説明

亜鉛めっき鋼板とその製造方法

【課題】 塗装後の鮮映性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を提供する。
【解決手段】 溶融亜鉛めっきを行い、調質圧延後のめっき面が、下記の条件を満足するようにする。
Wca≦0.6μm
M≦60%
ppi≧200
d≧1μm
ここで、
Wca:表面ろ波うねり曲線のカットオフ値を0.8mmとした場合におけるろ波中心線うねり高さ(μm)
M:調質圧延加工を受けていない部分の面積率(%)
ここで、Mは、Sを観察視野の面積、Sをそのうちの調質圧延加工を受けた部分の面積とすると、下記式により求められる値である。
M={(S−S)/S}×100
ppi:粗さ曲線のカットオフ値を0.8mmとした場合における粗さ曲線の平均線方向の長さ25.4mmあたりの、粗さ曲線の中心線からの高さが0.5μm以上の凸部のピーク数
d:ダル目の平均深さ(μm)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばめっき鋼板をプレス成形した後、そのめっき鋼板を塗装して使用する、溶融亜鉛めっき鋼板とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にZn系溶融めっき鋼板、つまり溶融亜鉛めっき鋼板には、めっき直後に合金化処理を施した合金化溶融亜鉛めっき鋼板(以下単に「GA鋼板」という)と、合金化処理を施さない溶融亜鉛めっき鋼板(以下単に「GI鋼板」という)とに大別されるが、本明細書においては、「溶融亜鉛めっき鋼板」という場合には、後者の「GI鋼板」をいう。
【0003】
GA鋼板は、溶接性や成形性が優れていることから自動車用鋼板として従来から広く用いられてきた。一方、最近は鋼板の耐食性向上もつよく求められるようになったことから、厚目付け(めっき付着量が多いこと)が容易にでき、かつ製造コストの低いGI鋼板を自動車用鋼板として使用することが検討されている。
【0004】
めっき鋼板が自動車用として用いられる場合、まず、めっき鋼板は自動車の部品の形状にプレス成形され、次いで塗装されるが、そのときの塗装鋼板の特性として鮮映性が要求される。一般に、塗装後の鋼板の鮮映性は、GI鋼板を用いた場合の方が、GA鋼板を用いた場合よりも劣る。
【0005】
ところで、このような塗装後の鮮映性も、結局は、目視で判断する鋼板の外観についての価値判断であり、しかも両者ともめっき鋼板自体の表面性状をもってそれを規定する場合が多いことから、混乱が見られる。しかも、従来にあっても、外観性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板として、その表面性状を規定した発明がいくつか提案されていることから、そのようなめっき鋼板における外観性と塗装鋼板における鮮映性とを明確に区別して理解しない限り、本発明を適切に理解できず、また、本発明と従来技術との関連をも明確にすることができない。そこで、以下において、めっき鋼板における外観性と塗装鋼板における鮮映性の各特性の違いをハッキリさせておく。
【0006】
特許文献1には、JISに規定の十点平均粗さ(Rz)が1〜5μmで、かつ中心線平均粗さ(Ra)が0.1〜1.5μm未満である冷延鋼板に溶融亜鉛めっきを施したGI鋼板、および必要により合金化処理したGA鋼板とそれらの製造方法が開示されている。
【0007】
特許文献2および特許文献3には、素地鋼板である冷延鋼板の集合組織を規定したGI鋼板またはGA鋼板が開示されている。
しかしながら、引用文献1ないし3においては、「めっき皮膜が外観性に優れた」ということは、目視観察でめっき皮膜それ自体に白斑点状の欠陥や筋状ムラが見られるか否かで判断する特性であり、これは塗装後の鮮映性とは直接の関連はなく、それをもって塗装後の鮮映性を推測することもできない。
【0008】
ここに、鮮映性とは、塗装表面に物体を映したときの像の鮮明さ、また像の歪みの度合いを表す特性である。具体的には、例えば後述する実施例で述べる鮮映性評価装置によるNSIC値をもって評価される特性である。
【0009】
特許文献4には、溶融亜鉛めっき皮膜中のFe、Pb、SbおよびAl含有量を規定し、さらに平均線中心粗さRaを1.0μm以上、粗さ曲線の平均線方向の長さ1インチあたりの山の数ppiを80〜250と規定しためっき密着性および連続スポット溶接性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板とその製造方法が開示されている。
【0010】
特許文献4では、めっき皮膜のRaやppiをもって溶融亜鉛めっき鋼板の表面性状を規定しているが、そのときのめっき皮膜に要求される特性は、めっき密着性、プレス成形性、そしてスポット溶接性であって、塗装後鮮映性については何一つ関連しない。段落0020において「美麗な外観」がえられるとしているが、その内容は実施例に示すように、「スパングル模様が判別できない」ことを意味しているに過ぎない。明らかにこれは塗装後の鮮映性については何一つ関連するものはない。つまり、めっき皮膜のRaやppiと塗装後の鮮映性とについては何一つ明らかにすることはない。
【0011】
特許文献5には、調質圧延後の鋼板表面の性状を、ろ波うねり曲線のカットオフ値800μmの中心線うねり高さWcaを0.65μm以下、Wca×PCが6以下(PC:表面のろ波うねり曲線のカットオフ値800μmで高さが1.0μm以上の山の1インチあたりの数)に規定した鮮映性鋼板が開示されている。
【0012】
特許文献5には、調質圧延後の鋼板の表面性状を、ろ波うねり曲線のカットオフ値800μmの中心線うねり高さWcaを0.65μm以下、ろ波うねり曲線の高さ1.0μm以上の山の1インチあたりの数PC1を3以下、同じく1.0μm以上の谷の1インチあたりの数PC2を3以下に規定した、塗装後の鮮映性に優れた鋼板が開示されている。
【0013】
しかしながら、特許文献5および6は、いずれもGA鋼板や電気めっき鋼板に関するものであり、コスト高は免れず、またGI鋼板についても同様の指標によって鮮映性を評価できるか否か明らかではなく、さらには、それができないとして、GI鋼板の場合にいかにして鮮映性を改善するかについて何一つ示唆するところはない。
【0014】
【特許文献1】特開平11−158597号公報
【特許文献2】特開平11−323521号公報
【特許文献3】特開平11−323522号公報
【特許文献4】特開2001−247951号公報
【特許文献5】特開平8−132103号公報
【特許文献6】特開平8−174007号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題は、塗装後の鮮映性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、GI鋼板について塗装後の鮮映性を改善するため鮮映性に悪影響を及ぼしている要因を究明し、種々実験検討した結果、以下の知見を得るに至った。
a)溶融亜鉛めっき後の調質圧延は、塗装後の鮮映性に大きな影響を及ぼしており、GI鋼板にGA鋼板の調質圧延と同じ条件で調質圧延を施しても良好な鮮映性を安定して得ることはできない。換言すれば、前述の引用文献5および6の指標によってGI鋼板の鮮映性を評価することはできない。GI鋼板独自の指標をもって評価する必要がある。
【0017】
b)それは、GA鋼板とGI鋼板とではめっき皮膜の表面状態が異なるためである。すなわち、GI鋼板のめっき皮膜表面ではめっき皮膜の表面状態が異なるためである。すなわち、GI鋼板のめっき皮膜表面では、めっきの凝固時に生じる結晶粒界や、不均一な凝固状態に起因する一般にタレ、サザナミと呼ばれる凹凸状の不規則形状が生じているのに対して、GA鋼板や電気めっき鋼板ではそのような不規則形状は生じないからである。
【0018】
c)したがって、溶融亜鉛めっき鋼板の調質圧延は、めっきままの表面状態の影響をできるだけ小さくすることのできる条件で実施する必要がある。
d)さらに、鮮映性が良好なGI鋼板の表面状態を調査したところ、転写されたダル目の形状にも良好な範囲があることが判明した。
【0019】
e)また、GI鋼板の場合、深いダル目がついていることが好ましい。前述した凝固時の結晶粒界の影響で、塗装後もいわゆるスパングル模様が認められる場合があるが、深いダル目をつけることにより、この結晶粒界の影響を抑えられるものと考えられる。
【0020】
f)さらに、転写されたダル目の径があまり大きくない方が、鮮映性がよいこともわかった。すなわち、ダル目の形状は、平均的には細かく深いほうが好ましい。
g)このようなGI鋼板の表面状態を実現するには、調質圧延時に、表面粗さが所定値以上であるワークロールを用い、調質圧延油を用いてできるだけ大荷重で圧延するのがよい。このとき、放電ダル加工を施されたワークロールを使用するのが好ましい。
【0021】
本発明は、上述のような知見にもとづいて完成されたものであり、具体的には、めっき後に調質圧延を施した溶融亜鉛めっき鋼板であって、調質圧延後のめっき面が、下記の条件を満足していることを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板とその製造方法である。
【0022】
ろ波中心線うねり高さ:Wca≦0.6μm
調質圧延加工を受けていない部分の面積率:M≦60%
粗さ曲線の25.4mmあたりの凸部ピーク数:ppi≧200
ダル目の平均深さ:d≧1μm
本発明の好適態様にあっては、ダル目1つあたりの平均直径(L)は50μm未満である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、塗装後の鮮映性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板が安定して得られ、特に厚目付けによる耐食性および塗装後の耐食性が要求される自動車外板用等の用途において有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の溶融亜鉛めっき鋼板および製造方法について詳しく説明する。
1)めっき鋼板の母材:
めっき鋼板の母材の鋼種は、特に限定されない。用途に応じ適宜選べばよい。例えば自動車用鋼板として用いることを想定した場合の鋼種は、極低炭素鋼、低炭素鋼、さらには、Si、Mn、P、Al、Cr、Ni、CuおよびMoなどの各種に合金元素を含有する炭素鋼などである。機械特性の観点からいえば、一般用、(深)絞り加工用、高強度用などの鋼種で、それらの冷延鋼板や熱延鋼板などを用いることができる。
【0025】
なお、母材鋼板の表面形状についても特に限定しないものの、ろ波中心線うねり高さWcaはできるだけ小さい方が好ましい。これは、母材表面のWcaが大きいとめっき後のWcaも大きくなりやすく、塗装後の鮮映性に不利に働く方向にあるためである。好ましい母材表面のWcaは、0.8μm以下である。
【0026】
2)めっき皮膜:
本発明において、めっき方法自体は従来の溶融亜鉛めっき方法であってよい。そのとき得られるめっき皮膜も、通常のGI鋼板のめっき皮膜であればよいが、好ましい形態は以下のとおりである。
【0027】
塗装後の鮮映性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を得るためには、めっき皮膜表面には、タレ、サザナミと呼ばれる凝固ムラや、不めっき、ドロス等の欠陥が極力少ないほうが好ましい。これらの欠陥には、めっき浴中のAl量が大きく影響する。具体的には、浴中のAl量が0.13〜0.3%程度が好ましく、このときめっき皮膜のAl料は概ね0.15〜0,5%程度となる。
【0028】
また、めっき皮膜中には、PbやSbは極力含まない方がよい。PbやSbを含むと、めっき表面に大きなスパングル模様が発生しやすくなり、塗装後の鮮映性に悪影響を及ぼす場合が多い。PbはGI鋼板の性能(例えば耐食性や耐経時剥離性)に悪影響を及ぼす。めっき皮膜中の好ましい含有量は、PbとSbの合計量で50ppm以下である。
【0029】
めっき皮膜の目付量は、用途に応じて適宜選べばよいが、ある程度の高耐食性と、溶接性や加工性とのバランスが求められる場合には、片面あたり90〜120g/m2が好ましい。
【0030】
3)調質圧延後のめっき皮膜の表面性状
めっき後、調質圧延を施してめっき皮膜表面の以下に述べる所定の表面性状とすることにより、塗装後の鮮映性に優れたGI鋼板が得られる。
【0031】
(i)ろ波中心線うねり高さ:Wca≦0.6μm
図1は、Wcaの求め方の概要を説明するものである。Wcaは、JIS B0601に基づくもので、ただし、うねり曲線のカットオフ値は0.8mmとする。めっき表面のろ波うねり曲線f(x) [(JIS B0601(1994)) による。ただし、本発明において、ろ波うねり曲線のカットオフ値は0.8mm とする] ) に基づいて、Wcaは、以下の式で求められるものである。
【0032】
【数1】

【0033】
L:基準長さ、
Sn:ろ波うねり曲線が山から谷に向けて中心線 (図1のL1) とn番目に交差する点から(n+1)番目に交差する点までの距離
Wcaは、調質圧延時のワークロールの表面形状、伸び率、圧延油等の調質圧延条件で変更することができる。
【0034】
Wcaが小さいほど塗装後の鮮映性が良好になる。好ましくは0.6μm以下とする。下限については特に制限されないが、ダル加工したワークロールで調質圧延する場合、0.2μm以下とするのは困難である。
【0035】
(ii)調質圧延加工を受けていない部分の面積率: M≦60%
前述のように、めっきままのGI鋼板表面には、多くの場合、結晶粒界等に起因する凹凸が存在するので、調質圧延を施すことによりめっきままの皮膜表面の凹凸の悪影響を受けないような表面状態にすることができる。
【0036】
図2は、調質圧延後のGI鋼板表面のミクロ写真(倍率100倍)である。表面をダル加工されたワークロールを用いて調質圧延した後のGI表面は、同図に示すように、調質圧延加工を受けた部分(スキンパス加工部:黒い部分)と受けていない部分(未加工のめっき部:白い部分)とが混在する。このとき、調質圧延加工を受けていない部分の面積率が小さいほど、鮮映性が良好になる。
【0037】
を観察視野の面積、Sをそのうちの調質圧延加工を受けた部分の面積とすると、下記式で求まる未加工のめっき部の面積率Mは60%以下とする必要がある。
M={(S−S)/S}×100
Mが60%を超えると本発明で規定する他の条件を満たしていても鮮映性が悪化する。好ましくは40%以下、さらに好ましくは35%以下である。なお、Mがあまりにも小さい鋼板を得ようとすると、調質圧延ロールにめっき皮膜(亜鉛)がピックアップされるいわゆる巻きつき現象が発生しやすくなる。したがってMの下限としては20%程度が現実的であり、また塗装後の鮮映性の改善効果はM=20%で十分発揮される。
【0038】
ここで、Mは、表面に適切なダル加工を施したワークロールを用いて、できるだけ大きな圧延荷重や調質圧延することによって変えることができる。
(iii)粗さ曲線の25.4mmあたりの凸部ピーク数:ppi≦200
図3はppiの求め方の概要を説明するものである。ppiは、本発明では、米国のSAE911規格に従って、めっき表面の粗さ曲線(ただし、本発明において、ろ波うねり曲線のカットオフ値は0,8mmとする)の中心線(図3のL1)25.4mmあたり粗さ曲線の凸部めっき表面の粗さ曲線(JIS B0601(1994)による)において、長さ25.4mm(1インチ)あたりの、粗さ曲線の中心線からの高さが0.5μm以上の山(すなわち図3のL2よりも高い山)の数をカウントしたものである。
【0039】
ppiが多いほど、塗装後の鮮映性が良好となる。また、ppiが少なすぎる場合、プレス成形時のプレス油の保持性に劣るため、成形の際に割れや型かじりが発生しやすくなる。なお、ppiの上限は特に限定されないが、300超であるようなGI鋼板表面を得るには、ワークロール表面の加工にコストがかかるため現実的でない。
【0040】
(iv)ダル目の平均深さ d≧1μm
前述したように、めっき表面には深いダル目がついていることが好ましい。前述した凝固時の結晶粒界の影響で、塗装後もいわゆるスパングル模様が認められる場合があるが、深いダル目をつけることにより、この結晶粒界が影響を抑えられるものと考えられるからである。具体的には、ダル目の平均深さdを1μm以上とする。なお、ダル目深さは、光学顕微鏡を用いて、焦点深度法で測定することができる。具体的には、GI鋼板表面の調質圧延を受けていない部分の焦点距離を基準とし、測定しようとするダル目の中央部の焦点距離をそのダル目の深さとする。さらに、1サンプルについて3〜5程度のダル目について同様の測定を行い、その平均値をダル目の平均深さdとする。ダル目深さの上限は特に規定しないが、5μm程度が現実的である。過度に深いダル目をつけようとすると、ワークロール表面の粗さを大きくするか、圧延荷重を大きくする必要があり、前者の場合はワークロールを頻繁に交換する必要があり、後者の場合は、亜鉛の巻き付き現象が生じやすくなるほか、場合によっては調質圧延の加工度が大きくなり機械特性に悪影響を及ぼすと考えられる。
【0041】
(v)ダル目1つあたりの平均直径 L<50μm
前述したように、転写されたダル目の径があまり大きくない方が、鮮映性がよい傾向がある。前述の(i)〜(iv)の各条件が規定範囲内にあれば塗装後の鮮映性は良好だが、さらに、具体的には、ダル目の形状を円と仮定した場合において1個あたりの平均直径を50μm未満であるのが好ましい。
【0042】
なお、(ii)のMおよび(v)のLは、調質圧延後のGI鋼板表面を光学顕微鏡で100〜300倍で撮影し、画像処理によってダル目部分(調質加工を受けた部分)とめっきままの表面とに分け、それぞれの面積からMを、およびダル目部分の個数および面積からLを、それぞれ算出することができる。
【0043】
(vi)中心線平均粗さRa:
上記の表面性状に関する各条件が規定した範囲内にあれば、Raは、鮮映性にあまり影響しない。しかし、プレス成形性を良好にするには、Raを0.8〜1.5μmの範囲内にするのがよい。
【0044】
4)製造方法
上述したような表面性状のGI鋼板は、既に述べたように、溶融亜鉛めっき処理に際して、めっき浴の組成を調整することにより、またそのようにして得られた溶融亜鉛めっき鋼板に調質圧延を施すことにより得られる。
【0045】
ここで、本発明にかかる製造方法について詳細に説明するが、溶融亜鉛めっき処理自体は既に公知であり、本発明においてもそれを利用すればよく、特に制限はない。したがって、以下においては、調質圧延について説明する。
【0046】
(a)調質圧延に用いるワークロール
鋼板と接触するワークロールには、ロール表面に放電ダル加工を施したロールを用いるのがよい。放電ダル加工を施したロールは、ショットブラスト加工を施したロールと比較して、高ppiの調整可能範囲が広いため、高ppiと低Wcaとが並立した本発明のGI鋼板を得やすい。なお、鋼板のRaを前述の範囲とするには、ワークロール表面のRaを、放電加工状態やその他圧延条件による影響はあるものの、2.0〜3.5μm程度とするのが適当である。
【0047】
(b)調質圧延油
本発明のGI鋼板を得るには、後述するように圧下荷重を大きめにして調質圧延を行うため、ワークロールにめっき(亜鉛)が巻きつきやすい。そこで、この巻き付きを抑制するために、ウエット状態で調質圧延するのが好ましい。しかも単なる水では巻き付き抑制効果が乏しいため、潤滑効果を高めるために有機または無機の調質圧延液を使用することが好ましい。たとえば、有機調質油を水希釈後で濃度1%以上としたものを、鋼板にスプレーしながら調質圧延を施すのがよい。
【0048】
(c)調質圧延における圧下荷重:
調質圧延加工を受けない部分の面積率Mを深くするためには、圧下荷重を十分にかけるのがよい。好ましい荷重は、鋼帯幅方向の線荷重で0.8kN/mm以上であり、より好ましくは1kN/mmである。なお、上限は特に規定しないが、巻き付き、機械特性との関係から3.0kN/mm程度が現実的である。
【0049】
連続溶融亜鉛めっきラインは、通常調質圧延設備も有しているため、インラインで圧延を行えばよい。ただし、場合によっては、調質圧延を別ラインで行うこともできる。また、調質圧延後に鋼板の形状修正(主に平坦度の修正)のために軽度の圧延が施される場合もあるが、最終的に本発明の表面状態が得られればよい。
【0050】
その他、めっき直後の付着量制御は通常ガスワイピング等でめっき付着量がコントロールされる。このとき、大気を用いるよりは、窒素ガス等の不活性ガスを用いる方が、表面のタレ、サザナミの少ない表面を得やすいので好ましい。
【0051】
また、めっき凝固時に、ミストスプレー等によって急冷させることもある。このような急冷によって、スパングル模様の生成、成長を抑制する効果があることから、用いた方が好ましい場合もある。一方、前述したように、めっき皮膜中のPb、Sb等の不純物が少ない場合には、もともとスパングルが大きくならないので、その場合は必ずしも急冷する必要がない。また、薬液ミストは、その付着によって耐食性が低下する可能性があるので、その場合は用いない方がよいときもある。
【0052】
次に、実施例により本発明の作用効果についてさらに具体的に説明する。
【実施例】
【0053】
表1に示す化学組成の板厚0.8mmの極低炭素-Ti添加冷延鋼帯を母材とし、連続溶融めっきラインにて、めっき浴中のAl濃度0.15%、Pb、Sbが合計で50ppm以下のめっき浴を用いて、片面あたりのめっき付着量が80g/m2の溶融亜鉛めっきを施した。
【0054】
【表1】

【0055】
なお、ワイピングは窒素ガスを用いて行い、ミストスプレー等は用いていない。めっき工程に引き続き、当該ラインにて、前記めっき鋼帯をスキンパス伸び率、圧下荷重(線荷重)等の条件を変更して調質圧延を行った。調質圧延の条件は、以下のとおりである。
【0056】
ワークロール表面:放電ダル加工仕上げ。Raが2.5μmで、ppiは200、250、300の3水準のものを用いた。
調質圧延油:Quaker社製クワールJ263を水によって5%に希釈したものを用いた。
【0057】
圧下荷重:0.1-1.1kN/mm
伸び率:0〜1.0%
このようにして得られたGI鋼板の表面性状については、以下のように測定した。
【0058】
M、L:前述したように、光学顕微鏡で100〜300倍で観察し、画像処理によって算出した。
d:光学顕微鏡で100〜300倍で観察する際、めっきままの表面の焦点深度を基準とし、ダル目中央部の焦点深度との差をダル目の深さとした。1サンプルにつき、3〜5程度のダル目についてダル目の深さを測定し、その平均値をdとした。
【0059】
Wca、ppi:2次元の表面粗さ測定装置を用いて測定した。
次に、得られたGI鋼板にりん酸亜鉛処理、電着塗装(膜厚15mm)、中塗り塗装(膜厚20mm)、上塗り塗装(膜厚20μm)、クリアー塗装(20μm)をこの順で施した。
【0060】
得られた塗装板の鮮映性について、鮮映性評価装置(スガ試験機株式会社製HA-NSIC)にてNSIC値を測定した。なお、評価基準は次の通りとし、70以上を合格とした。
◎:NSIC値80以上
○:同 70以上80未満
△:同 50以上70未満
×:同 50未満
【0061】
【表2】

【0062】
測定結果は、表2に示すとおりであった。
表2にからわかるように、本発明で規定する条件のうち、1条件でも規定範囲を外れている比較例では、優れた鮮映性が得られなかった。一方、規定条件を全て満足している本発明例では、全てについて優れた鮮映性が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】Wcaの求め方を説明すための模式図である。
【図2】調質圧延後の溶融亜鉛めっき鋼板の表面ミクロ写真の一例である。
【図3】ppiの求め方を説明するための模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき後に調質圧延を施した溶融亜鉛めっき鋼板であって、調質圧延後のめっき面が、下記の条件を満足していることを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板。
Wca≦0.6μm
M≦60%
ppi≧200
d≧1μm
ここで、
Wca:表面ろ波うねり曲線のカットオフ値を0.8mmとした場合におけるろ波中心線うねり高さ(μm)
M:調質圧延加工を受けていない部分の面積率(%)
ここで、Mは、Sを観察視野の面積、Sをそのうちの調質圧延加工を受けた部分の面積とすると、下記式により求められる値である。
M={(S−S)/S}×100
ppi:粗さ曲線のカットオフ値を0.8mmとした場合における粗さ曲線の平均線方向の長さ25.4mmあたりの、粗さ曲線の中心線からの高さが0.5μm以上の凸部のピーク数
d:ダル目の平均深さ(μm)
【請求項2】
調質圧延後のダル目の平均直径が50μm未満である、請求項1記載の溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項3】
溶融亜鉛めっき鋼板に調質圧延を施すに際し、表面に放電ダル加工を施したロールを用いるとともに、有機または無機の調質圧延油を使用し、線荷重で1kN/mm以上の圧延荷重で圧延を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−61952(P2006−61952A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−248358(P2004−248358)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】