説明

光ピンセット装置

【課題】複雑な光学系が不要で、単一の光源で複数のサンプルを同時に制御することができ、機械的可動部が不要な光ピンセット装置を提供するにある。
【解決手段】制御光発生源11と平面光導波回路13とを備え、前記平面光導波回路13は、光を焦点に集める導波路型集光手段14と、当該平面光導波回路13に対して垂直方向に形成された試料挿入用溝15とを備え、前記試料挿入用溝15は前記導波路型集光手段14による集光位置に沿って設けられ、更に、該集光位置を前記試料挿入用溝15に沿って移動させる集光位置可変機構22を設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微小な物体の位置を光の放射圧で制御する光ピンセット装置に関する。
【背景技術】
【0002】
微小な物体の位置を光の放射圧で制御する光ピンセットは、生物学や医療の分野では生体細胞の非接触操作や細胞融合、あるいは機械分野では微粒子の配列や微小物体の回転駆動など様々な分野で応用範囲が広がっており、さらなる発展が期待されている。
【0003】
従来の光ピンセット装置の構成を図19に示す。
図19に示すように、従来の光ピンセット装置は、光源191と、レンズ192、ピンホール193、レンズ194からなる空間モードフィルタと、光路を切り替えるためのミラー195と、高NAレンズ196と、ステージ197から構成されている。
また、ステージ197の上にはサンプル198がおかれている。
【0004】
この構成で、光源191からの光を急激に絞り込んでサンプル198に照射すると、光の放射圧により、サンプル198には光の焦点位置付近へと向かう力が働く。
例えばサンプル198を生体として、光源191の波長を生体による吸収が少ない波長と設定すれば、サンプル198の位置を非接触に移動させることができ、これを利用してサンプル198の位置を制御したり、力学的な特性を評価したりすることが可能となる。
【0005】
このような光ピンセット装置は既に市販されており、利用が広がりつつある(非特許文献1参照)。
【非特許文献1】「シリーズ・光が拓く生命科学 第7巻 生命科学を拓く新しい光技術」日本光生物学協会編 担当編集委員:船津高志 共立出版1999/12
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の光ピンセット装置には以下に述べる問題があった。
第一に、従来の光ピンセット装置は光学系が複雑であるために機械的振動などがある場所では使用できず、また価格も高くなるために、応用先が限定される問題があった。
【0007】
第二に、従来の光ピンセット装置で複数のサンプルを同時に制御しようとすると、光源を複数用意する必要があり、また光学系も煩雑になる問題があった。
【0008】
第三に、従来の光ピンセット装置では、ステージを動かすための機械的可動部が必要であり、また移動速度がステージの機械的速度に制限される問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための、本発明の請求項1に係る光ピンセット装置は、制御光発生源と平面光導波回路とを備え、前記平面光導波回路は、光を焦点に集める導波路型集光手段と、当該平面光導波回路に対して垂直方向に形成された試料挿入用溝とを備え、前記試料挿入用溝は前記導波路型集光手段による集光位置に沿って設けられ、更に、該集光位置を前記試料挿入用溝に沿って移動させる集光位置可変機構を設けたことを特徴とする。このような構成にすることで複雑な光学系が不要な、安価な光ピンセット装置を提供することができる。
【0010】
また、本発明の請求項2に係る光ピンセット装置は、請求項1の構成に加えて、前記導波路型集光手段が、前記集光位置可変機構を有する位相変調器アレイと、該位相変調器アレイに光学的に接続されたスラブ光導波路とを備えることを特徴とする。このような構成とすることで、機械的可動部が不要な光ピンセット装置を提供することができる。
【0011】
また、本発明の請求項3に係る光ピンセット装置は、請求項1の構成に加えて、前記導波路型集光手段が、入力用光導波路と、第一のスラブ光導波路と、該第一のスラブ光導波路に光学的に接続された複数のチャネル光導波路と、該複数のチャネル光導波路に光学的に接続された第二のスラブ光導波路からなることを特徴とする。このような構成としても、機械的可動部が不要な光ピンセット装置を提供することができる。
【0012】
また、本発明の請求項4に係る光ピンセット装置は、請求項3の構成に加えて、前記複数のチャネル光導波路を一端から順に1,2、、、N(Nは2以上の整数)と番号を付けたとき、n番目のチャネル光導波路の光学的長さがL0+nΔL(L0、ΔLはともに正の実数、nは1以上N以下の整数)を満たすことを特徴とする。このような構成とすることで、集光位置を波長あるいは温度などで制御できる光ピンセット装置を提供できる。
【0013】
また、本発明の請求項5に係る光ピンセット装置は、請求項3の構成に加えて、前記複数のチャネル光導波路を一端から順に1,2、、、N(Nは2以上の整数)と番号を付けたとき、n番目のチャネル光導波路の光学的長さが、nが偶数のときにはLo0+nΔLo/2(Lo0、ΔLoはともに正の実数、nは1以上N以下の偶数)を満たし、nが奇数のときにはLe0+(n+1)ΔLe/2(Le0、ΔLeはともに正の実数、nは1以上N以下の奇数)を満たし、Lo0とLe0が異なることを特徴とする。このような構成とすることで、集光プロファイルを双方にすることができ、媒質よりも屈折率の低いサンプルをトラップすることが可能となる。
【0014】
また、本発明の請求項6に係る光ピンセット装置は、請求項5に記載の構成に加えて、ΔLoとΔLeが等しいことを特徴とする。このような構成とすることで、波長を変化させてもトラップ特性が変化しない光ピンセット装置を提供できる。
【0015】
また、本発明の請求項7に係る光ピンセット装置は、請求項3乃至6の構成に加えて、前記集光位置可変機構が前記平面光導波回路の温度調整により実現されることを特徴とする。このような構成とすることで、機械的可動部を全く必要としない光ピンセット装置を提供できる。
【0016】
また、本発明の請求項8に係る光ピンセット装置は、請求項3乃至7の構成に加えて、前記制御光発生源は、前記集光位置可変機構を実現する波長可変手段を有することを特徴とする。このような構成とすることで、波長によりトラップ位置を変化できる光ピンセット装置を提供できる。
【0017】
また、本発明の請求項9に係る光ピンセット装置は、請求項3乃至8の構成に加えて、前記制御光発生源が波長の異なる複数の光源と、該複数の光源を多重化する合波手段を備えることを特徴とする。このような構成とすることで、複数のサンプルを同時に独立に制御できる光ピンセット装置を提供できる。
【0018】
また、本発明の請求項10に係る光ピンセット装置は、請求項3の構成に加えて、前記複数のチャネル光導波路の光学的長さが全て等しく設定されていることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の請求項11に係る光ピンセット装置は、請求項3乃至10の構成に加えて、前記複数のチャネル光導波路が位相可変調整手段を備えることを特徴とする。このような構成をとることで、サンプル位置を機械的可動部によらず調整することができる。
【0020】
また、本発明の請求項12に係る光ピンセット装置は、請求項3乃至11の構成に加えて、前記入力用光導波路と前記第一のスラブ光導波路との間に、光を二分岐する光分岐手段を備えることを特徴とする。このような構成をとることで、集光プロファイルを双方にすることができ、媒質よりも屈折率の低いサンプルをトラップすることが可能となる。
【0021】
また、本発明の請求項13に係る光ピンセット装置は、請求項1乃至12の構成に加えて、前記平面光導波回路がシリコン基板あるいは石英基板上に形成された石英系ガラス光導波路であることを特徴とする。このような構成をとることで、信頼性に優れた光ピンセット装置が提供できる。
【0022】
また、本発明の請求項14に係る光ピンセット装置は、請求項11の構成に加えて、前記位相可変調整手段が薄膜ヒータであることを特徴とする。このような構成をとることで、信頼性に優れた光ピンセット装置が提供できる。
【0023】
また、本発明の請求項15に係る光ピンセット装置は、請求項1の構成に加えて、前記試料挿入用溝は複数の試料室を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明の光ピンセット装置を用いれば、安価で簡易で機械的可動部分が不要な光ピンセット装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明を実施するための最良の形態として、以下の実施形態が挙げられる。
なお、本実施形態において、同一機能を有する部分には同一符号を付し、その重複説明は省略する。
さらに、以下の実施形態では平面光導波回路はシリコン基板上に形成された石英系ガラス光導波路であるとした。
【0026】
これは、このような組合せにすると、安定で加工性に優れた光導波路を提供できるからである。
しかしながら、本発明はこの組合せに限定されるものではなく、これ以外の基板およびガラス膜を用いてももちろん構わない。
【実施例1】
【0027】
本発明の第一実施形態にかかる光ピンセット装置の構成を図1に示す。
本実施形態は、請求項1,2,13に係るものである。
即ち、図1に示すように、本実施形態にかかる光ピンセット装置は、制御光発生源11と、制御光発生源11からの光を導く光伝送路12と、光伝送路12に光学的に接続された平面光導波回路13から構成されており、平面光導波回路13は導波路型集光手段14と試料挿入用溝15を備えている。
ここで、光伝送路12としては、光ファイバを用いることができる。
【0028】
ただし、本発明はこの例に限定されるものではなく、フレキシブル光導波路など他の光伝送路を用いても、勿論構わない。
また、制御光発生源11としては、Nd:YへGレーザからの波長1.06ミクロンの光を用いることができる。これは、この構成を用いると、生体あるいは水による吸収が少なく、効率的に試料をトラップできるからである。
しかしながら、本発明はこの例に限定されるものではなく、光源として光ファイバレーザなど他の構成を用いても構わない。
また、波長も1.55ミクロンなど別の波長を用いても勿論構わない。
【0029】
本実施形態にかかる光ピンセット装置の平面光導波回路13の構成を図2に示す。
平面光導波回路13の入力部にはシリンドリカルレンズ21が設けられており、これにより光を上下方向に集光して平面光導波路13に入力される。
広げられた光は位相変調器アレイ22によって空間的に変調され、スラブ光導波路23を通って当該平面光導波回路13に垂直方向に形成された試料挿入用溝24付近に集光される。
試料挿入用溝24には試料25が溶媒とともに入っている。
【0030】
ここで、図2の本実施形態にかかる光ピンセット装置の平面光導波回路13では、入力部にシリンドリカルレンズ21を用いるとした。これは、この構成が光を上下方向だけに集光する簡易な手段を提供できるからである。
しかしながら、本発明はこの例に限定されるものではなく、このようなシリンドリカルレンズ21を用いなくても勿論構わない。
【0031】
また、位相変調器アレイ22は、例えば液晶空間変調器によって実現することができる。
しかしながら、本発明はこの例に限定されるものではなく、例えば平面光導波回路13上に薄膜ヒータを設けるなど、別の方法によっても勿論実現することができる。
続いて、本発明の第一実施形態にかかる光ピンセット装置の動作について説明する。
制御光発生源11から出力された光は、シリンドリカルレンズ21により上下方向に集光される。
これにより試料25は集光位置へと引き寄せられてトラップされる。
【0032】
ここで、位相変調器アレイ22での空間的な光プロファイルと、集光位置での空間的な光プロファイルは互いにフーリエ変換の関係にある。
したがって、位相変調器アレイ22に空間的に線形な位相シフトを与えると、集光位置での光プロファイルは平行移動する。
【0033】
すなわち、試料25のトラップされる位置を、位相変調器アレイ22に与える位相変化だけで調整できることになる。
このように、本発明の第一実施形態にかかる光ピンセット装置を用いると、光によりトラップされるサンプル位置を、機械的可動部分なしに調整できるので、堅牢な光ピンセット装置を提供することができる。
【実施例2】
【0034】
本発明の第二実施形態に係る光ピンセット装置の構成を図3に示す。
本実施形態は、請求項1,3,4,8,13に係るものである。
即ち、図3に示すように、本実施形態にかかる光ピンセット装置は、制御光発生源として波長可変レーザ31を用いており、また、平面光導波回路13は、入力用光導波路32と、第一のスラブ光導波路33と、複数のチャネル光導波路34と、第二のスラブ光導波路35と、試料挿入用溝24を備えている。
【0035】
さらに、複数のチャネル光導波路34の光学的な長さは、最内側のチャネル光導波路から1,2、、、Nと番号を付けたときに、n番目のチャネル光導波路の長さLnがLn=L0+nΔLを満たすように設定した。
ここでL0およびΔLは正の実数である。
【0036】
本実施形態に係る光ピンセット装置の試料挿入溝24の断面図を図4に示す。
図4に示すように、シリコン基板41上に形成されたクラッド42には、第二のスラブ光導波路35を横切るように試料挿入用溝24が設けられている。
試料挿入用溝24には、試料25が水26に浮かぶ形で準備されている。
【0037】
ここで、図4の本実施形態に係る光ピンセット装置の試料挿入溝24の断面図では試料25が水26に浮かんでいるとしたが、本発明はこの例に限定されるものではなく、溶媒は何でも構わないし、なくても構わない。
続いて、本発明の第二実施形態にかかる光ピンセット装置の動作について図を用いて説明する。
【0038】
図3に示した本発明の第二実施形態にかかる光ピンセット装置では、波長可変レーザ31から出力した制御光は、入力用光導波路32を経て、第一のスラブ光導波路33で広げられる。
広げられた光フィールドは、チャネル光導波路34によって運ばれて第二のスラブ光導波路35に至る。
第二のスラブ光導波路35で光フィールドは狭められ、試料挿入用溝24付近で集光する。
【0039】
さて、このときの集光位置は、第二のスラブ光導波路35入口での位相(波面)の傾きにより平行移動する。
位相の傾きは、波長によって異なるので、波長可変レーザ31の発振波長を変えれば、集光位置が平行移動することになる。
【0040】
本発明の第二実施形態にかかる光ピンセット装置における、1粒子トラップの様子を図5に示す。ここで粒子である試料25の屈折率は、水26の屈折率より高いとした。
このとき、上記説明したように波長可変レーザ31の発振波長を変化させると、トラップ位置を変化することができる。
【0041】
本発明の第二実施形態の変形にかかる光ピンセット装置の構成を図6に示す。
本実施形態の変形は、請求項1,3,4,8,9,13に係るものである。
即ち、図6に示すように、本発明の第二実施形態にかかる光ピンセット装置の構成に加えて、二つの波長可変光源31a,31bと、二つの可変波長光源31a,31bからの光を合波する波長多重光カプラ61を備えている。
【0042】
ここで、図6では、可変波長光源31の数を2としたが、これは説明の簡単のためであり、可変波長光源31の数では3でも4でも他の数でも勿論構わないし、本発明はこの例に限定されるものではない。
また、図6では、二つの可変波長光源31a,31bからの光を合波するのに波長多重光カプラ61を用いるとしたが、これはこの構成が損失の少ない合波手段を提供できるからである。
【0043】
しかしながら、本発明はこの例に限定されるものではなく、波長無依存の光カプラを用いても良い。
本発明の第二実施形態の変形にかかる光ピンセット装置における、2粒子とラップの様子を図7に示す。
ここで粒子である試料25の屈折率は、水26の屈折率より高いとした。
図5に示した本発明の第二実施形態にかかる光ピンセット装置における1粒子トラップの場合と同じく、それぞれのトラップ位置は波長によって変化できるので、二つの粒子をそれぞれ独立に位置制御することができる。
【0044】
このような特性は、例えば2つの物質を接合させるときなどに重要である。
また、本発明の第二実施形態の変形にかかる光ピンセット装置における、1粒子トラップの様子を図8に示す。
ここで粒子である試料25の屈折率は、溶媒81の屈折率より低いとした。
【0045】
このように試料25の屈折率が周囲の屈折率より低いときには、試料は光強度が小さなところにトラップされる。
図6に示したように、本発明の第二実施形態の変形にかかる光ピンセット装置では、2つの集光点を自由に制御できるので、このように低屈折率の試料25をトラップすることも可能となる。
【0046】
本発明の第二実施形態の第二の変形にかかる光ピンセット装置の構成を図9に示す。
本実施形態の変形は、請求項1,3,4,8,13に係るものである。
【0047】
即ち、図9に示すように、本発明の第二実施形態にかかる光ピンセット装置の構成に加えて、試料挿入用溝24が複数の試料室91を有している。
試料挿入用溝24は等幅でなくても、このように複雑な形状をしていても良い。
このように試料室91を設けると、試料25をトラップして試料室91に分別するといった使い方が可能となる。
【実施例3】
【0048】
本発明の第三実施形態にかかる光ピンセット装置の構成を図10に示す。
本実施形態は、請求項1,3,4,7,13に係るものである。
即ち、図10に示すように、本実施形態にかかる光ピンセット装置は、制御光発生源として狭線幅レーザ101を用いており、また、平面光導波回路13は、入力用光導波路32と、第一のスラブ光導波路33と、複数のチャネル光導波路34と、第二のスラブ光導波路35と、試料挿入用溝24を備えている。
【0049】
さらに、平面光導波回路13の下部には、温度制御手段102が設けられている。
さらに、複数のチャネル光導波路34の光学的な長さは、最内側のチャネル光導波路から1,2、、、Nと番号を付けたときに、n番目のチャネル光導波路の長さLnがLn=L0+nΔLを満たすように設定した。
ここでL0およびΔLは正の実数である。
【0050】
ここで、図10に示した本発明の第三実施形態にかかる光ピンセット装置では、平面光導波回路13の下部に温度制御手段102があるとしたが、これは下部でなくとも、上部でも勿論構わない。
さて、このときの集光位置は、第二のスラブ光導波路35入口での位相(波面)の傾きにより平行移動する。
温度制御手段102によって平面光導波回路13の温度を変化させれば複数のチャネル光導波路34の光学的長さが熱光学効果によって変化するので、位相の傾きが変わり、集光位置が平行移動することになる。
【0051】
本発明の第三実施形態にかかる光ピンセット装置における、1粒子トラップの様子を図11に示す。
ここで粒子である試料25の屈折率は、水26の屈折率より高いとした。
このとき、上記説明したように温度制御手段102によって平面光導波回路13の温度を変化させると、トラップ位置を変化することができる。
【実施例4】
【0052】
本発明の第四実施形態にかかる光ピンセット装置の構成を図12に示す。
本実施形態は、請求項1,3,5,8,13に係るものである。
即ち、図12に示すように、本実施形態にかかる光ピンセット装置は、制御光発生源として可変波長レーザ31を用いており、また、平面光導波回路13は、入力用光導波路32と、第一のスラブ光導波路33と、複数のチャネル光導波路34と、第二のスラブ光導波路35と、試料挿入用溝24を備えている。
【0053】
さらに、平面光導波回路13の下部には、温度制御手段102が設けられている。
第四実施形態に係る光ピンセット装置のアレイ導波路の光学的長さを図13に示す。
図13に示すように、複数のチャネル光導波路34の光学的な長さは、最内側のチャネル光導波路から1,2、、、Nと番号を付けたときに、n番目のチャネル光導波路の長さLnが、nが偶数のときには
o0+nΔLo/2
nが奇数のときには
e0+(n+1)ΔLe/2
を満たすように設定されている。ここで、Lo0,ΔLo,Le0,ΔLeはともに正の実数である。
【0054】
また、本発明の第四実施形態にかかる光ピンセット装置では、ΔLoとΔLeは等しいとした。
これは、この構成が可変波長光源31の発振波長を変化させたときに、二つの集光スポットの距離が変化しない光ピンセット装置を提供できるからである。
しかしながら、本発明はこの例に限定されるものではなく、ΔLoとΔLeは異なっていても勿論構わない。
【0055】
本発明の第四実施形態にかかる光ピンセット装置の、1粒子トラップの様子を図14に示す。
図13を用いて説明したように、本発明の第四実施形態にかかる光ピンセット装置では、偶数番目と奇数番目とのチャネル光導波路が、異なる波面を創出するので、試料挿入用溝24付近には二つの集光スポットが生じる。
したがって、試料25の屈折率が溶媒81の屈折率よりも低いとすると、この二つの集光スポットで挟み込むように試料をトラップすることができる。
【実施例5】
【0056】
本発明の第五実施形態に係る光ピンセット装置の構成を図15に示す。
本実施形態は、請求項1,3,4,8,12,13に係るものである。
即ち、図15に示すように、本実施形態にかかる光ピンセット装置は、制御光発生源として波長可変レーザ31を用いており、また、平面光導波回路13は、入力用光導波路32と、光分岐回路151と、第一のスラブ光導波路33と、複数のチャネル光導波路34と、第二のスラブ光導波路35と、試料挿入用溝24を備えている。
【0057】
ここで、本発明の第五実施形態に係る光ピンセット装置では、光分岐回路151はY分岐光回路であるとした。これは、この構成が波長依存性の少ない光分岐回路を提供できるからである。
しかしながら、本発明はこの例に限定されるものではなく、多モード干渉光カプラや方向性結合器など、他の手段を用いて光分岐回路を実現しても、勿論構わない。
【0058】
さらに、複数のチャネル光導波路34の光学的な長さは、最内側のチャネル光導波路から1,2、、、Nと番号を付けたときに、n番目のチャネル光導波路の長さLnが
Ln=L0+nΔL
を満たすように設定した。ここでL0およびΔLは正の実数である。
【0059】
このように設定されると、第一のスラブ光導波路33の入力側には、光分岐回路151によって、二つのスポットを持つ光フィールドが生成される。
この二つのスポットの空間分布は、複数のチャネル光導波路34により導かれ、第二のスラブ光導波路35の出力端にコピーされる。
したがって、この構成により、二つの集光スポットを実現することができる。
本発明の第五実施形態にかかる光ピンセット装置における、1粒子トラップの様子を図16に示す。
【0060】
ここで粒子である試料25の屈折率は、溶媒81の屈折率より低いとした。
このとき、上記説明したように二つの集光スポットが第二のスラブ光導波路35の出力端に生成されるので、試料25をトラップすることができる。
また、波長可変レーザ31の発振波長を変化させると、トラップ位置を変化することができる。
【実施例6】
【0061】
本発明の第六実施形態に係る光ピンセット装置の構成を図17に示す。
本実施形態は、請求項1,3,10,11,13,14に係るものである。
即ち、図17に示すように、本実施形態にかかる光ピンセット装置は、制御光発生源として狭線幅レーザ101を用いており、また、平面光導波回路13は、入力用光導波路32と、第一のスラブ光導波路33と、複数のチャネル光導波路34と、第二のスラブ光導波路35と、試料挿入用溝24を備えている。
【0062】
また、複数のチャネル光導波路34は、位相変調器アレイ171を各々備えている。
ここで、図17の本発明の第六実施形態に係る光ピンセット装置では、複数のチャネル光導波路34は位相変調器アレイ171として薄膜ヒータを平面光導波路13の上に備えて熱光学効果により位相変調を行うとものした。これは、この構成が信頼性に優れた光ピンセット装置を提供できるからである。
【0063】
しかしながら本発明はこの例に限定されるものではなく、電気光学効果など他の原理を用いた位相変調器アレイを用いても、もちろん構わない。
また、図17の本発明の第六実施形態に係る光ピンセット装置では、複数のチャネル光導波路34の長さは互いに等しいものとした。これは、この構成が波長依存性の少ない光ピンセット装置を提供できるからである。
【0064】
しかしながら、本発明はこの例に限定されるものではなく、複数のチャネル光導波路34の長さは互いに異なっていてももちろん構わない。
このように、複数のチャネル光導波路34に位相変調器アレイ171を備えると、第二のスラブ光導波路32の入口側での光の波面を自由に制御できるので、第二のスラブ光導波路32の出口側でのスポット形状やスポットの数を制御できる。
【0065】
本発明の第六実施形態にかかる光ピンセット装置における、1粒子トラップの様子を図18に示す。
ここで粒子である試料25の屈折率は、水26の屈折率より高いとした。
このとき、上記説明したように集光スポットの位置は、複数のチャネル光導波路34の位相変調器アレイ171の制御状態によって制御できるので、試料25をトラップし、またトラップした位置を変化することができる。
なお、図17に示した本発明の第六実施形態に係る光ピンセット装置では、スポットの位置を変化するだけではなく、複数のスポットを生成したりすることもできるので、例えば図16に示したような溶媒よりも低い屈折率を持つ試料のトラップも可能である。
【0066】
このように説明したように、本発明は、微小な物体の位置を光の放射圧で制御する光ピンセット装置に関するもので、平面光導波回路上に集光手段とその集光位置に沿って試料挿入用の溝を形成した構成に特徴がある。
そして、この集光手段を可変させることにより試料(物体)の位置の制御ができ、さらに、スラブ型光導波路を用いる等により、機械可動部が不要となるなどのさまざまな機能の光ピンセット装置を実現している。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の光ピンセット装置は、生物学や医療の分野では生体細胞の非接触操作や細胞融合、あるいは機械分野では微粒子の配列や微小物体の回転駆動など様々な分野で広く利用可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の第一実施形態に係る光ピンセット装置を示す概略構成図である。
【図2】本発明の第一実施形態に係る光ピンセット装置の平面光導波路を示す概略構成図である。
【図3】本発明の第二実施形態に係る光ピンセット装置を示す概略構成図である。
【図4】本発明の第二実施形態に係る光ピンセット装置の平面光導波路の断面図である。
【図5】本発明の第二実施形態に係る光ピンセット装置における1粒子トラップの例を表す説明図である。
【図6】本発明の第二実施形態の変形の光ピンセット装置を示す概略構成図である。
【図7】本発明の第二実施形態の変形の光ピンセット装置における2粒子トラップの例を表す説明図である。
【図8】本発明の第二実施形態の変形の光ピンセット装置における1粒子トラップの例を表す説明図である。
【図9】本発明の第二実施形態の第二の変形の光ピンセット装置における試料挿入用溝の構成図である。
【図10】本発明の第三実施形態に係る光ピンセット装置を示す概略構成図である。
【図11】本発明の第三実施形態に係る光ピンセット装置における1粒子トラップの例を表す説明図である。
【図12】本発明の第四実施形態に係る光ピンセット装置を示す概略構成図である。
【図13】本発明の第四実施形態に係る光ピンセット装置のアレイ導波路の光学的長さを表すグラフである。
【図14】第四実施形態に係る光ピンセット装置における1粒子トラップの例を表す説明図である。
【図15】本発明の第五実施形態に係る光ピンセット装置を示す概略構成図である。
【図16】本発明の第五実施形態に係る光ピンセット装置における1粒子トラップの例を表す説明図である。
【図17】本発明の第六実施形態に係る光ピンセット装置を示す概略構成図である。
【図18】本発明の第六実施形態に係る光ピンセット装置における1粒子トラップの例を表す説明図である。
【図19】従来の光ピンセット装置を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0069】
11 制御光発生源
12 光伝送路
13 平面光導波回路
14 導波路型集光手段
15 試料挿入用溝
21 シリンドリカルレンズ
22 位相変調器アレイ
23 スラブ光導波路
24 試料挿入用溝
25 試料
31 可変波長レーザ
32 入力用光導波路
33 第一のスラブ光導波路
34 チャネル光導波路
35 第二のスラブ光導波路
41 シリコン基板
42 クラッド
61 波長多重光カプラ
81 溶媒
91 試料室
101 狭線幅レーザ
102 温度制御手段
151 光分岐回路
171 位相変調器アレイ
191 光源
192 レンズ
193 ピンホール
194 レンズ
195 ミラー
196 高NAレンズ
197 ステージ
198 サンプル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御光発生源と平面光導波回路とを備え、前記平面光導波回路は、光を焦点に集める導波路型集光手段と、当該平面光導波回路に対して垂直方向に形成された試料挿入用溝とを備え、前記試料挿入用溝は前記導波路型集光手段による集光位置に沿って設けられ、更に、該集光位置を前記試料挿入用溝に沿って移動させる集光位置可変機構を設けたことを特徴とする光ピンセット装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光ピンセット装置であり、前記導波路型集光手段が、前記集光位置可変機構を有する位相変調器アレイと、該位相変調器アレイに光学的に接続されたスラブ光導波路とを備えることを特徴とする光ピンセット装置。
【請求項3】
請求項1に記載の光ピンセット装置であり、前記導波路型集光手段が、入力用光導波路と、第一のスラブ光導波路と、該第一のスラブ光導波路に光学的に接続された複数のチャネル光導波路と、該複数のチャネル光導波路に光学的に接続された第二のスラブ光導波路からなることを特徴とする光ピンセット装置。
【請求項4】
請求項3に記載の光ピンセット装置であり、前記複数のチャネル光導波路を一端から順に1,2、、、N(Nは2以上の整数)と番号を付けたとき、n番目のチャネル光導波路の光学的長さがL0+n△L(L0、△Lはともに正の実数、nは1以上N以下の整数)を満たすことを特徴とする光ピンセット装置。
【請求項5】
請求項3に記載の光ピンセット装置であり、前記複数のチャネル光導波路を一端から順に1,2、、、N(Nは2以上の整数)と番号を付けたとき、n番目のチャネル光導波路の光学的長さが、nが偶数のときにはLo0+n△Lo/2(Lo0、△Loはともに正の実数、nは1以上N以下の偶数)を満たし、nが奇数のときにはLe0+(n+1)△Le/2(Le0、△Leはともに正の実数、nは1以上N以下の奇数)を満たし、Lo0とLe0が異なることを特徴とする光ピンセット装置。
【請求項6】
請求項5に記載の光ピンセット装置であり、△Loと△Leが等しいことを特徴とする光ピンセット装置。
【請求項7】
請求項3,4,5又は6に記載の光ピンセット装置であり、前記集光位置可変機構が前記平面光導波回路の温度調整により実現されることを特徴とする光ピンセット装置。
【請求項8】
請求項3,4,5,6又は7に記載の光ピンセット装置であり、前記制御光発生源は、前記集光位置可変機構を実現する波長可変手段を有することを特徴とする光ピンセット装置。
【請求項9】
請求項3,4,5,6,7又は8に記載の光ピンセット装置であり、前記制御光発生源が波長の異なる複数の光源と、該複数の光源を多重化する合波手段を備えることを特徴とする光ピンセット装置。
【請求項10】
請求項3に記載の光ピンセット装置であり、前記複数のチャネル光導波路の光学的長さが全て等しく設定されていることを特徴とする光ピンセット装置。
【請求項11】
請求項3,4,5,6,7,8,9又は10に記載の光ピンセット装置であり、前記複数のチャネル光導波路が位相可変調整手段を備えることを特徴とする光ピンセット装置。
【請求項12】
請求項3,4,5,6,7,8,9,10又は11に記載の光ピンセット装置であり、前記入力用光導波路と前記第一のスラブ光導波路との間に、光を二分岐する光分岐手段を備えることを特徴とする光ピンセット装置。
【請求項13】
請求項1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11又は12に記載の光ピンセット装置であり、前記平面光導波回路がシリコン基板あるいは石英基板上に形成された石英系ガラス光導波路であることを特徴とする光ピンセット装置。
【請求項14】
請求項11に記載の光ピンセット装置であり、前記位相可変調整手段が薄膜ヒータであることを特徴とする光ピンセット装置。
【請求項15】
請求項1に記載の光ピンセット装置であり、前記試料挿入用溝は複数の試料室を有することを特徴とする光ピンセット装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2006−30427(P2006−30427A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−206833(P2004−206833)
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】