説明

偽造防止用紙

【課題】最小限のコストで最大限の偽造防止効果の得られる偽造防止用紙を提供する。
【解決手段】接触または非接触センサーによって検出することが可能な繊維が紙中に抄き込まれている偽造防止用紙において、繊維表面が有機系材料で被覆されており、該有機系材料中に蛍光またはりん光物質が含まれており、繊維の中心が、銅、アルミニウム、鉄、コバルト、およびこれらを一種以上含む化合物よりなる群より選ばれる材料によって作られた導線もしくは金属ワイヤーであることを特徴とする偽造防止用紙

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接触または非接触センサーによって検出することが可能な繊維が紙中に抄き込まれている偽造防止用紙において、繊維表面が有機系材料で被覆されており、該有機系材料中に蛍光またはりん光物質が含まれていることを特徴とする偽造防止用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1に記載のように、偽造防止技術は二つに大別できる。万人が自らの力ではっきりと対象物の真贋を判定できる「眼に見える、公開された偽造防止対策」(オバート)と、専用機器を用いなければ真贋判定できず、一般にはその内容が知らされていない「眼に見えない、非公開の偽造防止対策」(コバート)である。
【非特許文献1】先端偽造防止技術―事例集― 技術情報協会、p.5−18(2004)
【0003】
近年、コンピュータ、スキャナー、プリンターなどの高性能化や廉価化によって、比較的容易に偽造紙幣などを作ることが可能になり、プロの偽造集団ではない素人による偽造が増えている。したがって、一般の人々が(あまり精巧ではないが)偽造紙幣などに接する機会が増えており、紙幣の真贋を彼ら自身が行わなければならなくなってきている。このような現状においては、誰にでも見分けられるように、偽造防止技術が施されている部分の視認性(オバート)の向上に対する重要性がますます増している。また、こうした背景から、紙そのものに偽造防止処理が施されている偽造防止紙のニーズは、ますます増加している。
【0004】
さらに、偽造された紙幣などを用いて自動販売機のような機械の真贋判定機を騙す、といった事件も多発している。機械の真贋判定機は、一般的に、磁界や蛍光、赤外線などを検知するセンサーによって真贋が判定される。偽造された紙幣には、このセンサーにだけ検知されるような処理がされており、人間の見た目には一目で偽造した紙幣だとわかるものが使用されるケースが多い。いわば機械の目のみが騙される。ATMのようなものには、精密でかつ複数個の読み取りセンサーが施されているが、コストが重視される自動販売機のような真贋判定機においては、最小限のコストで最大の偽造防止効果が得られるものが望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
偽造防止用紙に何らかの物質を混入する方法では、混入する物質と紙との親和性が重要である。すなわち、混入する物質と紙との親和性が低過ぎると、その物質が紙から剥離してしまう。例えば、特殊物質が金属繊維、磁性材などの場合、紙との親和性が低く、そのままでは紙から分離してしまう。そのため金属繊維などを含む紙層をさらに別の紙層でサンドイッチし多層化するなどの処理を行わなければならず、製造工程が複雑になりコスト高になるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、接触または非接触センサーによって検出することが可能な繊維が紙中に抄き込まれている偽造防止用紙において、繊維表面が有機系材料で被覆されており、該有機系材料中に蛍光またはりん光物質が含まれていることを特徴とする偽造防止用紙を提供することによって、上記のような課題を解決するものである。すみなち、本発明は以下の(1)〜(5)の構成を含む。
(1)接触または非接触センサーによって検出することが可能な繊維が紙中に抄き込まれている偽造防止用紙において、繊維表面が有機系材料で被覆されており、該有機系材料中に蛍光物質およびりん光物質から選ばれた少なくとも一種が含まれていることを特徴とする偽造防止用紙。
(2)前記繊維の中心部が、銅、アルミニウム、鉄、コバルト、およびこれらを一種以上含む化合物よりなる群より選ばれる材料によって作られた金属ワイヤーである(1)記載の偽造防止用紙。
(3)接触または非接触センサーによって検出することが可能な繊維が紙中に抄き込まれている偽造防止用紙において、繊維自体が蛍光物質およびりん光物質を含む有機系材料からなり、かつ該繊維は中空繊維であり、前期中空繊維の中空部に表示材料および/または記録材料が内包されていることを特徴とする偽造防止用紙。
(4)前記有機系材料の無機性値/有機性値(I/O値)が0.2〜5.8の範囲にある(1)〜(3)記載の偽造防止用紙。
(5)前記有機系材料が、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ナイロン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂およびフッ素系樹脂から選ばれた少なくとも一種からなる(1)〜(4)記載の偽造防止用紙。
【発明の効果】
【0007】
本発明によって、ブラックライトを当ててそこから発する蛍光またはりん光を観察するといった非常に簡単な方法によって、人間が容易に真贋判定することができる偽造防止用紙を提供することができる。また同時に、非常に簡単な真贋判定装置によって、機械による真贋判定も可能であり、最小限のコストで最大限の偽造防止効果が得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明は、接触または非接触センサーによって検出することが可能な繊維が紙中に抄き込まれている偽造防止用紙において、繊維表面が有機系材料で被覆されており、該有機系材料中に蛍光またはりん光物質を混入させることにより構成される。
【0009】
本発明の偽造防止用紙の一例の概念図を図1に示す。図1に示すように、偽造防止用紙11は、接触または非接触センサーによって検出することが可能で、かつ、繊維表面を蛍光またはりん光物質が含まれている有機系材料によって被覆されている繊維(以下、繊維ユニット)12が均一に分散した状態で形成される。ただし、紙に混入された繊維ユニット12は、1本以上あれば、紙に混入できる限り何本でもよい。
【0010】
図1に示した偽造防止用紙11の全面に均一に分散された繊維ユニット12の構成と機能について、一例を挙げて説明する。繊維ユニット12の一例の概念図を図2に示す。繊維ユニット12は、接触または非接触センサーによって検出することが可能な繊維22の表面に、蛍光またはりん光物質が含まれている有機系材料21が被覆されている。
【0011】
図3には、繊維ユニット12の別の形態を示す。繊維ユニット12は、蛍光またはりん光物質が含まれている有機系材料21そのものであり、内部が空洞、すなわち中空になっている。その中に溶媒31、表示材料および/または記録材料32が内包されている。この場合、両末端24には、熱融着、または接着加工により、溶媒31が漏れないように封止する必要がある。
【0012】
内包する溶媒21としては、種々の液体が使用され、例えば、水、高級アルコール、シリコーン系オイル、脂肪族炭化水素系オイル、芳香族炭化水素系オイル、脂環式炭化水素系オイル、ハロゲン系炭化水素系オイル、各種エステル、が用いられ、混ざり合うものであれば混合して用いても良い。
【0013】
次に、本発明のキーマテリアルである蛍光・りん光物質について説明する。
蛍光・りん光物質とは、励起光によって励起された電子が基底状態に戻るときに、その余分なエネルギーを光として放つ材料のことを言う。基底状態にある電子は、励起光によって一重項状態に遷移される。一重項状態から再び基底状態に戻る時に放たれる光を蛍光と言う。また、一重項状態から項間交差により一度三重項状態に移り、それから基底状態に戻る時に放たれる光をりん光と言う。
【0014】
蛍光物質とりん光物質は、上記のように原理上区別されるが、両者とも励起光を吸収して基底状態に戻る時に発光する、という目に見えた形の現象は同じである。厳密に言えば、発光寿命がりん光の方が長いという相違点はあるが、本発明で用いる産業上の利用分野においては、この相違は問題とならない。したがって、蛍光物質とりん光物質は、名称は異なるが、本発明の効果を得るため性能は同一のものと考えてよい。
【0015】
蛍光物質としては、アクリルオレンジ、9−アミノアクリジン、キナクリン、アリルナフタレンスルホン酸類、アンスロイルオキシステアリン酸、オーラミンO、シアニン色素類、ダンシルクロリド誘導体類、ジフェニルヘキサトリエン、エオシン、ε−アデノシン、エチジウムブロマイド、フルオレセイン系化合物、フォーマイシン、スチルベンジスルホン酸系化合物、NBD−ホスファチジルコリン、オキソノール色素類、パリナリン酸類、ペリレン、ペリレン誘導体、N−フェニル−1−ナフチルアミン、ピレン、ピレン誘導体、サフラニンOなどの有機系の蛍光染料、あるいはそれらが会合した有機系の蛍光顔料、BaSi:Pb、Sr:Eu、BaMgAl1627:Eu、MgWO、3Ca(PO・Ca(F,Cl):Sb,Mn、MgGa:Mn、ZnSiO:Mn、(Ce,Tb)MgAl1119、YSiO:Ce,Tb、Y:Eu、YVO:Eu、(Sr,Mg,Ba)(PO:Sn、3.5MgO・5MgF・GeO:Mnなどの無機系の蛍光顔料が挙げられる。
【0016】
りん光物質としては、CaAl:Eu,Nd、ZnS:Cu、ZnS:Cu,Co、SrAl:Eu,Dy、CaS:Eu,Tm、イリジウム錯体化合物(例えば、fac tris(2−phenypyridine) irdium)、2,3,7,8,12,13,17,18−octaethyl−21H,23H−porphyrin platinum(II)などのりん光材料が挙げられる。
【0017】
有機系の蛍光・りん光物質としては、ピレンおよびピレン誘導体、スチルベンジスルホン酸系化合物が、無機系の蛍光・りん光物質としては、Y:Eu、ZnSiO:Mn、MgGa:Mnが好ましく用いられる。多くの場合、繊維ユニット12を被覆している有機系材料21を、後述する溶融押出の方法によって、繊維表面を被覆するため、耐熱性の観点から後者の無機系のものがさらに好ましく用いられる。
【0018】
励起光の波長は、用いる蛍光・りん光材料により固有のもので、一概に決めることはできないが、多くのものは250〜400nmの範囲の波長の紫外光によって励起させることができる。その中でも、365nmの波長の近紫外光が、人体に対しても影響は少なく、最も好適に使用される。このような、250〜400nmの波長の紫外光は、市販のブラックライトを用いることで容易に得ることが可能である。また、いくつかの蛍光・りん光材料は、可視光によって励起されるものがあり、その場合はブラックライトを用いなくとも蛍光、りん光の発光を観察することができる。
【0019】
有機系材料21としては、紙との親和性に優れたものが好ましい。紙の主成分がセルロースであることを鑑みれば、セルロースとの親和性が高い材料を用いることが好ましい。セルロースとの親和性のパラメータとして、相溶性パラメータ、無機性値/有機性値(以下、I/O値とする)などの指標を用いることができる。例えば、セルロースとの親和性のパラメータとしてI/O値を用いた場合は、透明中空繊維の材料のI/O値が0.2〜3.0の範囲にあることが好ましい。I/O値の計算方法に関しては、非特許文献2に詳しく述べられている。
【非特許文献2】有機概念図 甲田善生著、三共出版(1984)
【0020】
また、上記のI/O値を満たす有機系材料21としては、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系共重合体(ABS系樹脂)、フッ素系樹脂(例えば、4フッ化エチレン樹脂)、シリコーン系樹脂、ナイロン系樹脂、塩化ビニル系樹脂などが具体的に挙げられる。その中でも特に、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂、フッ素系樹脂が、溶融押出が容易なこと、表面強度が十分等の理由により好ましく用いられる。
【0021】
また、有機系材料21の中でも、セルロイドやアセチルセルロースなども好適に用いられる。これらの材料は、特に紙との親和性が強い。セルロイドやアセチルセルロースなどからなる透明中空繊維ユニットを、本発明の偽造防止用紙から剥離しようとした場合、該透明中空繊維ユニットは紙からうまく剥がれず、むしろユニットそのものが壊れてしまう。したがって、偽造を目的とした繊維ユニット12の再利用が困難である。
【0022】
前記の透明中空繊維は長さとして0.5mmから50mm程度のものが使用できる。0.5mmより短いと、オバートとして用いるのに、観察しにくく好ましくない。一方、50mmより長くなると、紙に漉き込むのがむずかしくなる。
また、前記透明中空繊維は外径として10μmから500μm程度のものが使用できる。10μmより小さいと、オバートとして用いるのに、観察しにくく好ましくない。一方、500μmより大きくなると、紙に漉き込むのがむずかしくなる。
さらに、前記透明中空繊維は内径として5μmから490μm程度のものが使用できる。5μmより小さいと、オバートとして用いるのに、観察しにくく好ましくない。一方、490μmより大きくなると、外径が500μmの場合でも、外径に対して繊維の肉厚が薄すぎて脆くなり、内包物質が漏れてしまう場合がある。
【0023】
前記透明中空繊維の外径と、本発明の偽造防止用紙の紙厚との差は、10μm以上であることが好ましい。この差が10μmより大きいと、偽造防止用紙の表面に透明中空繊維ユニットの部分だけ著しく凸部が形成されているため、印刷工程などの後工程で問題が生じてしまう場合がある。
【0024】
繊維ユニット12の中心は、接触または非接触センサーによって検出することが可能であれば特に制限されないが、好ましくは、銅、アルミニウム、鉄、コバルト、およびこれらを一種以上含む化合物よりなる群から選ばれる材料によって作られた導線もしくは金属ワイヤーが用いられる。例えば、銅、アルミニウム、またはそれらを一種以上含む化合物は金属探知機によって、鉄、コバルト、またはそれらを一種以上含む化合物は磁気センサーによって検知することができる。
【0025】
本発明で用いられる接触または非接触センサーとは、検出対象物がセンサー部を通過したときに、検出対象物がない場合と比較して、センサー内部に流れている電圧もしくは電流が変化するものであれば特に制限されない。上記のようなセンサーとしては、過電流式金属センサー、GaAsホール素子、半導体磁気抵抗素子、強磁性体磁気抵抗素子などが挙げられるが、特に制限はされない。
【0026】
さらに、鉄、コバルトを主成分として、ケイ素、ホウ素、クロム、モリブデン、ニッケルの少なくとも2成分を有する合金からなる磁性ワイヤーが下記のように特異な性質を示すので好適に用いられる。このような合金は軟磁性材料と呼ばれ、振動磁界を印加すると磁化反転を繰り返すという大バルクハウゼン効果と呼ばれる現象が観られることが特徴である。電磁石コイルによって作製した検出器を近づけると、磁化反転によってコイルにパルス状の電圧を検出することができる。大バルクハウゼン効果は、かなり遠距離でも作用することが知られており、例えば出入り口のゲートの片方に振動磁場発生器、もう片方に電磁石コイルを置くことで、この磁性ワイヤーがゲートを通過したかどうかを検出することもできる。
【0027】
次に、繊維そのものが蛍光またはりん光物質を含む有機系材料で、かつ該繊維の中心が中空になっていて、その内部に表示材料および/または記録材料が内包されている繊維ユニット12について説明する。
内包される表示材料および/または記録材料32としては、無機系粒子、有機ポリマー粒子、無機・有機複合粒子などが使用されるが、特に、これらに制限されるわけではない。無機系粒子としては、酸化チタン、水酸化チタン、亜鉛華、硫化亜鉛、酸化アンチモン、炭酸カルシウム、鉛白、タルク、シリカ、ケイ酸カルシウム、アルミナホワイト、カドミウムイエロー、カドミウムレッド、カドミウムオレンジ、チタンイエロー、紺青、群青、コバルトブルー、コバルトグリーン、コバルトバイオレット、酸化鉄、カーボンブラック、マンガンフェライトブラック、コバルトフェライトブラック、銅粉、アルミニウム粉などが挙げられる。有機ポリマー粒子としては、ウレタン系、ナイロン系、フッ素系、シリコーン系、メラミン系、フェノール系、スチレン系、スチレン−アクリル系、ウレタン−アクリル系などが挙げられる。また、スチレン−アクリル系から成る中空粒子も挙げられる。これらの粒子は顔料や染料により着色されたものであっても良い。また、球の半球が黒色、もう一方の半球が白色の二色粒子を用いても良い。
【0028】
前記表示材料および/または記録材料としては、磁界または電界によって、人が認識できる変化が生じる材料であることが必要である。ここで言う変化とは、白黒の変化、すなわちコントラストが確認できること、粒子が移動している様子が確認できること、などである。
【0029】
前記表示材料およびまたは/記録材料に印加する磁界の大きさとしては、0.8T(テスラ)以下、好ましくは0.5T以下である。0.8Tより大きい磁界は、あまりに磁界が強すぎて、他の電子機器などに悪影響を及ぼす場合がある。また、印加する電界の強さとしては、1000V以下、好ましくは600V以下である。1000Vより大きい電界を印加すると、偽造防止用紙そのものに悪影響を及ぼす場合がある。
【0030】
繊維ユニットに内包する固体の中でも、特に磁性粉は好適に用いられる。磁性粉は表示材料としてオバート機能を発現し、記録材料としてコバート機能を発現するからである。ここで言う磁性粉とは、磁性体単独、或いは2種以上の磁性体の混合、又は磁性体とポリマーからなる混合物などからなり、例えばマグネタイト、フェライトをはじめとする鉄、コバルト、ニッケルなどの強磁性を示す金属、あるいはこれらの元素を含む合金、または化合物(例えば酸化物など)の微粒子が挙げられる。
【0031】
図3では、これに限定されるものではないが、表示材料および/または記録材料23として黒色粒子が例示されている。例えば、黒色粒子が磁性粉である場合、磁性粉が表示材料として観察されるので、オバート機能を発現する。また、磁界、もしくは電界の印加によって磁性粉が移動するという独特の効果もある。一方、磁気センサーなどに検知される記録材料として働き、コバート機能を発現する。
【0032】
次に、本発明の偽造防止用紙11の用紙の原料となるパルプ繊維について説明する。パルプ繊維としては、針葉樹や広葉樹などの木材パルプからなる植物繊維、イネ、エスパルト、バガス、麻、亜麻、ケナフ、カンナビスなどの非木材パルプからなる植物繊維、またはポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリアクリレート、ポリ塩化ビニルなどのプラスチックから作られた合成繊維などが用いられる。
本発明に用いる用紙は、原料である前記のパルプ繊維を水中にて叩解し、抄いて絡ませた後、脱水・乾燥させて作られる。このとき、紙は主成分であるセルロースの水酸基間の水素結合により繊維間強度が得られる。また、紙に用いる填料としてはクレー、タルク、炭酸カルシウム、二酸化チタンなどがあり、サイズ剤としてはロジン、アルキルケテンダイマー、無水ステアリン酸、アルケニル無水こはく酸、ワックスなどがあり、紙力増強剤には変性デンプン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂、尿素−ホルムアルデヒド、メラミン−ホルムアルデヒド、ポリエチレンイミンなどがあり、これらの材料をそれぞれ抄紙時に加え、主として長網抄紙機で抄造する。
また、植物繊維以外の例えば合成繊維を混入した紙の場合は、合成繊維間に水素結合などの結合力を持たないため結着剤を必要とすることが多いので、合成繊維比率と結着剤量は、紙の強度を落とさない程度に適宜決めるのが望ましい。
【0033】
次に本発明の偽造防止用紙の製造法について説明する。
繊維ユニット12は、例えば、以下のようにして製造できる。図4および図5には、溶融押出機の概念図を示す。図4は横から見た図、図5は上から見た図である。ペレット状になった蛍光またはりん光物質を含む有機系材料21は、ホッパー43より溶融押出機41に供給される。溶融押出機内で加熱され、蛍光またはりん光物質を含む有機例材料21は溶融し、スクリュー42によって混錬される。その後、スリット44より押し出され、金属ワイヤー45と接触し、冷却されながら均一に被覆されていく。
【0034】
図5は、溶融押出機41を上から見た図である。金属ワイヤー45の流れ方向は、紙面の下から上である。スリット44より押し出された有機系材料21は、この部分で金属ワイヤーと接触し、冷却しながら金属ワイヤーを被覆する。
【0035】
上記の製造方法では、有機系材料21内の蛍光またはりん光物質の分布はほぼ均一となっているが、分布の仕方は特に限定されない。蛍光またはりん光物質は、有機系材料中の表面に局在化してもよいし、中心の方に局在化されていてもよい。したがって、例えば、図4、図5の方法によって蛍光またはりん光物資を含まない繊維ユニットを作製しておき、あとから、繊維ユニットの表面にスプレー法などの塗布法によって、蛍光またはりん光物質を塗布するという製造方法を用いることもできる。この製造方法によって作製された繊維ユニット12における蛍光またはりん光物質は、繊維ユニットの表面に局在化している状態になっている。
【0036】
繊維そのものが蛍光またはりん光物質を含む有機系材料で、かつ該繊維の中心が中空になっていて、その内部に表示材料および/または記録材料が内包されている繊維ユニット12の製造方法は、例えば、以下のようにして製造できる。略同心円状の二層構造のポリマー繊維を溶融紡糸法などにより製造し、該繊維を延伸して外径10〜500μm程度の繊維を得る。このときに、内層は成形後に水洗や有機溶剤などで溶解する樹脂である。溶解によって内層の樹脂を取り除くことにより、中空繊維を得ることができる。あるいは、内層の溶解性樹脂の代わりに予め流体を導入しておけば、後から樹脂を取り除く必要がなくなり、より簡便に中空繊維を製造することが可能になる。この際導入する流体としては、空気や窒素ガスのような気体が好ましい。
次に、予め内包する物質を用意しておき、内包物質を前記透明中空繊維に含浸する。具体的には、中空繊維を多数本束ねてチャンバー内に置き、チャンバーを真空に引き、続いて、内包物質をチャンバー内に導入することにより、該内包物質で中空繊維を充満することができる。
あるいは、図6に示すような押出成型機を用いて、表示材料や記録材料を内包した繊維ユニット12を一時に作製することも可能である。図6で押出用ノズルは、ノズル部1およびノズル部2を有する。ノズル部1は、内包物質を押出す部分であり、ノズル部2は、透明中空繊維用材料を押出す部分である。このようなノズルを使用して、加熱しながら同時に押出し、延伸して所定の直径になるように延伸して繊維化する。
【0037】
繊維そのものが蛍光またはりん光物質を含む有機系材料で、かつ該繊維の中心が中空になっていて、その内部に表示材料および/または記録材料が内包されている繊維ユニット12を用いた場合は、内包した物質が漏れないように、あるいは異物が混入しないように、繊維末端を封止する必要がある。封止には、接着剤を用いる方法、加熱により繊維材料を溶解させる熱融着方法、レーザー光で透明中空繊維を断裁すると同時に封止も行う方法などがある。
接着剤としては、水系接着剤、エマルジョン系接着剤、溶剤系などの一般に公知の接着剤が適宜使用されるが、溶剤系の接着剤が好ましく用いられる。例えば、ウレタン系、エポキシ系、ポリエステル系、アルキド系、アミド系、アクリル系などの接着剤が使用できる。また、UV硬化樹脂のような特殊な接着剤を用いてもよい。
加熱により中空繊維材料を溶解させる方法では、一般にカッターの刃に熱したヒートカッターが用いられる。
またレーザー光を用いる方法では、炭酸ガスレーザー(COレーザー)、イットリウム−アルミニウム−ガーネット結晶レーザー(YAGレーザー)、半導体レーザーなどが利用できる。
【0038】
前記繊維ユニット12を混入した偽造防止用紙の抄紙方法は、通常の植物繊維紙の製造に用いられる方法でよく、原料濃度を0.01〜5%、好ましくは0.02〜2%の水希釈原料で十分に膨潤させた繊維をよく混練し、スダレ・網目状のワイヤーなどに流して並べて搾水後、加温により水分を蒸発させて作られる。
抄紙後は必要に応じて、クリヤ塗工、ラミネート処理、抄合せなどの処理を施してもよい。
【0039】
前記繊維ユニット12を確実に抄き込むために、一度偽造防止用紙のシートを形成した後に、さらに別な紙を抄き合わせることもできる。この場合、乾燥工程まで終了したドライの偽造防止用紙の上に、前記植物繊維の水希釈原料を載せて、抄き合せをする方法、もしくは乾燥前のウェットの状態の偽造防止用紙のシート上に、さらに水希釈原料を載せて抄き合せをする多層抄きの方法などを用いることができる。製造コストの観点から、後者の多層抄きの方法を用いることが好ましい。
【0040】
多層抄きの方法については特に限定はされないが、例えば図7のような方法を用いることができる。図7は、円網ワイヤー71、傾斜ワイヤー72、繊維ユニット供給ボックス73、植物繊維の水希釈原料74、ウェットシートを誘導するためのカンバス75からなる。まず、円網ワイヤー71によって植物繊維の水希釈原料74のウェットシートが出来上がる。このウェットシートは、繊維ユニット供給ボックス73に達するまである程度脱水される。このウェットシートの上に、繊維ユニット供給ボックス73より繊維ユニット12がランダムにばら撒かれる。繊維ユニット12は、予め円網ワイヤー71内の水希釈原料74の中に混練されていても良く、この場合繊維ユニット供給ボックス73は必ずしも必要ではない。このようにして出来たウェットシートの上に、さらに傾斜ワイヤー72によってもう一層ウェットシートが載せられて、乾燥工程へ送られる。このような多層抄きは、各種特殊紙の製造方法として、一般的に行われている方法の一つである。
【0041】
本発明の偽造防止策が施された偽造防止用紙11への印刷は、従来の紙の場合と同じ設備と方法が使用可能である。すなわち、オフセット印刷法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、凸版印刷法、凹版印刷法などの印刷法で文字や絵柄を印刷することができる。
【0042】
本発明の偽造防止用紙11の断裁加工は、内包物質を混入した繊維ユニット12が漉き込まれているため、断裁前に断裁部分を熱融着加工し、内包物質が外に漏れないよう注意する必要がある。
【0043】
本発明の偽造防止用紙11は、専用機器を用いて真贋判定することもできる。すなわち、オバートとコバートを両立するものである。なお、ここで言う専用機器とは、磁気センサーや金属センサー、紫外線、赤外線鑑定機などを含むが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。なお実施例中の「%」は、特に断らない限り、「質量%」を意味する。
【0045】
<蛍光物質の合成>
酸化亜鉛(東京化成試薬、特級)0.4g、一酸化マンガン(東京化成試薬、特級)0.004gを100mlビーカーに入れ、蒸留水約10mL添加した。次に濃硝酸(関東化学試薬、特級)1mLを添加し攪拌し、酸化物を溶解させた。別のビーカーに水ガラス(関東化学試薬、特級)20mLとり、そこに、先ほど亜鉛とマンガンを溶解させた硝酸塩水溶液を添加した。生成した沈殿を吸引ろ過し、沈殿物を105℃で15分間乾燥させた。乾燥した沈殿物を、今度は磁性るつぼに移し、800℃の電気炉で約1時間加熱した。1時間経過した後、電気炉から磁性るつぼを取り出し、温度が室温に下がるまで放置した。こうして、365nmの励起光によって、緑色に発光する蛍光物質(Zn2SiO4:Mn)を得た。
【0046】
<りん光物質の合成>
水酸化ストロンチウム八水和物(関東化学試薬、特級)5g、水酸化アルミニウム(関東化学試薬、特級)2.93gの混合物に、予め調製した酢酸ユーロピウム(III)の1mmol/L水溶液200mLを混合し、さらにエタノール(関東化学試薬、特級)を加えてよく混合し、室温下で乾燥させた。その後、混合物を磁性るつぼに移し、1500℃の電気炉中に水素ガス気流中で約1時間加熱した。1時間経過した後、電気炉から磁性るつぼを取り出し、温度が室温に下がるまで放置した。こうして、365nmの励起光によって、黄緑色に発光するりん光物質(SrAl:Eu)を得た。
【0047】
実施例1
<繊維ユニットの製造>
I/O値=2.3のポリカーボネート樹脂のペレット100質量部に対して、上記の蛍光物質の合成で作製した蛍光物質を0.1質量部混合し、物理的に均一になるまで攪拌した。この混合物を図4の溶融押出機41のホッパー43から投入し、押出温度250℃で押し出した。金属ワイヤーは、直径40μmの銅線を使用した。押出後、繊維を約15mmにカットした。この方法によって外径80μmの繊維ユニット12を製造することができた。
<偽造防止用紙の作製>
用紙の原料としては、水中で濃度が0.5%の針葉樹クラフトパルプ(叩解度:430ccCSF)に紙力増強剤(商標:AF−255、荒川化学工業製)を絶乾パルプ当り0.1%添加した紙料を用いた。この紙料に、前記繊維ユニットを混入し、実験用手すきマシンで坪量80g/mの紙を抄紙した。乾燥は回転式ドライヤーを使用し90℃で行った。透明中空繊維ユニットが紙の前面に一様に分散し、該透明中空繊維ユニットが完全に紙中に漉き込まれた偽造防止用紙を得た。本偽造防止用紙の紙厚は150μmであった。
【0048】
実施例2
実施例1の繊維ユニットの製造において、直径40μmの銅線の代わりに、直径40μmの軟磁性材料から構成される磁性ワイヤー(構成元素:コバルト、鉄、ニッケル、ホウ素、ケイ素)を使用した以外は、実施例1と同様の方法で偽造防止用紙を得た。
【0049】
実施例3
実施例1の繊維ユニットの製造において、ポリカーボネート樹脂の代わりに、I/O値0.7のポリエステル樹脂を用いた以外は、実施例1と同様の方法で偽造防止用紙を得た。
【0050】
実施例4
<繊維ユニットの製造>
I/O値0.22のエチレン・テトラフロロエチレン樹脂のペレット100質量部に対して、上記蛍光物質の合成で作製した蛍光物質を0.1質量部混合し、物理的に均一になるまで攪拌した。この混合物を図4の溶融押出機41のホッパー43から投入し、押出温度400℃で押し出した。金属ワイヤーは、直径40μmの銅線を使用した。押出後、繊維を約15mmの長さにカットした。この方法によって外径80μmの繊維ユニットを製造することができた。
<偽造防止用紙の作製>
用紙の原料としては、水中で濃度が0.5%の針葉樹クラフトパルプ(叩解度:430ccCSF)に紙力増強剤(商標:AF−255、荒川化学工業製)を絶乾パルプ当り0.1%添加した紙料を用いた。この紙料に、前記繊維ユニットを混入し、実験用手すきマシンで坪量80g/mの紙を抄紙した。乾燥は回転式ドライヤーを使用し90℃で行った。透明中空繊維ユニットが紙の前面に一様に分散し、該透明中空繊維ユニットが完全に紙中に漉き込まれた偽造防止用紙を得た。本偽造防止用紙の紙厚は150μmであった。
【0051】
実施例5
実施例1の繊維ユニットの製造において、蛍光物質の代わりに、上記りん光物質の合成で作製したりん光物質を用いた以外は、実施例1と同様の方法で偽造防止用紙を得た。
【0052】
実施例6
<内包物質の作製>
磁性粉(商標:BL−100、チタン工業製、平均粒子径0.4μm)10g、酸化チタン(商標:TITANIX JRNC、テイカ製、平均粒径0.3μm)5gを乳鉢で物理的に混合した。次に、容量200mlのビーカーに、蒸留水83g、分散剤としてポリカルボン酸ナトリウム(商標:SNディスパーサント5045、サンノプコ製)の10%水溶液2gを混合し、溶媒を調製した。混合した溶媒中に、スパチュラで攪拌しながら磁性粉と酸化チタンの混合物25g全量を添加し、さらに15分間超音波処理を行い内包物質を得た。
<繊維ユニットの作製>
I/O値0.7のポリエステル樹脂100質量部に対して、上記蛍光物質の合成で作製した蛍光物質を0.1質量部を混合し、物理的に均一になるまで攪拌した。図6の溶融押出成型機を用い、ノズルの中心部のガス吐出孔から窒素ガスを流しつつ、該中心部の周りのノズルから、先ほど蛍光物質と混合したポリエステル樹脂を押し出した。押出機温度は250℃にし、窒素ガスをほぼ大気圧に保った。溶融したポリエステル樹脂の押出し速度は0.15kg/hrであった。押出機出口の溶融繊維を引き伸ばし、外径100μm、内径70ミクロンの中空の繊維を得た。
続いて、前記繊維ユニットを多数本束ねてチャンバー内に置き、チャンバーを真空に引き、前記内包物質をチャンバー内に導入することにより、該分散液で繊維ユニットを充満した。
【0053】
<繊維ユニットの両末端の封止>
前記分散液を内包する繊維ユニットを、刃を熱したカッターを用いて、カット長が概ね15mmになるように切断した。切断時に繊維ユニットの切断面部分が溶かされながら潰れることにより端部はシールされ、内部に磁性粉と酸化チタンを有する繊維ユニットが形成できた。このとき繊維ユニットを曲げてみたが、繊維ユニットが壊れることはなく、したがって内部の分散液が漏れるようなことはなかった。
【0054】
<偽造防止用紙の作製>
用紙の原料としては、水中で濃度が0.5%の針葉樹クラフトパルプ(叩解度:430ccCSF)に紙力増強剤(商標:AF−255、荒川化学工業製)を絶乾パルプ当り0.1%添加した紙料を用いた。この紙料に、前記繊維ユニットを混入し、実験用手すきマシンで坪量80g/mの紙を抄紙した。乾燥は回転式ドライヤーを使用し90℃で行った。透明中空繊維ユニットが紙の前面に一様に分散し、該繊維ユニットが完全に紙中に漉き込まれた偽造防止用紙を得た。本偽造防止用紙の紙厚は150μmであった。
【0055】
実施例7
<繊維ユニットの製造>
I/O値2.3のポリカーボネート樹脂のペレット100質量部に対して、上記の蛍光物質の合成で作製した蛍光物質を0.1質量部混合し、物理的に均一になるまで攪拌した。この混合物を図4の溶融押出機41のホッパー43から投入し、押出温度250℃で押し出した。金属ワイヤーは、直径40μmの銅線を使用した。押出後、繊維を約15mmにカットした。この方法によって外径80μmの繊維ユニット12を製造することができた。
<偽造防止用紙の作製>
用紙の原料としては、水中で濃度が0.5%の針葉樹クラフトパルプ(叩解度:430ccCSF)に紙力増強剤(商標:AF−255、荒川化学工業製)を絶乾パルプ当り0.1%添加した紙料を用いた。この紙料を坪量40g/mとなるような所定の量とり、実験用手すきマシンに仕込み、脱水してシート化した。このシート化したものを脱水、乾燥を行う前に、前記繊維ユニットを紙表面上にばら撒いた。さらにこの上に、坪量40g/mとなるように所定量の紙料を上から添加し、脱水してシート化した。さらに、90℃の回転式ドライヤーで乾燥した。こうして、繊維ユニットが紙の前面に一様に分散し、該透明中空繊維ユニットが完全に紙中に漉き込まれた偽造防止用紙を得た。本偽造防止用紙の紙厚は155μmであった。
【0056】
比較例1
<偽造防止用紙の作製>
用紙の原料としては、水中で濃度が0.5%の針葉樹クラフトパルプ(叩解度:430ccCSF)に紙力増強剤(商標:AF−255、荒川化学工業製)を絶乾パルプ当り0.1%添加した紙料を用いた。この紙料に、長さ約15mmにカットした銅線(直径80μm)を混入し、実験用手すきマシンで坪量80g/mの紙を抄紙した。乾燥は回転式ドライヤーを使用し90℃で行った。透明中空繊維ユニットが紙の前面に一様に分散し、該透明中空繊維ユニットが完全に紙中に漉き込まれた偽造防止用紙を得た。本偽造防止用紙の紙厚は150μmであった。
【0057】
比較例2
<繊維ユニットの製造>
I/O値2.3のポリカーボネート樹脂のペレットを、図4の溶融押出機41のホッパー43から投入し、押出温度250℃で押し出した。金属ワイヤーは、直径40μmの銅線を使用した。この方法によって外径80μmの繊維ユニット12を製造することができた。
<偽造防止用紙の作製>
用紙の原料としては、水中で濃度が0.5%の針葉樹クラフトパルプ(叩解度:430ccCSF)に紙力増強剤(商標:AF−255、荒川化学工業製)を絶乾パルプ当り0.1%添加した紙料を用いた。この紙料に、前記繊維ユニットを混入し、実験用手すきマシンで坪量80g/mの紙を抄紙した。乾燥は回転式ドライヤーを使用し90℃で行った。透明中空繊維ユニットが紙の前面に一様に分散し、該透明中空繊維ユニットが完全に紙中に漉き込まれた偽造防止用紙を得た。本偽造防止用紙の紙厚は150μmであった。
【0058】
比較例3
<内包物質の作製>
磁性粉(商標:BL−100、チタン工業製、平均粒子径0.4μm)10g、酸化チタン(商標:TITANIX JRNC、テイカ製、平均粒径0.3μm)5gを乳鉢で物理的に混合した。次に、容量200mlのビーカーに、蒸留水83g、分散剤としてポリカルボン酸ナトリウム(商標:SNディスパーサント5045、サンノプコ製)の10%水溶液2gを混合し、溶媒を調製した。混合した溶媒中に、スパチュラで攪拌しながら磁性粉と酸化チタンの混合物25g全量を添加し、さらに15分間超音波処理を行い内包物質を得た。
<繊維ユニットの作製>
図6の溶融押出成型機を用い、ノズルの中心部のガス吐出孔から窒素ガスを流しつつ、該中心部の周りのノズルから、I/O値0.7のポリエステル樹脂を押し出した。押出機温度は250℃にし、窒素ガスをほぼ大気圧に保った。溶融したポリエステル樹脂の押出し速度は0.15kg/hrであった。押出機出口の溶融繊維を引き伸ばし、外径100μm、内径70ミクロンの中空の繊維を得た。
続いて、前記繊維ユニットを多数本束ねてチャンバー内に置き、チャンバーを真空に引き、前記内包物質をチャンバー内に導入することにより、該分散液で繊維ユニットを充満した。
【0059】
<繊維ユニットの両末端の封止>
前記分散液を内包する繊維ユニットを、刃を熱したカッターを用いて、カット長が概ね15mmになるように切断した。切断時に繊維ユニットの切断面部分が溶かされながら潰れることにより端部はシールされ、内部に磁性粉と酸化チタンを有する繊維ユニットが形成できた。このとき繊維ユニットを曲げてみたが、繊維ユニットが壊れることはなく、したがって内部の分散液が漏れるようなことはなかった。
【0060】
<偽造防止用紙の作製>
用紙の原料としては、水中で濃度が0.5%の針葉樹クラフトパルプ(叩解度:430ccCSF)に紙力増強剤(商標:AF−255、荒川化学工業製)を絶乾パルプ当り0.1%添加した紙料を用いた。この紙料に、前記繊維ユニットを混入し、実験用手すきマシンで坪量80g/mの紙を抄紙した。乾燥は回転式ドライヤーを使用し90℃で行った。透明中空繊維ユニットが紙の前面に一様に分散し、該繊維ユニットが完全に紙中に漉き込まれた偽造防止用紙を得た。本偽造防止用紙の紙厚は150μmであった。
【0061】
比較例4
用紙の原料として、水中で濃度が0.5%の針葉樹クラフトパルプ(叩解度:430ccCSF)に紙力増強剤(商標:AF−255、荒川化学工業製)を絶乾パルプ当り0.1%添加した紙料を用いた。この紙料を、実験用手すきマシンで坪量80g/m2の紙を抄紙した。乾燥は回転式ドライヤーを使用し90℃で行った。用紙の紙厚は150μmであった。
【0062】
<繊維ユニットの抄き込まれ具合>
紙中に抄き込まれている繊維ユニットが、どのくらい強く紙と複合化しているかを確認するために、粘着テープによるピック試験を行った。繊維ユニットが抄き込まれている部分に粘着テープをきちんと貼って剥がしたときに、繊維ユニットが紙から離れてとれてしまうかどうかを確認した。10回試験を行った。
10回中剥がれたのが1回以下 ○
10回中剥がれたのが2〜4回 △
10回中5回以上剥がれた ×
【0063】
<発光の確認>
実施例、比較例によって作製した偽造防止用紙に波長365nmのブラックライトを当て、蛍光物質またはりん光物質由来の発光が観察されるかどうかを目視で確認した。
発光が観察される ○
発光が観察されない ×
【0064】
<機械での真贋判定>
機械での真贋判定が可能かどうかを確認するために、図8のような装置を作製した。この装置は、金属センサー81、波長365nmのブラックライト82、可視光センサー83、LEDランプ84、紙送りをするためのローラー85からなる。各センサーから信号を検知すると、LEDランプが光るようになっている。金属センサー81、可視光センサー83、両方とも検知した場合に真正品と判定した。どちらか一方、もしくは両方とも検知されなかった場合は偽造品と判定した。
判定方法
両方のセンサーで検知 ○
金属センサーのみ検知可能で、実用上問題がある △
両方とも検知しなかった場合×
【0065】
<偽造防止の効果>
【0066】
【表1】

<磁界印加による磁性粉の動きの確認>
実施例5および比較例3の偽造防止用紙に関しては、偽造防止用紙に波長365nmのブラックライトを当てながら、磁束密度24mTの磁石を当てることによって、磁性粉の動きが目視で確認できるかどうかを見た。
判定方法
確認できた場合 ○
確認しにくく実用上問題がある △
全く確認できなかった場合 ×
【0067】
<電界印加による磁性粉の動きの確認>
実施例5および比較例3の偽造防止用紙に関しては、300μmのセルギャップのITOガラス電極に挟み込み、直流電源装置(商標:ジェネレーター8026に商標:増幅器A800(いずれも東陽テクニカ製)を接続したもの)を接続した。波長365nmのブラックライトを当てながら、直流電源装置より電圧100Vの直流パルス(周波数は1Hz)をITOガラスに印加し、磁性粉の動きが目視で確認できるかどうかを見た。
判定方法
確認できた場合 ○
確認しにくく実用上問題がある △
全く確認できなかった場合 ×
【0068】
<偽造防止の効果>
【0069】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、例えば前記実施例のように、ブラックライトを当てるといった非常に簡単な方法によって、人間が容易に真贋判定することができる偽造防止用紙を提供することができる。また同時に、非常に簡単な真贋判定装置によって、機械による真贋判定も可能である。このように、本発明の偽造防止用紙は、最小限のコストで最大限の偽造防止効果が得られるものであり、産業上の利用価値は高い。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の偽造防止用紙の概念図
【図2】本発明の繊維ユニットの概念図
【図3】本発明の繊維ユニットの断面図
【図4】本発明の溶融押出機を横から見た概念図
【図5】本発明の溶融押出機を上から見た概念図
【図6】本発明の押出し成型機の概念図
【図7】本発明の多層抄きの製造方法の一例
【図8】本発明の真贋判定機の概念図
【符号の説明】
【0072】
11:本発明の偽造防止用紙の一例
12:本発明の繊維ユニットの一例
21:蛍光またはりん光物質が含まれている有機系材料
22:接触または非接触で検出することができる繊維
31:溶媒
32:表示材料および/または記録材料
34:封止された両末端の概念図
41:溶融押出機
42:スクリュー
43:ホッパー
44:スリット
45:金属ワイヤー
71:円網ワイヤー
72:傾斜ワイヤー
73:透明中空繊維ユニット供給ボックス
74:植物繊維の水希薄原料
75:ウェットシートを誘導するためのカンバス
81:金属センサー
82:波長365nmのブラックライト
83:可視光センサー
84:LEDランプ
85:紙送り用のローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接触または非接触センサーによって検出することが可能な繊維が紙中に抄き込まれている偽造防止用紙において、繊維表面が有機系材料で被覆されており、該有機系材料中に蛍光物質およびりん光物質から選ばれた少なくとも一種が含まれていることを特徴とする偽造防止用紙。
【請求項2】
前記繊維の中心部が、銅、アルミニウム、鉄、コバルト、およびこれらを一種以上含む化合物よりなる群より選ばれる材料によって作られた金属ワイヤーである請求項1記載の偽造防止用紙。
【請求項3】
接触または非接触センサーによって検出することが可能な繊維が紙中に抄き込まれている偽造防止用紙において、繊維自体が蛍光物質およびりん光物質を含む有機系材料からなり、かつ該繊維は中空繊維であり、前記中空繊維の中空部に表示材料および/または記録材料が内包されていることを特徴とする偽造防止用紙。
【請求項4】
前記有機系材料の無機性値/有機性値(I/O値)が0.2〜5.8の範囲にある請求項1〜3記載の偽造防止用紙。
【請求項5】
前記有機系材料が、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ナイロン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂およびフッ素系樹脂から選ばれた少なくとも一種からなる請求項1〜4記載の偽造防止用紙。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−111207(P2008−111207A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−295083(P2006−295083)
【出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】