説明

介護用ベッド装置

【課題】 寝床面に横臥する利用者の皮膚に対して、身体形状に応じた寝床面形状とすることで寝心地がよく、また下半身麻痺のような寝たきり状態であっても、床ずれ発生が防止できる介護用ベッドを提供すること。
【解決手段】 本発明による介護用ベッドは、寝台枠10に対して、断面略円形又は円環状の棒状マット部材20を一層であって、かつ複数並べて寝床面を形成すると共に、マット部材20とその隣接するマット部材20との間に形成された隙間から汚水や排便を下方に放出できるように構成した介護用ベッドであって、マット部材20は、利用者と接触する表層部21を、前記利用者による負荷荷重対応の窪みを形成する程度の変形性を有する防水性部材で構成し、マット部材20の剛性を前記利用者の荷重によっては実質的に撓み量を前記利用者が感じない程度に構成したことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般の被介護者のほか、下半身麻痺のような重度障害者や寝たきり老人等が使用するのに適した介護用ベッドに関し、特に病院や介護施設に用いても良く、また一般家庭においても広く利用できると共に、入浴時や排便時等における介護者の体力的負担を軽減させる介護用ベッドに用いて好適な、マットを用いた介護用ベッド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自分で入浴作業のできる状態の入院患者に対して、一時的に要介護状態になった場合の措置としては、病院では緊急避難的に介護者が当該患者を抱きかかえて浴槽に入れることが行われている。しかし、身体障害者や寝たきり老人のように、自力での入浴できない状態が恒常的な被介護者を入浴させる場合、介護者が被介護者を抱きかかえて浴槽に入れるのでは、介護者の負担が大きいという課題があった。
【0003】
また、被介護者を担架に乗せ、担架ごと又は担架から降ろして被介護者を浴槽に入れることも行われている。この場合、担架は複数の介護者の共同作業によるため、抱き抱える場合に比較して介護者の負担は小さくなる。しかし、介護サービスの運営者からみると、一人の被介護者に複数の介護者が必要になり、介護コストの負担が大きくなるという課題があると共に、入浴頻度も例えば週一回又は二回のように少なくせざるを得ないという課題があった。また、被介護者自身も、ベッドから浴槽への移動、浴槽からベッドへの移動のたびに、滑り落ちるおそれがないかと不安感を覚えるという課題があった。
【0004】
そこで、寝台の被介護者横臥面(寝床面)をハンモック式または動力機構を介して下降できるようにしておき、被介護者を寝かせたまま寝床面を下降させて、寝台下部に設置した浴槽内へ浸漬する介護用ベッド装置が知られている(特許文献1)。
【0005】
しかし、寝床面を下降させて、寝台下部に設置した浴槽内へ浸漬する介護用ベッド装置では、被介護者の充分な同意を得てゆっくり作業をするのでは、作業時間が多大に掛かるため、介護者側の都合によって被介護者を無理に移動させる場合も少なくない。すると、被介護者に不快感や恐怖感を抱かせる恐れがあるという課題があった。介護者側でも、被介護者の体重を支えた状態で寝床面を50センチメートル程度上下に移動させるので、操作作業に熟練が必要となり、素人の介護人や老人世帯では扱い難いという課題があった。そこで、素人の介護人や老人世帯でも使用しやすいように充分な設備を設けると、コストが上昇するという課題があった。
【0006】
そこで、寝台の被介護者横臥面を移動させない手法として、浴槽を電動リフトやジャッキ機構で寝台まで移動させる形式も知られている(特許文献2)。しかし、浴槽について動力機構を用いて寝台まで移動させる形式では、大掛かりな機械設備が必要となり、通常の家庭で普及させるには保守作業の負担が大きく、実用的でないという課題があった。
【0007】
さらに、寝台の被介護者の横臥面を移動させない手法であって、浴槽を寝台まで移動させることのない手法として、ベッド上に袋状のシートを置いておき、このシートの壁面を上下動フレームなどで支えて一時的に浴槽を形成するものが提案されている(特許文献3)。しかし、ベッド面に防水シートを置くものは、患者を寝床からいったん移動させる必要があり、そのための介護作業が負担になるという課題があった。また、床面に防水シートを敷く方式のものは、用便の処理に困るという課題もあった。
【特許文献1】特開平6−343673号公報
【特許文献2】登録実用新案第3063780号公報
【特許文献3】特開平10−24083号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、浴槽を寝台まで移動させることが不要で、寝台の被介護者の横臥面を移動させることなく、手軽に入浴させることができると共に、介護者の負担を大幅に軽減できる介護用ベッドを提供することを目的とする。特に、寝床面に横臥する利用者の皮膚に対して、身体形状に応じた寝床面形状とすることで寝心地がよく、また下半身麻痺のような寝たきり状態であっても、床ずれ発生が防止できる介護用ベッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明による介護用ベッドは、例えば図1に示すように、寝台枠10に対して、断面形状が略円形・略楕円形・略円環状・蒲鉾状又はドーム型の棒状マット部材20を一層であって、かつ複数並べて寝床面を形成すると共に、マット部材20とその隣接するマット部材20との間に形成された隙間から汚水や排便を下方に放出できるように構成した介護用ベッドであって、マット部材20は、利用者と接触する表層部21を、前記利用者による負荷荷重対応の窪みを形成する程度の変形性を有する防水性部材で構成し、マット部材20の剛性を前記利用者の荷重によっては実質的に撓み量を前記利用者が感じない程度に構成したことを特徴としている。
【0010】
このような構成の介護用ベッドによれば、表層部21を、利用者による負荷荷重対応の窪みを形成する程度の変形性を有する防水性部材で構成しているので、表層部21として寝床面に横臥する利用者の皮膚分布形状に応じた寝床面形状が得られる。また、利用者が寝返りを打って負荷荷重分布が変化しても、表層部21の変形機能によって窪み形状が適応状態で変形し、寝心地が良好なものとなる。マット部材20の剛性は、利用者の荷重によっては実質的に撓み量を利用者が感じない程度としているので、寝心地が良好なものとなる。また、マット部材20とその隣接するマット部材20との間に形成された隙間から、利用者についての汚水や排便を下方に放出でき、表層部21に防水性部材に用いているので、清掃も容易となる。
【0011】
本発明の介護用ベッドにおいて、好ましくは、例えば図2・図3に示すように、寝台枠10のマット部材20を支持する高さは、大略一定であって、前記利用者の首部・背中部・太腿部・腿部に関しては標準径のマット部材を配し、前記利用者の臀部を含む頭部・肩部・踵部の少なくとも一部に対応する部位には、前記標準径のマット部材と比較して外径の小さなマット部材を配するように構成することを特徴としている。
【0012】
このような構成の介護用ベッドによれば、寝台枠10のマット部材20を支持する高さは、軸受部材16の凹部の深さによって定まるため、利用者の臥せる位置によらず大略一定である。そこで、利用者の首部・背中部・太腿部・腿部に関しては、標準径のマット部材20(例えば大径マット部材203)を寝台枠10に設置するが、利用者の臀部を含む頭部・肩部・踵部の少なくとも一部に対応する部位は標準径より小さなマット部材(例えば中径マット部材202や小径マット部材201)を配するのがよい。これにより、寝床面に横臥する利用者の皮膚分布形状に応じた寝床面形状が得られ、寝床面の表面形状を床ずれの少ない適切なものとすることができる。
【0013】
本発明の介護用ベッドにおいて、好ましくは、例えば図3・図5に示すように、前記利用者の首部・背中部・太腿部・腿部に関しては、前記利用者の荷重作用時には負荷荷重対応の窪みを形成すると共に、前記利用者の荷重除去時には形成された窪みが回復する変形回復機能が標準の小変形表層部212を配し、前記利用者の臀部を含む頭部・肩部・踵部の少なくとも一部に対応する部位には、前記小変形表層部212と比較して前記変形回復機能の大きな大変形表層部211を配するように構成することを特徴としている。
【0014】
このような構成の介護用ベッドによれば、利用者の首部・背中部・太腿部・腿部に関しては小変形表層部212を配し、利用者の臀部を含む頭部・肩部・踵部の少なくとも一部に対応する部位に関しては大変形表層部211を配するように構成すると、寝床面に横臥する利用者の皮膚分布形状に応じた寝床面形状が得られ、寝床面の表面形状を床ずれの少ない適切なものとすることができる。即ち、利用者の臀部を含む頭部・肩部・踵部は他の部位と比較して、荷重作用量が大きいので、負荷荷重対応の窪みも大きいことが望ましいが、大変形表層部211は窪み形成量が大きいので、過大な反力が大変形表層部211の対向面に作用せず、望ましい。
【0015】
本発明の介護用ベッドにおいて、好ましくは、例えば図11・図12に示すように、マット部材20は、芯部22の軸方向について、寝台枠10の横幅に対して大略一杯に表層部21を有する全幅マット部材24と、前記利用者の胴体幅に対して、当該胴体幅相当の表層部21を有する胴体用マット部材25と、前記利用者の胴体の両側に位置する両腕に対して、当該両腕相当の位置に表層部21を有し、当該胴体幅相当の部位には芯部が形成されている両腕用マット部材26との三類型を有している。そして、肩又は肘に対応する部位については胴体用マット部材25を装着し、肩甲骨又は股に対応する部位については両腕用マット部材26を装着することを特徴としている。
【0016】
このような構成の介護用ベッドによれば、利用者の床ずれ発生部位が、両肩、肩甲骨付近、両肘、尾骨付近、踵付近の皮膚であることに注目して、三類型のマット部材が使い分けられる。即ち、両肩と両肘に対応する部位の寝台枠10のマット部材支持部17に、胴体用マット部材25を装着する。肩甲骨付近と尾骨付近に対応する部位の寝台枠10のマット部材支持部17に、両腕用マット部材26を装着する。そして、頭部、首部、太腿部、腿部に対応する部位の寝台枠10のマット部材支持部17に、全幅マット部材24を装着する。これにより、床ずれが仮に発生しても、床ずれ発生部位には窪んでいる表面形状を有する表層部21を対向させることで、床ずれの症状悪化を防止できる。
【0017】
本発明の介護用ベッドにおいて、好ましくは、例えば図6・図7に示すように、マット部材20は、寝台枠10に対して回動自在に支持され、寝台枠10のマット部材支持部17は、支持するマット部材20に対して高さ方向又は隣接マット部材方向の少なくとも一方について振動可能に支持し、若しくは支持するマット部材20を所定の態様で回動又は回転させ、当該振動、回動又は回転によって、前記利用者に対する皮膚マッサージ機能を有するように構成されたことを特徴としている。
【0018】
このような構成の介護用ベッドによれば、マット部材支持部17は、マット部材20に対して高さ方向又は隣接マット部材方向の少なくとも一方について振動可能に支持しているので、マット部材20を幅方向に移動させ、マット部材20を上下移動させたり、幅方向に揺らせたり、或いはマット部材20を前後移動させたり、縦方向に揺らせる等の、各種の態様での変位が可能である。そこで、皮膚に対するマッサージ機能が発揮されて、床ずれの発生を防止できる。また、マット部材支持部17は、支持するマット部材20を所定の回転速度で回転することによって、利用者の床ずれ発生防止が図られる。
【0019】
本発明の介護用ベッドにおいて、好ましくは、例えば図14に示すように、マット部材20が、寝台枠10に形成された凹部17に支持されると共に、凹部17の上部に、凹部17を覆う状態と開いた状態との間で開閉するストッパ部19を設け、ストッパ部19を開いた状態で、凹部17に対するマット部材20の着脱を行い、ストッパ部19を閉じた状態で、凹部17とストッパ部19とによりマット部材20を挟むように構成されたことを特徴としている。このような構成の介護用ベッドによれば、マット部材20を凹部17に位置決めした後、ストッパ部19を閉じて凹部17をストッパ部19で覆うと、マット部材20の端部が凹部17とストッパ部19によって拘束される。これにより、マット部材20の比重が水よりも小さい場合であっても、マット部材20が浮力により浮き上がるのが防止される。
【0020】
本発明の介護用ベッドにおいて、好ましくは、例えば図8に示すように、マット部材20は、表層部(21、27)で覆われた内部に、流体注入室(232、274)を有し、流体注入室に対して流体を注入し、若しくは注入された流体を吸引して、マット部材20の径を調節し、若しくは表層部21の表面形状を調節する流体調節部(216、219、276)を設け、利用者の床ずれ発生防止を行うように、流体調節部によって、流体注入室への流体注入量を調節することを特徴としている。
【0021】
このような構成の介護用ベッドによれば、マット部材は流体注入室を有しているので、ゴム風船のように注入された流体量に応じて、表層部21の表面形状を調節する。そこで、寝床面に横臥する利用者の皮膚分布形状に応じた寝床面形状が得られ、寝床面の表面形状を床ずれの少ない適切なものとすることができる。さらに、流体調節部によって、流体注入室232に対して流体を注入したり吸引したりして、表層部(21、27)の表面形状を変形させることによって、皮膚に対するマッサージ機能が発揮されて、床ずれの発生を防止できる。
【0022】
本発明の介護用ベッドにおいて、好ましくは、例えば図9に示すように、マット部材20は、表層部21で覆われた内部に、流体注入室232を有し、流体注入室に対して蓄熱材を注入し、前記利用者に対する保温や保冷等の温度調節に適合するように、前記蓄熱材の特性を選定することを特徴とする。このような構成の介護用ベッドによれば、マット部材21は流体注入室232に蓄熱材を注入しているので、介護用ベッドの利用者に対する保温や保冷等の温度調節に適合するように、蓄熱材の特性を選定することで、利用者に快適な就寝状態を提供できる。
【0023】
本発明の介護用ベッドにおいて、好ましくは、マット部材20は、表層部21に抗菌処理又は殺菌処理の少なくとも一方を行ったことを特徴とする。このような構成の介護用ベッドによれば、表層部21に抗菌処理又は殺菌処理を施しているので、利用者が長期間に渡ってマット部材の上で起臥する生活を行っていても、雑菌の繁殖が抑えられて、利用者の床ずれ発生による皮膚の損壊が防止できる。
【0024】
本発明の介護用ベッドにおいて、好ましくは、例えば図13に示すように、寝台枠10は、当該枠の内部に網状マットレスを形成する幅連結部材102と縦連結部材104が複数装着され、幅連結部材102と縦連結部材104の設置間隔は、マット部材20の装着を阻害しないように定めたことを特徴とする。このような構成の介護用ベッドによれば、マット部材20の下側に幅連結部材102と縦連結部材104より構成される網状マットレスが位置するので、仮に隣接するマット部材20の間隔が過大になっても、隙間から利用者の身体の一部は網状マットレスによって移動が拘束されるので、浴槽に触れる可能性が少なくなる。
【発明の効果】
【0025】
請求項1に記載の本発明の構成により、表層部21は、利用者による負荷荷重対応の窪みを形成する程度の変形性を有する防水性部材で構成しているので、表層部21として寝床面に横臥する利用者の皮膚分布形状に応じた寝床面形状が得られる。また、利用者が寝返りを打って負荷荷重分布が変化しても、表層部21の変形機能によって窪み形状が適応状態で変形し、寝心地が良好なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の介護用ベッドの一実施の形態を説明する構成斜視図で、浴槽付きの介護用ベッドの場合を示しており、(A)は介護用ベッド、(B)は浴槽を示している。図において、介護用ベッドは、寝台枠10、支柱12、吊り支柱13、フック止め具14、安全枠15、軸受部材16、マット部材20を用いて構成されている。寝台枠10は、床から高さ70〜90cm程度の位置に寝台面を形成するためのフレーム枠材で構成される。フレーム枠材には、鋼製等の金属やガラス繊維強化プラスチック材のような剛性が大きい材料が用いられており、その形状はパイプ状のように軽量化と剛性が両立するものとなっている。寝台枠10は、典型的には就寝者が一人の場合を念頭に設計されており、例えば就寝者の幅方向について70cm〜100cm、長手方向について180cm〜220cm程度となっている。
【0027】
支柱12は、寝台枠10の四隅に設けられるもので、例えば鋼製のパイプ材が用いられる。吊り支柱13は、例えば支柱12の先端部をU字状に折り曲げて設けられるもので、寝台枠10の四隅を所定高さで支持する。支柱12と吊り支柱13の間には、幅3cm〜10cm程度の空隙Sが設けられており、例えば浴槽30を利用する場合の便宜に供している。フック止め具14は、支柱12と吊り支柱13の先端連結部に設けられたリング状の金具で、例えば浴槽を利用する場合のシート32を吊るのに用いる。安全枠15は、寝台枠10の四隅に設けられるフレーム状の棒材より形成されるもので、就寝者が寝台面から床に落下することを防止する。一般的には、安全枠15は、寝台枠10に対して着脱自在に取り付けられており、利用者が寝台面に移動することが容易に行えるように、寝台枠10の一部について設置が省略されている。軸受部材16は、寝台枠10の長手方向の両側に設置されたもので、マット部材20の装着便宜を高めるのに用いる。軸受部材16の詳細は、後で図3(C)を用いて説明する。
【0028】
マット部材20は、断面形状が略円形・略楕円形又は略円環状の棒状部材である。寝台枠10に対して、利用者が臥せる方向が縦方向であることを前提として、マット部材20が寝台枠10に対して横向きに一層で並べて寝床面を形成する。そして、寝床面は複数のマット部材20によって形成される。寝床面の上には、例えば布団や毛布が敷かれて、利用者の便宜に供する。マット部材20の詳細は、後で図2、図5〜図10、図12、図14を用いて説明する。
【0029】
次に、浴槽について説明する。なお、この浴槽は、本出願人が特許願2006年第250665号明細書で説明したシート上下型の浴槽を用いているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、浴槽としては従来公知の、寝床面をハンモック式または動力機構を介して下降する方式(特許文献1)、浴槽を電動リフトやジャッキ機構で寝台まで移動させる形式(特許文献2)、ベッド上に袋状のシートを置いておき、このシートの壁面を上下動フレームなどで支えて一時的に浴槽を形成する(特許文献3)を用いてもよい。
【0030】
図において、浴槽は、浴槽ケース30、排水栓31、シート32、金属枠33、車輪34、フック35を有している。浴槽ケース30は、介護用ベッドの寝台枠10と床との間に移動式で位置決め設置することを前提とする為、通常の浴槽の深さである60cm程度と比較して三分の一程度の浅い矩形状溜め水槽となっている。浴槽ケース30には、軽金属製の薄板やガラス繊維強化プラスチック材を用いることができる。排水栓31は、浴槽ケース30の下部に一箇所設けられたものである。車輪34は、浴槽ケース30の底面の四隅に設けられたものである。
【0031】
シート32は、浴槽ケース30の上部に気密状態で取り付けられる耐水性材料よりなるもので、蛇腹式に垂直方向に伸縮可能に構成されている。シート32には、合成繊維製ファイバーで補強したゴム膜、ナイロン膜、ビニール膜等の軽い素材を用いることができる。金属枠33は、シート32の上部に取り付けられたフレーム状の枠材で、例えば鋼製のパイプが用いられる。金属枠33の形状は、介護用ベッドの寝台枠10よりも僅かに広い間口を有するもので、支柱12と吊り支柱13の間に形成された空隙Sにシート32を位置させるのに便利なように定められている。フック35は、シート32を伸長させた状態でフック止め具14に吊り下げるのに用いるものである。フック35の吊り下げ位置は、シート32を引き伸ばした状態で、寝床面に横臥している利用者の表面よりも若干上まで水位を確保できるように定められており、例えば寝台面から15cm〜40cm程度に定められる。
【0032】
図2はマット部材の構造の一例を説明する構成斜視図である。図において、マット部材20は、表層部21、芯部22、円環体23を有している。表層部21は、マット部材20が利用者と接触する部位で、利用者による負荷荷重対応の窪みを形成する程度の変形性を有する防水性部材で構成する。表層部21には、例えば発泡ポリウレタンフォームのような柔軟な撥水性素材で構成され、利用者が寝床面から降りた時は、従前の形状に回復するような形状回復機能を持たせるとよい。芯部22は、軸受部材16に支持される軸部22aをマット部材20の両端に有している。また、芯部22は、軸部22aを連結する棒状若しくはパイプ状の棒材を有していても良く、表層部21と同心円状に位置しているとよい。芯部22の剛性は、利用者の荷重によっては実質的に撓み量を利用者が感じない程度に構成するのがよく、例えば体重60kg程度の利用者が介護用ベッドの寝台枠10に横臥した場合に、個別のマット部材20の中心撓み量が例えば1mm以下になるように定める。
【0033】
円環体23は、マット部材20の表層部21外径Dに応じて、芯部22を中心として多層に巻装されるもので、例えば筒状の円環体23を芯部22を形成する棒体に同心円状に装着される。例えば、マット部材20は、表層部21の外径Dについて、例えば図2(A)に示す大径マット部材203、(B)に示す中径マット部材202、(C)に示す小径マット部材201の三類型を設ける。この場合、小径マット部材201は、表層部21の外径D1を例えば約15cm程度とする。そして、芯部22に直接巻装される第一層円環体23aは、外径D約10cm程度になっている。また、第二層円環体23bは、第一層円環体23aに巻装されるもので、第二層円環体23bの厚さは例えば約2.5cm程度になっている。
【0034】
次に、中径マット部材202は、表層部21の外径D2を例えば約20cm程度とする。この場合、小径マット部材201をベースに中径マット部材202を製作するには、芯部22に直接巻装される第一層円環体23a、第二層円環体23b、第三層円環体23cの三層構造にするとよい。そして、第三層円環体23cは、第二層円環体23bに巻装されるもので、第三層円環体23cの厚さは例えば約2.5cm程度になっている。大径マット部材203は、表層部21の外径D3を例えば約25cm程度とする。この場合、中径マット部材202をベースに小径マット部材201を製作するには、芯部22に直接巻装される第一層円環体23a、第二層円環体23b、第三層円環体23c、第四層円環体23dの四層構造にするとよい。そして、第四層円環体23dは、第三層円環体23cに巻装されるもので、第四層円環体23dの厚さは例えば約2.5cm程度になっている。
【0035】
このように、マット部材20の表層部21外径Dに応じて多層に円環体23を巻装する構造とすると、量産効果が発揮されて製造コストの低減に役立つ。また、寝台枠10に設置するマット部材20の標準本数は、表層部21外径Dに応じて変化する。例えば、上記小径マット部材201の場合は標準12本、中径マット部材202の場合は標準9本、大径マット部材203の場合は標準7本となる。
【0036】
図3は寝床面に横臥する利用者の部位に対応して、マット部材の外径を調節して配置する場合の説明図で、(A)は平面図、(B)は正面図、(C)は軸受部材の正面図を示している。人の身体に対する名称として、頭部・首部・肩部・背中部・臀部・太腿部・腿部・踵部に区分けされる。この身体の各部位に対応して、マット部材の外径を選択することにより、寝床面の表面形状を床ずれの少ない適切なものとすることができる。床ずれとは、長期間の横臥により皮膚表面に生じる赤いただれをいい、蓐瘡ともいう。
【0037】
寝台枠10のマット部材20を支持する高さは、軸受部材16の凹部17の深さによって定まるため、利用者が縦方向に臥せる位置によらず一定である。そこで、利用者の首部・背中部・太腿部・腿部に関しては、寝台枠10に設置するマット部材20の標準部材として大径マット部材203を用いるが、利用者の臀部を含む頭部・肩部・踵部の少なくとも一部に対応する部位は中径マット部材202や小径マット部材201を配するのがよい。これにより、寝床面の表面形状を床ずれの少ない適切なものとすることができる。マット部材20の表層部21は、発泡ポリウレタンフォームのような柔軟な撥水性素材で構成されているので、床ずれの対処に適している。ここでは、フック止め具14として、支柱12の上端に設けられた上部フック止め具14aと、吊り支柱13の中間に設けられたフック止め具14bの二類型があり、上端と中間の二つの高さでシート32を吊ることができる。
【0038】
図4はシートを圧縮した状態で浴槽ケースを寝台枠の下部に位置させた状態を説明する構成斜視図で、マット部材と軸受部材を取り除いた状態を示している。寝台枠10の下面は、シート32の開口を介して浴槽ケース30の内槽に開放されている。そこで、寝台枠10にマット部材20が装着されている状態で、利用者がシャワーを利用した場合を検討すると、シャワーの湯水はマット部材20の隙間から浴槽ケース30の内槽へ流れ込み、ここに留まる。そこで、排水栓31に適当な排水ホースを接続することで、簡便に排水できる。
【0039】
図5はマット部材の構造の第2の実施の形態を説明する構成斜視図である。図2の実施例では、マット部材20の表層部21外径Dを変えることによって、身体形状に応じた寝床面形状を得ていた。しかし、マット部材20の表層部21外径Dを一定にしたままでも、表層部21の変形機能を適宜に選択することで、同様の身体形状に応じた寝床面形状が得られる。図5(A)は大変形表層部211、図5(B)は小変形表層部212の場合を示している。大変形表層部211は、荷重作用時の窪み変形量が大きく、荷重除去時には形成された窪みが回復する変形回復機能が大きいもので、例えば表層部21に用いる発泡ポリウレタンフォームの層を例えば5〜10cmのように厚くする。小変形表層部212には、大変形表層部211と比較すると、荷重作用時の窪み変形量が小さいもので、例えば表層部21に用いる発泡ポリウレタンフォームの層を例えば2〜3cmのように薄くする。
【0040】
寝台枠10のマット部材20を支持する高さは、軸受部材16の凹部の深さによって定まるため、利用者が縦方向に臥せる位置によらず一定である。そこで、利用者の首部・背中部・太腿部・腿部に関しては、寝台枠10に設置するマット部材20の標準部材として小変形表層部212を用いるが、利用者の臀部を含む頭部・肩部・踵部の少なくとも一部に対応する部位は大変形表層部211を配するのがよい。なお、寝台枠10のマット部材20を支持する高さを、利用者の首部・背中部・太腿部・腿部に関しては標準高さを用いるが、利用者の臀部を含む頭部・肩部・踵部の少なくとも一部に対応する部位は標準高さよりも低くなるように、軸受部材16の凹部の深さを調節してもよい。この場合、身体形状に応じて、臀部を最も深くし、肩部と踵部については臀部と標準高さの中間深さとするのがよい。頭部に関しては、利用者の希望に応じて、標準高さよりも高くしても良く、また床ずれの状態によっては標準高さよりも低くしても良い。
【0041】
図6はマット部材の第3の実施の形態を説明する構成斜視図で、(A)は介護用ベッドの要部構成斜視図、(B)は軸受部材の構成図である。ここでは、寝床面に横臥する利用者の皮膚に対向するマット部材20の表層部21を変位させて、床ずれを防止しようとするものである。即ち、軸受部材16には、個別のマット部材20を支持するための凹部17が形成されており、ここではマット部材20として前述の大径マット部材203を用いる場合を前提として、標準7本用の凹部17が形成されている。各凹部17には、マット部材20を上下方向に振動させる垂直アクチュエータ18aと、マット部材20を前後方向に振動させる前後アクチュエータ18bと、マット部材20を幅方向に振動させる左右アクチュエータ18c(図示せず)と、各アクチュエータ18a、18b、18cと制御装置18eとを連結する制御線18dが設けられている。各アクチュエータ18a、18b、18cには、油圧や空気圧のような流体により駆動される流体駆動型ピストンを用いても良く、また電圧信号により変位する圧電素子や、電流信号により変位する電歪素子を用いても良い。制御線18dは、各アクチュエータ18a、18b、18cを個別マット部材20に独立の動作を実現するように一対一に個別に設けられていてもよく、また上下方向・前後方向・左右方向の三次元毎に設けられてもよい。振幅については1〜10mm程度、周波数については0.1〜3Hz程度であればよい。
【0042】
制御装置18eは、制御線18dを介して、各アクチュエータ18a、18b、18cに振動制御信号を送って、垂直アクチュエータ18a、前後アクチュエータ18b、左右アクチュエータ18cの振動周波数と振幅及び位相関係を調整できるように構成されている。制御装置18eは、左右の軸受部材16について各アクチュエータ18a、18b、18cの機能を協調して増大するようにするのが好ましい。そこで、左右アクチュエータ18cについてはマット部材20を幅方向に移動させるものなので、左右の軸受部材16について同相で駆動する。他方、垂直アクチュエータ18aについては、マット部材20を上下移動させたり、幅方向に揺らせてもよいので、左右の軸受部材16について同相で駆動してもよく、また逆相で駆動してもよい。前後アクチュエータ18bについては、マット部材20を前後移動させたり、縦方向に揺らせてもよいので、左右の軸受部材16について同相で駆動してもよく、また逆相で駆動してもよい。
【0043】
寝台枠10のマット部材支持部である凹部17は、各アクチュエータ18a、18b、18cと制御装置18eによって、支持するマット部材20に対して高さ方向又は隣接マット部材方向の少なくとも一方について振動可能に支持する。この振動可能な支持によって、利用者の床ずれ発生防止が図られる。なお、各凹部17に各アクチュエータ18a、18b、18cを設けて三次元的に変位させることは、床ずれを防止しようとする用途には自由度が高過ぎて制御が複雑になる場合がある。そこで、寝床面に横臥する利用者の皮膚に対するマッサージ機能を発揮するため、各凹部17に三次元方向に移動するマッサージ機の揉み玉駆動部のような、単一のアクチュエータを設けてもよい。各凹部17に揉み玉駆動部類似のアクチュエータを設ける場合、振幅については1〜10mm程度、周波数については0.1〜3Hz程度で駆動できればよい。各凹部17のアクチュエータが、揉み玉駆動部類似あれば、旋回運動や単純な往復運動や指圧動作のような、変位態様別の駆動を行っても良い。さらに、各アクチュエータ18a、18b、18cは全ての凹部17に対して設ける必要はなく、例えば利用者の肩部や腰のように、通常マッサージが行われる部位に対応するマット部材20に設けてもよい。
【0044】
図7はマット部材の構造の第4の実施の形態を説明する構成斜視図で、(A)はマット部材が回動する場合の構成斜視図、(B)はマット部材の表層部に変位機能部を設けた場合の構成図である。寝床面に横臥する利用者の皮膚に対向するマット部材20の表層部21を変位させて、床ずれを防止しようとする場合に、第3の実施の形態のように、マット部材20の軸部22aを三次元的に移動させても、皮膚に対するマッサージとしては間接的過ぎるとも思える。そこで、図7(A)では、マット部材20が回動しやすいように、軸部22aと、円筒面に表層部21を有する円環体23との間に、ベアリング部22bを設けて、軸部22aと、円筒面に表層部21を有する円環体23とが独立に回動することを可能とする構成としている。この場合、軸受部材16の凹部17には、軸部22aを支持する機能のみでよい。表層部21を有する円環体23については、別途ベルトやモータ(図示せず)等によって、回動させるとよい。ベルトやモータ等によって、凹部17で支持するマット部材20を所定の態様で回動又は回転することによって、利用者の皮膚マッサージ機能が実現され、床ずれ発生防止が図られる。回動又は回転の態様は、利用者の皮膚マッサージ機能や、床ずれ発生防止ができるように定める。
【0045】
図7(B)では、マット部材20の表層部21に変位機能部214を設けた場合の構成図である。表層部21の利用者皮膚への対向面に、変形アクチュエータ収容室213を形成する。変形アクチュエータ収容室213は、表層部21を有する円環体23の一部に空間を形成したもので、表層部21に相当する表層がカバー部材215で被覆されている。変位機能部214は、変形アクチュエータ収容室213に収容されるもので、カバー部材215の表面に皮膚に対するマッサージに必要な変位を生成する。変位機能部214は、油圧や空気圧のような流体により駆動される流体駆動型ピストンを用いても良く、また電圧信号により変位する圧電素子や、電流信号により変位する電歪素子を用いても良い。
【0046】
図8はマット部材が空気式膨張性を有する場合の実施の形態を説明する構成斜視図で、(A)はマット部材が断面円形の第5の実施の形態の構成斜視図、(B)はマット部材が断面蒲鉾型又はドーム型の第6の実施の形態の構成斜視図である。マット部材20が断面円形で空気式膨張性を有する場合は、表層部21を有する円環体23が流体注入室として作用し、ゴム製風船のように内部に吹き込まれる流体によって膨張し、これにより寝床面に横臥する利用者の皮膚に対応して、表層部21の形状が変化して、利用者の寝心地を改善する。
【0047】
更に、図8(A)のように、表層部21を有する円環体23に流体注入室を設けてもよい。マット部材20は、芯部22と表層部21との間に位置する円環体23に流体注入室232を形成してある。流体注入室232の形状は、マット部材20の両端に位置する軸部22aを連結する中央軸部(図示せず)を中心にドーナツ状の断面形状を有する筒型でもよく、また中央軸部のない断面円形の筒型で中空室でもよい。そして、流体注入室232に対して空気を注入するための注入口216が、表層部21に形成されている。また、排気口217は、流体注入室232に対して空気を排気するのに用いられる。注入口216と排気口217とを独立して設けることで、空気圧力調節装置を取り外した状態でも、注入口216と排気口217に設けられた弁の作用で流体注入室232の形状が維持される。圧縮空気供給装置219は、注入口216に対してホース218の先端に設けられた接続口218aを介して、流体注入室232と接続される。
【0048】
このように構成された装置においては、圧縮空気供給装置219により適宜の量の空気を流体注入室232に対して注入する。すると、注入された空気量に応じて、マット部材20の径が調節され、表層部21の曲率が変化する。次に、排気口217から空気を排気して、マット部材20の径が調節され、表層部21の曲率が変化して、皮膚に対するマッサージ機能を実現する。このように、圧縮空気供給装置219による吸気と、排気を適宜のサイクルで繰り返すことによって、皮膚に対するマッサージ機能を実現し、利用者の床ずれ発生防止を行う。好ましくは、圧縮空気供給装置219に代えて、空気圧力調節装置を常時接続すると、皮膚に対するマッサージ機能の実現にとって好ましい。
【0049】
マット部材の断面形状は、蒲鉾型又はドーム型であってもよい。図8(B)のように、マット部材20は、ドーム型の表層部を形成するドーム部27と、ドーム型の基部を形成するもので、蒲鉾の板に相当する基部28と、基部28の両端に設けられた軸支部29を有している。軸支部29は、マット部材20が断面円形の場合の軸部22aに相当する機能を有している。基部28は剛性が高いもので、両端の軸支部29により凹部17に支持される。ドーム部27は、例えば表面層を形成する膜部272と、膜部272と基部28との間に形成される流体注入室274と、この流体注入室274に対して空気を注入するための注入口276と、流体注入室232に対して空気を排気するのに用いられる排気口278を有している。注入口276と排気口278とを独立して設けることで、空気圧力調節装置を取り外した状態でも、注入口276と排気口278に設けられた弁の作用でドーム部27の流体注入室274の形状が維持される。圧縮空気供給装置219は、注入口276に対してホース218の先端に設けられた接続口218aを介して、流体注入室274と接続される。
【0050】
このように構成された装置においては、圧縮空気供給装置219により適宜の量の空気を流体注入室274に対して注入する。すると、注入された空気量に応じて、ドーム部27の曲率や厚みが変化する。次に、排気口278から空気を排気して、ドーム部27の曲率や厚みが変化して、皮膚に対するマッサージ機能を実現する。このように、圧縮空気供給装置219による吸気と、排気を適宜のサイクルで繰り返すことによって、皮膚に対するマッサージ機能を実現し、利用者の床ずれ発生防止を行う。好ましくは、圧縮空気供給装置219に代えて、空気圧力調節装置を常時接続すると、皮膚に対するマッサージ機能の実現にとって好ましい。空気圧力調節装置を常時接続する場合は、注入口276と排気口278を一体化してもよい。
【0051】
図9は、図8(A)に示すマット部材が断面円形の実施形態を基準に、流体注入室に蓄熱材を用いた第7の実施の形態の構成斜視図で、(A)はマット部材の構成斜視図、(B)は断面図である。マット部材の表層部に変位機能部を設けた場合の構成図である。図9(A)においては、マット部材20は、表層部21の内部に円環体23を位置させ、円環体23の内側に流体注入室232を形成してある。流体注入室232に充填する蓄熱材には、例えばゲル状等の流動性のある蓄熱材を用いる。流体注入室232には、蓄熱材を注入するための注入口216を設けるとよい。また、流体注入室232には、さらに排気口217を設けると、注入口216からの蓄熱材の注入が円滑に行える。
【0052】
利用者の体温を冷却する必要があるときは、蓄熱材として畜冷材を用いる。畜冷材には、融点が氷温から体温の間にあり、比熱が高いものを用いると良く、畜冷材が固体から液体に相転移する際の潜熱を用いて、冷却能力を高める。他方、利用者の体温を温める必要があるときは、蓄熱材として畜熱材を用いる。畜熱材には、融点が体温から低温火傷を生じない程度の温度の間にあり、比熱が高いものを用いると良く、畜熱材が液体から固体に相転移する際の潜熱を用いて、暖房能力を高めることができる。
【0053】
図10はマット部材の構造の第8の実施の形態を説明する構成斜視図で、(A)はマット部材の表層部を有する円環体の径が軸方向に変化する第一類型、(B)は(A)の第一類型と対になる第二類型の構成斜視図である。図10(A)、(B)に示す第一類型と第二類型とは、マット部材20の表層部21を有する円環体23の径Dが軸方向に変化するもので、対にして用いるのが良い。即ち、第一類型では、マット部材20の軸方向について、一方の側に径の小さな小径円環体231を形成し、他方の側に径の大きな大径円環体232を形成してある。また、第二類型では、マット部材20の軸方向について、一方の側に径の大きな大径円環体233を形成し、他方の側に径の小さな小径円環体234を形成してある。この場合、大径円環体232と大径円環体233については、マット部材20の軸方向の中央側では径が小さく、縁側では径の大きな円錐台形状としてもよい。このように構成された装置においては、寝床面に横臥する利用者の皮膚マッサージ機能を実現するためには、例えば二時間ごとに第一類型のマット部材20と、第二類型のマット部材20を交換して、床ずれを防止できる。
【0054】
図11はマット部材の配置の第9の実施の形態を説明する構成図で、(A)は寝床面に横臥する利用者の床ずれ部位の説明図、(B)はマット部材の配置の説明図である。図12は図11の実施例に用いて好適なマット部材を説明する構成斜視図で、(A)は軸方向の径分布が均一な第一類型、(B)は中央部が膨らんだ第二類型、(C)は中央部が窪んだ第三類型の説明図である。第一類型は、全幅マット部材24で、芯部22の軸方向について、寝台枠10の横幅に対して大略一杯に表層部21を有する。全幅マット部材24の芯部22は、軸受部材16に支持される軸部22aを全幅マット部材24の両端に有している。第二類型は、胴体用マット部材25で、利用者の胴体幅に対して、当該胴体幅相当の表層部21を有する。胴体用マット部材25の芯部22は、軸受部材16に支持される軸部22aと、軸部22aと表層部21との間に位置する芯部22bを有している。芯部22bの径は、軸部22aと同一でも良く、また軸部22aの径と表層部21との中間でもよい。第三類型は、両腕用マット部材26で、利用者の胴体の両側に位置する両腕に対して、当該両腕相当の位置に表層部21を有し、当該胴体幅相当の部位には芯部22cが形成されている。両腕用マット部材26の芯部22は、軸受部材16に支持される軸部22aを両腕用マット部材26の両端に有している。芯部22cの径は、軸部22aと同一でも良く、また軸部22aの径と表層部21との中間でもよい。
【0055】
寝床面に横臥する利用者の床ずれ部位は、図11(A)に示すように、両肩、肩甲骨付近、両肘、尾骨付近、踵付近の皮膚である。そこで、両肩と両肘に対応する部位の寝台枠10の凹部17に、胴体用マット部材25を装着する。肩甲骨付近と尾骨付近に対応する部位の寝台枠10の凹部17に、両腕用マット部材26を装着する。そして、頭部、首部、太腿部、腿部に対応する部位の寝台枠10の凹部17に、全幅マット部材24を装着する。踵付近の皮膚については、足首付近に大径のマット部材を配置すれば踵付近は浮くから、全幅マット部材24でもよく、また胴体用マット部材25や両腕用マット部材26を用いても良い。
【0056】
図13は、介護用ベッドの第10の実施の形態を説明する構成斜視図で、図1の浴槽付きの介護用ベッドと比較すると、(A)はマット部材を除く介護用ベッド、(B)は浴槽、(C)はマット部材配置を示している。第10の実施の形態においては、図1の浴槽付きの介護用ベッドに対して、寝台枠10の形状を工夫したものである。即ち、図1の寝台枠10では、フレーム枠材であるため、マット部材20が装着されていない状態では中空になっている。すると、隣接するマット部材20の間隔が過大になると、隙間から利用者の身体の一部が浴槽に触れる可能性があった。仮に浴槽がぬれている場合には、利用者の身体の一部、例えば手や足が濡れることとなり、介護者にとって好ましくないことが予想される。
【0057】
そこで、寝台枠10には、就寝者の幅方向について幅連結部材102が数本設置され、就寝者の頭足方向に縦連結部材104が数本設置されている。そして、幅連結部材102と縦連結部材104の上部に、マット部材20が配置される。マット部材20が寝台枠10の凹部17に支持しやすいように、幅連結部材102と縦連結部材104の設置場所を定める。幅連結部材102と縦連結部材104は、例えば弾力性を有するハンモック状態の網状マットレスとして機能させるのがよい。網状マットレスの網目形状を定める幅連結部材102と縦連結部材104の設置間隔は、マット部材20の装着を阻害しないように定めるのがよい。
【0058】
このように構成すると、マット部材20の下側に幅連結部材102と縦連結部材104より構成される網状マットレスが位置するので、仮に隣接するマット部材20の間隔が過大になっても、隙間から利用者の身体の一部は網状マットレスによって移動が拘束されるので、浴槽に触れる可能性が少なくなる。すると、浴槽がぬれている場合でも、利用者の身体の一部、例えば手や足が濡れることが防止でき、介護者にとって好ましい。
【0059】
図14はマット部材の第11の実施の形態を説明する構成斜視図で、(A)は個別のマット部材を支持するための凹部付近の要部側面図、(B)はストッパ部19を除いた軸受部材の要部平面図、(C)は使用状態を説明する要部平面図である。軸受部材16には、個別のマット部材20を支持するための凹部17が形成されている。そこで、マット部材20の軸部22aを凹部17に位置決めして、湯につける場合を検討する。マット部材20が湯に浸かった状態は、図3(B)のような状態で、シート32を伸長させた状態でフック止め具14に吊り下げて、シート32に湯水を貯留させた場合に生ずるものである。フック35の吊り下げ位置は、シート32を引き伸ばした状態で、寝床面に横臥している利用者の表面よりも若干上まで水位を確保できるように定められているので、マット部材20は水没する。すると、マット部材20の比重が水よりも小さい場合には、マット部材20が浮力により浮き上がるという課題を生ずる。
【0060】
そこで、マット部材20の比重が水よりも小さい場合であっても、マット部材20が浮力により浮き上がるのを防止するために、凹部17の上部にストッパ部19を設けるとよい。ストッパ部19は、軸部192によって所定範囲内で回転自在に軸受部材16に軸支されている。そこで、ストッパ部19を開いた状態では、凹部17がストッパ部19で覆われていないので、凹部17にマット部材20の軸部22aを位置決めできる。そして、マット部材20の軸部22aを凹部17に位置決めした後、ストッパ部19を閉じて凹部17をストッパ部19で覆うと、軸部22aが凹部17とストッパ部19によって拘束される。これにより、マット部材20の比重が水よりも小さい場合であっても、マット部材20が浮力により浮き上がるのが防止される。
【0061】
以上、添付図面を参照して、この発明の実施形態を説明したが、この発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載から把握される技術的範囲において種々の形態に変更可能である。例えば、被介護者として日本人の標準的な大人の体型を有することを前提に寝台枠の形状を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば子供用であっても良く、また体型の大きな西洋人向けのものとしてもよい。
【0062】
さらに、マット部材20の表面層には、抗菌処理や消臭処理を施しても良い。抗菌 (antimicrobial effect, antibacterial-)とは、細菌の増殖を阻止することをいい、繁殖を阻止する対象や程度を含まない概念である。JIS規格(JIS Z 2801)の抗菌仕様製品では、かび、黒ずみ、ヌメリは効果の対象外とされている。抗菌処理にはヨウ素含浸、酸化チタン・グラフト重合等が公知の手法として存在する。グラフト重合とは、ある高分子鎖に別の高分子鎖を結合することをいう。高分子鎖上に放射線照射や触媒などにより活性点を形成し、これによって別のモノマーの重合を開始させ、グラフト重合体を合成する。繊維やプラスチックなどの高分子材料に別のモノマーをグラフト重合することによって、抗菌処理や消臭処理に適したマット部材とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の介護用ベッドの一実施の形態を説明する構成斜視図である。
【図2】マット部材の構造の一例を説明する構成斜視図である。
【図3】寝床面に横臥する利用者の部位に対応して、マット部材の外径を調節して配置する場合の説明図である。
【図4】シートを圧縮した状態で浴槽ケースを寝台枠の下部に位置させた状態を説明する構成斜視図である。
【図5】マット部材の構造の第2の実施の形態を説明する構成斜視図である。
【図6】マット部材の第3の実施の形態を説明する構成斜視図である。
【図7】マット部材の構造の第4の実施の形態を説明する構成斜視図である。
【図8】マット部材が空気式膨張性を有する場合の実施の形態を説明する構成斜視図で、第5及び第6の実施の形態を示している。
【図9】マット部材の構造の第7の実施の形態を説明する構成斜視図である。
【図10】マット部材の構造の第8の実施の形態を説明する構成斜視図である。
【図11】マット部材の配置の第9の実施の形態を説明する構成図である。
【図12】図11の実施例に用いて好適なマット部材を説明する構成斜視図である。
【図13】介護用ベッドの第10の実施の形態を説明する構成斜視図である。
【図14】マット部材の第11の実施の形態を説明する構成斜視図である。
【符号の説明】
【0064】
10 寝台枠
102 幅連結部材
104 縦連結部材
16 軸受部材
17 凹部(マット部材支持部)
18a、18b、18c アクチュエータ
19 ストッパ部
20、201、202、203 マット部材
21、211、212 表層部
22、22b、22c 芯部
22a 軸部
23、23a、23b、23c、23d 円環体
24 全幅マット部材
25 胴体用マット部材
26 両腕用マット部材
30 浴槽ケース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
寝台枠に対して、断面形状が略円形・略楕円形・略円環状・蒲鉾状又はドーム型の棒状マット部材を一層であって、かつ複数並べて寝床面を形成すると共に、前記マット部材とその隣接するマット部材との間に形成された隙間から汚水や排便を下方に放出できるように構成した介護用ベッドであって、
前記マット部材は、利用者と接触する表層部を、前記利用者による負荷荷重対応の窪みを形成する程度の変形性を有する防水性部材で構成し、前記マット部材の剛性を前記利用者の荷重によっては実質的に撓み量を前記利用者が感じない程度に構成したこと、
を特徴とする介護用ベッド。
【請求項2】
前記寝台枠の前記マット部材を支持する高さが大略一定であって、
前記利用者の首部・背中部・太腿部・腿部に関しては標準径のマット部材を配し、
前記利用者の臀部を含む頭部・肩部・踵部の少なくとも一部に対応する部位には、前記標準径のマット部材と比較して外径の小さなマット部材を配すること、
を特徴とする請求項1に記載の介護用ベッド。
【請求項3】
前記マット部材には、
前記利用者の首部・背中部・太腿部・腿部に関しては、前記利用者の荷重作用時には負荷荷重対応の窪みを形成すると共に、前記利用者の荷重除去時には形成された窪みが回復する変形回復機能が標準の小変形表層部を配し、
前記利用者の臀部を含む頭部・肩部・踵部の少なくとも一部に対応する部位には、前記小変形表層部比較して前記変形回復機能の大きな大変形表層部を配するように構成すること、
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の介護用ベッド。
【請求項4】
前記マット部材は、前記芯部の軸方向について、
前記寝台枠の横幅に対して大略一杯に前記表層部を有する全幅マット部材と、
前記利用者の胴体幅に対して、当該胴体幅相当の前記表層部を有する胴体用マット部材と、
前記利用者の胴体の両側に位置する両腕に対して、当該両腕相当の位置に前記表層部を有し、当該胴体幅相当の部位には芯部が形成されている両腕用マット部材と、
の三類型を有し、
肩又は肘に対応する部位については胴体用マット部材を装着し、肩甲骨又は股に対応する部位については両腕用マット部材を装着すること、
を特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の介護用ベッド。
【請求項5】
前記マット部材は、前記寝台枠に対して回動自在に支持され、
前記寝台枠のマット部材支持部は、支持する前記マット部材に対して高さ方向又は隣接マット部材方向の少なくとも一方について振動可能に支持し、若しくは支持する前記マット部材を所定の態様で回動又は回転させ、当該振動、回動又は回転によって、前記利用者に対する皮膚マッサージ機能を有するように構成されたこと、
を特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の介護用ベッド。
【請求項6】
前記マット部材が、前記寝台枠に形成された凹部に支持されると共に、
前記凹部の上部に、前記凹部を覆う状態と開いた状態との間で開閉するストッパ部を設け、
前記ストッパ部を開いた状態で、前記凹部に対する前記マット部材の着脱を行い、
前記ストッパ部を閉じた状態で、前記凹部と前記ストッパ部とにより前記マット部材を挟むように構成されたこと、
を特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の介護用ベッド。
【請求項7】
前記マット部材は、前記表層部で覆われた内部に、流体注入室を有し、
前記流体注入室に対して流体を注入し、若しくは注入された流体を吸引して、前記マット部材の径を調節し、若しくは前記表層部の変形回復機能を調節する流体調節部を設け、
前記利用者の床ずれ発生防止を行うように、前記流体調節部によって、前記流体注入室への流体注入量を調節すること、
を特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の介護用ベッド。
【請求項8】
前記マット部材は、前記表層部で覆われた内部に、流体注入室を有し、
前記流体注入室に対して蓄熱材を注入し、
前記利用者に対する保温や保冷等の温度調節に適合するように、前記蓄熱材の特性を選定すること、
を特徴とする請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載の介護用ベッド。
【請求項9】
前記マット部材は、前記表層部に抗菌処理又は殺菌処理の少なくとも一方を行ったことを特徴とする請求項1乃至請求項8の何れか1項に記載の介護用ベッド。
【請求項10】
前記寝台枠は、当該枠の内部に網状マットレスを形成する幅連結部材と縦連結部材が複数装着され、
前記幅連結部材と縦連結部材の設置間隔は、前記マット部材の装着を阻害しないように定めたこと、
を特徴とする請求項1乃至請求項9の何れか1項に記載の介護用ベッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−220609(P2008−220609A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−62672(P2007−62672)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【出願人】(506314368)
【Fターム(参考)】