説明

光アイソレータ用紫外線硬化型接着剤

【課題】光アイソレータ素子及び光アイソレータの組立に際して、遮光且つ常温環境下では可使時間に制限がなく、硬化後の室温における剪断破壊強度が高いだけでなく、高温高湿に暴露した後でも優れた接着性を有する光アイソレータ用紫外線(UV光)硬化型接着剤を提供。
【解決手段】平均分子量500〜850のビスフェノール型エポキシ(メタ)アクリレート(A1)及び分子中に2以上のアクリレート基を有する多官能アクリレート(A2)からなる光重合性化合物(A)と、アルキルフェノン系光重合開始剤(B)と、シラン系接着力向上剤(C)とを含有する光アイソレータ用紫外線硬化型接着剤において、紫外線硬化型接着剤が、さらに硬化補助剤(D)としてチオール系化合物、及び硬化促進剤(E)を含み、各成分の含有量は、光重合性化合物(A)100重量部に対し、アルキルフェノン系光重合開始剤(B)が1〜10重量部、接着力向上剤(C)が1〜10重量部、硬化補助剤(D)が1〜20重量部、及び硬化促進剤(E)が0.2〜2重量部である光アイソレータ用紫外線硬化型接着剤により提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光アイソレータ用紫外線硬化型接着剤に関し、より詳しくは、光アイソレータ素子及び光アイソレータの組立に際して、遮光且つ常温環境下では可使時間に制限がなく、硬化後の室温における剪断破壊強度が高いだけでなく、高温高湿に暴露した後でも優れた接着性を有する光アイソレータ用紫外線(UV光)硬化型接着剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光アイソレータは、一方向への光の通過は許容するが、逆方向への光の通過は阻止する機能を持つ非相反光デバイスであり、従来から光通信や光計測等の分野で、光源であるレーザーダイオードへの反射戻り光を阻止する目的で用いられている。即ち、レーザーダイオードを用いるこの種の機器において、反射戻り光があるとレーザーダイオードの発振が不安定になるため、光ファイバーアンプに用いられる励起用レーザーダイオードの場合にしても、また、信号源として用いられるレーザーダイオードの場合にしても、何れもノイズが増大して最悪の場合正確な情報通信が妨げられる結果となる。そのため、光アイソレータは、これを防止する光デバイスとして極めて重要なものである。
【0003】
この光アイソレータは、一般に、その構成部材である偏光子、ファラデー回転子、偏光子をこの順序で配置し、互いに接着剤を介し貼り合わせて作製した光アイソレータチップ素材をダイシングして光アイソレータ素子とし、この光アイソレータ素子とファラデー回転子を飽和磁化させる磁石とを平板状ホルダーに接着して得る。また、光アイソレータ素子と前記磁石とを内ホルダーに接着固定し、更にその内ホルダーを外ホルダーに接着固定して得ている。ここで、偏光子、ファラデー回転子、偏光子が接着剤を介し貼り合わされた光アイソレータ素子を用いたものは、ラミネートタイプと呼ばれている。
【0004】
ラミネートタイプの光アイソレータ素子、あるいは、この光アイソレータ素子と磁石を平板状ホルダーや内ホルダーなどの支持部材に接着剤を介して接着固定するために、従来は、光学系接着剤としてビスフェノール骨格を持つエポキシ樹脂、硬化剤としてアミン系化合物を用いた二液混合型の熱硬化系接着剤が知られている(例えば、特許文献1参照)。しかし、この種の従来の光学系接着剤は、エポキシ樹脂にアミン系化合物を混合すると直ちに硬化反応が始まる為に、可使時間、すなわち樹脂が硬化して使用できなくなるまでの時間、あるいは硬化した樹脂の機械強度が所定の数値以下に低下してしまう時間が制限されるという問題があった。
【0005】
また、アシルフォスフィンオキサイド化合物を光重合開始剤に用いる紫外線硬化型接着剤が提案されている(特許文献2参照)。しかし、アシルフォスフィンオキサイド化合物は、その多くが黄色粉末で有る為に接着剤が黄色に変色して透過率が低くなり、光アイソレータの特性を低下させやすいなどの欠点がある。
このようなことから、可使時間が制限されず、高温高湿条件下においても接着剤が変色して透過率が低下することなく、光アイソレータの特性を維持できる光アイソレータ素子及び光アイソレータ貼り合わせ用紫外線硬化型接着剤が求められていた。
【特許文献1】特開2004−99863公報
【特許文献2】特開平9−169957号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の目的は、上述した問題点に鑑み、光アイソレータ素子及び光アイソレータの組立に際して、遮光且つ常温環境下では可使時間に制限がなく、硬化後の室温における剪断破壊強度が高いだけでなく、高温高湿に暴露した後でも優れた接着性を有する光アイソレータ用紫外線(UV光)硬化型接着剤を提供することにある。
【0007】
本発明者は、かかる問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ファラデー回転子の光学面と偏光子の光学面とを接着剤を介して貼り合わせて光アイソレータ素子とする際、あるいは光アイソレータ素子と磁石を支持基材に配置して貼り合わせる際に、光重合性化合物として特定のビスフェノール型エポキシ(メタ)アクリレートと多官能アクリレート、光重合開始剤、及びシラン系接着力向上剤を含む組成物に、硬化補助剤としてチオール系化合物を含有させることで、十分な可使時間を有するとともに、初期(室温)だけでなく高温高湿条件下においても優れた接着性を有するようになり、特性が安定した光アイソレータを得ることができることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、平均分子量500〜850のビスフェノール型エポキシ(メタ)アクリレート(A1)及び分子中に2以上のアクリレート基を有する多官能アクリレート(A2)からなる光重合性化合物(A)と、アルキルフェノン系光重合開始剤(B)と、シラン系接着力向上剤(C)とを含有する光アイソレータ用紫外線硬化型接着剤において、紫外線硬化型接着剤が、さらに硬化補助剤(D)としてチオール系化合物、及び硬化促進剤(E)を含み、各成分の含有量は、光重合性化合物(A)100重量部に対し、アルキルフェノン系光重合開始剤(B)が1〜10重量部、接着力向上剤(C)が1〜10重量部、硬化補助剤(D)が1〜20重量部、及び硬化促進剤(E)が0.2〜2重量部であることを特徴とする光アイソレータ用紫外線硬化型接着剤が提供される。
【0009】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、光重合性化合物(A)が、ビスフェノール型エポキシ(メタ)アクリレート(A1)50〜80重量部と多官能アクリレート(A2)20〜50重量部の混合物であることを特徴とする光アイソレータ用紫外線硬化型接着剤が提供される。
また、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、ビスフェノール型エポキシ(メタ)アクリレート(A1)が、平均分子量700〜850のビスフェノールA系エポキシアクリレートであることを特徴とする光アイソレータ用紫外線硬化型接着剤が提供される。
また、本発明の第4の発明によれば、第1の発明において、多官能アクリレート(A2)が、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、またはトリシクロデカンジメタノールジアクリレートから選ばれる1種以上であることを特徴とする光アイソレータ用紫外線硬化型接着剤が提供される。
また、本発明の第5の発明によれば、第1の発明において、アルキルフェノン系光重合開始剤(B)が、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、または2−ヒロドキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル}−2−メチルプロパン−1−オンから選ばれる1種以上であることを特徴とすることを特徴とする光アイソレータ用紫外線硬化型接着剤が提供される。
また、本発明の第6の発明によれば、第1の発明において、シラン系接着力向上剤(C)が、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、または3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランから選ばれる1種以上であることを特徴とする光アイソレータ用紫外線硬化型接着剤が提供される。
さらに、本発明の第7の発明によれば、第1の発明において、硬化補助剤(D)のチオール系化合物が、1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)、または1,3,5−トリス(3−メルカブトブチルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオンから選ばれる1種以上であることを特徴とする光アイソレータ用紫外線硬化型接着剤が提供される。
また、本発明の第8の発明によれば、第1の発明において、硬化補助剤(D)が、さらに、アクリル酸、アクリル酸メチルまたはアクリル酸エチルから選ばれる1種以上を含むことを特徴とする光アイソレータ用紫外線硬化型接着剤が提供される。
また、本発明の第9の発明によれば、第1の発明において、硬化促進剤(E)が、芳香族または脂肪族骨格を有するジメチルウレアであることを特徴とする光アイソレータ用紫外線硬化型接着剤が提供される。
さらに、本発明の第10の発明によれば、第1〜9のいずれかの発明に係り、硬化後の剪断破壊強度が、室温で50Mpa以上、かつ85℃・85%RHの高温高湿条件下に200時間放置した後で30Mpa以上であることを特徴とする光アイソレータ用紫外線硬化型接着剤が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の紫外線硬化型接着剤によれば、光アイソレータ素子の作製及び光アイソレータの組立に際して、遮光且つ常温環境下では可使時間に制限がない。
また、硬化補助剤としてチオール系化合物を用いているので、初期及び高温高湿条件下においても接着性が有し、特性が安定した光アイソレータ素子及び光アイソレータを得ることができる。しかも、表面および内部硬化性、接着層の硬化状態の均一性が実現し、硬化物の剪断破壊強度が高温高湿に暴露した後も30Mpa以上となる光アイソレータ製品を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の光アイソレータ用紫外線硬化型接着剤の実施形態について詳細に説明する。
【0012】
1.光アイソレータ用紫外線硬化型接着剤
本発明の光アイソレータ用紫外線硬化型接着剤は、平均分子量500〜850のビスフェノール型エポキシ(メタ)アクリレート(A1)及び分子中に2以上のアクリレート基を有する多官能アクリレート(A2)からなる光重合性化合物(A)と、アルキルフェノン系光重合開始剤(B)と、シラン系接着力向上剤(C)とを含有する光アイソレータ用紫外線硬化型接着剤において、紫外線硬化型接着剤が、さらに硬化補助剤(D)としてチオール系化合物、及び硬化促進剤(E)を含み、各成分の含有量は、光重合性化合物(A)100重量部に対し、アルキルフェノン系光重合開始剤(B)が1〜10重量部、接着力向上剤(C)が1〜10重量部、硬化補助剤(D)が1〜20重量部、及び硬化促進剤(E)が0.2〜2重量部であることを特徴とする。
【0013】
ここで、本発明に適用できるビスフェノール型エポキシ(メタ)アクリレート(A1)は、主鎖にビスフェノールA、またはビスフェノールAD等と同じビスフェノール骨格を有し、両末端がアクリレート骨格を持つエポキシアクリレートであり、特に、ビスフェノールA系エポキシアクリレートが好ましい。また、分子量は500〜850でなければならず、特に550〜800の範囲内であることが望ましい。分子量が500よりも小さいと接着剤の耐湿性が低下する、接着剤層の機械的特性が低下するなどの傾向があり、硬化物を高温高湿に暴露した後に剪断破壊強度が30Mpa未満となることがある。一方、分子量が850よりも大きくなると接着剤の粘度が高くなる、結晶化する、重合性が低下するなどの傾向が生じるので好ましくない。
ビスフェノールA系エポキシアクリレートは、式(1)で示されるように、主鎖にビスフェノールA骨格、両末端にはアクリレート骨格を有しており、その分子量は700〜850の化合物であることが望ましい。
【0014】
【化1】

【0015】
このビスフェノールA系エポキシアクリレートは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、一部ハロゲン置換されたビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、及びそれらの混合物からなる群から選ばれる1種以上のエポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸との反応で得られ、ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては油化シェルエポキシ社製エピコート802、1001、1004等が使用される。上記ビスフェノール型エポキシ(メタ)アクリレート(A1)は単独で用いてもよいが、2種以上を任意の割合で混合して使用してもかまわない。
【0016】
本発明において多官能アクリレート(A2)は、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレートまたはトリシクロデカンジメタノールジアクリレートのいずれかが挙げられる。
ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリス[(メタ)アクリロキシエチル]イソシアヌレート、エチレンオキサイド変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等も使用できる。
多官能アクリレート(A2)としては、式2で示されるトリシクロデカンジメタノールジアクリレートが好ましい。
【0017】
【化2】

【0018】
これらの多官能アクリレート(A2)は、単一でも複数混合して適用してもよいが、ビスフェノール型エポキシ(メタ)アクリレート(A1)と混合後に、25℃での粘度が0.1〜50Pa・s、特に1〜40Pa・sとなることが望ましい。粘度が0.1Pa・s未満の場合は硬化物の耐湿性が低下しやすくなり、50Pa・sを越えると一定膜厚で塗布することが困難となる為に製品の特性が安定しない。
【0019】
光重合性化合物(A)は、ビスフェノール型エポキシ(メタ)アクリレート(A1)50〜80重量部と多官能アクリレート(A2)20〜50重量部の混合物である。ビスフェノール型エポキシ(メタ)アクリレート(A1)は、50〜80重量部であるが、60〜80重量部であることが望ましく、さらには70〜80重量部であることが好ましい。50重量部未満の場合は、硬化物の耐湿性が低下しやすくなり、80重量部を越えると粘度が100Pa・s以上(25℃、0.5rpm)となり、一定膜厚で塗布することが困難となる為に製品の特性が安定しない。
多官能アクリレート(A2)の含有量は、20〜50重量部であるが、20〜40重量部であることが望ましく、さらには20〜30重量部であることが好ましい。20重量部未満では接着剤の耐湿性が低下する、接着剤層の機械的特性が低下するなどの傾向があり、50重量部を超えると接着剤の粘度が高くなる、結晶化するなどの傾向が生じるので好ましくない。
【0020】
また、本発明で適用できる光重合開始剤(B)としては、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−ヒロドキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル}−2−メチルプロパン−1−オン等のアルキルフェノン系光重合開始剤が挙げられ、これらは単一でも複数混合して適用してもよい。
この光重合開始剤(B)は、白色粉末で有る為に接着剤が黄色に変色することはないので、透過率が低くならず光アイソレータの特性を低下させにくい。
【0021】
光重合開始剤(B)の配合量は、上記光重合性化合物(A)、すなわち(A1)と(A2)との合計量100重量部に対して、2〜8重量部、特に2〜6重量部であることが望ましく、さらには2〜5重量部であることが好ましい。光重合開始剤(B)が2重量部未満の場合は硬化が不十分となり、8重量部を超えると硬化物の黄変が進みやすいという傾向が生じるので好ましくない。
【0022】
本発明の接着剤組成物には、シランカップリング剤などのシラン系接着力向上剤(C)が配合される。
シランカップリング剤としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチルブチリデン)プロピルアミン等、エポキシ基またはケチミン基を有するものが挙げられ、これらは単一でも複数混合して適用してもよい。これらシランカップリング剤を配合することで、光カチオン重合反応により高い接着力を得ることができる。これらシランカップリング剤の中でも、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランが適している。
シラン系接着力向上剤(C)の添加量は、2〜8重量部、特に2〜6重量部であることが望ましく、さらには2〜5重量部であることが好ましい。2重量部未満の場合は接着性向上効果が不足し、8重量部を超えると未反応成分が残存することにより、硬化物自体の破壊強度が低下する。
【0023】
本発明では、硬化補助剤(D)として、チオール系化合物を含有しなければならない。チオール系化合物には、式3で示される1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン、式4で示されるペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)、または式5で示される1,3,5−トリス(3−メルカブトブチルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオンが挙げられる。
硬化補助剤(D)の添加量は、1〜10重量部、特に2〜6重量部であることが望ましく、さらには2〜5重量部であることが好ましい。1重量部未満の場合はその効果が得られにくく剪断破壊強度が30Mpa未満となり、8重量部を超えると未硬化部分が残存する可能性が高くなる。
本発明の接着剤組成物がチオール系化合物を含有することで接着強度が向上する理由は、光または熱によってチオール系化合物が二重結合を有するエン化合物と反応し、酸素ラジカルによる硬化阻害を受けることなく空気中で効率よく硬化するからである。また、チオール系化合物に対するエン化合物においても選択の自由度が高く、例えば、アクリレート系化合物やマレイミド、ビニル化合物、アリル化合物等使用可能であるという利点もある。
【0024】
【化3】

【0025】
【化4】

【0026】
【化5】

【0027】
本発明においては、硬化補助剤(D)として、さらにアクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルなどのアクリル系化合物を配合でき、これらは単一でも複数混合してもよい。これらのいずれか一成分を1〜8重量部含有することが望ましい。配合量は、1〜6重量部、特に2〜5重量部であることが好ましい。
【0028】
また、硬化促進剤(E)として、3−(3’,4’−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素、N,N’−ジメチルチオ尿素、1,3−ジメチル尿素、1,3−ジフェニル尿素を含有する。硬化促進剤(E)は、単一で又は複数混合して用いることができ、その添加量は、0.2〜2重量部、特に0.2〜1重量部とする。0.2重量部未満の場合は効果が得られにくく未硬化部分が残存する可能性が高く、2重量部を超えると溶解しづらくなり未溶解成分が残存する。
【0029】
本発明の光アイソレータ用紫外線硬化型接着剤には、前記の他に重合禁止剤、レベリング剤、表面潤滑剤、消泡剤、光安定化剤、酸化防止剤、帯電防止剤などの補助成分を、本発明の効果を損なわない範囲で使用してもよい。
この接着剤は、一般的な方法で製造できるが、たとえば各成分を配合した混合物を均一になるまで40℃未満で超音波をかけることにより効率的に得ることができる。これにより、UV照射後に熱エージングを実施することで表面(光照射側)および内部(光照射側の反対側)の硬化性が充分となるために接着層の硬化状態が均一であり、高温高湿度条件下においても接着性を有する光アイソレータ素子及び光アイソレータ貼り合わせに適した紫外線硬化型接着剤となる。
【0030】
2.光アイソレータの作製
以下、ファラデー回転子の光学面と偏光子とを接着して得られる光アイソレータ素子、それを用いた光アイソレータの作製手順を説明する。
【0031】
本発明において、ファラデー回転子の光学面と偏光子は、ウエハー状の光学部材であり、公知のものを使用でき特に制限されない。例えば、ウエハー状のファラデー回転子としては、液相エピタキシャル法を用いて作製したビスマス置換ガーネットの単結晶の厚膜で代表されるファラデー回転子材料を用い、また、ウエハー状の偏光子としては、コーニング社製のポーラコア(商品名)等を用いることができる。この場合、ファラデー回転子の表面には接着剤の屈折率の媒質に対する反射防止コートを、偏光子の空気と接する面には空気の屈折率に対する反射防止コートを、接着剤側の面には接着剤の屈折率の媒質に対する反射防止コートを夫々施しておくことが望ましい。
【0032】
その後、本発明の接着剤を部材に塗布して、貼り合わせることにより、光アイソレータチップ素材を作製する。ウエハー状のファラデー回転子と偏光子の貼り合わせに当たって、偏波依存タイプの場合には、これらを接着剤で貼り合わせたものを光アイソレータチップとして用い、偏波無依存タイプの場合には、偏光子として複屈折結晶であるルチルを用い且つ所定の位置に1/2波長板等の偏光補償板を配置してファラデー回転子と共に貼り合わせたものを光アイソレータチップとして用いる。
【0033】
接着剤の塗布後、接着面に紫外線を照射して硬化させる。ファラデー回転子と偏光子の温度が、70〜150℃、好ましくは75〜120℃となるように加熱し、かつ、10〜180分、好ましくは20〜120分保持する条件で熱処理する。加熱温度を段階的に上昇させながら加熱してもよい。ここで、処理条件において、処理温度が70℃未満の低温下、または処理時間が10分未満の短時間では、十分な接着効果が得られない。逆に、処理温度が150℃を超える高温下、または処理時間が180分を超える長時間でも、接着強度が低下する。
その後、このようにして作製した光アイソレータチップ素材をダイシングし、所定サイズの多数の光アイソレータチップからなるチップ群を作る。そして、このチップ群を保持用のフィルム等に転写(転写技術を用いて貼り付けること)し、エキスパンダーにてフィルムを放射方向へ均等に引き伸ばすことにより、隣接する各チップ間の間隔を所定量あけることができ、光アイソレータ素子が出来上がる。
【0034】
光アイソレータを製造するには、予め上記の光アイソレータ素子、支持部材および磁石を用意し、それぞれに本発明の接着剤を塗布し、上記光アイソレータ素子の作製と同様に接着面に紫外線を照射して硬化させる。
【実施例】
【0035】
以下に本発明の実施例、比較例を示して詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら制限されることはない。なお、接着剤組成物は以下のような方法で評価した。
【0036】
(室温における接着強度)
調製した接着剤を2.5cm×2.5cmのSUS304上に面積が2.25mm、厚みが50μmとなるように10サンプル分塗布し、その上に1mmの偏光子を配置して10J/cmの線量でUVを照射した。その後、100℃で2時間熱処理を行い、評価試料とした。
プッシュプルゲージを用いて水平方向に偏光子を押圧して剥離させて、室温における接着強度を測定した。
○:50MPa以上、×:50MPa未満
(高温高湿下での接着強度)
上記と同様にして作製した評価試料を85℃、85%RHの高温高湿条件下に200時間放置した後、プッシュプルゲージを用いて水平方向に偏光子を押圧して剥離させて接着強度を測定した。
○:30MPa以上、×:30MPa未満
【0037】
(粘度変化評価)
東機産業(株)製粘度計TV−22を用い、調製した接着剤の粘度を25℃、0.5rpmで測定した。
○:100Pa・s未満、×:100Pa・s以上
(硬化性評価)
調製した接着剤を2.5cm×2.5cmのSUS304上に面積が2.25mm、厚みが50μmとなるように10サンプル分塗布し、10J/cmの線量でUVを照射し、評価試料とした。別の2.5cm×2.5cmのSUS304を試料上に1分間放置し、接着剤が転写されるか否かを確認した。
○:転写されない、×:転写される
(透過性評価)
調製した接着剤に10J/cmの線量でUVを照射、100℃で2時間熱処理を行い、直径が20mm、厚みが2mmとなる評価試料を得た。日立製作所(株)製分光光度計U−4100を用い、1310nmでの透過率を測定した。
○:75%以上、×:75%未満
【0038】
(実施例1〜20)
下記に示すエポキシアクリレート、ジアクリレート、光重合開始剤、接着力向上剤、硬化補助剤、硬化促進剤を表1に示す割合に配合し、配合物を十分に混合させて本発明の接着剤を得た。これにより得られた接着剤組成物を用いて、それぞれ接着強度、粘度変化、硬化性、透過性を測定した。これらサンプル評価結果を表2に示す。
(1)ビスフェノールA系エポキシアクリレート
ビニルエステル樹脂 リポキシVR−77H−1 分子量754(昭和高分子(株)製)
(2)ジアクリレート:トリシクロデカンジメタノールジアクリレート
NKエステル A−DCP(新中村化学(株)製)
(3)光重合開始剤:1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン
IRGACURE 184(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)
(4)接着力向上剤:3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
KBM−403(信越シリコーン(株))
(5)硬化補助剤
試薬1:アクリル酸(関東化学(株))
試薬2:アクリル酸メチル(関東化学(株))
試薬3:アクリル酸エチル(関東化学(株))
試薬4:1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン、製品名 カレンズMT BD1 分子量294(昭和電工(株))
試薬5:、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)、製品名 カレンズMT PE1 分子量545(昭和電工(株))
試薬6:1,3,5−トリス(3−メルカブトブチルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、製品名 カレンズMT NR1 分子量568(昭和電工(株))
(6)硬化促進剤
試薬7:3−(3’,4’−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素(ナカライテスク(株))
試薬8:1,3−ジフェニル尿素(ナカライテスク(株))
【0039】
【表1】

【0040】
(比較例1)
ビスフェノールA系エポキシアクリレートの代わりに、ビスフェノールF系エポキシアクリレート(分子量658、ビニルエステル樹脂:昭和高分子(株)製)を用い、硬化補助剤を配合しなかった以外は、実施例3と全く同様にして、各成分を混合し、比較例1の接着剤を得た。これにより得られた接着剤組成物を用いて、それぞれ接着強度、粘度変化、硬化性、透過性を測定した。このサンプル評価結果を表2に示す。
【0041】
(比較例2〜11)
また、上記エポキシアクリレート、ジアクリレート、光重合開始剤、接着力向上剤、硬化補助剤を表2に示す割合に配合し、配合物を十分に混合させて比較例2〜11の接着剤を得た。これにより得られた接着剤組成物を用いて、それぞれ接着強度、粘度変化、硬化性、透過性を測定した。これらサンプル評価結果を表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
【表3】

【0044】
「評価」
各実施例は、エポキシアクリレート、ジアクリレート、光重合開始剤、接着力向上剤、硬化補助剤を特定量含有しているために、室温での接着強度が50Mpa以上、かつ85℃・85%RHの高温高湿条件下に200時間放置した後で30Mpa以上であることが分かる。また、いずれも優れた粘度変化、硬化性、透過性を有している。
これに対して、比較例1では、硬化補助剤を配合しなかったために接着強度が低下し、硬化性も悪化した。比較例2〜11では、エポキシアクリレート、ジアクリレート、光重合開始剤、接着力向上剤、硬化補助剤、硬化促進剤のうち、いずれかの配合量が適切ではなかったために接着強度が低下するか、粘度変化、硬化性、透過性のいずれかが悪化している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均分子量500〜850のビスフェノール型エポキシ(メタ)アクリレート(A1)及び分子中に2以上のアクリレート基を有する多官能アクリレート(A2)からなる光重合性化合物(A)と、アルキルフェノン系光重合開始剤(B)と、シラン系接着力向上剤(C)とを含有する光アイソレータ用紫外線硬化型接着剤において、
紫外線硬化型接着剤が、さらに硬化補助剤(D)としてチオール系化合物、及び硬化促進剤(E)を含み、各成分の含有量は、光重合性化合物(A)100重量部に対し、アルキルフェノン系光重合開始剤(B)が1〜10重量部、接着力向上剤(C)が1〜10重量部、硬化補助剤(D)が1〜20重量部、及び硬化促進剤(E)が0.2〜2重量部であることを特徴とする光アイソレータ用紫外線硬化型接着剤。
【請求項2】
光重合性化合物(A)が、ビスフェノール型エポキシ(メタ)アクリレート(A1)50〜80重量部と多官能アクリレート(A2)20〜50重量部の混合物であることを特徴とする請求項1に記載の光アイソレータ用紫外線硬化型接着剤。
【請求項3】
ビスフェノール型エポキシ(メタ)アクリレート(A1)が、平均分子量700〜850のビスフェノールA系エポキシアクリレートであることを特徴とする請求項1に記載の光アイソレータ用紫外線硬化型接着剤。
【請求項4】
多官能アクリレート(A2)が、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、またはトリシクロデカンジメタノールジアクリレートから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の光アイソレータ用紫外線硬化型接着剤。
【請求項5】
アルキルフェノン系光重合開始剤(B)が、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、または2−ヒロドキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル}−2−メチルプロパン−1−オンから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の光アイソレータ用紫外線硬化型接着剤。
【請求項6】
シラン系接着力向上剤(C)が、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、または3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の光アイソレータ用紫外線硬化型接着剤。
【請求項7】
硬化補助剤(D)のチオール系化合物が、1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)、または1,3,5−トリス(3−メルカブトブチルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオンから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の光アイソレータ用紫外線硬化型接着剤。
【請求項8】
硬化補助剤(D)が、さらに、アクリル酸、アクリル酸メチルまたはアクリル酸エチルから選ばれる1種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の光アイソレータ用紫外線硬化型接着剤。
【請求項9】
硬化促進剤(E)が、芳香族または脂肪族骨格を有するジメチルウレアであることを特徴とする請求項1に記載の光アイソレータ用紫外線硬化型接着剤。
【請求項10】
硬化後の剪断破壊強度が、室温で50Mpa以上、かつ85℃・85%RHの高温高湿条件下に200時間放置した後で30Mpa以上であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の光アイソレータ用紫外線硬化型接着剤

【公開番号】特開2009−75517(P2009−75517A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−246871(P2007−246871)
【出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】