説明

余剰液を出さない養液栽培装置

【課題】 余剰液を出さない養液栽培装置を提供する。
【解決手段】 栽培槽Aと培養液供給手段Bとから成り、栽培槽Aは下部の毛管給水槽1と上部の培地槽2とに分れ、毛管給水槽1内には上部を培地支持部3aに形成した培地脚台3を安置して余の空間を培養液貯留部4とし、前記培地支持部3aの上面に掛けた毛管給水シ−ト5の両端部を毛管給水槽1の内壁に沿って培養液貯留部4へ至る迄垂下させ、培地槽2には底面を前記培地支持部3aの上面に掛けた毛管給水シ−ト5に接して不透根シ−ト6を内壁全体に敷き詰め、該不透根シ−ト6内に有機物培地7を充填し、更にその上面に浸潤助長シ−ト8を敷設し、培養液供給手段Bは原水10と液肥11の給液管理制御装置12から分岐した二経路の給液チュ−ブ13、14を、一つは水位感知センサ−15を備えた前記培養液貯留部4へ流路開閉弁16を介して臨ませ、もう一つは流路開閉弁17を介して前記有機物培地7の上面に敷設した浸潤助長シ−ト8の上面に添設して成る。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、養液栽培方式の水耕に分類される培地なしの「毛管式水耕」と、固形培地耕に分類される「有機培地耕」の利点を併せ持った、トマト等の作物の養液栽培装置に関する。
【0002】
【従来の事情】養液栽培は、土耕栽培と比較して生育が早く多収である(大果になる)、土壌管理が必要なくなる、作業環境がよいなどの利点がある一方で、設備費用並びにランニングコストが嵩む、給液管理技術が難しい、等の課題はもとより施設外に排除される余剰液の処理対策が充分でない、ロックウ−ル耕では使用済み培地の処理対策等の環境問題の解決に迫られている(図9参照)。施設園芸の先進国であるオランダでは、2000年までに全ての栽培において地下水汚染を回避するため培養液(余剰液)、水の100%回収・リサイクルが義務付けられている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】従来のかかる実情を踏まえて、本発明者らは以下の三つの課題を設定した。
1.水耕に分類される湛液型水耕やNFT、固形培地耕に分類されるロックウ−ル耕では余剰液や使用済み培養液の排出が避けられないため、栽培期間を通して余剰液等のでない手段を研究する。
2.生産の安定を図るため固形培地耕を基本とするが、使用後の処理が難しいロックウ−ルに替わって自然循環が可能で未利用資源や地域(地場)資源の利用、コスト低減が図れる培地素材を探求する。
3.上記二課題を同時に解決し、環境に優しく生産性、栽培性に優れた養液栽培装置を開発する。
【0004】そして発明者らの鋭意研究の結果、養液栽培においては水耕栽培より固形培地耕の方が生産安定を図れることに鑑み、これまでの試験結果からロックウ−ルに優るとも劣らない成果を得られている有機培地耕を採用し、養液供給手段としては毛管式水耕の利点を活かして栽培槽の外部に余剰液を出さない構造の養液栽培装置の完成を見たものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明は、栽培槽Aと培養液供給手段Bとから成る。栽培槽Aは、下部の毛管給水槽1と上部の培地槽2とに分れ、毛管給水槽1内には、上部を槽幅一杯の培地支持部3aに形成した培地脚台3を安置して余の空間を培養液貯留部4とし、前記培地支持部3aの上面に掛けた毛管給水シ−ト5の両端部を毛管給水槽1の内壁に沿って培養液貯留部4へ垂下させる。そして培地槽2には、底面を前記培地支持部3aの上面に掛けた毛管給水シ−ト5に接して不透根シ−ト6を内壁全体に敷き詰め、その不透根シ−ト6内に有機物培地7を充填してある。
【0006】培養液供給手段Bは、原水10と液肥11の給液管理制御装置12から分岐した二経路の給液チュ−ブ13、14を、一つは水位感知センサ−15を備えた前記培養液貯留部4へ流路開閉弁16を介して臨ませ、もう一つは流路開閉弁17を介して前記有機物培地7の上面に添設し、前記水位感知センサ−15と各流路開閉弁16、17を前記給液管理制御装置12と電気的に接続してある。
【0007】また上記構成において、有機物培地7の上面に浸潤助長シ−ト8を敷設し、その上面に給液チュ−ブ14を添設して成る余剰液を出さない養液栽培装置である。
【0008】さらに上記各構成において、栽培槽Aが発泡スチロ−ル等の断熱材質で作られる余剰液を出さない養液栽培装置である。
【0009】さらにまた上記各構成において、培地温を調整するための温冷水管18を有機物培地7の下方の毛管給水シ−ト5の内側に配した余剰液を出さない養液栽培装置である。
【0010】そして、有機物培地7が樹皮培地である余剰液を出さない養液栽培装置である。
【0011】そしてまた、有機物培地7がもみがら又はもみがら薫炭物などの作物残渣である余剰液を出さない養液栽培装置である。
【0012】そしてさらに上記各構成において、作物生育部を除く栽培槽A全体を遮光熱シ−ト19で覆って成る余剰液を出さない養液栽培装置である。
【0013】そしてさらにまた上記各構成において、栽培槽Aの単位長さを短尺ブロック化して、培養液貯留部4の水位安定と水媒介性の病害回避を図った余剰液を出さない養液栽培装置である。
【0014】
【動作】培養液は、給液管理制御装置12において原水10と液肥11が作物に適した配合比で混合される。そして該制御装置12から信号が送られて流路開閉弁16が開くと、給液チュ−ブ13を経て培養液貯留部4内に直接給液され、所定水位に達すると水位感知センサ−15が働いて流路開閉弁16が閉じられる。そして貯留された培養液は毛管給水シ−ト5から吸い上げられて有機物培地7の底部に導かれ、不透根シ−ト6を経て有機物培地7に供給される。
【0015】又、同様に信号が送られて流路開閉弁17が開くと、有機物培地7の上面に敷設した浸潤助長シ−ト8に添設した給液チュ−ブ14を経て有機物培地7上面から浸潤乃至浸透状態で拡散供給される。
【0016】このように培養液は、培地の下方から或いは上方からのいずれでもよく、いずれの場合も、培養液の濃度及び組成に変化なく、同質の培養液が植物体に供給される。上下両方から同時に供給することももちろん可能である。この場合には、給液チュ−ブ14から供給される培養液が貯留部4へ滴下しない程度の量にコントロ−ルされることが要件となる。
【0017】大量生産システムにおいては、図7に示すように栽培槽Aの単位長さを短尺ブロック化(例えば10mに)すれば、各槽における培養液貯留部4の水位安定を図れるとともに水媒介性の病害を回避することができる。
【0018】なお、これらの動作をもたらす給液管理制御装置12の電気的制御指令に替えて人為的管理も可能であるが、パソコンによる自動制御が、効率的な大量生産システムに適っていることは云うまでもない。
【0019】
【実験例】今、培養液を、有機物培地7の下方からのみの供給(貯留部区)と、上下両方からの同時供給(チュ−ブ14+貯留部区)と、かけ流しによる供給(慣行区)について対比実験をしたところ、(イ)作物の生育は、摘心時の茎径については(チュ−ブ14+貯流部区)と(慣行区)とが優れ、葉長からでは(チュ−ブ14+貯留部区)が最も優れていた。
(ロ)収量は、(チュ−ブ14+貯留部区)が(慣行区)より優れ、可販果率や品質が向上しており、なかでも(慣行区)で気象条件の係わりから問題となっている尻腐果の発生が殆ど見られなかった。これは本発明において毛管作用によってもたらされる植物の養水分の要求に応じた供給によるものと思われる。
(ハ)栽培期間中の一株当りの培養液給液量は、(チュ−ブ14+貯留部区)が130.71、(貯留部区)が107.51、(慣行区)が159.91で、(チュ−ブ14+貯留部区)は(慣行区)の81.7%、(貯留部区)は67.2%と少なくて済むことが判明した(図8R>8参照)。
(ニ)栽培期間中、(チュ−ブ14+貯留部区)及び(貯留部区)は系外に培養液や余剰液が出ることがなかった。因みに(慣行区)では15〜20%の余剰液の排出が見られた。
(ホ)(チュ−ブ14+貯留部区)及び(貯留部区)は、毛管給水シ−ト5、浸潤助長シ−ト8を介して培養液を供給するので、糖度の向上が期待でき、培地とのスタンスを変えることにより所望の糖度の果実が計画生産され、食味品質向上に資する。
【0020】上記実験結果のうち、(イ)、(ロ)、(ホ)は、以下の表1及び表2に示される。
【0021】
【表1】


【0022】
【表2】


【0023】
【発明の効果】本発明は以上のようで、これよりは以下に列挙する諸効果をもたらす。
(a)生育、収量、品質を損うことなく、生産現場で課題とされてきた余剰液の系外排出がない。
(b)有機物培地を用いることにより、生産の安定が図れるとともに、使用済みの培地は堆肥化などにより圃場に還元すれば、有効な土づくりの手段となり、また物質の自然循環が図れる。
(c)作物の養水分要求に応じて培養液が毛管給水シ−ト、浸潤助長シ−トを介して供給されるので、尻腐れ果の発生が極めて少なくなり、収量・品質の向上が図られ、生産に大いに寄与する。
(d)設備費用はかならずしも軽減されないが、循環式と比較した場合には軽装備で済み、又肥料のコストが3割程低減されるので経済性が高い。
(e)貯留部内の培養液の水位をコントロ−ルすることで計画的に目的とする糖度の果実が生産できる。
(f)栽培槽Aの単位長さを短尺ブロック化できるので、大量生産シズテムにあっては培養液貯留部4の水位安定を図れるとともに水媒介性の病害を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の略図的側面図
【図2】同上A−A拡大縦断正面図
【図3】同上要部である培養液供給手段の部分拡大縦断側面図
【図4】同上要部である培養液供給手段の部分拡大平面図
【図5】同上要部である培養液供給手段部分の略図的透視斜視図
【図6】本発明の使用状態を示す部分外観斜視図
【図7】本発明による大量生産システムの略図的俯瞰図
【図8】給液量の推移比較図
【図9】従来のロックウ−ル耕養液栽培装置の略図的側面図
【符号の説明】
A 栽培槽
B 培養液供給手段
1 毛管給水槽
2 培地槽
3 培地脚台
3a 培地支持部
4 培養液貯留部
5 毛管給水シ−ト
6 不透根シ−ト
7 有機物培地
8 浸潤助長シ−ト
10 原水
11 液肥
12 給液管理制御装置
13 給液チュ−ブ
14 給液チュ−ブ
15 水位感知センサ−
16 流路開閉弁
17 流路開閉弁
18 温冷水管
19 遮光熱シ−ト

【特許請求の範囲】
【請求項1】 栽培槽(A)と培養液供給手段(B)とから成り、栽培槽(A)は、下部の毛管給水槽(1)と上部の培地槽(2)とに分れ、毛管給水槽(1)内には上部を培地支持部(3a)に形成した培地脚台(3)を安置して余の空間を培養液貯留部(4)とし、前記培地支持部(3a)の上面に掛けた毛管給水シ−ト(5)の両端部を毛管給水槽(1)の内壁に沿って培養液貯留部(4)へ至るまで垂下させ、培地槽(2)には底面を前記培地支持部(3a)の上面に掛けた毛管給水シ−ト(5)に接して不透根シ−ト(6)を内壁全体に敷き詰め、その不透根シ−ト(6)内に有機物培地(7)を充填し、培養液供給手段(B)は、原水(10)と液肥(11)の給液管理制御装置(12)から分岐した二経路の給液チュ−ブ(13)、(14)を、一つは水位感知センサ−(15)を備えた前記培養液貯留部(4)へ流路開閉弁(16)を介して臨ませ、もう一つは流路開閉弁(17)を介して前記有機物培地(7)の上面に添設したことを特徴とする余剰液を出さない養液栽培装置。
【請求項2】有機物培地(7)の上面に浸潤助長シ−ト(8)を敷設し、その上面に給液チュ−ブ(14)を添設した請求項1記載の余剰液を出さない養液栽培装置。
【請求項3】 栽培槽(A)が断熱材質である請求項1又は2記載の余剰液を出さない養液栽培装置。
【請求項4】 培地温を調整するための温冷水管(18)を有機物培地(7)の下方の毛管給水シ−ト(5)の内側に配した請求項1乃至3のうちいずれか一項記載の余剰液を出さない養液栽培装置。
【請求項5】 有機物培地(7)が樹皮培地である請求項1乃至4のうちいずれか一項記載の余剰液を出さない養液栽培装置。
【請求項6】 有機物培地(7)が作物残渣である請求項1乃至4のうちいずれか一項記載の余剰液を出さない養液栽培装置。
【請求項7】 作物残渣がもみがら又はもみがら薫炭物である請求項6記載の余剰液を出さない養液栽培装置。
【請求項8】 作物生育部を除く栽培槽(A)全体を遮光熱シ−ト(19)で覆って成る請求項1乃至7のうちいずれか一項記載の余剰液を出さない養液栽培装置。
【請求項9】 栽培槽Aの単位長さを短尺ブロック化して、培養液貯留部(4)の水位安定と水媒介性の病害回避を図った請求項1乃至8のうちいずれか一項記載の余剰液を出さない養液栽培装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2001−169676(P2001−169676A)
【公開日】平成13年6月26日(2001.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−376836
【出願日】平成11年12月20日(1999.12.20)
【出願人】(591100563)栃木県 (33)
【Fターム(参考)】