説明

光ファイバケーブル

【課題】難燃性、耐摩耗性、摩擦特性及び耐寒性のいずれもが優れた光ファイバケーブルの提供。
【解決手段】(a)高密度ポリエチレンに、エチレン酢酸ビニル共重合体、およびエチレンエチルアクリレート共重合体から選ばれる少なくとも1つを加えたベース樹脂、(b)前記ベース樹脂100質量部に対しリン酸塩25〜90質量部、(c)前記ベース樹脂100質量部に対しシリコーン分散ポリエチレン、もしくはシリコーングラフトポリエチレン0.75〜15質量部、を含有する樹脂組成物が被覆樹脂6に用いられた光ファイバケーブル10。高密度ポリエチレンとエチレン酢酸ビニル共重合体との質量比が30:70〜90:10、光ファイバ4と抗張力体5とを被覆樹脂6で一括被覆したケーブル本体部2を有する。光ファイバ4は、ケーブル本体部2に埋設されている。被覆樹脂6は、ノッチ7で分割することで、光ファイバ4を露出させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバを各家庭まで延線する、ファイバ・トゥ・ザ・ホーム(FTTH)サービスなどに使用可能な光ファイバケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
図1および図2は、FTTHなどにおいて用いられる光ファイバケーブルの例を示す図である。
加入者宅への光回線引き込みに用いられる光ファイバケーブルとしては、図1に示すものがある。この光ファイバケーブル10は、支持線部1とケーブル本体部2が首部3を介して連結されている自己支持構造を有する。
図2に示す光ファイバケーブル20は、例えば加入者宅内、ビル或いはマンション等の構内の配線に用いられるもので、支持線部1を備えておらず、ケーブル本体部2のみからなる。光ファイバケーブル10、20では、被覆樹脂6には、ノンハロゲン難燃ポリオレフィンなどが用いられている。
【0003】
光ファイバケーブルの外被の材料については、種々の提案がなされている(例えば、特許文献1〜5を参照)。
特許文献1および特許文献2には、脂肪酸アミドを用いた含む材料を用いることが記載されている。
特許文献3には、シリコーン分散ポリエチレン、フッ素樹脂分散ポリエチレン、シリコーングラフトポリエチレンを配合した材料が記載されている。
特許文献4および特許文献5には、ポリオレフィン系樹脂とリン酸塩を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3915016号公報
【特許文献2】特許第3970499号公報
【特許文献3】特開2002−313153号公報
【特許文献4】特開2008−94922号公報
【特許文献5】特開2008−63458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
加入者宅内、ビル或いはマンション等の構内に用いられる光ファイバケーブルは、合成樹脂製の可とう管などの電線用配管内に通線されることが多い。
しかし、既存の電線用配管内はすでに電話線のようなメタル線が複数本引き込まれている状態であり、追加布設するべき光ファイバケーブルが使用できる空きスペースは小さい。
このことから、ケーブルの細径化、ならびに通線性の向上が求められている。
しかし、ケーブルを細径化すると、樹脂の目付け量が減ることから、高難燃性の樹脂をケーブル被覆材として用いなければならない。また、通線性の向上のためには、外被の低摩擦化、ならびに、他のケーブル(既設電話線等)もしくは通線ロッド等に対する耐摩耗性が重要な要素となる。
【0006】
外被材の低摩擦化については、特許文献1、2に示されているように、脂肪酸アミドを外被材に添加することは有効である。ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミドなどの脂肪酸アミドは、分子量が低く、容易に外被表面にブリードアウトし外被表面にぬめり性を発現して摩擦係数を下げる。
しかしながら、表面にブリードアウトした低分子量分は、外被の擦れ等により容易に落ちてしまい、摩擦係数が上昇することがある。また、脂肪酸アミドが、光ファイバに被覆されたUV樹脂中に移行し、そのガラス光ファイバに悪影響を与え、伝送特性を劣化させるおそれがある。以上の観点から、低摩擦化の方法としては、特許文献3に記載されるようにシリコーン分散ポリエチレンを配合するなどの非ブリード方式が望ましい。
また、上記のような滑剤成分の使用のほか、ベース樹脂に高密度ポリエチレンのように元来摩擦係数の低い樹脂を用いることも有効であるが、高密度ポリエチレンのように結晶性の高い樹脂はフィラー受容性が低く、難燃剤の大量添加ができず、目的の難燃性を得ることが困難となる。
【0007】
一方、加入者宅内、ビル或いはマンション等の構内に用いられる光ファイバケーブルは、電線用配管に通線する以外にも、ケーブルラック等に布設する場合があり、光ファイバケーブルを伝って火災が延焼することを防止する観点から、JIS C3005などに規定される傾斜燃焼試験の基準を満たす難燃性が要求される。
また、環境に対する配慮、燃焼時発生ガスの安全性からノンハロゲン化が要求されている。従来、ノンハロゲン系樹脂で傾斜燃焼試験の基準を満たすためには、難燃剤として多くの水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどを配合する必要があった。
これらの難燃剤は、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)などの結晶化度の高い樹脂に大量に添加することは技術的に困難であり、難燃性を発現させるためには、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)やエチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)など非結晶樹脂をベースポリマーとし、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどを配合しなければならない。
しかし、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)やエチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)などへ大量の水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどを添加した樹脂は、低摩擦ポリエチレン、直鎖状低摩擦ポリエチレン、高密度ポリエチレンに比べて摩擦係数が高く、かつ、シリコーン分散ポリエチレン等を配合しても、充分な低摩擦性が得られない問題があった。
さらに、特許文献4に記載されているように、フィラー添加量が多くなると、耐摩耗性が低下し削れ易くなったり、樹脂の耐寒性(脆化特性)が低下する。なお、耐摩耗性を高めるためには元来、耐摩耗性の良好な高密度ポリエチレンをベース樹脂として用いることが有効であるが、この場合にはフィラー受容率が下がり、必要な難燃性を確保できないことがある。
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、難燃性、耐摩耗性、摩擦特性及び耐寒性のいずれもが優れた光ファイバケーブルの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決して係る目的を達成するために、以下の手段を採用した。すなわち、
(1)本発明は、(a)高密度ポリエチレンに、エチレン酢酸ビニル共重合体、およびエチレンエチルアクリレート共重合体から選ばれる少なくとも1つを加えたベース樹脂、(b)前記ベース樹脂100質量部に対し、リン酸塩25〜90質量部、(c)前記ベース樹脂100質量部に対し、シリコーン分散ポリエチレン、もしくはシリコーングラフトポリエチレン0.75〜15質量部、を含有する樹脂組成物が、被覆樹脂の最外層に用いられ、前記高密度ポリエチレンと前記エチレン酢酸ビニル共重合体との質量比が30:70〜90:10であり、光ファイバとその両側に配置した抗張力体とを前記被覆樹脂で一括被覆したケーブル本体部を有し、前記光ファイバは、前記ケーブル本体部に埋設されており、前記被覆樹脂は、その外面に形成されたノッチにおいて分割することで、前記光ファイバを露出させることができる光ファイバケーブルを提供する。
(2)(b)は、前記ベース樹脂100質量部に対し、前記リン酸塩35〜80質量部であることが好ましい。
(3)(c)は、前記ベース樹脂100質量部に対し、前記シリコーン分散ポリエチレン1〜4質量部であることが好ましい。
(4)前記被覆樹脂が、前記樹脂組成物からなる外層と、ポリオレフィン系樹脂からなる内層とを有する多層構造を有し、前記内層が、エチレン酢酸ビニル共重合体、およびエチレンエチルアクリレート共重合体から選ばれる少なくとも1つを含むベース樹脂100質量部に、水酸化マグネシウム50〜200質量部を含有する樹脂からなる構造としてよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、上記樹脂組成物を用いることによって、難燃性を低下させることなく、耐摩耗性、摩擦特性及び耐寒性が良好となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の光ファイバケーブルの一例を示す断面図である。
【図2】本発明の光ファイバケーブルの他の例を示す断面図である。
【図3】本発明の光ファイバケーブルの他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図1〜図3を利用して、本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の光ファイバケーブルの一例を示す断面図であり、この光ファイバケーブル10は、支持線部1とケーブル本体部2が首部3を介して連結されている自己支持構造を有する。
ケーブル本体部2は、光ファイバ4とその両側に配置した抗張力体5とを被覆樹脂6で一括被覆したものである。
光ファイバ4は、ケーブル本体部2の断面中央部に埋設されており、被覆樹脂6を、2つのノッチ7において2つに分割することで、光ファイバ4を露出させることができる。
光ファイバ4は、単心の光ファイバ心線、多心の光ファイバテープ心線、光ファイバ素線などであって良い。また、光ファイバ4の本数は図示例では1本であるが、これに限定されず、複数本であっても良い。
抗張力体5は、光ファイバ4に沿って縦添えされた線条体であり、その材質は、例えば鋼線等の金属線、もしくはFRP等である。
【0012】
支持線部1は、抗張力体8が被覆樹脂9で被覆されたものである。抗張力体8には鋼線などの金属線が好適である。被覆樹脂9は、被覆樹脂6と同じ材料で構成できる。
支持線部1とケーブル本体部2とを連結する首部3は、被覆樹脂6および被覆樹脂9と同じ樹脂で構成でき、首部3を切断することで支持線部1とケーブル本体部2を分離することもできる。
被覆樹脂6、9および首部3は、一体に形成することができる。これら被覆樹脂6、9および首部3は、光ファイバケーブル10の最外層を構成している。
光ファイバケーブル10は、加入者宅への光回線引き込みに用いることができる。
【0013】
図2は、本発明の光ファイバケーブルの他の例を示す断面図であり、ここに示す光ファイバケーブル20は、支持線部1を備えておらず、ケーブル本体部2のみからなること以外は、図1に示す光ファイバケーブル10と同様の構成とすることができる。
光ファイバケーブル20は、例えば加入者宅内、ビル或いはマンション等の構内の配線に用いることができる。
【0014】
図3は、本発明の光ファイバケーブルの他の例を示す断面図であり、ここに示す光ファイバケーブル30は、ケーブル本体部2の被覆樹脂6が、外層6Aおよび内層6Bからなる2層構造とされていること以外は、図2に示す光ファイバケーブル20と同様の構成とすることができる。なお、被覆樹脂6は、3層以上の構造とすることもできる。
外層6Aと内層6Bの断面積の比率は、例えば20:80〜99:1の範囲である。
【0015】
本発明の光ファイバケーブルは、(a)高密度ポリエチレンに、エチレン酢酸ビニル共重合体、およびエチレンエチルアクリレート共重合体から選ばれる少なくとも1つを加えたベース樹脂、(b)前記ベース樹脂100質量部に対し、リン酸塩25〜90質量部、(c)前記ベース樹脂100質量部に対し、シリコーン分散ポリエチレン、もしくはシリコーングラフトポリエチレン0.75〜15質量部、を含有する樹脂組成物を、最外層を構成する被覆樹脂として用いたものである。
【0016】
図1に示す光ファイバケーブル10では、被覆樹脂6、9および首部3を上記樹脂組成物で形成することができる。
図2に示す光ファイバケーブル20では、被覆樹脂6を上記樹脂組成物で形成することができる。
図3に示す光ファイバケーブル30では、被覆樹脂6の外層6Aを上記樹脂組成物で形成することができる。
【0017】
(ベース樹脂)
ベース樹脂は、高密度ポリエチレンの比率が30質量%以上であることが好ましい。より好ましくは、30〜90質量%である。高密度ポリエチレンの比率をこの範囲とすることで、耐摩耗性を高めるとともに、摩擦を低減できる。上記比率が30質量%未満では、光ファイバケーブルとして必要とされる耐磨耗性が低くなるおそれがある。
高密度ポリエチレンとしては、例えば、中圧法、もしくは低圧法により製造される比重0.93〜0.97のポリエチレンが挙げられる。
高密度ポリエチレンには、エチレン酢酸ビニル共重合体およびエチレンエチルアクリレート共重合体から少なくとも1つを加えることができる。
具体的には、酢酸ビニル含有量が6〜35質量%(好ましくは15〜22質量%)の酢酸ビニル共重合体(EVA)を用いるのが望ましい。また、エチルアクリレート含有量が7〜30質量%(好ましくは15〜25質量%)のエチレン−エチルアクリレート共重合体も好適である。エチレン酢酸ビニル共重合体とエチレンエチルアクリレート共重合体は、これらのうち一方を用いてもよいし、両方を用いてもよい。
【0018】
(リン酸塩)
リン酸塩は、例えば、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸等の金属塩、リン酸アミン塩、リン酸メラミン、リン酸ジメラミン、ピロリン酸メラミン、ピロリン酸ジメラミン、ポリ燐酸アンモニウム、ポリリン酸メラミン、エチレンジアミンリン酸塩、ニトリロトリスホスホン酸メラミン塩等が挙げられる。リン酸塩としては、これらのうち1つを用いてもよいし、2以上を用いてもよい。
好適な市販品としては、クラリアントのAP750、鈴裕化学のFCP730、ブーデンハイムのBUDIT−3167、GLCのレオガード2000、日本化学工業のヒシガードセレクトN−6ME、アデカのアデカスタブFP2100、FP2200等が挙げられる。
リン酸塩の配合比は、前記ベース樹脂100質量部に対し、25〜90質量部とされる。この配合比は、35〜80質量部が好ましい。更には、50〜70質量部が好ましい。
25質量部未満では十分な難燃性が得られない。一方90質量部を超えると、難燃性は具備するものの耐寒性が劣り、好ましくない。
【0019】
リン酸塩は、水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムを用いる場合に比べ、少量であるにもかかわらず、高い難燃性を発現可能である。これは次の理由によると考えられる。
高密度ポリエチレンをベース樹脂に使用する場合には、結晶化度が高いため、難燃剤の配合量が制限される。このことから、非結晶性の高いエチレン酢酸ビニル共重合体またはエチレンエチルアクリレート共重合体を難燃剤受容体として配合する。
また、難燃剤については、水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムを用いる場合には、多量に添加しないと必要な難燃性が得られず、多量添加すると耐摩耗性、低摩擦性が劣化するが、リン酸塩は、水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムよりも難燃効率が高いため、少量で優れた難燃性を示す。
さらに、リン酸塩に加え、メラミン、メラミンシアヌレート、もしくは トリス−(2ヒドロキシ−エチル)−イソシアヌレート(THEIC)のような含窒素系難燃剤、ならびにペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールのような水酸基含有化合物を助剤として0.1〜10質量部程度添加することも難燃性の向上に有効な手段である。
【0020】
(滑剤)
シリコーン分散ポリエチレンもしくはシリコーングラフトポリエチレンは、滑剤として作用する。この滑剤の添加量は、ベース樹脂100質量部に対して0.75〜15質量部とされる。この添加量は0.75〜10質量部が好ましく、さらに好ましくは1.0〜8.0質量部である。
添加量をこの範囲とすることによって、光ファイバケーブルに必要とされる摩擦性を高めることができるからである。添加量が15質量部を越えると、難燃性が低下するおそれがある。
【0021】
図3に示す光ファイバケーブル30における内層6Bには、ポリオレフィン系樹脂(エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン等)などを用いることができる。例えば、エチレン酢酸ビニル共重合体、およびエチレンエチルアクリレート共重合体から選ばれる少なくとも1つからなるベース樹脂100質量部に、水酸化マグネシウム50〜200質量部を添加した樹脂を使用できる。
【実施例】
【0022】
次に、具体例に基づいて本発明の効果を明らかにする。
<実施例1>
各特性について、実使用を考慮し、次に示す試験を行った。なお、以下の説明において「部」は「質量部」を意味する。
(1)難燃性:JIS C3005に規定する60°傾斜燃焼試験を実施し、この試験にて自己消火することを基準として評価した。
(2)耐寒性:JIS K7216規格に則り、−15℃におけるクラックの有無を確認した。クラックが発生しない場合をGood(G)(○)、発生した場合をBad(B)(×)とした。
(3)耐摩耗性:JIS C6851に規定する光ファイバのマーキングの耐摩耗性の項目において、図4の鋼針部にポリ塩化ビニルからなる外被を有するPVCメタルケーブルを取り付け、摩耗試験を行った(荷重3kg、250サイクルの往復を実施した)。
(4)摩擦特性:JIS K7125に規定する摩擦試験を実施し、外被(被覆樹脂)の動摩擦係数が0.25以下であることを基準として評価した。
【0023】
以下、詳しく説明する。
(1)難燃性
図2に示す光ファイバケーブル20において、被覆樹脂6を、表1に示す組成の樹脂組成物で構成した。配合量の単位は質量部である(以下同様)。
光ファイバケーブル20は、短径(図2における高さ寸法)1.6mm、長径(図2における横幅寸法)2.0mmとした。
ベース樹脂は、高密度ポリエチレンにエチレン酢酸ビニル共重合体を添加したものを用いた。高密度ポリエチレンとしては、旭化成ケミカルズ株式会社のサンテックHD B780を使用した。エチレン酢酸ビニル共重合体としては、三井デュポンポリケミカル株式会社のエバフレックスV5274を使用した。リン酸塩としては、Budenheim社、TERRAJU S-10(ポリリン酸アンモニウム)を使用した。シリコーン分散ポリエチレンとしては、株式会社ヘキサケミカル HOM0C290を使用した。水酸化マグネシウムとしては、協和化学工業株式会社キスマ5Eを使用した。
高密度ポリエチレン/エチレン酢酸ビニル共重合体の配合比(質量比)は30/70とした。
【0024】
JIS C3005に規定する傾斜燃焼試験における自己消火の有無を確認した結果を表1に示す。自己消火がみられた場合をGood(G)(○)、延焼した場合をBad(B)(×)とした。
難燃性は、高密度ポリエチレン/エチレン酢酸ビニル共重合体の配合比によらず、ベース樹脂(高密度ポリエチレン+エチレン酢酸ビニル共重合体)に対するリン酸塩配合比に依存し、ベース樹脂(高密度ポリエチレン+エチレン酢酸ビニル共重合体)100部に対しリン酸塩が25部以上であると自己消火することが確認された。
なお、リン酸塩に代えて、水酸化マグネシウムを25部配合したこと以外は同じ条件で試験を行った結果、自己消火がみられなかった。
【0025】
(2)耐寒性
JIS K7216に則り、ケーブルがさらされる可能性のある−15℃における被覆樹脂6のクラックの有無を確認した。クラックが発生しない場合をGood(G)(○)、発生した場合をBad(B)(×)とした。
試験の結果、リン酸塩を100部以上とすると、−15℃でクラックが発生することが確認された。
これらの結果から、難燃性と耐寒性を両立するためにはベース樹脂100部に対しリン酸塩25〜90部の配合が適当であることが確認された。
耐寒性と難燃性のバランスを考慮すると、リン酸塩の配合量はベース樹脂100部に対して35〜80部がさらに好ましい。
【0026】
【表1】

【0027】
表2は、上記試験結果をさらに詳しく示すものである。表2において、難燃性については、JIS C3005に規定する傾斜燃焼試験にて接炎時間10秒で着火後、自己消炎した場合をGood(G)(○)とし、接炎時間30秒で十分に着火させた後も自己消炎した場合をVery Good(VG)とし、延焼した場合をBad(B)(×)とした。
耐寒性については、JIS K7216に規定する耐寒性試験において、−15℃では被覆樹脂6にクラックが発生しないが−20℃ではクラックが発生した場合をGood(G)とし、−20℃でもクラックが発生しない場合をVery Good(VG)(◎)とし、−15℃でクラックが発生した場合をBad(B)とした。
【0028】
【表2】

【0029】
(3)耐摩耗性
上述の難燃性検討の結果から得られた配合量の上限である90部のリン酸塩を配合し、ベース樹脂中における高密度ポリエチレン/エチレン酢酸ビニル共重合体の比率を変えたときの磨耗性を検討した。
上記摩耗試験(JIS C6851に準拠)において、光ファイバケーブルに光ファイバ、テンションメンバ等の露出がないこと、メタルケーブルに導体露出のないことを満足する場合をGood(G)(○)、満足しない場合をBad(B)(×)とした。結果を表3に示す。
表3より、ベース樹脂における高密度ポリエチレン比が30質量%以上であると、目的の摩耗特性が得られることが確認された。
【0030】
【表3】

【0031】
(4)摩擦特性
さらなる摩擦係数の低減を図るため、シリコーン分散ポリエチレンの添加を行った。
上記難燃性、摩耗特性の結果から得られたベースにおける高密度ポリエチレン配合比下限、およびフィラー配合量上限を考慮し、ベース樹脂(高密度ポリエチレン/エチレン酢酸ビニル共重合体の配合比:30部/70部)に対しリン酸塩を添加し、これにシリコーン分散ポリエチレンを配合した。
摩擦特性についてはJIS K7125に準拠し、動摩擦係数0.25以下を目標値とし、0.25以下をGood(G)(○)、0.25より大きい場合をBad(B)(×)とした。結果を表4に示す。
表4より、シリコーン分散ポリエチレン配合量を0.75部以上とすることで摩擦係数が目標値を満足することが確認された。
【0032】
【表4】

【0033】
表5は、上記試験結果をさらに詳しく示すものである。表5において、摩擦特性については、JIS K7125に規定する試験において動摩擦係数が0.20以下である場合をVery Good(VG)(◎)とし、動摩擦係数が0.20を越えて0.25以下である場合をGood(G)(○)とし、動摩擦係数が0.25より大きい場合をBad(B)(×)とした。
難燃性については、JIS C3005に規定する傾斜燃焼試験にて接炎時間10秒で着火後、自己消炎した場合をGood(G)(○)とし、接炎時間30秒で十分に着火させた後も自己消炎した場合をVery Good(VG)(◎)とし、延焼した場合をBad(B)(×)とした。
【0034】
【表5】

【0035】
<実施例2>
エチレン酢酸ビニル共重合体に代えて、同じ配合量のエチレン-エチルアクリレート共重合体を用いること以外は実施例1と同様にして光ファイバケーブルを作製し、実施例1と同様の試験に供した。その結果、難燃性、摩擦特性、摩耗特性について、実施例1と同様、全てを良好なレベルにすることができたことが確認された。
エチレン-エチルアクリレート共重合体としては、三井・デュポンポリケミカルのエバフレックスEEA A−704を用いた。
【0036】
<実施例3>
シリコーン分散ポリエチレンに代えて、同じ配合量のシリコーングラフトポリエチレンを用いること以外は実施例1と同様にして光ファイバケーブルを作製し、実施例1と同様の試験に供した。その結果、シリコーングラフトポリエチレン0.75〜15部を用いることで、難燃性、摩擦特性、摩耗特性について、実施例1と同様、全てを良好なレベルにすることができたことが確認された。
シリコーングラフトポリエチレンとしては、東レダウコーニング株式会社のSP−110を用いた。
【0037】
<実施例4>
図3に示す光ファイバケーブル30において、内層6Bに、エチレン−酢酸ビニル共重合体に難燃剤として水酸化マグネシウムを配合して得られた樹脂組成物を用い、外層6Aに、実施例1で用いたものと同じ樹脂組成物を使用し、難燃性、磨耗性、摩擦特性を確認した。実施例1と同様、各特性を良好なレベルにすることができたことが確認された。
【0038】
得られた結果を要約する。
高密度ポリエチレンにエチレン酢酸ビニル共重合体、およびエチレン-エチルアクリレート共重合体から選ばれる少なくとも1種類の樹脂を加えたベース樹脂100部に対し、リン酸塩25〜80部、ならびにシリコーン分散ポリエチレン、もしくはシリコーングラフトポリエチレン0.75〜15部を含有することで、難燃性、摩擦特性、摩耗特性の全てを良好なレベルにすることができる。
なお、本発明の技術範囲は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、本実施形態で挙げた具体的な処理や構成等は一例にすぎず、適宜変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、上記樹脂組成物を用いることによって、難燃性を低下させることなく、耐摩耗性、摩擦特性、そして耐寒性が良好となるため、ファイバトゥザホーム(FTTH)サービスなどに用いられる光ファイバケーブルに好適に使用できる。
【符号の説明】
【0040】
1…支持線部、2・・・ケーブル本体部、3・・・首部、4・・・光ファイバ、6…被覆樹脂、6A・・・外層、6B・・・内層、10、20、30…光ファイバケーブル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)高密度ポリエチレンに、エチレン酢酸ビニル共重合体、およびエチレンエチルアクリレート共重合体から選ばれる少なくとも1つを加えたベース樹脂、
(b)前記ベース樹脂100質量部に対し、リン酸塩25〜90質量部、
(c)前記ベース樹脂100質量部に対し、シリコーン分散ポリエチレン、もしくはシリコーングラフトポリエチレン0.75〜15質量部、
を含有する樹脂組成物が、被覆樹脂の最外層に用いられ、
前記高密度ポリエチレンと前記エチレン酢酸ビニル共重合体との質量比が30:70〜90:10であり、
光ファイバとその両側に配置した抗張力体とを前記被覆樹脂で一括被覆したケーブル本体部を有し、
前記光ファイバは、前記ケーブル本体部に埋設されており、
前記被覆樹脂は、その外面に形成されたノッチにおいて分割することで、前記光ファイバを露出させることができる光ファイバケーブル。
【請求項2】
(b)は、前記ベース樹脂100質量部に対し、前記リン酸塩35〜80質量部である請求項1の光ファイバケーブル。
【請求項3】
(c)は、前記ベース樹脂100質量部に対し、前記シリコーン分散ポリエチレン1〜4質量部である請求項1または2の光ファイバケーブル。
【請求項4】
前記被覆樹脂が、前記樹脂組成物からなる外層と、ポリオレフィン系樹脂からなる内層とを有する多層構造を有し、
前記内層が、エチレン酢酸ビニル共重合体、およびエチレンエチルアクリレート共重合体から選ばれる少なくとも1つを含むベース樹脂100質量部に、水酸化マグネシウム50〜200質量部を含有する樹脂からなることを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか1項に記載の光ファイバケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−53484(P2012−53484A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256361(P2011−256361)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【分割の表示】特願2009−261697(P2009−261697)の分割
【原出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】