説明

伝達比可変装置

【課題】ロック作動時の瞬間的な衝撃力に対する耐滑り性を向上させるとともに、差動機構の異常時における操舵性能を維持することのできる伝達比可変装置を提供する。
【解決手段】ロック装置は、外周面に係合爪60が係合可能な補助係合溝が形成された補助ロックホルダ101を備え、同補助ロックホルダ101をモータ軸の軸方向においてロックホルダ53と並置するとともに、モータ軸に対して相対回転不能に固定した。また、ロックアーム54を、係合溝及び補助係合溝に係合可能な第1係合位置と係合溝のみに係合可能な第2係合位置との間で移動可能に設けた。そして、駆動機構55は、モータ軸の回転を拘束するロック作動時において、ロックアーム54が第1係合位置にある状態でモータ軸の回転を拘束した後、該ロックアーム54を第2係合位置に移動させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動機構を用いてステアリング操作に基づく入力軸の回転にモータ駆動に基づく回転を上乗せして出力軸に伝達する伝達比可変装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の伝達比可変装置として、差動機構及びモータを収容するハウジングが自動車の車体に固定され、入力軸の回転によってハウジングが回転しないハウジング固定型のものが知られている(例えば、特許文献1参照)。こうした伝達比可変装置には、モータへの電力供給の停止時に、モータ軸が空転することを防いで入力軸と出力軸との間のトルク伝達を可能とすべく、同モータ軸の回転を拘束するロック装置が設けられている。
【0003】
一般にこのようなロック装置は、モータ軸に一体回転可能に設けられるロックホルダと、ハウジング等の非回転部位に設けられるロックアームとを備え、ロックホルダの外周面に形成された係合溝にロックレバーの係合爪を係合させることによりモータ軸の回転を拘束する構成となっている。そして、上記ハウジング固定型の伝達比可変装置に設けられるロック装置では、モータ軸とロックホルダとの間にトレランスリングが介在されており、所定値以上のトルク入力があった場合に、モータ軸の回転を許容するようになっている。これにより、モータ軸の回転が拘束されたロック状態で、異物の噛み込みにより差動機構が回転不能となった場合でも、ステアリング操作が妨げられることを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−38990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、トレランスリングによりモータ軸とロックホルダとの相対回転が許容されるのは、上記のように差動機構の異常時においてステアリング操作が妨げられることを防ぐフェールセーフ措置であり、通常時にモータ軸とロックホルダとが相対回転することは、装置の信頼性確保等の観点から好ましくない。しかし、例えばステアリングを操舵エンドまで切り込んだ状態からさらに切り込んだ場合等、モータ軸が高速で回転している状態でロック作動すると、ロックアームの係合爪が係合溝に係合する瞬間に大きな衝撃力がロックホルダに作用することがある。その結果、異常時でなくとも、モータ軸とロックホルダとが相対回転する、すなわちロックホルダがモータ軸に対して滑る虞がある。
【0006】
そこで、トレランスリングとロックホルダ又はモータ軸との間の摩擦抵抗を予め大きく設定することで、瞬間的な衝撃力に対するロックホルダの耐滑り性を向上させることが考えられるが、この場合には、差動機構の異常時においてステアリング操作に必要な操舵力が過大になる虞があり、この点においてなお改善の余地があった。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、ロック作動時の瞬間的な衝撃力に対する耐滑り性を向上させるとともに、差動機構の異常時における操舵性能を維持することのできる伝達比可変装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、ステアリング操作に基づく入力軸の回転にモータ駆動に基づく回転を上乗せして出力軸に伝達する差動機構と、前記入力軸の回転によって回転しない非回転部材とモータ軸とを相対回転不能に拘束するロック装置とを備え、前記ロック装置は、前記モータ軸と一体回転可能に設けられるとともに外周面に係合溝が形成されたロックホルダ、前記係合溝に係合する係合爪が形成されて前記ロックホルダの回転を拘束可能なロックアーム、及び前記ロックアームを駆動して前記係合爪を前記係合溝に係脱させる駆動手段を有し、前記モータ軸と前記ロックホルダとの間には、摩擦抵抗に基づいて前記モータ軸と前記ロックホルダとの相対回転を規制又は許容するトレランスリングが介在される伝達比可変装置において、前記ロック装置は、外周面に前記係合爪が係合可能な補助係合溝が形成された補助ロックホルダを備え、前記補助ロックホルダは、前記モータ軸の軸方向において前記ロックホルダと並置されるとともに、該補助ロックホルダを前記モータ軸に対して相対回転させ得る最小のトルクの大きさが前記ロックホルダを前記モータ軸に対して相対回転させ得る最小のトルクの大きさよりも大きく設定され、前記ロックアームは、少なくとも前記補助係合溝に係合可能な第1係合位置と前記係合溝のみに係合可能な第2係合位置との間で移動可能に設けられ、前記駆動手段は、ロック作動時において、前記ロックアームが前記第1係合位置にある状態で前記モータ軸の回転を拘束した後に該ロックアームを前記第2係合位置に移動させることを要旨とする。
【0009】
上記構成によれば、ロック作動時において、係合爪は、モータ軸に対して相対回転し得る最小のトルクがロックホルダのそれよりも大きな補助ロックホルダの補助係合溝に係合する。そのため、大きな衝撃力が作用しても、補助ロックホルダがモータ軸に対して相対回転しなければ、ロックホルダも相対回転しない。これにより、ロック作動時の瞬間的な衝撃力に対するロックホルダの耐滑り性を向上させることが可能になる。そして、モータ軸の回転を拘束した後に、ロックアームが第1係合位置から第2係合位置に移動することで、係合爪は係合溝のみに係合する状態となる。そのため、モータ軸は、ロックホルダのみを相対回転させることで非回転部材に対して相対回転できるようになる。これにより、差動機構の異常時においてステアリング操作に必要な操舵力が増大することを防ぎ、操舵性能を維持できる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の伝達比可変装置において、前記駆動手段は、前記ロックホルダの径方向外側に設けられ、前記ロックアームを回動可能且つ前記第1係合位置と前記第2係合位置との間で移動可能に支持する支持軸と、前記支持軸の軸方向に貫通した貫通孔を有する軸状のプランジャと、前記貫通孔に挿通され、前記プランジャと前記ロックアームにおける前記係合爪と反対側の連結部とを連結するヒンジピンと、電磁的な吸引力により前記プランジャを後退させることで前記係合爪が前記ロックホルダから離間するように前記ロックアームを回動させるソレノイドと、前記ソレノイドへの電力供給を制御する制御装置と、前記係合爪が前記ロックホルダ側に向かって回動するように前記ロックアームを付勢する第1付勢部材とを備え、前記駆動手段は、前記ソレノイドで発生する吸引力に応じて前記ロックアームを回動させることにより前記係合爪を前記係合溝に係脱させるものであって、前記第1付勢部材よりも小さな付勢力で前記プランジャを前進させるように付勢する第2付勢部材と、前記ロックアームを前記第2係合位置側に押圧する押圧部材と、前記ヒンジピンに対して前記ロックアームと一体で移動可能に設けられる規制部材とを備え、前記規制部材は、前記貫通孔の内周面に前記ヒンジピンが当接した状態で前記プランジャに当接することにより前記ロックアームの前記第2係合位置への移動を規制するとともに、前記貫通孔内に挿入されることにより前記ロックアームの前記第2係合位置への移動を許容するように形成され、前記制御装置は、ロック作動時において、前記第1付勢部材の付勢力よりも小さく、且つ前記第2付勢部材の付勢力よりも大きな吸引力を前記ソレノイドで発生させた後に、前記ソレノイドで発生する吸引力を前記第2付勢部材の付勢力よりも小さくすることを要旨とする。
【0011】
上記構成によれば、制御装置が、第1付勢部材の付勢力よりも小さく、且つ第2付勢部材の付勢力よりも大きな吸引力をソレノイドで発生させると、同第1付勢部材の付勢力によって係合爪が補助ロックホルダ側に向かうようにロックアームが回動する。そして、ロックアームの回動に伴ってヒンジピンが貫通孔の内周面を押圧することにより、ソレノイドの吸引力に抗してプランジャを前進させる。このとき、貫通孔の内周面には、ヒンジピンが当接した状態となる。また、ソレノイドで発生する吸引力は、第2付勢部材の付勢力よりも大きいため、同第2付勢部材の付勢力によってはプランジャが前進せず、ヒンジピンが貫通孔の内周面に当接したままとなる。そのため、ロック作動時において、規制部材は貫通孔内に挿入されず、ロックアームの位置は第1係合位置で保持される。これにより、ロックアームは第1係合位置にある状態で回動し、係合爪が補助係合溝に係合する。
【0012】
そして、制御装置がソレノイドで発生する吸引力を第2付勢部材の付勢力よりも小さくすると、同第2付勢部材の付勢力によってプランジャが前進し、ヒンジピンが貫通孔の内周面から離間する。これにより、押圧部材によって規制部材が貫通孔内に挿入さるとともにロックアームが第2係合位置に移動し、係合爪が係合溝のみに係合する状態となる。このように上記構成によれば、ソレノイドの吸引力を制御することにより、係合爪を補助係合溝に係合させた後に、ロックアームを第2係合位置に移動させて係合爪を係合溝のみに係合させることができる。従って、例えばリニアモータ等を用いてプランジャの位置制御を実行する場合に比べ、簡易な構成で、瞬間的な衝撃力に対する耐滑り性を向上させるとともに、差動機構の異常時における操舵性能を維持することができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の伝達比可変装置において、前記貫通孔の内周面は、前記プランジャが後退することにより前記規制部材を介して前記ロックアームを前記第1係合位置側に押圧するように形成されたことを要旨とする。
【0014】
上記構成によれば、別途ロックアームを第1係合位置側に移動させる機構を設けずとも、プランジャを後退させることでロックアームを第1係合位置に移動させてモータ軸が回転可能なロック解除状態とすることができる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の伝達比可変装置において、前記補助ロックホルダは、前記モータ軸に対して相対回転不能に固定されたことを要旨とする。
【0016】
上記構成によれば、補助ロックホルダがモータ軸に対して相対回転不能に固定されるため、ロック作動時の衝撃力に対する耐滑り性を十分に向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ロック作動時の瞬間的な衝撃力に対する耐滑り性を向上させるとともに、差動機構の異常時における操舵性能を維持することのできる伝達比可変装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態の伝達比可変装置を備えた車両用操舵装置の概略構成図。
【図2】本実施形態の伝達比可変装置の断面図。
【図3】本実施形態のロック装置の概略構成図(A−A断面図)。
【図4】本実施形態のロック装置におけるロックアームとプランジャとの連結部分の側面を示す概略構成図。
【図5】本実施形態の伝達比可変装置のブロック図。
【図6】本実施形態の補助ロックホルダの概略構成図(B−B断面図)。
【図7】本実施形態のECUによるロック作動時の処理手順を示すフローチャート。
【図8】(a)〜(c)本実施形態のロック装置におけるロック作動時の動作を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、車両用操舵装置1において、ステアリング2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック軸5と連結されている。これにより、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック軸5の往復直線運動に変換される。なお、ステアリングシャフト3は、コラム軸8、中間軸9、及びピニオン軸10を連結してなる。そして、このステアリングシャフト3の回転に伴うラック軸5の往復直線運動が、同ラック軸5の両端に連結されたタイロッド11を介して図示しないナックルに伝達されることにより、転舵輪12の舵角、すなわち車両の進行方向が変更される。
【0020】
なお、車両用操舵装置1は、モータ13を駆動源として、ラック軸5を軸方向移動させる所謂ラックアシスト型の電動パワーステアリング装置として構成されている。具体的には、車両用操舵装置1は、モータ13の回転をボール螺子機構14によってラック軸5の往復動に変換して伝達することにより、そのモータトルクをアシスト力として操舵系に付与する構成となっている。
【0021】
車両用操舵装置1は、ステアリング2の舵角(操舵角)に対する転舵輪12の舵角(タイヤ角)の比率、すなわち伝達比(ステアリングギヤ比)を可変させる伝達比可変装置15と、該伝達比可変装置15の作動を制御する制御装置としてのECU16とを備えている。
【0022】
伝達比可変装置15は、ステアリングシャフト3を構成するピニオン軸10の途中に設けられており、自動車の車体(図示略)に固定されるラックハウジング17に連結されたピニオンハウジング18内に収容されている。なお、本実施形態のピニオン軸10には、上記アシスト力の制御に用いる操舵トルクを検出するためのトルクセンサ19が併せて設けられている。
【0023】
詳述すると、図2に示すように、ピニオンハウジング18は、ラックハウジング17の上部に固定された略円筒状のロアハウジング21と、同ロアハウジング21の上端に固定された略円筒状のアッパハウジング22とを備えている。そして、ピニオン軸10は、ピニオンハウジング18内に挿通されることにより、その一端に形成されたピニオン歯10aがラック軸5のラック歯(図示略)と噛合された状態で回転可能に支持されている。
【0024】
ピニオン軸10は、中間軸9に連結される(図1参照)ことによりステアリング操作に伴う回転が入力される入力軸24と、一端に上記ピニオン歯10aが形成された出力軸25とにより構成されている。伝達比可変装置15は、これら入力軸24及び出力軸25の間に介在された差動機構としての波動歯車機構26と、波動歯車機構26を駆動するモータ27とを備えており、アッパハウジング22に収容されている。
【0025】
そして、伝達比可変装置15は、ステアリング操作に伴う入力軸24の回転に、モータ駆動に基づく回転を上乗せして出力軸25に伝達し、ラックアンドピニオン機構4に入力される回転を増速(又は減速)することにより、ステアリング2と転舵輪12との間の伝達比を任意に変更することが可能となっている。なお、本実施形態では、モータ27には、ブラシレスモータが採用されている。そして、ECU16(図1参照)は、駆動電力の供給を通じて同モータ27の回転を制御することにより、この伝達比可変装置15の作動を制御する(伝達比可変制御)。
【0026】
さらに詳述すると、入力軸24は、アッパハウジング22の上端部22aに設けられた軸受31により回転可能に支持されている。一方、出力軸25は、ロアハウジング21に設けられた軸受32a,32bにより、その一端側がアッパハウジング22内に突出した状態で回転可能に支持されている。なお、出力軸25は、その一端が波動歯車機構26に連結される第1の軸部材25aと、一端にピニオン歯10aが形成された第2の軸部材25bとを、トーションバー25cを介して連結することにより形成されている。そして、トルクセンサ19は、そのトーションバー25cの捩れ角を測定することにより、操舵系に入力される操舵トルクを検出するように構成されている。
【0027】
伝達比可変装置15のモータ27は、中空状のモータ軸34を有するロータ35と、ロータ35を回転させるための回転磁界を発生させるステータ36とを備えている。ステータ36は、アッパハウジング22の内周に固定されたモータハウジング37内に配置されている。ロータ35は、モータハウジング37内に設けられた軸受38a,38bにより回転可能に支持されている。そして、出力軸25におけるアッパハウジング22内に突出された部分は、モータ軸34内に相対回転可能に挿通され、その一端が同アッパハウジング22の上端部22a(図2における上側の端部)近傍に配置されている。なお、モータ27の軸方向一端側(図2における下側)には、ロータ35の回転角を検出する回転角センサ39が設けられている。
【0028】
波動歯車機構26は、モータ27の軸方向他端側(図2における上側)に並置されている。なお、波動歯車機構26は、同軸に並置された一対のサーキュラスプライン41,42と、各サーキュラスプライン41,42と部分的に噛み合うように同軸配置された筒状のフレクスプライン43と、モータ駆動によりフレクスプライン43の噛合部を回転させる波動発生器44とを有する周知の構成となっている(例えば、特許文献1参照)。そして、波動歯車機構26は、入力軸24にサーキュラスプライン41が連結されるとともに、出力軸25にサーキュラスプライン42が連結されており、波動発生器44をモータ駆動することにより、ステアリング2と転舵輪12との間の伝達比を変更する。
【0029】
また、伝達比可変装置15は、モータ27(回転角センサ39)の軸方向一端側に、ピニオンハウジング18(アッパハウジング22)に対してモータ軸34を回転不能に拘束(ロック)するロック装置51を備えている。なお、アッパハウジング22は、上記のように車体に対して固定されたラックハウジング17に固定されており、入力軸24の回転によって回転されないようになっている。すなわち、本実施形態では、アッパハウジング22が非回転部材に相当する。そして、このロック装置51により、必要に応じて、その伝達比を機械的に固定することが可能となっている。
【0030】
詳述すると、図3に示すように、ロック装置51は、モータ軸34にトレランスリング52を介して一体回転可能に設けられるロックホルダ53と、同ロックホルダ53(の回転)を拘束可能なロックアーム54と、該ロックアーム54を駆動する駆動手段としての駆動機構55とを備えている。
【0031】
ロックホルダ53は、略円環状に形成されている。ロックホルダ53の外周面53aには、その厚み方向両側に開口し、周方向に延びる複数(本実施形態では、4つ)の係合溝56が凹設されている。各係合溝56は、ロックホルダ53の外周面53aにおいて、等角度間隔(90°間隔)で4箇所に形成されている。なお、本実施形態では、各係合溝56は、周方向に延びる浅溝56aと、同浅溝56a内における周方向端部の一方に設けられた深溝56bとにより構成されている。そして、隣り合う二つの係合溝56の間には、見かけ上、各係合溝56における周方向両側の端壁部57が径方向外側に突出している。
【0032】
ロックアーム54は、略円筒状の筒状部59と、筒状部59からその径方向外側に延出されるとともに、その先端がロックホルダ53に向かって突出する係合爪60と、筒状部59から係合爪60と反対側に延出されるとともに該筒状部59の軸方向に間隔を空けて設けられる一対の連結部61とからなる。各連結部61には、一端が開口した長円形状の長孔61aがそれぞれ形成されている。また、ロックホルダ53の径方向外側には、モータ軸34と平行な支持軸62が立設されている。なお、支持軸62は、アッパハウジング22に固定されたモータハウジング37上に固定されている(図2参照)。そして、ロックアーム54は、その筒状部59に支持軸62が挿通されることにより、同支持軸62を中心として回動可能に支持されている。
【0033】
駆動機構55は、軸状のプランジャ64と、プランジャ64を電磁的な吸引力によりその軸方向に移動させるソレノイド65と、ロックアーム54を付勢する一対の第1付勢部材66とを備えている。
【0034】
図3及び図4に示すように、プランジャ64におけるロックアーム54の連結部61と連結される突出部67は、略平板状に形成されており、同突出部67には支持軸62の軸方向に貫通した貫通孔68が形成されている。そして、プランジャ64は、貫通孔68に挿通される軸状のヒンジピン69を介してロックアーム54に連結されている。具体的には、ヒンジピン69の両端には、ロックアーム54の連結部61に形成された長孔61aに挿入される挿入片69aがそれぞれ形成されている。そして、ヒンジピン69は、プランジャ64の貫通孔68内に挿入された状態で挿入片69aが長孔61a内に挿入されることで、プランジャ64とロックアーム54とを連結している。
【0035】
ソレノイド65は、筐体71内に設けられたコイル72に通電することにより、同筐体71内に固定された固定鉄心73を励磁してプランジャ64を吸引する構成となっている。そして、プランジャ64を後退させる、すなわちプランジャ64を吸引して筐体71内に引き込むことにより、係合爪60がロックホルダ53から離間するようにロックアーム54を回動させる。
【0036】
第1付勢部材66は、それぞれ捩りコイルバネからなり、支持軸62の両端部外周にそれぞれ装着されている。そして、各第1付勢部材66は、その一端が支持軸62に係止するとともに、その他端がロックアーム54に係止することで、それぞれ係合爪60がロックホルダ53に近接するようにロックアーム54を付勢している。
【0037】
また、図3に示すように、モータ軸34とロックホルダ53との間には、トレランスリング52が介在されている。なお、図3では、説明の便宜上、トレランスリング52の大きさを誇張して示す。トレランスリング52は、帯状の金属板を略C字状に湾曲させることにより形成されており、その本体部75からは径方向外側に突出する複数の凸部76が形成されている。そして、トレランスリング52は、その外周面(凸部76)とロックホルダ53との摩擦抵抗に基づいてモータ軸34とロックホルダ53との相対回転を規制する。一方、トレランスリング52は、所定値以上のトルク入力がある場合には、その外周面が滑り面となることにより、ロックホルダ53に対して相対回転することで上記モータ軸34とロックホルダ53との相対回転を許容する、すなわちトルクリミッタとしての機能を果たすようになっている。
【0038】
従って、ソレノイド65への通電によりロックアーム54の係合爪60がロックホルダ53から離間する方向に駆動されたロック解除状態では、モータ軸34がアッパハウジング22に対して回転可能となる。これにより、上記のようにステアリング操作に基づく入力軸24の回転にモータ駆動に基づく回転が上乗せされて出力軸25に伝達される。
【0039】
一方、ロックアーム54の係合爪60が係合溝56内に挿入されて端壁部57のみと係合したロック状態では、モータ軸34のアッパハウジング22に対する回転が拘束される。このようなロック状態では、モータ27への電力供給の停止された状態においても、モータ軸34がステータ36に対して空転することを防止して入力軸24と出力軸25との間のトルク伝達が可能となる。また、ロック状態において、波動歯車機構26に異物の噛み込み等の異常が発生して入力軸24及び出力軸25がモータ軸34に対して相対回転不能となった場合でも、所定値以上のトルクが入力されることにより入力軸24及び出力軸25がモータ軸34と一体でアッパハウジング22に対して相対回転する。これにより、異常時においても継続してステアリング操作を行うことが可能な構成となっている。
【0040】
次に、本実施形態の伝達比可変装置の電気的構成について説明する。
図1に示すように、ECU16には、ステアリングセンサ(操舵角センサ)81により検出された操舵角θs、及び車速センサ82により検出された車速SPDが入力される。そして、ECU16は、これら操舵角θs及び車速SPDに基づいてモータ27の回転を制御することにより伝達比可変装置15の作動を制御する。
【0041】
詳述すると、図5に示すように、ECU16は、モータ制御信号を出力するマイコン83と、モータ制御信号に基づいてモータ27に駆動電力を供給する駆動回路84とを備えている。なお、駆動回路84には、直列に接続された一対のスイッチング素子を基本単位(スイッチングアーム)として、三相のモータコイル(図示略)に対応する3つのスイッチングアームを並列に接続してなる周知のPWMインバータが採用されている。
【0042】
マイコン83は、操舵角θs及び車速SPDに基づいて、ステアリング操作に伴う入力軸24の回転に上乗せする回転の制御目標値であるACT指令角θta*を演算する伝達比可変制御部85を備えている。また、マイコン83は、回転角センサ39により検出されるモータ27のモータ回転角θmに基づいて、入力軸24の回転に上乗せしている回転の実際の制御量であるACT角θtaを演算するACT角演算部86を備えている。
【0043】
伝達比可変制御部85により演算されたACT指令角θta*、及びACT角演算部86により演算されたACT角θtaは、モータ回転角θmとともにモータ制御信号出力部87に入力される。モータ制御信号出力部87は、ACT指令角θta*にACT角θtaを追従させるべく位置フィードバック制御を実行することにより、上記駆動回路84に出力するモータ制御信号を演算する。そして、このようにして生成されたモータ制御信号が、マイコン83から駆動回路84へと出力され、同駆動回路84により当該モータ制御信号に基づく駆動電力がモータ27へ供給されることにより、モータ駆動に基づく回転がステアリング操作に伴う入力軸24の回転に上乗せされるようになっている。
【0044】
また、ECU16は、上記モータ駆動用の駆動回路84に加え、ロック制御用、すなわちロック装置51の駆動源であるソレノイド65に駆動電力を供給するための駆動回路91を備えている。そして、マイコン83は、駆動回路91にロック制御信号を出力することにより、同駆動回路91からソレノイド65への電力供給を通じてロック装置51の作動を制御する。なお、駆動回路91は、スイッチング素子(パワーMOSFET)により構成されており、上記ロック制御信号は、そのデューティ比(オンDuty)を示すものとなっている。
【0045】
詳述すると、マイコン83は、ロック装置51を作動させるか否かを判定するロック制御部92と、ロック制御部92から出力されるロック判定信号に基づいてロック制御信号を出力するロック制御信号出力部93とを備えている。ロック制御部92には、車両のイグニッションスイッチ(IG)のオン/オフ状態を示すイグニッション信号S_ig、及びモータ27に通電される電流値Iが入力される。なお、電流値Iは、上記駆動回路84の電源線に設けられた電流センサ94により検出される。ロック制御部92は、その入力される各種の状態量に基づいて、ロック装置51を作動させるか否かを判定し、その判定結果を示すロック判定信号をロック制御信号出力部93及び上記モータ制御信号出力部87に出力する。
【0046】
具体的には、ロック制御部92は、IGオンであることを示すイグニッション信号S_igが入力された場合には、ロック装置51をロック解除状態とする旨のロック判定信号を出力する。一方、IGオフであることを示すイグニッション信号S_igが入力された場合には、ロック装置51をロック状態とする旨のロック判定信号を出力する。
【0047】
また、本実施形態のロック制御部92は、電流値Iに基づいてモータ27の温度を推定し、その温度が所定温度を超えた場合には、過熱保護のためにモータ27を停止するとともにロック装置51をロック状態とする。詳しくは、演算周期毎に入力される電流値Iを積算し、その積算値が所定温度に対応する閾値を超えた場合には、ロック装置51をロック状態とする旨のロック判定信号をモータ制御信号出力部87及びロック制御信号出力部93に出力する。なお、ロック制御部92は、電流値Iの積算値が所定値を超えたことによりロック装置51をロック状態とした場合には、一定時間経過後に再びロック装置51をロック解除状態とする旨のロック判定信号を出力する。
【0048】
ロック制御信号出力部93は、ロック判定信号に応じてロック装置51が作動するようにロック制御信号を演算する。そして、このように生成されたロック制御信号が、マイコン83から駆動回路91へと出力され、同駆動回路91により当該ロック制御信号に基づく駆動電力がソレノイド65へ供給されることにより、ロック装置51の作動が制御されるようになっている。なお、モータ制御信号出力部87は、ロック装置51をロック状態とする旨のロック判定信号が入力されると、モータ27への通電を停止するようになっている。
【0049】
(耐滑り性強化構造)
次に、本実施形態のロック装置におけるロックホルダのモータ軸に対する耐滑り性を向上させるための構造について説明する。
【0050】
上述のようにモータ軸34が高速で回転している状態で、ロック装置51がモータ軸34の回転を拘束すべくロック作動すると、ロックホルダ53に大きな衝撃力が作用することで、波動歯車機構26の異常時でなくとも、モータ軸34とロックホルダ53とが相対回転する、すなわちロックホルダ53がモータ軸34に対して滑る虞がある。しかし、トレランスリング52とロックホルダ53との間の摩擦抵抗を予め大きく設定すると、波動歯車機構26の異常時においてステアリング操作に必要な操舵力が過大になる虞がある。
【0051】
この点を踏まえ、図2に示すように、ロック装置51は、モータ軸34の軸方向においてロックホルダ53と並置されるとともに、モータ軸34に対して相対回転不能に固定された補助ロックホルダ101を備えている。図6に示すように、補助ロックホルダ101の外周面101aには、ロックアーム54の係合爪60が係合可能な補助係合溝102が形成されている。また、図4に示すように、ロックアーム54は、支持軸62に対して係合溝56及び補助係合溝102の双方に係合可能な第1係合位置と、係合溝56のみに係合可能な第2係合位置との間で、同支持軸62の軸方向に移動可能に支持されている。なお、図4において、第1係合位置にある状態のロックアーム54を実線で示し、第2係合位置にある状態のロックアーム54を二点鎖線で示す。そして、駆動機構55は、ロック作動時において、第1係合位置にある状態のロックアーム54を回動させて係合爪60を係合溝56及び補助係合溝102に係合させることによりモータ軸34の回転を拘束した後、該ロックアーム54を第2係合位置に移動させるようになっている。
【0052】
詳述すると、図6に示すように、補助ロックホルダ101は、ロックホルダ53の外径と等しい外径を有する円環状に形成されている。補助係合溝102は、補助ロックホルダ101の厚み方向両側に開口し、周方向に延びた略円弧状に形成されるとともに、同補助ロックホルダ101の外周面101aにおいて等角度間隔で4箇所に形成されている。なお、本実施形態では、各補助係合溝102は、係合溝56と同一形状に形成されている。すなわち、各補助係合溝102は、周方向に延びる浅溝102aと、同浅溝102a内における周方向端部の一方に設けられた深溝102bとにより構成されており、隣り合う二つの補助係合溝102の間には、見かけ上、各係合溝56における周方向両側の端壁部103が径方向外側に突出している。そして、補助ロックホルダ101は、モータ軸34の軸方向視で、各補助係合溝102の位置がロックホルダ53の各係合溝56と一致するようにモータ軸34に固定されている。
【0053】
図3及び図4に示すように、駆動機構55は、プランジャ64を前進させる、すなわちプランジャ64を筐体71から突出させるように付勢する第2付勢部材104を備えている。具体的には、プランジャ64における突出部67のソレノイド65側の端部には、径方向外側に延出される環状のフランジ105が形成されている。そして、フランジ105とソレノイド65の筐体71との間には、圧縮コイルバネからなる第2付勢部材104が介在されており、同第2付勢部材104によりプランジャ64が前進するように付勢されている。第2付勢部材104の付勢力は、第1付勢部材66の付勢力よりも小さくなるように設定されている。
【0054】
また、駆動機構55は、ロックアーム54を第2係合位置側に押圧する押圧部材106を備えている。具体的には、支持軸62には、ロックアーム54の筒状部59における補助ロックホルダ101側の端部と対向する位置に径方向外側に延出される環状のフランジ107が形成されている。そして、フランジ107とロックアーム54の筒状部59との間には、圧縮コイルバネからなる押圧部材106が介在されており、同押圧部材106によりロックアーム54が第2係合位置側に押圧されている。
【0055】
さらに、駆動機構55は、ヒンジピン69に対してロックアーム54と一体でモータ軸34(支持軸62)の軸方向に移動可能に固定される規制部材108を備えており、同規制部材108によりロック解除状態及びロック作動直後の状態でロックアーム54が第2係合位置に移動すること規制している。
【0056】
具体的には、規制部材108は、ヒンジピン69の外径よりも大きな外径を有する略円柱状に形成されるとともに、同ヒンジピン69と同軸上に固定されている。規制部材108のプランジャ64側の先端面108aは、プランジャ64の貫通孔68の内径よりも小さく、且つヒンジピン69の外径よりも大きな外径を有する円環状に形成されている。そして、規制部材108の先端面108aは、貫通孔68の内周面にヒンジピン69が当接した状態でプランジャ64の側面64aに当接するように形成されており、この状態で、ロックアーム54が第2係合位置へ移動することを規制するようになっている。一方、規制部材108は、ヒンジピン69が貫通孔68の内周面から離間し、ヒンジピン69と貫通孔68とが同軸上に配置された状態で、貫通孔68内に挿入可能となり、ロックアーム54が押圧部材106に押圧されることにより第2係合位置へ移動することを許容するようになっている。
【0057】
また、貫通孔68の内周面は、プランジャ64がソレノイド65に吸引されて後退することにより規制部材108を介してロックアーム54を第1係合位置側に押圧するように形成されている。具体的には、貫通孔68の内周面は、規制部材108の当接する側面64a側から反対側の側面64b側に向かうにつれて縮径するテーパ状に形成されている。一方、規制部材108における貫通孔68に挿入される挿入部109は、先端面108aに近づくにつれて縮径するテーパ状に形成されている。これにより、貫通孔68に規制部材108が挿入された状態でプランジャ64が後退することで、貫通孔68の内周面から規制部材108に支持軸62の軸方向に沿った分力が作用し、ロックアーム54が第1係合位置側に押圧される構成となっている。
【0058】
そして、ソレノイド65の作動を制御するECU16は、ロック装置51をロック作動させる際において、先ず第1付勢部材66の付勢力よりも小さく且つ第2付勢部材104の付勢力よりも大きな第1の吸引力をソレノイド65で発生させた後、ソレノイド65への通電を停止する。詳しくは、図5に示すように、ロック制御信号出力部93は、ロック制御部92からロック状態とする旨のロック判定信号が入力されると、ソレノイド65で第1の吸引力が発生するようなデューティ比を示すロック制御信号を駆動回路91に出力する。そして、所定時間(本実施形態では、極僅かな時間)経過後に、ソレノイド65への通電を停止させる旨のロック制御信号(デューティ比=0)を駆動回路91に出力する。なお、ロック制御信号出力部93は、ロック解除状態において、第1付勢部材66及び第2付勢部材104の付勢力の合計よりも大きな第2の吸引力がソレノイド65で発生するようなデューティ比を示すロック制御信号を駆動回路91に出力する。
【0059】
すなわち、図7のフローチャートに示すように、ECU16は、入力される電流値Iに基づいてロック装置51をロック作動させるか否かの判定(ロック判定)を行う(ステップ101)。続いて、ロック判定の結果に基づきロック作動させる場合には(ステップ102:YES)、ソレノイド65で第1の吸引力を発生させる旨のロック制御信号を出力し(ステップ103)、所定時間経過後にソレノイド65への通電を停止する旨のロック制御信号を出力する(ステップ104)。なお、ロック判定の結果に基づきロック作動させない場合には(ステップ102:NO)、ソレノイド65で第2の吸引力を発生させる旨のロック制御信号を出力する。
【0060】
次に、本実施形態のロック装置におけるロック作動時の動作について説明する。
図8(a)に示すように、ロック装置51のロック解除状態では、ECU16からの通電によりソレノイド65で第2の吸引力が発生される。この状態では、ソレノイド65の吸引力によりプランジャ64が第1及び第2付勢部材66,104の付勢力に抗して後退し、係合爪60がロックホルダ53から離間するようにロックアーム54が駆動される。このとき、ヒンジピン69は貫通孔68の内周面に当接しており、ロックアーム54は第2係合位置への移動が規制され、第1係合位置に存在する状態となっている。
【0061】
図8(b)に示すように、ロック作動時において、ソレノイド65で発生する吸引力が第1の吸引力になると、第1付勢部材66の付勢力がソレノイド65の吸引力よりも強くなることで、係合爪60がロックホルダ53及び補助ロックホルダ101側に向かうようにロックアーム54が回動する。そして、プランジャ64は、ロックアーム54の回動に伴ってヒンジピン69が貫通孔68の内周面を押圧することにより、ソレノイド65の吸引力に抗して前進する。このとき、貫通孔68の内周面には、ヒンジピン69が当接した状態となる。また、ソレノイド65で発生する吸引力は、第2付勢部材104の付勢力よりも大きいため、ロックアーム54がロックホルダ53及び補助ロックホルダ101に当接することでその回動が停止すると、同第2付勢部材104の付勢力によってはプランジャ64が前進せず、ヒンジピン69は貫通孔68の内周面に当接したままとなる。そのため、ロック作動時において、規制部材108は貫通孔68内に挿入されず、ロックアーム54の位置は第1係合位置で保持される。これにより、ロックアーム54は第1係合位置にある状態で回動し、係合爪60が係合溝56及び補助係合溝102に係合する。
【0062】
そして、図8(c)に示すように、ECU16がソレノイド65への通電を停止すると、第2付勢部材104の付勢力によってプランジャ64が前進し、ヒンジピン69が貫通孔68の内周面から離間する。これにより、押圧部材106によって規制部材108が貫通孔68内に挿入されるとともにロックアーム54が第2係合位置に移動し、係合爪60が係合溝56のみに係合する状態となる。なお、ロック解除時には、ECU16からの通電によりソレノイド65が後退することで、貫通孔68の内周面が規制部材108を介してロックアーム54を第1係合位置側に押圧するとともに、係合爪60がロックホルダ53から離間する方向にロックアーム54が回動され、図8(a)に示すようにモータ軸34が回転可能なロック解除状態となる。
【0063】
以上記述したように、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
(1)ロック装置51は、外周面101aに係合爪60が係合可能な補助係合溝102が形成された補助ロックホルダ101を備え、同補助ロックホルダ101をモータ軸34の軸方向においてロックホルダ53と並置するとともに、モータ軸34に対して相対回転不能に固定した。また、ロックアーム54を、係合溝56及び補助係合溝102に係合可能な第1係合位置と係合溝56のみに係合可能な第2係合位置との間で移動可能に設けた。そして、駆動機構55は、ロック作動時において、ロックアーム54が第1係合位置にある状態でモータ軸34の回転を拘束した後、該ロックアーム54を第2係合位置に移動させるようにした。
【0064】
上記構成によれば、ロック作動時において、係合爪60は、係合溝56及びモータ軸34に対して相対回転不能に固定された補助ロックホルダ101の補助係合溝102に係合する。従って、大きな衝撃力が作用しても、補助ロックホルダ101がモータ軸34に対して相対回転しないため、ロックホルダ53も相対回転しない。これにより、ロック作動時の瞬間的な衝撃力に対するロックホルダ53の耐滑り性を十分に向上させることができる。そして、係合爪60を補助係合溝102に係合させることによりモータ軸34の回転を拘束した後に、ロックアーム54が第1係合位置から第2係合位置に移動することで、係合爪60は係合溝のみに係合する。そのため、モータ軸34は、ロックホルダ53のみを相対回転させることで非回転部材であるアッパハウジング22に対して相対回転できるようになる。これにより、波動歯車機構26の異常時においてステアリング操作に必要な操舵力が過大になることを防ぎ、操舵性能を確保できる。
【0065】
(2)ソレノイド65の吸引力を制御することにより、係合爪60を係合溝56及び補助係合溝102に係合させた後に、ロックアーム54を第2係合位置に移動させて係合爪60が係合溝56のみに係合するようにした。そのため、例えばリニアモータ等を用いてプランジャ64の位置制御を実行する場合に比べ、簡易な構成で、瞬間的な衝撃力に対する耐滑り性を向上させるとともに、波動歯車機構26の異常時における操舵性能を維持することができる。
【0066】
(3)貫通孔68の内周面を、プランジャ64がソレノイド65に吸引されて後退することにより規制部材108を介してロックアーム54を第1係合位置側に押圧するように形成したため、別途ロックアーム54を第1係合位置側に移動させる機構を設けずとも、ロック解除状態とすることができる。
【0067】
(4)補助係合溝102を係合溝56と同一形状に形成したため、容易に補助係合溝102を補助ロックホルダ101に形成(加工)することができ、コストの低減を図ることができる。
【0068】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の態様にて実施することもできる。
・上記実施形態では、ロック制御部92は、演算周期毎に入力される電流値Iを積算し、その積算値が所定温度に対応する閾値を超えた場合に、ロック作動する旨のロック判定信号を出力するようにした。しかし、これに限らず、例えばステアリング2に入力される操舵トルクを検出し、その操舵トルクが所定時間以上継続して所定トルクを超えた場合に、ロック作動する旨のロック判定信号を出力するようにしてもよい。
【0069】
・上記実施形態では、貫通孔68の内周面を、プランジャ64がソレノイド65に吸引されて後退することにより規制部材108を介してロックアーム54を第1係合位置側に押圧するように形成した。しかし、これに限らず、例えばソレノイドを別途設け、同ソレノイドによりロックアーム54が第1係合位置側に吸引されるようにしてもよい。
【0070】
・上記実施形態では、補助ロックホルダ101をモータ軸34に対して相対回転不能に固定した。しかし、これに限らず、補助ロックホルダ101をモータ軸34に対して相対回転させ得る最小のトルク(リミットトルク)の大きさが、ロックホルダ53をモータ軸34に対して相対回転させ得る最小のトルクの大きさよりも大きく設定されればよく、例えばトレランスリングを介して補助ロックホルダ101をモータ軸34に対して相対回転可能に設けてもよい。
【0071】
・上記実施形態では、ロックアーム54が第1係合位置にある状態で係合爪60が係合爪60及び補助係合溝102の双方に係合するようにしたが、これに限らず、係合爪60が補助係合溝102のみに係合するようにしてもよい。
【0072】
・上記実施形態では、係合溝56と補助係合溝102とを同一形状に形成したが、これに限らず、ロックアーム54が第1係合位置にある状態で補助係合溝102に係合することが可能であり、同補助係合溝102に係合した状態でロックアーム54が第2係合位置に移動できれば、補助係合溝102が係合溝56と異なる形状であってもよい。例えば、補助係合溝102を浅溝102aのみからなる構成としたり、補助係合溝102の周方向に沿った長さを係合溝56の周方向に沿った長さよりも短く形成したりしてもよい。
【0073】
・上記実施形態では、ECU16がソレノイド65で発生させる吸引力を制御することにより、ロック作動時において、ロックアーム54が第1係合位置にある状態でモータ軸34の回転を拘束した後、該ロックアーム54を第2係合位置に移動させるようにした。しかし、これに限らず、例えばリニアモータによりプランジャ64を進退させる構成とし、ロック作動時において、同プランジャ64を図8(b)に示す位置に移動させた後、図8(c)に示す位置に移動させてもよい。
【0074】
次に、上記各実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
(イ)前記補助係合溝は、前記係合溝と同一形状に形成されたことを特徴とする伝達比可変装置。上記構成によれば、容易に補助係合溝を補助ロックホルダに形成(加工)することができ、コストの低減を図ることができる。
【符号の説明】
【0075】
1…車両用操舵装置、15…伝達比可変装置、16…ECU、22…アッパハウジング、24…入力軸、25…出力軸、26…波動歯車機構、27…モータ、34…モータ軸、51…ロック装置、52…トレランスリング、53…ロックホルダ、53a,101a…外周面、54…ロックアーム、55…駆動機構、56…係合溝、59…筒状部、60…係合爪、61…連結部、62…支持軸、64…プランジャ、65…ソレノイド、66…第1付勢部材、67…突出部、68…貫通孔、69…ヒンジピン、101…補助ロックホルダ、102…補助係合溝、104…第2付勢部材、106…押圧部材、108…規制部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリング操作に基づく入力軸の回転にモータ駆動に基づく回転を上乗せして出力軸に伝達する差動機構と、前記入力軸の回転によって回転しない非回転部材とモータ軸とを相対回転不能に拘束するロック装置とを備え、前記ロック装置は、前記モータ軸と一体回転可能に設けられるとともに外周面に係合溝が形成されたロックホルダ、前記係合溝に係合する係合爪が形成されて前記ロックホルダの回転を拘束可能なロックアーム、及び前記ロックアームを駆動して前記係合爪を前記係合溝に係脱させる駆動手段を有し、前記モータ軸と前記ロックホルダとの間には、摩擦抵抗に基づいて前記モータ軸と前記ロックホルダとの相対回転を規制又は許容するトレランスリングが介在される伝達比可変装置において、
前記ロック装置は、外周面に前記係合爪が係合可能な補助係合溝が形成された補助ロックホルダを備え、
前記補助ロックホルダは、前記モータ軸の軸方向において前記ロックホルダと並置されるとともに、該補助ロックホルダを前記モータ軸に対して相対回転させ得る最小のトルクの大きさが前記ロックホルダを前記モータ軸に対して相対回転させ得る最小のトルクの大きさよりも大きく設定され、
前記ロックアームは、少なくとも前記補助係合溝に係合可能な第1係合位置と前記係合溝のみに係合可能な第2係合位置との間で移動可能に設けられ、
前記駆動手段は、ロック作動時において、前記ロックアームが前記第1係合位置にある状態で前記モータ軸の回転を拘束した後に該ロックアームを前記第2係合位置に移動させることを特徴とする伝達比可変装置。
【請求項2】
請求項1に記載の伝達比可変装置において、
前記駆動手段は、
前記ロックホルダの径方向外側に設けられ、前記ロックアームを回動可能且つ前記第1係合位置と前記第2係合位置との間で移動可能に支持する支持軸と、
前記支持軸の軸方向に貫通した貫通孔を有する軸状のプランジャと、
前記貫通孔に挿通され、前記プランジャと前記ロックアームにおける前記係合爪と反対側の連結部とを連結するヒンジピンと、
電磁的な吸引力により前記プランジャを後退させることで前記係合爪が前記ロックホルダから離間するように前記ロックアームを回動させるソレノイドと、
前記ソレノイドへの電力供給を制御する制御装置と、
前記係合爪が前記ロックホルダ側に向かって回動するように前記ロックアームを付勢する第1付勢部材とを備え、
前記駆動手段は、前記ソレノイドで発生する吸引力に応じて前記ロックアームを回動させることにより前記係合爪を前記係合溝に係脱させるものであって、
前記第1付勢部材よりも小さな付勢力で前記プランジャを前進させるように付勢する第2付勢部材と、
前記ロックアームを前記第2係合位置側に押圧する押圧部材と、
前記ヒンジピンに対して前記ロックアームと一体で移動可能に設けられる規制部材とを備え、
前記規制部材は、前記貫通孔の内周面に前記ヒンジピンが当接した状態で前記プランジャに当接することにより前記ロックアームの前記第2係合位置への移動を規制するとともに、前記貫通孔内に挿入されることにより前記ロックアームの前記第2係合位置への移動を許容するように形成され、
前記制御装置は、ロック作動時において、前記第1付勢部材の付勢力よりも小さく、且つ前記第2付勢部材の付勢力よりも大きな吸引力を前記ソレノイドで発生させた後に、前記ソレノイドで発生する吸引力を前記第2付勢部材の付勢力よりも小さくすることを特徴とする伝達比可変装置。
【請求項3】
請求項2に記載の伝達比可変装置において、
前記貫通孔の内周面は、前記プランジャが後退することにより前記規制部材を介して前記ロックアームを前記第1係合位置側に押圧するように形成されたことを特徴とする伝達比可変装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の伝達比可変装置において、
前記補助ロックホルダは、前記モータ軸に対して相対回転不能に固定されたことを特徴とする伝達比可変装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−1244(P2013−1244A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134333(P2011−134333)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】