説明

低温液化ガス貯留設備とアンカーストラップの設置方法

【課題】大きな初期引っ張り力をアンカーストラップに作用させ易くする。
【解決手段】上部屋根材と筒状外周壁5と外底板6とを一体に備えた金属製外槽7の内側に、下部屋根材と筒状内周壁9と内底板10とを一体に備えた金属製内槽11を設置するとともに、外槽と内槽との間に断熱層12,13を設けて、内槽の内側を低温液化ガスの貯留部14に形成し、外底板をコンクリート製基盤2に設置するとともに、内底板を外底板の上に設けてある底部断熱層12に載置し、内周壁の外周側に対して下向きに係止可能な金属製アンカーストラップ18を基盤に固定して、内槽の移動を防止してある低温液化ガス貯留設備であって、アンカーストラップを、内槽を形成している金属材料よりも線膨張率が大きい金属材料で形成してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上部屋根材と筒状外周壁と外底板とを一体に備えた金属製外槽の内側に、下部屋根材と筒状内周壁と内底板とを一体に備えた金属製内槽を設置するとともに、前記外槽と前記内槽との間に断熱層を設けて、前記内槽の内側を低温液化ガスの貯留部に形成し、前記外底板をコンクリート製基盤に設置するとともに、前記内底板を前記外底板の上に設けてある底部断熱層に載置し、前記内周壁の外周側に対して下向きに係止可能な金属製アンカーストラップを前記基盤に固定して、前記内槽の移動を防止してある低温液化ガス貯留設備とアンカーストラップの設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記低温液化ガス貯留設備は、内槽を構成している内底板を、外槽を構成している外底板の上に設けてある底部断熱層に載置してあるので、貯留部に低温液化ガスを貯留してある内槽が地震発生時に基盤に対して揺れ動くおそれがある。
このため、内槽を構成している内周壁の外周側に対して下向きに係止可能な金属製アンカーストラップを基盤に固定しておいて、貯留部に低温液化ガスを貯留してある状態で、アンカーストラップに引っ張り力(以下、初期引っ張り力という)を常時作用させておくことで、内槽の基盤に対する揺れ動きなどの移動を防止できるようにしてある。
従って、地震発生時に内槽を突き上げる外力が作用すると、アンカーストラップに作用させてある初期引っ張り力にその突き上げ外力に応じた引っ張り力が加わり、逆に、地震発生時に内槽を押し付ける外力が作用すると、アンカーストラップに作用させてある初期引っ張り力からその押し付け力に応じた圧縮力が差し引かれるので、地震発生時に内槽が基盤側に押し付けられても、アンカーストラップに引っ張り力が作用している状態を維持して、内槽の移動を防止できるように、内槽を突き上げる外力が作用したときの引っ張り力が金属材料の引っ張り耐力を超えない範囲で、初期引っ張り力を大きく設定しておく必要がある。
また、アンカーストラップは、内槽の内周壁と外槽の外周壁との間の位置に取り付けるので、内周壁と外周壁との間に断熱層を設ける前、つまり、内槽が常温の状態で、内周壁の外周側に対して下向きに係止可能に取り付ける必要がある。
従来の低温液化ガス貯留設備では、内周壁を形成している材料と同じ金属材料で形成してあるアンカーストラップを使用して、その一端側を基盤に固定し、貯留部に低温液化ガスの最大貯留重量に略相当する水を張った常温の状態で、他端側を内周壁の外周側に対して下向きに係止可能に取り付けておき、低温液化ガスを貯留部に貯留するに伴って内槽とアンカーストラップとが冷却されると、液面高さに応じた内周壁の熱収縮量と、その内周壁に対して下向きに係止しているアンカーストラップの熱収縮量とが釣り合うようにアンカーストラップに熱応力が生じ、その熱応力を初期引っ張り力としてアンカーストラップに作用させるように構成してある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平7−292977号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、内周壁を形成している材料と同じ金属材料でアンカーストラップを形成してあるので、内槽とアンカーストラップとが冷却されるに伴って、内周壁における被係止部位もアンカーストラップにおける係止部位も略同じ割合で収縮変位しようとし、その結果、内周壁の熱収縮量とアンカーストラップの熱収縮量とが釣り合っている状態で、アンカーストラップに大きな熱応力を生じさせ難く、大きな初期引っ張り力をアンカーストラップに作用させ難い欠点がある。
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、大きな初期引っ張り力をアンカーストラップに作用させ易くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1特徴構成は、上部屋根材と筒状外周壁と外底板とを一体に備えた金属製外槽の内側に、下部屋根材と筒状内周壁と内底板とを一体に備えた金属製内槽を設置するとともに、前記外槽と前記内槽との間に断熱層を設けて、前記内槽の内側を低温液化ガスの貯留部に形成し、前記外底板をコンクリート製基盤に設置するとともに、前記内底板を前記外底板の上に設けてある底部断熱層に載置し、前記内周壁の外周側に対して下向きに係止可能な金属製アンカーストラップを前記基盤に固定して、前記内槽の移動を防止してある低温液化ガス貯留設備であって、前記アンカーストラップを、前記内槽を形成している金属材料よりも線膨張率が大きい金属材料で形成してある点にある。
【0006】
〔作用及び効果〕
アンカーストラップを、内槽を形成している金属材料よりも線膨張率が大きい金属材料で形成してあるので、内槽とアンカーストラップとが冷却されるに伴って、アンカーストラップにおける係止部位が内周壁における被係止部位よりも大きく収縮変位しようとし、内周壁の熱収縮量とアンカーストラップの熱収縮量とが釣り合うための大きな熱応力がアンカーストラップに生じて、大きな初期引っ張り力をアンカーストラップに作用させ易い。
【0007】
本発明の第2特徴構成は、請求項1記載の低温液化ガス貯留設備に設けてあるアンカーストラップの設置方法であって、前記内底板を前記底部断熱層に載置して前記内槽を設置した後、前記基盤に固定してあるアンカーストラップを、前記貯留部に低温液化ガスの最大貯留重量に略相当する水を張った状態で、前記内周壁の外周側に対して下向きに係止可能に組み付ける点にある。
【0008】
〔作用及び効果〕
内底板を底部断熱層に載置して内槽を設置した後、基盤に固定してあるアンカーストラップを、貯留部に低温液化ガスの最大貯留重量に略相当する水を張った状態、つまり、内槽が内側に張った水で膨らんで内周壁が内槽径方向外方側に変位している状態で、内周壁の外周側に対して下向きに係止可能に組み付けるので、貯留部から水を抜き取って内槽が収縮するに伴って、アンカーストラップにおける係止部位と内周壁における被係止部位とが内槽径方向内方側向けて変位し、低温液化ガスを貯留するために内槽をクールダウンする前においても、アンカーストラップに引っ張り力を作用させ易い。
【0009】
本発明の第3特徴構成は、前記アンカーストラップを、前記内周壁の外周側に固定してある被係止部材に対して、係止方向に間隔を隔てて、下向きに係止可能に組み付ける点にある。
【0010】
〔作用及び効果〕
アンカーストラップを、内周壁の外周側に固定してある被係止部材に対して、係止方向に間隔を隔てて、下向きに係止可能に組み付けるので、アンカーストラップが被係止部材に対して接当するまで、アンカーストラップには引っ張り力が作用せず、低温液化ガスを貯留部に貯留するに伴ってアンカーストラップに作用させる初期引っ張り力の大きさを、内槽を突き上げる外力が作用したときの引っ張り力が金属材料の引っ張り耐力を超えない大きさに軽減し易い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、液化天然ガスや液化プロパンガスなどの低温液化ガスの貯蔵設備を示し、鋼管杭1で支持される基礎スラブ(コンクリート製基礎盤)2を略円形に設けて、ドーム屋根3の上面側を構成する上部屋根材4と円筒状外周壁5と外底板6とを一体に備えた金属製外槽7を同芯状に設置し、ドーム屋根3の下面側を構成する下部屋根材8と円筒状内周壁9と内底板10とを一体に備えた金属(9%Ni鋼)製内槽11を外槽7の内側に同芯状に設置してある。
【0012】
前記基礎スラブ2の上に外底板6を一体に設置し、外槽7と内槽11との間に断熱層12,13を設けて、内槽11の内側を低温液化ガスGの貯留部14に形成し、ドーム屋根3を鉛直方向に貫通する低温液化ガス受け入れ用の受け入れ管15や低温液化ガス払い出し用のポンプバレル16を設けてある。
【0013】
前記内槽11は、外底板6の上に設けてある圧縮強度の高い硬質の底部断熱層12に内底板10を載せて設置してあり、上部屋根材4及び外周壁5と下部屋根材8及び内周壁9との間の断熱層13は、グラスウールや粒状パーライトなどの断熱材を充填して構成し、外槽7の外周側を囲む防液堤としてのプレストレスコンクリート製の円筒状壁17を基礎スラブ2と外槽7とに一体に設けてある。
【0014】
そして、低温液化ガスGを貯留してある内槽11の地震発生時における基礎スラブ2に対する揺れ動きなどの移動を防止するために、内周壁9の外周側に沿った複数箇所に、内周壁9の外周側に対して下向きに係止可能な金属製アンカーストラップ18を設置してある。
【0015】
前記アンカーストラップ18は、内槽11の内周壁9を形成している9%Ni鋼よりも線膨張率が大きいステンレス鋼(SUS304)で形成してあり、図2,図3に示すように、基礎スラブ2に埋設してあるアンカー取り付け部19に下端側を固定してある。
【0016】
そして、横断面形状がコの字状の被係止部材21を、その両側の脚部24を内周壁9に溶接して、内周壁9の外周側に溶接固定し、被係止部材21と内周壁9との間にアンカーストラップ18を挿通して、アンカーストラップ18の上端側に設けてある係止部材20を被係止部材21に対して下向きに係止させて、内槽11を下向きに押し付ける引っ張り力を、貯留部14に貯留してある低温液化ガスGの液面高さに応じた大きさでアンカーストラップ18に作用させてある。
【0017】
前記アンカーストラップ18の設置方法を説明する。
鋼管杭1で支持される基礎スラブ2と円筒状壁17とを一体に構築して、アンカー取り付け部19を基礎スラブ2に埋設固定しておき、基礎スラブ2と円筒状壁17とに一体の外槽7を設置するとともに、外底板6の上に設けた底部断熱層12の上に内底板10を載置して内槽11を設置した後、上部屋根材4及び外周壁5と下部屋根材8及び内周壁9との間に断熱層13を設ける前に、内槽11の耐圧試験を行うために、貯留部14に低温液化ガスGの最大貯留重量に略相当する水を張って、この水を張った状態で内槽11が膨らんで内周壁9が内槽径方向外方側に変位している状態でアンカーストラップ18を設置する。
【0018】
つまり、アンカーストラップ18の下端側をアンカー取り付け部19に固定し、図4に示すように、アンカーストラップ18の上端側に設けてある係止部材20と被係止部材21との間にスペーサ22を挟み込んだ状態で、被係止部材21の内周壁9に対する固定位置を位置決めして被係止部材21を溶接で固定した後、スペーサ22を撤去して、図5に示すように、アンカーストラップ18を、被係止部材21に対して、係止方向に間隔23を隔てて下向きに係止可能に組み付ける。
【0019】
そして、耐圧試験の終了後に貯留部14の水を抜くのに伴う内槽11の収縮変形で内周壁9が内槽径方向内方側に変位して、図3に示したように、係止部材20が被係止部材21に係止し、アンカーストラップ18に引っ張り力が作用する。
【0020】
その後、上部屋根材4及び外周壁5と下部屋根材8及び内周壁9との間に断熱層13を設けて、内槽11の温度を低温液化ガスGの貯留温度近くまで冷却するクールダウンを実施すると、そのクールダウンに伴う内槽11の収縮変形で内周壁9が内槽径方向内方側に更に変位して、同時にアンカーストラップ18の熱収縮量と内槽11の熱収縮量の差分も生じることで、アンカーストラップ18に作用している引っ張り力が更に大きくなり、低温液化ガスGを貯留部14に貯留した状態では、低温液化ガスGの液面レベルに応じた大きさの初期引っ張り力がアンカーストラップ18に作用する。
【0021】
〔その他の実施形態〕
本発明による低温液化ガス貯留設備とアンカーストラップの設置方法は、アンカーストラップを、内槽を形成している金属材料よりも線膨張率が大きい金属材料で形成してあれば、アンカーストラップを形成している金属材料と、内槽を形成している金属材料との組み合わせは限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】低温液化ガス貯留設備の概略縦断面図
【図2】要部の一部断面側面図
【図3】(イ)要部の側面図,(ロ)要部の一部断面側面図
【図4】(イ)要部の側面図,(ロ)要部の一部断面側面図
【図5】(イ)要部の側面図,(ロ)要部の一部断面側面図
【符号の説明】
【0023】
2 基盤
4 上部屋根材
5 外周壁
6 外底板
7 外槽
8 下部屋根材
9 内周壁
10 内底板
11 内槽
12 断熱層(底部断熱層)
13 断熱層
14 貯留部
18 アンカーストラップ
21 被係止部材
23 間隔
G 低温液化ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部屋根材と筒状外周壁と外底板とを一体に備えた金属製外槽の内側に、下部屋根材と筒状内周壁と内底板とを一体に備えた金属製内槽を設置するとともに、前記外槽と前記内槽との間に断熱層を設けて、前記内槽の内側を低温液化ガスの貯留部に形成し、
前記外底板をコンクリート製基盤に設置するとともに、前記内底板を前記外底板の上に設けてある底部断熱層に載置し、
前記内周壁の外周側に対して下向きに係止可能な金属製アンカーストラップを前記基盤に固定して、前記内槽の移動を防止してある低温液化ガス貯留設備であって、
前記アンカーストラップを、前記内槽を形成している金属材料よりも線膨張率が大きい金属材料で形成してある低温液化ガス貯留設備。
【請求項2】
請求項1記載の低温液化ガス貯留設備に設けてあるアンカーストラップの設置方法であって、
前記内底板を前記底部断熱層に載置して前記内槽を設置した後、
前記基盤に固定してあるアンカーストラップを、前記貯留部に低温液化ガスの最大貯留重量に略相当する水を張った状態で、前記内周壁の外周側に対して下向きに係止可能に組み付けるアンカーストラップの設置方法。
【請求項3】
前記アンカーストラップを、前記内周壁の外周側に固定してある被係止部材に対して、係止方向に間隔を隔てて、下向きに係止可能に組み付ける請求項2記載のアンカーストラップの設置方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−270864(P2007−270864A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−94277(P2006−94277)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】