説明

付加硬化型シリコーン組成物及びその硬化物

【課題】未硬化時は固体又は半固体で硬化後は可撓性に優れ、表面のタック性が少ない硬質樹脂硬化物を形成する付加硬化型シリコーン組成物を提供する。
【解決手段】(A)R1SiO1.5単位、R22SiO単位、及びR3a4bSiO(4-a-b)/2単位からなり(R1、R2、及びR3は独立に水酸基、メチル基、エチル基、プロピル基、シクロヘキシル基、又はフェニル基を示し、R4はビニル基、アリル基又は水素原子を示し、aは0、1又は2で、bは1又は2で、かつa+bは2又は3である。)、
上記R22SiO単位の少なくとも一部は連続して繰り返してなり、その繰り返し数が5〜300個である構造を含む分子中にケイ素原子結合アルケニル基及びヒドロシリル基を有する樹脂構造のオルガノポリシロキサン、並びに、
(B)白金族金属系触媒
を含有してなる付加硬化型シリコーン組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付加硬化型シリコーン組成物に関するものであり、特に表面タック性が少なく、かつ強度特性が良好な硬化物を与える付加硬化型シリコーン組成物及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
付加硬化型シリコーンゴム組成物は、耐候性、耐熱性等の特性や、硬度、伸び等のゴム的性質に優れた硬化物を形成することからコート材等の種々の用途に使用されている(特許文献1)が、得られる硬化物の表面にタック性があるため、電気電子部品にコート材等として使用した場合には埃の付着が問題となる。
【0003】
シリコーンワニスから得られる硬質樹脂からなる硬化物ではタック性が少なく埃付着の問題はないが、かかる硬化物は耐衝撃性が不十分でクラックの発生が起こり易い、特に熱衝撃によりクラックが発生し易いという問題がある。このため、電気電子部品等のパッケージにおいて、硬化物表面に埃の付着がなく、かつ耐クラック性、耐衝撃性に優れた硬化物を形成し得るようなシリコーン組成物が望まれている。また、従来の成型装置で硬化し得る常温で固体(具体的には、塑性変形性の固体)もしくは半固体の性状の(即ち、高粘度液状の)組成物が要求されていた。
【0004】
付加硬化型のシリコーンゴム組成物に樹脂状のオルガノポリシロキサンを配合することにより、硬化物の強度を向上させ得ることが従来から知られている。例えば、特許文献2には、オルガノハイドロジェンシロキサンと付加反応するアルケニル基含有オルガノポリシロキサンとして分岐した(即ち、樹脂状の)オルガノポリシロキサンを採用して硬化物の強度の向上を図っている。しかしながら、樹脂状のオルガノポリシロキサンにより、硬化物の強度を高めた時でも、表面にタック性が残り、埃の付着の問題があった。
【0005】
一般に、付加硬化型のシリコーンゴム組成物においては、レジン状のオルガノポリシロキサンを配合することにより、硬化物の強度を向上させ得ることが従来から知られている。しかしながら、レジン状のオルガノポリシロキサンにより、硬化物の強度を高めた時でも、表面にタックが残り、埃の付着の問題があった。また、硬質レジンでは耐衝撃性が不十分であり、特に熱衝撃試験でクラックの発生が起こり易いという大きな問題があった。
【0006】
かかる課題を解決すべく、硬質レジンでありながら可撓性に優れ、表面のタックが少ない硬化物を形成し、かつ従来の成型装置、例えばトランスファーモールド、コンプレッションモールド、インジェクションモールド等の成型装置でも容易に成型可能な付加硬化型シリコーン組成物及びその硬化物が提案されている(特許文献3)。さらに、それを用いたシリコーン製のレンズ及びレンズ成形に好適な付加硬化型のシリコーン樹脂組成物(特許文献4)、LED素子等の封止用途に好適に適用できる付加硬化型のシリコーン樹脂組成物が提案されている(特許文献5、特許文献6)。
【0007】
しかし、この付加硬化型のシリコーン樹脂組成物であっても、ビニル基含有シリコーン樹脂とヒドロシリル基含有シリコーン樹脂とを別々に合成し配合する従来技術には、工程が複雑である以外にも種々の問題点があった。例えば、ヒドロシリル基含有シリコーン樹脂はほとんど液体であり、ビニル基含有シリコーン樹脂を混合すると得られる組成物は液体となりモールド樹脂としては取り扱いにくい等の欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−339482号公報
【特許文献2】特開2005−76003号公報
【特許文献3】特開2007−182549号公報
【特許文献4】特開2007−316612号公報
【特許文献5】特開2008−19424号公報
【特許文献6】特開2008−27966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明の課題は、未硬化時は液状から固体状の性状に調製することができ、特に必要に応じて固体又は半固体で調製でき、硬化後は硬質樹脂でありながら可撓性に優れ、表面のタック性が少ない硬化物を形成する付加硬化型シリコーン組成物及びその硬化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、付加硬化型シリコーン組成物において、分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基とヒドロシリル基とを共に含有する特定のポリオルガノシロキサンを使用することにより、これを解決することができることを見出した。
【0011】
即ち、本発明は、
(A)R1SiO1.5単位、R22SiO単位、及びR3a4bSiO(4-a-b)/2単位、及びR3cdSiO(4-c-d)/2単位からなり(ここで、R1、R2、及びR3は独立に水酸基、メチル基、エチル基、プロピル基、シクロヘキシル基、又はフェニル基を示し、R4は独立にビニル基又はアリル基を示し、aは0、1又は2で、bは1又は2で、かつa+bは2又は3であり、cは0,1又は2、dは1又は2で、c+dは2又は3である。)、上記R22SiO単位の少なくとも一部は連続して繰り返してなり、その繰り返し数が5〜300個である構造を含み、
分子中に存在するケイ素原子に結合したビニル基及び/又はアリル基の合計に対するケイ素原子に結合した水素原子のモル比が0.1〜4.0であるオルガノポリシロキサン、並びに、
(B)硬化有効量の白金族金属系触媒
を含有してなる付加硬化型シリコーン組成物を提供するものである。
【0012】
本発明の組成物は従来の成型装置、例えばトランスファーモールド、コンプレッションモールド、インジェクションモールド等の成型装置でも容易に成型可能である点で常温で固体又は半固体状であることが好ましく、固体であることがより好ましい。これにより、タブレット化やフィルム化が可能であるという利点が得られる。なお、本明細書において、固体であるとは特に塑性変形性の固体を意味する。該固体は融点が30℃以上であることが好ましい。また、半固体であるとはほとんど流動性が認められないほどの高粘度液状であること、具体的には粘度が25℃において10,000P・s以上であることを意味する。
【0013】
本発明の組成物の好適実施形態として、(A)成分がシラノール基を有するものが挙げられる。この場合、接着性向上の利点がある。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、また、上記の付加硬化型シリコーン組成物を硬化して得られる硬化物をも提供する。
【0015】
本発明の組成物によれば、硬質樹脂でありながら可撓性に優れ、表面のタック性が少ない硬化物を形成することができる。
【0016】
さらに、本発明の組成物は特別の新たな成型方法も成型機も不要であり、従来の従来の成型装置、例えば、ディスペンサー、トランスファーモールド、コンプレッションモールド、インジェクションモールド等の成型装置でも容易に成型可能である。
【0017】
(A)成分として用いられるオルガノポリシロキサンは、ケイ素原子に結合した低級アルケニル基とケイ素原子に結合した水素原子とを共に同一ポリマー内に持つことから合成が簡便で有利であり、製造上コスト上も有利である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。以下の記載において、Meはメチル基、Etはエチル基、Phはフェニル基、そしてViはビニル基を示す。
【0019】
−(A)樹脂構造のオルガノポリシロキサン−
本発明組成物の重要な(A)は、R1SiO1.5単位、R22SiO単位、R3a4bSiO(4-a-b)/2単位、及びR3cdSiO(4-c-d)/2単位からなりからなり(ここで、R1、R2、及びR3は独立に水酸基、メチル基、エチル基、プロピル基、シクロヘキシル基、又はフェニル基を示し、R4はビニル基又はアリル基を示し、aは0、1又は2で、bは1又は2で、かつa+bは2又は3であり、cは0,1又は2、dは1又は2で、c+dは2又は3である。)、上記R22SiO単位の少なくとも一部は連続して繰り返してなり、その繰り返し数が5〜300個、好ましくは10〜300個、より好ましくは15〜200個、更に好ましくは20〜100個である構造を含有し、
【0020】
分子中に存在するケイ素原子に結合したビニル基及び/又はアリル基の合計に対するケイ素原子に結合した水素原子のモル比が0.1〜4.0である樹脂構造のオルガノポリシロキサンである。
【0021】
該オルガノポリシロキサンは、一分子中にケイ素原子結合アルケニル基(即ち、ビニル基及び/又はアリル基)を通常2個以上、好ましくは3個以上有する。また、一分子中にヒドロシリル基を通常2個以上、好ましくは3個以上有する
【0022】
なお、上記のR22SiO単位が連続して繰り返してなり、その繰り返し数が5〜300個である構造とは、一般式(1):
【0023】
【化1】

【0024】
(ここで、mは5〜300の整数)
で表される直鎖状ジオルガノポリシロキサン連鎖構造を意味する。
【0025】
(A)成分のオルガノポリシロキサン中に存在するR22SiO単位全体の少なくとも一部、好ましくは50モル%以上(50〜100モル%)、特に好ましくは80モル%以上(80〜100モル%)が、分子中でかかる一般式(1)で表される連鎖構造を形成している。
【0026】
(A)成分の分子中においては、R22SiO単位はポリマー分子を直鎖状に延伸するように働き、R1SiO1.5単位はポリマー分子を分岐させ或いは三次元網状化させる。R3a4bSiO(4-a-b)/2単位の中のR4(ビニル基又はアリル基)は、該(A)成分中に存在するR3cdSiO(4-c-d)/2単位の中のケイ素原子に結合した水素原子(即ち、SiHで示されるヒドロシリル基)とヒドロシリル化付加反応することにより本発明の組成物を硬化させる役割を果たす。
【0027】
(A)成分を構成する必須の四種のシロキサン単位のモル比、即ち、R1SiO1.5単位:R22SiO単位:R3a4bSiO(4-a-b)/2単位:R3cdSiO(4-c-d)/2単位のモル比は、90〜24:75〜9:25〜0.5:25〜0.5、特に70〜28:70〜20:5〜1:5〜1(但し、合計で100)であることが得られる硬化物の特性上好ましい。
【0028】
また、この(A)成分のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算重量平均分子量は3,000〜1,000,000、特に10,000〜100,000の範囲にあると、該ポリマーは常温において固体もしくは半固体状であり作業性、硬化性などから好適である。
【0029】
このような樹脂構造のオルガノポリシロキサンは、各単位の原料となる化合物を、生成ポリマー中で上記四種のシロキサン単位が所要のモル比となるように組み合わせ、例えば酸の存在下で共加水分解縮合を行うことによって合成することができる。
【0030】
ここで、R1SiO1.5単位の原料としては、MeSiCl3、EtSiCl3、PhSiCl3、プロピルトリクロロシラン、シクロヘキシルトリクロロシラン等のクロロシラン類、これらそれぞれのクロロシラン類に対応するメトキシシラン類などのアルコキシシラン類などを例示できる。
【0031】
22SiO単位の原料としては、
ClMe2SiO(Me2SiO)SiMe2Cl、
ClMe2SiO(Me2SiO)(PhMeSiO)nSiMe2Cl、
ClMe2SiO(Me2SiO)(Ph2SiO)nSiMe2Cl、
HOMe2SiO(Me2SiO)SiMe2OH、
HOMe2SiO(Me2SiO)(PhMeSiO)nSiMe2OH、
HOMe2SiO(Me2SiO)(Ph2SiO)nSiMe2OH、
MeOMe2SiO(Me2SiO)SiMe2OMe、
MeOMe2SiO(Me2SiO)(PhMeSiO)nSiMe2OMe、
MeOMe2SiO(Me2SiO)(Ph2SiO)nSiMe2OMe
(ここで、m=5〜150の整数(平均値)、n=5〜300の整数(平均値))
等を例示することができる。
【0032】
また、R3a4bSiO(4-a-b)/2単位は、R34SiO単位、R324SiO0.5単位、R42SiO単位、及びR342SiO0.5単位から選ばれる1種のシロキサン単位又は2種以上のシロキサン単位の組み合わせであることを示す。その原料としては、Me2ViSiCl、MeViSiCl2、Ph2ViSiCl、PhViSiCl2等のクロロシラン類、これらのクロロシランのそれぞれに対応するメトキシシラン類等のアルコキシシラン類などを例示することができる。
【0033】
またR3cdSiO(4-c-d)/2単位は、R3HSiO単位、R32HSiO0.5単位、H2SiO単位、及びR32SiO0.5単位から選ばれる1種のシロキサン単位又は2種以上のシロキサン単位の組み合わせであることを示す。ヒドロシリル基(SiH基)の原料としては、Me2HSiCl、MeHSiCl2、Ph2HSiCl、PhHSiCl2等のクロロシラン、並びにそれぞれのクロロシランに対応するメトキシシランなどのアルコキシシラン等を例示することができる。
【0034】
なお、本発明において、(A)成分のオルガノポリシロキサンを上記の原料化合物の共加水分解及び縮合により製造する際には、R1SiO1.5単位、R22SiO単位及びR3a4bSiO(4-a-b)/2単位、R3cdSiO(4-c-d)/2単位中に、シラノール基を有するシロキサン単位が含むことがある。(A)成分のオルガノポリシロキサンは、かかるシラノール基含有シロキサン単位を、通常、全シロキサン単位に対して10モル%以下(0〜10モル%)、好ましくは5モル%以下(0〜5モル%)程度含有することが好ましい。上記シラノール基含有シロキサン単位としては、例えば、(HO)SiO1.5、R2a(HO)SiO、(HO)2SiO、(HO)RSiO、(HO)RSiO0.5、(HO)SiO0.5(ここで、R2aはメチル基、エチル基、プロピル基、シクロヘキシル基、又はフェニル基を示し、Rは前記定義の通りである。)があげられる。
【0035】
(A)成分のオルガノポリシロキサンにおいて、ケイ素原子に結合したビニル基及び/又はアリル基の合計量に対するケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)のモル比は0.1〜4.0であり、好ましくは0.3〜4.0であり、より好ましくは0.5〜3.0、更に好ましくは0.8〜2.0である。このモル比が0.1未満では硬化反応が十分に進行せず、所要のシリコーン硬化物を得ることが困難であり、4.0を超えると未反応のSiH基が得られる硬化物中に多量に残存するため、硬化物の物性が経時的に変化する原因となる。従って、ケイ素原子結合アルケニル基を有する単位であるR3a4bSiO(4-a-b)/2単位は分子中の全シロキサン単位に対して0.2〜45モル%、特に0.5〜9モル%程度であることが好ましく、また、ヒドロシリル基を含有する単位であるR3cdSiO(4-c-d)/2単位は全シロキサン単位に対して0.09〜40モル%、特に0.4〜8モル%程度であることが好ましい。
【0036】
−(B)白金族金属系触媒−
この触媒成分は、本発明の組成物の付加硬化反応を促進させるために配合されるものであり、白金系、パラジウム系、ロジウム系のものがある。コスト等の見地から白金、白金黒、塩化白金酸などの白金系のもの、例えば、H2PtCl6・mH2O,K2PtCl6,KHPtCl6・mH2O,K2PtCl4,K2PtCl4・mH2O,PtO2・mH2O,(mは、正の整数)等や、これらと、オレフィン等の炭化水素、アルコール又はビニル基含有オルガノポリシロキサンとの錯体等を例示することができる。これらの触媒は一種単独でも、2種以上の組み合わせでも使用することができる。
【0037】
(B)成分の配合量は、硬化のための有効量でよく、通常、前記(A)成分の量に対して白金族金属として質量換算で0.1〜500ppm、特に好ましくは0.5〜100ppmの範囲で使用される。
【0038】
−その他の配合剤−
本発明の組成物には、上述した(A)成分及び(B)成分以外にも、必要に応じて、それ自体公知の各種の添加剤を配合することができる。
【0039】
・無機充填剤:
例えば、ヒュームドシリカ、ヒュームド二酸化チタン等の補強性無機充填剤、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、二酸化チタン、酸化第二鉄、カーボンブラック、酸化亜鉛等の非補強性無機充填剤等を挙げることができる。これらの無機充填剤は、合計で、(A)成分及び(B)成分の合計量100質量部当り600質量部以下(0〜600質量部)の範囲で適宜配合することができる。
【0040】
・接着助剤:
また、本発明の組成物には、接着性を付与するため、接着助剤を必要に応じて添加できる。接着助剤としては、例えば、一分子中にケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)、ケイ素原子に結合したアルケニル基(例えばSi−CH=CH2基)、アルコキシシリル基(例えばトリメトキシシリル基)、エポキシ基(例えばグリシドキシプロピル基、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル基)から選ばれる官能性基を少なくとも2種、好ましくは2種又は3種含有する直鎖状又は環状のケイ素原子数4〜50個、好ましくは4〜20個程度のオルガノシロキサンオリゴマー、下記一般式(2)で示されるオルガノオキシシリル変性イソシアヌレート化合物及び/又はその加水分解縮合物(オルガノシロキサン変性イソシアヌレート化合物)などが挙げられる。
【0041】
【化2】

【0042】
〔式中、Rは、下記式(3):
【0043】
【化3】

【0044】
(ここで、R6は水素原子又は炭素原子数1〜8の一価炭化水素基であり、sは1〜6、特に1〜4の整数である。)
で表される有機基、又は脂肪族不飽和結合を含有する一価炭化水素基であるが、Rの少なくとも1個は式(3)で表される有機基である。)
【0045】
一般式(2)におけるRで表される脂肪族不飽和結合を含有する一価炭化水素基としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等の炭素原子数2〜8、特に2〜6のアルケニル基、シクロヘキセニル基等の炭素原子数6〜8のシクロアルケニル基などが挙げられる。また、式(3)におけるRの一価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等のアルキル基、上記Rについて例示したアルケニル基及びシクロアルケニル基、さらにフェニル基等のアリール基などの炭素原子数1〜8、特に1〜6の一価炭化水素基が挙げられ、好ましくはアルキル基である。
【0046】
さらに、接着助剤として下記の有機珪素化合物が例示される。
1−グリシドキシプロピル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,5−グリシドキシプロピル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、1−グリシドキシプロピル−5−トリメトキシシリルエチル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、
【0047】
【化4】

【0048】
(式中、g及びhは各々0〜50の範囲の正の整数であって、しかもg+hが2〜50、好ましくは4〜20を満足するものである。)
【0049】
【化5】

【0050】
【化6】

【0051】
上記の有機ケイ素化合物の内、得られる硬化物に特に良好な接着性をもたらす化合物としては、一分子中にケイ素原子結合アルコキシ基と、アルケニル基もしくはケイ素原子結合水素原子(SiH基)とを有する有機ケイ素化合物である。
【0052】
接着助剤の配合量は、(A)成分100質量部に対して、通常10質量部以下(即ち、0〜10質量部)、好ましくは0.1〜8質量部、より好ましくは0.2〜5質量部程度配合することができる。多すぎると硬化物の硬度に悪影響を及ぼしたり表面タック性を高める恐れがある。
【0053】
・硬化抑制剤:
本発明の組成物を常温で保存性良く未硬化状態に保つために、硬化抑制剤を配合することができる。硬化抑制剤としては、例えば、アセチレンアルコール、シリコーン変性アセチレンアルコール化合物、トリアリルイソシアヌレート、アルコキシシラン変性トリアリアリルイソシアヌレート及びその部分加水分解縮合物(即ち、シリコーン変性トリアリルイソシアヌレート)等が挙げられる。硬化抑制剤は(A)成分100質量部当り通常0.001〜2質量部、好ましくは0.02〜1質量部添加される。
【0054】
本発明の組成物の一典型例として、実質的に(A)成分及び(B)成分からなる組成物が挙げられる。ここで、「実質的に(A)成分及び(B)成分からなる」とは該組成物が(A)成分及び(B)成分以外に上述した任意成分の少なくとも1種を本発明の目的、効果を損なわない範囲において含みうることを意味する。
【0055】
−調製及び硬化条件−
本発明のシリコーン組成物は、所要の成分を均一に混合することによって調製される。通常は、硬化が進行しないように2液に分けて保存され、使用時に2液を混合して硬化を行う。硬化抑制剤を少量添加して1液として調製することもできる。この組成物は、常温で硬化するようにすることもできるが、通常は硬化抑制剤により常温での硬化を抑制し、必要な時に加熱することにより直ちに硬化するように調製される。
【0056】
本発明の組成物の硬化条件は、通常50〜200℃、特に70〜180℃で1〜30分、特に2〜10分である。また、50〜200℃、特に70〜180℃で0.1〜10時間、特に1〜4時間のポストキュアを行うことができる。
【0057】
本発明の組成物は、使用目的又は採用する成型方法や成型装置に応じて、常温において液体から塑性変形可能な固体に至る様々な性状に調製することができる。特に、塑性変形性固体(融点は30℃以上が好ましい)又は半固体であると、従来の例えばトランスファーモールド、コンプレッションモールド、インジェクションモールド等の成型方法及び成型装置に適応する。また、溶剤を添加することでコーティング剤やポッティング剤としても有用である。
【実施例】
【0058】
以下、合成例及び実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記例で粘度は25℃の値である。また、重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算値である。
【0059】
[合成例1]
((A)成分のオルガノポリシロキサンの合成)
PhSiCl3で示されるオルガノシラン:27mol、ClMe2SiO(Me2SiO)33SiMe2Cl:1mol、MeViSiCl2:1.5mol、MeHSiCl2:1.5molをトルエン溶媒に溶解後、水中に滴下し、共加水分解し、更に水洗、アルカリ洗浄にて中和、脱水後、溶剤をストリップし、(A)成分のビニル基・ヒドロシリル基含有樹脂(樹脂A1という)を合成した。この樹脂の重量平均分子量は62,000、融点は60℃であった。
【0060】
[合成例2]
((A)成分のオルガノポリシロキサンの合成)
PhSiCl3で示されるオルガノシラン:27mol、ClMe2SiO(Me2SiO)33SiMe2Cl:1mol、Me2ViSiCl:1.5mol、Me2HSiCl:1.5molをトルエン溶媒に溶解後、水中に滴下し、共加水分解し、更に水洗、アルカリ洗浄にて中和、脱水後、溶剤をストリップし、(A)成分のビニル基・ヒドロシリル基含有樹脂(樹脂A2という)を合成した。この樹脂の重量平均分子量は63,000、融点は63℃であった。
【0061】
[合成例3]
PhSiCl3で示されるオルガノシラン:27mol、ClMe2SiO(Me2SiO)33SiMe2Cl:1mol、MeViSiCl2:3molをトルエン溶媒に溶解後、水中に滴下し、共加水分解し、更に水洗、アルカリ洗浄にて中和、脱水後、溶剤をストリップし、ビニル基含有レジン(樹脂A3という)を合成した。このレジンの重量平均分子量は62,000、融点は60℃であった。
【0062】
[合成例4]
PhSiCl3で示されるオルガノシラン:27mol、ClMe2SiO(Me2SiO)33SiMe2Cl:1mol、MeHSiCl2:3molをトルエン溶媒に溶解後、水中に滴下し、共加水分解し、更に水洗、アルカリ洗浄にて中和、脱水後、溶剤をストリップし、ヒドロシリル基含有レジン(樹脂B3という)を合成した。このレジンの重量平均分子量は58,000、融点は58℃であった。
【0063】
[合成例5]
PhSiCl3で示されるオルガノシラン:27mol、ClMe2SiO(Me2SiO)33SiMe2Cl:1mol、Me2ViSiCl:3molをトルエン溶媒に溶解後、水中に滴下し、共加水分解し、更に水洗、アルカリ洗浄にて中和、脱水後、溶剤をストリップし、ビニル基含有レジン(樹脂A4という)を合成した。このレジンの重量平均分子量は63,000、融点は63℃であった。
【0064】
[合成例6]
PhSiCl3で示されるオルガノシラン:27mol、ClMe2SiO(Me2SiO)33SiMe2Cl:1mol、Me2HSiCl:3molをトルエン溶媒に溶解後、水中に滴下し、共加水分解し、更に水洗、アルカリ洗浄にて中和、脱水後、溶剤をストリップし、ヒドロシリル基含有レジン(樹脂B4というを合成した。このレジンの重量平均分子量は57,000、融点は56℃であった。
【0065】
[合成例7]
フェニルトリクロルシラン3.3mol、メチルビニルジクロルシラン1.2mol、ジメチルジクロルシラン1.5mol、及びトルエン530gからなる混合物を水2500g中に激しく撹拌しながら60分間で滴下した。更に60分間撹拌を行ったのち、中性となるまで水洗した。水洗後シロキサン濃度を25%のトルエン溶液とし、水酸化カリウム0.42g添加し、加熱還流して5時間重合させた。次いでトリメチルクロルシラン13.8g添加し、室温で60分間撹拌を行い、アルカリを中和した。その後、ろ過し、加熱減圧下でトルエンを留去し、透明なビニル基含有オルガノポリシロキサンを得た。
【0066】
[合成例8]
フェニルトリクロルシラン1.2 mol、メチルビニルジクロルシラン1.8 mol、ジメチルジクロルシラン0.06 mol、メチルフェニルジクロロシラン 2.4molトルエン530質量部からなる混合物を水2500g中に激しく撹拌しながら60分間で滴下した。更に60分間撹拌を行ったのち、中性となるまで水洗した。水洗後シロキサン濃度を25%のトルエン溶液とし、水酸化カリウム0.42g添加し、加熱還流して5時間重合させた。次いでトリメチルクロルシラン13.8g添加し、室温で60分間撹拌を行い、アルカリを中和した。その後、ろ過し、加熱減圧下でトルエンを留去し、透明なビニル基含有オルガノポリシロキサンを得た。
【0067】
[実施例1]
合成例1で得られたビニル基・ヒドロシリル基含有樹脂(樹脂A1):189g、反応抑制剤としてアセチレンアルコール系のエチニルシクロヘキサノール:0.1g、塩化白金酸のオクチルアルコール変性溶液:0.05gを加え、60℃に加温したプラネタリーミキサーでよく撹拌し、シリコーン樹脂組成物1を調製した。この組成物1を、コンプレッション成型機にて圧縮成型し、150℃,5分で加熱成型して硬化物を得た。更にこれを150℃で4時間加熱して2次硬化させて硬化物を得た。
【0068】
組成物及び硬化物について次の測定を行った。
・機械的物性:JIS K 6251に準拠して引張強度(0.2mm厚)及び切断時伸び(0.2mm厚)を測定し、そしてJIS K 6253に準拠して硬度(タイプD型デュロメーターを用いて測定)を測定した。
・タック性の指触試験:硬化物表面に指触して評価した。
・タック性の銀粉試験:市販の銀紛(平均粒径5μm)中に2次硬化直後の硬化物を置き、取り出し後、エアーを吹き付けて表面上の銀粉の除去を試み、銀粉が除去されるか否かを試験した。
・熱衝撃性試験:アルミニウム皿(直径6cm、深さ0.6mm)に組成物を封入し、上記条件で硬化させ、硬化物をアルミニウム皿から取り出した後、円盤状の硬化物をサンプルとして、−50℃〜150℃の冷熱サイクル(100サイクル)に供した。その後、クラック発生の有無を目視で調べた。結果を表1に示す。
【0069】
[実施例2]
合成例2で得られたビニル基・ヒドロシリル基含有樹脂(樹脂A2):189g、反応抑制剤としてアセチレンアルコール系のエチニルシクロヘキサノール:0.1g、塩化白金酸のオクチルアルコール変性溶液:0.05gを加え、60℃に加温したプラネタリーミキサーでよく撹拌し、シリコーン樹脂組成物2を調製した。
【0070】
また、該組成物から実施例1と同様に成型硬化物を得、同様に2次硬化させた後、同様にして諸特性の測定を行った。結果を表1に示す。
【0071】
[比較例1]
合成例3で得られたビニル基含有レジン(樹脂A3):189g、合成例4で得られたヒドロシリル基含有レジン(樹脂B3):189g、反応抑制剤としてアセチレンアルコール系のエチニルシクロヘキサノール:0.2g、塩化白金酸のオクチルアルコール変性溶液:0.1gを加え、60℃に加温したプラネタリーミキサーでよく撹拌し、シリコーンレジン組成物3を調製した。
【0072】
この組成物3を、コンプレッション成型機にて圧縮成型し、150℃,5分で加熱成型して硬化物を得た。更にこれを150℃,4時間で2次硬化させて硬化物を得た。
【0073】
組成物3及び得られた硬化物について、実施例1と同様にして諸特性の測定を行った。結果を表1に示す。
【0074】
[比較例2]
合成例5で得られたビニル基含有レジン(樹脂A4):189g、合成例6で得られたヒドロシリル基含有レジン(樹脂B4):189g、反応抑制剤としてアセチレンアルコール系のエチニルシクロヘキサノール:0.2g、塩化白金酸のオクチルアルコール変性溶液:0.1gを加え、60℃に加温したプラネタリーミキサーでよく撹拌し、シリコーンレジン組成物4を調製した。組成物4を実施例1と同様にして処理して硬化物を得た。
【0075】
組成物4及び得られた硬化物について、実施例1と同様にして諸特性の測定を行った。結果を表1に示す。
【0076】
[比較例3]
合成例7で得られたビニル基含有シリコーンを100g,合成例8で得られたビニル基含有シリコーンを10gに下記式(4)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン12g、記式(5)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン18g、1%塩化白金酸のオクチルアルコール溶液0.05gを混合してシリコーンレジン組成物5を調製した。組成物5を実施例1と同様にして処理して硬化物を得た。
【0077】
組成物5及び得られた硬化物について、実施例1と同様にして諸特性の測定を行った。結果を表1に示す。
【0078】
【化7】

【0079】
【化8】

【0080】
[比較例4]
合成例7で得られたビニル基含有シリコーンを70g,下記式(6)のビニル基含有シリコーンを19.5gに下記式(7)のビニル基含有シリコーンを10.5g、下記式(8)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン12g、上記式(5)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン6.8g、1%塩化白金酸のオクチルアルコール溶液0.05gを混合してシリコーン樹脂組成物6を調製した。組成物6を実施例1と同様にして処理して硬化物を得た。
【0081】
組成物6及び得られた硬化物について、実施例1と同様にして諸特性の測定を行った。結果を表1に示す。
【0082】
【化9】

【0083】
【化10】

【0084】
【化11】

【0085】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の組成物は硬化により高い硬度と表面タック性のない可撓性硬化物を形成するので、電気電子部品等の保護コート材や、ポッティング、キャスティング、モールド剤等をはじめシリコーンゴムキーボードの表面コートなどのシリコーンの汎用用途に広く使用することができる。特に、従来シリコーンの表面タック性が問題となっていた用途において有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)R1SiO1.5単位、R22SiO単位、及びR3a4bSiO(4-a-b)/2単位、及びR3cdSiO(4-c-d)/2単位からなり(ここで、R1、R2、及びR3は独立に水酸基、メチル基、エチル基、プロピル基、シクロヘキシル基、又はフェニル基を示し、R4は独立にビニル基又はアリル基を示し、aは0、1又は2で、bは1又は2で、かつa+bは2又は3であり、cは0,1又は2、dは1又は2で、c+dは2又は3である。)、上記R22SiO単位の少なくとも一部は連続して繰り返してなり、その繰り返し数が5〜300個である構造を含み、
分子中に存在するケイ素原子に結合したビニル基及び/又はアリル基の合計に対するケイ素原子に結合した水素原子のモル比が0.1〜4.0であるオルガノポリシロキサン、並びに、
(B)硬化有効量の白金族金属系触媒
を含有してなる付加硬化型シリコーン組成物。
【請求項2】
常温で固体状である請求項1記載のシリコーン組成物。
【請求項3】
(A)成分がシラノール基を有するものである請求項1に係る組成物。
【請求項4】
(A)成分中の前記R22SiO単位の連続して繰り返し数が10〜300個である請求項1に係る組成物。
【請求項5】
(A)成分中の前記R22SiO単位の連続して繰り返し数が15〜200個である請求項1に係る組成物。
【請求項6】
(A)成分中の前記R22SiO単位の連続して繰り返し数が20〜100個である請求項1に係る組成物。
【請求項7】
(A)成分のオルガノポリシロキサン中に存在する全R22SiO単位の50モル%以上が連続して繰り返す連鎖構造を形成する請求項1に係る組成物。
【請求項8】
(A)成分のオルガノポリシロキサンが、一分子中にケイ素原子に結合したビニル基及び/又はアリル基を合計で2個以上有し、ヒドロシリル基を2個以上有する請求項1に係る組成物。
【請求項9】
(A)成分のオルガノポリシロキサンが、一分子中にケイ素原子に結合したビニル基及び/又はアリル基を合計で3個以上有し、ヒドロシリル基を3個以上有する請求項1に係る組成物。
【請求項10】
(A)成分のオルガノポリシロキサンにおいて、R1SiO1.5単位:R22SiO単位:R3a4bSiO(4-a-b)/2単位:R3cdSiO(4-c-d)/2単位のモル比が、90〜24:75〜9:25〜0.5:25〜0.5であり、但しこのときこれらの4種のシロキサン単位の合計は100である、請求項1に係る組成物。
【請求項11】
(A)成分のオルガノポリシロキサンにおいて、R1SiO1.5単位:R22SiO単位:R3a4bSiO(4-a-b)/2単位:R3cdSiO(4-c-d)/2単位のモル比が、70〜28:70〜20:5〜1:5〜1であり、但しこのときこれらの4種のシロキサン単位の合計は100である、請求項1に係る組成物。
【請求項12】
(A)成分のオルガノポリシロキサンのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算重量平均分子量が3,000〜1,000,000の範囲にある請求項1に係る組成物。
【請求項13】
(A)成分のオルガノポリシロキサンのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算重量平均分子量が10,000〜100,000の範囲にある請求項1に係る組成物。
【請求項14】
請求項1に係る付加硬化型シリコーン組成物を硬化して得られる硬化物。

【公開番号】特開2009−275214(P2009−275214A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−94531(P2009−94531)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】