説明

低温液体貯蔵用タンク

【課題】水張試験に起因して防液堤に生じる圧縮応力を考慮(算入)することにより、従来と比較し防液堤の縦方向のPC鋼材の数や緊張力を低減することを可能にした低温液体貯蔵用タンクを提供する。
【解決手段】底版2と、この底版2に下端部3aを剛接して立設した筒状の防液堤3と、底版2と防液堤3で囲まれた内部に配設される貯槽4とを備える低温液体貯蔵用タンクBであって、防液堤3には縦方向にプレストレスを導入するためのPC鋼材8が設けられており、この縦方向のPC鋼材8の数及び/又は緊張力を、貯槽4の水張試験に起因して防液堤3に生じる圧縮応力を算入して設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば液化天然ガス等の低温液体の貯蔵に用いられる低温液体貯蔵用タンクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、図1に示すように、液化天然ガス(LNG)、液化石油ガス(LPG)等の低温液体1を貯蔵するためのタンク(低温液体貯蔵用タンクA)には、底版2と、底版2に下端部3aを繋げて立設する円筒状の防液堤3と、底版2と防液堤3で囲まれた内部に配設される金属製の貯槽(内槽)4とを備えて構成したものがある。また、この種の低温液体貯蔵用タンクAは、一般に、上部に平板状あるいはドーム状の屋根5を設け、さらに貯槽4と底版2、防液堤3、屋根5との間に保冷材6を設けて構築される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
防液堤3は、貯槽4から万一低温液体1が漏洩した場合にこの低温液体1の拡散を局所化(防止)するためのものであり、その下端部3aを底版2に剛接して設けられている。さらに、防液堤3は、図2に示すように、プレストレストコンクリート造で構築されることが多く、周方向に配置したPC鋼材7によってプレストレスを導入することにより、漏液時に低温液体1を確実に保持できるようにしている。なお、図2は低温液体漏洩時の防液堤3の外力状態を示す図である。
【0004】
一方、通常の運転時には、低温液体1が貯槽4で保持されているため、図3に示すように、防液堤3には周方向のプレストレスのみが作用し、このプレストレスによって防液堤3の下端部3aに外引張曲げモーメントM1ひいては防液堤3の外面に引張応力T1が発生する。また、底版2は、底版2の下の地盤が凍結しないようにヒータ(底版2に埋設したヒータ:不図示)で加温されるため、通年一定温度で保持されるのに対し、防液堤3は、外気温の影響を受けて、夏は膨張し、冬は収縮する。そして、このような季節変動によって収縮した際には、図4に示すように、防液堤3の下端部3aに外引張曲げモーメントM2ひいては防液堤3の外面に引張応力T2が発生する。さらに、空液時には、図5に示すように、防液堤3の重量を支える底版2の外周部2aが沈下することによって、防液堤3の下端部3aに外引張曲げモーメントM3ひいては防液堤3の外面に引張応力T3が発生する。
【0005】
このため、防液堤3には、図2に示すように、主に上記の3要因により発生する外引張曲げモーメントM1、M2、M3ひいては引張応力T1、T2、T3を打ち消すことを目的として、縦方向(鉛直方向)に配置したPC鋼材8によって、縦方向にもプレストレスを導入するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3839448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、この種の低温液体貯蔵用タンクAにおいては、施工が完了し、運転を開始する前に水張試験を実施する。この水張試験は、貯槽4に低温液体1の重量の約1.5倍の水を注水して、漏れや変形の有無を検査する試験である。
【0008】
そして、この水張試験を行うと、防液堤3には図3から図5と逆の変形が生じる。すなわち、図6に示すように、水張試験で貯槽4に注水した水の重量で地盤が弾塑性変形し、水張試験後(除荷後)に底版2の変形が残留して、防液堤3の下端部3aに外圧縮曲げモーメントM4ひいては防液堤3の外面に周方向、縦方向ともに圧縮応力T4が生じたままになる。
【0009】
そして、従来、この種の低温液体貯蔵用タンクAを設計する際に、水張試験に起因して生じる外圧縮曲げモーメントM4、圧縮応力T4を考慮(算入)することなく、上記の3要因により発生する外引張曲げモーメントM1、M2、M3、引張応力T1、T2、T3に基づいて縦方向のPC鋼材8の数、緊張力(防液堤に導入するプレストレス)を設定している。このため、現状では、過大なPC鋼材8の数や緊張力で過大なプレストレスを導入していることになる。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑み、水張試験に起因して防液堤に生じる圧縮応力を考慮(算入)することにより、従来と比較し防液堤の縦方向のPC鋼材の数や緊張力を低減することを可能にした低温液体貯蔵用タンクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0012】
本発明の低温液体貯蔵用タンクは、底版と、該底版に下端部を剛接して立設した筒状の防液堤と、前記底版と前記防液堤で囲まれた内部に配設される貯槽とを備える低温液体貯蔵用タンクであって、前記防液堤には縦方向にプレストレスを導入するためのPC鋼材が設けられており、該縦方向のPC鋼材の数及び/又は緊張力が、前記貯槽の水張試験に起因して前記防液堤に生じる圧縮応力を算入して設定されていることを特徴とする。
【0013】
この発明においては、水張試験に伴う底版の残留変形によって防液堤に生じる圧縮応力を算入して防液堤の縦方向の必要プレストレスを求め、このプレストレスに応じて縦方向のPC鋼材の数及び/又は緊張力を設定することによって、縦方向のPC鋼材の数及び/又は緊張力を低減することが可能になる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の低温液体貯蔵用タンクによれば、水張試験に伴う底版の残留変形によって防液堤に生じる圧縮応力を算入して求めた防液堤の縦方向のプレストレスに応じて縦方向のPC鋼材の数及び/又は緊張力を設定することで、従来と比較し、縦方向のPC鋼材の数及び/又は緊張力を低減することが可能になり、施工性、経済性の向上を図ることが可能になる。
【0015】
また、このように水張試験に起因して生じる圧縮応力を通常運転時の設計に考慮することで、従来と比較し、空液時に生じる引張応力を低減することが可能になり、低温液体貯蔵用タンクの構造力学的性能の向上を図ることも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】低温液体貯蔵用タンクを示す図である。
【図2】低温液体貯蔵用タンクを示すとともに、この低温液体貯蔵用タンクの防液堤にプレストレスを導入するPC鋼材を示す図である。
【図3】周方向プレストレスに起因して防液堤に生じる外引張曲げモーメント、引張応力を示す図である。
【図4】温度収縮に起因して防液堤に生じる外引張曲げモーメント、引張応力を示す図である。
【図5】防液堤の自重による底版外周部の沈下に起因して防液堤に生じる外引張曲げモーメント、引張応力を示す図である。
【図6】貯槽の水張試験による底版の残留変形に起因して防液堤に生じる外圧縮曲げモーメント、圧縮応力を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図1から図6を参照し、本発明の一実施形態に係る低温液体貯蔵用タンクについて説明する。本実施形態は、例えば液化天然ガス等の低温液体の貯蔵に使用されるタンクに関するものである。
【0018】
本実施形態の低温液体貯蔵用タンクBは、従来の低温液体貯蔵用タンクAと同様に、平盤状の底版2と、円筒状の防液堤3と、低温液体1を貯蔵する金属製の貯槽4と、屋根と、保冷材6とを備えて構築されている(図1参照)。また、防液堤3は、周方向に配置したPC鋼材7と縦方向(鉛直方向)に配置したPC鋼材8によって、周方向と縦方向にそれぞれプレストレスを導入して構築されている(図2参照)。
【0019】
ここで、縦方向のプレストレスは、底版2を構築して防液堤3を立ち上げ、この防液堤3の周方向のPC鋼材7を緊張する前に、縦方向のPC鋼材8を緊張して導入する。このとき、縦方向のPC鋼材8には、周方向のPC鋼材7で導入されるプレストレスによって防液堤3の下端部3aに生じる外引張曲げモーメントM1ひいては防液堤3の外面に生じる引張応力T1(図3参照)と、空液時に防液堤3の重量により底版2の外周部2aが沈下することによって防液堤3の下端部3aに生じる外引張曲げモーメントM3ひいては引張応力T3(図5参照)とに対抗できるように緊張力を導入する。
【0020】
そして、低温液体貯蔵用タンクBの完成後に水張試験を行うと、防液堤3には、下端部3aに外圧縮曲げモーメントM4ひいては外面に圧縮応力T4が生じるため(図6参照)、縦方向のPC鋼材8の緊張力はこの圧縮応力T4の分だけ減じられる(T1+T3−T4)。
【0021】
さらに、水張試験後、季節変動(冬の収縮)によって防液堤3の下端部3aに生じる外引張曲げモーメントM2ひいては引張応力T2に対抗できる緊張力をさらに付加することで、縦方向のPC鋼材8の必要緊張力はT1+T3−T4+T2となる。
【0022】
これにより、縦方向のPC鋼材8には、水張試験に起因して生じる圧縮応力(−T4)の分を見込んで、T1+T3−T4+T2に対抗できるだけの緊張力にすればよくなり、このT1+T3−T4+T2に対抗できるだけのPC鋼材を用意すればよいことになる。よって、圧縮応力(−T4)の除荷を見込んでいなかったため、T1+T3+T2に対抗できるPC鋼材8を用意していた従来と比較し、PC鋼材8の数や緊張力を低減して低温液体貯蔵用タンクBを構築することが可能になる。
【0023】
なお、水張試験による除荷の影響が季節変動による影響よりも大きい場合(T4>T2)であっても、T1+T3よりも小さい緊張力に対抗できるPC鋼材8を用意すればよくなるわけではない。すなわち、一旦はT1+T3まで緊張力を負荷する必要があるため、少なくともT1+T3に対抗できるPC鋼材8を用意することが必要である。
【0024】
したがって、本実施形態の低温液体貯蔵用タンクBにおいては、水張試験に伴う底版2の残留変形によって防液堤3に生じる圧縮応力T4を算入して防液堤3の縦方向の必要プレストレスを求め、このプレストレスに応じて縦方向のPC鋼材8の数及び/又は緊張力を設定することによって、従来と比較し、縦方向のPC鋼材8の数及び/又は緊張力を低減することが可能になる。これにより、施工性、経済性の向上を図ることが可能になる。
【0025】
また、このように水張試験に起因して生じる圧縮応力T4を通常運転時の設計に考慮することで、従来と比較し、空液時に生じる引張応力T3を低減することが可能になり、低温液体貯蔵用タンクBの構造力学的性能の向上を図ることも可能になる。
【0026】
以上、本発明に係る低温液体貯蔵用タンクの一実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 低温液体
2 底版
2a 外周部
3 防液堤
3a 下端部
4 貯槽(内槽)
5 屋根
6 保冷材
7 周方向のPC鋼材
8 縦方向(鉛直方向)のPC鋼材
A 従来の低温液体貯蔵用タンク
B 低温液体貯蔵用タンク
M1 周方向プレストレスに起因して生じる外引張曲げモーメント
M2 温度収縮に起因して生じる外引張曲げモーメント
M3 底版外周部の沈下に起因して生じる外引張曲げモーメント
M4 水張試験による底版の残留変形に起因して生じる外圧縮曲げモーメント
T1 周方向プレストレスに起因して生じる引張応力
T2 温度収縮に起因して生じる引張応力
T3 底版外周部の沈下に起因して生じる引張応力
T4 水張試験による底版の残留変形に起因して生じる圧縮応力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底版と、該底版に下端部を剛接して立設した筒状の防液堤と、前記底版と前記防液堤で囲まれた内部に配設される貯槽とを備える低温液体貯蔵用タンクであって、
前記防液堤には縦方向にプレストレスを導入するためのPC鋼材が設けられており、
該縦方向のPC鋼材の数及び/又は緊張力が、前記貯槽の水張試験に起因して前記防液堤に生じる圧縮応力を算入して設定されていることを特徴とする低温液体貯蔵用タンク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−32634(P2011−32634A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−176659(P2009−176659)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】