説明

作業用走行車

【課題】 ステアリングホイールを旋回操作するだけで、田面を荒らさないスムーズが小回り旋回を可能にする。
【解決手段】 前輪17及び後輪30の駆動に応じて走行し、前輪17の操舵に応じて旋回する乗用田植機において、前輪17の操舵に連動して、旋回内側の後輪30に対する伝動を断つ後輪用連動機構42と、前輪17の操舵に連動して、旋回外側の前輪17を旋回外側の後輪30よりも増速させ、かつ、旋回内側の前輪17を減速させる前輪用連動機構41とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用田植機などの作業用走行車に関する。
【背景技術】
【0002】
前輪及び後輪の駆動に応じて走行し、前輪の操舵に応じて旋回する作業用走行車が知られている。この種の作業用走行車では、深田などでの旋回性能を向上させるために、前輪や後輪に対する伝動状態を、前輪の操舵に連動して変化させる機構が種々提案されている(特許文献1、2参照)。例えば、特許文献1に記載の乗用作業機は、前輪の操舵に連動して、左右の前輪間に強制的に回転差を生じさせる旋回用デフロック機構を備えており、また、特許文献2に記載の水田作業車は、前輪の操舵に連動して、旋回内側の後輪サイドクラッチを切るリンク機構を備えている。
【特許文献1】特開平9−58517号公報
【特許文献2】特開2004−268853号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の乗用作業機では、機体の旋回に際し、旋回内側の後輪サイドクラッチを切り操作する必要があるため、旋回時の操作が煩雑である。一方、特許文献2に記載の水田作業車では、旋回時のサイドクラッチ操作が自動的に行われるが、前輪がスリップする可能性があるだけでなく、前輪のスリップ時に前輪デフロック操作が要求されるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、前輪及び後輪の駆動に応じて走行し、前輪の操舵に応じて旋回する作業用走行車において、前記前輪の操舵に連動して、旋回内側の後輪に対する伝動を断つ後輪用連動機構と、前記前輪の操舵に連動して、旋回外側の前輪を旋回外側の後輪よりも増速させ、かつ、旋回内側の前輪を減速させる前輪用連動機構とを備えることを特徴とする。このようにすれば、サイドクラッチ操作を行うことなく、ステアリングホイールを旋回操作するだけで、前輪のスリップを抑制しながら機体を円滑に旋回させることが可能になる。しかも、後輪側では、旋回内側のサイドクラッチを切り、前輪側では、左右の前輪間に強制的に回転差を生じさせるという旋回時の連動パターンにより、田面を荒らさないスムーズな小回りが可能になる。
また、前記前輪用連動機構をミッションケースの内部に構成し、前記後輪用連動機構を前記ミッションケースの外部に構成したことを特徴とする。このようにすれば、互いの干渉が回避されるので、前輪用連動機構及び後輪用連動機構を容易に配置できる。
また、前記前輪の操舵に連動して、後輪動力を減速させる後輪減速機構を備えることを特徴とする。このようにすれば、後輪の減速により小回り旋回が可能になるだけでなく、走行負荷を軽減して旋回中のエンジンドロップも防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
次に、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。図1において、1は乗用田植機であって、該乗用田植機1は、走行機体2と、該走行機体2の後部に昇降リンク機構3を介して連結される植付部4と、該植付部4の前側に設けられる整地ロータ5とを備えて構成されている。
【0006】
走行機体2は、機体前部に搭載されるエンジン6と、エンジン動力を無段変速するベルト式の無段変速装置7と、無段変速装置7を介してエンジン動力を入力するミッションケース8とを備える。ミッションケース8は、入力した動力を、主クラッチ機構9で入り/切りすると共に、主クラッチ機構9の伝動下流において植付動力と作業動力に分岐させる。分岐された植付動力は、株間変速機構10や植付クラッチ機構11を経由して植付PTO軸12から出力され、ここから植付部4に伝動される。
【0007】
走行動力は、副変速機構13で変速されると共に、その伝動下流の走行伝動軸14において前輪動力と後輪動力に分岐される。前輪動力は、差動機構(デファレンシャル機構)15を介して左右の差動出力軸16L、16Rに分配され、ここから左右の前輪17に伝動される。走行伝動軸14と右側差動出力軸16Rとの間には、旋回用デフロック機構18が構成されている。この旋回用デフロック機構18は、右側差動出力軸16Rに所定間隔を存して自由回転自在に支持され、かつ、走行伝動軸14側の伝動ギヤ19、20にそれぞれ常時噛合する一対の旋回用変速ギヤ21、22と、該旋回用変速ギヤ21、22間で右側差動出力軸16Rにスプライン嵌合し、かつ、左右両側部には旋回用変速ギヤ21、22の噛合爪21a、22aに選択的に噛合可能な噛合爪23aを備えるクラッチ体23とを用いて構成される。
【0008】
一方の旋回用変速ギヤ21に伝動される回転は、差動機構15の入力回転よりも高速に設定され、他方の旋回用変速ギヤ22に伝動される回転は、差動機構15の入力回転よりも低速に設定される。即ち、旋回用デフロック機構18は、一対の旋回用変速ギヤ21、22に対するクラッチ体23の選択的な噛合操作に基づいて、右側差動出力軸16Rの回転を強制的に増減速するように構成されている。そして、右側差動出力軸16Rを増速した場合には、差動機構15の作用に基づいて左側差動出力軸16Lが減速されるので、左右の差動出力軸16L、16R間に左旋回に適した一定の回転差を強制的に生じさせることができ、また、右側差動出力軸16Rを減速した場合には、逆に左側差動出力軸16Lが増速されるので、左右の差動出力軸16L、16R間に右旋回に適した一定の回転差を強制的に生じさせることができる。
【0009】
一方、後輪動力は、走行PTO軸24から出力され、後輪減速機構25を介してリヤアクスルケース26に伝動される。後輪減速機構25は、通常伝動経路25aと、減速伝動経路25bと、いずれかの伝動経路25a、25bを選択的に入りにする摩擦クラッチ25cとを備えて構成されており、後輪減速アーム25dの操作に応じて後輪動力の減速を行う。
【0010】
リヤアクスルケース26は、後輪減速機構25から入力した後輪動力を左右に振り分ける分配軸27と、該分配軸27の左右両側に設けられる左右一対のサイドクラッチ機構28L、28Rと、該サイドクラッチ機構28L、28Rの伝動下流側に設けられる左右一対のサイドブレーキ機構29L、29Rとを介して、左右の後輪30に後輪動力を伝動するように構成されている。サイドクラッチ機構28L、28Rは、機体旋回時に左右いずれかが選択的に切り操作され、旋回内側の後輪30に対する伝動を断つことにより、機体の小回り旋回を可能にする。また、サイドブレーキ機構29L、29Rは、機体停止時に左右同時に入り操作される。これにより、機体旋回途中(サイドクラッチ切り状態)であっても左右の後輪30を確実に制動することができる。
【0011】
尚、サイドクラッチ機構28L、28Rは、リヤアクスルケース26の上部に設けられる左右一対のクラッチアーム31L、31Rによって切り操作され、サイドブレーキ機構29L、29Rは、リヤアクスルケース26の前部に設けられる左右一対のブレーキアーム32L、32Rによって入り操作される。左右のブレーキアーム32L、32Rは、ロッド33を介して互に連結されると共に、リンクアーム34及びロッド35を介してクラッチ・ブレーキペダル36に連結されている。クラッチ・ブレーキペダル36を踏込み操作すると、ロッド37を介して連結される主クラッチアーム38が引かれて、前述した主クラッチ機構9が切りになった後、左右のサイドブレーキ機構29L、29Rが入りになる。
【0012】
ミッションケース8の底部には、ピットマンアーム39が設けられている。ピットマンアーム39は、ステアリングホイール40の操作に応じて左右に回動し、左右の前輪17を操舵させるように、ステアリングホイール40及び前輪17に連動連結されている。また、ピットマンアーム39には、前輪用連動機構41及び後輪用連動機構42が連繋されている。前輪用連動機構41は、ピットマンアーム39の回動に旋回用デフロック機構18を連動させ、後輪用連動機構42は、ピットマンアーム39の回動に左右のサイドクラッチ機構28L、28Rを連動させる。これにより、前輪17の操舵に連動して、旋回内側の後輪30に対する伝動を断つと共に、旋回外側の前輪17を旋回外側の後輪30よりも増速させ、かつ、旋回内側の前輪17を減速させることが可能になる。このように構成すれば、サイドクラッチ操作を行うことなく、ステアリングホイール40を旋回操作するだけで、前輪17のスリップを抑制しながら機体を円滑に旋回させることが可能になる。
【0013】
しかも、後輪30側では、旋回内側のサイドクラッチ機構28L、28Rを切り、前輪17側では、左右の前輪17間に強制的に回転差を生じさせるという旋回時の連動パターンにより、田面を荒らさないスムーズな小回りが可能になる。つまり、単に小回りをするなら、旋回内側の後輪30をサイドブレーキ機構29L、29Rにより制動してもよいが、それでは田面が荒れるので、後輪30側では、サイドクラッチ機構28L、28Rの切りだけを行う。しかしながら、後輪30側をサイドクラッチ機構28L、28Rの切りだけにし、前輪17側を差動機構15による駆動にすると、前輪17のスリップや旋回内側の後輪30の連れ回りによって旋回半径が大きくなり、旋回後の条合わせが難しくなる。そこで、本発明では、更に左右の前輪17間に強制的に回転差を生じさせることにより、旋回半径が大きくならず、かつ、田面を荒らさない旋回状態を現出させる。
【0014】
次に、前輪用連動機構41及び後輪用連動機構42について詳細に説明する。前輪用連動機構41は、ミッションケース8に内装されており、クラッチ体23に係合されるシフトフォーク43と、シフトフォーク43を一体的に備えるスライド自在なシフト軸44と、シフト軸44をスライドさせるシフトレバー45と、シフトレバー45をピットマンアーム39の支軸46に連動させる連動プレート47とを備えて構成され、ピットマンアーム39の回動に応じた旋回用デフロック機構18の切り換え動作により、旋回方向に適した回転差を左右の前輪17間に強制的に生じさせる。
【0015】
一方、後輪用連動機構42は、ミッションケース8の外部に構成される。これにより、ミッションケース8の内部に構成される前輪用連動機構41との干渉が回避され、前輪用連動機構41及び後輪用連動機構42の配置が容易になる。具体的に説明すると、後輪用連動機構42は、ピットマンアーム39の回動に応じて背反的に押し引きされる左右一対のロッド48L、48Rと、左右一対のアーム支軸49L、49Rから下方に延出し、ロッド48L、48Rに連繋される第一アーム50L、50Rと、各アーム支軸49L、49Rから上方に延出し、それぞれロッド51L、51Rを介してクラッチアーム31L、31Rに連繋される第二アーム52L、52Rとを備えて構成され、ピットマンアーム39の回動に応じたサイドクラッチ機構28L、28Rの選択的な切り操作により、旋回内側の後輪30に対する伝動を断つ。尚、本実施形態の走行機体2は、後輪連動解除ペダル53を有し、この後輪連動解除ペダル53が踏込み操作された場合、第一アーム50L、50Rを前方に押し戻し、サイドクラッチ機構28L、28Rの連動を解除する。
【0016】
また、本実施形態の後輪用連動機構42は、アーム支軸49L、49Rから上方に延出し、それぞれロッド54L、54Rを介して後輪減速アーム25dに連繋される第三アーム55L、55Rを更に備えている。このようにすると、前輪17の操舵に連動して、後輪動力が自動的に減速されるので、旋回半径がより小さくなるだけでなく、走行負荷を軽減して旋回中のエンジンドロップも防止できる。
【0017】
叙述の如く構成された本実施形態によれば、前輪17及び後輪30の駆動に応じて走行し、前輪17の操舵に応じて旋回するが、前輪17の操舵に連動して、旋回内側の後輪30に対する伝動を断つ後輪用連動機構42と、前輪17の操舵に連動して、旋回外側の前輪17を旋回外側の後輪30よりも増速させ、かつ、旋回内側の前輪17を減速させる前輪用連動機構41とを備えるので、サイドクラッチ操作を行うことなく、ステアリングホイール40を旋回操作するだけで、前輪17のスリップを抑制しながら機体を円滑に旋回させることが可能になる。しかも、後輪30側では、旋回内側のサイドクラッチ機構28L、28Rを切り、前輪17側では、左右の前輪17間に強制的に回転差を生じさせるという旋回時の連動パターンにより、田面を荒らさないスムーズな小回りが可能になる。
【0018】
また、前輪用連動機構41をミッションケース8の内部に構成し、後輪用連動機構42をミッションケース8の外部に構成したので、互いの干渉が回避され、前輪用連動機構41及び後輪用連動機構42の配置が容易になる。
【0019】
また、前輪17の操舵に連動して、後輪動力を減速させる後輪減速機構25を備えるので、後輪30の減速により小回り旋回が可能になるだけでなく、走行負荷を軽減して旋回中のエンジンドロップも防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】乗用田植機の側面図である。
【図2】乗用田植機の伝動回路図である。
【図3】走行機体の要部平面図である。
【図4】走行機体の要部側面図である。
【図5】前輪用連動機構及び旋回用デフロック機構の側面図である。
【図6】前輪用連動機構及び旋回用デフロック機構の平面図である。
【図7】旋回用デフロック機構の正面図である。
【図8】後輪用連動機構及びクラッチ・ブレーキペダル連動機構を示す側面図である。
【図9】後輪用連動機構の平面図である。
【図10】後輪用連動機構の側面図である。
【図11】後輪減速連動機構を示す側面図である。
【符号の説明】
【0021】
1 乗用田植機
2 走行機体
6 エンジン
8 ミッションケース
15 差動機構
17 前輪
18 旋回用デフロック機構
25 後輪減速機構
26 リヤアクスルケース
28 サイドクラッチ機構
29 サイドブレーキ機構
30 後輪
39 ピットマンアーム
40 ステアリングホイール
41 前輪用連動機構
42 後輪用連動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪及び後輪の駆動に応じて走行し、前輪の操舵に応じて旋回する作業用走行車において、
前記前輪の操舵に連動して、旋回内側の後輪に対する伝動を断つ後輪用連動機構と、前記前輪の操舵に連動して、旋回外側の前輪を旋回外側の後輪よりも増速させ、かつ、旋回内側の前輪を減速させる前輪用連動機構とを備えることを特徴とする作業用走行車。
【請求項2】
前記前輪用連動機構をミッションケースの内部に構成し、前記後輪用連動機構を前記ミッションケースの外部に構成したことを特徴とする請求項1記載の作業用走行車。
【請求項3】
前記前輪の操舵に連動して、後輪動力を減速させる後輪減速機構を備えることを特徴とする請求項1又は2記載の作業用走行車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−256429(P2006−256429A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−75024(P2005−75024)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】