説明

充電工具

【課題】全長を最小限に抑え、スイッチング素子も効果的に冷却し、落下時等の衝撃から保護する。
【解決手段】回転軸6と、マグネット14を有するロータコア15と、ロータコア15の周囲に複数の巻き線16を有するステータステータコア17、とを備え、基板18上に取り付けられた複数のスイッチング素子27により直流電流を回転中のステータステータコア17の巻き線16に振り分けて順次磁場を形成することによりロータコア15を回転させるDCブラシレスモータ5を設けたモータ部1aと、このモータ部1aの回転力を駆動源とした動力伝達部1bとを、それぞれ後部と前部に直列に配置した充電工具であって、上記回転軸6に設けた冷却ファン30を最後部に配置し、上記基板18を上記DCブラシレスモータ5に対向させて配設し、冷却風が上記基板18に沿って流れるように冷却風の通路を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インパクトドライバ等の充電工具に供されるDCブラシレスモータで、特にスイッチング素子やコイルを冷却する冷却機構を改善したDCブラシレスモータ及びこのDCブラシレスモータを搭載した充電工具に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、インパクトドライバ等の充電工具には、従来のブラシモータに代ってDCブラシレスモータが用いられている。DCブラシレスモータは、複数のスイッチング素子(FET)により各スイッチング素子に対応する巻き線に順次振り分けて通電させ、これによって連続的に磁場を作ってロータコアを回転させるようにしたものである。
【0003】
ところで、DCブラシレスモータの弱点は、スイッチング素子や巻き線コイルが発熱することである。そのため、DCブラシレスモータを搭載した多くの充電工具には、スイッチング素子や巻き線コイルを冷却する冷却ファンが設けられている。
【0004】
例えば、モータハウジングの前側(出力側)に冷却ファンを設け、後側(反対側)にスイッチング素子が設けられたものが知られている(特許文献1)。これは、冷却ファンを回転させることにより、モータハウジングの後方から取り込んだ冷却空気をスイッチング素子とコアの後部に突出した巻き線の一部に接触させた後、コアとモータハウジングとの間を通ってコアの前部に突出した巻き線に接触させて冷却し、さらにモータハウジングの外側に排出する構造である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−279564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記構造には次のような問題点がある。
【0007】
まず、冷却ファンがモータハウジングの前側に配置されているため、モータの軸方向の寸法が嵩み、工具の全長が長くなってしまう。次に、スイッチング素子が工具の後部にあるので、工具を後部を下にして落としてしまったときなど、スイッチング素子が落下時の衝撃で破損したり、ダメージを受けたりするおそれがある。この点を考慮してスイッチング素子を工具のグリップなどの他の部位に設けたものもあるが、スイッチング素子の温度上昇を抑えるのが不十分で、精密なスイッチング制御ができなくなるなど、モータの回転数制御の性能が損なわれるという問題がある。
【0008】
本発明は、上記問題点を解消し、全長が長くなるのを最小限に抑えることができ、さらには、スイッチング素子も効果的に冷却し、しかも落下時等の衝撃から保護することができる充電工具を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、モータハウジングに軸受を介して回転自在に設けられた回転軸と、この回転軸に固定されたマグネットを有するロータコアと、このロータコアの周囲に複数の巻き線を有するステータコアと、を備え、基板上に取り付けられた複数のスイッチング素子により直流電流を回転中のステータコアの巻き線に振り分けて順次磁場を形成することにより上記ロータコアを回転させるDCブラシレスモータを設けたモータ部と、このモータ部の回転力を駆動源とした動力伝達部とを、それぞれ後部から前部に直列に配置した充電工具であって、上記回転軸に設けた冷却ファンを最後部に配置し、上記基板を上記DCブラシレスモータに対向させて配設し、上記冷却ファンによって上記モータハウジングの外側から取り込まれた冷却風が上記基板に沿って流れるように冷却風の通路が形成されていることを特徴とする。
【0010】
【0011】
【0012】
【0013】
請求項2に係る発明は、請求項1において、上記基板及び上記スイッチング素子をコーティング材により防塵防水コーティングしたことを特徴とする。
【0014】
請求項3に係る発明は、請求項2において、上記コーティング材は熱伝導率0.5W/m・k以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明によれば、スイッチング素子を取り付けた基板をDCブラシレスモータに対向させて配設し、上記冷却ファンを最後部に配置したから、工具の後部を下にして落としてしまったときでも、スイッチング素子は直接的な衝撃を受けないので、落下時のショックで破損したり、ダメージを受けたりする可能性は小さく、このようなときでも、モータの回転数制御の性能は確保され、精密なスイッチング制御を維持することができる。
【0016】
また、デザイン的にみても、後部に比較的外径の小さい冷却ファンを設けた構造であるから、モータハウジングの後部を絞ることができ、工具全体をコンパクトにすることができ、視覚的にも小さく見える構成とすることができる。
【0017】
【0018】
また、冷却ファンによって上記モータハウジングの外側から取り込まれた冷却風が、上記基板に沿って流れるように冷却風の通路を形成したから、スイッチング素子には外部から取り込まれたばかりの新鮮な空気が接触することになり、その冷却効果は高い。
【0019】
【0020】
請求項2に係る発明によれば、上記基板及び上記スイッチング素子をコーティング材により防塵防水コーティングしたため、導電部を粉塵や水の浸入による腐食や短絡から保護することができる。
【0021】
請求項3に係る発明によれば、0.5W/m・k以上の熱伝導率が良いコーティング材を使用することにより、発熱源のスイッチング素子と冷却風が効率よく熱交換ができ、冷却効果が高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態であるインパクトドライバの一部を断面で示した斜視図
【図2】モータ部の一部を拡大して示した横断面図
【図3】モータ部の斜視図
【図4】DCブラシレスモータのみの縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は本発明に係るDCブラシレスモータを搭載したインパクトドライバの一部の断面図で、同図において符号1はドライバ本体を示す。ドライバ本体1の下部にはグリップ2が形成され、グリップ2にはトリガスイッチ3が配置されている。グリップ2の下部には電池パック4が着脱自在に設けられている。
【0024】
ドライバ本体1は筒状に形成され、後部のモータ部1aと前部の動力伝達部1bとから構成されている。
【0025】
モータ部1aには、動力伝達部1bの動力源として回転力を供給するDCブラシレスモータ5が設けられている。このDCブラシレスモータ5については後に詳述する。
【0026】
動力伝達部1bの内部には、DCブラシレスモータ5の回転軸6と同軸上に、後ろ側から順に遊星歯車機構7、スピンドル8、打撃機構9及びアンビル10が直列に設けられている。アンビル10の先端部にはドライバビット(図示せず)が装着可能になっている。これにより、DCブラシレスモータ5の回転が遊星歯車機構7によって減速回転されてスピンドル8に伝達され、さらにスピンドル8の回転がハンマー11や圧縮バネ12等から構成されて打撃力を発生させる打撃機構9によって回転打撃力に変換され、この回転打撃力が、ハウジングに回転自在に支持されたアンビル10に伝えられる。動力伝達部1bの構造は公知である。
【0027】
次に、モータ部1aに設けられたDCブラシレスモータ5は、図2及び図3に示されるように、ドライバ本体1の一部をなすモータハウジング13に軸受20、21を介して回転自在に設けられた回転軸6と、この回転軸6に固定されたマグネット14を有するロータコア15と、このロータコア15の周囲に複数の巻き線16を有するステータコア17と、このステータコア17の出力側の端面に配置された基板18とを備えている。
【0028】
軸受20、21は回転軸6の前後に各1個が配置され、それぞれ回転軸6に圧入されて固定されている。ハウジング22の内部には、動力伝達部1bの遊星歯車機構7の軸受23に嵌合固定するための第1の筒状固定部24が形成された部品が配置され、第1の筒状固定部24の後方には第2の筒状固定部25が延長形成されている。前部軸受20は第2の筒状固定部25に嵌合固定されている。そして、後部軸受21はモータハウジング13の後壁13aの中央部の凹部26に嵌合固定されている。
【0029】
ロータコア15は回転軸6に固定され、その外周は断面円形に形成され、内周には断面長方形の空間が形成され、この空間内に立方体形状のマグネット14が配置されている。
【0030】
ステータコア17は断面が方形のリング状に形成され、モータハウジング13の内側に固定されている。ステータコア17の内側には複数の鉄芯がステータコア17の中心に向けて放射状に設けられ、各鉄芯の周囲には絶縁材を介して巻き線16が巻装されている。
【0031】
次に、基板18はモータ部1aの前側(動力伝達部1b側)に配置されている。図3に示されるように、基板18には、回転軸6のまわりに前部軸受20よりも大きい円形の開口部28が貫通形成されている。また、基板18の後ろ側(マグネット14側)には、磁気センサ(図示せず)が取り付けられていてもよい。磁気センサは、ロータコア15の磁極の位置を検出し、モータ駆動回路(図示せず)で各巻き線16に順次に電流を流して磁場を形成することによりロータコア15を回転させるもので、上記基板18はDCブラシレスモータ5の電気回路基板を構成している。
【0032】
ところで、上記各巻き線16に順次に電流を振り分けるのは6個のスイッチング素子(FET:Field Effect Transistor)27によって行われている。スイッチング素子27は、基板18の前部で、開口部28の周囲に、つまり回転軸6から遠い位置に、互いに間隔をおいて配置されている。
【0033】
また、スイッチング素子27は、回転軸6と直交する方向において回転軸6の前部軸受20と重なり合うように配置されている。つまり、前部軸受20を外周側に延長したときに、スイッチング素子27が、幅W分だけ干渉するように配置されている。ただし、スイッチング素子27と前部軸受20とは完全に重なり合うのではなく、少しずれて重なり合うように配置されている。このため、基板18の開口部28と、前部軸受20を固定した第2の筒状固定部25との間に冷却風が通るのに十分な空間が形成される。もちろん、開口部28を大きくし、スイッチング素子27と前部軸受20とが完全に重なり合うように構成してもよい。
【0034】
次に、ステータコア17の上記基板18とは反対側の後部には冷却ファン30が設けられている。冷却ファン30は回転軸6のロータコア15と後部軸受21との間に固定されている。後部軸受21はモータハウジング13の後壁13aに固定されているから、冷却ファン30は最後部に配置されている。
【0035】
また、モータハウジング13には、基板18と冷却ファン30とに対応する位置にそれぞれ空気孔31、32が形成されている。これにより、図2に矢印で示されるように、モータハウジング13の空気孔31から、基板18の表裏両面に沿って流れ、さらに開口部28からステータコア17の内側を通ってモータハウジング13の空気孔32から外側に吹き出す冷却風の通路が形成される。
【0036】
したがって、回転軸6とともに冷却ファン30が回転すると、モータハウジング13の空気孔31から冷却風が内部に取り込まれる。そして、冷却風は基板18の端面に当って表裏に分けられ、それぞれ表裏両面に沿って流れてスイッチング素子27と巻き線16を冷却する。その後、両方の流れは基板18の開口部28で一緒になり、さらにステータコア17とロータコア15の間を通ってモータハウジング13の空気孔32に向かうがその途中で巻き線16を冷却し、最後に空気孔32から外側に排出される。このように、スイッチング素子27には外部から取り込まれたばかりの新鮮な空気が接触することになり、その冷却効果は高い。このときステータコア17の巻き線16のうち基板18側に露出した部分も同様に冷却される。さらに、基板18と反対側に露出した巻き線16部分も、ステータコア17の内側を通り抜けて再び流速が増した冷却風に接触するので、巻き線16は効果的に冷却される。
【0037】
また、上記構成によれば、冷却ファン30が配置されているため、DCブラシレスモータ5の軸方向の寸法が嵩み、インパクトドライバの全長が長くならざるを得ない。しかし、スイッチング素子27は、回転軸6と直交する方向において回転軸6の前部軸受20と重なり合うように配置されている。したがって、DCブラシレスモータ5の軸方向の寸法は、スイッチング素子27と前部軸受20とを直列的に配置するよりも短くなるので、インパクトドライバの全長が長くなるのを最小限に抑えることができる。
【0038】
さらに、スイッチング素子27はインパクトドライバの前部、つまりモータ部1aと動力伝達部1bとの間に配置されているので、インパクトドライバを後部を下にして落としてしまったときでも、スイッチング素子27は直接的な衝撃を受けないので、落下時のショックで破損したり、ダメージを受けたりする可能性は小さく、このようなときでも、モータの回転数制御の性能は確保され、精密なスイッチング制御を維持することができる。
【0039】
さらにまた、デザイン的にみても、図1に示されるように、後部に比較的外径の小さい冷却ファン30を設けた構造であるから、モータハウジング13の後部を絞ることができ、全体をコンパクトにすることができ、視覚的にも小さく見える構成とすることができる。
【0040】
なお、本実施形態においては、上記した基板18及びスイッチング素子27が、熱伝導率0.5W/m・k以上のコーティング材(例えば、高熱伝導率シリル基含有特殊ポリマー系の接着剤)により防塵防水コーティングされている。このため、導電部を粉塵や水の浸入による腐食や短絡から保護することができる。
しかも、熱伝導率が良いコーティング材を使用することにより、発熱源のスイッチング素子と冷却風が効率よく熱交換ができ、冷却効果が高くなっている。すなわち、熱伝導率0.5W/m・k未満の熱伝導率が悪いコーティング材を使用すると、冷却風との熱交換が効率良く行えず、スイッチング素子に熱がこもって、場合によっては破損してしまうおそれがあるが、熱伝導率が良いコーティング材を使用することにより、このような問題を起きないようにすることができる。
【符号の説明】
【0041】
1a モータ部
1b 動力伝達部
13 モータハウジング
14 マグネット
15 ロータコア
16 巻き線
17 ステータコア
18 基板
20 前部軸受
27 スイッチング素子
28 開口部
30 冷却ファン
31、32 空気孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータハウジングに軸受を介して回転自在に設けられた回転軸と、この回転軸に固定されたマグネットを有するロータコアと、このロータコアの周囲に複数の巻き線を有するステータコアと、を備え、基板上に取り付けられた複数のスイッチング素子により直流電流を回転中のステータコアの巻き線に振り分けて順次磁場を形成することにより上記ロータコアを回転させるDCブラシレスモータを設けたモータ部と、このモータ部の回転力を駆動源とした動力伝達部とを、それぞれ後部から前部に直列に配置した充電工具であって、
上記回転軸に設けた冷却ファンを最後部に配置し、上記基板を上記DCブラシレスモータに対向させて配設し、上記冷却ファンによって上記モータハウジングの外側から取り込まれた冷却風が上記基板に沿って流れるように冷却風の通路が形成されていることを特徴とする充電工具。
【請求項2】
上記基板及び上記スイッチング素子をコーティング材により防塵防水コーティングしたことを特徴とする請求項1記載の充電工具。
【請求項3】
上記コーティング材は熱伝導率0.5W/m・k以上であることを特徴とする請求項2記載の充電工具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−31922(P2013−31922A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−246420(P2012−246420)
【出願日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【分割の表示】特願2010−271574(P2010−271574)の分割
【原出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(000006301)マックス株式会社 (1,275)
【Fターム(参考)】