説明

使用済み架橋ゴムの脱硫方法及びそれより得られる再生ゴム組成物並びにそれを含むポリマー組成物

【課題】 使用済み架橋ゴムの簡易な脱硫方法を提供すること。
【解決手段】 光触媒作用を示す無機化合物の存在下で使用済み架橋ゴムに光を照射することを含む、使用済み架橋ゴムの脱硫方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用済み架橋ゴムの脱硫方法に関する。より詳しくは、本発明は、光触媒作用を示す無機化合物の存在下で使用済み架橋ゴムに光を照射することを含む使用済み架橋ゴムの脱硫方法、並びにその脱硫方法を使用して得られる再生ゴム組成物及びその再生ゴム組成物を含むポリマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、環境問題、省資源化等の観点から、使用済み架橋ゴム、例えばタイヤなどの加硫ゴム等の廃棄物のリサイクル(脱硫又は分解)が強く求められている。従来、ゴムの脱硫又は分解方法として、例えば、熱と剪断力を加えて低分子量化する方法(引用文献1)や、酸の作用によりゴムを低分子量化する方法(引用文献2)が提案されている。しかしながら、熱と剪断力を加えて使用済み架橋ゴムを低分子量化する方法は、二軸押出機等の大規模で複雑な設備を必要とし、使用済み架橋ゴムの分解の程度は加熱温度、滞留時間、二軸押出機の仕様等の様々な加工パラメーターに依存する。また、そのような方法によると、一般的に、結合の開裂は非選択的に起こるため、主鎖の長さがより長いゴム分子ほど主鎖の切断が起こりやすく、ゴムのスルフィド結合等の架橋結合の切断だけでなくゴム分子の主鎖の過度な切断をもたらし、得られた再生ゴムを再度加硫して製造されたゴム製品は、原料ゴムを加硫して製造されたものよりも引張強さや伸び等の物性で劣る場合が多い。また、酸の作用により使用済み架橋ゴムを低分子量化する方法も同様に、架橋結合以外にゴム分子の主鎖の過度な切断をもたらすため、得られた再生ゴムを再度加硫したとしても、引張強度や伸び等の物性で劣る加硫物が得られる場合が多い。
【0003】
一方、光触媒作用を示す様々な無機化合物の存在下で様々な有機化合物を露光することにより分解できることが知られており、例えば単に太陽光に暴露されることにより二酸化チタンが光化学作用により防菌、防臭効果を発揮することが知られている。有機化合物を光触媒作用を示す無機化合物の存在下で分解する例として、有機高分子製品を二酸化チタン粉末と水分の共存雰囲気下において、二酸化チタン粉末に光を照射することにより有機高分子製品を親水化する方法(引用文献3)や、有機物含有廃水と光触媒との混合液を霧状にして、この霧状体に光を照射して有機物を分解する方法(引用文献4)が提案されている。
しかしながら、複雑な設備や工程を必要とせず、また、ゴム分子の主鎖の過度な切断を生じずに、光触媒作用により架橋ゴムの脱硫を行なって再生ゴムを簡易に得ることはこれまで提案されていない。
【0004】
【特許文献1】特開平11−236464号公報
【特許文献2】特開2004−263006号公報
【特許文献3】特開2004−52215号公報
【特許文献4】特開2004−188412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように使用済み架橋ゴムを脱硫する又は解重合により可塑化する様々な方法が提案されているが、複雑な設備や工程を必要とせず、また、ゴム分子の主鎖の過度な切断を生じずに、使用済み架橋ゴムを脱硫することはこれまで提案されていない。
【0006】
従って、本発明は、光触媒作用を利用することによって、複雑な設備や工程を必要とせず、また、ゴム分子の主鎖の過度な切断を生じずに、使用済み架橋ゴムを脱硫する方法を提供することを目的とする。
【0007】
本発明は、さらに、光触媒作用を利用して使用済み架橋ゴムを脱硫し、再利用可能な再生ゴム組成物及びそれを含むポリマー組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、光触媒作用を示す無機化合物の存在下で使用済み架橋ゴムに光を照射すると、使用済み架橋ゴムを脱硫できることを見出したものである。
【0009】
本発明の第1の態様によれば、光触媒作用を示す無機化合物の存在下で使用済み架橋ゴムに光を照射することを含む使用済み架橋ゴムの脱硫方法が提供される。
【0010】
本発明の第2の態様によれば、上記脱硫方法を使用して得られる再生ゴム組成物が提供される。
【0011】
本発明の第3の態様によれば、上記脱硫方法を使用して得られる再生ゴム組成物を含むポリマー組成物が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の使用済み架橋ゴムの脱硫方法は、複雑な設備や工程を必要とせずに使用済み架橋ゴムを脱硫することができる。本発明の方法を使用して得られる再生ゴム組成物は、上記のような従来法により得られたものよりも、それを再加硫することにより得られる加硫物における引張強度や伸びなどの引張特性の減損が抑えられるという従来なかった優れた利点を提供する。また、本発明の架橋ゴムの脱硫方法は、光触媒作用を生じさせるために太陽光を光源として利用できることから、エネルギー資源を節約することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の脱硫方法により脱硫できる使用済み架橋ゴムとしては、ゴム成分として、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、1,2−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム、ブチルゴム(IIR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)等のジエン系ゴム及びこれらの水素添加物;エチレン−プロピレンゴム(EPM)、エチレン−ブテンゴム(EBM)、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、フッ素ゴム、ポリエチレンゴム、ポリプロピレンゴム等のオレフィン系ゴム;エピクロロヒドリンゴム;多硫化ゴム;シリコーンゴム;ウレタンゴム等;並びにポリスチレン系エラストマー性ポリマー(スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)等)、ポリオレフィン系エラストマー性ポリマー、ポリ塩化ビニル系エラストマー性ポリマー、ポリウレタン系エラストマー性ポリマー、ポリエステル系エラストマー性ポリマー、ポリアミド系エラストマー性ポリマー等、及びこれらの水素添加物、並びにこれらの2種以上のブレンドから選ばれるものを含むものが挙げられる。
【0014】
ジエン系ゴムは、硫黄、又は、例えば特開2001−72807号公報に記載されたチイラン基含有化合物により架橋されたものであることができる。
【0015】
本発明において使用される光触媒作用を示す無機化合物は、光触媒作用を示すことのできるものであればいずれであってもよく、例えばCdS、ZnS、In23、PdS、Cu2S、MoS2、WS2、Sb23、Bi23、ZnCdS2等の硫化物;CdSe、In2Se3、WSe2、HgSe、PbSe等のセレン化物;TiO2、ZnO、WO3、CdO、In23、Ag2O、MnO2、Cu2O、Fe23、V25等の酸化物;GaAs、Si、Se、Cd23、Zn23、AgBr;及びこれらの混合物が挙げられる。本発明の脱硫方法において、光触媒作用を示す無機化合物は、いかなる形態をとっていてもよいが、触媒効率又は脱硫効率の点から、顆粒状又は粉末状の形態にあることが好ましい。本発明の脱硫方法において、光触媒作用を示す無機化合物は、光触媒活性の点から1〜500nmの結晶子径、好ましくは10〜100nmの結晶子径を有する。
【0016】
本発明の脱硫方法では、上記のように、光触媒作用を示すものであればいずれの無機化合物も使用できるが、安定性の点から、CdS、ZnS、TiO2 及びZnOを使用するのが都合よく、二酸化チタンを使用することが特に好ましい。さらに、二酸化チタンの結晶構造には、アナタース型とルチル型とブルッカイト型の3種類の結晶構造があることが知られているが、高い触媒活性を有することが知られているアナタース型構造の二酸化チタンを使用することが好ましい。ルチル型構造の二酸化チタンは、アナタース型のものよりも一般的に光触媒活性が低いことが知られているが、本発明で使用される場合には、二酸化チタン粒子はルチル型粒子とアナタース型粒子の混合物であってもよい。アナタース型構造の二酸化チタンのバンドギャップは3.2eVであるため、アナタース型二酸化チタンが光触媒作用を生じるには、約390nm以下の波長を有する紫外線が必要であり、一方、ルチル型二酸化チタンは、約410nm以下の波長を有する紫外線が必要である。近年、アナタース型又はルチル型二酸化チタンに種々の元素をドープすることによって、あるいは種々の金属微粒子を担持することによって、二酸化チタンのバンドギャップを制御してその光触媒作用を高活性化することや光源に応じた所望の波長、例えば可視光波長領域で光触媒作用を発現させることが行なわれており、本発明では、そのような高活性化された二酸化チタンを使用することもできる。二酸化チタンは、例えば、水、あるいはエタノール及びイソプロパノール等のアルコール類;エチレングリコールモノブチルエーテル及びエチレングリコールモノエチルエーテル等のエチレングリコールのモノアルキルエーテル類;ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル及びジエチレングリコールモノブチルエーテル等のジエチレングリコールのモノアルキルエーテル類;γ-ブチロラクトン等のラクトン類等の極性有機溶剤を分散媒として分散体の形態で使用することが好ましい。光触媒作用を示す二酸化チタンは、様々な供給元から購入することができ、例えば、テイカ株式会社製のTKS−203(TiO2 含有量20.5重量%の水分散液、アナタース型、粒子径6nm)、AMT−100(粒子径6nm)及びAMT−600(粒子径30nm);石原産業株式会社製のST−01(粒子径7nm)及びST−21(粒子径20nm);シーアイ化成株式会社製のNanoTek(粒子径30nm);チタン工業株式会社製のPC−101(粒子径20nm)、PC−102(粒子径50nm)及びPC−101−A(粒子径40nm);昭和タイタニウム株式会社製のスーパータイタニアF−6(粒子径約15nm)、スーパータイタニアF−5(粒子径約20nm)及びスーパータイタニアF−4(粒子径約30nm);古河機械金属株式会社製のDN−22A(粒子径6.8nm)、DN−1−0(粒子径9.0nm)、DN−S1(粒子径14.1nm)及びDN−1(粒子径22.2nm);多木化学株式会社製のA−100(粒子径8nm);日本アエロジル株式会社製のP−90(粒子径15nm)及びP−25(粒子径21nm);堺化学工業株式会社製のSTR−60C(粒子径20nm)、STR−60C−LP(粒子径20nm)及びSTR−100C(粒子径10nm);Sachtleben Chemie製のUV100(粒子径10〜250nm)等が挙げられる。
【0017】
光触媒作用を示す無機化合物は、顆粒状又は粉末状の形態にある場合には、分散媒を用いずに、そのまま使用済み架橋ゴムに接触させて当該架橋ゴムの脱硫を行なうことができ、また、光触媒作用を示す無機化合物を分散液の形態として使用する場合には、好ましくは上記の粒子径を有する粉末状の当該無機化合物を分散媒に分散させ、そして得られた分散液中に、脱硫させるべき架橋ゴムを浸漬し、そして分散液に光を照射することにより、当該架橋ゴムの脱硫を行なうことができる。
【0018】
光触媒作用を示す無機化合物を、分散液ではなく、顆粒状又は粉末状にして使用する場合には、例えばロール機を用いて細かくした使用済み架橋ゴムに顆粒状又は粉末状の光触媒作用を示す無機化合物を混合機により混合し、混合機内で攪拌しながら光を照射するか、あるいは使用済みゴムと光触媒作用を示す無機化合物との混合物の単位体積当たりの露光量がより多くなり脱硫効率が高まるように混合物を薄く広げて露光することにより使用済み架橋ゴムの脱硫を行なうことができる。露光後、例えば、遠心分離機等の湿式もしくは乾式分級装置を使用して分離する方法や、篩い分け、あるいは単に水で洗い落とす等の各種分離法により分離した後、脱硫ゴムは再生ゴムとして再利用でき、また、光触媒作用を示す無機化合物も再利用することができる。分離後、得られた脱硫ゴムは、必要に応じて水洗し、乾燥させる。
【0019】
光触媒作用を示す無機化合物を分散液の形態で使用する場合、分散液中で使用済み架橋ゴムを脱硫した後、上記の光触媒作用を示す無機化合物を顆粒状又は粉末状で使用する場合と同様に各種分離法を用いて脱硫ゴムと光触媒作用を示す無機化合物とを分離することができる。分離された脱硫ゴムは、必要に応じて水洗し、乾燥させる。光触媒作用を示す無機化合物の分散液は、そのまま再利用するか、あるいは光触媒作用を示す無機化合物の含有量を調節した後に再利用することができる。
【0020】
本発明の脱硫方法において、光触媒作用を示す無機化合物を分散液の形態で使用する場合には、当該光触媒作用を示す無機化合物の分散性を高めるために、無機化合物の分散液に様々な分散剤を加えることができる。分散剤としては、ポリリン酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、シランカップリング剤、アルミキレート、アルキルチタネート系材料、β-ジケトン類、及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。光触媒作用を示す無機化合物の水分散液中に添加される分散剤の量は、分散液中に分散させる無機化合物の種類及び量並びに当該分散剤の種類等を考慮して当業者であれば容易に決定できる。また、光触媒作用を示す無機化合物は、水等の分散媒に対するその分散性を高めるために、表面処理されたものであってもよい。
【0021】
本発明の脱硫方法において使用される光源としては、使用される光触媒作用を示す無機化合物の種類及び光触媒活性を示す波長範囲に応じていかなる光源も使用できる。本発明の脱硫方法において、光触媒作用を示す無機化合物として二酸化チタンが使用される場合には、触媒効率の点から紫外線を放出することのできる光源を使用することが好ましく、人工光源であっても太陽光であってもよい。太陽光は390nm以下の波長を有する光を含み、また、太陽光を利用する場合には、エネルギー資源を節約できることから、本発明において太陽光を利用できる。光源として紫外線光源、可視光光源などの人工光源を使用する場合には、太陽光の場合と違って照射強度が一定であることから、使用済み架橋ゴムの脱硫を一定の照射条件で行なうことができ、脱硫の程度を制御することが容易である。また、光触媒として使用する無機化合物の種類及び光触媒活性を示す波長範囲に応じて、人工光源を選択できるという利点がある。露光時間は、所望の脱硫の程度、光源の照射強度、使用する光触媒作用を示す無機化合物の種類、脱硫すべき架橋ゴムの粒子径などに応じて、調節できる。脱硫すべき架橋ゴムの粒子系が小さいほど、架橋ゴムの比表面積が大きくなるため、光触媒による脱硫効率が高くなり、より短い時間で脱硫を行なうことができる。しかしながら、架橋ゴムを粉砕して小さくし過ぎると、粉砕時のせん断作用により架橋ゴム分子の主鎖が切断され、その結果、ゴム物性が低下してしまうため好ましくない。そのため、本発明の脱硫方法では、光触媒を顆粒状又は粉末状として使用済み架橋ゴムと混合する場合及び光触媒作用を示す無機化合物の分散液に架橋ゴムを浸漬する場合のいずれの場合であっても、光触媒を用いて使用済み架橋ゴムを脱硫するのに先立って、当該架橋ゴムを約0.25〜約2.5mm(約10〜約100メッシュ)の大きさにすることが好ましい。このような大きさを有する架橋ゴム粉砕物は、クラッカーロール等の装置により塊状の架橋ゴムを粗砕した後、細砕ロール機等の装置により細砕することにより得ることができる。また、脱硫反応をより均一に進行させるには、粉砕された架橋ゴムの粒子径分布が狭いほど、光触媒反応の進行度が架橋ゴム粒子間でばらつきが小さいと考えられることから、粒子径分布を均一にすることが好ましい。本発明の脱硫方法では、光触媒作用を示す無機化合物を上記のような分散媒に分散させずに、顆粒状又は粉末状のものをそのまま、脱硫すべき架橋ゴムと混合する場合、及び光触媒作用を示す無機化合物を分散液として使用する場合のいずれの場合であっても、混合又は攪拌操作により光触媒反応の進行をさらに均一にすることができる。本発明の脱硫方法により達成される脱硫の程度は、本発明の方法によれば、ゴム分子の主鎖の過度な切断を生じずにゴムの脱硫を行なうことができることから、脱硫反応はゴム全体にわたって進行する必要はなく、脱硫すべき架橋ゴムの全体量に対して少なくとも一部であっても、ゴム特性に優れた再生ゴム組成物を得ることができる。
【0022】
本発明の脱硫方法により脱硫される使用済み架橋ゴムは、例えば、粉砕された使用済みゴムに再生剤としてゴムを軟化、膨潤させるために軟化剤、可塑剤、しゃく解剤などを加え、1MPa以上の高飽和蒸気圧下で4〜5時間加熱脱硫するパン法;粉砕された使用済みゴムに水酸化ナトリウム水溶液、軟化剤を加え、蒸気を通しながら脱硫するアルカリ法;前述のアルカリ法で使用する水酸化ナトリウムに対して塩化亜鉛などの金属塩化物の水溶液を用いる中性法;粉砕された使用済みゴムに再生剤を混合して一般にリクレメーターと呼ばれる押出機にかけて連続的に脱硫するリクレメーター法;高速高圧のミキサーを使用して脱硫するインテンシブミキサー法等の従来の脱硫法を用いてある程度低分子量化されたものであってもよい。使用済み架橋ゴムを従来の脱硫法を用いて低分子量化した後に、本発明の脱硫方法を用いて脱硫する場合には、従来法では十分でなかった架橋ゴムの架橋の切断をさらに進めることができる。また、本発明の脱硫方法を用いて脱硫された使用済み架橋ゴムは、後述する新たなポリマー材料並びに各種配合剤及び添加剤と、そのまま配合されても、所望の特性を付与することを目的として酸無水物等の変性剤を用いる化学的変性等の処理を施された後に配合されても、あるいは、従来の脱硫法によりさらに低分子量化された後に配合されてもよい。
【0023】
本発明の上記方法を実施することにより使用済み架橋ゴムから得られた再生ゴム組成物を含む上記ポリマー組成物は、再加硫した後、引張特性などの物性に優れた加硫ゴムを提供することができる。本発明のポリマー組成物が、再加硫後に引張特性などの物性に優れた加硫ゴムを提供する理由は、特定の理論に束縛されるわけではないが、電荷の偏りがより大きい架橋結合がゴム分子の主鎖よりも切断されやすいことによると考えられる。
【0024】
本発明の方法を実施することにより使用済み架橋ゴムから得られた再生ゴム組成物は、他のポリマー材料、カーボンブラック及びシリカ等の補強剤、並びに種々の配合剤及び添加剤、例えば加硫又は架橋剤、加硫助剤、加硫促進剤、老化防止剤、酸化防止剤、顔料、各種オイル、ステアリン酸、充填剤、軟化剤、可塑剤等を、各種用途に応じて配合することによりポリマー組成物とし、成型し、再加硫して各種用途に利用することができる。
【0025】
本発明の上記方法を使用して架橋ゴムから得られた再生ゴム組成物に配合することのできるポリマー材料としては、本発明の方法により脱硫できる架橋ゴムのゴム成分について先に述べたようなものと同じものであることができ、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、1,2−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム、ブチルゴム(IIR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)等のジエン系ゴム及びこれらの水素添加物;エチレン−プロピレンゴム(EPM)、エチレン−ブテンゴム(EBM)、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、フッ素ゴム、ポリエチレンゴム、ポリプロピレンゴム等のオレフィン系ゴム;エピクロロヒドリンゴム;多硫化ゴム;シリコーンゴム;ウレタンゴム等;並びにポリスチレン系エラストマー性ポリマー(スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)等)、ポリオレフィン系エラストマー性ポリマー、ポリ塩化ビニル系エラストマー性ポリマー、ポリウレタン系エラストマー性ポリマー、ポリエステル系エラストマー性ポリマー、ポリアミド系エラストマー性ポリマー等、及びこれらの水素添加物、並びにこれらの2種以上のブレンドが挙げられる。これらのゴムから選ばれるものは、いわゆる新材ゴムとして、本発明の上記方法を使用して使用済み架橋ゴムから得られた再生ゴム組成物に配合できる。本発明の上記方法を使用して使用済み架橋ゴムから得られた再生ゴム組成物は、ポリマー材料の配合によって得られるポリマー組成物に要求される物理的特性に応じて、100重量部に対して1〜300重量部の割合で加えられる。
【0026】
上記再生ゴム組成物に配合できるカーボンブラックは、用途に応じて適宜選択される。一般的に、カーボンブラックは粒子径に基づいて、ハードカーボンとソフトカーボンとに分類される。ソフトカーボンはゴムに対する補強性が低く、ハードカーボンはゴムに対する補強性が強い。本発明の方法により得られた再生ゴム組成物には、補強性の強いハードカーボンをさらに配合するのが好ましく、上記ポリマー材料100重量部に対して、1〜150重量部、好ましくは10〜100重量部、より好ましくは30〜80重量部の割合でカーボンブラックを配合するのがよい。
【0027】
他の補強剤としては、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ、粉砕シリカ、溶媒シリカ、珪藻土、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化バリウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、ろう石クレー、カオリンクレー、焼成クレーなどが挙げられ、上記ポリマー材料100重量部に対して、10〜100重量部、より好ましくは20〜80重量部添加するのがよい。
【0028】
加硫剤としては、粉末硫黄、沈降性硫黄、高分散性硫黄、表面処理硫黄、不活性硫黄、ジモルフォリンジサルファイド、アルキルフェノールジサルファイドなどの硫黄系加硫剤や、亜鉛華、酸化マグネシウム、リサージ、p−キノンジオキシム、p−ジベンゾイルキノンジオキシム、テトラクロロ−p−ベンゾキノン、ポリ−p−ジニジトロベンゼン、メチリンジアニリンなどが挙げられる。
【0029】
加硫助剤としては、アセチル酸、プロピオン酸、ブタン酸、ステアリン酸、アクリル酸、マレイン酸等の脂肪酸;アセチル酸亜鉛、プロピオン酸亜鉛、ブタン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、アクリル酸亜鉛、マレイン酸亜鉛等の脂肪酸亜鉛などが挙げられる。
【0030】
加硫促進剤としては、テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラエチルチウラムジスルフィド(TETD)等のチウラム系;ヘキサメチレンテトラミン等のアルデヒド・アンモニア系;ジフェニルグアニジン等のグアニジン系;ジベンゾチアジルジサルファイド(DM)等のチアゾール系;シクロヘキシルベンゾチアジルスルフェンアマイド及びN−t−ブチル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド(TBBS)等のスルフェンアミド系;等が挙げられる。さらにアルキルフェノール樹脂やそのハロゲン化物等を用いることもできる。
【0031】
老化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系化合物、並びに脂肪族及び芳香族のヒンダードアミン系化合物、例えばN−フェニル−N’−1,3−ジメチルブチル−p−フェニレンジアミン等の化合物が挙げられ、上記ポリマー材料100重量部に対して、0.1〜10重量部、より好ましくは1〜5重量部添加するのがよい。
【0032】
酸化防止剤としては、例えば、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)等が挙げられ、上記ポリマー材料100重量部に対して、0.1〜10重量部、より好ましくは1〜5重量部添加するのがよい。
【0033】
顔料としては、二酸化チタン、酸化亜鉛、群青、ベンガラ、リトポン、鉛、カドミウム、鉄、コバルト、アルミニウム、塩酸塩、硫酸塩等の無機顔料、アゾ顔料、銅フタロシアニン顔料等の有機顔料などが挙げられ、上記ポリマー材料100重量部に対して、0.1〜10重量部、より好ましくは1〜5重量部添加するのがよい。
【0034】
かかるポリマー組成物は、ニーダー、加圧式ニーダー、バンバリーミキサー、一軸若しくは二軸押出機などの混合又は混練装置を使用し、新材ゴムに再生ゴムを配合する際の一般的な混合又は混練方法及び操作条件を用いて調製することができ、例えば、まず、上記新材ゴムと再生ゴム組成物を配合した後、その他の配合剤を配合することにより調製できる。
【0035】
本発明の上記方法を使用して使用済み架橋ゴムから得られた再生ゴム組成物を含んで成るポリマー組成物は、従来法により得られた再生ゴムを同じ割合で同様に配合されたものよりも強度や耐摩耗性に優れた加硫ゴムを提供するという特徴を有するため、有効に再利用することができる。
【実施例】
【0036】
以下に示す実施例及び比較例を参照して本発明をさらに詳しく説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって限定されるものでないことは言うまでもない。
【0037】
本発明の脱硫方法が、ゴム分子の主鎖の過度な切断を生じずに架橋ゴムを脱硫できることを定性的に示すために、使用済み架橋ゴムではなく、調製したばかりの硫黄架橋イソプレンゴム(硫黄架橋IR)及びチイラン架橋イソプレンゴム(チイラン架橋IR)を本発明の脱硫方法にかけ、脱硫後の硫黄架橋IR及びチイラン架橋IRについて後述する試験方法により引張特性及び膨潤度を求めた。
【0038】
硫黄架橋IRの調製
下記表1に示す成分を、配合及び混練することにより未架橋IR組成物を調製した。この組成物中の未架橋IRの分子量を求めたところ、数平均分子量Mn=450,000、重量平均分子量Mw=850,000であり、分子量分布(Mw/Mn)は1.9であった。この未架橋IR組成物を温度160℃、圧力5MPaで10分間加硫させることにより硫黄架橋IRを得た。
チイラン架橋IRの調製
架橋剤として下記式:
【0039】
【化1】

【0040】
により表されるチイラン系化合物を使用し、下記表1に示す成分を、配合及び混練することにより未架橋IR組成物を調製した。使用した未架橋IRは、上記の硫黄架橋IRの場合と同じものであった。得られた組成物を、温度160℃、圧力10MPaで30分間加硫させることによりチイラン架橋IRを得た。
【0041】
【表1】

【0042】
試験片の作製
上記のように得られた硫黄架橋IR及びチイラン架橋IRのシート状物からダンベル状3号形試験片を打ち抜き3個ずつ作製した。比較例1及び実施例1では、上記のように得られた硫黄架橋IRを使用し、比較例2及び実施例2では、上記のように得られたチイラン架橋IRを使用した。比較例1〜2は、二酸化チタン分散液に浸漬せず、そのまま下記引張試験及び膨潤度試験に供した。
【0043】
二酸化チタンの水分散液
二酸化チタンの水分散液としては、テイカ株式会社製のチタニアゾルTKS−203(商標)を購入したままの状態で使用した。このチタニアゾルは、水を分散媒とするもので、二酸化チタン含有量は20.5重量%である。
【0044】
架橋ゴムの脱硫
上記のように作製した架橋ゴム試験片を各例に対して3個ずつ300mlガラス容器に入れた。ガラス容器に架橋ゴム試験片以外には何も入れなかった例を比較例1及び2(ブランク)とし、ガラス容器に架橋ゴム試験片と300mlの上記二酸化チタンの水分散液を入れた例を本発明の実施例1及び2(TiO2 浸漬)とした。試験片は、各ガラス容器内で重ならないように1cm間隔で互いに離して配置した。試験片を入れた後、ガラス容器を密閉した。これら実施例及び比較例の試験片を、室内の窓際で室温で太陽光に200日間曝露した。その後、各ガラス容器から試験片を取り出して1週間風乾した後、下記引張試験、膨潤度試験に供した。
【0045】
試験法
(1)引張試験: JIS K6251に従って、伸び100%時のモジュラス(M100)及び300%時のモジュラス(M300)、破断力(T)、並びに破断時伸び(E)を求めた。これら引張応力、破断力及び破断時伸びは、室温にて測定した。
(2)膨潤度: 風乾後の上記の各試験片の体積を比重測定装置により求め、次に、ガラス容器に入れた試験用液体としてのトルエン200mlに浸漬した。ガラス容器は、室温で48時間放置した。その後、試験片を取り出し、比重測定装置により膨潤後の体積を測定し、試験片の膨潤前の体積に対する膨潤後の体積の百分率を算出した。
【0046】
実施例1〜2及び比較例1〜2
実施例1〜2及び比較例1〜2の試験結果を下記表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
表2から、実施例1及び2では、比較例1及び2と比べて、モジュラス、破断力及び破断時伸びが減少し、膨潤度が2割程度増加したことから、架橋結合の切断が進行したことが判る。これらの結果から、本発明の脱硫方法によっては、ゴム分子の主鎖の過度な切断が生じずに、架橋ゴムを脱硫できることが判る。
【0049】
実施例3〜4
上記のように得た硫黄架橋IR及びチイラン架橋IRを、上記の二酸化チタン分散液(テイカ株式会社製のチタニアゾルTKS−203)を使用して再生した。再生手順及び条件は以下のとおりである。
硫黄加硫イソプレンゴム及びチイラン架橋イソプレンゴムをそれぞれ、クラッカーロールにより粗砕した後、細砕ロール機で粉砕し、約0.8mm(約30メッシュ)の粉末状にした。その後、粉砕されたゴム100gを上記二酸化チタン水分散液1000mlに投入し、粉砕されたゴム粒子が二酸化チタン水分散液中に分散した状態を保つために攪拌機(スリーワンモータ)により攪拌しながら、光源としてハンディーUVランプ(アズワン株式会社製のSUV−16、波長254nm、照射強度2020μW/cm2)を用いて、温度25℃で、10日間露光して脱硫を行なった。脱硫後、水洗することによりゴム粒子と二酸化チタンとを分離し、水洗した後、ゴム粒子を3日間風乾した。このようにして得られた再生ゴムを下記表3に示す配合にしたがって天然ゴム及び各種添加物と配合し、ポリマー組成物を得た。
【0050】
比較例3
対照としてこの比較例で使用した市販の再生ゴムは、村岡ゴム工業株式会社から入手可能なタイヤリクレーム(天然ゴムを再生したもの)であった。
【0051】
比較例4
再生ゴムを配合しない例として、ゴム成分として天然ゴム100%のポリマー組成物を下記表3に示す配合に従って調製した。
【0052】
【表3】

【0053】
実施例3〜4及び比較例3〜4について、伸び100%時のモジュラス(M100)及び300%時のモジュラス(M300)、破断力(T)、並びに破断時伸び(E)を上記の試験法を用いて求めた。これらの試験結果を下記表4に示す。
【0054】
【表4】

【0055】
表4に示した結果から、市販の再生ゴムを配合した比較例3では、再生ゴムを配合しなかった比較例4に比べて、モジュラス、破断強度及び破断伸びが全て2割程度以上も低下したことが判る。これに対し、本発明の方法により再生された再生ゴム組成物を配合した実施例3及び4では、モジュラス、破断強度及び破断伸びは低下するものの、比較例3よりもそれらの低下の度合いは著しく抑えられ、原料ゴム成分が天然ゴム100%である比較例4とほぼ同程度のモジュラス、破断強度及び破断伸びを達成でき、従来の再生ゴムを配合したものよりも優れた特性を有する加硫ゴムを提供することが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒作用を示す無機化合物の存在下で使用済み架橋ゴムに光を照射することを含む、使用済み架橋ゴムの脱硫方法。
【請求項2】
前記使用済み架橋ゴムを前記光触媒作用を示す無機化合物の分散液に浸漬して前記照射を行なうことを特徴とする請求項1記載の脱硫方法。
【請求項3】
前記光触媒作用を示す無機化合物が二酸化チタンであることを特徴とする請求項1又は2記載の脱硫方法。
【請求項4】
前記二酸化チタンがアナタース型構造を有する二酸化チタンであり、水分散液の形態で存在することを特徴とする請求項3記載の脱硫方法。
【請求項5】
前記光が390nm以下の波長の紫外線を含むことを特徴とする請求項1記載の脱硫方法。
【請求項6】
前記使用済み架橋ゴムが硫黄架橋ゴム又はチイラン架橋ゴムであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の脱硫方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の脱硫方法を使用して得られる再生ゴム組成物。
【請求項8】
請求項7記載の再生ゴム組成物を含むポリマー組成物。

【公開番号】特開2006−232885(P2006−232885A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−45717(P2005−45717)
【出願日】平成17年2月22日(2005.2.22)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】