説明

低圧燃料配管内のベーパ検出装置

【課題】低圧燃料配管内でのベーパ発生を適切に検出する低圧燃料配管内のベーパ検出装置を提供する。
【解決手段】噴射信号に応じて燃料を噴射するインジェクタ3と、燃料を加圧してインジェクタに供給する高圧ポンプ2と、燃料タンクから低圧燃料配管4を経由して高圧ポンプに燃料を搬送する燃料搬送ポンプ1とを備える燃料供給システムにおける低圧燃料配管内のベーパ検出装置を、高圧ポンプとインジェクタとの間の燃料圧力を検出する燃圧検出手段6と、高圧ポンプの動作に基いて燃料供給量予測値を算出する予測値演算手段10と、インジェクタの噴射信号及び燃料圧力に基いて燃料噴射量比較基準値を演算する比較基準値演算手段10とを備え、燃料供給量予測値が燃料噴射量比較基準値に対して相対的に増加した場合にベーパ発生を判定する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料タンクから高圧燃料ポンプへ燃料を搬送する低圧燃料配管内でのベーパ発生を検出するベーパ検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
筒内噴射を行う自動車用等の内燃機関の燃料供給システムは、燃料搬送用の低圧ポンプによって燃料タンク内の燃料を高圧ポンプまで搬送し、高圧ポンプにおいて昇圧後インジェクタに供給する構成が一般的である。
このような燃料供給システムに関する従来技術として、例えば、特許文献1、2には、エンジンの始動時に、高圧ポンプがインジェクタに燃料を供給する高圧燃料配管内の燃料の温度及び圧力を検出し、燃料の圧力、温度及び飽和蒸気圧特性の関係を利用してベーパ発生を検出することが記載されている。
また、特許文献3には、エンジンの高負荷運転から無負荷運転への移行時に高圧燃料配管内に発生するベーパを排出するため、インジェクタによる燃料噴射が停止される燃料カット期間中の少なくとも一部の期間において、高圧燃料配管に設けられたベーパパージバルブを開いて高圧燃料配管内の燃料を排出することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−285128号公報
【特許文献2】特開2007−32525号公報
【特許文献3】特開2000−329029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した各従来技術は、いずれも高圧ポンプの出側における高圧燃料配管でのベーパ発生に関するものであり、燃料搬送用の低圧ポンプから高圧ポンプに至る低圧燃料配管内でのベーパ発生については考慮されていない。
例えば、運転時に冷却が不十分な場合や、高負荷運転後にアイドリングした場合などでは、燃料温度が高くなり、低圧燃料配管内にベーパが発生する場合がある。この場合、高圧燃料ポンプへの吸入燃料にベーパの気泡が混入することとなり、燃圧は維持できたとしても一回のポンプ動作による燃料供給量(吐出量)が減少してしまう。さらに、ベーパ量が増加した場合、高圧ポンプの昇圧動作が不良となり、目標燃圧を維持できなくなってインジェクタへの燃料供給に支障が生じる場合がある。
【0005】
これに対し、低圧燃料配管内の燃料圧力を比較的高圧として燃料の飽和蒸気圧力以上とすれば、ベーパ発生を防止することは可能である。しかし、燃料供給ポンプを高圧化した場合、固定燃圧のポンプでは常時燃料圧力を高めることになる結果、ポンプ仕事量が増加して車両の燃料消費率が悪化してしまう。また、可変燃圧のポンプを適用してベーパ発生が懸念される場合にのみ低圧燃料配管内の燃料圧力を増加させることも可能であるが、この場合ポンプのコストが高くなってしまう。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、低圧燃料配管内でのベーパ発生を適切に検出する低圧燃料配管内のベーパ検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のような解決手段により、上述した課題を解決する。
請求項1の発明は、噴射信号に応じて燃料を噴射するインジェクタと、燃料を加圧して前記インジェクタに供給する高圧ポンプと、燃料タンクから低圧燃料配管を経由して前記高圧ポンプに燃料を搬送する燃料搬送ポンプとを備える燃料供給システムの前記低圧燃料配管内のベーパ発生を検出するベーパ検出装置であって、前記高圧ポンプと前記インジェクタとの間の燃料圧力を検出する燃圧検出手段と、前記高圧ポンプの動作に基いて燃料供給量予測値を算出する予測値演算手段と、前記インジェクタの前記噴射信号及び前記燃料圧力に基いて燃料噴射量比較基準値を演算する比較基準値演算手段とを備え、前記燃料供給量予測値が前記燃料噴射量比較基準値に対して相対的に増加した場合にベーパ発生を判定することを特徴とする低圧燃料配管内のベーパ検出装置である。
【発明の効果】
【0007】
高圧ポンプが吸入する燃料にベーパが混入していない場合、高圧ポンプのストロークあたり吐出量及び回転数(ストローク数)から求められる燃料供給量予測値は、実際の燃料供給量に等しい。
これに対し、高圧ポンプが吸入する燃料にベーパが混入した場合、燃料供給量予測値は、ベーパの圧縮動作も燃料供給の動作として算出されるため、実際の燃料供給量よりも多くなる。
このため、本発明によれば、燃料供給量予測値が、燃料噴射量比較基準値に対して相対的に増加した場合にベーパ発生を判定することによって、低圧燃料配管内におけるベーパ発生を適切に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明を適用した低圧燃料配管内のベーパ検出装置の実施例が設けられる燃料供給システムの構成を示す概略図である。
【図2】実施例のベーパ検出装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、低圧燃料配管内でのベーパ発生を適切に検出する低圧燃料配管内のベーパ検出装置を提供する課題を、高圧ポンプのストロークあたり吐出量及び回転数に基づいて算出される燃料供給量予測値が、高圧燃料配管の燃圧及びインジェクタの開弁(噴射)時間から算出される燃料噴射量に対応する比較基準値に対して大きくなった場合にベーパ発生を判定することによって解決した。
【実施例】
【0010】
以下、本発明を適用した低圧燃料配管内のベーパ検出装置(以下、単に「ベーパ検出装置」と称する)について説明する。
図1は、実施例のベーパ検出装置が設けられる自動車用エンジンの燃料供給システムの構成を示す概略図である。
実施例において、エンジンは、シリンダヘッドに設けられるインジェクタから直接燃焼室内に燃料を噴射する筒内噴射式のものである。
【0011】
燃料供給システムは、燃料搬送ポンプ1、高圧ポンプ2、インジェクタ3、低圧燃料配管4、高圧燃料配管5、燃圧センサ6、エンジン制御ユニット(ECU)10等を備えて構成されている。
燃料搬送ポンプ1は、図示しない燃料タンク内に貯留された例えばガソリン等の燃料を、高圧ポンプ2に搬送する低圧の電動フィードポンプである。
高圧ポンプ2は、図示しないエンジンの出力軸によって駆動され、燃料搬送ポンプ1から供給される燃料を高圧に加圧して吐出するものである。
インジェクタ3は、高圧ポンプ2から吐出される高圧の燃料が図示しないコモンレール等の蓄圧室を介して供給され、図示しないエンジンの各気筒の燃焼室内へ燃料を噴射するものである。インジェクタ3は、ECU10から提供される噴射パルス信号(開弁信号)がオンであるときに、流路を開閉する弁体をアクチュエータによって駆動して燃料を噴射する。
低圧燃料配管4は、燃料搬送ポンプ1から高圧燃料ポンプ2に燃料を供給する燃料ラインである。低圧燃料配管4内の燃料圧力は、高圧燃料配管5内の燃料圧力よりも低く設定されている。
高圧燃料配管5は、高圧燃料ポンプ2からインジェクタ3に燃料を供給する燃料ラインであって、図示しないコモンレール等の蓄圧室が設けられている。
燃圧センサ6は、高圧燃料配管5の内部の燃料の圧力(燃圧)を検出するものである。
【0012】
ECU10は、エンジン及びその補機類を統括的に制御するものであって、例えばCPU等の情報処理手段、RAM、ROM等の記憶手段、入出力インターフェイス等を備えて構成されている。
また、ECU10は、エンジンの運転時に低圧燃料配管4内でのベーパ発生を検出する本発明のベーパ検出装置としても機能する。
ECU10は、燃料搬送ポンプ1及び高圧ポンプ2を制御し、また、インジェクタ3に対して噴射パルス信号を出力する。また、ECU10は、高圧ポンプ2からストロークあたり吐出量、回転数等の運転状態を取得し、燃圧センサ6から燃圧を取得する。
【0013】
実施例のベーパ検出装置は、低圧燃料配管4の高圧ポンプ2吸入口側の端部付近の領域Aにおけるベーパの発生を検出する。
図2は、実施例のベーパ検出装置の動作を示すフローチャートである。以下、ステップ毎に順を追って説明する。
【0014】
<ステップS01:各部の故障診断により故障有無を判断>
ECU10は、燃料供給システム、エンジン、エンジン補機類等の各部の故障診断を行い、いずれかの部位に故障があった場合には一連の処理を終了する。
一方、各部位とも故障がなかった場合にはステップS02に進む。
【0015】
<ステップS02:高圧燃料配管でベーパ発生の可能性がある運転状態か判断>
ECU10は、エンジンの運転状態に関する情報を取得し、高圧燃料配管5内においてベーパ発生の可能性がある運転状態か否かを判断する。ここで、ベーパ発生の可能性がある運転状態は、予めROM等の記憶手段に蓄積されている。
ベーパ発生の可能性がある運転状態である場合には、一連の処理を終了する。
一方、ベーパ発生の可能性がない場合には、ステップS03に進む。
【0016】
<ステップS03:高圧燃料配管でベーパ発生の可能性がある運転状態か判断>
ECU10は、エンジンの運転状態に関する情報を取得し、低圧燃料配管4内においてベーパ発生の可能性がある運転状態か否かを判断する。ここで、ベーパ発生の可能性がある運転状態は、予めROM等の記憶手段に蓄積されている。
ベーパ発生の可能性がない場合には、一連の処理を終了する。
一方、ベーパ発生の可能性がある運転状態である場合には、ステップS04に進む。
【0017】
<ステップS04:燃料供給量予測値と燃料噴射量計算値に対応する比較基準値の比較>
ECU10は、高圧ポンプ2が1ストロークで吐出する燃料の量、及び、高圧ポンプ2の回転数に基づいて、燃料供給量予測値を算出する。この燃料供給量予測値は、高圧ポンプ2の吸入燃料中にベーパが混入していない場合には、実際の燃料供給量と等しくなる。
また、ECU10は、燃圧センサ6が検出した燃圧及びインジェクタ1への噴射パルス信号のパルス幅(噴射時間)に基づいて、燃料噴射量計算値を算出する。高圧燃料配管5内の圧力は、エンジンの通常運転時においては、燃料がベーパを発生する圧力範囲よりも高いため、高圧燃料配管5内においては、ベーパは発生しない。このため、実際の燃料供給量は、低圧燃料配管4内のベーパの有無に関わらず、燃料噴射量計算値に相当する。
【0018】
そして、ECU10は、燃料供給量予測値と、燃料噴射量計算値に対応する比較基準値とを比較し、燃料供給量予測値が比較基準値よりも大きい場合にはベーパ発生を判定し、例えば図示しないベーパパージバルブを開く等の所定のベーパ発生検知モードの制御を開始する。ここで、燃料噴射量計算値に対応する比較基準値とは、ベーパ発生の無い通常運転時における燃料供給量予測値及び燃料噴射量計算値の変動によるベーパ発生検知モードの誤作動を防ぐため、燃料噴射量計算値を補正したものとする。
一方、比較基準値が燃料供給量予測値以上である場合には、低圧燃料配管4内でベーパが発生していないものとしてリターンし、ステップS01に戻って一連の処理を繰り返す。
【0019】
以上説明したように、実施例のベーパ検出装置によれば、燃料供給量予測値が、実際の燃料供給量と実質的に等しい燃料噴射量計算値に対応する比較基準値よりも大きい場合にベーパ発生を判定することによって、低圧燃料配管4内におけるベーパ発生を適切に検出することができる。
【0020】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
例えば、燃料供給システムの構成やベーパ検出装置の構成は、上述した実施例の構成に限らず、適宜変更することができる。
また、本発明のベーパ検出装置は、筒内噴射を行うインジェクタのみを備えた燃料供給システムに限らず、例えば筒内噴射及びポート噴射をともに行う燃料供給システム等、他種の燃料供給システムにも適用することができる。
さらに、実施例のベーパ検出装置は、高圧ポンプの運転状態に基づく燃料供給量予測値が燃圧及び噴射時間に基づく燃料噴射量計算値に対応する比較基準値より大きくなった場合にベーパ発生を判定しているが、例えば燃料供給量予測値が比較基準値に対して所定の閾値以上大きくなった場合にベーパ発生を判定してもよい。
また、インジェクタが開弁時間とは別個に開弁率を制御可能な場合には、燃料噴射量計算値を算出する際に、インジェクタの開弁率を加味するとよい。
【符号の説明】
【0021】
1 燃料搬送ポンプ 2 高圧ポンプ
3 インジェクタ 4 低圧燃料配管
5 高圧燃料配管 6 燃圧センサ
10 エンジン制御ユニット A ベーパ発生領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴射信号に応じて燃料を噴射するインジェクタと、
燃料を加圧して前記インジェクタに供給する高圧ポンプと、
燃料タンクから低圧燃料配管を経由して前記高圧ポンプに燃料を搬送する燃料搬送ポンプと
を備える燃料供給システムの前記低圧燃料配管内のベーパ発生を検出するベーパ検出装置であって、
前記高圧ポンプと前記インジェクタとの間の燃料圧力を検出する燃圧検出手段と、
前記高圧ポンプの動作に基いて燃料供給量予測値を算出する予測値演算手段と、
前記インジェクタの前記噴射信号及び前記燃料圧力に基いて燃料噴射量比較基準値を演算する比較基準値演算手段とを備え、
前記燃料供給量予測値が前記燃料噴射量比較基準値に対して相対的に増加した場合にベーパ発生を判定すること
を特徴とする低圧燃料配管内のベーパ検出装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−38470(P2011−38470A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−186416(P2009−186416)
【出願日】平成21年8月11日(2009.8.11)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】