説明

伝熱性部材、積層体および電子部品

【課題】耐熱性に優れた伝熱性部材を提供する。
【解決手段】低軟化点を有する非晶質体(A)を含むバインダから少なくとも形成された基材と、前記基材中に含有された熱伝導性粒子(B)とを有する伝熱性部材。前記バインダは、有機高分子材料を実質的に含まないことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝熱性部材、積層体および電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気・電子部品などの発熱部材から発生する熱を逃がすため、発熱部材と放熱部材との間に、伝熱性部材が介設されている。従来の伝熱性部材は、熱可塑性樹脂などの有機高分子材料からなるバインダから形成された基材と、前記基材中に含有された熱伝導性粒子とからなる(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0003】
特許文献1には、高分子材料よりなる両面が平坦なシート基体中に、磁性を示す金属粒子が当該シート基体の厚み方向に配向された状態で含有されてなる伝熱シートが開示されている。
【0004】
特許文献2には、窒化ホウ素粉末が、シリコーンゴム、エポキシ、ポリイミド、ポリウレタンなどの高分子中に一定方向に磁場配向してなる熱伝導性成形体が開示されている。
特許文献3には、熱可塑性樹脂(A)、窒化ホウ素などの無機化合物(B)および低融点ガラスなどの低融点無機物(C)を含有し、1.5W/m・K以上の熱伝導率を有する熱可塑性樹脂組成物から形成された熱伝導性成形体が開示されている。
【0005】
特許文献4には、ガラス粉末(A)、窒化ホウ素粉末(B)および樹脂成分(C)を特定割合で含有し、且つガラス粉末(A)の比重が特定範囲にある熱伝導性組成物から形成された熱伝導性部材が開示されている。
【0006】
しかしながら、伝熱性部材を構成する基材の材料が有機高分子材料からなるバインダの場合、当該材料は熱により変質することがあるため、用途によっては当該伝熱性部材の耐熱性が不充分となるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−267480号公報
【特許文献2】特開2001−172398号公報
【特許文献3】特開2008−169265号公報
【特許文献4】特開2010−195959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、耐熱性に優れた伝熱性部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、以下の構成を有する伝熱性部材により上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は例えば以下の[1]〜[7]に関する。
[1]低軟化点を有する非晶質体(A)を含むバインダから少なくとも形成された基材と、前記基材中に含有された熱伝導性粒子(B)とを有する伝熱性部材。
[2]前記バインダが、有機高分子材料を実質的に含まない前記[1]の伝熱性部材。
[3]前記非晶質体(A)の軟化点が、50℃以上かつ400℃未満である前記[1]または[2]の伝熱性部材。
[4]前記非晶質体(A)が、リン酸系ガラスである前記[3]の伝熱性部材。
[5]前記伝熱性部材の全体積分率を100%とするとき、前記熱伝導性粒子(B)の含有量が体積分率で0.01〜90%である前記[1]〜[4]のいずれか一項の伝熱性部材。
[6]半導体素子と、放熱板と、前記素子および前記放熱板の双方に接触し、前記素子の熱を前記放熱板に伝える前記[1]〜[5]のいずれか一項の伝熱性部材とを備える積層体。
[7]前記[6]の積層体を有する電子部品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐熱性に優れた伝熱性部材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の伝熱性部材について用途および好適態様も含めて説明する。
〔伝熱性部材〕
本発明の伝熱性部材は、低軟化点を有する非晶質体(A)を含むバインダから少なくとも形成された基材と、前記基材中に含有された熱伝導性粒子(B)とを有する。前記バインダは、耐熱性の観点から、有機高分子材料を実質的に含まないことが好ましい。
【0012】
〈低軟化点を有する非晶質体(A)〉
上記バインダは、低軟化点を有する非晶質体(A)、すなわち低温で軟化する性質(低温軟化性)を有する非晶質体(A)を含む。本発明において「低軟化点」とは、例えば軟化点が400℃未満であることを意味する。非晶質体(A)の軟化点は、好ましくは50℃以上かつ400℃未満、より好ましくは50〜300℃、更に好ましくは50〜250℃である。軟化点が前記範囲にあると、バインダと熱伝導性粒子(B)とを加熱しながら混合する際、熱伝導性粒子(B)を変質させることなく、またバインダ中に熱伝導性粒子(B)を均一に存在できるよう混合することができることから、熱伝導率の高い伝熱性部材を形成することができる。軟化点の測定条件は実施例に記載したとおりである。
【0013】
低軟化点を有する非晶質体(A)としては、例えば、リン酸系ガラス、ビスマス系ガラスなどの無鉛ガラス、鉛ホウ酸ガラスなどの鉛含有ガラスが挙げられ、環境への負荷がないことから無鉛ガラスが好ましく、低軟化点を有し且つ熱伝導性粒子(B)との混合性に優れることからリン酸系ガラスがより好ましい。
【0014】
リン酸系ガラスとしては、例えば、シリコンリン酸系ガラス、バナジウムリン酸系ガラスが挙げられ、軟化点をコントロールしやすいことからシリコンリン酸系ガラスが好ましく、式(1)で表される二価の構造(A1)および式(2)で表される三価の構造(A2)から選ばれる少なくとも一種の構造を有するリン酸系ガラスが特に好ましい。
【0015】
【化1】

【0016】
式(1)中、複数あるR1はそれぞれ独立に一価の有機基を示す。式(2)中、複数あるR2はそれぞれ独立に一価の有機基を示す。式(1)および(2)中、破線は結合手を示す。
【0017】
上記リン酸系ガラスは、式(1)ではR1を2つ含むシロキサン構造を、式(2)ではR2を2つ含むシロキサン構造を有する。上記リン酸系ガラスがR1(またはR2)を2つ含むシロキサン構造を有しない場合、軟化点が大きくなり過ぎることがある。
【0018】
上記リン酸系ガラスにおいて、リン酸系ガラスの全繰り返し構造単位100質量%に対して、二価の構造(A1)の含有割合は好ましくは50〜100質量%、より好ましくは55〜100質量%、特に好ましくは60〜100質量%である。このように二価の構造(A1)および三価の構造(A2)の含有量を調整することにより、非質晶体(A)の軟化点や分解温度を制御することができる。特に二価の構造(A1)の含有割合が前記範囲にある非晶質体(A)は、低軟化点を有することから好ましい。前記の構造(A1)および(A2)の含有割合のほか、リン酸系ガラスの構造は、固体29Si NMRおよび固体13C NMRにて確認することができる。
【0019】
一価の有機基としては、例えば炭化水素基(好ましくは炭素数3〜20の炭化水素基)が挙げられ、より具体的には炭素数4以上、好ましくは4〜20の直鎖状アルキル基;炭素数3以上、好ましくは3〜20の分岐鎖状アルキル基;炭素数5以上、好ましくは5〜20のシクロアルキル基;炭素数6以上、好ましくは6〜20のアリール基が挙げられる。これらの中でも、リン酸系ガラスの合成が容易なことから、直鎖状アルキル基およびアリール基が好ましく、アリール基がより好ましい。
【0020】
直鎖状アルキル基としては、例えば、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−デカニル基が挙げられ;分岐鎖状アルキル基としては、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、t―ブチル基、ネオペンチル基が挙げられ;シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基が挙げられ;アリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基が挙げられる。
【0021】
非晶質体(A)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
非晶質体(A)の製造方法は特に限定されない。以下では一例としてシリコンリン酸系ガラスの製造方法について説明するが、下記製造方法に限定される訳ではない。シリコンリン酸系ガラスは無水酸塩基反応法およびゾルゲル法により好ましく製造することができる。
【0022】
〈無水酸塩基反応法〉
無水酸塩基反応法では、例えばR2SiCl2(Rは式(1)および(2)中のR1またはR2と同義である)と、リン酸(H3PO4)および亜リン酸(H3PO3)から選択される少なくとも1種の酸とを混合し、得られた混合物を加熱して脱HCl反応を行うことによりガラスネットワークを形成して、低軟化点を有するシリコンリン酸系ガラスを得ることができる。
【0023】
上記R2SiCl2と上記酸との量比は特に限定されないが、例えば、R2SiCl2:酸(モル比)=1:0.5〜20の割合で用いることができる。この場合、低温軟化性に優れた非晶質体を得ることができる。
【0024】
出発原料であるリン酸および亜リン酸の使用量は、目的とするシリコンリン酸系ガラスの二価の構造(A1)および三価の構造(A2)の含有割合に応じて適宜決定される。例えば、亜リン酸の使用量は、リン酸および亜リン酸の合計100質量%に対して、好ましくは10〜100質量%である。亜リン酸はリン酸に比べてOH基の数が一つ少なく、前駆体の種類が少ないため、出発原料として亜リン酸を用いることにより、構造の制御が容易となる。また、亜リン酸を多く用いるとシリコンリン酸系ガラス中の分岐構造が減るため、当該ガラスの軟化点を下げることができる。
【0025】
上記混合物の加熱温度は、通常300℃以下、好ましくは23〜300℃である。本発明ではこのように低温で反応を行うことができるため、環境負荷が小さく、また、水フリーで反応を行うことができるため、無水でかつ均一なシリコンリン酸系ガラスを容易に得ることができる。
【0026】
また、より緻密なバルク体が得られることから、上記混合物の加熱処理を2段階に分けて行ってもよく、例えば(第1段目)10〜100℃で0.1〜10時間加熱(好ましくは20〜50℃で0.5〜4時間加熱)し、続いて(第2段目)150〜300℃で0.1〜10時間加熱(好ましくは200〜270℃で0.5〜4時間加熱)してもよい。
【0027】
上記反応は、塩化スズ、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、塩化ゲルマニウムなどの金属塩化物(塩基)の存在下に行ってもよい。これにより、より強固なガラスネットワークを形成することができる。本発明では、R2SiCl2の有機部分あるいは金属塩化物を適切に選択することにより、非常に広範囲な物性制御が可能となる。
【0028】
上記反応は、例えば、窒素雰囲気下で行うことができる。
〈ゾルゲル法〉
ゾルゲル法では、例えば、出発原料を混合してゲル体を得る混合工程、前記ゲル体を加熱して溶融状態とする溶融工程、および溶融状態のゲル体を熟成する熟成工程を経て、低軟化点を有するシリコンリン酸系ガラスを得ることができる。
【0029】
混合工程では、出発原料を混合および撹拌して加水分解−重縮合させ、ゲル体を得る。
ゾルゲル法での出発原料としては、シリコンアルコキシド(R2Si(OR’)2;Rは式(1)および(2)中のR1またはR2と同義であり、R’は炭素数1〜4のアルキル基等を示す)や、リン酸および亜リン酸から選択される少なくとも1種の酸が挙げられ、必要に応じてその他のシリコンアルコキシド、リン酸エステル、亜リン酸エステルを用いることができる。例えば、シリコンアルコキシドに、リン酸および亜リン酸から選択される少なくとも1種の酸、必要に応じて水やアルコール、塩酸などの触媒を加え、縮合反応させ、ゲル体を得る。
【0030】
混合工程の後に、ゲル体を室温〜100℃で1〜3日間乾燥させてもよい。
溶融工程および熟成工程では、ゲル体を溶融状態にして更に熟成する。溶融工程および熟成工程は通常は連続して行われ、これらの工程における加熱温度は通常60〜300℃である。ゲル体の溶融および熟成の後、適宜乾燥することにより、低軟化点を有するシリコンリン酸系ガラスが得られる。また、系内に反応活性な水酸基が残留している場合は、水酸基が加水分解−脱水縮合を起こしてクラックが生じることがあるが、熟成工程により前記クラックの発生を防止することができる。
【0031】
以上のようにして、低軟化点を有するシリコンリン酸系ガラスを得ることができる。
〈基材〉
上記基材は、好ましくは、低軟化点を有する非晶質体(A)を主成分として含み、有機高分子材料を実質的に含まないバインダを用いて形成される。なお、本発明において「バインダ」とは結合するもの、つまり、接着剤のことであり、無機粒子であって伝熱性部材を構成する各成分の結合に寄与しないものは、本発明において「バインダ」ではない。
【0032】
本発明において「非晶質体(A)を主成分として含むバインダ」とは、バインダ100体積%に対して、非晶質体(A)の体積分率が95体積%以上であることを意味する。非晶質体(A)の含有量は、98〜100体積%が好ましく、99〜100体積%がより好ましい。
【0033】
本発明において「有機高分子材料を実質的に含まないバインダ」とは、バインダ中に有機高分子材料が含まれないか、あるいは非晶質体(A)の含有量が上記範囲となる限りにおいて有機高分子材料がバインダ中に存在しうることを意味する。なお、このような観点から、有機高分子材料の含有量は、基材100質量%に対して、5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましく、有機高分子材料は基材中に含まれないことがさらに好ましい。
【0034】
従来の伝熱性部材では、主として有機高分子材料を含むバインダから形成された基材を用いているため、得られる伝熱性部材の耐熱性が不充分となることがあった。これに対して本発明では、主として低軟化点を有する非晶質体(A)を含むバインダから形成されたガラス基材を用いているため、得られる伝熱性部材の耐熱性が大きく向上している。
【0035】
すなわち本発明において上記基材は、有機高分子材料からなるバインダを実質的に含まない基材、つまり有機高分子材料からなるバインダを実質的に用いずに形成された基材であることが好ましい。このような有機高分子材料としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、架橋性ゴム材料が挙げられる。
【0036】
熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン/プロピレン共重合体などのエチレン/α−オレフィン共重合体、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリフッ化ビニリデンやポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、スチレン−アクリロニトリル共重合体、ABS樹脂、ポリフェニレンエーテル、脂肪族および芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルニトリル、ポリエーテルケトン、ポリケトン、液晶ポリマー、シリコーン樹脂、アイオノマー樹脂、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、フッ素ポリマー系熱可塑性エラストマーが挙げられる。
【0037】
架橋性ゴム材料としては、例えば、天然ゴム、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴムなどの共役ジエン系ゴムおよびこれらの水素添加物、スチレン−ブタジエン−ジエンブロック共重合体ゴム、スチレン−イソプレンブロック共重合体などのブロック共重合体ゴムおよびこれらの水素添加物、クロロプレン、ウレタンゴム、ポリエステルゴム、エピクロルヒドリンゴム、シリコーンゴム、エチレン−プロピレン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴムが挙げられる。
【0038】
上記基材の形状は伝熱性部材の用途に応じて適宜選定され、例えば、塊状、シート状が挙げられる。上記基材としてシート状基材を用いる場合、その厚みは、通常1〜300μm、好ましくは10〜200μm、特に好ましくは20〜100μmである。シート状基材の厚みが前記範囲を下回ると、伝熱性部材に発熱体を密着させることが困難となることがある。シート状基材の厚みが前記範囲を上回ると、伝熱性部材の熱伝導性が不充分となることがある。
【0039】
〈熱伝導性粒子(B)〉
熱伝導性粒子(B)は、上記基材中に(例えば分散して)含有される。
熱伝導性粒子(B)としては、例えば、強磁性体粒子;窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの金属または半金属窒化物からなる粒子;酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化ベリリウム、酸化マグネシウム、酸化銅、亜酸化銅などの金属または半金属酸化物からなる粒子;炭化ケイ素、炭化ホウ素などの半金属炭化物からなる粒子;ダイヤモンドなどの絶縁性炭素材料からなる粒子;金、銀、銅、アルミニウムなどの金属からなる粒子;カーボン、ケイ素などの無機物質からなる粒子が挙げられる。
【0040】
強磁性体粒子としては、例えば、(1)ニッケル、鉄、コバルトなどの強磁性体からなる粒子、(2)前記強磁性体の合金の粒子、(3)前記強磁性体および/またはその合金を含有する粒子、(4)これらの粒子を芯粒子とし、前記芯粒子の表面に金属膜を形成してなる被覆粒子が挙げられる。芯粒子の表面に形成される金属膜は、良好な熱伝導性が得られる観点から、金、銀、銅、アルミニウムなどの芯粒子より熱伝導性が高い金属から形成されていることが好ましく、芯粒子の酸化を防止する観点から、金、銀などから形成されていることが好ましい。
【0041】
熱伝導性粒子(B)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
熱伝導性粒子(B)の中でも、粒度分布の制御が容易で、熱伝導性に優れることから、強磁性体粒子、金属または半金属窒化物からなる粒子、金属または半金属酸化物からなる粒子、半金属炭化物からなる粒子が好ましく、ニッケル粒子、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、炭化ケイ素、炭化ホウ素などの粒子がより好ましい。
【0042】
熱伝導性粒子(B)としては、以上で例示した粒子表面にはんだ合金などの低融点金属膜を形成してなる被覆粒子を用いることができる。粒子表面に低融点金属膜を形成する方法としては、例えば、化学メッキおよび電解メッキが挙げられる。
【0043】
低融点金属の被覆量は、最終的に得られる被覆粒子全体100質量%に対して、好ましくは5〜40質量%、より好ましくは10〜20質量%、特に好ましくは10〜15質量%である。
【0044】
低融点金属膜を有する熱伝導性粒子(B)を用いることにより、伝熱性部材の製造が低融点金属の融点以上の温度で行われることによって、低融点金属が溶融され、これにより、隣接する熱伝導性粒子(B)の各々が低融点金属によって連結される結果、より高い熱伝導性が得られる。
【0045】
熱伝導性粒子(B)としては、その表面がシランカップリング剤などのカップリング剤で処理されたものを適宜用いることができる。カップリング剤の使用量は、熱伝導性粒子(B)の熱伝導性に影響を与えない範囲で適宜選択される。例えば熱伝導性粒子(B)表面におけるカップリング剤の被覆率(前記粒子(B)の表面積に対するカップリング剤の被覆面積の割合)は、好ましくは5%以上、さらに好ましくは10〜100%、特に好ましくは20〜100%である。
【0046】
熱伝導性粒子(B)の50質量%平均粒子径(D50)は、好ましくは0.1〜100μm、より好ましくは0.5〜50μmである。D50が前記範囲にあると、熱伝導性粒子(B)などの固形分を高密度に充填することができ、また、良好な伝熱経路が形成されて所期の熱伝導性を得ることができる。熱伝導性粒子(B)のD50は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法によって測定される値である。D50とは、粒度分布を有する粉末において、前記粉末を粒子径の小さい粒子から累積して、累積量が全粉末量の50質量%になる粒子径をいう。
【0047】
熱伝導性粒子(B)の形状は、特に限定されないが、上記基材中に容易に分散させることができる点で、球状粒子、星形状粒子あるいはこれらが凝集してなる2次粒子による塊状粒子であることが好ましい。
【0048】
本発明の伝熱性部材において、熱伝導性粒子(B)の含有量は、前記伝熱性部材の全体積分率を100%とするとき、通常0.01〜90%、好ましくは10〜85%、より好ましくは20〜80%である。熱伝導性粒子(B)の含有量が前記範囲にあると、熱伝導性の観点から好ましい。
【0049】
〈添加剤〉
上記基材中には、熱伝導性粒子(B)のほか、本発明の目的を損なわない範囲で、可塑剤、接着助剤、ハレーション防止剤、レベリング剤、保存安定剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの添加剤を適宜配合することができる。
【0050】
〈伝熱性部材の構成〉
本発明の伝熱性部材の熱伝導率は、通常1.0W/m・K以上、好ましくは2.0W/m・K以上である。熱伝導率が前記値未満であると、伝熱性部材を放熱部材として用いた場合に、その熱伝導性が不充分となることがある。なお、熱伝導率は高いほど好ましいため上限は特にないが、その上限は、通常10.0W/m・K程度である。熱伝導率の測定条件は実施例に記載したとおりである。
【0051】
本発明の伝熱性部材の形状としては、例えば、塊状、シート状が挙げられる。
本発明の伝熱性部材がシート状部材である場合、前記部材は、上記基材の層のみからなる単層シートであってもよく、上記基材の層を二層以上有する多層シートであってもよく、上記基材の層と他の層とを有する二層以上の多層シートであってもよい。これらの中では、本発明の伝熱性部材は、その製造を簡易かつ迅速にできることから、上記基材の層のみからなる単層シートであることが好ましい。
【0052】
〔伝熱性部材の製造方法〕
本発明の伝熱性部材は、低軟化点を有する非晶質体(A)を含むバインダと熱伝導性粒子(B)と必要に応じて添加剤とから形成される。例えば、低軟化点を有する非晶質体(A)を含むバインダと熱伝導性粒子(B)と必要に応じて添加剤とを、前記非晶質体の軟化点以上、好ましくは軟化点以上かつ軟化点+100℃以下、より好ましくは軟化点以上かつ軟化点+50℃以下で加熱しながら混合し、必要に応じて所望の形状に成形することにより、本発明の伝熱性部材を製造することができる。
【0053】
〔伝熱性部材の用途〕
本発明の伝熱性部材は、耐熱性、溶剤耐性および成型加工性に優れる。前記伝熱性部材が耐熱性および溶剤耐性に優れる理由は、基材が非晶質体(A)から形成されている点にある。前記伝熱性部材が成型加工性に優れる理由は、(1)バインダである非晶質体(A)が、加熱により軟化して例えば素子と放熱板とを接着するため、これらの凹凸を上手く被覆できるという点、および(2)前記非晶質体が固体であるため、特定の場所のみに伝熱性部材を配置できるという点にある。
【0054】
したがって、本発明の伝熱性部材は、電気・電子部品などの発熱部材から発生する熱を逃がすための伝熱材(あるいは放熱部材)として好適に用いることができる。具体的には、本発明の伝熱性部材は、家電製品、OA機器部品、AV機器部品、自動車内外装部品などの発熱部材に対する伝熱材(あるいは放熱部材)として好適に用いることができる。特に、多量の熱を発する家電製品やOA機器の外装材料として好適に用いることができる。
【0055】
また、本発明の伝熱性部材は、照明装置などが有する光源で発生した熱を伝熱するための伝熱材(あるいは放熱部材)として用いることができる。特に有機エレクトロルミネセンス(EL)照明装置において、有機EL素子近傍で発生する熱を逃がすための伝熱材(あるいは放熱部材)として好適に用いることができる。
【0056】
以下、伝熱性部材の用途の一実施態様を説明する。
伝熱性部材の用途の一実施態様は、半導体素子と、放熱板と、前記素子および前記放熱板の双方に接触し、前記素子の熱を前記放熱板に伝える本発明の伝熱性部材とを備える積層体、ならびに前記積層体を有する電子部品である。
【0057】
半導体素子としては、例えば、トランジスタ、ダイオード、インバーター、有機ELパネル(有機ELパネルを備える有機ELディスプレイ)等における有機EL素子が挙げられる。
【0058】
例えば本発明の伝熱性部材を有機ELパネルに適用した場合、有機ELパネルは、(1)有機EL素子(素子)が形成された素子基板と、(2)前記素子基板に固定され、前記素子基板との間において封止空間を形成する対向基板(放熱板)と、(3)前記封止空間内に設けられ、かつ前記有機EL素子および前記対向基板の双方に接触し、前記有機EL素子の熱を前記対向基板に伝える本発明の伝熱性部材とを備える。ここで本発明の伝熱性部材は、好ましくは前記封止空間内に充填される。本発明の伝熱性部材が有機EL素子の熱を対向基板に効率よく伝えて放熱させるので、有機EL素子の発熱による素子特性の悪化を防ぐことができる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明の一実施態様を、実施例をもとにより具体的に説明する。
(1)低軟化点を有する非晶質体の調製
[参考例1]
リン酸25質量部、亜リン酸20質量部、ジフェニルジクロロシラン10質量部を含む混合溶液を、23℃で1時間、さらに250℃で3時間加熱することにより、参考例1の非晶質体を調製した。前記非晶質体をバインダ(A−1)とした。
【0060】
[参考例2]
参考例1において、混合溶液の組成を表1に記載したとおりに変更したこと以外は参考例1と同様に行い、参考例2の非晶質体を調製した。前記非晶質体をバインダ(A−2)とした。
【0061】
上記で得られた非晶質体について、下記(1−1)〜(1−2)の評価を行った。
(1−1)構造解析
非晶質体の構造を、固体29Si NMRおよび固体13C NMRにて確認した。
(1−2)軟化点
10℃/分で昇温した熱機械分析測定(TMA)での収縮量変化から軟化挙動開始点を求め、その開始温度を非晶質体の軟化点とした。
【0062】
【表1】

【0063】
(2)伝熱性部材の調製
[実施例1]
バインダ(A−1)と熱伝導性粒子(B−1)とを、前記粒子(B−1)の体積分率が75%となる割合で、170℃(使用したバインダの軟化点+20℃)で加熱しながら均一に混合することにより、実施例1の伝熱性部材を調製した。
【0064】
[実施例2〜4]
実施例1において、組成および加熱温度を表2に記載したとおりに変更したこと以外は実施例1と同様に行い、実施例2〜4の伝熱性部材を調製した。
【0065】
バインダ以外の成分の詳細は以下のとおりである。
B−1:D50=0.7μmのニッケル粒子。
B−2:窒化ホウ素粉末(不定形、D50=4.0μm、比重=2.6)
(3)評価
得られた伝熱性部材について、下記(3−1)および(3−2)の評価を行った。
(3−1)耐熱性
伝熱性部材を高温雰囲気下(300℃)に5時間さらした。高温雰囲気下にさらす前後での伝熱性部材の質量減少率(%)を、{高温雰囲気下にさらす前の伝熱性部材の質量−高温雰囲気下にさらした後の伝熱性部材の質量}/{高温雰囲気下にさらす前の伝熱性部材の質量}×100(単位:質量%)より算出した。評価基準は以下のとおりである。
【0066】
A:質量減少率が1%未満。
B:質量減少率が1%以上。
(3−2)熱伝導率
伝熱性部材を厚さ1mmのシート状に成形し、温度波熱分析法による熱伝導率測定システム「ai−Phase Mobile 1u」(株式会社アイフェイズ製)を用いて熱伝導率を測定した。評価基準は以下のとおりである。
【0067】
A:熱伝導率が1W/m・K以上。
B:熱伝導率が1W/m・K未満。
実施例における以上の条件および評価結果を表1に示す。
【0068】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
低軟化点を有する非晶質体(A)を含むバインダから少なくとも形成された基材と、
前記基材中に含有された熱伝導性粒子(B)と
を有する伝熱性部材。
【請求項2】
前記バインダが、有機高分子材料を実質的に含まない請求項1の伝熱性部材。
【請求項3】
前記非晶質体(A)の軟化点が、50℃以上かつ400℃未満である請求項1または2の伝熱性部材。
【請求項4】
前記非晶質体(A)が、リン酸系ガラスである請求項3の伝熱性部材。
【請求項5】
前記伝熱性部材の全体積分率を100%とするとき、前記熱伝導性粒子(B)の含有量が体積分率で0.01〜90%である請求項1〜4のいずれか一項の伝熱性部材。
【請求項6】
半導体素子と、放熱板と、前記素子および前記放熱板の双方に接触し、前記素子の熱を前記放熱板に伝える請求項1〜5のいずれか一項の伝熱性部材とを備える積層体。
【請求項7】
請求項6の積層体を有する電子部品。

【公開番号】特開2012−222106(P2012−222106A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85408(P2011−85408)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】