説明

倍力機構付きシリンダ装置

【課題】倍力機構付きシリンダ装置を小形に造れるようにする。
【解決手段】ハウジング(1)に、第1ピストン(21)と第2ピストン(22)とが、上下方向へ移動可能で直列状に挿入される。上記第1ピストン(21)に出力ロッド(2)が連結される。出力ロッド(2)と第2ピストン(22)との間に、楔空間(39)及び複数の係合ボール(40)を有する倍力機構(36)が配置される。その倍力機構(36)は、第2ピストン(22)を下方へ移動させる力を、上向きに反転させると共に倍力変換して出力ロッド(2)へ伝達する。上記係合ボール(40)は、第2ピストン(22)が下方へ移動するのを阻止すると共に出力ロッド(2)及び第1ピストン(21)を上方へ移動させる状態と、下方へ移動する第2ピストン(22)が出力ロッド(2)及び第1ピストン(21)を上方へ倍力駆動する状態とに切換えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、倍力機構を付設したシリンダ装置に関し、より具体的にいえば、ワークや金型等の被固定物を強力に固定すると共にその固定状態を保持するのに好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の倍力機構付きシリンダ装置には、従来では、特許文献1(日本国・特開2007−268625号公報)に記載されたものがある。その従来技術は、次のように構成されている。
【0003】
出力ロッドとしてのクランプロッドがハウジングに上下方向へ移動可能に挿入される。上記ハウジングの上部内に挿入したロッド用の第1ピストンがクランプロッドに固定されると共に、その第1ピストンの上下両側に第1ロック室と第1リリース室とが形成される。上記ハウジングの下部内に挿入した倍力用の第2ピストンが上記クランプロッドに上下方向へ移動可能に外嵌されると共に、その第2ピストンの上下両側に第2ロック室と第2リリース室とが形成される。
そして、上記クランプロッドをロック駆動するときには、上記第1ロック室および第2ロック室に圧縮空気を供給して、上記第1ピストン及び第2ピストンを下向きに駆動する。すると、まず、上記ロック駆動の低負荷ストローク時に上記第1ピストンが当該クランプロッドを下向きに駆動し、その後の高負荷ストローク時に上記第2ピストンが倍力機構を介して当該クランプロッドを下向きに倍力駆動する。
従来では、上記倍力機構は、クランプロッドの下部に設けた係合溝と、上記ハウジングの下部に揺動自在に支持した複数の爪部材とを備える。そして、上記倍力駆動時には、下向きに駆動された第2ピストンのテーパ面が爪部材を半径方向の内方へ揺動させて、その爪部材を係合溝に係合させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−268625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の従来技術では、爪部材を揺動させる方式の倍力機構を採用しているので、その倍力機構の外形寸法が大きくて、シリンダ装置が大形になる。
本発明の目的は、倍力機構付きシリンダ装置を小形に造れるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、下記の第1および第2の各発明は、例えば、図1Aから図1D、又は図2、若しくは図3Aから図3Dに示すように、倍力機構付きシリンダ装置を次のように構成した。
【0007】
[第1発明について]
ハウジング1に軸心方向へ移動可能に挿入された第1ピストン21と、上記第1ピストン21に連結されると共に上記ハウジング1に軸心方向へ移動可能に挿入された出力ロッド2と、上記第1ピストン21に対して直列状に配置されると共に上記ハウジング1に軸心方向へ移動可能に挿入された第2ピストン22と、上記第2ピストン22を軸心方向の一端側へ移動させる力を軸心方向の他端側への力に反転させると共に倍力変換して上記出力ロッド2へ伝達する倍力機構36とを備える。上記倍力機構36は、その倍力駆動の開始時に上記出力ロッド2と上記第2ピストン22との間で半径方向の内方へ狭くなるように形成される楔空間39と、その楔空間39に周方向に所定の間隔をあけて挿入される係合ボール40とを有する。上記係合ボール40は、上記第2ピストン22が上記の一端側へ移動するのを阻止すると共に上記出力ロッド2及び上記第1ピストン21を上記の他端側へ移動させる状態と、上記第2ピストン22を上記の一端側へ移動させると共に当該第2ピストン22が上記出力ロッド2及び上記第1ピストン21を上記の他端側へ倍力駆動する状態とに切換え可能に構成した。
【0008】
上記の第1発明は、次の作用効果を奏する。すなわち、上記の第1発明は、従来技術の揺動式の倍力機構とは異なり、楔空間を有する楔式倍力機構を採用したので、その倍力機構の外形寸法が小さくなり、シリンダ装置を小形に造ることができる。
【0009】
[第2発明について]
ハウジング1に軸心方向へ移動可能に挿入された第1ピストン21と、上記第1ピストン21に連結されると共に上記ハウジング1に軸心方向へ移動可能に挿入された出力ロッド2と、上記第1ピストン21に対して直列状に配置されると共に上記ハウジング1に軸心方向へ移動可能に挿入された第2ピストン22と、上記第2ピストン22を軸心方向の一端側へ移動させる力を軸心方向の他端側への力に反転させると共に倍力変換して上記出力ロッド2へ伝達する倍力機構36とを備える。上記倍力機構36は、その倍力駆動の開始時に上記出力ロッド2と上記第2ピストン22との間で半径方向の内方へ狭くなるように形成される楔空間39と、その楔空間39に周方向に所定の間隔をあけて挿入される係合ボール40と、上記係合ボール(40)を半径方向の内方へ押すように上記第2ピストン(22)に設けた倍力部(41)とを有する。上記倍力駆動の開始時に上記係合ボール40を上記楔空間39に押し出すための押部48であって、上記第2ピストン22が上記の一端側へ移動するのを阻止すると共に上記出力ロッド2及び上記第1ピストン21を上記の他端側へ移動させる状態で上記係合ボール40を上記出力ロッド2の外周面へ向けて半径方向の内方へ押す押部48を、上記第2ピストン22に設けた。
上記の第2発明は、前記の第1発明の作用効果と実質的に同じ作用効果を奏する。
【0010】
なお、前記の第2発明においては、前記押部48が前記係合ボール40を半径方向の内方へ押す力は、前記倍力部41が前記係合ボール40を半径方向の内方へ押す力よりも小さくなるように、当該押部48を構成することが好ましい。
【0011】
また、本発明は、前記出力ロッド2にクランプ部材55を連結するのが好ましい。
【0012】
さらに、本発明は、後述する各実施形態に記載された特有の構成を付加することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1Aから図1Dは、本発明の第1実施形態を示す模式図である。 図1Aは、シリンダ装置のリリース状態の立面視の断面図である。 図1Bは、上記シリンダ装置のロック駆動行程の低負荷ストロークの終期状態を示し、上記図1Aに類似する図である。 図1Cは、上記シリンダ装置の倍力駆動の初期状態を示し、上記図1Aに類似する図である。 図1Dは、上記シリンダ装置の倍力駆動の終期のロック状態を示し、上記の図1Aに類似する図である。
【図2】本発明の第2実施形態のシリンダ装置を示し、上記図1Cに相当する図である。
【図3】図3Aから図3Dは、本発明の第3実施形態を示している。 図3Aは、シリンダ装置に設けた旋回式のクランプ部材の退避状態を示す図であって、前記図1Aに類似する図である。 図3Bは、上記シリンダ装置のロック駆動工程における上記クランプ部材の旋回終了状態を示し、前記図1Aの状態と前記図1Bの状態との間の状態に相当する図である。 図3Cは、上記クランプ部材のロック準備状態を示し、前記図1Cに類似する図である。 図3Dは、上記クランプ部材のロック状態を示し、前記図1Dに類似する図である。
【図4】上記第3実施形態に設けた倍力機構の拡大図であって、左半図はリリース状態を示し、右半図はロック状態を示している。
【図5】上記倍力機構の変形例を示し、上記図4の左半図のリリース状態に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1Aから図1Dは、本発明の第1実施形態を示す模式図である。
まず、リリース状態を示す図1Aにより、倍力機構付きシリンダ装置の構造を説明する。
ハウジング1に出力ロッド2が上下方向へ移動可能に挿入される。上記ハウジング1の上端壁(第1端壁)1aに設けた上部孔5に出力ロッド2の上ロッド部分2aが封止部材6を介して保密状に支持されると共に、上記ハウジング1の下端壁(第2端壁)1bに設けた下部孔7に出力ロッド2の下ロッド部分2bが支持される。その下ロッド部分2bは、上ロッド部分2aよりも大径に形成されている。
【0015】
上記ハウジング1の胴部1cには、第1シリンダ孔11と第2シリンダ孔12とが上下に形成される。第1シリンダ孔11にロッド用の第1ピストン21が封止部材14を介して保密状に挿入され、その第1ピストン21が出力ロッド2に固定される。また、第2シリンダ孔12に倍力用の第2ピストン22が外封止部材16を介して保密状に挿入されると共に、その第2ピストン22が出力ロッド2に内封止部材17を介して上下方向へ移動可能で保密状に外嵌される。
【0016】
上記第1ピストン21と上記第2ピストン22との間にはロック室25が配置される。そのロック室25に対して、ロック給排路26とロックポート(図示せず)とを介してロック用の圧縮空気が供給および排出可能になっている。
また、上記第1ピストン21の上側に第1リリース室31が配置されると共に上記第2ピストン22の下側に第2リリース室32が配置される。これらの第1リリース室31と第2リリース室32とが、出力ロッド2内に形成した連通孔34によって接続される。これにより、上記第1リリース室31及び第2リリース室32に対して、リリース給排路27とリリースポート(図示せず)とを介してリリース用の圧縮空気が供給および排出可能になっている。
【0017】
上記第2リリース室32内で、出力ロッド2と第2ピストン22とに倍力機構36が設けられる。その倍力機構36は、上記ロック室25に供給された圧縮空気が上記第2ピストン22を下方へ押す力を、上方への力に反転させると共に倍力変換して上記出力ロッド2へ伝達するように構成される。
【0018】
上記の倍力機構36は、図1C又は後述の図2(倍力駆動の初期状態)に示すように構成されている。即ち、下ロッド部分2bの下端部に設けた伝達部37と前記の下端壁1bに設けた受部38との間に、半径方向の内方へ狭くなるように環状の楔空間39形成される。その楔空間39に、周方向に所定の間隔をあけて複数の係合ボール40が挿入される。上記係合ボール40を半径方向の内方へ押すように、第2ピストン22に倍力部41が設けられる。上記の各部材は、より詳しくいえば次のように構成されている。
【0019】
この第1実施形態では、下ロッド部分2bの下端の外周面に、4つの凹所43が周方向へほぼ等間隔に形成される。各凹所43の底壁が上記の伝達部37を構成している。その伝達部37は、下方へ向かうにつれて軸心へ近づくように傾斜されている。
ハウジング1の下端壁1bから上向きに突出させた筒部45の上部に、周方向へ4つの横溝46が形成される。各横溝46の底壁によって前記受部38が構成されている。
前記倍力部41は、第2ピストン22の内周面に設けた傾斜面によって構成される。その倍力部41の下側には、後述する押部48が上記倍力部41に連ねて設けられる。その押部48は、ここでは傾斜面によって構成されている。
【0020】
上記構成のシリンダ装置は、次のように作動する。
図1Aのリリース状態では、ロック室25から圧縮空気が排出されると共に第1リリース室31と第2リリース室32に圧縮空気が供給されている。これにより、第2リリース室32の圧縮空気が第2ピストン22を上方へ押すと共に、第1リリース室31の圧縮空気が第1ピストン21を下方へ押している。
この場合、第2ピストン22に作用する上向き力と、第1ピストン21及び出力ロッド2に作用する下向き力との差力により、ハウジング1の前記胴部1cの途中高さ部に設けたストッパー部49に第2ピストン22の上面の外周部が受け止められ、その第2ピストン22の上面の中央部に第1ピストン21の下面が受け止められている。また、第2ピストン22の押部48と係合ボール40との間には所定の隙間Gが形成されている。
【0021】
上記シリンダ装置をロック駆動するときには、図1Aのリリース状態において、第1リリース室31及び第2リリース室32の圧縮空気を排出すると共にロック室25に圧縮空気を供給する。
すると、まず、ロック室25の圧縮空気が、第1ピストン21を上方へ押すと共に第2ピストン22を下方へ押していく。これにより、図1B(ロック駆動行程の低負荷ストロークの終期状態)に示すように、第2ピストン22の押部48が係合ボール40を介して下端壁1bの受部38に受け止められると共に、その押部48が、上記係合ボール40を、出力ロッド2の外周面へ向けて半径方向の内方へ押して当該外周面に接当させ、その接当による摩擦力と前記の封止部材6,14,17の摩擦力などに起因する低負荷に抗して、ロック室25の圧縮空気が上記第1ピストン21を介して上記出力ロッド2を上昇させていく。
【0022】
上記出力ロッド2が上昇すると、その出力ロッド2の下部に設けた伝達部37と下端壁1bに設けた受部38との間に前記楔空間39が形成され(図1Cを参照)、前記押部48が係合ボール40を楔空間39に押し出して、倍力駆動が開始可能となる。
【0023】
次いで、図1C(倍力駆動の初期状態)に示すように、上記出力ロッド2がさらに上昇して、その出力ロッド2の上端がワーク(図示せず)に受け止められて上記出力ロッド2に高負荷が作用するときには、第2ピストン22の倍力部41が係合ボール40を半径方向の内方へ押し出す。これにより、上記第2ピストン22に作用する下向き推力は、倍力部41と係合ボール40と受部38及び伝達部37を介して、上向きに倍力変換されて、出力ロッド2が上向きに強力に駆動される。
【0024】
引き続いて、図1D(倍力駆動の終期のロック状態)に示すように、前記ワーク(図示せず)に受け止められて上昇が阻止された出力ロッド2を第2ピストン22が倍力機構36を介して上方へ押す。このため、その倍力機構36による押上げ力と第1ピストン21による押上げ力との合力により、上記出力ロッド2が上方へ強力に押される。
【0025】
ちなみに、上記倍力機構36において、摩擦係数が0.08〜0.15の場合には、「第2ピストン22の下向き推力」に対する「倍力機構36による押上げ力」は、約2〜3.5倍である。
また、上記図1Dのロック状態において、倍力機構36による保持力(出力ロッド2に作用する外力が上記ロック状態を解除するのを防止する力)は、上記「第2ピストン22の下向き推力」の約5〜10倍である。このため、上記ロック状態を機械的に強力に保持することが可能となった。
【0026】
ここで、上記第2ピストン22の下向き推力は、倍力部41と係合ボール40と受部38及び伝達部37を介して上向きに反転されて出力ロッド2へ伝達される。このため、倍力駆動時の大きな反力は、上記出力ロッド2から係合ボール40と受部38とを介してハウジング1の下端壁1bに圧縮力として作用する。従って、上記図1Dに示すとおり、倍力駆動時の大きな反力を受け止める構造は、上記の圧縮力を受け止める筒部45を下端壁1bに設けるだけの簡素な構造になり、その結果、シリンダ装置を小形に造れる。
また、上記出力ロッド2の軸心に対する前記押部48の傾斜角度は、その軸心に対する前記倍力部41の傾斜角度よりも大きな値に設定される。これにより、上記押部48が係合ボール40を半径方向の内方へ押す力は、上記倍力部41が係合ボール40を半径方向の内方へ押す力よりも小さくなっている。このため、前記の低負荷ストローク時において、出力ロッド2の外周面と係合ボール40との接当による摩擦力が小さくなり、その出力ロッド2が円滑に上昇する。
【0027】
上記シリンダ装置を図1Dのロック状態から図1Aのリリース状態へ切換えるときには、上記図1Dにおいて、ロック室25の圧縮空気を排出すると共に第1リリース室31及び第2リリース室32に圧縮空気を供給する。
【0028】
すると、まず、係合ボール40によって下降が阻止された出力ロッド2に対して、第2リリース室32の圧縮空気が第2ピストン22を上昇させる。その第2ピストン22がさらに上昇することにより、上記係合ボール40が図1Cの状態を経て図1Bの状態に切り換わり、上記出力ロッド2及び第1ピストン21の下降が許容される。次いで、第2リリース室32の圧縮空気で上昇された第2ピストン22が前記ストッパー部49に受け止められ、その後、図1A(リリース状態)に示すように、第1ピストン21が出力ロッド2を下降させ、その第1ピストン21の下面が第2ピストン22の上面に接当する。
上記出力ロッド2の下降の終期には、第2ピストン22の押部48と係合ボール40との間に図1に示す前記隙間Gが形成されるので、出力ロッド2の外周面と係合ボール40との間に作用する摩擦力が殆ど無くなり、上記出力ロッド2が円滑に下降する。
【0029】
上記の第1実施形態において、前記伝達部37を構成する凹所43と前記受部38を構成する横溝46の形状としては、円弧状の溝やU字状の溝やゴシックアーチ溝などが考えられる。この点は、後述する別の実施形態や変形例においても同様である。
【0030】
図2は本発明の第2実施形態を示し、図3Aから図3Dと図4は本発明の第3実施形態を示し、図5は倍力機構の変形例を示している。これらの別の実施形態や変形例においては、上記の第1実施形態の構成部材と同じ部材(又は類似する部材)には原則として同一の参照数字を付けて説明する。
【0031】
図2の第2実施形態は、ワーク(図示せず)を固定するリンク式クランプ機構をシリンダ装置に設けた場合を例示してある。その図2は、シリンダ装置の倍力駆動の初期状態を示し、前記の図1Cに相当する図である。
この図2の第2実施形態は、上記の第1実施形態とは次の点で異なる。
【0032】
前記ハウジング1は、テーブル等の固定台Tに取り付けられている。そのハウジング1の上端壁(第1端壁)1aよりも上方へ突出させた前記出力ロッド2の上部に、第1ピン51を介して、クランプ部材55の左端部が上下方向に回転可能に支持される。そのクランプ部材55の横方向の中間部に、第2ピン52を介して、リンク部材56の上部が回転可能に支持される。そのリンク部材56の下部は、第3ピン53を介して、上端壁1aから上向きに突出させた支持部57に回転可能に支持される。
【0033】
第2ピストン22の下部に設けた押部48は、前記の第1実施形態の傾斜面に代えて、断面視で円弧面に構成されている。ハウジング1の下端壁(第2端壁)1bの上部に設けた受部38は、傾斜溝の底壁によって構成されており、下方へ向かうにつれて軸心に近づくように傾斜されている。
【0034】
上記シリンダ装置のロック駆動時には、まず、図2に示すように、ロック室25の圧縮空気が第1ピストン21を介して出力ロッド2を上昇させて、倍力機構36が倍力駆動の初期状態へ切り換えられると共に上記クランプ部材55が時計回りの方向へ速やかに回転される。引き続いて、上記クランプ部材55の右端部に設けた押ボルト58がワーク(図示せず)に上側から接当して上記出力ロッド2に高負荷が作用したときに、上記ロック室25の圧縮空気が第2ピストン22と上記倍力機構36の係合ボール40とを介して上記出力ロッド2を強力に押し上げ、これにより、上記クランプ部材55が時計回りの方向へ強力に駆動される。
なお、上記シリンダ装置のリリース駆動は、前記の第1実施形態で説明したように、上記ロック駆動とは逆の手順でなされる。
【0035】
上記の第2実施形態は、次のように変更可能である。
上記出力ロッド2の下部を下端壁1bよりも下方へ突出させると共に、その下端壁1bに上記の突出部分を保密状に挿入する。そして、上記突出部分の下部に、シリンダ装置の作動状態の被検出部を連結し、その被検出部にリミットスイッチ等のセンサを対面させる。
【0036】
図3Aから図3D及び図4の第3実施形態は、ワーク等の被固定物(図示せず)を固定する旋回式クランプ機構をシリンダ装置に設けた場合を例示してある。
まず、図3A(リリース状態)によってシリンダ装置の構造を説明する。
前記ハウジング2の胴部1cには、第1シリンダ孔11と第2シリンダ孔12とが上向きに形成される。下側の第1シリンダ孔11にロッド用の第1ピストン21が挿入されると共に、上側の第2シリンダ孔12に倍力用の第2ピストン22が挿入される。上記第1ピストン21の下側に第1リリース室31が配置されると共に、上記第2ピストン22の上側に第2リリース室32が配置される。その第2リリース室32内に前記倍力機構36が配置されている。
【0037】
即ち、この第3実施形態では、第1ピストン21と第2ピストン22と倍力機構36とが、前記の第1実施形態および第2実施形態と比べて、上下逆に配置されている。
より詳しくいえば、前記の各実施形態の各図面においては、出力ロッド2の軸心方向の一端側である第1端側が上側とされると共に軸心方向の他端側である第2端側が下側とされているのに対して、この第3実施形態の各図面においては、出力ロッド2の軸心方向の一端側である第1端側が下側とされると共に軸心方向の他端側である第2端側が上側とされている。
【0038】
そして、前記ハウジング1の下端壁(第1端壁)1bの下部孔7に前記出力ロッド2の下ロッド部分2bが上下方向へ移動可能かつ軸心回りに回転可能に支持され、上記ハウジング1の上端壁(第2端壁)1aの上部孔5に上記出力ロッド2の上ロッド部分2aが上下方向へ移動可能かつ軸心回りに回転可能で保密状に支持される。上記の上端壁1aよりも上方へ上記出力ロッド2が突出され、その出力ロッド2の突出部に片持ちアームで構成したクランプ部材55(図3Bから図3Dを参照)がナット61で取り付けられる。
なお、出力ロッド2のロッド本体2cは、上記の上ロッド部分2aよりも大径に形成されている。
【0039】
上記の下端壁1bと下ロッド部分2bとにガイド機構62が設けられる。そのガイド機構62は、公知の構造であって、次のように構成されている(例えば、特開2004−1163号公報を参照)。
下ロッド部分2bには、複数のガイド溝63が周方向へ等間隔に形成される(ここでは一つのガイド溝63だけを示している)。各ガイド溝63は、螺旋状の旋回溝63aと直進溝63bとを上向きに連ねて構成される(図3Bを参照)。上記各ガイド溝63に嵌合される案内ボール64は、下端壁1bから上向きに突出させた筒部材65に設けた貫通孔66に挿入される。上記の複数の案内ボール64に回転スリーブ67が外嵌めされる。
【0040】
また、前記の倍力機構36は、主として図4の拡大図に示すように、次のように構成される。その図4において、左半図はリリース状態を示し、右半図はロック状態を示している。
上ロッド部分2aとロッド本体2cとの間に設けた段部69に、前記の伝達部37が形成される。即ち、上記の段部69に、4つの凹所43が周方向へほぼ等間隔に形成され(ここでは1つの凹所43だけを図示している)、各凹所43の底壁が上記の伝達部37を構成している。その伝達部37は、上方へ向かうにつれて軸心へ近づくように傾斜されている。
【0041】
さらに、上記ハウジング1の上端壁(第2端壁)1aに、受止めスリーブ71がピン72によって回り止めされている。その受止めスリーブ71の下部に前記受部38が形成されている。その受部38は、溝の底壁によって構成されている。そして、上記受部38は、下方へ向かうにつれて軸心に近づく内傾斜壁74及び外傾斜壁75を備える。
なお、ハウジング1の胴部1cに設けた前記ストッパー部49は、止め輪によって構成されている。
【0042】
上記構成のシリンダ装置は、次のように作動する。
図3Aのリリース状態では、ロック室25から圧縮空気が排出されると共に第1リリース室31と第2リリース室32に圧縮空気が供給されている。これにより、第2リリース室32の圧縮空気が第2ピストン22を下方へ押すと共に、第1リリース室31の圧縮空気が第1ピストン21を上方へ押している。
これにより、前記クランプ部材55は、旋回退避状態に切り換えられている。
【0043】
上記シリンダ装置をロック駆動するときには、図3Aのリリース状態において、第1リリース室31と第2リリース室32の圧縮空気を排出すると共にロック室25に圧縮空気を供給する。
すると、まず、ロック室25の圧縮空気が、第1ピストン21を下方へ押して出力ロッド2を低負荷で下降させる共に第2ピストン22を上方へ押していく。これにより、図3Bに示すように、前記の案内ボール64が旋回溝63aを介して上記出力ロッド2及び前記クランプ部材55を低負荷で旋回させながら下降させ、これと同時に、その出力ロッド2の段部69に設けた前記伝達部37と前記受止めスリーブ71に設けた受部38との間に前記楔空間39が形成され始める。
【0044】
引き続いて、図3C(倍力駆動の初期状態)に示すように、前記の案内ボール64がガイド溝63の直進溝63bを介して上記出力ロッド2を低負荷で直進下降させ、次いで、前記クランプ部材55の右部下面がワーク(図示せず)に受け止められて上記出力ロッド2に高負荷が作用したときに、第2ピストン22の上向き推力が倍力部41を介して係合ボール40を半径方向の内方へ押していく。これにより、その第2ピストン22の上向き推力は、倍力部41と係合ボール40と受部38と伝達部37とを介して下向き力に倍力変換され、その出力ロッド2が下方へ強力に駆動される。
【0045】
その後、図3D(倍力駆動の終期のロック状態)に示すように、前記ワーク(図示せず)によって下降が阻止された出力ロッド2を、第2ピストン22が倍力機構36の係合ボール40を介して下方へ強力に押す。このため、その倍力機構36による押下げ力と第1ピストン21による押下げ力との合力により、上記出力ロッド2がクランプ部材55を介して上記ワークをテーブル等の固定台(図示せず)に強力に押圧する。
【0046】
上記シリンダ装置を図3Dのロック状態から図3Aのリリース状態へ切換えるときには、上記図3Dにおいて、ロック室25の圧縮空気を排出すると共に第1リリース室31及び第2リリース室32に圧縮空気を供給する。これにより、上記シリンダ装置は、上記ロック駆動とは逆の手順でリリース状態へ切換えられる。
【0047】
上記出力ロッド2の軸心に対する伝達部37の傾斜角度は、20度から60度の範囲が好ましく、25度から45度の範囲がさらに好ましい。出力ロッド2の軸心に対する倍力部41の傾斜角度は、8度から15度の範囲が好ましい。これらの点は、前記の各実施形態においても同様である。
【0048】
上記の第3実施形態は、次のように変更可能である。
上記ガイド機構62は、例示の構造に限定されないことは勿論である。例えば、ガイド溝63に嵌合する案内部材は、例示のボール64に代えて円柱状のピンを利用してもよい。また、前記回転スリーブ67を省略してもよい。
前記の受部38を構成する溝の底壁は、水平壁だけで構成してもよい。
さらには、上記出力ロッド2の下部を下端壁1bよりも下方へ突出させると共に、その下端壁1bに上記の突出部分を保密状に挿入し、上記突出部分の下部に、シリンダ装置の作動状態の被検出部を連結し、その被検出部にリミットスイッチ等のセンサを対面させてもよい。
【0049】
図5は、上記倍力機構36の変形例を示し、前記図4の左半図のリリース状態に相当する図である。
この場合、第2ピストン22の押部48は、断面視で円弧状に形成される。また、受部38は、上方へ向かうにつれて軸心に近づく傾斜面によって構成されている。
【0050】
上記の各実施形態や変形例は、さらに次のように変更可能である。
前記第1リリース室31と第2リリース室32とは、リリース用圧力流体を供給および排出可能に構成することに加えて、戻しバネを装着するようにしてもよい。
上記第1リリース室31と第2リリース室32とを接続する構造は、前記出力ロッド2に設けた連通孔34に代えて、ハウジング1の胴部1cに設けた連通孔であってもよく、さらには、ハウジング1の外側に設けた配管であってもよい。
前記の伝達部37と受部38は、周方向へ3つ又は4つ設けることが好ましいが、2つ又は5つ以上であってもよい。また、上記伝達部37又は受部38は、例示した凹所や溝に形成することに代えて、上記凹所や溝を省略した部材の表面に形成することも可能である。
【0051】
前記係合ボール40の設置数量は、3つ又は4つが好ましいが、2つ又は5つ以上であってもよい。
本発明のシリンダ装置に使用される圧力流体は、例示した圧縮空気に代えて、他の圧縮気体や圧油等であってもよい。
その他に、当業者が想定できる範囲で種々の変更を行えることは勿論である。
【符号の説明】
【0052】
1:ハウジング,1a(1b):第1端壁,1b(1a):第2端壁,2:出力ロッド,21:第1ピストン,22:第2ピストン,25:ロック室,31:第1リリース室,32:第2リリース室,34:連通孔,36:倍力機構,37:伝達部,38:受部,39:楔空間,40:係合ボール,41:倍力部,43:凹所,48:押部,55:クランプ部材,62:ガイド機構.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング(1)に軸心方向へ移動可能に挿入された第1ピストン(21)と、上記第1ピストン(21)に連結されると共に上記ハウジング(1)に軸心方向へ移動可能に挿入された出力ロッド(2)と、上記第1ピストン(21)に対して直列状に配置されると共に上記ハウジング(1)に軸心方向へ移動可能に挿入された第2ピストン(22)と、上記第2ピストン(22)を軸心方向の一端側へ移動させる力を軸心方向の他端側への力に反転させると共に倍力変換して上記出力ロッド(2)へ伝達する倍力機構(36)と、を備えた倍力機構付きシリンダ装置であって、
上記倍力機構(36)は、その倍力駆動の開始時に上記出力ロッド(2)と上記第2ピストン(22)との間で半径方向の内方へ狭くなるように形成される楔空間(39)と、その楔空間(39)に周方向に所定の間隔をあけて挿入される係合ボール(40)とを有し、
上記係合ボール(40)は、上記第2ピストン(22)が上記の一端側へ移動するのを阻止すると共に上記出力ロッド(2)及び上記第1ピストン(21)を上記の他端側へ移動させる状態と、上記第2ピストン(22)を上記の一端側へ移動させると共に当該第2ピストン(22)が上記出力ロッド(2)及び上記第1ピストン(21)を上記の他端側へ倍力駆動する状態とに切換え可能に構成した、
ことを特徴とする倍力機構付きシリンダ装置。
【請求項2】
ハウジング(1)に軸心方向へ移動可能に挿入された第1ピストン(21)と、上記第1ピストン(21)に連結されると共に上記ハウジング(1)に軸心方向へ移動可能に挿入された出力ロッド(2)と、上記第1ピストン(21)に対して直列状に配置されると共に上記ハウジング(1)に軸心方向へ移動可能に挿入された第2ピストン(22)と、上記第2ピストン(22)を軸心方向の一端側へ移動させる力を軸心方向の他端側への力に反転させると共に倍力変換して上記出力ロッド(2)へ伝達する倍力機構(36)と、を備えた倍力機構付きシリンダ装置であって、
上記倍力機構(36)は、その倍力駆動の開始時に上記出力ロッド(2)と上記第2ピストン(22)との間で半径方向の内方へ狭くなるように形成される楔空間(39)と、その楔空間(39)に周方向に所定の間隔をあけて挿入される係合ボール(40)と、上記係合ボール(40)を半径方向の内方へ押すように上記第2ピストン(22)に設けた倍力部(41)と、を有し、
上記倍力駆動の開始時に上記係合ボール(40)を上記楔空間(39)に押し出すための押部(48)であって、上記第2ピストン(22)が上記の一端側へ移動するのを阻止すると共に上記出力ロッド(2)及び上記第1ピストン(21)を上記の他端側へ移動させる状態で上記係合ボール(40)を上記出力ロッド(2)の外周面へ向けて半径方向の内方へ押す押部(48)を、上記第2ピストン(22)に設けた、
ことを特徴とする倍力機構付きシリンダ装置。
【請求項3】
請求項2の倍力機構付きシリンダ装置において、
前記押部(48)が前記係合ボール(40)を半径方向の内方へ押す力は、前記倍力部(41)が前記係合ボール(40)を半径方向の内方へ押す力よりも小さくなるように、当該押部(48)を構成した、
ことを特徴とする倍力機構付きシリンダ装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかの倍力機構付きシリンダ装置において、
前記出力ロッド(2)にクランプ部材(55)を連結した、
ことを特徴とする倍力機構付きシリンダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−91157(P2013−91157A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−263303(P2012−263303)
【出願日】平成24年11月30日(2012.11.30)
【分割の表示】特願2012−28742(P2012−28742)の分割
【原出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(391003989)株式会社コスメック (45)
【Fターム(参考)】