説明

信号処理装置、及びレーダ装置。

【課題】 機械走査方式のレーダ装置においてアンテナが所期の反転位置からずれた位置で反転したときでも精度よく回動角度を検出する。
【解決手段】所定の角度範囲内で往復回動する回動部が単位角度回動するときに角度信号が入力される信号処理装置であって、前記角度信号の状態遷移に基づいて前記回動部の回動方向の反転を検出する反転検出手段と、前記反転を検出した後に入力される前記角度信号に基づき前記回動部の回動角度を検出する回動角度検出手段とを有し、前記回動角度検出手段は、前記反転検出手段により前記回動部の第1の反転が検出された後第2の反転が検出されるまでに入力された前記角度信号に基づき、前記第2の反転が検出された後に入力される角度信号に基づく回動角度を補正するので、所期の反転位置からの角度信号に基づく回動角度を検出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の角度範囲内で往復回動する回動部が単位角度回動するときに角度信号が入力される信号処理装置に関し、特に、角度信号の状態遷移に基づいて前記回動部の回動方向の反転を検出し、前記反転を検出した後に入力される前記角度信号の数に基づき前記回動部の回動角度を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置の走査方式として、機械走査方式が知られており、その一例が特許文献1に記載されている。
【0003】
機械走査方式のレーダ装置は、モータの駆動力により回動軸を中心に回動可能に設けられたアンテナを有し、アンテナを水平面内における所定の角度範囲内で往復回動させながらレーダ信号を送受信することで、所期の走査領域を走査する。そして、走査の際にアンテナの回動角度をロータリエンコーダにより検出し、目標物体からの反射信号を受信したときのアンテナの回動角度から目標物体の方位角を検出する。かかる機械走査方式のレーダ装置は、近年、自動車等の自動制御を支援する目標物体検出手段として用いられる。
【0004】
図1は、機械走査式のレーダ装置におけるアンテナの回動角度検出方法について説明する図である。まず、図1(A)により、以下の説明におけるアンテナの回動角度と回動範囲を説明する。ここでは、アンテナ12の回動角度は、アンテナ12がレーダ装置10正面を指向するときを0度とし、水平面内における左方向の−α度を指向するときを−α度、右方向の+α度を指向するときを+α度とする。すなわち、アンテナ12は、±α度の角度範囲内で往復回動する。以下では、アンテナ12が往復回動する角度範囲を、回動範囲という。
【0005】
図1(B)は、アンテナ12が±α度の回動範囲を往復回動するときに、アンテナ12の回動角度を検出するロータリエンコーダの構成を説明する図である。ロータリエンコーダ32は、アンテナ12に付随して回動するロータ33と、2つの光学センサ34a、34bとを有する。光学センサ34a、34bは、ロータ33の回動にともなってその円周に等間隔で設けられた開口部(スリット)33sがそれぞれの光路を通過するときに、光の透過に同期してエッジが立ち上がり光の遮断に同期してエッジが立ち下がるパルス信号(以下、角度信号という)Sd_a、Sd_bを出力する。ここで、スリット33sの間隔に対する光学センサ34a、34bの間隔は、角度信号Sd_a、Sd_bに信号長の2分の1の位相差が生じるように設けられている。その結果、アンテナ12が右方向に回動するときには角度信号Sd_aの位相が進み、一方、アンテナ12が左方向に回動するときには角度信号Sd_bの位相が進む。
【0006】
このような角度信号Sd_a、Sd_bはレーダ装置内のマイクロコンピュータなどで構成される信号処理装置14に取り込まれる。そして、信号処理装置14は、角度信号Sd_a、Sd_bの状態遷移、つまり角度信号Sd_a、Sd_bにおけるエッジごとのHiまたはLoレベルの組合せパターンの遷移に基づき、アンテナ12の左右いずれかの回動方向とアンテナ12の反転を検出する。
【0007】
図2は、角度信号Sd_a、Sd_bの状態遷移について説明する図である。まず、角度信号Sd_a、Sd_bにおけるエッジごとのHiまたはLoレベルの組合せパターンは、パターンP1(Sd_a:Hi、Sd_b:Hi)、パターンP2(Sd_a:Lo、Sd_b:Hi)、パターンP3(Sd_a:Lo、Sd_b:Lo)、パターンP4(Sd_a:Hi、Sd_b:Lo)の4通りのパターンに分類される。
【0008】
すると、図2(A)に示すように、アンテナ12が右方向に回動するときには角度信号Sd_aの位相が進むので、角度信号Sd_a、Sd_bの状態は、パターンP1→パターンP2→パターンP3→パターンP4→パターンP1…という順序に遷移する。一方、アンテナ12が左方向に回動するときには角度信号Sd_bの位相が進むので、角度信号Sd_a、Sd_bの状態は、パターンP4→パターンP3→パターンP2→パターンP1→パターンP4…という順序に遷移する。信号処理装置14は、このような角度信号Sd_a、Sd_bの状態遷移を判別することで、アンテナ12の回動方向を検出する。
【0009】
そして、信号処理装置14は、角度信号Sd_a、Sd_bの状態遷移の順序が反転するときに、アンテナ12の反転を検出する。すなわち、右方向を示す状態遷移から左方向を示す状態遷移に反転するときには(矢印T1)、アンテナは回動範囲の右端で反転する。そして、そのときの回動角度+α度である。一方、左方向を示す状態遷移から右方向を示す状態遷移に反転するときには(矢印T2)、アンテナは回動範囲の左端で反転する。そして、そのときの回動角度−α度である。
【0010】
そして、信号処理装置14は、アンテナ12の回動方向が反転した後に入力される角度信号Sd_a、Sd_bに基づき、アンテナ12の回動角度を検出する。具体的には、角度信号Sd_a、Sd_bのパルスのエッジ数(以下、角度信号数という)と、1つの角度信号に対応する単位角度、つまりスリット33sの間隔に対応する単位角度とを乗算して、所期の反転位置である回動範囲の左右いずれかの端部からの回動量を算出することでアンテナ12の回動角度を検出する。
【特許文献1】特開2003−294829号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、機械走査方式のレーダ装置では、アンテナ12の慣性力により所期の反転位置を通過してからアンテナ12が反転するオーバーランや、経年変化によりアンテナ12を駆動するモータの駆動力が低下してアンテナ12の慣性力に見合わなくなることによりアンテナ12が所期の反転位置の手前で反転するアンダーランが生じ、アンテナ12の反転位置が所期の反転位置からずれる場合がある。
【0012】
かかる場合には、角度信号Sd_a、Sd_bの状態遷移の順序が反転したときのアンテナ12の回動角度を所期の反転位置である回動範囲端部(±α度)とみなし、回動範囲端部を起算点として回動角度を検出する上記の方法では、回動角度の検出誤差が生じる。よって、角度信号の状態からオーバーランまたはアンダーランによる反転位置のずれ幅を検出し、検出したずれ幅に応じて回動角度の誤差を補正する方法が提案されている。
【0013】
ここで、アンテナ12が右方向から左方向へ反転する場合を例として、オーバーランまたはアンダーランが発生したときの角度信号Sd_a、Sd_bの状態を図2(B)に示す。所期の反転位置である回動範囲の右端部(+α度)で、角度信号Sd_a、Sd_bの状態はパターンP4とすると(矢印T1)、オーバーランが発生したときの反転位置における角度信号の状態はパターンP1であり(矢印R1)、反転後の回動量の起算点は回動範囲の右端部から角度信号1つ分外側にずれる。一方、アンダーランが発生したときの反転位置における角度信号の状態はパターンP3であり(矢印R2)、反転後の回動量の起算点は回動範囲の右端部から角度信号1つ分内側にずれる。
【0014】
よって、信号処理装置14は、上記のような反転時の角度信号状態からオーバーランまたはアンダーランを検出し、検出結果に応じて反転後の角度信号数に対し信号数「1」を加算または減算することで、回動量の誤差を補正する。そうすることで、所期の反転位置である回動範囲の右端部からのアンテナ12の回動量を検出し、回動角度の検出誤差を防止する。
【0015】
しかしながら、近年では、障害物との衝突回避あるいは衝突対応といった車両制御が要望され、車載用レーダ装置には、検出精度の向上の一環として目標物体の方位角を検出するときの角度分解能の向上が求められる。そのための方法として、機械走査式のレーダ装置においてロータに設けられるスリット幅を狭くするとともにスリット数を増加させ、アンテナ12の回動角度を検出するときの単位角度を小刻みにする方法が提案されている。
【0016】
すると、アンテナを回動する機構が同じ構造であれば、スリット33s幅を小さくすることでオーバーランやアンダーランが発生するときの角度信号パターンのずれ幅が大きくなる。たとえば、図1(B)に示したレーダ装置のスリット33sの幅を2分の1、スリット33s数を2倍にした場合の角度信号の状態遷移を、アンテナ12が右方向から左方向へ反転する場合を例として図2(C)に示すと、オーバーランやアンダーランが生じたときの反転が検出されるとき(矢印R11、R21)の角度信号のパターンは、所期の反転位置での反転が検出されるとき(矢印T1)のパターンP4から、角度信号数にして2つ分内側または外側のパターンP2にずれる。すると、オーバーランのときもアンダーランのときも同じパターンとなるので、角度信号の状態からは反転位置を特定することができず、したがってその後に入力される角度信号数の補正ができない。そして、このことは、アンテナ12が左方向から右方向へ反転する場合にもあてはまる。よって、上記の方法では、回動角度の誤差を防止できないという問題が生じる。
【0017】
そこで、本発明の目的は、機械走査方式のレーダ装置において、角度信号が入力される単位角度の大きさにかかわらず、オーバーランやアンダーランが生じたときの回動角度の検出誤差を防止できる信号処理装置等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の側面によれば、所定の角度範囲内で往復回動する回動部が単位角度回動するときに角度信号が入力される信号処理装置であって、前記角度信号の状態遷移に基づいて前記回動部の回動方向の反転を検出する反転検出手段と、前記反転を検出した後に入力される前記角度信号に基づき前記回動部の回動角度を検出する回動角度検出手段とを有し、前記回動角度検出手段は、前記反転検出手段により前記回動部の第1の反転が検出された後第2の反転が検出されるまでに入力された前記角度信号に基づき、前記第2の反転が検出された後に入力される角度信号に基づく回動角度を補正することを特徴とする信号処理装置が提供される。
【発明の効果】
【0019】
上記側面によれば、前記回動角度検出手段は、前記反転検出手段により前記回動部の第1の反転が検出された後第2の反転が検出されるまでに入力された前記角度信号に基づき、前記第2の反転が検出された後に入力される角度信号に対応する回動角度を補正するので、アンテナが所期の反転位置からずれた位置で反転したときでも所期の反転位置からの角度信号に基づく回動角度を検出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面にしたがって本発明の実施の形態について説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。
【0021】
図3は、本実施形態におけるレーダ装置が、車両の前方監視用レーダ装置として使用されるときの使用状況を説明する図である。機械走査方式のレーダ装置10は、車両1の前部バンパー部分やフロントグリル内に搭載され、バンパーやフロントグリルに設けられるレドームを透過して車両1の前方にレーダ信号を送信し、目標物体により反射された反射信号を受信する。このとき、レーダ装置10は、アンテナを±α度の角度範囲内で往復回動させ、車両1の前方0度を中心とする左右方向±α度の走査領域を走査する。そして、内部の信号処理装置によりアンテナの回動角度を逐次検出する。
【0022】
レーダ装置10は信号処理装置により、他車両や路側の設置物といった目標物体が位置する方位角度を受信信号を受信したときのアンテナの回動角度から、また目標物体の相対速度、相対距離を送受信信号の周波数差から検出する。検出されたこれらの目標物体情報は、車両1の挙動を制御する車両制御装置100に出力される。
【0023】
車両制御装置100は、目標物体情報に基づいて、種々の車両制御を行う。たとえば、車両1のスロットル、ブレーキといったアクチュエータを制御して車両1を加減速し、先行車両に一定の車間距離で追従する追従走行制御を行う。あるいは、他車両や路側設置物との距離が一定以上接近し衝突の蓋然性が一定以上大きくなると、運転者への警報を表示出力または音声出力したり、車両1を加減速したりして衝突を回避する衝突回避制御を行う。また、衝突の蓋然性がさらに大きくなると、エアバッグなどの安全装置を作動させ乗員を保護する衝突対応制御を行う。
【0024】
なお、図3に示す使用状況は一例であり、レーダ装置10は車両1の前側方、側方、後側方、または後方の走査領域を走査するために車両1の前側部、側部、後側部、または後部に搭載することも可能である。
【0025】
図4は、本実施形態におけるレーダ装置の構成例を説明する図である。機械走査方式のレーダ装置10は、所定の角度範囲内で往復回動するアンテナ12を有するレーダ送受信機10aと、その信号処理装置14とを有する。本実施形態において、アンテナ12が「回動部」に対応する。またここでは、一例として、レーダ送受信機10aは、FM−CW(Frequency Modulated-Continuous Wave)方式で周波数変調した連続波(電磁波)をレーダ信号としてアンテナ12から送信する。
【0026】
レーダ送受信機10aは、アンテナ12を±α度の角度範囲内で往復回動往復回動させる駆動力を出力するモータ30と、モータ30の回転を制御する駆動回路28を有する。ここで、片方向回転のモータによりモータ30を構成し、モータ30の回転力を図示しないクランク機構により往復運動としてアンテナ12に伝達する構成としてもよいし、両方向回転のモータによりモータ30を構成し、モータ30の回転力を直接的に用いてアンテナを往復回動させる構成としてもよい。
【0027】
また、レーダ送受信機10aは、アンテナ12の回動角度を検出するためのロータリエンコーダ32を有する。ロータリエンコーダ32は、図1で示したように構成され、アンテナ12が単位角度(例えば0.5度)回動するごとにエッジが立ち上がる/立ち下がる2チャネルのパルス信号を角度信号Sd_a、Sd_bとして出力する。ここで、角度信号は信号長の2分の1の位相差を有する。そして、角度信号Sd_a、Sd_bは信号処理装置14に取り込まれ、アンテナ12の回動角度を検出するために用いられる。
【0028】
レーダ送受信機10aでは、変調信号生成部16が信号処理装置14からの指示に応答して三角波状の周波数変調信号を生成し、電圧制御発振器(VCO)18が周波数変調信号に従った周波数のレーダ信号を出力する。そして、レーダ信号は分配器20により電力分配され、その一部がアンテナ12に設けられた送信アンテナ素子12Tから送出される。
【0029】
送信信号が目標物体により反射されると、その反射信号は、アンテナ12に設けられた受信アンテナ素子12Rにより受信される。そして、受信信号が電力分配された送信信号の一部とミキサ22により混合されると、その結果、ミキサ22からは送信信号と受信信号の周波数差を周波数とするビート信号が出力される。
【0030】
ここで、送信信号と受信信号の周波数変化を図5(A)に示すと、送信信号の周波数は、実線で示すように、周波数fm(例えば400Hz)の三角波の周波数変調信号に従って、中心周波数f0(例えば76.5GHz)、周波数変調幅ΔF(例えば200MHz)で周波数が直線的に上昇及び下降する。これに対し、受信信号の周波数は、破線で示すように、これを反射した目標物体の相対距離による時間的遅延ΔTと、相対速度に応じたドップラ周波数γ分の偏移を受ける。その結果、送受信信号には、送信信号の周波数上昇期間(アップ期間)で周波数差α、周波数下降期間(ダウン期間)で周波数差βが生じる。よって、両者の周波数差に対応する周波数のビート信号の周波数(ビート周波数)は、図5(B)に示すように、アップ期間でビート周波数α、ダウン期間でビート周波数βとなる。そして、このビート周波数α、βと目標物体の相対距離R、相対速度Vには次の式(1)、(2)で示す関係が成立する。ただし、ここでCは光速である。
【0031】
R=C・(α+β)/(8・ΔF・fm) …式(1)
V=C・(β−α)/(4・f0)…式(2)
図4に戻り、上記のようなビート信号はA/D変換器24によりA/D変換されてデジタルデータとして信号処理装置14に取り込まれる。信号処理装置14は、デジタルデータ化されたビート信号に対しFFT(高速フーリエ変換)処理を施してその周波数スペクトルを検出するDSP(Digital Signal Processor)などの演算処理装置と、ビート信号の周波数スペクトラムに基づいて目標物体を検出するマイクロコンピュータを有する。このマイクロコンピュータは、CPU(Central Processing Unit)と、CPUが実行する各種処理プログラムや制御プログラムが格納されたROM(Read Only Memory)と、CPUが各種データを一時的に格納するRAM(Random Access Memory)とを有する。
【0032】
かかる信号処理装置14では、反転位置検出手段14a、回動角度検出手段14b、動作異常検出手段14cは、後に詳述する手順を実行するCPUとその動作手順を記述したプログラムにより構成される。
【0033】
図6は、信号処理装置14が実行するメインの動作手順を説明するフローチャート図である。図6に示す手順は、アンテナ12が回動範囲を一方向側に回動して走査領域を走査する1走査周期ごとに実行される。
【0034】
まず、信号処理装置14は、送信信号のアップ期間、ダウン期間ごとにビート信号をFFT処理してその周波数スペクトルを検出し、周波数スペクトルで極大値を形成するピーク信号を検出する(S2)。そして、信号処理装置14は、ピーク信号を受信したときのアンテナの回動角度を検出し(S4)、これによりピーク信号の方位角が検出される。そして、信号処理装置14は、アップ期間とダウン期間とで検出したピーク信号についてレベルや方位角が一致するペアの対応付け、つまりペアリングを行う(S6)。そして、ペアリングしたアップ期間とダウン期間それぞれのピーク信号のビート周波数を用い、上述した式(1)、(2)により目標物体の相対距離、相対速度を検出する(S8)。そして、信号処理装置14は、検出結果が過去複数の検出サイクルで連続性を有するかを確認し(S10)、一定以上の履歴が接続した検出結果を車両制御装置100に出力する(S12)。
【0035】
図7は、本実施形態における信号処理装置14によるアンテナ12の角度検出方法を説明する図である。縦軸には往復回動するアンテナ12の回動角度を示し、横軸には入力される角度信号数を示す。
【0036】
まず、信号処理装置14では、反転検出手段14aが角度信号Sd_a、Sd_bの状態遷移に基づいてアンテナ12の回動方向と、その反転を検出する。具体的には、図2(A)で示したように、パターンP1→パターンP2→パターンP3→パターンP4→パターンP1…という順序に遷移するときに右方向、パターンP4→パターンP3→パターンP2→パターンP1→パターンP4…という順序に遷移するときに左方向を検出する。そして、遷移の順序が反転するときに(矢印T1、T2、T3、…)、アンテナ12の回動方向の反転を検出する。
【0037】
ここで、回動方向の反転が検出されたときには、アンテナ12の回動角度は、所期の反転位置である回動範囲の左右いずれかの端部とみなす。そして、回動角度検出手段14bが、反転検出手段14aが反転を検出した後に入力される角度信号に基づきアンテナ12の回動角度を検出する。具体的には、右方向から左方向への反転が検出されたとき(矢印T1)を例とすると、回動角度検出手段14bは、反転が検出された後に入力される角度信号数X1に1つの角度信号に対応する単位角度0.5度を乗算して、角度信号数X1に対応する回動量ΔS1を算出する。そして、この場合の所期の反転位置、つまり回動範囲の右端部の回動角度+α度から算出した回動量ΔS1だけ変位した回動角度θ1を算出する。また、左方向から右方向への反転が検出されたとき(矢印T2)を例とすると、回動角度検出手段14bは、反転が検出された後に入力される角度信号数X2に1つの角度信号に対応する単位角度0.5度を乗算して、角度信号数X2に対応する回動量ΔS2を算出する。そして、この場合の所期の反転位置、つまり回動範囲の左端部の回動角度−α度から算出した回動量ΔS2だけ変位した回動角度θ2を算出する。
【0038】
ところで、アンテナ12自体の慣性力により所期の反転位置を通過してからアンテナ12が反転するオーバーランや、経年変化によりモータ30の駆動力が低下してアンテナ12の慣性力に見合わなくなりアンテナ12が所期の反転位置の手前で反転するアンダーランが生じる場合がある。そして、図2(C)で示したように、オーバーランまたはアンダーランしたときに角度信号Sd_a、Sd_bの状態が同じパターンとなる場合がある。かかる場合には、角度信号Sd_a、Sd_bの状態から反転が特定できず、従って反転後の回動量を算出する際の起算点を特定できない。すると、反転後に入力される角度信号Sd_a、Sd_bに基づき回動角度を検出する際に、回動角度を誤検出するおそれがある。そこで、本実施形態では次の方法で角度信号Sd_a、Sd_b数を補正することにより、角度信号Sd_a、Sd_bに基づく回動角度を補正する。
【0039】
図8は、本実施形態における角度信号数の補正方法について説明する図である。図8には、反転から反転までの一回動C_1、C_2、C_3、…ごとに信号処理装置14に入力される角度信号数の例が示される。信号処理装置14では、回動角度検出手段14bがアンテナ12の第1の反転が検出された後第2の反転が検出されるまでの回動C_nで入力された角度信号数と規定値との差分を算出し、その差分に基づいて第2の反転が検出された後の回動C_n+1で入力される角度信号数を補正する。具体的には、回動角度検出手段14bは、次の式に基づいて、補正すべき角度信号数を算出する。
【0040】
回動C_n+1での補正信号数=−[回動C_nで入力された角度信号数− 規定数+回動C_n-1での補正信号数] ・・・ 式(3)
ここでは、所期の反転位置である回動範囲の両端部のいずれかでアンテナ12が反転するときに、1回動の間に入力される角度信号数Nを規定数とする。
【0041】
まず図8(A)に、回動C_1→C_2→C_3と回動範囲の端部で反転する場合に、回動C_3における補正信号数の算出方法を示す。このとき、回動C_2で入力された角度信号数はNであるので、回動C_3における補正信号数は、上式(3)により、
補正信号数=N−N+0=0である。
【0042】
よって、回動C_3において、図7に示した方法により角度信号数Xに対する回動角度を算出するときには、角度信号数Xに対し補正信号数0を加算する。よって、この場合、角度信号数Xに基づいて回動角度が算出される。
【0043】
次に、図8(B)に、回動C_2→C_3と反転するときにオーバーランが発生して回動C_2で入力された角度信号数が(N+k)の場合に、回動C_3における補正信号数の算出方法を示す。このとき、回動C_2で入力された角度信号数は、規定数Nに対し信号数k分超過している。ここで、回動C_1における補正信号数を0とすると、回動C_3における補正信号数は、上式(3)により、
補正信号数=−[(N+k)−N+0]=―kである。
【0044】
よって、回動C_3において、図7に示した方法により角度信号数Xに対する回動角度を算出するときには、角度信号数Xに対し補正信号数−kを加算する。よって、角度信号数X−kに基づいて回動範囲端部からの回動量を計算することができる。そうすることで、回動C_2における角度信号数の超過分を相殺でき、正確な回動角度を算出できる。
【0045】
さらに、この場合、回動C_3での角度信号数のカウントは回動C_2がオーバーランしたことにより信号数k回動範囲の外側から開始されるので、回動範囲端部までに入力される信号数はN+kである。そして、回動C_3においてオーバーランまたはアンダーランが生じ、入力される角度信号数±mが超過または不足する場合には、回動C_3において入力される角度信号数はN+k±mとなる。すなわち、オーバーランまたはアンダーランによる超過分または不足分は、k±mとなる。このときに、回動C_4における補正信号数を求めると、回動C_4における補正信号数は、上式(3)により、
補正信号数=−[(N±m)−N−k]=k±mとなる。
【0046】
よって、回動C_4において、図7に示した方法により角度信号数Xに対する回動角度を算出するときには、角度信号数Xに対し補正信号数k±mを加算する。よって、角度信号数X+k±mに基づいて回動範囲端部からの回動量を計算することができる。そうすることで、回動C_4における角度信号数の超過分または不足分を相殺でき、正確な回動角度を算出できる。
【0047】
また、図8(C)に、回動C_2→C_3と反転するときにアンダーランが発生して回動C_2で入力された角度信号数が(N−k)の場合に、回動C_3における補正信号数の算出方法を示す。このとき、回動C_2で入力された角度信号数は、規定数Nに対し信号数k分不測している。ここで、回動C_1における補正信号数を0とすると、回動C_3における補正信号数は、上式(3)により、
補正信号数=−[(N−k)−N+0]=+kである。
【0048】
よって、回動C_3において、図7に示した方法により角度信号数Xに対する回動角度を算出するときには、角度信号数Xに対し補正信号数kを加算する。よって、角度信号数X+kに基づいて回動範囲端部からの回動量を計算することができる。そうすることで、回動C_2における角度信号数の不足分を相殺でき、正確な回動角度を算出できる。
【0049】
さらに、この場合、回動C_3での角度信号数のカウントは回動C_2がアンダーランしたことにより信号数k回動範囲の内側から開始されるので、回動範囲端部までに入力される信号数はN−kである。そして、回動C_3においてオーバーランまたはアンダーランが生じ、入力される角度信号数±mが超過または不足する場合には、回動C_3において入力される角度信号数はN−k±mとなる。すなわち、オーバーランまたはアンダーランによる超過分または不足分は、−k±mとなる。このときに、回動C_4における補正信号数を求めると、回動C_4における補正信号数は、上式(3)により、
補正信号数=−[(N±m)−N+k]=−k±mとなる。
【0050】
よって、回動C_4において、図7に示した方法により角度信号数Xに対する回動角度を算出するときには、角度信号数Xに対し補正信号数−k±mを加算する。よって、角度信号数X−k±mに基づいて回動範囲端部からの回動量を計算することができる。そうすることで、回動C_4における角度信号数の超過分または不足分を相殺でき、正確な回動角度を算出できる。
【0051】
なお、上記の方法では、レーダ装置10が起動されアンテナ12の駆動が開始された直後の回動においては、前回アンテナ12が停止したときの回動角度を信号処理装置14のROM(この場合、書き込み可能な不揮発性メモリで構成される)に格納しておき、当該回動角度に対応する角度信号数と規定数Nとの差分を第1回目の回動における規定数として用いることで、第2回目の回動以後の角度信号数を補正することが可能である。あるいは、アンテナ12の駆動開始直後の回動においては角度信号数をカウントせずに、第1回目の反転が検出された後の回動を第1回目の回動として処理し、上記方法を実行してもよい。
【0052】
このような方法によれば、オーバーランまたはアンダーランによる信号数のずれ幅にかかわらず、補正信号数を求めることができる。反転が検出された後には、かかる補正信号数により補正した角度信号数に基づいて回動範囲端部からの回動量を検出できる。よって、回動角度を補正することができ、回動角度の誤検出を防止できる。
【0053】
図9は、本実施形態におけるアンテナ12の回動角度検出手順を説明するフローチャート図である。図9の手順は、図6に示した手順S4のサブルーチンに対応する。
【0054】
まず、反転検出手段14aは、アンテナ12の回動方向とその反転を検出する(S20)。すると、回動角度検出手段14bは、反転後に入力される角度信号数をカウントする(S22)。そして、前回の回動における補正信号数をRAMから取得し(S24)、上記した方法により角度信号の補正数を算出して角度信号数を補正する(S26)。このとき、算出した補正信号数は、次の回動における補正信号数算出に用いることができるように、信号処理装置14のRAMに記憶する。そして、回動角度検出手段14bは、補正された角度信号数に基づいて、回動範囲端部からの回動量を算出し、これに基づくアンテナ12の回動角度を検出する(S28)。
【0055】
なお、レーダ装置10の起動直後でモータ30の駆動力が一定以上に達しない回動状態のときには、補正量が大きいオーバーランは生じにくい。すなわち、オーバーランが生じた場合であっても所期の反転位置に対応する角度信号の状態からのパターンのずれ幅が小さい。よって、その場合には、図2(B)に示したように、反転が検出されたときの角度信号の状態(パターンP1)に基づいてオーバーランを検出し、反転後の角度信号数を補正する従来の方法を用いることが可能である。なお、ここでは、図2(B)に示したアンテナ12が右方向から左方向へ反転する場合の角度信号の状態を例として説明するが、アンテナ12が左方向から右方向へ反転する場合にも次の説明はあてはまる。
【0056】
すなわち、角度信号の状態に対応する補正量をROMに予め記憶させておき、モータ30の駆動力が一定以上に達しない回動状態のときには、角度信号数をカウントすることなく反転が検出されたときの角度信号の状態(パターンP1)に対応する補正量(たとえば−1)をROMから読み出す。この場合、角度信号の状態から補正量が求まるので、角度信号数は反転後の回動角度を検出するために用いられる。よって、角度信号数から補正信号数を算出する必要がないので、かかる場合の信号処理装置14の処理負荷を軽減できる。そして、モータ30の駆動力が一定以上に達した回動状態のときには角度信号数をカウントすることで補正量を求める。そうすることで、補正量の大小にかかわらず角度信号を補正し、反転後の回動角度を精度よく検出できる。
【0057】
またここで、角度信号数の補正処理において補正量がある程度以上大きい場合には、正常な状態で想定されるオーバーランあるいはアンダーランに起因する誤差ではなく、モータが脱調することで発生した補正量と判断できる。よって、信号処理装置14の動作異常検出手段14cは、補正量に基づき回動機構の動作異常を検出し、その場合にレーダ送受信機10aを再起動するなどのフェールセーフ処理を実行する。そうすることで、レーダ装置10の正常な動作を復帰させることができる。
【0058】
特に、車載用レーダ装置の場合、モータの脱調のほかに走行中の振動や予期せぬ衝撃などにより所期の補正量より大きい補正量を要するオーバーランまたはアンダーランが発生したときであっても、その動作異常を検出できる。そして、フェールセーフ処理を実行することで、レーダ装置10の正常動作を復帰させ、適切な車両制御を行うことができる。
【0059】
図10は、上述したモータの駆動力が一定以上に達するか否かにより処理を分岐する実施例の手順を示すフローチャート図である。この手順は、図9に示した手順の変形例に対応しており、図9で示した手順には同じ符号を付し、説明を適宜省略する。
【0060】
この実施例では回動角度検出手段14bが反転後に入力される角度信号数をカウントすると(S22)、反転回数が規定数(たとえば4回)以上であるか否かを確認する(S23)。ここで、規定数未満のときには(S23のNO)、反転したときの角度信号の状態に対応する補正信号数をROMから読み出し(S32)、角度信号数を補正して回動角度を検出する(S34)。
【0061】
一方、反転回数が規定数以上のときに(S23のYES)は、図9で示した補正処理を実行する。ただし、動作異常検出手段14cは、手順S26で算出した補正数が基準値(たとえば信号数「5」)以上のときには(手順S27のYES)、動作異常を検出してフェールセーフ処理を実行する(S30)。
【0062】
なおここでは、モータ30の駆動力が一定に達したことを反転回数により判断しているが、たとえば、時間あたりに入力される角度信号数からアンテナ12の回動速度を推定し、一定の速度に達しないときは手順S32、S34を実行し、一定の速度に達したときに手順S24以降を実行してもよい。また、上述の説明における規定数、基準値等は一例であり、任意の数値を用いることが可能である。
【0063】
さらに、本実施形態は、所定の角度範囲を往復回動する回動部の回動角度を検出する信号処理装置であれば、車載用レーダ装置以外(たとえば、船舶等に搭載したり地上に設置したりして用いるレーダ装置)にも適用できる。
【0064】
以上、説明したとおり、本実施形態によれば、反転検出手段により回動部の第1の反転が検出された後第2の反転が検出されるまでに入力された角度信号に基づき、第2の反転が検出された後に入力される角度信号を補正するので、アンテナが所期の反転位置からずれた回動角度で反転したときでも所期の反転位置からの角度信号数に基づく回動角度を検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】アンテナの回動角度検出方法について説明する図である。
【図2】角度信号Sd_a、Sd_bの状態遷移について説明する図である。
【図3】本実施形態におけるレーダ装置が、車両の前方監視用レーダ装置として使用されるときの使用状況を説明する図である。
【図4】本実施形態におけるレーダ装置の構成例を説明する図である。
【図5】送信信号と受信信号の周波数変化を示す図である。
【図6】信号処理装置14が実行するメインの動作手順を説明するフローチャート図である。
【図7】本実施形態における信号処理装置14によるアンテナ角度検出方法を説明する図である。
【図8】本実施形態における角度信号数の補正方法について説明する図である。
【図9】本実施形態におけるアンテナ12の回動角度検出手順を説明するフローチャート図である。
【図10】モータの駆動力が一定以上に達するか否かにより処理を分岐する実施例の手順を示すフローチャート図である。
【符号の説明】
【0066】
10:レーダ装置、10a:レーダ送受信機、12:アンテナ、14:信号処理装置、14a:反転検出手段、14b:回動角度検出手段、14c:動作異常検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の角度範囲内で往復回動する回動部が回動するときに角度信号が入力される信号処理装置であって、
前記角度信号の状態遷移に基づいて前記回動部の回動方向の反転を検出する反転検出手段と、
前記反転を検出した後に入力される前記角度信号に基づき前記回動部の回動角度を検出する回動角度検出手段とを有し、
前記回動角度検出手段は、前記反転検出手段により前記回動部の第1の反転が検出された後第2の反転が検出されるまでに入力された前記角度信号に基づき、前記第2の反転が検出された後に入力される角度信号に基づく回動角度を補正することを特徴とする信号処理装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記回動部が複数の異なる回動角度で回動方向を反転するときの前記角度信号の状態が一致することを特徴とする信号処理装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記回動角度検出手段は、前記回動部が所定の回動状態になるまでは前記角度信号の状態に基づいて、前記角度信号に基づく回動角度を補正することを特徴とする信号処理装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記所定の回動状態は、前記回動部の反転回数または前記角度信号の入力速度のいずれかがそれぞれに対する基準値以上であることを特徴とする信号処理装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載された回動部と信号処理装置とを有し、前記回動部はレーダ信号を送受信するアンテナであることを特徴とするレーダ装置。
【請求項6】
請求項5において、
移動体に搭載され、
前記回動角度の補正量に基づいて前記レーダ装置の動作異常を検出する動作異常検出手段をさらに有することを特徴とするレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−71649(P2010−71649A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−235901(P2008−235901)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】