説明

光センサヘッド

【課題】検出感度が高く小型な光センサヘッドを、安価で大量生産可能な状態で提供できるようにする。
【解決手段】シリコン細線コア102にスロット121が形成されている。スロット121は、シリコン細線コア102の直線部分に設けられ、シリコン細線コア102の延在方向(光の導波方向)に延在して設けられている。また、スロット121は、両端が平面視先細りに形成されている。例えば、スロット121の最も広い部分の幅Gは、0.05μmに形成され、シリコン細線コア102の幅Wは、0.41μmに形成され、シリコン細線コア102の高さHは、0.3μmに形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈折率の異なる界面で光が全反射するときにしみ出すエバネッセント光を利用するなどの光吸収分光を利用した光センサヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
物質の同定及び定量に、分光技術が盛んに用いられている。これは、同様の計測が可能な質量分析や核磁気共鳴に比較し、装置が簡便で安価に構成できるためであり、分光技術の応用範囲は現在も拡大しつつある。分光技術は、波長帯域によって紫外−可視分光、近赤外分光、遠赤外−マイクロ波分光に大別できる。紫外−可視分光と遠赤外−マイクロ波分光に比較して近赤外分光は歴史が浅い。これは、近赤外スペクトルから有意な情報を引き出す分析が困難であったためであるが、近年のスペクトル分析への計算化学的手法の導入により分析が可能となり、近赤外分光の有用性が大幅に見直されるようになってきている。
【0003】
近赤外分光による分析は、当初では農産物の糖度計測に適用され、この後、化学物質及び薬品などの分析へと適用分野が拡大している。また、近赤外領域は、従来から光通信で使用されている領域でもあり、安価で信頼性の高いレーザ光源及び検出器などのデバイス作製に関して技術的蓄積がある領域でもあり、分光技術が発展する土壌が整っている。
【0004】
近年では、上記のような産業用分析装置としての利用のほかに、以降に説明する理由により、ユビキタス携帯端末へ光センサシステムを搭載するという要求がある。光センサシステムは、高速リアルタイムセンシングが可能であり、センシング対象物質の物理/化学状態を乱すことなくセンシング可能である等の特徴があり、個人の生理情報の監視に最適であるとの判断からである。
【0005】
上述した光センサシステムに適用可能な光センサヘッドとして、2つのテーパ導波路の端面が、間隙を挾んで対面している光センサヘッドが提案されている(特許文献1参照)。この技術では、シリコン微細加工技術を利用して、相互作用長が精密に制御された状態を実現し、検出感度の向上を図ったものである。この特許文献1の技術では、吸光度が大きく異なる物質に対しても、高精度なセンシングが可能とされている。
【0006】
また、シリコンを含む材料からなるコアよりシングルモード導波路を構成し、この一部を露出させ、ここに分析対象物を接触させ、分析対象物における赤外線の吸収などを検出する技術が提案されている(特許文献2参照)。この技術では、相互作用長を大きくすることで、検出感度の向上を図っている。
【0007】
【特許文献1】特願2003−358835
【特許文献2】特開2005−061904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、まず、特許文献1の技術では、相互作用長に限界があるため、吸光度が著しく小さな物質に対しては定量に限界があった。また、特許文献2の技術では、エバネッセント光を用いていることから、検出感度を向上させるにはセンサヘッド長を長くする必要がある。ところが、シリコンコアの導波路では、2dB/cm程度の伝搬損失があるため、センサヘッド長を長くすると信号雑音比が低下し、結果として検出感度の向上には限界があった。
【0009】
上述したように、現在の光センサヘッドがもつ大きな課題の一つに、検出感度の向上がある。ユビキタス携帯端末での光センサヘッドに関しては小型、安価で信頼性が高いものが求められている。
【0010】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、検出感度が高く小型な光センサヘッドを、安価で大量生産可能な状態で提供できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る光センサヘッドは、下部クラッド層と、この下部クラッド層の上に形成されて少なくとも上面が露出したシリコンからなるコアと、コアから構成された導波路の光入射端と、コアの一部にコアの上面より光の導波方向に延在して形成されたスロットと、導波路の光出射端とを少なくとも備え、導波路は、シングルモード導波路であり、スロットの幅は高々0.1μmであり、コアの露出した面に分析対象物が接触するようにしたものである。従って、導波路を導波している光は、コアの露出面よりしみ出し、コアの露出した面に接触している分析対象物により吸収される。この結果、導波している光が減衰する。また、スロットの部分では、電場強度が増大する。
【0012】
上記光センサヘッドにおいて、スロットの端部は、先細りに形成されているとよい。また、スロットの端部は、コアの側方に屈曲してコアの側面で開口しているようにしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、コアの一部にコアの上面より光の導波方向に延在して形成された幅が高々1μmのスロットを設け、この部分における電場強度が増大するようにしたので、検出感度が高く小型な光センサヘッドを、安価で大量生産可能な状態で提供できるようになるという優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態における光センサヘッドの構成例を模式的に示す平面図(a)及び断面図(b),(c)である。この光センサヘッドは、まず、酸化シリコンから構成された下部クラッド層101の上に、例えば単結晶シリコンから構成されたシリコン細線コア102を備えている。シリコン細線コア102は、多結晶シリコンやアモルファスシリコンから構成されていてもよ。シリコン細線コア102は、検出領域110において、側面及び上面が露出している。また、シリコン細線コア102は、検出領域110において、所定の間隔で往復されて配置されている。ここで、下部クラッド層101の表面で形成される平面に接触しているシリコン細線コア102の面を下面とし、これに対向しているシリコン細線コア102の面を上面とし、これらに隣接して上記平面にほぼ垂直なシリコン細線コア102の面を側面とする。
【0015】
また、シリコン細線コア102の入力端及び出力端には、例えば酸窒化シリコンから構成されたスポットサイズ変換コア103及びスポットサイズ変換コア104が配置され、スポットサイズ変換コア103には、入力側の光ファイバ105が光接続し、スポットサイズ変換コア104には、出力側の光ファイバ106が光接続している。また、スポットサイズ変換コア103の領域において、シリコン細線コア102は、先端に行くほど幅が狭くなる先細りの形状とされている。同様に、スポットサイズ変換コア104の領域において、シリコン細線コア102は、先端に行くほど幅が狭くなる先細りの形状とされている。また、スポットサイズ変換コア103,スポットサイズ変換コア104の形成領域には、これらを覆うように形成された上部クラッド層107が配置されている(図1(c))。
【0016】
また、スポットサイズ変換コア103,スポットサイズ変換コア104は、高さ,幅が、光ファイバ105及び光ファイバ106のコアの半分程度からほぼ同程度までの寸法となっている。これらのように構成されたスポットサイズ変換領域においては、「シリコン細線コア102の屈折率>スポットサイズ変換コア103,スポットサイズ変換コア104の屈折率>上部クラッド層107の屈折率」となっている。このように構成したスポットサイズ変換領域により、光ファイバ105を導波してきた光(赤外線)は、損失が低減された状態でスポットサイズが変換され、シリコン細線コア102の一端に結合される。同様に、シリコン細線コア102を出射した光は、損失が低減された状態でスポットサイズが変換され、光ファイバ106へ結合される。
【0017】
加えて、図1に示す光センサヘッドは、シリコン細線コア102にスロット121が形成されている。スロット121は、シリコン細線コア102の直線部分に設けられ、シリコン細線コア102の延在方向(光の導波方向)に延在して設けられている。また、スロット121は、両端が平面視先細りに形成されている。また、図1(b)に示すように、下部クラッド層101の平面の法線方向(膜厚方向)に、シリコン細線コア102の上面からシリコン細線コア102の底面にかけて貫通して形成されている。例えば、スロット121の最も広い部分の幅Gは、0.05μmに形成され、シリコン細線コア102の幅Wは、0.41μmに形成され、シリコン細線コア102の高さHは、0.3μmに形成されている。なお、図1では、検出領域110においては、シリコン細線コア102の側方が開放されてシリコン細線コア102の側面が露出しているが、これに限るものではない。例えば、シリコン細線コア102の側部が、より屈折率の低い材料からなるクラッドで充填され、シリコン細線コア102の側面がクラッドで被覆され、シリコン細線コア102の上面が露出しているようにしてもよい。
【0018】
入射側の光ファイバ105に光源を接続し、出射側の光ファイバ106に分光器を接続することで、分光測定のシステムが構成できる。なお、図1では、光の入射端と出射端とを各々設けるようにしているが、これらを同一とした閉回路としてもよい。このような図1に示す光センサヘッドを用いた分析システムにおいて、検出領域110に分析対象の試料を接触させると、検出領域110で露出するシリコン細線コアの上面及び両側面に分析対象の試料が接触することになる。ここで、シリコン細線コア102よりなる導波路に赤外線を導波させると、シリコン細線コア102よりしみ出した光(エバネッセント光)が、接触している試料の特性に応じて吸収されるため、この吸収の強さに応じて導波する光の強度が低下する。従って、例えば、シリコン細線コア102から構成されている導波路を導波する光の強度をある波長帯域に対して測定すれば、分析対象の試料による吸収スペクトルが得られる。
【0019】
また、スロット121を設けたシリコン細線コア102によれば、図2に示すように、スロット121の部分における電場強度が、スロットのないコアに比較して著しく増大する。従って、図1に示す光センサヘッドによれば、分析対象の試料が接触する検出領域110におけるシリコン細線コア102の光強度を著しく大きくすることが可能となる。また、分析対象の試料(物質)が検出領域110に接触することで、図3の斜視図に示すように、シリコン細線コア102のスロット121に分析対象の物質301が充填されるようになる。この状態では、物質301は、電場強度が最も増強される部分に配置されることになる。これらの結果、図1に示す光センサヘッドによれば、検出感度を向上させることが可能となる。なお、図2において、スロット121を備えたシリコン細線コア102(導波路)の断面方向(図1のbb線方向)の電場強度が実線で示され、スロットのないコア(導波路)の電場強度が、波線で示されている。
【0020】
また、図4に示すように、スロット121の幅が0.1μmを超えると、この部分における電場強度の増大効果が、あまり得られなくなる。図4において、縦軸の値(電場強度2)が1は、スロットがないシリコン細線コアの値を示している。従って、スロット121の幅は、高々0.1μm(0.1μm以下)とすればよい。
【0021】
ところで、シリコン細線コア102は、断面寸法が1μmより小さいので、シリコン細線コア102より構成される導波路は、波長4μm以下の光がシングルモードで伝搬する。言い換えると、シリコン細線コア102は、酸化シリコンからなるクラッドと構成される導波路が、シングルモードとなる寸法に形成されていればよい。例えば、近赤外の光をシングルモードとする場合、シリコン細線コア102の断面寸法は、縦及び幅が、0.3〜0.4μm程度とされていればよい。また、シリコンは、近赤外線に対して屈折率が3.5と大きいため、上記構成とされた導波路によれば、近赤外線を導波させる場合、よく知られているように、最小曲げ半径が数μm以下とすることができる。このように、非常に小さい曲率で導波方向を変更することができるので、図1(a)に示すように、シリコン細線コア102を、狭い間隔で往復させて配置させることが可能となる。このことにより、狭い検出領域110内で、試料と接触する領域をより長くすることが可能となる。
【0022】
なお、図1に示す光センサヘッドは、市販されているSOI(Silicon on Insulator)基板を用いることで容易に製造可能である。例えば、SOI基板の埋め込み絶縁層を下部クラッド層101として用い、埋め込み絶縁層の上のSOI層を微細加工することで、シリコン細線コア102及びスロット121が形成可能である。また、これらの上に、例えばCVD(化学気相成長)法により酸窒化シリコンの膜を形成し、この膜を微細加工することでスポットサイズ変換コア103及びスポットサイズ変換コア104が形成された状態とすることができる。また、これらの上に、例えばCVD法により酸化シリコンの膜を形成し、この膜を微細加工することで、上部クラッド層107が形成された状態とすることができる。また、所望の屈折率を備えた有機樹脂を塗布し、この塗布膜を微細加工することで、上部クラッド層107が形成された状態としてもよい。なお、上述した微細加工としては、例えば、公知の電子線リソグラフィー技術もしくはフォトリソグラフィー技術と、公知のドライエッチング技術とを用いればよい。
【0023】
次に、本発明の実施の形態における他の光センサヘッドについて説明する。図5は、本発明の実施の形態における他の光センサヘッドの構成例を模式的に示す平面図である。図5に示す光センサヘッドでは、まず、スロット521が、シリコン細線コア102の直線部分に設けられているようにした。これは、図1に示す光センサヘッドと同様である。加えて、図5に示す光センサヘッドでは、スロット521の端の部分が、シリコン細線コア102の延在方向からシリコン細線コア102の側方に屈曲してシリコン細線コア102の側面で開口し、シリコン細線コア102の側面よりシリコン細線コア102の側部領域に連通している。このようにスロット521を設けることで、シリコン細線コア102の側部からも、スロット521の内部に試料が浸入するようになり、分析対象の試料がスロット521の間隙に充填されやすくなる。
【0024】
なお、図6の平面図に一部を示すように、一方の端の部分が他方の端の部分と異なる側方に屈曲し、異なる側面で開口して側部領域に連通しているスロット621が、シリコン細線コア102に形成されていてもよい。また、図1に示す光センサヘッドでは、スロット121は、両端が平面視先細りに形成されているようにしたが、これに限るものではない。例えば、図7の平面図に一部を示すように、シリコン細線コア102に平面視矩形状のスロット721が設けられているようにしてもよい。ただし、スロット721は、シリコン細線コア102における光の導波方向にほぼ垂直な面が形成され、この面における導波光の内部反射が検出感度の低下を招く場合がある。これに対し、スロット121のように先細りとすることで、スロットの端部における導波光の内部反射を低減することができる。また、スロットの端部において、コアの膜厚方向にも先細りとすることで、上述した内部反射の問題をより低減させることができる。
【0025】
なお、上述では、スロットがシリコン細線コアを貫通するように形成されているものとしたが、これに限るものではない。例えば、スロットが、シリコン細線コア102の上面よりシリコン細線コア102の途中まで形成されているようにしてもよい。また、スロットは、シリコン細線コア102の直線部分に配置されている必要はない。曲率半径があまり小さくなければ、シリコン細線コア102の屈曲部分にスロットが設けられていてもよい。曲率半径が小さい部分にスロットが設けられていると、光が導波しない場合があるため、曲率半径が小さい部分では、スロットを設けない方がよい。言い換えると、シングルモードで光が導波する範囲であれば、屈曲した部分であってもスロットを設けることが可能である。また、下部クラッド層101の平面方向において、スロットは、シリコン細線コア102の中央に配置されている必要はない。ただし、シリコン細線コア102のほぼ中央にスロットが配置されるようにすることで、電場強度の増大効果が最も高く得られるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態における光センサヘッドの構成例を模式的に示す平面図(a)及び断面図(b),(c)である。
【図2】スロット121が形成されたシリコン細線コア102における断面方向の電場強度の分布を示す分布図である。
【図3】スロット121が形成されたシリコン細線コア102の一部を模式的に示す斜視図である。
【図4】スロットの幅と電場強度との関係を示す特性図である。
【図5】本発明の実施の形態における他の光センサヘッドの構成例を模式的に示す平面図である。
【図6】スロット621が形成されたシリコン細線コア102の一部を模式的に示す平面図である。
【図7】スロット721が形成されたシリコン細線コア102の一部を模式的に示す平面図である。
【符号の説明】
【0027】
101…下部クラッド層、102…シリコン細線コア、103,104…スポットサイズ変換コア、105,106…光ファイバ、107…上部クラッド層、110…検出領域、121…スロット。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部クラッド層と、
この下部クラッド層の上に形成されて少なくとも上面が露出したシリコンからなるコアと、
前記コアから構成された導波路の光入射端と、
前記コアの一部に前記コアの上面より光の導波方向に延在して形成されたスロットと、
前記導波路の光出射端と
を少なくとも備え、
前記導波路は、シングルモード導波路であり、
前記スロットの幅は、高々0.1μmであり、
前記コアの露出した面に分析対象物が接触する
ことを特徴とする光センサヘッド。
【請求項2】
請求項1記載の光センサヘッドにおいて、
前記スロットの端部は、先細りに形成されている
ことを特徴とする光センサヘッド。
【請求項3】
請求項1記載の光センサヘッドにおいて、
前記スロットの端部は、前記コアの側方に屈曲して前記コアの側面で開口している
ことを特徴とする光センサヘッド。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−329680(P2006−329680A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−150079(P2005−150079)
【出願日】平成17年5月23日(2005.5.23)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】