説明

光学ディスク用原料の製造方法、その方法により製造された光学ディスク用原料

【課題】ポリカーボネート樹脂を基板材料とする回収光ディスク及び/又は廃棄光ディスクから光ディスク基板用樹脂として再生する高品質の光学ディスク用原料の製造方法及び光学ディスク用原料を提供する。
【解決手段】(a)基板材料樹脂が、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)を単独原料として重合されたものであるか否かを判別する工程、(b)前記ビスフェノールAを、界面重合法で製造されたものであるか、若しくはエステル交換法で製造されたものであるかを判別する工程、(c)前記界面重合法で製造されたポリカーボネート樹脂を化学的処理することにより不純物を除去する工程からなり、金属類の残存量が、アルカリ金属、アルカリ土類系金属、鉄系金属については1ppm以下、それら以外の重金属類については0.1ppm以下となるまで化学的処理をおこなうことを特徴とする光学ディスク用原料の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ディスク用原料の製造方法、その方法により得られた光学ディスク用原料及び光学ディスクに関し、さらに詳しくは、ポリカーボネート樹脂を基板材料として製造された、使用済みの光ディスク又は製造工程で不良品となった廃棄光ディスクを再生処理することによって、再び光ディスク基板用樹脂として利用出来る高品質の光学ディスク用原料の製造方法、その方法により製造された光学ディスク用原料及び光学ディスクに関する。
【背景技術】
【0002】
今日、工業化されているポリカーボネート樹脂(以下、PC樹脂と称することがある)の重合法としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)を原料とした、界面重合法 (所謂、ホスゲン重合法)と、同じく2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)を原料とした、エステル交換法(所謂、溶融重合法)が有名である。
しかし、界面重合法で重合された一般的なPC樹脂は、反応停止剤(或いは末端封止剤)として投入された、p-tert-ブチルフェノールに起因するp-tert-ブチルフェノキシ基や、p-クミルフェノールに起因するp-クミルフェノキシ基を、ポリカーボネート分子鎖の末端構造として持つことが多いのに対し、エステル交換法で重合されたPC樹脂は、その末端構造がフェノキシ基であることが一般的である。
【0003】
また光ディスク基板は、その表面にサブミクロン・レベルの“ピット”と呼ばれる孔或いは“グルーブ”と呼ばれる案内溝が形成されたスタンパーを射出成形機の金型にセットし、金型内にPC樹脂を射出しスタンパー表面の凹凸を転写した樹脂板である。1.2mm厚のCD基板や、0.6mm厚のDVD基板を形成する為に、その原料となるPC樹脂には、粘度平均分子量(Mv)14000〜17000(粘度数:37.2〜44.1)であり、好ましくは14500〜16000(粘度数:38.3〜41.8)、より好ましくは14900〜15600(粘度数:39.2〜40.6)相当の高い流動性が要求される。
流動性はポリカーボネート分子の分子量に依存するので、基本的に粘度平均分子量(Mv)を同じにすれば、界面重合法で重合されたPC樹脂、或いはエステル交換法で重合されたPC樹脂で光ディスク基板を成形出来るが、一般的には界面重合法で重合されたPC樹脂の方が成形し易いとされる。その理由が、前述した末端構造の違いに起因するガラス転移温度(Tg)の差であることは余り知られていない。
【0004】
例えば、粘度平均分子量(Mv)15200、粘度数(VN)に換算して40.0の、p-tert-ブチルフェノキシ基を末端構造に持つ2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)を原料に重合されたPC樹脂と、同じく粘度平均分子量(Mv)15200、粘度数(VN)に換算して40.0の、フェノキシ基を末端構造に持つ2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)を原料に重合されたPC樹脂のTgをDSC(ASTM D1525)で測定した場合、約2〜3℃、フェノキシ基を末端構造に持つPC樹脂の方が、p-tert-ブチルフェノキシ基を末端構造に持つPC樹脂に比べ低くなる。この2〜3℃のTgの違いが、成形のし易さの違いとなるのである。
【0005】
分かり易く説明すると、粘度平均分子量(Mv)15200、粘度数(VN)に換算して40.0のp-tert-ブチルフェノキシ基を末端構造に持つPC樹脂のTgは約146℃、一方のフェノキシ基を末端構造に持つPC樹脂のTgは約144℃である。
また、ASTM D648で測定した熱変形温度(1.82N/mm2)(以下、HDTと称することがある)は、それぞれTgから約20℃低い126℃、124℃となる。しかし、粘度平均分子量は等しいので、その流動性には殆ど差は無い。
これらの樹脂で、DVD−R基板を成形しようとした場合、射出成形機のシリンダー温度380℃、金型鏡面温度120℃前後で成形される。
樹脂はシリンダーから金型キャビティに射出され、型締、保圧冷却後に、成形された基板が金型から離型し、取り出されるのだが、2℃のTgの差により、p-tert-ブチルフェノキシ基を末端構造に持つPC樹脂の方が、より高い温度(僅か2℃だが)で固化しているので早く取り出せる。
フェノキシ基を末端構造に持つPC樹脂を、p-tert-ブチルフェノキシ基を末端構造に持つPC樹脂と同じ成形条件、同じ成形サイクルで成形した場合、固化が遅れる為に離型時、基板の反りがどうしても大きくなってしまう。1.2mm厚のCD基板や、0・6mm厚のDVD基板では反りは致命的欠陥となる。
たかが、2℃違いのTgとは言え、金型鏡面温度がHDTに近い為に、成形サイクルを短縮しようとすればするほど、フェノキシ基を末端構造に持つPC樹脂の成形のし難さが浮き彫りになる。
【0006】
PC樹脂は光学材料や電気電子分野等に幅広く使われるが、光学材料から同等製品への再利用は回収方法を含め難しく、一般的には筐体等に限定して再利用がなされている。これは回収時の不純物混入や、この不純物に起因する加水分解による分子量低下が起こるためである。またこの不純物の除去や、光ディスク材料の場合は、金属膜が付着していたり潤滑剤が混入したりするため、PC樹脂を分離するには厳しい条件下での洗浄剥離処理が必要であり、適切な条件を選定しないとPC樹脂の分子量低下を防ぐことが難しい。
CDやMDの基盤等に使用されているPC樹脂を再度、光学製品に活用する方法として、酸塩基による剥離(例えば、特許文献1参照))やメカノケミカルによる方法や研磨による方法(例えば、特許文献2を参照)、ブラスト方法等の技術が公知である。しかしながら、これらの技術ではPC樹脂の回収は出来るが、界面重合法によるPC樹脂とエステル交換法によるPC樹脂を分別せずに回収するので、再生PC樹脂を筐体等、光ディスク以外の成形品への適用は出来ても、光ディスクへ適用することは困難である。
また、再生製品に安定した品質を有する再生プラスチックスを供給することができる再生システムについては多くの技術が提案されているが(例えば、特許文献3及び4を参照)、いずれも分別し回収する工程と、分別回収された廃棄光ディスクを破砕する工程と、破砕したPC樹脂片から、PC樹脂片のみを取り出す工程を持ち、特に特許文献3は、その品質を保証する工程を有することを特徴としているが、これらのプロセスは、プラスチック製品に限らずとも、以前から存在する古紙、空き缶と言った一般的リサイクルシステムから容易に類推出来る類のものであり、また、分別法についても、特許文献3及び4共に具体的な開示がされていない。
この様な状態では、廃棄光ディスク基板のPC樹脂を再び、光ディスク基板用樹脂として利用出来るレベルでリサイクルすることは到底不可能である。
【0007】
【特許文献1】特開平7−286064号公報
【特許文献2】特許第323600号公報
【特許文献3】特開平2003−231120号公報
【特許文献4】特開平2004−74507号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、ポリカーボネート樹脂を基板材料として製造された、使用済みの光ディスク及び/又は製造工程で不良品となった廃棄光ディスクを再生処理することによって、再び光ディスク基板用樹脂として利用出来る高品質の光学ディスク用原料の製造方法及びその方法で製造された光学ディスク用原料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題について鋭意検討を行った結果、PC樹脂の重合方法の違い等によるPC分子構造の違いを把握し、特定の重合法によって得られるPC樹脂を分別・回収及び化学処理をすることにより得られる再生PC樹脂が、上記課題を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1) ポリカーボネート樹脂を基板材料とする廃棄及び/又は回収光ディスクからポリカーボネート樹脂を光学用ディスク原料として再生する光学ディスク用原料の製造方法において、
(a)廃棄及び/又は回収光ディスクからのポリカーボネート樹脂基板について、そのモノマー組成と、OH末端分率を測定することにより、該基板の材料樹脂が、原料二価フェノールとして2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)を単独原料として重合されたものであるか否かを判別する工程、
(b)工程(a)にて判別されたビスフェノールAを単独原料として重合されたものであるポリカーボネート樹脂を基板とする廃棄及び/又は回収光ディスクについて、そのガラス転移温度(Tg)及び粘度平均分子量(Mv)を測定することにより、界面重合法で製造されたものであるか、若しくはエステル交換法で製造されたものであるかを判別する工程、
(c)工程(b)にて判別された界面重合法で製造されたポリカーボネート樹脂を基板とする廃棄及び/又は回収光ディスクを化学的処理することにより、金属の残存量がアルカリ金属、アルカリ土類系金属、鉄系金属については1ppm以下、それら以外の重金属類については0.1ppm以下になるように不純物を除去する工程、を含むことを特徴とする光学ディスク用原料の製造方法、
(2) 廃棄及び/又は回収光ディスクからのポリカーボネート樹脂基板が粉砕品であることを特徴とする上記(1)の光学ディスク用原料の製造方法、
(3) 廃棄及び/又は回収光ディスクからのポリカーボネート樹脂基板が非粉砕品であることを特徴とする上記(1)の光学ディスク用原料の製造方法、
(4) 工程(a)の前処理工程として、廃棄及び/又は回収光ディスクを偏光板上を通すことにより含まれるポリスチレン製ダミー基板を除去する工程を含むことを特徴とする上記3の光学ディスク用原料の製造方法、
(5) 上記(4)の光学ディスク用原料の製造方法において、ポリスチレン製ダミー基板を除去する工程の後に、ディスクの外観情報から(1)界面重合法で製造されたポリカーボネート樹脂であるもの、(2)界面重合法で製造されていないポリカーボネート樹脂であるもの、(3)界面重合法で製造されたポリカーボネート樹脂であることが特定できないものに判別し、前記(3)の廃棄及び/又は回収光ディスクからのポリカーボネート樹脂基板を前記工程(a)にて処理する光学ディスク用原料の製造方法、
(6) 工程(c)の化学的処理を行う前に廃棄及び/又は回収光ディスクからのポリカーボネート樹脂基板を粉砕することを特徴とする上記(1)〜(5)の光学ディスク用原料の製造方法、
(7) 工程(c)の化学的処理により取り除かれる不純物が、光学ディスク基板表面に設けられた反射層、保護層、記録層及び印刷層であることを特徴とする上記(1)〜(6)の光学ディスク用原料の製造方法、
(8) 工程(c)の化学処理が、アルカリ処理により行われることを特徴とする上記(1)〜(7)の光学ディスク用原料の製造方法、
(9) 上記(1)〜(8)の製造方法によって得られたことを特徴とする光学ディスク用原料、及び
(10) 上記(9)の光学ディスク用材料を用いたことを特徴とする光学ディスク、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、原料や重合方法の異なるポリカーボネート樹脂を基板材料として製造された、使用済みの光ディスク及び/又は製造工程で不良品となった廃棄光ディスクを、本発明に係わる分別方法及び化学処理にて得られたビスフェノールAの界面重合法で製造されたPC樹脂を再生処理することによって、再び光ディスク基板用樹脂として利用出来る高品質の光学ディスク用原料を製造する方法、その方法によって製造された光学ディスク用原料を及び光学ディスクを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の光学ディスク用原料の製造方法においては、先ず、工程(a)において廃棄及び/又は回収光ディスクからのポリカーボネート樹脂基板について、そのモノマー組成と、OH末端分率を測定することにより、該基板の材料樹脂が、原料二価フェノールとして2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)を単独原料として重合されたものであるか否かを判別する必要がある。
本発明に用いられる廃棄及び/又は回収光ディスクとしては、ポリカーボネート樹脂を基板とする記録媒体CD−ROM、CD−R,CD−RW、DVD−ROM、DVD−R、DVD−RWなどが用いられる。これらの廃棄及び/又は回収光ディスクは、円盤状の製品形状のままであってもよいし、粉砕された形状であってもよい。
廃棄及び/又は回収光ディスクが、円盤状の製品形状のままである場合は、工程(a)の前処理として、ディスク中には、光ディスク基板を保護するためのポリスチレンのダミー基板が含まれている可能性があり、このポリスチレンのダミー基板を除去することが望ましい。ポリスチレンのダミー基板を除去する方法としては、偏光板を用いて基板の複屈折を観察すれば、容易に識別が可能であり、その混入を防止することができる。
次に、ポリスチレンダミー板除去工程の後に、ディスクの外観情報から(1)界面重合法によるPC樹脂であるもの、(2)界面重合法によるPC樹脂ではないもの、(3)界面重合法によるPC樹脂であることが特定できないものを判別し、界面重合法によるPC樹脂であることが特定できないもののみを必要に応じて粉砕し、工程(a)以降の分別工程に進むことが好ましい。同様に、廃棄及び/又は回収光ディスクが粉砕されている場合においても工程(a)以降の分別工程に進むことが好ましい。
【0013】
また、廃棄及び/又は回収ディスクは、同一の工場や加工所から発生する同一のグレードの廃棄及び/又は回収ディスクが含まれている容器(ロット)毎に処理することが重要である。
さらに、廃棄及び/又は回収されたディスクが種々のポリカーボネート材料(例えば、界面重合法で製造されたものやエステル交換法で製造されたもののブレンド、ビスフェノールA等のホモポリマーであるか又は共重合ポリマーであるか)の混合物となっている状態のものは好ましくなく、同一の性状を有する廃棄及び/又は回収ディスクであることが好ましい。
【0014】
<工程a>
この工程(a)は、廃棄及び/又は回収光ディスクからのポリカーボネート樹脂基板について、そのモノマー組成と、OH末端分率を測定することにより、該基板の材料樹脂が、原料二価フェノールとして2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)を単独原料として重合されたものであるか否かを判別する工程である。
本発明においては、ポリカーボネート主鎖を構成するジフェノールがビスフェノールAの単独原料であるか、若しくはそれ以外のもの(例えば、共重合ポリカーボネート等)であるかを判別することが必要である。
また、本発明においては、ビスフェノールAの単独原料であるポリカーボネートを光学用ディスク原料として再生利用することが、生産性の観点から有利であるため、ビスフェノールAの単独原料であるか、若しくはそれ以外のものであるかを判別する必要がある。
その判別方法としては、廃棄及び/又は回収光ディスクのモノマー組成と、OH末端分率を測定することにより判別が可能であり、1H-NMRによる分析にて容易に判別可能である。また、その他の分析方法としてはフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)を用いる方法もある。
【0015】
本発明の光学ディスク用原料の製造方法においては、次に、工程(b)として、工程(a)にて判別されたビスフェノールAを単独原料として重合されたものであるポリカーボネート樹脂を基板とする廃棄及び/又は回収光ディスクについて、界面重合法で製造されたものであるか、若しくはエステル交換法で製造されたものであるかを判別する必要がある。
【0016】
<工程b>
この工程(b)は、ガラス転移温度(Tg)及び粘度平均分子量(Mv)を測定することにより、界面重合法で製造されたものであるか、若しくはエステル交換法で製造されたものであるかを判別する工程である。本発明では、主鎖を構成するモノマーがビスフェノールAを単独原料とするものの中から、界面重合法で製造されたものであるか、またはエステル交換法で製造されたものであるのかを判別し、界面重合法で製造されたものを選別使用する必要がある。この理由は、ポリカーボネートを光学用ディスク原料として界面重合法で製造されたものとエステル交換法で製造されたものでは、同一成形条件下ではエステル交換法で製造されたものはソリ発生という不都合が発生するからである。
その判別方法としては、ガラス転移温度(Tg)及び粘度平均分子量(Mv)を測定することにより、判別することが可能である。
もともと、界面重合法で製造されたポリカーボネート(ビスフェノールAを単一のジオール原料とする)とエステル交換法で製造されたポリカーボネート(ビスフェノールAを単一のジオール原料とする)とは、同一の分子量であれば、そのガラス転移温度が2℃だけ界面重合法PC樹脂の方が高くなるので、ガラス転移温度(Tg)及び粘度平均分子量(Mv)を測定することにより、判別することが可能となる。
【0017】
本発明の光学ディスク用原料の製造方法においては、さらに、工程(c)として、工程(b)にて判別された界面重合法で製造されたポリカーボネート樹脂を基板とする廃棄及び/又は回収光ディスクより不純物を除去することが必要である。
【0018】
<工程(c)>
この工程(c)は、工程(b)にて判別された界面重合法で製造されたポリカーボネート樹脂を基板とする廃棄及び/又は回収光ディスクを化学的処理することにより不純物を除去する工程である。先ず、廃棄及び/又は回収ディスクには、そのポリカーボネート基板表面に反射層、保護層、記録層、印刷層等の異質層が設けられており、これらの異質層は、光学用ディスク原料として再生利用する際に不純物となるので除去する必要がある。これらの不純物を除去する方法としては、物理的処理により不純物となる異質層を除去する方法や処理剤を使用する化学的処理法があるが、本発明では作業効率の観点から処理剤を使用する化学的処理法を用いる。具体的には特許第3270037号公報に記載されているアルカリ処理などによる化学的処理法を用いることが好ましい。
【0019】
本発明においては、アルカリ処理を行うに当たって、廃棄及び/又は回収ディスクを粉砕し、粉砕サイズを0.05〜3cm程度、好ましくは0.1〜2cmにしておくことが不純物となる異質層を除去する上で好ましい。
粉砕時の付着異物を除去するために、粉砕された記録媒体ディスクを界面活性剤中で洗浄することが好ましい。界面活性剤にはノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤及びカチオン性界面活性剤があるが、本発明においては、ノニオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤が好ましい。ノニオン性界面活性剤としては、ポリエチレングリコールエーテル系界面活性剤が好ましく、特に、高級アルコールのポリエチレングリコールエーテル、アルキルフェノールのポリエチレングリコールエーテルなどが好ましい。また、アニオン性界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどが挙げられ、ノニオン性界面活性剤と併用するのが好ましい。界面活性剤の濃度は、0.001〜10質量%、好ましくは0.01〜1質量%である。
【0020】
上記アルカリ処理には、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム及び炭酸カリウムなどから選ばれるアルカリ化合物の水溶液(以下、アルカリ水溶液と称すことがある。)を用いる。アルカリ水溶液のpHは10〜14が好ましい。アルカリ水溶液の濃度は0.1〜20質量%が好ましく、0.1〜10質量%がより好ましい。アルカリ水溶液による洗浄の温度は、105〜130℃が好ましい。尚、処理時間は処理温度によって異なるが、通常、15〜60分が好ましい。
このようなアルカリ処理の後、界面活性剤と過酸化水素の混合水溶液中で、基板を洗浄することが好ましい。界面活性剤による基板の洗浄は、アルカリ水溶液中に除去されて基板に再付着した色素や微小異物を除去するのに有用である。界面活性剤としては、上記と同様のものを使用することができ、濃度も上記と同様とすることができる。
【0021】
過酸化物としては、−O−O−結合を有する酸化物や多価原子価をもつ金属の過酸化物が挙げられ、過酸化水素及びその塩、オゾン、過硫酸及びその塩などが好ましい。過酸化物水溶液の濃度は、0.1〜10質量%が好ましい。また、過酸化物水溶液の温度は65〜95℃が好ましく、80〜90℃がより好ましい。処理時間については処理温度によって異なるが、通常、15〜60分が好ましい。過酸化物は残留金属や染料の完全除去に有用である。金属類の残存量は、アルカリ金属、アルカリ土類系金属、鉄系金属については1ppm以下、それら以外の重金属については0.1ppm以下であることが必要である。例えば、上記化学処理を行うことによって再生されたPC樹脂中、化学処理に用いる溶媒や容器、また、回収光ディスクのPC樹脂中に元来含まれていた可能性の高いアルカリ金属、アルカリ土類系金属、鉄系金属については1ppm以下、それら以外のAu、Ag、Al等の光ディスク反射層に使われる金属類、及び光磁気ディスクや相変化光ディスク記録層に由来するTe、Sb等の重金属類、CD-RやDVD-Rの様な追記型光ディスクに使われる有機色素に由来するCu等の金属類の残存量を、0.1ppm以下とすることが出来る。
特にアルカリ金属、アルカリ土類系金属、鉄系金属の残存量が1ppmを超えると例えば、光ディスクの保存環境によってPC樹脂の加水分解が発生し、記録データが読み出せなくなると言った長期信頼性が低下する場合がある。
尚、過酸化水素の0.1〜10質量%の液は、そのpHが2〜5(弱酸性)であり、最終洗浄液として好ましく使用できる。
【0022】
このようにして得られた光学用ディスク再生原料は、一般の光学ディスク用原料と同様に使用することが出来る。
【0023】
本発明の光学ディスク用原料の製造方法であるこの再生システムは、基板材料となるPC樹脂が、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)を原料として重合されたもの以外にも、ビスフェノールA以外のモノマーを原料として重合されたもの、或いはビスフェノールAを原料として重合されたものと、ビスフェノールA以外のモノマーを原料として重合されたものが一定割合で混合されたもの、或いはビスフェノールAとそれ以外のモノマーを原料とし共重合されたものである場合についても、有効な分別及び、品質保証手段となる。
【0024】
また、本発明は、次世代光ディスク規格の一つであるBlu−Ray Disc用基板材料の行方にも大きく影響する重要なものである。現状、Blu−Ray Discの対抗馬であるHD-DVDは従来のPC樹脂を使用出来ると言われているが、Blu−Ray Discは吸水性の観点から、共重合PC樹脂かポリオレフィン系樹脂がより好適とも言われている。しかし、PC樹脂で構築された従来のCD、DVDが、Blu−Ray Discの登場を機に、一気に無くなるとは考え難い。
本発明は、同じPC樹脂とは言え、化学的に微妙に構造の異なるPC樹脂の構造に応じて、分別・回収する上で不可欠な技術である。
【実施例】
【0025】
以下に実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
<光学ディスク用原料の製造>
(1)前処理工程
光ディスク製造所から回収された製品規格外となったポリカーボネート基板に異質層としてアルミニゥムが積層されている約100Kgの円盤状の光ディスクをコンテナにより搬入した。この光ディスクの中からポリスチレンのダミー基板を除去するために、偏光板を用いて基板の複屈折を観察することにより、虹色に見えるポリスチレンのダミー基板を265枚除去した
(2)工程(a)
次いで、一枚の円盤状の光ディスクの基板部分を1HNMRによる分析を行うことにより、この基板を構成しているポリカーボネート主鎖の二価フェノールモノマー組成及び水酸基末端分率を特定した。
なお、測定条件は、PC樹脂試料45mgを5mm径のNMR試料管に採取し、重クロロホルム0.4mlを加えて均一に溶解し、500MHzのNMR装置(日本電子(株)製JNM−LAMBDA500)を用いて、1HNMRスペクトルを測定した。
[水酸基末端分率測定方法]
テトラメチルシランのピークトップを0ppmに設定し、1HNMRスペクトルで、6.68ppmに観られるビスフェノールA(BPA)の0H基からオルト位の芳香環プロトンのピーク強度(a)、1.32ppmに観られるp−ter−ブチルフェノキシ基(PTBP)のメチルプロトン由来のピーク強度(b)を用いて、0H末端分率を次式で計算する。
OH末端分率(mol%)=(a/2)/(a/2+b/9)×100
[モノマー組成測定法]
テトラメチルシランのピークトップを0ppmに設定し、1HNMRスペクトルで7.21ppmに観られるBPAとPTBP基の芳香環プロトンのピーク強度(c)、6.68ppmに観られるBPAの0H基からオルト位の芳香環プロトンのピーク強度(a)及び1.32ppmに観られるPTBP基のメチルプロトン由来のピーク強度(b)を用いて、モノマー組成を次式で計算する。
BPA組成(mol%)=((a+c)/8)/((a+c)/8+b/9)X100
PTBP組成(mol%)=(b/9)/((a+c)/8+b/9)X100
ここで回収した光ディスクのOH末端分率は5.0mol%,BPA組成比が94.5mpl%,PTBP組成比が5.5mol%であった。この結果から、回収ディスクはビスフェノールAを二価フェノールとするポリカーボネートであることを特定した。
【0026】
(3)工程(b)
次にビスフェノールAを二価フェノールとするポリカーボネートを基板とする光ディスクについて、ガラス転移温度(Tg)及び粘度平均分子量Mvを測定した。
ガラス転移温度(Tg)は、DSC(示差相差熱分析機)によりASTM D1525に準拠して分析し、ガラス転移温度(Tg)が146℃であることを特定した。また、その粘度平均分子量(Mv)は粘度平均分子量(Mv)は、ウベローデ型粘度計を用いて、20℃における塩化メチレン溶液の粘度を測定し、これより極限粘度[η]を求め、次式にて算出し15200であることがわかった。
[η]=1.23×10-5Mv0.83
この結果から、このポリカーボネートは、界面重合法で製造されたものであることを特定した。
【0027】
(4)工程(c)
次いで、回収された円盤状の光ディスクを、サイズ0.1〜2cmに粉砕した後、界面活性剤として、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル(エマルゲンA−500,花王(株)製)1質量%及びアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム1質量%を含む水溶液中において、90℃で60分間攪拌処理した。続いて、3質量%の水酸化ナトリウム水溶液を用いて120℃で30分間処理した。さらに、5質量%の水酸化ナトリウム水溶液を用いて120℃で30分間処理した。続いて、上記と同様の界面活性剤の同量と過酸化水素0.58質量%相当量を混合した混合溶液中において、90℃で30分間処理した。水洗により十分洗浄した後、80℃で5時間乾燥して、回収ポリカーボネート樹脂(回収PC1)を得た。回収PC1のMvは15200であった。
【0028】
[金属類の残存量の測定]
この回収PC1を所定量Pt坩堝に計り採り、電気炉で炭化処理後温度を上げて完全に灰化させる。その後、酸溶媒に溶解し金属類(Au,Ag,Al,Te,Sb,Cu,Co)の残存量をICP(Inductively Coupld Plasma)分析(装置:JARRELL ASH社製IRIS Advantage)により測定したところ、Na、Feは0.2ppm、Al、Te、Sb、Cuは0.1ppm未満であった。
【0029】
実施例1(CD−R1)
この回収PC1に台化出光製の界面重合法によるポリカーボネート樹脂、粘度平均分子量15200のMD1500を50質量%添加し、粘度平均分子量(Mv)が15000の回収PC1’を得た。この回収PC1’を用いてMD1500と同条件(成形機:住友製SD40ER、シリンダー温度:350℃、射出圧力:167MPa、射出時間:2.5秒、冷却時間:2.2秒)でCD−ROMを成形したところ、問題なく作成できCD−ROM1を得た。
[CD−ROMの電気特性の評価及び耐久性の評価]
台化出光製の界面重合法によるポリカーボネート樹脂、粘度平均分子量15200のMD1500 100質量%すなわちバージンペレットのみと、CD−ROM1に使用した同一スタンパーで、CD−ROM0を成形した。これらに、Al膜、UV保護膜をコーティングし電気特性を評価した。
ピットのないミラー部分とI11ピットの信号強度比であるI11Rmin(=I11/ITop Reflectiveの最小値)では、CD−ROM1は、CD−ROM0と同様に規格値の0.6以上をクリアしており、両方とも0.69であった。
また、BLER(ブロックエラーレート)では無作為に抽出したCD−ROM1の5枚の平均が6、MAXが18であったのに対し、CD−ROM0 5枚の平均が2、MAXが8であり、いずれもRed Bookに規定されている220以下を満足した。
これら無作為に抽出した同CD−ROM1、CD−ROM0を各5枚ずつ、耐久性評価として80℃、湿度85%の環境下で168hr保持した後に電気特性を測定したところ、I11RminはCD−ROM1は0.61、CD−ROM0は0.63、BLERの平均はCD−ROM1は15、MAXが29、CD−ROM0は平均が8、MAXが15となり全て規格値をクリアしていた。
【0030】
比較例1(CD−R2)
Tgが144℃、粘度平均分子量(MV)=15200である回収PC2(界面重合法PC樹脂とエステル交換法PC樹脂の混合物)に台化出光製のMD1500を50質量%添加し、粘度平均分子量(Mv)が15100の回収PC2’を用いてMD1500と同条件でCD−ROMを成形(CD−ROM2)したところソリが大きく、CD−ROM1と同じソリレベルにするには冷却時間を1.2倍にしなければならなかった。
【0031】
比較例2(CD−R3)
工程(b)で回収された円盤状の光ディスクを、サイズ0.1〜2cmに粉砕した後、界面活性剤として、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル(エマルゲンA−500,花王(株)製)1質量%及びアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム1質量%を含む水溶液中において、90℃で60分間攪拌処理した。続いて、3質量%の水酸化ナトリウム水溶液を用いて100℃で20分間処理した。さらに、5質量%の水酸化ナトリウム水溶液を用いて100℃で20分間処理した。続いて、上記と同様の界面活性剤の同量と過酸化水素0.58質量%相当量を混合した混合溶液中において、90℃で20分間処理した。水洗により十分洗浄した後、80℃で5時間乾燥して、回収ポリカーボネート樹脂(回収PC3)を得た。回収PC3のMvは15,200であった。
この回収PC3の残留金属をICPで測定したところ、Na、Feが1ppmを超えた値(2.1ppm)、Al,Te,Sb,Cuが、0.1ppmを超えた値(0.3ppm)が計測された。
【0032】
この回収PC3に台化出光製の界面重合法で得られたMD1500[粘度平均分子量(Mv)15200]を50質量%添加し、粘度平均分子量が(Mv)15200の回収PC3’を得た。この回収PC3’を用いてMD1500と同条件でCD−ROMを成形(CD−ROM3)したところ、問題なく作成できた。
CD−R3についての実施例1と同様に電気特性の評価及び耐久性の評価をおこなった。初期のI11Rminは0.67(規格値:0.6以上)、BLERの平均が8、MAXが22(規格値:220以下)であったが、80℃、湿度85%の環境下で168hr保持した後のI11Rminは0.36、BLERの平均が41、MAXが236と初期に比べて激しく悪化して規格値外となり、耐久性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明によれば、原料や、重合方法の異なるポリカーボネート樹脂を基板材料として製造された、使用済みの光ディスク及び/又は製造工程で不良品となった廃棄光ディスクを、本発明に係わる分別方法及び化学処理によって得られたビスフェノールAを使用する界面重合法で製造されたPC樹脂を再生処理することによって、再び光ディスク基板用樹脂として利用出来る高品質の光学ディスク用原料を製造する方法、その方法によって製造された光学ディスク用原料を及び光学ディスクを提供することができる。
また、本発明の光学ディスクは、その製造工程や該光学ディスクの電気特性及び耐久性についても新品のポリカーボネートを用いたものと遜色はなく、本発明に係わる再生システムは、化学的に微妙に構造の異なるPC樹脂の構造に応じて、分別・回収することのできる応用範囲の広い技術である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂を基板材料とする廃棄及び/又は回収光ディスクからポリカーボネート樹脂を光学用ディスク原料として再生する光学ディスク用原料の製造方法において、
(a)廃棄及び/又は回収光ディスクからのポリカーボネート樹脂基板について、そのモノマー組成と、OH末端分率を測定することにより、該基板の材料樹脂が、原料二価フェノールとして2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)を単独原料として重合されたものであるか否かを判別する工程、
(b)工程(a)にて判別されたビスフェノールAを単独原料として重合されたものであるポリカーボネート樹脂を基板とする廃棄及び/又は回収光ディスクについて、そのガラス転移温度(Tg)及び粘度平均分子量(Mv)を測定することにより、界面重合法で製造されたものであるか、若しくはエステル交換法で製造されたものであるかを判別する工程、
(c)工程(b)にて判別された界面重合法で製造されたポリカーボネート樹脂を基板とする廃棄及び/又は回収光ディスクを化学的処理することにより、金属類の残存量が、アルカリ金属、アルカリ土類系金属、鉄系金属については1ppm以下、それら以外の重金属類については0.1ppm以下になるように不純物を除去する工程を含むことを特徴とする光学ディスク用原料の製造方法。
【請求項2】
廃棄及び/又は回収光ディスクからのポリカーボネート樹脂基板が粉砕品であることを特徴とする請求項1記載の光学ディスク用原料の製造方法。
【請求項3】
廃棄及び/又は回収光ディスクからのポリカーボネート樹脂基板が非粉砕品であることを特徴とする請求項1記載の光学ディスク用原料の製造方法。
【請求項4】
工程(a)の前処理工程として、廃棄及び/又は回収光ディスクを偏光板上を通すことにより、含まれるポリスチレン製ダミー基板を除去する工程を含むことを特徴とする請求項3記載の光学ディスク用原料の製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の光学ディスク用原料の製造方法において、ポリスチレン製ダミー基板を除去する工程の後に、ディスクの外観情報から(1)界面重合法で製造されたポリカーボネート樹脂であるもの、(2)界面重合法で製造されていないポリカーボネート樹脂であるもの、(3)界面重合法で製造されたポリカーボネート樹脂であることが特定できないものに判別し、前記(3)の廃棄及び/又は回収光ディスクからのポリカーボネート樹脂基板を、さらに前記工程(a)にて判別することを特徴とする請求項4記載の光学ディスク用原料の製造方法。
【請求項6】
工程(c)の化学的処理を行う前に廃棄及び/又は回収光ディスクからのポリカーボネート樹脂基板を粉砕することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の光学ディスク用原料の製造方法。
【請求項7】
工程(c)の化学的処理により取り除かれる不純物が、光学ディスク基板表面に設けられた反射層、保護層、記録層及び印刷層であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の光学ディスク用原料の製造方法。
【請求項8】
工程(c)の化学処理が、アルカリ処理により行われることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の光学ディスク用原料の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法によって得られたことを特徴とする光学ディスク用原料。
【請求項10】
請求項9に記載の光学ディスク用材料を用いたことを特徴とする光学ディスク。

【公開番号】特開2007−276349(P2007−276349A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−107886(P2006−107886)
【出願日】平成18年4月10日(2006.4.10)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】