説明

偏光フィルムの製造方法、偏光フィルム、偏光板、光学フィルム及び画像表示装置

【課題】 色ムラが少なく高品質の偏光フィルムを短時間に製造することを可能とする偏光フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】 ポリビニルアルコール系フィルム等の樹脂フィルムを膨潤処理工程及びこれに後続する染色処理工程を含む製造工程において一軸延伸することにより偏光フィルムを製造する方法であって、前記膨潤処理工程において、樹脂フィルムを少なくとも2つ以上の膨潤処理槽内の浴液に順次浸漬する手順を含み、少なくとも前段側から数えて第N番目に位置する膨潤処理槽の浴温を、第(N+M)番目に位置する膨潤処理槽の浴温よりも3℃以上高く設定(N、Mは共に1以上の所定の整数)することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置を構成する偏光板の材料として有用な偏光フィルムの製造方法、この製造方法を用いて製造された偏光フィルムを具備する偏光板、光学フィルム及びこの偏光板や光学フィルムを具備する液晶表示装置などの画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、テレビやデスクトップパソコンといったOA機器が具備する画像表示装置は、これまで主流であったCRTから、薄型軽量で低消費電力といった大きな利点を有する液晶表示装置へと変換されてきている。液晶表示装置の用途も、テレビやデスクトップパソコンのみならず、車載用途のナビゲーションシステムや屋内外の計測器など広範囲に広がってきている。現在普及している液晶表示装置は、光の透過及び遮蔽機能を有する偏光板や、光のスイッチング機能を有する液晶層を含む位相差フィルムなどが基本的な構成要素であり、その他表面保護のためのハードコート層や反射防止膜などが付加されている。
【0003】
偏光板を製造するに際しては、一般的に膨潤処理を施した後のポリビニルアルコール系フィルムを延伸処理(一軸延伸)した後に染色し(或いは、染色後又は染色中に一軸延伸し)、ホウ酸化合物で染色剤を固定化する処理を施す等によって、先ず偏光フィルムを製造する。そして、製造された偏光フィルムに、例えばトリアセチルセルロースフィルムなどの保護フィルムを貼り合わせることによって偏光板が製造される。なお、前記染色処理と固定化処理とが同時に施される場合もある。また、前記延伸処理には、液体中で延伸を施す湿式処理と、気体中で延伸を施す乾式処理とがある。
【0004】
ここで、偏光フィルムには、その面積全体に亘る光学特性にバラツキがあることによって生ずる色ムラが存在している場合が多い。この色ムラが生ずる具体的な理由としては様々な要因が考えられるが、いずれにせよトリアセチルセルロースフィルムなどの保護膜を貼り合わせた状態でないと確認するのは困難である。保護膜を貼り合わせた状態で色ムラによる品質不良が認められた場合、保護膜と共に不良品として廃棄されてしまうことから、材料の歩留まりを大きく低下させることになる。
【0005】
この色ムラを改善する方法として、例えば、特許文献1に記載されているように、染色処理を施す染色処理槽の長さを変更し、染色時間をコントロールすることが提案されており、これにより、偏光フィルムの染色ムラを減少させることが可能となった。
【0006】
しかしながら、近年の液晶表示装置の大型化に伴って、大面積の偏光フィルムが大量に要求されるようになってきている。偏光フィルムの面積が大きくなると、面積全体での光学特性の均一性が要求されることや、視野角を補正する位相差フィルムなど他のフィルムと組み合わせて用いることが多くなってきたこと等の理由によって、色ムラの問題が顕著化していると共に、短時間(短納期)で製造することの要求も高まってきている。短時間で製造する要求に応えるべく、現状の製造工程全体の処理速度を速めると、色ムラが生じ易く歩留まりが大きく低下するという問題がある。一方、上記特許文献1に記載の方法によれば、前述のように色ムラを減少させることが可能であるものの、大面積の偏光フィルムに対応するには、偏光フィルムの搬送速度を落とすか或いは染色処理槽の長さを長くすることによって、染色時間をかなり長くする必要が生じ、短時間で偏光フィルムを製造するという要求に応えられないという問題がある。
【特許文献1】特開2004−78208号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、斯かる従来技術の問題を解決するべくなされたものであり、色ムラが少なく高品質の偏光フィルムを短時間に製造することを可能とする偏光フィルムの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するべく、鋭意検討した結果、膨潤処理工程において、樹脂フィルムを浸漬する膨潤処理槽を少なくとも2つ以上設置して、前段側に位置する膨潤処理槽内の浴液に浸漬した後に、後段側に位置する膨潤処理槽内の浴液に順次浸漬する手順とした。そして、少なくとも前段側から数えて第N番目に位置する膨潤処理槽の浴温を、第(N+M)番目に位置する膨潤処理槽の浴温よりも3℃以上高く設定(N、Mは共に1以上の所定の整数)すれば、第N番目の膨潤処理槽内の高温の浴液で樹脂フィルムの膨潤が進行し易く、樹脂フィルムの膨潤量が飽和に至るまでの時間が短縮されることを見出した。この結果、膨潤処理工程に要する時間、ひいては偏光フィルムの製造に要する時間が短縮できることが分かった。また、第N番目の膨潤処理槽内の浴液で樹脂フィルムの膨潤が進行するため、後続する染色処理工程の染色処理槽内の浴液での膨潤が抑制される結果、色ムラが少なく高品質の偏光フィルムを得ることができることを見出した。本発明は、斯かる本発明の発明者らが見出した知見に基づき完成されたものである。
【0009】
すなわち、本発明は、ポリビニルアルコール系フィルム等の樹脂フィルムを膨潤処理工程及びこれに後続する染色処理工程を含む製造工程において一軸延伸することにより偏光フィルムを製造する方法であって、前記膨潤処理工程において、樹脂フィルムを少なくとも2つ以上の膨潤処理槽内の浴液に順次浸漬する手順を含み、少なくとも前段側から数えて第N番目に位置する膨潤処理槽の浴温を、第(N+M)番目に位置する膨潤処理槽の浴温よりも3℃以上高く設定(N、Mは共に1以上の所定の整数)することを特徴とする偏光フィルムの製造方法を提供するものである。
【0010】
なお、本発明における「膨潤処理工程」とは、染色処理工程の前段の工程であって、樹脂フィルムを浴液に浸漬する(延伸処理を伴っても良い)全ての工程を含む広い概念を意味する。また、本発明における「膨潤処理槽」とは、染色処理工程で使用する染色処理槽の前段に位置する処理槽であって、樹脂フィルムを浴液に浸漬する(延伸処理を伴っても良い)全ての処理槽を含む広い概念を意味する。例えば、染色処理工程の前段に湿式の延伸処理工程を設ける場合、当該湿式の延伸処理工程は、本発明における「膨潤処理工程」に相当し、前記湿式の延伸処理工程で使用する延伸処理槽は、本発明における「膨潤処理槽」に相当することになる。従って、前記湿式の延伸処理工程で使用する延伸処理槽では、延伸処理と膨潤処理とが同じ浴液中で施されることになる。また、染色処理工程の前段の工程で樹脂フィルムに固定化処理を施す場合には、当該固定化処理工程は、本発明における「膨潤処理工程」に相当することになる。そして、前記固定化処理工程で使用する固定化処理槽は、本発明における「膨潤処理槽」に相当することになり、この固定化処理槽では、固定化処理と膨潤処理とが同じ浴液中で施されることになる。
【0011】
また、本発明において、より短時間で樹脂フィルムを膨潤させ、膨潤処理工程に要する時間をより一層短縮するには、第N番目に位置する膨潤処理槽の浴温を、第(N+M)番目に位置する膨潤処理槽の浴温よりも5℃以上高く設定することが好ましい。
【0012】
好ましくは、前記膨潤処理工程において、樹脂フィルムを第1の膨潤処理槽内の浴液に浸漬した後、前記第1の膨潤処理槽に後続する第2の膨潤処理槽内の浴液に浸漬する手順を含み、前記第1の膨潤処理槽の浴温を前記第2の膨潤処理槽の浴温よりも3℃以上高く設定する。
【0013】
なお、本発明において、各膨潤処理槽の浴温を55℃より高く設定すれば、樹脂フィルムが柔らかくなり過ぎ破断するおそれがある。一方、各膨潤処理槽の浴温を20℃より低く設定すれば、浴液の冷却が必要となって設備上の負担が大きくなることに加え、樹脂フィルムの膨潤が進行し難くなる。従って、上記のような問題が生じないようにするには、前記各膨潤処理槽の浴温を20℃以上55℃以下に設定することが好ましい。
【0014】
また、前記染色処理工程において、樹脂フィルムを浸漬する染色処理槽の浴温を20℃以上50℃以下に設定することが好ましい。さらには、20℃以上45℃以下がより好ましく、25℃以上40℃以下が特に好ましい。染色処理槽の浴温が高すぎると、ヨウ素の昇華や溶媒の蒸発等により、浴液中の二色性物質の濃度が変化し易くなるため、染色品質の保持が難しくなる。
【0015】
さらに、前記染色処理工程で使用する染色処理槽の直前に位置する膨潤処理槽の浴温と、前記染色処理槽の浴温との差を5℃以下に設定することが好ましい。斯かる好ましい構成によれば、染色処理槽の直前に位置する膨潤処理槽の浴温が染色処理槽の浴温に近くなるため、染色処理槽内の浴液での樹脂フィルムの膨潤がより一層抑制され、より一層色ムラが少なく高品質の偏光フィルムを得ることが可能である。
【0016】
本発明において、前記各膨潤処理槽内の浴液への樹脂フィルムの浸漬時間の総計が50秒以下であれば、偏光フィルムの製造に要する時間を顕著に短縮できると共に、斯かる短時間の浸漬時間であっても十分に色ムラが少なく高品質の偏光フィルムを得ることが可能である。
【0017】
また、より高い光学特性を得るためには、前記樹脂フィルムとしては、例えば、ケン化度が95%以上で、重合度が2000以上とされたフィルムを用いることが好ましい。
【0018】
また、本発明は、前記製造方法を用いて製造された偏光度99.95%以上の偏光フィルムとしても提供される。
【0019】
また、本発明は、前記製造方法を用いて製造された偏光フィルムを具備することを特徴とする偏光板としても提供される。
【0020】
また、本発明は、前記製造方法を用いて製造された偏光フィルムを積層したことを特徴とする光学フィルムとしても提供される。
【0021】
さらに、本発明は、前記偏光板又は前記光学フィルムを具備することを特徴とする画像表示装置としても提供される。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る偏光フィルムの製造方法によれば、樹脂フィルムの膨潤量が飽和に至るまでの時間が短縮される結果、膨潤処理工程に要する時間、ひいては偏光フィルムの製造に要する時間が短縮できると共に、色ムラが少なく高品質の偏光フィルムを得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の一実施形態について説明する。
【0024】
図1は、本発明の一実施形態に係る偏光フィルムの製造方法を実施するための製造ラインを概略的に示すブロック図である。図1に示すように、本実施形態に係る製造ラインは、第1の膨潤処理槽10、第2の膨潤処理槽20、染色処理槽30、延伸処理槽40、固定化処理槽50及び乾燥炉60を備えている。本実施形態に係る製造ラインで偏光フィルムを製造するに際しては、先ず最初に樹脂フィルムが第1の膨潤処理槽10に搬送され、次いで第2の膨潤処理槽20に搬送される。
【0025】
本実施形態に係る樹脂フィルムとしては、ポリビニルアルコール系フィルムを用いている。ポリビニルアルコール系フィルムとしては、例えば、ポリビニルアルコールフィルム、ポリビニルホルマールフィルム、ポリビニルアセタールフィルム、ポリ共重合体フィルム、これらの部分ケン化フィルム、ポリビニルアルコールの部分ポリエン化フィルム等を挙げることができる。なお、本発明に係る樹脂フィルムとしては、ポリビニルアルコール系フィルムに限るものではなく、ポリエチレンテレフタレート系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系フィルム、セルロース系フィルム等を例示することができる。
【0026】
ポリビニルアルコール系フィルムは、第1の膨潤処理槽10内の浴液(本実施形態では、逆浸透膜処理を施された純水)に浸漬され、続いて第2の膨潤処理槽20内の浴液(本実施形態では、逆浸透膜処理を施された純水)に浸漬される。ここで、第1の膨潤処理槽10の浴温は第2の膨潤処理槽20の浴温よりも3℃以上高く設定されている(すなわち、第1の膨潤処理槽10の浴温−第2の膨潤処理槽20の浴温≧3℃)。また、好ましい構成として、第1及び第2の膨潤処理槽10、20の浴温がそれぞれ20℃以上55℃以下に設定されている。なお、この第1の膨潤処理槽10の浴温と第2の膨潤処理槽20の浴温との差は5℃以上に設定することがより好ましく、温度差が大きすぎてもフィルムの張力調整が難しくなるため、温度差は30℃以下程度とすることが好ましい。また、本実施形態に係る第1及び第2の膨潤処理槽10、20では、膨潤処理のみならず延伸処理も施しており、その延伸倍率は、膨潤による伸展も含めて2槽で計1.1〜3.5倍程度とするのが好ましい。膨潤処理槽に用いられる浴液は、上記のように純水等の水が一般に用いられるが、ヨウ化物や架橋剤等の添加剤を含有する溶液としても良い。
【0027】
なお、本実施形態では、2つの膨潤処理槽10、20内の浴液に順次樹脂フィルムを浸漬する態様について説明したが、本発明はこれに限るものではなく、3つ以上の膨潤処理槽の浴液に順次樹脂フィルムを浸漬する態様を採用することも可能である。この際、少なくとも前段側から数えて第N番目に位置する膨潤処理槽の浴温を、第(N+M)番目に位置する膨潤処理槽の浴温よりも3℃以上高く設定(N、Mは共に1以上の所定の整数)する。例えば、N=1、M=2に設定した場合には、少なくとも第1番目の膨潤処理槽の浴温を第3番目の膨潤処理槽の浴温よりも3℃以上高く設定することを意味し、第2番目の膨潤処理槽の浴温や、第4番目以降の膨潤処理槽の浴温は限定されない。換言すれば、膨潤処理工程で使用する前段側の膨潤処理槽と、これよりも後段側に位置する膨潤処理槽との複数の組合せの内、前段側の膨潤処理槽の浴温−後段側の膨潤処理槽の浴温≧3℃となる組合せが少なくとも1組存在するように、各膨潤処理槽の浴温を設定すれば良い。
【0028】
次に、第1の膨潤処理槽10及び第2の膨潤処理槽20で膨潤処理を施されたフィルムは、染色処理槽30に搬送される。染色処理槽30内の浴液としては、染料としての二色性物質を溶媒に溶解した溶液を用いることができ、当該溶液に前記フィルムが浸漬されることによって染色処理が施される。二色性物質としては、例えば、ヨウ素や有機染料等を例示することができる。斯かる二色性物質は、一種類でも良いし、二種類以上を併用して用いることも可能である。前記二色性物質としてヨウ素を用いる場合、染色効率をより一層向上させるべく、ヨウ化カリウム等のヨウ化物を添加することが好ましい。前記溶媒としては、水が一般的に使用されるが、水と相溶性のある有機溶媒をさらに添加しても良い。なお、本実施形態では、染色処理槽30を用いて染色処理を施す態様について説明したが、本発明はこれに限るものではなく、ポリビニルアルコール系材料に染料を直接混合してポリビニルアルコール系フィルムを作成することも可能である。
【0029】
次に、染色処理槽30で染色処理を施されたフィルムは、延伸処理槽40に搬送され、一軸方向について延伸処理が施される。延伸処理槽40内の浴液としては、例えば、各種金属塩や、ヨウ素、ホウ素又は亜鉛の化合物を添加した溶液を用いることができ、特に、ホウ酸及び/又はヨウ化カリウムをそれぞれ2〜10重量%程度添加した溶液を用いることが好ましい。斯かる溶液の溶媒としては、水、エタノール又は各種有機溶媒を適宜用いることができる。また、延伸処理槽40における延伸倍率としては、1.1〜5倍程度にするのが好ましく、前工程で施した延伸倍率も合わせた累積延伸倍率としては、1.1〜7倍程度にするのが好ましい(3〜7倍にするのがより好ましく、5.3〜6.5倍が特に好ましい)。なお、本実施形態では、染色処理の後に一軸延伸を施す態様について説明したが、本発明はこれに限るものではなく、染色処理槽30に対して前段側(フィルム搬送方向上流側)に延伸処理槽40を設置(すなわち、第2の膨潤処理槽20の直後に延伸処理槽40を設置)し、一軸延伸を施した後に染色処理を施す態様を採用することも可能である。また、独立して延伸処理槽40を設置することなく、染色処理槽30内で染色処理と同時に延伸処理を施す態様等、他の処理と同時に延伸処理を施す態様を採用することも可能である。
【0030】
次に、延伸処理槽40で延伸処理を施されたフィルムは、固定化処理槽50に搬送され、固定化処理槽50内の浴液に浸漬されることにより、フィルムへの染色の効果を持続させるための固定化処理が施される。固定化処理槽50内の浴液としては、水や水と相溶性のある有機溶媒をさらに含んだ溶媒にホウ酸化合物等を溶解した溶液を用いることができる他、ヨウ化ナトリウムやヨウ化カリウム等を添加しても良い。
【0031】
最後に、固定化処理槽50で固定化処理を施されたフィルムは、乾燥炉60に搬送され、好ましくは30℃〜150℃、より好ましくは50℃〜150℃の熱風によって乾燥処理が施され、偏光フィルムとして搬出される。
【0032】
以上に説明した製造方法によれば、第1の膨潤処理槽10の浴温を第2の膨潤処理槽20の浴温よりも3℃以上高く設定していることに起因して、第1の膨潤処理槽10内の浴液で樹脂フィルムの膨潤が進行し易く、樹脂フィルムの膨潤量が飽和に至るまでの時間が短縮される結果、膨潤処理工程に要する時間、ひいては偏光フィルムの製造に要する時間が短縮できる。また、第1の膨潤処理槽10内の浴液で樹脂フィルムの膨潤が進行するため、後続する染色処理槽30内の浴液での膨潤が抑制される結果、色ムラが少なく高品質の偏光フィルムを得ることが可能である。また、第1及び第2の膨潤処理槽10、20の浴温をそれぞれ20℃以上55℃以下に設定していることにより、樹脂フィルムが柔らかくなり過ぎず、破断するといった不具合が生じない一方、浴液の冷却が不要であり設備上の負担が生じないことに加え、樹脂フィルムの膨潤が進行し易くなるという利点がある。
【0033】
なお、上記のようにして製造された偏光フィルムは、通常、両面又は片面に、位相差の無い光学的に透明で且つ機械的な強度を有する保護フィルムと貼り合わされ偏光板とされる。斯かる保護フィルムとしては、トリアセチルセルロースフィルムが好適に使用される。
【0034】
また、上記のようにして製造された偏光フィルム(或いは偏光板)は、実用に際して各種光学層を積層した光学フィルムの態様で用いることもできる。斯かる光学層としては、例えば、偏光フィルム表面の傷付き防止等を目的としたハードコート層、偏光フィルム表面での外光の反射防止を目的とした反射防止層、隣接層との密着防止を目的としたスティッキング防止層、偏光フィルムの透過光を拡散して視野角を拡大するための拡散層、偏光フィルム表面での外光の反射防止等を目的として微細な凹凸構造が付与されたアンチグレア層などを例示することができる。その他、反射板、半透過板、位相差板(1/2波長板、1/4波長板を含む)、視覚補償フィルム、輝度向上フィルム等を1層又は2層以上貼り合わせた光学フィルムの態様で用いることも可能である。
【0035】
また、本実施形態に係る偏光板又は光学フィルムは、液晶表示装置を初めとして、有機EL表示装置、PDPなど各種画像表示装置の構成部品として好ましく用いることができる。例えば、液晶表示装置は、上記光学フィルムなどを液晶セルの片側または両側に配置してなる透過型や反射型あるいは透過・反射両用型等の従来に準じた適宜な構造とすることができる。液晶表示装置を形成する液晶セルは任意であり、例えば薄膜トランジスタ型に代表されるアクティブマトリクス駆動型のものなどの適宜なタイプの液晶セルを用いたものであっても良い。また、液晶セルの両側に本実施形態に係る光学フィルムを設ける場合、それらは同じ物であってもよいし、異なるものであってもよい。さらに、液晶表示装置の形成に際しては、例えばプリズムアレイシートやレンズアレイシート、拡散板やバックライトなどの適宜な部品を適宜な位置に1層または2層以上配置することができる。
【0036】
以下、実施例及び比較例を示すことにより、本発明の特徴をより一層明らかにする。
【0037】
<実施例1>
樹脂フィルムとして、ケン化度が95%以上で、重合度が2000以上とされたクラレ製のポリビニルアルコールフィルム(重合度2400)を用い、図1に示す製造ラインで偏光フィルムを製造した。逆浸透膜処理を施した純水を浴液とする第1の膨潤処理槽10及び第2の膨潤処理槽20では、膨潤処理のみならず延伸処理も施し、その延伸倍率は、2槽で計2.7倍(第1の膨潤処理槽10で2倍、第2の膨潤処理槽20で1.35倍)とした。第1の膨潤処理槽10の浴温は40℃とし、浴液に浸漬する時間を最長で21秒とした。なお、所定の浸漬時間毎にフィルムを第1の膨潤処理槽10から引き上げ、後述する膨潤ひずみを測定した。第2の膨潤処理槽20の浴温は28℃とし、浴液に浸漬する時間を最長で64秒とした。第2の膨潤処理槽20についても、所定の浸漬時間毎にフィルムを引き上げ、後述する膨潤ひずみを測定した。染色処理槽30内の浴液は、逆浸透膜処理を施した純水を溶媒として濃度1g/lでヨウ素を溶解した温度30℃の溶液とした。延伸処理槽40内の浴液は、純水を溶媒として濃度4重量%のホウ酸を添加した温度50℃の溶液とし、1.5倍の延伸倍率で一軸延伸を施した。固定化処理槽50内の浴液は、純水を溶媒として濃度5重量%のヨウ化カリウムを添加した常温の溶液とした。乾燥炉60では、60℃の熱風によって乾燥処理を施した。
【0038】
<実施例2>
第1の膨潤処理槽10の浴温を50℃としたこと以外は、実施例1と同じ条件で偏光フィルムを製造した。
【0039】
<実施例3>
第1の膨潤処理槽10の浴液に浸漬する時間を最長で10秒とし、第2の膨潤処理槽20の浴温を30℃、浴液に浸漬する時間を最長で32秒としたこと以外は、実施例1と同じ条件で偏光フィルムを製造した。
【0040】
<実施例4>
第1の膨潤処理槽10の浴温を35℃としたこと以外は、実施例3と同じ条件で偏光フィルムを製造した。
【0041】
<実施例5>
第2の膨潤処理槽20の浴液に浸漬する時間を最長で10秒としたこと以外は、実施例1と同じ条件で偏光フィルムを製造した。
【0042】
<実施例6>
第2の膨潤処理槽20の浴液に浸漬する時間を最長で10秒としたこと以外は、実施例2と同じ条件で偏光フィルムを製造した。
【0043】
<実施例7>
第1の膨潤処理槽10の浴液に浸漬する時間を最長で17秒とし、第2の膨潤処理槽20の浴液に浸漬する時間を最長で11秒としたこと以外は、実施例3と同じ条件で偏光フィルムを製造した。
【0044】
<比較例1>
膨潤処理槽(延伸処理も施す)を1槽のみとし、その浴温を28℃、浴液に浸漬する時間を最長で155秒とした以外は、実施例1と同じ条件で偏光フィルムを製造した。
【0045】
<比較例2>
膨潤処理槽(延伸処理も施す)を1槽のみとし、その浴温を40℃、浴液に浸漬する時間を最長で155秒とした以外は、実施例1と同じ条件で偏光フィルムを製造した。
【0046】
<比較例3>
膨潤処理槽(延伸処理も施す)を1槽のみとし、その浴温を50℃、浴液に浸漬する時間を最長で155秒とした以外は、実施例1と同じ条件で偏光フィルムを製造した。
【0047】
<比較例4>
第1の膨潤処理槽10の浴温を30℃としたこと以外は、実施例3と同じ条件で偏光フィルムを製造した。
【0048】
<比較例5>
膨潤処理槽(延伸処理も施す)を1槽のみとし、その浴温を40℃、浴液に浸漬する時間を最長で40秒とした以外は、実施例1と同じ条件で偏光フィルムを製造した。
【0049】
<比較例6>
膨潤処理槽(延伸処理も施す)を1槽のみとし、その浴温を30℃、浴液に浸漬する時間を最長で40秒とした以外は、実施例1と同じ条件で偏光フィルムを製造した。
【0050】
<比較例7>
第1の膨潤処理槽10の浴温を30℃、浴液に浸漬する時間を最長で32秒とし、第2の膨潤処理槽20の浴温を35℃、浴液に浸漬する時間を最長で10秒としたこと以外は、実施例1と同じ条件で偏光フィルムを製造した。
【0051】
なお、実施例1〜7及び比較例1〜7に示す膨潤処理槽の浴温は、以下の方法で測定した値である。すなわち、膨潤処理槽内の浴液中の複数点(膨潤処理槽の幅方向に沿って略等間隔に3点、長手方向に沿って略等間隔に3点、深さ方向に沿って略等間隔に3点の計27点)に熱電対を設置し、各点に設置した熱電対によってそれぞれ所定時間測定した温度の平均値を浴温とした。
【0052】
<評価結果1>
実施例1、2及び比較例1〜3について、膨潤処理槽での浸漬時間と膨潤ひずみとの関係を評価した。その結果を図2に示す。図2の横軸は浸漬時間であり、実施例1、2の場合には、第1の膨潤処理槽10及び第2の膨潤処理槽20での浸漬時間の総計(第1の膨潤処理槽10での浸漬が終了してから第2の膨潤処理槽20での浸漬が開始されるまでの時間は含まない)を示す。一方、比較例1〜3の場合には、一の膨潤処理槽での浸漬時間を示す。また、図2の縦軸は膨潤ひずみを示す。
【0053】
ここで、膨潤ひずみとは、フィルムを延伸した場合の変形挙動をアフィン変形と仮定(延伸前後のフィルムの体積が一定であると仮定)して計算したフィルム幅と、膨潤処理槽における延伸後に実測したフィルム幅との差を測定し、当該測定値を変形前のフィルム幅で除算した値を意味する。この算出した膨潤ひずみにより、フィルムの膨潤状態を評価することが可能である。つまり、膨潤処理を施す時間(膨潤処理槽内の浴液に浸漬する時間)を変化させても膨潤ひずみの測定値が変化しない場合には、フィルムの膨潤量が飽和したと判断できる。
【0054】
図2に示すように、実施例1、2の場合には、比較例1〜3の場合に比べて、フィルムの膨潤量が飽和に至る(膨潤ひずみの値が変化しなくなる)までに要する時間が短縮され(比較例1〜3の場合には、浸漬時間を最長にしても膨潤量は飽和に至らなかった)、膨潤処理工程に要する時間、ひいては偏光フィルムの製造に要する時間が短縮できることが分かった。
【0055】
<評価結果2>
実施例1〜7及び比較例1〜7について、浸漬時間を最長にした場合に得られた偏光フィルムの偏光度及び色ムラ(外観)とを評価した。その結果を表1に示す。なお、表1には、膨潤処理槽における樹脂フィルムの浸漬時間の総計も併せて記載した。ここで、偏光度は、製造した偏光フィルムから25mm×40mmのサンプルを切り出し、村上色彩製のspectro photometer DOT-3Cを使用して評価した。また、色ムラは、前記サンプルを観察用偏光板の上に偏光軸が互いに直交するように載置し、3波長の蛍光灯で照射してその均一性を観察することにより評価した。より具体的に説明すれば、先ず前記蛍光灯で照射した前記サンプルの透過光をカメラで撮像し、当該撮像画像を画像処理することによってサンプル幅方向の輝度分布を算出した。次に、算出した輝度分布(横軸:距離、縦軸:輝度)を粗さ曲線に見立てて、算術平均粗さ(Ra)を算出し、当該Raによって色ムラを数値化した。そして、Raが小さいほど、輝度分布の凹凸が少なく良好な外観であると判断した。
【表1】

【0056】
表1に示すように、実施例1〜7の場合における偏光度及び色ムラは良好な結果を示しており、色ムラが少なく高品質の偏光フィルムが得られることが分かった。なお、実施例5は、実施例1における第2の膨潤処理槽の浸漬時間を短縮したものに相当し、実施例6は、実施例2における第2の膨潤処理槽の浸漬時間を短縮したものに相当するが、これらの実施例のように短時間の浸漬時間であっても、十分に色ムラが少なく高品質の偏光フィルムが得られることが分かった。特に、実施例7は、第1の膨潤処理槽10及び第2の膨潤処理槽20での浸漬時間の総計が28秒と極めて短時間であるにも関わらず、十分に色ムラが少なく高品質の偏光フィルムが得られており、偏光フィルムの品質を損なうことなく、偏光フィルムの製造に要する時間を顕著に短縮できる。
【0057】
これに対し、比較例1〜3の偏光フィルムについては、膨潤量は飽和に至らなかったものの、浸漬時間を最長(155秒)にすることによって、膨潤ひずみの単位時間当たりの変化量は比較的小さくなっている(図2参照)。このため、膨潤処理槽に後続する染色処理槽内の浴液にフィルムを浸漬した際に再膨潤し難く、色ムラの少ない偏光フィルムが得られたと考えられる。しかしながら、実施例1〜7の場合に比べれば、比較例1〜3の偏光フィルムは、膨潤処理槽での長い浸漬時間を必要とすることから、偏光フィルムの製造に要する時間を短縮できないという問題が残存することになる。一方、偏光フィルムの製造に要する時間を短縮するという観点から、比較例4〜7のように、膨潤処理槽での浸漬時間の総計を短時間に設定した(特に、比較例4、7では、浸漬時間の総計を短時間に設定するのに加えて、第2の膨潤処理槽の浴温≧第1の膨潤処理槽の浴温とした)のでは、膨潤処理槽に後続する染色処理槽内の浴液にフィルムを浸漬した際に再膨潤してしまい、染色ムラが生じてしまうことが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る偏光フィルムの製造方法を実施するための製造ラインを概略的に示すブロック図である。
【図2】図2は、本発明の一実施例に係る膨潤処理について、膨潤処理槽での浸漬時間と膨潤ひずみとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0059】
10・・・第1の膨潤処理槽
20・・・第2の膨潤処理槽
30・・・染色処理槽
40・・・延伸処理槽
50・・・固定化処理槽
60・・・乾燥炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系フィルム等の樹脂フィルムを膨潤処理工程及びこれに後続する染色処理工程を含む製造工程において一軸延伸することにより偏光フィルムを製造する方法であって、
前記膨潤処理工程において、樹脂フィルムを少なくとも2つ以上の膨潤処理槽内の浴液に順次浸漬する手順を含み、
少なくとも前段側から数えて第N番目に位置する膨潤処理槽の浴温を、第(N+M)番目に位置する膨潤処理槽の浴温よりも3℃以上高く設定(N、Mは共に1以上の所定の整数)することを特徴とする偏光フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記膨潤処理工程において、樹脂フィルムを第1の膨潤処理槽内の浴液に浸漬した後、前記第1の膨潤処理槽に後続する第2の膨潤処理槽内の浴液に浸漬する手順を含み、
前記第1の膨潤処理槽の浴温を前記第2の膨潤処理槽の浴温よりも3℃以上高く設定することを特徴とする請求項1に記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記各膨潤処理槽の浴温を20℃以上55℃以下に設定することを特徴とする請求項1又は2に記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記染色処理工程において、樹脂フィルムを浸漬する染色処理槽の浴温を20℃以上50℃以下に設定することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記染色処理工程で使用する染色処理槽の直前に位置する膨潤処理槽の浴温と、前記染色処理槽の浴温との差を5℃以下に設定することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記各膨潤処理槽内の浴液への樹脂フィルムの浸漬時間の総計が50秒以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記樹脂フィルムは、ケン化度が95%以上で、重合度が2000以上とされていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の製造方法を用いて製造された偏光度99.95%以上の偏光フィルム。
【請求項9】
請求項1から7のいずれかに記載の製造方法を用いて製造された偏光フィルムを具備することを特徴とする偏光板。
【請求項10】
請求項1から7のいずれかに記載の製造方法を用いて製造された偏光フィルムを積層したことを特徴とする光学フィルム。
【請求項11】
請求項9に記載の偏光板又は請求項10に記載の光学フィルムを具備することを特徴とする画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−65309(P2006−65309A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−212148(P2005−212148)
【出願日】平成17年7月22日(2005.7.22)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】