説明

保守用車両の踏切り警報音制御装置

【課題】 踏切警報音は鳴らずに遮断機のみが降りて鉄道信号灯が赤信号を表示するという、静か、かつ安全な状態での軌道走行が可能な保守用車両の踏切り警報音制御装置を開発する。
【解決手段】 保守用車両の絶縁車輪2,2間を短絡する短絡回路11に、車上の第1交流電源3からの出力信号を受信してオン作動する第1のリレー接点12と、車上の第2交流電源4から出力され、第1交流電源3の出力信号に重畳する高周波出力信号を受信してオン作動する第2のリレー接点13とを直列に配置する。また、この短絡回路11には、ローパスフィルタ14を第2のリレー接点13と並列に配置する。そして第1交流電源3をオン、第2交流電源4をオフに設定すると、短絡回路11には、軌道からの低周波の鉄道信号用のリレー信号のみが流れ、高周波の踏切制御用のリレー信号はカットされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保線作業等を行なう保守用車両が装備する踏切り警報音制御装置の改良に関する。
【0002】
通常、軌道の踏切り位置では、列車が接近すると、自動的に警報音が鳴り、遮断機が降りるようになっている。軌道の踏切り近傍部には、踏切警報機の作動を司る踏切制御用のリレーと、遮断機の作動並びに鉄道信号灯の切り換えを司る鉄道信号用のリレーとが、いずれも左右の軌道間を電気的に接続するように設けられているからであり、そこに列車が入ってくると、列車の車輪を介して鉄製の輪軸に電気が流れ、上記の各リレーには電気が流れなくなる。踏切警報機および遮断機は、これらのリレーに電気が流れていれば作動せず、電気が流れなくなると、列車の接近を知らせる踏切警報音を鳴らし、遮断機を降ろすとともに鉄道信号灯を青信号から赤信号に切り換えて、他列車の接近を禁止するのである。
【0003】
ところが、専ら夜間に保線作業等を行なう保守用車両の場合は、踏切りを通過する際や、踏切り近くで停止する場合等に踏切警報音が鳴り響くと、踏切り近傍の沿線住民に迷惑をかけることになる。このため、保守用車両には、従来より踏切り位置に接近しても踏切警報音が鳴らないようにする踏切り警報音制御装置というものが装備されている。
【0004】
従来のこの種の踏切り警報音制御装置は、図4および図5に示すように、保守用車両の輪軸1両端部に嵌入される左右の車輪2,2を、いずれも輪心2aと外輪2cの間に絶縁体2bを介在させた絶縁車輪に形成する。そして保守用車両の車体側には、交流電源15を設置するとともに、輪軸1側に向かって突出し上記交流電源15により励磁される1次コイル16を設ける。また輪軸1側には、その外周面に前記1次コイル16に対向させて巻回される2次コイル17と、該2次コイルに接続されたリレーコイル18、それに輪軸1両端部の絶縁車輪2,2間を短絡する短絡回路19に介装されるリレー接点20とを設ける。概ねこのような構造になっている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
すなわち、保守用車両の車体側に設置した交流電源15のオン・オフにより、輪軸1両端部の絶縁車輪2,2間を短絡する短絡回路19のリレー接点20を開閉操作して、上記短絡回路19を短絡状態と絶縁状態とに切り換えることが可能であり、短絡状態に切り換えた場合のみ、該短絡回路19に軌道を流れる前記踏切制御用および鉄道信号用のリレー信号が流れて、踏切警報音が鳴り、遮断機が降りるとともに鉄道信号灯が赤信号に切り換わるようにしたものである。
【0006】
【特許文献1】特開2000−52980号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記したように従来の踏切り警報音制御装置は、保守用車両の絶縁車輪2,2間に設けられた短絡回路19を、交流電源15のオン・オフにより単純に全ての信号が流れる完全短絡状態と、全ての信号が全く流れない絶縁状態との2位置に切り換えるだけのものであった。このため、絶縁位置では、前記短絡回路11には、軌道からの踏切制御用のリレー信号と鉄道信号用のリレー信号がともに流れず、該保守用車両の軌道走行状態は、踏切警報音が鳴らず(非鳴動)、かつ遮断機も作動せずに鉄道信号灯が青信号を表示する状態となる。反対に完全短絡位置に切り換えた場合には、前記短絡回路11には、軌道からの踏切制御用のリレー信号と鉄道信号用のリレー信号がともに流れることとなり、該保守用車両の軌道走行状態は、踏切警報音が鳴り(鳴動)、かつ遮断機も作動して鉄道信号灯が赤信号を表示する状態となるのである。
【0008】
したがって、夜間における騒音対策上、踏切警報音は鳴らしたくないが、安全面では鉄道信号用のリレー信号を活用して、遮断機を作動させるとともに鉄道信号灯には赤信号を表示させるという走行状態、すなわち前記短絡回路11に踏切制御用のリレー信号は通さず、鉄道信号用のリレー信号のみを通過させるという、保守用車両にとっては最も必要性の高い軌道走行状態を設定することができなかった。
【0009】
本発明は、従来のこのような問題を解決するためになされたものであり、保守用車両が装備する踏切り警報音制御装置を改良することにより、保守用車両の絶縁車輪間を短絡する短絡回路が従来同様の単純な絶縁状態と完全短絡状態とに切り換えられるだけでなく、軌道に流れる踏切制御用のリレー信号と鉄道信号用のリレー信号のうち、鉄道信号用のリレー信号のみを短絡させる部分短絡状態にも切り換え可能に構成して、踏切警報音は鳴らさずに遮断機のみを作動させ、鉄道信号灯に赤信号を表示させる状態での軌道走行を可能とした保守用車両の踏切り警報音制御装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する本発明の保守用車両の踏切り警報音制御装置は、輪軸両端部に絶縁車輪を備える保守用車両の車体側に設けられた交流電源と、該保守用車両の車体側から輪軸に向かって突出し、前記交流電源により励磁される1次コイルと、1次コイルに対向するように輪軸に巻回された2次コイルと、2次コイルに接続されたリレーコイルと、輪軸両端部の絶縁車輪間を短絡する短絡回路に介装されたリレー接点とを備え、前記交流電源のオン・オフにて前記短絡回路のリレー接点を開閉操作することにより、該短絡回路を完全短絡状態と絶縁状態とに切り換えて軌道を流れる鉄道信号用のリレー信号および踏切制御用のリレー信号のオン・オフ制御を行なう保守用車両の踏切り警報音制御装置において、
前記短絡回路に第1のリレー接点および第2のリレー接点を直列に設けるとともに、踏切制御用のリレー信号をカットするフィルタを第2のリレー接点に並列に設け、
前記交流電源として、周波数が異なる第1交流電源および第2交流電源を、第1交流電源の出力信号に第2交流電源の出力信号が重畳されるように設けるとともに、これらの交流電源には、2次コイルに接続され、第1交流電源からの出力信号を通過させる第1のリレーコイルと、同じく2次コイルに接続され、第2交流電源からの重畳信号のみをバンドパスフィルタにて検出し通過させる第2のリレーコイルとを備える受信ユニットを組合せることにより、
第1交流電源のみの通電時においては、前記短絡回路の第1のリレー接点のみが短絡状態となり、該短絡回路にフィルタを通過する軌道からの鉄道信号用のリレー信号のみが流れて踏切制御用のリレー信号がカットされ、第1交流電源と第2交流電源の両通電時においては、前記短絡回路の第1のリレー接点および第2のリレー接点がともに短絡状態となり、該短絡回路に軌道からの鉄道信号用のリレー信号および踏切制御用のリレー信号がともに流れるように構成したことを特徴としている。
【0011】
本発明において、第1交流電源は商用電源であり、第2交流電源は高周波電源である。また、鉄道信号用のリレー信号は低周波信号、踏切制御用のリレー信号は高周波信号であり、踏切制御用のリレー信号をカットするフィルタは、低周波信号のみを通過させるローパスフィルタである。
【発明の効果】
【0012】
上記構成よりなる本発明の保守用車両の踏切り警報音制御装置によれば、保守用車両の車体側に設けられた第1交流電源をオン、第2交流電源をオフに設定すると、該保守用車両の絶縁車輪間を短絡する短絡回路に直列に配置された第1のリレー接点がオン、第2のリレー接点がオフとなり、該短絡回路は、上記第2のリレー接点に並列に配置されたフィルタ(ローパスフィルタ)を通過する軌道からのリレー信号、すなわち低周波の鉄道信号用のリレー信号のみが短絡し、高周波の踏切制御用のリレー信号はカットされる部分短絡状態となる。
【0013】
したがって、従来のこの種の踏切り警報音制御装置では不可能であった、踏切警報音は鳴らないが遮断機は降りて鉄道信号灯が赤信号を表示するという、静かでかつ安全な状態での保守用車両の軌道走行が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明を実施した保守用車両の踏切り警報音制御装置の一例を示す概略構成図であり、図2は、同装置の回路構成図である。
【0016】
図1および図2に示すように、本発明の装置は、輪軸1両端部に絶縁車輪2,2を備える保守用車両の車体側に設けられた第1交流電源3と第2交流電源4。該車体側より輪軸1に向かって突出し、前記第1交流電源3および第2交流電源4により励磁される1次コイル5。1次コイル5に対向するように輪軸1に巻回された2次コイル6。2次コイル6に接続され、第1交流電源3からの信号を通過させる第1のリレーコイル7と、同じく2次コイル6に接続され、バンドパスフィルタ8にて第2交流電源4からの信号のみを通過させる第2のリレーコイル9とを備える受信ユニット10。前記絶縁車輪2、2間を短絡する短絡回路11に直列に配置される第1のリレー接点12と第2のリレー接点13。上記短絡回路11に第2のリレー接点13と並列に配置されるフィルタ14。これらの部品を必須構成要素として備えている。
【0017】
すなわち、保守用車両の輪軸1両端部に取り付けられた左右の絶縁車輪2,2は、その輪心2aと外輪2c間に環状の絶縁材2bを介在させて形成されている。
【0018】
この保守用車両の車体側には、運転席部分に第1交流電源3と第2交流電源4とが並べて設置してある。図示例の第1交流電源3は、インバータ制御により24ボルトの直流を、115ボルト50Hzの正弦波交流信号に変換し、出力するものである。また第2交流電源4は、図3に示すように、前記第1交流電源3の出力する正弦波交流信号S1 とは異なる高周波の正弦波交流信号(図示例では5KHZ )S2 を、第1交流電源の出力する正弦波交流信号S1 に重畳する形で出力するものである。
【0019】
第1交流電源3と第2交流電源4の双方に接続されている1次コイル5は、保守用車両の車体底部に輪軸1に対して平行に固定してある。また2次コイル6は、輪軸1の上記1次コイル5との対向位置外周面にコイルを巻回して設けてあり、1次コイル5との間には一定の空隙G(図示例では15mm程度)が設けられている。1次コイル5は、第1交流電源3および第2交流電源4からの正弦波交流信号S1 ,S2 が印加されると励磁され、上記空隙Gを介して輪軸1を軸方向に通過する磁束を発生する。2次コイル6は、この磁束との電磁誘導作用により、所要電圧の起電力を発生する。
【0020】
上記2次コイル6には、受信ユニット10が接続してある。この受信ユニット10は、第1のリレーコイル7と、第2のリレーコイル9とを備えている。第1のリレーコイル7は、2次コイル6を介して出力される前記第1交流電源3からの正弦波交流信号S1 を通過させ、所要出力に増幅して後述する第1のリレー接点12を作動させるものである。また第2のリレーコイル9は、2次コイル6を介して前記第1の交流信号S1 に重畳されて出力される第2交流電源4からの高周波交流信号S2 のみをバンドパスフィルタ8により検出して通過させ、所要出力に増幅して後述する第2のリレー接点13を作動させるものである。
【0021】
短絡回路11は、保守用車両の前記左右の絶縁車輪2,2間を短絡する回路である。この短絡回路11には、第1のリレー接点12と第2のリレー接点13とが直列に配置してあり、フィルタ14が、上記第2のリレー接点13と並列に配置されている。
【0022】
第1のリレー接点12は、前記第1のリレーコイル7からの出力信号によりオン作動して、短絡回路11を短絡させるものである。第2のリレー接点13は、前記第2のリレーコイル9からの出力信号によりオン作動して、短絡回路11を短絡させるものである。またフィルタ14は、低周波信号のみを通過させる所謂ローパスフィルタであり、第2のリレー接点13のオフ時において、短絡回路11に低周波の鉄道信号用のリレー信号のみを通過させ、高周波の踏切制御用のリレー信号をカットするためのものである。
【0023】
なお、第1のリレー接点12は第2のリレー接点13のインターロックとなっている。すなわち、第1のリレー接点12がオンしていないと、第2のリレー接点13はオンしない。また、両方のリレー接点12,13がともにオン中でも、第1のリレー接点12がオフすれば、第2のリレー接点13もオフとなるのである。
【0024】
上記構成よりなる本発明の踏切り警報音制御装置は、第1交流電源3および第2交流電源4がともにオフの状態では、保守用車両の絶縁車輪2,2間を短絡する短絡回路11の第1および第2のリレー接点12,13がともに作動せずオフとなる。したがって、該短絡回路11は、軌道からの踏切制御用のリレー信号および鉄道信号用のリレー信号が全く流れない絶縁状態となる。
【0025】
また、第1交流電源3および第2交流電源4の両方をオンにすると、前記短絡回路11の第1および第2のリレー接点12,13がともに作動してオンとなる。したがって、該短絡回路11は、軌道からの踏切制御用のリレー信号および鉄道信号用のリレー信号がともに流れる完全短絡状態となる。
【0026】
そして、第1交流電源をオン、第2交流電源4をオフにすると、前記短絡回路11の第1のリレー接点12がオン、第2のリレー接点13がオフとなる。したがって、該短絡回路11は、フィルタ(ローパスフィルタ)14を通過する信号、すなわち軌道からの低周波の鉄道信号用のリレー信号のみが通過し、高周波の踏切制御用のリレー信号はカットされる部分短絡状態となる。この部分短絡状態にあらかじめ設定しておくことにより、踏切り位置において踏切警報音は鳴らずに遮断機のみが降りて鉄道信号灯が赤信号を表示するという、静かでかつ安全な状態での保守用車両の軌道走行を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明装置を説明する概略構成図である。
【図2】本発明装置の回路構成図である。
【図3】本発明装置に係る第2交流電源が出力する重畳波信号を説明する波形図であ る。
【図4】従来装置を説明する概略構成図である。
【図5】従来装置の回路構成図である。
【符号の説明】
【0028】
1 輪軸
2 絶縁車輪
3 第1交流電源
4 第2交流電源
5 1次コイル
6 2次コイル
7 第1のリレーコイル
8 バンドパスフィルタ
9 第2のリレーコイル
10 受信ユニット
11 短絡回路
12 第1のリレー接点
13 第2のリレー接点
14 フィルタ(ローパスフィルタ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
輪軸両端部に絶縁車輪を備える保守用車両の車体側に設けられた交流電源と、該保守用車両の車体側から輪軸に向かって突出し、前記交流電源により励磁される1次コイルと、1次コイルに対向するように輪軸に巻回された2次コイルと、2次コイルに接続されたリレーコイルと、輪軸両端部の絶縁車輪間を短絡する短絡回路に介装されたリレー接点とを備え、前記交流電源のオン・オフにて前記短絡回路のリレー接点を開閉操作することにより、該短絡回路を完全短絡状態と絶縁状態とに切り換えて軌道を流れる鉄道信号用のリレー信号および踏切制御用のリレー信号のオン・オフ制御を行なう保守用車両の踏切り警報音制御装置において、
前記短絡回路に第1のリレー接点および第2のリレー接点を直列に設けるとともに、踏切制御用のリレー信号をカットするフィルタを第2のリレー接点に並列に設け、
前記交流電源として、周波数が異なる第1交流電源および第2交流電源を、第1交流電源の出力信号に第2交流電源の出力信号が重畳されるように設けるとともに、これらの交流電源には、2次コイルに接続され、第1交流電源からの出力信号を通過させる第1のリレーコイルと、同じく2次コイルに接続され、第2交流電源からの重畳信号のみをバンドパスフィルタにて検出し通過させる第2のリレーコイルとを備える受信ユニットを組合せることにより、
第1交流電源のみの通電時においては、前記短絡回路の第1のリレー接点のみが短絡状態となり、該短絡回路にフィルタを通過する軌道からの鉄道信号用のリレー信号のみが流れて踏切制御用のリレー信号がカットされ、第1交流電源と第2交流電源の両通電時においては、前記短絡回路の第1のリレー接点および第2のリレー接点がともに短絡状態となり、該短絡回路に軌道からの鉄道信号用のリレー信号および踏切制御用のリレー信号がともに流れるように構成したことを特徴とする保守用車両の踏切り警報音制御装置。
【請求項2】
第1交流電源は商用電源であり、第2交流電源は高周波電源である請求項1に記載の保守用車両の踏切り警報音制御装置。
【請求項3】
鉄道信号用のリレー信号は低周波信号で、踏切制御用のリレー信号は高周波信号であり、踏切制御用のリレー信号をカットするフィルタは、低周波信号のみを通過させるローパスフィルタである請求項1又は2に記載の保守用車両の踏切り警報音制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−18598(P2009−18598A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−180498(P2007−180498)
【出願日】平成19年7月10日(2007.7.10)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【出願人】(000182993)住金関西工業株式会社 (10)
【出願人】(592244376)住友金属テクノロジー株式会社 (43)
【Fターム(参考)】