説明

交流アーク炉の電極昇降装置

【課題】操業中に発生するアーク切れを大幅に低減させ、操業時間の短縮や電力コストの削減を可能とする交流アーク炉の電極昇降装置を提供する。
【解決手段】本電極昇降装置は、スクラップ4との間にアークを発生させて炉体3内のスクラップ4を溶解する電極2と、電極2を駆動する電動機5と、電動機5を制御する制御装置6とを備える。制御装置6は、常時は、電極2及びスクラップ4間のインピーダンスが一定となるように電動機5を制御する。また、制御装置6は、電極2及びスクラップ4間に発生するアークの長さが所定値以上になると、上記インピーダンス一定制御を解除し、電極2を下降させるように電動機5を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電極とスクラップとの間でアーク放電を発生させることにより、炉体内のスクラップを溶解する交流アーク炉の電極昇降装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図2は従来の交流アーク炉の電極昇降装置を示す構成図である。
交流アーク炉では、炉用変圧器1の一次側に交流電源(図示せず)が接続され、炉用変圧器1の二次側に電極2が接続されている。交流アーク炉では、電極2と炉体3内のスクラップ4との間にアークを発生させ、スクラップ4を溶解する。
【0003】
5は電極2を駆動する電動機、18は電動機5を制御する制御装置である。電極2は上下方向に移動可能に構成されており、制御装置18は、電動機5を制御して電極2を適切に昇降させる。従来の交流アーク炉では、制御装置18により、アーク電圧とアーク電流との比が一定となるように、負荷の垂下特性に合わせたインピーダンス一定制御が行われていた。
【0004】
例えば、下記特許文献1に記載のものにも、図2に示す構成と同様の電極昇降装置が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−202867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
交流アーク炉では、操業中に、アーク切れが発生することがある。特に、スクラップを溶解する交流アーク炉では、スクラップが溶けた際に炉体内でスクラップが崩れるため、電極及びスクラップ間の距離が急激に変化してアーク切れが発生し易い。なお、アーク切れが発生すると、アークを発生させるための制御が必要になり、電極制御の応答性が著しく低下してしまう。また、余計な制御が必要になるために操業時間が延び、電力コストも増加してしまう。
【0007】
従来の交流アーク炉の電極昇降装置では、このようなアーク切れに対する考慮が適切になされていなかった。
【0008】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、操業中に発生するアーク切れを大幅に低減させ、操業時間の短縮や電力コストの削減を可能とする交流アーク炉の電極昇降装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る交流アーク炉の電極昇降装置は、炉体内のスクラップを溶解するため、スクラップとの間にアークを発生させる電極と、電極を駆動する電動機と、常時は、電極及びスクラップ間のインピーダンスが一定となるように電動機を制御し、電極及びスクラップ間に発生するアークの長さが所定値以上になると、電動機を制御して電極を下降させる制御装置と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
この発明に係る交流アーク炉の電極昇降装置であれば、操業中に発生するアーク切れを大幅に低減させることができる。このため、電極制御の応答性が向上し、操業時間の短縮や電力コストの削減を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の実施の形態1における交流アーク炉の電極昇降装置を示す構成図である。
【図2】従来の交流アーク炉の電極昇降装置を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
この発明をより詳細に説明するため、添付の図面に従ってこれを説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0013】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1における交流アーク炉の電極昇降装置を示す構成図である。
図1において、1は交流アーク炉における炉用変圧器である。炉用変圧器1は、一次側に交流電源(図示せず)が接続され、二次側に電極2が接続されている。3は炉体、4は炉体3内に入れられたスクラップである。電極2には、炉用変圧器1によって変圧された電圧が供給される。これにより、電極2は、スクラップ4との間にアークを発生させ、スクラップ4を溶解させる。
【0014】
電極2は、上下方向に移動可能な所定の機構によって支持されている。5は電極2を駆動するための電動機、6は電動機5を制御して電極2を昇降させる制御装置である。制御装置6は、操業中、常時は電極2及びスクラップ4間のインピーダンスが一定となるように電動機5を制御して、電極2を適切に昇降させる。また、制御装置6では、電極2及びスクラップ4間に発生するアークの長さを常時監視している。制御装置6は、アーク長が所定値以上であること検出すると、上記インピーダンス一定制御を解除し、電極2を下降させるように電動機5を制御する。
【0015】
7は炉用変圧器1に内蔵された変流器である。変流器7は、炉用変圧器1の二次側の電流、即ち、電極2に供給されるアーク電流を検出する。変流器7によって検出されたアーク電流の実測値Iは、制御装置6に入力される。
8は炉用変圧器1の二次側に設けられた補助変圧器である。補助変圧器8は、炉用変圧器1の二次側の電圧、即ち、電極2に供給されるアーク電圧を検出する。補助変圧器8によって検出されたアーク電圧の実測値Vは、制御装置6に入力される。
【0016】
制御装置6は、変流器7からのアーク電流の実測値I及び補助変圧器8からのアーク電圧の実測値Vに基づいて、電動機5を制御する。制御装置6には、例えば、アーク電流設定回路9、インピーダンス一定制御回路10、アーク長演算回路11、アーク長チェック回路12、切換回路13、昇降モータ駆動回路14が備えられている。
【0017】
アーク電流設定回路9は、アーク電流の基準となる値を設定するための回路である。アーク電流設定回路9は、アーク電流の設定値IOSを、インピーダンス一定制御回路10に対して出力する。
【0018】
インピーダンス一定制御回路10は、電極2及びスクラップ4間のインピーダンスを一定にするための制御指令を出力する。インピーダンス一定制御回路10は、変流器7からの実測値I、補助変圧器8からの実測値V、アーク電流設定回路9からの設定値IOSに基づいて、上記制御指令の演算を行う。例えば、インピーダンス一定制御回路10は、アーク電流の実測値Iを設定値IOSに追従させるとともに、実測値VとIの比(V/I)が一定になるように、負荷の垂下特性に合わせた制御指令の演算を行う。インピーダンス一定制御回路10からの指令は、切換回路13に入力される。
【0019】
アーク長演算回路11は、電極2及びスクラップ4間に発生するアークの長さを演算する機能を有している。電極2及びスクラップ4間のアーク長は、アーク電圧に比例する。このため、アーク長演算回路11は、補助変圧器8からの実測値Vに基づいて、アーク長の演算を行う。アーク長演算回路11によって演算されたアーク長Lは、アーク長チェック回路12に入力される。
【0020】
アーク長チェック回路12には、判定回路15、タイマー16、下降指令回路17が備えられている。
【0021】
判定回路15は、アーク長演算回路11によって演算されたアーク長Lが所定値L以上か否かを判定する。また、下降指令回路17は、要時に、電極2を下降させるための制御指令を出力する。例えば、下降指令回路17は、判定回路15によってアーク長Lが所定値L以上と判定され、その状態が所定時間継続した場合に、切換回路13に対して上記制御指令を出力する。
【0022】
タイマー16は、アーク長Lが所定値L以上である状態の継続時間をカウントする。即ち、下降指令回路17は、タイマー16によるカウント値が所定の設定値に達すると、上記制御指令を切換回路13に対して出力する。タイマー16の上記設定値を変更することにより、下降指令回路17から制御指令を出力させるタイミングを適切に設定することができる。また、アーク長の設定値Lを適切に設定することができれば、タイマー16の設定値を極短時間に設定したり、タイマー16の設置を省略したりすることも可能である。
【0023】
切換回路13は、インピーダンス一定制御回路10からの制御指令と下降指令回路17からの制御指令とから一方を適切に選択し、選択した一方の制御指令を昇降モータ駆動回路14に対して出力する。切換回路13は、アーク切れが発生する恐れのない常時は、インピーダンス一定制御回路10からの制御指令を昇降モータ駆動回路14に入力させる。例えば、切換回路13は、判定回路15によってアーク長Lが所定値Lより小さいと判定された場合は、インピーダンス一定制御回路10からの制御指令を選択する。
【0024】
一方、切換回路13は、アーク切れが発生する恐れのある要時は、下降指令回路17からの制御指令を昇降モータ駆動回路14に入力させる。例えば、切換回路13は、判定回路15によってアーク長Lが所定値L以上と判定された場合(或いは、その状態が所定時間継続した場合)は、下降指令回路17からの制御指令を選択する。
【0025】
昇降モータ駆動回路14は、切換回路13から入力された制御指令に応じて、電動機5を適切に制御する機能を有している。
【0026】
上記構成を有する電極昇降装置であれば、スクラップ4の溶解を効率的に行い、且つ、操業中に発生するアーク切れを大幅に低減させることができるようになる。即ち、上記構成の電極昇降装置では、アーク長Lが所定値Lより小さい時は、昇降モータ駆動回路14により、電極2及びスクラップ4間のインピーダンスを一定にする電動機制御が行われる。一方、アーク長Lが所定値L以上になる(或いは、その状態が所定時間継続する)と、上記インピーダンス一定制御が一時的に停止され、電極2を下降させる電動機制御に切り換えられる。このように、インピーダンス一定制御から電極下降制御にロジックで切り換えることができるため、操業中のアーク切れを確実に防止して、電極制御の応答性を向上させることが可能となる。したがって、アーク切れに対処するための余計な制御が不要となり、操業時間の短縮や電力コストの削減を図ることが可能となる。
【0027】
また、上述したように、スクラップ4を溶解する交流アーク炉では、スクラップ4が溶けた際に炉体3内でスクラップ4が崩れるため、電極2及びスクラップ4間の距離が変化し易い。このため、アーク長の所定値Lを短く設定すると、L≧Lの条件式が成立し易くなり、電極下降制御が頻繁に行われる恐れがある。本電極昇降装置では、このような事象への対応をタイマー16の調整によって行うことができる。即ち、タイマー16の値を適切に設定することにより、電極下降制御への頻繁な切り換えを阻止することができ、制御性の悪化を確実に防止することが可能となる。
【符号の説明】
【0028】
1 炉用変圧器
2 電極
3 炉体
4 スクラップ
5 電動機
6、18 制御装置
7 変流器
8 補助変圧器
9、19 アーク電流設定回路
10、20 インピーダンス一定制御回路
11 アーク長演算回路
12 アーク長チェック回路
13 切換回路
14、21 昇降モータ駆動回路
15 判定回路
16 タイマー
17 下降指令回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉体内のスクラップを溶解するため、前記スクラップとの間にアークを発生させる電極と、
前記電極を駆動する電動機と、
常時は、前記電極及び前記スクラップ間のインピーダンスが一定となるように前記電動機を制御し、前記電極及び前記スクラップ間に発生するアークの長さが所定値以上になると、前記電動機を制御して前記電極を下降させる制御装置と、
を備えたことを特徴とする交流アーク炉の電極昇降装置。
【請求項2】
前記電極に供給されるアーク電圧を検出するための変圧器と、
を更に備え、
前記制御装置は、
前記変圧器によるアーク電圧の実測値に基づいて、前記電極及び前記スクラップ間に発生するアークの長さを演算するアーク長演算手段と、
前記アーク長演算手段によって演算されたアーク長が所定値以上か否かを判定する判定手段と、
前記判定手段によってアーク長が所定値より小さいと判定された場合に、前記電極及び前記スクラップ間のインピーダンスが一定となるように前記電動機を制御し、前記判定手段によってアーク長が所定値以上と判定された場合に、前記電極が下降するように前記電動機を制御する昇降モータ駆動手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の交流アーク炉の電極昇降装置。
【請求項3】
前記電極に供給されるアーク電流を検出するための変流器と、
を更に備え、
前記制御装置は、
前記変流器によるアーク電流の実測値、前記変圧器によるアーク電圧の実測値、及び所定のアーク電流設定値に基づいて、インピーダンス一定制御を行うための指令を出力するインピーダンス一定制御手段と、
前記電極を下降させるための指令を出力する下降指令手段と、
前記判定手段によってアーク長が所定値より小さいと判定された場合に、前記インピーダンス一定制御手段からの指令を前記昇降モータ駆動手段に入力させ、前記判定手段によってアーク長が所定値以上と判定された場合に、前記下降指令手段からの指令を前記昇降モータ駆動手段に入力させる切換手段と、
を備えたことを特徴とする請求項2に記載の交流アーク炉の電極昇降装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記電極及び前記スクラップ間に発生するアークの長さが所定時間継続して所定値以上になると、前記電動機を制御して前記電極を下降させることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の交流アーク炉の電極昇降装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−220071(P2012−220071A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85079(P2011−85079)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(501137636)東芝三菱電機産業システム株式会社 (904)
【Fターム(参考)】