説明

位置決め精度補正機能を備えたワイヤ放電加工機

【課題】機械の設置状態や、加工液重量あるいはワーク重量などの影響で悪化する位置決め精度を向上させる機能を備えたワイヤ放電加工機を提供する。
【解決手段】加工槽3内のテーブル13に2つの接触検出用治具20を取り付け、接触検出用治具20とワイヤ電極14の接触位置の座標を測定・記憶し、接触検出用治具20間の距離を求める。次に、テーブル13上にワーク15をセットし、加工液16を加工槽3に実加工を行う状態と同じ液位まで溜め、同様に接触検出用治具20とワイヤ電極14の接触位置の座標を測定・記憶し、接触検出用治具20間の距離を求める。そして2つの距離の誤差から計算により補正量を求め、加工槽3内の加工液16の重量およびワーク15の重量による位置決め精度の変化を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械の設置状態や加工液重量、ワーク重量などの影響で悪化する位置決め精度を向上させる機能を備えたワイヤ放電加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、ワイヤ放電加工機は、組立工場においてレーザ干渉測長器(特許文献1参照)やピッチマスター(特許文献2参照)等の高価で高精度な測定機器を用い、各駆動軸の位置決め精度が測定され、ピッチ誤差補正が行われている。
【0003】
図21において、(a)は組立工場でピッチ誤差補正を行う基準の状態を説明する図、(b)は加工液やワークの影響でベッドが撓んだ状態を説明する図、(c)は床強度が弱く、床が凹みそれに伴いベッドが撓んだ状態を説明する図である。(b)はベッド中央部が凹み、(a)に比べ2点間の距離が短くなる。(c)はベッド両脇が凹み、(a)に比べて2点間の距離が長くなる。なお、ベッドとはワイヤ放電加工機においてテーブル移動機構を積載保持する機構部である。図22は図21の(a),(b),(c)におけるピッチ誤差を説明する図である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−271633号公報
【特許文献2】特開平161247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
レーザ干渉測長器やピッチマスター等の高価で高精度な測定機器は加工液中で使用することはできないため、組立工場では加工槽に加工液を溜めない状態で位置決め精度の測定を行っている。
【0006】
しかし、実際のワークの加工時には、加工液をワーク上面の高さ以上まで溜める必要があり、加工液重量やワーク重量の影響を受け、ワークのピッチ精度が基準値内に収まらないことがある。また、組立工場から出荷されユーザの工場内に機械を納入・設置した際に、組立工場とユーザ工場との床強度の違いや機械のレベル出し状態の差により機械の撓み量が異なるため、位置決め精度が変化することがある。そのため、理想的にはユーザ工場にて機械を設置した後に、レーザ干渉測長器やピッチマスター等の測定機器を用い、再度ピッチ誤差補正を行う必要がある。しかし、高価な測定機器が必要なことや測定機器の設置および使用方法が困難なことなどから、現実的にはユーザが位置決め精度の測定を行うことは困難である。
【0007】
そこで本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、機械の設置状態や、加工液重量あるいはワーク重量などの影響で悪化する位置決め精度を向上させる機能を備えたワイヤ放電加工機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の請求項1に係る発明は、加工液を貯留する加工槽と、該加工槽に設けられたテーブルに被加工物を載置し、制御装置から出力される指令に基づいてワイヤ電極と前記テーブルを相対移動させて前記被加工物を加工するワイヤ放電加工機において、前記テーブル上に設置した接触検出部を有する第1接触検出用治具と、該第1接触検出用治具と同一軸線上に所定の距離をもって、接触検出部が対向するように設置される接触検出部を有する第2接触検出用治具からなる一対の接触検出用治具と、前記ワイヤ電極と前記第1接触検出用治具および前記第2接触検出用治具との接触を検出する接触検出部と、前記ワイヤ電極が前記第1接触検出用治具および前記第2接触検出用治具との接触した際に移動した軸の座標値を記憶する座標値記憶部と、所望の位置決め精度が得られる第1の状態で、前記ワイヤ電極を前記第1接触検出用治具と前記第2接触検出用治具に接触させ、前記ワイヤ電極が前記第1接触検出用治具と前記第2接触検出用治具に接触した時の座標値から、前記第1接触検出用治具と前記第2接触検出用治具との距離を求めて記憶する基準距離記憶部と、前記第1の状態とは異なる第2の状態で前記ワイヤ電極を第1および第2接触検出用治具に接触させ、前記ワイヤ電極が前記第1,第2接触検出用治具に接触した時の座標値から前記第1接触検出用治具と前記第2接触検出用治具との距離を実距離として記憶する実距離記憶部と、前記基準距離と実距離との差分を計算し、実加工時に前記差分を打ち消すように接触位置座標からの距離に応じて前記指令を補正する補正部と、を備えたことを特徴とするワイヤ放電加工機である。
【0009】
請求項2に係る発明は、加工液を貯留する加工槽と、該加工槽に設けられたテーブルに被加工物を載置し、制御装置から出力される指令に基づいてワイヤ電極と前記テーブルを相対移動させて前記被加工物を加工するワイヤ放電加工機において、前記テーブル上に設置した接触検出部を有する第1接触検出用治具と、該第1接触検出用治具とは異なる軸線上に所定の距離をもって、接触検出部が対向するように設置される接触検出部を有する第2接触検出用治具からなる一対の接触検出用治具と、前記ワイヤ電極と前記第1及び第2接触検出用治具との接触を検出する接触検出部と、前記ワイヤ電極が前記第1および第2の接触検出用治具と接触した際に移動した軸の座標値を記憶する座標値記憶部と、前記ワイヤ電極が前記第1および第2接触検出用治具と接触した際に移動した軸の座標値を記憶する座標値記憶部と、所望の位置決め精度が得られる第1の状態で、前記ワイヤ電極を第1および第2接触検出用治具に接触させ、前記ワイヤ電極が前記接触検出用治具に接触した時の座標値から前記第1と第2接触検出用治具との各移動軸方向の距離を基準距離として記憶する基準距離記憶部と、前記第1の状態とは異なる第2の状態で前記ワイヤ電極を前記第1および第2の接触検出用治具に接触させ、前記ワイヤ電極が前記第1,第2接触検出用治具に接触した時の座標値から前記第1接触検出用治具と第2接触検出用治具との各移動軸方向の距離を実距離として記憶する実距離記憶部と、前記基準距離と実距離との差分を計算し、実加工時に前記差分を打ち消すように接触位置座標からの移動軸方向の距離に応じて前記指令を補正する補正部と、を備えたことを特徴とするワイヤ放電加工機である。
【0010】
請求項3に係る発明は、前記第1の状態は、テーブルに被加工物を載置せず、かつ、加工槽に加工液を溜めない状態であり、前記第2の状態は、テーブルに被加工物を載置し、加工槽に所定の加工液高さまで加工液を溜めた状態であることを特徴とする請求項1または2のいずれか一つに記載のワイヤ放電加工機である。
請求項4に係る発明は、前記第2の状態は、前記テーブル上に載置される被加工物の重量に相当する加工液を実加工時の加工液高さに加えて溜めることを特徴とする請求項3に記載のワイヤ放電加工機である。
請求項5に係る発明は、前記第1の状態は、所望の位置決め精度が得られる床強度に前記ワイヤ放電加工機を設置した状態であり、前記第2の状態とは、第1の状態とは床強度の異なる場所に前記ワイヤ放電加工機を設置した状態であることを特徴とする請求項1または2のいずれか一つに記載のワイヤ放電加工機である。
【0011】
請求項6に係る発明は、前記一対の治具が移動軸の移動方向毎に複数設置されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載のワイヤ放電加工機である。
請求項7に係る発明は、前記一対の治具が並列に複数設置されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載のワイヤ放電加工機である。
【0012】
請求項8に係る発明は、前記接触検出用治具は、板状部材に孔が設けられており、該孔の内面の少なくとも3箇所に前記ワイヤ電極を接触させることにより前記孔の中心の座標を求めて、該座標値を前記接触検出用治具と前記ワイヤ電極が接触した際の移動した軸の座標値とすることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一つに記載のワイヤ放電加工機である。
請求項9に係る発明は、前記一対の接触検出用治具が少なくとも2つのワイヤ電極との接触部を有する単一の接触検出用治具として構成されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一つに記載のワイヤ放電加工機である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、機械の設置状態や、加工液重量あるいはワーク重量などの影響で悪化する位置決め精度を向上させる機能を備えたワイヤ放電加工機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態であるワイヤ放電加工機の概略ブロック図である。
【図2】加工槽の一部の壁面を省略したワイヤ放電加工機の加工槽の外観斜視図である。
【図3】接触検出用治具の一つの例の外観斜視図である。
【図4】組立工場と同じ負荷状態での、接触検出用治具とワイヤの接触位置を測定する様子を示す図である。
【図5】テーブル上にワークをセットし、加工液を溜めた状態での接触検出用治具とワイヤの接触位置の測定の様子を示す図である。
【図6】傾きΘのグラフである。
【図7】X軸方向の治具間距離の測定例を説明する図である。
【図8】Y軸方向の治具間距離の測定例を説明する図である。
【図9】X,Y軸方向の距離を同時に測定する例を説明する図である。
【図10】X,Y軸方向の距離を同時に測定する例を説明する図である。
【図11】接触検出用治具に対してワイヤが接触する方向を説明する図である。
【図12】接触検出部が丸孔になっている接触検出用治具の例を説明する図である。
【図13】図12の接触検出用治具を用いた治具間距離の測定例を説明する図である。
【図14】図12の接触検出用治具での孔中心位置を求める方法の一例を説明する図である。
【図15】2箇所に接触検出部を有する接触検出用治具を説明する図である。
【図16】1枚の板に接触検出を行うことが可能な孔が2箇所開いている接触検出用治具を説明する図である。
【図17】3個の接触検出用治具が用いられる場合の例を説明する図である。
【図18】組立工場での治具間距離測定の様子を示す図である。
【図19】ユーザ工場での治具間距離測定の様子を示す図である。
【図20】制御装置内の処理の概要を説明するブロック図である。
【図21】(a)組立工場でピッチ誤差補正を行う基準の状態を説明する図、(b)加工液やワークの影響でベッドが撓んだ状態を説明する図、(c)床強度が弱く、床が凹みそれに伴いベッドが撓んだ状態を説明する図である。
【図22】図21の(a),(b),(c)におけるピッチ誤差を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。
図1は、本発明の一実施形態であるワイヤ放電加工機の概略ブロック図である。また、図2は、一部の加工槽の壁面を省略したワイヤ放電加工機の加工槽の外観斜視図である。
ワイヤ放電加工機Mは慨略以下のように構成される。機構部10に設けられたテーブル13にワーク15を載置し取り付けられるように構成される。そして、ワーク15とワイヤ電極14間に電圧を印加し、放電を発生させながらワーク15とワイヤ電極14を相対的に移動させることによってワーク15に放電加工を行う。また、加工槽3に急速に水溜めする場合は急速水溜め用の加工液供給路12を介して加工液が供給され溜められる。その後の加工液16の補給は加工液供給路L1aを介して行われる。この加工槽3内の加工液は、放電加工によって生じた加工屑等が混ざり込んでおり、この加工液16は汚水槽8に流出するように構成されている。
【0016】
汚水槽8に回収・貯留された加工液16は、フィルタ用ポンプP1で汲み上げられ、フィルタFに通されて濾過され、加工屑等が取り除かれて清水槽9に供給される。清水槽9に貯留された加工液16は、加工液供給路L1aを介して循環用ポンプP3によって汲み上げられる。そして、その吐出口で分岐され、一方は、加工液供給路L1aを介して加工槽3に補給水として供給され、他方は、加工液冷却装置11に供給され、冷却制御されて加工液帰還路L1cを介して清水槽9に戻される。
【0017】
加工槽3には加工槽3内の加工液の液位を測定するための圧力センサ6が備えられている。圧力センサ6の検出信号を基に加工槽3内の加工液16を所望の液位に保つことができる。さらに、加工槽3に排水手段が設けられ、加工槽3内の加工液が汚水槽8に流出するように排水口7が設けられている。排水手段には排水口バルブ5および排水口バルブ5の開閉を行うサーボモータ4が設けられている。ワイヤ放電加工機は表示部102を有する制御装置100によって制御される。
【0018】
図2は、加工槽の一部の壁面を省略したワイヤ放電加工機の加工槽の外観斜視図である。加工液の水位調整システムの水位検出手段に圧力センサ、水位調整機構にサーボモータを用いた加工槽3周辺の概略図である。このワイヤ放電加工機は、扉(図示しない)を閉めて加工槽3内に加工液16を溜め、圧力センサ6によって水圧を検出する。水圧を検出することにより加工槽3内の水位を測定することができる。そして、サーボモータ4によって排水口バルブ5の開度を調整し、水位を制御する構造となっている。
【0019】
放電加工中は上ワイヤガイド1及び下ワイヤガイド2から加工液を噴出させながら被加工物を加工するため、通常は加工槽3に流入する量だけ排出するように排水口バルブ5を所定量開いた状態で制御する。なお、排水口バルブ5は全閉の状態においても若干量の加工液が漏れ出すような構造となっている。
【0020】
次に、本発明に係る誤差補正について説明する。本発明を実施するにおいて、ワーク15を載置するテーブル13上に接触検出用治具を複数個取り付け、接触検出用治具にワイヤ電極14を接触させてその接触位置の座標を用いて、誤差を算出できるようにしたものである。図3は接触検出用治具の一つの例の外観斜視図である。
接触検出用治具20は、ワイヤ電極接触部22と該ワイヤ電極接触部22を支持する支持部材21を備える。ワイヤ電極接触部22は導電性を有する円柱形状をなす部材である。ワイヤ電極14が接触するワイヤ電極接触部22の表面は、例えば、Rz5μm以下の面粗さがよいものが望ましい。支持部材21は凹部を有するコの字形状をなし、該凹部に円柱状のワイヤ電極接触部22が位置するように、その両端が支持部材21に固定される。円柱形状の導電性を有するワイヤ電極接触部22により、ワイヤ電極接触部22とワイヤ電極14とが点接触となるため、接触検出の精度がよくなる。接触検出用治具20をテーブル13に取付けるため、図示しない固定手段が支持部材21に設けられている。前記固定手段は、例えば、テーブル上,下面を挟持する板状部材と該板状部材を締め付けるボルトからなる。
【0021】
次に、重量変化による誤差を補正するための方法を説明する。
【0022】
図4は、組立工場と同じ負荷状態での、接触検出用治具とワイヤの接触位置を測定する様子を示す図である。ここで、組立工場と同じ負荷状態とは、加工槽3内に加工液16を溜めずさらにテーブル13上にワーク15を載置しない状態である。
【0023】
図5は、テーブル13上にワーク15を載置し、加工液16を溜めた状態での接触検出用治具20とワイヤ電極14の接触位置の測定の様子を示す図である。
【0024】
<重量変化に対して>
テーブル13上に配置した2個以上の接触検出用治具20に対し、
(1)所望の位置決め精度が得られるテーブル13への負荷状態及び機械設置状態でワイヤ電極14の接触検出により、第1の接触検出用治具20n、第2の接触検出用治具20n+1とワイヤ電極14の接触位置の座標an,an+1を測定・記憶し、接触検出用治具20n,20n+1間の距離Xan=an+1−anを求める。接触検出用治具は2個以上使用してもよい。図4では第1の接触検出用治具20n、及び、第2の接触検出用治具20n+1の2つの接触検出用治具20n20n+1を、加工槽3内のテーブル13に対向する辺に、X軸に平行な同軸上に揃うように配置する。ワイヤ電極14とテーブル13とを相対移動させることにより、接触位置の座標an,an+1を測定することができる。図4では、上,下ワイヤガイド1,2がXanの矢印方向移動し上,下ワイヤガイド1’,2’の位置へ相対移動する。
(2)テーブル13上にワーク15をセットし、加工液16を加工槽3に実加工を行う状態と同じ液位まで溜め、上記(1)同様に、接触検出用治具20n,20n+1とワイヤ電極14の接触位置の座標bn,bn+1を測定・記憶し、接触検出用治具間の距離Xbn=bn+1−bnを求める(図5参照)。ワイヤ電極14またはテーブル13を接触検出用治具20,20に対して相対移動させることにより、接触位置の座標bn,bn+1を測定することができる。
(3)Θn=(Xbn−Xan)/Xbnの計算により補正量の傾きΘnを求める。(図6参照)
(4)bnからの距離を(Xbn)’とすると、(Xbn)’−Θn*(Xbn)’の計算により、加工槽3内の加工液16の重量およびワーク15の重量による位置決め精度の変化を補正することができる。bnからの距離に応じて補正するということは、bnの座標原点とする接触位置座標系に基づいて誤差補正を行うことである。
【0025】
なお、(1)〜(4)の「n」は1以上の自然数である。また、ワイヤ電極14と接触検出用治具20のワイヤ電極接触部22とワイヤ電極14の間には図示しない電圧印加手段により微弱な電圧が印加されている。ワイヤ電極14とワイヤ電極接触部22を含んで形成される回路において、ワイヤ電極14とワイヤ電極接触部22の間の電圧の変化、あるいは、該回路に流れる電流の変化を検知することにより、ワイヤ電極14とワイヤ電極接触部22とが接触したか否かを検出することができる。
【0026】
図5に示されるように、実際のワーク15の加工と同じテーブル13の位置にワーク15を載置すると、ワーク15による偏荷重の影響も考慮できる。ワーク15による偏荷重の影響を無視できる場合には、ワーク15をテーブル13に載置するのに替えて、加工液16の量をワーク15の重量分だけ加工槽3内に増加するだけでもよい。加工槽3内の加工液16の量は図1,図2を用いて説明したように容易に変更できる。高精度な位置決め精度を得るには、接触検出用治具20のテーブル13への設置位置を、なるべく加工を実行する場所付近とすることが望ましい。
【0027】
ここで、上記(1)の「所望の位置決め精度が得られるテーブル13への負荷状態及び機械設置状態」について説明する。所望の位置決め精度が得られるテーブル13への負荷状態及び機械設置状態の具体的例として、<1>〜<3>が考えられる。
<1>
ユーザの工場内にワイヤ放電加工機を設置後、レーザ干渉側長器などにより位置決め精度を測定しピッチ誤差補正を行った時と同じテーブル13への負荷状態及び機械設置状態。
<2>
ワーク15の加工結果の測定値が要求精度を満たしていた加工時と同じテーブル13への負荷状態及び機械設置状態。
<3>
ワイヤ放電加工機を設置するユーザの工場の床強度がワイヤ放電加工機を組み立てる組立工場と同等で、ワイヤ放電加工機のレベル出し手順も組立工場と同じ手順で行うなど、組立工場でのワイヤ放電加工機の設置状態が再現されている場合には、組立工場で位置決め精度を測定しピッチ誤差補正を行う時と同じテーブル13への負荷状態及び機械設置状態。
【0028】
ところで、図4,図5は、接触検出用治具20によるX軸方向の治具間距離の測定についての例であるが、図7,図8,図9,図10に示されるように、X軸方向(図7参照)やY軸方向(図8参照)やXY軸方向(図9参照)を同時に測定することも可能である。また、実際の加工ピッチがXY軸のストロークに対し短い場合には、XY軸のストロークに対し短い距離で測定してもよい(図10参照)。また、精度よく接触検出用治具20の位置を検出するには、図11に示されるように、接触検出用治具20に対してワイヤ電極14を垂直に接触させることが望ましい。
【0029】
ここで、図3等に図示される円柱形状を有する導電性の部材により接触検出部を形成した接触検出用治具20以外の形態を説明する。
図12は接触検出部が丸孔になっている接触検出用治具の例を説明する図である。接触検出用治具30は、導電性を有する板状の支持部材31に適宜な半径を有する円形状の貫通孔のワイヤ電極接触部32が設けられている。あるいは、貫通孔であるワイヤ電極接触部32の内面に導電性のリングを取り付けたりあるいは導電性膜を形成したりしてもよい。このようにすることで、板状の支持部材31を導電性を有しない部材で作成できる。
【0030】
図13は、図12の接触検出用治具を用いた治具間距離の測定例を説明する図である。図12に示される接触検出用治具30を2つ用い、これら2つの接触検出用治具30を図4,図5と同様に加工槽3内のテーブル13の2箇所に互いに対向するように同軸上に取付ける。接触検出用治具30のワイヤ電極接触部32とワイヤ電極14との接触位置の測定は、図4,図5と同様にワイヤ電極14と加工槽3内のテーブル13とを相対移動させることにより行うことができる。ただし、この例では、一方の貫通孔のワイヤ電極接触部32の接触位置を検出した後、一旦、ワイヤ電極を切断し、他方の貫通孔のワイヤ電極接触部32で再度結線した後に接触位置の検出を行う必要がある。
【0031】
ワイヤ電極14とワイヤ電極接触部32との接触位置はワイヤ電極接触部32を形成する貫通孔の壁面の位置としてもよいが、貫通孔の中心位置としてもよい。図14は、図12の接触検出用治具での孔中心位置を求める方法の一例を説明する図である。ワイヤ電極接触部32を形成する貫通孔の異なる3つ任意の壁面位置の座標を測定する。円の中心は、円弧上の任意の弦の垂直2等分線上にあるため、円弧上に重ならない任意の3点で得られる2つの弦から、演算により貫通孔の中心を求めることができる。ワイヤ電極14がワイヤ電極接触部32である貫通孔の壁面位置に換えて、演算により求めた貫通孔の中心位置を基に誤差評価の演算を行うようにしてもよい。
【0032】
以上、図3に示される接触検出用治具20はワイヤ電極14と接触するワイヤ電極接触部22を一つ備えた形態、図12に示される接触検出用治具30はワイヤ電極14と接触するワイヤ電極接触部32として一つの貫通孔を備えた形態を説明したが、ワイヤ電極接触部を2個以上の該ワイヤ電極接触部を支持する支持部材に設けてもよい。この場合には、接触検出用治具が2個用いられるのと同等になる。
【0033】
図15には支持部材41の2箇所にワイヤ電極接触部42a,42bが取付けられている接触検出用治具40が図示されている。支持部材41に取付けられたワイヤ電極接触部42a,42bは、導電性を有する円柱形状をなす部材である。2つのワイヤ電極接触部42a,42bは、支持部材31の側面から互いに並行に立設して支持部材41に取付けられている。誤差補正を行う際には、2つのワイヤ電極接触部42aと42bの位置を測定すればよい。ワイヤ電極接触部42a,42bとワイヤ電極14の接触位置の位置検出は図4,図5等と同様にワイヤ電極14とテーブル13とを相対移動させることにより行う。
【0034】
図16には支持部材51の2箇所にワイヤ電極14との接触検出を行うことが可能な貫通孔であるワイヤ電極接触部52a,52bが設けられている接触検出用治具50が示されている。ワイヤ電極接触部52a,52bとワイヤ電極14の接触位置の位置検出は図4,図5等と同様にワイヤ電極14とテーブル13とを相対移動させることにより行う。なお、この場合には、図13と同様に、一方の貫通孔のワイヤ電極接触部52aの接触位置を検出した後、一旦、ワイヤ電極を切断し、他方の貫通孔のワイヤ電極接触部52bで再度結線した後に接触位置の検出を行う必要がある。
上述した図15や図16の形態では一つの支持部材に2つのワイヤ電極接触部を設けられていることから、支持部材を加工槽3内のテーブル13に固定する作業者の作業を軽減することができる。位置合わせも2つの接触検出用治具を用いるのに比べて容易である。
【0035】
次に、接触検出用治具を3つ用いる場合を説明する。多数の接触検出用治具を用いることにより、平均値を計算できることなどにより正確に誤差の評価を行うことができる。
図17は3個の接触検出用治具が用いられる場合の例を説明する図である。各接触検出用治具60は、支持部材61と該支持部材61の側面から立設して設けられたワイヤ電極接触部62からなる。支持部材61に取付けられたワイヤ電極接触部62は、導電性を有する円柱形状をなす部材である。
図17に示されるようにワイヤ電極14は、接触検出用治具601のワイヤ電極接触部62、接触検出用治具602のワイヤ電極接触部62、接触検出用治具603のワイヤ電極接触部62に相対的に移動する。各ワイヤ電極接触部62,62,62にワイヤ電極14が接触した時の位置を検出する。
【0036】
以上、ワイヤ放電加工機の重量変化について説明した。次に、ワイヤ放電加工機の設置状況(床強度)の変化について説明する。
テーブル13上に配置した2個以上の接触検出用治具20に対し、
[1]ワイヤ放電加工機の組立工場において出荷前にワイヤ電極14の接触検出により、第1の接触検出用治具20n、第2の接触検出用治具20n+1とワイヤ電極14の接触位置の座標an,an+1を測定・記憶し、接触検出用治具20n,20n+1間の距離Xan=an+1−anを求める(図18参照)。接触検出用治具は2個以上使用してもよい。加工槽3内のテーブル13に対向する辺に、X軸に平行な同軸上に揃うように配置する。
図18では第1の接触検出用治具20n、及び、第2の接触検出用治具20n+1の2つの接触検出用治具20n20n+1を加工槽3内のテーブル13に対向する辺に配置する。ワイヤ電極14とテーブル13の第1の接触検出用治具20n,第2の接触検出用治具20n+1とを相対移動させることにより、ワイヤ電極14の接触位置の座標an,an+1を測定することができる。
[2]組立工場とは床強度の異なるユーザの工場(ユーザ工場)にワイヤ放電加工機を設置した後、組立工場で行った上記[1]と同じ測定を実行し、接触検出用治具20n,20n+1とワイヤ電極14の接触位置の座標bn,bn+1を測定・記憶し、接触検出用治具間の距離Xbn=bn+1−bnを求める(図19参照)。ワイヤ電極14とテーブル13に固定された接触検出用治具20,20とを相対移動させることにより、接触位置の座標bn,bn+1を測定することができる。
[3]Θn=(Xbn−Xan)/Xbnの計算により補正量の傾きΘnを求める。
[4]bnからの距離を(Xbn)’とすると、(Xbn)’―Θn*(Xbn)’の計算により、ワイヤ放電加工機が設置される床強度の違い、レベル出しの差による位置決め精度の変化を補正することができる。bnからの距離に応じて補正するということは、bnの座標原点とする接触位置座標系に基づいて誤差補正を行うことである。
【0037】
図20は制御装置内の処理の概要を説明するブロック図である。図1,図2を参照しながら説明する。圧力センサ6は加工槽3内の加工液16の液位を測定するためのセンサであり、圧力センサ6から出力される検出信号はCPU101に入力する。109は現在値カウンタであり、X軸モータ105,Y軸モータ107に内蔵されるそれぞれの位置検出器106,108からの位置検出信号を受け、CPU101にテーブル13の現在位置情報を伝達する。103は本発明に係る補正情報を記憶する記憶部である。あらかじめ本発明の誤差補正に係る基準距離および実距離が上記の方法で測定され、記憶部103に基準距離情報および実距離情報として記憶される。104はサーボ制御部であり、CPU101から出力される移動指令に応じた出力を各軸モータ105,107に送り、テーブル13または上,下ガイド1,2を駆動する。CPU101は前記基準距離情報と実距離情報の差分を計算し、実加工時に前記差分を打ち消すように接触位置座標からの距離に応じて前記指令を補正する補正演算を行いサーボ制御部104に出力する。
【符号の説明】
【0038】
M ワイヤ放電加工機

1,1’ 上ワイヤガイド
2,2’ 下ワイヤガイド
3 加工槽
4 サーボモータ
5 排水口バルブ
6 圧力センサ
7 排水口
8 汚水槽
9 清水槽
10 機構部
11 加工液冷却装置
12 加工液供給路
13 テーブル
14 ワイヤ電極
15 ワーク
16 加工液

20,20n,20n+1 接触検出用治具
21 支持部材
22 ワイヤ電極接触部

30 接触検出用治具
31 支持部材
32 ワイヤ電極接触部

40 接触検出用治具
41 支持部材
42a,42b ワイヤ電極接触部

50 接触検出用治具
51 支持部材
52a,52b ワイヤ電極接触部

60 接触検出用治具
61 支持部材
62 ワイヤ電極接触部

100 制御装置
101 CPU
102 表示部
103 記憶部
104 サーボ制御部
105 X軸モータ
106 位置検出器
107 Y軸モータ
108 位置検出器
109 現在値カウンタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工液を貯留する加工槽と、該加工槽に設けられたテーブルに被加工物を載置し、制御装置から出力される指令に基づいてワイヤ電極と前記テーブルを相対移動させて前記被加工物を加工するワイヤ放電加工機において、
前記テーブル上に設置した接触検出部を有する第1接触検出用治具と、該第1接触検出用治具と同一軸線上に所定の距離をもって、接触検出部が対向するように設置される接触検出部を有する第2接触検出用治具からなる一対の接触検出用治具と、
前記ワイヤ電極と前記第1接触検出用治具および前記第2接触検出用治具との接触を検出する接触検出部と、
前記ワイヤ電極が前記第1接触検出用治具および前記第2接触検出用治具との接触した際に移動した軸の座標値を記憶する座標値記憶部と、

所望の位置決め精度が得られる第1の状態で、前記ワイヤ電極を前記第1接触検出用治具と前記第2接触検出用治具に接触させ、前記ワイヤ電極が前記第1接触検出用治具と前記第2接触検出用治具に接触した時の座標値から、前記第1接触検出用治具と前記第2接触検出用治具との距離を求めて記憶する基準距離記憶部と、

前記第1の状態とは異なる第2の状態で前記ワイヤ電極を第1および第2接触検出用治具に接触させ、前記ワイヤ電極が前記第1,第2接触検出用治具に接触した時の座標値から前記第1接触検出用治具と前記第2接触検出用治具との距離を実距離として記憶する実距離記憶部と、
前記基準距離と実距離との差分を計算し、実加工時に前記差分を打ち消すように接触位置座標からの距離に応じて前記指令を補正する補正部と、
を備えたことを特徴とするワイヤ放電加工機。
【請求項2】
加工液を貯留する加工槽と、該加工槽に設けられたテーブルに被加工物を載置し、制御装置から出力される指令に基づいてワイヤ電極と前記テーブルを相対移動させて前記被加工物を加工するワイヤ放電加工機において、
前記テーブル上に設置した接触検出部を有する第1接触検出用治具と、該第1接触検出用治具とは異なる軸線上に所定の距離をもって、接触検出部が対向するように設置される接触検出部を有する第2接触検出用治具からなる一対の接触検出用治具と、
前記ワイヤ電極と前記第1及び第2接触検出用治具との接触を検出する接触検出部と、
前記ワイヤ電極が前記第1および第2接触検出用治具と接触した際に移動した軸の座標値を記憶する座標値記憶部と、
前記ワイヤ電極が前記第1および第2接触検出用治具と接触した際に移動した軸の座標値を記憶する座標値記憶部と、
所望の位置決め精度が得られる第1の状態で、前記ワイヤ電極を第1および第2接触検出用治具に接触させ、前記ワイヤ電極が前記接触検出用治具に接触した時の座標値から前記第1と第2接触検出用治具との各移動軸方向の距離を基準距離として記憶する基準距離記憶部と、
前記第1の状態とは異なる第2の状態で前記ワイヤ電極を前記第1および第2接触検出用治具に接触させ、前記ワイヤ電極が前記第1,第2接触検出用治具に接触した時の座標値から前記第1接触検出用治具と第2接触検出用治具との各移動軸方向の距離を実距離として記憶する実距離記憶部と、
前記基準距離と実距離との差分を計算し、実加工時に前記差分を打ち消すように接触位置座標からの移動軸方向の距離に応じて前記指令を補正する補正部と、
を備えたことを特徴とするワイヤ放電加工機。
【請求項3】
前記第1の状態は、テーブルに被加工物を載置せず、かつ、加工槽に加工液を溜めない状態であり、前記第2の状態は、テーブルに被加工物を載置し、加工槽に所定の加工液高さまで加工液を溜めた状態であることを特徴とする請求項1または2のいずれか一つに記載のワイヤ放電加工機。
【請求項4】
前記第2の状態は、前記テーブル上に載置される被加工物の重量に相当する加工液を実加工時の加工液高さに加えて溜めることを特徴とする請求項3に記載のワイヤ放電加工機。
【請求項5】
前記第1の状態は、所望の位置決め精度が得られる床強度に前記ワイヤ放電加工機を設置した状態であり、
前記第2の状態とは、第1の状態とは床強度の異なる場所に前記ワイヤ放電加工機を設置した状態であることを特徴とする請求項1または2のいずれか一つに記載のワイヤ放電加工機。
【請求項6】
前記一対の治具が移動軸の移動方向毎に複数設置されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載のワイヤ放電加工機。
【請求項7】
前記一対の治具が並列に複数設置されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載のワイヤ放電加工機。
【請求項8】
前記接触検出用治具は、板状部材に孔が設けられており、該孔の内面の少なくとも3箇所に前記ワイヤ電極を接触させることにより前記孔の中心の座標を求めて、該座標値を前記接触検出用治具と前記ワイヤ電極が接触した際の移動した軸の座標値とすることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一つに記載のワイヤ放電加工機。
【請求項9】
前記一対の接触検出用治具が少なくとも2つのワイヤ電極との接触部を有する単一の接触検出用治具として構成されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一つに記載のワイヤ放電加工機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2013−39640(P2013−39640A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178530(P2011−178530)
【出願日】平成23年8月17日(2011.8.17)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】