づいて外殻タンク冷却器16を制御することにより、外殻タンク1Aの温度を制御する。また、タンク圧力センサ17に基づいてタンク圧力調整器18を制御し、タンク温度センサ19に基づいてタンク温度調整器20を制御することにより、内部タンク1Bの温度を制御する。
【0051】
〔エタン/二酸化炭素タンクの配置〕
上述した説明は、センター軸Cの左右に外殻タンク1Aを各1つずつ備えた構成のものを対象としたが、エタン/二酸化炭素タンク1の構成はこれに限られるものではない。図10は、エタン/二酸化炭素タンク1の構成として採用することができる他の例を示した模式図であり、二酸化炭素隔離船100の上方から見た場合の、エタン/二酸化炭素タンク1の位置を模式的に示している。
同図の(a)は、外殻タンク1Aが二酸化炭素隔離船100のセンター軸Cをまたぐように配置されており、センター軸Cの両側に内部タンク1Bが均等に配置されたものの例を示している。
同図の(b)は、エタンと二酸化炭素を貯蔵するための内部タンク1Bがその中に設けられている外殻タンク1A3と、二酸化炭素のみを貯蔵するための内部タンク1Bがその中に設けられている外殻タンク1A4とを備えたものの例を示している。同図では、外殻タンク1A3および外殻タンク1A4がいずれも、二酸化炭素隔離船100のセンター軸Cをまたぐように配置されており、センター軸Cの両側に内部タンク1Bが均等に配置されている。
上述した例のように、センター軸Cの両側に内部タンク1Bが均等に配置された構成とすることにより、エタンおよび/または二酸化炭素の貯蔵および/または取り出しにおいて、二酸化炭素隔離船100がバランスを保つように、エタンおよび/または二酸化炭素の貯蔵条件を制御することが容易となる。
また、エタンのみの内部タンク1Bを収納した外殻タンク1Aと、二酸化炭素のみの内部タンク1Bを収納する外殻タンク1Aを、エタンと二酸化炭素の重量比に応じて、センター軸Cからの距離を配分し、モーメント的にバランスが取れるように配置しても良い。さらにセンター軸Cに沿って、二酸化炭素隔離船100の船体の長手方向に配置することや、船体の前後方向のバランスをとるために適切に配分することなど、目的や船体の設置スペースの面から各種の方法が選択可能である。
また、エタン以外の炭化水素系燃料を用いた場合は、二酸化炭素との貯蔵上の物理的条件である温度や圧力が離れてくるが、圧力あるいは温度をどちらかに合わせることで、外殻タンク1Aや内部タンク1Bを共通的に用いることができる。条件が合わない場合は、これらを各々炭化水素系燃料用と二酸化炭素用として専用に設け、異なる物理的条件で貯蔵してもよい。この場合も、貯蔵条件の制御が重要となって来る。
【0052】
ここで、「貯蔵条件を制御する」点について、具体的に総括する。
まず、燃料貯蔵手段、二酸化炭素貯蔵手段の貯蔵上の物理的条件である温度や圧力等を適切に制御する例は、上記のように、外殻タンク1A内部の温度を炭化水素系燃料、二酸化炭素の貯蔵に合った温度条件に制御すること、内部タンク1B内部の温度や圧力を炭化水素系燃料、二酸化炭素の貯蔵に合った条件に制御する点が挙げられる。また、炭化水素系燃料、二酸化炭素を双方とも液相に保つこと等も含まれる。
また、炭化水素系燃料と回収された二酸化炭素の密度や容量の差に伴う、重量バランスや容量バランスの崩れの影響を軽減するように制御する例は、上記で述べたように、船体のセンター軸Cに対して対称的に供給、貯蔵すること、センター軸Cから遠い内部タンク1Bから供給、貯蔵すること等が挙げられる。これ以外でも、モーメント的にバランスが取れるように、供給、貯蔵制御をすることを含む。この場合、内部タンク1Bに対する配置や供給、貯蔵累積量から演算して適宜、内部タンク1Bに対する供給、貯蔵を制御すること、またバランスを検出する傾斜センサ等を用いて供給貯蔵をフィードバック制御すること等を行うこともできる。
燃料貯蔵手段と二酸化炭素貯蔵手段の形態や形状、配置条件に応じ貯蔵を制御することの例は、図3の(a)(b)(c)に見られるような、内部タンク1Bの各種配置に応じて、重量的にバランスが取れるように炭化水素系燃料を供給し二酸化炭素を貯蔵する制御を行うこと、炭化水素系燃料の供給と二酸化炭素の回収量に差が生じることから、内部タンク1B16〜17および内部タンク1B26〜27に適切に二酸化炭素を振り分け容量的なバランスを取って貯蔵することが挙げられる。また、内部タンク1Bの直径や容積が複数存在する場合、その点を配慮して重量的バランス、容量的バランスが取れるように制御することもできる。さらに、エタン/二酸化炭素タンク1内にエタンと二酸化炭素とを分離するための隔膜を有さない場合は、密度の高い二酸化炭素を下方から入れるよう制御すること、また隔膜を有している場合は、密度の高い二酸化炭素を上方から入れ、エタンを二酸化炭素の自重で押し出すことに利用すること等を含む。
【0053】
〔LNG船による輸送〕
図11は、LNG(液化天然ガス)輸送船において、輸送対象として炭化水素系燃料であるLNG(液化天然ガス)を輸送する二酸化炭素隔離船200を模式的に表した斜視図である。同図に示すように、二酸化炭素隔離船200は、複数のLNGタンク201を備えており、その内部に輸送対象であるLNGを貯蔵している。
LNGタンク201によりLNGを輸送する際には、LNGタンク201内部の上側の空間201Aに気化したLNGが溜まる。そこで、この気化したLNGを炭化水素系燃料として用いることにより、二酸化炭素隔離船200に炭化水素系燃料を貯蔵するためのタンクを設けることが不要となる。この場合、回収された二酸化炭素をLNGタンク201内に貯蔵できないことから、二酸化炭素隔離船200は、LNGタンク201とは別に、回収された二酸化炭素を貯蔵するためのタンク202を左右のバランスを考慮して配置して備えている。
LNG輸送船は今後飛躍的に増えることが予測されているが、その輸送対象燃料であるLNGを炭化水素系燃料として用いる構成とすることにより、輸送対象燃料の貯蔵手段を燃料貯蔵手段としても用いることができる。これにより、燃料貯蔵手段を別に設ける必要がなくなり、簡易な構成で二酸化炭素隔離船200を実現することができる。
【0054】
(実施の形態2)
実施の形態1において説明した二酸化炭素隔離船100を用いて、二酸化炭素貯蔵手段に回収して貯蔵した二酸化炭素を所定場所まで輸送する二酸化炭素の回収処理方法として本発明を実施する実施の形態2につき、図12を参酌しつつ、以下に説明する。
図12は、本発明の実施の形態2の二酸化炭素の回収処理方法の概要を説明する模式図である。同図に示したように、本実施の形態2の二酸化炭素の回収処理方法は、輸送手段として二酸化炭素隔離船100を用い、所定場所まで輸送された二酸化炭素を海中あるいは海底下に移送して貯留するものである。より具体的には、回収された二酸化炭素を管110により、典型的な二酸化炭素貯留層である海面下約500mの海洋底下の帯水層に移送して貯留するものである。管110は帯水層に液体二酸化炭素を送るものであるが、二酸化炭素の排出口の回りには、二酸化炭素の水和物が形成される。
【0055】
また、二酸化炭素の海中または海底下への貯留に当たっては、二酸化炭素の海中あるいは海底下への移送時に前記二酸化炭素隔離船100のバラスト水張排水システムと連携して重量的なバランス制御することが好ましい。これにより、エタン/二酸化炭素タンク1(図5参照)から帯水層に二酸化炭素を移送する際に、エタン/二酸化炭素タンク1内の二酸化炭素量が減少することにより、二酸化炭素隔離船100がバランスを崩すことを防止することができる。より具体的には、バランスを考慮して二酸化炭素をエタン/二酸化炭素タンク1から移送すること、また移送された二酸化炭素に対応した量のバラスト水をバラスト水張排水システムに取込むことにより、エタン/二酸化炭素タンク1内の二酸化炭素量の変化に起因して二酸化炭素隔離船100がバランスを崩すことを防止できる。
【0056】
GHG放出量の削減は、国際的にさしせまって解決すべき重要な課題である。そして、船舶では2035年を目処に外航路のゼロエミッション化率80%程度を目標にしないと、持続的な成長が絶望的といわれている。このため、IMOでも認められたGHGの海底下隔離(CCS)による本実施の形態2の二酸化炭素の回収処理方法は、GHG放出量を削減する方法として有効である。また、船舶からの二酸化炭素隔離を目的とした、二酸化炭素海底下隔離洋上ステーションを利用することができるから、トータルコストが二酸化炭素排出権買い取りよりも安いコストとなる可能性もある。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、温室効果ガスの放出量の削減を実現するため、船舶をはじめ車、列車等の輸送手段から放出される二酸化炭素の分離・回収に利用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 エタン/二酸化炭素タンク(燃料貯蔵手段、二酸化炭素貯蔵手段)
1A、1A1、1A2、1A3、1A4 外殻タンク(燃料貯蔵手段、二酸化炭素貯蔵手段)
1B、1B11〜17、1B21〜27 内部タンク(燃料貯蔵手段、二酸化炭素貯蔵手段)
2 酸素発生器(酸素分離手段)
3 ガスタービン(エネルギー変換手段)
3A 本体(エネルギー変換手段)
3B 発電機(エネルギー変換手段)
5 蒸気タービン(エネルギー変換手段)
5A 本体(エネルギー変換手段)
5B 発電機(エネルギー変換手段)
7 プロペラモータ(駆動手段)
8 排気ガス冷却器(二酸化炭素抽出処理手段)
9 二酸化炭素/水分離器(二酸化炭素抽出手段、水添加手段)
10 二酸化炭素圧縮器(二酸化炭素処理手段)
11 二酸化炭素プレ冷却器(二酸化炭素処理手段)
12 二酸化炭素第2冷却器(二酸化炭素処理手段)
13 エタン/二酸化炭素冷熱交換器(二酸化炭素処理手段、貯蔵条件制御手段、冷熱交換手段)
14 水供給管(水添加手段)
15 外殻タンク温度センサ(貯蔵条件制御手段)
16 外殻タンク冷却器(貯蔵条件制御手段)
17 タンク圧力センサ(貯蔵条件制御手段)
18 タンク圧力調整器(貯蔵条件制御手段)
19 タンク温度センサ(貯蔵条件制御手段)
20 タンク温度調整器(貯蔵条件制御手段)
40 設定器(貯蔵条件制御手段)
100、200 二酸化炭素隔離船

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動手段と、炭化水素系燃料を貯蔵する燃料貯蔵手段と、この燃料貯蔵手段から供給される炭化水素系燃料と酸素を使用してエネルギーを取り出すエネルギー変換手段と、このエネルギー変換手段から排出される排気ガス中の二酸化炭素を貯蔵可能な状態に処理する二酸化炭素処理手段と、この二酸化炭素処理手段で処理した二酸化炭素を回収して貯蔵する二酸化炭素貯蔵手段と、前記燃料貯蔵手段と前記二酸化炭素貯蔵手段の貯蔵条件を制御する貯蔵条件制御手段とを備えていることを特徴とする二酸化炭素回収機能付き輸送手段。
【請求項2】
前記貯蔵条件制御手段が、前記燃料貯蔵手段および/または前記二酸化炭素貯蔵手段の温度を制御するものであることを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素回収機能付き輸送手段。
【請求項3】
前記炭化水素系燃料が、エタン、または主成分であるエタンとエタン以上の飽和温度をもつ炭化水素との混合物であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の二酸化炭素回収機能付き輸送手段。
【請求項4】
前記燃料貯蔵手段が前記二酸化炭素貯蔵手段を兼ねたものであることを特徴とする請求項3に記載の二酸化炭素回収機能付き輸送手段。
【請求項5】
前記燃料貯蔵手段と前記二酸化炭素貯蔵手段とが、前記輸送手段に対する重量的なバランスをとって配置されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のうちの1項に記載の二酸化炭素回収機能付き輸送手段。
【請求項6】
前記貯蔵条件制御手段が、重量的および/または容量的なバランスをとることができるように前記燃料貯蔵手段と前記二酸化炭素貯蔵手段の貯蔵条件を制御するものであることを特徴とする請求項1乃至請求項5のうちの1項に記載の二酸化炭素回収機能付き輸送手段。
【請求項7】
前記二酸化炭素処理手段が、前記燃料貯蔵手段に液化状態で貯えられた前記炭化水素系燃料を前記エネルギー変換手段に供給する経路に設けられた冷熱交換手段を含むものであることを特徴とする請求項1乃至請求項6のうちの1項に記載の二酸化炭素回収機能付き輸送手段。
【請求項8】
前記酸素を供給する大気中より酸素を取り出す酸素分離手段をさらに備えたものであることを特徴とする請求項1乃至請求項7のうちの1項に記載の二酸化炭素回収機能付き輸送手段。
【請求項9】
前記エネルギー変換手段でエネルギー変換を行う際に水を加える水添加手段をさらに備えたものであることを特徴とする請求項1乃至請求項8のうちの1項に記載の二酸化炭素回収機能付き輸送手段。
【請求項10】
前記排気ガスから二酸化炭素を抽出する二酸化炭素抽出手段をさらに備えたものであることを特徴とする請求項1乃至請求項9のうちの1項に記載の二酸化炭素回収機能付き輸送手段。
【請求項11】
前記輸送手段が、船舶であることを特徴とする請求項1乃至請求項10のうちの1項に記載の二酸化炭素回収機能付き輸送手段。
【請求項12】
前記炭化水素系燃料が、前記輸送手段の輸送対象燃料でもあることを特徴とする請求項1乃至請求項11のうちの1項に記載の二酸化炭素回収機能付き輸送手段。
【請求項13】
請求項1乃至請求項12のうちの1項に記載の二酸化炭素回収機能付き輸送手段を用いて、前記二酸化炭素貯蔵手段に回収して貯蔵した二酸化炭素を所定場所まで輸送するものであることを特徴とする二酸化炭素の回収処理方法。
【請求項14】
前記輸送手段は船舶とし、前記所定場所まで輸送された前記二酸化炭素を海中あるいは海底下に移送して貯留するものであることを特徴とする請求項13に記載の二酸化炭素の回収処理方法。
【請求項15】
前記二酸化炭素の海中または海底下への貯留に当たっては、前記二酸化炭素の海中あるいは海底下への移送時に前記船舶のバラスト水張排水システムと連携して重量的なバランス制御を行うものであることを特徴とする請求項14に記載の二酸化炭素の回収処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−2159(P2012−2159A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139084(P2010−139084)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(501204525)独立行政法人海上技術安全研究所 (185)
【Fターム(参考)】