説明

偏向器アレイ、偏向器アレイの製造方法、描画装置、および物品の製造方法

【課題】偏向器の電極対の温度上昇を抑制し、かつ、スループットの向上に有利な偏向器アレイを提供する。
【解決手段】偏向器アレイ13は、荷電粒子線30を偏向する偏向器31を複数備える。ここで、偏向器31を構成する、荷電粒子線30が通過する開口部32に対して設置される電極対33、および該電極対33に電圧を印加する制御回路34は、第1層40および第2層41の少なくとも2つの層からなる積層構造体に形成され、層の少なくとも1つ(第1層40)は、電極対33と制御回路34との間に、断熱部42を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏向器アレイ、偏向器アレイの製造方法、描画装置、および物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体集積回路などのデバイスの製造に用いられる描画装置は、素子の微細化、回路パターンの複雑化、またはパターンデータの大容量化が進み、描画精度の向上が要求されている。これを実現させる方法の1つとして、電子ビームなどの荷電粒子線を偏向させて、荷電粒子線の照射のON/OFFを制御することで所定の描画データを被処理基板の所定の位置に描画を行う描画装置が知られている。例えば、特許文献1は、複数の荷電粒子線で基板に描画を行う荷電ビーム描画装置を開示している。この描画装置は、電子銃のクロスオーバから発散した荷電粒子線を複数の荷電粒子線に分割、偏向、および結像させる光学系を有する。この光学系では、一般に荷電粒子線の照射のON/OFFを切り替える機構としてブランキング偏向器アレイを採用する。通常、ブランキング偏向器アレイは、複数の荷電粒子線を個別に偏向する電極対を1枚の基板に複数備える。
【0003】
このような荷電粒子線描画装置では、さらにスループットを向上させるために、荷電粒子線の本数を増加させ、描画周波数を高くすることが考えられる。しかしながら、荷電粒子線の本数を増加させると、その総数に対応する数だけ制御回路が増加し、これらの制御回路が高速で駆動することで、消費電力が増大する。特に、ブランキング偏向器アレイに係る制御回路では、高周波数でブランキング駆動信号の応答特性を得るために、制御回路を、電極対との伝送距離を短く、かつ、高密度に実装する必要がある。これは、熱源である制御回路が、電極対の近傍にて高温で発熱することを意味する。そこで、例えば、特許文献2は、ブランキング偏向器アレイの冷却方法の一例として、電極対の電圧印加を制御するドライバの発熱量を熱伝導で熱回収する荷電粒子ビーム露光方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−353113号公報
【特許文献2】特開平9−134869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に示す露光方法では、制御回路が電極対の近傍に配置される構成自体には従来の機構と変化がないため、発熱が非常に高温である場合には、ブランキング偏向器アレイの温度が上昇する可能性がある。一般に、ブランキング偏向器アレイにおける各ブランキング電極対と複数の荷電粒子線との相対位置関係は、オーバーレイ精度などの描画性能に大きな影響を及ぼす。例えば、ブランキング偏向器アレイが温度上昇して熱変形が生じると、各電極対間の相対位置保証ができなくなる場合がある。
【0006】
本発明は、このような状況を鑑みてなされたものであり、例えば、偏向器の電極対の温度上昇を抑制し、かつ、スループットの向上に有利な偏向器アレイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、荷電粒子線を偏向する偏向器を複数備える偏向器アレイであって、偏向器を構成する、荷電粒子線が通過する開口部に対して設置される電極対、および該電極対に電圧を印加する制御回路は、第1層および第2層の少なくとも2つの層からなる積層構造体に形成され、層の少なくとも1つは、電極対と制御回路との間に、断熱部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、例えば、偏向器の電極対の温度上昇を抑制し、かつ、スループットの向上に有利な偏向器アレイを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施形態に係る荷電粒子線描画装置の構成を示す図である。
【図2】第1実施形態に係るブランキング偏向器アレイの構成を示す図である。
【図3】ブランキング偏向器アレイの製造工程の流れを示すフローチャートである。
【図4】第2実施形態に係るブランキング偏向器アレイの構成を示す図である。
【図5】偏向器チップの構成を示す図である。
【図6】ブランキング偏向器アレイの製造工程の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について図面等を参照して説明する。
【0011】
(荷電粒子線描画装置)
まず、本発明のブランキング偏向器アレイを備える荷電粒子線描画装置(以下、単に「描画装置」と表記する)について説明する。この描画装置は、複数の電子ビーム(荷電粒子線)を偏向させ、ブランキング偏向器アレイにより電子ビームの照射のON/OFFを個別に制御することで、所定の描画データを被処理基板の所定の位置に描画するマルチビーム方式を採用するものとする。ここで、荷電粒子線は、本実施形態のような電子線に限定されず、イオン線などの他の荷電粒子線であってもよい。図1は、描画装置1の構成を示す図である。なお、本図を含む以下の各図では、被処理基板に対する電子ビームの照射方向にZ軸を取り、該Z軸に垂直な平面内に互いに直交するX軸およびY軸を取る。さらに、以下の各図では、図1と同一構成のものには同一の符号を付す。この描画装置1は、電子銃2と、該電子銃2のクロスオーバ3から発散した電子ビームを複数の電子ビームに分割、偏向、および結像させる光学系4と、被処理基板を保持する基板ステージ5と、描画装置1の各構成要素の動作などを制御する制御部6とを備える。なお、電子ビームは、大気圧雰囲気ではすぐに減衰し、また高電圧による放電を防止する意味もかねて、制御部6を除く上記構成要素は、不図示の真空排気系により内部圧力が適宜調整された空間内に設置される。例えば、電子銃2および光学系4は、高い真空度に保たれた不図示の電子光学鏡筒内に設置される。同様に、基板ステージ5は、電子光学鏡筒内よりも比較的低い真空度に保たれた不図示のチャンバー内に設置される。また、被処理基板7は、例えば、単結晶シリコンからなるウエハであり、表面上には感光性のレジストが塗布されている。
【0012】
電子銃2は、熱や電界の印加により電子ビームを放出する荷電粒子線源であり、図中、クロスオーバ3から放出された電子ビームの軌道8を点線で示している。光学系4は、電子銃2側から順に、コリメーターレンズ10、アパーチャアレイ11、第1静電レンズアレイ12、ブランキング偏向器アレイ13、ブランキングアパーチャアレイ14、偏向器アレイ15、および第2静電レンズアレイ16を備える。コリメーターレンズ10は、電磁レンズで構成され、クロスオーバ3で発散した電子ビームを平行ビームとする光学素子である。アパーチャアレイ11は、マトリクス状に配列した複数の円形状の開口を有し、コリメーターレンズ10から入射した電子ビームを複数の電子ビームに分割する機構である。第1静電レンズアレイ12は、円形状の開口を有する3枚の電極板(図中、3枚の電極板を一体で示している)から構成され、ブランキングアパーチャアレイ14に対して電子ビームを結像させる光学素子である。ブランキング偏向器アレイ13およびブランキングアパーチャアレイ(遮蔽機構)14は、共にマトリクス状に配置され、各電子ビームの照射のON(非ブランキング状態)/OFF(ブランキング状態)動作を実施する機構である。特にブランキングアパーチャアレイ14は、第1静電レンズアレイ12が最初に電子ビームのクロスオーバを形成する位置に配置される。偏向器アレイ15は、基板ステージ5上に載置された被処理基板7の表面上の像をX方向に偏向する機構である。さらに、第2静電レンズアレイ16は、ブランキングアパーチャアレイ14を通過した電子ビームを被処理基板7に結像させる光学素子である。
【0013】
基板ステージ5は、被処理基板7を、例えば静電吸着により保持しつつ、6軸方向に適宜移動(駆動)可能とする。この基板ステージ5の位置は、不図示のレーザー測長器などにより実時間で計測される。制御部6は、描画装置1の描画に関わる各構成要素の動作を制御する各種制御回路と、各制御部を統括する主制御部20とを有する。各制御回路として、まず、第1レンズ制御回路21は、コリメーターレンズ10および第1静電レンズアレイ12の動作を制御する。同様に、第2レンズ制御回路22は、第2静電レンズアレイ16の動作を制御する。描画パターン発生回路23は、描画パターンを生成し、この描画パターンは、ビットマップ変換回路24によりビットマップデータに変換される。ブランキング指令生成回路25は、このビットマップデータに基づいてブランキング偏向器アレイ13へ送信するブランキング信号を生成する。偏向アンプ部26は、偏向信号発生回路27により生成される偏向信号に基づいて、偏向器アレイ15の動作を制御する。また、制御部6は、不図示であるが、主制御部20からの指令であるステージ位置座標に基づいて基板ステージ5への指令目標値を算出し、駆動後の位置がこの目標値となるように基板ステージ5を駆動させるステージ制御回路を含む。このステージ制御回路は、パターン描画中は被処理基板7(基板ステージ5)をY方向に連続的にスキャンさせる。このとき、偏向器アレイ15は、レーザー測長器などの基板ステージ5の測長結果を基準として、被処理基板7の表面上の像をX方向に偏向させる。そして、ブランキング偏向器アレイ13は、被処理基板7上で目標線量が得られるように電子ビームの照射のON/OFFを実施する。
【0014】
(第1実施形態)
次に、本発明の第1実施形態に係るブランキング偏向器アレイ(偏向器アレイ)13について説明する。図2は、本実施形態に係るブランキング偏向器アレイ13の構成を示す概略図である。特に、図2(a)は、電子ビームの照射方向から見た平面図であり、図2(b)は、図2(a)に対応した断面図である。ブランキング偏向器アレイ13は、複数の層で形成されており、複数の電子ビーム30にそれぞれ対応したブランキング偏向器31を複数備える。以下、本実施形態では、ブランキング偏向器31は、XY平面内において、一例として4×4でマトリクス状に配列された計16個、ブランキング偏向器アレイ13に設置されるものとする。このブランキング偏向器31は、それぞれ電子ビーム30を通過可能とする開口部32と、該開口部32の両側、すなわちX方向にて対峙する位置に設置された電極対33とを有する。また、ブランキング偏向器アレイ13は、電極対33を駆動するための2箇所の制御回路(ブランキング駆動回路)34と、該ブランキング制御回路34にそれぞれ第1配線部35を介して接続される2箇所の通信処理部36とを含む。ブランキング指令生成回路25により生成されるブランキング信号は、信号ケーブル37を介して各通信処理部36へ信号伝送される。各制御回路34は、各通信処理部36から受信したブランキング信号に基づいてブランキング電極制御信号(駆動信号)を生成し、第2配線部38を介して各電極対33に電圧を印加する。ここで、電極対33に電圧が印加されると、その電極対33に挟まれた開口部32には電場が形成され、この電場に侵入した電子ビーム30は、クーロン力の作用により電場の方向に力を受けて偏向される。偏向された電子ビーム30は、後段のブランキングアパーチャアレイ14にて遮蔽されるので、被処理基板7の表面上には照射されない。
【0015】
次に、ブランキング偏向器アレイ13の断面構成について説明する。図2(b)に示すように、ブランキング偏向器アレイ13は、第1層であるシリコン層40と、第2層である多層配線層41とからなる積層構造体である。制御回路34は、シリコン層40の内部にて多層配線層41の面に接するように形成される。また、多層配線層41は、SiOなどで構成された絶縁層であり、その厚みは、シリコン層40の厚みよりも薄い。第1配線部35および第2配線部38は、それぞれ多層配線層41の内部に形成される。第1配線部35は、多層配線層41の表面上に設置される通信処理部36と、制御回路34とを電気的に接続し、一方、第2配線部38は、制御回路34と各電極対33とを電気的に接続する。ここで、パターン描画時には、複数の電子ビームにおける相対位置の要求精度が厳しいため、各電極対33の熱変形を可能な限り抑制する必要がある。そこで、本実施形態では、この場合の熱源である制御回路34から各電極対33への伝熱を抑えるために、多層配線層41よりも厚みのあるシリコン層40に断熱部(断熱領域)42を設置し、伝熱面積を小さくする。この断熱部42は、図2(b)に示すように、シリコン層40内において、厚み方向で、かつ、電極対33の形成領域と制御回路34との間に貫設することが望ましい。さらに、ブランキング偏向器アレイ13の下部(電子ビーム出射側)には、図2(b)に示すように、制御回路34から発生する熱を回収するための冷却部43を設置することが望ましい。この冷却部43は、各開口部32の形成位置に対応した貫通部44と、内部に形成された冷媒流路45とを有する。冷媒流路45は、冷却配管46を通して冷却装置47に接続され、冷却装置47が冷媒を適宜供給回収することで、その冷媒と制御回路34から発生する熱とが熱交換される。なお、本実施形態では、電極対33は、多層配線層41の表面上に形成されているが、開口部32のX方向にて対峙する位置に設置されさえすれば、例えば、多層配線層41の電子ビーム開口の側壁面に電極対が形成される構成もあり得る。
【0016】
次に、ブランキング偏向器アレイ13の作用について説明する。上記構成からなるブランキング偏向器アレイ13が描画装置1に組み込まれると、断熱部42内には、シリコン層40の材質よりも著しく熱伝導率が低い媒体が存在することになる。すなわち、本実施形態では、ブランキング偏向器アレイ13の周囲環境は、高真空に維持されているので、断熱部42内は気体分子間の衝突がほとんど無い希薄流体(真空)となり、熱伝導率は、著しく小さいものとなる。この結果、制御回路34で発生した熱量(消費電力)は、断熱部42を回避し、主に電極対33に対する熱抵抗に比べて著しく小さいシリコン層40の厚み方向へ熱伝導される。この厚み方向に伝導された熱は、ブランキング偏向器アレイ13の下部に設置された冷却部43で熱回収される。このように、制御回路34と、温度に敏感な各電極対33との熱抵抗が大きくなるので、ブランキング偏向器アレイ13では、制御回路34から各電極対33への熱が伝わりにくくなり、電極対33の温度上昇を抑制することができる。また、この断熱作用により、制御回路34を各電極対33の近傍に配置することができ、かつ、各配線部35、38を多層配線層41の内部に形成したことにより、結果的に断熱部42を迂回して配線する必要がない。このように、制御回路34をブランキング偏向器アレイ13に組み込み、各電極対33の近傍に配置することは、高速な信号伝送、すなわち応答性の面で有利であり、高速なON/OFF信号に対応してスループットの向上にも有利となる。
【0017】
なお、断熱部42は、シリコン層40を厚さ方向に貫通しているが、例えば、図2(c)に示すように、断熱部42の多層配線層41に向かう部分のシリコン層を薄く(厚さt)残した構成としてもよい(シリコン層40a、断熱部42a)。この厚さtは、シリコン層40aの厚みtに対する比率として、制御回路34での熱量に基づいて制御回路34と各電極対33との間に必要な熱抵抗から設定する。また、本実施形態では、断熱部42は、空間領域となっているが、上記のようにシリコンの熱伝導率よりも低い媒体であれば、例えば、断熱部42の内部領域を充填剤で埋める構成もあり得る。
【0018】
次に、ブランキング偏向器アレイ13の製造方法について説明する。図3は、ブランキング偏向器アレイ13の製造工程の流れを示すフローチャートである。なお、このブランキング偏向器アレイ13は、通常の半導体デバイスとして各種半導体製造装置により製造される。まず、シリコン層40となる母材基板に、制御回路34が形成される(ステップS100)。次に、シリコン層40上に、各配線部35、38を含む多層配線層41が形成される(ステップS101)。このとき、各配線部35、38は、リソグラフィー工程により形成される。次に、多層配線層41上に、例えばメッキ法により複数の電極対33が形成される(ステップS102)。次に、複数の電極対33の形成位置を基準として、シリコン層40および多層配線層41に、例えばDRIEのようなエッチングにより電子ビーム30が通過する複数の開口部32が形成される(ステップS103)。そして、シリコン層40に、例えば裏面から実施するエッチング工程により断熱部42が形成され(ステップS104)、ブランキング偏向器アレイ13の製造工程を終了する。ここで、高スループットの電子ビームに対応するために、ステップS101の多層配線層41の形成工程では、各配線部35、38となる配線パターンを高密度に形成する必要があり、厳しい位置決め精度が要求される。これに対して、ステップS104の断熱部42の形成工程における位置決め精度は、上記配線パターンの形成時に比べて大幅に緩いものでよい。したがって、図3の流れに示すように、位置決め精度の厳しい多層配線層41の形成を行った後、位置決め精度の緩い断熱部42の形成を行った方が、効率が良い。
【0019】
以上のように、本実施形態によれば、例えば、ブランキング偏向器の電極対の温度上昇を抑制し、かつ、スループットの向上に有利なブランキング偏向器アレイを提供することができる。
【0020】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係るブランキング偏向器アレイについて説明する。図4は、本実施形態に係るブランキング偏向器アレイ50の構成を示す概略図である。特に、図4(a)は、電子ビームの照射方向から見た平面図であり、図4(b)は、図4(a)に対応した断面図である。なお、図4において、図1に示す第1実施形態のブランキング偏向器アレイ13と同一構成のものには同一の符号を付し、説明は省略する。また、本実施形態においても、複数のブランキング偏向器51は、XY平面内において4×4でマトリクス状に配列されるものとする。このブランキング偏向器アレイ50の特徴は、全ブランキング偏向器51のうちの数個のブランキング偏向器51を含む複数のブランキング偏向器チップ(以下、単に「偏向器チップ」と表記する)52から構成される点にある。
【0021】
まず、ブランキング偏向器アレイ50は、第1実施形態と同様に、シリコン層53と多層配線層54とから構成される配線基板55を含む。ここで、本実施形態のシリコン層53は、第1実施形態のシリコン層40に形成される制御回路34および断熱部42に相当する部分を有しない。また、通信処理部36は、第1実施形態と同様に多層配線層54の表面上に設置され、多層配線層54は、その内部に、通信処理部36と、後述する偏向器チップ52に設置された複数の制御回路56とを電気的に接続する第3配線部57を備える。また、ブランキング偏向器アレイ50は、配線基板55の表面上に、複数の偏向器チップ52を含む。本実施形態では、ブランキング偏向器アレイ50は、16個のブランキング偏向器51を含むので、1つの偏向器チップ52は、それぞれ2つのブランキング偏向器51を含むものとし、各ブランキング偏向器51の配置位置は、第1実施形態と同様とする。すなわち、この場合の8つの偏向器チップ52は、XY平面内において、4×2で配列されることとなる。なお、この配列数、および1つの偏向器チップ52内のブランキング偏向器51の設置数は、一例であり、限定するものではない。さらに、本実施形態のブランキング偏向器アレイ50においても、その下部には、第1実施形態と同様の冷却部43と、それに関連した構成とを設置することが望ましい。
【0022】
図5(a)および図5(b)は、本実施形態に係る偏向器チップ52の構成を示す概略図である。特に、図5(a)は、電子ビームの照射方向から見た平面図であり、図5(b)は、図5(a)に対応した断面図である。偏向器チップ52は、複数の層で形成されており、本実施形態では、第1層であるシリコン層58と、第2層である多層配線層59とからなる多層構造を有する。また、偏向器チップ52は、複数(すなわち本実施形態では2つ)の電子ビーム30にそれぞれ対応したブランキング偏向器51を含む。このブランキング偏向器51は、第1実施形態のブランキング偏向器31と同様に、それぞれ開口部60と電極対61とを有し、各電極対61は、多層配線層59の表面上に形成される。制御回路56は、第1実施形態の制御回路34と同様に電極対61を駆動するものであり、シリコン層58の内部にて多層配線層59の面に接するように形成される。また、多層配線層59も、第1実施形態の多層配線層41と同様にSiOなどで構成された絶縁層であり、その厚みは、シリコン層58の厚みよりも薄い。本構成では、第1配線部62は、シリコン層58の内部に形成され、制御回路56と、配線基板55を形成する多層配線層54の第3配線部57の端子とを電気的に接続する。この端子と接続される電気接続部63は、バンプ接合やハンダ接合、配線を介したコネクタ接続、ワイヤボンディング、またはコンタクト方式などのいずれかの手法を用いて配線基板55に接続され、これにより、偏向器チップ52は、配線基板55上に固定される。一方、第2配線部64は、多層配線層59の内部に形成され、制御回路56と各電極対61とを電気的に接続する。なお、電極対61は、本実施形態でも多層配線層59の表面上に形成されているが、第1実施形態の電極対33と同様に、開口部60のX方向にて対峙する位置に設置されさえすれば、多層配線層59の開口部60の側壁面に電極対が形成される構成もあり得る。
【0023】
また、偏向器チップ52は、第1実施形態のブランキング偏向器アレイ13と同様にシリコン層58に断熱部65を設置し、伝熱面積を小さくする。特に、図5(a)(図5(b))に示す偏向器チップ52では、断熱部65は、シリコン層58において、厚み方向に、かつ、電極対61の形成領域と制御回路56との間を遮断するように設置する。なお、シリコン層58に形成する断熱部の形状は、断熱部65の形状に限定するものではなく、例えば、以下のような形状もあり得る。図5(c)および図5(d)は、断熱部65に換えた第2例としての断熱部65aを有する偏向器チップ52の構成を示す概略図である。断熱部65aは、積層方向に凹とし、シリコン層58aを薄く(厚さt)残した構成としている。この厚さtは、シリコン層58aの厚みtに対する比率として、制御回路56での熱量に基づいて制御回路56と各電極対61との間に必要な熱抵抗から設定する。一方、図5(e)および図5(f)は、断熱部65に換えた第3例としての断熱部65bを有する偏向器チップ52の構成を示す概略図である。断熱部65bは、シリコン層58bのY方向側面に幅wの梁を有するように、矩形面で貫設された構成としている。この幅wは、上記と同様に、シリコン層58bの幅wに対する比率として、制御回路56での熱量に基づいて制御回路56と各電極対61との間に必要な熱抵抗から設定する。なお、断熱部65(65a、65b)は、本実施形態でも空間領域としているが、第1実施形態の断熱部42と同様に、シリコンの熱伝導率よりも低い媒体であれば、内部領域を充填剤で埋める構成もあり得る。
【0024】
このブランキング偏向器アレイ50の作用は、基本的に第1実施形態に係るブランキング偏向器アレイ13の作用と同様である。ただし、上記のように、ブランキング偏向器アレイ50は、制御回路56や電極対61を微細加工にて小さく形成した複数の偏向器チップ52を備えた構成としている。したがって、偏向器チップ52の製造段階にて性能検査を実施し、良品判断した偏向器チップのみを利用すれば、第1実施形態の効果に加え、ブランキング偏向器アレイとしての製造歩留まりを大幅に向上させることができる。
【0025】
次に、ブランキング偏向器アレイ50の製造方法について説明する。図6は、ブランキング偏向器アレイ50の製造工程の流れを示すフローチャートである。なお、このブランキング偏向器アレイ50も、第1実施形態のブランキング偏向器アレイ13の製造方法と同様に、通常の半導体デバイスとして各種半導体製造装置により製造される。また、以下のステップS200〜S208の工程は、偏向器チップ52の製造工程であり、特にステップS206までの工程では、1つの母材基板に複数の偏向器チップ52を形成するものとする。まず、シリコン層58となる母材基板に、第1配線部62が形成され、さらに、この第1配線部62と連接して、制御回路56が形成される(ステップS200)。次に、シリコン層58上に、例えばリソグラフィー工程により第2配線部64を含む多層配線層59が形成される(ステップS201)。次に、良品チップを選別するために、制御回路56および各配線部62、64の電気特性検査を実施する(ステップS202)。次に、多層配線層59上に、例えばメッキ法により複数の電極対61が形成される(ステップS203)。次に、シリコン層58の裏面に、第1配線部62に連接するように電気接続部63が形成される(ステップS204)。次に、複数の電極対61の形成位置を基準として、シリコン層58および多層配線層59に、例えばDRIEのようなエッチングにより電子ビーム30が通過する複数の開口部60が形成される(ステップS205)。次に、シリコン層58に、例えば裏面から実施するエッチング工程により断熱部65が形成される(ステップS206)。次に、母材基板は、ダイシングにより切断され、複数の偏向器チップ52に分割される(ステップS207)。次に、分割された複数の偏向器チップ52に対してそれぞれ性能検査を実施し、欠陥のない偏向器チップ52を選定する(ステップS208)。そして、ステップS208にて選定された偏向器チップ52のみを、別に製造された配線基板55における多層配線層54の第3配線部57の出力部に対して電気接続部63を接続させることで、配線基板55上に固定する。なお、本製造工程においても、位置決め精度の厳しい多層配線層59の形成を行った後、位置決め精度の緩い断熱部65の形成を行った方が望ましいことは、第1実施形態と同様である。
【0026】
このように、本実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果を奏するとともに、例えば、ブランキング偏向器アレイの歩留まりを向上させることができる。
【0027】
(物品の製造方法)
本発明の実施形態に係る物品の製造方法は、例えば、半導体デバイスなどのマイクロデバイスや微細構造を有する素子などの物品を製造するのに好適である。該製造方法は、感光剤が塗布された基板の該感光剤に上記の描画装置を用いて潜像パターンを形成する工程(基板に描画を行う工程)と、該工程で潜像パターンが形成された基板を現像する工程とを含み得る。さらに、該製造方法は、他の周知の工程(酸化、成膜、蒸着、ドーピング、平坦化、エッチング、レジスト剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージングなど)を含み得る。本実施形態の物品の製造方法は、従来の方法に比べて、物品の性能・品質・生産性・生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
【0028】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。
【0029】
例えば、上記実施形態では、ブランキング偏向器アレイ(偏向器チップ)は、シリコン層と多層配線層との2層の積層構造としている。ただし、本発明は、少なくともこの基本構造を有していればよく、例えば、上記2層に加え、用途を問わずその他の層を含む構成もあり得る。
【符号の説明】
【0030】
13 偏向器アレイ
30 電子ビーム
31 偏向器
32 開口部
33 電極対
34 制御回路
40 シリコン層
41 多層配線層
42 断熱部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線を偏向する偏向器を複数備える偏向器アレイであって、
前記偏向器を構成する、前記荷電粒子線が通過する開口部に対して設置される電極対、および該電極対に電圧を印加する制御回路は、第1層および第2層の少なくとも2つの層からなる積層構造体に形成され、
前記層の少なくとも1つは、前記電極対と前記制御回路との間に、断熱部を有する、
ことを特徴とする偏向器アレイ。
【請求項2】
前記第1層は、シリコン層であり、
前記第2層は、前記第1層に積層される絶縁層であり、
前記断熱部は、前記第1層に形成される、
ことを特徴とする請求項1に記載の偏向器アレイ。
【請求項3】
前記第2層の厚みは、前記第1層の厚みよりも薄い、
ことを特徴とする請求項2に記載の偏向器アレイ。
【請求項4】
前記制御回路は、前記第1層に形成され、
前記電極対は、前記第2層に形成され、
前記制御回路と前記電極対とは、前記第2層の内部に形成された配線部により電気的に接続される、
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の偏向器アレイ。
【請求項5】
前記断熱部は、前記第1層の厚み方向に貫設される、
ことを特徴とする請求項2に記載の偏向器アレイ。
【請求項6】
前記断熱部は、前記第1層の厚み方向で、かつ、積層方向に対して凹に形成される、
ことを特徴とする請求項2に記載の偏向器アレイ。
【請求項7】
前記断熱部は、前記第1層の厚み方向で、かつ、前記電極対の形成領域と前記制御回路との間を遮断するように形成される、
ことを特徴とする請求項2に記載の偏向器アレイ。
【請求項8】
前記断熱部の内部は、シリコンよりも熱伝導率が低い媒体で満たされる、
ことを特徴とする請求項5ないし7のいずれか1項に記載の偏向器アレイ。
【請求項9】
前記媒体は、真空である、
ことを特徴とする請求項8に記載の偏向器アレイ。
【請求項10】
複数の前記偏向器のうちの少なくとも1つと、該少なくとも1つの偏向器に対して前記制御回路と前記断熱部とをそれぞれ含む複数の偏向器チップから構成される、
ことを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載の偏向器アレイ。
【請求項11】
前記複数の偏向器チップは、複数の前記制御回路と電気的に接続される配線部が形成された絶縁層を含む配線基板に、並べて固定される、
ことを特徴とする請求項10に記載の偏向器アレイ。
【請求項12】
さらに、前記制御回路から発生し、前記断熱部を回避しつつ伝わる熱を回収する冷却部を備える、
ことを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1項に記載の偏向器アレイ。
【請求項13】
荷電粒子線を偏向する偏向器を複数備える偏向器アレイの製造方法であって、
前記偏向器アレイは、第1層および第2層の少なくとも2つの層からなる積層構造を有し、
前記第1層に、前記偏向器を構成し、前記荷電粒子線が通過する開口部に対して設置される電極対に対して、電圧を印加する制御回路を形成する工程と、
前記第2層の内部に、該第2層に設置される前記電極対と、前記制御回路とを電気的に接続する配線部を形成する工程と、
前記配線部が形成された後、前記電極対と前記制御回路との間に断熱部を形成する工程と、を含む、
ことを特徴とする偏向器アレイの製造方法。
【請求項14】
偏向器アレイを有し、該偏向器アレイで偏向された荷電粒子線で基板に描画を行う描画装置であって、
前記偏向器アレイは、請求項1ないし12のいずれか1項に記載の偏向器アレイ、または請求項13に記載の製造方法により製造された偏向器アレイである、
ことを特徴とする描画装置。
【請求項15】
請求項14に記載の描画装置を用いて基板に描画を行う工程と、
前記工程で描画を行われた基板を現像する工程と、
を含むことを特徴とする物品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−182294(P2012−182294A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43979(P2011−43979)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】