説明

偏肉調整型エアーリング

【課題】 インフレーションフィルム製造装置において、冷却風の流れを分断することなく且つ、時間の経過においても円周方向で冷却風の温度を最適に制御することができ、偏肉や物性等に優れた合成樹脂フィルムを製造することができる偏肉調整型エアーリングを提供する。
【解決手段】 インフレーションフィルム製造装置1のダイ2上に設置されたエアーリング4の冷却風流路内に冷却風の流れに直交するように、多数の円弧板12を所定の間隙をもってリング状に配設すると同時に該間隙に断熱材12aを充填し該多数の円弧板12同士をリング状に一体化すると共に、前記各円弧板12内に偏肉調整用の電気加熱ロッド9を埋設した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂フィルムを成形(製造)するインフレーションフィルム製造装置のダイ上に設置され、押し出された溶融合成樹脂チューブの周囲へ冷却風を吹き付けて冷却・固化させて合成樹脂フィルムを成形する際に、前記冷却風の温度を円周方向で部分的に制御して合成樹脂フィルムの偏肉(厚みのバラツキ)を調整する偏肉調整型エアーリングに関する。
【背景技術】
【0002】
インフレーションフィルム製造装置において、ダイスリットから押し出された溶融合成樹脂チューブをエアーリングで冷却・固化させて合成樹脂フィルムを成形する際に、冷却風に対し円周方向で部分的に温度差をつける事で、合成樹脂フィルムの偏肉を調整する事は、既に従来から行われている。
【0003】
この種エアーリングの第1例として、例えば、図4に示すように(特許文献1及び特許文献2参照)、エアーリング100内の冷却風流路が多数の板状体101により扇形に細分割され、板状体101自体が加熱される事によって(特許文献2の場合)又は隣接する板状体101間に設けた電気加熱ロッド102による加熱で(特許文献1の場合)、押し出された溶融合成樹脂チューブに指向される冷却風を円周方向で部分的に温度制御できるようになっている。尚、図4中103はホース口で、該ホース口103に接続されるホースを介して図示しないブロワーからの冷却風が導入されるようになっている。図示例では、ホース口103が円周方向に所定間隔離間して4個開口形成されている。
【特許文献1】米国特許第5,288,219号明細書
【特許文献2】特公平7−71817号公報
【0004】
他に、この種エアーリングの第2例として、例えば図5に示すように(特許文献3参照)エアーリング200内にあるリング状のバッフルプレート201内に埋設された電気加熱ロッド202による加熱で押し出された溶融合成樹脂チューブに指向される冷却風を円周方向で部分的に温度制御できるようになっている。
【特許文献3】特開2004−330537号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した第1例の構成のエアーリング100にあっては、板状体101や電気ロッド102等で分断された冷却風のその部分の流れ(図4中矢印で示した流線参照)は乱れて乱流状態になり、冷却風の流れの状態に左右される合成樹脂フィルムの偏肉や物性等に悪影響を及ぼすという問題点があった。
【0006】
また、上述した第2例の構成のエアーリング200にあっては、第1例のような冷却風の流れが乱流状態になるという問題はない。然しながら、電気加熱ロッド202でリング状のバッフルプレート201を加熱しその熱で間接的に冷却風を加熱する為には、該バッフルプレート201の材質は熱伝導体である事が必要であり、通電された箇所の前記電気加熱ロッド202の熱は時間の経過と共に前記バッフルプレート201の加熱を必要としない円周方向の部分にも伝わり、前記バッフルプレート201の円周方向の部分的な温度を目的通りに制御する事が出来なくなる。従って冷却風の円周方向の部分的な温度も最適に制御出来ないので、合成樹脂フィルムの偏肉の調整が正確に出来ないという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、冷却風の流れを分断することなく且つ、時間の経過においても冷却風の円周方向での部分的な温度を正確に目的通り最適に制御することができ、偏肉や物性等に優れた合成樹脂フィルムを長時間運転においても安定的に製造する事ができる偏肉調整型エアーリングを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するために、合成樹脂フィルムを成形するインフレーションフィルム製造装置のダイ上に設置され、押し出された溶融合成樹脂チューブの周囲へ冷却風を吹き付けて冷却・固化させて合成樹脂フィルムを成形する際に、前記冷却風の温度を円周方向で部分的に制御して合成樹脂フィルムの偏肉を調整する偏肉調整型エアーリングにおいて、前記エアーリングの冷却風流路内に冷却風の流れに直交するように、多数の円弧板を所定の間隙をもって環状に配設すると同時に、該間隙には断熱材を充填し多数の該円弧板同士をリング状に一体化すると共に、前記各円弧板内に偏肉調整用の加熱素子を埋設したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、多数の円弧板同士は断熱材を介してリング状に一体化されており、冷却風の流れを分断することに起因する冷却風の流れに乱れが発生することがなく、且つ、円弧板間の間隙部を充填する断熱材により隣接する円弧板への熱伝導を防止しているので、各円弧板を所要の温度で正確に制御でき、冷却風の温度を円周方向で部分的に最適制御することができ、長時間運転においても偏肉や物性に優れた合成樹脂フィルムを安定的に生産する事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係る偏肉調整型エアーリングの一実施形態を、図面を用いて詳細に説明する。
【0011】
図1は、図3に示すインフレーションフィルム製造装置に用いる本発明にかかる偏肉調整型エアーリング周りの断面図、図2は同じく図1のA−A線断面図である。
【0012】
図3に示すように、インフレーションフィルム製造装置1では、図示しない押出機よりダイ2に供給された溶融合成樹脂3aは、溶融合成樹脂チューブ3としてダイスリット2a(図1参照)から押し出され、流れ方向、円周方向の両方向に薄く引き伸ばされると共に、エアーリグ4から吹き出される図示しないブロワーからの冷却風5で冷却され、チューブ状の合成樹脂フィルム3bとなりピンチロール6で引取られ、図示しない巻取機に巻き取られる。尚、この際、溶融合成樹脂チューブ3(チューブ状の合成樹脂フィルム3b)の内部には所定圧の空気が封入されている。
【0013】
そして、ピンチロール6の前流部には、360°反転しながらチューブ状の合成樹脂フィルム3bの厚みを測定する静電式等の厚みセンサー7が設けられ、その検出信号がマイクロコンピューター等からなる制御ユニット8に入力されている。
【0014】
制御ユニット8は、前記厚みセンサー7からの検出信号により得られた前記合成樹脂フィルム3bの偏肉情報に基づき、後述するエアーリング4に多数内装した所要の電気加熱ロッド(加熱素子)9(図1及び図2参照)を通電制御する事で、エアーリング4内を流れる冷却風に対し円周方向で部分的に温度を制御して前記合成樹脂フィルム3bの偏肉が可及的に小さく均一化するようにしている。
【0015】
図1及び図2に示すように、前述したエアーリング4は、内周部が凹んだリング状の筐体からなり、その内周部に形成したリング状の吹き出し口4aが前記ダイ2におけるリング状のダイスリット2aに対し同心となる様に、前記ダイ2上に適宜の手段で固設されている。
【0016】
前記エアーリング4内部の外周側は、リング状の孔開き整流板10により外側冷却風流路4bと内側冷却風流路4cとに画成される。外側冷却風流路4bには円周方向に4個のホース口11が等間隔で開口形成され、これらホース口11に接続されるホースを介して図示しないブロワーからの冷却風5が導入されるようになっている。
【0017】
そして、前記内側冷却風流路4cには、冷却風の流れ(図1及び図2中の矢印参照)に直交するように、熱伝導性の高いアルミ合金製等の多数の円弧板12が所定の間隙をもって環状に配設され、該間隙には断熱材12aが耐熱接着剤等で前記円弧板12に接着された状態で充填され、多数の前記円弧板12はリング状に一体化されると共に、多数の前記各円弧板12内に偏肉調整用の加熱素子としての前述した電気加熱ロッド9が埋設される。また、前記円弧板12と筐体との間にはリング状の断熱板14が配されている。前記断熱材12a及び前記断熱板14の材質は熱伝導率10W/mk以下のものが望ましい。
【0018】
このように構成されるため、ブロワーからの冷却風5は、4本のホースに分岐されてホース口11よりエアーリング4の外側冷却風流路4b内に導入される。ここから孔開き整流板10等でエアーリング4の中心に向かう均一な流れに整流されて内側冷却風流路4c内のバッフルプレート13及び円弧板12部を図1中矢印で示すように上下に蛇行しながら通過し、吹き出し口4aから溶融合成樹脂チューブ3に吹き付けられる。
【0019】
したがって、孔開き整流板10等で整流された冷却風は、一体的にリング状に形成されている円弧板12及び断熱材12a部で分断されることがなく均一な流れの状態のまま、溶融合成樹脂チューブ3を冷却・固化させる。
【0020】
さらに、各円弧板12間の間隙部を充填する断熱材12a及び各円弧板12と筐体との間の断熱板14により電気加熱ロッド9の熱が所要箇所以外に伝わることを防止しているので、溶融合成樹脂チューブ3(チューブ状の合成樹脂フィルム3b)の厚みに対応して、冷却風の温度を円周方向で部分的に正確に制御する事が連続運転に於いてもできる。
【0021】
ここで、ダイスリット2aから押し出された溶融合成樹脂チューブ3の固化した部分は引き伸ばされなくなるのでそれ以上薄くならないが、固化していない部分は固化するまで引き伸ばされて薄くなる。従って、チューブ状の合成樹脂フィルム3bの円周方向で厚い部分に対応する冷却風の温度を上げれば、溶融合成樹脂チューブ3のその部分の冷却・固化が遅れ薄くなるので合成樹脂フィルム3bの偏肉が制御できることになる。
【0022】
即ち、厚みセンサー7の偏肉情報に基づき、チューブ状の合成樹脂フィルム3bの厚い部分に対応する電気加熱ロッド9は冷却風の温度を上げるように制御ユニット8で通電制御され、これにより溶融合成樹脂チューブ3のその部分が薄くなり、偏肉の小さな均一なチューブ状の合成樹脂フィルム3bとなるのである。
【0023】
尚、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で各種変更が可能であることは言うまでもない。例えば、加熱ロッド9に代えてペルチェ素子等を用いて冷却風の温度を下げるようにしても良い。また、電気加熱ロッド9を埋設して成る円弧板12を多段配設しても良い。
【0024】
[実施形態の効果]
この実施形態によれば、円弧板12間の間隙部に充填された断熱材13で多数の円弧板12はリング状に一体化しているので冷却風の分断がない均一な流れとなり、また、断熱材13の断熱効果で長時間運転においても冷却風の円周方向での部分的な温度制御が最適状態で持続できる。
【実施例】
【0025】
MFRが1のLLDPEを原料とし、チューブ径830mm、厚み80μm、引取速度14m/分の製造条件で30時間の連続運転において、偏肉±5.3%〜±5.8%(平均厚みを基準としての厚みのバラツキ)の合成樹脂フィルムを成形することができた。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態に係る偏肉調整型エアーリング周りの断面図である。
【図2】同じく、図1のA−A線断面図である。
【図3】インフレーションフィルム製造装置の概略構成図である。
【図4】従来の偏肉調整型エアーリングの平面断面図である。
【図5】同じく、従来の偏肉調整型エアーリングの平面断面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 インフレーションフィルム製造装置
2 ダイ
2a ダイスリット
3 溶融合成樹脂チューブ
3a 溶融合成樹脂
3b 合成樹脂フィルム
4 エアーリング
4a 吹き出し口
4b 外側冷却風流路
4c 内側冷却風流路
5 冷却風
6 ピンチロール
8 制御ユニット
9 電気加熱ロッド
10 孔開き整流板
11 ホース口
12 円弧板
12a 断熱材
13 バッフルプレート
14 断熱板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂フィルムを成形するインフレーションフィルム製造装置のダイ上に設置され、押し出された溶融合成樹脂チューブの周囲へ冷却風を吹き付けて冷却・固化させて合成樹脂フィルムを成形する際に、前記冷却風の温度を円周方向で部分的に制御して合成樹脂フィルムの偏肉を調整する偏肉調整型エアーリングにおいて、
前記エアーリングの冷却風流路内に冷却風の流れに直交するように、多数の円弧板を所定の間隙をもって環状に配設すると同時に、該間隙には断熱材を充填し多数の該円弧板同士をリング状に一体化すると共に、前記各円弧板内に偏肉調整用の加熱素子を埋設したことを特徴とする偏肉調整型エアーリング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−269382(P2009−269382A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−141623(P2008−141623)
【出願日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【出願人】(504173194)
【Fターム(参考)】