説明

交流き電線過負荷保護装置

【課題】 交流き電線の過電流を確実に判断し、安定に保護動作を実行する。
【解決手段】 列車に電力を給電する交流き電線に流れる電流をディジタル電流に変換するA/D変換手段21と、このディジタル電流を第1の所定時間t1の間加算する電流加算手段22と、加算電流から第1の所定時間t1の平均電流を算出し、第2の所定時間t2にわたって繰り返し当該平均電流を算出し、電流記憶手段24に記憶する平均電流算出手段23と、前記第2の所定時間にわたって記憶された平均電流から交流き電線の現在から過去のインピーダンス変化を考慮した平均電流を求める尤度平均演算手段25と、この尤度平均電流が整定値以上のとき、交流き電線に過電流が流れていると検出する過電流検出手段26と、電流検出信号を受けて、交流遮断器に対してトリップ指令を出力するトリップ出力手段27とを備えた交流き電線過負荷保護装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、交流式電気鉄道に用いられる交流き電線過負荷保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、交流式電気鉄道の受変電システムは、交流き電母線から電車線となる交流き電線を通して列車に必要電力を給電しているが、交流き電線に何らかの事故,例えば地絡事故などが発生した場合、き電用変電所や列車の搭載機器を保護するため、列車の負荷と区別して交流き電線を確実に遮断する必要がある。
【0003】
そこで、従来、種々の事故等によって発生する交流き電線の過負荷から保護するために、交流き電母線から交流き電線に連係する連係線にディジタル型保護継電器を接続し、交流き電線に流れる過電流を検出して交流遮断器を遮断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平02−88425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の一般的なディジタル型保護継電器は、交流き電線に流入する電流を計測し、その計測電流値と予め設定された整定値とを比較し、計測電流値が整定値以上となったとき、交流き電線に流れる電流が過電流であると検出し、交流遮断器へトリップ指令を出力する構成である。
【0006】
しかし、交流き電線に流れる電流は、周囲温度の変化、列車のパンタグラフの接触に伴う交流き電線の摩耗等に伴い、交流き電線のインピーダンスが変化し、同一の負荷状態であっても交流き電線に流れる電流値が変化する。
【0007】
その結果、列車に所要の電力を給電する受変電システムでは、交流き電線の過負荷時に安定に保護動作を遂行することが難しい問題がある。
【0008】
そこで、本交流き電線過負荷保護装置は、交流き電線に流れる電流から尤度をもって過電流を確実に判断し、交流き電線の過負荷時に安定に保護動作を実行することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態によれば、列車に電力を給電する交流き電線の過負荷保護を行う交流き電線過負荷保護装置であって、前記交流き電線に流れるアナログ電流をディジタル電流に変換するアナログ/ディジタル変換手段と、このアナログ/ディジタル変換手段で変換されたディジタル電流を第1の一定時間にわたって加算する電流加算手段と、この加算された加算電流から前記第1の一定時間の平均電流を算出し、第2の一定時間にわたって順次当該平均電流を繰り返し算出して記憶する平均電流算出手段と、前記第2の一定時間にわたって記憶された平均電流から前記交流き電線の現在から過去のインピーダンス変化を考慮した尤度平均電流を演算する尤度平均演算手段と、この尤度平均演算手段で得られた尤度をもった平均電流が予め定める整定値以上となったとき、前記交流き電線に過電流が流れていると検出する過電流検出手段と、この過電流検出手段から出力されるか電流検出信号を受けて、交流遮断器に対してトリップ指令を出力するトリップ出力手段とを備えた構成である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態1に係る交流き電線過負荷保護装置を示す構成図。
【図2】一定間隔Δt1ごとのサンプリング電流IFを所定時間t1にわたって加算する図1に示す電流加算手段を説明する図。
【図3】所定時間t1ごとの平均電流を所定時間t2にわたって順次算出して記憶する図1に示す平均電流算出手段を説明する図。
【図4】実施形態2に係る交流き電線過負荷保護装置を示す構成図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態について、図面を参照して説明する。
(実施形態1)
図1は実施形態1に係る交流き電線過負荷保護装置を示す構成図である。
【0012】
交流式電気鉄道の受変電システムは、交流き電母線11に連係線12を介して電車線となる交流き電線13が接続されている。14は列車である。
【0013】
連係線12には交流遮断器17が設置され、交流き電線13に過電流が流れたとき、交流遮断器17を遮断してき電線13等を保護するために、当該連係線12に変流器18を介してディジタル型保護継電器20が接続される。
【0014】
ディジタル型保護継電器20は、A/D変換手段21、電流加算手段22、平均電流算出手段23、電流記憶手段24、尤度平均演算手段25、過電流検出手段26及びトリップ出力回路27を含む構成である。
【0015】
A/D変換手段21は、交流き電線13,ひいては連係線12に流れる電流をディジタル電流に変換する。電流加算手段22は、A/D変換手段21で変換されたディジタル電流を一定間隔ごとにサンプリングし、予め定める一定時間にわたって加算する機能を有する。
【0016】
平均電流算出手段23は、電流加算手段22で加算された加算電流から一定時間t1の平均電流を算出し、一定時間t2(t1の整数倍)にわたって順次当該平均電流を繰り返し算出し(図2,図3参照)、電流記憶手段24に記憶する。
【0017】
尤度平均演算手段25は、一定時間t2にわたって記憶された平均電流から前記交流き電線の現在から過去のインピーダンス変化を考慮した尤度平均電流を演算するものであって、例えば二乗平均演算手段25aが用いられる。二乗平均演算手段25aは、電流記憶手段24に記憶された前記交流き電線の現在から過去のインピーダンス変化に伴って変化する平均電流について、二乗して平均を求める機能をもっている。
【0018】
ここで、交流き電線13の平均電流を二乗平均する理由は、温度変化(例えば温度上昇)に対して、交流き電線13におけるインピーダンスの変化が二乗またはそれにほぼ近い値で小さくなるように変化し、それに伴って電流が流れ易い状態(電流増)となるので、そのインピーダンスの変化を考慮して平均電流を二乗して平均化することにより、尤度をもたせて電流の変化(過電流)を判断することにある。
【0019】
過電流検出手段26は、二乗平均演算手段25aで得られた尤度平均電流と予め設定される整定値とを比較し、交流き電線13に過電流が流れていると検出したとき、過電流検出信号をトリップ出力回路27に送出する。
【0020】
トリップ出力回路27は、過電流検出信号を受けて、交流遮断器17に対してトリップ指令を送出する。
【0021】
次に、以上のように構成された交流き電線過負荷保護装置の作用について、図2及び図3を参照して説明する。
【0022】
先ず、交流き電母線11から交流き電線13に連係する連係線12に設置される変流器18から、交流き電線13に流れる電流を取り込んでA/D変換手段21に導入する。ここで、A/D変換手段21は、変流器18から入力されるアナログ電流をディジタル交流き電線電流IFに変換し、電流加算手段22へ出力する。
【0023】
電流加算手段22は、図2に示すように一定間隔(交流き電線電流サンプリング間隔)Δt1ごとにディジタル交流き電線電流IFをサンプリングし、一定時間(交流き電線電流加算時間)t1にわたって繰り返し、以下の演算式によって加算電流Iaddを算出する。例えばΔt1=10ms、一定時間t1=1sとすると、100回分のサンプリングデータ(交流き電線電流IF)を加算することにより、加算電流Iaddを求める。
【数1】

【0024】
上式において、n:今現在の時刻、n−t1:今現在の時刻nからt1時間分過去に遡った時刻を意味する。
【0025】
電流加算手段22で求められた加算電流Iaddは平均電流算出手段23に送られる。平均電流算出手段23は、加算電流Iaddから次式に基づいて一定時間t1の平均電流Iavgt1を算出する。
【0026】
Iavgt1=Iadd/(t1/Δt1) ………(2)
上式において、t1/Δt1:一定時間t1間のデータ個数(サンプリングデータ個数)、Iavgt1は、Δt1=10ms、一定時間t1=1sとしたとき、1s(1秒)間の平均電流である。
【0027】
以上のようにして平均電流算出手段23は、所定時間t1の交流き電線平均電流Iavgt1を求めて順次電流記憶手段24に記憶する。すなわち、平均電流算出手段23は、図3に示すように、一定時間t1ごとに任意の時間t2まで繰り返し交流き電線平均電流Iavgt1(=Iavgt11,Iavgt12,…,Iavgt1n)を算出し、電流記憶手段24に順次記憶していく。
【0028】
次に、二乗平均演算手段25aは、電流記憶手段24に記憶された現在から過去の任意時間t2まで記憶された交流き電線平均電流値Iavgt1(=Iavgt11,Iavgt12,…,Iavgt1n)をそれぞれ二乗し加算して平均電流を演算する。
【0029】
すなわち、二乗平均演算手段25aは、現在から過去の任意時間t2分のデータ個数(データ個数x=t2/t1)を取得し、以下の演算式によって二乗電流平均値Iavgt2を求める。各交流き電線平均電流Iavgt11,Iavgt12,…,Iavgt1nをそれぞれ2乗して加算{(Iavgt11)2+(Iavgt12)2+…+(Iavgt1n)2}した後、データ個数xで割って平均を求める。
【数2】

【0030】
但し、n:今現在の時刻、n−t2:今現在の時刻nからt2時間分過去に遡った時刻、x=t2/t1:データ個数、t2:二乗(尤度)平均演算適用時間を意味する。
【0031】
しかる後、過電流検出手段26は、二乗平均演算手段25aで求めた二乗電流平均値Iavgt2と予め設定された整定値Isetを比較し、二乗電流平均値Iavgt2が整定値Iset以上(Iavgt2≧Iset)となったとき、交流き電線13に流れる電流が過電流であると検出し、過電流検出信号をトリップ出力回路27に送出する。
【0032】
従って、この実施の形態では、次のような条件が成立したとき、交流き電線13が事故等によって過負荷状態と判断し、過電流検出信号をトリップ出力回路27に送出する。
【数3】

【0033】
但し、上式において、n:今現在の時刻、t1:交流き電線電流加算時間、t2:二乗(尤度)平均演算適用時間、Δt1:交流き電線電流サンプリング間隔である。
【0034】
トリップ出力回路27は、過電流検出手段26から過電流検出信号を受けると、トリップ指令を出力し、交流遮断器17を遮断する。
【0035】
従って、以上のような実施形態によれば、次のような効果を奏する。
【0036】
従来の過負荷保護装置であれば、交流き電線に流れるディジタル電流は、周囲温度の変化や交流き電線の摩耗等によるインピーダンスの変化に伴って変化したとき、予め定めた整定値を瞬時に超えたり、下がったりするので、過電流の発生と正常範囲内電流の復帰とを繰り返す,いわゆるハンチング現象が生じ、交流き電線の過電流保護の安定性に乏しいものである。
【0037】
これに対して、本実施の形態では、交流き電線電流加算時間t1ごとの平均電流を所定時間t2にわたって二乗平均して過去分を記憶して覚えているので、僅かなインピーダンスの変化によって過電流発生と復帰とを繰り返すことなくなり、ある程度の尤度をもってき電線13に流れる電流が過電流か否かを判断することができ、交流き電線の過負荷時に安定、かつ確実に保護動作を実行することができる。
【0038】
(実施形態2)
図4は実施形態2に係る交流き電線過負荷保護装置を示す構成図である。
【0039】
実施形態2は、図1に示す過電流検出手段26の出力側にオンディレイタイマ30を設けたものであって、その他の構成は図1と同様であるので、同一部分には同一符号を付し、その重複する説明は省略する。
【0040】
このオンディレイタイマ30は、過電流検出手段26で検出された過電流が予め定める所定時間継続したとき、出力をONとする過電流検出信号を出力し、トリップ出力回路27に送出する。トリップ出力回路27は、過電流検出信号を受けると、交流遮断器17に対してトリップ指令を送出する。
【0041】
なお、過電流検出手段26の出力側にオンディレイタイマ30を設けた理由は、過電流の継続性からより過電流の確実性を担保するためのものであって、オンディレイタイマ30の設定時間を任意に可変設定できるようにしておけば、ユーザの要望を取り入れつつ任意の時間を設定することができる。
【0042】
従って、実施形態1,2によれば、周囲温度の変化や交流き電線13の摩耗等により、インピーダンスの変化があっても、現在の電流値のみでなく、現在から過去のインピーダンス変化に伴った電流値の平均値を用いた過電流継電器によって過負荷を検出するので、インピーダンスの変化に対応した交流き電線の過負荷保護を行うことができる。
【0043】
(その他の実施形態)
(1) 上記各実施の形態では、尤度平均演算手段25としては、周囲温度の変化に対して、交流き電線13のインピーダンス変化が二乗またはそれに近い値で変化し、それに伴って交流き電線13に流れる電流が変化することを想定して二乗平均演算手段25aを設けたが、例えば周囲温度の変化によるインピーダンスの変化特性曲線だけでなく、交流き電線13の摩耗度合いによるインピーダンスの変化特性曲線をも考慮し、これら2つの変化特性を合成した変化特性に近似する尤度平均演算式のもとに、粒度平均演算適用時間t2にわたって平均電流も求め、過電流検出手段26に送出してもよい。
【0044】
(2) 本発明はいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、それぞれ一例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0045】
11…交流き電母線、12…連係線、13…交流き電線、14…列車、17…交流遮断器、20…ディジタル型保護継電器、21…A/D変換手段、22…電流加算手段、23…平均電流算出手段、24…電流記憶手段、25…尤度平均演算手段、25a…二乗平均演算手段、26…過電流検出手段、27…トリップ出力回路、30…オンディレイタイマ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車に電力を給電する交流き電線の過負荷保護を行う交流き電線過負荷保護装置において、
前記交流き電線に流れるアナログ電流をディジタル電流に変換するアナログ/ディジタル変換手段と、
このアナログ/ディジタル変換手段で変換されたディジタル電流を第1の所定時間にわたって加算する電流加算手段と、
この加算された加算電流から前記第1の所定時間の平均電流を算出し、第2の所定時間にわたって順次当該平均電流を繰り返し算出して記憶する平均電流算出手段と、
前記第2の所定時間にわたって記憶された平均電流から前記交流き電線の現在から過去のインピーダンス変化を考慮した尤度平均電流を演算する尤度平均演算手段と、
この尤度平均演算手段で得られた尤度をもった平均電流が予め定める整定値以上となったとき、前記交流き電線に流れる電流が過電流であると検出する過電流検出手段と、
この過電流検出手段から出力される過電流検出信号に基づき、交流遮断器に対してトリップ指令を出力するトリップ出力手段と
を備えたことを特徴とする交流き電線過負荷保護装置。
【請求項2】
前記電流加算手段は、前記ディジタル電流を一定間隔ごとにサンプリングし、そのサンプリングされた前記ディジタル電流を前記第1の所定時間にわたって加算することを特徴とする請求項1に記載の交流き電線過負荷保護装置。
【請求項3】
前記尤度平均演算手段としては、前記平均電流算出手段によって前記第2の所定時間にわたって繰り返し算出された平均電流を、周囲温度の変化に伴うインピーダンス変化を考慮して二乗平均する二乗平均演算手段を設けたことを特徴とする請求項1に記載の交流き電線過負荷保護装置。
【請求項4】
前記尤度平均演算手段としては、前記平均電流算出手段によって前記第2の所定時間にわたって繰り返し算出された平均電流を、周囲温度の変化と前記交流き電線の摩耗とに伴うインピーダンス変化を考慮して尤度平均する演算手段を設けたことを特徴とする請求項1に記載の交流き電線過負荷保護装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4の何れか一項に記載の交流き電線過負荷保護装置において、
前記過電流検出手段で検出された交流き電線に流れる過電流と予め定める整定値とを比較し、当該過電流が当該整定値以上を任意に可変可能に定める設定時間以上継続したときに過電流検出信号を出力するタイマ回路を、さらに設けたことを特徴とする交流き電線過負荷保護装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−50302(P2012−50302A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192601(P2010−192601)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】