説明

位相差フィルムおよびその製造方法、ならびに、該位相差フィルムを用いた光学フィルム、液晶パネルおよび液晶表示装置

【課題】 液晶表示装置に用いても応力によって位相差値のずれやムラが生じにくく、nx>nz>nyの関係を有し、且つ広範囲の位相差値を有する位相差フィルムを提供すること。
【解決手段】 本発明の位相差フィルムは、スチレン系樹脂とポリカーボネート系樹脂とを含む高分子フィルムの延伸フィルムであって、下記式(1)および(2)を満足する:
100nm≦Re[590]≦350nm …(1)
0.2≦Rth[590]/Re[590]≦0.8 …(2)
式(1)および(2)において、Re[590]およびRth[590]は、それぞれ、23℃における波長590nmの光で測定したフィルム面内の位相差値および厚み方向の位相差値である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルムおよびその製造方法に関する。より詳細には、本発明は、位相差値のズレやムラが生じにくく、優れた機械的強度を有し、かつ、大型の液晶表示装置に適用可能な位相差フィルムおよびその製造方法に関する。また本発明は、上記位相差フィルムを用いた光学フィルム、液晶パネルおよび液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、一般に液晶セルの両側に偏光子が配置されており、従来、上記液晶セルの複屈折による位相差を、正面方向および斜視方向において光学補償するため、上記液晶セルと偏光子との間に位相差フィルムが配置されている。液晶表示装置の斜視方向の表示特性を改善するためには、位相差フィルムの位相差値が斜視方向において、角度に伴いどのように変化するかということが非常に重要とされている。
【0003】
そこで、角度によらず位相差値がほぼ一定である位相差フィルムが開示されている(特許文献1)。上記の位相差フィルムは、フィルムの遅相軸方向、進相軸方向および厚さ方向の屈折率をそれぞれnx、ny、nzとしたとき、nx>nz>nyの関係を示す。このような位相差フィルムを用いた偏光板や、上記の位相差フィルムを用いて、斜視方向の視野角特性を改善したIPSモードやVAモードの液晶表示装置も開示されている(特許文献2、特許文献3、特許文献4)。
【0004】
nx>nz>nyの関係を示す位相差フィルムの製造方法としては、高分子フィルムの片面または両面に収縮性フィルムを接着して積層体を形成し、その積層体を加熱延伸処理して作製する方法が開示されている(特許文献5)。この製造方法では、高分子フィルムの屈折率分布を延伸前後で大きく変化させる必要がある。このため、用いられる高分子フィルムとしては、低い延伸倍率で位相差が生じやすいものが好ましく、通常、ポリカーボネート系樹脂や、ポリアリレート系樹脂、ポリサルフォン系樹脂等の芳香族系高分子フィルムが用いられている。しかしながら、上記のような芳香族系高分子フィルムは、光弾性係数が大きいので、応力に対して位相差が変化しやすい。そのため、液晶セルと偏光子との間に貼合配置された状態で、高温に曝された場合に、偏光子の収縮応力によって位相差値が設計値からずれたり、液晶表示装置に用いた場合にバックライトの熱によって発生する応力のムラによって、位相差値のムラが発生したりして、表示特性を悪化させることが問題となっている。一方、ノルボルネン系樹脂フィルム等の脂肪族系樹脂フィルムは、光弾性係数は小さい。しかし、脂肪族系樹脂フィルムは位相差が生じにくいため、芳香族系高分子フィルムのような低い延伸倍率では勿論のこと、高い延伸倍率で延伸しても、所望の位相差値を得ることができない。また、高い延伸倍率で延伸する場合には、フィルムが破断してしまうことが問題となっている。
【特許文献1】特開平2−160204号公報
【特許文献2】特開平11−305217号公報
【特許文献3】特開2000−39610号公報
【特許文献4】特開平4−305602号公報
【特許文献5】特開平5−157911号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、その目的は、応力によって位相差値のズレやムラが生じ難く、かつ、nx>nz>nyの関係を有する(すなわち、0<Rth[590]/Re[590]<1である)位相差フィルムおよびその製造方法を提供することである。本発明の別の目的は、そのような位相差フィルムを用いた光学フィルム、液晶パネルおよび液晶表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、以下に示す位相差フィルムおよび位相差フィルムの製造方法により上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明の位相差フィルムは、スチレン系樹脂とポリカーボネート系樹脂とを含む高分子フィルムの延伸フィルムであって、下記式(1)および(2)を満足する:
100nm≦Re[590]≦350nm …(1)
0.2≦Rth[590]/Re[590]≦0.8 …(2)
式(1)および(2)において、Re[590]およびRth[590]は、それぞれ、23℃における波長590nmの光で測定したフィルム面内の位相差値および厚み方向の位相差値である。
【0008】
好ましい実施形態においては、上記スチレン系樹脂の含有量は、全固形分100重量部に対して10〜40重量部である。
【0009】
好ましい実施形態においては、上記ポリカーボネート系樹脂は、下記式(3)および(4)で表される繰り返し単位を含む:
【化1】

式(3)および(4)において、nは2以上の整数である。
【0010】
好ましい実施形態においては、上記位相差フィルムの23℃における波長590nmの光で測定した光弾性係数の絶対値は、2.0×10−11〜8.0×10−11/Nである。
【0011】
本発明の別の局面によれば、光学フィルムが提供される。この光学フィルムは、偏光子と、該偏光子の少なくとも一方の側に積層された上記位相差フィルムとを有し、該位相差フィルムの遅相軸が該偏光子の吸収軸と平行または直交である。
【0012】
好ましい実施形態においては、上記光学フィルムは、上記偏光子の少なくとも一方の側に透明保護フィルムをさらに有する。さらに好ましい実施形態においては、上記光学フィルムは、上記偏光子の両側に透明保護フィルムを有し、該透明保護フィルムの少なくとも一方に上記位相差フィルムが積層され、該位相差フィルムが積層される透明保護フィルムが、下記式(5)および(6)を満足する:
0nm<Re[590]≦5nm …(5)
0nm<Rth[590]≦10nm …(6)。
【0013】
本発明のさらに別の局面によれば、液晶パネルが提供される。この液晶パネルは、上記位相差フィルムまたは上記光学フィルムと液晶セルとを含む。
【0014】
好ましい実施形態においては、上記液晶セルは、TNモード、VAモード、IPSモード、FFSモードまたはOCBモードである。
【0015】
本発明のさらに別の局面によれば、液晶表示装置が提供される。この液晶表示装置は、上記液晶パネルを含む。
【0016】
本発明のさらに別の局面によれば、液晶テレビが提供される。この液晶テレビは、上記液晶パネルを含む。
【0017】
本発明のさらに別の局面によれば、位相差フィルムの製造方法が提供される。この製造方法は、スチレン系樹脂とポリカーボネート系樹脂とを含む高分子フィルムの片面または両面に収縮性フィルムを貼り合わせて、加熱延伸することを含む。
【0018】
好ましい実施形態においては、上記収縮性フィルムは二軸延伸ポリプロピレンフィルムである。
【0019】
好ましい実施形態においては、上記収縮性フィルムの140℃におけるフィルム長手方向の収縮率:S140(MD)は2.7〜9.4%であり、かつ、幅方向の収縮率:S140(TD)は4.6〜15.8%である。
【0020】
好ましい実施形態においては、上記収縮性フィルムの160℃におけるフィルム長手方向の収縮率:S160(MD)は13〜23%であり、かつ、幅方向の収縮率:S160(TD)は30〜48%である。
【0021】
好ましい実施形態においては、上記収縮性フィルムの140℃における幅方向の収縮率と長手方向の収縮率との差:ΔS140=S140(TD)−S140(MD)は、0.1%≦ΔS140≦3.9%の範囲である。
【0022】
好ましい実施形態においては、上記収縮性フィルムの160℃における幅方向の収縮率と長手方向の収縮率との差:ΔS160=S160(TD)−S160(MD)は、8%≦ΔS160≦30%の範囲である。
【0023】
好ましい実施形態においては、上記収縮性フィルムの140℃における幅方向の収縮応力は、0.15〜0.75N/2mmである。
【0024】
好ましい実施形態においては、上記収縮性フィルムの150℃における幅方向の収縮応力は、0.20〜0.85N/2mmである。
【0025】
好ましい実施形態においては、上記高分子フィルムの延伸温度は、該高分子フィルムのTg+1℃〜Tg+30℃である。
【0026】
好ましい実施形態においては、上記高分子フィルムの延伸倍率は1.05〜2.00倍である。
【発明の効果】
【0027】
本発明の位相差フィルムは、ポリカーボネート系樹脂とスチレン系樹脂とを含む高分子フィルムの延伸フィルムである。かかる位相差フィルムは、ポリカーボネート系樹脂とスチレン系樹脂とを含むことによって、光弾性係数が小さくなるため、液晶表示装置に用いた場合、位相差値のズレやムラが生じにくい。従来、光弾性係数の小さい高分子フィルムを延伸することにより、nx>nz>nyの関係を有する(すなわち、0<Rth[590]/Re[590]<1である)位相差フィルムは得られていなかったが、本発明では上記高分子フィルムの片面または両面に所定の収縮率を有する収縮性フィルムを貼り合せて、加熱延伸することで、nx>nz>nyの関係を有し、かつ、下記式(1)および(2)を満足する位相差フィルムを得ることができる:
100nm≦Re[590]≦350nm …(1)
0.2≦Rth[590]/Re[590]≦0.8 …(2)
また、本発明の製造方法によれば、ポリカーボネート系樹脂とスチレン系樹脂とを含む高分子フィルムを延伸する際に、低い延伸倍率で広範囲の位相差値を制御できるため、広巾で、機械的強度に優れた位相差フィルムを得ることができる。従って、大型の液晶表示装置用の位相差フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
A.位相差フィルム
本発明の位相差フィルムは、スチレン系樹脂とポリカーボネート系樹脂とを含む高分子フィルムの延伸フィルムであって、下記式(1)および(2)を満足する:
100nm≦Re[590]≦350nm …(1)
0.2≦Rth[590]/Re[590]≦0.8 …(2)
式(1)および(2)において、Re[590]およびRth[590]は、それぞれ、23℃における波長590nmの光で測定したフィルム面内の位相差値および厚み方向の位相差値である。
【0029】
本発明に用いられるスチレン系樹脂とは、スチレン系モノマーを重合させることによって得られるスチレン系重合体である。上記スチレン系モノマーの具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン等が挙げられる。また、市販のスチレン系樹脂なども用いることができる。例えば、スチレン樹脂、アクリロニトリル・スチレン樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、アクリロニトリル・エチレン・スチレン樹脂、スチレン・マレイミド共重合体、スチレン・無水マレイン酸共重合体等が挙げられる。これらは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。また、上記スチレン系樹脂とスチレン系モノマーとを併用しても良い。
【0030】
上記スチレン系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、テトラヒドロフランを展開溶剤とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフ(GPC)法で測定されるポリスチレン換算で、好ましくは20,000未満であり、さらに好ましくは1,000〜10,000であり、特に好ましくは1,000〜6,000であり、最も好ましくは1,000〜3,000である。上記の範囲であれば、スチレン系樹脂とポリカーボネート系樹脂とが均質に混合され、透明性の高いフィルムを得ることができる。
【0031】
本発明の位相差フィルムに含まれるスチレン系樹脂の含有量は、全固形分100重量部に対して、好ましくは10〜40重量部であり、さらに好ましくは20〜40重量部であり、特に好ましくは22〜38重量部であり、最も好ましくは25〜35重量部である。スチレン系樹脂は、本発明の位相差フィルムの光弾性係数の絶対値を低下させるために用いられる。上記の範囲であれば、位相差フィルムの光弾性係数の絶対値を十分に小さくし、かつ、耐久性や自己支持性、延伸性などに適したガラス転移温度(Tgともいう)や剛性を確保することができる。その結果、応力によって位相差値のズレやムラが生じにくく、かつnx>nz>nyの関係を有する位相差フィルムを得ることができる。
【0032】
上記スチレン系樹脂の含有量は、上記位相差フィルムをGPC測定することによって求めることができる。具体的には、上記位相差フィルムをテトラヒドロフランに溶解して0.1重量%の溶液とし、8時間静置した後、0.45μmのメンブレンフィルターでろ過したろ液をGPC測定する。得られた微分分子量分布曲線は、低分子量成分と高分子量成分にピークの谷で2分割することができる。スチレン系樹脂の含有量は、式:[低分子量成分ピークの総面積/(低分子量成分ピークの総面積+高分子量成分ピークの総面積)]×100から求めることができる。
【0033】
本発明に用いられるポリカーボネート系樹脂としては、芳香族2価フェノール成分とカーボネート成分とからなる芳香族ポリカーボネートが好ましく用いられる。芳香族ポリカーボネートは、通常、芳香族2価フェノール化合物とカーボネート前駆物質との反応によって得ることができる。すなわち、芳香族2価フェノール化合物を苛性アルカリおよび溶剤の存在下でホスゲンを吹き込むホスゲン法、あるいは芳香族2価フェノール化合物とビスアリールカーボネートとを触媒の存在下でエステル交換させるエステル交換法により得ることができる。ここで、カーボネート前駆物質の具体例としては、ホスゲン、上記2価フェノール類のビスクロロホーメート、ジフェニルカーボネート、ジ−p−トリルカーボネート、フェニル−p−トリルカーボネート、ジ−p−クロロフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネート等が挙げられ、なかでもホスゲン、ジフェニルカーボネートが好ましい。
【0034】
上記カーボネート前駆物質と反応させる芳香族2価フェノール化合物の具体例としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジプロピルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上のものを併用してもよい。好ましくは、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンが用いられる。特に、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンと1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンとを共に使用することが好ましい。
【0035】
芳香族2価フェノール化合物として、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンと1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンとを併用する場合は、両者の使用割合を変えることによって、上記位相差フィルムのTgや光弾性係数を調整することができる。ポリカーボネート系樹脂中の1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンの含有率を高くすれば、Tgを高め、光弾性係数を低くすることができる。ポリカーボネート系樹脂中の2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンと、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンとの重量比は、好ましくは2:8〜8:2であり、さらに好ましくは3:7〜6:4であり、特に好ましくは3:7〜5:5であり、最も好ましくは4:6である。このような重量比であれば、得られる位相差フィルムの光弾性係数を十分に小さくし、かつ、耐久性や自己支持性、延伸性などに適したTgや剛性を実現することができる。
【0036】
本発明においては、芳香族2価フェノール化合物として、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンと1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンとを併用した下記式(3)および(4)で表される繰り返し単位を含むポリカーボネート系樹脂が好ましく用いられる(ただし、nは2以上の整数である)。
【化3】

【0037】
本発明に用いられるポリカーボネート系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、テトラヒドロフランを展開溶剤とするGPC法で測定されるポリスチレン換算で、好ましくは25,000〜200,000であり、さらに好ましくは30,000〜150,000であり、特に好ましくは40,000〜100,000であり、最も好ましくは50,000〜80,000である。上記ポリカーボネート系樹脂の重量平均分子量を上記の範囲とすることによって、機械的強度に優れた位相差フィルムを得ることができる。
【0038】
上記ポリカーボネート系樹脂とスチレン系樹脂との重量平均分子量(Mw)の差(ポリカーボネート系樹脂のMw−スチレン系樹脂のMw)は、好ましくは24,000〜92,000であり、さらに好ましくは29,000〜87,000であり、特に好ましくは39,000〜77,000であり、最も好ましくは49,000〜67,000である。上記の範囲であれば、透明性の高い高分子フィルムを得ることができる。
【0039】
上記のように、本発明の位相差フィルムは、上記ポリカーボネート系樹脂とスチレン系樹脂とを含む高分子フィルムを延伸(好ましくは、加熱延伸)することにより得られる。延伸前の高分子フィルムの厚みは、設計する位相差値や延伸性、位相差値の生じやすさ等に応じて適宜設定され得る。より具体的には、延伸前の高分子フィルムの厚みは、好ましくは20〜500μmであり、さらに好ましくは30〜300μmであり、特に好ましくは40〜100μmであり、最も好ましくは50〜80μmである。上記の範囲であれば、フィルムの十分な自己支持性が得られ、目的に応じて広範囲の位相差値を得ることができる。
【0040】
上記延伸前の高分子フィルムおよび本発明の位相差フィルム(延伸フィルム)の光透過率はいずれも、大きいほど好ましい。具体的には、光透過率は、波長590nmにおいて、好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは85%以上であり、特に好ましくは90%以上である。光透過率の理論的な上限は100%であり、実現可能な上限は94%である。
【0041】
上記高分子フィルムのガラス転移温度(Tg)は、特に制限はない。ガラス転移温度(Tg)は、好ましくは110〜185℃であり、さらに好ましくは120〜170℃であり、特に好ましくは125〜150℃である。Tgが110℃以上であれば、熱安定性の良好なフィルムが得やすくなり、185℃以下の温度であれば延伸によってフィルム面内および厚み方向の位相差値を制御しやすい。ガラス転移温度(Tg)は、JIS K 7121に準じたDSC法により求めることができる。
【0042】
上記高分子フィルムは、スチレン系樹脂とポリカーボネート系樹脂を混合し、当該混合物を成形することにより得ることができる。任意の適切な混合方法および成形方法が採用され得る。成形方法の具体例としては、溶液からのキャスティング法、溶融押出法が挙げられる。より具体的には、以下の通りである。例えばキャスティング法を用いてフィルムを作製する場合には、スチレン系樹脂とポリカーボネート系樹脂を所定の割合で溶剤とともに攪拌混合して均一溶液を調製し、当該溶液から形成することができる。一方、溶融押出法を用いてフィルムを作製する場合は、スチレン系樹脂とポリカーボネート系樹脂を所定の割合で溶融混合して用いることができる。上記高分子フィルムは、好ましくはキャスティング法を用いて得られる。キャスティング法で得られる高分子フィルムは、平滑性が高く、良好な光学均一性を有する。
【0043】
上記キャスティング法で用いられる溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メトキシベンゼン、1,2−ジメトキシベンゼン等の芳香族炭化水素類、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、オルソジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、フェノール、パラクロロフェノール等のフェノール類、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、アニソール、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、2−ヘキサノン、3−ヘキサノン、2−ヘプタノン、3−ヘプタノン、4−ヘプタノン、2,6−ジメチル−4−ヘプタノン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン等のケトン類、n−ブタノールや2−ブタノール、シクロヘキサノール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコールやグリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール等のアルコール類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類、アセトニトリル、ブチロニトリル等のニトリル類、メチルセロソルブ、酢酸メチルセロソルブ等のセロソルブ類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸メチル等のエステル類、塩化メチレン、二硫化炭素、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等が挙げられる。これらは、単独であるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0044】
好ましい溶剤は、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、ジグライム、トルエン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、クロロベンゼンである。特に好ましい溶剤は、テトラヒドロフランまたはジクロロメタンである。これらは、溶解性とドープの安定性が特に良好である。
【0045】
上記キャスティング法で用いられる溶液の全固形分濃度は、樹脂の溶解性、塗工粘度、基材上へのぬれ性、塗布後の厚みなどに応じて適宜設定され得る。より具体的には、全固形分濃度は、溶剤100重量部に対して、好ましくは2〜100重量部、さらに好ましくは4〜50重量部、特に好ましくは5〜40重量部である。このような範囲の全固形分濃度を採用することにより、平滑性の高い高分子フィルムが得られる。
【0046】
上記高分子フィルムは、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて任意の適切な添加剤を含有し得る。添加剤の具体例としては、安定剤、可塑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤が挙げられる。
【0047】
上記のように、本発明の位相差フィルムは、上記高分子フィルムの延伸フィルムである。本明細書において「延伸フィルム」とは、適切な温度で未延伸のフィルムに張力を加え、引張方向に沿って分子の配向を高めたフィルムをいう。本明細書における「延伸フィルム」は、予め延伸されたフィルムに、さらに張力を加えて引張方向に沿って分子の配向を高めたフィルムをも包含する。
【0048】
上記位相差フィルム(延伸フィルム)の厚みは、好ましくは22〜550μmであり、さらに好ましくは33〜330μmであり、特に好ましくは44〜110μmであり、最も好ましくは55〜88μmである。上記の範囲であれば、フィルムの十分な自己支持性が得られ、目的に応じた広範囲の位相差値を得ることができる。
【0049】
本明細書においてRe[590]とは、23℃における波長590nmの光で測定したフィルム面内の位相差値をいう。Re[590]は、波長590nmにおけるフィルムの遅相軸方向、進相軸方向の屈折率をそれぞれnx、nyとし、d(nm)をフィルムの厚みとしたとき、式:Re[590]=(nx−ny)×dによって求めることができる。なお、遅相軸とは、フィルム面内の屈折率の最大となる方向をいう。
【0050】
本発明の位相差フィルムのRe[590]は、上記式(1)に記載のように100〜350nmであり、好ましくは200〜350nmであり、さらに好ましくは240〜300nmであり、特に好ましくは260〜280nmであり、最も好ましくは265〜275nmである。上記Re[590]の値を、測定波長の約1/2とすることによって、液晶表示装置の表示特性をより一層改善することができる。
【0051】
本明細書においてRth[590]とは、23℃における波長590nmの光で測定したフィルム厚み方向の位相差値をいう。Rth[590]は、波長590nmにおけるフィルムの遅相軸方向、厚み方向の屈折率をそれぞれnx、nzとし、d(nm)をフィルムの厚みとしたとき、式:Rth[590]=(nx−nz)×dによって求めることができる。
【0052】
本発明の位相差フィルムのRth[590]は、好ましくは35〜190nmであり、さらに好ましくは90〜190nmであり、特に好ましくは100〜165nmであり、最も好ましくは120〜155nmである。
【0053】
Re[590]およびRth[590]は、王子計測機器(株)製 商品名「KOBRA21−ADH」]を用いて測定することができる。23℃における波長590nmのフィルム面内の位相差値(Re)、遅相軸を傾斜軸として40度傾斜させて測定した位相差値(R40)、位相差フィルムの厚み(d)および位相差フィルムの平均屈折率(n0)を用いて、以下の式(i)〜(vi)からコンピュータ数値計算によりnx、nyおよびnzを求め、次いで式(iv)によりRthを計算できる。ここで、φおよびny’はそれぞれ以下の式(v)および(vi)で示される。
Re=(nx−ny)×d …(i)
R40=(nx−ny’)×d/cos(φ) …(ii)
(nx+ny+nz)/3=n0 …(iii)
Rth=(nx−nz)×d
…(iv)
φ =sin−1[sin(40°)/n0] …(v)
ny’=ny×nz[ny×sin(φ)+nz×cos(φ)]1/2 …(vi)
【0054】
本明細書においてRth[590]/Re[590]は、23℃における波長590nmの光で測定した厚み方向の位相差値とフィルム面内の位相差値との比をいう(この比をNz係数ともいう)。
【0055】
本発明の位相差フィルムのRth[590]/Re[590]は、上記式(2)に記載のように0.2〜0.8であり、好ましくは0.2〜0.7であり、さらに好ましくは0.2〜0.6であり、特に好ましくは0.4〜0.6であり、最も好ましくは0.45〜0.55である。上記位相差フィルムのRth[590]/Re[590]値を0.5に近づけることにより、角度によらず位相差値がほぼ一定の特性を達成することができ、液晶表示装置の表示特性をより一層改善することができる。さらに、Rth[590]/Re[590]を、0を超え1より小さくすることにより、nx>nz>nyの屈折率分布を有する位相差フィルムが得られる。
【0056】
位相差フィルムの光弾性係数とは、光学フィルムに外力を加えて内部に応力を起こさせたときの複屈折の生じやすさをいう。一般的に、位相差フィルムの光弾性係数は、その絶対値が小さいほうが好ましい。光学均一性に優れ、歪による位相差ムラなどが生じにくいからである。上記光弾性係数は、例えば、日本分光(株)製 分光エリプソメーター 製品名「M−220」を用いて、2cm×10cmの試験片に23℃で応力をかけながら、波長590nmの光でフィルム面内の位相差値を測定し、位相差値と応力の関数の傾きから算出することができる。
【0057】
本発明の位相差フィルムの光弾性係数は、23℃における波長590nmの光で測定した値の絶対値:C[590](m/N)が、好ましくは2.0×10−11〜8.0×10−11であり、さらに好ましくは2.0×10−11〜6.0×10−11であり、特に好ましくは3.0×10−11〜6.0×10−11であり、最も好ましくは4.0×10−11〜6.0×10−11である。上記の範囲とすることによって、偏光子の収縮応力やバックライトの熱による位相差値のズレやムラが生じにくく、nx>nz>nyの屈折率分布を有する位相差フィルムを得ることができる。
【0058】
位相差フィルムの波長分散特性とは、一般的に、位相差値の波長依存性をいう。上記波長分散特性は、23℃における波長480nmおよび590nmの光で測定したフィルム面内の位相差値の比:Re[480]/Re[590]で表すことができる。
【0059】
本発明の位相差フィルムの波長分散特性(Re[480]/Re[590]値)は、好ましくは1.02〜1.30であり、さらに好ましくは、1.02〜1.20であり、特に好ましくは1.02〜1.10である。Re[480]/Re[590]値は、上記の範囲で小さいほど、可視光の広い領域で位相差値が一定になるので、液晶パネルのコントラスト比とカラーシフトを改善することができる。なお、Re[480]およびRe[590]はそれぞれ、23℃における波長480nmおよび590nmの光で測定したフィルム面内の位相差値である。
【0060】
位相差フィルムの遅相軸の方向(配向角ともいう)のバラツキは、小さければ小さいほど好ましい。バラツキが大きいと、偏光子または偏光板に積層した場合に偏光度の低下を招く場合がある。フィルム幅方向で等間隔に設けた5点の測定箇所における配向角のバラツキの範囲は、好ましくは±2.0°〜±1.0°であり、さらに好ましくは±1.0°〜±0.5°であり、特に好ましくは±0.5°〜±0.1°である。なお、上記配向角は、例えば、王子計測機器(株)製 商品名「KOBRA21−ADH」]を用いて求めることができる。
【0061】
B.位相差フィルムの製造方法
本発明の位相差フィルムの製造方法は、スチレン系樹脂とポリカーボネート系樹脂とを含む高分子フィルムの片面または両面に収縮性フィルムを貼り合わせて、加熱延伸することを含む。
【0062】
本発明に用いられる収縮性フィルムは、加熱延伸時に延伸方向と直交する方向の収縮力を付与するために用いられる。上記収縮性フィルムに用いられる材料としては、例えば、ポリエステル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等が挙げられる。収縮均一性、耐熱性が優れる点から、ポリプロピレンフィルムが好ましく用いられる。
【0063】
上記収縮性フィルムは、好ましくは、二軸延伸フィルムおよび一軸延伸フィルム等の延伸フィルムである。上記収縮性フィルムは、例えば、押出法によりシート状に成形された未延伸フィルムを同時二軸延伸機等で所定の倍率に縦および/または横方向に延伸して得ることができる。なお、成形および延伸条件は、用いる樹脂の組成や種類や目的に応じて、適宜選択され得る。収縮均一性、耐熱性が優れる点から、二軸延伸ポリプロピレンフィルムが、特に好ましく用いられる。
【0064】
好ましくは、上記収縮性フィルムの140℃におけるフィルム長手方向の収縮率:S140(MD)は2.7〜9.4%であり、且つ、幅方向の収縮率:S140(TD)は4.6〜15.8%である。S140(MD)はさらに好ましくは2.7〜8.7%であり、特に好ましくは3.7〜7.7%であり、最も好ましくは4.7〜6.7%である。S140(TD)は、さらに好ましくは4.6〜10.6%であり、特に好ましくは5.6〜9.6%であり、最も好ましくは6.6〜8.6%である。上記の範囲であれば、目的とする位相差値が得られ、且つ、均一性に優れた位相差フィルムを得ることができる。
【0065】
好ましくは、上記収縮性フィルムの160℃におけるフィルム長手方向の収縮率:S160(MD)は13〜23%であり、且つ、幅方向の収縮率:S160(TD)は30〜48%である。S160(MD)は、さらに好ましくは15〜21%であり、特に好ましくは16〜20%であり、最も好ましくは17〜19%である。S160(TD)は、さらに好ましくは31〜44%であり、特に好ましくは32〜40%であり、最も好ましくは33〜38%である。上記の範囲であれば、目的とする位相差値が得られ、且つ、均一性に優れた位相差フィルムを得ることができる。
【0066】
上記収縮性フィルムの140℃における幅方向の収縮率と長手方向の収縮率の差:ΔS140=S140(TD)−S140(MD)は、好ましくは0.1%≦ΔS140≦3.9%であり、さらに好ましくは0.9%≦ΔS140≦2.9%であり、特に好ましくは1.4%≦ΔS140≦2.4%であり、最も好ましくは1.8%≦ΔS140≦2.1%である。MD方向の収縮率が大きいと、延伸張力に加え、上記収縮性フィルムの収縮力が延伸機に加わり均一な延伸が困難となる場合がある。一方、上記の範囲であれば、延伸機等の設備に過度の負荷をかけることなく、均一な延伸を行なうことができる。
【0067】
上記収縮性フィルムの160℃における幅方向の収縮率と長手方向の収縮率の差:ΔS160=S160(TD)−S160(MD)は、好ましくは8%≦ΔS160≦30%であり、さらに好ましくは10%≦ΔS160≦28%であり、特に好ましくは12%≦ΔS160≦26%であり、最も好ましくは14%≦ΔS160≦22%である。MD方向の収縮率が大きいと、延伸張力に加え、上記収縮性フィルムの収縮力が延伸機に加わり均一な延伸が困難となる場合がある。上記の範囲であれば、延伸機等の設備に過度の負荷をかけることなく、均一な延伸を行なうことができる。
【0068】
上記収縮性フィルムの140℃における幅方向の2mm幅あたりの収縮応力:T140(TD)は、好ましくは0.15〜0.75N/2mmであり、さらに好ましくは0.15〜0.70N/2mmであり、特に好ましくは0.25〜0.65N/2mmであり、最も好ましくは0.35〜0.55N/2mmである。また、上記収縮性フィルムの140℃における単位面積あたりの収縮応力:T140(TD)は、好ましくは2.5〜12.5N/mmである。上記の範囲であれば、目的とする位相差値が得られ、且つ、均一な延伸を行なうことができる。
【0069】
上記収縮性フィルムの150℃における幅方向の2mm幅あたりの収縮応力:T150(TD)は、好ましくは0.20〜0.85N/2mmであり、さらに好ましくは0.25〜0.80/2mmであり、特に好ましくは0.35〜0.75N/2mmであり、最も好ましくは0.45〜0.65N/2mmである。また、上記収縮性フィルムの150℃における単位面積あたりの収縮応力:T150(TD)は、好ましくは3.3〜14.2N/mmである。上記の範囲であれば、目的とする位相差値が得られ、且つ、均一な延伸を行なうことができる。
【0070】
上記収縮率S(MD)およびS(TD)は、JIS Z 1712の加熱収縮率A法に準じて求めることができる(ただし、加熱温度は120℃に代えて上記のように140℃または160℃とし、試験片に加重3gを加えたことが異なる)。具体的には、幅20mm、長さ150mmの試験片を縦(MD)、横(TD)方向から各5枚採り、それぞれの中央部に約100mmの距離において標点をつけた試験片を作製する。該試験片は、温度140℃±3℃または160℃±3℃に保持された空気循環式恒温槽に、加重3gをかけた状態で垂直につるし、15分間加熱した後、取り出し、標準状態(室温)に30分間放置してから、JIS B 7507に規定するノギスを用いて、標準間距離を測定して、5個の測定値の平均値を求め、S(%)=[(加熱前の標準間距離(mm)−加熱後の標準間距離(mm))/加熱前標準間距離(mm)]×100より算出することができる。
【0071】
上記収縮性フィルムとしては、本発明の目的を満足するものであれば、一般包装用、食品包装用、パレット包装用、収縮ラベル用、キャップシール用、および電気絶縁用等の用途に使用される市販の収縮性フィルムも適宜、選択して用いることができる。これら市販の収縮性フィルムは、そのまま用いてもよく、延伸処理や収縮処理などの2次加工を施してから用いてもよい。市販の収縮性フィルムの具体例としては、王子製紙(株)製 商品名「アルファンシリーズ」、グンゼ(株)製 商品名「ファンシートップシリーズ」、東レ(株)製 商品名「トレファンシリーズ」、サン・トックス(株) 商品名「サントックス−OPシリーズ」、東セロ(株) 商品名「トーセロOPシリーズ」等が挙げられる。
【0072】
上記収縮性フィルムの加熱延伸前の厚みとしては、上記収縮率や、位相差値等に応じて任意の適切な厚みが採用され得る。具体的には、当該厚みは、好ましくは10〜500μmであり、さらに好ましくは20〜300μmであり、特に好ましくは30〜100μmであり、最も好ましくは40〜80μmである。上記の範囲内であれば十分な収縮率が得られるので、良好な光学均一性を有する位相差フィルムを作製することができる。
【0073】
上記収縮性フィルムの上記高分子フィルムへの貼り合わせは、当該収縮性フィルムの収縮方向が少なくとも延伸方向と直交する方向の成分を含むように行われる。すなわち、上記収縮性フィルムの収縮力の全部または一部が上記高分子フィルムの延伸方向と直交する方向に作用するように行われる。従って、上記収縮性フィルムの収縮方向が上記高分子フィルムの延伸方向と斜交していても良く、完全に直交する方向にある必要はない。
【0074】
上記収縮性フィルムの貼り合わせ方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。例えば、上記高分子フィルムと上記収縮性フィルムとの間に粘着剤層を設けて接着する方法が好ましい。このような方法は、作業性および生産性に優れる。上記粘着剤層は、上記高分子フィルムまたは上記収縮性フィルムの一方または両方に形成することができる。通常、収縮性フィルムは、位相差フィルムを作製した後に剥離されるので、上記粘着剤としては、加熱延伸工程では接着性と耐熱性に優れ、その後の剥離工程では、容易に剥離できて、上記位相差フィルムの表面に粘着剤が残存しないものが好ましい。上記粘着剤層は、上記収縮性フィルムに設けるほうが好ましい。そのようにすると、剥離性に優れる。
【0075】
上記粘着剤層を形成する粘着剤としては、例えば、アクリル系、合成ゴム系、ゴム系、シリコーン系が挙げられる。アクリル系ポリマーをベースポリマーとするアクリル系粘着剤が好ましい。接着性、耐熱性および剥離性に優れるからである。アクリル系ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、ポリスチレン換算で好ましくは30,000〜2,500,000である。なお、重量平均分子量(Mw)は、テトラヒドロフランを展開溶剤とするGPC法によって算出される。
【0076】
上記アクリル系ポリマーに使用されるモノマーとしては、各種(メタ)アクリル酸アルキルが挙げられる。具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸ノナデシル、(メタ)アクリル酸エイコシルのような(メタ)アクリル酸の炭素数1〜20アルキルエステルが挙げられる。これらは、単独で、または組み合わせて使用され得る。
【0077】
1つの実施形態においては、得られるアクリル系ポリマーに極性が付与される。極性を付与する方法としては、例えば、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルと所定の単量体を共重合する方法が挙げられる。共重合に用いられる単量体としては、(メタ)アクリル酸やイタコン酸等のカルボキシル基含有単量体、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルや(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル等のヒドロキシル基含有単量体、N−メチロールアクリルアミド等のアミド基含有単量体、(メタ)アクリロニトリル等のシアノ基含有単量体、(メタ)アクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有単量体、酢酸ビニル等のビニルエステル類、スチレンやα−メチルスチレン等のスチレン系単量体が挙げられる。
【0078】
アクリル系ポリマーの重合方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。具体例としては、溶液重合、乳化重合、懸濁重合、UV重合が挙げられる。
【0079】
1つの実施形態においては、上記粘着剤(組成物)は、架橋剤をさらに含有し得る。架橋剤としては、ポリイソシアネート化合物、ポリアミン化合物、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。さらに、上記粘着剤は、必要に応じて任意の適切な添加剤を含有し得る。添加剤の種類、添加量等を選択することにより、目的に応じて適切な接着力および/または他の特性を有する粘着剤層を形成することができる。添加剤の具体例としては、触媒、粘着付与剤(例えば、天然樹脂、合成樹脂)、可塑剤、充填剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、シランカップリング剤等が挙げられる。
【0080】
粘着剤層の形成方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。具体例としては、直写法および転写法が挙げられる。直写法は、上記収縮性フィルムに直接、粘着剤を塗布し乾燥する方法である。転写法は、離型フィルムに粘着剤を塗布し、乾燥後、上記収縮性フィルムに転写する方法である。
【0081】
上記粘着剤層の厚みとしては、粘着力や位相差フィルムの表面状態等に応じて任意の適切な厚みが採用され得る。具体的には、厚みは、好ましくは1〜100μmであり、さらに好ましくは5〜50μmであり、特に好ましくは10〜30μmである。上記の範囲内であれば、十分な収縮率が得られ、良好な光学均一性を有する位相差フィルムを作製することができる。上記粘着剤層は、種類および/または組成が異なる複数の粘着剤を積層して形成してもよい。
【0082】
上記粘着剤層の露出面には、実用に供するまでの間、セパレータが仮着されて、当該面をカバーする。これにより、取り扱い時に作業者等が粘着剤層に接触し、当該粘着剤層が汚染されることが防止される。上記セパレータとしては、任意の適切な剥離紙または離型フィルムが採用され得る。より具体的には、薄い基材を剥離剤でコート処理された剥離紙または離型フィルムが挙げられる。基材としては、プラスチックフィルム、ゴムシート、紙、布、不織布、ネット、発泡シート、金属箔、およびそれらのラミネート体等が挙げられる。剥離剤としては、シリコーン系剥離剤、長鎖アルキル系剥離剤、フッ素系剥離剤、硫化モリブデン等が挙げられる。
【0083】
上記高分子フィルムと粘着剤層との界面における23℃の接着力は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に制限はない。具体的には、接着力は、好ましくは0.1〜10.0N/50mmであり、より好ましくは0.1〜5.0N/50mmであり、特に好ましくは0.2〜3.0N/50mmである。接着力は、上記収縮性フィルムを、上記高分子フィルムに、JIS Z 0237に準じた手動ローラで3往復して圧着したものを接着力測定用サンプルとし、該サンプルをオートクレーブ処理(50℃、15分、5kg/cm2)した後、JIS B 7721に準じた装置により、JIS Z 0237に準じた90度引きはなし法(引き上げ速度:300mm/min)で測定することができる。接着力は、任意の適切な方式で制御することができる。例えば、上記高分子フィルムの粘着剤層が設けられる側の表面にコロナ処理やプラズマ処理等の適宜な表面処理を施す方式、上記高分子フィルムと上記収縮性フィルムを接着した状態で加熱処理やオートクレーブ処理等の適宜な処理を施す方式、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0084】
上記収縮性フィルムは、設計する収縮力、目的とする光学特性等に応じて上記高分子フィルムの片面または両面に1枚または2枚以上の適宜な数を貼り合わせることができる。収縮性フィルムを複数用いる場合(例えば、両面に貼り合わせる場合、片面に2枚以上を貼り合わせる場合)には、当該複数の収縮性フィルムの収縮率は、目的に応じて適切に設定され得る。したがって、当該複数の収縮性フィルムの収縮率は、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0085】
次に、上記収縮性フィルムを貼り合わせた上記高分子フィルム(以下、積層体という)を、延伸(代表的には、加熱延伸)する。延伸方法としては、上記高分子フィルムの延伸方向への張力と、上記延伸方向とフィルム面内で直交する方向への収縮力とが付与することができる方法であれば、任意の適切な延伸方法を用いることができる。具体例としては、縦一軸延伸法、横一軸延伸法、縦横同時二軸延伸法、縦横逐次二軸延伸法等が挙げられる。延伸処理は、任意の適切な延伸機を用いて行われる。延伸機の具体例としては、ロール延伸機、テンター、二軸延伸機等が挙げられる。延伸は、1段階で行ってもよく、2段階以上で行ってもよい。延伸方向は、フィルム長手方向(MD方向)であっても良いし、幅方向(TD方向)であっても良い。あるいは、特開2003−262721号公報の図1に記載の延伸法を用いて、斜め方向とすることもできる。
【0086】
上記積層体を延伸する際の温度(延伸温度)は、好ましくは、高分子フィルムのガラス転移温度(Tg)以上である。得られる位相差フィルムの位相差値が均一になり易く、また、フィルムが結晶化(白濁)しにくいからである。延伸温度は、より好ましくは上記高分子フィルムのTg+1℃〜Tg+30℃であり、さらに好ましくはTg+2℃〜Tg+20℃であり、特に好ましくはTg+3℃〜Tg+15℃であり、最も好ましくはTg+5℃〜Tg+10℃である。延伸温度が上記の範囲であれば、均一な加熱延伸を行うことができる。さらに、上記延伸温度は、フィルム幅方向で一定であることが好ましい。位相差値のバラツキが小さい良好な光学均一性を有する位相差フィルムを作製することができるからである。
【0087】
上記延伸温度を一定に保持する手段としては、任意の適切な温度制御手段が採用され得る。具体例としては、熱風または冷風等が循環する空気循環式恒温オーブン、マイクロ波もしくは遠赤外線などを利用したヒーター、温度調節用に加熱または冷却されたロール、ヒートパイプロールまたは金属ベルトなどを用いた加熱または冷却手段が挙げられる。
【0088】
上記延伸温度は、ばらつき(代表的には、フィルム幅方向のばらつき)が小さければ小さいほど好ましい。ばらつきが大きいと、延伸ムラが大きくなり、最終的に得られる位相差フィルムの位相差値にばらつきが生じる場合がある。延伸温度のフィルム幅方向のばらつきは、好ましくは±3.0℃以下、特に好ましくは±1.0℃以下である。
【0089】
上記延伸時の延伸倍率は、用いる高分子フィルムのスチレン系樹脂の含有量、揮発性成分等の種類、揮発性成分等の残留量、設計する位相差値等に応じて適宜設定され得る。具体的には、延伸倍率は、好ましくは1.05〜2.00倍であり、より好ましくは1.10〜1.50倍であり、特に好ましくは1.20〜1.40倍であり、最も好ましくは1.25〜1.30倍である。上記の範囲であれば、フィルム幅の収縮が少なく、機械的強度に優れた位相差フィルムを提供することができる。
【0090】
上記延伸時の送り速度は、特に制限はない。例えば、延伸装置の機械精度、安定性等を考慮すると、送り速度は、好ましくは0.5m/分以上、より好ましくは1m/分以上である。
【0091】
本発明の位相差フィルムの製造方法の一例について、図1を参照して説明する。図1は、本発明の位相差フィルムの代表的な製造工程の概念を示す模式図である。例えば、スチレン系樹脂とポリカーボネート系樹脂とを含む高分子フィルム402は、第1の繰り出し部401から繰り出され、ラミネートロール407、408により、当該高分子フィルム402の両面に、第2の繰り出し部403から繰り出された粘着剤層を備える収縮性フィルム404と、第3の繰り出し部405から繰り出された粘着剤層を備える収縮性フィルム406とが貼着される。高分子フィルムの両面に収縮性フィルムが貼着された積層体は、乾燥手段409によって一定温度に保持されながら、速比の異なるロール410、411、412および413でフィルムの長手方向の張力を付与され(同時に収縮性フィルムによって、厚み方向への張力を付与され)ながら、延伸処理に供される。第1の巻き取り部414および第2の巻き取り部416にて、延伸処理された積層体から収縮性フィルム404および406が粘着剤層と共に剥離され、位相差フィルム(延伸フィルム)418が得られる。得られた位相差フィルム418は、第3の巻き取り部419で巻き取られる。
【0092】
C.本発明の位相差フィルムと他の位相差フィルムとの併用
本発明の位相差フィルムは、粘着剤や接着剤等を介して他の位相差フィルムに積層して使用することができる。本発明の位相差フィルムと併用されるほかの位相差フィルムとしては、目的に応じて任意の適切な光学特性、化学特性および機械的特性を有する位相差フィルムが選択され得る。当該他の位相差フィルムの具体例としては、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ジアセチルセルロースやトリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ポリスチレンやアクリロニトリル・スチレン共重合体、スチレン樹脂、アクリロニトリル・スチレン樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、アクリロニトリル・エチレン・スチレン樹脂、スチレン・マレイミド共重合体、スチレン・無水マレイン酸共重合体等のスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等が挙げられる。また、シクロ系オレフィン樹脂、ノルボルネン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ナイロンや芳香族ポリアミド等のアミド系樹脂、芳香族ポリイミドやポリイミドアミド等のイミド系樹脂、スルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、ビニルブチラール系樹脂、アリレート系樹脂、ポリオキシメチレン系樹脂、エポキシ系樹脂、または上記樹脂のブレンド物等からなる高分子フィルムに複屈折特性を付与したフィルムや、基材上に液晶性化合物を含む混合溶液を塗工し、硬化したフィルムが挙げられる。上記複屈折特性は、該高分子フィルムの製膜時に自発的に発生する場合もあるし、該高分子フィルムを一軸または二軸に延伸することによって付与することもできる。
【0093】
上記他の位相差フィルムの複屈折特性としては、本発明の位相差フィルムの複屈折特性、用いられる液晶表示装置の表示モード等に応じて任意の適切な複屈折特性が採用され得る。例えば、TNモード、IPSモード、FFSモード、VAモードおよびOCBモードの液晶表示装置に用いる場合には、Re[590]=80〜140nm(Rth[590]/Re[590]=0.9〜1.3)の一軸性位相差フィルム、Re[590]=0〜5nmであってRth[590]=90〜400nmである負の一軸性位相差フィルム、基板法線から光軸が10〜80°に傾斜した一軸性傾斜配向位相差フィルム、Re[590]=30〜60nm(Rth[590]/Re[590]=2.0〜6.0)の二軸性位相差フィルム、Re[590]=100〜300nm(Rth[590]/Re[590]=0.2〜0.8)の二軸性位相差フィルム、ディスコチック液晶分子または棒状液晶分子が基板法線に対して徐々に傾斜したハイブリッド配向位相差フィルム等が好ましく用いられる。このような位相差フィルムを本発明の位相差フィルムと併用することにより、液晶表示装置の視野角特性がさらに改善され得る。
【0094】
D.光学フィルム
本発明の光学フィルムは、偏光子と、該偏光子の少なくとも一方の側に積層された本発明の位相差フィルムとを有する。偏光子と位相差フィルムとは、任意の適切な手段により(例えば、粘着剤層または接着剤層を介して)積層される。本発明の光学フィルムにおいては、本発明の位相差フィルムを単独で用いてもよく、2枚以上を積層して用いてもよい。2枚以上を積層して用いる場合には、それぞれの位相差フィルムは同一であってもよく、異なっていてもよい。異なる位相差フィルムを積層して用いる場合には、それぞれの位相差フィルムの光学特性は、目的に応じて適宜設定され得る。例えば、本発明の光学フィルムの1つの実施形態においては、位相差フィルムはλ/2板である。この場合、単一層のλ/2板を位相差フィルムとして用いてもよく、2枚のλ/4板を遅相軸が略平行になるように配置して用いてもよい。本発明の光学フィルムは、必要に応じて任意の適切な他の位相差フィルム(例えば、上記C項に記載の他の位相差フィルム)をさらに有してもよい。
【0095】
1つの実施形態においては、本発明の光学フィルムは、上記偏光子の少なくとも一方の側に透明保護フィルムをさらに有する。この場合、上記本発明の位相差フィルムは、代表的には、当該偏光子の透明保護フィルムと反対側に積層される。別の実施形態においては、本発明の光学フィルムは、上記偏光子の両側に透明保護フィルムを有し、該透明保護フィルムの少なくとも一方に上記本発明の位相差フィルムが積層されている。言い換えれば、本発明の光学フィルムは、偏光板(通常、偏光子と、該偏光子の少なくとも一方に積層された透明保護フィルムとを有する)の少なくとも一方に上記本発明の位相差フィルムが積層されている。上記透明保護フィルムが偏光子の両側に設けられている場合には、それぞれの透明保護フィルムは、同一の材料から形成されてもよく、異なる材料から形成されてもよい。
【0096】
本発明の光学フィルムは、好ましくは、上記位相差フィルムの遅相軸が上記偏光子の吸収軸と実質的に平行または直交である。本明細書において「実質的に平行」とは、上記位相差フィルムの遅相軸と上記偏光子の吸収軸のなす角度が0°±2.0°である場合を包含し、好ましくは0°±1.0°であり、さらに好ましくは0°±0.5°である。本明細書において「実質的に直交」とは、上記位相差フィルムの遅相軸と上記偏光子の吸収軸のなす角度が90°±2.0°である場合を包含し、好ましくは90°±1.0°であり、さらに好ましくは90°±0.5°である。これらの角度範囲から外れる程度が大きくなるほど、偏光板の偏光度が低下し、液晶表示装置に用いた際に、コントラストが低下する。
【0097】
以下、本発明の光学フィルムの具体的構成について、図面を参照して例示する。図2は、本発明の好ましい実施形態による光学フィルムを説明する概略斜視図である。図2の光学フィルム3Aは、偏光子1aの一方の面に透明保護フィルム1cが配置され、他方の面に本発明の位相差フィルム2が配置されている。言い換えれば、図2の光学フィルム3Aは、(偏光子1aと透明保護フィルム1cとを有する)偏光板1Aに位相差フィルム2が積層されている。図2においては、位相差フィルム2の遅相軸が偏光子1aの吸収軸に対し平行である場合を示しているが、これは直交であっても良い。
【0098】
図3は、本発明の別の実施形態による光学フィルムを説明する概略斜視図である。図3の光学フィルム3Bは、偏光子1aの両側に透明保護フィルム1bおよび透明保護フィルム1cが配置され、透明保護フィルム1bの偏光子1aと反対側の面に位相差フィルム2が配置されている。言い換えれば、図3の光学フィルム3Bは、(偏光子1aと透明保護フィルム1bと透明保護フィルム1cとを有する)偏光板1Bに位相差フィルム2が積層されている。図3においては、位相差フィルム2の遅相軸が偏光子1aの吸収軸に対し平行である場合を示しているが、これは直交であっても良い。
【0099】
図4は、本発明のさらに別の実施形態による光学フィルムを説明する概略斜視図である。図4の光学フィルム3Cは、偏光子1aの一方の面に透明保護フィルム1cが配置され、他方の面に2枚の本発明の位相差フィルム2aおよび2bが配置されている。言い換えれば、図4の光学フィルム3Cは、(偏光子1aと透明保護フィルム1cとを有する)偏光板1Cに2枚の位相差フィルム2aおよび2bが積層されている。図4においては、位相差フィルム2aおよび2bの遅相軸が偏光子1aの吸収軸に対し平行である場合を示しているが、これは直交であっても良い。さらに、図4においては、位相差フィルム2aおよび2bの遅相軸が互いに平行であるが、これらは目的によっては直交であってもよい。
【0100】
図5は、本発明のさらに別の実施形態による光学フィルムを説明する概略斜視図である。図5の光学フィルム3Dは、偏光子1aの両側に透明保護フィルム1bおよび透明保護フィルム1cが配置され、透明保護フィルム1bの偏光子1aと反対側の面に2枚の本発明の位相差フィルム2aおよび2bが配置されている。言い換えれば、図5の光学フィルム3Dは、(偏光子1aと透明保護フィルム1bと透明保護フィルム1cとを有する)偏光板1Dに2枚の位相差フィルム2aおよび2bが積層されている。図5においては、位相差フィルム2aおよび2bの遅相軸が偏光子1aの吸収軸に対し平行である場合を示しているが、これは直交であっても良い。さらに、図5においては、位相差フィルム2aおよび2bの遅相軸が互いに平行であるが、これらは目的によっては直交であってもよい。
【0101】
本発明の光学フィルムに用いられる偏光子としては、目的に応じて任意の適切な偏光子が採用され得る。例えば、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて一軸延伸したもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等ポリエン系配向フィルム等が挙げられる。これらのなかでも、ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素などの二色性物質を吸着させて一軸延伸した偏光子が、偏光二色比が高く特に好ましい。これら偏光子の厚さは特に制限されないが、一般的に、5〜80μm程度である。上記液晶セルの両側に配置される偏光子は、それぞれ、同じものであっても良いし、異なるものであっても良い。
【0102】
ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を吸着させて一軸延伸した偏光子は、例えば、ポリビニルアルコールをヨウ素の水溶液に浸漬することによって染色し、元長の3〜7倍に延伸することで作製することができる。必要に応じてホウ酸や硫酸亜鉛、塩化亜鉛等を含んでいても良いし、ヨウ化カリウムなどの水溶液に浸漬することもできる。さらに必要に応じて染色の前にポリビニルアルコール系フィルムを水に浸漬して水洗しても良い。
【0103】
ポリビニルアルコール系フィルムを水洗することでポリビニルアルコール系フィルム表面の汚れやブロッキング防止剤を洗浄することができるだけでなく、ポリビニルアルコール系フィルムを膨潤させることで染色のムラなどの不均一を防止する効果もある。延伸はヨウ素で染色した後に行っても良いし、染色しながら延伸しても良いし、また延伸してからヨウ素で染色しても良い。ホウ酸やヨウ化カリウムなどの水溶液中や水浴中でも延伸することができる。
【0104】
上記透明保護フィルムとしては、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮蔽性、位相差値の安定性などに優れるものが好ましい。上記透明保護フィルムを形成する材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ジアセチルセルロースやトリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ポリスチレンやアクリロニトリル・スチレン共重合体、スチレン樹脂、アクリロニトリル・スチレン樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、アクリロニトリル・エチレン・スチレン樹脂、スチレン・マレイミド共重合体、スチレン・無水マレイン酸共重合体等のスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等が挙げられる。また、シクロ系オレフィン樹脂、ノルボルネン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ナイロンや芳香族ポリアミド等のアミド系樹脂、芳香族ポリイミドやポリイミドアミド等のイミド系樹脂、スルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、ビニルブチラール系樹脂、アリレート系樹脂、ポリオキシメチレン系樹脂、エポキシ系樹脂、または上記樹脂のブレンド物等からなる高分子フィルムなども上記透明保護フィルムを形成する樹脂の例として挙げられる。また、上記透明保護フィルムは、アクリル系、ウレタン系、アクリルウレタン系、エポキシ系、シリコーン系等の熱硬化型または紫外線硬化型の樹脂の硬化層として形成することもできる。
【0105】
上記透明保護フィルムとしては、トリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂およびノルボルネン系樹脂が好適に用いられる。これらは、偏光特性および耐久性などに優れる。セルロース系樹脂の具体的としては、富士写真フィルム(株)製 製品名「フジタック」が挙げられる。ノルボルネン系樹脂の具体例としては、日本ゼオン(株)製 製品名「ゼオノア」、JSR(株)製 製品名「アートン」などが挙げられる。
【0106】
上記透明保護フィルムの厚みは、目的に応じて適宜設定され得る。代表的には、透明保護フィルムの厚みは、1〜500μm程度である。このような厚みであれば、取扱性等の作業性、強度に優れ、かつ、液晶表示装置の薄型化にも貢献し得る。透明保護フィルムの厚みは、より好ましくは5〜200μmであり、特に好ましくは10〜150μmである。このような範囲であれば、偏光子を機械的に保護し、高温高湿下に曝されても偏光子が収縮せず、安定した光学特性を保つことができる。
【0107】
上記透明保護フィルムは、光学特性が最適化されたものを用いることが好ましい。そうすることにより、当該フィルムが液晶表示装置の視野角特性に及ぼす影響を実質的になくすことができる。より具体的には、透明保護フィルムの複屈折および光弾性係数は、小さければ小さいほど好ましい。なお、位相差値の最適化が望まれる透明保護フィルムは、偏光子と液晶セルとの間に配置される透明保護フィルムである。偏光子の外側(液晶セルから遠い側)に配置される透明保護フィルムは、液晶表示装置の光学特性に影響を与えることはないので、位相差値を最適化する必要はない。
【0108】
本発明の光学フィルムにおいては、通常、位相差フィルムが液晶セル側に配置される。したがって、本発明の光学フィルムにおいては、位相差フィルムが積層される側の透明保護フィルム(例えば、図3および5の透明保護フィルム1b)は、光学特性を最適化することが好ましい。
【0109】
上記透明保護フィルム(特に、本発明の位相差フィルムが積層される透明保護フィルム)は、好ましくは、下記式(5)および(6)を満足する:
0nm<Re[590]≦5nm …(5)
0nm<Rth[590]≦10nm …(6)。
【0110】
上記透明保護フィルムのRe[590]は、上記式(5)に記載のように好ましくは0を超え5nm以下であり、さらに好ましくは0を超え3nm以下であり、特に好ましくは0を超え2nm以下であり、最も好ましくは0を超え1nm以下である。上記透明保護フィルムのRth[590]は、上記式(6)に記載のように好ましくは0を超え10nm以下であり、さらに好ましくは0を超え6nm以下であり、特に好ましくは0を超え4nm以下であり、最も好ましくは0を超え3nm以下である。面内位相差および厚み方向の位相差が上記の範囲であれば、液晶表示装置に用いた際にコントラスト比やカラーシフト等の表示特性に悪影響を及ぼさず、良好な表示特性を得ることができる。
【0111】
上記透明保護フィルムの光弾性係数は、23℃における波長590nmの光で測定した値の絶対値:C[590] (m/N)が、好ましくは2.0×10−13〜2.0×10−11であり、さらに好ましくは5.0×10−13〜8.0×10−12であり、特に好ましくは2.0×10−12〜6.0×10−12であり、最も好ましくは2.0×10−12〜5.0×10−12である。
【0112】
本発明の位相差フィルムは、光弾性係数が従来の芳香族系高分子フィルムよりも小さいので、偏光子に直接(実質的には、接着剤または粘着剤を介して)積層しても、液晶表示装置に用いた際に、偏光子の収縮応力やバックライトの熱による位相差値のズレやムラを生じにくく、良好な表示特性を得ることができる。しかし、このように非常に小さい光弾性係数を有する本発明の位相差フィルムを、上記のように光学特性が最適化された透明保護フィルム(より具体的には、複屈折や光弾性係数が小さい透明保護フィルム)の表面に積層することにより、上記位相差フィルムに伝播する偏光子の収縮応力や、バックライトの熱を低減できるので、位相差値のズレやムラをより一層低減することができる。
【0113】
上記複屈折や光弾性係数が小さい透明保護フィルムを形成する材料としては、例えば、特開平6−51117号公報に記載のノルボルネン系モノマーの開環(共)重合体を、必要に応じてマレイン酸付加、シクロペンタジエン付加のごときポリマー変性を行った後に、水素添加したノルボルネン系樹脂;ノルボルネン系モノマーを付加型重合させたノルボルネン系樹脂;ノルボルネン系モノマーとエチレンやα−オレフィンなどのオレフィン系モノマーと付加型共重合させたノルボルネン系樹脂などが用いられる。また、特開2002−348324号公報に記載のノルボルネン等の多環シクロオレフィンモノマーまたは単環シクロオレフィンモノマーまたは非環式1−オレフィンモノマーの少なくとも一種類を溶液状態、懸濁状態、モノマー溶融状態または気相において、メタロセン触媒下で重合したシクロオレフィン系樹脂なども用いられる。
【0114】
また、特開2001−253960号公報に記載の9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンを側鎖に有するポリカーボネート系樹脂や、特開平7−112446号公報に記載のセルロース系樹脂などが用いられる。さらに、特開2001−343529号公報に記載の高分子フィルム、たとえば、(A)側鎖に置換および/または非置換イミド基を有する熱可塑性樹脂と、(B)側鎖に置換および/非置換フェニルならびにニトリル基を有する熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物なども用いられる。具体例としてはイソブチレンとN−メチルマレイミドからなる交互共重合体とアクリロニトリル・スチレン共重合体とを含有する樹脂組成物の高分子フィルムが用いられる。
【0115】
また、(株)エヌ・ティー・エス出版「オプティカルポリマー材料の開発・応用技術」2003年版p.194〜p.207に記載の正の配向複屈折を示すポリマーを構成するモノマーと負の配向複屈折を示すポリマーを構成するモノマーのランダム共重合体や、異方性低分子および/または複屈折性結晶をドープしたポリマーなども用いられる。
【0116】
上記透明保護フィルムと偏光子との積層方法は、特に限定されず、例えばアクリル系ポリマーやビニルアルコール系ポリマーを含む接着剤、あるいは、ビニルアルコール系ポリマーとホウ酸もしくはホウ砂、またはグルタルアルデヒドもしくはメラミンもしくはシュウ酸等のビニルアルコール系ポリマーに対する水溶性架橋剤とを含む接着剤等を介して行うことができる。このような接着剤を用いることにより、湿度や熱によっても偏光子と透明保護フィルムとが剥がれにくく、光透過率や偏光度に優れた光学フィルムを得ることができる。上記接着剤としては、偏光子の原料であるポリビルアルコールとの接着性に優れる点より、ポリビニルアルコール系接着剤を用いることが好ましい。
【0117】
上記透明保護フィルムとしてノルボルネン系樹脂を含む高分子フィルムを用いる場合には、当該フィルムと偏光子とを積層するための粘着剤としては、透明性に優れ、複屈折などが小さく、薄い層として用いても充分に粘着力を発揮できる粘着剤が好ましい。そのような粘着剤としては、例えば、ポリウレタン系樹脂溶液とポリイソシアネート樹脂溶液を混合して用いるドライラミネート用接着剤、スチレンブタジエンゴム系接着剤、エポキシ系二液硬化型接着剤(例えば、エポキシ樹脂とポリチオールの二液からなるもの、エポキシ樹脂とポリアミドの二液からなるものなど)を用いることができ、特に溶剤型接着剤、エポキシ系二液硬化型接着剤が好ましく、透明のものがさらに好ましい。接着剤によっては、適当な接着用下塗り剤を用いることで接着力を向上させることができるものがあり、そのような接着剤を用いる場合は接着用下塗り剤を用いることが好ましい。
【0118】
上記接着用下塗り剤としては、接着性を向上できる層を形成し得る任意の適切な下塗り剤が採用され得る。下塗り剤の具体例としては、同一分子内にアミノ基、ビニル基、エポキシ基、メルカプト基、クロル基等の反応性官能基と加水分解性のアルコキシシリル基とを有するシラン系カップリング剤、同一分子内にチタンを含む加水分解性の親水性基と有機官能性基とを有するチタネート系カップリング剤、および同一分子内にアルミニウムを含む加水分解性の親水性基と有機官能性基とを有するアルミネート系カップリング剤等のいわゆるカップリング剤;ならびに、エポキシ系樹脂、イソシアネート系樹脂、ウレタン系樹脂、エステルウレタン系樹脂等の有機反応性基を有する樹脂が挙げられる。なかでも、工業的に取扱いやすいという観点から、シラン系カップリング剤が好ましい。
【0119】
上記光学フィルムは、液晶セルへの積層を容易にするため、両面または片面に接着剤層や粘着剤層を設けておくことが好ましい。
【0120】
上記接着剤層または粘着剤層としては特に制限されない。接着剤層を形成する接着剤および/または粘着剤層を形成する粘着剤としては、例えばアクリル系重合体、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリビニルエーテル、酢酸ビニル/塩化ビニルコポリマー、変性ポリオレフィン、エポキシ系、フッ素系、天然ゴム、合成ゴム等のゴム系などのポリマーをベースポリマーとするものを適宜に選択して用いることができる。特に、光学的透明性に優れ、適度なぬれ性、凝集性および接着性等の粘着特性を示し、耐候性や耐熱性などに優れるという点で、アクリル系粘着剤が好ましく用いられる。
【0121】
上記接着剤または粘着剤にはベースポリマーに応じた架橋剤を含有させることができる。さらに、上記接着剤または粘着剤には目的に応じた任意の適切な添加剤を含有させることができる。添加剤の具体例としては、天然樹脂または合成樹脂等の樹脂類、ガラス繊維またはガラスビーズ、金属粉またはその他の無機粉末等からなる充填剤、顔料、着色剤、酸化防止剤が挙げられる。1つの実施形態においては、透明微粒子を含有させて光拡散性を示す粘着剤層を形成することもできる。
【0122】
上記透明微粒子としては、例えば平均粒径が0.5〜20μmのシリカや酸化カルシウム、アルミナやチタニア、ジルコニアや酸化錫、酸化インジウムや酸化カドミウム、酸化アンチモン等の導電性であり得る無機系微粒子;あるいは、ポリメチルメタクリレートやポリウレタの如き適宜なポリマーからなる架橋または未架橋の有機系微粒子を用いることができる。これらは、単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0123】
上記接着剤または粘着剤は、通常、ベースポリマーまたはその組成物を溶剤に溶解または分散させた固形分濃度が10〜50重量%程度の接着剤溶液または分散液の形態で用いられる。上記溶剤としては、接着剤の種類に応じて任意の適切な溶剤(例えば、トルエンや酢酸エチル等の有機溶剤;水)を用いることができる。
【0124】
上記接着剤または粘着剤は、異なる組成または種類等の接着剤層および/または粘着剤層の積層体を形成して用いてもよい。上記接着剤(層)または粘着剤(層)の厚みは、使用目的や接着力などに応じて適宜に決定でき、好ましくは1〜500μmであり、さらに好ましくは5〜200μmであり、特に好ましくは10〜100μmである。
【0125】
上記接着剤層または粘着剤層等の露出面には、実用に供するまでの間、セパレータが仮着されて、当該面をカバーする。これにより、取り扱い時に作業者等が粘着剤層に接触し、当該粘着剤層が汚染されることが防止される。セパレータの具体例は、上記収縮性フィルムの貼り合わせに関連して上述したとおりである。
【0126】
上記透明保護フィルムの偏光子を接着させない面には、ハードコート処理、反射防止処理、スティッキング防止処理や、拡散処理(アンチグレア処理ともいう)を施すことができる。
【0127】
上記ハードコート処理は偏光板表面の傷付き防止などを目的に施されるものであり、例えばアクリル系、シリコーン系などの適宜な紫外線硬化型樹脂による硬度や滑り特性等に優れる硬化皮膜を上記透明保護フィルムの表面に形成することができる。上記反射防止処理は偏光板表面での外光の反射防止を目的に施される。上記スティッキング防止処理は隣接層との密着防止を目的に施される。上記アンチグレア処理は偏光板の表面で外光が反射して偏光板透過光の視認を阻害することの防止等を目的に施されるものであり、例えばサンドブラスト方式やエンボス加工方式による粗面化方式や透明微粒子の配合方式などの適宜な方式にて透明保護フィルムの表面に微細凹凸構造を付与することにより形成することができる。上記アンチグレア処理によって形成されたアンチグレア層は、偏光板透過光を拡散して視角などを拡大するための拡散層(視角拡大機能など)を兼ねるものであってもよい。
【0128】
次に、本発明の位相差フィルムまたは光学フィルムと併用される他の光学部材について説明する。上記他の光学部材としては、特に限定はなく、例えば、上記ハードコート処理、反射防止処理、スティッキング防止処理や、拡散処理(アンチグレア処理ともいう)を施した光学フィルムが挙げられる。また、楕円偏光板または円偏光板に、更に反射板または半透過反射板が積層されてなる反射型偏光板または半透過型偏光板が挙げられる。また、上記の反射型偏光板や半透過型偏光板と位相差板を組み合わせた反射型楕円偏光板や半透過型楕円偏光板などであってもよい。また、本発明の位相差フィルムまたは光学フィルムを透過型または半透過型の液晶表示装置に用いる場合には、市販の輝度向上フィルム(偏光選択層を有する偏光分離フィルム、例えば住友3M(株)製のD−BEFなど)と併せて用いることにより、さらに表示特性の高い表示装置を得ることができる。
【0129】
本発明の光学フィルムは液晶表示装置の製造過程で各層を順次別個に積層することよって形成してもよく、予め各層を積層した積層フィルムの形態で実用に供してもよい。積層フィルムとして使用するのが好ましい。品質の安定性や作業性等に優れるので、液晶表示装置などの製造効率を向上させることができるからである。
【0130】
E.液晶パネル
本発明の液晶パネルは、上記本発明の位相差フィルムまたは上記本発明の光学フィルムと液晶セルとを含む。以下、具体例を説明する。
【0131】
図6の液晶パネル6Aは、液晶セル5の一方の面に本発明の光学フィルム3A(透明保護フィルム1cと偏光子1aと本発明の位相差フィルム2とを有する)が、位相差フィルム2が液晶セルに近い側になるよう配置されている。上記液晶セル5の他方の面には偏光板4(偏光子4aの両側に透明保護フィルム4bおよび4cを有する)が、透明保護フィルム4bが液晶セル5に近い側になるように配置されている。上記位相差フィルム2の遅相軸は、上記偏光子1aの吸収軸と平行である場合を示しているが、これは直交であってもよい。
【0132】
図7の液晶パネル6Bは、液晶セル5の一方の面に光学フィルム3B(透明保護フィルム1cと偏光子1aと透明保護フィルム1bと本発明の位相差フィルム2とを有する)が、位相差フィルム2が液晶セル5に近い側になるように配置されている。また、上記液晶セル5の他方の面には偏光板4(偏光子4aの両側に透明保護フィルム4bおよび4cを有する)が、透明保護フィルム4bが液晶セル5に近い側になるように配置されている。上記位相差フィルム2の遅相軸は、上記偏光子1aの吸収軸と平行である場合を示しているが、これは直交であってもよい。
【0133】
図8の液晶パネル6Cは、液晶セル5の両面に光学フィルム3A(透明保護フィルム1cと偏光子1aと本発明の位相差フィルム2とを有する)が、それぞれの位相差フィルム2が液晶セル5に近い側になるように配置されている。それぞれの位相差フィルム2の遅相軸は互いに直交するように配置されている。それぞれの光学フィルムにおける位相差フィルム2の遅相軸は、偏光子1aの吸収軸と平行である場合を示しているが、これは直交であってもよい。
【0134】
図9の液晶パネル6Dは、液晶セル5の両面に光学フィルム3B(透明保護フィルム1cと偏光子1aと透明保護フィルム1bと本発明の位相差フィルム2とを有する)が、それぞれの位相差フィルム2が液晶セル5に近い側になるように配置されている。それぞれの位相差フィルム2の遅相軸は互いに直交するように配置されている。それぞれの光学フィルムにおける位相差フィルム2の遅相軸は、偏光子1aの吸収軸と平行である場合を示しているが、これは直交であってもよい。
【0135】
図10の液晶パネル6Eは、本発明の位相差フィルムが積層体である場合である。図10の液晶パネル6Eは、液晶セル5の一方の面に光学フィルム3C(透明保護フィルム1cと偏光子1aと2枚の本発明の位相差フィルム2aおよび2bとを有する)が、位相差フィルム2が液晶セル5に近い側になるように配置されている。上記液晶セル5の他方の面に偏光板4(偏光子4aの両側に透明保護フィルム4bおよび4cを有する)が、透明保護フィルム4bが液晶セルに近い側になるように配置されている。積層体における位相差フィルム2aおよび2bの遅相軸は互いに平行であるが、これは直交であってもよい。上記位相差フィルム2(2aおよび2b)の遅相軸は、上記偏光子1aの吸収軸と平行である場合を示しているが、これは直交であってもよい。
【0136】
図11の液晶パネル6Fもまた、本発明の位相差フィルムが積層体である場合である。図11の液晶パネル6Fは、液晶セル5の一方の面に光学フィルム3D(透明保護フィルム1cと偏光子1aと透明保護フィルム1bと2枚の本発明の位相差フィルム2aおよび2bとを有する)が、位相差フィルム2が液晶セル5に近い側になるように配置されている。上記液晶セル5の他方の面に偏光板4(偏光子4aの両側に透明保護フィルム4bおよび4cを有する)が、透明保護フィルム4bが液晶セルに近い側になるように配置されている。積層体における位相差フィルム2aおよび2bの遅相軸は互いに平行であるが、これは直交であってもよい。上記位相差フィルム2(2aおよび2b)の遅相軸は、上記偏光子1aの吸収軸と平行である場合を示しているが、これは直交であってもよい。
【0137】
F.位相差フィルムおよび光学フィルムの用途
本発明の位相差フィルムおよび光学フィルムは、パーソナルコンピューター、液晶テレビ、携帯電話、携帯情報端末(PDA)等の液晶表示装置や有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ(有機EL)、プロジェクター、プロジェクションテレビ、プラズマテレビ等の画像表示装置に用いることができる。
【0138】
上記液晶表示装置の種類には特に制限はなく、透過型、反射型、反射半透過型いずれの形でも使用することができる。上記液晶表示装置に用いられる液晶セルとしては、例えばツイステッドネマチック(TN)モード、スーパーツイステッドネマチック(STN)モードや、水平配向(ECB)モード、垂直配向(VA)モード、インプレーンスイッチング(IPS)モード、フリンジフィールドスイッチング(FFS)モード、ハイブリッド配向(HAN)モード、ベンドネマチック(OCB)モード、強誘電性液晶(SSFLC)モード、反強誘電液晶(AFLC)モードの液晶セルなど種々の液晶セルが挙げられる。このうち、本発明の位相差フィルムおよび光学フィルムは、特に、TNモード、VAモード、IPSモード、FFSモード、OCBモードの液晶セルと組み合わせて用いることが好ましい。最も好ましくは、本発明の位相差フィルムおよび光学フィルムは、IPSモードまたはFFSモードの液晶セルと組み合わせて用いられる。
【0139】
上記ツイステッドネマチック(TN)モードの液晶セルとは、2枚の基材の間に正の誘電異方性のネマチック液晶をはさんだものであり、ガラス基材の表面配向処理によって液晶分子配向を90度ねじらせてあるものをいう。具体的には、培風館株式会社「液晶辞典」p.158(1989年版)に記載の液晶セルや、特開昭63−279229号公報に記載の液晶セルが挙げられる。
【0140】
上記垂直配向(VA)モードの液晶セルとは、電圧制御複屈折(ECB:Electrically Controlled Birefringnence)効果を利用し、透明電極間に誘電率異方性が負のネマチック液晶が、電圧無印加時において、垂直配列した液晶セルのことをいう。具体的には、特開昭62−210423号公報や、特開平4−153621号公報に記載の液晶セルが挙げられる。また、上記VAモードの液晶セルは、特開平11−258605号公報に記載されているように、視野角拡大のために、画素内にスリットを設けたものや、表面に突起を形成した基材を用いることによって、マルチドメイン化したMVAモードの液晶セルであっても良い。更に、特開平10−123576号公報に記載されているように、液晶中にカイラル剤を添加し、ネマチック液晶電圧無印加時に実質的に垂直配向させ、電圧印加時にねじれマルチドメイン配向させるVATNモードの液晶セルであっても良い。
【0141】
上記インプレーンスイッチング(IPS)モードの液晶セルとは、電圧制御複屈折(ECB:Electrically Controlled Birefringnence)効果を利用し、電界が存在しない状態でホモジニアス配向させたネマチック液晶を、例えば、金属で形成された対向電極と画素電極とで発生させた基板に平行な電界(横電界ともいう)で応答させるものをいう。より具体的には、例えば、テクノタイムズ社出版「月刊ディスプレイ7月号」p.83〜p.88(1997年版)や、日本液晶学会出版「液晶vol.2 No.4」p.303〜p.316(1998年版)に記載されているように、ノーマリブッラク方式では、液晶セルの電圧無印加時の配向方向と一方の側の偏光子の吸収軸とを一致させて、上下の偏光板を直交配置させると、電界のない状態で完全に黒表示になる。電界があるときは、液晶分子が基板に平行を保ちながら回転動作することによって、回転角に応じた透過率を得ることができる。なお、上記のIPSモードは、V字型電極またはジグザグ電極等を採用した、スーパー・インプレーンスイッチング(S−IPS)モードや、アドバンスド・スーパー・インプレーンスイッチング(AS−IPS)モードを包含する。上記のようなIPSモードを採用した市販の液晶表示装置としては、例えば、日立製作所(株)20V型ワイド液晶テレビ 商品名「Wooo」、イーヤマ(株)19型液晶ディスプレイ 商品名「ProLite E481S−1」、(株)ナナオ製 17型TFT液晶ディスプレイ 商品名「FlexScan L565」等が挙げられる。
【0142】
上記FFSモードの液晶セルとは、電圧制御複屈折効果を利用し、電界が存在しない状態でホモジニアス分子配列に配向させたネマチック液晶を、例えば、透明導電体で形成された対向電極と画素電極とで発生させた基板に平行な電界(横電界ともいう)で応答させるものをいう。なお、FFSモードにおける横電界は、フリンジ電界ともいう。このフリンジ電界は、透明導電体で形成された対向電極と画素電極との間隔を、上下部基板間の間隔より狭く設定することによって発生させることができる。より具体的には、SID(Society for Information Display)2001 Digest,p.484−p.487や、特開2002−031812号公報に記載されているように、ノーマリーブラック方式では、液晶セルの電圧無印加時の配向方向と一方の側の偏光子の吸収軸とを一致させて、上下の偏光板を直交配置させると、電界のない状態で完全に黒表示になり、電界があるときは、液晶分子は基板に平行を保ちながら回転動作することによって、回転角に応じた透過率を得ることができる。なお、上記のFFSモードには、ジグザグ電極を採用した、アドバンスド・フリンジフィールドスイッチング(A−FFS)モードや、ウルトラ・フリンジフィールドスイッチング(U−FFS)モードを包含する。上記のようなFFSモードを採用した市販の液晶表示装置としては、例えば、Motion Computing社 タブレットPC 商品名「M1400」が挙げられる。
【0143】
上記ベンドネマチック(OCB:Optically Compensated Bend or Optically Compensated Birefringnence)モードの液晶セルとは、電圧制御複屈折効果を利用し、透明電極間に誘電率異方性が正のネマチック液晶が、電圧無印加時において、中央部にねじれ配向が存在するベンド配向した液晶セルのことをいう。上記OCBモードの液晶セルは、「πセル」とも言われる。具体的には、共立出版株式会社出版「次世代液晶ディスプレイ」(2000年)p.11〜p.27に記載のものや、特開平7−084254号公報に記載のものが挙げられる。
【0144】
このような種々の液晶セルに、本発明の位相差フィルムおよび/または光学フィルムを用いることにより、斜め方向のコントラスト比やカラーシフト等を改善することができ、しかもその機能を長期間維持することができる。
【0145】
G.液晶パネルおよび液晶表示装置の用途
本発明の液晶パネルおよび液晶表示装置が用いられる用途は、特に制限はないが、パソコンモニター,ノートパソコン,コピー機などのOA機器、携帯電話,時計,デジタルカメラ,携帯情報端末(PDA),携帯ゲーム機などの携帯機器、ビデオカメラ,液晶テレビ,電子レンジなどの家庭用電気機器、バックモニター,カーナビゲーションシステム用モニター,カーオーディオなどの車載用機器、商業店舗用インフォメーション用モニターなどの展示機器、監視用モニターなどの警備機器、介護用モニター,医療用モニターなどの介護・医療機器などの各種用途に用いることができる。
【0146】
特に好ましくは、本発明の液晶パネルおよび液晶表示装置は大型の液晶テレビに用いられる。本発明の液晶パネルおよび液晶表示装置が用いられる液晶テレビの画面サイズとしては、好ましくはワイド17型(373mm×224mm)以上であり、さらに好ましくはワイド23型(499mm×300mm)以上であり、特に好ましくはワイド26型(566mm×339mm)以上であり、最も好ましくはワイド32型(687mm×412mm)以上である。
【実施例】
【0147】
本発明について、以下の実施例および比較例を用いて更に説明する。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例で用いた各析方法は、以下の通りである。
(1)ポリカーボネート系樹脂の特定:以下の装置、条件にてH−NMR測定を行い、得られたスペクトルのピーク積分比から求めた。
・分析装置:日本電子製 「JNM−EX400」
・観測核:1H
・周波数:400MHz
・パルス幅:45度
・パルスの繰り返し時間:10秒
・測定温度:室温
(2)分子量、スチレン系樹脂の含有量の測定方法:ゲル・パーミエーション・クロマトグラフ(GPC)法よりポリスチレンを標準試料として算出した。具体的には、以下の装置、器具および測定条件により測定した。
・測定サンプル:試料をテトラヒドロフランに溶解して0.1重量%の溶液とし、一晩静置した後、0.45μmのメンブレンフィルターでろ過した濾液を用いた。
・分析装置:TOSOH製「HLC−8120GPC」
・カラム:TSKgel SuperHM−H/H4000/H3000/H2000
・カラムサイズ:6.0mmI.D.×150mm
・溶離液:テトラヒドロフラン
・流量:0.6ml/min.
・検出器:RI
・カラム温度:40℃
・注入量:20μl
(3)ガラス転移温度(Tg)の測定方法:以下の装置、および測定条件を用いJISK7121に準じて求めた。
・分析装置:セイコー電子株式会社製 示差走査熱量計「DSC5500」
・測定雰囲気:20ml/分の窒素下
・昇温速度10℃/分
(4)位相差値、波長分散特性、遅相軸の角度、光透過率の測定方法:平行ニコル回転法を原理とする位相差計[王子計測機器(株)製 製品名「KOBRA21−ADH」]を用いて、23℃における波長590nmの値を測定した。
(5)光弾性係数の測定方法:分光エリプソメーター[日本分光株式会社製 製品名「M−220」]を用いて、応力下でサンプルの位相差値を測定し、応力と位相差値の関数の傾きから算出した。具体的には、23℃において、2cm×10cmの試験片に5N〜15Nの応力をかけたときの波長590nmにおけるフィルム面内の位相差値を測定した。
(6)厚み測定方法:アンリツ製デジタルマイクロメーター「K−351C型」を使用して測定した。
(7)収縮性フィルムの収縮率の測定方法:JIS Z 1712の加熱収縮率A法に準じて求めた(ただし、加熱温度は120℃に代えて140℃または160℃とし、試験片に加重3gを加えたことが異なる)。具体的には、幅20mm、長さ150mmの試験片を縦(MD)、横(TD)方向から各5枚採り、それぞれの中央部に約100mmの距離において標点をつけた試験片を作製する。該試験片は、温度140℃±3℃または160℃±3℃に保持された空気循環式恒温槽に、加重3gをかけた状態で垂直につるし、15分間加熱した後、取り出し、標準状態(室温)に30分間放置してから、JISB7507に規定するノギスを用いて、標準間距離を測定して、5個の測定値の平均値を求め、S(%)=[(加熱前の標準間距離(mm)−加熱後の標準間距離(mm))/加熱前標準間距離(mm)]×100より、S(MD)およびS(TD)を算出した。
(8)収縮フィルムの幅(TD)方向の収縮応力の測定方法:以下の装置を用い、TMA法にて140℃、および150℃における幅(TD)方向の収縮応力を測定した。
・装置:セイコーインスツルメンツ(株)製 「TMA/SS 6100」
・データ処理:セイコーインスツルメンツ(株)製 「EXSTAR6000」
・測定モード:等速昇温測定(10℃/分)
・測定雰囲気:大気中(室温)
・荷重:20mN
・サンプルサイズ:15mm×2mm(長辺が幅(TD)方向)
・フィルム厚み:60μm
(9)液晶パネルの表示ムラの評価方法:以下の液晶セルと測定装置を用いて表示画面を撮影した。表2中「○」は、パネル全面において輝度の差が1.5680以下であるものを表す。「×」は、パネル全面で輝度の差が1.7920以上であるものを表す。
・液晶セル:SONY製 KLV−17HR2に搭載されているもの
・パネルサイズ:375mm×230mm
・測定装置:ミノルタ製 2次元色分布測定装置「CA−1500」
・測定環境:暗室(23℃)
【0148】
[実施例1]
カーボネート前駆物質としてホスゲン、芳香族2価フェノール成分として(A)2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンおよび(B)1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンを用いて、常法に従い(A):(B)の重量比が4:6であって、重量平均分子量(Mw)60,000である下記式(3)および(4)の繰り返し単位を含むポリカーボネート系樹脂[数平均分子量(Mn)=33,000、Mw/Mn=1.78]を得た。上記ポリカーボネート系樹脂70重量部と、重量平均分子量(Mw)1,300のスチレン系樹脂[数平均分子量(Mn)=716、Mw/Mn=1.78](三洋化成製ハイマーSB75)30重量部とをジクロロメタン300重量部に加え、室温下で4時間攪拌混合して透明な溶液を得た。この溶液をガラス板上にキャストし、室温で15分間放置した後、ガラス板から剥離して、80℃のオーブンで10分、120℃で20分乾燥して、厚み55μm、ガラス転移温度(Tg)が140℃の高分子フィルムを得た。得られた高分子フィルムの波長590nmにおける光透過率は93%であった。また、上記高分子フィルムの面内位相差値:Re[590]は5.0nm、厚み方向の位相差値:Rth[590]は12.0nmであった。平均屈折率は、1.576であった。
【0149】
【化3】

【0150】
実施例1で得られた高分子フィルムをテトラヒドロフランに溶解して0.1重量%の溶液とし、8時間静置した後、0.45μmのメンブレンフィルターでろ過したろ液をGPC測定して求めたスチレン系樹脂の含有量は、全固形分100重量部に対し、27重量部であった。
【0151】
芳香族2価フェノール化合物成分の重量比は、実施例1で得られた高分子フィルムをH−NMRで測定することによって求めた。具体的には、上記高分子フィルムをクロロホルムに溶解し、当該クロロホルム溶液を100重量倍のメタノール中に滴下して、23℃で白色固体を析出させ(再沈殿する)、溶液をろ過してメタノール可溶分とメタノール不溶分に分離した。上記メタノール不溶分を重クロロホルムに溶解させ、H−NMR測定を行った。その結果、H−NMR測定して得られたスペクトルの、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのメチル基由来の1.68ppm(6H)と1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンのシクロヘキシル環の3位に置換したメチル基2.69ppm(6H)ピーク積分比から求めた各成分の重量比は、4:6であった。
【0152】
上記高分子フィルム(厚み55μm)の両側に、下記表1に示す特性を有する二軸延伸ポリプロピレンフィルム[東レ製 商品名「トレファン」(厚み60μm)]を、アクリル系粘着剤層(厚み15μm)を介して貼り合せた。その後、ロール延伸機でフィルムの長手方向を保持して、147℃の空気循環式恒温オーブン内(フィルム裏面から3cmの距離の温度を測定/温度バラツキ±1℃)で1.29倍に延伸した(送り速度1m/分)。得られた位相差フィルムの特性は、表2の通りである。
【0153】
【表1】

【表2】

【0154】
なお、本実施例におけるアクリル系粘着剤としては、ベースポリマーとして溶液重合により合成されたイソノニルアクリレート(重量平均分子量=550,000)を用い、該ポリマー100重量部に対して、ポリイソシアネート化合物の架橋剤[日本ポリウレタン(株)製 商品名「コロネートL」]3重量部、触媒[東京ファインケミカル(株)製 商品名「OL−1」]10重量部を混合したものを用いた。
【0155】
[実施例2]
延伸温度を147℃から146℃に変更し、延伸倍率を1.29倍から1.09倍に変更した以外は実施例1と同様の方法で、位相差フィルムを作製した。得られた位相差フィルムの特性は、表2の通りである。
【0156】
[実施例3]
延伸温度を147℃から141℃に変更し、延伸倍率を1.29倍から1.10倍に変更した以外は実施例1と同様の方法で、位相差フィルムを作製した。得られた位相差フィルムの特性は、表2の通りである。
【0157】
[実施例4]
延伸温度を147℃から145℃に変更し、延伸倍率を1.29倍から1.14倍に変更した以外は実施例1と同様の方法で、位相差フィルムを作製した。得られた位相差フィルムの特性は、表2の通りである。
【0158】
[実施例5]
延伸温度を147℃から153℃に変更し、延伸倍率を1.29倍から1.18倍に変更した以外は実施例1と同様の方法で、位相差フィルムを作製した。得られた位相差フィルムの特性は、表2の通りである。
【0159】
[実施例6]
延伸温度を147℃から154.5℃に変更し、延伸倍率を1.29倍から1.22倍に変更した以外は実施例1と同様の方法で、位相差フィルムを作製した。得られた位相差フィルムの特性は、表2の通りである。
【0160】
[実施例7]
延伸温度を147℃から146℃に変更し、延伸倍率を1.29倍から1.25倍に変更した以外は実施例1と同様の方法で、位相差フィルムを作製した。得られた位相差フィルムの特性は、表2の通りである。
【0161】
[実施例8]
延伸倍率を1.29倍から1.27倍に変更した以外は実施例1と同様の方法で、位相差フィルムを作製した。得られた位相差フィルムの特性は、表2の通りである。
【0162】
[実施例9]
スチレン系樹脂とポリカーボネート系樹脂とを含む高分子フィルム[鐘淵化学(株)製 商品名「エルメックPF」(厚み55μm)]用いて、実施例1と同様の加熱延伸方法で、位相差フィルムを作製した。得られた位相差フィルムの特性は、表2の通りである。
【0163】
[比較例1]
カーボネート前駆物質としてホスゲン、芳香族2価フェノール成分としてビスフェノールAを用いて、常法に従い得られたポリカーボネート系樹脂からなる高分子フィルム(厚み60μm)の両側に、二軸延伸ポリプロピレンフィルムを、アクリル系粘着剤層を介して貼り合せた。その後、ロール延伸機でフィルムの長手方向を保持して160℃で1.10倍に延伸した(送り速度1m/分)。得られた位相差フィルムの特性は、表2の通りである。本比較例で用いた二軸延伸ポリプロピレンフィルムとアクリル系粘着剤は、実施例1と同じものを用いた。なお、上記ポリカーボネート系樹脂からなる高分子フィルムのガラス転移温度(Tg)は150℃であり、延伸前のRe[590]は7.0nm、Rth[590]は15.0nmであった。
【0164】
[比較例2]
比較例1の高分子フィルムの厚みを60μmから40μmに変更し、延伸倍率を1.10倍から1.05倍に変更した以外は比較例1と同様の方法で、位相差フィルムを作製した。得られた位相差フィルムの特性は、表2の通りである。
【0165】
[比較例3]
ノルボルネン系樹脂フィルム[JSR(株)製 商品名「アートンF」]の両側に、二軸延伸ポリプロピレンフィルムを、アクリル系粘着剤層を介して貼り合せた。その後、ロール延伸機でフィルムの長手方向を保持して175℃で1.30倍に延伸した。得られた位相差フィルムの特性は、表2の通りである。本比較例で用いた二軸延伸ポリプロピレンフィルムとアクリル系粘着剤は、実施例1と同じものを用いた。なお、上記ノルボルネン系樹脂からなる高分子フィルムのガラス転移温度(Tg)は171℃であり、延伸前のRe[590]は2.0nm、Rth[590]は10.0nmであった。
【0166】
[実施例10]
(偏光板の作製)
ポリビニルアルコールフィルムを、ヨウ素を含む水溶液中で染色した後、ホウ酸を含む水溶液中で速比の異なるロール間にて一軸延伸して偏光子を得た。上記偏光子の一方の面には、厚み40μmのノルボルネン系樹脂フィルム(日本ゼオン(株)製 商品名「ゼオノアZF14−040」)を、接着面に接着用下塗り剤(日本ユニカー(株)製 商品名「A−1110」)を0.1μmの厚みで塗工した後、ポリビニルアルコール系接着剤(日本合成化学(株)製 商品名「ゴーセファイマーZ」)を介して接着し、他方の面には、厚み40μmのトリアセチルセルロースフィルム(富士写真フィルム(株)製 商品名「フジタック」)を、上記ポリビニルアルコール系接着剤を介して接着して偏光板P得た。上記ノルボルネン系樹脂フィルムのRe[590]は1.0nm、Rth[590]は3.0nmであり、光弾性係数の絶対値:C[590]は3.10×10−12(m/N)であった。
【0167】
(光学フィルムの作製)
上記偏光板Pのノルボルネン系樹脂フィルムの表面に、実施例1で得た位相差フィルムを、上記位相差フィルムの遅相軸が上記偏光子の吸収軸と平行(0°±1.0°)になるように、アクリル系粘着剤を介して接着し、光学フィルムQを得た。
【0168】
(液晶表示装置の作製)
IPSモードの液晶セルを含む液晶表示装置[SONY製 KLV−17HR2]から液晶パネルを取り出し、上記液晶セルの上下に配置されていた偏光板を取り除いて、そのガラス面(表裏)を洗浄した。続いて、上記液晶セルの視認側に上記光学フィルムQを、アクリル系粘着剤を介して接着し、上記液晶セルのバックライト側に上記偏光板Pを、アクリル系粘着剤を介して接着して液晶パネルIを作製した。上記光学フィルムQは、上記位相差フィルムが上記液晶セルに近い側になるように配置した。また、上記偏光板Pは、ノルボルネン系樹脂フィルムが上記液晶セルに近い側になるように配置した。
【0169】
上記液晶パネルIを、元の液晶表示装置に組み込み、バックライトを8時間点灯させた後、ミノルタ(株)製 2次元色分布測定装置「CA−1500」を用いて、暗室にて上記液晶表示装置の表示画面を撮影した。その結果、図12に示すように、バックライトの熱による表示ムラは小さかった。
【0170】
[比較例4]
実施例10に記載の(光学フィルムの作製)において、実施例1で得た位相差フィルムの代わりに、比較例1で得た位相差フィルムを用いて、液晶パネルIIを作製した。これを液晶表示装置[SONY製 KLV−17HR2]に組み込み、上記液晶表示装置のバックライトを8時間点灯させた後、実施例10と同様の方法で、表示画面を撮影した。その結果、図13に示すように、バックライトの熱による表示ムラは非常に大きかった。
【0171】
[評価]
図14は、実施例1〜9に記載の位相差フィルムおよび比較例1〜3の位相差フィルムの面内位相差値:Re[590]とRth[590]/Re[590]との関係を示すグラフである。図14に示すように、実施例1〜9では、0<Rth[590]/Re[590]<1である(すなわち、nx>nz>nyの関係を有し)、広範囲の位相差値を有する位相差フィルムが得られた。また、実施例1〜9で得られた位相差フィルムは、延伸方向と平行方向に裂け難く、実用上十分な機械的強度を有していた。さらに、実施例1に記載の位相差フィルムを用いた液晶パネルを組み込んだ実施例10に記載の液晶表示装置は、図12に示すように、バックライトの熱による表示ムラは小さかった。実施例2〜9についても実施例1と同様に評価したところ表示ムラは小さかった。なお、実施例2〜5では、位相差フィルムを遅相軸が平行になるように2枚用いた。これに対し、比較例3に示すように、脂肪族系樹脂フィルムではRth[590]/Re[590]値が0.90よりも小さいものは得ることができなかった。また、比較例3で得られた位相差フィルムは延伸方向と平行方向に裂けやすく、機械的強度が実用上十分ではなかった。一方、比較例1および比較例2では、実施例1および実施例3と類似のRth[590]/Re[590]値を示す位相差フィルムが作製できた。しかしながら、比較例1に示す従来技術による位相差フィルムを、実施例10における位相差フィルムの代わりに用いた液晶パネルを組み込んだ液晶表示装置は、図13に示すように、バックライトの熱による表示ムラが非常に大きかった。比較例2についても、比較例1と同様に評価したところ、表示ムラが非常に大きかった。このことから、所定量のスチレン系樹脂とポリカーボネート系樹脂とのブレンドから形成された高分子フィルムを延伸して位相差フィルムを作製することにより、バックライトの熱による表示ムラを顕著に改善することができることがわかる。なお、比較例2では、位相差フィルムを遅相軸が平行になるように2枚用いた。
【産業上の利用可能性】
【0172】
以上のように、本発明の位相差フィルムによれば、液晶表示装置に用いても応力によって位相差値のずれやムラが生じにくく、nx>nz>nyの関係を有し、且つ広範囲の位相差値を有する位相差フィルムを提供することができるので、液晶表示装置の表示特性向上に、極めて有用であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0173】
【図1】本発明の位相差フィルムの製造方法の一例を説明する概略図である。
【図2】本発明の光学フィルムの一例を示す概略図である。
【図3】本発明の光学フィルムの一例を示す概略図である。
【図4】本発明の光学フィルムの一例を示す概略図である。
【図5】本発明の光学フィルムの一例を示す概略図である。
【図6】本発明の液晶パネルの一例を示す概略図である。
【図7】本発明の液晶パネルの一例を示す概略図である。
【図8】本発明の液晶パネルの一例を示す概略図である。
【図9】本発明の液晶パネルの一例を示す概略図である。
【図10】本発明の液晶パネルの一例を示す概略図である。
【図11】本発明の液晶パネルの一例を示す概略図である。
【図12】本発明の液晶表示装置の表示ムラを示す写真である。
【図13】従来技術における液晶表示装置の表示ムラを示す写真である。
【図14】本発明の位相差フィルムのRe[590]とRth[590]/Re[590]との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0174】
1: 偏光板
1a: 偏光子
1b、1c:透明保護フィルム
2:位相差フィルム
3:光学フィルム
4:偏光板
4a:偏光子
4b、4c:透明保護フィルム
5:液晶セル
6:液晶パネル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系樹脂とポリカーボネート系樹脂とを含む高分子フィルムの延伸フィルムであって、下記式(1)および(2)を満足する、位相差フィルム:
100nm≦Re[590]≦350nm …(1)
0.2≦Rth[590]/Re[590]≦0.8 …(2)
式(1)および(2)において、Re[590]およびRth[590]は、それぞれ、23℃における波長590nmの光で測定したフィルム面内の位相差値および厚み方向の位相差値である。
【請求項2】
前記スチレン系樹脂の含有量が、全固形分100重量部に対して10〜40重量部である、請求項1に記載の位相差フィルム。
【請求項3】
前記ポリカーボネート系樹脂が、下記式(3)および(4)で表される繰り返し単位を含む、請求項1または2に記載の位相差フィルム:
【化1】

式(3)および(4)において、nは2以上の整数である。
【請求項4】
前記位相差フィルムの23℃における波長590nmの光で測定した光弾性係数の絶対値が、2.0×10−11〜8.0×10−11/Nである、請求項1から3のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項5】
偏光子と、該偏光子の少なくとも一方の側に積層された請求項1から4のいずれかに記載の位相差フィルムとを有し、
該位相差フィルムの遅相軸が該偏光子の吸収軸と平行または直交である、光学フィルム。
【請求項6】
前記偏光子の少なくとも一方の側に透明保護フィルムをさらに有する、請求項5に記載の光学フィルム。
【請求項7】
前記偏光子の両側に透明保護フィルムを有し、該透明保護フィルムの少なくとも一方に前記位相差フィルムが積層され、
該位相差フィルムが積層される透明保護フィルムが、下記式(5)および(6)を満足する、請求項6に記載の光学フィルム:
0nm<Re[590]≦5nm …(5)
0nm<Rth[590]≦10nm …(6)。
【請求項8】
請求項1から4のいずれかに記載の位相差フィルムまたは請求項5から7のいずれかに記載の光学フィルムと液晶セルとを含む、液晶パネル。
【請求項9】
前記液晶セルが、TNモード、VAモード、IPSモード、FFSモードまたはOCBモードである、請求項8に記載の液晶パネル。
【請求項10】
請求項8または9に記載の液晶パネルを含む、液晶表示装置。
【請求項11】
請求項8または9に記載の液晶パネルを含む、液晶テレビ。
【請求項12】
スチレン系樹脂とポリカーボネート系樹脂とを含む高分子フィルムの片面または両面に収縮性フィルムを貼り合わせて、加熱延伸することを含む、位相差フィルムの製造方法。
【請求項13】
前記収縮性フィルムが二軸延伸ポリプロピレンフィルムである、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記収縮性フィルムの140℃におけるフィルム長手方向の収縮率:S140(MD)が2.7〜9.4%であり、かつ、幅方向の収縮率:S140(TD)が4.6〜15.8%である、請求項12または13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記収縮性フィルムの160℃におけるフィルム長手方向の収縮率:S160(MD)が13〜23%であり、かつ、幅方向の収縮率:S160(TD)が30〜48%である、請求項12から14のいずれかに記載の製造方法。
【請求項16】
前記収縮性フィルムの140℃における幅方向の収縮率と長手方向の収縮率との差:ΔS140=S140(TD)−S140(MD)が、0.1%≦ΔS140≦3.9%の範囲である、請求項12から15のいずれかに記載の製造方法。
【請求項17】
前記収縮性フィルムの160℃における幅方向の収縮率と長手方向の収縮率との差:ΔS160=S160(TD)−S160(MD)が、8%≦ΔS160≦30%の範囲である、請求項12から16のいずれかに記載の製造方法。
【請求項18】
前記収縮性フィルムの140℃における幅方向の収縮応力が、0.15〜0.75N/2mmである、請求項12から17のいずれかに記載の製造方法。
【請求項19】
前記収縮性フィルムの150℃における幅方向の収縮応力が、0.20〜0.85N/2mmである、請求項12から18のいずれかに記載の製造方法。
【請求項20】
前記高分子フィルムの延伸温度が、該高分子フィルムのTg+1℃〜Tg+30℃である、請求項12から19のいずれかに記載の製造方法。
【請求項21】
前記高分子フィルムの延伸倍率が1.05〜2.00倍である、請求項12から20のいずれかに記載の製造方法。



【図1】
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【図14】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−91836(P2006−91836A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−137045(P2005−137045)
【出願日】平成17年5月10日(2005.5.10)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】