説明

作業車の油圧システム

【課題】省エネルギー化を図り、複数の油圧機器の同時作動を可能にする。
【解決手段】エンジンで駆動する可変容量ポンプ88、一定の優先流を優先油圧セクションに、余剰流を非優先油圧セクションに供給する優先分流弁、非優先油圧セクションでの優先度の高い電磁比例制御弁76,77,101,105に優先流を、優先度の低い電磁比例制御弁44,65に余剰流を供給する優先分流弁72、優先油圧セクションに供給する優先流量と非優先油圧セクションの各電磁比例制御弁44,65,76,77,101,105に通電する電流量から油圧システムでの必要流量を演算する必要流量演算手段20Ea、エンジン回転数と演算した必要流量からアクチュエータ93の制御目標作動量を設定する目標作動量設定手段20Eb、アクチュエータ93の作動量を制御目標作動量に変更するアクチュエータ93の作動を制御する作動制御手段20Ecを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンからの動力で作動する油圧ポンプからのオイルを複数の油圧機器に供給する作業車の油圧システムに関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような作業車の油圧システムとしては、ステアリング操作時には、エンジンからの動力で作動する固定容量形の油圧ポンプからのオイルの全量を油圧式のパワーステアリング装置に優先的に供給し、非ステアリング操作時に、油圧ポンプからのオイルを、作業装置を昇降駆動する油圧式の昇降駆動装置(昇降制御弁及びリフトシリンダ)と、作業装置をローリング駆動する油圧式のローリング駆動装置(ローリング制御弁及びローリングシリンダ)とに、優先分流弁を介してローリング駆動装置に優先的に供給するように構成したものがある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−85597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の構成では、油圧ポンプに固定容量式の油圧ポンプを採用していることから、エンジン回転数が低い場合でも、パワーステアリング装置の作動に必要なオイルの流量や、昇降駆動装置及びローリング駆動手段の作動に必要なオイルの流量を確保できるようにするために、油圧ポンプの低回転数作動時での吐出量を大きい値に設定してある。そのため、エンジン回転数が上昇した場合には、必要以上のオイルをパワーステアリング装置などに供給することになり、これにより、エネルギーを無駄に消費するとともに油温が上昇することになり、省エネルギー化の観点から改善の余地がある。
【0005】
又、ステアリング操作中は昇降駆動装置を作動させることができないことから、例えば、作業車の後部にロータリ耕耘装置を連結した耕耘作業中に枕地旋回を行う場合には、ステアリング操作を行う旋回開始時に作業装置を上昇させる、あるいは、旋回終了時に作業装置を下降させる、といったステアリング操作と作業装置の昇降操作とを同時に行うことができないようになっており、操作性の面から改善の余地がある。
【0006】
更に、昇降駆動装置とローリング駆動装置とを同時に作動させた場合には、優先分流弁の作用でローリング駆動装置に優先的にオイルを供給することから、昇降駆動装置の動作が遅くなる不都合を招く虞がある。そして、この不都合を回避するためには油圧ポンプの吐出量を多くする必要があり、省エネルギー化を図ることが更に難しくなる。
【0007】
本発明の目的は、省エネルギー化を図りながら、操作性の向上とともに複数の油圧機器の同時作動を良好に行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の課題解決手段では、
エンジンからの動力で作動する可変容量ポンプと、前記可変容量ポンプが吐出したオイルの一定量を優先油圧セクションに優先的に供給し、余剰流を非優先油圧セクションに供給する優先分流弁を備え、
前記非優先油圧セクションに、前記非優先油圧セクションに備える複数の油圧機器に対するオイルの流れを制御する複数の電磁比例制御弁、及び、前記複数の電磁比例制御弁のうち、優先度の高い電磁比例制御弁に優先流を供給し、優先度の低い電磁比例制御弁に余剰流を供給する優先分流弁を装備し、
前記複数の電磁比例制御弁の作動を制御する制御手段に、前記優先油圧セクション及び前記非優先油圧セクションでのオイルの必要流量を演算する必要流量演算手段、前記可変容量ポンプの吐出量を調節するアクチュエータの制御目標作動量を設定する目標作動量設定手段、及び、前記アクチュエータの作動を制御する作動制御手段を備え、
前記必要流量演算手段は、前記優先油圧セクションに供給する前記優先分流弁の優先流量、及び、前記非優先油圧セクションの前記複数の電磁比例制御弁に通電する電流量に基づいて、前記優先油圧セクション及び前記非優先油圧セクションでのオイルの必要流量を演算し、
前記目標作動量設定手段は、前記必要流量演算手段が求めたオイルの必要流量、エンジン回転数を検出する回転センサの出力、及び、前記可変容量ポンプの吐出量とエンジン回転数と前記アクチュエータの作動量との関係を示す相関関係データに基づいて、前記必要流量演算手段が演算したオイルの必要流量を得るための前記アクチュエータの制御目標作動量を求めて制御目標に設定し、
前記作動制御手段は、前記目標作動量設定手段が設定した前記アクチュエータの制御目標作動量に前記アクチュエータの作動量が達するように前記アクチュエータの作動を制御するように構成してある。
【0009】
この課題解決手段によると、非優先油圧セクションに備えた複数の油圧機器を作動させない場合は、制御手段の制御作動により、可変容量ポンプの吐出量は優先油圧セクションに供給する一定量(優先油圧セクションでの必要流量)だけとなり、無駄な吐出を防止することができる。
【0010】
又、非優先油圧セクションに備えた複数の油圧機器のうちのいずれかを作動させる場合は、制御手段の制御作動により、可変容量ポンプの吐出量は、優先油圧セクションに供給する一定量に、作動させる油圧機器の作動に必要な流量を加えた量になり、無駄な吐出を防止することができる。
【0011】
そして、優先油圧セクションと非優先油圧セクションにおいて作動させる油圧機器とのそれぞれには、各優先分流弁の作用により、必要流量のオイルを分配供給することができる。これにより、優先油圧セクションに備える油圧機器と非優先油圧セクションに備える油圧機器との同時作動、及び、非優先油圧セクションに備える複数の油圧機器の同時作動を可能にすることができる。
【0012】
従って、省エネルギー化を図りながら、操作性の向上とともに複数の油圧機器の同時作動を良好に行うことができる。
【0013】
本発明の第2の課題解決手段では、上記第1の課題解決手段において、
前記目標作動量設定手段が、オイルの温度を検出する油温センサの出力、及び、前記可変容量ポンプの吐出圧を検出する圧力センサの出力に基づいて、前記可変容量ポンプの容積効率を求め、求めた容積効率に基づいて前記アクチュエータの制御目標作動量を補正するように構成してある。
【0014】
この課題解決手段によると、オイルの温度に起因した可変容量ポンプの容積効率の変動にかかわらず、優先油圧セクションと非優先油圧セクションにおいて作動させる油圧機器とのそれぞれに必要流量のオイルを確実に供給することができる。
【0015】
従って、操作性を更に向上させながら複数の油圧機器の同時作動をより良好に行うことができる。
【0016】
本発明の第3の課題解決手段では、上記第1又は2の課題解決手段において、
最下流の電磁比例制御弁に供給するオイルの圧力を検出するオイル圧検出手段を備え、
前記目標作動量設定手段が、前記オイル圧検出手段の出力に基づいて前記最下流の電磁比例制御弁に供給するオイルの圧力が予め設定した所定圧に達するように前記アクチュエータの制御目標作動量を補正するように構成してある。
【0017】
この課題解決手段によると、オイルの圧力が常に予め設定した所定圧に達するように可変容量ポンプの吐出量を調節することができ、これにより、優先油圧セクションと非優先油圧セクションにおいて作動させる油圧機器とのそれぞれに必要流量のオイルを確実に供給することができる。
【0018】
従って、操作性を更に向上させながら複数の油圧機器の同時作動をより良好に行うことができる。
【0019】
本発明の第4の課題解決手段では、上記第1〜3の課題解決手段のいずれか一つにおいて、
前記非優先油圧セクションに備える前記優先分流弁に可変優先分流弁を採用し、
前記非優先油圧セクションに、前記優先度の高い電磁比例制御弁を複数備えるとともに前記優先度の高い各電磁比例制御弁にクローズドセンタ形のものを採用して、前記優先度の高い各電磁比例制御弁で構成する油圧ユニットを、ロードセンシング圧により前記可変優先分流弁の優先流量を調節するクローズド・ロードセンシング方式に構成してある。
【0020】
この課題解決手段によると、非優先油圧セクションに備えた優先度の高い複数の電磁比例制御弁のうちのいずれか1つ又は複数を操作して対応する油圧機器を作動させる場合には、そのときのロードセンシング圧により、可変優先分流弁の優先流量を対応する油圧機器の作動に必要な流量に適正に調節することができる。
【0021】
従って、構成の簡素化を図りながら複数の油圧機器の同時作動を良好に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】トラクタの全体左側面図である。
【図2】トラクタの油圧構成を示すブロック図である。
【図3】トラクタの油圧回路の概略図である。
【図4】トラクタの伝動系を示すブロック図である。
【図5】トラクタの制御構成を示すブロック図である。
【図6】昇降用の制御弁ユニットの構成を示す油圧回路図である。
【図7】ローリング用の制御弁ユニットの構成を示す油圧回路図である。
【図8】フロントローダ用の補助油圧ユニットの構成を示す油圧回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態の一例として、本発明に係る作業車の油圧ユニットを、作業車の一例であるトラクタに適用した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
図1に示すように、この実施形態で例示するトラクタは、左右一対の前輪1を操舵可能かつ駆動可能に装備し、左右一対の後輪2を駆動可能に装備して4輪駆動形式に構成してある。トラクタの前半部には、水冷式のディーゼルエンジン(以下、エンジンと称する)3など配備してある。トラクタの後半部には、前輪操舵用のステアリングホイール4及び運転座席5などを配備して搭乗運転部6を形成し、搭乗運転部6を覆うキャビン7を配備してある。
【0025】
図2及び図3に示すように、このトラクタには全油圧型のパワーステアリング装置8を備えている。つまり、左右の前輪1にはパワーステアリング装置8などを介してステアリングホール4を連係してある。又、このトラクタには油圧式に構成した前輪用のサスペンション装置9を装備してある。
【0026】
図4に示すように、エンジン3が出力する動力はトランスミッションケース(以下、T/Mケースと称する)10の内部に供給する。そして、T/Mケース10の内部において二重軸構造により走行用の動力と作業用の動力とに分ける。走行用の動力は、走行用のクラッチを兼ねる前後進切換装置11、主変速装置12、及び副変速装置13に伝達する。そして、副変速装置13が出力する動力を前輪駆動用の動力と後輪駆動用の動力とに分ける。前輪駆動用の動力は、前輪用変速装置14及び前輪用差動装置15などを介して左右の前輪1に伝達する。後輪駆動用の動力は、後輪用差動装置16などを介して左右の後輪2に伝達する。作業用の動力は、作業クラッチ17及び作業用変速装置18などを介して作業動力取り出し用のPTO軸19に伝達する。
【0027】
図示は省略するが、前後進切換装置11は、前後進切換装置11に備えた油圧ユニットの作動で、エンジン1から主変速装置12への伝動を遮断する遮断状態と、エンジン1からの動力を前進用の動力として主変速装置12に伝達する前進伝動状態と、エンジン1からの動力を後進用の動力として主変速装置12に伝達する後進伝動状態とに切り換わる油圧式に構成してある。前後進切換装置11の油圧ユニットには、前進動力断続用と後進動力断続用の2つの油圧クラッチ、対応する油圧クラッチに対するオイルの流れを切り換えるパイロット操作式の2つの切換弁、対応する切換弁に対するパロット圧を制御する2つの電磁オンオフ弁、及び、各油圧クラッチのクラッチ圧を制御する電磁比例減圧弁、などを備えている。
【0028】
主変速装置12は、主変速装置12に備えた主変速用の油圧ユニットの作動で、4段の変速状態と高低2段の変速状態との組み合わせによる8段の変速状態に切り換わる油圧式に構成してある。主変速用の油圧ユニットには、4段変速用の4つの油圧クラッチ、高低変速用の2つの油圧クラッチ、対応する4段変速用の油圧クラッチに対するオイルの流れを切り換えるパイロット操作式の4つの切換弁、対応する切換弁に対するパロット圧を制御する4つの電磁オンオフ弁、及び、対応する高低変速用の油圧クラッチのクラッチ圧を制御する2つの電磁比例減圧弁、などを備えている。
【0029】
副変速装置13は、副変速装置13に備えたスリーブの摺動で高低2段に切り換わるシンクロメッシュ式に構成してある。スリーブには、搭乗運転部6に備えた走行用の変速レバーに副変速用の機械式連係機構を介して連係してある。走行用の変速レバーは、低速位置と中立位置と高速位置の3位置に位置切り換え保持可能に構成してある。
【0030】
前輪用変速装置14は、前輪用変速装置14に備えた前輪変速用の油圧ユニットの作動で、左右の前輪1への伝動を遮断する遮断状態と、左右の前輪1の周速を左右の後輪2の周速と同じにする等速駆動状態と、左右の前輪1の周速を左右の後輪2の周速の約1.6倍に増速する増速駆動状態とに切り換わる油圧式に構成してある。前輪変速用の油圧ユニットには、等速動力断続用と増速動力断続用の2つの油圧クラッチ、対応する油圧クラッチに対するオイルの流れを切り換えるパイロット操作式の2つの切換弁、及び、対応する切換弁に対するパロット圧を制御する2つの電磁オンオフ弁、などを備えている。
【0031】
前輪用差動装置15には油圧式のデフロック機構を装備してある。デフロック機構は、前輪用差動装置15を差動許容状態と差動阻止状態とに切り換える油圧クラッチ、油圧クラッチに対するオイルの流れを切り換えるパイロット操作式の切換弁、及び、切換弁に対するパロット圧を制御する電磁オンオフ弁、などを備えている。
【0032】
後輪用差動装置16には油圧式のデフロック機構を装備してある。デフロック機構は、後輪用差動装置16を差動許容状態と差動阻止状態とに切り換える油圧クラッチ、油圧クラッチに対するオイルの流れを切り換えるパイロット操作式の切換弁、及び、切換弁に対するパロット圧を制御する電磁オンオフ弁、などを備えている。
【0033】
作業クラッチ17には油圧クラッチを採用してある。作業クラッチ17は、作業クラッチ17に対するオイルの流れを切り換える切換弁などの作動でエンジン1から作業用変速装置18への伝動を断続するように構成してある。切換弁は、搭乗運転部6に備えたクラッチレバーに作業クラッチ用の機械式連係機構を介して連係してある。クラッチレバーは、切り位置と入り位置の2位置に位置切り換え保持可能に構成してある。
【0034】
作業用変速装置18は、作業用変速装置18に備えたスリーブの摺動で高低2段に切り換わるシンクロメッシュ式に構成してある。スリーブは、搭乗運転部6に備えた作業用の変速レバーに作業変速用の機械式連係機構を介して連係してある。作業用の変速レバーは、低速位置と高速位置の2位置に位置切り換え保持可能に構成してある。
【0035】
図5に示すように、このトラクタには制御手段としての電子制御ユニット(以下、ECUと略称する)20を搭載してある。ECU20は、CPU及びEEPROMなどを備えたマイクロコンピュータを利用して構成してある。
【0036】
ECU20には、前後進切換装置11、主変速装置12、前輪用変速装置14、前輪用差動装置15、及び後輪用差動装置16などの作動を制御する走行用制御手段20Aを制御プログラムとして備えてある。
【0037】
走行用制御手段20Aは、前後進切り換え用のFRレバー21の操作位置を検出するFRセンサ22の出力に基づいて、前後進切換装置11の作動状態を切り換える前後進切り換え制御を行う。そして、前後進切り換え制御では、FRセンサ22がFRレバー21の前進位置への操作を検出すると、前後進切換装置11の前進伝動状態が得られるように前後進切換装置11に備えた2つの電磁オンオフ弁及び電磁比例減圧弁の作動を制御する。FRセンサ22がFRレバー21の後進位置への操作を検出すると、前後進切換装置11の後進伝動状態が得られるように前後進切換装置11に備えた2つの電磁オンオフ弁及び電磁比例減圧弁の作動を制御する。FRセンサ22がFRレバー21の前進位置及び後進位置への操作を検出していない間は、前後進切換装置11の遮断状態が得られるように前後進切換装置11に備えた2つの電磁オンオフ弁及び電磁比例減圧弁の作動を制御する。
【0038】
FRレバー21は、前進位置と後進位置の2位置に位置切り換え保持可能に構成して搭乗運転部6に配備してある。FRセンサ22は、前進位置検出用のマイクロスイッチ及び前進位置検出用のマイクロスイッチにより構成してある。
【0039】
走行用制御手段20Aは、クラッチペダル23の踏み込み操作量を検出するクラッチセンサ24の出力に基づいて、前後進切換装置11に備えた前進動力断続用と後進動力断続用の各油圧クラッチのクラッチ圧を制御するクラッチ制御を行う。そして、クラッチ制御では、クラッチセンサ24が検出するクラッチペダル23の踏み込み操作量に応じた適正なクラッチ圧が得られるように前後進切換装置11に備えた電磁比例減圧弁の作動を制御する。
【0040】
クラッチペダル23は、踏み込み解除位置に自動復帰するように構成して搭乗運転部6に配備してある。クラッチセンサ24には回転式のポテンショメータを採用してある。
【0041】
走行用制御手段20Aは、走行用の変速レバーに備えたシフトアップスイッチ25及びシフトダウンスイッチ26が出力する変速指令に基づいて、主変速装置12の変速段を切り換える変速制御を行う。そして、変速制御では、シフトアップスイッチ25からのシフトアップ指令を受けると、主変速装置12の変速段が高速側に切り換わるように主変速装置12に備えた4つの電磁オンオフ弁及び2つの電磁比例減圧弁の作動を制御する。シフトダウンスイッチ26からのシフトダウン指令を受けると、主変速装置12の変速段が低速側に切り換わるように主変速装置12に備えた4つの電磁オンオフ弁及び2つの電磁比例減圧弁の作動を制御する。シフトアップスイッチ25及びシフトダウンスイッチ26にはモーメンタリスイッチを採用してある。
【0042】
走行用制御手段20Aは、搭乗運転部6に備えた走行制御用の選択スイッチ27が出力する切り換え指令に基づいて、前輪用変速装置14に対して第1前輪変速制御を行う状態と第2前輪変速制御を行う状態と第3前輪変速制御を行う状態とに切り換わる。
【0043】
第1前輪変速制御では、前輪用変速装置14の遮断状態が得られるように前輪用変速装置14に備えた2つの電磁オンオフ弁の作動を制御してトラクタの駆動状態を2輪駆動状態に切り換える。
【0044】
第2前輪変速制御では、前輪用変速装置14の等速伝動状態が得られるように前輪用変速装置14に備えた2つの電磁オンオフ弁の作動を制御してトラクタの駆動状態を4輪駆動状態に切り換える。
【0045】
第3前輪変速制御では、舵角センサ28の出力に基づいて旋回内側の前輪1の舵角を判別する。そして、旋回内側の前輪1の舵角が設定角度未満であれば、前輪用変速装置14の等速伝動状態が得られるように前輪用変速装置14に備えた2つの電磁オンオフ弁の作動を制御してトラクタの駆動状態を4輪駆動状態に切り換える。又、旋回内側の前輪1の舵角が設定角度以上であれば、前輪用変速装置14の増速伝動状態が得られるように前輪用変速装置14に備えた2つの電磁オンオフ弁の作動を制御してトラクタの駆動状態を前輪増速状態に切り換える。
【0046】
選択スイッチ27にはモーメンタリスイッチを採用してある。舵角センサ28には、ピットマンアーム(図示せず)の左右方向への揺動角度を旋回内側の前輪1の舵角として検出する回転式のポテンショメータを採用してある。
【0047】
走行用制御手段20Aは、搭乗運転部6に備えたデフロックスイッチ29の出力に基づいて、前輪用差動装置15の作動状態を切り換える前輪差動切り換え制御を行う。そして、前輪差動切り換え制御では、デフロックスイッチ29の出力がオフであれば、前輪用差動装置15の差動許容状態が得られるように前輪用差動装置15に備えた電磁オンオフ弁の作動を制御する。デフロックスイッチ29の出力がオンであれば、前輪用差動装置15の差動阻止状態が得られるように前輪用差動装置15に備えた電磁オンオフ弁の作動を制御する。デフロックスイッチ29にはモーメンタリスイッチを採用してある。
【0048】
走行用制御手段20Aは、デフロックペダル30の操作位置を検出するデフロックスイッチ31の出力に基づいて、後輪用差動装置16の作動状態を切り換える後輪差動切り換え制御を行う。そして、後輪差動切り換え制御では、デフロックスイッチ31の出力がオフであれば、後輪用差動装置16の差動許容状態が得られるように後輪用差動装置16に備えた電磁オンオフ弁の作動を制御する。デフロックスイッチ31の出力がオンであれば、後輪用差動装置16の差動阻止状態が得られるように後輪用差動装置16に備えた電磁オンオフ弁の作動を制御する。
【0049】
デフロックペダル30は、踏み込み解除位置と踏み込み位置の2位置に切り換え保持可能に構成して搭乗運転部6に配備してある。デフロックスイッチ31にはモーメンタリスイッチを採用してある。
【0050】
図1及び図5に示すように、T/Mケース10の後部には作業装置連結用のリンク機構32を配備してある。リンク機構32は、T/Mケース10の後部に上下揺動可能に連結した上部リンク33及び左右の下部リンク34などから構成してある。
【0051】
図1〜3及び図5に示すように、このトラクタには、トラクタの後部にリンク機構32を介して連結したロータリ耕耘装置やプラウなどの作業装置(図示せず)を昇降駆動する昇降駆動装置40を装備してある。昇降駆動装置40は、T/Mケース10の後部に上下揺動可能に配備した作業装置昇降用の左右のリフトアーム41、左右のリフトアーム41を揺動駆動する左右の昇降シリンダ(油圧機器の一例)42、及び、左右の昇降シリンダ42に対するオイルの流れを制御する昇降用の制御弁ユニット43、などを備えて油圧式に構成してある。左右の昇降シリンダ42には単動型の油圧シリンダを採用してある。
【0052】
図6に示すように、昇降用の制御弁ユニット43には、昇降用の電磁比例制御弁44、左右のリフトアーム41(作業装置)の下降速度を調整する落下調整弁45、及び、リリーフ弁46などを備えてある。昇降用の電磁比例制御弁44は、上昇側のオイル流量を制御する上昇用の比例弁47、上昇用の比例弁47に対するパイロット圧を制御する上昇用の電磁パイロット弁48、下降側のオイル流量を制御する下降用の比例弁49、下降用の比例弁49に対するパイロット圧を制御する下降用の電磁パイロット弁50、下降用の比例弁49の操作に使用するオイルの流れを切り換えるシャトル弁51、左右の昇降シリンダ42から上昇用の比例弁47への逆流を防止するチェック弁52、及び、油圧を制御するコンペンセータ53、などによりパイロット操作式に構成してある。
【0053】
図5に示すように、ECU20には、昇降駆動装置40の作動を制御する昇降用制御手段20Bを制御プログラムとして備えてある。昇降用制御手段20Bは、高さ設定レバー54の操作位置を作業装置の制御目標高さとして検出するレバーセンサ55の出力に基づいて、作業装置を高さ設定レバー54の操作位置に対応する高さ位置に位置させる高さ制御を行う。又、昇降指令レバー56の中立位置から上昇位置又は下降位置への操作を検出するレバーセンサ57の出力に基づいて昇降指令レバー56の上昇位置への操作を検知した場合に、高さ制御に優先して作業装置を設定上限位置まで自動上昇させる上昇制御を行う。
【0054】
高さ制御では、昇降用制御手段20Bは、高さ設定レバー用のレバーセンサ55の出力と、リフトアーム41の揺動角を作業装置の高さとして検出するアームセンサ58の出力に基づいて、リフトアーム41の揺動角が高さ設定レバー54の操作位置に対応するように昇降駆動装置40に備えた昇降用の電磁比例制御弁44の作動を制御する。
【0055】
上昇制御では、昇降用制御手段20Bは、基準位置からの回動操作量を作業装置の制御目標上限位置として出力する上限設定器59の出力と、リフトアーム用のアームセンサ58の出力に基づいて、リフトアーム41の揺動角が上限設定器59の基準位置からの回動操作量に対応するように昇降駆動装置40に備えた昇降用の電磁比例制御弁44の作動を制御する。そして、昇降指令レバー用のレバーセンサ57の出力に基づいて昇降指令レバー56の下降位置への操作を検知した場合に、上昇制御の優先を解除して高さ制御を行う。
【0056】
つまり、高さ設定レバー54を操作することで、作業装置の高さを高さ設定レバー54の操作位置に応じた任意の高さに変更することができる。又、昇降指令レバー56を上昇位置に揺動操作することで、作業装置の高さを上限設定器59により設定した上限位置に変更することができる。そして、昇降指令レバー56を下降位置に揺動操作することで、作業装置の高さを高さ設定レバー54の操作位置に応じた任意の高さに戻すことができる。
【0057】
高さ設定レバー54は、位置保持可能な前後揺動式に構成して搭乗運転部6に配備してある。昇降指令レバー56は、中立復帰型の上下揺動式に構成して搭乗運転部6に配備してある。高さ設定レバー用のレバーセンサ55及びリフトアーム用のアームセンサ58には回転式のポテンショメータを採用してある。昇降指令レバー用のレバーセンサ57は、上昇操作検出用のマイクロスイッチ及び下降操作検出用のマイクロスイッチにより構成してある。上限設定器59は、回転式のポテンショメータによりダイヤル操作式に構成して搭乗運転部6に配備してある。
【0058】
図1〜3及び図5に示すように、このトラクタには、トラクタの後部にリンク機構32を介して連結したロータリ耕耘装置や代掻き装置などの作業装置をローリング方向に揺動駆動するローリング駆動装置60を装備してある。ローリング駆動装置60は、リンク機構32の左側の下部リンク34を左側のリフトアーム41に連結するターンバックル式の連係ロッド61、リンク機構32の右側の下部リンク34を右側のリフトアーム41に連結するローリングシリンダ(油圧機器の一例)62、及び、ローリングシリンダ62に対するオイルの流れを制御して連係ロッド61に対するローリングシリンダ62の長さを変更するローリング用の制御弁ユニット63、などを備えて油圧式に構成してある。ローリングシリンダ62には複動型の油圧シリンダを採用してある。
【0059】
図7に示すように、ローリング用の制御弁ユニット63には、パイロット操作式の優先分流弁64、ローリング用の電磁比例制御弁65、及び、カウンタバランス回路を構成するダブルチェック弁66、などを備えている。優先分流弁64は、作業装置のローリング駆動時に、ローリング用の制御弁ユニット63でのパイロット圧に基づいて適正な分流比に開度調節されることで、必要流量のオイルをローリング用の制御弁ユニット63に昇降用の制御弁ユニット43よりも優先的に供給するように構成してある。ローリング用の電磁比例制御弁65には直動式のものを採用してある。
【0060】
図5に示すように、ECU20には、ローリング駆動装置60の作動を制御するローリング用制御手段20Cを制御プログラムとして備えてある。ローリング用制御手段20Cは、搭乗運転部6に備えたローリング制御用の選択スイッチ67が出力する切り換え指令に基づいて、水平圃場において作業装置を任意のロール角度に維持する水平地用のローリング制御を行う状態と、傾斜圃場での等高線に沿った作業走行時において作業装置を任意のロール角度に維持する傾斜地用のローリング制御を行う状態とに切り換わる。
【0061】
水平地用のローリング制御では、搭乗運転部6に備えたロール角度設定器68の出力と、トラクタのロール角度を検出するローリングセンサ69の出力に基づいて、作業装置の対地ロール角度をロール角度設定器68で設定した制御目標ロール角度に維持するのに必要なトラクタに対する作業装置の制御目標ロール角度を演算する。そして、演算した制御目標ロール角度と、ローリングシリンダ62の長さを検出するストロークセンサ70の出力と、トラクタに対する作業装置の制御目標ロール角度とローリングシリンダ62の長さとを対応させたローリング制御用の相関関係データに基づいて、ローリングシリンダ62の長さがトラクタに対する作業装置の制御目標ロール角度に対応するようにローリング駆動装置60に備えたローリング用の電磁比例制御弁65の作動を制御する。
【0062】
これにより、水平圃場での作業走行時には、トラクタのローリングにかかわらず、作業装置の対地ロール角度をロール角度設定器68により設定した制御目標ロール角度に維持することができる。
【0063】
傾斜地用のローリング制御では、水平地用のローリング制御の場合と同様の制御作動を行ないながら、谷側に位置する前輪1と後輪2の沈下量や凹み量などを考慮して設定した補正値に基づいて、ロール角度設定器68が出力する作業装置の制御目標ロール角度を補正する。
【0064】
これにより、傾斜圃場において等高線に沿ってトラクタを走行させる作業走行時には、谷側車輪1,2の沈下量や凹み量などを考慮した好適なローリング制御を行なうことができる。その結果、傾斜圃場での作業走行時においても、トラクタのローリングにかかわらず作業装置の対地ロール角度をロール角度設定器68により設定した制御目標ロール角度に維持することができる。
【0065】
ローリング制御用の選択スイッチ67にはモーメンタリスイッチを採用してある。ロール角度設定器68は、回転式のポテンショメータによりダイヤル操作式に構成してある。ローリングセンサ69は、静電容量型の傾斜センサ及び振動型の角速度センサにより構成してある。ストロークセンサ70には摺動式のポテンショメータを採用してある。
【0066】
図2及び図3に示すように、このトラクタには、トラクタの後部にリンク機構32を介して連結したリバーシブルプラウなどの作業装置に備えた油圧機器(リバーシブルプラウの場合は反転シリンダ)の使用を可能にするための補助油圧ユニット71を装備してある。補助油圧ユニット71には、作業装置に備えた油圧機器の作動時に必要流量のオイルを補助油圧ユニット71にローリング用の制御弁ユニット63よりも優先的に供給するブリードオフ回路形の可変優先分流弁72、ロードセンシング機能を備えた第1制御弁ユニット(油圧ユニットの一例)73と第2制御弁ユニット(油圧ユニットの一例)74、及びリリーフ弁75、などを備えている。各制御弁ユニット73,74は、クローズドセンタ形でパイロット操作式の電磁比例制御弁76,77、圧力補償弁78,79、チェック弁80,81、及び、ロードセンシング用のシャトル弁82,83、など備えて、各制御弁ユニット73,74のロードセンシング圧により可変優先分流弁72の優先流量を適正に調節するクローズド・ロードセンシング方式に構成してある。
【0067】
図5に示すように、ECU20には、補助油圧ユニット71の作動を制御する補助油圧制御手段20Dを制御プログラムとして備えてある。補助油圧制御手段20Dは、搭乗運転部6に備えた第1補助レバー84の操作位置を検出するレバーセンサ85の出力に基づいて、第1制御弁ユニット73に接続した作業装置の油圧機器が第1補助レバー84の操作位置に対応した動作を行うように第1制御弁ユニット73に備えた電磁比例制御弁76を作動させる第1補助制御を行う。又、搭乗運転部6に備えた第2補助レバー86の操作位置を検出するレバーセンサ87の出力に基づいて、第2制御弁ユニット74に接続した作業装置の油圧機器が第2補助レバー86の操作位置に対応した動作を行うように第2制御弁ユニット74に備えた電磁比例制御弁77を作動させる第2補助制御を行う。
【0068】
第1補助レバー84及び第2補助レバー86は3位置に位置切り換え保持可能に構成してある。第1補助レバー用と第2補助レバー用の各レバーセンサ85,84は中立位置以外の2位置を検出する2つのマイクロスイッチにより構成してある。
【0069】
図2及び図3に示すように、パワーステアリング装置8、前輪用のサスペンション装置9、前後進切換装置11の油圧ユニット、主変速装置12の油圧ユニット、前輪用変速装置14の油圧ユニット、前輪用差動装置15のデフロック機構、後輪用差動装置16のデフロック機構、作業クラッチ17、昇降駆動装置40、ローリング駆動装置60、及び補助油圧ユニット71には、アキシャルプランジャー型の可変容量ポンプ88からのオイルを供給するように構成してある。可変容量ポンプ88は、エンジン3からの動力で作動することによりT/Mケース10に貯留したオイルを圧送する。
【0070】
可変容量ポンプ88からのオイルは、優先分流弁89を介して、パワーステアリング装置8、前輪用のサスペンション装置9、前後進切換装置11の油圧ユニット、主変速装置12の油圧ユニット、前輪用変速装置14の油圧ユニット、前輪用差動装置15のデフロック機構、後輪用差動装置16のデフロック機構、及び作業クラッチ17を備える優先油圧セクションAには、優先油圧セクションAにおいて必要な一定量のオイルを優先的に供給し、昇降駆動装置40、ローリング駆動装置60、及び補助油圧ユニット71を備える非優先油圧セクションBには余剰流を供給する。
【0071】
優先油圧セクションAにおいては、優先油圧セクションAに供給した設定量のオイルを2系統に分配する。そして一方では、圧力調整弁90及び優先分流弁91を介して設定量のオイルをパワーステアリング装置8に優先的に供給し、余剰流を前後進切換装置11及び主変速装置12の各油圧クラッチに潤滑用として供給するように構成してある。他方では、減圧弁92を介して、前輪用のサスペンション装置9、前後進切換装置11の油圧ユニット、主変速装置12の油圧ユニット、前輪用変速装置14の油圧ユニット、前輪用差動装置15のデフロック機構、後輪用差動装置16のデフロック機構、及び作業クラッチ17に供給する。
【0072】
非優先油圧セクションBにおいては、優先分流弁89からの余剰流を、補助油圧ユニット71の各制御弁ユニット73,74でのロードセンシング圧に基づいて適正な分流比に開度調節される可変優先分流弁72の作用によって補助油圧ユニット71に優先的に供給し、可変優先分流弁72からの余剰流を優先分流弁64の作用によってローリング用の制御弁ユニット63に優先的に供給し、優先分流弁64からの余剰流を昇降用の制御弁ユニット43に供給する。
【0073】
図5に示すように、ECU20には、可変容量ポンプ88の斜板角を変更して可変容量ポンプ88の吐出量を調節する吐出量制御手段20Eを制御プログラムとして備えている。吐出量制御手段20Eには、この油圧システムでのオイルの必要流量を演算する必要流量演算手段20Ea、可変容量ポンプ88の斜板角を変更することで可変容量ポンプ88の吐出量を調節する電動シリンダ(アクチュエータの一例)93の制御目標作動量を設定する目標作動量設定手段20Eb、及び、電動シリンダ93の作動を制御する作動制御手段20Ecを備えている。
【0074】
必要流量演算手段20Eaは、優先油圧セクションAに供給する優先分流弁89の優先流量、及び、非優先油圧セクションBの各電磁比例制御弁44,65,76,77に通電する電流量に基づいて、この油圧システムでのオイルの必要流量を演算する。
【0075】
目標作動量設定手段20Ebは、必要流量演算手段20Eaが演算したオイルの必要流量、エンジン回転数を検出する回転センサ94の出力、及び、可変容量ポンプ88の吐出量とエンジン回転数と電動シリンダ93の作動量との関係を示す相関関係データ、に基づいて、必要流量演算手段20Eaが演算したオイルの必要流量を得るための電動シリンダ93の制御目標作動量を求めて制御目標に設定する。又、電動シリンダ93の制御目標作動量を補正する第1補正制御及び第2補正制御を行う。第1補正制御では、T/Mケース10に貯留したオイルの温度を検出する油温センサ95の出力、及び、可変容量ポンプ88の吐出圧を検出する第1圧力センサ96の出力に基づいて、可変容量ポンプ88の容積効率を求め、求めた容積効率に基づいて電動シリンダ93の制御目標作動量を補正する。第2補正制御では、昇降駆動装置40に供給するオイルの圧力を検出する第2圧力センサ(オイル圧検出手段の一例)97の出力に基づいて昇降駆動装置40に供給するオイルの圧力が予め設定した所定圧に達するように電動シリンダ93の制御目標作動量を補正する。
【0076】
作動制御手段20Ecは、目標作動量設定手段20Ebが設定した電動シリンダ93の制御目標作動量に電動シリンダ93の作動量が達する(可変容量ポンプ88の斜板角が必要流量を得るのに適した斜板角になる)ように電動シリンダ93の作動を制御する。
【0077】
可変容量ポンプ88は、エンジン回転数がアイドリング回転数まで低下した場合であっても、優先油圧セクションAに供給する設定量のオイル量を確保できるように最低斜板角を機械的に制限してある。
【0078】
以上の構成から、吐出量制御手段20Eは、昇降駆動装置40とローリング駆動装置60と補助油圧ユニット71のいずれも作動させない場合は、優先油圧セクションAに供給する設定量のオイル量、及び、第2圧力センサ97の出力が所定圧に達するのに要するオイル量、が得られるように可変容量ポンプ88の斜板角を変更する。
【0079】
昇降駆動装置40のみを作動させる場合は、優先油圧セクションAに供給する設定量のオイル量、及び、昇降駆動装置40の作動に要するオイル量、が得られるように可変容量ポンプ88の斜板角を変更する。
【0080】
ローリング駆動装置60のみを作動させる場合は、優先油圧セクションAに供給する設定量のオイル量、ローリング駆動装置60の作動に要するオイル量、及び、第2圧力センサ97の出力が所定圧に達するのに要するオイル量、が得られるように可変容量ポンプ88の斜板角を変更する。
【0081】
補助油圧ユニット71のみを作動させる場合は、優先油圧セクションAに供給する設定量のオイル量、補助油圧ユニット71の作動に要するオイル量、及び、第2圧力センサ97の出力が所定圧に達するのに要するオイル量、が得られるように可変容量ポンプ88の斜板角を変更する。
【0082】
昇降駆動装置40とローリング駆動装置60とを作動させる場合は、優先油圧セクションAに供給する設定量のオイル量、昇降駆動装置40の作動に要するオイル量、及び、ローリング駆動装置60の作動に要するオイル量、が得られるように可変容量ポンプ88の斜板角を変更する。そして、この場合には、優先分流弁64及び可変優先分流弁72の作用により、昇降駆動装置40とローリング駆動装置60のそれぞれに必要流量のオイルを優先分流弁89の余剰流から適正に分配供給することができる。
【0083】
昇降駆動装置40と補助油圧ユニット71とを作動させる場合は、優先油圧セクションAに供給する設定量のオイル量、昇降駆動装置40の作動に要するオイル量、及び、補助油圧ユニット71の作動に要するオイル量、が得られるように可変容量ポンプ88の斜板角を変更する。そして、この場合には、優先分流弁64及び可変優先分流弁72の作用により、昇降駆動装置40と補助油圧ユニット71のそれぞれに必要流量のオイルを優先分流弁89の余剰流から適正に分配供給することができる。
【0084】
ローリング駆動装置60と補助油圧ユニット71とを作動させる場合は、優先油圧セクションAに供給する設定量のオイル量、ローリング駆動装置60の作動に要するオイル量、補助油圧ユニット71の作動に要するオイル量、及び、第2圧力センサ97の出力が所定圧に達するのに要するオイル量、が得られるように可変容量ポンプ88の斜板角を変更する。そして、この場合には、優先分流弁64及び可変優先分流弁72の作用により、ローリング駆動装置60と補助油圧ユニット71のそれぞれに必要流量のオイルを優先分流弁89の余剰流から適正に分配供給することができる。
【0085】
昇降駆動装置40とローリング駆動装置60と補助油圧ユニット71とを作動させる場合は、優先油圧セクションAに供給する設定量のオイル量、昇降駆動装置40の作動に要するオイル量、ローリング駆動装置60の作動に要するオイル量、及び、補助油圧ユニット71の作動に要するオイル量、が得られるように可変容量ポンプ88の斜板角を変更する。そして、この場合には、優先分流弁64及び可変優先分流弁72の作用により、昇降駆動装置40とローリング駆動装置60と補助油圧ユニット71のそれぞれに必要流量のオイルを優先分流弁89の余剰流から適正に分配供給することができる。
【0086】
又、補助油圧ユニット71の第1制御弁ユニット73と第2制御弁ユニット74とを同時に作動させる場合には、可変優先分流弁72の作用により、第1制御弁ユニット73と第2制御弁ユニット74のそれぞれに必要流量のオイルを適正に優先分流弁89の余剰流から分配供給することができる。
【0087】
更に、エンジン回転数の大幅な低下で可変容量ポンプ88の斜板制御ではオイルの必要流量を確保することができなくなった場合には、優先油圧セクションAに設定量のオイルを供給した後の優先分流弁89からの余剰流を、優先分流弁64及び可変優先分流弁72の作用により、昇降駆動装置40とローリング駆動装置60と補助油圧ユニット71のうちの作動させるものに、作動させるものに見合った適正な分流比で分配供給することができる。
【0088】
つまり、エンジン回転数にかかわらず、優先油圧セクションAにおいて必要となる設定量のオイルを確実に確保することができ、これにより、パワーステアリング装置8、及び、前後進切換装置11や主変速装置12などの伝動系に必要流量のオイルを確実に供給することができ、結果、パワーステアリング装置8に供給するオイル量が不足することによりステアリング操作が困難になる、又は、前後進切換装置11や主変速装置12などの伝動系に供給するオイル量が不足することにより不測に動力切れが発生する、などの不都合の発生を未然に回避することができる。
【0089】
又、エンジン回転数が大幅に低下しない限り、昇降駆動装置40とローリング駆動装置60と補助油圧ユニット71のそれぞれに必要流量のオイルを過不足なく供給することができ、これにより、省エネルギー化を図りながら、作業装置の昇降駆動、作業装置のローリング駆動、及び、作業装置に備えた油圧機器の駆動を適切に行うことができる。
【0090】
しかも、エンジン回転数が大幅に低下して、昇降駆動装置40とローリング駆動装置60と補助油圧ユニット71のそれぞれに対する必要流量のオイルを確保することができなくなった場合には、昇降駆動装置40とローリング駆動装置60と補助油圧ユニット71のうちの作動するものに、作動するものに見合った適正な分流比で優先分流弁89からの余剰流を分配供給することができ、結果、必要流量のオイルを確保することができなくなった場合でも、昇降駆動装置40とローリング駆動装置60と補助油圧ユニット71とを同時に作動させることができる。
【0091】
そして、可変容量ポンプ88の最低斜板角を機械的に制限することにより、電気的に制限する場合に招く虞のある断線などによって可変容量ポンプ88の最低斜板角を確保することができなくなる不都合の発生を防止することができる。
【0092】
このトラクタの前部には作業装置の一例であるフロントローダ(図示せず)を連結装備することができる。そして、フロントローダを連結装備する場合には、フロントローダの油圧駆動を可能にするためのフロントローダ用の補助油圧ユニット(油圧ユニットの一例)98〔図2参照〕を既設の補助油圧ユニット71の接続端に追加装備することができる。
【0093】
図8に示すように、フロントローダ用の補助油圧ユニット98には、ロードセンシング機能を備えたブーム操作用の制御弁ユニット99とバケット操作用の制御弁ユニット100とを備えている。そして、ブーム操作用の制御弁ユニット99には、クローズドセンタ形でパイロット操作式の電磁比例制御弁101、圧力補償弁102、チェック弁103、及び、ロードセンシング用のシャトル弁104、など備え、バケット操作用の制御弁ユニット100には、クローズドセンタ形でパイロット操作式の電磁比例制御弁105、圧力補償弁106、及びチェック弁107、など備えて、各制御弁ユニット99,100のロードセンシング圧により可変優先分流弁72の優先流量を適正に調節するクローズド・ロードセンシング方式に構成してある。
【0094】
そして、補助油圧ユニット71の接続端にフロントローダ用の補助油圧ユニット98を接続した状態では、それらの補助油圧ユニット71,98において対応するポンプ油路、パイロット油路、ロードセンシング油路、及びタンク油路を接続することができる。尚、フロントローダ用の補助油圧ユニット98をフロントローダに近い車体の前部側に配備する場合には、補助油圧ユニット71とフロントローダ用の補助油圧ユニット98とを油圧ホースなどを介して接続することができる。
【0095】
図5に示すように、ECU20には、フロントローダ用の補助油圧ユニット98の作動を制御するフロントローダ用の補助油圧制御手段20Fを制御プログラムとして追加装備することができる。フロントローダ用の補助油圧制御手段20Fは、搭乗運転部6に追加装備したブーム用の操作レバー108の操作位置を検出するレバーセンサ109の出力に基づいて、ブーム用の制御弁ユニット99に接続したブームシリンダ(油圧機器の一例)110がブーム用の操作レバー108の操作に対応した伸縮動作を行うようにブーム用の制御弁ユニット99に備えた電磁比例制御弁101を作動させるブーム駆動制御を行う。又、搭乗運転部6に追加装備したバケット用の操作レバー111の操作位置を検出するレバーセンサ112の出力に基づいて、バケット用の制御弁ユニット100に接続したバケットシリンダ(油圧機器の一例)113がバケット用の操作レバー111の操作に対応した伸縮動作を行うようにバケット用の制御弁ユニット100に備えた電磁比例制御弁105を作動させるバケット駆動制御を行う。
【0096】
ブーム用とバケット用の各操作レバー108,111は前後揺動式の中立復帰型に構成してある。ブーム用とバケット用の各レバーセンサ109,112には回転式のポテンショメータを採用してある。
【0097】
必要流量演算手段20Eaは、フロントローダを連結装備した場合には、フロントローダ用の補助油圧ユニット98が非優先油圧セクションBに属することから、優先油圧セクションAに供給する優先分流弁89の優先流量、及び、非優先油圧セクションBの各電磁比例制御弁44,65,76,77,101,102に通電する電流量に基づいて、この油圧システムでのオイルの必要流量を演算する。そして、目標作動量設定手段20Eb及び作動制御手段20Ecは前述した制御作動を行う。
【0098】
上記の構成から、フロントローダ用の補助油圧ユニット98を作動させる場合においても、エンジン回転数にかかわらず、優先油圧セクションAにおいて必要となる設定量のオイルを確実に確保することができ、パワーステアリング装置8、及び、前後進切換装置11や主変速装置12などの伝動系に必要流量のオイルを確実に供給することができる。
【0099】
又、エンジン回転数が大幅に低下しない限り、昇降駆動装置40とローリング駆動装置60と補助油圧ユニット71とフロントローダ用の補助油圧ユニット98のそれぞれに必要流量のオイルを過不足なく供給することが可能であり、これにより、省エネルギー化を図りながら、トラクタの後部に連結した作業装置の昇降駆動、トラクタの後部に連結した作業装置のローリング駆動、トラクタの後部に連結した作業装置に備えた油圧機器の駆動、及び、フロントローダの作動を適切に行うことができる。
【0100】
しかも、エンジン回転数が大幅に低下して、昇降駆動装置40とローリング駆動装置60と補助油圧ユニット71とフロントローダ用の補助油圧ユニット98のそれぞれに対する必要流量のオイルを確保することができなくなった場合には、昇降駆動装置40とローリング駆動装置60と補助油圧ユニット71とフロントローダ用の補助油圧ユニット98のうちの作動するものに、作動するものに見合った適正な分流比で優先分流弁89からの余剰流を分配供給することができ、結果、必要流量のオイルを確保することができなくなった場合でも、昇降駆動装置40とローリング駆動装置60と補助油圧ユニット71とフロントローダ用の補助油圧ユニット98とを同時に作動させることも可能である。
【0101】
そして、フロントローダ用の補助油圧ユニット98に備えたブーム用の制御弁ユニット99とバケット用の制御弁ユニット100とを同時に作動させる場合には、可変優先分流弁72の作用により、ブーム用の制御弁ユニット99とバケット用の制御弁ユニット100のそれぞれに必要流量のオイルを適正に優先分流弁89の余剰流から分配供給することができる。
【0102】
〔別実施形態〕
【0103】
〔1〕可変容量ポンプ88として、非平衡形ベーンポンプや可変容量ベーンポンプなどを採用するようにしてもよい。
【0104】
〔2〕優先油圧セクションAに備える油圧機器及び非優先油圧セクションBに備える油圧機器として種々の変更が可能である。例えば、優先油圧セクションAに備える油圧機器としては静油圧式の無段変速装置及びインテグラル形のパワーステアリング装置などであってもよい。又、非優先油圧セクションBに備える油圧機器としては、モーアなどの作業装置に備えた油圧駆動式の回転刃などの回転体を回転駆動する油圧モータなどであってもよい。
【0105】
〔3〕非優先油圧セクションBに備える全電磁比例制御弁44,65,76,77,101,105にオイル供給の優先順位を設定して、優先度の高い電磁比例制御弁と優先度の低い電磁比例制御弁との間のそれぞれに優先分流弁64,72を配備するように構成してもよい。
【0106】
〔4〕クローズド・ロードセンシング方式の油圧ユニット73,74,98を構成しない場合には、電磁比例制御弁44,65,76,77,101,105としてクローズドセンタ形とオープンセンタ形のどちらのものでも採用することができる。
【0107】
〔5〕可変容量ポンプ88の斜板角を変更するアクチュエータ93としては電動モータや油圧シリンダなどを採用することができる。
【0108】
〔6〕オイル圧検出手段97として圧力スイッチを採用してもよい。
【0109】
〔7〕優先分流弁64,72,89の構成としては種々の変更が可能であり、絞り弁により所定の優先分流量を確保する構造のものに限らず、例えば、リリーフ弁などによって所定の優先分流量を確保する構造のものや、差圧により所定の優先分流量を確保する構造のものなどを採用するようにしてもよい。
【0110】
〔8〕可変優先分流弁72の構成としては種々の変更が可能であり、可変優先分流弁72の上流側の圧力と油圧ユニット73,74,98のロードセンシング圧との差圧で優先流量を調節するものに代えて、例えば、可変絞りをパイロット操作することで優先流量を調節するように構成したものなどを採用するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明に係る作業車の油圧システムは、複数の油圧機器を備えるバックホーやホイールローダなどの作業車などに適用することができる。
【符号の説明】
【0112】
3 エンジン
20 制御手段
20Ea 必要流量演算手段
20Eb 目標作動量設定手段
20Ec 作動制御手段
42 油圧機器
44 電磁比例制御弁
62 油圧機器
65 電磁比例制御弁
72 優先分流弁(可変優先分流弁)
73 油圧ユニット
74 油圧ユニット
76 電磁比例制御弁
77 電磁比例制御弁
88 可変容量ポンプ
89 優先分流弁
93 アクチュエータ
94 回転センサ
95 油温センサ
96 圧力センサ
97 オイル圧検出手段
98 油圧ユニット
101 電磁比例制御弁
105 電磁比例制御弁
110 油圧機器
113 油圧機器
A 優先油圧セクション
B 非優先油圧セクション

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンからの動力で作動する可変容量ポンプと、前記可変容量ポンプが吐出したオイルの一定量を優先油圧セクションに優先的に供給し、余剰流を非優先油圧セクションに供給する優先分流弁を備え、
前記非優先油圧セクションに、前記非優先油圧セクションに備える複数の油圧機器に対するオイルの流れを制御する複数の電磁比例制御弁、及び、前記複数の電磁比例制御弁のうち、優先度の高い電磁比例制御弁に優先流を供給し、優先度の低い電磁比例制御弁に余剰流を供給する優先分流弁を装備し、
前記複数の電磁比例制御弁の作動を制御する制御手段に、前記優先油圧セクション及び前記非優先油圧セクションでのオイルの必要流量を演算する必要流量演算手段、前記可変容量ポンプの吐出量を調節するアクチュエータの制御目標作動量を設定する目標作動量設定手段、及び、前記アクチュエータの作動を制御する作動制御手段を備え、
前記必要流量演算手段は、前記優先油圧セクションに供給する前記優先分流弁の優先流量、及び、前記非優先油圧セクションの前記複数の電磁比例制御弁に通電する電流量に基づいて、前記優先油圧セクション及び前記非優先油圧セクションでのオイルの必要流量を演算し、
前記目標作動量設定手段は、前記必要流量演算手段が求めたオイルの必要流量、エンジン回転数を検出する回転センサの出力、及び、前記可変容量ポンプの吐出量とエンジン回転数と前記アクチュエータの作動量との関係を示す相関関係データに基づいて、前記必要流量演算手段が演算したオイルの必要流量を得るための前記アクチュエータの制御目標作動量を求めて制御目標に設定し、
前記作動制御手段は、前記目標作動量設定手段が設定した前記アクチュエータの制御目標作動量に前記アクチュエータの作動量が達するように前記アクチュエータの作動を制御するように構成してある作業車の油圧システム。
【請求項2】
前記目標作動量設定手段が、オイルの温度を検出する油温センサの出力、及び、前記可変容量ポンプの吐出圧を検出する圧力センサの出力に基づいて、前記可変容量ポンプの容積効率を求め、求めた容積効率に基づいて前記アクチュエータの制御目標作動量を補正するように構成してある請求項1に記載の作業車の油圧システム。
【請求項3】
最下流の電磁比例制御弁に供給するオイルの圧力を検出するオイル圧検出手段を備え、
前記目標作動量設定手段が、前記オイル圧検出手段の出力に基づいて前記最下流の電磁比例制御弁に供給するオイルの圧力が予め設定した所定圧に達するように前記アクチュエータの制御目標作動量を補正するように構成してある請求項1又は2に記載の作業車の油圧システム。
【請求項4】
前記非優先油圧セクションに備える前記優先分流弁に可変優先分流弁を採用し、
前記非優先油圧セクションに、前記優先度の高い電磁比例制御弁を複数備えるとともに前記優先度の高い各電磁比例制御弁にクローズドセンタ形のものを採用して、前記優先度の高い各電磁比例制御弁で構成する油圧ユニットを、ロードセンシング圧により前記可変優先分流弁の優先流量を調節するクローズド・ロードセンシング方式に構成してある請求項1〜3のいずれか一つに記載の作業車の油圧システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−214657(P2011−214657A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83086(P2010−83086)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】