仮鋲を用いた穿孔加工方法
【課題】 作業者による作業工数の増大および穿孔加工装置の負荷の増大を防止するとともに仮鋲のドリルアウトに伴う不具合をなくし、生産効率の低下を防止することのできる仮鋲を用いた穿孔加工方法およびその装置を提供する。
【解決手段】 マーク部を有する頭部を引き抜くことによって本鋲と略同一径を有し、ワークから離脱可能に構成される仮鋲を用い、相互に接合されるべき複数の部材が位置決めして積重された状態のワークに対し、予め定める複数の打鋲位置を穿孔して複数の第1下孔を形成する第1工程と、第1工程で形成された複数の第1下孔に仮鋲を打設して、各部材を仮止めする第2工程と、第2工程で仮止めされたワークを撮像して得られた画像から予め定める複数の本鋲打設位置を算出し、算出された各位置を穿孔して、本鋲を挿入するための第2下孔を形成する第3工程とを含む仮鋲を用いた穿孔加工方法である。
【解決手段】 マーク部を有する頭部を引き抜くことによって本鋲と略同一径を有し、ワークから離脱可能に構成される仮鋲を用い、相互に接合されるべき複数の部材が位置決めして積重された状態のワークに対し、予め定める複数の打鋲位置を穿孔して複数の第1下孔を形成する第1工程と、第1工程で形成された複数の第1下孔に仮鋲を打設して、各部材を仮止めする第2工程と、第2工程で仮止めされたワークを撮像して得られた画像から予め定める複数の本鋲打設位置を算出し、算出された各位置を穿孔して、本鋲を挿入するための第2下孔を形成する第3工程とを含む仮鋲を用いた穿孔加工方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仮鋲を用いた穿孔加工方法に関するものである。より詳細には、複数のワークが積重され仮鋲を打設することによって仮止めされた状態で、仮鋲打設位置に基づいて、本鋲を打設する位置を穿孔する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
図15(ALLFAST社のFastack鋲を示す)は、複数の部材2,3を従来の技術の仮鋲1を打設して仮止めする様子を説明するための断面図であり、この従来の技術の仮鋲1はたとえば特許文献1,2に記載されている。このような仮鋲1は、ALLFAST社製のFastack(登録商標)鋲またはTEXTRON社製のChobert(登録商標)鋲として、商業的に入手可能である。図16は、従来の技術の仮鋲1を用いた本鋲用下孔の穿孔加工方法を示すフローチャートである。
【0003】
たとえば航空機の翼部などを組立てる場合には、複数の部材2,3が位置決めして積重され、本鋲を打設することによって各部材2,3が接合される。本鋲を打設すべき位置の数が多い場合には、本鋲打設位置のうちから抽出された位置に仮鋲1を打設して各部材を仮止めしておき、穿孔加工装置によって本鋲用下孔の穿孔加工が行われていた。
【0004】
また、周囲が壁部材で囲まれた中空の閉構造を有するワークなどのように、ワークの外部からしか加工することができない場合でも、従来の技術の仮鋲1を用いることによってワークを仮止めすることが可能であった。具体的には、仮鋲1は、かしめ用工具6とともに仮鋲用下孔4,5に各部材2,3の厚み方向一方側から挿入され、作業者がかしめ用工具6を矢符で示す方向に引くことによって、仮想線で示すようなかしめ部7が形成される。これによって、各部材2,3が仮止めされる。かしめ用工具6は、仮鋲1の内部において容易に切断可能に構成されており、仮止め後に切断されて、その一部が除去される。このような仮鋲1を用いることにより、閉構造を構造体を接合する場合のような、各部材2,3の厚み方向の一方側からしか加工できない場合にも、各部材2,3の仮止めが可能とされる。
【0005】
前述のような仮鋲1を用いた従来の加工方法では、ステップa0で作業が開始され、ステップa1で、各部材2,3が位置決めして積重された状態のワークに対し、仮鋲1が打設される仮鋲用下孔4,5が形成され、ステップa2で、作業者によって仮鋲用下孔4,5に仮鋲1が打設され、各部材2,3が仮止めされる。
【0006】
ステップa3で、仮止めされたワークが穿孔加工装置に搬入され、本鋲が打設される本鋲用下孔が形成される。この本鋲用下孔は、撮像装置によってワークを撮像し、かしめ用工具6の除去後の仮鋲1の貫通孔8を識別し、識別した仮鋲1の位置に基づいて本鋲打設位置を算出し、算出された位置を穿孔することによって形成される。
【0007】
ステップa4で、仮鋲打設位置に近接する位置に形成されている本鋲用下孔に対し、作業者によって手作業で位置ずれ防止ピンが挿入される。ステップa5で、仮鋲打設位置をドリルで穿孔することによって、仮鋲1がドリルアウトされて除去されるとともに、仮鋲用下孔4,5が拡径されて、仮鋲打設位置に本鋲用下孔が形成される。ステップa6で、本鋲用下孔の穿孔加工が終了される。
【0008】
【特許文献1】特表2000−505526号公報
【特許文献2】特開平6−147208号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の技術の仮鋲1を用いる穿孔加工方法では、図15に示すように、かしめ部7を形成することによって各部材2,3が仮止めされているので、仮鋲用下孔4,5よりも大きな孔を穿孔して仮鋲1を除去する必要があった。したがって、本鋲よりも小さな径を有する仮鋲1が用いられ、穿孔加工装置によって仮鋲1を除去するとともに本鋲用下孔が穿孔されていた。このとき、仮鋲1の切り屑が穿孔工具に巻きつき、本鋲用下孔よりも孔径が拡大してしまう不具合が発生するという問題があった。
【0010】
また、仮鋲1のドリルアウトに伴う位置ずれを防止するために、位置ずれ防止ピンを取り付ける作業が必要であり、この取付作業は穿孔加工装置を停止させて手作業で行われていたため、作業者による作業工数が増大し、穿孔加工装置の停止により穿孔加工装置の作業負荷が増大してしまうという問題があった。
【0011】
さらに、従来の技術の仮鋲1では、かしめ部7を形成する際に、作業者の技量次第で仮鋲1の頭部の形状が変化してしまうことがあった。この鋲頭形状の変化は、撮像装置によって貫通孔8を識別する際に、読取りエラーを誘発させ、穿孔加工装置の停止を招いていた。したがって、装置の停止により生産効率が低下してしまうという問題があった。
【0012】
本発明の目的は、作業者による作業工数の増大および穿孔加工装置の負荷の増大を防止するとともに仮鋲のドリルアウトに伴う不具合をなくし、生産効率の低下を防止することのできる仮鋲を用いた穿孔加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、相互に接合されるべき複数の部材が位置決めして積重された状態のワークに対し、予め定める複数の打鋲位置を穿孔して、位置検出用マーク部を有する頭部を引き抜くことによって本鋲と略同一径を有する軸部の一部が縮径して前記ワークから離脱可能に構成される仮鋲を挿入するための複数の第1下孔を形成する第1工程と、
第1工程で形成された複数の第1下孔に前記仮鋲を打設して、各部材を仮止めする第2工程と、
第2工程で仮止めされたワークを撮像して得られた画像から各仮鋲の位置検出用マーク部を識別し、識別された各位置検出用マーク部の位置に基づいて予め定める複数の本鋲打設位置を算出し、算出された各位置を穿孔して、本鋲を挿入するための第2下孔を形成する第3工程とを含むことを特徴とする仮鋲を用いた穿孔加工方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、位置検出用マーク部を有する頭部を引き抜くことによって本鋲と略同一径を有する軸部の一部が縮径してワークから離脱可能に構成される仮鋲が挿入される第1下孔が形成されるので、従来の技術の仮鋲を用いる場合のように、第1下孔を本鋲用の第2下孔に拡径するための穿孔加工および作業者による位置ずれ防止ピンの取付作業が不要になる。したがって、作業者による作業工数の増大および穿孔加工装置の負荷の増大が防止される。また、仮鋲をドリルアウトする必要がないため、ドリルアウトに伴う不具合をなくすことができる。
【0015】
さらに、仮鋲は位置検出用マーク部を有して形成されるので、撮像装置による読取りエラーの発生が低減され、生産効率の低下を防止することができる。また、撮像画像から正確に、仮鋲の位置検出用マーク部の位置に基づいて、実加工上のワークのずれを認識できるため、ワークの位置ずれを矯正して高精度に複数の部材を接合することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は、本発明の実施の形態に係る穿孔加工方法に用いられる仮鋲10を示す断面図である。図2は、本発明の実施の形態に係る穿孔加工方法の加工対象の一例であるフラップ15を示す斜視図である。図3は、本発明の実施の形態に係る穿孔加工方法に用いられる穿孔加工装置51の概略を示す斜視図である。
【0017】
仮鋲10は、複数の部材を仮止めする鋲である。以下、2つの部材11,12を仮止めする場合について説明する。各部材11,12は、全体が板状であってもよいし、一部が板状であってもよいが、いずれにしても板状の部分を有している。
【0018】
航空機の翼に設けられるフラップ15は、複数枚の板状構造材料を用いて、翼形状に形成されて製造される。このフラップ15において、たとえば2枚の板状構造材料の接合は、板状構造材料同士を位置決めして積重させ、その積重した部分を鋲で打設することによって行われる。たとえば前記のフラップ15における2枚の板状構造材料が、図1における各部材11,12にそれぞれ相当し、フラップ15がワーク16に相当する。
【0019】
一例ではあるが、フラップ15の寸法は、長手方向寸法W1が6mであり、幅方向寸法W2が1.5mである。このようなフラップ15を製造するにあたっては、複数枚の板状構造材料が用いられ、多数の位置において鋲を打設する必要がある。鋲を打設するにあたっては、打設する位置に予め鋲を挿入させるための下孔を形成しておく必要がある。
【0020】
そこで、本発明の実施の形態に係る穿孔加工方法では、鋲を打設すべき位置のうち、たとえば20〜70カ所を抽出して、先ずその抽出された位置において仮鋲10を打設することによって各部材11,12を仮止めしておき、図3に示す穿孔加工装置51を用いて残余の打鋲すべき位置が自動的に穿孔される。また、仮鋲を打設するために抽出された位置には、本鋲が打設される本鋲用下孔を穿孔しておき、本鋲用下孔が仮鋲用下孔として用いられる。このため、仮鋲10は、本鋲用下孔に適用可能な形状に形成される。
【0021】
以下、本発明の実施の形態に係る穿孔加工方法に用いられる仮鋲10について詳細に説明する。
【0022】
図4は、仮鋲1を分解して示す斜視図である。仮鋲10は、たとえば合成樹脂によって形成される。また仮鋲10は、構成部品として、大略的に筒状の筒状本体18と、大略的に軸状の操作軸体19とを備えている。仮鋲10は、操作軸体19が筒状本体18内に部分的に挿入されて構成される。操作軸体19は、その軸線が筒状本体18の軸線と一致するように挿入されて配置され、軸線方向へ相対的に変位可能である。
【0023】
図5は、筒状本体18を示す正面図である。図6は、図5の筒状本体18を上方から見た平面図である。図7は、図5の筒状本体18を下方から見た底面図である。
【0024】
筒状本体18は、筒頭部41、直円筒状に形成される筒基部40、および複数(本実施の形態では4)の脚部23とから成る。筒基部40は、外径D40が、各部材11,12に形成される本鋲用下孔13,14の内径D13と略同一となるように形成される。筒頭部41は、筒基部40の軸線方向一端部から半径方向外方に突出して筒基部40と一体的に形成される。4つの脚部23は、筒基部40の周方向に沿って等間隔に設けられ、各脚部23は、筒基部40の軸線方向他端部から軸線方向に延び、筒基部40と一体的に形成される。
【0025】
筒頭部41は、さらに上部20と、上部20および筒基部40に連なる下部21とから成る。上部20は、その外周面20aが、脚部23から筒頭部41に向かう方向に沿って半径が減少する方向に傾斜した円錐台面状に形成されている。また下部21は、その外周面21aが、筒頭部41から脚部23に向かう方向に沿って半径が減少する方向に傾斜した円錐台面状に形成されている。
【0026】
脚部23は、筒基部40の軸線方向他端部に連なる脚基部24と、脚基部24に連なる脚端部25とから成る。脚基部24は筒基部40と同一の外径D40を有する。また、筒脚部25は、その外周面が、筒頭部41から脚部23に向かう方向に沿って半径が減少する方向に傾斜した先細状の円錐台面状に形成されている。4つの脚部23は、軸線に垂直な断面において、十字状の切込み22によって分断されている。したがって、このように形成される4つの脚部23は、弾性変形を伴って拡径する方向に変位させることが可能である。
【0027】
さらに筒状本体18の内周面部26は、各脚部23において形成される嵌合部27と、嵌合部27の軸線方向一方側に連なる案内部28と、嵌合部27の軸線方向他方側に連なる当接部29とを有する。嵌合部27および案内部28は、直円筒状の内周面をそれぞれ有し、嵌合部27の内径D27が案内部28の内径D28よりも大きく形成されており、嵌合部27と案内部28との間には段差が形成されている。当接部29は、筒頭部41から脚部23に向かう方向に沿って半径が減少する方向に傾斜した円錐台面状の内周面を有している。 図8は、操作軸体19を示す正面図である。図9は、図8の操作軸体19を上方から見た平面図である。図10は、図8の操作軸体19を下方から見た底面図である。
【0028】
操作軸体19は、軸頭部30、操作部31、および軸部32とから成り、軸部32の軸線方向一端部に連なって軸頭部30が一体的に形成され、軸線方向他端部に連なって操作部31が一体的に形成されている。軸部32は、外径D32である直円柱状に形成される。また軸部32は、外径D32が、筒状本体18の案内部28の内径D28よりもわずかに大きくなるように形成されている。
【0029】
軸頭部30は、軸頭部30から操作部31に向かう方向に沿って半径が減少する方向に外周面が傾斜している円錐台状に形成されている。軸部32と連なる側である頭部30の軸線方向一端部の外径D30aは、軸部32の外径D32よりも大きくなるように形成されている。つまり、軸頭部30は、軸部32に対して段差を有して連なっている。
【0030】
また軸頭部30は、軸線方向他端部において、面取り加工が施されている。これにより、物品が不所望に引掛かることを可及的に防止することができる。軸頭部30において最も外径が大きい部分は、軸線方向他端部側の端面33近傍に存在しており、その外径(最大外径)D30は、軸部32の外径D32よりも大きい。
【0031】
操作部31は、先端部34と操作基部35とから成る。軸線方向一端部において軸部32に連なる操作基部35は、直円柱状であり、操作基部35の外径D35が、軸部32の外径D32よりも大きくなるように形成されている。つまり、操作部31は、軸部32に対して段差を有して連なっている。また、操作基部35は、外径D35が、軸頭部30の軸線方向一端部の外径D30aよりも小さく、筒状本体18の嵌合部27の内径D27と略同一と成るように形成されている。先端部34は、操作基部35の軸線方向他端部に連なって形成され、その外周面34aは、頭部30から操作部31に向かう方向に沿って半径が減少する方向に傾斜する先細の円錐台面状に形成されている。この外周面34aは、筒状本体18の内周面部26の当接部29の内周面と面接触するように、その内周面の傾斜角度と同一の傾斜角度で傾斜している。
【0032】
また操作軸体19には、軸頭部30に端面33で開口する凹所36が形成されている。略直円柱状に形成されている凹所36は、凹所36の軸線と、操作軸体19の軸線とが一致する位置に設けられている。この凹所36には、マーク片37が嵌合される。
【0033】
マーク片37は、直円柱状の部材であり、前記凹所36に嵌合するように形成されている。マーク片37の表面は、軸頭部30の端面33とは、少なくとも異なる色彩を有する。このような色彩の差異を設けることによって、操作軸体19の軸線を中心とする円形の位置検出用マーク部(以下「マーク」という)38が形成される。
【0034】
軸頭部30の端面33の表面色と、マーク片37の表面色とは、互いに非類似の色に設定することが好ましい。たとえば一方の明度が高く、他方の明度が低い組合せ、また互いに色相が補色となる組合せに設定される。一例を述べると、マーク片37の表面色が黒に設定され、軸頭部30の端面33の表面色が、白、黄、橙、などの明度の高い色に設定される。
【0035】
再び図1を参照して、仮鋲10を用いた場合の各部材11,12の仮止めについて説明する。仮鋲10は、操作軸体19が、筒状本体18の案内部28に対し、操作部31側から挿入されて組立てられる。以下、軸線方向に沿って筒頭部21から脚部23に向かう方向を挿入方向という場合がある。
【0036】
この組立てにあたって、操作部31の先端部34が先細状に形成されているので、組立作業が容易である。操作軸体19は、軸部32が筒状本体18の案内部28に案内されて、筒状本体18に対して軸線方向に沿って変位可能に支持されている。軸部D32の外径が案内部28の内径D28よりも僅かに大きいので、筒状本体18の軸線と操作軸体19の軸線とを一致させながら、操作軸体19を筒状本体18に対して軸線方向に沿って変位することができる。操作軸体19を、筒状本体18に対して、操作軸体19の挿入量が大きい操作位置と、操作軸体19の挿入量が小さい操作解除位置との間で、軸線方向に沿って変位させることによって、各脚部23を自然状態と拡径した状態との間で変位させることができる。
【0037】
操作位置は、図1に実線で示す位置であって、操作軸体19の軸頭部30と軸部32との段差面が、筒状本体18の筒頭部21の端面20bに当接する位置である。操作軸体19が操作位置にある状態では、操作部31が嵌合部27よりもさらに挿入方向に挿入されている。この状態では、操作部31の外周面が当接部29の内周面に当接し、各脚部23を拡径する方向へ押圧して変位させている。
【0038】
操作解除位置は、図1に仮想線で示す位置であって、操作部31が筒状本体18の嵌合部27に嵌り込み、操作部31と軸部32との段差面が、嵌合部27と案内部28との段差面と当接している位置である。操作軸体19が操作解除位置にある状態では、操作部31が嵌合部27内に納まっている。この状態では、各脚部23は自然状態にある。
【0039】
すなわち、操作軸体19を操作解除位置から操作位置まで変位させるとき、操作軸体19の操作部31の先端部34の外周面34aが、筒状本体18の当接部29の内周面と当接するまでは、各脚部23は自然状態が維持されるが、外周面34aと当接部29の内周面との当接後さらに操作軸体19を押し込むことによって、操作部31の外周面によって当接部29の内周面が押圧され、各脚部23が自然状態から拡径する状態へ変位する。このとき、操作軸体19の押し込み量の増大に伴って、変位量が増大する。
【0040】
このような仮鋲10は、操作軸体19が操作解除位置に配置された状態で、筒状本体18の脚部23側から各本鋲用下孔13,14に挿入される。このとき各脚部25が、先細状に形成されているので、各本鋲用下孔13,14への仮鋲10の挿入作業が容易である。各本鋲用下孔13,14は、各部材11,12を本固定するために用いられる本鋲を挿入させるための孔であり、各部材11,12の厚み方向に貫通して形成されており、同軸に配置される。各本鋲用下孔13,14は、同一の内径D13を有する。
【0041】
また、各本鋲用下孔13,14のうち本鋲が挿入される側の下孔(本実施の形態では本鋲用下孔13)には、本鋲用下孔13,14の穿孔後に皿取り加工が施される。すなわち、図1に示すように、本鋲用下孔13には、部材11から部材12に向かう方向に沿って半径が減少する方向に傾斜する傾斜面82が形成される。この傾斜面82は、本鋲の挿入のために設けられるものであるが、本鋲用下孔を仮鋲用下孔として利用することを考慮して、仮鋲10の筒状本体18の筒頭部41の下部21には、傾斜面82の傾斜角度に一致するように、外周面21aが形成されている。したがって、仮鋲10が各本鋲用下孔13,14に最も挿入されたとき、筒状本体18の筒頭部41の下部21の外周面21aが、傾斜面82と周方向にわたって面接触する。
【0042】
仮鋲10は、最も挿入された状態で、各脚部23の脚端部25の一部が他方の部材12の表面から突出する寸法に形成される。この状態から、操作軸体19を挿入方向へ押し込み、操作軸体19を操作位置に変位させることによって、各脚部23の脚端部25において他方の部材12の表面から突出する部分が、弾性変形しながら本鋲用下孔13,14の内周面よりも外方へ押し広げられる。このようにして、筒頭部21と拡径した各脚端部25とによって各部材11,12が挟持され、仮止めされる。
【0043】
このような仮止め状態から、操作軸体19を挿入方向とは反対方向へ引っ張り、操作軸体19を操作解除位置まで変位させることによって、仮止めが解除される。すなわち、操作部31によって押し広げられていた状態の各脚端部25が弾性回復力によって自然状態まで回復する。
【0044】
操作軸体19の軸頭部30の外径D30は、筒状本体18に筒頭部21の外径D21よりも大きく形成されており、操作軸体19を操作解除位置に変位させるにあたって、軸頭部30に、作業者の指、鋲抜き工具などを掛合しやすく、作業性が向上される。また軸頭部30が円錐台状に形成されているので、これによっても、頭部30への、作業者の指、鋲抜き工具などの掛合を容易にし、作業性がさらに向上される。鋲抜き工具は、たとえば二股の爪を有し、爪間に軸部32を配置するようにして、各爪を軸頭部30に掛合するような工具であってもよい。
【0045】
仮止めが解除された状態では、各脚部23が自然状態まで回復しているため、筒頭部21と各脚端部25とによる挟持が解除されており、仮鋲10を各本鋲用下孔13,14から容易に抜出し、離脱させることができる。しかも操作解除位置で、筒状本体18と操作軸体19とが、前述のように互いに係止される構成であり、操作軸体19を引っ張ることにより、筒状本体18の抜取り作業がさらに容易である。このように仮鋲10の抜き取りが手作業等により容易に行えることから、従来の技術の仮鋲1のようにドリルアウトをする必要がなくなる。
【0046】
また仮鋲10を、ワーク16に関して片側からの操作によって着脱および離脱することができる。したがって、図2に示すフラップ15のような閉構造を有する構造体に対しても、仮鋲10を用いて仮止めすることができる。
【0047】
以下、本発明の実施の形態に係る穿孔加工方法に用いられる穿孔加工装置51について説明する。穿孔加工装置51は、前述するような仮鋲10が予め定める位置に打設されることによって仮止めされた状態のワーク52に対し、仮鋲打設位置以外の本鋲を打設するための本鋲用下孔を穿孔するために用いられる。
【0048】
穿孔加工装置51は、ワーク52を上載するステージ53と、ステージ53上でワーク52を保持するための複数の治具55と、ステージ53を水平面上で一方向に移動させるステージ移動装置63と、ワーク53に対し穿孔を行う穿孔機57と、穿孔機57をワーク52に対して近接および離反する方向に移動させる昇降装置58と、X軸駆動装置61と、Y軸駆動装置62と、撮像装置59と、制御装置64(図13参照)とを含んで構成されている。
【0049】
ステージ移動装置63は、ステージ53を支持する直線状のガイドレール54と、ステージ53をガイドレール54に沿って水平な仮想一平面における移動方向A1,A2(総称する場合には移動方向Aと記す)に駆動させる駆動装置63a(図示せず)と、ガイドレール54が固定される基台56とを含んで構成される。
【0050】
穿孔機57は、本鋲を挿入させるための本鋲用下孔をワーク52に穿孔する装置であり、昇降装置58および撮像装置59とともに治具60に対して固定して設けられる。穿孔機57の構成は、特に限定されるものではなく、既に公知であるから詳細な説明は省略する。
【0051】
穿孔機57は、前記仮想一平面に直交する移動方向Z1,Z2(総称する場合には移動方向Zと記す)に駆動させる昇降装置58によって、本鋲用下孔の穿孔の際に、ステージ53上に保持されているワーク52に対して近接する方向(すなわち、移動方向Z1)に移動させ、必要に応じて離反する方向(すなわち、移動方向Z2)に移動させることができる。
【0052】
昇降装置58の構成は、特に限定されるものではなく、たとえばサーボモータと、鉛直なボールねじシャフト部と、ボールねじシャフト部に噛合するボールねじナット部とを備え、サーボモータの回転に連動してボールねじシャフト部が回転させて、ボールねじナット部を昇降動作させることによって穿孔機57を昇降駆動させる。
【0053】
X軸駆動装置61は、穿孔機57および後述する撮像装置59を前記仮想一平面において移動方向Aと直交する移動方向X1,X2(総称する場合には移動方向Xと記す)に駆動させる。またY軸駆動装置62は、穿孔機57および撮像装置59を前記仮想一平面において移動方向Aと平行な移動方向Y1,Y2(総称する場合には移動方向Yと記す)に駆動させる。
【0054】
本実施の形態では、Y軸駆動装置62はY方向に延びる水平桁62aと、水平桁62aに設けられるY方向に延びるガイドレール62c(図示せず)と、ガイドレール62cに沿ってY方向に移動可能な走行体62bと、走行体62bをガイドレール62cに沿ってY方向に移動させる駆動装置62d(図示せず)とを含んで構成される。またX軸駆動装置は、前記走行体62bに設けられるX軸方向に延びるガイドレール61b(図示せず)と、ガイドレール61bに沿ってX方向に移動可能な走行体61aと、走行体61aをガイドレール61bに沿ってX方向に移動させる駆動装置61c(図示せず)とを含んで構成される。走行体61aには、治具60が固定して設けられる。
【0055】
このような構成により、穿孔機57および撮像装置59は、X軸駆動装置61およびY軸駆動装置62を駆動させることによって、水平面に沿って直交する2軸方向(すなわち、移動方向X,Y)に移動可能である。
【0056】
図11は、穿孔加工装置51による仮鋲10の位置の検出を説明するための斜視図である。図12は、穿孔加工装置51に備えられる撮像装置59によって認識された画像データ70を示す図である。
【0057】
撮像装置59は、たとえばCCDラインセンサによって構成され、Y方向に延びる測定領域Rに対し、X軸駆動装置61を駆動させて走査方向S(すなわちX方向)にラインセンサを移動させることによって、一定の領域を撮像することができる。撮像装置59は、特に限定されるものではなく、後述するように撮像装置によって認識される画像データから仮鋲に形成されているマークを検出することができるものであれば良く、たとえばエリアセンサなどを用いても良い。
【0058】
仮鋲10は、前述するように仮鋲10の操作軸体19の端面33とマーク片37の表面の色彩を異ならせることによって、マーク38が形成されている。したがって、このような仮鋲10を撮像装置59で撮像することによって、たとえば図12に示すような仮鋲10の表面色に応じた階調数で表現される濃度パターンを示す画像データ70を得ることができる。
【0059】
図12には、ワーク52の表面色を示す濃度パターン71と、仮鋲10の操作軸体19の端面33の表面色を示す濃度パターン72と、仮鋲10のマーク片37の表面色を示す濃度パターン73とを表す画像データ70が示されている。このようなマーク38は、その形状および位置が仮鋲10の着脱操作に全く依存しないので、ばらつきがなく高品質に形成することができる。したがって、撮像装置59によって得られる画像データ70に基づいて、仮鋲位置を検出する場合に検出エラーを生じることなく、精度良く仮鋲位置を検出することができる。
【0060】
図13は、穿孔加工装置51の制御装置64を示す図である。制御装置64は、ステージ53を移動させるステージ移動装置63、撮像装置59穿孔機57、穿孔機57を昇降駆動させる昇降装置58、穿孔機57および撮像装置59を水平に移動させるX軸駆動装置61、およびY軸駆動装置62の駆動を制御する。
【0061】
また制御装置64では、撮像装置59から出力された画像データ70からマーク38を識別し、識別されたマーク38の位置から仮鋲10の位置が検出される。本実施の形態では、マーク片37が操作軸体19と同軸に設けられている円柱状の部材であるので、マーク片37を示す円形状の濃度パターン73からその円の中心位置の座標を求めるように演算処理を実行させることによって、仮鋲10の位置を検出することができる。
【0062】
さらに、制御装置64では、加工対象のワーク52における仮鋲位置と本鋲が打設されるべき予め定める打ち込み位置との位置関係を示すデータ(以下「打鋲位置データ」という)が予め記憶されており、前述のように検出された複数の仮鋲位置の座標と打鋲位置データにおける対応する仮鋲位置の座標とを比較することによって、打鋲位置データが補正される。そして制御装置64は、その補正後の打鋲位置において本鋲用下孔を穿孔することができるように、X軸駆動装置61およびY軸駆動装置62の駆動を制御し、穿孔機57を移動させて配置させる。
【0063】
このように、穿孔加工装置51の制御装置64は、精度良く検出された仮鋲位置に対し、本鋲が打設されるべき予め定める打鋲位置に穿孔機57が精度良く位置決めして配置させることができるので、仮止めされたワーク52に対し精度良く本鋲用下孔を穿孔することができる。したがって、ステージ53上に位置ずれを生じてワーク52が載置された場合であっても、自動的に位置ずれを補正して本鋲用下孔を穿孔することができる。
【0064】
図14は、仮鋲10を用いた本鋲用下孔の穿孔加工方法を示すフローチャートである。図14に示す穿孔加工方法は、たとえば前述のフラップ15などの板状構造材料から製造される構造体において、部材同士を接合するための本鋲が挿入される本鋲用下孔を穿孔するために好適に実施される方法である。この穿孔加工方法に従う手順は、ワーク52を構成する部材11,12を準備して、ステップs0で開始され、ステップs1に進む。
【0065】
ステップs1で、相互に接合されるべき各部材11,12が位置決めして積重された状態のワーク52に対し、本固定する本鋲を挿入させるための複数の本鋲打設位置のうち、予め定める複数の位置が抽出され、抽出された位置に本鋲用下孔13,14が穿孔され、さらに本鋲用下孔13に皿取り加工が施される。
【0066】
ステップs2で、抽出された位置に穿孔された複数の本鋲用下孔13,14にそれぞれ仮鋲10が打設される。これによって、各部材11,12が仮止めされる。
【0067】
ステップs3で、仮止めされたワーク52が穿孔加工装置51に設置され、穿孔加工装置51に設けられる撮像装置59によって、仮鋲10を含む予め定める領域が撮像される。そして、撮像装置59から得られた画像データ70に基づいて、仮鋲10のマーク38が識別され、識別されたマーク38の位置に基づいて、予め記憶されている打鋲位置データが補正されて、ステージ53上に載置されているワーク52における本鋲を打設するべき位置が算出される。こうして算出された本鋲打設位置に穿孔機57を移動させ、穿孔機57によって本鋲用下孔13,14が穿孔され、さらに本鋲用下孔13に皿取り加工が施される。全ての本鋲打設位置において穿孔が行われると、ステップs4に進み、穿孔加工方法に従う手順を終了する。
【0068】
仮鋲10は、本鋲と略同一径を有するようにその筒状本体18が形成されており、さらに容易に離脱可能に構成されているので、本鋲用下孔13,14に対して仮鋲10を適用することが可能であり、仮鋲10を除去する際にドリルアウトする必要がない。したがって、本発明による方法を用いれば、仮鋲用下孔を本鋲用下孔に拡径するための穿孔加工および作業者による位置ずれ防止ピンの取付作業、すなわち従来の技術の仮鋲を用いる場合には必要であった作業が不要になる。したがって、作業者による作業工数の増大および穿孔加工装置の負荷の増大が防止される。また、仮鋲をドリルアウトする必要がないため、ドリルアウトに伴う不具合をなくすことができる。
【0069】
さらに、仮鋲10は、位置検出用マーク部38を有して形成されるので、撮像装置59による読取りエラーの発生が低減され、生産効率の低下を防止することができる。また、撮像画像59から正確に、仮鋲10の位置検出用マーク部38の位置に基づいて、実加工上のワーク52のずれを認識できるため、ワークの位置ずれを矯正して高精度に複数の部材を接合することができる。
【0070】
前述の実施の形態は、本発明の例示に過ぎず、構成を変更することができる。たとえば穿孔加工装置51の代わりに、穿孔と打鋲のいずれも行うことが可能なリベッタを用いることもできる。また、本発明による方法は、航空機の他の構造体を形成するために用いられてもよいし、航空機以外で用いられる構造体を形成するために用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の実施の形態に係る穿孔加工方法に用いられる仮鋲10を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る穿孔加工方法の加工対象の一例であるフラップ15を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る穿孔加工方法に用いられる穿孔加工装置51の概略を示す斜視図である。
【図4】仮鋲1を分解して示す斜視図である。
【図5】筒状本体18を示す正面図である。
【図6】筒状本体18を示す平面図である。
【図7】筒状本体18を示す底面図である。
【図8】操作軸体19を示す正面図である。
【図9】操作軸体19を示す平面図である。
【図10】操作軸体19を示す底面図である。
【図11】撮像装置59による仮鋲10の検出を説明するための斜視図である。
【図12】画像データ70を示す図である。
【図13】穿孔加工装置51の制御装置64を示す図である。
【図14】打鋲加工装置51を用いてワーク52を加工する打鋲加工方法を示すフローチャートである。
【図15】従来の技術の仮鋲1を打設して仮止めする様子を説明するための断面図である。
【図16】従来の技術の仮鋲1を用いた本鋲用下孔の穿孔加工方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0072】
10 仮鋲
51 穿孔加工装置
52 ワーク
57 穿孔機
58 昇降装置
59 撮像装置
61 X軸駆動装置
62 Y軸駆動装置
64 制御装置
70 画像データ
【技術分野】
【0001】
本発明は、仮鋲を用いた穿孔加工方法に関するものである。より詳細には、複数のワークが積重され仮鋲を打設することによって仮止めされた状態で、仮鋲打設位置に基づいて、本鋲を打設する位置を穿孔する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
図15(ALLFAST社のFastack鋲を示す)は、複数の部材2,3を従来の技術の仮鋲1を打設して仮止めする様子を説明するための断面図であり、この従来の技術の仮鋲1はたとえば特許文献1,2に記載されている。このような仮鋲1は、ALLFAST社製のFastack(登録商標)鋲またはTEXTRON社製のChobert(登録商標)鋲として、商業的に入手可能である。図16は、従来の技術の仮鋲1を用いた本鋲用下孔の穿孔加工方法を示すフローチャートである。
【0003】
たとえば航空機の翼部などを組立てる場合には、複数の部材2,3が位置決めして積重され、本鋲を打設することによって各部材2,3が接合される。本鋲を打設すべき位置の数が多い場合には、本鋲打設位置のうちから抽出された位置に仮鋲1を打設して各部材を仮止めしておき、穿孔加工装置によって本鋲用下孔の穿孔加工が行われていた。
【0004】
また、周囲が壁部材で囲まれた中空の閉構造を有するワークなどのように、ワークの外部からしか加工することができない場合でも、従来の技術の仮鋲1を用いることによってワークを仮止めすることが可能であった。具体的には、仮鋲1は、かしめ用工具6とともに仮鋲用下孔4,5に各部材2,3の厚み方向一方側から挿入され、作業者がかしめ用工具6を矢符で示す方向に引くことによって、仮想線で示すようなかしめ部7が形成される。これによって、各部材2,3が仮止めされる。かしめ用工具6は、仮鋲1の内部において容易に切断可能に構成されており、仮止め後に切断されて、その一部が除去される。このような仮鋲1を用いることにより、閉構造を構造体を接合する場合のような、各部材2,3の厚み方向の一方側からしか加工できない場合にも、各部材2,3の仮止めが可能とされる。
【0005】
前述のような仮鋲1を用いた従来の加工方法では、ステップa0で作業が開始され、ステップa1で、各部材2,3が位置決めして積重された状態のワークに対し、仮鋲1が打設される仮鋲用下孔4,5が形成され、ステップa2で、作業者によって仮鋲用下孔4,5に仮鋲1が打設され、各部材2,3が仮止めされる。
【0006】
ステップa3で、仮止めされたワークが穿孔加工装置に搬入され、本鋲が打設される本鋲用下孔が形成される。この本鋲用下孔は、撮像装置によってワークを撮像し、かしめ用工具6の除去後の仮鋲1の貫通孔8を識別し、識別した仮鋲1の位置に基づいて本鋲打設位置を算出し、算出された位置を穿孔することによって形成される。
【0007】
ステップa4で、仮鋲打設位置に近接する位置に形成されている本鋲用下孔に対し、作業者によって手作業で位置ずれ防止ピンが挿入される。ステップa5で、仮鋲打設位置をドリルで穿孔することによって、仮鋲1がドリルアウトされて除去されるとともに、仮鋲用下孔4,5が拡径されて、仮鋲打設位置に本鋲用下孔が形成される。ステップa6で、本鋲用下孔の穿孔加工が終了される。
【0008】
【特許文献1】特表2000−505526号公報
【特許文献2】特開平6−147208号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の技術の仮鋲1を用いる穿孔加工方法では、図15に示すように、かしめ部7を形成することによって各部材2,3が仮止めされているので、仮鋲用下孔4,5よりも大きな孔を穿孔して仮鋲1を除去する必要があった。したがって、本鋲よりも小さな径を有する仮鋲1が用いられ、穿孔加工装置によって仮鋲1を除去するとともに本鋲用下孔が穿孔されていた。このとき、仮鋲1の切り屑が穿孔工具に巻きつき、本鋲用下孔よりも孔径が拡大してしまう不具合が発生するという問題があった。
【0010】
また、仮鋲1のドリルアウトに伴う位置ずれを防止するために、位置ずれ防止ピンを取り付ける作業が必要であり、この取付作業は穿孔加工装置を停止させて手作業で行われていたため、作業者による作業工数が増大し、穿孔加工装置の停止により穿孔加工装置の作業負荷が増大してしまうという問題があった。
【0011】
さらに、従来の技術の仮鋲1では、かしめ部7を形成する際に、作業者の技量次第で仮鋲1の頭部の形状が変化してしまうことがあった。この鋲頭形状の変化は、撮像装置によって貫通孔8を識別する際に、読取りエラーを誘発させ、穿孔加工装置の停止を招いていた。したがって、装置の停止により生産効率が低下してしまうという問題があった。
【0012】
本発明の目的は、作業者による作業工数の増大および穿孔加工装置の負荷の増大を防止するとともに仮鋲のドリルアウトに伴う不具合をなくし、生産効率の低下を防止することのできる仮鋲を用いた穿孔加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、相互に接合されるべき複数の部材が位置決めして積重された状態のワークに対し、予め定める複数の打鋲位置を穿孔して、位置検出用マーク部を有する頭部を引き抜くことによって本鋲と略同一径を有する軸部の一部が縮径して前記ワークから離脱可能に構成される仮鋲を挿入するための複数の第1下孔を形成する第1工程と、
第1工程で形成された複数の第1下孔に前記仮鋲を打設して、各部材を仮止めする第2工程と、
第2工程で仮止めされたワークを撮像して得られた画像から各仮鋲の位置検出用マーク部を識別し、識別された各位置検出用マーク部の位置に基づいて予め定める複数の本鋲打設位置を算出し、算出された各位置を穿孔して、本鋲を挿入するための第2下孔を形成する第3工程とを含むことを特徴とする仮鋲を用いた穿孔加工方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、位置検出用マーク部を有する頭部を引き抜くことによって本鋲と略同一径を有する軸部の一部が縮径してワークから離脱可能に構成される仮鋲が挿入される第1下孔が形成されるので、従来の技術の仮鋲を用いる場合のように、第1下孔を本鋲用の第2下孔に拡径するための穿孔加工および作業者による位置ずれ防止ピンの取付作業が不要になる。したがって、作業者による作業工数の増大および穿孔加工装置の負荷の増大が防止される。また、仮鋲をドリルアウトする必要がないため、ドリルアウトに伴う不具合をなくすことができる。
【0015】
さらに、仮鋲は位置検出用マーク部を有して形成されるので、撮像装置による読取りエラーの発生が低減され、生産効率の低下を防止することができる。また、撮像画像から正確に、仮鋲の位置検出用マーク部の位置に基づいて、実加工上のワークのずれを認識できるため、ワークの位置ずれを矯正して高精度に複数の部材を接合することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は、本発明の実施の形態に係る穿孔加工方法に用いられる仮鋲10を示す断面図である。図2は、本発明の実施の形態に係る穿孔加工方法の加工対象の一例であるフラップ15を示す斜視図である。図3は、本発明の実施の形態に係る穿孔加工方法に用いられる穿孔加工装置51の概略を示す斜視図である。
【0017】
仮鋲10は、複数の部材を仮止めする鋲である。以下、2つの部材11,12を仮止めする場合について説明する。各部材11,12は、全体が板状であってもよいし、一部が板状であってもよいが、いずれにしても板状の部分を有している。
【0018】
航空機の翼に設けられるフラップ15は、複数枚の板状構造材料を用いて、翼形状に形成されて製造される。このフラップ15において、たとえば2枚の板状構造材料の接合は、板状構造材料同士を位置決めして積重させ、その積重した部分を鋲で打設することによって行われる。たとえば前記のフラップ15における2枚の板状構造材料が、図1における各部材11,12にそれぞれ相当し、フラップ15がワーク16に相当する。
【0019】
一例ではあるが、フラップ15の寸法は、長手方向寸法W1が6mであり、幅方向寸法W2が1.5mである。このようなフラップ15を製造するにあたっては、複数枚の板状構造材料が用いられ、多数の位置において鋲を打設する必要がある。鋲を打設するにあたっては、打設する位置に予め鋲を挿入させるための下孔を形成しておく必要がある。
【0020】
そこで、本発明の実施の形態に係る穿孔加工方法では、鋲を打設すべき位置のうち、たとえば20〜70カ所を抽出して、先ずその抽出された位置において仮鋲10を打設することによって各部材11,12を仮止めしておき、図3に示す穿孔加工装置51を用いて残余の打鋲すべき位置が自動的に穿孔される。また、仮鋲を打設するために抽出された位置には、本鋲が打設される本鋲用下孔を穿孔しておき、本鋲用下孔が仮鋲用下孔として用いられる。このため、仮鋲10は、本鋲用下孔に適用可能な形状に形成される。
【0021】
以下、本発明の実施の形態に係る穿孔加工方法に用いられる仮鋲10について詳細に説明する。
【0022】
図4は、仮鋲1を分解して示す斜視図である。仮鋲10は、たとえば合成樹脂によって形成される。また仮鋲10は、構成部品として、大略的に筒状の筒状本体18と、大略的に軸状の操作軸体19とを備えている。仮鋲10は、操作軸体19が筒状本体18内に部分的に挿入されて構成される。操作軸体19は、その軸線が筒状本体18の軸線と一致するように挿入されて配置され、軸線方向へ相対的に変位可能である。
【0023】
図5は、筒状本体18を示す正面図である。図6は、図5の筒状本体18を上方から見た平面図である。図7は、図5の筒状本体18を下方から見た底面図である。
【0024】
筒状本体18は、筒頭部41、直円筒状に形成される筒基部40、および複数(本実施の形態では4)の脚部23とから成る。筒基部40は、外径D40が、各部材11,12に形成される本鋲用下孔13,14の内径D13と略同一となるように形成される。筒頭部41は、筒基部40の軸線方向一端部から半径方向外方に突出して筒基部40と一体的に形成される。4つの脚部23は、筒基部40の周方向に沿って等間隔に設けられ、各脚部23は、筒基部40の軸線方向他端部から軸線方向に延び、筒基部40と一体的に形成される。
【0025】
筒頭部41は、さらに上部20と、上部20および筒基部40に連なる下部21とから成る。上部20は、その外周面20aが、脚部23から筒頭部41に向かう方向に沿って半径が減少する方向に傾斜した円錐台面状に形成されている。また下部21は、その外周面21aが、筒頭部41から脚部23に向かう方向に沿って半径が減少する方向に傾斜した円錐台面状に形成されている。
【0026】
脚部23は、筒基部40の軸線方向他端部に連なる脚基部24と、脚基部24に連なる脚端部25とから成る。脚基部24は筒基部40と同一の外径D40を有する。また、筒脚部25は、その外周面が、筒頭部41から脚部23に向かう方向に沿って半径が減少する方向に傾斜した先細状の円錐台面状に形成されている。4つの脚部23は、軸線に垂直な断面において、十字状の切込み22によって分断されている。したがって、このように形成される4つの脚部23は、弾性変形を伴って拡径する方向に変位させることが可能である。
【0027】
さらに筒状本体18の内周面部26は、各脚部23において形成される嵌合部27と、嵌合部27の軸線方向一方側に連なる案内部28と、嵌合部27の軸線方向他方側に連なる当接部29とを有する。嵌合部27および案内部28は、直円筒状の内周面をそれぞれ有し、嵌合部27の内径D27が案内部28の内径D28よりも大きく形成されており、嵌合部27と案内部28との間には段差が形成されている。当接部29は、筒頭部41から脚部23に向かう方向に沿って半径が減少する方向に傾斜した円錐台面状の内周面を有している。 図8は、操作軸体19を示す正面図である。図9は、図8の操作軸体19を上方から見た平面図である。図10は、図8の操作軸体19を下方から見た底面図である。
【0028】
操作軸体19は、軸頭部30、操作部31、および軸部32とから成り、軸部32の軸線方向一端部に連なって軸頭部30が一体的に形成され、軸線方向他端部に連なって操作部31が一体的に形成されている。軸部32は、外径D32である直円柱状に形成される。また軸部32は、外径D32が、筒状本体18の案内部28の内径D28よりもわずかに大きくなるように形成されている。
【0029】
軸頭部30は、軸頭部30から操作部31に向かう方向に沿って半径が減少する方向に外周面が傾斜している円錐台状に形成されている。軸部32と連なる側である頭部30の軸線方向一端部の外径D30aは、軸部32の外径D32よりも大きくなるように形成されている。つまり、軸頭部30は、軸部32に対して段差を有して連なっている。
【0030】
また軸頭部30は、軸線方向他端部において、面取り加工が施されている。これにより、物品が不所望に引掛かることを可及的に防止することができる。軸頭部30において最も外径が大きい部分は、軸線方向他端部側の端面33近傍に存在しており、その外径(最大外径)D30は、軸部32の外径D32よりも大きい。
【0031】
操作部31は、先端部34と操作基部35とから成る。軸線方向一端部において軸部32に連なる操作基部35は、直円柱状であり、操作基部35の外径D35が、軸部32の外径D32よりも大きくなるように形成されている。つまり、操作部31は、軸部32に対して段差を有して連なっている。また、操作基部35は、外径D35が、軸頭部30の軸線方向一端部の外径D30aよりも小さく、筒状本体18の嵌合部27の内径D27と略同一と成るように形成されている。先端部34は、操作基部35の軸線方向他端部に連なって形成され、その外周面34aは、頭部30から操作部31に向かう方向に沿って半径が減少する方向に傾斜する先細の円錐台面状に形成されている。この外周面34aは、筒状本体18の内周面部26の当接部29の内周面と面接触するように、その内周面の傾斜角度と同一の傾斜角度で傾斜している。
【0032】
また操作軸体19には、軸頭部30に端面33で開口する凹所36が形成されている。略直円柱状に形成されている凹所36は、凹所36の軸線と、操作軸体19の軸線とが一致する位置に設けられている。この凹所36には、マーク片37が嵌合される。
【0033】
マーク片37は、直円柱状の部材であり、前記凹所36に嵌合するように形成されている。マーク片37の表面は、軸頭部30の端面33とは、少なくとも異なる色彩を有する。このような色彩の差異を設けることによって、操作軸体19の軸線を中心とする円形の位置検出用マーク部(以下「マーク」という)38が形成される。
【0034】
軸頭部30の端面33の表面色と、マーク片37の表面色とは、互いに非類似の色に設定することが好ましい。たとえば一方の明度が高く、他方の明度が低い組合せ、また互いに色相が補色となる組合せに設定される。一例を述べると、マーク片37の表面色が黒に設定され、軸頭部30の端面33の表面色が、白、黄、橙、などの明度の高い色に設定される。
【0035】
再び図1を参照して、仮鋲10を用いた場合の各部材11,12の仮止めについて説明する。仮鋲10は、操作軸体19が、筒状本体18の案内部28に対し、操作部31側から挿入されて組立てられる。以下、軸線方向に沿って筒頭部21から脚部23に向かう方向を挿入方向という場合がある。
【0036】
この組立てにあたって、操作部31の先端部34が先細状に形成されているので、組立作業が容易である。操作軸体19は、軸部32が筒状本体18の案内部28に案内されて、筒状本体18に対して軸線方向に沿って変位可能に支持されている。軸部D32の外径が案内部28の内径D28よりも僅かに大きいので、筒状本体18の軸線と操作軸体19の軸線とを一致させながら、操作軸体19を筒状本体18に対して軸線方向に沿って変位することができる。操作軸体19を、筒状本体18に対して、操作軸体19の挿入量が大きい操作位置と、操作軸体19の挿入量が小さい操作解除位置との間で、軸線方向に沿って変位させることによって、各脚部23を自然状態と拡径した状態との間で変位させることができる。
【0037】
操作位置は、図1に実線で示す位置であって、操作軸体19の軸頭部30と軸部32との段差面が、筒状本体18の筒頭部21の端面20bに当接する位置である。操作軸体19が操作位置にある状態では、操作部31が嵌合部27よりもさらに挿入方向に挿入されている。この状態では、操作部31の外周面が当接部29の内周面に当接し、各脚部23を拡径する方向へ押圧して変位させている。
【0038】
操作解除位置は、図1に仮想線で示す位置であって、操作部31が筒状本体18の嵌合部27に嵌り込み、操作部31と軸部32との段差面が、嵌合部27と案内部28との段差面と当接している位置である。操作軸体19が操作解除位置にある状態では、操作部31が嵌合部27内に納まっている。この状態では、各脚部23は自然状態にある。
【0039】
すなわち、操作軸体19を操作解除位置から操作位置まで変位させるとき、操作軸体19の操作部31の先端部34の外周面34aが、筒状本体18の当接部29の内周面と当接するまでは、各脚部23は自然状態が維持されるが、外周面34aと当接部29の内周面との当接後さらに操作軸体19を押し込むことによって、操作部31の外周面によって当接部29の内周面が押圧され、各脚部23が自然状態から拡径する状態へ変位する。このとき、操作軸体19の押し込み量の増大に伴って、変位量が増大する。
【0040】
このような仮鋲10は、操作軸体19が操作解除位置に配置された状態で、筒状本体18の脚部23側から各本鋲用下孔13,14に挿入される。このとき各脚部25が、先細状に形成されているので、各本鋲用下孔13,14への仮鋲10の挿入作業が容易である。各本鋲用下孔13,14は、各部材11,12を本固定するために用いられる本鋲を挿入させるための孔であり、各部材11,12の厚み方向に貫通して形成されており、同軸に配置される。各本鋲用下孔13,14は、同一の内径D13を有する。
【0041】
また、各本鋲用下孔13,14のうち本鋲が挿入される側の下孔(本実施の形態では本鋲用下孔13)には、本鋲用下孔13,14の穿孔後に皿取り加工が施される。すなわち、図1に示すように、本鋲用下孔13には、部材11から部材12に向かう方向に沿って半径が減少する方向に傾斜する傾斜面82が形成される。この傾斜面82は、本鋲の挿入のために設けられるものであるが、本鋲用下孔を仮鋲用下孔として利用することを考慮して、仮鋲10の筒状本体18の筒頭部41の下部21には、傾斜面82の傾斜角度に一致するように、外周面21aが形成されている。したがって、仮鋲10が各本鋲用下孔13,14に最も挿入されたとき、筒状本体18の筒頭部41の下部21の外周面21aが、傾斜面82と周方向にわたって面接触する。
【0042】
仮鋲10は、最も挿入された状態で、各脚部23の脚端部25の一部が他方の部材12の表面から突出する寸法に形成される。この状態から、操作軸体19を挿入方向へ押し込み、操作軸体19を操作位置に変位させることによって、各脚部23の脚端部25において他方の部材12の表面から突出する部分が、弾性変形しながら本鋲用下孔13,14の内周面よりも外方へ押し広げられる。このようにして、筒頭部21と拡径した各脚端部25とによって各部材11,12が挟持され、仮止めされる。
【0043】
このような仮止め状態から、操作軸体19を挿入方向とは反対方向へ引っ張り、操作軸体19を操作解除位置まで変位させることによって、仮止めが解除される。すなわち、操作部31によって押し広げられていた状態の各脚端部25が弾性回復力によって自然状態まで回復する。
【0044】
操作軸体19の軸頭部30の外径D30は、筒状本体18に筒頭部21の外径D21よりも大きく形成されており、操作軸体19を操作解除位置に変位させるにあたって、軸頭部30に、作業者の指、鋲抜き工具などを掛合しやすく、作業性が向上される。また軸頭部30が円錐台状に形成されているので、これによっても、頭部30への、作業者の指、鋲抜き工具などの掛合を容易にし、作業性がさらに向上される。鋲抜き工具は、たとえば二股の爪を有し、爪間に軸部32を配置するようにして、各爪を軸頭部30に掛合するような工具であってもよい。
【0045】
仮止めが解除された状態では、各脚部23が自然状態まで回復しているため、筒頭部21と各脚端部25とによる挟持が解除されており、仮鋲10を各本鋲用下孔13,14から容易に抜出し、離脱させることができる。しかも操作解除位置で、筒状本体18と操作軸体19とが、前述のように互いに係止される構成であり、操作軸体19を引っ張ることにより、筒状本体18の抜取り作業がさらに容易である。このように仮鋲10の抜き取りが手作業等により容易に行えることから、従来の技術の仮鋲1のようにドリルアウトをする必要がなくなる。
【0046】
また仮鋲10を、ワーク16に関して片側からの操作によって着脱および離脱することができる。したがって、図2に示すフラップ15のような閉構造を有する構造体に対しても、仮鋲10を用いて仮止めすることができる。
【0047】
以下、本発明の実施の形態に係る穿孔加工方法に用いられる穿孔加工装置51について説明する。穿孔加工装置51は、前述するような仮鋲10が予め定める位置に打設されることによって仮止めされた状態のワーク52に対し、仮鋲打設位置以外の本鋲を打設するための本鋲用下孔を穿孔するために用いられる。
【0048】
穿孔加工装置51は、ワーク52を上載するステージ53と、ステージ53上でワーク52を保持するための複数の治具55と、ステージ53を水平面上で一方向に移動させるステージ移動装置63と、ワーク53に対し穿孔を行う穿孔機57と、穿孔機57をワーク52に対して近接および離反する方向に移動させる昇降装置58と、X軸駆動装置61と、Y軸駆動装置62と、撮像装置59と、制御装置64(図13参照)とを含んで構成されている。
【0049】
ステージ移動装置63は、ステージ53を支持する直線状のガイドレール54と、ステージ53をガイドレール54に沿って水平な仮想一平面における移動方向A1,A2(総称する場合には移動方向Aと記す)に駆動させる駆動装置63a(図示せず)と、ガイドレール54が固定される基台56とを含んで構成される。
【0050】
穿孔機57は、本鋲を挿入させるための本鋲用下孔をワーク52に穿孔する装置であり、昇降装置58および撮像装置59とともに治具60に対して固定して設けられる。穿孔機57の構成は、特に限定されるものではなく、既に公知であるから詳細な説明は省略する。
【0051】
穿孔機57は、前記仮想一平面に直交する移動方向Z1,Z2(総称する場合には移動方向Zと記す)に駆動させる昇降装置58によって、本鋲用下孔の穿孔の際に、ステージ53上に保持されているワーク52に対して近接する方向(すなわち、移動方向Z1)に移動させ、必要に応じて離反する方向(すなわち、移動方向Z2)に移動させることができる。
【0052】
昇降装置58の構成は、特に限定されるものではなく、たとえばサーボモータと、鉛直なボールねじシャフト部と、ボールねじシャフト部に噛合するボールねじナット部とを備え、サーボモータの回転に連動してボールねじシャフト部が回転させて、ボールねじナット部を昇降動作させることによって穿孔機57を昇降駆動させる。
【0053】
X軸駆動装置61は、穿孔機57および後述する撮像装置59を前記仮想一平面において移動方向Aと直交する移動方向X1,X2(総称する場合には移動方向Xと記す)に駆動させる。またY軸駆動装置62は、穿孔機57および撮像装置59を前記仮想一平面において移動方向Aと平行な移動方向Y1,Y2(総称する場合には移動方向Yと記す)に駆動させる。
【0054】
本実施の形態では、Y軸駆動装置62はY方向に延びる水平桁62aと、水平桁62aに設けられるY方向に延びるガイドレール62c(図示せず)と、ガイドレール62cに沿ってY方向に移動可能な走行体62bと、走行体62bをガイドレール62cに沿ってY方向に移動させる駆動装置62d(図示せず)とを含んで構成される。またX軸駆動装置は、前記走行体62bに設けられるX軸方向に延びるガイドレール61b(図示せず)と、ガイドレール61bに沿ってX方向に移動可能な走行体61aと、走行体61aをガイドレール61bに沿ってX方向に移動させる駆動装置61c(図示せず)とを含んで構成される。走行体61aには、治具60が固定して設けられる。
【0055】
このような構成により、穿孔機57および撮像装置59は、X軸駆動装置61およびY軸駆動装置62を駆動させることによって、水平面に沿って直交する2軸方向(すなわち、移動方向X,Y)に移動可能である。
【0056】
図11は、穿孔加工装置51による仮鋲10の位置の検出を説明するための斜視図である。図12は、穿孔加工装置51に備えられる撮像装置59によって認識された画像データ70を示す図である。
【0057】
撮像装置59は、たとえばCCDラインセンサによって構成され、Y方向に延びる測定領域Rに対し、X軸駆動装置61を駆動させて走査方向S(すなわちX方向)にラインセンサを移動させることによって、一定の領域を撮像することができる。撮像装置59は、特に限定されるものではなく、後述するように撮像装置によって認識される画像データから仮鋲に形成されているマークを検出することができるものであれば良く、たとえばエリアセンサなどを用いても良い。
【0058】
仮鋲10は、前述するように仮鋲10の操作軸体19の端面33とマーク片37の表面の色彩を異ならせることによって、マーク38が形成されている。したがって、このような仮鋲10を撮像装置59で撮像することによって、たとえば図12に示すような仮鋲10の表面色に応じた階調数で表現される濃度パターンを示す画像データ70を得ることができる。
【0059】
図12には、ワーク52の表面色を示す濃度パターン71と、仮鋲10の操作軸体19の端面33の表面色を示す濃度パターン72と、仮鋲10のマーク片37の表面色を示す濃度パターン73とを表す画像データ70が示されている。このようなマーク38は、その形状および位置が仮鋲10の着脱操作に全く依存しないので、ばらつきがなく高品質に形成することができる。したがって、撮像装置59によって得られる画像データ70に基づいて、仮鋲位置を検出する場合に検出エラーを生じることなく、精度良く仮鋲位置を検出することができる。
【0060】
図13は、穿孔加工装置51の制御装置64を示す図である。制御装置64は、ステージ53を移動させるステージ移動装置63、撮像装置59穿孔機57、穿孔機57を昇降駆動させる昇降装置58、穿孔機57および撮像装置59を水平に移動させるX軸駆動装置61、およびY軸駆動装置62の駆動を制御する。
【0061】
また制御装置64では、撮像装置59から出力された画像データ70からマーク38を識別し、識別されたマーク38の位置から仮鋲10の位置が検出される。本実施の形態では、マーク片37が操作軸体19と同軸に設けられている円柱状の部材であるので、マーク片37を示す円形状の濃度パターン73からその円の中心位置の座標を求めるように演算処理を実行させることによって、仮鋲10の位置を検出することができる。
【0062】
さらに、制御装置64では、加工対象のワーク52における仮鋲位置と本鋲が打設されるべき予め定める打ち込み位置との位置関係を示すデータ(以下「打鋲位置データ」という)が予め記憶されており、前述のように検出された複数の仮鋲位置の座標と打鋲位置データにおける対応する仮鋲位置の座標とを比較することによって、打鋲位置データが補正される。そして制御装置64は、その補正後の打鋲位置において本鋲用下孔を穿孔することができるように、X軸駆動装置61およびY軸駆動装置62の駆動を制御し、穿孔機57を移動させて配置させる。
【0063】
このように、穿孔加工装置51の制御装置64は、精度良く検出された仮鋲位置に対し、本鋲が打設されるべき予め定める打鋲位置に穿孔機57が精度良く位置決めして配置させることができるので、仮止めされたワーク52に対し精度良く本鋲用下孔を穿孔することができる。したがって、ステージ53上に位置ずれを生じてワーク52が載置された場合であっても、自動的に位置ずれを補正して本鋲用下孔を穿孔することができる。
【0064】
図14は、仮鋲10を用いた本鋲用下孔の穿孔加工方法を示すフローチャートである。図14に示す穿孔加工方法は、たとえば前述のフラップ15などの板状構造材料から製造される構造体において、部材同士を接合するための本鋲が挿入される本鋲用下孔を穿孔するために好適に実施される方法である。この穿孔加工方法に従う手順は、ワーク52を構成する部材11,12を準備して、ステップs0で開始され、ステップs1に進む。
【0065】
ステップs1で、相互に接合されるべき各部材11,12が位置決めして積重された状態のワーク52に対し、本固定する本鋲を挿入させるための複数の本鋲打設位置のうち、予め定める複数の位置が抽出され、抽出された位置に本鋲用下孔13,14が穿孔され、さらに本鋲用下孔13に皿取り加工が施される。
【0066】
ステップs2で、抽出された位置に穿孔された複数の本鋲用下孔13,14にそれぞれ仮鋲10が打設される。これによって、各部材11,12が仮止めされる。
【0067】
ステップs3で、仮止めされたワーク52が穿孔加工装置51に設置され、穿孔加工装置51に設けられる撮像装置59によって、仮鋲10を含む予め定める領域が撮像される。そして、撮像装置59から得られた画像データ70に基づいて、仮鋲10のマーク38が識別され、識別されたマーク38の位置に基づいて、予め記憶されている打鋲位置データが補正されて、ステージ53上に載置されているワーク52における本鋲を打設するべき位置が算出される。こうして算出された本鋲打設位置に穿孔機57を移動させ、穿孔機57によって本鋲用下孔13,14が穿孔され、さらに本鋲用下孔13に皿取り加工が施される。全ての本鋲打設位置において穿孔が行われると、ステップs4に進み、穿孔加工方法に従う手順を終了する。
【0068】
仮鋲10は、本鋲と略同一径を有するようにその筒状本体18が形成されており、さらに容易に離脱可能に構成されているので、本鋲用下孔13,14に対して仮鋲10を適用することが可能であり、仮鋲10を除去する際にドリルアウトする必要がない。したがって、本発明による方法を用いれば、仮鋲用下孔を本鋲用下孔に拡径するための穿孔加工および作業者による位置ずれ防止ピンの取付作業、すなわち従来の技術の仮鋲を用いる場合には必要であった作業が不要になる。したがって、作業者による作業工数の増大および穿孔加工装置の負荷の増大が防止される。また、仮鋲をドリルアウトする必要がないため、ドリルアウトに伴う不具合をなくすことができる。
【0069】
さらに、仮鋲10は、位置検出用マーク部38を有して形成されるので、撮像装置59による読取りエラーの発生が低減され、生産効率の低下を防止することができる。また、撮像画像59から正確に、仮鋲10の位置検出用マーク部38の位置に基づいて、実加工上のワーク52のずれを認識できるため、ワークの位置ずれを矯正して高精度に複数の部材を接合することができる。
【0070】
前述の実施の形態は、本発明の例示に過ぎず、構成を変更することができる。たとえば穿孔加工装置51の代わりに、穿孔と打鋲のいずれも行うことが可能なリベッタを用いることもできる。また、本発明による方法は、航空機の他の構造体を形成するために用いられてもよいし、航空機以外で用いられる構造体を形成するために用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の実施の形態に係る穿孔加工方法に用いられる仮鋲10を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る穿孔加工方法の加工対象の一例であるフラップ15を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る穿孔加工方法に用いられる穿孔加工装置51の概略を示す斜視図である。
【図4】仮鋲1を分解して示す斜視図である。
【図5】筒状本体18を示す正面図である。
【図6】筒状本体18を示す平面図である。
【図7】筒状本体18を示す底面図である。
【図8】操作軸体19を示す正面図である。
【図9】操作軸体19を示す平面図である。
【図10】操作軸体19を示す底面図である。
【図11】撮像装置59による仮鋲10の検出を説明するための斜視図である。
【図12】画像データ70を示す図である。
【図13】穿孔加工装置51の制御装置64を示す図である。
【図14】打鋲加工装置51を用いてワーク52を加工する打鋲加工方法を示すフローチャートである。
【図15】従来の技術の仮鋲1を打設して仮止めする様子を説明するための断面図である。
【図16】従来の技術の仮鋲1を用いた本鋲用下孔の穿孔加工方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0072】
10 仮鋲
51 穿孔加工装置
52 ワーク
57 穿孔機
58 昇降装置
59 撮像装置
61 X軸駆動装置
62 Y軸駆動装置
64 制御装置
70 画像データ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に接合されるべき複数の部材が位置決めして積重された状態のワークに対し、予め定める複数の打鋲位置を穿孔して、位置検出用マーク部を有する頭部を引き抜くことによって本鋲と略同一径を有する軸部の一部が縮径して前記ワークから離脱可能に構成される仮鋲を挿入するための複数の第1下孔を形成する第1工程と、
第1工程で形成された複数の第1下孔に前記仮鋲を打設して、各部材を仮止めする第2工程と、
第2工程で仮止めされたワークを撮像して得られた画像から各仮鋲の位置検出用マーク部を識別し、識別された各位置検出用マーク部の位置に基づいて予め定める複数の本鋲打設位置を算出し、算出された各位置を穿孔して、本鋲を挿入するための第2下孔を形成する第3工程とを含むことを特徴とする仮鋲を用いた穿孔加工方法。
【請求項1】
相互に接合されるべき複数の部材が位置決めして積重された状態のワークに対し、予め定める複数の打鋲位置を穿孔して、位置検出用マーク部を有する頭部を引き抜くことによって本鋲と略同一径を有する軸部の一部が縮径して前記ワークから離脱可能に構成される仮鋲を挿入するための複数の第1下孔を形成する第1工程と、
第1工程で形成された複数の第1下孔に前記仮鋲を打設して、各部材を仮止めする第2工程と、
第2工程で仮止めされたワークを撮像して得られた画像から各仮鋲の位置検出用マーク部を識別し、識別された各位置検出用マーク部の位置に基づいて予め定める複数の本鋲打設位置を算出し、算出された各位置を穿孔して、本鋲を挿入するための第2下孔を形成する第3工程とを含むことを特徴とする仮鋲を用いた穿孔加工方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2009−297753(P2009−297753A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−155974(P2008−155974)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】
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