説明

像加熱装置及び画像形成装置

【課題】短いウォームアップ時間で、均一で光沢ある定着画像を得ることができ、また、紙詰まりや、紙粉、埃の混入など不慮のトラブルに対しても高い安全性を確保した像加熱装置及び画像形成装置を提供する。
【解決手段】記録材P上の未定着トナー画像を加熱部材30と加圧部材60により形成されるニップ部Ntを通過させることにより記録材P上に固着画像として加熱定着する像加熱装置において、マイクロ波発生装置21を備え、加熱部材30は、マイクロ波発生装置21のマイクロ波によって発熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真技術や静電記録技術を用いたプリンタや複写機、ファクシミリ等の画像形成装置に搭載され、記録材上の未定着画像を定着する加熱定着装置として好適に使用される像加熱装置、及び、斯かる像加熱装置を使用した画像形成装置に関する。
【0002】
また、像加熱装置は、記録材に定着された画像を加熱することにより画像の光沢度を増大させる光沢増大装置としても好適に使用することができる。
【背景技術】
【0003】
従来、画像形成装置において、記録材上に形成担持させた未定着トナー画像を永久固着画像として加熱定着する装置としては接触加熱型の像加熱装置が汎用されている。この接触加熱型の定着装置は、記録材に接触する表面の温度を所定の定着温度に加熱した加熱部材(以下、「定着ローラ」と記す。)を記録材に対してニップ部にて接触させて、記録材上の未定着トナー画像を永久固着画像として加熱定着するものである。
【0004】
定着ローラの加熱方式としては、内部加熱方式と、外部加熱方式(表面加熱方式)がある。内部加熱方式は、定着ローラの内部に加熱手段(加熱源:ヒータ)を配設し、定着ローラを内側から加熱して定着ローラの表面を所定の定着温度に加熱するものである。
【0005】
外部加熱方式は、定着ローラの外部に加熱手段を配設し、定着ローラを外側から加熱して定着ローラの表面を所定の定着温度に加熱するものである。
【0006】
外部加熱方式の装置は、セラミックヒータやハロゲンランプを内蔵した小径の加熱ローラなどの低熱容量の加熱手段により定着ローラを外側より加熱するため、定着ローラの表面を急激に昇温させることが可能である。そのために、ウォームアップ時間が内部加熱方式の装置に比べ短縮される。
【0007】
外部加熱方式には、定着ローラ表面に小径の加熱ローラを当接させる接触式のものなどが提案されているが、接触式の場合、定着ローラに付着したトナーなどが加熱ローラへ転移して汚染する問題がある。また加熱ローラと定着ローラの当接面積が広くとるのが難しく、熱伝達効率が悪く、ウォームアップ時間が長くなってしまう問題があった。
【0008】
そこで、定着ローラ外部に非接触で配置されたハロゲンランプ(加熱手段)の輻射により、定着ローラの表面を加熱する方式が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
ハロゲンランプ自体は熱容量も小さく、迅速な立ち上がりが可能であり、また、放射光を反射材などを用いて集光させることにより、定着ローラ表面へ効率よく熱伝達が可能である。また、非接触なので定着ローラ表面に付着したトナーなどの汚染が加熱手段へ転移し、蓄積する問題もない。
【0010】
また、定着ローラの外側に配置された誘導加熱手段によって、定着ローラ表面近傍に設けられた導体に渦電流を発生させ、加熱する方式も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2000−47507号公報
【特許文献2】特開平7−295414号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来のハロゲンランプなどを用いた光や熱を直接定着に伝える方法では、定着ローラとハロゲンランプの間に、記録材や紙紛、埃など可燃性の物質が侵入した場合、それらも加熱され、加熱された記録材が発煙、発火を起こす虞があった。
【0012】
トナーなどにより形成された未定着画像を記録材上に加熱定着する定着装置などでは、加熱定着される記録材が薄く、剛性がないため、トナーの粘着性によって定着ローラ面へ記録材が貼り付き、定着ローラに巻き付く可能性がある。また、紙から剥離した紙紛などは定着ローラに付着する。このため、装置の安全性が確保し難いという問題があった。
【0013】
一方、誘導加熱を用いた外部加熱方式では、定着ローラ表層近傍に設けられた渦電流を発生させる低抵抗の金属部材が発熱するため、このような発火発煙の問題はない。
【0014】
しかし、近年、画像形成装置では、高画質化が要求され、特にカラートナー画像用の加熱定着装置などでは、記録材の凹凸に追従して、記録材表面上の未定着トナーを均一に押し潰すことができるよう、定着ローラ表面は弾性を持つことが要求されている。
【0015】
定着ローラ表面に誘導加熱を起こすための金属層を設けたのでは、表面が硬くなり、追従性がなくなってしまう。表面を軟らかくするために、金属層は内側に設け、その外側に弾性層を持たせた構成とした場合、内部金属基部からの発熱を外側の弾性層を介して表面から伝熱させることとなり、弾性層が熱伝達の妨げとなる。そのため、定着ローラ表面温度の上昇が遅くなり、ウォームアップ時間が長くなってしまうという問題があった。
【0016】
本発明は、上記の従来技術の問題点を解決するためになされたものである。
【0017】
つまり、本発明の目的は、短いウォームアップ時間で、均一で光沢ある定着画像を得ることができ、また、紙詰まりや、紙粉、埃の混入など不慮のトラブルに対しても高い安全性を確保した像加熱装置及び画像形成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的は本発明に係る像加熱装置及び画像形成装置にて達成される。要約すれば、本発明の一態様によれば、記録材上の未定着トナー画像を加熱部材と加圧部材により形成されるニップ部を通過させることにより記録材上に固着画像として加熱定着する像加熱装置において、
マイクロ波発生装置を備え、
前記加熱部材は、前記マイクロ波発生装置のマイクロ波によって発熱することを特徴とする像加熱装置が提供される。
【0019】
本発明の他の態様によれば、記録材に未定着トナー画像を形成する画像形成手段と、この未定着トナー画像を記録材に熱定着させる定着装置とを備えた画像形成装置において、
前記定着装置は、上記構成の像加熱装置であることを特徴とする画像形成装置が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明の像加熱装置及び画像形成装置によれば、短いウォームアップ時間で、均一で光沢ある定着画像を得ることができ、また、紙詰まりや、紙粉、埃の混入など不慮のトラブルに対しても高い安全性を確保することができる。
【0021】
つまり、本発明によれば、マイクロ波は、像加熱装置に混入する可能性がある紙繊維などの可燃物には容易には吸収されず、ほとんど加熱部材のマイクロ波吸収層だけを発熱させることができる。そのため、紙詰まりなどの不慮のトラブルで混入した紙粉、埃などの発煙、発火を防ぐことができ、高い安全性を確保した非接触加熱手段を備えた表面加熱方式の像加熱装置を実現することができる。
【0022】
また、加熱部材表面近傍にマイクロ波吸収発熱層を備え、表面近傍だけを発熱させることで、加熱部材表面を短時間で温度上昇させることができる。
【0023】
更に、マイクロ波吸収層は、弾性体とすることができるため、加熱部材表面に十分な弾性を持たせながらも、表面近傍だけを発熱させることができ、短いウォームアップ時間で、均一で光沢ある定着画像を得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明に係る像加熱装置及び画像形成装置を図面に則して更に詳しく説明する。
【0025】
実施例1
(1)画像形成装置1
図1に、本実施例に係る画像形成装置の一実施例であるレーザビームプリンタ(以下、「プリンタ」と略称する。)1の概略構成を示す。
【0026】
このプリンタ1には、プリンタ本体1Aの外部に設けられたホストコンピュータ等の画像情報提供装置(図示せず)から画像情報が入力する。そして、プリンタ1は、入力した画像情報に応じた画像をシート状の記録材(記録媒体)Pに形成して記録するという一連の画像形成プロセスを公知の電子写真方式に則り行う。
【0027】
プリンタ1は、画像形成手段、即ち、潜像担持体としてのドラム状の回転自在な電子写真感光体(以下、「感光体」と略記する。)2と、一次帯電機構8と、現像装置3と、を保持するプロセスカートリッジ4を備えている。更に、画像情報提供装置から入力した画像情報に応じた露光処理工程により感光体2の外周面に前記画像情報に応じた静電潜像を形成するレーザスキャナユニット(以下、「スキャナ」と略記する。)5を備えている。また、記録材Pに画像を転写する処理を施すロール状の回転自在な転写体6と、画像転写処理済みの記録材Pに加熱及び加圧により定着処理を施す像加熱装置としての定着装置7を備えている。
【0028】
プロセスカートリッジ4は、プリンタ本体1Aに対して着脱自在に支持されている。感光体2の修理及び現像装置3への現像剤補給等のメンテナンスが必要であるときには、前記本体1Aにて開閉自在に支持されているカバー9を開いたのち、プロセスカートリッジ4ごと交換することによりメンテナンスの迅速化及び簡易化等が図られている。
【0029】
一次帯電機構8は、スキャナ5による露光処理工程前において商用電源等から規定のバイアスを印加されることにより、回転している感光体2の外周面を規定電位分布に帯電させる。
【0030】
スキャナ5は、画像情報提供装置からの画像情報の時系列的電気デジタル画素信号に応じて変調されたレーザLaを出力する。そして、そのレーザLaにより、プロセスカートリッジ本体に設けられた窓4aを通して、感光体2の外周面の帯電処理済みの部位が走査及び露光される。これにより、前記画像情報に応じた静電潜像が感光体2の外周面に形成される。
【0031】
次に、プリンタ1における一連の画像形成プロセスに関して説明する。プリンタ本体に設けられたスタートボタン等(図示せず)が押されるなどにより、感光体2の回転駆動が開始される。感光体2は矢印の時計方向に規定の周速度にて回転駆動される。これと共に、規定のバイアスが印加されている一次帯電機構8により感光体2の外周面が規定の電位分布に帯電される。
【0032】
次に、画像情報提供装置からの画像情報に応じて感光体2の外周面の帯電処理済みの部位がスキャナ5により走査及び露光される。これにより、前記画像情報に応じた静電潜像が感光体2の前記部位に形成される。その静電潜像が現像装置3の現像剤により現像されてトナー画像として可視像化される。
【0033】
一方、所定のタイミングにて駆動された給紙ローラ12により給紙カセット11から記録材Pが一枚分離給送される。給紙カセット11には複数枚の記録材Pを積載収容してある。給紙カセット11は、プリンタ本体1Aにて取り外し自在に支持されている。給紙カセット11から給送された記録材Pはレジストローラ対12aにより所定の制御タイミングにて感光体2と転写体6との間に形成された転写ニップ部Tnへと給送され、転写ニップ部Tnを挟持搬送されていく。この挟持搬送過程において感光体2側の前記トナー画像が転写体6により記録材P側に順次に転写される。
【0034】
そして、転写処理済みの記録材Pは、定着装置7によりトナー画像の加熱定着処理が施されたのち、プリンタ本体にて回転自在に支持された定着排紙部10を経由してプリンタ排紙部13により機外へと排紙される。排紙された記録材Pは、プリンタ本体1Aの上面に取り付けられたトレイ14上に積載される。以上により、一連の画像形成プロセスが終了することとなる。
【0035】
(2)定着装置7
図2は、本実施例における外部加熱方式の像加熱装置である定着装置7の模式的断面図である。
【0036】
定着装置7は、記録材上の画像をニップ部Ntにて加熱する回転可能な加熱部材としての定着ローラ(定着用回転体)30と、加圧部材としての回転可能な加圧ローラ60とを備えている。
【0037】
定着ローラ30と加圧ローラ60は、上下に略並行に配列され、且つ端部の加圧バネ(図示せず)により圧接されている。これにより、両者間に記録材搬送方向において所定幅の定着ニップ部(圧接ニップ部)Ntを形成させている。
【0038】
定着ローラ30は、駆動手段(図示せず)によって矢印の時計方向に規定の周速度で回転駆動される。加圧ローラ60は定着ローラ30の回転に従動して回転する。なお、定着ローラ30と加圧ローラ60を別途、回転駆動しても良い。
【0039】
マイクロ波発生装置21が定着ローラ30をその外側から加熱する。マイクロ波発生装置21は、その内部に備えられたマグネトロンなどのマイクロ波発生源から、300〜1500W、周波数300MHz〜30GHzのマイクロ波、例えば周波数2450MHzのマイクロ波を発生させる。マイクロ波発生装置21と定着ローラ30は、定着ローラ上に付着した異物やトナーが転移することのないよう、1mm以上の距離を離し、非接触で配置される。
【0040】
マイクロ波発生装置21と定着ローラ30、及び、定着装置7の周囲には、アルミなどの金属からなるマイクロ波反射部材22が設けられる。これにより、マイクロ波発生装置21から発生したマイクロ波が定着装置以外へ漏れるのを防ぎ、また、反射して定着ローラ30表面へ伝えることができる。
【0041】
マイクロ波発生装置21内部には、不図示のマイクロ波拡散用反射部材が備えられ、定着ローラ30の長さ方向全域に(図面に垂直な方向)、均等にマイクロ波が照射できる。
【0042】
定着ローラ30と加圧ローラ60のローラ部の長さ寸法(図面に垂直な方向)は、定着装置の最大通紙幅よりも大きい。
【0043】
回転する定着ローラ30は、マイクロ波発生装置21によって、外側から加熱されて、定着ニップ部Ntにて記録材P上の未定着トナー画像Tを定着するのに必要、十分な熱量が与えられる。
【0044】
記録材Pは、前述したように画像形成部にてトナー画像Tが形成されたあと、定着装置7へ送られ、定着ローラ30と加圧ローラ60とで形成される定着ニップ部Ntへ導入されて挟持搬送される。記録材Pは、この定着ニップ部Ntを挟持搬送されていく過程において、定着ローラ30で、ローラ1回転あたりtの時間だけ加熱され、またニップ部圧を受けて、未定着トナー画像Tが記録材Pに永久固着画像として熱圧定着される。
【0045】
(3)定着ローラ30
図2、図3は、本実施例の定着ローラ30の概略構成を示す。
【0046】
本実施例の定着ローラ30は、定着ローラ表層近傍に、弾性を持つ1層のマイクロ波吸収層33を形成した回転体である。例えば、芯金31の外周に、熱伝導率が低く、弾性を持つ低熱伝導弾性層(以下、「断熱弾性層」と記す。)32を形成し、さらに、その外側に、少なくとも1層のマイクロ波吸収層33を形成し、さらにその外側に離型層34を形成したものである。
【0047】
芯金31は、例えば、アルミや鉄、SUM材等の金属材料、セラミック等の他の剛体材料によりより形成される。芯金31は、定着ローラ表層近傍にマイクロ波吸収層33にマイクロ波を集中させるために、マイクロ波を吸収せず反射率の高い金属などが望ましい。芯金31は、断熱弾性層32によって、定着ローラ表面から断熱されるため、低熱伝導性、低熱容量であってもその効果は少なく、その形態は中実であっても、中空の筒状であっても良く、その形態は問わない。
【0048】
マイクロ波吸収層33は、例えばシリコーンゴム又はフッ素ゴム中にマイクロ波吸収物質を分散配合し、マイクロ波吸収発熱体とした弾性層である。
【0049】
マイクロ波吸収物質としては、例えば、カーボンブラックが挙げられる。フィラーとしてシリコーンゴム中に分散することができる。カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、サーマルブラックなど各種のものを使用することができる。その他マイクロ波吸収部物質としては、カーボンブラック以外にも、炭化珪素、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化錫、アンチモン固有体、フェライト材など、マイクロ波を吸収発熱するものであれば、フィラーの材料の種類は問わない。また、フィラーの形状はどのような形状のものであっても良く、本実施例の目的を達成するために制約を受けるものではない。
【0050】
断熱弾性層32は、マイクロ波吸収層33で発生した熱が、芯金31へ逃げるのを防ぐため、低熱伝導化されたゴム層であることが望ましい。
【0051】
芯金31の外周に形成する断熱弾性層32の厚さは特に制限されないが、有効な断熱性を有し、かつ熱容量が大きくなり過ぎないためには、1.0〜5.0mm、好ましくは2.0〜4.0mmとするのがよい。断熱弾性層32は、シリコーンゴムを発泡スポンジ状としたスポンジゴム、シリコーンゴム中に中空樹脂バルーンを配合したバルーンゴム、低熱伝導、低熱容量であればソリッドゴムでも良い。
【0052】
定着ローラ30は、芯金31が十分に低熱容量であれば、断熱弾性層32はなくても良く、芯金31の外周に、少なくとも1層のマイクロ波吸収層33を形成したものでも良い。
【0053】
例えば、図4のように、中空のアルミ製芯金31の外側にマイクロ波吸収層33を形成し、離型性層34を形成して成る円筒部材でも良い。
【0054】
離型層34は、定着ローラ表面層としてトナーなどの付着を防ぐ離型性を持つ層である。例えば、ベース樹脂材料中に、マイクロ波吸収物質を配合したマイクロ波吸収性の離型層、又は、ベース樹脂材料中に、高熱伝導フィラーを配合した高熱伝導性の離型層、又は、厚さが3〜30μmのベース樹脂からなる薄層の離型層である。
【0055】
下層のマイクロ波吸収層33から発熱を定着ローラ表面に効率よく伝えるために、5〜50μmの厚さとするのが望ましい。または、高熱伝導性フィラーを分散し、高い熱伝導性を持たせる。または、マイクロ波吸収体を分散し、離型層自体も発熱させても良い。
【0056】
上記のベース樹脂材料としては、例えば、フッ素系樹脂、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、液晶ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド等を挙げることができる。
【0057】
上記において、フッ素系樹脂としては、例えばポリテトラフルオロエチレン樹脂(PT
FE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂(
PFA)を挙げることができる。また、フッ化エチレンポリプロピレン共重合体樹脂(F
EP)、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、ポリフッ化ビニル樹脂(PVF)等を
挙げることができる。
【0058】
そして、フッ素系樹脂を用いた離型層34は、フッ素系樹脂コーティング剤やフッ素系樹脂チューブなどにより形成される。
【0059】
コーティングとしては、ラテックスやダイエルラテックス(ダイキン工業社製、フッ素
系ラテックス)、ディスパージョンによるディッピング塗工、スプレー塗工等、どのよう
な方法であっても良い。
【0060】
離型層34にマイクロ波吸収物質を分散する場合、マイクロ波吸収層33に用いられたものと同様のものを使用することができる。
【0061】
定着ローラ30は、離型層34をマイクロ波吸収層として厚く形成し、弾性体のマイクロ波吸収層33をなくしても良い。例えば、図5のように、中空の芯金31の外側に断熱弾性層32を形成し、マイクロ波吸収層としての離型層34を形成して成る円筒部材でも良い。
【0062】
また、オイル塗布手段などにより定着ローラ表面の離型性を助け、トナーなどの付着を防ぐ手段があれば、マイクロ波吸収層33を表面層とし、離型層34を備えない構成としても良い。
【0063】
つまり、定着ローラ30は、例えば、図6のように、中空の芯金31の外側に断熱弾性層32を形成し、最外層にマイクロ波吸収層33を形成して成る円筒部材でも良い。また、例えば、図7のように、中空のアルミ芯金31の外側にマイクロ波吸収層33のみを形成して成る円筒部材でも良い。
【0064】
(4)加圧ローラ60
本実施例においては、図2に示すように、加圧ローラ60は、アルミや鉄製、SUM材等よりなる芯金41の外側に、弾性層42、及び、最表層に離型性層43を形成したものである。
【0065】
加圧ローラ60は、定着ローラ30との接触加圧により定着ニップ部Ntを形成する。
【0066】
弾性層42は、定着ローラ30の断熱弾性層32と同様に、シリコーンゴムなどに、マイクロバルーンなどの中空フィラーなどを配合したバルーンゴム層が望ましい。または、吸水性ポリマーが含有されたシリコーンゴム層、シリコーンゴムを水素発泡させたスポンジゴム層が望ましい。熱伝導性が低ければソリッドゴム層でも良い。
【0067】
加圧ローラ60は、芯金41が低熱容量であれば、中空の芯金41の外側に直接、離型性層43を形成して成る剛体の円筒部材でも良い。定着ローラ30に弾性層32があるため、加圧ローラ60は弾性体でなくても定着ニップ部Ntを形成することができる。
【0068】
(5)駆動説明
以上の構成で、定着ローラ30が回転駆動され、また加圧ローラ60が従動回転した状態で、マイクロ波発生装置21へ通電を開始する。
【0069】
図8に、マイクロ波発生装置21と通電制御手段100を示す。
【0070】
マイクロ波発生装置21から出力されたマイクロ波は、直接、又は、反射板22に反射して、定着ローラ30表面に照射され、マイクロ波吸収層33に吸収されて熱に変わり発熱する。吸収しきれなかったマイクロ波は、内部に向かって透過し、定着ローラ芯金31で反射し、再びマイクロ波吸収層33に当たって吸収発熱される。マイクロ波のエネルギーを、定着ローラ30表面近傍のみに設けられたマイクロ波吸収層33に吸収させ、発熱させることにより、余分な内部の温度上昇にエネルギーを使わずにすみ、定着ローラ30表面温度を急速に上昇させることができる。
【0071】
マイクロ波は、マイクロ波発生装置21装置内の不図示のマグネトロンによって発生し、またマイクロ波発生装置21内に設けられた不図示のマイクロ波反射板によって反射して、定着ローラ30の長手に均等に照射される。
【0072】
定着ローラ30の表面温度を記録材Pの加熱定着に必要な温度まで立ち上げる。
【0073】
本実施例にて、マイクロ波発生装置21の電力は、電源26から定着ローラ近傍に配置されたサーモスイッチなどの安全素子24を介して制御装置(制御回路)25から供給される。マイクロ波発生装置21の出力は、制御回路25によってON/OFF制御される。
【0074】
安全素子24は、マイクロ波を遮断する保護管などによってマイクロ波からはシールドされ、定着ローラ表面近傍に非接触で配置されている。そして、定着ローラ表面が異常に高温になった場合に作動して、制御回路25及びマイクロ波発生装置21への電力を遮断する。
【0075】
定着ローラ表面には、温度検知素子23が当接され、定着ローラ表面の温度を検知する。
【0076】
制御回路25は、温度検知素子23の検知温度に応じてマイクロ波出力を制御する。定着ローラ30温度が目標温度に到達したら、制御装置25にて、マイクロ波出力をOFFする。
【0077】
目標温度より所定の温度低くなったら、再びマイクロ波を出力をONし、定着ローラ30表面を所定の温度となるよう制御する。
【0078】
定着ローラ30表面を所定温度に保った状態で、定着ニップ部Ntに未定着トナー画像Tが形成された記録材Pを導入することにより、記録材P上の未定着トナー画像Tを加熱定着して固着画像とする。
【0079】
このときの定着ニップ部Nt内でのトナー画像Tと定着ローラ30の様子について図9を用いて説明する。
【0080】
図9において、未定着トナー画像Tが形成された記録材Pが定着ニップ部Ntに導入されると、トナー画像Tは定着ローラ30の表面によって加圧され、潰された状態となる。
【0081】
このとき、定着ローラ30は、弾性を有するため、トナー画像Tの凹凸に対応して微少に表面変形する。この結果、トナー画像Tを包み込むように定着ローラ30の最表面高熱伝導層33が凹む。この結果、トナー画像Tに対して、定着ローラ30の接触面積が増え、効率的に定着ローラ30から記録材P上のトナー画像Tへ熱が伝えられる。特に本実施例に示したように定着ローラ30が弾性を有する部材であるため、表面粗さの大きな記録材上のトナー画像であっても、記録材Pの凹凸に対する定着ローラ30の表面の追随性にも優れ、記録材P上の定着均一性を得ることができる。
【0082】
そして、記録材上のトナー画像Tは、均一に溶け潰されることによって、表面が平滑となり、光沢ある画像となって半永久的に記録材に固着される。
【0083】
本実施例における定着装置7は、短いファーストプリントアウトタイムで、定着ムラのない画像を得ることができる。また、トナーなどの蓄積もなく、また発火発煙などの危険も無く、安定で安全な定着動作が可能である。
【0084】
(実験)
本実施例における画像形成装置のクィックスタート性と、安全性について確認するために、本実施例における定着装置7を備えた画像形成装置1と、従来例における定着装置を備えた画像形成装置とを用いて実験を行い、確認した。
【0085】
先ず、本実験に用いた定着装置7の基本構成を以下に説明する。
【0086】
使用した画像形成装置のプロセススピードは100mm/secであり、1分間に16
枚のプリントを実施するレーザビームプリンタを用いて実験した。
【0087】
本実施例としての定着装置7は、図2に示したマイクロ波を使用した像加熱装置である。
【0088】
出力800Wのマイクロ波発生装置21を定着ローラ30と非接触で配置し、周辺にはマイクロ波反射部材22を備える。定着ローラ30表面付近には、定着ローラ30には非接触であり、マイクロ波からはシールドされているサーモスイッチ24が配置され、異常に温度上昇した場合は電力を切断する。
【0089】
また、定着ローラ30の表面温度は、定着ローラ30の回転方向において加熱位置から定着ニップ部Ntに至る間の定着ローラ30の表面温度を接触式の温度検知素子23を用いて測定する。
【0090】
定着ローラ30は、直径14mmの鉄製芯金31上に、厚さ3mm、熱伝導率0.15W/m・Kのスポンジシリコーンゴムからなる断熱弾性層32を設けた。その外側には厚さ100μmの厚さで、シリコーンゴムにカーボンブラックを30vol%分散させたマイクロ波吸収層33を設けた。表面には厚さ30μmのPFAチューブからなる離型層34を設けた回転体であり、不図示の駆動手段で回転する。
【0091】
加圧ローラ60は、芯金41上に厚さ3mm、熱伝導率0.15W/m・Kの断熱弾性層42を有し、表面には厚さ30μmの離型層43を有している。加圧ローラ60は、不図示の加圧手段によって、定着ローラ30に圧接され、定着ローラ30の回転によって従動回転する。定着ニップ部Ntの幅wは5mmであった。
【0092】
従来例1として、定着ローラ表面にハロゲンランプを直接照射し、非接触で定着ローラを加熱する加熱定着装置とした。
【0093】
図10に、従来例1の概略構成を示す。
【0094】
800Wのハロゲンランプ27を非接触で定着ローラ30を加熱できるよう配置し、効果的に定着ローラ30へ照射できるよう、周辺は放射光反射体26で覆ってある。
【0095】
定着ローラ30近傍にはサーモスイッチ24が配置され、異常に温度上昇した場合は、ハロゲンランプ27の出力を遮断する。定着ローラ30は、直径14mmの鉄製芯金31上に、厚さ3mm、熱伝導率0.15 W/m・Kの断熱弾性層32を有し、その外側には離型層34を設けた回転体であり、非図示の駆動手段で回転する。加圧ローラ60、定着ニップ部Ntの幅wは、実施例と同様である。
【0096】
ウォームアップを開始するとハロゲンランプ27が発光し、放射光によって定着ローラ30表面は加熱され、温度上昇する。実施例同様に、定着ニップ部Ntに記録材Pを通過させて加熱定着する。
【0097】
従来例2として、誘導加熱装置によって、定着ローラ内部に備えられた金属体に渦電流を起こし発熱させる加熱定着装置とした。
【0098】
図11に、従来例2の概略構成を示す。
【0099】
誘導加熱装置としてのコイル28を、定着ローラ30を加熱できるよう配置した。定着ローラ30表面付近には、非接触でサーモスイッチ24が配置され、異常に温度上昇した場合は電力を切断する。誘導加熱装置28の出力は800Wである。
【0100】
定着ローラ30は、直径14mmの鉄製芯金31上に、厚さ3mm、熱伝導率0.15W/m・Kの断熱弾性層32を有した弾性ローラ上に、厚さ100μmのNi製円筒フィルムを被せて発熱層35とした。さらにその外側に熱伝導率1.0W/m・Kの高熱伝導弾性層36を厚さ200μmで形成し、最外層には厚さ30μmの離型層34を設けた。定着ローラ30は、不図示の駆動手段で回転する。
【0101】
加圧ローラ60、定着ニップ部Ntの幅wは、実施例と同様である。
【0102】
ウォームアップを開始するとコイル28が磁界を発生させ、金属発熱層35に渦電流が発生して発熱し、定着ローラ30表面は温度上昇する。実施例と同様に、定着ニップ部Ntに記録材Pを通過させて加熱定着する。
【0103】
従来例3も、誘導加熱装置によって、定着ローラ内部に備えられた金属体に渦電流を起こし発熱させる加熱定着装置とした。
【0104】
図12に、従来例3の概略構成を示す。
【0105】
定着ローラ30は、直径1mm4の鉄製芯金31上に、厚さ3mm、熱伝導率0.15W/m・Kの断熱弾性層32を有した弾性ローラ上に、厚さ100μmのNi製円筒フィルムを被せて金属発熱層35とした。最外層には厚さ30μmの離型層34を設けた。定着ローラ30は、不図示の駆動手段で回転する。
【0106】
加圧ローラ60、定着ニップ部Ntの幅wは、実施例と同様である。
【0107】
ウォームアップを開始するとコイル28が磁界を発生させ、金属発熱層35に渦電流が発生して発熱し、定着ローラ30表面は温度上昇する。本実施例と同様に、定着ニップ部Ntに記録材Pを通過させて加熱定着する。
【0108】
定着装置に未定着トナー画像Tを形成した記録材Pを通紙し、定着性能評価を行った。
【0109】
定着ローラ30、定着装置全体の温度が、雰囲気温度になじんだ状態から実験を開始する(以下、この条件を「コールドスタート」と称する。)。実験時の環境は、温度25℃・湿度60℃であった。
【0110】
コールドスタートから、定着ローラ30の回転駆動開始と同時に、加熱手段に800Wの電力を投入し、定着ローラ30を加熱し、定着ローラ温度を定着可能な目標温度へ立ち上げる。
【0111】
定着ローラ30は、温度検知素子23を用いて温度制御され、所望の定着ローラ温度に達した後は、目標温度を維持するよう、どの加熱手段も電力を制御される。
【0112】
画像欠陥が元のトナー画像の5%を超える場合をNG(不良)とした。記録材Pとして、XEROX社製4024、坪量75g/m2紙を使用した。
【0113】
定着ローラ30の表面温度が定着可能な目標温度に達するまでウォームアップを行い、目標温度に達したら、未定着トナー画像Tを形成した記録材Pを通紙する。
【0114】
画像形成装置における定着装置が実施例、従来例1、従来例2、従来例3、それぞれの実験装置で、加熱定着された記録材P上の画像Tの定着性が良好となるウォームアップ時間を求め、比較した。
【0115】
記録材P上の未定着トナー画像Tの定着性能評価方法としては、加熱定着後の記録材P
のトナー画像上にセロハンテープを貼り付け、0.49N/cm2(50gf/cm2)の面圧で1分間押し付けた後にセロハンテープを剥がす。そして、そのときのトナー画像における画像欠陥(テープにより剥ぎ取られた欠陥)の程度によって評価を行った。
【0116】
結果は表1のとおりである。
【0117】
【表1】

【0118】
本実施例における加熱定着装置7は、マイクロ波によって離型層34直下にあるマイクロ波吸収発熱層33が発熱し、定着ローラ30表面近傍のみの温度を迅速に立ち上げることができる。そのため、従来例と同等のウォームアップ時間で定着ローラ温度を立ち上げ、十分な定着性を得ることができた。
【0119】
従来例2における誘導加熱による定着ローラ30は、ウォームアップ時間が長くなってしまった。
【0120】
従来例2の加熱定着装置は、誘導加熱によって発熱するNi金属層35の外側に厚み200μmの高熱伝導弾性層36が形成されている。この高熱伝導弾性層36が定着ローラ30表面への熱伝達を阻害し、また、余分な熱容量となって、ウォームアップ時間を長くしてしまっている。
【0121】
従来例3は、この200μmの弾性層36がない誘導加熱方式の加熱定着装置である。従来例3では、ウォームアップ時間は十分短くなった。ただし、弾性のない金属層の外側に離型層を設けた構成であり、定着ローラ30表面に十分な柔軟性、弾性がない。
【0122】
それぞれの加熱定着装置で加熱定着された記録材上のトナー画像を比較した。記録材上のトナー画像の光沢度を測定した。光沢度測定には、日本電色製ハンディ光沢計PG−1(角度75度)を用いた。また、目視で光沢のムラを確認した。
【0123】
結果を表2に示す。
【0124】
【表2】

【0125】
本実施例では高い光沢度(グロス)のある定着画像が得られた。また光沢ムラも少なく良好であった。
【0126】
本実施例における定着ローラ30は、弾性のある断熱弾性層32の外側に、弾性のあるマイクロ波吸収層33を形成し、柔軟性のある離型層34を30μmの薄さで形成してあるため、定着ローラ表面は十分な弾性をもつ。これにより、定着ローラ表面は記録材Pを加熱圧接する際に弾性変形し、凹凸のある記録材表面および未定着トナー画像面に追従し、均一に密着して押し潰すことができる。
【0127】
従来例3では、十分な光沢度は得られなかった。これは、従来例3における定着ローラ30では、弾性のないNi金属層35の外側に離型層34を設けているためで、弾性がないため記録材表面に密着できない。そのため、記録材表面の凹凸によって、トナーの溶融度合い、潰され方にムラが生じ、定着された画像にも光沢ムラが生じてしまう。全体にボソボソした画像となり、十分な光沢度が得られない。
【0128】
従来例2では、200μmの弾性層36があるため、従来例3に比べて、光沢ムラのない画像が得られている。弾性層36は厚いほうが、記録材への密着性が増し、均一で光沢ある定着画像を得ることが可能となる。しかし、厚くするほど、ウォームアップ時間が長くなってしまう問題がある。
【0129】
本実施例における加熱定着装置7では、弾性層33そのものを発熱させることができるため、また柔軟性を損なう金属層を設ける必要が無い。そのため、十分な厚みを持って弾性層33を形成しながらも、表面近傍だけを発熱させ、短いウォームアップ時間で、均一で光沢ある定着画像を得ることが可能である。
【0130】
上記の実験では、従来例1は、短いウォームアップ時間で、均一かつ光沢ある画像を得ることができている。しかし、ハロゲンランプ27による放射光を直接定着ローラ30表面に照射して加熱している従来例1には、ハロゲンランプ27と定着ローラ30の間に記録材や紙粉などが侵入した際に、発火発煙を起こす可能性がある。
【0131】
定着ローラ表面には離型層34を設けてあるが、それでも記録材上のトナーを加熱溶融する際に溶融したトナーが粘着性を示し、記録材が定着ローラ表面に巻き付いてしまうことが有る。
【0132】
分離爪や、分離ガイドを設けて、物理的に侵入を防ごうとしても、定着ローラとの間に全く隙間なく設置することは難しい。また、分離部材を定着ローラに接触させてしまうと、トナーなどが付着して蓄積したり、定着ローラ表面に傷をつけたりし、また定着ローラ表面の熱を奪ってしまうなど、加熱手段を非接触としたメリットが失われてしまう。
【0133】
厚みが数10μmである薄紙や、記録材の上に乗って紛れ込む埃を防ぐことは難しく、また、記録材が紙詰まりなど起こした際に、記録材が破れ、紙のかけらが潜りこむ可能性など、ないとはいえない。
【0134】
オフィスなどで用いられる加熱定着装置は、紙などの可燃性が高いものとともに設置されることもあり、高い安全性が必要とされる。
【0135】
本実施例と従来例1で、記録材Pが定着装置内部に潜りこんだ場合の安全試験を行った。模式図を図13と図14に示す。
【0136】
図13、図14に示すように、記録材Pを定着ローラ30に巻き付けた。巻き付けた記録材Pは、XEROX社製4024、坪量75g/m2の用紙である。定着装置の定着ローラ30など回転体の駆動は停止している。この状態で、加熱手段に通電して、安全装置24が働き、電力が遮断されるまでの様子を観察した。
【0137】
従来例1では、通電を開始して2秒で記録材Pが発煙しはじめ、3秒では発火してしまった。ハロゲンランプ27の放射光を直接、記録材Pが受けて加熱されてしまうために、熱容量の小さな記録材Pは短時間に温度上昇し、発火してしまう。
【0138】
本実施例における加熱定着装置7では、記録材Pの発火、発煙は起こらず、5秒ほどでサーモスイッチ24が作動し、安全に電力を遮断することができた。これは、ハロゲンランプの放射光は、記録材に吸収され易いのに対し、マイクロ波は記録材には吸収されにくいためである。
【0139】
画像形成装置に用いられる記録材Pは、一般的に、繊維を主材料とする紙、OHT、グロスフィルムなどである。紙は、繊維と、炭酸カルシウム、タルクなどの槙料、微量なサイズ材などからなり、マイクロ波を強く吸収する物質は含まれない。紙中には、水分が5質量%〜10質量%含まれており、水分子はマイクロ波によって振動を起こし発熱するが、発熱した水は水蒸気となって放出される。吸湿した水分量の多い記録材は、多く含まれる水分によって発火には至らず、乾燥した水分量の少ない記録材は発熱し難い。
【0140】
OHT、グロスフィルムは、PETなどのプラスチックを主材料とし、マイクロ波による吸収発熱は少ない。
【0141】
このため、本実施例における加熱定着装置7では、不慮のトラブルにより記録材などの異物が加熱手段(マイクロ波発生装置21)と定着ローラ30の間に侵入した場合でも、発火発煙など起こすことなく、安全性が確保できる。
【0142】
以上示したように、本実施例における加熱定着装置7では、マイクロ波によって弾性層33そのものを発熱させることで、定着ローラ表面に十分な弾性を持たせながらも、表面近傍だけを発熱させ、定着ローラ表面を短時間で温度上昇させることができる。従って、短いウォームアップ時間で、均一で光沢ある定着画像を得ることが可能である。
【0143】
また、マイクロ波発生装置21は、定着装置7に混入する可能性がある紙繊維などの可燃物には容易には吸収されず、ほとんど定着ローラ表面近傍のマイクロ波吸収層33だけを発熱させることができる。そのため、紙詰まりや、紙粉、埃の混入など不慮のトラブルに対しても高い安全性を確保できる。
【0144】
実施例2
図15に、本発明に係る像加熱装置の第二の実施例を示す。
【0145】
本実施例にて、定着装置7は、記録材上の画像をニップ部Ntにて加熱する回転可能な加熱部材を構成するベルト状の定着ベルト(定着用回転体)30と、回転可能の加圧部材60とを備えている。加圧部材60は、加圧ローラなど、実施例1で使用したものを用いることができる。
【0146】
つまり、本実施例では、支持体59の外側に外嵌された定着ベルト38を加熱部材とし、支持体50と定着ベルト38を、加圧ローラ60に圧接させて定着ニップ部Ntを形成する。この定着ニップ部Ntに記録材Pを通紙し、記録材Pを狭持搬送しながら、加熱定着を行う。定着ベルト38は、回転可能な加圧部材60によって従動駆動される。
【0147】
定着ベルト38は、例えば、厚み30μmから500μm程度のPPS、ポリイミド、ポリアミドイミドなどの耐熱性が高く、熱伝導が低い樹脂材からなるエンドレスベルト基層39を備えている。この基層39の上に、実施例1と同様に、シリコーンゴム中にマイクロ波吸収体を分散させたマイクロ波吸収弾性層33を、厚さ100μm〜500μmで備え、最外層には、10μmから30μm程度のフッ素樹脂層などからなる離型層34を設けて形成される。
【0148】
エンドレスベルト基層39は、内部への熱の逃げを抑え、熱容量を小さくするために、PPS、ポリイミド、ポリアミドイミドなど、耐熱性があり、熱伝導率が低い樹脂製とすることが望ましい。またベース樹脂にはマイクロ波を透過、或いは、反射させる物質が望ましく、カーボンや酸化物などマイクロ波を吸収しやすい物質の配合を避けることが望ましい。エンドレスベルト基層39をSUS、Niなどの金属薄膜とした場合、熱伝導率、熱容量は大きくなってしまうが、定着ローラ表面から照射され、マイクロ波吸収層で吸収し切れなかったマイクロ波を反射し、再びマイクロ波吸収層に照射できる。ただし、内部の支持体59を金属製とすることでも、マイクロ波を反射させ、再びマイクロ波吸収層に照射することは可能である。
【0149】
マイクロ波吸収層33、離型層34に使用される材料は、実施例1で使用したものを使用できる。
【0150】
支持体59は、例えば、支持体50の上に、断熱部材又は断熱層51を形成したものである。支持体50は、マイクロ波を反射し易いSUM、SUS、AL材などの金属製が望ましい。定着ベルト38表面に照射され、マイクロ波吸収層33で吸収し切れなかったマイクロ波を定着ベルト38側へ反射し、再びマイクロ波吸収層33に照射できる。
【0151】
支持体59と加圧部材60を所定の圧力で当接させて、定着ニップ部Ntを形成する。定着ニップ部Ntでは、定着ベルト38表面と加圧ローラ60表面が連れ回りつつ記録材Pを狭持搬送し、記録材Pに熱と圧力を加えて、記録材P上のトナー画像を定着させる。
【0152】
断熱層51は、例えば、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどからなる弾性部材であっても良く、液晶ポリマー、フェノール樹脂、PPS、PEEK、ポリイミド、ポリアミドイミド、フッ素樹脂等の耐熱性樹脂により形成された剛体部材であっても良い。
【0153】
定着ベルト内面からの熱の逃げは少なくなり、定着ベルト38の昇温は速まるので、断熱層51の熱伝導性は低いことが望ましい。
【0154】
本実施例では、定着ベルト38を介して加圧ローラ60に圧接し、定着ニップ部Ntを形成する支持体51面を曲面を含む構成とし、加圧ローラ60の変形量を少なくしながら、定着ニップ部Ntを広くとれるように構成した。
【0155】
支持体51面は平坦であってもよく、複数の部材から構成されても良い。また、突起物を付けたり、凹凸を設けても良い。定着ベルト内部に張架ローラを備えた構成でも良い。
【0156】
本実施例における加熱定着装置7における定着ベルト支持体51及び定着ベルト内蔵物は、定着ベルト38を介して加圧部材60に圧接し、定着ニップ部Ntを形成するものであり、定着ベルト38の温度上昇を著しく妨げるものでなければ、その形状、構成を問わない。
【0157】
実施例1と同様に、マイクロ波発生装置21から発生したマイクロ波によって、定着部材表面近傍に形成されたマイクロ波吸収層33を発熱させることで、定着ベルト表面温度を急速に立ち上げることができる。また、定着ベルト38は十分な弾性を持ったマイクロ波吸収層33の外側に薄く柔軟な離型層34を形成した構成である。そのために、定着ベルト表面は記録材の凹凸に追従して密着し、記録材上の未定着トナーを均一に溶融させ、押し潰して、光沢ムラのない定着画像を得ることができる。
【0158】
また、加熱部材30を低熱容量なベルト部材とすることで、より急速な温度上昇が可能になる。
【0159】
また、加熱部材30をフレキシブルなベルト部材とすることで、加圧ローラ60を大きく弾性変形させることなく、定着ニップ部Ntを広く形成することができる。加熱部材30と記録材Pの接触時間を長くし、長く加熱、加圧することができるので、記録材上のトナー画像表面をより平滑に溶け潰すことが可能になり、より光沢ある定着画像を得ることができる。また、高速で加熱定着処理を行う加熱定着装置にあっても、十分な加熱時間を確保することができる。
【0160】
実施例3
図16に、本発明に係る像加熱装置の第三の実施例を示す。
【0161】
本実施例にて、定着装置7は、実施例1とほぼ同様の構成とされる。ただし、図16のように、定着ローラ30と定着ニップ部Ntを形成する加圧部材60を、支持体57と、これに外嵌され、定着ローラ30の回転に従い支持体57の周りを回転するベルト状の加圧ベルト56を有する構成のものとする。
【0162】
支持体57は、例えば、SUM材等からなる支持体52の上に、断熱部材又は断熱層53を形成したものである。その外周に低熱容量・低熱伝導性のベルト56を外嵌させている。
【0163】
上記の加圧部材60と定着ローラ30とを所定の圧力で当接させて、定着ニップ部Ntを形成する。定着ニップ部Ntでは、定着ローラ30表面と加圧ベルト56が連れ回りつつ記録材Pを狭持搬送し、記録材Pに熱と圧力を加えて、記録材P上のトナー画像を定着させる。
【0164】
断熱支持体53は、例えば、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどからなる弾性部材であっても良いが、定着ローラ表面が弾性体であるため、断熱支持体53が剛体部材であっても定着ニップ部Ntは確保できる。つまり、断熱支持体53は、液晶ポリマー、フェノール樹脂、PPS、PEEK、ポリイミド、ポリアミドイミド、フッ素樹脂等の耐熱性樹脂により形成された剛体部材であっても良い。
【0165】
加圧ベルト56は、例えば、厚み30μmから500μm程度のPPS、ポリイミド、ポリアミドイミドなどの耐熱性が高く、熱伝導が低い樹脂材からなる基層54の上に、10μmから30μm程度のフッ素樹脂層などからなる離型層55を設けて形成される。
【0166】
支持体53と加圧ベルト56との間には、シリコーンオイルなどの潤滑材を介在させ、ベルトの摺動性を良くする。本実施例の加熱定着装置における加圧ベルト支持体及び加圧ベルト内蔵物は、加圧ベルト56を介して加熱部材30に圧接し、定着ニップ部Ntを形成するものであり、加圧ベルト56を介して加熱部材の温度上昇を著しく妨げるものでなければ、その形状、構成を問わない。
【0167】
また、実施例2と同様に加熱部材30を定着ベルト構成としても良い。この概略構成を、図17に示す。
【0168】
この場合には、支持体59に外嵌された定着ベルト38と、支持体57に外嵌された加圧ベルト56を圧接させて定着ニップ部Ntを形成する。そして、加圧ベルト内側に設けられた駆動ローラ70、71によって、加圧ベルト56を駆動し、定着ベルト38を従動で回転させ、定着ニップ部Ntにて記録材Pを挟持搬送しながら、加熱定着を行う。
【0169】
駆動ローラは、定着ベルト38内側、または、加圧ベルト56内側、若しくは、両方に設けても良い。
【0170】
本実施例の効果は、実施例1、実施例2と同様であるが、本実施例における加圧ベルト56を使用した定着装置は、加圧部材60を低熱容量なベルト部材とすることで、より急速な温度上昇が可能になる。
【0171】
また、加圧部材60をフレキシブルなベルト部材とすることで、定着ローラ30を大きく弾性変形させることなく、定着ニップ部Ntを広く形成することができる。加熱部材30と記録材Pの接触時間を長くし、長く加熱、加圧することができる。従って、記録材上のトナー画像表面をより平滑に溶け潰すことが可能になり、より光沢ある定着画像を得ることができる。また、高速で加熱定着処理を行う加熱定着装置にあっても、十分な加熱時間を確保することができる。
【0172】
以上の各実施例は、本発明における最良の実施形態の例ではあるものの、本発明はこれらの実施例に示した構成のみに限定されるものではない。即ち、本発明の像加熱装置には、実施例の加熱定着装置に限られず、画像を担持した記録材を加熱してつや等の表面性を改質する像加熱装置、仮定着する像加熱装置など、画像を担持した記録材を加熱処理する装置として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0173】
【図1】本発明に係る画像形成装置の一実施例の概略構成図である。
【図2】本発明に係る像加熱装置の一実施例の概略構成図である。
【図3】加熱部材の一実施例を示す斜視図である。
【図4】加熱部材の他の実施例の概略構成図である。
【図5】加熱部材の他の実施例の概略構成図である。
【図6】加熱部材の他の実施例の概略構成図である。
【図7】加熱部材の他の実施例の概略構成図である。
【図8】像加熱装置の駆動制御態様を説明する概略構成図である。
【図9】像加熱装置におけるトナー画像定着の様子を説明する図である。
【図10】従来の像加熱装置の一例を示す概略構成図である。
【図11】従来の像加熱装置の一例を示す概略構成図である。
【図12】従来の像加熱装置の一例を示す概略構成図である。
【図13】本発明の一実施例の像加熱装置における安全試験方法を示した概略模式図である。
【図14】従来の像加熱装置における安全試験方法を示した概略模式図である。
【図15】本発明に係る像加熱装置の他の実施例の概略構成図である。
【図16】本発明に係る像加熱装置の他の実施例の概略構成図である。
【図17】本発明に係る像加熱装置の他の実施例の概略構成図である。
【符号の説明】
【0174】
1 画像形成装置
2 感光体
7 加熱定着装置
21 マイクロ波発生装置
22 マイクロ反射部材
23 温度検知素子
24 安全素子
25 マイクロ波制御回路
26 電源
30 定着ローラ(加熱部材)
31 芯金
32 低熱伝導弾性層
33 マイクロ波吸収層
34 離型層
39 定着ベルト
38 定着ベルト基層
41 芯金
42 弾性層
43 離型層
54 加圧ベルト基層
55 加圧ベルト表層
56 加圧ベルト
57 支持体
59 支持体
63 加圧ローラ(加圧部材)
Nt 定着ニップ部
P 記録材
T トナー画像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録材上の未定着トナー画像を加熱部材と加圧部材により形成されるニップ部を通過させることにより記録材上に固着画像として加熱定着する像加熱装置において、
マイクロ波発生装置を備え、
前記加熱部材は、前記マイクロ波発生装置のマイクロ波によって発熱することを特徴とする像加熱装置。
【請求項2】
前記マイクロ波発生装置は、前記加熱部材の外側に配置され、マイクロ波を前記加熱部材に照射することを特徴とする請求項1に記載の像加熱装置。
【請求項3】
前記マイクロ波発生装置の周囲には、マイクロ波を前記加熱部材へ反射させる部材を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の像加熱装置。
【請求項4】
前記加熱部材は、前記加熱部材の表面近傍にマイクロ波吸収層を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかの項に記載の像加熱装置。
【請求項5】
前記加熱部材は、芯金の上に、少なくともマイクロ波吸収層を形成した回転体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかの項に記載の像加熱装置。
【請求項6】
前記加熱部材は、エンドレスベルトの上に、少なくともマイクロ波吸収層を形成したベルト部材であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかの項に記載の像加熱装置。
【請求項7】
前記マイクロ波吸収層は、前記加熱部材の表面近傍に形成されることを特徴とする請求項5又は6に記載の像加熱装置。
【請求項8】
前記マイクロ波吸収層は、弾性体であることを特徴とする請求項4〜7のいずれかの項に記載の像加熱装置。
【請求項9】
前記マイクロ波吸収層は、シリコーンゴム、又は、フッ素ゴムの中にマイクロ波吸収体を混ぜた弾性体であることを特徴とする請求項4〜7のいずれかの項に記載の像加熱装置。
【請求項10】
前記加熱部材は、前記加熱部材の表面にマイクロ波吸収体を混ぜたフッ素系樹脂を含む表面層を備えることを特徴とする請求項1〜9のいずれかの項に記載の像加熱装置。
【請求項11】
前記マイクロ波吸収体は、カーボンブラックであることを特徴とする請求項10に記載の像加熱装置。
【請求項12】
前記加熱部材の内部には、マイクロ波を反射する部材を備えていることを特徴とする請求項1〜11のいずれかの項に記載の像加熱装置。
【請求項13】
記録材に未定着トナー画像を形成する画像形成手段と、この未定着トナー画像を記録材に熱定着させる定着装置とを備えた画像形成装置において、
前記定着装置は、請求項1〜12のいずれかの項に記載の像加熱装置であることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2010−160222(P2010−160222A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−1165(P2009−1165)
【出願日】平成21年1月6日(2009.1.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】