説明

低放射複層ガラス

【目的】 低放射性膜の特徴である遮熱性能を維持しながら、高い可視光透過率を発現する低放射複層ガラスを提供する。
【構成】 本発明に係る低放射複層ガラスは、対向する二枚のガラス板の一方のガラス板の表面に、第一の酸化物膜,Ag膜,金属膜,第二の酸化物膜をこの順に積層したものであり、第一の酸化物膜の厚さが30nm以上40nm以下、Ag膜の厚さが8nm以上10nm以下、金属膜の厚さが1nm以上8nm以下、および第二の酸化物膜の厚さが30nm以上50nm以下である。本発明に係る低放射複層ガラスを室内外境界に設置したときの室外側面において、JIS R 3106で規定する可視光反射率は8〜25%であり、L表色系におけるaは−3.0以上0.0以下、bは−9.0以上0.0以下のほぼ中性色の反射色調を呈し、かつ、遮蔽係数が0.57以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱線遮蔽積層膜を有する低放射(Low Emission,Low−E)複層ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
熱線遮蔽積層体(以下Low−E膜とも称する)は、熱線(赤外光)を反射する機能を有することから、夏季の冷房負荷や冬期の暖房負荷の緩和を目的として、住宅やビルなどの建築用ガラスの表面に形成されてきた。
【0003】
Low−E膜は、ガラス等の基体上に酸化亜鉛(ZnO)膜/銀(Ag)等を主成分とする貴金属膜/酸化亜鉛膜をこの順に積層した膜構成を有する積層体である。このうち、銀等を主成分とする貴金属膜は耐湿性、耐酸性などの化学耐久性が劣悪であり、酸化亜鉛膜被覆によっても十分な改善がなされないという問題があった。そこで、貴金属膜と外気を遮断するため、積層膜は複層ガラスの内側、すなわち、二枚のガラスによって形成される間隙側に配置されていた。しかし、この手段では単板の取り扱い時の耐久性や保存期間中の耐久性については解決されず、依然として問題は残されている。
【0004】
上記問題を解決するため、たとえば特許文献1では、銀層の直下層に酸化亜鉛層を、銀層の直上層には亜鉛または亜鉛を主成分とした保護金属層がそれぞれ成膜されたものが開示されている。
【特許文献1】特開平11−157881号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、Low−E膜には、その他の問題点も存在している。即ち、前記したようにLow−E膜は通常複層ガラスの状態で用いられているが、Low−E膜を使用しない複層ガラスと比較して反射率が高い。したがって複層ガラスに特有の反射像が二重となる現象が、Low−E膜を使用しない複層ガラスと比較してより強く現れ、これが利用者に不快感を与えている。
【0006】
二重反射像がより強く現れる原因は、Low−E膜が反射率の高い銀膜を有するためである。銀膜が厚くなると反射率が高くなり、さらに、反射色が赤みを帯びるようになる。このように、遮熱性能をより高くするためには銀膜を厚くしなければならず、厚くすると二重反射像がより強く現れるという矛盾がある。この矛盾は前記特許文献1では解決されていない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明は、二枚のガラス板を対向配置した複層ガラスであって、前記二枚のガラス板のうち一方のガラス板の他方のガラス板に対向する表面には、第一の酸化物膜/Ag膜/金属膜/第二の酸化物膜をこの順に積層した熱線遮蔽積層体が形成され、前記第一の酸化物膜の膜厚は30nm以上40nm以下、前記第二の酸化物膜の膜厚は30nm以上50nm以下、前記Ag膜の厚さは8nm以上10以下、前記金属膜の厚さは1nm以上8nm以下であり、且つ前記第一の酸化物膜と第二の酸化物膜の膜厚比は0.9以上1.7以下である構成とした。
【0008】
第一の酸化物膜と第二の酸化物膜の膜厚比を上記のようにほぼ等しいかまたは第一の酸化物膜厚を1とした際の第二の酸化物膜厚が1.7倍以下の厚みとすることで、外観だけでなく内観においても視感度の最も大きい波長550nm付近の反射率を低減でき、反射色を中性にすることができる。
【0009】
また、本発明に係る複層ガラスは、室内外境界に設置したときの室外側において、JISR3106で規定する可視光反射率が8%以上25%以下であり、L表色系におけるaが−3.0以上0.0以下、bが−9.0以上0.0以下(ほぼ中性色の反射色調)で、且つ遮蔽係数が0.57以下とすることができる。
【0010】
また、本発明に係る複層ガラスは、室内外境界に設置したときの室外側において、JISR3106で規定する可視光反射率が8%以上15%以下であり、L表色系におけるaが−1.0以上5.0以下、bが−20.0以上0.0以下とすることができる。また、JIS R3106で規定する可視光透過率が50%以上75%以下であることも望ましい。
【0011】
また、前記第一および第二の酸化物膜が、酸化錫膜とAlドープ酸化亜鉛膜との積層体であって、Alドープ酸化亜鉛膜が前記Ag膜側に配置され、かつ、酸化物膜の全膜厚に対するAlドープ酸化亜鉛膜厚の比率が10%より大きく40%以下であることが好ましい。
【0012】
前記Alドープ酸化亜鉛膜のAl含有量は、Znに対する原子比で10%より大きく25%以下であることが好ましく、前記金属膜はTi膜、または、Al含有量がZnに対する原子比で1%以上25%以下であるZnAl合金膜であることも好ましい。
【0013】
本発明によれば、Low−E膜として、第一の酸化物膜と第二の酸化物膜との間に、薄いAg膜と少し厚めの金属膜を配置したことにより、可視光反射率を低減し、ぎらつきを抑え、好ましい中間色の複層ガラスとすることができる。しかも、熱遮蔽機能も十分に保持することができる。
【0014】
Low−E膜の耐久性はAg膜上層の誘電体の膜応力と関係しており、Alを酸化亜鉛膜中に多くドープすることで、膜応力を低減でき、耐久性が向上する。また膜作製時の放電安定性も一層向上できるが、ドープ量が過多であると生産時に材料が酸化アルミニウムにより被膜されることで成膜速度が遅くなる。よって生産と品質のバランスから、前記Alドープ酸化亜鉛膜のさらに好ましいAl含有量は、Znに対する原子比で10%より大きく15%以下である。
【0015】
また前記Alドープ酸化亜鉛膜中のAl含有量とLow−E膜の紫外線透過率が比例であり、屈折率と反比例している。Al含有量が多い場合、屈折率が小さくLow−E膜の反射率を低減できるが、紫外線透過率が増加する。よって紫外線透過率と膜屈折率のバランスに関しても前記Alドープ酸化亜鉛膜のさらに好ましいAl含有量は、Znに対する原子比で10%より大きく15%以下である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明の好適な実施例を添付図面に基づいて説明する。図1は本発明に係る複層ガラスの断面図であり、複層ガラス1は、対向する一方のガラス板2の表面に、第一の酸化物膜3、Ag膜4、金属膜5および第二の酸化物膜6をこの順に積層し、間隙7を介して二枚組合せたものである。
【0017】
これらガラス板2は、通常の窓ガラス等に使用する強化ガラスや平板ガラスを使用することができ、その厚さにも制限はないが、例えば4mm、6mm、8mmのものを使用することができる。
【0018】
ガラス板2の上に形成する第一の酸化物膜3、および、最外層として形成する第二の酸化物膜6の材料としては、酸化錫膜、酸化亜鉛膜等を使用することができるが、酸化錫膜/Alドープ酸化亜鉛膜の積層体を採用し更に酸化錫膜を最下層及び最上層に形成することで、酸化錫膜の緻密性より、耐湿性、化学耐久性の点で好ましく、さらには、Alドープ酸化亜鉛膜がAg膜4側に配置され、かつ、酸化物膜の全膜厚に対するAlドープ酸化亜鉛膜厚の比率を10以上40%以下とすることが、Agの結晶性を低減させず、酸化錫膜による耐久性向上を維持することができる点で好ましい。また、Alドープ酸化亜鉛膜のAl含有量は、Znに対する原子比で10%より大きく25%以下とすることが、酸化亜鉛膜の光学特性を維持しながら、耐久性が悪くなる原因である膜の応力を効果的に低減できる点で望ましい。
【0019】
第一の酸化物膜3および第二の酸化物膜6の厚さはそれぞれ30nm以上40nm以下、30nm以上50nm以下とすることが、低反射・中性色という点で好ましい。また、第一の酸化物膜3の厚みを1としたとき、第二の酸化物膜6の厚みは0.9から1.7の範囲に設定することが好ましい。このような膜厚比にすることで外気側からの視感度だけでなく、室内側から見た際の好感度を阻害する550nm付近の波長を有する可視光線の反射率をより効率的に低減し、反射色調を中性色にすることができる。同時に、JIS R3106に規定する可視光透過率を高くする効果も期待できる。なお、本発明において中性色とは、色相、彩度および明度がほぼ中間的、すなわち、中間的な明るさ、濁度のグレーをいう。
【0020】
本発明に係るAg膜4の厚さは8nm以上10nm以下であり、従来のLow−E膜に使用するAg膜よりも薄くしてある。Ag膜4をこの範囲に設計することで、赤みのある好ましくない光の反射率を低く抑えながら赤外光は反射させることができる。
【0021】
金属膜5としては、各種金属膜を使用することができるが、特に、Ti膜、または、Al含有量がZnに対する原子比で1%以上25%以下であるZnAl合金膜を使用することが好ましい。また、ZnAl合金膜の組成をAl含有量がZnに対する原子比で1%以上6%以下とすると、Low−E膜の紫外線透過率を低減できるため、さらに好ましい。金属膜5の酸化されずに金属として膜構成中に存在する部分の厚みは1nm以上8nm以下であり、従来のLow−E膜に使用する金属膜よりも厚くなるようにしている。金属膜5をこの範囲の厚さで配置すれば、十分に日射吸収を行うことができるため、反射率を上げずに遮熱性能を向上し、遮熱係数を0.57以下とすることができる。
【0022】
本発明の複層ガラス1を図1の要領で室内外境界に設置したとき、室外側面におけるJIS R3106に規定の可視光反射率を8%以上25%以下の範囲に収めることができる。また、L表色系におけるaを−3.0以上0.0以下、bを−9.0以上0.0以下の範囲とすることが可能となり、ほぼ中性色の反射色調を呈するようにできる。
【0023】
また、室内側面においても、可視光反射率を8%以上15%以下の範囲に収めることができ、またL表色系におけるaを−1.0以上〜5.0以下、bを−20.0以上−8.0以下の範囲とすることが可能となる。さらに、本発明のLow−E複層ガラスの構成をとれば、JIS R3106に規定の可視光透過率を50%以上75%以下の範囲とすることができ、高い可視光透過率を確保することができる。
【0024】
以下に具体的な実施例(図2)および比較例にもとづいて本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0025】
寸法300mm×300mm、厚さ6mmのソーダライムガラスを洗浄、乾燥してガラス基体として用いた。前記ガラス基体をスパッタリング成膜装置内に設置し、真空度が5×10−4Pa以下になるまで排気を行い、以下のようにしてガラス基体表面に熱線反射積層体を成膜した。
【0026】
(第1層の成膜)
装置内に酸素ガスを導入し、真空度を0.26Pa以上0.8Pa以下に調整した後、錫ターゲットが備えられたカソードに直流電源より電力を供給してグロー放電を生じさせ、酸素とSnを反応させて酸化錫膜を作製できるようにし、電力を0.9kWに調節した。その後、カソード上方を10.3×10−3m/sの速度でガラス基体を搬送し、膜厚32.2nmの酸化錫膜を作製した。
【0027】
(第2層の成膜)
次に装置内に酸素ガスを導入し、真空度を0.26Pa以上0.8Pa以下に調整した後、Znに対する原子比でAlが13.1%(Znとの合計量に対する原子比でAlが11.6%)ドープされた亜鉛ターゲットが備えられたカソードに直流電源より電力を供給してグロー放電を生じさせ、酸素と亜鉛を反応させて酸化亜鉛膜を作製できるようにし、電力を1kWに調節した。その後、カソード上方を10.4×10−3m/sの速度でガラス基体を搬送し、第2層として膜厚4.5nmの、Znに対する原子比でAlが13.1%ドープされた酸化亜鉛膜を作製した。
【0028】
(第3層の成膜)
次に装置内にアルゴンガスを導入し、真空度を0.26Pa以上0.8Pa以下に調整した後、銀ターゲットが備えられたカソードに直流電源より電力を供給してグロー放電を生じさせ、電力を0.25kWに調節した。その後、カソード上方を16.5×10−3m/sの速度でガラス基体を搬送させ、第3層として膜厚9.6nmの銀膜を作製した。
【0029】
(第4層の成膜)
次に装置内にアルゴンガスを導入し、真空度を0.26Pa以上0.8Pa以下に調整した後、Znに対する原子比でAlが3.5%(Znとの合計量に対する原子比でAlが3.4%)ドープされた亜鉛ターゲットが備えられたカソードに直流電源より電力を供給してグロー放電を生じさせ、電力を0.2kWに調節した。その後、カソード上方を21.1×10−3m/sの速度でガラス基体を搬送させ、膜厚約5nmの、Znに対する原子比でAlが3.5%ドープされた亜鉛アルミ膜を作製した。
【0030】
(第5層の成膜)
次に装置内に酸素ガスを導入し、真空度を0.26Pa以上0.8Pa以下に調整した後、Znとの合計量に対し原子比でAlが11.6%ドープされた亜鉛ターゲットが備えられたカソードに直流電源より電力を供給してグロー放電を生じさせ、酸素とZnを反応させて酸化亜鉛膜を作製できるようにし、電力を1kWに調節した。その後、カソード上方を6.7×10−3m/sの速度でガラス基体を搬送させ、膜厚10nmの、Znに対する原子比でAlが13.1%(Znとの合計量に対する原子比でAlが11.6%)ドープされた酸化亜鉛膜を作製した。
Znに対する原子比でAlが13.1%ドープされた酸化亜鉛膜の作製時における第四層金属膜の亜鉛アルミ膜が酸化された膜厚は約3〜5nmであった。
【0031】
(第6層の成膜)
次に装置内に酸素ガスを導入し、真空度を0.26Pa以上0.8Pa以下に調整した後、錫ターゲットが備えられたカソードに直流電源より電力を供給してグロー放電を生じさせ、酸素と錫を反応させて酸化錫膜を作製できるようにし、電力を1kWに調節した。その後、カソード上方を8.5×10−3m/sの速度でガラス基体を搬送させ、膜厚24.5nmの酸化錫膜を作製した。
【0032】
形成した熱線反射積層体の膜構成を表1に示す。本実施例において、第1層の酸化錫(SnO)と第2層のAlドープ酸化亜鉛層を組み合わせたものが前記第一の酸化物膜に相当し、第5層のAlドープ酸化亜鉛層と第6層の酸化錫層を組み合わせたものが前記第二の酸化物膜に相当する。以下、第一の酸化物層、第二の酸化物層は同様に解釈される。
【0033】
前記の熱線遮蔽積層体を形成したガラス基体と、同じ寸法で同じ厚みのガラス基体を用い、常法により図1に示す構成の低放射複層ガラスを製造した。ここで、前記低放射複層ガラスのガラス基体の間隔を12mmとし、その内部(図1中7の部分)には乾燥空気を充填した。前記低放射複層ガラスについて、以下の評価を行った。結果を表2に示す。
【0034】
(可視光反射率)
日立製作所製U−4000型分光光度計を使用して、実施例1の低放射複層ガラスの室外側面と室内側面の反射スペクトルを測定し、JIS R3106に基づいて可視光反射率(単位%)を算出した。
【0035】
(色度)
日立製作所製U−4000型分光光度計を使用して、前記低放射複層ガラスの室外側面と室内側面の反射スペクトルを測定し、JIS Z8722に基づいて前記低放射複層ガラスのそれぞれの面についてのL表色系におけるaおよびbを算出した。
【0036】
(可視光透過率)
日立製作所製U−4000型分光光度計を使用して、前記低放射複層ガラスの透過スペクトルを測定し、JIS R3106に基づいて前記低放射複層ガラスの可視光透過率(単位%)を算出した。
【0037】
(紫外線透過率)
日立製作所製U−4000型分光光度計を使用して、前記低放射複層ガラスの透過スペクトルを測定し、ISO 9050:2003に基づいて前記低放射複層ガラスの紫外線透過率(単位%)を算出した。
【0038】
(遮蔽係数)
前記低放射複層ガラスについて、JIS R3106に基づいて遮蔽係数を測定した。ここで遮蔽係数とは、3mmの透明板ガラス(単板)の透過、及び再放射による室内流入熱量を1とした時の流入熱量を表す相対値であり、JIS R3106で規定される日射熱取得率との間には、遮蔽係数=日射熱取得率/0.88の関係がある。
【0039】
(耐久性)
実施例1の熱線反射積層体の耐久性を評価するため、前記熱線反射積層体を形成したガラス基体を、環境試験機(スガ製作所製)を用いて85℃、湿度95%の環境に48時間保持し、膜の劣化度合いを観察た。ここで劣化とは、銀層が凝集し、膜に白点が生じることをいう。白点を目視で判別した結果を表に示す。凝集数が2個/1cm以下であれば耐久性が良として○で示し、3個/1cm以上であれば耐久性が劣るとして×と表示した。
【実施例2】
【0040】
各層の膜厚が異なる以外は実施例1と同様に、ガラス基体上に熱線反射積層体を形成した。各層の膜厚は放電電力を調整することにより変更した。膜構成は表1に記載の通りであった。また、実施例1と同様に、低放射複層ガラスを製造した。前記低放射複層ガラスについて実施例1と同様に評価した結果を表2に示す。
【0041】
(実施例3〜6)
実施例2と同様に、膜構成の異なる低放射複層ガラスを製造し、評価した。膜構成は表1に記載の通りである。評価結果を表2に示す。
【0042】
(比較例1〜6)
膜構成が異なる以外は実施例1と同様に、ガラス基体上に熱線反射積層体を形成した。各層の厚みは放電電力を調整することにより変更した。膜構成は表1に記載の通りであった。また、実施例1と同様に、低放射複層ガラスを製造した。前記低放射複層ガラスについて実施例1と同様に評価した結果を表2に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
実施例1〜6においては、前記第一の酸化物膜に相当する部分と前記第二の酸化物膜に相当する部分の厚さを、それぞれ30nm以上40nm以下と30nm以上50nm以下の範囲にしたため、非膜面側の可視光反射率、特に視感度の最も高い550nmの反射率を低く抑えることができた。これにより、非膜面側の反射によるぎらつき感を抑え、中性反射色を実現することができた。
【0046】
また、第3層のAg膜の厚さを8nm以上10nm以下の範囲にすることにより反射率を低減し、さらに第4層の金属膜の厚さを1nm以上8nm以下の範囲にすることによって遮蔽係数を0.57以下に抑えることができ、中性反射色と遮熱性能向上を同時に満たすことができた。
【0047】
実施例2および5の結果から、金属膜として、Al含有量がZnに対する原子比で1%以上6%以下の範囲のZnAl合金膜を使用することで、紫外線透過率を低減できることがわかる。
【0048】
一方、比較例1においては酸化物の膜厚が薄いため、また比較例3では酸化物の膜厚が厚いために、非膜面色調が中性色から外れて不快感を与える色合いとなった。
【0049】
また、比較例2においては、Ag膜を厚く、金属膜を薄くしたが、遮蔽係数を効果的に低減することはできず、非膜面色調が中性色から外れることとなった。
【0050】
比較例4においては、Ag膜厚を薄くすることにより色調を中性色として不快感を低減することができたが、遮蔽係数が高くなった。
【0051】
比較例5においては、Ag膜に接するようにAlドープ酸化亜鉛膜を作製していないために、耐久性が悪い結果となった。
【0052】
比較例6においては、Ag層の上に酸化錫膜のみを成膜したために、耐久性が悪い結果となった。
【0053】
本発明の低放射複層ガラスによれば、遮熱性能を維持しながら、高い可視光透過率を確保することが可能なため、好適に窓等の室内外境界に設置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に係る複層ガラスの断面図
【図2】実施例1に係るガラス板の断面図
【符号の説明】
【0055】
1 複層ガラス
2 ガラス板
3 第一の酸化物膜
4 Ag膜
5 金属膜
6 第二の酸化物膜
7 間隙


【特許請求の範囲】
【請求項1】
二枚のガラス板を対向配置した複層ガラスであって、前記二枚のガラス板のうち一方のガラス板の他方のガラス板に対向する表面には、第一の酸化物膜/Ag膜/金属膜/第二の酸化物膜をこの順に積層した熱線遮蔽積層体が形成され、前記第一の酸化物膜の膜厚は30nm以上40nm以下、前記第二の酸化物膜の膜厚は30nm以上50nm以下、前記Ag膜の厚さは8nm以上10nm以下、前記金属膜の厚さは1nm以上8nm以下であり、且つ前記第一の酸化物膜と第二の酸化物膜の膜厚比は0.9以上1.7以下であることを特徴とする低放射複層ガラス。
【請求項2】
請求項1に記載の低放射複層ガラスにおいて、前記複層ガラスを室内外境界に設置したときの室外側において、JIS R3106で規定する可視光反射率が8%以上25%以下であり、L表色系におけるaが−3.0以上0.0以下、bが−9.0以上0.0以下であり、遮蔽係数が0.57以下であることを特徴とする低放射複層ガラス。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の低放射複層ガラスにおいて、前記室内外境界に設置したときの室内側において、JIS R3106で規定する可視光反射率が8%以上15%以下であり、L表色系におけるaが−1.0以上5.0以下、bが−20.0以上0.0以下であることを特徴とする低放射複層ガラス。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の低放射複層ガラスにおいて、JIS R3106で規定する可視光透過率が50%以上75%以下であることを特徴とする低放射複層ガラス。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の低放射複層ガラスにおいて、前記第一および第二の酸化物膜が、酸化錫膜とAlドープ酸化亜鉛膜との積層体であって、Alドープ酸化亜鉛膜が前記Ag膜側に配置され、かつ、酸化物膜の全膜厚に対するAlドープ酸化亜鉛膜厚の比率が10%より大きく40%以下であることを特徴とする低放射複層ガラス。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の低放射複層ガラスにおいて、前記Alドープ酸化亜鉛膜のAl含有量は、Znに対する原子比で10%より大きく25%以下であることを特徴とする低放射複層ガラス。
【請求項7】
請求項6に記載のAlドープ酸化亜鉛膜のAl含有量は、Znに対する原子比で10%より大きく15%以下であることを特徴とする低放射複層ガラス。
【請求項8】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の低放射複層ガラスにおいて、前記金属膜はTi膜、またはAl含有量がZnに対する原子比で1%以上25%以下であるZnAl合金膜であることを特徴とする低放射複層ガラス。
【請求項9】
請求項8に記載の合金金属膜組成はAl含有量がZnに対する原子比で1%以上6%以下であることを特徴とする低放射複層ガラス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−197237(P2007−197237A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−16048(P2006−16048)
【出願日】平成18年1月25日(2006.1.25)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】