説明

光学ガラス及びこれを使用した光学装置

【課題】
従来よりも自家蛍光強度を低減した光学ガラスと、これを使用した光学装置を提供すること。
【解決手段】
重量基準で、SiO2を2〜10%,B23を5〜45%,RO(R=Zn,Sr,Ca,Ba)を0〜15%,La23を30〜60%,Ln23 (Ln=Y,Gd)を0〜40%,ZrO2+Nb25+Ta25を0〜30%含む基礎ガラス組成物100%に対し、Crの含有量を5ppm未満とした光学ガラス及びこの光学ガラスを有する光学系を備えた光学装置としたこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学ガラス、特に、蛍光観察や蛍光強度測定のための光学系に用いられる光学ガラスと、この光学ガラスを使用した光学装置に関するものである。特に、自家蛍光を放出する成分であるCrの含有量を極力少なくしたものである。
【背景技術】
【0002】
蛍光顕微鏡等の蛍光観察測定装置の利用において、一分子蛍光観察や蛍光強度の低い試料の蛍光強度測定など、観察測定に用いる装置の高精度化が要求されている。
このような装置の像観察や測定における精度を悪化させる一因として、光学系のレンズに使用されるガラスの自家蛍光が知られている。
【0003】
この自家蛍光とは、試料を励起するため励起光がレンズを通過するときに、レンズの材料であるガラスに励起光が一部吸収され、放出される蛍光である。この自家蛍光は、試料から放出された蛍光と重なり、蛍光像の暗部の情報を失わせることから精度の高い観察を困難にする。蛍光強度測定においては、自家蛍光がバックグラウンドノイズとなり、蛍光強度の低い試料の精度よい測定が困難になる。自家蛍光の強度が低減されたガラスを使用することにより、精度の高い観察や測定が可能になる。
【0004】
またこのような蛍光観察、測定において、試料が生細胞等である場合、励起光として紫外光を使うと、生細胞にダメージを与える場合があることから、例えば波長480nmの可視光が使われることが多い。
【0005】
自家蛍光強度が低減されたガラス(以下「低蛍光ガラス」と称する。)に関する技術として、特許文献1及び特許文献2に示されているように、ガラス中の不純物の含有量を低減させたものがある。また、特許文献2に示されているように、ガラス製造時における不純物の混入を低減させた製造方法がある。
【0006】
特許文献1には、不純物の含有量が低いガラスとして、不純物としての含有量がAs23が0.05%以下,Sb23が0.05%以下,V25が10ppm以下,CuOが10ppm以下,CeO2が1ppm以下という低蛍光ガラスが開示されている。
【0007】
また、特許文献2には不純物の含有量が低いガラスとして、不純物である白金の量が10ppm以下で、砒素を実質的に含有せず、またアンチモンも実質的に含有しない低蛍光ガラスが開示されている。また、製造方法として、気相からの白金の混入、及び白金るつぼとガラス融液界面から白金の混入を阻止することにより不純物量を低減させたガラスの製造方法が開示されている。
【特許文献1】特開平4−219342号公報
【特許文献2】特開平11−106233号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来の技術による低蛍光ガラスでは、可視光を照射した場合、十分に自家蛍光を低減できないという課題があった。
【0009】
そして上述のように、蛍光顕微鏡は蛍光像の観察や蛍光量の測定に用いられる。この蛍光顕微鏡の光学系のレンズにも、収差を良好に補正するために、高屈折率低分散性の光学ガラスが使用されている。ところが、高屈折率低分散性の光学ガラスは自家蛍光を発生しやすい。そのため、高屈折率低分散性の光学ガラスを用いた蛍光顕微鏡では、コントラストの高い蛍光像の観察や、精度の高い測定が困難になるという課題があった。
【0010】
本発明は、上記した課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、従来のものに比べ可視光を照射した場合の、自家蛍光強度を低減した光学ガラスと、これを使用した光学装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そして、上記目的を達成するために鋭意研究の結果、B23−La23系のガラスにおいて、Crの含有量を5ppm未満とすることにより、可視光を照射した場合の自家蛍光を低減できることを見いだした。
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明の光学ガラスは、重量基準で少なくとも、
SiO2 2〜10%
23 5〜45%
La23 30〜60%
を含む基礎ガラス組成物100%に対し、
Crの含有量を5ppm未満としたものである。
【0013】
また、本発明の光学ガラスの別の態様は、重量基準で、
SiO2 2〜10%
23 5〜45%
La23 30〜60%
RO(R=Zn,Sr,Ca,Ba) 0〜15%
Ln23(Ln=Y,Gd) 0〜40%
ZrO2+Nb25+Ta25 0〜30%
を含む基礎ガラス組成物100%に対し、
Crの含有量を5ppm未満としたものである。
【0014】
また、本発明の光学ガラスの別の態様は、重量基準で少なくとも、
SiO2 2〜20%
23 5〜45%
La23 10〜29%
を含む基礎ガラス組成物100%に対し、
Crの含有量を5ppm未満としたものである。
【0015】
また、本発明の光学ガラスの別の態様は、重量基準で、
SiO2 2〜20%
23 5〜45%
La23 10〜29%
RO(R=Zn,Sr,Ca,Ba) 0〜45%
Ln23(Ln=Y,Gd) 0〜10%
ZrO2+Nb25+TiO2+Ta25 1〜20%
を含む基礎ガラス組成物100%に対し、
Crの含有量を5ppm未満としたものである。
【0016】
また、本発明の光学ガラスの別の態様は、重量基準で、
重量基準で少なくとも、
SiO2 2〜20%
23 5〜45%
La23 10〜29%
Al23 0.1〜5%
RO(R=Zn,Sr,Ca,Ba) 1〜60%
Ln23(Ln=Y,Gd) 0〜10%
ZrO2+Nb25+TiO2+Ta25 1〜10%
を含む基礎ガラス組成物100%に対し、
Crの含有量を5ppm未満としたものである。
【0017】
また、本発明の別の態様は、重量基準で、上記の基礎ガラス組成物100%に対し、脱泡剤として、Sb23,塩化物,硫化物,フッ化物のいずれか1種以上を0.01〜1%含有するものである。
【0018】
さらに、本発明の別の態様は、Li2O,Na2O,K2O,Rb2O,Cs2Oのうちの少なくとも1種以上を、重量基準で0〜10%含有するものである。
【0019】
また、本発明の光学装置は、上記した光学ガラスを有する光学系を備えたものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の光学ガラスによれば、従来よりも可視光を照射した場合に、自家蛍光強度を低減した光学ガラスと、これを使用した光学装置を実現できる。
【0021】
特に、本発明の光学ガラスはCr含有量を5ppm未満としているため、自家蛍光が小さいガラスが得られる。そして、このガラスはCr含有量が少ないため蛍光像観察で利用される400〜700nmにおける屈折率、分散等の光学的性質や化学的性質、熱的性質、機械的性質などにほとんど影響を与えない。
【0022】
そのため、光学系の設計変更や、化学的性質、熱的性質、機械的性質が関係する機械加工工程、コーティング工程等の工程変更は不要であり、従来の光学系のガラスを本発明の低蛍光ガラスに容易に置き換えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明は、上記したような成分を含有しているB23−La23系の光学ガラスであるが、以下、各ガラス成分のそれぞれの役割とそれぞれの成分の最適な含有量の決定理由について説明する。
【0024】
第1実施形態の光学ガラスは、基礎ガラス組成物として、SiO2、B23、La23を含んでいる。
【0025】
SiO2はガラス網目形成成分の一つである。本実施形態の光学ガラスは、SiO2を2〜10%含有している。2%未満ではガラスの化学的耐久性が劣化してしまう。一方、本実施形態では10%を超えるとガラスの安定性が低下し、結晶化する蛍光が強くなってしまう。
【0026】
23は、ガラス網目形成成分の一つである。本実施形態の光学ガラスは、B23を5〜45%含有している。5%未満ではガラスの安定性と溶融性を悪化させる。また、45%を超えると化学的耐久性を劣化させる。
【0027】
La23は、屈折率を高めるための成分である。本実施形態の光学ガラスは、La23を30〜60%含有している。本実施形態では30%未満では所望の屈折率が得られない。一方、60%を超えるとガラスの安定性が低下する。
【0028】
第2実施形態の光学ガラスは、基礎ガラス組成物として、上記の3つの成分に加えて、RO、Ln23、ZrO2,Nb25,Ta25のうちの少なくとも1つを含んでいる。
【0029】
ROは、R=Zn,Sr,Ca,Baであり、ZnO,SrO,CaO,BaOを示す。ROは、屈折率とガラスの安定性を調整するための成分である。特にBaOはガラスの高屈折率化に大きく寄与する成分である。また、残りの成分は、屈折率の調整とともに、ガラスの安定性の向上に寄与する。本実施形態の光学ガラスは、RO(R=Zn,Sr,Ca,Ba)を0〜15%含有している。15%を超えるとガラスの安定性・化学的耐久性が低下してしまう。本実施形態の光学ガラスがROを含む場合、ZnO,SrO,CaO,BaOのうちの少なくとも1つを含んでいれば良い。
【0030】
Ln23は、Ln=Y,Gdであり、Y23,Gd23を示す。Y23,Gd23は、屈折率を高めるとともに分散値を調整する成分である。本実施形態の光学ガラスは、Ln23(Ln=Y,Gd)を0〜40%含有している。40%を超えるとガラスの安定性が劣化し、結晶化傾向が強くなる。本実施形態の光学ガラスがLn23を含む場合、Y23,Gd23のうちの少なくとも1つを含んでいれば良い。
【0031】
ZrO2,Nb25,TiO2,Ta25は、屈折率を高めるとともに分散値を調整する成分である。本実施形態の光学ガラスは、ZrO2+Nb25+Ta25を0〜30%含有している。30%を超えると溶融性が悪化し、ガラスの安定性も劣化させる。本実施形態の光学ガラスが、ZrO2,Nb25,Ta25を含む場合、これらのうちの少なくとも1つを含んでいれば良い。
【0032】
第3実施形態の光学ガラスは、各成分の割合が第1実施形態の光学ガラスと異なる。すなわち、SiO2は2〜20%、B23は5〜45%、La23は10〜29%となっている。第1実施形態と比べ、SiO2は上限が20%と多い。一方、La23は10〜29%と少ない。
【0033】
また第4実施形態の光学ガラスは、基礎ガラス組成物として、第3実施形態の3つの成分に加えて、RO、Ln23、ZrO2,Nb25,TiO2,Ta25のうちの少なくとも1つを含んでいる。すなわち、RO(R=Zn,Sr,Ca,Ba)は0〜45%、Ln23(Ln=Y,Gd)は0〜10%、ZrO2+Nb25+TiO2+Ta25は1〜20%となっている。第4実施形態の光学ガラスでは、ROと、Ln23については含有しない場合がある。
【0034】
また第5実施形態の光学ガラスは、基礎ガラス組成物として、第4実施形態の3つの成分に加えて、Al23を含んでいる。また、ROとZrO2,Nb25,TiO2,Ta25のうちの少なくとも1つを含んでいる。すなわち、Al23は0.1〜5%、RO(R=Zn,Sr,Ca,Ba)は1〜60%、ZrO2+Nb25+TiO2+Ta25は1〜10%となっている。また、Ln23(Ln=Y,Gd)は0〜10%であり含有しない場合がある。
【0035】
Al23は屈折率を調整するとともに、ガラスの粘度や耐候性を調整する成分である。5%を超えると、ガラスの安定性と溶融生が悪化する。
その他の各成分の機能などは、第1及び第2実施形態で説明したとおりである。
【0036】
また、第1実施形態〜第5実施形態の光学ガラスは、上記の基礎ガラス組成物100%に対して、Crの含有量が5ppm未満となっている。
【0037】
Crは、自家蛍光を放出する成分である。Crは、波長545nmにピークを有する蛍光と、波長700nm付近にピークを有する自家蛍光を発する。特に後者の自家蛍光は、650nmより長波長側において広い範囲で観測され、Cr含有量に対する感度が高い。そのため近赤外域における高精度な蛍光観察や測定を妨げる原因となる成分である。Crの含有量が5ppmを超えると本発明の目的を達成できない。よって、Crの含有量が5ppm未満であるのが好ましい。特に、Crの含有量が2ppm以下であることが好適である。
【0038】
次に、第6の実施形態の光学ガラスについて述べる。第6の実施形態の光学ガラスは、第1実施形態〜第5実施形態の光学ガラスにおいて、脱泡剤として、Sb23,塩化物,硫化物,フッ化物のいずれかを1種以上を0.01〜1%含有している。このようにすると、ガラスの溶融時に原料が分解・反応して発生する泡を減ずることができる。0.01%より少ないと脱泡効果が得られない。一方、1%を超えると自家蛍光を増加させるという問題を生じる。
【0039】
次に、第7実施形態の光学ガラスについて述べる。第7実施形態の光学ガラスは、第1〜第6実施形態の光学ガラスにおいて、アルカリ金属酸化物であるLi2O,Na2O,K2O,Rb2O,Cs2Oのうちの少なくとも1種以上を、0〜10%含有している。このようにすることで、ガラスの溶融性を向上させることができる。10%を超えると化学的耐久性やガラスの安定性が劣化する。なお、複数のアルカリ金属酸化物を含有させることが望ましい。
【0040】
なお、本実施形態の光学ガラスには、脱泡性・溶融性・安定性の向上等の目的で、他の成分を含ませることも可能である。
【0041】
次に、本発明の蛍光観察測定装置について説明する。
本発明の光学装置とは、例えば、蛍光顕微鏡、生細胞観察装置、遺伝子解析装置、フォトルミネッセンス測定装置、蛍光分光光度計、蛍光寿命測定装置、プラズマディスプレイパネル検査装置、蛍光観察機能を有する内視鏡等である。いずれにせよ、蛍光を観察あるいは測定する装置である。
【0042】
これらの光学装置は、試料が放出する蛍光を観察・測定するものである。試料から蛍光を放出させるために、光源から発した励起光を、光学系を通して試料に照射する。この励起光の照射により試料は蛍光を放出する。この蛍光は、光学系を通して光検出器(フォトダイオード、光電子増倍管、CCD、CMOSなど)により検出される。
【0043】
上記の光学系には、光学ガラス等からなるレンズ、プリズム、ミラー、フィルタ等の光学部品が含まれる。これらの光学部品に本実施形態の光学ガラスを使用することで、これらの部品から発生する自家蛍光の強度(光量)を低減できる。その結果、蛍光観察においては、蛍光像のコントラストの低下を抑えることができる。また、蛍光測定においては、蛍光信号におけるノイズ成分(自家蛍光)を低減できる。
【実施例1】
【0044】
次に、実施例1の光学ガラスを、試験例1〜20として表1に示す。実施例1では、20種類のガラス試料を作製し、それぞれの蛍光量を測定した。なお、表1の組成は重量基準の百分率で表記した。
【0045】
本実施例の光学ガラスは、不純物の混入が少ない高純度のガラス原料を使用した。このガラス原料を所定の比率となるように混合し、白金るつぼ内で1100〜1400℃、2〜5時間溶融し、アニールした。このようにして作製したガラスを11×11×40mmの角柱に加工し、長手方向の4面(11×40mmの面)を鏡面研磨して、光学ガラスを得た。
【0046】
この光学ガラスを使用して、分光蛍光光度計(日本分光(株)製、FP−6500)により蛍光強度を測定した。測定では、各実施例の光学ガラスに480nmの光を照射し、530nm〜650nmにおける蛍光強度を測定した。そして、530nm〜650nmにおける蛍光強度を積分した値(任意単位)を自家蛍光強度とし、任意に選択した市販のB23−La23系ガラスの自家蛍光強度と比較して評価を行った。評価は、前記市販のガラスの自家蛍光強度を基準とし、表1の各試験例の自家蛍光強度との比を求め、この比を蛍光度とした。蛍光度が0.7未満をA、0.7〜1.5をB、1.5以上をCとした。
【0047】
また、表2に比較例として、市販の光学ガラス2種類(Cr含有量は未測定)について同様にして行った、自家蛍光強度の測定結果に基づく蛍光度の評価結果を示す。市販ガラス1,市販ガラス2の光学ガラスは、上記の評価基準としたB23−La23系ガラスとは別の、市販のB23−La23系光学ガラスである。
【0048】
本発明の目的を達成するためには、この蛍光度の指標がAであることが望ましい。
この結果より、本実施例の光学ガラスは、比較例の光学ガラスに比べ、自家蛍光強度が低減されていることが確認された。
【0049】
なお、各試験例と実施形態の対応は次のとおりである。
第1実施形態:試験例1〜試験例10
第2実施形態:試験例1〜試験例10
第3実施形態:試験例11〜試験例20
第4実施形態:試験例12、試験例14〜試験例20
第5実施形態:試験例18,試験例20
第6実施形態:試験例3,試験例4,試験例8〜試験例10,試験例14〜試験例16, 試験例19,試験例20
第7実施形態:試験例1〜試験例20
【0050】
【表1】

【0051】
表1の続き

【0052】
【表2】

【実施例2】
【0053】
次に、本発明の光学装置の一実施例を図1に基づいて述べる。図1は本発明の光学装置である蛍光顕微鏡1の概略を示した説明図である。蛍光顕微鏡1は、励起光源部2、励起光光学系3、フィルタ部4、接眼光学系5、画像撮影部6、表示装置7、対物レンズ8及び試料台10とから構成されている。また、9は試料(標本)である。
【0054】
励起光源部2は、励起光11を放出するキセノンランプと図示しない電源装置とを備えている。励起光光学系3は励起光11を試料9に導く光学系であって、励起光源部2とフィルタ部4の間に配置されている。フィルタ部4は、誘電体多層膜フィルタから構成されている。このフィルタ部4は、バンドパスフィルタとダイクロイックミラーを有する。ダイクロイックミラーは励起光11を反射し、蛍光12を透過させる特性を有している。
【0055】
接眼光学系5は、試料9の像(蛍光像)を肉眼で観察するための光学系である。画像撮影部6は、蛍光12の像を撮影するCCDカメラである。表示装置7は、撮影した蛍光12の像を表示する。対物レンズ8は、励起光11を試料上に集光するとともに、蛍光12を所定の位置に集光して像を形成する。試料台10は、試料9を設置するためのものである。
【0056】
励起光源部2から放出された光は、励起光光学系3を通りフィルタ部4に入射する。フィルタ部4には、460〜495nmを透過するバンドパスフィルタが配置されている。よって、励起光源部2から放出された光がフィルタ部4を通ることで、波長460〜495nmの光、すなわち励起光11が得られる。
【0057】
次にこの励起光11は、ダイクロイックミラーに入射する。ダイクロイックミラーは、505nmより短波長の光を反射し、505nmより長波長の光を透過する光学特性を有している。このダイクロイックミラーは励起光11の進行方向に対して45度の角度をなして設けられている。そのため、ダイクロイックミラーに入射した励起光11は、90度折り曲げられて、対物レンズ8へ導かれる。
【0058】
励起光11は対物レンズ8により集光され、試料台10に備えられた試料9に照射される。励起光11は試料9(蛍光物質)により吸収され、試料9より蛍光12が放出される。
【0059】
この蛍光12は、対物レンズ8により集光される。集光された蛍光12は、フィルタ部4のダイクロイックミラーに入射する。ここで、蛍光12の波長は、505nmよりも長い。そのため、蛍光12はダイクロイックミラー透過する。蛍光12は、さらに波長510nmより長波長の光を透過するフィルタを通過した後、所定の位置に集光し蛍光像を形成する。そして、この蛍光像は、接眼光学系5により観察される。
【0060】
また、蛍光顕微鏡1は光路切替機構(不図示)を備えていても良い。光路切替機構により光路を切り替えることで、画像撮影部6に蛍光12を導くことができる。このようにすることで、蛍光像を画像撮影部6により撮影することができる。撮影された蛍光像は、表示装置7に表示される。
【0061】
本実施例では、ノイズとなる自家蛍光は、フィルタ部4と対物レンズ8において発生する。本実施例においては、対物レンズ8に使用される光学レンズの一部に、実施例1の光学ガラス(試験例1〜20のいずれかの光学ガラス)を用いている。これにより、対物レンズ8で発生する自家蛍光を低減させることができた。その結果、蛍光像のコントラストが増加し、明瞭な蛍光像を得ることができた。
【実施例3】
【0062】
次に、本発明の光学装置の他の実施例を図2に基づいて述べる。図2は本発明の光学装置である蛍光顕微鏡13の概略を示した説明図である。蛍光顕微鏡13は、上記図1の蛍光顕微鏡1と対比して、画像撮影部6を光検出部14とした以外は相違点がないため、詳細な説明は省略する。なお、光検出部14は、蛍光12の強度を測定する光電子増倍管と図示しない電源装置とを有する。
【0063】
蛍光12は、フィルタ部4のダイクロイックミラーを透過し、さらに波長420nmより長波長の光を透過するフィルタを通過する。そして、蛍光12は光検出部14入射する。光検出部14では、光強度(蛍光強度)が電流値として測定され、表示装置15にその値が表示される。
【0064】
このときノイズとなる自家蛍光は、フィルタ部4と、対物レンズ8において発生する。ここで、試料台10に試料9を設置せずに、蛍光強度の測定を実施するとフィルタ部4や対物レンズ8で発生する自家蛍光が測定される。
【0065】
本実施例においては、対物レンズ8に使用されるガラスの一部に、実施例1の光学ガラスを用いている。そして、試料台10に試料を設置せず蛍光強度測定を行った。また、従来の光学ガラスを使用した対物レンズ8を用いて、蛍光強度測定を行った。
【0066】
その結果、実施例1の光学ガラスを使用した対物レンズ8の場合、蛍光強度測定値(任意単位)が63であった。これに対して、従来の光学ガラスを使用した対物レンズ8の場合の蛍光強度測定値(任意単位)が260であった。このように、実施例1の光学ガラスにおける自家蛍光の強度は、従来と比較して約1/4になっている。そのため、従来技術による蛍光顕微鏡よりも、バックグラウンドノイズを小さくすることができた。
【実施例4】
【0067】
次に、本発明の光学装置の他の実施例を図3に基づいて述べる。図3は本発明の光学装置である分光蛍光光度計20の構成を示した説明図である。分光蛍光光度計20は、光度計本体21と、制御・解析部22と、図示しない電源とからなる。
【0068】
光度計本体21は、励起光34の試料への照射及び、試料が放出した蛍光35を強度信号に変換する。制御・解析部22は、光度計本体21の制御と測定した蛍光強度の表示・解析を行う。
【0069】
光度計本体21は、励起光光学系23と試料室24と蛍光光学系25とから構成される。励起光光学系23は、励起光34を放出するキセノンランプ26と、励起光34を分光する励起光用回析格子27と、励起光34を試料に向けて方向を変えるミラー28と、試料室24と空間を分ける励起光出射窓29とからなる。励起光出射窓29は、実施例1の低蛍光ガラスを使用している。
【0070】
試料室24と励起光光学系23との空間を分ける理由は、試料室24からの異物侵入などによる励起光光学系23の汚染を防ぐためである。後述する蛍光光学系25も同じ理由で、試料室24と蛍光入射窓31によって空間を分けている。
【0071】
蛍光光学系25は、光入射窓31と、蛍光用回析格子32と光電子増倍管33とから構成される。光入射窓31は、試料30が放出した蛍光35が蛍光光学系25に入射する位置に設けられている。蛍光用回析格子32は、入射した蛍光35を分光する。光電子増倍管33は、分光された蛍光の光強度を電流に変換する。ここで、蛍光入射窓31に、実施例1の光学ガラスを使用している。
【0072】
次に、分光蛍光光度計20による蛍光測定について説明する。蛍光測定する試料30は、試料室24に設置される。キセノンランプ26より放出された励起光34は、励起光用回析格子27により、例えば中心波長480nm、波長幅10nmの光に分光される。この励起光は、ミラー28により反射され励起光出射窓29を通り、試料室24に入り、試料30を照射する。
【0073】
試料30に照射された励起光34は、試料30によりその一部が吸収され、この吸収された励起光34のエネルギーにより、試料30より蛍光が放出される。試料30より放出された蛍光35は、蛍光入射窓31を通って蛍光光学系25に入る。この蛍光35は、蛍光用回析格子32により分光される(例えば波長600nm)。分光に際して、蛍光用回析格子32を操作して、蛍光35の蛍光用回析格子32に対する入射角度を変化させる。このようにすることで、光電子増倍管33に入射する光の波長を変える。
【0074】
蛍光用回析格子32で分光された光は、光電子増倍管33に入射し、光強度が電流に変換される。光電子増倍管33により電流に変換された光強度は、制御・解析部22により表示・解析される。波長ごとに蛍光強度のデータを収集すると、蛍光波長に対する蛍光強度を表す蛍光スペクトルが得られる。
【0075】
従来技術による分光蛍光光度計では、励起光34が照射される励起光出射窓29より自家蛍光が生じる。また、試料30に照射された励起光34の散乱光が、励起光出射窓29と蛍光入射窓31とに入射し、自家蛍光が生じる。このような自家蛍光は、測定におけるバックグラウンド値を増大させ、微弱な蛍光強度の測定など高い精度が要求される測定を困難にしていた。
【0076】
これに対して、本実施例による分光蛍光光度計20においては、励起光出射窓29及び蛍光入射窓31に、実施例1の光学ガラスを使用している。これにより、これらの窓から発生する自家蛍光の強度を小さくすることができる。そのため、測定のバックグラウンド値を低くすることができる。その結果、強度が微弱な蛍光であっても高い精度で測定が可能であった。
【0077】
なお、本発明の光学装置は上記実施例に限定されるものではなく、その他の光学装置においても、本実施例の光学ガラスを使用するものについては同様な効果を得られるものである。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の光学装置の実施例1である蛍光顕微鏡の概略説明図である。
【図2】本発明の蛍光顕微鏡の概略説明図である。
【図3】本発明の分光蛍光光度計の構成説明図である。
【符号の説明】
【0079】
1 蛍光顕微鏡
2 励起光源部
3 励起光光学系
4 フィルタ部
5 接眼光学系
6 画像撮影部
7 表示装置
8 対物レンズ
9 試料
10 試料台
11 励起光
12 蛍光
13 蛍光顕微鏡
14 光検出部
15 表示部
20 分光蛍光光度計
21 光度計本体
22 制御・解析部
23 励起光光学系
24 試料室
25 蛍光光学系
26 キセンノンランプ
27 励起光用回析格子
28 ミラー
29 励起光出射窓
30 試料
31 蛍光入射窓
32 蛍光用回析格子
33 光電子増倍管
34 励起光
35 蛍光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量基準で少なくとも、
SiO2 2〜10%
23 5〜45%
La23 30〜60%
を含む基礎ガラス組成物100%に対し、
Crの含有量が5ppm未満であることを特徴とする光学ガラス。
【請求項2】
重量基準で、
SiO2 2〜10%
23 5〜45%
La23 30〜60%
RO(R=Zn,Sr,Ca,Ba) 0〜15%
Ln23(Ln=Y,Gd) 0〜40%
ZrO2+Nb25+Ta25 0〜30%
を含む基礎ガラス組成物100%に対し、
Crの含有量が5ppm未満であることを特徴とする光学ガラス。
【請求項3】
重量基準で少なくとも、
SiO2 2〜20%
23 5〜45%
La23 10〜29%
を含む基礎ガラス組成物100%に対し、
Crの含有量が5ppm未満であることを特徴とする光学ガラス。
【請求項4】
重量基準で、
SiO2 2〜20%
23 5〜45%
La23 10〜29%
RO(R=Zn,Sr,Ca,Ba) 0〜45%
Ln23(Ln=Y,Gd) 0〜10%
ZrO2+Nb25+TiO2+Ta25 1〜20%
を含む基礎ガラス組成物100%に対し、
Crの含有量が5ppm未満であることを特徴とする光学ガラス。
【請求項5】
重量基準で、
SiO2 2〜20%
23 5〜45%
La23 10〜29%
Al23 0.1〜5%
RO(R=Zn,Sr,Ca,Ba 1〜60%
Ln23(Ln=Y,Gd) 0〜10%
ZrO2+Nb25+TiO2+Ta25 1〜10%
を含む基礎ガラス組成物100%に対し、
Crの含有量が5ppm未満であることを特徴とする光学ガラス。
【請求項6】
重量基準で、前記基礎ガラス組成物100%に対し、脱泡剤として、Sb23,塩化物,硫化物,フッ化物のいずれか1種以上を、0.01〜1%含有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項7】
Li2O,Na2O,K2O,Rb2O,Cs2Oのうちの少なくとも1種以上を、重量基準で0〜10%含有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項8】
上記請求項1乃至7のいずれかに記載した光学ガラスを有する光学系を備えたことを特徴とする光学装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−143738(P2009−143738A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−319941(P2007−319941)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】