説明

伝動装置のためのシンクロナイザリング

【課題】特に高められた運転確実性を有するシンクロナイザリングを提供することである。
【解決手段】特に自動車の伝動装置のためのシンクロナイザリングにおいて半径方向の内面(4)に帯状の摩擦ライニング(3)を有するリングボディ(2)を備えており、摩擦ライニング(3)の2つの端部(8)は周方向(6)において互いに離間されており、摩擦ライニング(3)は周方向(6)において互いに離間された複数の溶接点(10)によってリングボディ(2)に固定されており、2つの端部(8)はそれぞれ軸線方向(5)に対して傾斜した端部エッジ(12)を有しており、各端部領域(9)は周方向(6)に突出している尖端部(13)を有しているようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に自動車の伝動装置のためのシンクロナイザリングに関する。
【背景技術】
【0002】
US4267912において伝動装置のためのリングボディを有するシンクロナイザリングが開示されている。リングボディは半径方向の内面に摩擦ライニングを有している。公知のシンクロナイザリングにおいて摩擦ライニングは、リングボディに貼り付けられているか、若しくはリングボディ内にセメント等で固定されている繊維材料である。摩擦ライニングは周方向において複数の個所に溝状の凹部を有している。溝状の凹部はシンクロナイザリングの運転中にオイルを導出することができるようにドレンとして働く。中断部は軸線方向に方向付けされているので、中断部に接している摩擦ライニングの端部はそれぞれ軸線方向に対して平行に方向付けられている端部エッジを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】US4267912
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
さらに、摩擦ライニングを帯状に形成すること、及び例えば周方向に互いに離間された複数の溶接点によってリングボディに固定することは、基本的に可能である。帯状の摩擦ライニングをリングボディに組み込むことを可能にするために若しくは簡単にするために、摩擦ライニングの外周はリングボディの内周よりも僅かに小さく寸法設定されている。その結果、環状に曲げられた帯状の摩擦ライニングの2つの長手方向端部は、周方向に互いに離間されて配置されている。このような構成においては、摩擦ライニングが端部において最初にリングボディから剥がれるという問題が生じる。このことは溶接点の高められた曲げ負荷に起因する。しかし、摩擦ライニングが剥がれることは回避できるようになった。
【0005】
したがって、本発明の目的は、冒頭で述べた形式のシンクロナイザリングを改良して、特に高められた運転確実性を有するシンクロナイザリングを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明に係る、特に自動車の伝動装置のためのシンクロナイザリングは、半径方向の内面に帯状の摩擦ライニングを有するリングボディを備えており、摩擦ライニングの2つの端部は周方向において互いに離間されており、摩擦ライニングは周方向において互いに離間された複数の溶接点によってリングボディに固定されており、2つの端部はそれぞれ軸線方向に対して傾斜した端部エッジを有しており、各端部領域は周方向に突出している尖端部を有しているようになっている。
【0007】
有利な構成は従属請求項から明らかになる。
【0008】
好ましくは、摩擦ライニングは各尖端部においてそれぞれ少なくとも1つの溶接点によってリングボディに固定されている。
【0009】
好ましくは、2つの端部エッジは互いに平行に延在している。
【0010】
好ましくは、各尖端部は丸味付けされている。
【0011】
好ましくは、リングボディはリングボディの内面において、半径方向内側に開放した切欠きを有しており、摩擦ライニングの端部は切欠き内に配置されている。
【0012】
好ましくは、摩擦ライニングは摩擦ライニングの端部の領域においてそれぞれ、切欠き内に位置決めされた少なくとも1つの溶接点によってリングボディに固定されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、端部エッジに関して摩擦ライニングの2つの端部を、各端部領域において周方向に突出している尖端部が形成されるように構成する、という着想に基づいている。この着想は特に軸線方向に対して傾斜した端部エッジの延在により実現される。軸線方向に対して傾斜した端部エッジにより、摩擦ライニングの各端部における力導入は、唯一の周個所において行われるのではなく、周方向に延在する周領域にわたって行われる。したがって、力は衝撃式に導入されるのではなく、規定されている距離に沿って、特に連続的に形成される。これにより摩擦ライニングの各端部領域における曲げ負荷を減じることができる。したがって、端部付近の溶接点の曲げ負荷も減じられる。結果的にシンクロナイザリングに、より良好な耐久性がもたらされる。
【0014】
特に有利な構成として、摩擦ライニングは各尖端部においてそれぞれ少なくとも1つの溶接点によってリングボディに固定することができる。この構成により、第1の溶接点はシンクロナイザリングの運転中に力がまだ完全に形成されない領域に設けられる。一方では、溶接点は比較的僅かな曲げ力によりまだほとんど負荷はかけられないので、溶接点はこの負荷を容易に吸収することができる。また他方では、第1の溶接点は、後続の隣の溶接点にまでさらなる明らかな曲げ力が摩擦ライニングに形成されるようなことを防ぐ。ある程度、後続の溶接点は、尖端部に配置されている第1の溶接点により、摩擦ライニングの端部における曲げ力から十分に切り離されているか若しくは解放されている。
【0015】
選択的には、摩擦ライニングの端部をリングボディの内面に形成された切欠き内に配置することもできる。これにより、端部はシンクロナイザリングの運転中に、シンクロナイザリングを備えたシンクロナイザ装置の他の環状の構成要素との直接的な接触接続から切り離されている。したがって、摩擦ライニングの端部の曲げ負荷も減じられる。結果的に、端部領域における溶接点は、減じられた曲げ力が負荷されているにすぎない。これにより、摩擦ライニングとリングボディとの結合部の耐久性は有効に改善される。
【0016】
別の構成として、摩擦ライニングを摩擦ライニングの端部の領域においてそれぞれ、切欠き内に位置決めされている少なくとも1つの溶接点によってリングボディに固定することができる。各端部の領域における第1の溶接点は、端部を介して導入された曲げ力の大部分を吸収し、切欠き内における溶接点の配置に基づいて、単に減じられたせん断力にしかさらされていない。切欠きの外側に位置決めされている溶接点は、実質的に単にせん断力にさらされているにすぎない。しかしこのことは、溶接点がまさにせん断方向に極めて高い負荷耐性を有しているので問題ない。
【0017】
本発明のさらに重要な特徴及び利点は、従属請求項、図面及び図面に関する説明から明らかになる。
【0018】
前記特徴及び以下に説明する特徴は、記載した特徴のそれぞれの組合せにおいてのみ使用可能であるだけでなく、本発明の範囲を超えることなく、他の組合せにおいて又は単独で使用可能でもある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】シンクロナイザリングを軸線方向に見たシンクロナイザリングの極めて簡略的な図である。
【図2】摩擦ライニングの2つの端部の領域におけるシンクロナイザリングの摩擦ライニングを内側から半径方向に見た、シンクロナイザリングの摩擦ライニングの図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。同じ機能又は類似の機能を有する部材には同じ符号を使用する。
【0021】
図1において、好ましくは自動車の、有利には伝動装置のシンクロナイザ装置において使用されるシンクロナイザリング1は、リングボディ2と、リングボディ2の半径方向の内面4に配置されている摩擦ライニング3とを有している。半径方向は、図1において図平面に対して垂直に延在する軸線方向5に基づく。摩擦ライニング3は帯状に形成されている。したがって、特に摩擦ライニング3はリングボディ2とは別体で製造される、リングボディ2内に組み込まれる構成部材である。摩擦ライニング3の寸法設定は、組付け状態において双方向矢印により示された周方向6において、摩擦ライニング3の2つの端部8の間に間隙7若しくは間隔7が形成されるように選択されている。したがって、リングボディ2の内周は摩擦ライニング3の外周よりも僅かに大きくなっている。
【0022】
図2には摩擦ライニング3の領域が図示されている。摩擦ライニング3は間隙7に隣接する2つの端部領域9を有している。2つの端部領域9はそれぞれ、各端部8に形成されている。
【0023】
図1,2に示されているように、摩擦ライニング3は、周方向6に互いに離間されている複数の溶接点10によってリングボディ2に固定されている。図1に示す溶接点10の数及び配置は全く例示的なものである。特により多くの溶接点10が設けられていてもよい。
【0024】
図2に図示されているように、個々の溶接点10が軸線方向5において互いに離間されている溶接点10の配置を提案することもできる。例えば周方向6に互いに離間された溶接点10の、周方向6に延在している2つの列が設けられている。2つの列は軸線方向5において互いに離間されている。図2に示した溶接点10の数及び配置は全く例示的なものである。基本的にはより多くの溶接点10が設けられていてもよい。
【0025】
図2に示した実施の形態によれば、摩擦ライニング3の端部8は端部エッジ12で、周方向6において間隙7に両側で接している。端部エッジ12は軸線方向5に対して傾斜して配向されている。端部エッジ12の傾斜により各端部領域9は尖端部13を有している。尖端部13は各端部領域9において周方向6に突出している。各端部エッジ12が傾斜して又は斜めに延びていることにより、シンクロナイザリング1の運転中に、周方向6において分配された力の導入が摩擦ライニング3にもたらされる。これにより溶接点10の負荷を減じることができる。
【0026】
摩擦ライニング3は各尖端部13内において、少なくとも1つの溶接点10′によってそれぞれリングボディ2に固定されている、図2に示す実施の形態は特に有利である。各端部エッジ12に対する第1の溶接点10′は、単に減じられた曲げ力にさらされており、さらに、後続の溶接点10へのさらなる曲げ力の導入を防ぐか又は抑制する。これにより、摩擦ライニング3とリングボディ2との間の結合の耐久性を明らかに改善することができる。
【0027】
図2に示す有利な実施の形態において、2つの端部エッジ12は互いに平行に延在している。図2の実施の形態において、2つの尖端部13はそれぞれ尖って終了している。しかし、尖端部13がそれぞれ丸味付けされている実施の形態も有利である。丸味付け部の領域において各溶接点10′を、有利には各丸味付け部の曲率半径に対して同心的に配置することができる。
【0028】
図1に示されているように、リングボディ2の内面4は、半径方向内側に開放している切欠き11を選択的に有することができる。例えば切欠き11は半径方向内側に凹状に成形されている。切欠き11は、摩擦ライニング3の2つの端部8を切欠き11内に配置することができるように寸法設定されている。有利には切欠き11は摩擦ライニング3の厚さよりも半径方向において大きく設定されている。図1から、2つの端部8は摩擦ライニング3の他の部分に対して円形状から外方に曲げられていることが認識可能である。こうして、端部8と、シンクロナイザリング1を備えた各シンクロナイザ装置の内側リングボディ(図示せず)との間に半径方向の間隔がもたらされる。内側リングボディはトルク伝達のために摩擦ライニング3と協働する。これにより、力導入は周方向6において端部8から離間してもたらされる。これにより2つの端部8に対する曲げ力による負担は軽減される。
【0029】
摩擦ライニング3は2つの端部領域9においてそれぞれ、切欠き11内に設けられている少なくとも1つの溶接点10′によってリングボディ2に固定されていることが認識可能である。溶接点10′は切欠き11内に位置決めされていて、これにより2つの端部8を切欠き11内に位置固定する。端部8において端部の減じられた曲げ負荷が発生する場合、端部8若しくは端部エッジ12から出発する第1の溶接点10′は減じられた曲げ負荷を簡単に吸収することができる。後続の溶接点10は曲げ負荷から十分に負荷軽減されている。このことは摩擦ライニング3とリングボディ2との結合の耐久性を高める。
【0030】
有利には、切欠き11は、リングボディ2が中断されないように半径方向に寸法設定されている。これにより、周方向6において閉鎖されたリングボディ2の形態が得られ、ひいてはリングボディ2の安定性が得られる。
【0031】
有利には、尖端部13は完全に切欠き11の内部に配置することができるように寸法設定されている。
【符号の説明】
【0032】
1 シンクロナイザリング、 2 リングボディ、 3 摩擦ライニング、 4 リングボディの内面、 5 軸線方向、 6 周方向、 7 間隔、 8 摩擦ライニングの端部、 9 端部領域、 10 溶接点、 10′ 第1の溶接点、 11 切欠き、 12 端部エッジ、 13 尖端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特に自動車の伝動装置のためのシンクロナイザリングにおいて、
−半径方向の内面(4)に帯状の摩擦ライニング(3)を有するリングボディ(2)を備えており、
−摩擦ライニング(3)の2つの端部(8)は周方向(6)において互いに離間されており、
−摩擦ライニング(3)は周方向(6)において互いに離間された複数の溶接点(10)によってリングボディ(2)に固定されており、
−2つの端部(8)はそれぞれ軸線方向(5)に対して傾斜した端部エッジ(12)を有しており、各端部領域(9)が周方向(6)に突出している尖端部(13)を有していることを特徴とする、伝動装置のためのシンクロナイザリング。
【請求項2】
摩擦ライニング(3)は各尖端部(13)においてそれぞれ少なくとも1つの溶接点(10′)によってリングボディ(2)に固定されていることを特徴とする、請求項1記載のシンクロナイザリング。
【請求項3】
2つの端部エッジ(12)は互いに平行に延在していることを特徴とする、請求項1又は2記載のシンクロナイザリング。
【請求項4】
各尖端部(13)は丸味付けされていることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか一項記載のシンクロナイザリング。
【請求項5】
リングボディ(2)は該リングボディ(2)の内面(4)において、半径方向内側に開放した切欠き(11)を有しており、
摩擦ライニング(3)の端部(8)が切欠き(11)内に配置されていることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか一項記載のシンクロナイザリング。
【請求項6】
摩擦ライニング(3)は該摩擦ライニング(3)の端部(8)の領域においてそれぞれ、切欠き(11)内に位置決めされた少なくとも1つの溶接点(10′)によってリングボディ(2)に固定されていることを特徴とする、請求項5記載のシンクロナイザリング。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−144931(P2010−144931A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289189(P2009−289189)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(508174975)ドクトル イング ハー ツェー エフ ポルシェ アクチエンゲゼルシャフト (134)
【氏名又は名称原語表記】Dr. Ing. h.c. F. Porsche Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Porscheplatz 1, D−70435 Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】