説明

作業機械

【課題】操作装置の操作部材の操作量と作業装置の動作の速さとの関係を、油圧シリンダに作用する負荷に影響されることのなく一定させることができる作業機械の提供。
【解決手段】操作装置19による作業装置の動作の方向の指令(操作レバー19aの中立位置からの操作方向D,U方向)に基づき、方向制御弁13の弁位置を第1弁位置b1または第2弁位置b2に切り換えるとともに、方向制御弁13の弁位置を第1,第2弁位置のいずれに切り換える場合にも、方向制御弁13の開度を毎回同じに制御する動作方向制御手段30aと、操作装置19による作業装置の動作の速さの指令(操作レバー19aの操作量)に基づき電動モータ11の回転速度をインバータ11aを介して制御することによって油圧ポンプ12の吐出流量を制御する吐出流量制御手段30bとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧シリンダにより駆動され、荷の上げ下ろしを行う作業装置を備える作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の作業機械としては特許文献1に開示されたものがある。この作業機械は、油圧ポンプと、この油圧ポンプの吐出油を供給されて駆動される油圧シリンダと、この油圧シリンダにより駆動されて上下方向に動作するクレーン(作業装置)と、油圧ポンプと油圧シリンダの間に介在して設けられ、油圧ポンプから油圧シリンダに供給される圧油の流れを制御する油圧パイロット式の切換弁(方向制御弁)と、操作レバー(操作装置)と、この操作レバーの操作方向および操作量に応じたパイロット圧を切換弁に与える手段と、クレーンの下方向の回動により荷が下ろされる際の油圧シリンダのメータアウト側(排出側)の管路に設けられ、油圧シリンダのメータイン側(供給側)の圧力をパイロット圧として作動するカウンタバランス弁とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−187408号公報(段落0002〜段落0005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述の特許文献1に開示された作業機械においては、油圧ポンプと油圧シリンダの間に介在して設けられた方向制御弁(切換弁)に対して操作装置(操作レバー)の操作量に応じたパイロット圧が与えられると、方向制御弁の開度が変化し、これによって油圧シリンダに供給される圧油の流量が変化する。つまり、操作装置の操作量に応じて方向制御弁の開度が制御されることによって、油圧ポンプから油圧シリンダに供給される圧油の流量、すなわち、作業装置の動作の速さが制御される。
【0005】
このため、操作装置の操作量が一定した状態であっても、作業装置(クレーン)の姿勢(角度)の変化に伴って油圧シリンダに作用する負荷が変化すると、すなわち、油圧シリンダへの圧油の流入のしやすさが変化すると、油圧ポンプから油圧シリンダに供給される圧油の流量が変化し、これに伴って作業装置の動作の速さが変化してしまう。また、作業装置の上下方向の動作により重量の小さい荷を上げ下ろしする場合と、重量の大きな荷を上げ下ろしする場合とでは、操作装置の操作量が同じであっても作業装置の動作の速さが違ってしまう。つまり、操作装置の操作量と作業装置の動作の速さとの関係が一定していないため、オペレータの意に反した速さで作業装置が動作してしまう虞がある。
【0006】
本発明は前述の事情を考慮してなされたものであり、その目的は、操作装置の操作部材の操作量と作業装置の動作の速さとの関係を、油圧シリンダに作用する負荷に影響されることのなく一定させることができる作業機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述の目的を達成するために本発明に係る作業機械は次のように構成されている。
【0008】
〔1〕 本発明に係る作業機械は、油圧ポンプと、この油圧ポンプの吐出油を供給されて駆動する油圧シリンダと、前記油圧シリンダにより駆動されて荷の上げ下ろしを行う作業装置と、操作部材の操作方向および操作量のそれぞれに基づき前記作業装置の動作の方向および速さのそれぞれを指令する操作装置と、この操作装置による指令に基づき前記油圧ポンプから前記油圧シリンダに供給される圧油の流れの方向および流量を制御する制御手段と、前記作業装置の下方向の動作が行われるときの前記油圧シリンダのメータアウト側の管路に設けられ、そのときの前記油圧シリンダのメータイン側の圧力をパイロット圧として作動するカウンタバランス弁とを備える作業機械において、前記制御手段は、前記油圧ポンプと前記油圧シリンダの間に介在して設けられ、前記油圧シリンダを停止させる中立位置、前記油圧シリンダを収縮させる第1弁位置および前記油圧シリンダを伸長させる第2弁位置に切換可能な方向制御弁と、前記操作装置による前記作業装置の動作の方向の指令に基づき、前記方向制御弁の弁位置を前記第1弁位置または前記第2弁位置に切り換えるとともに、前記方向制御弁の弁位置を前記第1,第2弁位置のいずれに切り換える場合にも、前記操作装置の操作量に関わらず、前記方向制御弁の開度を所定の開度に制御する動作方向制御手段と、前記操作装置による前記作業装置の動作の速さの指令に基づき前記油圧ポンプの吐出流量を制御する吐出流量制御手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
方向制御弁の開度が一定した状態においては、油圧ポンプから方向制御弁を通じて油圧シリンダに供給される圧油の流量は油圧ポンプの吐出流量に比例する。「〔1〕」に記載の作業機械は、動作方向制御手段が方向制御弁の弁位置を第1,第2弁位置のいずれかに切り換える場合に、操作装置の操作量に関わらず、方向制御弁の開度を所定の開度に制御し、吐出流量制御手段が操作装置により指令された作業装置の動作の速さ、すなわち操作部材の操作量に基づき油圧ポンプの吐出流量を制御するので、操作装置の操作量と作業装置の動作の速さとの関係を、油圧シリンダに作用する負荷に影響されることなく一定させることができる。
【0010】
〔2〕 本発明に係る作業機械は、「〔1〕」に記載の作業機械において、前記メータアウト側の管路には、前記カウンタバランス弁と前記油圧シリンダとの間に、前記メータアウト側の管路に生じる背圧を制御することにより、前記メータイン側の管路の圧力を調整する圧力制御弁を備え、前記圧力制御弁は、前記メータイン側の管路の圧力に基づいて、前記メータイン側の管路の背圧が、前記メータイン側の管路の圧力を前記カウンタバランス弁の始動圧力以上となるように背圧調整手段によって制御されることを特徴とする。
【0011】
作業装置を下方向に動作させるために、油圧ポンプの吐出油が油圧シリンダに供給されると、メータイン側の背圧により油圧シリンダのメータイン側の圧力が上昇する。そして、そのメータイン側の圧力がカウンタバランス弁の始動圧力以上になると、カウンタバランス弁は開く。これにより油圧シリンダは収縮し、これに伴って作業装置が下方向に動作する。
【0012】
作業装置が下方向に動作して荷を下ろす場合、その荷に慣性力が作用するため、作業装置は、油圧シリンダに供給される圧油の流量に相応する速さよりも速く下方向に動作し、これに伴って油圧シリンダのメータイン側の圧力がカウンタバランス弁の始動圧力よりも低くなる場合がある。この場合、カウンタバランス弁は閉じ、これに伴って油圧シリンダのメータアウト側の圧油の流れが阻止されるため、作業装置は下方向の動作を停止する。その後、油圧シリンダのメータイン側の圧力がカウンタバランス弁の始動圧力以上に上昇すると、カウンタバランス弁は再び開き、これによって作業装置は下方向の動作を再開する。
【0013】
油圧シリンダのメータイン側の圧力がカウンタバランス弁の始動圧力よりも低くなったタイミングに対し、カウンタバランス弁が閉じるタイミングには応答遅れが生じる。このため、カウンタバランス弁は閉じる動作と開く動作を交互に繰り返し、これに伴って油圧シリンダのメータアウト側の背圧は急激な上昇と低下を交互に繰り返す。これにより油圧シリンダには収縮の停止と収縮の再開を交互に繰り返す現象、すなわちハンチングが生じる。「〔2〕」に記載の作業機械において、圧力制御弁は、メータイン側の管路の圧力に基づいて、メータイン側の管路の背圧が、メータイン側の管路の圧力をカウンタバランス弁の始動圧力以上となるように背圧調整手段によって制御されるので、「〔2〕」に記載の作業機械は、カウンタバランス弁が閉じる動作と開く動作を交互に繰り返すことを防止でき、これによって油圧シリンダのハンチングを低減することができる。
【0014】
〔3〕 本発明に係る作業機械は、「〔1〕」または「〔2〕」に記載の作業機械において、前記作業装置は、前記油圧シリンダにより駆動されて上下方向に動作するアームと、このアームの先端部に設けられ荷を把持する把持装置とを備えることを特徴とする。
【0015】
この「〔3〕」に記載の作業機械は、把持装置により把持した荷を、アームの上下方向の動作により上げ下ろしする。この際、「〔1〕」に記載の動作方向制御手段および吐出流量制御手段によって、操作装置の操作量と作業装置の動作の速さとの関係を、油圧シリンダに作用する負荷に影響されることなく一定させることができる。また、アームを下方向に動作させることで荷を下ろす際、荷に作用する慣性力に起因するアームの上下振動を、「〔2〕」に記載の背圧調整手段によって低減することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る作業機械によれば、前述のように、操作装置の操作部材の操作量と作業装置の動作の速さとの関係を、油圧シリンダに作用する負荷に影響されることなく一定させることができる。この結果、オペレータの意に反した速さで作業装置が上方向または下方向に動作してしまうことを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る作業機械であるハンドリング機の側面図である。
【図2】図1に示したアームを上下方向に動作させるための油圧駆動装置を示す油圧回路図である。
【図3】図2に示した起伏用シリンダのロッド室内の圧力と減圧弁の始動圧力との対応関係を示す図である。
【図4】図2に示した減圧弁の始動圧力の制御に係るフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態に係る作業機械について図1〜図4を用いて説明する。
【0019】
図1に示すように、本実施形態に係る作業機械1はハンドリング機である。この作業機械1は、履帯を駆動して走行する走行体2と、この走行体2の上部に旋回可能に設けられた旋回体3と、この旋回体3に設けられた作業装置4とを備える。
【0020】
作業装置4は、旋回体3に対して上下方向に動作可能に結合したテレスコピック式のアーム5と、このアーム5の先端に上下方向および左右方向に回動可能に設けられた把持装置6とを備える。アーム5は起伏用シリンダ21(油圧シリンダ)により駆動されて旋回体3に対して上下方向に回動するようになっているとともに、伸縮用シリンダ22(油圧シリンダ)により駆動されて伸縮するようになっている。把持装置6は縦振り用シリンダ23(油圧シリンダ)により駆動されてアーム5に対して上下方向に回動するようになっているとともに、横振り用シリンダ24(油圧シリンダ)により駆動されてアーム5に対して左右方向に回動するようになっている。把持装置6は、可動爪6aを固定爪6bの方向に回動させることにより荷を把持するものであり、可動爪6aは把持用シリンダ25(油圧シリンダ)により固定爪6bに対して近づく方向および離れる方向に駆動されるようになっている。
【0021】
作業機械1は、図2に示すように、アーム5に上下方向の動作を行わせるための専用の油圧駆動装置10を備える。この油圧駆動装置10は、電動モータ11と、この電動モータ11の出力を伝達されて駆動される油圧ポンプ12と、この油圧ポンプ12の吐出油を供給されて駆動する前述の起伏用シリンダ21(片ロッド形複動シリンダ)と、油圧ポンプ12と起伏用シリンダ21の間に介在して設けられた方向制御弁13とを備える。これら電動モータ11、油圧ポンプ12、方向制御弁13の詳細について次に説明する。
【0022】
電動モータ11はインバータ11aから電力を供給されて駆動されるようになっている。そのインバータ11aの電源は、ディーゼルエンジン(図示省略)により駆動される発電機(図示省略)、または、この発電機により発電された電力を蓄えた蓄電装置(図示省略)である。
【0023】
油圧ポンプ12は定容量形であり、回転速度に比例した流量の圧油を吐出する。また、油圧ポンプ12の最高吐出圧はリリーフ弁12aにより規制されている。
【0024】
方向制御弁13はスプリングセンタ式の3位置弁であり、油圧ポンプ12に接続されたポンプポート13cと、作動油タンク14に接続されたタンクポート13dと、管路15を介して起伏用シリンダ21のロッド室21aに接続されたロッド室側ポート13eと、管路16を介して起伏用シリンダ21のボトム室21bに接続されたボトム室側ポート13fとを備える。また、方向制御弁13は一対のソレノイド13a,13bを備え、これらのソレノイド13a,13bのいずれかに電力を供給されて作動する電気操作式の弁である。方向制御弁13の弁位置はソレノイド13aに電力を供給された場合に中立位置b0から第1弁位置b1に切り換わり、逆に、ソレノイド13bに電力を供給された場合に中立位置b0から第2弁位置b2に切り換わる。中立位置b0は、ポンプポート13c、タンクポート13d、ロッド室側ポート13eおよびボトム室側ポート13fを互いに遮断することによって、起伏用シリンダ21の伸縮を停止させる、すなわち起伏用シリンダ21の長さを維持する弁位置である。第1弁位置b1は、ポンプポート13cをロッド室側ポート13eに接続し、かつ、タンクポート13dをボトム室側ポート13fに接続することによって、起伏用シリンダ21を収縮させる圧油の流れを油圧ポンプ12、起伏用シリンダ21、作動油タンク14間に発生させる弁位置である。第2弁位置b2は、ポンプポート13cをボトム室側ポート13fに接続し、かつ、タンクポート13dをロッド室側ポート13eに接続することによって、起伏用シリンダ21を伸長させる圧油の流れを油圧ポンプ12、起伏用シリンダ21、作動油タンク14間に発生させる弁位置である。
【0025】
油圧駆動装置10はさらに、操作レバー19aの操作方向および操作量のそれぞれに基づき作業装置4の動作の方向および速さのそれぞれを、電気信号の形で指令する操作装置19と、この操作装置19からの指令に基づき方向制御弁13およびインバータ11aを制御するコントローラ30とを備える。これら操作装置19とコントローラ30の詳細について次に説明する。
【0026】
操作装置19の操作レバー19aは、中立位置から相反する2方向、すなわちD方向およびU方向に操作可能な操作部材である。操作装置19は、操作レバー19aのD方向への傾倒操作に基づき作業装置4のアーム5の下方向の動作を指令するとともに、このときの操作レバー19aの操作量、すなわち中立位置からD方向への操作レバー19aの傾倒角度に基づき作業装置4の下方向の動作の速さを指令する。また、操作装置19は、操作レバー19aのU方向への傾倒操作に基づき作業装置4のアーム5の上方向の動作を指令するとともに、このときの操作レバー19aの操作量、すなわち中立位置からのU方向への操作レバー19aの傾倒角度に基づき作業装置4の上方向の動作の速さを指令する。
【0027】
コントローラ30は、CPU,ROM,RAMを備えたマイクロコンピュータであり、方向制御弁13を制御することで起伏用シリンダ21の動作方向を制御する動作方向制御手段30aと、インバータ11aを介して電動モータ11の回転速度を制御することにより油圧ポンプ12の吐出流量を制御する吐出流量制御手段30bとを備える。これら動作方向制御手段30aと吐出流量制御手段30bは、コントローラ30のROMに書き込まれた制御プログラムに従って動作する手段である。これら動作方向制御手段30a、吐出流量制御手段30bの詳細について次に説明する。
【0028】
動作方向制御手段30aは、操作装置19によるアーム5の動作の方向の指令(操作レバー19aの中立位置からの操作方向)と、方向制御弁13のソレノイド13a,13bに与える電流との対応関係を、予めコントローラ30のROMに記憶し、操作装置19により指令されたアーム5の動作の方向に基づき方向制御弁13の弁位置と開度を制御する。具体的には、動作方向制御手段30aは、操作装置19によりアーム5の下方向の動作が指令された場合には、方向制御弁13のソレノイド13aに電流値I1(固定値)の電流を供給することによって、方向制御弁13の弁位置を第1弁位置b1に切り換える。このとき、方向制御弁13の第1弁位置b1における開度は、操作装置19の操作量に関わらず、所定の開度OP1に制御される。また、動作方向制御手段30aは、操作装置19によりアーム5の上方向の動作が指令された場合には、方向制御弁13のソレノイド13bに電流値I2(固定値)の電流を供給することによって、方向制御弁13の弁位置を第2弁位置b2に切り換える。このときも前述と同様、方向制御弁13の第2弁位置b2における開度は、操作装置19の操作量に関わらず、所定の開度OP2に制御される。
【0029】
吐出流量制御手段30bは、操作装置19による動作の速さの指令(操作レバー19aの中立位置からの操作量)と油圧ポンプ12の回転速度との対応関係を予めコントローラ30のROMに記憶し、操作装置19により指令された作業装置4の動作の速さの指令に相応する油圧ポンプ12の回転速度が得られるようインバータ11aを制御する。
【0030】
油圧駆動装置10はさらに、管路16、すなわちアーム5の下方向の動作が行われる際の起伏用シリンダ21のメータアウト側の管路に、カウンタバランス弁17を備える。このカウンタバランス弁17は管路15内の圧力、すなわち起伏用シリンダ21のロッド室21a内の圧力Plを外部パイロット圧として作動する弁である。このカウンタバランス弁17は、起伏用シリンダ21のロッド室21a内の圧力Plがリターンスプリング17aにより規定される始動圧力Pc以上で開弁し、起伏用シリンダ21のロッド室21a内の圧力Plが高くなるにつれて開度が大きくなるように作動する。言い換えると、始動圧力Pc以上の状態において、起伏用シリンダ21のロッド室21a内の圧力が低いときには開度が小さくなり、起伏用シリンダ21のボトム室21b内の背圧を高くするように作動する。始動圧力Pcは、把持装置6が荷を把持していない状態でアーム5が下方向に動作する際、作業装置4に作用する慣性力によって起伏用シリンダ21のロッド室21a内が負圧になることを防止するための、すなわち、起伏用シリンダ21に供給される圧油の流量に相応する速さよりも速くアーム5が下方向に動作することを防止するための背圧を起伏用シリンダ21のメータアウト側(起伏用シリンダ21のボトム室21b内)に発生させるように、カウンタバランス弁17を開かせることを意図して設定されている。なお、起伏用シリンダ21のロッド室21a内がカウンタバランス弁17の始動圧力Pcよりも低くなった場合、カウンタバランス弁17は閉じ、これによって起伏用シリンダ21のメータアウト側の圧油の流れ、すなわち起伏用シリンダ21のボトム室21bから圧油が排出されることが阻止され、この結果、アーム5は下方向の動作を停止する。
【0031】
カウンタバランス弁17には、チェック弁32が並列して設けられている。このチェック弁32は、方向制御弁13のボトム室側ポート13fから起伏用シリンダ21のボトム室21bに向かう方向の圧油の流れを許可し、その逆方向の圧油の流れを阻止する。
【0032】
油圧駆動装置10はさらに、カウンタバランス弁17と起伏用シリンダ21の間に介在して設けられ、管路16の流路を絞る可変絞りとして機能する圧力制御弁である比例電磁式の減圧弁18と、管路15内の圧力、すなわち起伏用シリンダ21のロッド室21a内の圧力Plを圧力検出信号(電気信号)に変換してコントローラ30に出力する圧力センサ31とを備える。減圧弁18は、指令値としての始動圧力Prが低いほど、開度が小さくなって管路16に発生する背圧を高くするように作動する。
【0033】
減圧弁18には、チェック弁33が並列して設けられている。このチェック弁33は、チェック弁32から起伏用シリンダ21のボトム室21bに向かう方向の圧油の流れを許可し、その逆方向の圧油の流れを阻止する。
【0034】
コントローラ30は、圧力センサ31からの圧力検出信号に示された起伏用シリンダ21のロッド室21a内の圧力Plの検出値に基づき、減圧弁18を制御する背圧調整手段30cを備える。この背圧調整手段30cは、起伏用シリンダ21のロッド室21a内に発生する背圧(メータアウト側の圧力)が、起伏用シリンダ21のロッド室21a内の圧力Pl(メータイン側の圧力)をカウンタバランス弁17の始動圧力Pc以上にするような圧力になるよう減圧弁18を制御するものである。また、この背圧調整手段30cは、起伏用シリンダ21のロッド室21a内の圧力Plの検出値と、減圧弁18のソレノイド18aに供給する電流値との対応関係を、コントローラ30のROMに予め記憶している。その対応関係によって、減圧弁18の指令値としての始動圧力Prは図3に示すよう制御される。具体的には、起伏用シリンダ21のロッド室21a内の圧力Plの検出値が0以下のときに、背圧調整手段30cは減圧弁18の始動圧力Prを最低始動圧力Prminに設定して減圧弁18の開度を小さくし、また、ロッド室21a内の圧力Plの検出値が0よりも高く規定値Pls(>Pc)よりも低い状態においては、減圧弁18の始動圧力Prを一次関数Fに従った値に設定して、ロッド室21a内の圧力が高くなるにつれ、減圧弁18の開度を大きくし、ロッド室21a内の圧力Plの検出値がカウンタバランス弁17の始動圧力Pls以上の状態においては、減圧弁18の始動圧力Prを最高始動圧力Prmaxに設定して、減圧弁18の開度を最大にして、起伏用シリンダ21のボトム室21b内に発生する背圧(メータアウト側の圧力)が、起伏用シリンダ21のロッド室21a内の圧力Pl(メータイン側の圧力)をカウンタバランス弁17の始動圧力Pc以上となるように制御する。なお、ロッド室21a内の圧力Plが始動圧力Pls以上の状態においては、ロッド室21a内の圧力Plは、カウンタバランス弁17の始動圧力Pc以上となるため、減圧弁18の開度が最大になって減圧弁18による背圧制御が行われない状態となる。
【0035】
背圧調整手段30cによる減圧弁18の制御の流れは、図4に示すように設定されている。つまり、はじめに操作装置19によるアーム5の動作の方向の指令が上方向か下方向かを、すなわち操作レバー19aの操作方向がD方向かU方向かの判定を行う(ステップS1)。この判定の結果、操作レバー19aの操作方向がD方向である場合、圧力センサ31からの圧力検出信号を入力する(ステップS2)。そして、その圧力検出信号に示されるロッド室21a内の圧力Plの検出値に基づき減圧弁18のソレノイド18aに電流を供給して、減圧弁18の始動圧力Prを決定する(ステップS3)。この結果、図3に示すように、ロッド室21a内の圧力Plの検出値が0以下の状態において減圧弁18の始動圧力Prは最低始動圧力Prminに決定され、また、ロッド室21a内の圧力Plの検出値が0よりも高く規定値Plsよりも低い状態において減圧弁18の始動圧力Prはロッド室21a内の圧力Plに比例するよう決定され、ロッド室21a内の圧力Plが規定値Pls以上の状態において減圧弁18の始動圧力Prは最高始動圧力Prmaxに決定される。
【0036】
ステップS1における判定の結果、操作レバー19aの操作方向がU方向である場合には、背圧調整手段30cは減圧弁18の始動圧力Prを最高始動圧力Prmaxに決定する(ステップS4)。つまり、減圧弁18の開度は最大を保ち、操作レバー19aの操作方向がU方向のときには、ロッド室21a内の圧力Plによる背圧制御は行われないようにする。
【0037】
背圧調整手段30cは、図4に示した制御の流れを、CPUのクロック周波数に基づき数ミリ秒の周期で繰り返すよう設定されている。これによって、起伏用シリンダ21のロッド室21a内の圧力Plの変動に対するカウンタバランス弁17の応答よりも早く、起伏用シリンダ21のボトム室21b内の背圧が調整される。
【0038】
このように構成された本実施形態に係る作業機械1の動作を、(1)アーム5を下方向に動作させる場合と、(2)アーム5を上方向に動作させる場合とに分けて説明する。
【0039】
(1) アーム5を下方向に動作させる場合、操作装置19の操作レバー19aが中立位置からD方向に操作される。これにより、コントローラ30においては操作レバー19aの操作方向がD方向であることに基づき、すなわちアーム5の下方向の動作の指令に基づき、動作方向制御手段30aが方向制御弁13のソレノイド13aに電流値I1の電流を供給し、方向制御弁13の弁位置を第1弁位置b1に切り換えるとともに、方向制御弁13の開度をOP1に設定する。
【0040】
この方向制御弁13の制御と並行して、コントローラ30の吐出流量制御手段30bは、操作装置19の操作レバー19aの中立位置からD方向への操作量(傾倒角度)に基づき、すなわち、アーム5の下方向への動作の速さの指令に基づき、その指令に相応する回転速度で油圧ポンプ12が回転するようインバータ11aを制御する。
【0041】
そして、油圧ポンプ12の吐出油は、第1弁位置b1に切り換わった状態の方向制御弁13と、管路15を通じて起伏用シリンダ21のロッド室21aに供給される。これに伴い、起伏用シリンダ21のロッド室21aの圧力PlがPcに達すると、カウンタバランス弁17は、その圧力Pcをパイロット圧としてリターンスプリング17aに抗して開く。
【0042】
この一方で、コントローラ30の背圧調整手段30cは、圧力センサ31によるロッド室21a内の圧力Plの検出値Pcに基づき減圧弁18の始動圧力Prを関数Fに従って設定し、これにより減圧弁18の開度が決定される。したがって、起伏用シリンダ21のボトム室21b内の圧油は、減圧弁18と、カウンタバランス弁17と、第1弁位置b1に切り換わった状態の方向制御弁13とを通じて作動油タンク14に戻され、これによって起伏用シリンダ21は収縮し、これに伴ってアーム5は下方向に動作する。
【0043】
このようにしてアーム5が下方向に動作する際、第1弁位置b1に切り換わった状態の方向制御弁13の開度は、操作装置19の操作レバー19aの中立位置からの操作量に関係なく、操作レバー19aが中立位置からD方向に操作されたことのみに基づいて所定の開度OP1に決定されているため、油圧ポンプ12から方向制御弁13を通じて起伏用シリンダ21のロッド室21aに供給される圧油の流量は、油圧ポンプ12の吐出流量と同じである。また、油圧ポンプ12の吐出流量は油圧ポンプ12の回転速度に比例し、油圧ポンプ12の回転速度は操作レバー19aの操作量に基づきコントローラ30がインバータ11aを介して電動モータ11の回転速度を制御することで決定される。これらのことから、操作レバー19aのD方向の操作量とアーム5の下方向の動作の速さとの関係は、起伏用シリンダ21に作用する負荷に影響されることなく一定する。
【0044】
把持装置6により荷が把持されている状態でアーム5の下方向への動作が行われるとき、その荷に慣性力が作用するため、その慣性力によって、起伏用シリンダ21のロッド室21a内の圧力PlがPlsよりも低くなる場合がある。この場合、コントローラ30の背圧調整手段30cは、図4に示した「ステップS1→ステップS2→ステップS3」の処理を行うことによって、すなわち、圧力センサ31によるロッド室21a内の圧力Plの検出値に基づき、図3に示す関数Fに従って減圧弁18の始動圧力Prを制御することによって、起伏用シリンダ21のロッド室21a内の圧力Plが規定値Plsよりも低いほど減圧弁18の開度を小さくする。この結果、起伏用シリンダ21のボトム室21b内の背圧は規定値Pls以上に上昇する。規定値Plsはカウンタバランス弁17の始動圧力Pcよりも高く設定されたものであるから、起伏用シリンダ21のロッド室21a内の圧力Plは始動圧力Pc以上に維持される。
【0045】
ところで、アーム5が下方向に動作しているとき、起伏用シリンダ21のロッド室21a内がカウンタバランス弁17の始動圧力Pcよりも低くった場合には、カウンタバランス弁17は閉じ、これによって起伏用シリンダ21のボトム室21bからの圧油の排出が阻止され、その後、起伏用シリンダ21のロッド室21a内の圧力がカウンタバランス弁17の始動圧力Pc以上に上昇すると、カウンタバランス弁17は再び開く。起伏用シリンダ21のロッド室21a内の圧力がカウンタバランス弁17の始動圧力Pcよりも低くなったタイミングに対し、カウンタバランス弁17が閉じるタイミングには応答遅れが生じるため、カウンタバランス弁17は閉じる動作と開く動作を交互に繰り返し、これに伴って起伏用シリンダ21のボトム室21b内の背圧は急激な上昇と低下を交互に繰り返す。これにより起伏用シリンダ21には収縮の停止と収縮の再開を交互に繰り返す現象、すなわちハンチングが生じ、アーム5に上下の振動が発生する。
【0046】
これに対し、背圧調整手段30cは、前述のように、起伏用シリンダ21のロッド室21a内の圧力Plがカウンタバランス弁17の始動圧力Pcよりも高い規定値Plsに低下した段階で減圧弁18の始動圧力Prを制御することで、起伏用シリンダ21のロッド室21a内の圧力Plを規定値Pls以上に上昇させるため、すなわち起伏用シリンダ21のロッド室21a内の圧力Plを始動圧力Pc以上に維持するため、カウンタバランス弁17が閉じることが防止され、この結果、起伏用シリンダ21のハンチングが抑えられる。
【0047】
(2) アーム5を上方向に動作させる場合、操作装置19の操作レバー19aが中立位置からU方向に操作される。これにより、コントローラ30においては操作レバー19aの操作方向がU方向であることに基づき、すなわちアーム5の上方向の動作の指令に基づき、動作方向制御手段30aが方向制御弁13のソレノイド13bに電流値I2の電流を供給し、方向制御弁13の弁位置を第2弁位置b2に切り換えるとともに、方向制御弁13の開度をOP2に設定する。
【0048】
この方向制御弁13の制御と並行して、コントローラ30の吐出流量制御手段30bは、操作装置19の操作レバー19aの中立位置からU方向への操作量(傾倒角度)に基づき、すなわち、アーム5の上方向への動作の速さの指令に基づき、その指令に相応する回転速度で油圧ポンプ12が回転するようインバータ11aを制御する。
【0049】
そして、油圧ポンプ12の吐出油は、第2弁位置b2に切り換わった状態の方向制御弁13と、チェック弁32,33を通じて起伏用シリンダ21のボトム室21bに供給され、これと並行して、起伏用シリンダ21のロッド室21a内の圧油は管路15と、第2弁位置b2に切り換わった状態の方向制御弁13を通じて作動油タンク14に戻され、これによって起伏用シリンダ21は伸長し、これに伴ってアーム5は上方向に動作する。
【0050】
このようにしてアーム5が上方向に動作する際、第2弁位置b2に切り換わった状態の方向制御弁13の開度は、操作装置19の操作レバー19aの中立位置からの操作量に関係なく、操作レバー19aが中立位置からU方向に操作されたことのみに基づいて開度OP2に決定されているため、油圧ポンプ12から方向制御弁13を通じて起伏用シリンダ21のボトム室21bに供給される圧油の流量は、油圧ポンプ12の吐出流量と同じである。また、油圧ポンプ12の吐出流量は油圧ポンプ12の回転速度に比例し、油圧ポンプ12の回転速度は操作レバー19aの操作量に基づきコントローラ30がインバータ11aを介して電動モータ11の回転速度を制御することで決定される。これらのことから、操作レバー19aのU方向の操作量とアーム5の動作の速さとの関係は、起伏用シリンダ21に作用する負荷に影響されることなく一定する。
【0051】
本実施形態に係る作業機械1によれば次の効果を得られる。
【0052】
本実施形態に係る作業機械1は、動作方向制御手段30aが方向制御弁13の弁位置を第1弁位置b1および第2弁位置b2のいずれかに切り換える場合に、方向制御弁13の開度を毎回同じに制御し、吐出流量制御手段30bが操作装置19により指令された作業装置4のアーム5の動作の速さ、すなわち操作レバー19aの操作量に基づき油圧ポンプ12の吐出流量を制御するので、操作レバー19aの操作量と作業装置4の動作の速さとの関係を、起伏用シリンダ21に作用する負荷に影響されることなく一定させることができる。この結果、オペレータの意に反した速さで作業装置4のアーム5が上方向または下方向に動作してしまうことを防止できる。
【0053】
本実施形態に係る作業機械1は、作業装置4のアーム5を下方向に動作させる際、背圧調整手段30cによって、起伏用シリンダ21のロッド室21a内(メータイン側)の圧力Plに基づき、その圧力Plをカウンタバランス弁17の始動圧力Pc以上に維持する背圧が起伏用シリンダ21のボトム室21b内(メータアウト側)に発生するよう減圧弁18(圧力制御弁)を制御するので、カウンタバランス弁17が閉じる動作と開く動作を交互に繰り返すことを防止でき、これによって起伏用シリンダ21のハンチング、すなわちアーム5の上下振動を低減することができる。
【0054】
なお、前述の実施形態の油圧駆動装置10は、油圧ポンプ12を電動モータ11の出力を伝達して駆動するものであったが、電動モータ11の替わりにディーゼルエンジンなどの内燃機関が用いられてもよい。この場合、油圧ポンプ12の吐出流量の制御は、内燃機関の回転速度を制御することにより行われることになる。
【符号の説明】
【0055】
1 作業機械
4 作業装置
5 アーム
6 把持装置
10 油圧駆動装置
11 電動モータ
11a インバータ
12 油圧ポンプ
13 方向制御弁
15 管路
16 管路
17 カウンタバランス弁
18 減圧弁
19 操作装置
19a 操作レバー
21 起伏用シリンダ
21a ロッド室
21b ボトム室
30 コントローラ
30a 動作方向制御手段
30b 吐出流量制御手段
30c 背圧調整手段
31 圧力センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧ポンプと、この油圧ポンプの吐出油を供給されて駆動する油圧シリンダと、前記油圧シリンダにより駆動されて荷の上げ下ろしを行う作業装置と、操作部材の操作方向および操作量のそれぞれに基づき前記作業装置の動作の方向および速さのそれぞれを指令する操作装置と、この操作装置による指令に基づき前記油圧ポンプから前記油圧シリンダに供給される圧油の流れの方向および流量を制御する制御手段と、前記作業装置の下方向の動作が行われるときの前記油圧シリンダのメータアウト側の管路に設けられ、そのときの前記油圧シリンダのメータイン側の圧力をパイロット圧として作動するカウンタバランス弁とを備える作業機械において、
前記制御手段は、前記油圧ポンプと前記油圧シリンダの間に介在して設けられ、前記油圧シリンダを停止させる中立位置、前記油圧シリンダを収縮させる第1弁位置および前記油圧シリンダを伸長させる第2弁位置に切換可能な方向制御弁と、
前記操作装置による前記作業装置の動作の方向の指令に基づき、前記方向制御弁の弁位置を前記第1弁位置または前記第2弁位置に切り換えるとともに、前記方向制御弁の弁位置を前記第1,第2弁位置のいずれに切り換える場合にも、前記操作装置の操作量に関わらず、前記方向制御弁の開度を所定の開度に制御する動作方向制御手段と、
前記操作装置による前記作業装置の動作の速さの指令に基づき前記油圧ポンプの吐出流量を制御する吐出流量制御手段とを備える
ことを特徴とする作業機械。
【請求項2】
請求項1に記載の作業機械において、
前記メータアウト側の管路には、前記カウンタバランス弁と前記油圧シリンダとの間に、前記メータアウト側の管路に生じる背圧を制御することにより、前記メータイン側の管路の圧力を調整する圧力制御弁を備え、前記圧力制御弁は、前記メータイン側の管路の圧力に基づいて、前記メータイン側の管路の背圧が、前記メータイン側の管路の圧力を前記カウンタバランス弁の始動圧力以上となるように背圧調整手段によって制御される
ことを特徴とする作業機械。
【請求項3】
請求項2または3に記載の作業機械において、
前記作業装置は、前記油圧シリンダにより駆動されて上下方向に動作するアームと、このアームの先端部に設けられ荷を把持する把持装置とを備える
ことを特徴とする作業機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−2453(P2013−2453A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130518(P2011−130518)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】