便座
【課題】 低表面エネルギー層を設けた底板と便座本体とを固着させた隙間へ汚水が浸入して汚れが固着することを抑制し、便座底面の汚れを簡単に落とせる便座を提供する。
【解決手段】 本発明の便座は、底板7に便座本体8を固着した合成樹脂製便座であって、底板7と便座本体8との境界部9を底板7の底面より上方に設けると共に、底板7に、境界部9から基材露出面26部分を除いた底板7の底面10及び側周面11に渡って低表面エネルギー層6を備えている。
【解決手段】 本発明の便座は、底板7に便座本体8を固着した合成樹脂製便座であって、底板7と便座本体8との境界部9を底板7の底面より上方に設けると共に、底板7に、境界部9から基材露出面26部分を除いた底板7の底面10及び側周面11に渡って低表面エネルギー層6を備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂製便座、特に内部に便座表面を暖めるヒータを備えた便座に関する。
【背景技術】
【0002】
洋式トイレなどに配置されている腰掛け式便器には、便器上面に便座が備えられている。この便座は通常ポリプロピレン樹脂やABS樹脂などの熱可塑性合成樹脂製であって、便器のリム面に対向する底板と、人が着座する便座本体とを固着して形成している。
【0003】
この便座を使用しているとき、便座の底板は、便座クッションを介して便器の直上に位置しているので、底板底面は便器ボール面によって反射された尿の飛沫や人体によって反射された衛生洗浄装置の洗浄水などの汚水が付着して固化してしまう。また、男子の小用時に上げた便座の底面が露出するので、その底面にはねた尿がかかって付着して固化してしまう。特に底板の底面は通常の使用状態では見えにくく、汚れが付着していることに気が付かないことが多いので、時間の経過と共に汚れが落ちにくくなってしまう。そこで、清掃性を良くするために、本出願人が提案したように、図12に示すごとく、底板7に低表面エネルギー層を設けた防汚性樹脂フィルム6を底板7に一体成形したものが知られている。(例えば、特許文献1参照。)
【0004】
この便座4においては、防汚性樹脂フィルム6を一体成形した便座4の底板7と便座本体8とを固着させた境界部9が便器1のリム面33に対向して位置しており、この境界部9の隙間に尿などの汚水が染込み固化してしまう。しかも、境界部9における表面エネルギーは、底板7の防汚性樹脂フィルム6側が便座本体8側より低いので、境界部9に付着した汚水は、防汚性樹脂フィルム6側でははじかれ、便座本体8側ではなじみ、汚水が便座本体8側に移動して、底板7と便座本体8とを固着させた境界部9の隙間に表面張力により徐々に汚水が浸入して固化するのである。従って、底板9に付着した汚れを雑巾などで拭き取る際、防汚性樹脂フィルム6で覆われた部分に付着した汚れは簡単に拭き取れても、境界部9の隙間に浸入固化した汚れが残ってしまい、不衛生であった。
【特許文献1】特開2003−093271号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、本発明の課題は、低表面エネルギー層を設けた底板と便座本体とを固着させた隙間へ汚水が浸入して汚れが固化することを抑制し、また拭き掃除などで汚れを簡単に落とせる便座を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本出願の第一の発明の便座は、底板に便座本体を固着した合成樹脂製便座であって、底板と便座本体との境界部を底板の底面より上方の側周面に設けると共に、底板に、境界部から所定幅を除いた底板の底面及び側周面に渡って低表面エネルギー層を備えたことを特徴としている。
【0007】
このように構成することで、便座の底板と便座本体とを固着させた境界部が直接便器に対向せず、便器ボウル面に反射する汚水が境界部にかかりにくい。しかも便座の底板と便座本体とを固着させた境界部と底板の低表面エネルギー層との間に底板の基材樹脂が所定幅露出しているので、底板の低表面エネルギー層周縁部に付着した汚水は低表面エネルギー層にはじかれて露出した底板の所定幅の基材樹脂部分になじみ付着するものの、汚水が便座の底板と便座本体とを固着させた境界部の隙間に直接触れることが無い。
【0008】
従って、便座の底板と便座本体とを固着させた境界部分の隙間に汚水が浸入固化することが抑制され、底板に付着した汚れのうち、低表面エネルギー層で覆われた部分に付着した汚れは簡単に拭き取れる。
【0009】
底板を構成する基材樹脂と同材質からなるフィルム基材の一面に低表面エネルギー層が設けられた樹脂フィルムを、底板の表面形状に成形後トリミング加工して底板に一体成形し、低表面エネルギー層を露出させて底板に固着させることが好ましく、このようにすることで、底板側周面の所定幅の基材樹脂が露出した部分を確実に確保できるうえ、一体成形時に樹脂フィルムと底板との固着部分同志が隙間無く溶着して両者間に汚水が浸入することが防げ、しかも便座を掃除する際に樹脂フィルムが剥がれず長期間に亘って防汚性を発揮できる。
【0010】
底板に設けた挿入孔に便座クッションの脚部を差し込み、前記樹脂フィルムに前記便座クッションの平面形状より小さく前記脚部より大きい開口部を設け、前記樹脂フィルムを挟んで前記底板に便座クッションを固定するのが好ましく、このようにすることで便座クッションの固定を従前と同じ手順で行なうことができ、且つ便座クッションの外れにくさを維持することができる。
【0011】
底板の基材樹脂及び樹脂フイルムのフィルム基材をポリプロピレン樹脂として、樹脂フイルムの厚さを500μm以上とすることが好ましく、このようにすることで一体成形時に、底板を形成するポリプロピレン樹脂を型に射出したとき、型内に予め装着されたトリミング加工済みの樹脂フィルムが射出圧で変形することを防止できる。
【0012】
樹脂フィルムの周縁部と底板表面とを略面一にすることが好ましく、このようにすることで引っ掛かり部分が無くてスムースに拭き掃除が行え、また樹脂フィルムの周縁部に汚れが溜まることも防止できる。
【0013】
また、上記課題を解決するために、本出願の第二の発明の便座は、底面及び側周面からなる底板に、ヒータを備えた便座本体を固着した合成樹脂製便座であって、前記底板は、低表面エネルギー層を表面に設けた積層樹脂フィルムを前記底板を構成する基材樹脂に一体成形して、前記底板の底面を撥水面とするとともに、前記底板の側周面の上端部に前記撥水面が形成されずに基材樹脂が露出する部位を形成したことを特徴とする。
【0014】
このように構成することで、便座の底板と便座本体とを固着させた境界部が直接便器に対向せず、便器ボウル面に反射する汚水が境界部にかかりにくい。しかも便座の底板と便座本体とを固着させた境界部と底板の低表面エネルギー層との間に底板の基材樹脂が露出しているので、底板の低表面エネルギー層周縁部に付着した汚水は低表面エネルギー層にはじかれて、底板の基材樹脂が露出した底板上端部分になじみ付着するものの、汚水が便座の底板と便座本体とを固着させた境界部の隙間に直接触れることが無い。
【0015】
従って、便座の底板と便座本体とを固着させた境界部分の隙間に汚水が浸入固化することが抑制され、底板に付着した汚れのうち、低表面エネルギー層で覆われた部分に付着した汚れは簡単に拭き取れる。
【0016】
低表面エネルギー層として、シリコーン系樹脂層あるいはフッ素系樹脂層を用いれば、便座の底板の底面に撥水性に加えて撥油性を発揮するので、尿に起因する汚れの他、大便に起因する汚れも落としやすくなる。
【0017】
前記底板に設けた挿入孔に便座クッションの脚部を差し込んでなり、前記樹脂フィルムに前記便座クッションの平面形状より小さく前記脚部より大きい開口部を設け、前記樹脂フィルムを挟んで前記底板に便座クッションを固定するのが好ましく、このようにすることで便座クッションの固定を従前と同じ手順で行なうことができ、且つ便座クッションは底板の基材樹脂の部分に差し込まれることになるので便座クッションの外れにくさを維持することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、低表面エネルギー層を設けた底板と便座本体とを固着させた隙間への汚水の浸入固着を抑制し、汚れを簡単に落とすことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面に基き本発明を詳細に説明する。
図1は本発明の便座を装備した衛生洗浄装置の外観斜視図、図2は同便座の裏面図、図3は図2におけるA部の拡大断面図、図4は同A部の溶着加工前の拡大断面図、図5は図2におけるB−B断面図、図6は本発明で使用する樹脂フィルムの拡大断面図、図7は同樹脂フィルムを便座底板形状に真空成形する模式図、図8は図7で形成した樹脂フィルムをトリミング加工する模式図、図9はトリミング加工した樹脂フィルムと底板とを一体成形する模式図、図10は加工工程を示すフロー図、図11は厚さが異なる樹脂フィルムを底板と一体成形したときの状況を示す表である。
【0020】
図1において、便器1上面に設置された内部に洗浄ノズルや乾燥装置(図示せず)を内蔵した衛生洗浄装置2の本体3に、便座4や便蓋5が回動自在に装着されている。
【0021】
便座4は内部にヒータ36を備えた暖房便座であり、図2、図3、図4に示すように撥水性を有する樹脂フィルム6で被覆され、基材樹脂がポリプロピレン樹脂(以下、PP樹脂という)製の底面及び側周面からなる底板7と、同材質の便座本体8とを、底板7と便座本体8との境界部9が底板7の底面10より上方の側周面11に位置するように底板7の側周面11の内側に設けた突起12と便座本体8の段部13とをバイブレーション溶着などの方法で固着している。
【0022】
撥水性を有する樹脂フィルム6は図6に示すように、透明性が有り、PP樹脂を主成分とした厚さ約500μmの基材層14と、その上面にドライラミネート剤などの第1の接着層15を介して積層されシリコーン系樹脂が塗布可能なPP樹脂を主成分とした約50μm厚さの中間層16と、中間層16の表面をコロナ放電処理等して形成した接着層17を介して積層された約5μm厚さのシリコーン系樹脂層(表面エネルギーが25mN/m以下の低表面エネルギー層)18を備えている。基材層14と中間層16とで予めフィルム基材が形成され、そのフィルム基材の一面にシリコーン系樹脂を塗布して樹脂フィルム6が形成される。尚、第1の接着層15を用いずに、基材層14と中間層16とを直接熱溶着しても良い。
【0023】
基材層14及び中間層16は、プロピレン、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、3−メチル、1−ブテン等の単独重合体もしくはそれらの共重合体などのポリプロピレン系熱可塑性樹脂を主成分とし、基材層14の融点は中間層16の融点より約5℃以上低くしている。融点の差が5℃未満だと後述するPP樹脂製の底板と一体成形する際、溶融したPP樹脂の熱により、略同じタイミングで基材層14と中間層16が溶けてしまい、シリコーン系樹脂層18が傷んでしまう。融点に約5℃以上の差があると、先に基材層14が溶けて、所定のタイムラグを経て中間層16が溶けることになるが、中間層16が溶ける前に冷却することで中間層16の溶融を防ぎ、シリコーン系樹脂層18を傷めなくて済む。尚、低融点側の基材層14が溶融したPP樹脂の熱により溶かされて溶融樹脂とよく溶け合い、強固な接着を得ることができ、しかも基材層14がポリプロピレン系樹脂で、底板7と同じ材質であることから完全に溶け合って一体化される。
【0024】
低表面エネルギー層は、本実施例では水との接触角が100度以上の撥水性、オレイン酸との接触角が50度以上の撥油性を備えたシリコーン系樹脂層18であって、このシリコーン系樹脂層18は白金触媒を用いた熱硬化型シリコーン、紫外線励起型カチオン発生剤を触媒とした紫外線硬化型シリコーンなどをそのまま用いるか溶剤に希釈し、中間層16の表面に塗布、硬化させて形成している。撥水性を備えていると尿などの水を主成分とした汚水をはじき汚れが付着しにくく、撥油性を備えていると、人体を洗浄した汚水が人体によって反射され、この汚水には便に含まれる油成分を含有しているが、この油成分もはじいて汚れが付着しにくい。尚、低表面エネルギー層として、PTFE、PFEPなどのフッ素系樹脂を用いてもシリコーン系樹脂と同じく撥水性、撥油性の効果を奏することができる。
【0025】
樹脂フィルム6のトータルの厚さは500μm〜1000μm、好ましくは550μm〜650μmで、1000μm以上だと、樹脂フィルム6の「こし」が強すぎて、後述する樹脂フイルム6を底板7の表面形状にうまく真空成形できず、又、400μm以下だと樹脂フィルム6の「こし」が弱く、後述する底板7との一体成形時に樹脂フィルム6に「しわ」が発生してしまう。樹脂フィルム6の厚さと「しわ」の発生状況を図11に示す。
【0026】
次に、この樹脂フィルム6及び底板7の成形方法について説明する。
図7に示すように、底板7の底面形状に倣ったキャビティー19を設けた真空成形金型20に、キャビティー19表面側にシリコーン系樹脂層18が位置するように平板状の樹脂フィルム6を対向して配置して真空成形する。尚、真空成形法以外に、真空・プレス成形法や真空・圧空成形法などで底板7の表面形状に形成しても良い。
【0027】
次いで成形した樹脂フィルム6を、トムソン刃21を用いて樹脂フィルム6の周縁部22の余分な立ち上がり部分をカット(トリミング加工)する。このような加工工程で樹脂フイルム6を底板7の表面形状に予め形成しておく。
【0028】
その後、底板7の表面形状に形成した樹脂フィルム6を射出成形金型23のキャビティー24内にそのシリコーン系樹脂層18がキャビティー24表面側に位置するようにセットして、溶融したPP樹脂25を射出成形して樹脂フィルム6と底板7を一体成形する。次いで樹脂フィルム6が一体成形された底板7と、予め成形され内面にヒータ36などを装着した便座本体8とをバイブレーション溶着、熱溶着、超音波溶着などの方法で、両者を固着一体化して便座4を形成する。以上説明した加工工程を図10に示す。
【0029】
而して、撥水性を有する樹脂フィルム6によって、底板7の底面10全面が覆われるため底板7の底面に防汚性を付与できる。また、樹脂フィルム6の周縁部22が底板7の側周面11に沿って上方に延びて便座本体8との境界部9より若干下方の位置まで覆い、その周縁部22先端は、露出する底板7のPP樹脂部分の表面と面一か又は0.3mm以下の段差となった略面一となっている。即ち、底板7は樹脂フィルム6によって底面10及び境界部9から基材露出面26を除いた側周面11が被覆され、これらの表面はシリコーン系樹脂層18が露出し、底板7の基材露出面26、境界部9及び便座本体8表面はPP樹脂が露出している。尚、樹脂フィルム6の周縁部22先端を、略面一にしているのは、段差が0.3mm以上有るとそのエッジに雑巾が引っ掛かかったり、更に段差部分に汚れが溜まったり、段差部分が目立って外観上見苦しくなるからである。
【0030】
この基材露出面26の幅寸法は0.5mm〜5mm程度、好ましくは1mm〜2mmとしている。0.5mm以下であれば、境界部9に余りにも接近しすぎており、撥水性を有する樹脂フイルム6に付着した汚水がはじかれて境界部9の隙間に浸入し易い上、底板7に樹脂フィルム6を一体成形する加工が困難である。尚、基材露出面26の幅寸法が無く、少しでも樹脂フィルム6の周縁部22が上方に突出していると、底板7と便座本体8とを固着した際に便座本体8の端面が樹脂フィルム6に当たって樹脂フィルム6が外方にはみ出てしまい見栄えが悪いばかりでなく、はみ出た樹脂フィルム6と便座本体8との間に汚水が浸入したりするうえ、樹脂フィルム6の端面が人体に当たると違和感があるなどの不都合が生じてしまう。これを避けるため、はみ出た部分の樹脂フィルム6をカットするのはコストアップに繋がる。又、基材露出面26の幅寸法が5mm以上だと、その分汚水が付着する面積が広くなって汚れが目立ち好ましくない。従って、この基材露出面26は、境界部9から所定の幅寸法を持つように形成するのが好ましい。
【0031】
尚、図5に示すように、底板7の底面10には合成ゴム製便座クッション27取付け用の突起28が膨出状に設けられ、樹脂フィルム6はこの突起28の周面29、頂部平面30を覆っており、樹脂フィルム6には便座クッション27の平面形状より小さく脚部31より大きい開口部35が形成されている。本実施形態では、この開口部35を挿入孔32の内周面と略面一とし、樹脂フィルム6が挿入孔32の入口迄覆うようにしている。そして便座クッション27のタケノコ状脚部31を挿入孔32に挿入嵌着して、樹脂フィルム7を挟むようにして便座クッション27を便座4に取付けており、この便座クッション27が便器1のリム面33に当接する。
【0032】
便座クッション27を樹脂フィルム6で覆わず便座クッション27を露出させているのは、便座クッション27を低表面エネルギー層を持つ樹脂フィルム6で覆ってしまうと便座4と便器1のリム面33との摩擦抵抗が小さくなりすぎて、衛生洗浄装置2の便器1への取付が少しでも甘くなると人が着座したとき便座4がリム面33上を滑ってしまうからである。又、挿入孔32の内周面全面を樹脂フィルム6で覆っていないのは、挿入孔32内周壁全面を樹脂フィルム6で覆うと、挿入孔32内周壁の摩擦抵抗が小さくなって便座クッション27の脚部31が簡単に抜けてしまうからである。更に、樹脂フィルム6の開口部端を挿入孔32の内周面と略面一としているのは、樹脂フィルム6の開口部35が挿入孔32より小径だと、タケノコ状脚部31を取外そうとしたとき、脚部31が樹脂フィルム6の端部に引っ掛かって抜けなくなってしまうからである。
【0033】
尚、突起28の周面29から便座クッション27の側面にかけて、図5に示すように、比較的なだらかな曲面形状となるようにしているので、拭き掃除の際の引っ掛かり部分が減少するので、底板7の底面10の拭き掃除が簡単にできる。また、突起28の周面29、頂部平面30及び便座クッション27の脚部31の挿入孔32入口迄樹脂フィルム6で覆っているので、汚水が突起28や便座クッション27の側周面34にかかった際、突起28の周面29の汚れは簡単に拭き取れるが、便座クッション27の側周面34が汚れたり便座クッション27と頂部平面30間の隙間に汚水が浸入して汚れることがある。しかしながら、便座クッション27の汚れが拭き掃除で簡単に落ちない場合は便座クッション27を外して洗剤液に浸漬して汚れを落とすことができ、また頂部平面30の汚れは簡単に拭き取ることができる。便座クッション27の汚れが落ちない場合は、便座クッション27を交換すれば良い。
【0034】
本発明は上述の実施例に限定されること無く種々の変形が可能であり、例えば低表面エネルギーの樹脂を射出成形金型のキャビティーに塗布して、底板を射出成形したり、溶剤に希釈したシリコーンなどを予め成形した底板の底面や側周面に塗布して硬化させることも可能である。また、底板と表面に低表面エネルギー層を設けた樹脂フィルムを別々に成形後、接着剤や溶剤を用いて両者を固着しても良い。底板を形成する熱可塑性樹脂としてABS樹脂などを用いても良い。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、一般家庭用はもとより駅や商業施設等の公共トイレ用衛生洗浄装置の暖房便座以外に、単なる暖房便座やヒータを内蔵しない通常の便座にも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の便座を装備した衛生洗浄装置の外観斜視図である。
【図2】本発明の便座の裏面図である。
【図3】図2におけるA部の拡大断面図である。
【図4】同、A部の溶着加工前の拡大断面図である。
【図5】同、B−B断面図である。
【図6】本発明で使用する樹脂フィルムの拡大断面図である。
【図7】同、樹脂フィルムを便座底板形状に真空成形する模式図である。
【図8】図7で形成した樹脂フィルムをトリミング加工する模式図である。
【図9】トリミング加工した樹脂フィルムを一体成形する模式図である。
【図10】加工工程を示すフロー図である。
【図11】厚さが異なる樹脂フィルムと底板とを一体成形したときの状況を示す表である。
【図12】従来例を示す参考図である。
【符号の説明】
【0037】
1:便器
2:衛生洗浄装置
3:本体
4:便座
5:便蓋
6:樹脂フィルム
7:底板
8:便座本体
9:境界部
10:底面
11:側周面
12:突起
13:段部
14:基材層(フィルム基材)
15:接着層
16:中間層(フィルム基材)
17:接着層
18:シリコーン系樹脂層(低表面エネルギー層)
19:キャビティー
20:真空成形金型
21:トムソン刃
22:周縁部
23:射出成形金型
24:キャビティー
25:溶融PP樹脂
26:基材露出面
27:便座クッション
28:突起
29:周面
30:頂部平面
31:脚部
32:挿入孔
33:リム面
34:側周面
35:開口部
36:ヒータ
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂製便座、特に内部に便座表面を暖めるヒータを備えた便座に関する。
【背景技術】
【0002】
洋式トイレなどに配置されている腰掛け式便器には、便器上面に便座が備えられている。この便座は通常ポリプロピレン樹脂やABS樹脂などの熱可塑性合成樹脂製であって、便器のリム面に対向する底板と、人が着座する便座本体とを固着して形成している。
【0003】
この便座を使用しているとき、便座の底板は、便座クッションを介して便器の直上に位置しているので、底板底面は便器ボール面によって反射された尿の飛沫や人体によって反射された衛生洗浄装置の洗浄水などの汚水が付着して固化してしまう。また、男子の小用時に上げた便座の底面が露出するので、その底面にはねた尿がかかって付着して固化してしまう。特に底板の底面は通常の使用状態では見えにくく、汚れが付着していることに気が付かないことが多いので、時間の経過と共に汚れが落ちにくくなってしまう。そこで、清掃性を良くするために、本出願人が提案したように、図12に示すごとく、底板7に低表面エネルギー層を設けた防汚性樹脂フィルム6を底板7に一体成形したものが知られている。(例えば、特許文献1参照。)
【0004】
この便座4においては、防汚性樹脂フィルム6を一体成形した便座4の底板7と便座本体8とを固着させた境界部9が便器1のリム面33に対向して位置しており、この境界部9の隙間に尿などの汚水が染込み固化してしまう。しかも、境界部9における表面エネルギーは、底板7の防汚性樹脂フィルム6側が便座本体8側より低いので、境界部9に付着した汚水は、防汚性樹脂フィルム6側でははじかれ、便座本体8側ではなじみ、汚水が便座本体8側に移動して、底板7と便座本体8とを固着させた境界部9の隙間に表面張力により徐々に汚水が浸入して固化するのである。従って、底板9に付着した汚れを雑巾などで拭き取る際、防汚性樹脂フィルム6で覆われた部分に付着した汚れは簡単に拭き取れても、境界部9の隙間に浸入固化した汚れが残ってしまい、不衛生であった。
【特許文献1】特開2003−093271号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、本発明の課題は、低表面エネルギー層を設けた底板と便座本体とを固着させた隙間へ汚水が浸入して汚れが固化することを抑制し、また拭き掃除などで汚れを簡単に落とせる便座を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本出願の第一の発明の便座は、底板に便座本体を固着した合成樹脂製便座であって、底板と便座本体との境界部を底板の底面より上方の側周面に設けると共に、底板に、境界部から所定幅を除いた底板の底面及び側周面に渡って低表面エネルギー層を備えたことを特徴としている。
【0007】
このように構成することで、便座の底板と便座本体とを固着させた境界部が直接便器に対向せず、便器ボウル面に反射する汚水が境界部にかかりにくい。しかも便座の底板と便座本体とを固着させた境界部と底板の低表面エネルギー層との間に底板の基材樹脂が所定幅露出しているので、底板の低表面エネルギー層周縁部に付着した汚水は低表面エネルギー層にはじかれて露出した底板の所定幅の基材樹脂部分になじみ付着するものの、汚水が便座の底板と便座本体とを固着させた境界部の隙間に直接触れることが無い。
【0008】
従って、便座の底板と便座本体とを固着させた境界部分の隙間に汚水が浸入固化することが抑制され、底板に付着した汚れのうち、低表面エネルギー層で覆われた部分に付着した汚れは簡単に拭き取れる。
【0009】
底板を構成する基材樹脂と同材質からなるフィルム基材の一面に低表面エネルギー層が設けられた樹脂フィルムを、底板の表面形状に成形後トリミング加工して底板に一体成形し、低表面エネルギー層を露出させて底板に固着させることが好ましく、このようにすることで、底板側周面の所定幅の基材樹脂が露出した部分を確実に確保できるうえ、一体成形時に樹脂フィルムと底板との固着部分同志が隙間無く溶着して両者間に汚水が浸入することが防げ、しかも便座を掃除する際に樹脂フィルムが剥がれず長期間に亘って防汚性を発揮できる。
【0010】
底板に設けた挿入孔に便座クッションの脚部を差し込み、前記樹脂フィルムに前記便座クッションの平面形状より小さく前記脚部より大きい開口部を設け、前記樹脂フィルムを挟んで前記底板に便座クッションを固定するのが好ましく、このようにすることで便座クッションの固定を従前と同じ手順で行なうことができ、且つ便座クッションの外れにくさを維持することができる。
【0011】
底板の基材樹脂及び樹脂フイルムのフィルム基材をポリプロピレン樹脂として、樹脂フイルムの厚さを500μm以上とすることが好ましく、このようにすることで一体成形時に、底板を形成するポリプロピレン樹脂を型に射出したとき、型内に予め装着されたトリミング加工済みの樹脂フィルムが射出圧で変形することを防止できる。
【0012】
樹脂フィルムの周縁部と底板表面とを略面一にすることが好ましく、このようにすることで引っ掛かり部分が無くてスムースに拭き掃除が行え、また樹脂フィルムの周縁部に汚れが溜まることも防止できる。
【0013】
また、上記課題を解決するために、本出願の第二の発明の便座は、底面及び側周面からなる底板に、ヒータを備えた便座本体を固着した合成樹脂製便座であって、前記底板は、低表面エネルギー層を表面に設けた積層樹脂フィルムを前記底板を構成する基材樹脂に一体成形して、前記底板の底面を撥水面とするとともに、前記底板の側周面の上端部に前記撥水面が形成されずに基材樹脂が露出する部位を形成したことを特徴とする。
【0014】
このように構成することで、便座の底板と便座本体とを固着させた境界部が直接便器に対向せず、便器ボウル面に反射する汚水が境界部にかかりにくい。しかも便座の底板と便座本体とを固着させた境界部と底板の低表面エネルギー層との間に底板の基材樹脂が露出しているので、底板の低表面エネルギー層周縁部に付着した汚水は低表面エネルギー層にはじかれて、底板の基材樹脂が露出した底板上端部分になじみ付着するものの、汚水が便座の底板と便座本体とを固着させた境界部の隙間に直接触れることが無い。
【0015】
従って、便座の底板と便座本体とを固着させた境界部分の隙間に汚水が浸入固化することが抑制され、底板に付着した汚れのうち、低表面エネルギー層で覆われた部分に付着した汚れは簡単に拭き取れる。
【0016】
低表面エネルギー層として、シリコーン系樹脂層あるいはフッ素系樹脂層を用いれば、便座の底板の底面に撥水性に加えて撥油性を発揮するので、尿に起因する汚れの他、大便に起因する汚れも落としやすくなる。
【0017】
前記底板に設けた挿入孔に便座クッションの脚部を差し込んでなり、前記樹脂フィルムに前記便座クッションの平面形状より小さく前記脚部より大きい開口部を設け、前記樹脂フィルムを挟んで前記底板に便座クッションを固定するのが好ましく、このようにすることで便座クッションの固定を従前と同じ手順で行なうことができ、且つ便座クッションは底板の基材樹脂の部分に差し込まれることになるので便座クッションの外れにくさを維持することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、低表面エネルギー層を設けた底板と便座本体とを固着させた隙間への汚水の浸入固着を抑制し、汚れを簡単に落とすことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面に基き本発明を詳細に説明する。
図1は本発明の便座を装備した衛生洗浄装置の外観斜視図、図2は同便座の裏面図、図3は図2におけるA部の拡大断面図、図4は同A部の溶着加工前の拡大断面図、図5は図2におけるB−B断面図、図6は本発明で使用する樹脂フィルムの拡大断面図、図7は同樹脂フィルムを便座底板形状に真空成形する模式図、図8は図7で形成した樹脂フィルムをトリミング加工する模式図、図9はトリミング加工した樹脂フィルムと底板とを一体成形する模式図、図10は加工工程を示すフロー図、図11は厚さが異なる樹脂フィルムを底板と一体成形したときの状況を示す表である。
【0020】
図1において、便器1上面に設置された内部に洗浄ノズルや乾燥装置(図示せず)を内蔵した衛生洗浄装置2の本体3に、便座4や便蓋5が回動自在に装着されている。
【0021】
便座4は内部にヒータ36を備えた暖房便座であり、図2、図3、図4に示すように撥水性を有する樹脂フィルム6で被覆され、基材樹脂がポリプロピレン樹脂(以下、PP樹脂という)製の底面及び側周面からなる底板7と、同材質の便座本体8とを、底板7と便座本体8との境界部9が底板7の底面10より上方の側周面11に位置するように底板7の側周面11の内側に設けた突起12と便座本体8の段部13とをバイブレーション溶着などの方法で固着している。
【0022】
撥水性を有する樹脂フィルム6は図6に示すように、透明性が有り、PP樹脂を主成分とした厚さ約500μmの基材層14と、その上面にドライラミネート剤などの第1の接着層15を介して積層されシリコーン系樹脂が塗布可能なPP樹脂を主成分とした約50μm厚さの中間層16と、中間層16の表面をコロナ放電処理等して形成した接着層17を介して積層された約5μm厚さのシリコーン系樹脂層(表面エネルギーが25mN/m以下の低表面エネルギー層)18を備えている。基材層14と中間層16とで予めフィルム基材が形成され、そのフィルム基材の一面にシリコーン系樹脂を塗布して樹脂フィルム6が形成される。尚、第1の接着層15を用いずに、基材層14と中間層16とを直接熱溶着しても良い。
【0023】
基材層14及び中間層16は、プロピレン、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、3−メチル、1−ブテン等の単独重合体もしくはそれらの共重合体などのポリプロピレン系熱可塑性樹脂を主成分とし、基材層14の融点は中間層16の融点より約5℃以上低くしている。融点の差が5℃未満だと後述するPP樹脂製の底板と一体成形する際、溶融したPP樹脂の熱により、略同じタイミングで基材層14と中間層16が溶けてしまい、シリコーン系樹脂層18が傷んでしまう。融点に約5℃以上の差があると、先に基材層14が溶けて、所定のタイムラグを経て中間層16が溶けることになるが、中間層16が溶ける前に冷却することで中間層16の溶融を防ぎ、シリコーン系樹脂層18を傷めなくて済む。尚、低融点側の基材層14が溶融したPP樹脂の熱により溶かされて溶融樹脂とよく溶け合い、強固な接着を得ることができ、しかも基材層14がポリプロピレン系樹脂で、底板7と同じ材質であることから完全に溶け合って一体化される。
【0024】
低表面エネルギー層は、本実施例では水との接触角が100度以上の撥水性、オレイン酸との接触角が50度以上の撥油性を備えたシリコーン系樹脂層18であって、このシリコーン系樹脂層18は白金触媒を用いた熱硬化型シリコーン、紫外線励起型カチオン発生剤を触媒とした紫外線硬化型シリコーンなどをそのまま用いるか溶剤に希釈し、中間層16の表面に塗布、硬化させて形成している。撥水性を備えていると尿などの水を主成分とした汚水をはじき汚れが付着しにくく、撥油性を備えていると、人体を洗浄した汚水が人体によって反射され、この汚水には便に含まれる油成分を含有しているが、この油成分もはじいて汚れが付着しにくい。尚、低表面エネルギー層として、PTFE、PFEPなどのフッ素系樹脂を用いてもシリコーン系樹脂と同じく撥水性、撥油性の効果を奏することができる。
【0025】
樹脂フィルム6のトータルの厚さは500μm〜1000μm、好ましくは550μm〜650μmで、1000μm以上だと、樹脂フィルム6の「こし」が強すぎて、後述する樹脂フイルム6を底板7の表面形状にうまく真空成形できず、又、400μm以下だと樹脂フィルム6の「こし」が弱く、後述する底板7との一体成形時に樹脂フィルム6に「しわ」が発生してしまう。樹脂フィルム6の厚さと「しわ」の発生状況を図11に示す。
【0026】
次に、この樹脂フィルム6及び底板7の成形方法について説明する。
図7に示すように、底板7の底面形状に倣ったキャビティー19を設けた真空成形金型20に、キャビティー19表面側にシリコーン系樹脂層18が位置するように平板状の樹脂フィルム6を対向して配置して真空成形する。尚、真空成形法以外に、真空・プレス成形法や真空・圧空成形法などで底板7の表面形状に形成しても良い。
【0027】
次いで成形した樹脂フィルム6を、トムソン刃21を用いて樹脂フィルム6の周縁部22の余分な立ち上がり部分をカット(トリミング加工)する。このような加工工程で樹脂フイルム6を底板7の表面形状に予め形成しておく。
【0028】
その後、底板7の表面形状に形成した樹脂フィルム6を射出成形金型23のキャビティー24内にそのシリコーン系樹脂層18がキャビティー24表面側に位置するようにセットして、溶融したPP樹脂25を射出成形して樹脂フィルム6と底板7を一体成形する。次いで樹脂フィルム6が一体成形された底板7と、予め成形され内面にヒータ36などを装着した便座本体8とをバイブレーション溶着、熱溶着、超音波溶着などの方法で、両者を固着一体化して便座4を形成する。以上説明した加工工程を図10に示す。
【0029】
而して、撥水性を有する樹脂フィルム6によって、底板7の底面10全面が覆われるため底板7の底面に防汚性を付与できる。また、樹脂フィルム6の周縁部22が底板7の側周面11に沿って上方に延びて便座本体8との境界部9より若干下方の位置まで覆い、その周縁部22先端は、露出する底板7のPP樹脂部分の表面と面一か又は0.3mm以下の段差となった略面一となっている。即ち、底板7は樹脂フィルム6によって底面10及び境界部9から基材露出面26を除いた側周面11が被覆され、これらの表面はシリコーン系樹脂層18が露出し、底板7の基材露出面26、境界部9及び便座本体8表面はPP樹脂が露出している。尚、樹脂フィルム6の周縁部22先端を、略面一にしているのは、段差が0.3mm以上有るとそのエッジに雑巾が引っ掛かかったり、更に段差部分に汚れが溜まったり、段差部分が目立って外観上見苦しくなるからである。
【0030】
この基材露出面26の幅寸法は0.5mm〜5mm程度、好ましくは1mm〜2mmとしている。0.5mm以下であれば、境界部9に余りにも接近しすぎており、撥水性を有する樹脂フイルム6に付着した汚水がはじかれて境界部9の隙間に浸入し易い上、底板7に樹脂フィルム6を一体成形する加工が困難である。尚、基材露出面26の幅寸法が無く、少しでも樹脂フィルム6の周縁部22が上方に突出していると、底板7と便座本体8とを固着した際に便座本体8の端面が樹脂フィルム6に当たって樹脂フィルム6が外方にはみ出てしまい見栄えが悪いばかりでなく、はみ出た樹脂フィルム6と便座本体8との間に汚水が浸入したりするうえ、樹脂フィルム6の端面が人体に当たると違和感があるなどの不都合が生じてしまう。これを避けるため、はみ出た部分の樹脂フィルム6をカットするのはコストアップに繋がる。又、基材露出面26の幅寸法が5mm以上だと、その分汚水が付着する面積が広くなって汚れが目立ち好ましくない。従って、この基材露出面26は、境界部9から所定の幅寸法を持つように形成するのが好ましい。
【0031】
尚、図5に示すように、底板7の底面10には合成ゴム製便座クッション27取付け用の突起28が膨出状に設けられ、樹脂フィルム6はこの突起28の周面29、頂部平面30を覆っており、樹脂フィルム6には便座クッション27の平面形状より小さく脚部31より大きい開口部35が形成されている。本実施形態では、この開口部35を挿入孔32の内周面と略面一とし、樹脂フィルム6が挿入孔32の入口迄覆うようにしている。そして便座クッション27のタケノコ状脚部31を挿入孔32に挿入嵌着して、樹脂フィルム7を挟むようにして便座クッション27を便座4に取付けており、この便座クッション27が便器1のリム面33に当接する。
【0032】
便座クッション27を樹脂フィルム6で覆わず便座クッション27を露出させているのは、便座クッション27を低表面エネルギー層を持つ樹脂フィルム6で覆ってしまうと便座4と便器1のリム面33との摩擦抵抗が小さくなりすぎて、衛生洗浄装置2の便器1への取付が少しでも甘くなると人が着座したとき便座4がリム面33上を滑ってしまうからである。又、挿入孔32の内周面全面を樹脂フィルム6で覆っていないのは、挿入孔32内周壁全面を樹脂フィルム6で覆うと、挿入孔32内周壁の摩擦抵抗が小さくなって便座クッション27の脚部31が簡単に抜けてしまうからである。更に、樹脂フィルム6の開口部端を挿入孔32の内周面と略面一としているのは、樹脂フィルム6の開口部35が挿入孔32より小径だと、タケノコ状脚部31を取外そうとしたとき、脚部31が樹脂フィルム6の端部に引っ掛かって抜けなくなってしまうからである。
【0033】
尚、突起28の周面29から便座クッション27の側面にかけて、図5に示すように、比較的なだらかな曲面形状となるようにしているので、拭き掃除の際の引っ掛かり部分が減少するので、底板7の底面10の拭き掃除が簡単にできる。また、突起28の周面29、頂部平面30及び便座クッション27の脚部31の挿入孔32入口迄樹脂フィルム6で覆っているので、汚水が突起28や便座クッション27の側周面34にかかった際、突起28の周面29の汚れは簡単に拭き取れるが、便座クッション27の側周面34が汚れたり便座クッション27と頂部平面30間の隙間に汚水が浸入して汚れることがある。しかしながら、便座クッション27の汚れが拭き掃除で簡単に落ちない場合は便座クッション27を外して洗剤液に浸漬して汚れを落とすことができ、また頂部平面30の汚れは簡単に拭き取ることができる。便座クッション27の汚れが落ちない場合は、便座クッション27を交換すれば良い。
【0034】
本発明は上述の実施例に限定されること無く種々の変形が可能であり、例えば低表面エネルギーの樹脂を射出成形金型のキャビティーに塗布して、底板を射出成形したり、溶剤に希釈したシリコーンなどを予め成形した底板の底面や側周面に塗布して硬化させることも可能である。また、底板と表面に低表面エネルギー層を設けた樹脂フィルムを別々に成形後、接着剤や溶剤を用いて両者を固着しても良い。底板を形成する熱可塑性樹脂としてABS樹脂などを用いても良い。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、一般家庭用はもとより駅や商業施設等の公共トイレ用衛生洗浄装置の暖房便座以外に、単なる暖房便座やヒータを内蔵しない通常の便座にも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の便座を装備した衛生洗浄装置の外観斜視図である。
【図2】本発明の便座の裏面図である。
【図3】図2におけるA部の拡大断面図である。
【図4】同、A部の溶着加工前の拡大断面図である。
【図5】同、B−B断面図である。
【図6】本発明で使用する樹脂フィルムの拡大断面図である。
【図7】同、樹脂フィルムを便座底板形状に真空成形する模式図である。
【図8】図7で形成した樹脂フィルムをトリミング加工する模式図である。
【図9】トリミング加工した樹脂フィルムを一体成形する模式図である。
【図10】加工工程を示すフロー図である。
【図11】厚さが異なる樹脂フィルムと底板とを一体成形したときの状況を示す表である。
【図12】従来例を示す参考図である。
【符号の説明】
【0037】
1:便器
2:衛生洗浄装置
3:本体
4:便座
5:便蓋
6:樹脂フィルム
7:底板
8:便座本体
9:境界部
10:底面
11:側周面
12:突起
13:段部
14:基材層(フィルム基材)
15:接着層
16:中間層(フィルム基材)
17:接着層
18:シリコーン系樹脂層(低表面エネルギー層)
19:キャビティー
20:真空成形金型
21:トムソン刃
22:周縁部
23:射出成形金型
24:キャビティー
25:溶融PP樹脂
26:基材露出面
27:便座クッション
28:突起
29:周面
30:頂部平面
31:脚部
32:挿入孔
33:リム面
34:側周面
35:開口部
36:ヒータ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
底板に便座本体を固着した合成樹脂製便座であって、前記底板と便座本体との境界部を前記底板の底面より上方に設けると共に、前記底板に、前記境界部から所定幅を除いた前記底板の底面から側周面に渡って低表面エネルギー層を備えたことを特徴とする便座。
【請求項2】
前記低表面エネルギー層が、前記底板を構成する基材樹脂と同材質からなるフィルム基材の一面に設けられ、前記樹脂フィルムを、前記底板の表面形状に成形後トリミング加工して前記底板に一体成形し、前記低表面エネルギー層を露出させて前記底板に固着させたことを特徴とする請求項1記載の便座。
【請求項3】
前記底板に設けた挿入孔に便座クッションの脚部を差し込んでなり、前記樹脂フィルムに前記便座クッションの平面形状より小さく前記脚部より大きい開口部を設け、前記樹脂フィルムを挟んで前記底板に便座クッションを固定したことを特徴とする請求項2記載の便座。
【請求項4】
前記基材樹脂がポリプロピレン樹脂であり、前記樹脂フイルムの厚さが500μm以上であることを特徴とする請求項2又は3記載の便座。
【請求項5】
前記樹脂フィルムの周縁部と底板表面が略面一であることを特徴とする請求項2乃至4の何れかに記載の便座。
【請求項6】
底面及び側周面からなる底板に、ヒータを備えた便座本体を固着した合成樹脂製便座であって、前記底板は、低表面エネルギー層を表面に設けた樹脂フィルムを前記底板を構成する基材樹脂に一体成形して、前記底板の底面を撥水面とするとともに、前記底板の側周面の上端部に前記撥水面が形成されずに基材樹脂が露出する部位を形成したことを特徴とする便座。
【請求項7】
前記低表面エネルギー層が、シリコーン系樹脂層であることを特徴とする請求項6記載の便座。
【請求項8】
前記低表面エネルギー層が、フッ素系樹脂層であることを特徴とする請求項6記載の便座。
【請求項9】
前記底板に設けた挿入孔に便座クッションの脚部を差し込んでなり、前記樹脂フィルムに前記便座クッションの平面形状より小さく前記脚部より大きい開口部を設け、前記樹脂フィルムを挟んで前記底板に便座クッションを固定したことを特徴とする請求項6乃至8の何れかに記載の便座。
【請求項1】
底板に便座本体を固着した合成樹脂製便座であって、前記底板と便座本体との境界部を前記底板の底面より上方に設けると共に、前記底板に、前記境界部から所定幅を除いた前記底板の底面から側周面に渡って低表面エネルギー層を備えたことを特徴とする便座。
【請求項2】
前記低表面エネルギー層が、前記底板を構成する基材樹脂と同材質からなるフィルム基材の一面に設けられ、前記樹脂フィルムを、前記底板の表面形状に成形後トリミング加工して前記底板に一体成形し、前記低表面エネルギー層を露出させて前記底板に固着させたことを特徴とする請求項1記載の便座。
【請求項3】
前記底板に設けた挿入孔に便座クッションの脚部を差し込んでなり、前記樹脂フィルムに前記便座クッションの平面形状より小さく前記脚部より大きい開口部を設け、前記樹脂フィルムを挟んで前記底板に便座クッションを固定したことを特徴とする請求項2記載の便座。
【請求項4】
前記基材樹脂がポリプロピレン樹脂であり、前記樹脂フイルムの厚さが500μm以上であることを特徴とする請求項2又は3記載の便座。
【請求項5】
前記樹脂フィルムの周縁部と底板表面が略面一であることを特徴とする請求項2乃至4の何れかに記載の便座。
【請求項6】
底面及び側周面からなる底板に、ヒータを備えた便座本体を固着した合成樹脂製便座であって、前記底板は、低表面エネルギー層を表面に設けた樹脂フィルムを前記底板を構成する基材樹脂に一体成形して、前記底板の底面を撥水面とするとともに、前記底板の側周面の上端部に前記撥水面が形成されずに基材樹脂が露出する部位を形成したことを特徴とする便座。
【請求項7】
前記低表面エネルギー層が、シリコーン系樹脂層であることを特徴とする請求項6記載の便座。
【請求項8】
前記低表面エネルギー層が、フッ素系樹脂層であることを特徴とする請求項6記載の便座。
【請求項9】
前記底板に設けた挿入孔に便座クッションの脚部を差し込んでなり、前記樹脂フィルムに前記便座クッションの平面形状より小さく前記脚部より大きい開口部を設け、前記樹脂フィルムを挟んで前記底板に便座クッションを固定したことを特徴とする請求項6乃至8の何れかに記載の便座。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−141650(P2006−141650A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−335166(P2004−335166)
【出願日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(000010087)東陶機器株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(000010087)東陶機器株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]