作業車両の走行制御装置
【課題】ホイールローダによる掘削作業時に作業負荷が急上昇した際に、走行駆動力が大きくなりすぎることを防止する。
【解決手段】可変容量形油圧ポンプ2と可変容量形油圧モータ3とを閉回路接続して形成され、油圧モータ3の押しのけ容積を制御するモータ制御手段10,11を有する走行用の第1の回路HC1と、作業用油圧ポンプ4からの圧油により作業用油圧アクチュエータ114,115を駆動する作業用の第2の回路HC2と、第2の回路HC2の負荷圧Pfに応じて油圧モータ3の押しのけ容積の最大値を制限する最大値制限手段10とを備える。最大値制限手段10は、第2の回路の負荷圧Pfが所定値Psを超えると、押しのけ容積の最大値を、第2の回路の最大負荷圧Prに対応した最小制限値q1まで減少させる。
【解決手段】可変容量形油圧ポンプ2と可変容量形油圧モータ3とを閉回路接続して形成され、油圧モータ3の押しのけ容積を制御するモータ制御手段10,11を有する走行用の第1の回路HC1と、作業用油圧ポンプ4からの圧油により作業用油圧アクチュエータ114,115を駆動する作業用の第2の回路HC2と、第2の回路HC2の負荷圧Pfに応じて油圧モータ3の押しのけ容積の最大値を制限する最大値制限手段10とを備える。最大値制限手段10は、第2の回路の負荷圧Pfが所定値Psを超えると、押しのけ容積の最大値を、第2の回路の最大負荷圧Prに対応した最小制限値q1まで減少させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変容量形油圧ポンプと可変容量形油圧モータとを閉回路接続したHST回路により駆動する作業車両の走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばホイールローダのように、HST走行用回路と作業用回路とを備えた作業車両では、走行駆動力が大きすぎるとリフトアームの持ち上げ力が減少し、バケットを持ち上げることが困難となる。さらには、バケットを土砂に貫入しながら持ち上げる際にタイヤがスリップし、かえって走行駆動力が小さくなって、作業性が損なわれる。
【0003】
一方、走行用油圧モータの押しのけ容積の最大値を作業用油圧ポンプの吐出圧に応じて制限し、走行駆動力を低減するようにした装置が知られている(例えば特許文献1参照)。この特許文献1記載の装置では、作業用油圧ポンプの吐出圧が大きくなるにつれて走行用油圧モータの押しのけ容積の最大値が徐々に小さくなるような特性を予め設定し、この特性に従ってモータの押しのけ容積を制限する。
【0004】
【特許文献1】特許第2818474号公報(第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、バケットを土砂等の地山に突っ込んだ後、アームを駆動して持ち上げるといった掘削作業においては、バケットを持ち上げる際に作業用油圧ポンプの負荷圧が最大負荷圧近くまで急上昇することがある。しかしながら、負荷圧に応じて走行用油圧モータの押しのけ容積が変化するのには時間がかかるため、作業負荷圧の急変化に押しのけ容積の変化が追従できない。そのため、走行駆動力が十分に下がらず、作業性が悪化する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による作業車両の走行制御装置は、可変容量形油圧ポンプと可変容量形油圧モータとを閉回路接続して形成され、油圧モータの押しのけ容積を制御するモータ制御手段を有する走行用の第1の回路と、作業用油圧ポンプからの圧油により作業用油圧アクチュエータを駆動する作業用の第2の回路と、第2の回路の負荷圧に応じて油圧モータの押しのけ容積の最大値を制限する最大値制限手段とを備え、最大値制限手段が、第2の回路の負荷圧が所定値を超えると、押しのけ容積の最大値を、第2の回路の最大負荷圧に対応した最小制限値まで減少させることを特徴とする。
作業用油圧アクチュエータを、バケットを駆動するバケット用シリンダと、バケット支持用のアームを駆動するアーム用シリンダとして構成する場合、上記所定値を、予めバケット用シリンダの駆動による最大負荷圧に設定することが好ましい。
手動操作により最小制限値を設定する制限値設定手段をさらに備えることもできる。
第2の回路の負荷圧が前記所定値を超え、かつ、第1の回路の駆動圧が所定値を超えると、時間経過に伴い押しのけ容積の最大値を最小制限値まで段階的に減少させるようにしてもよく、押しのけ容積を最小制限値まで徐々に減少させるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、作業用回路の負荷圧が所定値を超えると、走行用回路の油圧モータの押しのけ容積の最大値を最小制限値まで減少させるようにしたので、作業負荷圧が最大負荷圧まで急上昇した場合であっても走行駆動力が大きくなりすぎず、作業性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
−第1の実施の形態−
以下、図1〜図5を参照して本発明による作業車両の走行制御装置の第1の実施の形態について説明する。
図1は、本実施の形態に係る走行制御装置が適用される作業車両の一例であるホイールローダの側面図である。ホイールローダ100は、アーム111,バケット112,タイヤ113等を有する前部車体110と、運転室121,エンジン室122,タイヤ123等を有する後部車体120とで構成される。アーム111はアームシリンダ114の駆動により上下方向に回動(俯仰動)し、バケット112はバケットシリンダ115の駆動により上下方向に回動(ダンプまたはクラウド)する。前部車体110と後部車体120はセンタピン101により互いに回動自在に連結され、ステアリングシリンダ(不図示)の伸縮により後部車体120に対し前部車体110が左右に屈折する。
【0009】
図2は、第1の実施の形態に係る走行制御装置の概略構成を示す図である。走行用油圧回路HC1は、エンジン1によって駆動される可変容量形油圧ポンプ2と、油圧ポンプ2からの圧油により駆動する可変容量形油圧モータ3とを有し、油圧ポンプ2と油圧モータ3を一対の主管路LA,LBによって閉回路接続したHST回路により構成されている。作業用油圧回路HC2は、アームシリンダ114やバケットシリンダ115を含み、エンジン1により駆動される作業用油圧ポンプ4からの圧油がこれらシリンダ114,115に供給される。
【0010】
エンジン1により駆動されるチャージポンプ5からの圧油は、前後進切換弁6を介して傾転シリンダ8に導かれる。前後進切換弁6は操作レバー6aにより操作され、図示のように前後進切換弁6が中立位置のときは、チャージポンプ5からの圧油は絞り7および前後進切換弁6を介し、傾転シリンダ8の油室8a,8bにそれぞれ作用する。この状態では油室8a,8bに作用する圧力は互いに等しく、ピストン8cは中立位置にある。このため、油圧ポンプ2の押しのけ容積は0となり、ポンプ吐出量は0である。
【0011】
前後進切換弁6がA側に切り換えられると、油室8a,8bにはそれぞれ絞り7の上流側圧力と下流側圧力が作用するため、シリンダ8の油室8a,8bに圧力差が生じ、ピストン8cが図示右方向に変位する。これにより油圧ポンプ2のポンプ傾転量が増加し、油圧ポンプ2からの圧油は主管路LAを介して油圧モータ3に導かれ、油圧モータ3が正転し、車両が前進する。前後進切換弁6がB側に切り換えられると、傾転シリンダ8のピストン8cが図示左方向に変位し、油圧ポンプ2からの圧油は主管路LBを介して油圧モータ3に導かれ、油圧モータ3が逆転する。
【0012】
エンジン回転数はアクセルペダル9によって調整され、チャージポンプ5の吐出量はエンジン回転数に比例する。このため、絞り7の前後差圧はエンジン回転数に比例し、ポンプ傾転量もエンジン回転数に比例する。なお、チャージポンプ5からの圧油は絞り7およびチェック弁13A,13Bを通過して主管路LA,LBにも導かれる。絞り7の下流側圧力はチャージリリーフ弁12により制限され、主管路LA,LBの最高圧力はリリーフ弁14により制限される。
【0013】
コントローラ10には、走行回路圧Ptとして高圧選択弁15で選択された主管路LA,LBの圧力が入力されるとともに、作業回路圧Pfとして作業用ポンプ4の吐出圧が入力される。コントローラ10は、CPU,ROM,RAM,その他の周辺回路などを有する演算処理装置を含んで構成される。CPUは以下のような処理を実行し、電気式レギュレータ11に制御信号を出力する。この制御信号に応じてレギュレータ11は傾転制御レバー3aを駆動し、油圧モータ3の押しのけ容積(モータ傾転)を最小傾転qminと最大傾転qmaxの間で制御する。
【0014】
図3は、コントローラ10内の処理を示すブロック図である。走行回路圧Ptは関数発生器10Aに入力される。関数発生器10Aには、予め図示のような特性L1が設定され、この特性L1に従い走行回路圧Ptに応じたモータ目標傾転qm(目標押しのけ容積)が演算される。特性L1によれば、走行回路圧Ptが所定値P0未満ではモータ目標傾転qmは最小傾転qminであり、走行回路圧Ptが所定値P0でモータ目標傾転qmは最小傾転qminから最大傾転qmaxまで増加し、走行回路圧Ptが所定値P0を超えるとモータ目標傾転qmは最大傾転qmaxとなる。ここで、走行回路圧Pt(厳密には主管路LA,LBの差圧)とモータ傾転との積が油圧モータ3の出力トルクに相当し、油圧モータ3が負荷に応じた駆動トルクを出力することで、車両の走行駆動力を得る。
【0015】
作業回路圧Pfは関数発生器10Bに入力される。関数発生器10Bには、予め図示のような特性L2が設定され、この特性L2に従い作業回路圧Pfに応じてモータ傾転の上限値qlimが演算される。特性L2によれば、作業回路圧Pfが所定値Psに至るまでは、モータ傾転の上限値qlimは特性L1の最大傾転qmaxに等しく(100%)、作業回路圧Pfが所定値Psに至ると、そこからΔPの範囲で上限値qlimは所定値q1まで直線的に減少し、作業回路圧PfがPs+ΔP以上では、上限値qlimは所定値q1となる。
【0016】
ここで、所定値q1は、作業回路圧Pfが最大負荷圧Pr(リリーフ圧)のときに、作業負荷にバランスした走行駆動力を発揮し得るモータ傾転に相当する。つまり、最大負荷圧Prのときにモータ最大傾転が所定値q1以下に抑えられると、アーム111の持ち上げ力に対し走行駆動力が最適となる。この状態では、タイヤのスリップを防止することができ、良好な掘削作業を行うことができる。
【0017】
また、バケット112を土砂に貫入した際にアーム111は土砂から反力を受けるが、最大負荷圧Prのときにモータ最大傾転が所定値q1以下であれば、走行駆動力が抑えられるため、アーム111に作用する反力が大きくなりすぎず、レバー操作によりアーム111を容易に持ち上げることができる。なお、q1は最小傾転qminよりも大きく、例えば最大傾転qmaxの50〜70%程度の値として予め設定されている。ΔPは制御の安定のために設定されており、ΔPを0としてもよい。以下では、説明を簡単にするためΔPを0として説明する。
【0018】
ホイールローダ100による掘削作業は、一般に、図4に示すように土砂等の地山130にバケット112を貫入し、バケット112を操作してからアーム111を上げ操作する、あるいはバケット112とアーム111を同時に操作しながら最後にアーム111のみを上げ操作することで行う。このような掘削作業では、通常、バケット操作時の負荷圧力はアーム操作時の負荷圧力よりも低い。例えば、バケット操作時の作業回路圧Pfの変化する範囲(バケット操作範囲)をRb、アーム操作時の作業回路圧Pfの変化する範囲(アーム操作範囲)をRaとすると、図3の関数発生器10Bに示すように、作業回路圧Pfが小さい領域がバケット操作範囲Rb、作業回路圧Pfが大きい領域がアーム操作範囲Raとなる。
【0019】
本実施の形態では、バケット操作範囲Rbの最大値近くに特性L2の所定値Psを設定する。アーム操作範囲Raの最小値はバケット操作範囲Rbの最大値、つまり所定値Psにほぼ等しく、アーム操作範囲Raの最大値はリリーフ圧Prとなる。なお、アーム操作範囲Raとバケット操作範囲Rbは掘削物の比重によって変化し、Psが常にRaとRbの境になるわけではないが、本実施の形態では代表的なRa、Rbの値を用いて、RaとRbの境に所定値Psを設定する。
【0020】
関数発生器10Aで演算されたモータ目標傾転qm、および関数発生器10Bで演算されたモータ傾転の上限値qlimは、それぞれ最小値選択回路10Cに入力される。最小値選択回路10Cでは、qmとqlimのうち、小さい方の値を選択し、それを目標傾転qmとしてレギュレータ11に出力する。これによりモータ傾転の最大値が上限値qlimで制限される。
【0021】
本実施の形態に係る走行制御装置の動作をまとめると次のようになる。
図4に示すように掘削作業時には、ホイールローダ100を地山130に向けて突進し、バケットシリンダ115を操作して、バケット112内に土砂等を取り込む。このとき、通常は作業回路圧Pfは所定値Ps以下であるため、モータ傾転の上限値qlimは最大傾転qmaxに等しくなり、最大走行駆動力を発揮できる。このためバケット112を勢いよく土砂に貫入することができ、バケット112内に容易に土砂を取り込むことができる。
【0022】
次いでアームシリンダ114のみを操作し、あるいはアームシリンダ114とバケットシリンダ115を複合操作し、バケット112を持ち上げる。アーム上げ操作時にはバケット操作時よりも作業回路圧Pfが上昇し、作業回路圧Pfが所定値Ps以上になると、モータ傾転の上限値qlimがq1に急減する。この状態では、アーム操作時にたとえ作業回路圧Pfがリリーフ圧Pr近くまで急上昇しても、モータ最大傾転はq1以下に抑えられる。このため、アーム上げ操作時に走行駆動力が大きくなりすぎることを防止し、アーム上げ力と走行駆動力とを良好にバランスさせることができる。その結果、バケット112を容易に持ち上げることができ、作業効率が高まる。
【0023】
これに対し、例えば図5の特性L3に示すようにモータ傾転の上限値qlimを作業回路圧Pfの上昇に伴い徐々に低下させるようにすると、アーム操作時に作業回路圧PfがPsからPrまで急上昇したときには、モータ傾転の上限値qlimとしてq1を出力する。しかし、モータ傾転が実際に変化する場合には、通常、油圧モータの構造、サイズにもよるが0.2〜0.8秒程度の応答遅れがあるため、モータ傾転は作業回路圧Pfの変化に追従することができず、走行駆動力が瞬時に低下しない。そのため、走行駆動力が大きくなりすぎて、バケット112を即座に上昇させることが困難となる。したがって、バケット112を上昇させるためには改めてバケットシリンダ115等を操作してアーム111に作用する反力を低減する必要があり、操作が煩雑になる。また、アーム操作時にPsとPrの間で作業回路圧Pfが変動する場合も、モータ傾転は作業回路圧Pfに追従できない。この場合のモータ傾転の上限値qlimは、例えばq1とq2の平均値q3となり、走行駆動力が十分に低下しないので、バケット112を持ち上げるためには上述したのと同様に煩雑な操作が必要となる。
【0024】
以上の第1の実施の形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)作業回路圧Pfが所定値Ps以上になると、モータ傾転の最大値をqmaxからq1まで減少させるようにした。これによりアーム操作時に作業回路圧Pfがリリーフ圧Pr近くまで急上昇しても走行駆動力が大きくなりすぎず、アーム上げ力と走行駆動力とがバランスして、バケット112を容易に持ち上げることができる。
(2)作業回路圧Pfが所定値Ps以下では、モータ傾転の最大値をqmaxに設定するので、最大走行駆動力を発揮することができ、バケット内に十分な土砂等を取り込むことができる。
(3)バケット操作範囲Rbの最大値に所定値Psを設定するので、ホイールローダによる掘削作業を良好に行うことができる。
【0025】
−第2の実施の形態−
図6,7を参照して本発明による作業車両の走行制御装置の第2の実施の形態について説明する。
第1の実施の形態では、作業回路圧Pfが所定値Ps以上になるとモータ傾転の上限値を所定値q1まで減少させるようにしたが、第2の実施の形態では、所定値q1を可変とする。なお、以下では第1の実施の形態との相違点を主に説明する。
【0026】
図6は、第2の実施の形態に係る走行制御装置の概略構成を示す図である。なお、図2と同一の箇所には同一の符号を付す。図6に示すようにコントローラ10には、走行回路圧Ptと作業回路圧Pfの他、切換スイッチ20からの信号が入力される。切換スイッチ20は、掘削時の走行駆動力の大きさをPモード、Nモード、Lモードの3段階に切り換える手動スイッチであり、掘削対象物の種類や路面状況等に応じ、作業員によって任意に切り換えられる。なお、切換スイッチ20を2段階に切換可能としてもよく、4段階以上に切換可能としてもよい。
【0027】
図7に示すように、第2の実施の形態に係る関数発生器10Bには、Pモード、Nモード、Lモードに対応した複数の特性L21〜L23がそれぞれ設定されている。各特性L21〜L23とも、作業回路圧Pfが所定値Psに至るまでは、モータ傾転の上限値qlimは最大傾転qmax(100%)に等しい。一方、作業回路圧Pfが所定値Psより大きい範囲では、特性L21(Pモード)は所定値qp、特性L22(Nモード)は所定値qN、特性L23(Lモード)は所定値qLにそれぞれ設定されている。qP,qN,qLには、qP>qN>qLの関係がある。
【0028】
第2の実施の形態では、掘削対象物の種類や路面状況等をオペレータが判断し、切換スイッチ20を操作して、モードを選択する。例えば掘削対象物が砕積等の硬いものである場合は、Pモードを選択する。これにより作業負荷圧Pが所定値Ps以上であっても、モータ傾転は比較的大きいため、他のモード選択の場合よりも大きな走行駆動力が得られ、効率よく作業を行うことができる。また、掘削対象物が砂や雪等の柔らかいものである場合は、Lモードを選択する。これにより作業負荷圧Pが所定値Ps以上のとき、他のモード選択の場合よりも走行駆動力が小さくなり、効率よく作業を行うことができる。
【0029】
このように第2の実施の形態では、作業回路圧Pfが所定値Ps以上におけるモータ傾転の上限値qlimを任意に変更可能としたので、掘削作業時におけるアーム上げ力と走行駆動力とのバランス調整が容易であり、掘削対象物の種類や路面状況等に等に拘わらず、掘削作業時の作業効率を高めることができる。
【0030】
−第3の実施の形態−
図8〜11を参照して本発明による作業車両の走行制御装置の第3の実施の形態について説明する。
第1の実施の形態では、作業回路圧Pfが所定値Ps以上を条件としてモータ傾転の上限値を減少させるようにしたが、第3の実施の形態では、作業回路圧Pfが所定値Ps以上かつ走行回路圧Ptが所定値Pts以上を条件としてモータ傾転の上限値を減少させる。なお、以下では第1の実施の形態との相違点を主に説明する。
【0031】
図8の斜線領域は、作業回路圧Pfが所定値Ps以上かつ走行回路圧Ptが所定値Pts以上の掘削作業領域を示している。コントローラ10は、作業回路圧Pfが所定値Ps以上かつ走行回路圧Ptが所定値Pts以上であるか否か、つまり掘削作業状態であるか否かを判定する。さらに、掘削作業状態の継続時間tを判定し、継続時間tの増加に伴い例えば図9に示すように、モータ傾転の上限値qlimをqa→qb→qcと段階的に小さくする。
【0032】
継続時間tとモータ傾転の上限値との関係を図10に示す。図10では、継続時間tが所定時間t1に至るまでは上限値qlimは所定値qaであり、所定時間t1以上かつ所定時間t2未満で上限値qlimは所定値qbとなり、所定時間t2以上で上限値qlimは所定値qcとなっている。なお、所定値qcは第1の実施の形態の所定値q1に相当する。所定値qcを固定値とせずに、モード選択等により変更可能としてもよい。
【0033】
このように第3の実施の形態では、掘削作業の継続時間tの増加に伴いモータ傾転の上限値qlimを段階的に減少させるようにしたので、アーム上げ力と走行駆動力とを時間経過に伴い良好にバランスさせることができる。したがって、第2の実施の形態のように作業員がモード選択しなくても、アーム上げ力と走行駆動力との関係が掘削対象物や路面状況等に応じた最適なものとなり、走行駆動力が大きすぎてバケットが持ち上がらないといった問題を解消できる。
【0034】
なお、時間経過に伴いモータ傾転の上限値qlimを段階的に減少させるのではなく、モータ傾転の上限値qlimを徐々に減少させるようにしてもよい。その一例を図11に示す。図11では、掘削作業状態の継続時間tが所定時間t1に至るまで、モータ傾転の上限値qlimをqaからqbまで比例的に減少させ、その後、継続時間tが所定時間t2に至るまで、上限値qlimをqbからqcまで比例的に減少させ、さらに継続時間tが所定時間t2以上で上限値qlimをqcとしている。このように時間経過に伴いモータ傾転の上限値qlimを徐々に減少させることで、モータ傾転が急変することを防止でき、掘削作業をスムーズに行うことができる。
【0035】
上記実施の形態では、作業回路圧Pfの閾値であるPsを固定値としたが、Psを可変としてもよい。油圧ポンプ2と油圧モータ3とを閉回路接続して走行用回路HC1として第1の回路を形成し、油圧ポンプ4からの圧油をシリンダ114,115等に導く作業用回路HC2として第2の回路を形成したが、これら回路構成は上述したものに限らない。例えば油圧ポンプ2,4を同一のエンジン1により駆動したが、別々のエンジンで駆動してもよい。また、走行用回路HS1を1ポンプ1モータの組み合わせで構成したが、複数のモータにより回路を構成してもよい。関数発生器10Aから目標傾転qmを出力し、この目標傾転qmに応じてレギュレータ11を駆動してモータ押しのけ容積を制御したが、モータ制御手段の構成はこれに限らない。例えばレギュレータ11を電気式ではなく油圧式として構成してもよい。
【0036】
関数発生回路10Bに作業回路圧Pfに応じたモータ傾転の上限値qlimの特性L2を設定し、この特性L2に従いモータ傾転の最大値を制限するようにしたが、作業回路圧Pfが所定値Psを超えると、モータ傾転の最大値を最大負荷圧Prに対応した最小制限値q1まで減少させるのであれば、特性L2はいかなるものでもよく、最大値制限手段の構成は上述したものに限らない。例えば作業回路圧Pfが所定値Psに至るまでモータ傾転の上限値qlimを徐々に減少させ、所定値Psを超えるとq1まで急減するようにしてもよい。切換スイッチ20の操作によりモータ傾転の上限値qlimを設定するようにしたが(図6)、制限値設定手段はいかなるものでもよい。
【0037】
以上では、本発明の走行制御装置をホイールローダに適用する例を説明したが、他の作業車両にも本発明を同様に適用することができる。すなわち、本発明の特徴、機能を実現できる限り、本発明は実施の形態の走行制御装置に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施の形態に係る走行制御装置が適用される作業車両の一例であるホイールローダの側面図。
【図2】第1の実施の形態に係る走行制御装置の概略構成を示す図。
【図3】図1のコントローラの構成を示すブロック図。
【図4】ホイールローダによる掘削作業の動作を示す図。
【図5】図3と対比されるモータ傾転の特性を示す図。
【図6】第2の実施の形態に係る走行制御装置の概略構成を示す図。
【図7】第2の実施の形態の動作特性を示す図。
【図8】第3の実施の形態による所定の制御領域を示す図。
【図9】第3の実施の形態の動作特性を示す図。
【図10】第3の実施の形態の動作特性を継続時間との関係で示す図。
【図11】図10の変形例を示す図。
【符号の説明】
【0039】
2 可変容量形油圧ポンプ
3 可変容量形油圧モータ
4 油圧ポンプ
10 コントローラ
10A,10B 関数発生回路
11 レギュレータ
20 切換スイッチ
114 アームシリンダ
115 バケットシリンダ
HC1 走行用回路
HC2 作業用回路
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変容量形油圧ポンプと可変容量形油圧モータとを閉回路接続したHST回路により駆動する作業車両の走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばホイールローダのように、HST走行用回路と作業用回路とを備えた作業車両では、走行駆動力が大きすぎるとリフトアームの持ち上げ力が減少し、バケットを持ち上げることが困難となる。さらには、バケットを土砂に貫入しながら持ち上げる際にタイヤがスリップし、かえって走行駆動力が小さくなって、作業性が損なわれる。
【0003】
一方、走行用油圧モータの押しのけ容積の最大値を作業用油圧ポンプの吐出圧に応じて制限し、走行駆動力を低減するようにした装置が知られている(例えば特許文献1参照)。この特許文献1記載の装置では、作業用油圧ポンプの吐出圧が大きくなるにつれて走行用油圧モータの押しのけ容積の最大値が徐々に小さくなるような特性を予め設定し、この特性に従ってモータの押しのけ容積を制限する。
【0004】
【特許文献1】特許第2818474号公報(第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、バケットを土砂等の地山に突っ込んだ後、アームを駆動して持ち上げるといった掘削作業においては、バケットを持ち上げる際に作業用油圧ポンプの負荷圧が最大負荷圧近くまで急上昇することがある。しかしながら、負荷圧に応じて走行用油圧モータの押しのけ容積が変化するのには時間がかかるため、作業負荷圧の急変化に押しのけ容積の変化が追従できない。そのため、走行駆動力が十分に下がらず、作業性が悪化する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による作業車両の走行制御装置は、可変容量形油圧ポンプと可変容量形油圧モータとを閉回路接続して形成され、油圧モータの押しのけ容積を制御するモータ制御手段を有する走行用の第1の回路と、作業用油圧ポンプからの圧油により作業用油圧アクチュエータを駆動する作業用の第2の回路と、第2の回路の負荷圧に応じて油圧モータの押しのけ容積の最大値を制限する最大値制限手段とを備え、最大値制限手段が、第2の回路の負荷圧が所定値を超えると、押しのけ容積の最大値を、第2の回路の最大負荷圧に対応した最小制限値まで減少させることを特徴とする。
作業用油圧アクチュエータを、バケットを駆動するバケット用シリンダと、バケット支持用のアームを駆動するアーム用シリンダとして構成する場合、上記所定値を、予めバケット用シリンダの駆動による最大負荷圧に設定することが好ましい。
手動操作により最小制限値を設定する制限値設定手段をさらに備えることもできる。
第2の回路の負荷圧が前記所定値を超え、かつ、第1の回路の駆動圧が所定値を超えると、時間経過に伴い押しのけ容積の最大値を最小制限値まで段階的に減少させるようにしてもよく、押しのけ容積を最小制限値まで徐々に減少させるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、作業用回路の負荷圧が所定値を超えると、走行用回路の油圧モータの押しのけ容積の最大値を最小制限値まで減少させるようにしたので、作業負荷圧が最大負荷圧まで急上昇した場合であっても走行駆動力が大きくなりすぎず、作業性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
−第1の実施の形態−
以下、図1〜図5を参照して本発明による作業車両の走行制御装置の第1の実施の形態について説明する。
図1は、本実施の形態に係る走行制御装置が適用される作業車両の一例であるホイールローダの側面図である。ホイールローダ100は、アーム111,バケット112,タイヤ113等を有する前部車体110と、運転室121,エンジン室122,タイヤ123等を有する後部車体120とで構成される。アーム111はアームシリンダ114の駆動により上下方向に回動(俯仰動)し、バケット112はバケットシリンダ115の駆動により上下方向に回動(ダンプまたはクラウド)する。前部車体110と後部車体120はセンタピン101により互いに回動自在に連結され、ステアリングシリンダ(不図示)の伸縮により後部車体120に対し前部車体110が左右に屈折する。
【0009】
図2は、第1の実施の形態に係る走行制御装置の概略構成を示す図である。走行用油圧回路HC1は、エンジン1によって駆動される可変容量形油圧ポンプ2と、油圧ポンプ2からの圧油により駆動する可変容量形油圧モータ3とを有し、油圧ポンプ2と油圧モータ3を一対の主管路LA,LBによって閉回路接続したHST回路により構成されている。作業用油圧回路HC2は、アームシリンダ114やバケットシリンダ115を含み、エンジン1により駆動される作業用油圧ポンプ4からの圧油がこれらシリンダ114,115に供給される。
【0010】
エンジン1により駆動されるチャージポンプ5からの圧油は、前後進切換弁6を介して傾転シリンダ8に導かれる。前後進切換弁6は操作レバー6aにより操作され、図示のように前後進切換弁6が中立位置のときは、チャージポンプ5からの圧油は絞り7および前後進切換弁6を介し、傾転シリンダ8の油室8a,8bにそれぞれ作用する。この状態では油室8a,8bに作用する圧力は互いに等しく、ピストン8cは中立位置にある。このため、油圧ポンプ2の押しのけ容積は0となり、ポンプ吐出量は0である。
【0011】
前後進切換弁6がA側に切り換えられると、油室8a,8bにはそれぞれ絞り7の上流側圧力と下流側圧力が作用するため、シリンダ8の油室8a,8bに圧力差が生じ、ピストン8cが図示右方向に変位する。これにより油圧ポンプ2のポンプ傾転量が増加し、油圧ポンプ2からの圧油は主管路LAを介して油圧モータ3に導かれ、油圧モータ3が正転し、車両が前進する。前後進切換弁6がB側に切り換えられると、傾転シリンダ8のピストン8cが図示左方向に変位し、油圧ポンプ2からの圧油は主管路LBを介して油圧モータ3に導かれ、油圧モータ3が逆転する。
【0012】
エンジン回転数はアクセルペダル9によって調整され、チャージポンプ5の吐出量はエンジン回転数に比例する。このため、絞り7の前後差圧はエンジン回転数に比例し、ポンプ傾転量もエンジン回転数に比例する。なお、チャージポンプ5からの圧油は絞り7およびチェック弁13A,13Bを通過して主管路LA,LBにも導かれる。絞り7の下流側圧力はチャージリリーフ弁12により制限され、主管路LA,LBの最高圧力はリリーフ弁14により制限される。
【0013】
コントローラ10には、走行回路圧Ptとして高圧選択弁15で選択された主管路LA,LBの圧力が入力されるとともに、作業回路圧Pfとして作業用ポンプ4の吐出圧が入力される。コントローラ10は、CPU,ROM,RAM,その他の周辺回路などを有する演算処理装置を含んで構成される。CPUは以下のような処理を実行し、電気式レギュレータ11に制御信号を出力する。この制御信号に応じてレギュレータ11は傾転制御レバー3aを駆動し、油圧モータ3の押しのけ容積(モータ傾転)を最小傾転qminと最大傾転qmaxの間で制御する。
【0014】
図3は、コントローラ10内の処理を示すブロック図である。走行回路圧Ptは関数発生器10Aに入力される。関数発生器10Aには、予め図示のような特性L1が設定され、この特性L1に従い走行回路圧Ptに応じたモータ目標傾転qm(目標押しのけ容積)が演算される。特性L1によれば、走行回路圧Ptが所定値P0未満ではモータ目標傾転qmは最小傾転qminであり、走行回路圧Ptが所定値P0でモータ目標傾転qmは最小傾転qminから最大傾転qmaxまで増加し、走行回路圧Ptが所定値P0を超えるとモータ目標傾転qmは最大傾転qmaxとなる。ここで、走行回路圧Pt(厳密には主管路LA,LBの差圧)とモータ傾転との積が油圧モータ3の出力トルクに相当し、油圧モータ3が負荷に応じた駆動トルクを出力することで、車両の走行駆動力を得る。
【0015】
作業回路圧Pfは関数発生器10Bに入力される。関数発生器10Bには、予め図示のような特性L2が設定され、この特性L2に従い作業回路圧Pfに応じてモータ傾転の上限値qlimが演算される。特性L2によれば、作業回路圧Pfが所定値Psに至るまでは、モータ傾転の上限値qlimは特性L1の最大傾転qmaxに等しく(100%)、作業回路圧Pfが所定値Psに至ると、そこからΔPの範囲で上限値qlimは所定値q1まで直線的に減少し、作業回路圧PfがPs+ΔP以上では、上限値qlimは所定値q1となる。
【0016】
ここで、所定値q1は、作業回路圧Pfが最大負荷圧Pr(リリーフ圧)のときに、作業負荷にバランスした走行駆動力を発揮し得るモータ傾転に相当する。つまり、最大負荷圧Prのときにモータ最大傾転が所定値q1以下に抑えられると、アーム111の持ち上げ力に対し走行駆動力が最適となる。この状態では、タイヤのスリップを防止することができ、良好な掘削作業を行うことができる。
【0017】
また、バケット112を土砂に貫入した際にアーム111は土砂から反力を受けるが、最大負荷圧Prのときにモータ最大傾転が所定値q1以下であれば、走行駆動力が抑えられるため、アーム111に作用する反力が大きくなりすぎず、レバー操作によりアーム111を容易に持ち上げることができる。なお、q1は最小傾転qminよりも大きく、例えば最大傾転qmaxの50〜70%程度の値として予め設定されている。ΔPは制御の安定のために設定されており、ΔPを0としてもよい。以下では、説明を簡単にするためΔPを0として説明する。
【0018】
ホイールローダ100による掘削作業は、一般に、図4に示すように土砂等の地山130にバケット112を貫入し、バケット112を操作してからアーム111を上げ操作する、あるいはバケット112とアーム111を同時に操作しながら最後にアーム111のみを上げ操作することで行う。このような掘削作業では、通常、バケット操作時の負荷圧力はアーム操作時の負荷圧力よりも低い。例えば、バケット操作時の作業回路圧Pfの変化する範囲(バケット操作範囲)をRb、アーム操作時の作業回路圧Pfの変化する範囲(アーム操作範囲)をRaとすると、図3の関数発生器10Bに示すように、作業回路圧Pfが小さい領域がバケット操作範囲Rb、作業回路圧Pfが大きい領域がアーム操作範囲Raとなる。
【0019】
本実施の形態では、バケット操作範囲Rbの最大値近くに特性L2の所定値Psを設定する。アーム操作範囲Raの最小値はバケット操作範囲Rbの最大値、つまり所定値Psにほぼ等しく、アーム操作範囲Raの最大値はリリーフ圧Prとなる。なお、アーム操作範囲Raとバケット操作範囲Rbは掘削物の比重によって変化し、Psが常にRaとRbの境になるわけではないが、本実施の形態では代表的なRa、Rbの値を用いて、RaとRbの境に所定値Psを設定する。
【0020】
関数発生器10Aで演算されたモータ目標傾転qm、および関数発生器10Bで演算されたモータ傾転の上限値qlimは、それぞれ最小値選択回路10Cに入力される。最小値選択回路10Cでは、qmとqlimのうち、小さい方の値を選択し、それを目標傾転qmとしてレギュレータ11に出力する。これによりモータ傾転の最大値が上限値qlimで制限される。
【0021】
本実施の形態に係る走行制御装置の動作をまとめると次のようになる。
図4に示すように掘削作業時には、ホイールローダ100を地山130に向けて突進し、バケットシリンダ115を操作して、バケット112内に土砂等を取り込む。このとき、通常は作業回路圧Pfは所定値Ps以下であるため、モータ傾転の上限値qlimは最大傾転qmaxに等しくなり、最大走行駆動力を発揮できる。このためバケット112を勢いよく土砂に貫入することができ、バケット112内に容易に土砂を取り込むことができる。
【0022】
次いでアームシリンダ114のみを操作し、あるいはアームシリンダ114とバケットシリンダ115を複合操作し、バケット112を持ち上げる。アーム上げ操作時にはバケット操作時よりも作業回路圧Pfが上昇し、作業回路圧Pfが所定値Ps以上になると、モータ傾転の上限値qlimがq1に急減する。この状態では、アーム操作時にたとえ作業回路圧Pfがリリーフ圧Pr近くまで急上昇しても、モータ最大傾転はq1以下に抑えられる。このため、アーム上げ操作時に走行駆動力が大きくなりすぎることを防止し、アーム上げ力と走行駆動力とを良好にバランスさせることができる。その結果、バケット112を容易に持ち上げることができ、作業効率が高まる。
【0023】
これに対し、例えば図5の特性L3に示すようにモータ傾転の上限値qlimを作業回路圧Pfの上昇に伴い徐々に低下させるようにすると、アーム操作時に作業回路圧PfがPsからPrまで急上昇したときには、モータ傾転の上限値qlimとしてq1を出力する。しかし、モータ傾転が実際に変化する場合には、通常、油圧モータの構造、サイズにもよるが0.2〜0.8秒程度の応答遅れがあるため、モータ傾転は作業回路圧Pfの変化に追従することができず、走行駆動力が瞬時に低下しない。そのため、走行駆動力が大きくなりすぎて、バケット112を即座に上昇させることが困難となる。したがって、バケット112を上昇させるためには改めてバケットシリンダ115等を操作してアーム111に作用する反力を低減する必要があり、操作が煩雑になる。また、アーム操作時にPsとPrの間で作業回路圧Pfが変動する場合も、モータ傾転は作業回路圧Pfに追従できない。この場合のモータ傾転の上限値qlimは、例えばq1とq2の平均値q3となり、走行駆動力が十分に低下しないので、バケット112を持ち上げるためには上述したのと同様に煩雑な操作が必要となる。
【0024】
以上の第1の実施の形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)作業回路圧Pfが所定値Ps以上になると、モータ傾転の最大値をqmaxからq1まで減少させるようにした。これによりアーム操作時に作業回路圧Pfがリリーフ圧Pr近くまで急上昇しても走行駆動力が大きくなりすぎず、アーム上げ力と走行駆動力とがバランスして、バケット112を容易に持ち上げることができる。
(2)作業回路圧Pfが所定値Ps以下では、モータ傾転の最大値をqmaxに設定するので、最大走行駆動力を発揮することができ、バケット内に十分な土砂等を取り込むことができる。
(3)バケット操作範囲Rbの最大値に所定値Psを設定するので、ホイールローダによる掘削作業を良好に行うことができる。
【0025】
−第2の実施の形態−
図6,7を参照して本発明による作業車両の走行制御装置の第2の実施の形態について説明する。
第1の実施の形態では、作業回路圧Pfが所定値Ps以上になるとモータ傾転の上限値を所定値q1まで減少させるようにしたが、第2の実施の形態では、所定値q1を可変とする。なお、以下では第1の実施の形態との相違点を主に説明する。
【0026】
図6は、第2の実施の形態に係る走行制御装置の概略構成を示す図である。なお、図2と同一の箇所には同一の符号を付す。図6に示すようにコントローラ10には、走行回路圧Ptと作業回路圧Pfの他、切換スイッチ20からの信号が入力される。切換スイッチ20は、掘削時の走行駆動力の大きさをPモード、Nモード、Lモードの3段階に切り換える手動スイッチであり、掘削対象物の種類や路面状況等に応じ、作業員によって任意に切り換えられる。なお、切換スイッチ20を2段階に切換可能としてもよく、4段階以上に切換可能としてもよい。
【0027】
図7に示すように、第2の実施の形態に係る関数発生器10Bには、Pモード、Nモード、Lモードに対応した複数の特性L21〜L23がそれぞれ設定されている。各特性L21〜L23とも、作業回路圧Pfが所定値Psに至るまでは、モータ傾転の上限値qlimは最大傾転qmax(100%)に等しい。一方、作業回路圧Pfが所定値Psより大きい範囲では、特性L21(Pモード)は所定値qp、特性L22(Nモード)は所定値qN、特性L23(Lモード)は所定値qLにそれぞれ設定されている。qP,qN,qLには、qP>qN>qLの関係がある。
【0028】
第2の実施の形態では、掘削対象物の種類や路面状況等をオペレータが判断し、切換スイッチ20を操作して、モードを選択する。例えば掘削対象物が砕積等の硬いものである場合は、Pモードを選択する。これにより作業負荷圧Pが所定値Ps以上であっても、モータ傾転は比較的大きいため、他のモード選択の場合よりも大きな走行駆動力が得られ、効率よく作業を行うことができる。また、掘削対象物が砂や雪等の柔らかいものである場合は、Lモードを選択する。これにより作業負荷圧Pが所定値Ps以上のとき、他のモード選択の場合よりも走行駆動力が小さくなり、効率よく作業を行うことができる。
【0029】
このように第2の実施の形態では、作業回路圧Pfが所定値Ps以上におけるモータ傾転の上限値qlimを任意に変更可能としたので、掘削作業時におけるアーム上げ力と走行駆動力とのバランス調整が容易であり、掘削対象物の種類や路面状況等に等に拘わらず、掘削作業時の作業効率を高めることができる。
【0030】
−第3の実施の形態−
図8〜11を参照して本発明による作業車両の走行制御装置の第3の実施の形態について説明する。
第1の実施の形態では、作業回路圧Pfが所定値Ps以上を条件としてモータ傾転の上限値を減少させるようにしたが、第3の実施の形態では、作業回路圧Pfが所定値Ps以上かつ走行回路圧Ptが所定値Pts以上を条件としてモータ傾転の上限値を減少させる。なお、以下では第1の実施の形態との相違点を主に説明する。
【0031】
図8の斜線領域は、作業回路圧Pfが所定値Ps以上かつ走行回路圧Ptが所定値Pts以上の掘削作業領域を示している。コントローラ10は、作業回路圧Pfが所定値Ps以上かつ走行回路圧Ptが所定値Pts以上であるか否か、つまり掘削作業状態であるか否かを判定する。さらに、掘削作業状態の継続時間tを判定し、継続時間tの増加に伴い例えば図9に示すように、モータ傾転の上限値qlimをqa→qb→qcと段階的に小さくする。
【0032】
継続時間tとモータ傾転の上限値との関係を図10に示す。図10では、継続時間tが所定時間t1に至るまでは上限値qlimは所定値qaであり、所定時間t1以上かつ所定時間t2未満で上限値qlimは所定値qbとなり、所定時間t2以上で上限値qlimは所定値qcとなっている。なお、所定値qcは第1の実施の形態の所定値q1に相当する。所定値qcを固定値とせずに、モード選択等により変更可能としてもよい。
【0033】
このように第3の実施の形態では、掘削作業の継続時間tの増加に伴いモータ傾転の上限値qlimを段階的に減少させるようにしたので、アーム上げ力と走行駆動力とを時間経過に伴い良好にバランスさせることができる。したがって、第2の実施の形態のように作業員がモード選択しなくても、アーム上げ力と走行駆動力との関係が掘削対象物や路面状況等に応じた最適なものとなり、走行駆動力が大きすぎてバケットが持ち上がらないといった問題を解消できる。
【0034】
なお、時間経過に伴いモータ傾転の上限値qlimを段階的に減少させるのではなく、モータ傾転の上限値qlimを徐々に減少させるようにしてもよい。その一例を図11に示す。図11では、掘削作業状態の継続時間tが所定時間t1に至るまで、モータ傾転の上限値qlimをqaからqbまで比例的に減少させ、その後、継続時間tが所定時間t2に至るまで、上限値qlimをqbからqcまで比例的に減少させ、さらに継続時間tが所定時間t2以上で上限値qlimをqcとしている。このように時間経過に伴いモータ傾転の上限値qlimを徐々に減少させることで、モータ傾転が急変することを防止でき、掘削作業をスムーズに行うことができる。
【0035】
上記実施の形態では、作業回路圧Pfの閾値であるPsを固定値としたが、Psを可変としてもよい。油圧ポンプ2と油圧モータ3とを閉回路接続して走行用回路HC1として第1の回路を形成し、油圧ポンプ4からの圧油をシリンダ114,115等に導く作業用回路HC2として第2の回路を形成したが、これら回路構成は上述したものに限らない。例えば油圧ポンプ2,4を同一のエンジン1により駆動したが、別々のエンジンで駆動してもよい。また、走行用回路HS1を1ポンプ1モータの組み合わせで構成したが、複数のモータにより回路を構成してもよい。関数発生器10Aから目標傾転qmを出力し、この目標傾転qmに応じてレギュレータ11を駆動してモータ押しのけ容積を制御したが、モータ制御手段の構成はこれに限らない。例えばレギュレータ11を電気式ではなく油圧式として構成してもよい。
【0036】
関数発生回路10Bに作業回路圧Pfに応じたモータ傾転の上限値qlimの特性L2を設定し、この特性L2に従いモータ傾転の最大値を制限するようにしたが、作業回路圧Pfが所定値Psを超えると、モータ傾転の最大値を最大負荷圧Prに対応した最小制限値q1まで減少させるのであれば、特性L2はいかなるものでもよく、最大値制限手段の構成は上述したものに限らない。例えば作業回路圧Pfが所定値Psに至るまでモータ傾転の上限値qlimを徐々に減少させ、所定値Psを超えるとq1まで急減するようにしてもよい。切換スイッチ20の操作によりモータ傾転の上限値qlimを設定するようにしたが(図6)、制限値設定手段はいかなるものでもよい。
【0037】
以上では、本発明の走行制御装置をホイールローダに適用する例を説明したが、他の作業車両にも本発明を同様に適用することができる。すなわち、本発明の特徴、機能を実現できる限り、本発明は実施の形態の走行制御装置に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施の形態に係る走行制御装置が適用される作業車両の一例であるホイールローダの側面図。
【図2】第1の実施の形態に係る走行制御装置の概略構成を示す図。
【図3】図1のコントローラの構成を示すブロック図。
【図4】ホイールローダによる掘削作業の動作を示す図。
【図5】図3と対比されるモータ傾転の特性を示す図。
【図6】第2の実施の形態に係る走行制御装置の概略構成を示す図。
【図7】第2の実施の形態の動作特性を示す図。
【図8】第3の実施の形態による所定の制御領域を示す図。
【図9】第3の実施の形態の動作特性を示す図。
【図10】第3の実施の形態の動作特性を継続時間との関係で示す図。
【図11】図10の変形例を示す図。
【符号の説明】
【0039】
2 可変容量形油圧ポンプ
3 可変容量形油圧モータ
4 油圧ポンプ
10 コントローラ
10A,10B 関数発生回路
11 レギュレータ
20 切換スイッチ
114 アームシリンダ
115 バケットシリンダ
HC1 走行用回路
HC2 作業用回路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変容量形油圧ポンプと可変容量形油圧モータとを閉回路接続して形成され、前記油圧モータの押しのけ容積を制御するモータ制御手段を有する走行用の第1の回路と、
作業用油圧ポンプからの圧油により作業用油圧アクチュエータを駆動する作業用の第2の回路と、
前記第2の回路の負荷圧に応じて前記油圧モータの押しのけ容積の最大値を制限する最大値制限手段とを備え、
前記最大値制限手段は、少なくとも前記第2の回路の負荷圧が所定値を超えると、前記押しのけ容積の最大値を、前記第2の回路の最大負荷圧に対応した最小制限値まで減少させることを特徴とする作業車両の走行制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の作業車両の走行制御装置において、
前記作業用油圧アクチュエータは、バケットを駆動するバケット用シリンダと、バケット支持用のアームを駆動するアーム用シリンダとを有し、
前記所定値は、予め前記バケット用シリンダの駆動による最大負荷圧に設定されることを特徴とする作業車両の走行制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の作業車両の走行制御装置において、
手動操作によって前記最小制限値を設定する制限値設定手段をさらに備えることを特徴とする作業車両の走行制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の作業車両の走行制御装置において、
前記最大値制限手段は、前記第2の回路の負荷圧が前記所定値を超え、かつ、前記第1の回路の駆動圧が所定値を超えると、時間経過に伴い前記押しのけ容積の最大値を前記最小制限値まで段階的に減少させることを特徴とする作業車両の走行制御装置。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の作業車両の走行制御装置において、
前記最大値制限手段は、前記第2の回路の負荷圧が前記所定値を超え、かつ、前記第1の回路の駆動圧が所定値を超えると、時間経過に伴い前記押しのけ容積の最大値を前記最小制限値まで徐々に減少させることを特徴とする作業車両の走行制御装置。
【請求項1】
可変容量形油圧ポンプと可変容量形油圧モータとを閉回路接続して形成され、前記油圧モータの押しのけ容積を制御するモータ制御手段を有する走行用の第1の回路と、
作業用油圧ポンプからの圧油により作業用油圧アクチュエータを駆動する作業用の第2の回路と、
前記第2の回路の負荷圧に応じて前記油圧モータの押しのけ容積の最大値を制限する最大値制限手段とを備え、
前記最大値制限手段は、少なくとも前記第2の回路の負荷圧が所定値を超えると、前記押しのけ容積の最大値を、前記第2の回路の最大負荷圧に対応した最小制限値まで減少させることを特徴とする作業車両の走行制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の作業車両の走行制御装置において、
前記作業用油圧アクチュエータは、バケットを駆動するバケット用シリンダと、バケット支持用のアームを駆動するアーム用シリンダとを有し、
前記所定値は、予め前記バケット用シリンダの駆動による最大負荷圧に設定されることを特徴とする作業車両の走行制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の作業車両の走行制御装置において、
手動操作によって前記最小制限値を設定する制限値設定手段をさらに備えることを特徴とする作業車両の走行制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の作業車両の走行制御装置において、
前記最大値制限手段は、前記第2の回路の負荷圧が前記所定値を超え、かつ、前記第1の回路の駆動圧が所定値を超えると、時間経過に伴い前記押しのけ容積の最大値を前記最小制限値まで段階的に減少させることを特徴とする作業車両の走行制御装置。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の作業車両の走行制御装置において、
前記最大値制限手段は、前記第2の回路の負荷圧が前記所定値を超え、かつ、前記第1の回路の駆動圧が所定値を超えると、時間経過に伴い前記押しのけ容積の最大値を前記最小制限値まで徐々に減少させることを特徴とする作業車両の走行制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−223858(P2008−223858A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−61954(P2007−61954)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【出願人】(000003241)TCM株式会社 (319)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【出願人】(000003241)TCM株式会社 (319)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]