作業車両の変速制御装置
【課題】HSTペダルの操作で車速調節部のトラニオン軸を駆動制御する場合に、過負荷時の誤操作によってもエンスト等による不安定な走行を回避して安定した作業走行が可能となる作業車両の変速制御装置を提供する。
【解決手段】作業車両の変速制御装置は、踏込操作が可能なHSTペダル5pと、HSTトラニオン軸の回動角に応じてエンジン動力を無段変速する車速調節部1dと、上記HSTペダルの踏込量に応じてHSTトラニオン軸の駆動制御をする変速制御部7とを備えて構成され、上記変速制御部7は、エンジン回転速度に応じて別途設定した範囲内でトラニオン軸の回動角を制御するものである。
【解決手段】作業車両の変速制御装置は、踏込操作が可能なHSTペダル5pと、HSTトラニオン軸の回動角に応じてエンジン動力を無段変速する車速調節部1dと、上記HSTペダルの踏込量に応じてHSTトラニオン軸の駆動制御をする変速制御部7とを備えて構成され、上記変速制御部7は、エンジン回転速度に応じて別途設定した範囲内でトラニオン軸の回動角を制御するものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペダル踏込量に応じて無段階に車速調節することができる作業車両の変速制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示されるように、車速指示用のHSTペダル、HST(静油圧式無段変速機構)により車速を無段調節する車速調節部、変速システムを統括する変速制御部等からなる作業車両の変速制御装置が知られている。この変速制御装置は、ペダルセンサによりペダル踏込量を検出し、また、HSTのトラニオンセンサによりトラニオン回動角度を検出し、変速制御部が、ペダル踏込量と対応してトラニオン軸の回動角度を制御することにより、オペレータのペダル操作に応じて作業車両の走行車速を調節することができる。
【特許文献1】特開平8−113046号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記変速制御装置は、坂道等の重負荷によって車両が加速しない状態において、オペレータが更にHSTペダルを踏み込んで増速操作をした場合は、踏込み量に応じた増速方向のトラニオン軸駆動制御による出力トルクの低下により却って走行困難となり、エンスト等による不安定な走行によって作業効率低下を招くという問題あった。
【0004】
解決しようとする問題点は、HSTペダルの操作で車速調節部のトラニオン軸を駆動制御する場合に、過負荷時におけるHSTペダルの増速操作によってもエンスト等による不安定な走行を回避して安定した作業走行が可能となる作業車両の変速制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、踏込操作が可能なHSTペダルと、トラニオン軸の回動角に応じてエンジン動力を静油圧式無段変速機構によって無段変速する車速調節部と、上記HSTペダルの踏込量に応じてトラニオン軸の駆動制御をする変速制御部とからなる作業車両の変速制御装置において、上記変速制御部は、エンジン回転速度に応じて別途設定した範囲内でトラニオン軸の回動角を制御することを特徴とする。
【0006】
上記変速制御装置は、エンジン回転速度と対応してトラニオンの角度規制を設け、例えば、エンジンの低速範囲についてトラニオン角度を小さく設定することにより、坂道等の重負荷によって車両が加速しない場合において、HSTペダルを過大に踏み込んでもトラニオン制御がその範囲内に規制される。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1の構成において、前記変速制御部は、エンジン回転速度が所定の低速範囲についてトラニオン軸を中立位置に駆動制御することを特徴とする。
上記変速制御装置は、エンジン回転速度が低速の場合には、トラニオン軸の回動角が中立に位置付けされて停車状態に保持される。
【発明の効果】
【0008】
請求項1のトラニオンの範囲規制により、エンジンの低回転範囲に適用すれば、坂道等の重負荷によって車両が加速しない場合にHSTペダルを過大に踏み込んでも、重負荷時の増速制御によるエンスト等の走行困難となる事態が回避されて走覇性が確保されるので、安定走行によって作業効率の向上が可能となる。
【0009】
請求項2のトラニオンの中立規制により、エンジン回転速度が低速の場合には、トラニオン軸の回動角が中立に位置付けされて停車状態に保持されることから、エンジン回転の低下でオイル供給が不足することによりHSTの故障を招く事態を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
上記技術思想に基づいて具体的に構成された実施の形態について以下に図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
本発明の適用対象となる多目的作業車は、その平面図(a)、側面図(b)を図1に示すように、モノコックフレームに左右の前輪8、8と左右の後輪9、9を操舵可能に支持し、一般的なトラクタの構成と前後を逆に、すなわち、エンジン6を機体後部に配置し、トランスミッション14を機体前部に配置する。その機体前部に操縦部2d、後部に荷台2tを構成し、かつ、作業機動力として機体前部にPTO軸13を備え、また、機体中間位置に車高検出機構2hを下垂状に構成する。
【0011】
また、操縦部2dには、その要部斜視図を図1(c)に示すように、ハンドルコラム2cを立設してステアリングハンドルSを設け、ハンドルコラム2cの左側部に前後進切換レバーR、ハンドルコラム2cの基部にはその右側位置にHSTペダル5、左側位置にブレーキペダルB等の操作手段をそれぞれ配置する。
【0012】
トランスミッション14は、後に詳述するように、「HST」と略称する静油圧式無段変速機構1およびギヤ式の変速機構14aを直列に内設して前後輪8,9とPTO出力軸13に駆動力を伝動する。前後進切換レバーRを操作してHSTペダル5を踏むと、エンジン6からの動力はトランスミッション14内の無段変速機構1で変速され、さらに、変速機構14aで変速されて、後輪9、9または、後輪9、9および前輪8、8に伝達され、機体は前進または後進する。また、ブレーキペダルBを踏むと前輪8、8と後輪9、9のディスクブレーキ(図示せず)を作動させるとともに、HSTの可変油圧ポンプのトラニオン軸Hを中立に戻し、HSTの定量油圧モータからの出力を停止する。また、HSTペダル5とブレーキペダルBを同時に踏むとブレーキペダルBを優先する。
【0013】
PTO軸13には各種の作業機を接続して多目的作業を可能とする。例えば、路上清掃機を設けて路上清掃を行ったり、芝刈機を付けて芝刈作業を行ったり、雪掻機を設けて除雪などの作業を行う。
【0014】
次に、ミッションケース14の内部構造を図2乃至図5で説明する。
ミッションケース14は、図2に示す如く、前ケース15、繋ぎケース16、中間ケース17、後ケース18の4つの中空ケースを連結した構成で、後ケース18に軸支した入力軸19にエンジン6の駆動力が入力し、この入力軸19の回転がインプットケース20内の増速ギア21,22で第一中継軸23へ伝動し、さらに増速ギア24,25で増速され、この増速ギア25に無段変速機構1の油圧入力軸38をスプライン嵌合している。繋ぎケース16は従来の前ケース15と中間ケース17を連結してミッションケース14を長くするもので、前ケース15と中間ケース17及び後ケース18を従来のミッションケースと共用化することで製作コストを低く出来る。
【0015】
増速ギア21,22と増速ギア24,25を内装するインプットケース20は、高速走行を可能にするためにエンジン6の出力回転を増速するために設けるもので、従来のトラクタのミッションケース14内に伝動機構を収納可能にしている。このインプットケース20は図4に示す如く、密封ケースにしてミッションケース14の外部へ通じる給油管からオイルを給油するようにすれば、増速ギア21,22,24,25の修理の際にミッションケース14内のオイルを抜かずにインプットケース20のみを取り外せるので、作業が楽になる。
【0016】
無段変速機構1の内部では油圧変速により出力を大きく無段階で変速して、PTO駆動軸26と走行駆動軸27の二つの軸へ出力する。
PTO駆動軸26にはPTOギア軸28を連結し、このPTOギア軸28のギア29と第二中継軸30に遊嵌したギア31を噛み合わせ、このギア31をPTO軸32に装着したPTOクラッチ34のギア33に噛み合わせている。PTOクラッチ34はギア33からPTO軸32への回転伝動を断続する。
【0017】
PTO軸32にはPTO延長軸35を連結し、このPTO延長軸35のギア36をPTO出力軸13にスプライン嵌合したクラッチギア37に噛み合わせてPTO出力軸13を駆動している。(図2参照)
PTOクラッチ34の詳細を図5に示しているが、クラッチ入ではクラッチ盤88が繋がってケーシング86が回転して伝動するが、クラッチ切では戻しバネ87の圧でクラッチ盤88が離れてケーシング86をフリーにする。この時にケーシング86の付き回りを防ぐ為に繋ぎケース16のボス部81に当接する係止リング85をケーシング86の外周に装着している。
【0018】
走行駆動軸27には第三中継軸39を連結し、この第三中継軸39に固着したギア40ヘギア41,42を噛み合わせて第四中継軸43に伝動する。第四中継軸43にはメインギア軸44を連結している。
【0019】
メインギア軸44には、大ギア45と中ギア46を一体的に固着し、このメインギア軸44の延長上にサブギア軸47を分離して回転可能に軸支している。このサブギア軸47には小ギア48と大ギア74及び走行伝動ギア75を一体的に固着している。従って、大ギア45と中ギア46は同一回転をし、小ギア48と大ギア74及び走行伝動ギア75は後述するクラッチギア77からの回転を受ける。(図5参照)
大ギア45はクラッチ軸49に装着した高速油圧クラッチYHのギア50と噛み合い、中ギア46はクラッチ軸49に装着した低速油圧クラッチYLのギア53と噛み合い、メインギア軸44の回転をクラッチ軸49へ高速或いは低速で伝動する。
【0020】
クラッチ軸49の延長上にスプライン軸76をスプライン嵌合し、このスプライン軸76にクラッチギア77をスプライン嵌合して、クラッチ軸49の回転をクラッチギア77に伝動している。また、クラッチ軸49を支持する繋ぎケース16のボス部81にはクラッチ軸49の油圧孔に通じる油圧用孔82,83,84を設けて、高速油圧クラッチ51と低速油圧クラッチ52に作動油を送るようにしている。
【0021】
クラッチギア77には大ギア78と小ギア73を形成し、大ギア78が前記サブギア軸47の小ギア48に噛み合って増速伝動して高速ギアクラッチGHを構成したり、小ギア79がサブギア軸47の大ギア74に噛み合って減速伝動して低速ギアクラッチGLを構成したり、大ギア78と小ギア79が共に游転して動力切になるようにしてギア変速クラッチ3を構成している。
【0022】
クラッチ軸49の走行伝動ギア75は、スプライン軸76に遊嵌したベベルギア軸62にスプライン嵌合した走行ギア56に噛み合ってベベルギア軸62を駆動している。ベベルギア軸62のベベルギア63が前輪8の車軸へ装着したべベルギアへ駆動力を伝動するのである。
【0023】
ベベルギア軸62は、高速油圧クラッチYHからクラッチギア77の大ギア78とサブギア軸47の小ギア48への伝動による四速か、高速油圧クラッチYHからクラッチギア77の小ギア79とサブギア軸47の大ギア74への伝動による三速か、低速油圧クラッチYLからクラッチギア77の大ギア78とサブギア軸47の小ギア48への伝動による二速か、低速油圧クラッチYLからクラッチギア77の小ギア79とサブギア軸47の大ギア74への伝動による一速かのどれかで回転することになる。
【0024】
また、ベベルギア軸62の回転は、走行ギア56からPTO軸32に装着した大小ギア59の小ギア部57へ伝動し、さらに大ギア部58に噛み合う後輪駆動軸61のクラッチギア60で適宜に後輪9へ駆動力を伝動可能にしている。
【0025】
走行ギア56は、ベベルギア軸62に伝動すると共に大小ギア59を介して後輪駆動軸61へ伝動しているので、伝動構成を単純化して前後に長くなるのを防いでいる。
尚、高速油圧クラッチYHと低速油圧クラッチYLはコントローラからの制御信号によりソレノイドを介してどちらかを入に保持するのであるが、ブレーキペダルの踏み込みを検出するスイッチ96を設けて、このスイッチ96の踏込み信号で高速油圧クラッチYHと低速油圧クラッチYLのソレノイドへの電力を断って両クラッチ51,52をニュートラルにするようにしている。このニュートラルの状態でブレーキを作用することで素早く停止でき、ギア変速クラッチ3の切換えがスムースに行える。
【0026】
また、クラッチ軸49を支持する繋ぎケース16のボス部81にはクラッチ軸49の油圧孔に通じる油圧用孔82,83,84を設けて、高速油圧クラッチYHと低速油圧クラッチYLに作動油を送るようにしている。
【0027】
図6は、変速レバー4を示し、変速溝96を中央のニュートラル位置Nから前後H、Lに回動することで前記のギア変速クラッチ3を高速ギアクラッチ入か低速ギアクラッチ入に変速し、この変速レバー4のグリップ80の頭部に設ける増速ボタン81を押すと高速油圧クラッチYHを入動作し、減速ボタン82を押すと低速油圧クラッチYLを入動作する。
【0028】
また、変速溝96には変速レバー4の位置を検出するセンサ90H,Lを設けて、変速レバー4が低速位置Lから高速位置Hに移動すると高速油圧クラッチYHが入であっても切にして、低速油圧クラッチYLが入になって三速になり、高速位置Hから低速位置Lに移動すると低速油圧クラッチYLが入であっても切にして、高速油圧クラッチYHが入になって二速になるようマイコン制御を行っている。なお、高速油圧クラッチYHを入りにする場合には、HSTペダル5が3/4以上踏込まれて無段変速機構が高速であれば一旦低速にして変速ショックを低減させる。また、レバー4が低速位置Lで減速ボタン82を押すと一速になり、レバー4が高速位置Hで増速ボタン81を押すと四速になる。
【0029】
(変速制御)
次に、変速制御について説明する。
作業車両の変速制御は、そのシステム構成図を図7に示すように、無段変速機構1について前後進の切替えおよび無段階に伝動比を調節するためのトラニオン軸Hを回動するモータ1mと、同トラニオン軸Hの回動角度を検出するトラニオンポジションセンサ1pを設けて車速調節部1dを構成する。この車速調節部1dを制御するために変速制御部7を設けて変速制御装置を構成する。また、上記制御部7には、回転センサ6rを備えたエンジン6から回転速度を、ペダルポジションセンサ5pを備えたHSTペダル5から踏込量を、ブレーキセンサを備えたブレーキペダルBからその操作量を入力するほか、車速調節部1dのトラニオンポジションセンサ1pから回動量を、それぞれ入力する。
【0030】
変速制御部7は、エンジン回転速度に応じてトラニオン指示角度Tを規制角度X内に規制するべく制御処理し、重負荷によってエンジンドロップした場合にトラニオン指示角度Tを小さくする。例えば、トラニオン規制特性図を図8に示すように、2つの回転速度n1,n2に折れ点を有する折れ線とし、特に、低速側の回転速度n1以下の低速範囲でトラニオン指示角度Tを規制指示するように規制特性を設定する。
【0031】
具体的な制御処理は、フローチャートを図9に示すように、回転センサ6rによるエンジン回転速度、HSTペダル5のペダル操作量、トラニオン軸Hの角度をそれぞれ検出することにより、HSTペダル5の操作量と対応するトラニオン角度であるペダル対応角度Y、上記トラニオン規制特性に基づきエンジン回転速度に応じて算出した規制角度X、トラニオンセンサ角度Zをセット(S1〜S4)する。次いで、トラニオン指示角度Tを上記規制角度Xの範囲内に定めるべく、ペダル対応角度Yが規制角度Xを越える場合に限り、同ペダル対応角度Yに代えて規制角度Xを採用することによってトラニオン指示角度Tを決定する(S5,S5a、S5b)。次いで、このトラニオン指示角度Tにトラニオンセンサ角度Zが一致するようにトラニオン軸Hを駆動制御(S6,S6a〜S6c)する。
【0032】
このように、エンジン回転速度と対応してその低速範囲にトラニオン規制を設けることにより、坂道等の重負荷によって車両が加速しない場合に更にHSTペダル5を踏み込んで増速操作しても、重負荷時の増速制御によって走行困難となる事態を防止して走覇性を確保することができ、エンストすることのない安定走行によって作業効率の向上が可能となる。
【0033】
また、エンジン回転が基準より低い時のトラニオン制御は、図10の規制特性図に示すように、エンジン回転が所定の基準回転n3より低い時にトラニオン軸Hを中立位置に保持するように設定する。すなわち、エンジン回転が基準回転n3以上でないと、ニュートラル状態からトラニオン軸Hが回動しないように構成する。具体的には、フローチャートを図11に示すように、エンジン回転速度が基準回転速度n3に満たないときはトラニオン指示角度T=0(S11,S12)としてトラニオンを駆動制御する。
【0034】
このように、エンジン回転速度が基準より低速の場合には、トラニオン軸Hの回動角が中立に位置付けされて停車状態に保持されることから、エンジン回転の低下で効率が低下し、オイル供給が不足することにより無段変速機構1の故障を招く事態を回避することができる。
【0035】
次に、ブレーキ操作対応のトラニオン制御について説明する。
このトラニオン制御は、ブレーキペダルBの操作信号を制御部7に送り、制御部7によりブレーキ操作と対応してトラニオン軸Hを中立に制御する。その具体的な制御処理は、図12のフローチャートに示すように、ブレーキ操作を検出するブレーキスイッチの信号によってトラニオン指示角度T=0とする制御処理(S21,S22)を構成することにより、図13のタイミングチャートに示すように、ブレーキペダルBを踏んだ時t1にトラニオン軸Hをニュートラルに制御して停止車速とすることができ、安全性を向上することができる。
なお、上記ブレーキ対応制御によって停車した場合は、HSTペダル5を戻した上で再度HSTペダル5を操作した時t2にトラニオン軸Hを駆動制御することによって前進を再開する。
【0036】
また、ブレーキBの操作量に応じてトラニオン指示角度Tを規制するように構成した場合は、例えば、規制特性図を図14に示すように、ブレーキペダルBの操作量がb1〜b2の範囲でトラニオン指示角度Tをx1〜x2の範囲に対応規制する傾斜線特性を設定する。具体的な制御処理は、フローチャートを図15に示すように、ブレーキ操作量BP、ペダル対応角度Y、トラニオン角度Zを検出するとともに、ブレーキ操作量BPに応じた規制角度Xを上記規制特性に沿って算出処理(S31〜S34)し、この範囲内でトラニオン指示角度Tを規制処理(S35,S35a、S35b)する。
このようにしてブレーキ操作量対応のトラニオン規制制御を行うことにより、坂道発進などで後退防止のためにブレーキペダルBを踏みながら安定して発進することができる。
【0037】
次に、HSTペダルのセンサ故障対応について説明する。
HSTペダル5の操作を検出するセンサが故障すると、同ペダルが実際に中立に戻っていても機体走行が止まらないという事態を招くこことがある。この問題を解決するために、トラニオン制御は、そのシステム構成図を図16に示すように、ポジションセンサ5pによってHSTペダル5の位置を検出するとともに、HSTペダル5の中立位置を検出するスイッチ5sを設けて二重化し、HSTペダル5が中立位置または操作状態にあることを一方のセンサが検出した時に、他方のセンサが同一状態を検出していない時は、トラニオン軸Hを中立位置に駆動して停車するように制御処理を構成する。このような制御システムを構成することにより、センサ故障によってペダル位置を誤検出した場合に、HSTペダル5が実際に中立に戻っていても走行が止まらないという不具合を解消することができる。
【0038】
また、上記の場合において、トラニオン軸Hを中立位置に駆動して停車した後に、ペダルポジションセンサ5pまたはペダル中立スイッチ5sが中立状態から操作状態に変化した場合に、チェックスイッチCの信号によりチェックモードであればトラニオン軸Hを前進側または後進側に駆動するように構成する。このように、チェックモードを条件としてトラニオン制御を行うことにより、停車後の再走行が可能となるので、修理等が容易に行えるようになる。
【0039】
また、トラニオン軸Hに2つのトラニオンポジションセンサ1p,1pを設けて二重化し、通常はトラニオン軸Hを駆動したときのトラニオン角度の変化量を検出し、変化量が所定値内にあればその大きい側のセンサを使用する。この場合において、両センサ1p,1pの一方が断線やショート状態にあることを検出した時は値の大小に関係なく他方のセンサを使用して制御する。また、両方のセンサ1p,1pが故障した時は車速センサVを使用して機体を停車させた上で、ペダル操作を検出した時にチェックモードであればトラニオン軸Hを前進側または後進側に駆動するように構成する。このように、チェックモードを条件としてトラニオン制御を行うことにより、前例と同様に、停車後に再走行が可能となるので、修理等が容易に行えるようになる。
【0040】
次に、停車時のトラニオン制御について説明する。
HSTの油圧回路図を図17に示すように、HST内ポンプP部の圧力を圧力センサP1,P2により検出し、図18のシステム構成図に示すように、上記圧力センサP1,P2の信号により、トラニオン軸Hを中立に位置付けた時に当該圧力が一定値以上であれば、一定値以下になるようにトラニオン軸Hを駆動制御する。上記構成の制御システムは、HSTの圧力検出によって微速動作を判別することができるので、トラニオンポジションセンサ1pによってトラニオン軸Hを中立に位置付けする際に確実に停車させることにより、本機が微速で動くことによる危険性を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】多目的作業車の平面図(a)、側面図(b)および要部斜視図(c)
【図2】トランスミッションの軸線展開図
【図3】図2のトランスミッションの要部拡大軸線展開図
【図4】図2のトランスミッションの無段変速部拡大図
【図5】図2のトランスミッションの変速機構部拡大図
【図6】変速レバーの斜視図
【図7】作業車両の変速制御システム構成図
【図8】トラニオン規制特性図
【図9】制御処理のフローチャート
【図10】エンジン回転が低い時のトラニオン制御の規制特性図
【図11】図10の規制特性による制御処理のフローチャート
【図12】ブレーキ操作対応のトラニオン軸の制御処理のフローチャート
【図13】図12の制御によるタイミングチャート
【図14】ブレーキ操作量対応のトラニオン制御の規制特性図
【図15】図14のの規制特性による制御処理のフローチャート
【図16】HSTペダルのセンサ故障対応のシステム構成図
【図17】HSTの油圧回路図
【図18】停車制御のシステム構成図
【符号の説明】
【0042】
1 静油圧式無段変速機構(HST)
1d 車速調節部
1m モータ
1p トラニオンポジションセンサ
5 HSTペダル
5p HSTペダルポジションセンサ
5s スイッチ(ペダル中立センサ)
6 エンジン
6r 回転センサ
7 変速制御部
n1,n2 回転速度
n3 基準回転速度
H トラニオン軸
T トラニオン指示角度
X 規制角度
Y ペダル対応角度
Z トラニオンセンサ角度
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペダル踏込量に応じて無段階に車速調節することができる作業車両の変速制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示されるように、車速指示用のHSTペダル、HST(静油圧式無段変速機構)により車速を無段調節する車速調節部、変速システムを統括する変速制御部等からなる作業車両の変速制御装置が知られている。この変速制御装置は、ペダルセンサによりペダル踏込量を検出し、また、HSTのトラニオンセンサによりトラニオン回動角度を検出し、変速制御部が、ペダル踏込量と対応してトラニオン軸の回動角度を制御することにより、オペレータのペダル操作に応じて作業車両の走行車速を調節することができる。
【特許文献1】特開平8−113046号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記変速制御装置は、坂道等の重負荷によって車両が加速しない状態において、オペレータが更にHSTペダルを踏み込んで増速操作をした場合は、踏込み量に応じた増速方向のトラニオン軸駆動制御による出力トルクの低下により却って走行困難となり、エンスト等による不安定な走行によって作業効率低下を招くという問題あった。
【0004】
解決しようとする問題点は、HSTペダルの操作で車速調節部のトラニオン軸を駆動制御する場合に、過負荷時におけるHSTペダルの増速操作によってもエンスト等による不安定な走行を回避して安定した作業走行が可能となる作業車両の変速制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、踏込操作が可能なHSTペダルと、トラニオン軸の回動角に応じてエンジン動力を静油圧式無段変速機構によって無段変速する車速調節部と、上記HSTペダルの踏込量に応じてトラニオン軸の駆動制御をする変速制御部とからなる作業車両の変速制御装置において、上記変速制御部は、エンジン回転速度に応じて別途設定した範囲内でトラニオン軸の回動角を制御することを特徴とする。
【0006】
上記変速制御装置は、エンジン回転速度と対応してトラニオンの角度規制を設け、例えば、エンジンの低速範囲についてトラニオン角度を小さく設定することにより、坂道等の重負荷によって車両が加速しない場合において、HSTペダルを過大に踏み込んでもトラニオン制御がその範囲内に規制される。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1の構成において、前記変速制御部は、エンジン回転速度が所定の低速範囲についてトラニオン軸を中立位置に駆動制御することを特徴とする。
上記変速制御装置は、エンジン回転速度が低速の場合には、トラニオン軸の回動角が中立に位置付けされて停車状態に保持される。
【発明の効果】
【0008】
請求項1のトラニオンの範囲規制により、エンジンの低回転範囲に適用すれば、坂道等の重負荷によって車両が加速しない場合にHSTペダルを過大に踏み込んでも、重負荷時の増速制御によるエンスト等の走行困難となる事態が回避されて走覇性が確保されるので、安定走行によって作業効率の向上が可能となる。
【0009】
請求項2のトラニオンの中立規制により、エンジン回転速度が低速の場合には、トラニオン軸の回動角が中立に位置付けされて停車状態に保持されることから、エンジン回転の低下でオイル供給が不足することによりHSTの故障を招く事態を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
上記技術思想に基づいて具体的に構成された実施の形態について以下に図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
本発明の適用対象となる多目的作業車は、その平面図(a)、側面図(b)を図1に示すように、モノコックフレームに左右の前輪8、8と左右の後輪9、9を操舵可能に支持し、一般的なトラクタの構成と前後を逆に、すなわち、エンジン6を機体後部に配置し、トランスミッション14を機体前部に配置する。その機体前部に操縦部2d、後部に荷台2tを構成し、かつ、作業機動力として機体前部にPTO軸13を備え、また、機体中間位置に車高検出機構2hを下垂状に構成する。
【0011】
また、操縦部2dには、その要部斜視図を図1(c)に示すように、ハンドルコラム2cを立設してステアリングハンドルSを設け、ハンドルコラム2cの左側部に前後進切換レバーR、ハンドルコラム2cの基部にはその右側位置にHSTペダル5、左側位置にブレーキペダルB等の操作手段をそれぞれ配置する。
【0012】
トランスミッション14は、後に詳述するように、「HST」と略称する静油圧式無段変速機構1およびギヤ式の変速機構14aを直列に内設して前後輪8,9とPTO出力軸13に駆動力を伝動する。前後進切換レバーRを操作してHSTペダル5を踏むと、エンジン6からの動力はトランスミッション14内の無段変速機構1で変速され、さらに、変速機構14aで変速されて、後輪9、9または、後輪9、9および前輪8、8に伝達され、機体は前進または後進する。また、ブレーキペダルBを踏むと前輪8、8と後輪9、9のディスクブレーキ(図示せず)を作動させるとともに、HSTの可変油圧ポンプのトラニオン軸Hを中立に戻し、HSTの定量油圧モータからの出力を停止する。また、HSTペダル5とブレーキペダルBを同時に踏むとブレーキペダルBを優先する。
【0013】
PTO軸13には各種の作業機を接続して多目的作業を可能とする。例えば、路上清掃機を設けて路上清掃を行ったり、芝刈機を付けて芝刈作業を行ったり、雪掻機を設けて除雪などの作業を行う。
【0014】
次に、ミッションケース14の内部構造を図2乃至図5で説明する。
ミッションケース14は、図2に示す如く、前ケース15、繋ぎケース16、中間ケース17、後ケース18の4つの中空ケースを連結した構成で、後ケース18に軸支した入力軸19にエンジン6の駆動力が入力し、この入力軸19の回転がインプットケース20内の増速ギア21,22で第一中継軸23へ伝動し、さらに増速ギア24,25で増速され、この増速ギア25に無段変速機構1の油圧入力軸38をスプライン嵌合している。繋ぎケース16は従来の前ケース15と中間ケース17を連結してミッションケース14を長くするもので、前ケース15と中間ケース17及び後ケース18を従来のミッションケースと共用化することで製作コストを低く出来る。
【0015】
増速ギア21,22と増速ギア24,25を内装するインプットケース20は、高速走行を可能にするためにエンジン6の出力回転を増速するために設けるもので、従来のトラクタのミッションケース14内に伝動機構を収納可能にしている。このインプットケース20は図4に示す如く、密封ケースにしてミッションケース14の外部へ通じる給油管からオイルを給油するようにすれば、増速ギア21,22,24,25の修理の際にミッションケース14内のオイルを抜かずにインプットケース20のみを取り外せるので、作業が楽になる。
【0016】
無段変速機構1の内部では油圧変速により出力を大きく無段階で変速して、PTO駆動軸26と走行駆動軸27の二つの軸へ出力する。
PTO駆動軸26にはPTOギア軸28を連結し、このPTOギア軸28のギア29と第二中継軸30に遊嵌したギア31を噛み合わせ、このギア31をPTO軸32に装着したPTOクラッチ34のギア33に噛み合わせている。PTOクラッチ34はギア33からPTO軸32への回転伝動を断続する。
【0017】
PTO軸32にはPTO延長軸35を連結し、このPTO延長軸35のギア36をPTO出力軸13にスプライン嵌合したクラッチギア37に噛み合わせてPTO出力軸13を駆動している。(図2参照)
PTOクラッチ34の詳細を図5に示しているが、クラッチ入ではクラッチ盤88が繋がってケーシング86が回転して伝動するが、クラッチ切では戻しバネ87の圧でクラッチ盤88が離れてケーシング86をフリーにする。この時にケーシング86の付き回りを防ぐ為に繋ぎケース16のボス部81に当接する係止リング85をケーシング86の外周に装着している。
【0018】
走行駆動軸27には第三中継軸39を連結し、この第三中継軸39に固着したギア40ヘギア41,42を噛み合わせて第四中継軸43に伝動する。第四中継軸43にはメインギア軸44を連結している。
【0019】
メインギア軸44には、大ギア45と中ギア46を一体的に固着し、このメインギア軸44の延長上にサブギア軸47を分離して回転可能に軸支している。このサブギア軸47には小ギア48と大ギア74及び走行伝動ギア75を一体的に固着している。従って、大ギア45と中ギア46は同一回転をし、小ギア48と大ギア74及び走行伝動ギア75は後述するクラッチギア77からの回転を受ける。(図5参照)
大ギア45はクラッチ軸49に装着した高速油圧クラッチYHのギア50と噛み合い、中ギア46はクラッチ軸49に装着した低速油圧クラッチYLのギア53と噛み合い、メインギア軸44の回転をクラッチ軸49へ高速或いは低速で伝動する。
【0020】
クラッチ軸49の延長上にスプライン軸76をスプライン嵌合し、このスプライン軸76にクラッチギア77をスプライン嵌合して、クラッチ軸49の回転をクラッチギア77に伝動している。また、クラッチ軸49を支持する繋ぎケース16のボス部81にはクラッチ軸49の油圧孔に通じる油圧用孔82,83,84を設けて、高速油圧クラッチ51と低速油圧クラッチ52に作動油を送るようにしている。
【0021】
クラッチギア77には大ギア78と小ギア73を形成し、大ギア78が前記サブギア軸47の小ギア48に噛み合って増速伝動して高速ギアクラッチGHを構成したり、小ギア79がサブギア軸47の大ギア74に噛み合って減速伝動して低速ギアクラッチGLを構成したり、大ギア78と小ギア79が共に游転して動力切になるようにしてギア変速クラッチ3を構成している。
【0022】
クラッチ軸49の走行伝動ギア75は、スプライン軸76に遊嵌したベベルギア軸62にスプライン嵌合した走行ギア56に噛み合ってベベルギア軸62を駆動している。ベベルギア軸62のベベルギア63が前輪8の車軸へ装着したべベルギアへ駆動力を伝動するのである。
【0023】
ベベルギア軸62は、高速油圧クラッチYHからクラッチギア77の大ギア78とサブギア軸47の小ギア48への伝動による四速か、高速油圧クラッチYHからクラッチギア77の小ギア79とサブギア軸47の大ギア74への伝動による三速か、低速油圧クラッチYLからクラッチギア77の大ギア78とサブギア軸47の小ギア48への伝動による二速か、低速油圧クラッチYLからクラッチギア77の小ギア79とサブギア軸47の大ギア74への伝動による一速かのどれかで回転することになる。
【0024】
また、ベベルギア軸62の回転は、走行ギア56からPTO軸32に装着した大小ギア59の小ギア部57へ伝動し、さらに大ギア部58に噛み合う後輪駆動軸61のクラッチギア60で適宜に後輪9へ駆動力を伝動可能にしている。
【0025】
走行ギア56は、ベベルギア軸62に伝動すると共に大小ギア59を介して後輪駆動軸61へ伝動しているので、伝動構成を単純化して前後に長くなるのを防いでいる。
尚、高速油圧クラッチYHと低速油圧クラッチYLはコントローラからの制御信号によりソレノイドを介してどちらかを入に保持するのであるが、ブレーキペダルの踏み込みを検出するスイッチ96を設けて、このスイッチ96の踏込み信号で高速油圧クラッチYHと低速油圧クラッチYLのソレノイドへの電力を断って両クラッチ51,52をニュートラルにするようにしている。このニュートラルの状態でブレーキを作用することで素早く停止でき、ギア変速クラッチ3の切換えがスムースに行える。
【0026】
また、クラッチ軸49を支持する繋ぎケース16のボス部81にはクラッチ軸49の油圧孔に通じる油圧用孔82,83,84を設けて、高速油圧クラッチYHと低速油圧クラッチYLに作動油を送るようにしている。
【0027】
図6は、変速レバー4を示し、変速溝96を中央のニュートラル位置Nから前後H、Lに回動することで前記のギア変速クラッチ3を高速ギアクラッチ入か低速ギアクラッチ入に変速し、この変速レバー4のグリップ80の頭部に設ける増速ボタン81を押すと高速油圧クラッチYHを入動作し、減速ボタン82を押すと低速油圧クラッチYLを入動作する。
【0028】
また、変速溝96には変速レバー4の位置を検出するセンサ90H,Lを設けて、変速レバー4が低速位置Lから高速位置Hに移動すると高速油圧クラッチYHが入であっても切にして、低速油圧クラッチYLが入になって三速になり、高速位置Hから低速位置Lに移動すると低速油圧クラッチYLが入であっても切にして、高速油圧クラッチYHが入になって二速になるようマイコン制御を行っている。なお、高速油圧クラッチYHを入りにする場合には、HSTペダル5が3/4以上踏込まれて無段変速機構が高速であれば一旦低速にして変速ショックを低減させる。また、レバー4が低速位置Lで減速ボタン82を押すと一速になり、レバー4が高速位置Hで増速ボタン81を押すと四速になる。
【0029】
(変速制御)
次に、変速制御について説明する。
作業車両の変速制御は、そのシステム構成図を図7に示すように、無段変速機構1について前後進の切替えおよび無段階に伝動比を調節するためのトラニオン軸Hを回動するモータ1mと、同トラニオン軸Hの回動角度を検出するトラニオンポジションセンサ1pを設けて車速調節部1dを構成する。この車速調節部1dを制御するために変速制御部7を設けて変速制御装置を構成する。また、上記制御部7には、回転センサ6rを備えたエンジン6から回転速度を、ペダルポジションセンサ5pを備えたHSTペダル5から踏込量を、ブレーキセンサを備えたブレーキペダルBからその操作量を入力するほか、車速調節部1dのトラニオンポジションセンサ1pから回動量を、それぞれ入力する。
【0030】
変速制御部7は、エンジン回転速度に応じてトラニオン指示角度Tを規制角度X内に規制するべく制御処理し、重負荷によってエンジンドロップした場合にトラニオン指示角度Tを小さくする。例えば、トラニオン規制特性図を図8に示すように、2つの回転速度n1,n2に折れ点を有する折れ線とし、特に、低速側の回転速度n1以下の低速範囲でトラニオン指示角度Tを規制指示するように規制特性を設定する。
【0031】
具体的な制御処理は、フローチャートを図9に示すように、回転センサ6rによるエンジン回転速度、HSTペダル5のペダル操作量、トラニオン軸Hの角度をそれぞれ検出することにより、HSTペダル5の操作量と対応するトラニオン角度であるペダル対応角度Y、上記トラニオン規制特性に基づきエンジン回転速度に応じて算出した規制角度X、トラニオンセンサ角度Zをセット(S1〜S4)する。次いで、トラニオン指示角度Tを上記規制角度Xの範囲内に定めるべく、ペダル対応角度Yが規制角度Xを越える場合に限り、同ペダル対応角度Yに代えて規制角度Xを採用することによってトラニオン指示角度Tを決定する(S5,S5a、S5b)。次いで、このトラニオン指示角度Tにトラニオンセンサ角度Zが一致するようにトラニオン軸Hを駆動制御(S6,S6a〜S6c)する。
【0032】
このように、エンジン回転速度と対応してその低速範囲にトラニオン規制を設けることにより、坂道等の重負荷によって車両が加速しない場合に更にHSTペダル5を踏み込んで増速操作しても、重負荷時の増速制御によって走行困難となる事態を防止して走覇性を確保することができ、エンストすることのない安定走行によって作業効率の向上が可能となる。
【0033】
また、エンジン回転が基準より低い時のトラニオン制御は、図10の規制特性図に示すように、エンジン回転が所定の基準回転n3より低い時にトラニオン軸Hを中立位置に保持するように設定する。すなわち、エンジン回転が基準回転n3以上でないと、ニュートラル状態からトラニオン軸Hが回動しないように構成する。具体的には、フローチャートを図11に示すように、エンジン回転速度が基準回転速度n3に満たないときはトラニオン指示角度T=0(S11,S12)としてトラニオンを駆動制御する。
【0034】
このように、エンジン回転速度が基準より低速の場合には、トラニオン軸Hの回動角が中立に位置付けされて停車状態に保持されることから、エンジン回転の低下で効率が低下し、オイル供給が不足することにより無段変速機構1の故障を招く事態を回避することができる。
【0035】
次に、ブレーキ操作対応のトラニオン制御について説明する。
このトラニオン制御は、ブレーキペダルBの操作信号を制御部7に送り、制御部7によりブレーキ操作と対応してトラニオン軸Hを中立に制御する。その具体的な制御処理は、図12のフローチャートに示すように、ブレーキ操作を検出するブレーキスイッチの信号によってトラニオン指示角度T=0とする制御処理(S21,S22)を構成することにより、図13のタイミングチャートに示すように、ブレーキペダルBを踏んだ時t1にトラニオン軸Hをニュートラルに制御して停止車速とすることができ、安全性を向上することができる。
なお、上記ブレーキ対応制御によって停車した場合は、HSTペダル5を戻した上で再度HSTペダル5を操作した時t2にトラニオン軸Hを駆動制御することによって前進を再開する。
【0036】
また、ブレーキBの操作量に応じてトラニオン指示角度Tを規制するように構成した場合は、例えば、規制特性図を図14に示すように、ブレーキペダルBの操作量がb1〜b2の範囲でトラニオン指示角度Tをx1〜x2の範囲に対応規制する傾斜線特性を設定する。具体的な制御処理は、フローチャートを図15に示すように、ブレーキ操作量BP、ペダル対応角度Y、トラニオン角度Zを検出するとともに、ブレーキ操作量BPに応じた規制角度Xを上記規制特性に沿って算出処理(S31〜S34)し、この範囲内でトラニオン指示角度Tを規制処理(S35,S35a、S35b)する。
このようにしてブレーキ操作量対応のトラニオン規制制御を行うことにより、坂道発進などで後退防止のためにブレーキペダルBを踏みながら安定して発進することができる。
【0037】
次に、HSTペダルのセンサ故障対応について説明する。
HSTペダル5の操作を検出するセンサが故障すると、同ペダルが実際に中立に戻っていても機体走行が止まらないという事態を招くこことがある。この問題を解決するために、トラニオン制御は、そのシステム構成図を図16に示すように、ポジションセンサ5pによってHSTペダル5の位置を検出するとともに、HSTペダル5の中立位置を検出するスイッチ5sを設けて二重化し、HSTペダル5が中立位置または操作状態にあることを一方のセンサが検出した時に、他方のセンサが同一状態を検出していない時は、トラニオン軸Hを中立位置に駆動して停車するように制御処理を構成する。このような制御システムを構成することにより、センサ故障によってペダル位置を誤検出した場合に、HSTペダル5が実際に中立に戻っていても走行が止まらないという不具合を解消することができる。
【0038】
また、上記の場合において、トラニオン軸Hを中立位置に駆動して停車した後に、ペダルポジションセンサ5pまたはペダル中立スイッチ5sが中立状態から操作状態に変化した場合に、チェックスイッチCの信号によりチェックモードであればトラニオン軸Hを前進側または後進側に駆動するように構成する。このように、チェックモードを条件としてトラニオン制御を行うことにより、停車後の再走行が可能となるので、修理等が容易に行えるようになる。
【0039】
また、トラニオン軸Hに2つのトラニオンポジションセンサ1p,1pを設けて二重化し、通常はトラニオン軸Hを駆動したときのトラニオン角度の変化量を検出し、変化量が所定値内にあればその大きい側のセンサを使用する。この場合において、両センサ1p,1pの一方が断線やショート状態にあることを検出した時は値の大小に関係なく他方のセンサを使用して制御する。また、両方のセンサ1p,1pが故障した時は車速センサVを使用して機体を停車させた上で、ペダル操作を検出した時にチェックモードであればトラニオン軸Hを前進側または後進側に駆動するように構成する。このように、チェックモードを条件としてトラニオン制御を行うことにより、前例と同様に、停車後に再走行が可能となるので、修理等が容易に行えるようになる。
【0040】
次に、停車時のトラニオン制御について説明する。
HSTの油圧回路図を図17に示すように、HST内ポンプP部の圧力を圧力センサP1,P2により検出し、図18のシステム構成図に示すように、上記圧力センサP1,P2の信号により、トラニオン軸Hを中立に位置付けた時に当該圧力が一定値以上であれば、一定値以下になるようにトラニオン軸Hを駆動制御する。上記構成の制御システムは、HSTの圧力検出によって微速動作を判別することができるので、トラニオンポジションセンサ1pによってトラニオン軸Hを中立に位置付けする際に確実に停車させることにより、本機が微速で動くことによる危険性を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】多目的作業車の平面図(a)、側面図(b)および要部斜視図(c)
【図2】トランスミッションの軸線展開図
【図3】図2のトランスミッションの要部拡大軸線展開図
【図4】図2のトランスミッションの無段変速部拡大図
【図5】図2のトランスミッションの変速機構部拡大図
【図6】変速レバーの斜視図
【図7】作業車両の変速制御システム構成図
【図8】トラニオン規制特性図
【図9】制御処理のフローチャート
【図10】エンジン回転が低い時のトラニオン制御の規制特性図
【図11】図10の規制特性による制御処理のフローチャート
【図12】ブレーキ操作対応のトラニオン軸の制御処理のフローチャート
【図13】図12の制御によるタイミングチャート
【図14】ブレーキ操作量対応のトラニオン制御の規制特性図
【図15】図14のの規制特性による制御処理のフローチャート
【図16】HSTペダルのセンサ故障対応のシステム構成図
【図17】HSTの油圧回路図
【図18】停車制御のシステム構成図
【符号の説明】
【0042】
1 静油圧式無段変速機構(HST)
1d 車速調節部
1m モータ
1p トラニオンポジションセンサ
5 HSTペダル
5p HSTペダルポジションセンサ
5s スイッチ(ペダル中立センサ)
6 エンジン
6r 回転センサ
7 変速制御部
n1,n2 回転速度
n3 基準回転速度
H トラニオン軸
T トラニオン指示角度
X 規制角度
Y ペダル対応角度
Z トラニオンセンサ角度
【特許請求の範囲】
【請求項1】
踏込操作が可能なHSTペダル(5)と、トラニオン軸(H)の回動角に応じてエンジン動力を静油圧式無段変速機構によって無段変速する車速調節部(1d)と、上記HSTペダル(5)の踏込量に応じてトラニオン軸(H)の駆動制御をする変速制御部(7)とからなる作業車両の変速制御装置において、
上記変速制御部(7)は、エンジン回転速度に応じて別途設定した範囲内でトラニオン軸(H)の回動角を制御することを特徴とする作業車両の変速制御装置。
【請求項2】
前記変速制御部(7)は、エンジン回転速度が所定の低速範囲についてトラニオン軸(H)を中立位置に駆動制御することを特徴とする請求項1記載の作業車両の変速制御装置。
【請求項1】
踏込操作が可能なHSTペダル(5)と、トラニオン軸(H)の回動角に応じてエンジン動力を静油圧式無段変速機構によって無段変速する車速調節部(1d)と、上記HSTペダル(5)の踏込量に応じてトラニオン軸(H)の駆動制御をする変速制御部(7)とからなる作業車両の変速制御装置において、
上記変速制御部(7)は、エンジン回転速度に応じて別途設定した範囲内でトラニオン軸(H)の回動角を制御することを特徴とする作業車両の変速制御装置。
【請求項2】
前記変速制御部(7)は、エンジン回転速度が所定の低速範囲についてトラニオン軸(H)を中立位置に駆動制御することを特徴とする請求項1記載の作業車両の変速制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2009−92178(P2009−92178A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−264875(P2007−264875)
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】
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