説明

二酸化炭素回収装置からの排ガスの処理方法及び装置

【課題】 CO2の各種吸収液を用いたCO2回収装置から排出されるガス中に含まれる低濃度のアミン類を、低温においても、COによる被毒を抑制して、効率よく除去できる方法及び装置を提供する。
【解決手段】アミン吸収剤を用いる二酸化炭素(CO2)除去装置からの排ガス中に含まれるアミン類を除去する排ガス処理方法であって、酸化チタンとバナジウム(V)の酸化物、または酸化チタンとバナジウムの酸化物及びモリブデン(Mo)もしくはタングステン(W)の酸化物からなる触媒充填層に前記排ガスを通気してガス中に含まれるアミン類を吸着除去する工程と、アミン類が吸着した前記触媒充填層に加熱空気を通気して触媒を昇温すると同時に、吸着したアミン類の脱離及び酸化分解を行う工程とを交互に行う排ガス処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス中に含まれる二酸化炭素(CO2)をアミン吸収液によって除去するCO2回収装置からの排ガス浄化方法に係り、特に排ガス中に蒸散したアミン類をより低温で効率良く浄化する方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化による環境破壊が世界規模で重大な問題となっており、温室効果への影響が高いCO2の排出量を削減することは各国において急務となっている。特に、火力発電設備からのCO2排出量は全体の約1/3を占めており、ボイラの高効率化とともに排ガスからCO2を回収除去する技術について数多くの研究が進められている。CO2回収技術のうち、各種吸収液を用いてCO2を吸収して回収する技術は、既設の設備への適用も容易であることなどから、今後の主流となることが予想される。
【0003】
CO2吸収液を用いてCO2を回収する従来技術の概要を図4により説明する(例えば特許文献1)。ボイラ9などからの排ガスは、脱硝装置10、空気予熱器11、空気集塵機12及び脱硫装置13で処理された後、CO2吸収装置1でアミン類モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミンなどを含む水溶液以下、アミン吸収液というと接触させられ、排ガス中に含まれるCO2が吸収除去され、処理ガスは煙突6から大気に放出される。一方、CO2を吸収した吸収液は再生塔2に導かれ、加熱によって吸収したCO2が放出され、再び吸収液として用いられる。上記方法は、吸収剤として単純な化合物と単純な吸収・再生脱離の操作で容易に装置の運用ができる大きなメリットを有している。
【0004】
一方、排ガスに含まれるアミン類の処理方法として、含まれるアミン類が高濃度のときは高温で燃焼によってアミン類を分解させ、低濃度のときは吸着剤によって吸着除去する技術などが知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5-123535号公報
【特許文献2】特開2009-125692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図4の方法においては、CO2吸収操作の工程で被処理ガス中に平衡蒸気圧分のアミン類が蒸散されてしまい、そのまま大気に放出される点については十分に考慮されていなかった。アミン類の蒸気圧は低いため、排ガスに含まれて排出されるアミン類の濃度は低いものではあるが、アミン類には発がん性の懸念のあるものも少なくないため、そのまま大気に放出することは望ましくない。
【0007】
このため、排ガスに含まれるアミン類を除去する技術が必要となるが、高温で燃焼させる方法ではCO2排出量の増加に繋がり、また吸着剤により吸着除去するだけでは大量の吸着剤が必要となり、経済的または実用的に望ましい技術であるとは言えない。
【0008】
また一般にガス中に含まれる低濃度の有機物を吸着剤を用いて吸着除去する方法が知られているが、この方法では吸着量が増加するとともに吸着力は低下するため、一定量吸着後には吸着剤を交換する必要が生じる。このため、加熱空気などにより吸着した有機物を脱離させて吸着剤を再生する方法と組み合わせることで、吸着剤の使用量を低減している。また、吸着剤から加熱空気により有機物が脱離したガスの浄化には、高温で有機物を燃焼分解する方法の他に、貴金属触媒などに代表される酸化触媒を用いて有機物を酸化分解する方法が知られ、酸化触媒を使用することにより、高温まで昇温しなくても有機物の酸化分解が可能となり、加熱に必要な燃料を低減できるとともに、生成するCO2量を削減できるが、貴金属触媒を使用した場合、中間生成物であるCOを低温で強く吸着して被毒を受けてしまうため、低温での処理には好ましくないことが分かった。
【0009】
本発明の課題は、CO2の各種吸収液を用いたCO2回収装置から排出されるガス中に含まれる低濃度のアミン類を、低温においても、COによる被毒を抑制して、効率よく除去できる方法及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を達成するため、本発明者らは、COによる被毒が起き難く、アミン類を低温から効率よく分解できる触媒成分を探索した結果、酸化チタンとバナジウム(V)の酸化物、酸化チタンとバナジウム及びモリブデン(Mo)の酸化物、または酸化チタンとバナジウム及びタングステン(W)の酸化物からなる触媒が高い活性を示すことを見出した。すなわち、本願で特許請求される発明は以下のとおりである。
(1)アミン吸収剤を用いる二酸化炭素(CO2)除去装置からの排ガス中に含まれるアミン類を除去する排ガス処理方法であって、酸化チタンとバナジウム(V)の酸化物、または酸化チタンとバナジウムの酸化物およびモリブデン(Mo)もしくはタングステン(W)の酸化物からなる触媒充填層に前記排ガスを通気してガス中に含まれるアミン類を吸着除去する工程と、アミン類が吸着した前記触媒充填層に加熱空気を通気して触媒を昇温すると同時に、吸着したアミン類の脱離および酸化分解を行う工程とを交互に行うことを特徴とする排ガス処理方法。
(2)加熱空気が、ボイラなどの燃焼炉からの排ガスである(1)記載の排ガス処理方法。
(3)アミン吸収剤を用いる二酸化炭素(CO2)除去装置と、該CO2除去装置の排ガス中に含まれるアミン類の除去する触媒充填層を有する排ガス処理装置であって、前記触媒充填層は、排ガスの流通方向に並列に設けられた複数の反応器内に形成されるか、または反応器内を排ガスの流通方向に並列に仕切って設けられた複数の反応室に形成され、前記複数の反応器または反応室にアミン類を含む排ガスと、前記触媒充填層に吸着されたアミン類を脱離、分解させるための加熱空気をそれぞれ供給する配管系と、該配管系に前記排ガスと加熱空気を交互に切替えて供給する前記配管系の切替手段とを有する排ガス処理装置。
(4)前記反応室は、円筒形の反応容器をその中心軸の回りに排ガスの流通方向に沿って放射状に仕切って形成されるとともに、前記切替手段は、前記円筒形の反応容器をその中心軸の回りに回転させることにより、前記配管系を介して前記反応室にアミン類を含んだ排ガスと加熱空気を交互に通気するものである(3)記載の排ガス処理装置。
【0011】
本発明に用いる触媒は貴金属を用いていないため、低コストでの製造が可能であり、また低温、例えば120℃という低温においてもアミン類の除去について高い活性を有している。この触媒を吸着剤として用いることで、CO2回収装置からの排ガス中に含まれる低濃度のアミン類をより低温域で吸着除去し、また低温の加熱空気を通気することで触媒に吸着したアミン類を脱離させると同時に酸化分解して浄化することができる。
【0012】
また、加熱空気は、ボイラなどからの排ガスを利用することにより、新たな加熱器などの設備を省略化することができ、またアミン類を分解浄化した後の排ガスを元のCO2吸収装置の前流に戻すことにより、アミン類の分解によって生成したCO2を該CO2吸収装置で回収することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、CO2回収装置から発生する排ガスに含まれる有害なアミン類を特定の触媒充填層に吸着除去でき、またこれに加熱空気を通気することにより、吸着したアミン類を低温から分解浄化することができるため、非常に高効率でのアミン類の浄化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例を示す装置系統の説明図。
【図2】本発明の実施例を示す装置系統の説明図。
【図3】本発明の対象とするCO2回収システムの系統を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を実施するための装置の配置例及び装置の概要を図1〜図3を参照して説明する。図1に示す装置は、CO2含有ガスをアミン類を含む吸収液と接触させてCO2を回収するCO2吸収装置1と、該CO2を吸収した吸収液からCO2を脱離させるストリッピング塔2と、CO2吸収装置1の排ガス中に含まれるアミン類を分解除去するための本発明の触媒4が充填された反応器3と、反応器3でアミン類が除去された浄化ガスを大気に放出するための煙突6とから構成される。反応器3は、並列に複数設けられ、交互に切替運転が可能なように、CO2吸収装置1からの排ガスライン7が分岐してそれぞれ反応器3に接続され、分岐した流路にはそれぞれ流路切替弁5を有している。また反応器3には、それぞれ加熱空気を導入してアミン類を脱離、分解させるための加熱空気ライン8が設けられている。
【0016】
このような装置において、CO2吸収装置1からの排ガスは、触媒4が充填された複数の反応器3に導かれ、充填された触媒4との接触によりガス中に含まれるアミン類が吸着除去された後、煙突6から大気に放出される。さらに流路切替え弁5により、反応器3への排ガスの導入を止め、ライン8から加熱空気を導入することにより、触媒に吸着したアミン類を脱離、分解し、反応器3の高い吸着力を維持することができる。吸着したアミン類を浄化後、切替え弁5を切替え、反応器3に再び排ガスを導入し、アミン類の吸着除去を行なうことができる。
【0017】
図2は、図1の並列に配置された複数の反応器3の代わりに、円筒容器を放射状に仕切って複数の反応室3Aとし、特定の反応室3Bでは加熱空気8が導入されるように反応容器を区画し、円筒容器の中心軸を回転させて反応室3への排ガス導入と反応室3Aへの加熱空気の導入を交互に行なうようにしたものである。CO2吸収装置1からの排ガスは、円筒状の反応器3に充填された触媒4へと導かれ、触媒との接触によりガス中に含まれるアミン類が吸着除去された後、煙突6から大気に放出される。円筒状の反応器3は、円の中心を軸として回転させることにより、排ガス導入によるアミン類の吸着と、加熱空気による脱離、分解を交互に行うことができ、高い吸着力とアミン分解性能を維持することができる。
【0018】
本発明における前記触媒の形状は、板状、ハニカム状、粒状など特に規定されないが、図2のような場合には、ガス流路が切替る際にリークの少ない板状やハニカム状が好結果を得られる。
【実施例】
【0019】
[実施例1]
酸化チタン粉末比表面積:300m2/g、SO4含有量:3重量%)1.5kg、モリブデン酸アンモニウム((NH46・Mo7O24・4H2O)188g、メタバナジン酸アンモニウム(NH4VO3)175g、および蓚酸(H2C2O4・2H2O)226gに水を加えて混練を行い、水分34重量%のペースト状にした。これにシリカ・アルミナ製無機繊維300gを練り込み均一に分散させた。得られたペーストを厚さ0.2mmのSUS430製メタルラス基材上に置き、上下1対のローラプレスの間を通過させて、触媒ペーストをメタルラスの貫通孔内を埋めるように塗布し、厚さ0.8mmのシート状にした。得られたシートを風乾後、500℃で2時間焼成したアミン類分解触媒1を調製した。
【0020】
[実施例2]
実施例1のモリブデン酸アンモニウムをメタタングステン酸アンモニウム((NH46W12O40.xH2O、WO3として92%)268gに変更した以外は同様の操作を行い、アミン類分解触媒2を調製した。
[実施例3]
実施例1におけるモリブデン酸アンモニウムの添加を行わず、その他は同様の操作を行い、アミン類分解触媒3を調製した。
【0021】
[比較例1]
直径10cm−セル数300セル/平方インチ(300cpsi)−長さ50Lのコーディエライトハニカム担体をTiO2濃度15重量%のチタニアゾルに浸漬し、乾燥する操作を3回繰り返した後、350℃で2時間の焼成を行い、TiO2担持量90g/Lの触媒担体を得た。得られた触媒担体をジニトロジアンミン白金溶液に浸漬し、Ptとして2g/Lの白金を担持して乾燥した後、600℃で2時間焼成してPt担持触媒を調製した。
【0022】
実施例1〜3及び比較例1において調製した触媒を用い、排ガスと接触させてアミン類を吸着除去した状態を模擬して5重量%のモノエタノールアミンを含浸担持した。この触媒を流通式の反応器に充填し、加熱空気を模擬したガスを表1の条件で通ガスし、生成するCO2とCOを測定し、アミン類の分解について確認した。結果を表2に示す。
【0023】
表2より、アミン類が吸着した触媒を加熱することでアミン類の脱離・分解が進行し、実施例では120℃という低温から高効率で分解が進んでいることが分かる。この結果、低温での吸着と昇温による分解を繰り返し行うことで少量の触媒で効率よくアミン類を除去することができ、酸化チタンとバナジウム(V)の酸化物、酸化チタンとバナジウムにモリブデン(Mo)またはタングステン(W)の酸化物を加えた触媒を用いることにより、より低温でのアミン類の脱離、分解が可能となる。この結果、アミン類の分解に必要な温度まで昇温するエネルギーを大幅に削減できる。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【符号の説明】
【0026】
1‥CO2吸収装置、2‥CO2ストリッピング塔、3‥反応器、3A、3B‥ 反応室、4‥触媒、5‥流路切替え弁、6‥煙突、7‥CO2吸収装置排ガスライン、8‥加熱空気ライン、9‥ボイラ、10‥脱硝装置、11‥空気予熱器、12‥電気集塵機、13‥脱硫装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミン吸収剤を用いる二酸化炭素(CO2)除去装置からの排ガス中に含まれるアミン類を除去する排ガス処理方法であって、酸化チタンとバナジウム(V)の酸化物、または酸化チタンとバナジウムの酸化物およびモリブデン(Mo)もしくはタングステン(W)の酸化物からなる触媒充填層に前記排ガスを通気してガス中に含まれるアミン類を吸着除去する工程と、アミン類が吸着した前記触媒充填層に加熱空気を通気して触媒を昇温すると同時に、吸着したアミン類の脱離および酸化分解を行う工程とを交互に行うことを特徴とする排ガス処理方法。
【請求項2】
加熱空気が、ボイラなどの燃焼炉からの排ガスである請求項1記載の排ガス処理方法。
【請求項3】
アミン吸収剤を用いる二酸化炭素(CO2)除去装置と、該CO2除去装置の排ガス中に含まれるアミン類の除去する触媒充填層を有する排ガス処理装置であって、前記触媒充填層は、排ガスの流通方向に並列に設けられた複数の反応器内に形成されるか、または反応器内を排ガスの流通方向に並列に仕切って設けられた複数の反応室に形成され、前記複数の反応器または反応室にアミン類を含む排ガスと、前記触媒充填層に吸着されたアミン類を脱離、分解させるための加熱空気をそれぞれ供給する配管系と、該配管系に前記排ガスと加熱空気を交互に切替えて供給する前記配管系の切替手段とを有する排ガス処理装置。
【請求項4】
前記反応室は、円筒形の反応容器をその中心軸の回りに排ガスの流通方向に沿って放射状に仕切って形成されるとともに、前記切替手段は、前記円筒形の反応容器をその中心軸の回りに回転させることにより、前記配管系を介して前記反応室にアミン類を含んだ排ガスと加熱空気を交互に通気するものである請求項3記載の排ガス処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−189262(P2011−189262A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57017(P2010−57017)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000005441)バブコック日立株式会社 (683)
【Fターム(参考)】