説明

伸線機

【課題】線径が10μmφ〜20μmφ程度の金属極細線の製造において、案内キャプスタンローラとのからまりによる断線や、金属細線のよじれや微細折れなどの不具合を生じさせることなく、伸線速度を200m/min以上の高速にすることができる伸線機を提供する。
【解決手段】案内キャプスタンローラ3の外側に張力補助ガイド12を設置し、金属細線11を経由させて伸線することにより、伸線中の金属細線11の張力の低下を抑制する。張力補助ガイド12は、伸線ダイス8への金属細線11の入射角が変わらないように設計することが好ましく、また、案内キャプスタンローラ3に接触する金属細線11の長さを調整できるような機構であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属細線を製造するために用いる伸線機に関し、特に、線径が10μmφ〜20μmφ程度の金属極細線、例えば、半導体素子上の電極と外部電極を接続するボンディングワイヤ等に用いる金属極細線を円滑に製造するために用いる伸線機に関する。
【背景技術】
【0002】
ICやLSIなどの半導体素子の電極と外部電極を接続する際には、金などの金属細線からなるボンディングワイヤが用いられている。例えば、線径が10μmφ〜20μmφ程度の金属極細線を製造する場合、5mmφ〜10mmφ程度の太径の素材線を単釜伸線機などで100μmφ〜300μmφ程度に細線化した後、さらに金属細線用の伸線機により細線化して、所定線径の極細線を得ている。
【0003】
図7および図8は、従来の伸線機の一例を示すもので、図7は概略正面図であり、図8は概略平面図である。伸線槽1内には、駆動キャプスタンローラ2と案内キャプスタンローラ3が設置されており、これらのキャプスタンローラの間には口径を順に小さくした複数の伸線ダイス8が該2つのローラに対して平行に並べて配置されている(例えば、特許文献1参照)。駆動キャプスタンローラ2と案内キャプスタンローラ3の上方には、シャワーノズル4が設置されており、金属細線11に潤滑剤5を吹きかける。
【0004】
供給ボビン6から繰り出された金属細線11は、伸線槽1の内外にある複数のガイド部材7によって方向が調整された後、伸線槽1内の駆動キャプスタンローラ2および案内キャプスタンローラ3と順に接触し、それぞれのローラにおいて方向が変換されるとともに、回転するそれぞれのローラから駆動力を与えられて、これらのローラの一端から他端に順送りとなるように、ローラ間を往復運動するように走行する。そして、金属細線11は、駆動キャプスタンローラ2と案内キャプスタンローラ3との間に、口径が順次小さくなるように設置された複数の伸線ダイス8を通過することにより、順次細線化されていく。最後に、細線化された金属細線11は、伸線槽1の外にあるガイド部材7によって方向が調整され、仕上がりダイス9を通過した後、回転する巻取りボビン10に巻き取られる。
【0005】
前記伸線機において極細線を製造する場合、伸線速度を上昇させるためには、駆動キャプスタンローラ2および案内キャプスタンローラ3の両方のキャプスタンローラの回転により金属細線に加えられる進行方向の力(以下、駆動力と記す。)を大きくする必要がある。一方、伸線速度を上昇させるためにキャプスタンローラとの接触により加えられる駆動力を大きくすると、その分だけキャプスタンローラとの接触後の金属細線11の張力は減少する。また、伸線ダイス8により金属細線11の径は絞られるため、伸線ダイス8の通過前後で金属細線11の張力は変動し、伸線ダイス8通過後の張力は上昇するが、伸線ダイス8通過前の張力は減少する。
【0006】
このため、案内キャプスタンローラ3を経た後、伸線ダイスに入射するまでの金属細線の張力(以下、案内キャプスタン側張力と記す。)は、案内キャプスタンローラ3との接触および伸線ダイス8による金属細線11の径の絞り込みにより減少するが、この張力の減少は、伸線速度を上昇させるために、案内キャプスタンローラ3から金属細線11に加える駆動力を大きくするとより顕著になる。
【0007】
また、金属細線は細くなればなるほど破断荷重が低下するため、径が小さくなるほど金属細線にかかる張力が小さくなるようにダイスリダクション等が設計されている。このため、金属細線11の線径が10μmφ〜20μmφ程度になると、駆動キャプスタンローラ2に接触する前の金属細線11の張力自体が小さくなる。
【0008】
したがって、金属細線11の線径が10μmφ〜20μmφ程度となった場合、伸線速度が高速になると、両キャップスタンローラとの接触により、案内キャプスタン側張力がほとんど生じていない状態となってしまう。
【0009】
さらに、伸線速度を上昇させると、潤滑剤の巻き込み現象が生じて、キャプスタンローラと金属細線との間に潤滑剤が入り込んで滑りを生じ、伸線中の金属細線11は左右に揺れやすくなる。
【0010】
以上の結果、金属細線11の線径が10μmφ〜20μmφ程度となった場合、伸線速度が高速になると、金属細線11が案内キャプスタンローラ3にからまりやすくなり、断線しやすくなってしまう。また、仕上がりダイス9への金属細線の導入角度が一定とならないために、金属細線によじれや微細折れなどの不具合が生じやすくなってしまう。このため、線径が10μmφ〜20μmφ程度の金属極細線の製造において、伸線速度が100m/min以上となると、断線することなく伸線することが困難となり、特に、伸線速度を200m/min以上の高速にすることはきわめて困難である。
【0011】
【特許文献1】特開平9−315685号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであって、線径が10μmφ〜20μmφ程度の金属極細線の製造において、案内キャプスタンローラとのからまりによる断線や、金属細線のよじれや微細折れなどの不具合を生じさせることなく、伸線速度を200m/min以上の高速にすることができる伸線機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る伸線機は、金属細線を走行させるための駆動キャプスタンローラおよび案内キャプスタンローラと、該2つのキャプスタンローラの間に配置されていて、該金属細線を細線化する複数の伸線ダイスとを有し、かつ、該金属細線の張力の減少を抑制するための1以上の張力補助ガイドを、該案内キャプスタンローラと接触しないように備える。
【0014】
前記張力補助ガイドは、前記伸線ダイスへの金属細線の入射角を実質的に変更しないように配置されていることが好ましい。ここで、「実質的に変更しないように配置」とは、入射角の変更により、伸線ダイスを通過する際に金属細線によじれや微細折れが発生することがないように配置することをいう。
【0015】
また、前記張力補助ガイドは、取り外し可能であることが好ましい。さらに、前記張力補助ガイドは、前記複数の伸線ダイスのうちの1または2以上の任意の伸線ダイスに対応して1または2以上配置できることが好ましい。さらにまた、前記張力補助ガイドは、前記案内キャプスタンローラに対する距離を変動させることができ、これにより前記金属細線が前記案内キャプスタンローラと接触する長さを調整できるようになっていることが好ましい。
【0016】
また、前記張力補助ガイドは、前記金属細線が該張力補助ガイドを経由した場合、該金属細線が前記案内キャプスタンローラと接触する長さが前記案内キャプスタンローラの直径の1/6〜1/3となるように配置することもできる。このようにすることで、伸線中の金属細線が案内キャプスタンローラと接触した後の張力の低下を抑えつつ、前記案内キャプスタンローラから伸線中の金属細線へ補助的な駆動力を与えることができる。
【0017】
さらに、前記張力補助ガイドは、前記金属細線が該張力補助ガイドを経由した場合、該金属細線が前記案内キャプスタンローラと接触しないように配置することもできる。このようにすることで、前記案内キャプスタンローラとの接触による伸線中の金属細線の張力の低下はなくなる。
【0018】
前記張力補助ガイドとしては、例えば、上部ローラと下部ローラとを有し、該上部ローラは、前記案内キャプスタンローラのキャプスタン軸よりも上部にあり、該下部ローラは、前記案内キャプスタンローラのキャプスタン軸よりも下部にある構成のものを用いることができる。該上部ローラのみ、または、該下部ローラのみに伸線中の金属細線を経由させることにより、該金属細線が前記案内キャプスタンローラと接触する長さを前記案内キャプスタンローラの直径の1/6〜1/3とすることができる。また、該上部ローラおよび該下部ローラの両方に伸線中の金属細線を経由させることにより、該金属細線が前記案内キャプスタンローラと接触しないようにすることができる。
【0019】
さらに、前記張力補助ガイドとしては、例えば、前記案内キャプスタンローラのキャプスタン軸よりも上部のみにある複数の上部ローラを有するか、または、下部のみにある複数の下部ローラを有する構成のものを用いることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る伸線機は、伸線中の金属細線の張力の低下を抑制する張力補助ガイドを案内キャプスタンローラの外側に設けているので、線径が10μmφ〜20μmφ程度の金属極細線の製造において、伸線速度を200m/min以上の高速にしても、伸線中の金属極細線の張力の低下を抑制できる。このため、金属極細線の製造において、伸線速度を200m/min以上の高速にしても、案内キャプスタンローラとのからまりによる断線や、金属細線のよじれや微細折れなどの不具合の発生を低減させることができる。
【0021】
その結果、金属極細線の生産性を著しく向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1および図2は、本発明に係る金属細線用伸線機の一実施形態を示すものである。図1は概略正面図であり、図2は概略平面図である。伸線槽1内には、セラミックス製の円筒状の駆動キャプスタンローラ2と、同じくセラミックス製の円筒状の案内キャプスタンローラ3が平行に設置されており、これらのキャプスタンローラの間には口径を順に小さくした、合金外枠とダイヤモンドの伸線口からなる複数の伸線ダイス8が、該2つのローラに対して平行に並べて配置されている。駆動キャプスタンローラ2と案内キャプスタンローラ3の上方には、シャワーノズル4が設置されており、金属細線11に潤滑剤5を吹きかける。さらに、伸線ダイス8のうちのいくつかに対応して、張力補助ガイド12が案内キャプスタンローラ3の外側に設置されている。ここで、案内キャプスタンローラの外側とは、案内キャプスタンローラから見て駆動キャプスタンローラとは反対側ということである。
【0023】
張力補助ガイド12は、1以上の回転するローラにより構成されることが好ましく、伸線槽内壁に設けられたレールに取り付けることにより固定される。
【0024】
供給ボビン6から繰り出された金属細線11は、伸線槽1の内外にある複数のガイド部材7によって方向が調整された後、伸線槽1内の駆動キャプスタンローラ2および案内キャプスタンローラ3と順に接触し、それぞれのローラにおいて方向が変換されるとともに、回転するそれぞれのローラーから駆動力を与えられて、これらのローラの一端から他端に順送りとなるように、ローラ間を往復運動するように走行する。そして、金属細線11は、駆動キャプスタンローラ2と案内キャプスタンローラ3との間に、口径が順次小さくなるように設置された複数の伸線ダイス8を通過することにより、順次細線化されていく。
【0025】
必要に応じて、案内キャプスタンローラ3の外側に設置されている張力補助ガイド12に金属細線11を経由させる。線径が30〜50μmφ程度の金属細線であれば、線材の破断荷重が大きいため駆動キャプスタンローラ2と接触する前の初期の張力が高い。このため、駆動キャプスタンローラ2および案内キャプスタンローラ3との接触により張力が多少減少しても、案内キャプスタン側張力はある程度以上の大きさを保持しており、案内キャプスタンローラ3への巻き込み等による断線は発生しにくい。
【0026】
しかし、線径が10〜20μmφ程度の極細線となると線材の破断荷重が小さいため、駆動キャプスタンローラ2と接触する前の初期の張力が低い。このため、駆動キャプスタンローラ2および案内キャプスタンローラ3との接触により張力が減少すると、伸線中の張力が十分ではなくなる。そして、伸線速度が上がっていくと案内キャプスタンローラ3と接触した後の金属細線11の張力はほとんどなくなってしまい、金属細線11はゆるんでしまい、金属細線11が案内キャプスタンローラ3にからまりやすくなり、断線等の問題が発生する。
【0027】
ここで、伸線中に案内キャプスタンローラ3から金属細線11が得る駆動力は、案内キャプスタンローラ3に接触する金属細線11の長さが長いほど大きくなり、伸線中に案内キャプスタンローラ3から金属細線11が得る駆動力が大きくなると、案内キャプスタンローラ3通過後の金属細線11の張力の減少量は大きくなる。
【0028】
したがって、金属細線11が案内キャプスタンローラ3と全く接触しないようにするか、あるいは案内キャプスタンローラ3と接触する長さを短くすることにより、金属細線11が案内キャプスタンローラ3から受ける駆動力を、ゼロにするか、あるいは減少させることができ、案内キャプスタンローラ3通過後の金属細線11の張力の減少を抑えることができる。
【0029】
そのため、張力補助ガイド12は、案内キャプスタンローラ3に接触する金属細線11の長さを調整できるような機構であることが好ましい。例えば、図3および図4に示すように、上下2箇所、すなわち、案内キャプスタンローラのキャプスタン軸の上部側と下部側に、上部ローラ12aと下部ローラ12bを設ける機構が採用できる。上部ローラ12aおよび下部ローラ12bは、金属細線11がこれらを経由した場合に、金属細線11が案内キャプスタンローラ3に接しないように、かつ、金属細線11の伸線ダイス8への入射角が実質的に変更がない、すなわち、案内キャプスタンローラ3を経由した場合と入射角がほとんど変わらないように、配置される。
【0030】
したがって、図3に示すように、金属細線11を、上部ローラ12aおよび下部ローラ12bの両方に接触するように経由させた場合、金属細線11は、案内キャプスタンローラ3の上下いずれにおいても接触することなく、すなわち、案内キャプスタンローラ3を完全に迂回するようにできる。この場合、金属細線11は、案内キャプスタンローラ3から駆動力を全く得ないため、接触による張力の低下はない。
【0031】
また、図4に示すように、上部ローラ12aのみを使用して、所定の長さだけ金属細線11を案内キャプスタンローラ3の下部側に接触させて、金属細線11に補助的な駆動力を与えることもできる。この補助的な駆動力が大きくなりすぎると金属細線11の張力の低下が大きくなりすぎるおそれがあるため、金属細線11と案内キャプスタンローラ3の接触する長さは、案内キャプスタンローラ3の直径の1/6〜1/3とすることが好ましい。
【0032】
また、張力補助ガイド12は、伸線ダイス8への金属細線11の入射角が変わらないように設計することが好ましい。張力補助ガイド12を経由することにより、伸線ダイス8への金属細線11の入射角が変わってしまうと、伸線ダイス8を通過する際に金属細線11に、よじれや微細折れが発生するおそれがある。したがって、張力補助ガイド12を経由して繰り出される金属細線11の位置は、案内キャプスタンローラ3を経由して繰り出される金属細線11の位置よりもわずかに高くなるように設定することが好ましい。
【0033】
張力補助ガイド12は、特定の伸線ダイスのみに対して設置することもでき、金属細線の張力が低下する箇所のみで使用することも可能である。したがって、特定の伸線ダイスのみに対して設置することができるように、張力補助ガイド12は、取り外しが簡易にできるような機構としておくことが好ましい。例えば、伸線槽内壁にレールを設け、張力補助ガイド12には、該レールを挟み込んで固定することができる機構を設けることが好ましい。また、該レールには、伸線ダイス8への金属細線11の入射角が変わってしまわぬように所定の位置に溝を切り、皿ネジや板バネ等により所定の位置にしっかり固定できる機構とすることが好ましい。
【0034】
また、張力補助ガイド12を水平方向に移動可能にして、張力補助ガイド12と案内キャプスタンローラ3との間の距離を任意に変えることのできる機構としておくことが好ましい。図5(a)に示すように、案内キャプスタンローラ3から張力補助ガイド12までの距離を短くすると、金属細線11が案内キャプスタンローラ3と接触する長さを長くでき、図5(b)に示すように、案内キャプスタンローラ3から張力補助ガイド12までの距離を長くすると、金属細線11が案内キャプスタンローラ3と接触する長さを短くすることができる。
【0035】
張力補助ガイド12の別の機構としては、図6に示すように、案内キャプスタンローラのキャプスタン軸の中心よりも上部に複数の上部ローラ12aを設けた機構も考えられる。複数の上部ローラ12aのうちから金属細線11を経由させる上部ローラ12aを選択することにより、金属細線11が案内キャプスタンローラ3と接触する長さを調整することができる。
【0036】
最後に、所定径に形成された金属細線11は、伸線槽1の外にあるガイド部材7によって方向が調整された後、仕上がりダイス9を通過して、回転する巻取りボビン10に巻き取られていく。
【0037】
このように、本発明に係る極細線伸線装置においては、案内キャプスタンローラ3の外側に張力補助ガイド12が設置されている。張力補助ガイド12を経由させて金属細線11を走行させることにより、伸線中に金属細線11の張力が所定量以下に低下することを防ぐことができ、伸線中に金属細線11が案内キャプスタンローラ3にからまることによる断線等の不具合が発生することを未然に防止することができる。
【0038】
このため、本発明に係る伸線機を用いて金属細線を製造することにより、線径が10〜20μmφ程度の極細線であっても、伸線速度を大きくすることが可能となる。
【0039】
なお、本発明の最適実施形態に係る伸線機について説明したが、本発明は、かかる実施形態に限定されるものではない。張力補助ガイド12の機構は、同様の機能を達成する機構を採用できる。また、金属細線11の供給機構および巻取り機構についても、供給ボビンおよび巻取りボビンのほか、同様の機能を達成する機構を採用できる。
【実施例】
【0040】
(実施例1)
従来の伸線機を用いて、最終線径が15μmφである金の金属極細線を製造し、各箇所での張力を測定した。用いた伸線機は、ステンレス製の500mm×600mm程度の伸線槽と2本の350mm長程度のセラミックス製円柱キャプスタンにより構成される。
【0041】
そして、伸線ダイス8を通過する前の張力が極端に低い箇所、例えば、ダイス径18.9μmφと23.2μmφの伸線ダイス8に対応する案内キャプスタンローラ2の外側の位置に、張力補助ガイド12を設置し、該ガイドを経由させて金属細線11の伸線を実施した。
【0042】
張力補助ガイド12として、図3および図4に示すような、上部ローラ12aおよび下部ローラ12bが設けられた機構のものを用いた。そして、図4に示すように上部ローラ12aのみを使用して、案内キャプスタンローラ3の直径の1/3程度の長さだけ金属細線11を案内キャプスタンローラ3に接触させて、張力の低下が大きくならないようにするとともに、金属細線11に補助的な駆動力を与えた。
【0043】
従来の伸線機では、線径15μmφの極細線を100m/min以上の伸線速度で断線することなく伸線することは非常に困難であった。しかし、前記のように張力補助ガイド12を使用することで、線径15μmφの極細線を200m/minの伸線速度でも、断線等の不具合の発生をさせることなく伸線することができた。
【0044】
張力補助ガイド12を入れた箇所に対応する伸線ダイス8を通過する前の金属細線11の張力(案内キャプスタン側張力)を測定したところ、張力補助ガイド12を入れる前の張力よりも約15mN高くなっていた。ただし、張力補助ガイド12による張力低下の抑制が有効に作用する箇所は、張力補助ガイド12を入れた箇所に対応する伸線ダイス8を通過する前の金属細線11に対してのみである。
【0045】
伸線速度を200m/min以上にすると、張力補助ガイド12を設置していない箇所、すなわち、16.7μmφの伸線ダイス8を通過する前の金属細線11の張力が最も低くなった。
【0046】
この場合、伸線ダイス8を通過する前の金属細線11の張力が最も低くなった箇所に対応する位置に張力補助ガイド12を設置すれば、さらなる高速化が可能となる。
【0047】
(実施例2)
張力補助ガイド12を設置してワイヤの張力が高くなっても、ワイヤの破断荷重よりも小さい張力であれば、ワイヤに欠陥がない限り断線のおそれはない。
【0048】
通常、線径15〜25μmφの破断荷重は83〜235mN程度であり、14.7μmφの金属細線の破断荷重は約83mN程度ある。一方、ダイス径14.7μmφの伸線ダイスを通過した後の金属細線の張力は約59mN程度である。したがって、張力補助ローラを入れて金属細線の張力が15mN程度大きくなっても、ダイス径14.7μmφの伸線ダイスを通過した後の金属細線の張力は約74mN程度であり、ワイヤ破断までには至らない。
【0049】
そこで、全ての伸線ダイス8の前に張力補助ガイドを入れて、25μmφの金線を15μmφまで細線化し、高速化の評価を行った。その結果、従来の伸線機を用いた場合(伸線速度:120m/min)の3倍程度まで伸線速度を上げても巻き込みによる断線等の不具合は発生せず、約1万mの伸線を行うことができた。
【0050】
一方、張力補助ガイドのない従来の伸線機を用いて、同様の金線により高速化の評価を行ったところ、伸線速度を従来の2倍程度にしただけで、案内キャプスタンローラ3への巻き込みによる断線が多発した。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の伸線機の概略正面図である。
【図2】本発明の伸線機の概略平面図である。
【図3】上部ローラと下部ローラを備えた張力補助ガイドの使用例(上部ローラと下部ローラの両方を使用)である。
【図4】上部ローラと下部ローラを備えた張力補助ガイドの使用例(上部ローラのみ使用)である。
【図5】水平方向に移動可能な張力補助ガイドの使用例で、(a)は案内キャプスタンローラ3から張力補助ガイド12までの距離を短くして使用した場合で、(b)は案内キャプスタンローラ3から張力補助ガイド12までの距離を長くして使用した場合である。
【図6】上部ローラを複数備えた張力補助ガイドの使用例である。
【図7】従来の伸線機の概略正面図である。
【図8】従来の伸線機の概略平面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 伸線槽
2 駆動キャプスタンローラ
2a 駆動キャプスタン軸
3 案内キャプスタンローラ
3a 案内キャプスタン軸
4 シャワーノズル
5 潤滑剤
6 供給ボビン
7 ガイド部材
8 伸線ダイス
9 仕上がりダイス
10 巻取りボビン
11 金属細線
12 張力補助ガイド
12a 上部ローラ
12b 下部ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属細線を走行させるための駆動キャプスタンローラおよび案内キャプスタンローラと、該2つのキャプスタンローラの間に配置されていて、該金属細線を細線化する複数の伸線ダイスとを有し、かつ、該金属細線の張力の減少を抑制するための1以上の張力補助ガイドを、該案内キャプスタンローラと接触しないように備える伸線機。
【請求項2】
前記張力補助ガイドは、前記伸線ダイスへの金属細線の入射角を実質的に変更しないように配置されている請求項1に記載の伸線機。
【請求項3】
前記張力補助ガイドは、取り外し可能であることを特徴とする請求項1または2に記載の伸線機。
【請求項4】
前記張力補助ガイドは、前記複数の伸線ダイスのうちの1または2以上の任意の伸線ダイスに対応して1または2以上配置できることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の伸線機。
【請求項5】
前記張力補助ガイドは、前記案内キャプスタンローラに対する距離を変動させることができ、これにより前記金属細線が前記案内キャプスタンローラと接触する長さを調整できるようになっている請求項1〜4のいずれかに記載の伸線機。
【請求項6】
前記張力補助ガイドは、前記金属細線が該張力補助ガイドを経由した場合、該金属細線が前記案内キャプスタンローラと接触する長さが前記案内キャプスタンローラの直径の1/6〜1/3となるように配置されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の伸線機。
【請求項7】
前記張力補助ガイドは、前記金属細線が該張力補助ガイドを経由した場合、該金属細線が前記案内キャプスタンローラと接触しないように配置されている請求項1〜4のいずれかに記載の伸線機。
【請求項8】
前記張力補助ガイドは、上部ローラと下部ローラとを有し、該上部ローラは、前記案内キャプスタンローラのキャプスタン軸よりも上部にあり、該下部ローラは、前記案内キャプスタンローラのキャプスタン軸よりも下部にあることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の伸線機。
【請求項9】
前記張力補助ガイドは、上部ローラと下部ローラとを有し、該上部ローラは、前記案内キャプスタンローラのキャプスタン軸よりも上部にあり、該下部ローラは、前記案内キャプスタンローラのキャプスタン軸よりも下部にあり、該上部ローラのみ、または、該下部ローラのみに伸線中の金属細線を経由させることにより、該金属細線が前記案内キャプスタンローラと接触する長さを前記案内キャプスタンローラの直径の1/6〜1/3とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の伸線機。
【請求項10】
前記張力補助ガイドは、上部ローラと下部ローラとを有し、該上部ローラは、前記案内キャプスタンローラのキャプスタン軸よりも上部にあり、該下部ローラは、前記案内キャプスタンローラのキャプスタン軸よりも下部にあり、該上部ローラおよび該下部ローラの両方に伸線中の金属細線を経由させることにより、該金属細線が前記案内キャプスタンローラと接触しないことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の伸線機。
【請求項11】
前記張力補助ガイドは、前記案内キャプスタンローラのキャプスタン軸よりも上部のみにある複数の上部ローラを有するか、または、下部のみにある複数の下部ローラを有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の伸線機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−315070(P2006−315070A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−142604(P2005−142604)
【出願日】平成17年5月16日(2005.5.16)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】