説明

伸縮性積層シート

【課題】親水性能を具備する伸縮性積層シートであって、特に、液体成分を含浸させ、湿潤した状態で、肌等の対象物へ装着して用いられるような用途において、対象物への装着感、装着安定性が良好で、さらには、液体成分が肌等の対象物にもたらす効能や効果を効率よく高めることが可能な伸縮性積層シートを提供する。
【解決手段】少なくとも一方向に伸長性を有する親水性短繊維層と、繊維径が15μm以下のエラストマー長繊維を質量基準で50%以上の範囲で含む極細繊維層が、部分的熱圧着によって積層されたシートであって、該シートの一方の面に露出する親水性短繊維層の表面には前記部分的熱圧着に起因する不連続で規則的な凹凸形状が形成され、親水性短繊維層の当該表面に占める凹部の総面積が3〜40%の範囲であって、当該凹部が存する部位のシート厚み方向において、少なくとも極細繊維層中のエラストマー長繊維がその軟化によって親水性短繊維層を構成する繊維と接合し、これによって、親水性短繊維層と極細繊維層とが一体化されていることを特徴とする、伸縮性積層シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性層を含む伸縮性積層シート、及び、それを用いて得られる製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より親水性繊維としては、セルロース系繊維等多くの繊維が知られている。そしてそれらは、その親水性ゆえに、吸収性物品、清掃用品、化粧用シート等に使用されてきた。特に、人肌に接して使用される用途においては、肌触り感やフィット感などが重要な要求性能となるのであるが、従来から使用されているセルロース系不織布は、やや粗硬感があり、肌触り感やフィット感に欠けていた。
【0003】
肌へ装着するシートの例として、親水性繊維層に、実質的に、非エラストマーからなる分割型複合繊維を分割して得られる極細繊維層を水流交絡により一体化し、当該極細繊維層を皮膚との接触面とすることで、皮膚への刺激性が少なく皮膚への装着性が改良されたフェイスマスクが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】国際公開第2006/016601号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、親水性能を具備する伸縮性積層シートを提供することを目的とする。本発明は特に、液体成分を含浸させ、湿潤した状態で、肌等の対象物へ装着して用いられるような用途において、対象物への装着感、装着安定性が良好で、さらには、液体成分が肌等の対象物にもたらす効能や効果を効率よく高めることが可能な伸縮性積層シートを提供することを目的とする。本発明はさらに、そのような伸縮性積層シートを用いて得られる製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、少なくとも一方向に伸長性を有する親水性短繊維層と、繊維径が15μm以下のエラストマー長繊維を一定量以上含む極細繊維層とが部分的に熱圧着処理されることによって一体化されてなる伸縮性積層シートが、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
従って本発明は、以下の構成を有する。
(1)少なくとも一方向に伸長性を有する親水性短繊維層と、繊維径が15μm以下のエラストマー長繊維を質量基準で50%以上の範囲で含む極細繊維層が、部分的熱圧着によって積層されたシートであって、該シートの一方の面に露出する親水性短繊維層の表面には前記部分的熱圧着に起因する不連続で規則的な凹凸形状が形成され、親水性短繊維層の当該表面に占める凹部の総面積が3〜40%の範囲であって、当該凹部が存する部位のシート厚み方向において、少なくとも極細繊維層中のエラストマー長繊維がその軟化によって親水性短繊維層を構成する繊維と接合し、これによって、親水性短繊維層と極細繊維層とが一体化されていることを特徴とする、伸縮性積層シート。
(2)伸縮性積層シートの他方の面に露出する極細繊維層の表面が、平滑表面であることを特徴とする、前記(1)記載の伸縮性積層シート。
(3)伸縮性積層シート100質量部に対し、100〜1500質量部の液体成分を含浸させたときの、少なくとも一方向への30%伸長後の伸長回復率が30〜100%の範囲である、前記(1)又は(2)記載の伸縮性積層シート。
(4)親水性短繊維層が、コットン、レーヨン、キュプラ、もしくは、パルプ、又はこれらの2種以上を含む短繊維を少なくとも30質量%含んでなる、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の伸縮性積層シート。
(5)親水性短繊維層が、スパンレース不織布または湿式抄紙ウェブである、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の伸縮性積層シート。
(6)極細繊維層が、メルトブロー法で製造された長繊維をランダムに集積してなる繊維層である、前記(1)〜(5)のいずれかに記載の伸縮性積層シート。
(7)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の伸縮性積層シート100質量部に対して、薬液又は化粧料が100〜1500質量部含浸されてなる、伸縮性積層シート。
(8)前記(1)〜(7)のいずれかに記載の伸縮性積層シートを用いて得られた製品。
【発明の効果】
【0008】
本発明の伸縮性積層シートは、特に、液体成分を含浸させ、湿潤した状態で、肌等の対象物へ装着して用いられるような用途において、当該肌等への、優れた装着感と装着安定性をもたらす。
本発明の伸縮性積層シートの構成によれば、親水性短繊維層とエラストマー繊維を含む極細繊維層とが、部分的に熱圧着されて一体化していることで、耐層間剥離性等の積層シートに求められる強度を充分に担保でき、よって、特に、液体成分が含浸された湿潤状態での積層シートにおける優れた伸縮性の発現を可能にする。また、液体成分が肌等の対象物にもたらす効能や効果を効率よく高めることを可能とする。
このため、本発明の伸縮性積層シートは、薬液や化粧料を含浸させて使用する、例えばフェイスマスク等の用途に好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を発明の実施の形態に則して詳細に説明する。
本発明の伸縮性積層シートは、親水性短繊維層と、極細繊維層とを含む。
本発明で用いる親水性短繊維層は少なくとも1方向に伸長性を有する。このような繊維層としては、短繊維が一方向に配列してなるカードウェブや、短繊維がランダムに集積しているエアレイウェブや湿式抄紙ウェブ、及び、これらの繊維をニードルパンチやスパンレース(水流交絡)等によって三次元交絡させて得られる不織布などを挙げることができる。好ましいのは、湿式抄紙ウェブまたはスパンレース不織布である。本発明では、特に、短繊維が一方向に配列してなるカードウェブに水流交絡処理を行って当該繊維を三次元交絡させて得られたスパンレース不織布が、これを本発明規定の極細繊維層と積層した場合に、特に湿潤した状態において優れた伸縮性を発現する点で好ましい。
【0010】
親水性短繊維層を構成する短繊維の長さは特に限定されないが、2〜100mmであるのが好ましい。親水性短繊維層を構成する繊維として、繊維層を調製する際の具体的な手法、例えばカードウェブ、エアレイウェブ及び湿式抄紙ウェブ等の態様に応じて、通常使用される長さの短繊維を使用できる。
本発明において、親水性繊維層が、長繊維や連続繊維で構成されていると、繊維間相互の干渉や絡まり等により繊維個々の自由度が阻害されやすくなり、一体化される極細繊維層中のエラストマー繊維に起因する収縮性に追随可能な程度の伸長性を呈し難くなる。親水性繊維層が短繊維で構成されていることにより、繊維相互の干渉は軽減され、繊維個々の自由度は高まる。その結果、親水性繊維層が、極細繊維層の伸縮性を積層シートに充分反映させることができる程度の追随性(伸長性)を奏することが容易となるのである。
【0011】
親水性短繊維層を構成する短繊維としては、コットン、麻等のセルロース繊維、ウール、シルク、レーヨン、キュプラ、パルプ及び、セルロースを用いて得られる半合成繊維、ならびに、合成繊維に親水化処理を施したものなどを用いることができ、これらの2種以上を用いてもよい。親水性の点で好ましいのは、コットン、レーヨン、キュプラ、パルプである。親水性短繊維層には、薬液又は化粧料の充分量を保持するため、または、それらの適度な浸透速度を確保するために、これら親水性短繊維が、質量基準で、30%以上の範囲で含まれているのが好ましい。親水性短繊維層には、特に、コットン、レーヨン、キュプラ、もしくは、パルプ、またはこれらの2種以上の混合繊維が、親水性短繊維層の質量基準で、30%以上の範囲で含まれているのが好ましい。
【0012】
積層シートへの薬液または化粧料の保持能や浸透速度を高める目的においては、親水性短繊維層が、これら親水性短繊維のみで構成されていることが特に好ましい。積層シートにおける薬液または化粧料の保持能と積層シートへの浸透速度や、親水性短繊維層の機械的強度や伸度等を適宜効率的に調整する目的等において、親水性短繊維層に、その質量基準で、70%を超えない範囲で前記親水性短繊維以外の繊維を混合してもよい。特に、親水性短繊維層に、親水性短繊維以外の繊維が、親水性短繊維層の質量基準で30〜50%の範囲で含まれる場合には、親水性短繊維層の機械的強度や伸度を相応のレベルに保持しながら、積層シートへの薬液または化粧料の保持能や浸透速度を高度に高めることが可能となる。一方、積層シートへの薬液または化粧料の保持能や浸透速度を相応のレベルに保持しながら、親水性短繊維層ひいては積層シートの機械的強度および伸度等をより高度に高めたい場合には、親水性短繊維層に、親水性短繊維以外の繊維を、親水性短繊維層の質量基準で50%を超えて70%以下の範囲で含ませるのが好ましい。混合する繊維としては、ポリエステル、ポリオレフィン、もしくは、ポリアミドなどを用いて得られた繊維、または、これらを2種類以上組み合わせた複合繊維などの、撥水性の合成繊維を例示することができる。
【0013】
親水性短繊維層に含まれる繊維の断面形状は、特に限定されるものではないが、丸断面、扁平断面、異型断面、中空断面等を挙げることができる。親水性繊維層に含まれる繊維の断面形状が丸断面の場合、その繊維径は、15μmより大きく50μm以下の範囲であることが好ましい。
【0014】
親水性短繊維層の目付けは、伸縮性積層シートの、強度、液体成分の含浸量(保持量)、及び、液体成分含浸時の伸縮性の点から、5〜95g/m2であることが好ましく、更に好ましいのは、10〜70g/m2の範囲である。親水性短繊維層の厚みは、伸縮性積層シートの厚み基準で、20%以上であることが好ましく、伸縮性積層シートに、充分な液体成分含浸量と、液体成分含浸時の充分な伸縮性を担保するうえでは、30〜95%であるのが更に好ましい。
また、親水性短繊維層の乾燥状態での伸度は、伸縮性積層シートの伸長性を担保するうえでは、20〜250%が好ましく、更に好ましくは20〜200%の範囲である。
【0015】
本発明の伸縮性積層シートにおける極細繊維層は、繊維径が15μm以下のエラストマー長繊維を含み、好ましくは、繊維径が10μm以下のエラストマー長繊維を含む。エラストマー長繊維の繊維径が10μm以下であると、その極細繊維層を含む伸縮性積層シートはより柔軟性を帯びたものとなり、特に、液体成分を含浸した湿潤状態での肌等への装着感がより優れたものとなるので好ましい。
【0016】
エラストマー長繊維に用いるエラストマー素材としては、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、エステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー及びこれらの混合物などを挙げることができる。特に、液体成分含浸時の伸縮性積層シートの柔軟性や伸縮性に伴う装着感や、伸縮性等に伴う装着安定性などの点で好ましいのは、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマーである。
【0017】
また、極細繊維層中で、これら2種以上のエラストマー長繊維が混合されていても良い。例えば、1〜99質量%のスチレン系エラストマー長繊維と、99〜1質量%のオレフィン系エラストマー長繊維との混合、1〜99質量%のウレタン系エラストマー長繊維と、99〜1質量%のオレフィン系エラストマー長繊維との混合、1〜99質量%のオレフィン系エラストマー長繊維と、99〜1質量%の他のオレフィン系エラストマー長繊維との混合などを挙げることができる。このうち、2種のオレフィン系エラストマー長繊維同士の具体的な混合の態様としては、例えば、ポリプロピレン系エラストマー長繊維と、他のポリプロピレン系エラストマー長繊維との混合、ポリプロピレン系エラストマー長繊維とポリエチレン系エラストマー長繊維との混合、ポリエチレン系エラストマー長繊維と他のポリエチレン系エラストマー長繊維との混合などを挙げることができる。これら混合するエラストマー長繊維の種類や量比によって、特に、液体成分含浸時の伸縮性積層シートの柔軟性や伸縮性に伴う装着感、及び、伸縮性等に伴う装着安定性を、比較的高い水準において、所望の範囲に調整することが可能となる。
【0018】
特に、極細繊維層を構成する繊維として、互いに、その繊維径が15μm以下、好ましくは10μm以下である、スチレン系エラストマー長繊維とオレフィン系エラストマー長繊維とを選択し、それらを混合することによって、液体成分含浸時の伸縮性積層シートにおける柔軟性や伸縮性に伴う装着感及び伸縮性等に伴う装着安定性を高い水準で調整・制御することが可能となる。好ましくは、スチレン系エラストマー長繊維とオレフィン系エラストマー長繊維とを均一にランダムに混合することが挙げられる。さらに具体的には、スチレン系エラストマー長繊維を30〜70質量%の範囲で、かつ、オレフィン系エラストマー長繊維を70〜30質量%の範囲で混合比率を適宜所望に設定した極細繊維層を用いることによって、液体成分含浸時の伸縮性積層シートにおける、柔軟性や伸縮性に伴う装着感、及び伸縮性等に伴う装着安定性をいっそう高い水準で調整・制御することが可能となる。
【0019】
本発明の伸縮性積層シートは、従来のものに比べ、湿潤時の柔軟性、特に伸縮性能において優れた性能を発揮する。このような性能から、薬液や化粧料を含浸させて肌に装着するような、例えばフェイスマスク等の用途に特に好適に使用される。フェイスマスク等が装着された肌の当該部位は、薬液や化粧料によって、湿り、または、潤される。それによって当該肌表面はさらにより敏感・繊細さを帯びることになる。
スチレン系エラストマー長繊維は、一般に、柔軟性に優れるが、やや粘着性が高いことから、含浸させる液体成分や、装着される肌等の部位によっては、肌等への密着性が強すぎると感じる場合がある。また、スチレン系エラストマー長繊維は、伸縮性が十分に高いことから、肌等へ装着後のシートの縮みに追随して肌等が引っ張られることによりツッパリ感を生じさせ、含浸させる液体成分量や装着する肌等の部位によっては、心地よい装着感が得られにくくなる場合もある。そこへ、オレフィン系エラストマー長繊維を上記範囲内の特定の比率で混合することによって、敏感・繊細な皮膚の装着部位に、優しい極めて心地良い装着感を付与することが可能となる。また、含浸させる薬液や化粧料の成分や性状によって、使用する積層シート、特にその極細繊維層の構成を適宜調整してもよい。例えば、薬液や化粧料に含まれる油分によって、極細繊維層の膨潤等が懸念されるような場合には、オレフィン系エラストマーを主体とする繊維、特に、オレフィン系エラストマー長繊維と、他のオレフィン系エラストマー長繊維との混合によって極細繊維層を構成するのが好ましい。
【0020】
本発明に用いる極細繊維中には本発明の効果を妨げない範囲において、安定剤、難燃剤、抗菌剤、着色剤、滑剤、耐光剤、親水剤、帯電防止剤、帯電剤などが添加されていても良い。
【0021】
本発明の伸縮性積層シートにおける極細繊維層は、「繊維径が15μm以下のエラストマー長繊維」以外の繊維を含んでいても良い。伸縮性積層シートとしての、柔軟性、伸縮性に伴う心地よい装着感、伸縮性等に伴う装着安定性を得るためには、繊維径が15μm以下のエラストマー長繊維が、極細繊維層の質量基準で、50%以上の範囲で含まれることが必要である。好ましくは、極細繊維層の質量基準で70%以上の範囲で含まれる。装着感、装着安定性の高い伸縮性積層シートを得るためには、かかるエラストマー長繊維のみで極細繊維層を構成するのが特に好ましい。
「繊維径が15μm以下のエラストマー長繊維」以外の繊維としては、繊維径が15μmを超えて50μm以下であるエラストマー繊維や、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミドなどの非エラストマー繊維を挙げることができる。「繊維径が15μm以下のエラストマー長繊維」に、繊維径が1〜15μmの非エラストマー繊維を1〜50質量%の割合で併用することは、前記のように異種のエラストマー繊維を特定割合で混合する場合ほどには繊細ではないものの、得られる伸縮性積層シートの柔軟性や伸縮性に伴う装着感や装着安定性を適宜効率的に調整するうえで有効である。併用する非エラストマー繊維としては、ポリエステルテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロン6、ナイロン66などを例示することができる。極細繊維層の親水性が、親水性短繊維層の親水性より高くはならないという条件のもと、極細繊維層を構成する繊維の少なくとも一部が親水性を有する繊維であることを排除しない。使用できる親水性を有する繊維としては、コットン、麻等のセルロース繊維、ウール、シルク、レーヨン、キュプラ、及び、セルロースを用いて得られる半合成繊維、ならびに、合成繊維に親水化処理を施したものなどを例示できる。
【0022】
極細繊維層に含まれる繊維径が15μm以下のエラストマー長繊維は、繊維径が15μm以下である限り、その製造法は限定されない。より具体的には、該エラストマー長繊維自体の有する伸縮性が、それを一体化して得られる積層シートにおいて、一方向に偏らず、満遍なく寄与・反映されるためには、エラストマー長繊維が、極細繊維層中でランダムに集積しているのが好ましい。エラストマー長繊維が一方向に配列した繊維層では、その繊維の長さ方向と同じ方向に対しては繊維自体の有する伸縮性が滞りなく反映されるが、これと直角する方向には、繊維自体の有する伸縮性は寄与しない。
エラストマー長繊維は、メルトブロー法で製造された長繊維であることが好ましく、極細繊維層は、メルトブロー法で製造されてランダムに集積してなる繊維径15μm以下のエラストマー長繊維を含んでいるのが好ましい。繊維層の製造工程で発生する繊維の帯電による不具合を防止するために繊維表面に界面活性剤を付着させて行う一般の製造法に比べ、メルトブロー法は、その製造法ゆえに、界面活性剤の付着を必要としない。このため、メルトブロー法を採用することによって、極細繊維層に好適に用いられる撥水性の繊維を効率的に製造することが可能となる。
【0023】
極細繊維層に使用される「繊維径15μm以下のエラストマー長繊維」と、これと混合しても良い「その他の繊維」との混合方法は、特に限定されない。それぞれを個別に製造したのち、混合しても良い。あるいは、異種の繊維を吐出する為の紡糸孔が1つのノズル中に交互に配列した所謂混繊用ノズルを用いてこれら異種の繊維を同時にメルトブロー法で紡糸する方法を採用するのが好ましい。この方法によれば、異種の繊維が極めて均一にランダムに集積した極細繊維層を得ることが可能である。
極細繊維層が、0〜10質量%の非エラストマー長繊維と、100〜90質量%のエラストマー長繊維を含む場合、特に、エラストマー長繊維のみで構成され、当該エラストマー長繊維が2種以上のエラストマー長繊維の混合繊維である場合、また特に、30〜70質量%のスチレン系エラストマー長繊維と、70〜30質量%のオレフィン系エラストマー長繊維との混合繊維である場合には、それら2種以上の繊維を、上記混繊用ノズルを用いてメルトブロー法で紡糸するのが好ましい。
特に、高度な柔軟性や伸縮性に伴う極めて心地よい装着感や、高度であり且つ適度な伸縮性等に伴う装着安定感など高水準の繊細さが求められるようなそれらエラストマー長繊維の使用形態においては、その繊細さは、使用するエラストマー長繊維、または、2種以上のエラストマー長繊維が、その極細繊維層中で如何に均一にランダムに集積・混合されているかによって、好適に担保されうる。
【0024】
混繊ノズルは、異種の繊維を同時に紡糸し、それらを均一にランダムに集積させることができるようなものである限り、その構造に限定されない。混繊ノズルとして、例えば、異種の樹脂が流れ出す紡糸孔が、一つのノズル内に、交互に一列に配列したノズルや千鳥状に配列したノズルなどを好適に用いることができる。また別の態様として、一つの樹脂が流れだす紡糸孔のみを一つのノズル内に有する複数のノズルが、集積コンベアーの移動方向に複数配列した装置を用い、個々のノズルから互いに異なる樹脂を紡糸し、得られるウェブの積層物をニードルパンチ等で交絡処理をすることで、繊維同士の混繊を行う方法も例示することができる。後処理を伴わないという点において、前者の、異種の樹脂が流れ出す紡糸孔が一つのノズル内で交互に一列に配列したノズルが好適に用いられる。
【0025】
極細繊維層の目付けは、5〜100g/m2であることが、湿潤時の伸長回復率が優れる点で好ましい。更に好ましいのは、10〜70g/m2の範囲である。極細繊維層の厚みは、伸縮性積層シートの厚み基準で、80%以下であることが好ましく、5〜70%であることが、伸縮性積層シートに、好適な柔軟性と装着感を担保できる点で好ましい。
【0026】
親水性短繊維層に使用する親水性短繊維は、一般に、それ自体が吸水性を有する。このため、親水性繊維のみからなる不織布シートに、薬液又は化粧料を含浸させようとすると、当該繊維自体が斯かる液体を吸収するため、肌に実際に補給せしめる量を大きく上回る量の薬液または化粧料を、予め当該不織布に充填しなければならない。このため、使用する薬液または化粧料の利用効率が悪く、コスト的に無駄の多いものであった。
これに対し、本発明の伸縮性積層シートは、後述の通り、親水性短繊維層と、エラストマー長繊維を質量基準で50%以上の範囲で含む極細繊維層とが、部分的熱圧着によって一体化されているため、耐層間剥離性等の伸縮性積層シートに求められる強度を充分に担保しうる。このため、製品に求められる強度に応じて、薄層化が可能である。これによって、積層シートに充填される薬液又は化粧料のうち、親水性繊維自体に吸収される絶対量を低減し、その有効量を肌等へ効率的に補給することが可能となる。
【0027】
また、親水性短繊維層に、70質量%を超えない範囲で、親水性繊維以外の繊維を混合することによっても、使用する薬液や化粧料の効率化を図ることが可能である。一方、さらに極細繊維層が積層されることとが相俟って、伸縮性積層シートそのものへの薬液または化粧料の保持量や浸透速度が低下する傾向にはあるものの、これらは、極細繊維層の親水性が、親水性短繊維層の親水性を下回るという条件のもとで、極細繊維層へ、親水性繊維を50質量%を超えない範囲で混合することによっても調整することができる。この親水性繊維としては、前記例示のものを使用できる。これらの方法によれば、薬液又は化粧料の保持量や浸透速度を所望の範囲に維持しつつ、伸縮性積層シートに含まれる親水性繊維の総量を低減することが可能であり、以って、薬液や化粧料の有効活用、コスト低減に資することができる。
【0028】
本発明の伸縮性積層シートにおいては、親水性短繊維層と極細繊維層が、部分的熱圧着によって積層されている。一般に繊維層の積層手段として、加熱ロールを用いる方法のほか、加熱オーブン方式、ニードルパンチ方式、スパンレース方式(水流交絡方式)、超音波による方法や、接着剤を用いる方法などがある。
本発明の伸縮性積層シートの製造における部分的熱圧着は、特に限定されないが、ロール表面が凹凸形状に彫刻された加熱ロール(以降、「加熱エンボスロール」という場合がある。)を用いて好適に行うことができる。本発明において、エンボスロールを用いた部分的熱圧着は、その加熱エンボスロールを、積層シートの一方の面に露出する親水性短繊維層側の表面に圧着することによって行う。このとき、積層シートの他方の面、すなわち、積層シートのもう一方の面に露出する極細繊維層側の表面は、加熱されていても良い平滑形状または凹凸形状に彫刻された表面を有するロール等に接して行われる。本発明の積層シートの一方の面に露出する親水性短繊維層の表面には、この部分的熱圧着に起因する不連続で規則的な凹凸形状が形成される。一方、伸縮性積層シートの他方の面に露出する極細繊維層の表面は、平滑ロールに接すること等に起因する平滑表面を形成していることが好ましい。
【0029】
本発明の伸縮性積層シートにおいて、該シートの一方の面に露出する親水性短繊維層の表面にある上記部分的熱圧着に起因する凹凸形状は、親水性短繊維層の当該表面に占めるその凹部の総面積(以降、「圧着面積」という場合がある。)が3〜40%の範囲である。圧着面積がこの範囲にあると、積層時の層間強度と風合いの点で好ましく、さらに好ましいのは、5〜30%の範囲である。
また、該積層シートの他方の面に露出する極細繊維層の表面においても、部分的熱圧着に起因して形成される不連続で規則的な凹凸形状は、極細繊維層表面に占める凹部の面積(圧着面積)が、3〜40%を占めていてもよい。
また、積層シート表面における凹部の深さは、積層時の層間強度と風合いの点で、0.1〜1mm、個々の凹部の面積は0.15〜15mm2、凹部間距離が0.5〜20mmであるのが好ましい。
【0030】
本発明の伸縮性積層シートは、上記凹部が存する部位のシート厚み方向において、少なくとも極細繊維中のエラストマー長繊維がその軟化によって親水性短繊維層を構成する繊維と接合し、これによって、親水性短繊維層と極細繊維層とが一体化されている。部分熱圧着時の圧力及び温度は、親水性短繊維層と極細繊維層とが、極細繊維中のエラストマー長繊維の軟化によって一体化するような条件において適宜選択できるが、部分的熱圧着時の圧力が5〜100kg/cm2の範囲、熱圧着時の温度が50〜150℃の範囲であるのが好ましく、極細繊維層と親水性短繊維層の間に上記接合態様が形成されて、層間強度が得られる範囲であれば、特に限定はない。
【0031】
前述の通り、本発明では、親水性層は、極細繊維層の伸縮性に追随可能であるために、短繊維層でなければならない。本発明の積層シートは、乾燥状態である場合に比べて、湿潤状態である場合において、特に、親水性短繊維層が伸長性を有する方向への格段に優れた伸縮性を発現しうるという特徴を持つ。湿潤することによって、親水性短繊維による、或いは、親水性短繊維同士による干渉・絡まり合いが緩和されるのが一因になっているものと推測される。一方、この短繊維間の干渉・絡まり合いが緩和されることに伴って、同時に、親水性短繊維層自体の強度が弱まることとなり、繊維層が容易に破断されやすくなる場合がある。
【0032】
極細繊維層の持つ伸縮性への親水性短繊維層の追随性と、親水性短繊維層の強度とをバランス良く維持させるため、本発明においては、両層間の一体化手法として、“部分的熱圧着法”を採用することが有効である。部分的熱圧着法によれば、その“熱圧着部”においては、繊維間が繊維の熱軟化によって強固に接合されるため、極細繊維層と親水性短繊維層間の耐剥離性が強化される。一方、この部分的熱圧着法を採用することにより、当該“熱圧着部”と共に形成される“非熱圧着部”では、個々の繊維が互いに制約されずに存在するため、主にこの部分の繊維の伸びによって、得られる積層シートの伸縮性が付与されることとなる。極細繊維層が有する伸縮性に対し、これに一体化された親水性短繊維層の有する伸長性に基づく追随性、そして、結果として得られる積層シートの優れた伸縮性は、前記“熱圧着部”による両層間の耐剥離性の強化によって担保されるのである。すなわち、両層の一体化が弱いと、親水性短繊維層は、極細繊維層の伸縮性に充分に追随する以前に、容易に剥離を起こしてしまう。本発明の積層シートが、特に湿潤時において優れた伸縮性を発現しうるのは、湿潤によって、“非熱圧着部”に存在する親水性短繊維相互の干渉や絡まり等の制約がさらに緩和されることとなり、極細繊維層が持つ伸縮性への親水性短繊維層による追随性が更に高まるためであろうと考えられる。
極細繊維中のエラストマー長繊維は、その熱圧着によって軟化して親水性短繊維層の構成繊維等に接合することで両層の一体化に寄与している。このとき、この軟化による接合力に加えて、エラストマー長繊維自身が本来的に有する粘着力または接着力によって、親水性短繊維層を構成する繊維等との接合力が補強され、両層間の耐剥離性が一層強化されている。
このような強固な接合を介した一体化によって、高度に伸縮させても破断しにくい積層シートの提供が可能となる。このように、本発明においては、少なくとも、親水性繊維層が短繊維で構成され、極細繊維層がエラストマー繊維を含んでおり、そして、両層が部分的熱圧着によって一体化されていることが本発明の効果を得るうえで一つの基礎をなしている。
【0033】
スパンレース法(水流交絡法)やニードルバンチ法によって繊維が単純に三次元交絡されていることで一体化されているような積層シートにおいても、湿潤によって、当該三次元交絡点での短繊維間の干渉・絡まり合いが緩和されるであろう現象は同じように発現するものと思われる。しかし、このように繊維同士の三次元交絡それのみによって両層間の一体化を図っている積層シートでは、この一体化を支えている交絡点における繊維間の交絡が緩まることによって、極細繊維層が有する伸縮性への、親水性短繊維層の充分な追随性が発現される前に、両層間が剥離しやすいものとなる。
また、スパンレース法(水流交絡法)やニードルパンチ法を用いて一体化を行った場合、使用する高圧水や針が積層体を貫通もしくは通過することによって、その周囲に繊維が押し寄せられて繊維が再配列することとなり、一般に、当該貫通または通過部における繊維間距離の広がりに伴って、一体化される前に比べ、一体化後の積層体の通気度は高くなる。
【0034】
これに対し、部分的熱圧着法で一体化を行うと、当該圧着部では、少なくとも極細繊維層中のエラストマー繊維の軟化によって繊維間が接合される、すなわち、繊維間空隙が塞がることになるため、一体化される前に比べて、一体化後の積層体の通気度は低下することとなる。
本発明の伸縮性積層シートは、部分的熱圧着法で一体化されることによって、その通気度が効果的に低下する結果、特に、この積層シートに薬液や化粧液を含浸させて湿潤した状態で肌等に装着した場合において、高いマスキング効果やラップ効果を醸し出すこととなり、含浸された薬液や化粧液が肌等にもたらす効能や効果を効率良く高めることが可能となるのである。
本発明の伸縮性積層シートの通気度は、10〜100cm3/cm2・secであるのが好ましく、20〜80cm3/cm2・secであるのが更に好ましい。また、通気度がこのような範囲を満たす場合には、伸縮性積層シートに含浸した液体成分の蒸散等も低減されて乾燥が抑制される結果、含浸させた薬液や化粧料による効果の持続性も改善されうる。
【0035】
本発明において、伸縮性積層シートの一方の面に露出する親水性短繊維層の表面が凹凸形状を有していることによって、このシート表面のべたつき感を軽減できるとともに、これら積層シート同士を重ね合わせた際の剥離性、取り扱い性に優れたものとなる。
また、積層シートのもう一方の面に露出する極細繊維層の表面は、平滑形状を有しているほうが、肌等の対象物への装着感、密着性に優れたものとなるので好ましい。
【0036】
本発明の伸縮性積層シートは、特に、湿潤している状態で用いたときに、乾燥している状態に比べて、格段に優れた伸度、伸縮性を発現しうるという特性を有している。このように、乾燥状態においては、優れた伸度、伸縮性能が発現しないという特性は、液体成分を含浸させる工程以前の製造工程で加わる予期せぬ応力等に対する耐変形性に優れるという点で工業的には優れた効果を有している。より詳しくは、特に、体や顔の部位毎に装着する目的で、積層シートを適宜適切な形状・大きさに型抜きをしたり、せん断する工程等において、得られるシートの形状が型崩れせず、所望の形状が忠実に製品に再現されやすいという効果をもたらしている。
【0037】
本発明の伸縮性積層シートは、伸縮性シート100質量部に対し、100〜1500質量部の液体成分を含浸させたときの、少なくとも一方向への30%伸長時の伸長回復率は好適には30〜100%でありうる。特に好適には50〜100%でありうる。
このため、本発明の伸縮性積層シートは、薬液や化粧料などの液体成分を含浸させて用いる用途に好適である。
本発明の伸縮性積層シートに含浸することのできる薬液や化粧料は特に限定されない。薬液として例えば、清涼剤、消臭剤、抗菌剤、角質柔軟化剤、皮脂排出抑制剤、角質溶解剤、殺菌剤、鎮痛剤、消炎剤、消毒剤、害虫忌避剤、光沢剤、除光剤、治癒剤、たんぱく質除去剤などが挙げられる。また、化粧料として例えば、保湿成分、クレンジング成分、制汗成分、香り成分、美白成分、血行促進成分、紫外線防止成分、痩身成分などを含んだ化粧水、乳液及び美容液などの液状の化粧料を例示することができる。
本発明の伸縮性積層シートに含浸させる薬液や化粧料の成分として、ポリペプチド、例えばコラーゲン様ポリペプチドなども挙げられる。ポリペプチドの例として、特開2003−321500号公報及び特開2005−60314号公報などに開示されているものが挙げられる。ポリペプチドの別の具体例として、式:R1-(X-Hyp-Gly)n-R2又は式:R1(Pro-Y-Gly)n-R2(式中、XとYはアミノ酸残基であり、R1はH又はその他の官能基であり、R2はOR3又はその他の官能基であり、R3はH又は一価の金属であり、nは整数である。)で表されるポリペプチドが挙げられる。
【0038】
本発明の伸縮性積層シートは、液体成分を含浸させたときの伸長回復率において特に優れた特徴を有するが、この伸長回復率を確認するうえで使用する液体成分としては、簡便的には水でよい。その他の液体成分、例えば、薬液や化粧料を使用して、その伸長回復率が当該数値範囲に含まれる場合も、当然、本発明の範囲である。
本発明の伸縮性積層シートにおいて、特に、一体化された親水性短繊維層が伸長性を有する方向における伸度において、乾燥時の伸度に対する湿潤時の伸度の比率が1.1〜2.0倍の範囲であるのが好ましく、1.2〜2.0倍の範囲であるのが更に好ましい。尚、本発明において、「乾燥時」または「乾燥状態」とは、100℃で30分間以上乾燥させた状態を言い、「湿潤時」または「湿潤状態」とは、液体成分中に10分間以上浸漬させた状態、または、シート100質量部に対して、100質量部以上の液体成分を含浸している状態を言う。
【0039】
本発明の伸縮性積層シートは、特に湿潤状態にある場合において、その優れた伸縮性ゆえに、肌等の対象物に装着するときに多少なりとも伸長し、装着後の縮もうとする力によって肌等の対象物に程よくフィットする。この縮もうとする力によって肌等が適度に引っ張られることに起因する引き締め感が、心地よい装着感と、装着安定性とをもたらしている。
本発明の伸縮性積層シートは、一体化された親水性短繊維層が伸長性を有する方向、好ましくは、一体化された親水性短繊維層に含まれるスパンレース不織布を構成する一方向に配列した繊維の長さ方向とは直角する方向、における10%伸長モジュラス強度が、乾燥状態においては、0.2〜5.0N/25mmの範囲であるのが好ましく、更に0.5〜3.0N/25mmの範囲であるのが好ましい。また、浸潤状態においては、0.1〜4.0N/25mmの範囲であるのが好ましく、更に0.2〜2.5N/25mmの範囲であるのが好ましい。また、乾燥状態に対する湿潤状態の10%伸長モジュラス強度の比率が、0.1〜0.9倍の範囲であるのが好ましく、0.2〜0.8倍の範囲であるのが更に好ましい
【0040】
本発明の伸縮性積層シートは、極細繊維層側を肌等の対象物に接するようにして用いることができる。この場合、親水性短繊維層が薬液や化粧料等を保持し、極細繊維層がそれを肌等の対象物へ必要量だけ滲み出させる機能を有する。このときの滲み出し量や滲み出し速度等を調整することも可能であり、例えば、極細繊維層の厚みを薄くしたり、極細繊維層へ親水性繊維を適量混繊したり、極細繊維層を構成する樹脂へ親水剤を添加したり親水化処理を施すことなどによって、滲み出し量を増やしたり、滲み出し速度を速めたりすることができる。
本発明においては、極細繊維層が、細い繊維で構成されていることに加えて、弾性を有するエラストマー繊維を含んでいることによってもたらされる柔軟性が、心地良い装着感を付与する重要な一因となっている。また、エラストマー繊維の粘着性に起因する適度なグリップ効果によって、さらに、フィット感、引き締め感や、装着安定性が好ましいものとなっている。また、極細繊維層が、細い繊維によって、比較的高い目付けに構成されることに加え、肌等に接するその繊維層表面が平滑であることによって、肌等への密着性が高まり、マスキング効果やラップ効果が生じ、薬液や化粧料による効果を向上させることができる。
【0041】
一方、含浸させる薬液や化粧料などが多量である場合には、余剰に滲み出た薬液や化粧料が、平滑な極細繊維層表面と肌等の対象物表面の間に膜を形成し、肌等の対象物表面において伸縮性積層シートが滑りやすくなる現象を生じる結果、フィット性が損なわれることがある。このような場合には、親水性短繊維層側を肌等の対象物に接するように用いることができる。親水性短繊維層は、それ自体その内部に薬液や化粧料等を吸収保持しているために、肌等対象物への化粧料や薬液の補給能は有しており、また、その繊維層表面の凹凸形状によって肌等との滑り性が改善されて、フィット感は担保される。
【0042】
また、含浸させる薬液や化粧料等の粘度が比較的高い場合にも、親水性繊維層側を肌等の対象物に接するように用いるほうが有利な場合がある。すなわち、このような薬液や化粧料は、極細繊維層内を浸透しにくく、従って、極細繊維層側を肌等の対象物に接するように用いたのでは、薬液や化粧料等が肌等の対象物に充分に行き渡らない場合がある。一方、親水性繊維層側を肌等の対象物に接するように用いると、それら高粘度の薬液や化粧料自身の粘性によって伸縮性積層シートが肌等の対象物にフィットする効果が生じるし、一方の極細繊維層側は、これら高粘度の化粧料や薬液等が浸透していないためにそれらに起因するベトツキが生じず、ハンドリング性が良好となる。
【0043】
本発明の伸縮性積層シートの厚みは特に限定されないが、薬液や化粧料等の含浸性および浸透性の点から、荷重2kg/cm2(0.196MPa)を負荷したときの厚みが0.2〜0.7mmの範囲であるのが好ましい。積層シートに求められる柔軟性や、薬液や化粧料の保持量や粘度、装着する部位などに応じて、適宜選択される。
【0044】
本発明の伸縮性積層シートは、積層シート100質量部に対し、薬液又は化粧料を100〜1500質量部含浸して使用するのが好ましい。
本発明の伸縮性積層シートは、このように薬液又は化粧料を含浸させて使用する製品に好適に使用できる。
本発明の伸縮性積層シートは、液体を含浸させたときに生じる伸長回復率により、特に、薬液や化粧料等を含浸させたものを、人体のあらゆる部分、顔全体、鼻、目元、口元、首、腕、手、指、腰、腹部、太股、脹脛、膝、足首等に貼布するのに適している。そして、具体的にはフェイスマスク、使い捨てオムツ用伸縮性部材、オムツ用伸縮性部材、生理用品用伸縮性部材、使い捨てパンツ、オムツカバー用伸縮性部材等の衛生材料の伸縮性部材、伸縮性テープ、絆創膏、包帯、サポーター、サック、衣料用伸縮性部材等の他に、湿布材の基布、プラスター材の基布、滑り止めの基布等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の内容について実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
各実施例及び比較例で製造した伸縮性積層シートについて調べた、各種物性の定義及び測定方法を以下に記す。
尚、以下の説明において、「MD」とあるのは、使用した親水性短繊維層のスパンレース不織布を構成する一方向に配列している繊維の長さ方向と一致する方向を意味し、「CD」とあるのは、それと直角する方向を意味する。
(1)平均繊維径
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、不織布表面の拡大写真を撮影し、100本の繊維の直径を測定し、その算術平均値を平均繊維径とした。
(2)圧着面積率
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、不織布表面の拡大写真を撮影し、圧着点が単位圧着点ピッチあたりの面積を占める割合を圧着面積率とした。
圧着面積率(%)=(単位ピッチを占める圧着点面積/単位ピッチの面積)×100
【0046】
(3)伸長回復率
JIS L1096「一般織物試験方法」に準拠して測定した。シートから、幅25mm、長さ200mmの試験片を、その長さ方向が、親水性短繊維層のスパンレース不織布を構成する繊維が一方向に配列している長さ方向とは直角する方向(CD方向)に一致するように裁断して作成した。
この試験片と、試験片が充分浸漬する量の保湿化粧水(商品名:モイスタージュ エッセンスローション、クラシエホームプロダクツ製)をポリエチレン製の袋に入れて、そのまま10分間放置し、袋を通して試験片の両面を3回手で押さえたのち取り出すことによって、試験片が少なくとも自重の2倍以上になるように化粧水を含浸させた。この試験片を、引張試験機オートグラフAG-G(商品名、(株)島津製作所製)を用い、チャック間を100mmに設定して固定した。引張速度300mm/分で30mmまで伸長させた後、同じ速度で戻し、試験片に掛かる負荷を0とした。その直後、再び同じ速度で30%まで伸長させ、負荷が再び始まる時の伸びた長さをLmmとした。伸長回復率は下記式に従って求めた。
30%伸長時の伸長回復率(%)={(30※1−L)/30※1}×100
※1:試験片を伸長させた長さ(mm)
【0047】
(4)積層シートの破断強伸度(薬液や化粧料を含浸させる前の乾燥状態)
JIS L1906「一般長繊維不織布 試験方法」に準拠して測定した。幅25mm、長さ200mmの試験片を作成した。試験片は、シートから、その試験片の長さ方向を、親水性短繊維層のスパンレース不織布を構成する繊維が一方向に配列している長さ方向(MD方向)と一致するように裁断して作成したもの、および、試験片の長さ方向を、MD方向とは直角する方向(CD方向)と一致するように裁断して作成したものとからなる2種の試験片を準備した。引張試験機オートグラフAG-G(商品名、(株)島津製作所製)を用いて、チャック間を100mmに設定し試験片を固定した。引張速度300mm/分で伸長させ破断するまでの最大強度および最大伸度をそれぞれ破断強度および破断伸度とした。また、10%伸長時の強度を10%伸長モジュラス強度とした。
(5)湿潤させた積層シートの破断強伸度(薬液や化粧料を含浸後の湿潤状態)
JIS L1906「一般長繊維不織布 試験方法」に準拠して測定した。シートから、幅25mm、長さ200mmの試験片を、上記(4)の要領で、その長さ方向が、MD方向と一致するように裁断したもの、および、CD方向と一致するように裁断したものとからなる2種の試験片を準備した。この試験片と、試験片が充分浸漬する量の保湿化粧水(商品名:モイスタージュ エッセンスローション、クラシエホームプロダクツ製)をポリエチレン製の袋に入れて、そのまま10分間放置し、袋を通して試験片の両面を3回手で押さえたのち取り出すことによって、試験片が少なくとも自重の2倍以上になるように化粧水を含浸させた。この試験片を、引張試験機オートグラフAG-G(商品名、(株)島津製作所製)を用い、チャック間を100mmに設定して固定した。引張速度300mm/分で伸長させ破断するまでの最大強度および最大伸度をそれぞれ破断強度および破断伸度とした。また、10%伸長時の強度を10%伸長モジュラス強度とした。
【0048】
(6)目付け
JIS L1906「一般長繊維不織布 試験方法」に準拠して測定した。不織布の任意5箇所から20cm×20cmのサイズの試験片を切り出した後、各試験片の重量を電子天秤にて測定し、その平均値を1m2当たりの質量に換算して目付とした。
(7)積層シートの厚み、各構成層の厚み比率(%)
JIS L1906「一般長繊維不織布 試験方法」に準拠して測定した。
(i) 積層シート、もしくは、乾燥させた肌装着用シートの厚みL1(mm)を測定する。
(ii) 親水性繊維層と極細繊維層を剥離させて、極細繊維層の厚みL2(mm)を測定する。
(iii) 下記式により親水性繊維層の厚みL3(mm)を算出する。
L3(mm)=L1−L2
(iv) 下記式により積層シート基準の極細繊維層の厚み比率R1、親水性繊維層の厚み比率R2を算出する。
R1(%)=L2/L1×100
R2(%)=L3/L1×100
【0049】
(8)装着安定性
積層シートをフェイスマスク型に切り出し、この切り出したシートと、このシートが充分浸漬する量の保湿化粧水(商品名:モイスタージュ エッセンスローション、クラシエホームプロダクツ製)をポリエチレン製の袋に入れて、そのまま10分間放置し、袋を通して試験片の両面を3回手で押さえたのち取り出すことによって、試験片が少なくとも自重の2倍以上になるように化粧水を含浸させて、フェイスマスクを作成した。
また、これとは別に、同じ要領で、同じフェイスマスク型に切り出したシートに、上記保湿化粧水に代えて、保湿乳液(商品名:モイスタージュ エッセンスミルク、クラシエホームプロダクツ製)を含浸させて、フェイスマスクを作成した。この2種類のフェイスマスクを、パネラーに対し、顔に10分間装着してもらい、その2種類の結果を総合して、それぞれ、密着性、乾燥性、肌の引き締め感を、○、△、×の3段階で評価した。尚、本実施例において、「乾燥性」が「良い」とは、積層シートに含浸された化粧水や保湿乳液が、積層シートから蒸散しにくいことを言う。
○:良い
△:やや劣る
×:劣る
(9)通気度
積層シート、もしくは、乾燥させた肌装着用シートについて、JIS L1906「一般長繊維不織布 試験方法」のフラジール形法に準拠して測定した。200mm×200mmの試験片を採取し、通気性試験機(東洋精機製)を用いて測定した。
【0050】
本発明において使用した原料樹脂の下記表中における略号と内容は以下の通りである。
A:スチレン−エチレンブチレン−スチレンブロック共重合体、クレイトンMD6705NS((商品名)、クレイトンポリマー製)
B:プロピレン・エチレン共重合体、VM2125((商品名)、エクソンモービル製)
C:熱可塑性ポリウレタン、パンデックスT−1180((商品名)、DIC-Bayer製)
D:ポリプロピレン三井ポリプロS119((商品名)、プライムポリマー製)
E:エチレン・オクテン共重合体、EG8402((商品名)、ダウケミカル製)
【0051】
[実施例1]
極細繊維層に原料樹脂としてAを用いたメルトブローン不織布を使用した。メルトブローン装置としてスクリュー(30mm径)、加熱体およびギアポンプを有する押出機、紡糸口金(孔径0.3mm、孔数501ホール、有効幅500mm)、圧縮空気発生装置、空気加熱機、ポリエステル製ネットを備えた捕集コンベアー、巻取機からなる装置を用いた。押出機にAを投入し、加熱体により230℃で加熱溶融させて、紡糸口金から単孔当たり0.45g/分の紡糸速度で吐出させ、吐出した繊維を400℃に加熱した98kPa(ゲージ圧)の圧縮空気によって、走行速度22m/分で走行しているポリエステル製ネットの捕集コンベアー上に吹き付けることによって、繊維がランダムに集積したメルトブローン不織布を得た。捕集コンベアーは、紡糸口金から25cmの距離に設置した。吹き付けた空気は捕集コンベアーの裏側に設けた吸引装置で除去した。
【0052】
前記方法のメルトブローン不織布を製造する過程において、親水性短繊維層として、繊維長が51mmのレーヨン、繊維長が7mmのパルプで、繊維が一方向に配列している方向とは直角する方向に伸長性を有する、目付43g/m2のレーヨン/パルプ/レーヨン(質量比25/50/25の積層繊維層)からなる、スパンレース不織布を挿入し、その上に20g/m2のメルトブローン不織布を積層させた。さらにこの不織布の積層物に、表面に凹凸模様が彫刻された彫刻ロールと平滑ロールを持つポイントボンド加工機で、温度80℃、圧力20N/cmで、彫刻ロールがスパンレース不織布に接するようにして、部分的熱圧着を行い、凹部の面積率が25%、個々の凹部の面積が0.46mm2、深さが0.55mm、凹部間距離が縦1.36mm、横2.72mmの積層シートを得た。積層シートの厚みは0.465mmで、その厚み基準で、極細繊維層が25%、親水性繊維層が75%を占めていた。この積層シートの物性等を表1に示す。
得られた積層シートは湿潤時に優れた伸縮性を有していた。
【0053】
[実施例2]
極細繊維層に原料樹脂としてAとBを用いたメルトブローン不織布を用いた。メルトブローン装置としてスクリュー(30mm径)、加熱体およびギアポンプを有する2機の押出機、混繊用紡糸口金(孔径0.3mm、異なる成分の繊維を吐出するための紡糸孔が、一列毎に交互に並んだ紡糸孔、孔数501ホール、有効幅500mm)、圧縮空気発生装置、空気加熱機、ポリエステル製ネットを備えた捕集コンベアー、巻取機からなる装置を用いた。それぞれの押出機にAとBを別々に投入し、加熱体によりそれぞれ230℃で加熱溶融させて、A/Bの比率(質量%)が50/50になるようにギアポンプを設定して、紡糸口金から単孔当たりA、B共に0.45g/分の紡糸速度で吐出させ、吐出した繊維を400℃に加熱した98kPa(ゲージ圧)の圧縮空気によって、走行速度22m/分で走行しているポリエステル製ネットの捕集コンベアー上に吹き付けることによって、Aからなる繊維とBからなる繊維が均一にランダムに集積したメルトブローン不織布を得た。捕集コンベアーは、紡糸口金から25cmの距離に設置した。吹き付けた空気は捕集コンベアーの裏側に設けた吸引装置で除去した。
【0054】
前記方法のメルトブローン不織布を製造する過程に、親水性短繊維層として、実施例1で用いたスパンレース不織布を挿入し、その上に20g/m2のメルトブローン不織布を積層させた以外は、実施例1に準拠して積層シートを得た。得られた積層シートは、凹部の面積率が25%、個々の凹部の面積が0.46mm2、深さが0.55mm、凹部間距離が縦1.36mm、横2.72mmであり、積層シートの厚みは0.484mmで、その厚み基準で、極細繊維層が26%、親水性繊維層が74%を占めていた。この積層シートの物性等を表1に示す。得られた積層シートは湿潤時に優れた伸縮性を有していた。
【0055】
[実施例3]
極細繊維層にBとCを原料樹脂として用いたメルトブローン不織布を用いた以外は、実施例2に準拠して、積層シートを得た。得られた積層シートは、凹部の面積率が25%、個々の凹部の面積が0.46mm、深さが0.55mm、凹部間距離が縦1.36mm、横2.72mmであり、積層シートの厚みは0.411mmで、その厚み基準で、極細繊維層が30%、親水性繊維層が70%を占めていた。この積層シートの物性等を表1に示す。得られた積層シートは湿潤時に優れた伸縮性を有していた。
【0056】
[実施例4]
極細繊維層に原料樹脂としてBとEを用いたメルトブローン不織布を用いた。メルトブローン装置としてスクリュー(30mm径)、加熱体およびギアポンプを有する2機の押出機、混繊用紡糸口金(孔径0.3mm、異なる成分の繊維を吐出するための紡糸孔が、一列毎に交互に並んだ紡糸孔、孔数501ホール、有効幅500mm)、圧縮空気発生装置、空気加熱機、ポリエステル製ネットを備えた捕集コンベアー、巻取機からなる装置を用いた。それぞれの押出機にBとEを別々に投入し、加熱体によりそれぞれ230℃で加熱溶融させて、B/Eの比率(質量%)が50/50になるようにギアポンプを設定して、紡糸口金から単孔当たりB、E共に0.45g/分の紡糸速度で吐出させ、吐出した繊維を400℃に加熱した98kPa(ゲージ圧)の圧縮空気によって、走行速度22m/分で走行しているポリエステル製ネットの捕集コンベアー上に吹き付けることによって、Bから繊維とEからなる繊維が均一にランダムに集積したメルトブローン不織布を得た。捕集コンベアーは、紡糸口金から25cmの距離に設置した。吹き付けた空気は捕集コンベアーの裏側に設けた吸引装置で除去した。
前記方法のメルトブローン不織布を製造する過程に、親水性短繊維層として、実施例1で用いたスパンレース不織布を挿入し、その上に20g/m2のメルトブローン不織布を積層させた以外は、実施例1に準拠して積層シートを得た。得られた積層シートは、凹部の面積率が25%、個々の凹部の面積が0.46mm2、深さが0.55mm、凹部間距離が縦1.36mm、横2.72mmであり、積層シートの厚みは0.385mmで、その厚み基準で、極細繊維層が28%、親水性繊維層が72%を占めていた。この積層シートの物性等を表2に示す。得られた積層シートは湿潤時に優れた伸縮性を有していた。
【0057】
[実施例5]
実施例4に準拠したメルトブローン不織布を用いた。
前記方法のメルトブローン不織布を製造する過程において、親水性短繊維層として、繊維長が51mmのレーヨン、繊維長が51mmのポリエステルで、繊維が一方向に配列している方向とは直角する方向に伸長性を有する、目付43g/m2のレーヨン/ポリエステル(質量比40/60の混綿)からなる、スパンレース不織布を挿入し、その上に20g/m2のメルトブローン不織布を積層させた。さらにこの不織布の積層物に、表面に凹凸模様が彫刻された彫刻ロールと平滑ロールを持つポイントボンド加工機で、温度80℃、圧力20N/cmで、彫刻ロールがスパンレース不織布に接するようにして、部分熱圧接を行い、凹部の面積率が25%、個々の凹部の面積が0.46mm2、深さが0.55mm、凹部間距離が縦1.36mm、横2.72mmの積層シートを得た。積層シートの厚みは0.324mmで、その厚み基準で、極細繊維層が33%、親水性繊維層が67%を占めていた。この積層シートの物性等を表2に示す。得られた積層シートは湿潤時に優れた伸縮性を有していた。
【0058】
[実施例6]
実施例2に準拠したメルトブローン不織布を用いた。
前記方法のメルトブローン不織布を製造する過程において、親水性短繊維層として、繊維長が51mmのレーヨンで、繊維が一方向に配列している方向とは直角する方向に伸長性を有する、目付43g/m2のレーヨンからなる、スパンレース不織布を挿入し、その上に20g/m2のメルトブローン不織布を積層させた。さらにこの不織布の積層物に、表面に凹凸模様が彫刻された彫刻ロールと平滑ロールを持つポイントボンド加工機で、温度80℃、圧力20N/cmで、彫刻ロールがスパンレース不織布に接するようにして、部分熱圧接を行い、凹部の面積率が25%、個々の凹部の面積が0.46mm2、深さが0.55mm、凹部間距離が縦1.36mm、横2.72mmの積層シートを得た。積層シートの厚みは0.468mmで、その厚み基準で、極細繊維層が26%、親水性繊維層が74%を占めていた。この積層シートの物性等を表2に示す。得られた積層シートは湿潤時に優れた伸縮性を有していた。
【0059】
実施例1〜6で得られた積層シートに、保湿化粧水又は保湿乳液を含浸させて美容用のフェイスマスクとして用いたところ、親水性短繊維層、極細繊維層のいずれを肌側にしても顔への装着安定性は良好であった。結果を表1〜2に示す。
【0060】
[比較例1]
実施例1で親水性短繊維層として使用したスパンレース不織布のみを単層で用いた。その結果を表3に示す。このものは、湿潤時において伸縮性に劣るものであった。
[比較例2]
極細繊維層にDを原料樹脂として用いたメルトブローン不織布を用い、極細繊維層と親水性短繊維層を、100メッシュの平織のコンベアーネット上で、オリフィス径0.3mm、オリフィス間隔0.5mmのノズルを用い、水圧1MPaの条件でスパンレース加工して積層した以外は実施例1に準拠して、積層シートを得た。その結果を表3に示す。このものは、湿潤時において伸縮性に劣るものであり、また、通気性が高いために、含浸させた薬液や化粧料が蒸散し易いものとなった。
[比較例3]
極細繊維層にポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート系分割繊維(商品名:セパ、ダイワボウポリテック製)を用い、実施例1で親水性短繊維層として使用したスパンレース不織布を用い、この極細繊維層と親水性短繊維層を、100メッシュの平織のコンベアーネット上で、オリフィス径0.3mm、オリフィス間隔0.5mmのノズルを用い、水圧1MPaの条件でスパンレース加工して積層シートを得た。その結果を表3に示す。このものは、湿潤時において伸縮性に劣るものであり、また、通気性が高いために、含浸させた薬液や化粧料が蒸散し易いものとなった。
【0061】
比較例1〜3で得られた積層シートに保湿化粧水及び保湿乳液を含浸させて美容用のフェイスマスクとして用いたところ、不織布に伸縮性がないため、装着安定性は劣るものであった。結果を表3に示す。
【0062】
【表1】

*1: 肌:親水・・・肌側を親水性短繊維層とした。
肌:極細・・・肌側を極細繊維層とした。
【0063】
【表2】

*1: 肌:親水・・・肌側を親水性短繊維層とした。
肌:極細・・・肌側を極細繊維層とした。
【0064】
【表3】

*1: 肌:親水・・・肌側を親水性短繊維層とした。
肌:極細・・・肌側を極細繊維層とした。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の伸縮性積層シートは、液体を含浸させたときに生じる伸長回復率により、人体のあらゆる部分、顔全体、鼻、目元、口元、首、腕、手、指、腰、腹部、太股、脹脛、膝、足首等に貼布するのに適している。その用途として具体的に、例えばフェイスマスク、使い捨てオムツ用伸縮性部材、オムツ用伸縮性部材、生理用品用伸縮性部材、使い捨てパンツ、オムツカバー用伸縮性部材等の衛生材料の伸縮性部材、伸縮性テープ、絆創膏、包帯、サポーター、サック、衣料用伸縮性部材等の他に、湿布材の基布、プラスター材の基布、滑り止めの基布等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方向に伸長性を有する親水性短繊維層と、繊維径が15μm以下のエラストマー長繊維を質量基準で50%以上の範囲で含む極細繊維層が、部分的熱圧着によって積層されたシートであって、該シートの一方の面に露出する親水性短繊維層の表面には前記部分的熱圧着に起因する不連続で規則的な凹凸形状が形成され、親水性短繊維層の当該表面に占める凹部の総面積が3〜40%の範囲であって、当該凹部が存する部位のシート厚み方向において、少なくとも極細繊維層中のエラストマー長繊維がその軟化によって親水性短繊維層を構成する繊維と接合し、これによって、親水性短繊維層と極細繊維層とが一体化されていることを特徴とする、伸縮性積層シート。
【請求項2】
伸縮性積層シートの他方の面に露出する極細繊維層の表面が、平滑表面であることを特徴とする、請求項1記載の伸縮性積層シート。
【請求項3】
伸縮性積層シート100質量部に対し、100〜1500質量部の液体成分を含浸させたときの、少なくとも一方向への30%伸長後の伸長回復率が30〜100%の範囲である、請求項1又は請求項2に記載の伸縮性積層シート。
【請求項4】
親水性短繊維層が、コットン、レーヨン、キュプラ、もしくは、パルプ、又はこれらの2種以上を含む短繊維を少なくとも30質量%含んでなる、請求項1〜3のいずれか1項記載の伸縮性積層シート。
【請求項5】
親水性短繊維層が、スパンレース不織布または湿式抄紙ウェブである、請求項1〜4のいずれか1項記載の伸縮性積層シート。
【請求項6】
極細繊維層が、メルトブロー法で製造された長繊維をランダムに集積してなる繊維層である、請求項1〜5のいずれか1項記載の伸縮性積層シート。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の伸縮性積層シート100質量部に対して、薬液又は化粧料が100〜1500質量部含浸されてなる、伸縮性積層シート。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載の伸縮性積層シートを用いて得られた製品。

【公開番号】特開2009−256856(P2009−256856A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−284724(P2008−284724)
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【出願人】(399120660)チッソポリプロ繊維株式会社 (41)
【Fターム(参考)】