説明

信号解析機能を有するアンプ装置

【課題】 設計段階や調整段階において、テストを正常に行うことができ、しかも、アンプ装置を保護することのできる技術を提供する。
【手段】 要注意判断手段6は、増幅回路2の出力負荷を検出し、音声信号が特殊信号であり、負荷レベルが所定値を超えていれば要注意であると判断する。テスト用信号判断手段8は、音声信号の種類に基づいて、当該音声信号がテスト信号であるか否かを判断する。モード切換手段9は、要注意判断手段6が要注意であると判断すると、低電力モードに切り換える。ただし、テスト用信号判断手段8がテスト用信号であると判断した場合には、要注意判断がなされた場合であっても、直ちに低電力モードには切り換えない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、信号解析機能を有するアンプ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アンプ装置の負荷を監視し、所定以上の負荷が連続して印加されるような場合には、アンプ装置の破壊を防ぐため、低出力モードに切り換える構成が用いられている。たとえば、引用文献1には、電圧に応じて使用する増幅回路を切り換える装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−183673
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、設計段階や出荷時の調整段階においては、テストのために所定以上の負荷を連続して印加したい場合もある。そのような場合まで、上記のような低出力モードへの切り換えが行われてしまうと、正しいテストを行うことができない。
【0005】
一方で、テストの必要な時間が経過すれば、低出力モードに切り換えないと、アンプ装置に好ましくない影響を与えることになる。
【0006】
そこで、この発明においては、設計段階や調整段階において、テストを正常に行うことができ、しかも、アンプ装置を保護することのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)この発明に係るアンプ装置は、音声信号を受けて増幅する増幅回路と、増幅回路の負荷を検出し、音声信号が特殊信号であり、負荷が所定レベル以上である場合に要注意状態であると判断する要注意状態判断手段と、増幅回路に与えられる音声信号の周波数解析を行い、音声信号の種類を判別する種類判別手段と、種類判別手段によって判別された音声信号の種類が予め定められたテスト用信号であるかどうかを判断するテスト用信号判断手段と、要注意状態判断手段が要注意状態であると判断し、テスト用信号判断手段がテスト用信号でないと判断した場合に低電力モードに切り換え、テスト用信号判断手段がテスト用信号であると判断した場合には、要注意状態判断手段が要注意状態であると判断していたとしても、当該テスト用信号に対応するテスト内容に応じた時間分、通常電力モードを維持した後、低電力モードに切り換えるモード切換手段とを備えている。
【0008】
したがって、テスト実行時に低電力モードに切り換わることなく、適切にテストを実行することができる。また、テスト終了後は、速やかに低電力モードに入って、増幅回路への悪影響をさけることができる。
【0009】
(2)この発明に係るアンプ装置は、増幅回路の温度を検出する温度センサと、当該温度センサによる検出温度が所定温度を超えた場合に、冷却ファンを駆動させる冷却ファン制御手段とをさらに備え、前記モード切換手段は、テスト用信号判断手段がテスト用信号であると判断した場合には、当該テスト用信号に対応するテスト内容に応じて、冷却ファン制御手段による制御を行うか否かを制御することを特徴としている。
【0010】
したがって、テスト用信号を与えるだけで、テスト実行時に冷却ファンの制御の有無を、テスト内容に合致するように決定することができる。
【0011】
(3)この発明に係るアンプ装置は、種類判別手段が、D/A変換器によって変換される前のディジタル音声信号に基づいて周波数解析を行うことを特徴としている。
【0012】
したがって、ディジタル音声信号として周波数解析を行うことができ、処理が容易である。
【0013】
(4)この発明に係るアンプ装置は、テスト用信号が、ホワイトノイズまたはサイン波であることを特徴としている。
【0014】
この発明において「増幅回路」とは、チャネル信号に対して何らかの処理を行う回路をいい、振幅を大きくするものだけでなく、振幅を整えたりするものなどを含む概念である。
【0015】
「要注意状態判断手段」は、実施形態においては、ステップS2、S4がこれに対応する。
【0016】
「種類判別手段」は、実施形態においては、ステップS5がこれに対応する。
【0017】
「テスト用信号判断手段」は、実施形態においては、ステップS6がこれに対応する。
【0018】
「モード切替手段」は、実施形態においては、ステップS7、S8、S9、S10がこれに対応する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の一実施形態によるアンプ装置の機能ブロック図である。
【図2】アンプ装置のハードウエア構成を示す図である。
【図3】放熱板22に取り付けられた増幅回路A1、A2・・・A6、温度センサSを示す図である。
【図4】制御プログラムのフローチャートである。
【図5】制御プログラムのフローチャートである。
【図6】負荷合計の変動を示す図である。
【図7】フーリエ変換の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1.アンプ装置の全体構成
図1に、この発明の一実施形態によるアンプ装置の機能ブロック図を示す。増幅回路2は、音声信号を受けて増幅しスピーカなどに出力する。要注意判断手段6は、増幅回路2の出力負荷を検出し、音声信号が通常の音声信号ではない特殊信号であるかどうかを判断する。さらに、その負荷レベルが所定値を超えているかどうかを判断する。要注意判断手段6は、特殊信号であり、負荷レベルが所定値を超えている場合には、要注意であると判断する。
【0021】
種類判別手段4は、音声信号を周波数解析し、その周波数波形から信号の種類を判別する。テスト用信号判断手段8は、音声信号の種類に基づいて、当該音声信号がテスト信号であるか否かを判断する。モード切換手段9は、要注意判断手段6が要注意であると判断すると、増幅回路2の動作モードを低電力モードに切り換える。
【0022】
ただし、テスト用信号判断手段8がテスト用信号であると判断した場合には、要注意判断がなされた場合であっても、直ちに低電力モードには切り換えない。当該テスト用信号に対応するテスト内容に応じて、必要な時間だけ通常電力モードを継続し、その後低電力モードへの切り換えを行う。
【0023】
上記のようにして、テスト用信号が入力された場合に、テストの障害となる低電力モードへの切り換えを防止しつつ、アンプ装置の破壊を防止することができる。
【0024】
2.ハードウエア構成
図2に、この発明の一実施形態によるアンプ装置のハードウエア構成を示す。アナログ信号ANAは、A/D変換器10によってディジタル信号にされてDSP14に与えられる。CDプレイヤからのディジタル信号CDやコンピュータからのディジタル信号PCは、DIR12によって選択されて、DSP14に与えられる。
【0025】
DSP14は、これらのディジタル信号をデコードし、前方左チャネル信号FL、前方右チャネル信号FR、中央チャネル信号C、サラウンド左チャネル信号SL、サラウンド右チャネル信号SR、サブウーファ信号SUBとして出力する。
【0026】
これら信号FL、FR、C、SL、SR、SUBは、D/A変換器C1、C2・・・C6によってアナログ信号に変換される。これら前方左チャネル・アナログ信号FL、前方右チャネル・アナログ信号FR、中央チャネル・アナログ信号C、サラウンド左チャネル・アナログ信号SL、サラウンド右チャネル・アナログ信号SR、サブウーファ・アナログ信号SUBは、それぞれ、スピーカfl、fr、c、sl、sr、subに与えられる。
【0027】
増幅回路A1、A2・・・A6には、温度センサSが設けられている。図3に、温度センサSの取り付け状態を示す。放熱板22には、増幅回路A1、A2・・・A6が取り付けられ、中央部に温度センサSが取り付けられている。図2に戻って、温度センサSの出力はMPU20に与えられる。また、増幅回路A1、A2・・・A6の近傍には冷却ファンFが設けられ、MPU20によって制御される。
【0028】
増幅回路A1、A2・・・A6の出力は、抵抗R1、R2・・・R6によって結合され、ツェナーダイオードZを介して、ローパスフィルタ24に与えられる。ローパスフィルタ24の出力は、A/D変換器26によって、ディジタルデータに変換されてMPU20に与えられる。つまり、増幅回路A1、A2・・・A6の負荷合計が平滑化され、MPU20に与えられる。MPU20のメモリ(図示せず)には、制御プログラムが記録されている。
【0029】
3.制御プログラムの処理
図4に、制御プログラムのフローチャートを示す。MPU20は、A/D変換器26の出力から、増幅回路A1、A2・・・A6の負荷合計を取得し、メモリに記録する(ステップS1)。この実施形態では、0.1秒ごとに負荷合計を取得して記録するようにしている。次に、MPU20は、メモリに記録された負荷合計の変化に基づき、負荷合計が所定時間一定(変動が所定値以下)であるかどうかを判断する(ステップS2)。図6Aに示すように、通常の音声信号であれば、負荷合計は時間とともに変動する。これに対し、図6Bに示すように、ホワイトノイズ、正弦波、ピンクノイズなどの特殊信号は、負荷合計が所定時間一定となる。したがって、ステップS2により、特殊信号が与えられているかどうかを判断することができる。
【0030】
負荷合計が所定時間一定でなく音声信号であると判断すると、MPU20は、通常モードを維持してステップS1に戻る(ステップS3)。
【0031】
負荷合計が所定時間一定であり特殊信号であると判断すると、MPU20は、負荷合計が所定値以上であるかどうかを判断する(ステップS4)。所定値以上でなければ、増幅回路A1、A2・・・A6に対する悪影響はないので、通常モードを維持して、ステップS1に戻る(ステップS3)。
【0032】
負荷合計が所定値以上であれば、MPU20は、DSP14に対し、ディジタル音声信号をフーリエ変換(たとえばFFT)して結果を知らせるように制御する。これを受けて、DSP14はディジタル音声信号のフーリエ変換を行い、MPU20に出力する。MPU20は、フーリエ変換の結果を受けて、ディジタル音声信号の種類を特定する(ステップS5)。
【0033】
次に、MPU20は、ディジタル音声信号が、テスト用信号であるかどうかを判断する(ステップS6)。この実施形態では、ホワイトノイズおよび正弦波がテスト用信号であるとしている。ここでは、ホワイトノイズはアンプ装置全体のテストを行うための信号であり、正弦波は増幅回路の能力をテストするための信号であるとする。
【0034】
MPU20は、ディジタル音声信号がホワイトノイズであると判断すると、アンプ装置全体のテストに必要な5分間だけ、通常モードを維持する(ステップS7)。すぐに低電力モードにすると、テストができなくなるからである。なお、ホワイトノイズであることは、図7Aに示すように、フーリエ変換の結果が、全周波領域にわたって平坦であることから判断することができる。
【0035】
5分間が経過すると、MPU20は、アンプ装置を低電力モードに制御する(ステップS11)。低電力モードでは、増幅回路の出力にリミッタをかけて、消費電力をおさえる。したがって、所定値以上の負荷が増幅回路に与えられて破壊されることを防止することができる。
【0036】
ステップS6において、ディジタル音声信号が正弦波であると判断すると、MPU20は、冷却ファンの制御を中止する(ステップS8)。通常は、温度センサSによって検出した温度が所定値を超えると、冷却ファンFを駆動させるようにしている。しかし、正弦波にて増幅回路の能力をテストする場合には、冷却ファンFを駆動させないで行う必要がある。温度上昇の影響も考慮した能力テストだからである。したがって、ここでは、冷却ファンFの制御を中止し、冷却ファンFが動作しないようにしている。
【0037】
なお、正弦波であることは、図7Bに示すように、フーリエ変換にて、特定の周波数成分のみが現れることで判断できる。
【0038】
次に、MPU20は、正弦波によるテストに必要な3分間だけ通常モードを維持する(ステップS9)。その後、MPU20は、冷却ファンFの制御を再開し(ステップS10)、低電力モードに制御する(ステップS11)。
【0039】
ステップS6において、ディジタル音声信号が矩形波・ピンクノイズ・その他であると判断すると、MPU20は、アンプ装置を、直ちに低電力モードに制御する(ステップS11)。
【0040】
また、ステップS6において、ディジタル音声信号が通常の音声信号であると判断すると、ステップS3において通常モードを維持し、ステップS1に戻る。なお、ステップS2において、通常の音声信号でないと判断しているので、ステップS6において通常信号であると判断することはないようにも思える。しかし、音声信号において特定の音が連続していたために、ステップS2において特殊信号であると判断されることもあり、このような場合、フーリエ変換を行うことで特殊信号でないことが分かることもある。
【0041】
ステップS11において低電力モードに入ると、MPU20は、負荷合計を監視し、負荷合計が変動するか所定値以下になったかを判断する(ステップS12)。負荷合計の変動があったり、所定値以下となったりした場合には、通常モードに復帰する(ステップS13)。続いて、ステップS1に戻って制御を行う。
【0042】
4.その他の実施形態
(1)上記実施形態においては、5.1チャネルのマルチチャネル信号を扱うアンプ装置を例として説明した。しかし、より多くの、あるいは、より少ないチャネル信号を扱うアンプ装置についても適用することができる。
【0043】
(2)上記実施形態では、電力モードの切り換え制御とともに冷却ファンの制御も併せて行っている。しかし、いずれか一方のみを行うようにしてもよい。
【0044】
(3)上記実施形態では、音声信号が特殊信号であるか否かを、増幅回路の付加電圧に基づいて判断している。しかし、これについても、FFTなどの周波数解析によって行うようにしてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音声信号を受けて増幅する増幅回路と、
増幅回路の負荷を検出し、音声信号が特殊信号であり、負荷が所定レベル以上である場合に要注意状態であると判断する要注意状態判断手段と、
増幅回路に与えられる音声信号の周波数解析を行い、音声信号の種類を判別する種類判別手段と、
種類判別手段によって判別された音声信号の種類が予め定められたテスト用信号であるかどうかを判断するテスト用信号判断手段と、
要注意状態判断手段が要注意状態であると判断し、テスト用信号判断手段がテスト用信号でないと判断した場合に低電力モードに切り換え、テスト用信号判断手段がテスト用信号であると判断した場合には、要注意状態判断手段が要注意状態であると判断していたとしても、当該テスト用信号に対応するテスト内容に応じた時間分、通常電力モードを維持した後、低電力モードに切り換えるモード切換手段と、
を備えた信号解析機能を有するアンプ装置。
【請求項2】
請求項1のアンプ装置において、
増幅回路の温度を検出する温度センサと、
当該温度センサによる検出温度が所定温度を超えた場合に、冷却ファンを駆動させる冷却ファン制御手段とをさらに備え、
前記モード切換手段は、テスト用信号判断手段がテスト用信号であると判断した場合には、当該テスト用信号に対応するテスト内容に応じて、冷却ファン制御手段による制御を行うか否かを制御することを特徴とするアンプ装置。
【請求項3】
請求項1または2のアンプ装置において、
種類判別手段は、D/A変換器によって変換される前のディジタル音声信号に基づいて周波数解析を行うことを特徴とするアンプ装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかのアンプ装置において、
テスト用信号は、ホワイトノイズまたはサイン波であることを特徴とするアンプ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−175433(P2012−175433A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35919(P2011−35919)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(710014351)オンキヨー株式会社 (226)
【Fターム(参考)】