説明

人工透析排水の処理装置

【課題】 全体がコンパクトで処理性能のよい、人工透析排水の処理装置の提供。
【解決手段】 人工透析排水のpHを調整する排水調整槽12と、活性汚泥処理と膜分離処理をする、分離膜ユニット15を備えた曝気槽14と、曝気槽14に溜まった汚泥を引き抜いて貯留する汚泥貯留槽13と、処理後の水を貯留する処理水槽16と、機器収納部17を有する、地上設置型の処理装置10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療施設で生じる人工透析排水を処理するための処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療機関での透析治療で発生する透析液を含む排水は、下記表1に示すように、前記透析液のほかに、透析装置を水洗浄したときの排水、次亜塩素酸塩水溶液で洗浄したときの排水、酢酸水溶液で洗浄したときの排水が含まれている。このため、透析液を含む排水はBODが1,000mg/L以上と高く、そのまま下水や河川に流すことはできず、中和処理や浄化槽等の排水処理設備で処理する必要がある。
【0003】
また、異なる水質の排水が順次排出されるため、水質を平準化させるために貯留槽容積を大きくしたり、全排水をBOD処理するために曝気槽を大きくしたりしなければならない問題がある。
【0004】
【表1】

【0005】
患者一人当たりの透析液を含む排水量は1m3/日にもなるため、1つの医療機関当たりの処理量は大きく、全ての排水を処理するためには、処理レベルを落として処理するか、又は大かがりな排水処理設備を導入するしかなった。
【特許文献1】特開平4−341394号公報
【特許文献2】特開平7−299490号公報
【特許文献3】特許第3083991号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、よりコンパクトな設備により、BOD除去率を高めることができる、透析治療により生じた透析液排水を含む排水の処理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明は、課題の解決手段として、
排水調整槽、分離膜ユニットを備えた曝気槽、汚泥貯留槽、処理水槽及び機器収納部を有する人工透析排水の処理装置であって、
排水調整槽が、人工透析排水のpHを調整するためのものであり、
分離膜ユニットを備えた曝気槽が、必要に応じてpHが調整された人工透析排水に対して活性汚泥処理をすると共に膜分離処理をするためのものであり、
汚泥貯留槽が、曝気槽に溜まった汚泥を引き抜いて貯留するためのものであり、
処理水槽が、処理後の水を貯留するためのものであり、
機器収納部が、少なくともpH調整手段、プロワーポンプ、吸引ポンプが収納されたものであり、
排水調整槽、分離膜ユニットを備えた曝気槽、汚泥貯留槽、処理水槽及び機器収納部が地上設置されている、人工透析排水の処理装置を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の人工透析排水の処理装置は、地上設置型であるため、設置作業や膜交換や薬剤補給等のメンテナンス作業が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は、本発明の人工透析排水の処理装置の概略平面図であり、図2は、図1の処理装置を用いた処理方法を説明するためのフロー図であり、図3は、図1で用いている分離膜ユニットの正面図である。以下、本発明の人工透析排水の処理装置と、それを用いた排水処理方法を説明する。
【0010】
処理装置10は、箱状の外壁部11で囲まれた空間内において、排水調整槽12、分離膜ユニット15を備えた曝気槽14、汚泥貯留槽13、処理水槽16及び機器収納部17が配置されている。
【0011】
箱状の外壁部11は、6面で囲まれたもののほか、コンクリート等からなる底面を含む5面で囲まれたものであり、メンテナンス作業のため、1又は複数の扉が取り付けられている。
【0012】
排水調整槽12には、ライン21から人工透析排水が流入する。人工透析排水のpHが中性付近であればpHの調整は不要であるが、pHが高すぎたり、低すぎたりする場合には、酸又はアルカリを添加して、中性付近に調整する。なお、必要に応じて、槽内を撹拌するための撹拌装置を取り付けることができる。
【0013】
濾過運転時においては、排水調整槽12の液滞留時間は3〜20時間にすることができ、好ましくは5〜15時間にすることができる。ここで液滞留時間は、次式:
液滞留時間=槽容積(m3)/処理量(m3/hr)
から求められるものであり、液滞留時間が小さいということは、排水調整槽12の容積が小さいことを意味する。
【0014】
人工透析排水は、それぞれの医療施設における透析治療室が2階以上であれば、前記透析治療からライン21を経て、直接、排水調整槽12に送ってもよいし、透析治療室が1階の場合やその他必要に応じて、一旦、排水受水槽18に送って貯留した後、そこから排水調整槽12に供給してもよい。
【0015】
排水調整槽12にて必要に応じてpH調整した排水は、ライン22から分離膜ユニット15を備えた曝気槽14に送り、活性汚泥処理と膜分離処理する。
【0016】
曝気槽14は、ライン22の曝気槽14への入口22a近く(上流側)にて、槽底部から散気して活性汚泥処理し、入口22aから離れた下流側にて、分離膜ユニット15により膜分離処理する。
【0017】
分離膜ユニット15は、複数の分離膜エレメント50が集水本管61と散気本管62に接続されたものである。
【0018】
分離膜エレメント50は、内側が集水管で、外側が散気管である二重管構造の支持管の周囲に多数本の中空糸膜(中空糸膜束)51が配置されたものであり、両端側は上部キャップ52内と下部キャップ53内にて樹脂で固定されている。中空糸膜51の両端部は開口している。上部キャップ52内が上部集水室となり、下部キャップ53内が下部集水室となる。
【0019】
集水管の一端部側は、ネジ式の接続手段54を介して、集水本管61に対して着脱自在に接続されている。
【0020】
散気管の一端部側はプラスチック製等の可撓性のあるチューブ55と嵌め込み式の接続手段56を介して、散気本管62に対して着脱自在に接続されている。
【0021】
分離膜エレメント51は、キャップ53側はどこにも接続されておらず、曝気槽14内に吊るされた状態で取り付けられている。なお、図示するように、運転時に揺れ動いて分離膜エレメント51同士が接触して中空糸膜51が損傷することがないように、キャップ53側は、槽底部14aに設置された格子状の枠57内に差し入れ、揺れ動く範囲を制限できるようにすることが望ましい。
【0022】
活性汚泥処理においては、凝集剤の添加は不要であり、フロックが懸濁した状態にて分離膜ユニット15において膜分離処理する。
【0023】
中空糸膜束51で濾過された透過水の内、上部集水室に入った透過水は、集水本管61に送られ、下部集水室に入った透過水は、集水管を通って上部集水室に入った後、集水本管61に送られる。
【0024】
曝気槽14の液滞留時間(上記式から求められる)は8〜24時間にすることができ、好ましくは10〜20時間にすることができる。
【0025】
膜分離処理した透過水は、処理水槽16に送って貯留する。この透過水は、法律上の放流基準を満たしていることを確認した上で、ライン24から河川等に放流するほか、分離膜ユニット15の膜の逆圧洗浄水として使用することができる。
【0026】
膜分離ユニット15と処理水槽16の間には、膜の逆圧洗浄ラインを設ける。逆圧洗浄は、機器収納部17内のポンプを作動させ、必要に応じて、機器収納部17から逆圧洗浄水に対して薬剤(次亜塩素酸ソーダ等)を添加してもよい。
【0027】
濾過運転の継続により、曝気槽14内で汚泥が増加するため、底部から取り出して、ライン25から汚泥貯留槽13に送って貯留する。汚泥貯留槽13にて汚泥を貯留した場合、汚泥が沈降して上澄み液が生じるので、これをライン27から排水調整槽12に送って、再処理することで汚泥を濃縮できる。
【0028】
曝気槽14と汚泥貯留槽13の間、汚泥貯留槽13と排水調整槽12の間は、それぞれオーバーフロー管で接続してもよい。このようにオーバーフロー管で接続することで、曝気槽14で溢れた液がオーバーフロー管を通って汚泥貯留槽13に流れ込むようにすることができ、汚泥貯留槽13で溢れた液がオーバーフロー管を通って排水調整槽12に流れ込むようにすることができる。このようなオーバーフロー管を使用すると、各槽における液面の調整のためにポンプ等を作動させる必要がなくなるため、濾過運転の管理が容易になる。また、汚泥を槽外に排出することがないという利点がある。
【0029】
機器収納部17は、装置全体を円滑に濾過運転する上で必要な各種手段が収納されているものであり、少なくともpH調整手段(酸やアルカリのような薬剤)、プロワーポンプ、吸引ポンプ、その他の必要な機器や薬剤(例えば、膜の逆圧洗浄用の薬剤)が収納されている。
【0030】
本発明の処理装置10は、排水調整槽12、分離膜ユニット15を備えた曝気槽14、汚泥貯留槽13、処理水槽16及び機器収納部17が地上設置されているため、地下埋設型と比べると、設置及びメンテナンスが容易である。なお、排水受水槽18を設置する場合には地下に埋設するが、そのときには、図示するように、外壁部11の底面の地下に設置することができる。
【0031】
処理装置10は、高い処理能力を維持したまま、排水調整槽12、分離膜ユニット14を備えた曝気槽15、汚泥貯留槽13、処理水槽16及び機器収納部17を含む全体(箱状の外壁部11)が、処理量が20m3/日〜60m3/日の場合、縦3〜10m、横3〜10m、高さ2.5〜3.5mの範囲内になるようにすることができるため、限られた狭いスペースへの設置も容易になる。処理量60m3/日規模で、縦8m、横8m、高さ3mが好ましく、処理量20m3/日規模で、縦4m、横8m、高さ3mが好ましい。
【実施例】
【0032】
実施例1
(人工透析排水)
人工透析排水:BOD1000mg/L,pH3〜10のもの20m3(30床相当量)を処理
<処理装置>
排水調整槽12:容積4m3
曝気槽14:8m3
分離膜ユニット15:16本の分離膜エレメント50からなるもの。ポリエーテルスルホン製の中空糸膜(公称孔径0.1μm,純水透過速度1000L/m2(at0.1Mpa,20℃),内径0.9mm,外径2.1mm)を使用(合計膜面積7m2
汚泥貯留槽13:容積4m3
処理水槽16:容積1m3
機器収納部17:pH調整手段、プロワーポンプ、吸引ポンプ等が収納された体積12m3のもの(電源:三相200V)
全体の寸法(箱状外壁部11の寸法):縦3.0m、横7.5m、高さ3.0m
<排水処理方法>
(排水調整槽12)
人工透析排水を供給し、貯留した。酸として硫酸、アルカリとして水酸化ナトリウムを添加して、槽内を撹拌しながら、pHを6〜6.5の範囲に調整した。
【0033】
(活性汚泥処理及び膜分離処理)
pHを調整した排水を、活性汚泥を満たした曝気槽14に送った。曝気槽14では、底部に設置したゴムメンブレン散気装置により、1.1m3/時間のエアー量で散気した。活性汚泥濃度は、開始時は3,000mg/Lであったが、徐々に増加して、汚泥濃度10,000〜15,000 mg/L間で運転した。
【0034】
分離膜ユニット15で膜分離して、透過水を処理水槽16に送って貯留した。濾過運転は、8分間運転した後、1分間逆圧洗浄するサイクルを繰り返した。逆圧洗浄水は、処理水槽16の透過水に、次亜塩素酸ナトリウムを加えて10mg/Lの塩素濃度にしたものを用いて行った。分離膜ユニット1本あたりのエアー量は50L/時間とし、常時バブリングをした。
【0035】
(汚泥貯留槽)
曝気槽14の余剰汚泥は適宜抜き出して、汚泥貯留槽13にて貯留した。
【0036】
合計1,000m3の人工透析排水を処理して得られた透過水のBODは5mg/L以下であり、pHは7.5〜8.3、合計処理時間は4ヶ月であった。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の処理装置の概略平面図。
【図2】本発明の処理装置を用いた処理フローの概略図。
【図3】本発明で用いる分離膜ユニットの正面図。
【符号の説明】
【0038】
10 人工透析排水の処理装置
12 排水調整槽
13 汚泥貯留槽
14 曝気槽
15 分離膜ユニット
16 処理水槽
17 機器収納部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水調整槽、分離膜ユニットを備えた曝気槽、汚泥貯留槽、処理水槽及び機器収納部を有する人工透析排水の処理装置であって、
排水調整槽が、人工透析排水のpHを調整するためのものであり、
分離膜ユニットを備えた曝気槽が、必要に応じてpHが調整された人工透析排水に対して活性汚泥処理をすると共に膜分離処理をするためのものであり、
汚泥貯留槽が、曝気槽に溜まった汚泥を引き抜いて貯留するためのものであり、
処理水槽が、処理後の水を貯留するためのものであり、
機器収納部が、少なくともpH調整手段、プロワーポンプ、吸引ポンプが収納されたものであり、
排水調整槽、分離膜ユニットを備えた曝気槽、汚泥貯留槽、処理水槽及び機器収納部が地上設置されている、人工透析排水の処理装置。
【請求項2】
前記分離膜ユニットを備えた曝気槽が、排水調整槽から排水が流れ込むとき、1つの槽内において、排水が流れ込む上流側で主として曝気し、下流側で膜分離するものであり、
前記分離膜ユニットが、複数の分離膜エレメントが集水本管と散気本管に接続されたものであり、
前記分離膜エレメントが、集水菅と散気管を有し、それらの管の周囲に中空糸膜が配置され、少なくとも一端側に集水キャップが取り付けられ、槽内に吊るされた状態で取り付けられたものであり、
前記集水管が、ネジ式の接続手段で集水本管に対して着脱自在に接続され、前記散気菅が、嵌め込み式の接続手段で散気本管に対して着脱自在に接続されている、請求項1記載の人工透析排水の処理装置。
【請求項3】
前記分離膜ユニットの一端部側が、槽底部に設置された格子状の枠内に差し入れられることで支持されている、請求項1又は2記載の人工透析排水の処理装置。
【請求項4】
運転時において、排水調整槽の液滞留時間が3〜20時間であり、分離膜ユニットを備えた曝気槽の液滞留時間が8〜24時間である、請求項1〜3のいずれか1項記載の人工透析排水の処理装置。
【請求項5】
分離膜ユニットを備えた曝気槽と汚泥貯留槽がオーバーフロー管で接続され、汚泥貯留槽と排水調整槽がオーバーフロー管で接続されており、曝気槽で溢れた液がオーバーフロー管を通って汚泥貯留槽に流れ込み、汚泥貯留槽で溢れた液がオーバーフロー管を通って排水調整槽に流れ込むようになっている、請求項1〜4のいずれか1項記載の人工透析排水の処理装置。
【請求項6】
更に排水受水槽を備えており、前記排水受水槽のみが地下に埋設されている、請求項1〜5のいずれか1項記載の人工透析排水の処理装置。
【請求項7】
排水調整槽、分離膜ユニットを備えた曝気槽、汚泥貯留槽、処理水槽及び機器収納部を含む全体が、縦10m、横10m、高さ3.5mの範囲内に収容されている、請求項1〜5のいずれか1項記載の人工透析排水の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−99631(P2010−99631A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−275427(P2008−275427)
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】