説明

低温タンク及びその施工方法

【課題】止水性能を満足しつつニッケル鋼を使用する場合よりもコスト低減を図る。
【解決手段】コンクリート側壁1の上部に一端が埋設固定されたリングプレート5を介して鋼製屋根4を支持する低温タンクであって、リングプレート5は、下層がJISに規定されたSLA鋼板5aかつ上層がJISに規定されたSM鋼板5bからなる合わせ板である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LNG(液化天然ガス)タンクやLPG(液化石油ガス)タンク等の低温タンク及びその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1、2には、低温タンク(低温液化ガス貯蔵タンク)及びその施工方法が開示されている。この低温タンクは、側壁として構築されたコンクリート躯体の上部に一端が埋設固定されたリングプレートを介して鋼製の屋根部材を仮支持する構成を採用している。上記リングプレートは、屋根部材の外側に構築するコンクリート製の屋根が最終的な強度部材としての役割を果たすため本設としての強度が要求される部材ではないが、屋根コンクリート打設時においてこれを支持する部材であり、また低温タンクの供用中において屋根の止水性能を維持することが要求される部材である。低温タンクの供用中においては、リングプレートは低温になるため、材料として低温での靭性(じんせい)に優れるニッケル鋼板やJISに低温用鋼板として規定されているSLA鋼板に特殊処理を施し低温で適用できる材料が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−213959号公報
【特許文献2】特開平08−338598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ニッケル鋼板は、リングプレートとして要求される止水性能を満足し、また入手が容易であるが、SLA鋼板よりも高価である。一方、SLA鋼板は、ニッケル鋼よりも安価なものの、リングプレートとして要求される止水性能を満足するためには特殊処理を施す必要があるので、入手し難いと共に歩留まりが悪くなって、結果的にコストが高くなり、また余った場合に転用することが困難であるという問題がある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、止水性能を満足しつつニッケル鋼板や特殊処理を施したSLA鋼板を使用する場合よりもコスト低減を図ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では、低温タンクに係る第1の解決手段として、コンクリート側壁の上部に一端が埋設固定されたリングプレートを介して鋼製屋根を支持する低温タンクであって、リングプレートは、下層がJISに規定されたSLA鋼板かつ上層がJISに規定されたSM鋼板からなる合わせ板である、という手段を採用する。
【0007】
低温タンクに係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、リングプレートは、SLA鋼板に下端が接合されると共にSM鋼板に形成された貫通孔から上方に突出する係合部材を備える、という手段を採用する。
【0008】
低温タンクに係る第3の解決手段として、上記第1または第2の解決手段において、SLA鋼板は、SLA365鋼板に靭性を強化する処理を施したものである、という手段を採用する。
【0009】
低温タンクに係る第4の解決手段として、上記第1〜第3のいずれかの解決手段において、SM鋼板は、SM400B鋼板である、という手段を採用する。
【0010】
また、本発明では、低温タンクの施工方法に係る第1の解決手段として、コンクリート側壁の上部に一端が埋設固定されたリングプレートを介して鋼製屋根を支持する低温タンクの施工方法であって、リングプレートは、下層がJISに規定されたSLA鋼板かつ上層がJISに規定されたSM鋼板からなる二層構造を有する、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、リングプレートは、下層がJISに規定されたSLA鋼板かつ上層がJISに規定されたSM鋼板からなる二層構造を有するので、止水性能とコストとを両立させることが可能であり、よって止水性能を満足しつつニッケル鋼を使用する場合よりもコスト低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係るLNGタンク(低温タンク)の要部構成を示す縦断面図及び当該縦断面図におけるA部拡大図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るLNGタンク(低温タンク)において、リングプレートの施工状態を示す上面図及びリングプレートの展開拡大図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るLNGタンク(低温タンク)において、リングプレートの一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
本実施形態に係るLNGタンク(低温タンク)は、図1(a)に示すように、地面を掘削した掘削穴内に建造される地下式タンクである。すなわち、このLNGタンクは、コンクリート側壁1及びコンクリート屋根2等からなるコンクリート製躯体として構築され、またコンクリート屋根2の内側には鋼製屋根4が設けられている。
【0014】
このようなLNGタンクにおいて、鋼製屋根4は、図1(b)に示すように、リングプレート5を介してコンクリート側壁1に支持されている。なお、この図1(b)では、説明の都合上、コンクリート屋根2を省略している。リングプレート5は、図1(b)に示すように、コンクリート側壁1の上部に一端がアンカー状に埋設固定されると共に、SLA365mod鋼板5a(下層板)とSM400B鋼板5b(上層板)とからなる二層構造の合わせ板である。このようなリングプレート5は、LNGタンクにおける特徴的の構成要素である。
【0015】
SLA365mod鋼板5aは、JIS G 3126(2000)に規定されたSLA365鋼板(低温圧力容器用炭素鋼鋼板)に準じたものであり、当該SLA365鋼板に低温脆性を強化するための修正処理(modify)を施した鋼板である。SM400B鋼板5bは、JIS G 3106(2004)に規定されたSM400B鋼板(溶接構造用圧延鋼板)である。例えば、SLA365mod鋼板5aの板厚は10mm、SM400B鋼板5bの板厚は20mmである。
【0016】
また、このようなリングプレート5は、図1(b)に示すようにジベル5cを備えている。このジベル5cは、SLA365mod鋼板5aの上面に下端が溶接されると共に、SM400B鋼板5bに形成された貫通孔から上方に突出する。このようなジベル5cは、リングプレート5上に打設されるコンクリート屋根2との接合を強固にするための係合部材である。
【0017】
さらに説明すると、リングプレート5は、図2(a)、(b)に示すように、長尺状板材をコンクリート側壁1に沿って並べることにより形成されている。すなわち、下層であるSLA365mod鋼板5aは、図2(b)に示すように、長尺状板材を短辺同士が突き合うようにコンクリート側壁1の内側に沿って並べることによって形成され、また上層であるSM400B鋼板5bは、長尺状板材の短辺同士の突合い部がSLA365mod鋼板5aにおける長尺状板材の突合い部に対して所定量だけオフセットした状態でSLA365mod鋼板5aの上に重ね合わせることによって形成されている。
【0018】
つまり、SLA365mod鋼板5aにおける長尺状板材の突合い部とSM400B鋼板5bにおける長尺状板材の突合い部とは重ならない状態になっている。なお、上記ジベル5cは、図2(a)、(b)に示すように、コンクリート側壁1の内側に沿って一定の間隔で複数設けられている。
【0019】
下層であるSLA365mod鋼板5aの突合い部は、図3に示すようにV型開先を形成している。SLA365mod鋼板5aにおいて互いに隣り合う長尺状板材は、上記V型開先に肉盛り溶接を施すことによって形成される溶接部5dによって接合されている。また、上層であるSM400B鋼板5bの突合い部は、図3に示すようにX型開先を形成している。SM400B鋼板5bにおいて互いに隣り合う長尺状板材は、上記X型開先に肉盛り溶接を施すことによって形成される溶接部5eによって接合されると共に、下層を構成するSLA365mod鋼板5aとも上記溶接部5eによって接合されている。
【0020】
次に、このように構成された本LNGタンクの作用効果、特に本LNGタンクの特徴的構成要素であるリングプレート5の作用効果について説明する。
【0021】
本LNGタンクのリングプレート5は、上述したようにSLA365mod鋼板5a(下層板)とSM400B鋼板5b(上層板)とからなる合わせ板である。このようなリングプレート5において、下層、つまり本LNGタンクにおいてLNGが存在する内側に位置するSLA365mod鋼板5aは、上層、つまり本LNGタンクの外側に位置するSM400B鋼板5bの板厚(例えば20mm)に対して板厚が薄い(例えば10mm)ものの、LNGの冷熱(−90℃程度)に曝されても十分な低温靭性(じんせい)を発揮し、本LNGタンクの供用中において脆性破壊することなく屋根の止水性能を受け持つ。
【0022】
一方、リングプレート5において上層に位置するSM400B鋼板5bは、SLA365mod鋼板5aの板厚(例えば10mm)の2倍(例えば20mm)を有しており、リングプレート5の機械的強度としてSLA365mod鋼板5aでは不足する部分を補う。なお、SM400B鋼板5bについては、建設中の寸法保持の役割を担い、屋根コンクリート打設完了によりその目的を終結する。タンク共用中の止水性については、内面側に設置した低温靭性に優れいているSLA365mod鋼板5aが受け持つため、SM400B鋼板5bに対しては、SLA365mod鋼板5a程に高い性能が要求されない。
【0023】
すなわち、本LNGタンクにおけるリングプレート5は、SLA365mod鋼板5a(下層板)とSM400B鋼板5b(上層板)とによって、止水性能と機械的強度とを分け持つことにより、部品として要求される性能を満足する。
【0024】
これに対して、従来のニッケル鋼板を使用した場合、例えば20mm厚の一枚板としリングプレートを形成しなければならない。この場合のコストは、本LNGタンクにおけるリングプレート5のコストを上回るものになる。したがって、本実施形態によれば、止水性能を満足しつつニッケル鋼を使用する場合よりもコスト低減を図ることが可能である。
【0025】
また、SLA365mod鋼板5aは、リングプレート5のように10mm程度の板厚であれば、比較的低コストで入手可能であるが、10mmを越える20mmの板厚になると、コストが飛躍的に高くなる。したがって、板厚20mmの一枚板として形成したリングプレートは、本LNGタンクにおけるリングプレート5よりも高コストである。
【0026】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例が考えられる。
(1)上記実施形態では、リングプレート5をSLA365mod鋼板5a(下層板)とSM400B鋼板5b(上層板)との合わせ板として形成したが、本発明はこれに限定されない。例えば、JIS G 3126(2000)に規定されたSLA365鋼板以外の低温用炭素鋼鋼板に低温脆性を強化するための修正処理を施した鋼板を下層板とし、またJIS G 3106(2004)に規定されたSM400B鋼板以外の溶接構造用圧延鋼板を上層板としてリングプレートを形成しても良い。
【0027】
(2)上記実施形態では、図3に示すようなSLA365mod鋼板5a(下層板)とSM400B鋼板5b(上層板)との接合方法を採用したが、これ以外の接合方法と用いても良い。例えば、SM400B鋼板5bにおいて、ジベル5cが挿通される貫通孔の孔径をジベル5cの直径よりも大きくし、ジベル5cの周面と上記貫通孔の内面との間に肉盛り溶接を施すことによりSLA365mod鋼板5aとSM400B鋼板5bとを接合するようにしても良い。
【符号の説明】
【0028】
1…コンクリート側壁、2…コンクリート屋根、4…鋼製屋根、5…リングプレート5、5a…SLA365mod鋼板、5b…SM400B鋼板、5c…ジベル、5d,5e…溶接部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート側壁の上部に一端が埋設固定されたリングプレートを介して鋼製屋根を支持する低温タンクであって、
前記リングプレートは、下層がJISに規定されたSLA鋼板かつ上層がJISに規定されたSM鋼板からなる合わせ板であることを特徴とする低温タンク。
【請求項2】
前記リングプレートは、SLA鋼板に下端が接合されると共にSM鋼板に形成された貫通孔から上方に突出する係合部材を備えることを特徴とする請求項1記載の低温タンク。
【請求項3】
SLA鋼板は、SLA365鋼板に靭性を強化する処理を施したものであることを特徴とする請求項1または2記載の低温タンク。
【請求項4】
SM鋼板は、SM400B鋼板であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の低温タンク。
【請求項5】
コンクリート側壁の上部に一端が埋設固定されたリングプレートを介して鋼製屋根を支持する低温タンクの施工方法であって、
前記リングプレートは、下層がJISに規定されたSLA鋼板かつ上層がJISに規定されたSM鋼板からなる二層構造を有することを特徴とする低温タンクの施工方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−256922(P2011−256922A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131043(P2010−131043)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】