説明

低酸素誘導性遺伝子発現の活性化

本発明は、低酸素誘導性因子水酸化酵素の不活化による低酸素誘導性遺伝子発現の活性化における、内因性2−オキソ酸分子およびその誘導体の特有の分子的特徴の解明に関する。本発明は、組織血管新生を誘導し、貧血を治療し、卒中および心臓発作に対する耐性を誘導し、組織治癒を向上させ、臓器移植を向上させるために使用できる物質を同定する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
(政府支援)
NIHがNS37814を付与し、国防総省がMDA905−92−Z−0003を付与している。
【技術分野】
【0002】
本発明は、概して、血流および酸素供給が減少した条件において生存を向上させる、ヒト組織における遺伝子発現の変化に関する。本発明は、具体的には、2−オキソ酸およびその誘導体による低酸素誘導性遺伝子発現の薬理学的活性化に関する。本願は、参照によりその全文を本明細書に援用する、米国仮出願第60/517,918号に関する。
【背景技術】
【0003】
高所適応との関連で最も知られているであろう、低酸素レベルに適応する能力は、生存にとって重要なことである。細胞は、新しい赤血球合成(赤血球新生)および新しい血管の発達(脈管形成)を介して、より良い酸素送達を促進するタンパク質をコードする遺伝子のスイッチを入れることによって低酸素に適応する。その他の低酸素刺激性遺伝子産物は、グルコース取り込みを刺激し、嫌気性グルコース代謝を増強し、いくつかの細胞生存機構を誘導する(表1)。アスリートは、その生理学的能力を向上させるために、長い間このような低酸素適応を十分に利用してきた。さらに、亜致死の低酸素に対する細胞の周到な適応はまた、卒中および心臓発作からの組織損傷を減少させることがわかっている。このような設定における低酸素負荷は、低酸素プレコンディショニングと呼ばれ、多数の動物研究で、虚血性傷害を減少させる最も強力な戦略の1つを構成することがわかっている。虚血性傷害に対する、低酸素プレコンディショニング介在性保護は、in vivoで、心臓、脳、脊髄、網膜、肝臓、肺および骨格筋をはじめ種々の臓器系で起こるとわかっている(Hawaleshkaら(1998)Can. J. Anaesth. 45、670〜82頁)。虚血性または低酸素プレコンディショニングはまた、移植に用いられる提供された組織の生存延長および移植効率において有用である。
【0004】
低酸素が生存促進遺伝子の発現を誘導する機構は急速に明らかになってきつつある。低酸素(酸素レベル5%未満)は遺伝子発現を、主に転写因子HIF−1(低酸素誘導性因子−1)を介して調節する(Semenza(2001)Trends Mol. Med. 7、345〜350頁)。HIF−1α(HIF−la)およびHIF−1β(HIF−lb)と呼ばれる、2種の異なるタンパク質が、この転写因子を構成し、HIF−la成分のレベルは酸素圧によって特異的に調節される。HIF−laレベルの調節はHIF−laタンパク質の分解を直接的に制御する新規酸素感受性機構に関連する(図1)。HIF−laとHIF−lbの双方とも身体のほとんどの細胞で構成的に合成される。しかし、HIF−1aタンパク質は酸素の存在下で連続的に分解される。HIF−1−α−プロリルヒドロキシラーゼとして知られる、新しく発見された酵素ファミリーは、HIF−1aの酸素依存性分解を調節する。これらの酵素は、HIF−1aタンパク質中の重要なプロリン残基の酸素依存性水酸化を触媒する。この修飾が、次には、HIF−1タンパク質のユビキチン化およびプロテアソーム分解を対象とする。もう1つの最近同定されたHIF−1aアスパラギンヒドロキシラーゼ酵素活性も、正常な酸素圧下でのHIF−1の転写活性化能力の阻害に関与していると思われる。HIF−1aアスパラギンヒドロキシラーゼは、他の研究者らからはHIFまたはFIH−1を阻害する因子と呼ばれてきた。HPHおよびFIH−1はすべて、その活性のためにいくつかの補因子:酸素、鉄、アスコルビン酸および2−オキソグルタル酸を必要とする(図2)。したがって、酸素の不在下では、HIF−1は水酸化または分解されず、結果として、その濃度が劇的に増加する(Semenza(2001)Trends Mol. Med. 7、345〜350頁)。これによってHIF−1aおよびβサブユニットが二量化し、核に転位し、低酸素レベル下での生存を促進するいくつかの遺伝子の転写を活性化することが可能となる(図1)。また、HPH酵素機構の発見によって、デスフェリオキサミン(DFO)などの鉄キレート剤が、何故、HIF−1を活性化し、低酸素によって誘導されるものと同様の遺伝子のスイッチを入れることができるのかが説明される。HPH中の鉄部位について恐らく競合するであろうコバルトおよびニッケル塩も、HIF−1および低酸素遺伝子発現の調節において低酸素に似た状態を呈する。DFOとコバルトは双方とも、疾病の動物モデルにおいて低酸素プレコンディショニング介在性細胞保護を実施するために効果的に用いられてきた(Jonesら、(2001)J. Cereb. Blood Flow Metab. 21、1105〜1114頁)。これらの薬剤の毒性によりヒトにおけるその使用は不可能となっているが、低酸素で見られるものと同様の保護的プレコンディショニングを誘導するその能力は、低酸素以外の手段によるHIF−1aレベルの薬理学的処置は強力な治療戦略であるということを実証する。最近、その他の補因子部位での分子間相互作用も、HPH活性、HIF−1aレベル、および低酸素誘導性遺伝子の発現を調節するとわかった。したがって、2−オキソグルタル酸の人工類似体、例えばN−オキサリルグリシン(NOG)または細胞透過性ジメチルオキサリルグリシン(DMOG)は、HPHおよびFIH−1の活性をブロックし、その結果、HIF介在性遺伝子発現の活性化が可能になることがわかった(Warneckeら(2003)FASEB J. 17、1186〜1188頁)。しかし、これらの人工的な2−オキソグルタル酸類似体は、当初コラーゲン合成に関与する酵素であるプロコラーゲンプロリンヒドロキシラーゼを阻害するよう意図されたものであるため、HPHまたはFIH−1の阻害に特異的ではない。
【0005】
HPH、FIH−1およびプロコラーゲンプロリンヒドロキシラーゼはすべて、鉄および2−オキソグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼとして知られる、酵素の大きな部類に属している。これらの酵素は自然界に広く生じ、有益な生物学的水酸化を行っている(Hanauske-Abelら(2003)Curr. Med. Chem. 10、1005〜1019頁)。これらの酵素の反応サイクルを図2に表す。これらの酵素の1つの特性は、それらは同時に触媒能がなくなることである。このことは、鉄介在性酸化を触媒する結果として、これらの酵素が重要なアミノ酸残基で酸化されるか、鉄のレドックス状態が、継続した反応サイクルを実施する間に役に立たないものになる、のいずれかを意味する。同時に触媒能がなくなることは、アスコルビン酸によって防ぐか戻すことができる(図2)。最近、多数の細胞株が顕著なタンパク質レベルのHIF−1aを発現し、低酸素でない状態でHIF介在性遺伝子の発現を示し、これがアスコルビン酸によって戻せることがわかった(Knowlesら(2003)Cancer Res. 63、1764〜1768頁)。このことは、多数の細胞では、HPHおよびFIH−1は、不活性型で存在する場合もあるし、またはアスコルビン酸によって戻せるいくつかの機構によって不活性にされる場合もあるということを示唆する。これまでのところ、この現象の明確な理解はなされておらず、HPHおよびFIH−1不活化機構の可能性を活用する薬学的アプローチは全く開発されていない。
【0006】
特定の薬理作用のある物質、例えば鉄キレート剤、鉄置換金属、または2−オキソグルタル酸アンタゴニスト、例えばNOGもしくはDMOGが、2−オキソグルタル酸依存性酵素の一般的な阻害剤である。このファミリーの酵素はまた、様々な天然2−オキソ酸およびその誘導体に対する感受性が異なっている(Hanauske-Abelら(2003)Curr. Med. Chem. 10、1005〜1019頁、Sze-Fong Ngら(1991)J. Biol. Chem. 266、1526〜1533頁、Kauleら(1998)Matrix Biol. 17、205〜212頁)。したがって、ピルビン酸はヒトではコラーゲン合成酵素を阻害しないが(Cerbon-Ambrizら(1987)Lab Invest. 57、392〜396頁)、特定の水面下に生息する虫ではこのような酵素を阻害する(Kauleら(1998)Matrix Biol. 17、205〜212頁)。コラーゲン合成の阻害のために開発された、2−オキソグルタル酸由来阻害剤は、HPHおよびFIH−1を阻害するが、HPHおよびFIH−1を阻害する2−オキソ酸分子の具体的な化学的必要条件はまだ解明されていない。グルコース代謝により2−オキソ酸、例えばピルビン酸およびオキサロ酢酸が生じるが、これらは2−オキソグルタル酸と構造的に関連がある(図3)。また、アミノ酸代謝によって2−オキソグルタル酸と構造的に類似する分枝鎖2−オキソ酸が生じる。これらの天然2−オキソ酸はHPHおよびFIH−1の生体調節因子である可能性がある。これらの物質およびその誘導体を用いて、低酸素遺伝子発現を調節する新しい薬剤物質を開発することも可能である。
【発明の開示】
【0007】
(発明の概要)
本発明は、低酸素誘導性因子水酸化酵素を不活化することによる低酸素誘導性遺伝子発現を活性化するための、内因性2−オキソ酸分子およびその誘導体の特有の分子の特徴の解明に関する。本発明は、組織の血管新生を誘導し、貧血を治療し、卒中および心臓発作に対する耐性を誘導し、組織治癒を向上させ、放射線傷害に対して保護し、免疫機能を向上させ、臓器移植を向上させるために使用できる物質を同定する。
【0008】
本発明の一実施形態は、細胞においてHIF−1a介在性遺伝子発現を活性化する方法に関し、これは前記細胞に、α−ケトイソ吉草酸、α−ケトイソカプロン酸、α−ケト−β−メチル吉草酸、オキサロ酢酸、ならびにそれらのメチルエステル、それらのエチルエステル、それらのグリセロールエステルおよびブタンジオールジピルベートからなる群から選択される、少なくとも1つの2−オキソ酸を含む組成物を投与することを含む。一実施形態では、前記HIF−1a介在性遺伝子発現は、血管内皮増殖因子(VEGF)、グルコース輸送体アイソフォーム3(Glut−3)、アルドラーゼA(aldoA)およびエリスロポエチンをコードする遺伝子からなる群から選択される、少なくとも1つの遺伝子の発現の活性化を含む。もう1つの実施形態では、前記2−オキソ酸は前記細胞においてHIF−1aの水酸化を阻害する。さらなる実施形態では、前記水酸化はプロリルヒドロキシラーゼまたはアスパラギンヒドロキシラーゼによって介在される。
【0009】
本発明のもう1つの実施形態は、低酸素適応を必要とする哺乳類においてそのような適応を誘発する方法に関し、これは前記哺乳類に、ピルビン酸、オキサロ酢酸、α−ケトイソ吉草酸、α−ケトイソカプロン酸、α−ケト−β−メチル吉草酸、ならびにそれらのメチルエステル、それらのエチルエステルおよびそれらのグリセロールエステルからなる群から選択される、少なくとも1つの2−オキソ酸を含む組成物を投与することを含む。本発明のもう1つの実施形態では、心臓発作、卒中または妊娠子癇を起こす恐れがあるヒトにおいて前記低酸素適応を誘発する。さらなる実施形態では、喘息、糖尿病、癲癇、貧血または心不整脈に罹患しているヒトにおいて前記低酸素適応を誘発する。もう1つの実施形態では、高高度または煙吸入に曝露されていたヒトにおいて前記低酸素適応を誘発する。
【0010】
本発明のさらなる一実施形態は、哺乳類において組織の新血管新生を促進する方法に関し、これは前記患者に、ピルビン酸、オキサロ酢酸、α−ケトイソ吉草酸、α−ケトイソカプロン酸、α−ケト−β−メチル吉草酸、オキサロ酢酸、ならびにそれらのメチルエステル、それらのエチルエステルおよびそれらのグリセロールエステルからなる群から選択される、少なくとも1つの2−オキソ酸を含む組成物を投与することを含む。本発明の一実施形態では、アテローム性動脈硬化症、脈管炎、静脈炎および血栓症からなる群から選択される末梢血管疾患を有するヒトにおいて前記の組織の血管新生を促進する。本発明のもう1つの実施形態では、創傷治癒または熱傷治癒を必要とするヒトにおいて前記の組織の血管新生を促進する。
【0011】
本発明のもう1つの実施形態は、胎児において適切な酸素ホメオスタシスの発達を促進する方法に関し、これは妊娠しているヒトに、ピルビン酸、オキサロ酢酸、α−ケトイソ吉草酸、α−ケトイソカプロン酸、α−ケト−β−メチル吉草酸、オキサロ酢酸、ならびにそれらのメチルエステル、それらのエチルエステルおよびそのグリセロールエステからなる群から選択される、少なくとも1つの2−オキソ酸を含む組成物を投与することを含む。本発明の一実施形態では、早産の恐れがある前記の妊娠しているヒトにおいて、胎児の適切な酸素ホメオスタシスの発達を促進する。
【0012】
本発明のさらなる実施形態は、哺乳類を放射線傷害から保護する方法に関し、これは前記哺乳類に、ピルビン酸、オキサロ酢酸、α−ケトイソ吉草酸、α−ケトイソカプロン酸、α−ケト−β−メチル吉草酸、ならびにそれらのメチルエステル、それらのエチルエステル、およびそれらのグリセロールエステルからなる群から選択される、少なくとも1つの2−オキソ酸を含む組成物を投与することを含む。本発明の一実施形態では、前記組成物を、放射線への曝露の前、放射線への曝露の際、または放射線への曝露の後に予防的に投与する。
【0013】
前記の本発明のすべての実施形態において、前記組成物は経口投与、粘膜投与、経眼投与、皮下注射、経皮投与およびそれらの組合せからなる群から選択される、少なくとも1つの方法によって投与する。一般に、前記組成物の投与は、約1時間〜約48時間の範囲の時間間隔で反復する。
(詳細な説明)
【0014】
本発明は、特定の内因性2−オキソ酸が正常酸素圧(20〜21%酸素)条件下のHIF−1レベルの調節に関与しているという発見に由来するものである。具体的には、内因性2−オキソ酸、ピルビン酸およびオキサロ酢酸が、HIF水酸化酵素中の2−オキソグルタル酸結合部位について競合し、その結果その不活化をもたらす。これによって、酸素の存在下でさえ、長期間持続するHIF−1a蓄積およびHIF−1a介在性遺伝子発現の活性化がもたらされる。
【0015】
定義
別段の定義のない限り、本明細書に用いたすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって通常理解されるものと同一の意味を有する。本明細書に記載されたものと同様または同等の方法および材料はいずれも、本発明の実施または試験に使用できるが、好ましい方法および材料が記載されている。
【0016】
本明細書において、用語「結合」とは、分子相互の、例えば、それだけには限らないが、酵素と基質、タンパク質とタンパク質、転写因子タンパク質とDNAおよびDNAまたはRNA鎖とその相補鎖の付着を指す。分子表面の一部の形および化学的性質が相補的であるために結合が生じる。よく使われる比喩として、酵素がどのようにその基質と相互作用するかを説明するために用いられる「鍵と鍵穴」がある。
【0017】
本明細書において、用語「転写因子」とは、DNAの特定の調節領域に結合し、遺伝子発現を刺激するいずれかのタンパク質またはタンパク質複合体を指す。例としては、それだけには限らないが、HIF−1aタンパク質が挙げられる。
【0018】
本明細書において、用語「遺伝子発現」とは、最終的に、mRNAによってコードされるタンパク質の増加およびタンパク質機能の増強をもたらす、DNAからのメッセンジャーRNA(mRNA)の産生の増強を指す。
【0019】
本明細書において、用語「HIF−1」または「HIF−1タンパク質」とは、先に記載されたように(Wangら(1995)J. Biol. Chem. 270、1230〜1237頁、米国特許第6,562,799号および同6,222,018号)HIF−1α(HIF−1a)およびHIF−1β(HIF−lb)と呼ばれる2種の異なるタンパク質を含む転写因子を指し、すべての既知のアイソフォーム、例えば哺乳類のもの、特に、ヒトHIF−1を含む。
【0020】
本明細書において、用語「低酸素」とは5パーセント(%)より低い酸素圧を指す。正常空気は20〜21パーセントの酸素、当技術分野で「正常酸素圧」と呼ばれる状態からなる。
【0021】
本明細書において、用語「治療薬」とは、HIF−1a水酸化酵素への結合に必要である、2−オキソ酸、例えばピルビン酸およびオキサロ酢酸のコア化学構造を組込むいずれかの組成物を指す。例としては、それだけには限らないが、ピルビン酸およびオキサロ酢酸のメチルエステル、エチルエステルおよびグリセロールエステル、α−ケトイソ吉草酸、α−ケトイソカプロン酸、α−ケト−β−メチル吉草酸、オキサロ酢酸、ならびにそれらのメチルエステル、それらのエチルエステルおよびそれらのグリセロールエステルが挙げられる。その他の例としては、その分解を抑えることによって、ピルビン酸およびオキサロ酢酸組織レベルを上昇させる物質が挙げられる。
【0022】
使用方法
心臓発作または卒中を起こしやすいものまたは心臓発作後および卒中後の罹病者における低酸素適応の誘導。これら2つの状態は、我々の社会の死亡および身体障害の主要原因に含まれている。今日、心臓発作および卒中を防ぐために利用できる少数の医薬としては、抗高血圧薬、アスピリンおよびその他の抗血小板物質およびコレステロール低下薬が挙げられる。動物実験では、低酸素または虚血プレコンディショニングは、心臓発作および卒中に対して、これらの他のアプローチのすべてよりもはるかに予防的な保護を提供する。さらに、低酸素によって活性化された遺伝子の薬理学的誘導は、それに対して競合品のない、虚血性傷害に対する保護を提供するための新規アプローチおよび別個の機構に相当するため、このようなアプローチは、すべての既存のアプローチを補完する。本発明者らのアプローチはまた、このような傷害からの回復を向上させるためにも必要である。したがって、本発明は、心臓発作もしくは卒中を起こしやすいものまたは心臓発作後および卒中後の罹病者における低酸素適応の誘導方法を包含し、これは本明細書に記載された1つ以上の治療薬を単独または組合せて投与することを含む。
【0023】
予測可能な卒中の状況における危険を減少させるための予防的治療:心臓バイパス術、脛動脈の動脈内膜切除術、深海ダイビング。卒中再発または心臓発作に対する保護における、2−オキソ酸およびその誘導体の予防的使用に加え、本発明はまた、卒中を起こす相当な危険がある状況において、予防的神経保護の誘導のために利用できる。このように、今日、最もよくある外科手術のうちの2つである、心臓バイパス術または脛動脈の動脈内膜切除術を受けたものは、虚血性脳傷害の相当な発生に見舞われる。したがって、本発明は、これらの患者に、低酸素によって調節される遺伝子を誘導する、2−オキソ酸およびその誘導体を前投与する方法を包含し、有意な保護を提供する。
【0024】
糖尿病におけるグルコース代謝の改善。糖尿病もまた、我々の社会が直面する主要な医学的問題の1つであり続けている。2型糖尿病は発生率が増加し続けている。高血糖はまた、多数のその他の疾病の危険因子でもある。これまでにHIF−1aによって調節されるとわかった十数個程の遺伝子が、グルコース代謝の増強に関与している。これにはグルコースの取り込みだけでなく、重要な調節酵素によるその代謝も含まれる。現在、糖尿病患者においてグルコース代謝を向上させる有効な臨床上の戦略はなく、治療は、インスリン分泌を増強するか、インスリン受容体感受性を高める、のいずれかの物質の使用に限定されている。したがって、本発明は、糖尿病患者においてグルコース輸送体および糖分解酵素の発現をアップレギュレートするための、2−オキソ酸およびその誘導体の使用を包含する。このようなアプローチもまた、すべての既存のアプローチを補完し、したがって、既存の糖尿病治療と併用できる。
【0025】
何らかの形の血管疾患における虚血組織の新血管新生。卒中および心臓発作からの回復には、組織の新血管新生が必要である場合がある。これは、多数の末梢血管疾患、例えばアテローム性動脈硬化症、脈管炎、静脈炎または血栓症の症例であり得る。現在、組織を薬理学的に再血管新生させる慣例のアプローチはない。血管内皮増殖因子(VEGF)または繊維芽細胞成長因子2(FGF2)の組織レベルを高めることを目標とする遺伝子治療アプローチは、主要な競合技術であるが、これらはまだ効果的に実現されてはいない。実際、増強された解糖代謝、詳しくは、乳酸およびピルビン酸の、脈管形成因子の生成を誘導する能力および脈管形成を増強する能力は、15年以上にわたって知られている(Jensenら(1986)Lab Invest. 54、574〜578頁)。2−オキソ酸の、突出した新血管新生を起こすこの強力な作用は、動物モデルにおいて最近わかった(Leeら(2001)Cancer Res. 61、3290〜3293頁)。こういった長期にわたる観察結果にもかかわらず、この現象の基礎をなす機構を、VEGFの発現ならびにVEGF受容体がHIF−1によって調節されると解明したのは本発明者らが最初であった(表1、図18C)。
【0026】
創傷治癒および熱傷治癒の向上。組織の新血管新生および組織増殖は、創傷および熱傷の治癒には不可欠である。2−オキソ酸の局所塗布により、HIF−1aを活性化することによって、脈管形成を促進し、結合組織エレメントおよび上皮細胞の増殖を増強する遺伝子の発現を誘導できた。実際、低酸素によって調節される遺伝子発現は、胎児では突出した創傷再生および成体では創傷修復を果たす(Albinaら(2001)Am. J. Physiol. Cell Physiol.281、C1971〜1977頁、Scheidら(2000)Pediatr. Surg. Int. 16、232〜236頁)。HIF−1aの活性化は、これらの遺伝子のスイッチを入れる際の重要な事象に相当する。したがって、本発明は、HIF−1a活性化を介して創傷および熱傷治癒を促進するために、絆創膏に混入した、および局所塗布された、2−オキソ酸、例えばピルビン酸、オキサロ酢酸、またはその誘導体の使用を包含する。
【0027】
貧血の治療。HIF−1aは、最初、エリスロポエチン遺伝子の発現を調節する転写因子として発見された。エリスロポエチン(EPO)は、低酸素に応じて腎臓および肝臓組織によって産生されるとわかっている。EPOは、骨髄中の赤血球前駆体上のEPO受容体(EPOR)に作用し、赤血球細胞の増殖をもたらす。EPOは、臨床貧血を改善することにおいてこのように有効であり、今では臨床設定で見られる種々の貧血の治療で慣例的に用いられている。HIF−1aはまた、内因性EPO産生の誘導に加え、赤血球前駆体が、酸素を運搬できる成熟赤血球に変わるのを可能にする、トランスフェリンおよびトランスフェリン受容体遺伝子の発現も誘導する。したがって、本発明は、2−オキソ酸、ピルビン酸およびオキサロ酢酸ならびにその誘導体などの治療薬を投与し、HIF−1a活性化を介して貧血を改善する方法を包含する(図18Dおよび20E参照)。2−オキソ酸であるピルビン酸またはオキサロ酢酸の経口摂取は、ヒトには無害であるので、このアプローチはヒトに容易に使用できる。さらに、これらの薬剤の有効性は、投与後に血液ヘマトクリットレベルを測定することによって調べることができる。
【0028】
高所適応。高高度の空気には、低い高度と同一の酸素のパーセント組成が含まれている。しかし、気圧が低いために、高高度の空気には全体的に少ないガス分子、したがって低い酸素レベルしか含まれていない。頭痛、過換気、倦怠感および死亡などの高所病の症状は、組織への不十分な酸素送達によるものである。したがって、高高度での不十分な酸素には、哺乳類が生存するためにその生理機能を適応させることが必要となる。哺乳類の高所適応は、換気の急激な増加ならびにHIF−1a介在性遺伝子発現の持続的な増加によって主に支配されている(Semenza(2001)Trends Mol. Med. 7、345〜350頁)。このような遺伝子は、同時に身体の細胞の酸素依存性グルコース代謝を改善しながら、血液酸素運搬能および組織酸素送達を向上させることによって、高高度での哺乳類の生理機能を亢進する。低酸素へのヒトの適応を効果的に増強する現在利用できる主要なアプローチは、高度を上げることであり、これによってHIF−1a介在性遺伝子発現を確実することが可能となる。本発明は、高所適応を改善し、促進するための、本明細書で規定される治療薬(すなわち、ピルビン酸またはオキサロ酢酸およびその誘導)の予防的使用を包含するという点で、このアプローチの代替法を提供する。この適用は、高高度を訪れる旅行者または軍人または低い酸素レベルの地域に急速に上がる必要があり得る人物の間でかなり有用である。
【0029】
煙吸入の予防。消防士は高高度に日常的に入るわけではないが、彼らは、煙吸入および一酸化炭素毒性による予期しない低酸素の急性発作の危険にさらされている。ピルビン酸またはオキサロ酢酸またはその誘導体での予防により、このような個人が低酸素障害を受ける機会を著しく低下させることができ、したがって、これも本発明に包含される。また、このアプローチを用いて、慢性喫煙に伴われる症状(例えば、肺気腫および関連疾患)を示している患者を治療することもできる。
【0030】
喘息、痙攣および心不整脈の予防。心臓発作または卒中における低酸素適応の誘導と同様に、喘息、癲癇または心不整脈の患者は、組織低酸素の急性発作の危険にさらされている。こういった状態は、重大な低酸素障害または酸素欠乏障害をもたらす可能性がある。したがって、本発明は、このような個体が低酸素障害を受ける機会を減少させるための、ピルビン酸またはオキサロ酢酸またはその誘導体での予防を包含する。
【0031】
運動能力改善。極めて過酷な有酸素スポーツで競技するアスリートほどHIF−1a介在性遺伝子発現を十分に利用してきた集団はない。実際、どの国のオリンピックトレーニングセンターも、低酸素によって誘導される生理機能の向上を利用するために高高度に位置している。先に記載した、低酸素によって誘導される生理学的変化によって酸素のより有効な利用が可能となり、また運動している身体が無酸素燃料をより効率的に利用することが可能となる。この結果、過酷な有酸素運動または競技の間の持久力が高まる。ピルビン酸は代謝燃料をより多く提供し、能力を増強できるという考えで、長い間これが有酸素運動の際にアスリートによって用いられてきた。しかし、本発明者らの発見によって提示される、これまで知られていなかった見識(図8参照)は、この戦略には欠点があるということを示唆する。高度に有酸素的な運動は、供給が変わらないにもかかわらず酸素に対する要求が増大することによる急性の組織低酸素をもたらす。実際、ピルビン酸および乳酸は、酸素を必要とする反応によるその不十分な代謝のために運動の間に相当蓄積する。したがって、高度に過酷な運動の急性発作の間に多くのピルビン酸が蓄積する。しかし、このような個体では、ピルビン酸ではなく酸素が再び補給されることが必要である。あるいは、慢性の低酸素によって誘導される、細胞代謝の変化および組織機能の改善は、実際に酸素の組織要求を低下させる。さらに、低酸素によって誘発される、血液の酸素運搬能の改善および組織の毛細血管密度の改善が、運動能力の改善の重要な因子であり得る。これらの生理学的変化は、それ自体を発現するのに、およびHIF−1aによって調節される遺伝子発現を介して開始されるのに何日もまたは何週間もかかる(Semenza(2001)Trends Mol. Med. 7、345〜350頁)。したがって、運動能力を改善するためのピルビン酸および、またはオキサロ酢酸の効果的利用は、燃料源としてのその明白な役割ではなく、HIF−1a活性化因子としてのその明白でない役割という本発明者らの発見に焦点を当てなくてはならない。したがって、本発明は、アスリートによる、HIF−1a介在性遺伝子発現の長期の変化を最大にするための、トレーニングの間のおよび競技の前の、ピルビン酸、オキサロ酢酸、またはその誘導体の慢性的な経口摂取の調節を包含する。その運動能力を改善したいと思うアスリートによるEPOの秘密使用の増加は、運動能力を改善するための、より安全な2−オキソ酸誘導体の使用に対して大きな需要がある可能性を示唆する。
【0032】
未熟で出生した幼児の生存の向上。早産は、その後成人してから多数の疾病と高度に関連がある。生きるためには適切な酸素ホメオスタシスの発達が不可欠であり、これが起こるにはHIF−1aの活性化が不可欠である(Hawaleshkaら(1998)Can. J. Anaesth. 45、670〜82頁)。実際、HIF−1aノックアウトマウスは子宮内で死亡する。したがって、本発明は、早産の危険性が高い妊婦へ、胎児組織においてHIF−1aを誘導し、適切な酸素ホメオスタシスの発達を促進し得る、ピルビン酸、オキサロ酢酸またはその誘導体を投与することを包含する。このアプローチはまた、妊娠子癇からくる卒中様エピソードの予防においても有益である。
【0033】
移植前のドナー臓器の保存。本発明は、採取前の組織ドナーの臓器においてHIF−1aを誘導するための、ピルビン酸、オキサロ酢酸またはその誘導体の使用ならびに適切に灌流されない時間の間の臓器の低酸素生存を向上させるための、提供される臓器の保存液へのこれらの物質の添加を包含する。
【0034】
免疫機能の改善。最近、HIF−1a遺伝子のノックアウトで免疫活性が劇的に低下することが分かった(Cramerら(2003)Cell Cycle 2、192〜193頁)。したがって、本発明は、それだけには限らないが、AIDSおよび電離放射線に対する曝露をはじめとする種々の免疫不全病からの転帰を改善するために、免疫不全個体にピルビン酸およびオキサロ酢酸を投与することを包含する。
【0035】
放射線照射後のHIF−1a活性化の阻害は、血管破壊の増強の結果として腫瘍の放射線感受性を有意に高める。したがって、本発明は、被験体の放射線傷害に対する予防的保護または治療的治療のための組成物の投与に関する。本発明の一実施形態では、被験体に、in vivoでHIF−1a活性化を増強する化合物からなる治療用組成物を投与する。脈管形成調節因子の分泌増強の結果として、血管放射線が、それだけには限らないが、血管内皮増殖因子(VEGF)をはじめとするサイトカインの分泌のために、減少する。このような化合物は本明細書に記載した2−オキソ酸の種類であることが好ましい。
【0036】
投与経路は、製剤の投与のために一般に是認されている慣行であればいずれであってもよく、これとしては、それだけには限らないが、粘膜投与、経口消費、経眼投与、皮下注射、経皮投与などが挙げられる。通常、経口投与が好ましい。
【0037】
組成物の粘膜投与としては、口腔内、気管内、鼻腔内、咽頭、直腸、舌下、膣内などといった経路が挙げられる。口腔内/気管内/咽頭/舌下粘膜を介する投与用に、組成物をエマルション、ガム、トローチ剤、スプレー、錠剤またはシクロデキストリン包接複合体などの包接複合体として製剤できる。鼻腔内投与は、吸入用粉末または鼻腔用スプレーの使用によって実施することが好都合である。直腸および膣内投与には、組成物をクリーム剤、潅注液、浣腸剤または坐剤として製剤してもよい。
【0038】
組成物の経口消費は組成物を食品または飲料に混入すること、または組成物をチュアブルのもしくは飲み込める錠剤もしくはカプセル剤に製剤することによって達成できる。経眼投与は、組成物を眼への適用に適応した溶液または懸濁液、例えば液滴またはスプレーに混入することによって達成できる。皮下投与は、組成物を医薬学的に許容される注射可能な担体に混入することを含む。経皮投与には、組成物を親油性担体に混入し、外用クリームまたは接着性パッチとして製剤できることが好都合である。自己溶解性である縫合糸に見られるものなどの、ポリラクチドファイバーは、乳酸を生じ、これはまた、その後組織によって代謝され、ピルビン酸を形成し得る。この縫合糸またはその他の縫合糸製造を、2−オキソ酸の長期の局所送達のために使用できる。
【0039】
放射線傷害に対する所望の保護を達成するのに有効な投与量および用量率の範囲は、標準的な業界の慣行にしたがって決定できる。好ましい用量および用量率とは、1日1回投与される(すなわち、毎朝)、1日2回投与される(すなわち、毎朝および毎夕)または1日3回投与される(すなわち、毎食と共に)、1日あたり約10〜3,000mgの2−オキソ酸を提供するのに十分な組成物である。
【0040】
HIF−1結合パートナーを同定する方法
本発明のもう1つの実施形態は、HIF−1aまたはHIF−1bの結合パートナーの単離および同定に用いる方法を提供する。一般に、HIF−1aまたはHIF−1bタンパク質を、可能性ある結合パートナーとHIF−1aタンパク質との結合を可能にする条件下で、可能性ある結合パートナーまたは細胞の抽出物もしくは画分と混合する。混合後、本発明のタンパク質と結合した、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質またはその他の分子(例えば、システインまたはヒスチジン)を混合物から分離する。次いで、本発明のタンパク質に結合している結合パートナーを回収し、さらに分析することができる。結合パートナーを同定および単離するには、HIF−1a全タンパク質を用いてもよい。あるいは、タンパク質の断片を用いてもよい。
【0041】
本明細書において、細胞抽出物とは、溶解したか、破壊した細胞から作製した調製物または画分を指す。細胞抽出物の好ましい供給源としては、アレルギー性過敏症を患う患者の、ヒト皮膚組織もしくはヒト気道に由来する細胞またはヒト肺組織の生体サンプルに由来する細胞がある。あるいは、細胞抽出物は、正常組織または入手可能な細胞株、特に、神経膠腫細胞株をはじめとする癌細胞株から調製してもよい。
【0042】
種々の方法を用いて細胞の抽出物を得ることができる。細胞を、物理的または化学的破壊方法のいずれかを用いて破壊してもよい。物理的破壊方法の例としては、それだけには限らないが、超音波処理および機械的剪断が挙げられる。化学的溶解方法の例としては、それだけには限らないが、界面活性剤溶解および酵素溶解が挙げられる。当業者ならば、細胞抽出物を調製する方法を、本方法に用いる抽出物を得るために容易に適応させることができる。
【0043】
細胞の抽出物を調製すると、抽出物を、HIF−1aタンパク質と結合パートナーとの結合が起こり得る条件下で、本発明のタンパク質と混合する。種々の条件を使用できるが、ヒト細胞の細胞質中に見られる条件とよく似ている条件が最も好ましい。浸透圧、pH、温度および用いる細胞抽出物の濃度などの特徴は、タンパク質と結合パートナーとの結合を最適化するよう変更できる。
【0044】
適切な条件下で混合した後、結合している複合体を混合物から分離する。混合物を分離するには種々の技術を利用できる。例えば、本発明のタンパク質に特異的な抗体を用いて、結合パートナー複合体を免疫沈降させることができる。あるいは、標準的な化学的分離技術、例えばクロマトグラフィーおよび密度/沈降遠心分離を使用できる。
【0045】
抽出物中に存在する結合していない細胞構成要素を除去した後、従来法を用いて結合パートナーを複合体から分離することができる。分離は、例えば、混合物の塩濃度またはpHを変更することによって達成できる。結合している結合パートナー対を混合抽出物から分離するのを補助するために、本発明のタンパク質を固体支持体上に固定化してもよい。例えば、タンパク質をニトロセルロースマトリックスまたはアクリルビーズに付着させることができる。タンパク質の固体支持体への付着により、ペプチド/結合パートナー対の、抽出物中に見られるその他の構成要素からの分離が補助される。同定される結合パートナーは、単一のタンパク質か、2種以上のタンパク質から構成される複合体のいずれかであり得る。あるいは、結合パートナーは、Takayamaら、(1997)Methods Mol. Biol. 69、171〜184頁またはSauderら(1996)J. Gen. Virol. 77、991〜996頁の手順にしたがってファーウェスタンアッセイを用いて同定でき、あるいは、エピトープタグをつけたタンパク質またはGST融合タンパク質の使用によって同定できる。
【0046】
あるいは、酵母ツーハイブリッドシステムにおいてHIF−1をコードする核酸分子を用いてもよい。酵母ツーハイブリッドシステムはその他のタンパク質パートナー対を同定するために用いられており、本明細書に記載した核酸分子を用いるよう容易に適応させることができる。
【0047】
HIF−1発現を調節する物質の同定方法
本発明の一実施形態では、HIF−1aまたはHIF−1bタンパク質をコードする核酸の発現を調節する物質を同定する方法を提供する。このようなアッセイは、本発明の核酸の発現レベルの変化をモニターする入手可能な手段はいずれも利用できる。本明細書において、物質は、細胞において核酸の発現をアップまたはダウンレギュレートできる場合に、本発明の核酸の発現を調節するとされる。HIF−1aタンパク質の発現をアップレギュレートする物質の例としては、それだけには限らないが、2−オキソ酸、例えばピルビン酸、オキサロ酢酸およびその誘導体が挙げられる。
【0048】
1つのアッセイ形式では、HIF−1a遺伝子のオープンリーディングフレーム、または5’および/もしくは3’調節エレメントといずれかのアッセイ可能な融合パートナーの間にレポーター遺伝子融合物を含む細胞株を調製できる。ホタルルシフェラーゼ遺伝子およびクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子をはじめ、多数のアッセイ可能な融合パートナーが知られており、容易に入手できる(Alamら(1990)Anal. Biochem. 188、245〜254頁)。次いで、リポーター遺伝子融合物を含む細胞株を、適切な条件および時間のもと、調べようとする物質に曝露する。物質に対して曝露されたサンプルと対照サンプルの間のレポーター遺伝子の発現の差により、HIF−1aタンパク質をコードする核酸の発現を調節する物質を同定する。
【0049】
物質の、HIF−1aタンパク質をコードする核酸の発現を調節する能力をモニターするために、さらなるアッセイ形式を使用できる。例えば、mRNA発現を、本発明の核酸とのハイブリダイゼーションによって直接モニターできる。細胞株を、適切な条件および時間のもと、調べようとする物質に対して曝露し、Sambrookら(2001)Molecular Clonig-A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press)に開示されるものなどの標準的な手順によって全RNAまたはmRNAを単離する。
【0050】
物質に曝露された細胞と対照細胞との間の、mRNA発現レベルの差を検出するためのプローブは、HIF−1aタンパク質をコードする核酸から調製できる。必要ではないが、ハイストリンジェンシー条件下で、標的核酸とのみ特異的にハイブリダイズするプローブを設計することが好ましい。ハイストリンジェンシー条件下では、高度に相補的な核酸のみがハイブリッドを形成する。したがって、アッセイ条件のストリンジェンシーにより、ハイブリッドを形成するために、2種の核酸鎖間に存在するはずである相補性の量が定まる。ストリンジェンシーは、プローブ:標的ハイブリッドとプローブ:非標的ハイブリッド間の安定性の差を最大とするよう選択しなければならない。
【0051】
プローブは、当技術分野で公知の方法によって、HIF−1aタンパク質をコードする核酸から設計できる。例えば、プローブのG+C含量およびプローブの長さが、プローブのその標的配列との結合に影響を及ぼし得る。プローブの特異性を最適化する方法は、Sambrookら(2001)Molecular Cloning-A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor LaboratoryPressまたはAusubelら(1995)Current Protocols inMolecular Biology, Greene Publishingにおいて一般に入手可能である。
【0052】
ハイブリダイゼーション条件は、公知の方法、例えばSambrookらおよびAusubelらによって記載されたものを用いて、各プローブに必要なように改変する。全細胞RNAまたはポリA RNAについて濃縮されたRNAのハイブリダイゼーションは、いずれかの入手可能な形式で達成できる。例えば、全細胞RNAまたはポリA RNAについて濃縮されたRNAを固体支持体に取り付け、この固体支持体を、プローブが特異的にハイブリダイズする条件下で、少なくとも1つの本発明の配列、または1つの本発明の配列の一部を含む、少なくとも1つのプローブに対して曝露する。あるいは、少なくとも1つの本発明の配列、または1つの本発明の配列の一部を含む、核酸断片を固体支持体、例えばシリコンチップまたは多孔質ガラスウエハーに取り付けてもよい。次いで、このガラスウエハーを、取り付けられた配列が特異的にハイブリダイズする条件下、サンプルから得た全細胞RNAまたはポリA RNAに対して曝露すればよい。このような固体支持体およびハイブリダイゼーション法は、広く入手可能である、例えば国際公開第95/11755号パンフレットに開示されたもの。所与のプローブの、未処理の細胞集団から得た、および物質に対して曝露された細胞集団から得たRNAサンプルと特異的にハイブリダイズする能力について調べることによって、HIF−1aタンパク質をコードする核酸の発現をアップまたはダウンレギュレートする物質を同定する。
【0053】
mRNAの質的および量的分析のためのハイブリダイゼーションもRNアーゼ保護アッセイを用いることによって実施できる(すなわち、RPA、Maら(1996)Methods 10、273〜238頁参照)。要するに、遺伝子産物をコードするcDNAとファージ特異的DNA依存性RNAポリメラーゼプロモーター(例えば、T7、T3またはSP6 RNAポリメラーゼ)とを含む発現媒体を、cDNA分子の3’末端、ファージプロモーターの下流で直線化し、続いて、このような直線化した分子を、in vitro転写によるcDNAの標識アンチセンス転写物の合成のための鋳型として用いる。次いで、80%ホルムアミド、40mM Pipes(pH6.4)、0.4M NaClおよび1mM EDTAを含むバッファー中で、45℃で一晩インキュベートすることによって、標識転写物を単離したRNAの混合物(すなわち、全または分画mRNA)とハイブリダイズする。次いで、得られたハイブリッドを、40μg/mlリボヌクレアーゼAと2μg/mlリボヌクレアーゼHとを含むバッファー中で消化する。外来タンパク質を非活性化および抽出した後、サンプルを分析のために尿素/ポリアクリルアミドゲル上にロードする。
【0054】
もう1つのアッセイ形式では、まず、HIF−1a遺伝子産物を発現する細胞または細胞株を生理学的に同定する。このように同定した細胞および/または細胞株は、物質の、適当な表面形質導入機構および/またはサイトゾルのカスケードとの外因性接触に関して転写装置の調節の忠実度が維持されるように、必要な細胞機構を含むと予想される。さらに、このような細胞または細胞株を、本遺伝子産物に特有である1つ以上の抗原断片と融合している、本遺伝子産物をコードする構造遺伝子の末端を含む、機能し得る非翻訳5’プロモーターを含む発現媒体(例えば、プラスミドまたはウイルスベクター)構築物を用いて形質導入するかトランスフェクトし、ここで前記断片は前記プロモーターの転写制御下にあり、分子量が天然ポリペプチドとは区別できるポリペプチドとして発現されるか、免疫学的に識別できるタグもしくはその他の検出可能マーカーをさらに含むこともできる。このようなプロセスは当技術分野では周知である(Sambrookら(2001)Molecular Cloning-A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor LaboratoryPress参照)。
【0055】
次いで、前記で概説したように形質導入またはトランスフェクトされた細胞または細胞株を、適当な条件下で物質(例えば、2−オキソ酸またはその誘導体)と接触させる。例えば、医薬学的に許容される賦形剤中の物質を、水性生理学的バッファー、例えば生理学的pHのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、生理学的pHのイーグル平衡塩類溶液(BSS)、血清を含むPBSもしくはBSSまたは37℃でインキュベートされたPBSもしくはBSSおよび/もしくは血清を含む条件培地中で、細胞と接触させる。前記条件は、当業者によって必要であると考えられるように調節できる。細胞を物質と接触させた後、前記細胞を破壊し、溶解物のポリペプチドを、ポリペプチド画分がプールされ、免疫学的アッセイ(例えば、ELISA、免疫沈降またはウエスタンブロット)によってさらに処理されるよう抗体と接触するよう分画する。「物質を接触させた」サンプルから単離されたタンパク質のプールを、賦形剤のみか対照物質(シスチン、システインまたはヒスチジン)を細胞と接触させる対照サンプルと比較し、物質を接触させたサンプルから得た免疫学的に生じたシグナルの、対照と比較した増加または減少を用いて物質の有効性を見分ける。
【0056】
HIF−1活性を調節する物質の同定方法
本発明は、HIF−1aタンパク質の少なくとも1つの活性を調節する物質を同定する方法を提供する。このような方法またはアッセイでは、所望の活性をモニターまたは検出する手段はいずれも利用できる。
【0057】
1つの形式では、調べようとする物質に曝露されていない対照細胞集団に比べて、曝露された細胞集団の間で標準単位に標準化された、HIF−1aタンパク質の特定の活性をアッセイできる。細胞株または細胞集団を、適当な条件および時間のもと、調べようとする物質に曝露する。細胞溶解物は曝露された細胞株または細胞集団および対照の曝露されていない細胞株または細胞集団から調製できる。次いで、細胞溶解物をプローブを用いて分析する。
【0058】
抗体プローブは、適した哺乳類宿主を適当な免疫化プロトコールを用い、本発明のタンパク質またはその抗原含有断片を用いて免疫することによって調製できる。免疫原性を増強するために、これらのタンパク質または断片を、適した担体とコンジュゲートさせることもできる。BSA、KLHまたはその他の担体タンパク質などの担体を含む免疫原性コンジュゲートを調製する方法は当技術分野では周知である。状況次第で、例えば、カルボジイミド試薬を用いる直接コンジュゲーションが有効である場合もあるし、他の場合では、ハプテンへの到達しやすさを提供するには、結合試薬、例えばPierce Chemical Co.によって供給されるものが望ましい場合もある。ハプテンペプチドは、例えば、担体への結合を容易にするために、システイン残基でアミノ末端またはカルボキシ末端のいずれでも延長でき、またはシステイン残基を散在させることもできる。免疫原の投与は、当技術分野で一般的に理解されているように、概ね、適したアジュバントを使用し、適した期間にわたる注射によって実施する。免疫化スケジュールの間、抗体形成の妥当性を決定するために抗体の力価をとる。
【0059】
このようにして産生されたポリクローナル抗血清はいくつかの適用には十分であり得るが、薬剤組成物にはモノクローナル調製物の使用が好ましい。標準的な方法(例えば、Kohler & Milstein(1992)Biotechnology 24、524〜526頁参照)または一般的に知られているように、リンパ球もしくは脾臓細胞の不死化を達成する修飾を用いて、所望のモノクローナル抗体を分泌する不死化細胞株を調製できる。所望の抗体を分泌する不死化細胞株は、抗原がペプチドハプテン、ポリペプチドまたはタンパク質である免疫アッセイによってスクリーニングできる。所望の抗体を分泌する適当な不死化細胞培養物が同定されれば、細胞をin vitroで、または腹水における産生によって培養できる。
【0060】
所望のモノクローナル抗体は、培養上清から、または腹水上清から回収できる。免疫学的に重要な部分を含む、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗血清の断片、ならびに無傷の抗体をアンタゴニストとして使用できる。特に、治療の関係では、免疫学的反応性断片、例えばFabまたはFab’断片の使用が好ましいことが多いが、これは、一般的に、これらの断片が全免疫グロブリンよりも免疫原性が低いためである。
【0061】
抗体または断片はまた、現在の技術を用いて、遺伝子組換え手段によって作製できる。タンパク質の所望の領域と特異的に結合する抗体領域も、多重種起源のキメラとの関連で作製できる。
【0062】
タンパク質の所望の領域と特異的に結合する抗体領域も、多重種起源のキメラ、例えばヒト化抗体との関連で作製できる。したがって、抗体は、米国特許第5,585,089号またはRiechmannら(1988)Nature 332、323〜327頁に記載されるような、ヒト化抗体またはヒトの一抗体であり得る。
【0063】
前記の方法においてアッセイされる物質は無作為に選択してもよいし、合理的に選択もしくは設計してもよい。本明細書において、物質は、HIF−1aタンパク質単独の、またはその関連基質、結合パートナーなどの関連性に関わる特定の配列を考慮することなく無作為に選ばれる場合に、無作為に選択されると言われる。無作為に選択される物質の例としては、化学ライブラリーまたはペプチドコンビナトリアルライブラリー、または生物の増殖培養液の使用がある。
【0064】
本明細書において、物質は、物質の作用に関連して、標的部位の配列またはそのコンホメーションを考慮する無作為でない基準で選ばれる場合に、合理的に選択もしくは設計される。これらの部位から構成されるペプチド配列を利用することによって物質を合理的に選択できるか、合理的に設計できる。例えば、合理的に選択されたペプチド物質は、そのアミノ酸配列がいずれかの機能的コンセンサス部位と同一であるか、その誘導体であるペプチドであり得る。合理的に選択された物質の例としては、それだけには限らないが、システイン、ヒスチジンおよびその誘導体が挙げられる。
【0065】
本発明の方法でスクリーニングされる物質は、例として、2−オキソ酸、ペプチド、ペプチドミメティクス、抗体、抗体断片、小分子、ビタミン誘導体、ならびにカルボヒドレートなどの小分子であり得る。本発明のペプチド物質は、当技術分野で知られている標準的な固相(または液相)ペプチド合成法を用いて調製できる。さらに、これらのペプチドをコードするDNAは、市販のオリゴヌクレオチド合成装置を用いて合成でき、また標準的な遺伝子組換え作製システムを用いて遺伝子組換えによって作製できる。非遺伝子によってコードされるアミノ酸が含まれる場合には、固相ペプチド合成を用いる作製が必要とされる。
【0066】
本発明の物質のもう1つの種類は、HIF−1タンパク質水酸化酵素またはHIF−1bに結合し、その活性を阻害し、ひいてはHIF−1aの活性を誘導する抗体またはその断片である。抗体物質は、適した哺乳類被験体を、本明細書に記載した抗原性領域を含み、タンパク質のその部分が抗体によって標的とされることを目的とするペプチドで免疫化することによって得ることができる。
【0067】
本明細書において、「抗体」とは、抗原と特異的に結合し、認識する免疫グロブリン遺伝子またはその断片に由来するフレームワーク領域を含むポリペプチドを指す。免疫グロブリン遺伝子としては、κ、λ、α、γ、δ、εおよびμ定常領域遺伝子、ならびに無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子が挙げられる。軽鎖はκまたはλのいずれかとして分類される。重鎖はγ、μ、α、δまたはεとして分類され、これらは順に免疫グロブリンクラス、IgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEをそれぞれ規定する。
【0068】
例示的免疫グロブリン(抗体)構造単位は四量体を含む。各四量体は、2つの同一なポリペプチド鎖対から構成され、各対は1つの「軽」鎖(約25kD)と1つの「重」鎖(約50〜70kD)を含む。各鎖のN末端は、約100〜110以上のアミノ酸からなる可変領域を規定し、これは主に抗原認識に関与している。用語可変軽鎖(V)および可変重鎖(V)とは、それぞれこれらの軽鎖および重鎖を指す。
【0069】
抗体は無傷の免疫グロブリンとして、種々のペプチダーゼでの消化によって生じる断片として、または遺伝子組換え変異体、例えばヒト化抗体または一本鎖抗体として生じる。したがって、例えば、ペプシンによって抗体が、ヒンジ領域のジスルフィド結合の下で消化されると、それ自体が、ジスルフィド結合によってV−CHIと結合している軽鎖である、F(ab)’またはFabの二量体が生じる。F(ab)’は、穏やかな条件下で還元され、ヒンジ領域のジスルフィド結合を切断し、それによってF(ab)’二量体がFab’単量体に変換することがある。Fab’単量体は、ヒンジ領域の一部を含む、実質的にFabである。
【0070】
1以上の重鎖を含む抗体断片では、重鎖は、無傷の抗体の非Fc領域に見られるいずれかの定常ドメイン配列(例えば、IgGアイソタイプ中のCH1)を含む場合があり、および/または無傷の抗体中に見られるいずれかのヒンジ領域配列を含む場合があり、および/または重鎖のヒンジ領域配列もしくは定常ドメイン配列と融合しているか、その中にあるロイシンジッパー配列を含む場合がある。適したロイシンジッパー配列としては、junおよびfosロイシンジッパーおよびGCN4ロイシンジッパーが挙げられる(Kostelneyら(1992)J. Immunol. 148、1547〜1553頁、米国特許第6,133,426号)。
【0071】
種々の抗体断片が無傷の抗体の消化という意味で定義されるが、当業者ならば、このような断片は、化学的にか、遺伝子組換え手法を用いることによってのいずれかでデノボ合成できることは理解されよう。したがって、本明細書において、抗体用語はまた、全抗体の修飾によって生じた抗体断片、または遺伝子組換え手法を用いてデノボ合成されたもの、例えば遺伝子組換えIgG抗体(米国特許第4,816,567号および同4,642,334号、Queenら(1989)Proc. Natl Acad. Sci. USA 86、10029〜10033頁)、一本鎖抗体、またはファージディスプレイによって獲得した抗体、およびハイブリドーマ法によって作製されたモノクローナル抗体(Kohlerら(1975)Nature 256、495頁)も含む。
【0072】
一般鎖抗体の合成は米国特許第4,946,778号に記載されており、単鎖抗体はConrathら(2001)J. Biol. Chem. 276、7346〜7350頁およびDesmyterら(2001)J. Biol. Chem. 276、26285〜26290頁によって記載されている。抗体はまた、ファージディスプレイ技術によって作製できる(Barbasら(2001)Phage Display: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor LaboratoryPress、Kayら(1996)Phage Display of Peptidesand Proteins: A Laboratory Manual, Academic Press)。一本鎖抗体を作製する技術(米国特許第4,946,778号)を、HIF−1bおよびHIF−1水酸化酵素に対する抗体を作製するために適応させることができる。また、トランスジェニックマウス、またはその他の哺乳類などのその他の生物を用いてヒト化抗体を発現させることもできる。
【0073】
本明細書において、「キメラ抗体」とは、定常領域の一部またはすべてが置換または交換によって変わっており、その結果、抗原結合部位が、異なる種類または抗体の定常領域と、または酵素、ホルモン、タンパク質、毒素(米国特許第6,051,405号)、成長因子、または薬物と結合している抗体分子である。
【0074】
さらに説明しなくとも、当業者は、前記の説明および以下の例示的実施例を用いて、本発明を製造し、利用することができ、特許請求される方法を実施できると考えられる。したがって、以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を具体的に示すものであって、決して本開示内容の残りの部分を制限すると解釈するべきではない。
【実施例】
【0075】
最近、ヒト細胞株が正常酸素圧条件下(20%酸素)でさえHIF−1aレベルの基礎的上昇を示すことがわかった(Luら(2002)J. Biol. Chem. 277、23111〜23115頁)。この基礎的HIF−1a発現レベルは調べる特定の細胞株によって異なる。さらなる調査によって、HIF−1の基礎的発現の差は、具体的な細胞株を増殖させるために用いられた異なる培養培地の関数であると示された。高グルコースを含有するかピルビン酸を添加した培地で増殖した細胞は、正常酸素圧下でさえ検出可能なレベルのHIF−1aを有すると思われた。この現象の基礎をなす生化学的機構を解明するために、本発明者らはヒト神経膠腫細胞株U−87を、注意深く規定した培養培地条件下で調べた。したがって、本発明者らは、そのすべての成分が本発明者らにわかっている、新しく調製したクレブスバッファーでこれらの細胞を培養しながら調べた。本発明者らは、これらの細胞において、培地を新しいクレブスバッファーに変えた際にHIF−1aレベルの時間依存性の上昇を見出した(図4)。クレブスバッファーの各成分の系統的な除去によって、HIF−1aタンパク質の蓄積をもたらす重要な成分はグルコースであることが明らかになった。したがって、グルコース不含クレブスではHIF−1レベルの増加は見られず、HIF−1aレベルはグルコース用量依存的に増加した。さらに、非代謝性グルコース類似体2−デオキシグルコースでは、グルコースのHIF−1aを刺激する能力は模倣できなかった。したがって、グルコースの代謝産物がHIF−1aの蓄積に関与していた。しかし、低酸素およびDFO、2種の公知のHIF−1のアクチベーターは、グルコースの不在下でさえ、依然としてHIF−1aタンパク質をアップレギュレートすることができ、これらの結果から、グルコース介在性作用はこれまでに認識されていたものとは異なる新規機構に相当することが実証された。
【0076】
グルコース代謝産物介在性HIF−1a蓄積を正確に規定するために、本発明者らは、解糖の薬理学的阻害剤ならびに種々のグルコース代謝産物の細胞への直接添加を用いた(図4)。ヨードアセトアミド、グリセルアルデヒドリン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)の阻害剤は、クレブスバッファーのHIF−1a蓄積を刺激する能力を完全に阻止した。シンナメート、ミトコンドリア膜および原形質膜を越えるピルビン酸および乳酸輸送の阻害剤は、クレブスバッファーのHIF−1a蓄積に対する作用を妨げなかった。これらの結果により、GAPDH後のステップに関与するグルコース代謝産物に絞られた。次いで、グルコース不含クレブス中へのピルビン酸および乳酸の添加はHIF−1aを直接活性化し、数種のピルビン酸代謝産物、例えばクエン酸、2−オキソグルタル酸、コハク酸およびアラニンは作用がないことがわかった。乳酸およびピルビン酸は、本発明者らが主に研究したU87神経膠腫細胞などのヒト細胞株によって豊富に産生される(図5)。乳酸およびピルビン酸はまた、酵素乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)を介して相互変換可能である。グルコースのピルビン酸への代謝は、細胞のNADH/NAD比を高め、他方、ピルビン酸の乳酸への変換はこの比を低下させる。NADHまたはNADレベルの変化がHIF−1aタンパク質の増加に関わっていた可能性を除外するために、本発明者らは、穏やかな界面活性剤(ジギトニン)処理で透過性にした細胞を用いた。これらの調製物は、すべての既知の介在物によってHIF−1aを誘導できた。3mM NADまたはNADHの直接添加はHIF−1aレベルに対して全く影響がなく、このことによりNADH/NAD比が、グルコース代謝によるHIF−1a活性化に関わっていなかったことが実証される。本発明者らは、HIF−1a活性化においてピルビン酸をより詳しく関係させるためにLDH阻害剤、オキサマートを用いた。オキサマートは乳酸のHIF−1a蓄積を刺激する能力を阻止し、他方でピルビン酸の作用を増強した。これらの結果により、乳酸はHIF−1a蓄積を刺激できるが、まずピルビン酸に変換されなければならないということが実証された。したがって、ピルビン酸が、HIF−1a蓄積の刺激に関与する、主要なグルコース代謝産物であった。ピルビン酸は、HIF−1aの蓄積を、HPH酵素の不活化に似た方法でその分解を阻害することによって増強すると思われた。このことは図5で、ピルビン酸が、タンパク質合成せずにHIF−1aレベルの上昇を維持したという観察によって実証された。通常、HIF−1aは極めて短い半減期を有し、酸素および鉄の存在下で合成されて数分で分解される。
【0077】
本発明者らは、その他の細胞代謝産物の評価で、HIF−1活性化代謝産物の構造的必要条件は極めて特異的であることを見出した。本発明者らは、オキサロ酢酸、ピルビン酸の主要な代謝産物、クレブス回路中間体もまた、HIF−1aタンパク質の強力かつ効果的な誘導物質であることを見出した(図6)。オキサロ酢酸とピルビン酸は、いくつかの代謝経路を介して相互変換できる。これにもかかわらず、これらのグルコース代謝産物は双方とも、多数の細胞種においてHIF−1aレベルを強力に誘導するのに十分であると思われる。
【0078】
図7の構造ダイアグラムはまた、2−オキソ酸に基づく将来の薬剤開発の観点から表している。本発明者らは、オキサロ酢酸はHIF−1を活性化できるがコハク酸および2−オキソグルタル酸はできないことを示した。このことはHIF−1活性化の介在における2−オキソ基の重要性を指摘するものであるがまた、4および5位の適切に位置した基の重要性も示すものでもある。そのピルビン酸はHIF−1を活性化できるということは、本発明者らが決定した、HIF−1を活性化するのにこれまでのところ必要である最小の特徴は、2−オキソ基と3位のメチル基であるということを示す。3位にカルボキシル基を有するクエン酸は、リンゴ酸同様有効でない。前記で本発明者らが実証したとおり正確に、グルコース不含培地で、ピルビン酸および酢酸の単純な生化学的誘導体を、HIF−1の活性化についてスクリーニングできる。これによって、低酸素遺伝子発現を調節するのにピルビン酸よりも遥かに強力で安定な簡単な薬剤の開発が可能となり得る。したがって、小さな2−オキソ酸によるHIF−1の調節について本発明者らが解明したことを利用して、低酸素下での生存率を向上する生理学的応答を誘導する薬剤を開発することができる。ここで留意すべきは、本発明者らがHIF−1活性化因子として同定したエチル−およびメチルピルビン酸誘導体は、その他の臨床適用に使用するために既に提案されているということである(Changら(2003)Diabetologia. 46、1220〜1227頁、Fink(2003)Crit. CareMed.31(付録)、S51〜56)。
【0079】
本発明者らが同定した2−オキソ酸HIF誘導物質の作用機構を調べるために、本発明者らはまず、細胞ATPレベルに対するその作用を調べた。図8Aに示したように、本発明者らの研究に用いた4〜8時間培養期間の間、グルコースまたはグルコース代謝産物の、本発明者らのグルコース不含バッファーへの添加には、細胞ATPレベルに対して有意な作用がなかった。ここで留意すべきは、グルコース、ピルビン酸およびオキサロ酢酸の、ATPレベルに対する作用は、2−オキソグルタル酸およびコハク酸のものと、それらのHIF−1a誘導に対する劇的に異なる作用にもかかわらず有意差があるとはいえないということである。さらに、ATPの、透過処理細胞への直接添加は基礎HIF−1aレベルを上昇させなかった(図8B)。これらのデータは、細胞リン酸化能の変化とは異なるHIF誘導機構を示す。図1のスキームに示されるように、HIF−1aの細胞レベルは、プロテアソーム活性、ユビキチン化、またはプロリル水酸化の遮断によって上がり得る。ラクタシスチンβ−ラクトン(Lbl)によるプロテアソームの阻害は、ポリユビキチン化型のHIF−1aの蓄積をもたらし、これはウエスタンブロットで通常、高分子量種のスメアとして現れる。このポリユビキチン型は核に転位せず、遺伝子転写を活性化しない。図9Aは、クレブスバッファー中で処理したU87細胞の全細胞抽出物では、グルコースまたはピルビン酸によって誘導されたHIF−1aは、HPH阻害剤低酸素およびデスフェリオキサミン(DFO)による誘導で見られるものと同様の分子量を有することを示す。ポリユビキチン化HIF−1aの特徴的な高分子量スメアはラクタシスチン処理でしか見られない。HIF−1aの細胞蓄積および核転位はまた、免疫組織化学によって調べることができる。この目的のために、本発明者らは、細胞培養皿に対してU87細胞よりも付着性であるU251細胞を用いた。図9Bに示されるように、グルコース、ピルビン酸およびオキサロ酢酸は、低酸素およびDFOと同様に核HIF−1a蓄積を促進するが、細胞質HIF−1aの増加しか促進しないラクタシスチンとは異なる。コハク酸はHIF−1a蓄積に影響を及ぼさない。このアッセイをU251細胞で用いて、本発明者らは、内因性分枝鎖2−オキソ酸はHIF−1a蓄積を促進できると判断した(図10)。
【0080】
これらのデータは、図7に示される構造プロフィールと共に、内因性2−オキソ酸HIF−1a誘導物質は、NOGまたはDMOGと同様の方法でHPH中の2−OG結合部位について競合することによって働くことができるということを強力に示唆した(図2参照)。本発明者らは、3種の既知のヒトHPH相同体のすべてが、本発明者らが研究していた細胞内に発現されたと判断した(図11A)。本発明者らは、ピルビン酸またはオキサロ酢酸が、HPH上の2−OG結合部位について競合できるかどうかを調べるために、セファロースビーズ上に2−OGを固定化したアフィニティーカラムを調製した。本発明者らはまた、ウサギ網状赤血球培養システムを用いて発現プラスミドから35S標識HPH相同体も調製した(Bruickら(2001)Science 294、1337〜1340頁)。2−OGカラムによって、本発明者らが35S標識HPHの結合ならびに結合の可能性ある競合物を調べることが可能となった。図2中のステップBをモニターするこのアプローチはこれまでに用いられている(Anzellottiら(2000)Arch. Biochem. Biophys. 382、161〜172頁)。図11Bに示されるように、3種の35S標識HPH相同体のすべてが固定化した2−OGと結合し、結合の半量より多くが鉄の必要性を示した。本発明者らは、35S標識HPH−1を用いて、その基質2−OGはこの結合を置換することができるが、最終産物コハク酸はできないことも示した(図11C)。本発明者らは、35S標識HPHの鉄依存性結合を用いて、ピルビン酸とオキサロ酢酸は双方とも2−OG結合部位について実際に競合し得ることを示した(図11D)。
【0081】
HPH活性に対するピルビン酸およびオキサロ酢酸の作用(図2中ステップD)を直接評価するために、本発明者らは、よく使われる35S−pVHLプルダウンアッセイを用いた。このアッセイはHPH相同体の、35S−pVHL結合活性を、HIF−1aODDの重要なプロリン564残基を含むビオチン化した19マーのペプチドに付与する能力をモニターする(図1参照)。1μg量のペプチドをin vitro翻訳したHPHおよび指示試薬と共にインキュベートした後、35S−pVHLを加え、続いてストレプトアビジンコートしたビーズを加えてHIF−1aペプチドをプルダウンした。反応物をペレット化し、ペレットを洗浄し、SDS−PAGE分析のために可溶化し、続いて、オートラジオグラフィーに付して捕獲された35S−pVHLを明らかにした。in vitro翻訳された各HPH相同体を用いて、本発明者らはまずアッセイ条件を、必要なHPH基質および補因子に関して最適化した。この最適化はHPH−1について図12A〜Cに示されている。2−OGと鉄は双方とも、活性にとって確実に必要であったが、それがなくてもある程度の活性は見られ、またアスコルビン酸も用量依存的に活性を増強するとわかった。(D)すべての他の試薬を一定に維持した条件下(アスコルビン酸=200μM、硫酸第一鉄=100μM)、1mM量のPyrまたはOAAは、3種のHPH相同体のいずれによっても、HIF−1aペプチドのプロリン水酸化を触媒することにおいて100μMの2−OGの代わりになることはできなかった。
【0082】
ピルビン酸およびオキサロ酢酸の、2−OG結合部位について競合する能力は、HIF−1aプロリル水酸化を触媒できないことと共に、それらの、2−OGアンタゴニストとしての役割の可能性を支持した。したがって、本発明者らは、それらの2−OGによって触媒されるHIF−1a水酸化を阻害する能力を、35S−pVHLプルダウンアッセイを用いて調べた。しかし、周知のHPH阻害剤であるN−オキサリルグリシン(NOG)と比べ、ピルビン酸による阻害は全く見られず、オキサロ酢酸による阻害はほとんど見られなかった(図13)。本発明者らがこのアッセイに用いたアッセイ条件は、理想のHPH活性が得られるよう文献を最適化したものであった。これには、先に記載した同時に触媒能がなくなることを避けるために2mMレベルのアスコルビン酸の使用が含まれる。一方では、培養細胞は、通常、その培地に余分のアスコルビン酸を添加されることはない。本発明者らは、ピルビン酸およびオキサロ酢酸の、HIF−1a蓄積を誘導する強い能力と、HPH活性をin vitroで阻害するには能力に乏しいことの間で本発明者らが観察した矛盾は、in vitroアッセイにアスコルビン酸を含めたことに起因すると疑った。本発明者らは実際、in vitroアッセイにおいてアスコルビン酸の量を変更することによって、ピルビン酸のHPH−1およびHPH−2活性に対する阻害作用を明らかにし、それらはアスコルビン酸感受性であると思われた(図14)。
【0083】
興味深いことに、HPH3活性はピルビン酸またはオキサロ酢酸に非感受性であると思われた。HPH−2は、ほとんどの細胞の主要なHPH活性の構成要素であると報告されている。したがって、本発明者らは、生細胞において、アスコルビン酸の、ピルビン酸およびオキサロ酢酸によるHIF−1a蓄積を妨げる能力について評価した。図15に示されるように、培養細胞実験に100μMのアスコルビン酸を含めることによって、ピルビン酸およびアスコルビン酸によるHIF−1a蓄積の完全な阻害がもたらされるが、低酸素によるものは阻害しない。アスコルビン酸は、同時に触媒能がなくなった後、2−オキソグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼに対して反応性であることが分かっているので(図2EおよびF)、本発明者らの結果は、ピルビン酸およびオキサロ酢酸は、HPHと結合し、次いで、それらをアスコルビン酸可逆的に不活化するということを示唆した。アスコルビン酸感受性不活化は、2−オキソグルタル酸ジオキシゲナーゼのファミリーのメンバーの間で高度に可変性であり、実験データなしには予測できない。本発明者らは、この可能性を調べるために、低酸素かピルビン酸またはオキサロ酢酸のいずれかを用いて誘導した後のHIF−1a蓄積の可逆性を比較した。これらの実験の論理的根拠は、よく知られている、低酸素によるHPH活性の可逆的阻害に起因する(図1参照)。したがって、低酸素の間のHIF−1a蓄積およびHIF活性化は、再酸素化すると迅速に逆戻りする。図16Aは、U251細胞において低酸素によって誘導されたHIF−1a蓄積は、実際、再酸素化すると迅速に崩壊し、酸素再導入の30分後には核タンパク質は検出可能できなくなることを示す。他方、ピルビン酸によって誘導されたHIF−1a蓄積は、ピルビン酸を洗浄除去した40分後も十分に持続する。核抽出物のウエスタンブロット分析によって、オキサロ酢酸を用いて同様の結果がU87細胞において見られた(図16B)。本発明者らは、2−オキソ酸によって誘導されたHIF−1a蓄積の持続がHPH不活化によるものであるかどうかを調べるために、この実験を、洗浄バッファーに100μMのアスコルビン酸を加えて反復した。図16Cに見られるように、アスコルビン酸はHIF−1aの崩壊速度を著しく増強した。
【0084】
本発明者らは、ピルビン酸またはオキサロ酢酸処理によって、HPH活性が不活化されたかどうかを直接調べるために、ピルビン酸またはオキサロ酢酸処理した細胞から得たU251細胞抽出物の、HIF−1aペプチドを水酸化する能力を、35S−pVHLプルダウンアッセイを用いて評価した(Ivanら(2002)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99、13459〜13466頁)。これらの実験では、アスコルビン酸は、アッセイのin vitro部分から省いた。図17に示されるように、細胞のピルビン酸およびオキサロ酢酸前処理は、明らかに、細胞抽出物のHPH活性を低下させ、細胞インキュベーション期間にアスコルビン酸が存在することでこの阻害が妨げられた。このような前処理誘導された阻害は低酸素またはDMOGでは見られなかった(図17B)。
【0085】
HIFによる効果的な遺伝子発現は、HPH酵素の阻害によるHIFタンパク質安定化だけでなく、HIF−1のDNAとの結合、FIH−1活性の阻害および遺伝子転写にも関与している。本発明者らが、その研究のほとんどに用いたヒト神経膠腫はすべて、FIH−1のmRNAを発現する(図18A)。さらに、正常酸素圧下で、U87細胞をピルビン酸と共に4〜6時間インキュベートすると、HIF調節エレメントDNA結合活性の蓄積がもたらされ(図18B)、いくつかのHIF調節されるmRNAの発現が増強される(図18C)。さらに、周知の、HIFによって調節される遺伝子エリスロポエチン(Epo)を産生する、ヒトHep3B細胞のピルビン酸処理は、Epoレベルの用量依存性増加をもたらした(図18D)。これらのデータは、ピルビン酸および恐らくはその他の2−オキソ酸はまた、FIH−1も阻害でき、図1に示されるHIFシグナル伝達経路を完全に活性化することを意味する。本発明者らは、グルコース代謝産物ピルビン酸およびオキサロ酢酸によってHREにより調節されるプロモーターを含む遺伝子の活性化を直接評価するために、細胞蛍光の増強によって示されるように、HIF活性化、低酸素、DFOおよびピルビン酸のすべてによって活性化されるHRE−GFP発現に応答する、HRE緑色蛍光(HRE−GFP)構築物を用いてトランスフェクトしたU373神経膠腫細胞を用いた(図18E)。さらに、HRE−ルシフェラーゼ構築物を用いて安定にトランスフェクトされたU251細胞も、低酸素、ピルビン酸、オキサロ酢酸ならびにエチル−およびメチルピルビン酸誘導体によってルシフェラーゼ遺伝子発現の顕著な活性化を示した(図18F)。本発明者らはまた、同じHRE−ルシフェラーゼ発現性U251細胞を用いて、ピルビン酸およびオキサロ酢酸によるHIF−依存性遺伝子発現の活性化が低酸素またはDMOGによるものとは、そのアスコルビン酸での可逆性によって異なることを示すことができた(図19)。
【0086】
本明細書に示したデータのほとんどは、ヒト癌細胞株を用いて実施した実験から得たものであったので、本発明者らは、ピルビン酸またはオキサロ酢酸が、正常細胞および組織においてHIF経路を活性化できるかどうかを調べようとした。したがって、本発明者らは、ラット大脳皮質ニューロンおよび星状細胞の初代培養物を調製し、これらの細胞を、先に記載した細胞株についてのものと同様の解析に付した。図20Aに示されるように、ラットニューロンは、1%酸素か3mMピルビン酸のいずれかに4時間曝露するとHIF−1a核免疫反応性を蓄積する。同様に、ラット大脳皮質星状細胞の初代培養も、低酸素またはピルビン酸で処理するとHIF−1aを誘導するとわかった(図20B)。本発明者らは、ピルビン酸またはオキサロ酢酸の、HIF−1aをin vivoで活性化する能力を調べるために、10日齢のラットに500mg/kg用量のピルビン酸またはオキサロ酢酸のいずれかを腹腔内注射した。本発明者らはまた、同腹子を、空気中8%酸素または0.1%一酸化炭素のいずれかを用いて全身低酸素に付した。これらのパラダイムは双方とも、相当な低酸素およびHIF−1活性化が生じると示された。本発明者らは、個別の処理各々の4時間後、動物の脳を回収し、HIF−1ウェスタンブロト分析のために核抽出物を調製した。
【0087】
本発明者らは、エリスロポエチンmRNA発現の分析のために腎臓も回収した。図20CおよびDに示されるように、ラット脳は、低酸素、ピルビン酸注射またはオキサロ酢酸注射後にHIF−1a免疫反応性の増加を示した。図20Eは、腎臓のエリスロポエチン遺伝子発現も、低酸素またはオキサロ酢酸処理のいずれかによって刺激されたことを示す。これらの結果は、HPH(および恐らくはFIH−1)不活化2−オキソ酸を用いてHIF介在性遺伝子発現を調節することの有用性を実証する。
【0088】
本発明者らはまた、2−オキソ酸によって誘導された遺伝子発現から得られる有益な生理学的結果を実証することを目的とする研究を完了した。こういった試みの1つは、低酸素プレコンディショニングのための2−オキソ酸の使用を含む。2−オキソ酸、例えば、ピルビン酸およびオキサロ酢酸は、細胞保護性HIF活性化遺伝子を誘導することによって、選択的心臓手術または脛動脈手術における卒中の危険を低下させ、胃腸の手術後の虚血性の腸損傷を減少させ、また、移植された臓器の移植効率を高めることもできる場合がある。本発明者らは、このようなアプローチの実現可能性を実証するために、虚血プレコンディショニングのニューロン細胞培養モデルを用いた。このモデルでは、初代ラットニューロン培養物を致死量以下の期間の酸素およびグルコース欠乏(OGD)に曝露し、それによって虚血を模倣した。この短時間のOGD期間の後、細胞をその定型的な培養条件に戻す。次いで、その後致死期間のOGDを適用し、OGDでプレコンディショニングしたもの対未処置の細胞の生存を、通常用いられるMMT還元アッセイをはじめとする種々の細胞生存アッセイによって評価する(Sawyer(1995)Clin. Exp. Pharmacol. Physiol. 22、295〜296頁)。最近、個体を致死量以下の虚血または低酸素に曝露する危険を避けるために虚血または低酸素プレコンディショニングを誘導するための薬学的試みが探求された。このような最近の試みの1つでは、HIFによって誘導される遺伝子産物、エリスロポエチンを利用し、これでの前処理は、顕著なOGD神経保護を示す(Ruscherら(2002)J.Neurosci. 22、10291〜10301頁)。本発明者らは、オキサロ酢酸前処理が、OGDの間のニューロンの生存を向上させられるかどうか調べるために、このエリスロポエチン研究に用いた前処理パラダイムを利用した。基礎パラダイムを図21Aに示す。ラット大脳皮質ニューロンをニューロンベーサル培地(N/B27)で8日間培養した。その時点で、培養培地にオキサロ酢酸(OAA)またはビヒクルを加え、細胞をさらに2日間培養した。この処理期間の後、培地をグルコースを欠く等張塩溶液で置換してニューロンに2時間の酸素−グルコース欠乏を受けさせた。また、ニューロンを1%酸素環境中に入れた。このOGDパラダイムは、1日後、ニューロンの死滅の有意な遅延をもたらす。図21Bに示されるように、3mM OAAでのニューロンの前処理は、このパラダイムにおける生存を向上させる。これらの結果から、HPHを不活化することによってHIFを誘導できる、ピルビン酸およびOAAなどの2−オキソ酸を用いて治療目的で低酸素遺伝子発現を誘導できるということが示唆される。
【0089】
本発明を前記の実施例に関連して詳細に説明したが、本発明の趣旨から逸脱することなく、種々の改変を行うことができると理解される。したがって、本発明は以下の特許請求の範囲によってのみ制限される。本願において、引用した特許、特許出願および参照した出版物はすべて、参照によりその全文を本明細書に援用する。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】HIF−1aヒドロキシラーゼおよび低酸素による遺伝子発現の調節。(A)HIF−1aタンパク質ヒドロキシラーゼは、今日まで、多細胞生物における酸素センサーの最良の候補である。これらの酵素は2−オキソグルタル酸、アスコルビン酸、酸素および鉄を必要とし、そのように、低酸素下での、またはデスフェリオキサミン(DFO)などの鉄キレート剤およびコバルトなどの競合金属によるその阻害を説明している。その他の示される補因子部位での分子間相互作用が、これらの酵素の活性を調節できるかどうかはわかっていない。(B)低酸素によるHIF−1aタンパク質ヒドロキシラーゼ活性を介する遺伝子発現の調節。2つの別個の活性が、HIF−1aを、別個のプロリンとアスパラギン残基で水酸化し、HIF−1のタンパク質分解およびトランス活性化活性をそれぞれ調節する。これらの活性は、低酸素下で阻害され、それによりHIF−1aが蓄積することが可能となり、HIF−1複合体が遺伝子発現を活性化することが可能となる(破線)。略語:DFO=デスフェリオキシミン、2−OG=2−オキソグルタル酸、Asc=アスコルビン酸、bHLH=β−ヘリックス−ループ−ヘリックスドメイン、PAS=Per−Arnt−Simドメイン、C−TAD=C末端トランス活性化ドメイン、ODD=酸素依存性分解ドメイン、pVHL=フォン−ヒッペル−リンドウ(von Hippel−Lindau)タンパク質、HIF−b=HIFのβサブユニット、HRE=HIF調節エレメント。
【図2】HIFプロリルヒドロキシラーゼの推定酵素サイクル。HPHとFIH−1は、2−オキソグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼ酵素ファミリーのメンバーである。これらの酵素は、生物学的水酸化を実施するのに鉄と、2−オキソグルタル酸と、酸素とを必要とする。この図は、この酵素ファミリーの多数のメンバーに対して提案されている推定上の一連の事象を表す(Hanauske-Abelら(2003) Curr. Med. Chem. 10、1005〜1019頁)。(A)HPH(灰色のC形構造)は鉄(Fe)と結合する。(B)HPH−鉄複合体は2−オキソグルタル酸と結合する。2−オキソ基が鉄と配位し、分子の5−炭素末端が異なる部位と相互作用する。(C)この複合体により、分子酸素の一原子が2−オキソグルタレート分子中に挿入されることが可能となり、コハク酸と二酸化炭素が生じ、もう一方の酸素原子は酵素が結合している鉄と複合体を形成する。(D)鉄錯体形成している酸素を用い、HIF−1a酸素依存性分解ドメイン内のプロリン564を水酸化する。HPHはまた、同様の水酸化をプロリン402で実施し、FIH−1酵素はアスパラギン803を水酸化する。(E)この水酸化機構を利用するほとんどの酵素は、経時的に、同時に触媒能がなくなる。この不活化は、酸素と、鉄と、酵素との間のレドックス反応に関与している場合があり、偽基質の存在などの特定の条件が揃っている場合がある。(F)このようにして不活化された酵素は、アスコルビン酸を用いて再活性化することができるが、これは2−オキソグルタル酸と同様の方法でこれらの酵素と結合すると思われる。
【図3】グルコース代謝およびHIF−1調節。(A)解糖およびHIF−1aアップレギュレーションに関与する重要なグルコース代謝産物を決定するための戦略の概略スキーム。解糖の間に、グルコースは順次代謝されてピルビン酸となり、次いで、これはさらなる代謝のためにミトコンドリアに入ることができ、または乳酸に変換され得る。複合体相互変換はまた、ピルビン酸およびオキサロ酢酸(OAA)レベルと関連している。グルコース類似体2−デオキシグルコース(2DG)は、2−デオキシグルコース6リン酸にしか進むことができず、さらには代謝され得ない。グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)は、解糖における重要な酵素であり、ヨード酢酸(IAA)によって選択的に阻害され得る。ピルビン酸および乳酸の細胞膜を通過する輸送は、特異的担体によって起こり、これは4−ヒドロキシシンナメート(4−CIN)によって阻止される。このようにして、4−CINはピルビン酸がミトコンドリアに入るのを防ぐ。乳酸のピルビン酸への相互変換は乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)によって介在され、これはオキサマートによって選択的に阻止される。本明細書に示される、種々の阻害剤および中間体の使用によって、どの重要な代謝産物がHIF−1a活性化に関与しているかを決定することが可能となった。(B)2−オキソグルタル酸(2−OG)、コハク酸(Succ)、オキサロ酢酸(OAA)およびピルビン酸(Pyr)の構造比較。2−OG、OAAおよびPyrはすべて、2位のケト基に基づく2−オキソ酸であるが、コハク酸はそうではない。
【図4】グルコース代謝によるHIF−1aレベルの調節。U87神経膠腫細胞の核抽出物をHIF−1aタンパク質を認識する特異的モノクローナル抗体でプローブした、ウエスタンブロットを示す。(A)DMEMで培養したU87神経膠腫細胞を、5.5mMグルコース(Glc)を含有するクレブスバッファーに変え、次いで、種々の時点でウエスタンブロット分析によって核HIF−1aレベルを評価した。(B)細胞を、示したグルコース濃度を含有するか、またはグルコースを5.5mMの2−デオキシグルコース(2−DG)で置き換えたクレブスバッファー中で4時間インキュベートした後、HIF−1aレベルを測定した。(C)正常酸素圧(21%酸素)低酸素(1%酸素)下で、または150μMデスフェリオキサミン(DFO)で4時間処理した後、グルコース不含クレブスバッファー中で培養したU87細胞において、HIF−1aレベルを測定した。(D)50μMのIAAまたは1mMの4−CINの存在下でのグルコースによるHIF−1aの誘導をモニターした。(E)グルコースを3mM濃度の乳酸(Lac)、ピルビン酸(Pyr)、クエン酸(Cit)、2−オキソグルタル酸(2−OG)、コハク酸(Succ)またはアラニン(Ala)と置き換えたクレブス中で4時間培養したU87細胞において、HIF−1aレベルを測定した。結果は少なくとも3回反復した実験を代表するものである。この図はHIF−1aレベルは解糖代謝によって調節され得ること、および関与する機構は明らかではなく低酸素に関するものとは異なっていることを実証する。
【図5】乳酸およびピルビン酸によるHIF−1aタンパク質レベルの調節。U87細胞をMEM中で一晩維持した。(A)MEMから5.5mMグルコース含有クレブスバッファーに変更した後、培養バッファー中の乳酸の産生を経時的に測定した。50μMのIAAの存在下またはグルコース不含クレブスバッファー中で同様の測定を行った。(B)5.5mMグルコース含有クレブスバッファー単独(白抜きバー)または10mMオキサマートの存在下(黒塗りバー)で4時間培養した後、バッファーの乳酸およびピルビン酸レベルを測定した。(C)細胞をMEM(対照、CT)から0.55mMグルコースを含有するか、またはグルコースを示した濃度の乳酸またはピルビン酸で置き換えた、のいずれかのクレブスに切り替えた4時間後に、核HIF−1aタンパク質レベルを求めた。(D)細胞をMEMから2mM乳酸またはピルビン酸を含有するグルコース不含クレブスに切り替えた後に、HIF−1aレベルを測定した。5.5mMグルコースを含有するクレブス(Glc)で4時間処理することによるHIF−1a誘導を比較のために示す。(E)ジギトニン透過処理細胞を、50μMのIAAの存在下、1%酸素または5.5mMグルコースもしくは2mMピルビン酸のいずれかを含有するクレブスで処理した。レーン5および6の透過処理細胞はそれぞれ、グルコース不含クレブス中3mMのNADまたはNADHで処理した。4時間後、核HIF−1aレベルを求めた。(F)細胞を、グルコース不含クレブス(レーン1)または5.5mMグルコースを含有するクレブスで4時間処理した後、HIF−1aレベルを求めた。グルコースは透過処理または無傷の細胞の双方でHIF−1aを誘導し、NADまたはNADH(各3mM)のどちらもこの誘導に何の影響も及ぼさなかった。カタラーゼ(1000および2000ユニット/ml)も何の影響も及ぼさなかった。(G)2mM乳酸またはピルビン酸を含有し、10mMオキサマートを含有するかしないグルコース不含クレブス中で4時間処理した後、HIF−1aレベルを求めた。(H)HIF−1aタンパク質の崩壊を測定するために、低酸素下で4時間処理した後に(レーン1)、4時間の低酸素と、それに続く30分間の正常酸素圧後(レーン2)、4時間の150μMのDFO処理後(レーン3)、4時間のDFOと、それに続く1時間の100μMのCHXの添加後(レーン4)、4時間の2mMピルビン酸での処理後(レーン5)および4時間のピルビン酸と、それに続く1時間の100μMのCHXの添加後に(レーン6)、HIF−1a測定を行った。(H)グルコース不含(レーン1)、1mMピルビン酸を含有する(レーン2)、1mMピルビン酸と10mM 2−OGを含有する(レーン3)クレブスで4時間処理したジギトニン透過処理細胞において、HIF−1aレベルを求めた。示した場合を除き、すべての実験は正常酸素圧下で実施し、少なくとも3回反復し、同様の結果を得た。図3と共にこの図も、グルコース代謝の間に起こるすべての重要な変化のうちで、HIF−1a蓄積を促進するものはピルビン酸の蓄積であるということを実証する。さらに、ピルビン酸はHIF−1aタンパク質レベルを安定化することによってその作用を介在すると思われる。
【図6】ピルビン酸類似体およびオキサロ酢酸は、HIF−1aタンパク質レベルを効率的に高める。ヒトU87神経膠腫細胞(パネルA〜C)およびその他の細胞株(D)を解糖およびクレブス回路中間体ならびにピルビン酸のエチルおよびメチルエステルで処理し、核抽出物中のHIF−1a蓄積について分析した。前記で論じたような乳酸を除き、解糖中間体にはピルビン酸の他に、HIF−1a蓄積を活性化するとわかったものはない。すべてのクレブス回路のうち、オキサロ酢酸(OAA)のみがHIF−1a蓄積を刺激できた。(B)ピルビン酸およびOAAの作用は、ピルビン酸のエチルおよびメチルエステルによって模倣され、既知の2−オキソグルタル酸アンタゴニスト、ジメチルオキサリルグリシン(DMOG)のものと同程度に明白であった。(C)OAAの作用はピルビン酸と同程度に強力であり、(D)はU251ヒト神経膠腫細胞、Hep3Bヒト肝細胞腫細胞およびDU145ヒト前立腺癌細胞を含むいくつかの他の細胞株で見られた。Helaヒト子宮頸癌細胞、正常ヒト星状細胞および正常ヒト前立腺上皮細胞も、ピルビン酸およびオキサロ酢酸に対して同様の応答を示した(データ示さず)。
【図7】HIF−1aレベルを上昇させる2−オキソ酸の構造活性必要条件。HIF−1aタンパク質レベルは、低酸素、鉄除去またはN−オキサリルグリシンもしくはジメチルオキサリルグリシンなどの人工類似体による2−オキソグルタル酸の競合アンタゴニズムのいずれかの結果としてHPH活性が阻害されることによって蓄積する。本発明者らは、天然に存在する2−オキソ酸はHIF−1a蓄積を促進することができるということを見出し、この活性のためのその構造上の必要条件をこの図に示す。本発明者らは、ジギトニン透過処理ヒト神経膠腫細胞(U87、U251)を1mM用量に対して曝露することによって、示した構造各々のHIFを誘導する能力を調べた。N−オキサリルグリシンおよびそのエステル化前駆体ジメチルオキサリルグリシンは、一貫してHIF−1aレベルを高めた。示したその他の化合物すべてのうち、ピルビン酸、オキサロ酢酸、α−ケトイソ吉草酸、α−ケトイソカプロン酸およびα−ケト−β−メチル吉草酸(囲んだもの)だけが、HIF−1a蓄積を刺激できる物質であった。乳酸も、そのピルビン酸への変換後に、HIF−1aを刺激できる(図5参照)。これらのデータは、α−ケト基の必要性を証明するものである。しかし、α−ケト酪酸およびα−ケトアジピン酸は効果がないということはまた、その他の構造上の特徴が重要であるという実験データを提供するものである。
【図8】2−オキソ酸によるHIF活性化は、エネルギー代謝から独立している。(A)U251神経膠腫細胞を、グルコース不含か、または各2mMの示した添加物を含む、クレブスバッファー中で培養した。4時間の時点で、ルシフェラーゼ法を用いて細胞抽出物中のATPレベルを測定した。種々の処理で、ATPのわずかな変動が観察されたものの、これらの物質それぞれのHIF−1a蓄積に対する作用とは相関はなかった。(B)ジギトニン透過処理細胞への1mM ATPの直接添加もまた、HIF−1aレベルに対して全く影響を及ぼさなかった。
【図9】ピルビン酸は、ユビキチン化の前のステップで作用することによってHIF−1aを安定化する。(A)U87神経膠腫細胞を、グルコース不含クレブスバッファー単独(レーン1)または示した処理を含めて(DFO=100μM、DMOG=1mM、グルコース=2mM、ピルビン酸=2mM、ラクタシスチン−βラクトン(Lbl)=20μM)4時間培養した。1%酸素以外のすべての処理は20%酸素下で実施した。次いで、全細胞抽出物を調製し、HIF−1aタンパク質レベルについてプローブした。プロテアソーム阻害剤Lblで処理した細胞のみが、ユビキチン化HIF−1aの特徴的な大きな分子量のスメアとHIF免疫反応性を示した。(B)U373神経膠腫細胞を、(A)におけるものと同様の条件下で処理した。オキサロ酢酸およびコハク酸は2mMで用いた。ここで留意すべきは、Lbl処理によって生じたユビキチン化HIF−1aは核に転位しないということである。また、コハク酸は効果がないということも留意すべきである。
【図10】分枝鎖2−オキソ酸によるHIF−1a活性化の実証。U251細胞を、グルコース不含クレブスバッファー中、2mM用量の示した2−オキソ酸で4時間処理した。次いで、細胞を洗浄し、固定し、HIF−1aタンパク質について染色した。
【図11】ピルビン酸およびオキサロ酢酸は、HIFプロリルヒドロキシラーゼへの2−オキソグルタル酸結合について競合する。(A)ヒト神経膠腫細胞はHPH相同体1、2および3を発現する。RT−PCRを、特異的プライマーを用いて実施し、本発明者らのデータのほとんどを集めるために用いた神経膠腫細胞株中のHPH相同体の存在を実証した。見られる発現パターンは正常ヒト組織のものと同様である。(B)HPHは、固定化した2−オキソグルタル酸と結合する。このアッセイは、図2中ステップBの尺度である。2−オキソグルタル酸と共有結合しているエポキシ活性化セファロースビーズを、250mMの硫酸鉄の存在下または不在下、室温でin vitroで翻訳した35S標識HPH相同体と共にインキュベートし、次いで、遠心分離によってペレット化した。4回さらに洗浄した後、ペレットと結合している放射標識を、シンチレーションカウンターによって測定した。結合している放射標識の50%より多くが鉄依存性であった。(C)HPHの2−オキソグルタル酸カラムへの全結合のほぼ半量を、20mM 2−オキソグルタル酸で置換できたが、20mMコハク酸ではできなかった。(D)固定化した2−オキソグルタル酸への鉄依存性HPH結合は、ピルビン酸(20mM)およびオキサロ酢酸(20mM)によって置換される。
【図12】ピルビン酸およびオキサロ酢酸は、HIF−1aODDペプチドの水酸化を支持しない。本発明者らは、HPH相同体の35S−pVHL結合活性を、HIF−1aODDの重要なプロリン564残基を含むビオチン化19マーペプチドに付与する能力をモニターすることによって、ピルビン酸またはオキサロ酢酸がHIF−1aのプロリル水酸化に影響を及ぼすかどうかを調べた(図1参照)。ペプチドを、HPHおよび示した試薬と共にインキュベートした後、35S−pVHLを加え、続いて、ストレプトアビジンでコートしたビーズを加えてHIF−1aペプチドをプルダウンした。反応物をペレット化し、そのペレットを洗浄し、次いで、SDS−PAGE分析のために可溶化し、続いて、オートラジオグラフィーに付して捕獲された35S−pVHLを明らかにした。本発明者らはin vitro翻訳されたHPH相同体を用いて、まずアッセイ条件を、必要なHPH基質および補因子に関して最適化した。(A)この用量曲線によって示されるように、2−OGは確実に活性化が必要であった。その他の試薬の条件:アスコルビン酸=2mM、硫酸鉄=250μM、DTT=1mM。(B)鉄も、最大約100μMまで確実に必要であった。条件:アスコルビン酸=2mM、2−OG=2mM、DTT=1mM。(C)アスコルビン酸はその不在下でいくらかの活性が見られたが、用量依存的に活性を高めた。条件:2−OG=125μM、硫酸鉄=250μM、DTT=1mM。(D)すべての他の試薬を前記のように一定に維持した条件下では、3種のHPH相同体のいずれによってHIF−1aペプチドのプロリン水酸化を触媒することでは、PyrまたはOAAの1mM量を100μM 2−OGと置換することはできなかった。すべてのアッセイで5μl(約20ng)の酵素および1μgのペプチドを用いた。
【図13】2−OG類似体の、遺伝子組換えHPH活性に対するin vitro作用。HPH活性を、図11におけるような35S−pVHLプルダウンアッセイによって評価した。in vitro翻訳されたHPH相同体の活性を、1mMの2−OG類似体N−オキサリルグリシン(NOG)、ピルビン酸またはOAAの不在下および存在下で調べた。NOGによる阻害は全く明らかであるが、ピルビン酸およびオキサロ酢酸の作用は5mMまたは25mM[2−OG]のいずれかであまり一貫性がない。
【図14】in vitro遺伝子組換えHPH活性のアスコルビン酸可逆的阻害。図11において用いた35S−pVHL捕獲アッセイを用いて、OAAまたはPyrがHPH活性の阻害剤として作用できるかどうかを調べた。用いた条件:2−OG=100mM、硫酸鉄=20mM、DTT=1mM。アスコルビン酸濃度は示したように変え、OAAまたはPyrを、示した場合には1mMで加えた。OAAおよびPyrの双方ともHPH−1およびHPH−2活性を阻害すると思われ、その作用は、低いアスコルビン酸用量でより明らかであった。HPH−3はOAAまたはPyrに対して感受性でないと思われた。
【図15】ピルビン酸またはオキサロ酢酸誘導性HIF−1a蓄積は、アスコルビン酸によって阻止される。U87およびU251神経膠腫細胞を、示した条件下、グルコース不含クレブスバッファー中で4時間処理した。ピルビン酸およびOAAを、示した場合には1mMで含めた。(A)U87細胞におけるHIF−1aの核蓄積を、核抽出物においてウエスタンブロッティングによって評価した。(B)U251細胞におけるHIF−1aの核蓄積を、免疫組織化学によって分析した。ここで留意すべきは、低酸素下ではなく、ピルビン酸およびオキサロ酢酸処理下の、アスコルビン酸(100μM)によるHIF−1蓄積の阻害ということである。また、2−オキソグルタル酸(10mM)はいずれの誘導物質も逆転させることができないことも留意すべきである。刺激されていないU87細胞はこの図では示していない。
【図16】アスコルビン酸は長期のHIF−1a蓄積を逆転させる。(A)U251における、低酸素またはピルビン酸のいずれかで誘導した後のHIF−1a崩壊の比較。U251細胞を、低酸素下または正常酸素圧中1mMピルビン酸と共にグルコース不含クレブス中で4時間培養した。この細胞を、正常酸素圧中、グルコース不含クレブスに切り替えた後、示した時間に、ホルムアルデヒド中で固定した。次いで、細胞をHIF−1a免疫反応性について染色した。ここで留意すべきは、ピルビン酸に対し、低酸素によって誘導された後の核HIF−1a染色の急速な崩壊である。(B)低酸素下で4時間処理したU87細胞は、顕著なHIF−1a誘導を示すが、これは再酸素化30分までに完全に分解される。U87細胞を、1mMピルビン酸またはオキサロ酢酸を含むか含まない、グルコース不含クレブスバッファー中で処理した。4時間後、細胞を、グルコース不含クレブスで種々の時間、100μMアスコルビン酸を洗浄液に含めるか含めずに洗浄した。ここで留意すべきは、ピルビン酸およびオキサロ酢酸誘導性HIF−1a蓄積は、誘導物質が洗浄され除去された後、長時間持続するということである。洗浄液にアスコルビン酸を含めることにより、HIF−1a崩壊速度が高まった。
【図17】ピルビン酸およびオキサロ酢酸による細胞のHPH活性の不活化。U251細胞を、示した添加剤を含むか含まない、グルコース不含クレブスバッファー中で4時間培養した。次いで、全細胞抽出物を調製し、HPH酵素の供給源として用い、プロリン564を含む、HIF−1aODDに由来するビオチン化ペプチドを水酸化した。プロリン水酸化を、図12〜14におけるように、ストレプトアビジンでコートしたビーズのヒドロキシプロリン35S−pVHL複合体をプルダウンする能力によって測定した。(A)細胞を1mMピルビン酸またはオキサロ酢酸で処理すると、U251抽出物のHPH活性が著しく減少した。細胞インキュベーションの際に、100μMのアスコルビン酸を含めることによって、この活性の損失が防がれた。(B)低酸素またはDMOGを用いた同様の実験からはHPH活性のこのような損失は示されなかった。
【図18】2−オキソ酸は、ヒト細胞株においてHIF介在性遺伝子発現を活性化する。HIFによる効果的な遺伝子発現は、HPH酵素の阻害によるHIFタンパク質安定化だけでなく、HIF−1のDNAとの結合、FIH−1活性の阻害および遺伝子転写にも関連している(図1参照)。(A)本発明者らの研究に用いた神経膠腫細胞はFIH−1を発現することがRT−PCRを用いて評価された。(B)ピルビン酸処理したU87細胞から得た核抽出物は、HRE DNAに対して結合活性を表す。(C)U87細胞はまた、HIFによって調節されると分かっているいくつかの遺伝子、例えば血管内皮増殖因子(VEGF)、グルコース輸送体アイソフォーム3(Glut−3)およびアルドラーゼA(AldoA)のmRNAレベルをアップレギュレートする。HIF調節下にないβアクチン、ハウスキーピング遺伝子の発現はピルビン酸によって影響を受けない。(D)ヒトHep3B肝細胞腫細胞はエリスロポエチン(epo)mRNAを発現し、この発現はピルビン酸によって用量依存的に増加する。(E)U373細胞を、プロモーターを含むHIF調節エレメント(HRE)の制御下の緑色蛍光タンパク質(GFP)構築物を用いてトランスフェクトし、次いで、示した条件下、グルコース不含培地で8時間培養した。細胞を1%酸素またはDFOで処理すると、GFP(緑色蛍光)が発現された。ピルビン酸はまた、GFP発現も増強した。(F)HRE調節されるルシフェラーゼを用いて、2−オキソ酸およびその類似体による、HIF調節される遺伝子の活性化を実証した。プロモーターを含むHREの制御下のルシフェラーゼ構築物を用いて安定にトランスフェクトされたU251細胞を、グルコース不含クレブスで以下の条件を用いて6時間培養した:1=対照、2=1%酸素、3=ピルビン酸(2mM)、4=OAA(2mM)、5=エチルピルビン酸(2mM)、6=グルコース(5.5mM)、7=DMOG(0.5mM)、8=ラクタシスチン−βラクトン(20mM)。ここで留意すべきは、ラクタシスチンによってではなく、低酸素、DFOおよび2−オキソ酸によって増強されたHRE−ルシフェラーゼ発現ということである。
【図19】HIF介在性遺伝子発現は、アスコルビン酸によって選択的に逆転される。HRE−ルシフェラーゼを安定に発現するU251細胞を、グルコース不含クレブスバッファー中で、示した条件を用いて8時間培養した。ピルビン酸、オキサロ酢酸およびDMOGは、各々1mMで加えた。ピルビン酸またはオキサロ酢酸によるHRE−ルシフェラーゼの活性化は、アスコルビン酸によるその選択的逆転によって低酸素またはDMOGによるものと区別される。10mMの2−オキソグルタル酸では逆転は見られなかった。
【図20】2−オキソ酸は脳細胞においてHIFを活性化する (A)ニューロベーサル(Neurobasal)培地で増殖させたラット大脳皮質ニューロンの初代培養を、1%酸素または3mMピルビン酸のいずれかで4時間処理し、次いで、HIF−1a免疫反応性についてアッセイした。ここで留意すべきは、低酸素とピルビン酸双方によるHIF−1aの核蓄積の増加である。(B)核抽出物を調製し、ウエスタンブロッティングによってHIF−1aについてアッセイした点を除いて同様の実験を、ラット星状細胞の初代培養を用いて実施した。(C)10日齢のラットを低酸素(8%酸素)に付し、または2g/kgピルビン酸を腹腔内注射した。4時間後、ラットを屠殺し、その脳を回収し、核抽出物を調製した。HIF−1aレベルをウエスタンブロッティングによって調べた。(D)同様の実験で、10日齢のラットを0.1%一酸化炭素に曝露し、全身性低酸素症を引き起こすか、または2g/kgのOAAを腹腔内注射した。
【図21】オキサロ酢酸プレコンディショニングはニューロンを酸素グルコース欠乏から保護することができる。OAAプレコンディショニングには、酸素グルコース欠乏(OGD)の48時間前に、培地に直接添加する種々の濃度のOAAの添加を含めた。OGDを開始する直前、ニューロベーサル培地(N/B27)を除去し、リン酸緩衝生理食塩水で洗浄した。その後、グルコース不含クレブスバッファーを用いてOGDを誘発し、細胞を低酸素チャンバー(1%酸素)中に2時間入れた。対照実験では、培地を標準のグルコースを含有するクレブスバッファーに置き換え、細胞を20〜21%酸素の正常酸素圧中でインキュベートした。OGDの直後、種々の処理群からバッファーを除去し、新鮮培地と置き換え、細胞をMTT還元での侵襲の24時間後の細胞生存率についてアッセイした。OAAは、1mMの濃度で保護作用を示し、この作用は統計的に有意であった(3mMオキサロ酢酸処理で*p<0.05)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞においてHIF−1介在性遺伝子発現を活性化する方法であって、前記細胞に、ピルビン酸、オキサロ酢酸、α−ケトイソ吉草酸、α−ケトイソカプロン酸、α−ケト−β−メチル吉草酸、ならびにそれらのメチルエステル、それらのエチルエステルおよびそれらのグリセロールエステルからなる群から選択される、少なくとも1つの2−オキソ酸を含む組成物を投与することを含む方法。
【請求項2】
前記哺乳類がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記HIF−1介在性遺伝子発現が、血管内皮増殖因子(VEGF)、グルコース輸送体アイソフォーム3(Glut−3)、アルドラーゼA(aldoA)およびエリスロポエチンをコードする遺伝子からなる群から選択される、少なくとも1つの遺伝子の発現の活性化を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記2−オキソ酸が、前記細胞においてHIF−1の水酸化を阻害する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記水酸化が、プロリルヒドロキシラーゼまたはアスパラギンヒドロキシラーゼによって介在される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
低酸素適応を必要とする哺乳類において、そのような適応を誘導する方法であって、前記哺乳類に、ピルビン酸、オキサロ酢酸、α−ケトイソ吉草酸、α−ケトイソカプロン酸、α−ケト−β−メチル吉草酸、ならびにそれらのメチルエステル、それらのエチルエステルおよびそれらのグリセロールエステルからなる群から選択される、少なくとも1つの2−オキソ酸を含む組成物を投与することを含む方法。
【請求項7】
前記哺乳類がヒトである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ヒトが心臓発作、卒中または妊娠子癇を起こす恐れがある、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記ヒトが喘息、糖尿病、癲癇、貧血または心不整脈に罹患している、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記ヒトが高高度または煙吸入に曝露されていた、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
哺乳類において組織の新血管新生を促進する方法であって、前記患者に、ピルビン酸、オキサロ酢酸、α−ケトイソ吉草酸、α−ケトイソカプロン酸、α−ケト−β−メチル吉草酸、ならびにそれらのメチルエステル、それらのエチルエステルおよびそれらのグリセロールエステルからなる群から選択される、少なくとも1つの2−オキソ酸を含む組成物を投与することを含む方法。
【請求項12】
前記哺乳類がヒトである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ヒトがアテローム性動脈硬化症、脈管炎、静脈炎および血栓症からなる群から選択される末梢血管疾患を有する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ヒトが創傷または熱傷の治癒を必要としている、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記組成物を局所適用する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
胎児において適切な酸素ホメオスタシスの発達を促進する方法であって、妊娠しているヒトに、ピルビン酸、オキサロ酢酸、α−ケトイソ吉草酸、α−ケトイソカプロン酸、α−ケト−β−メチル吉草酸、ならびにそれらのメチルエステル、それらのエチルエステルおよびそれらのグリセロールエステルからなる群から選択される、少なくとも1つの2−オキソ酸を含む組成物を投与することを含む方法。
【請求項17】
前記の妊娠しているヒトに早産の恐れがある、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
哺乳類を放射線から保護する方法であって、前記哺乳類に、ピルビン酸、オキサロ酢酸、α−ケトイソ吉草酸、α−ケトイソカプロン酸、α−ケト−β−メチル吉草酸、ならびにそれらのメチルエステル、それらのエチルエステルおよびそれらのグリセロールエステルからなる群から選択される、少なくとも1つの2−オキソ酸を含む組成物を投与することを含む方法。
【請求項19】
放射線への曝露の前に、放射線への曝露の際に、または放射線への曝露の後に前記組成物を投与する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
放射線への曝露の1時間後に前記組成物を投与する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
放射線への曝露の4時間後に前記組成物を投与する、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
放射線への曝露の24時間後に前記組成物を投与する、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記哺乳類がヒトである、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
前記組成物の前記哺乳類への前記投与が、経口投与、粘膜投与、経眼投与、皮下注射、経皮投与およびそれらの組合せからなる群から選択される、少なくとも1つの方法によって達成される、請求項1、6、11、16または18に記載の方法。
【請求項25】
前記粘膜投与が、口腔内、気管内、鼻腔内、咽頭内、直腸内、舌下、膣内およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記口腔内、気管内、鼻腔内、咽頭内、舌下およびそれらの組合せ投与用に、前記組成物がエマルション、ガム、トローチ剤、スプレー、錠剤および包接複合体からなる群から選択される物理的な形である、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記直腸および前記膣内投与用に、前記組成物がクリーム剤、潅注液、浣腸剤および坐剤からなる群から選択される物理的な形である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記鼻腔内投与用の前記組成物が、吸入用粉末および鼻腔用スプレーからなる群から選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項29】
前記経口投与用の前記組成物が、食品に混入したもの、栄養補助食品に混入したもの、飲料または水もしくはその他の液体と混合される粉末に混入したもの、チュアブルの錠剤もしくはカプセル剤、飲み込める錠剤、カプセル剤、カプレット剤もしくはソフトゲル、キューメルトストリップ(Q−melt strip)、棒状剤、トローチ剤およびガムからなる群から選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項30】
前記経眼投与用の前記組成物が、懸濁液、溶液およびスプレーから選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項31】
前記皮下投与用の前記組成物が、医薬学的に許容される注射可能な担体に混入したものである、請求項24に記載の方法。
【請求項32】
経皮投与用の前記組成物が、外用クリームの物理的な形、または接着性パッチの物理的形である親油性担体に混入したものである、請求項24に記載の方法。
【請求項33】
約1時間〜約48時間の範囲の時間間隔で前記組成物を反復投与する、請求項24に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公表番号】特表2007−510734(P2007−510734A)
【公表日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−539687(P2006−539687)
【出願日】平成16年11月8日(2004.11.8)
【国際出願番号】PCT/US2004/037045
【国際公開番号】WO2005/094236
【国際公開日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(501051125)ザ ヘンリー エム. ジャクソン ファウンデイション (9)
【Fターム(参考)】