説明

光学フィルム、その製造方法、偏光板及び液晶表示装置

【課題】 セルロースエステルを主原料とする加熱溶融流延法により、熱分解による着色が大幅に抑制され、高い透明性を有する光学フィルムとその製造方法、該光学フィルムを用いた偏光板及び液晶表示装置を提供することにある。
【解決手段】 少なくともセルロースエステルと可塑剤を含有し、加熱溶融流延法により製造する光学フィルムの製造方法において、セルロースエステル原料を水分除去工程で処理した後、加熱溶融流延時の温度より低い温度で、該セルロースエステル原料への外気中の水分の再吸収抑制手段を設けた、少なくとも該セルロースエステルと該可塑剤を混合して造粒またはペレット化する事前混合粒子化工程で処理し、造粒またはペレット化した混合粒子を溶融押し出し流延製膜することを特徴とする光学フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルム、その製造方法、偏光板及び液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ(LCD)は低電圧、低消費電力でIC回路への直結が可能であり、そして特に薄型化が可能であることから、ワードプロセッサやパーソナルコンピュータ、テレビ、モニター、携帯情報端末等の表示装置して広く採用されている。このLCDの基本的な構成は、例えば液晶セルの両側に偏光板を設けたものである。
【0003】
ところで偏光板は一定方向の偏波面の光だけを通すものである。従って、LCDは電界による液晶の配向の変化を可視化させる重要な役割を担っている。即ち、偏光板の性能によってLCDの性能が大きく左右される。偏光板は、一般に、ヨウ素や染料を吸着配向させたポリビニルアルコールフィルム等からなる偏光フィルムの表裏両側を、透明な樹脂層で積層した構成をもっている。この透明な樹脂層として、トリアセチルセルロースのようなセルロースエステルフィルムがその複屈折性が小さいことから保護フィルムとして適しており、よく使われている。
【0004】
セルロースエステルを主原料として加熱溶融し、目的とする形状に成型する光学フィルムの製造方法が特開2000−352620号に開示されている。その明細書中には、原料のセルロースエステルをペレット状に成型し、熱風乾燥または真空乾燥した後、溶融押し出し、Tダイよりシート状に押し出しすることが好ましいと記載されている。
【0005】
また、特許文献1、2には、セルロースエステルを主原料として、可塑剤を添加して加熱溶融する際に、溶融混練では通常組成物が溶融する高温下でのエクストルーダーを用いる混練が行われるが、セルロースエステルは軟化点と分解の温度が非常に近いため、溶融混練時にセルロースの主鎖の熱分解により着色が生じるという問題点がある。また、混練温度は200℃前後と高温を要するため、低沸点可塑剤との混練に用いることができない。また、粘性が高いセルロースエステルと可塑剤の混練では均一に混合するまでに長時間を要する。このため、セルロースエステルのエステル化時に可塑剤を共存させ、可塑剤を含有するセルロースエステルを使用することで、混練温度の200℃前後と高温の状況を短時間とすることにより、溶融混練時にセルロースの主鎖の熱分解により着色が生じるという問題点を低減することを提案している。
【0006】
光学フィルムは高い透明性が要求されるが、これらの方法では着色防止効果が不十分であった。
【0007】
また、高温高湿下で寸法変動が小さいセルロースエステルフィルムが求められているが、セルロースエステルは吸湿性が強く、その改善は困難であった。
【特許文献1】特開2004−35814号公報
【特許文献2】特開2004−91702号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、セルロースエステルを主原料とする加熱溶融流延法により、熱分解による着色が大幅に抑制され、高い透明性を有する光学フィルムとその製造方法、該光学フィルムを用いた偏光板及び液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記課題は、以下の構成により達成される。
【0010】
(請求項1)
少なくともセルロースエステルと可塑剤を含有し、加熱溶融流延法により製造する光学フィルムの製造方法において、セルロースエステル原料を水分除去工程で処理した後、加熱溶融流延時の温度より低い温度で、該セルロースエステル原料への外気中の水分の再吸収抑制手段を設けた、少なくとも該セルロースエステルと該可塑剤を混合して造粒またはペレット化する事前混合粒子化工程で処理し、造粒またはペレット化した混合粒子を溶融押し出し流延製膜することを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【0011】
(請求項2)
前記外気中の水分の再吸収抑制手段が、減圧する手段または乾燥窒素ガスを供給する手段であることを特徴とする請求項1に記載の光学フィルムの製造方法。
【0012】
(請求項3)
劣化防止剤、紫外線吸収剤、マット剤の少なくとも1種を、前記造粒またはペレット化する事前混合粒子化工程で添加することを特徴とする請求項1または2に記載の光学フィルムの製造方法。
【0013】
(請求項4)
前記造粒またはペレット化する事前混合粒子化工程で添加するセルロースエステル原料以外の材料の少なくとも1種について、事前に水分除去することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【0014】
(請求項5)
少なくともセルロースエステルと可塑剤を含有し、加熱溶融流延法により製造する光学フィルムの製造方法において、加熱溶融流延時の温度より低い温度で、少なくともセルロースエステルと可塑剤を混合して造粒またはペレット化する事前混合粒子化工程で処理し、造粒またはペレット化した混合粒子を溶融押し出し流延製膜するとき、事前混合粒子化工程以前に、減圧によりセルロースエステルより水分除去する密閉容器と減圧手段を設け、さらに該密閉容器に乾燥窒素ガスを供給する手段を設けて、該密閉容器内でセルロースエステルが該乾燥窒素ガスと接して、該密閉容器から該混合粒子を溶融押し出し流延製膜する工程までの経路で該セルロースエステルへの外気中の水分の再吸収抑制手段を設けることを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【0015】
(請求項6)
前記減圧によりセルロースエステルより水分除去する工程は、該セルロースエステルを可塑剤と混合する前のセルロースエステル単体に対して行い、密閉容器にはセルロースエステルを加熱する加熱手段を設けることを特徴とする請求項5に記載の光学フィルムの製造方法。
【0016】
(請求項7)
密閉容器内にセルロースエステルが存在する状態で、減圧下で該密閉容器内に供給する気体は乾燥窒素ガスであることを特徴とする請求項5または6に記載の光学フィルムの製造方法。
【0017】
(請求項8)
劣化防止剤、紫外線吸収剤、マット剤の少なくとも1種を、前記造粒またはペレット化する事前混合粒子化工程で添加することを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【0018】
(請求項9)
前記造粒またはペレット化する事前混合粒子化工程で添加するセルロースエステル原料以外の材料の少なくとも1種について、事前に水分除去することを特徴とする請求項5〜8のいずれか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【0019】
(請求項10)
請求項1〜9のいずれか1項に記載の光学フィルムの製造方法で得られることを特徴とする光学フィルム。
【0020】
(請求項11)
請求項10に記載の光学フィルムを偏光板保護フィルムとして使用することを特徴とする偏光板。
【0021】
(請求項12)
請求項11に記載の偏光板を使用することを特徴とする液晶表示装置。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、セルロースエステルを主原料とする加熱溶融流延法により、熱分解による着色が大幅に抑制され、高い透明性を有する光学フィルムとその製造方法、該光学フィルムを用いた偏光板及び液晶表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
光学用フィルム等のセルロースエス樹脂成型物においては、特開2004−35814号、同2004−91702号明細書には、可塑剤は良好な可撓性を持たせるに必須であると記載されている。しかし、本発明者等の検討では、可塑剤は、熱溶融流延における温度を250℃前後から200℃前後の低温溶融として熱分解を抑制する効果と、特に光学用フィルムでは、可塑剤を含有させることで低湿下と高温高湿下での寸法変動を小さくする効果に有効であることを確認した。そして、後者の性質をより深く検討した結果、セルロースエステル中の水分は、可塑剤を混合した状態では移動し難くなることを見出した。
【0024】
そして、熱溶融時の熱分解に対して、微量の水分の存在も悪影響し、セルロースエステルに可塑剤を混入した状態での水分除去を実施しても効果が小さく、混合する前段階または混合時に水分除去を行なうことで、熱溶融時の熱分解を大幅に抑制できることを見出したものである。
【0025】
また、セルロースエステルは吸湿性が強く、水分除去工程で水分を除去しても、外気に触れると短時間で吸湿してしまい、熱溶融時に水分を実質的に含まない状態を維持する方法の中でも、特定の方法が好ましいことを見出し本発明に至ったものである。
【0026】
そして、本発明の光学フィルムでは、高温高湿度を経ても寸法変動が小さいという優れた特徴があることも見出した。
【0027】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
〔加熱溶融流延法〕
本発明の光学フィルムは加熱溶融流延によって形成されたセルロースエステルフィルムであることを特徴とする。すなわち、溶液流延に用いる溶媒を用いずに、フィルム構成材料を加熱溶融し、この溶融物を用いて製造されたフィルムである。
【0029】
加熱溶融する成形法は、さらに詳細には、溶融押し出し成形法、プレス成形法、インフレーション法、射出成形法、ブロー成形法、延伸成形法等に分類できる。本発明では、これらの中で機械的強度及び表面精度等に優れる光学フィルムを得ることができる溶融押し出し法(溶融押し出し流延製膜法)を用いる。
【0030】
ここでフィルム構成材料が加熱されて、その流動性を発現させた後ドラム上またはエンドレスベルトに押し出し製膜することが、溶融流延製膜法として本発明の加熱溶融流延法に含まれる。
【0031】
加熱溶融流延法による製膜は、溶液流延法と著しく異なり、流延する材料に揮発成分が存在すると、フィルムや偏光板保護フィルムとしての機能を活用するためのフィルムの平面性及び透明性確保の点から好ましくない。これは製膜されたフィルムに揮発成分が混入すると透明性が低下すること、及びダイ−スリットから押し出しされて製膜されたフィルムを得る場合、フィルム表面に筋が入る要因となり平面性劣化を誘発することがある。従って、フィルム構成材料を製膜加工する場合、加熱溶融時に揮発成分の発生を回避する観点から、製膜するための溶融温度よりも低い領域に揮発する成分が存在することは好ましくない。
【0032】
前記揮発成分とは、フィルム構成材料中のいずれかが吸湿した水分、あるいは混入している酸素、窒素等のガス、または材料の購入前または合成時に混入している溶媒が挙げられ、加熱による蒸発、昇華あるいは分解による揮発が挙げられる。ここでいう溶媒とは溶液流延として樹脂を溶液として調製するための溶媒と異なり、フィルム構成材料中に微量に含まれるものである。従ってフィルム構成材料を選択することは、揮発成分の発生を回避する上で重要である。
【0033】
本発明の加熱溶融流延に用いるフィルム構成材料は、前記水分や前記溶媒等に代表される揮発成分を、製膜する前に、または加熱時に除去することが好ましい。特に水分の除去、水分の再吸収防止が重要である。
【0034】
本発明の好ましい光学フィルムの製造方法の一つは、セルロースエステル原料を水分除去工程で処理した後、加熱溶融流延時の温度より低い温度で、該セルロースエステル原料への外気中の水分の再吸収抑制手段を設けた、少なくとも該セルロースエステルと該可塑剤を混合して造粒またはペレット化する事前混合粒子化工程で処理し、造粒またはペレット化した混合粒子を溶融押し出し流延製膜する製造方法である。
【0035】
前記外気中の水分の再吸収抑制手段は、減圧する手段または乾燥窒素ガスを供給する手段であることが好ましい。
【0036】
造粒またはペレット化する事前混合粒子化工程で添加するセルロースエステル原料以外の材料の少なくとも1種について、事前に水分除去することが好ましい。
【0037】
好ましい光学フィルムの製造方法の他の一つは、加熱溶融流延時の温度より低い温度で、少なくともセルロースエステルと可塑剤を混合して造粒またはペレット化する事前混合粒子化工程で処理し、造粒またはペレット化した混合粒子を溶融押し出し流延製膜するとき、事前混合粒子化工程以前に、減圧によりセルロースエステルより水分除去する密閉容器と減圧手段を設け、さらに該密閉容器に乾燥窒素ガスを供給する手段を設けて、該密閉容器内でセルロースエステルが該乾燥窒素ガスと接して、該密閉容器から該混合粒子を溶融押し出し流延製膜する工程までの経路で該セルロースエステルへの外気中の水分の再吸収抑制手段を設ける製造方法である。
【0038】
前記減圧によりセルロースエステルより水分除去する工程は、該セルロースエステルを可塑剤と混合する前のセルロースエステル単体に対して行い、密閉容器にはセルロースエステルを加熱する加熱手段を設けることが好ましい。
【0039】
密閉容器内にセルロースエステルが存在する状態で、減圧下で該密閉容器内に供給する気体は乾燥窒素ガスであることが好ましい。
【0040】
前記造粒またはペレット化する事前混合粒子化工程で添加するセルロースエステル原料以外の材料の少なくとも1種について、事前に水分除去することが好ましい。
【0041】
加熱溶融流延時の温度より低い温度としては、50〜200℃が好ましく、80〜170℃がより好ましく、100〜150℃がさらに好ましい。
【0042】
セルロースエステル原料の水分除去工程と外気中の水分の再吸収を抑制する手段としては、加熱(好ましくは200℃以下、より好ましくは50〜150℃)手段、減圧(好ましくは0.5気圧以下、より好ましくは0.01気圧以下)手段、減圧加熱手段、乾燥ガス(空気、窒素、不活性ガス)接触手段、前記手段の組合せが挙げられる。
【0043】
セルロースエステル原料の水分除去工程では、1/100気圧以下の減圧と加熱の併用が好ましく、0.5気圧以下の減圧と加熱と乾燥ガス供給がより好ましく、最も好ましくは減圧加熱手段+乾燥窒素ガス供給である。
【0044】
外気中の水分の再吸収を抑制する手段としては、密閉構造により、上記の水分除去工程の減圧状態、加熱状態、乾燥ガス雰囲気が維持されるようにすることであり、最も好ましくは、セルロースエステルと可塑剤を混合して造粒またはペレット化する事前混合粒子化工程が水分除去する手段を備え、セルロースエステルのみを初期に投入し、セルロースエステルからの水分除去が完了した後に可塑剤、その他の添加剤を投入することである。
【0045】
セルロースエステル中の水分量は、好ましくは、0.1質量%以下であり、より好ましくは0.01質量%以下、最も好ましくは未検出である。セルロースエステルの水分は、ASTM−D817−96により測定することができる。
【0046】
これらの乾燥方法を行うとき、フィルム構成材料が分解しない温度領域で行うことがフィルムの品質上好ましい。好ましい乾燥温度は80℃以上、かつ乾燥する材料のTg以下であることが好ましい。材料同士の融着を回避する観点を含めると、乾燥温度は、より好ましくは100〜(Tg−5)℃、さらに好ましくは110〜(Tg−20)℃である。好ましい乾燥時間は0.5〜24時間、より好ましくは1〜18時間、さらに好ましくは1.5〜12時間である。これらの範囲よりも低いと、水分、揮発成分の除去率が低いか、または乾燥に時間がかかり過ぎることがあり、また乾燥する材料にTgが存在するときには、Tgよりも高い乾燥温度に加熱すると、材料が融着して取り扱いが困難になることがある。乾燥は1気圧以下で行うことが好ましく、特に真空〜1/2気圧に減圧しながら行うことが好ましい。乾燥は、樹脂等の材料は適度に撹拌しながら行うことが好ましく、乾燥容器内で下部より乾燥空気もしくは乾燥窒素を送り込みながら乾燥させる流動床方式が、より短時間で必要な乾燥を行うことができるため好ましい。
【0047】
乾燥工程は2段階以上に分離してもよく、例えば予備乾燥工程による材料の保管と、製膜する直前〜1週間前の間に行う直前乾燥を行った素材を用いて製膜してもよい。
【0048】
フィルム構成材料は、材料の変質や吸湿性を回避する目的で、造粒またはペレット化して保存し、これを用いて溶融物を作製することができる。造粒またはペレット化は、セルロースエステルと添加剤が密着するため、混合性または相溶性が向上でき、フィルムの光学的な均一性を得ることにも寄与する。また、空気(特に酸素と水)との接触面積が小さくなるためセルロースの劣化にも有利である。
【0049】
〈造粒〉
本発明でいう造粒とは、粉体のまま圧力をかけてスクリーンから押出してカットする方法、融点以下の温度をかけて二軸ローター等で練りスクリーンから押出してカットする方法等がある。
【0050】
造粒体の形状は、円筒形、球形、直方体、不定形等、特に限定するものではない。造粒機の造粒メカニズムによって異なるが、造粒したものの粒径を測定するとき、1mmより小さいもの及び10mmより大きいものの合計が10質量%より少ないことが好ましい。押出し機のスクリュー径等に応じてサイズを決定する。
【0051】
造粒する際は、ある程度の圧力をかけて造粒する。さらに、造粒温度は、セルロースエステルが劣化しない温度なら特に限定はない。好ましくはセルロースエステルのガラス転移温度(Tg)以下、より好ましくはTgマイナス50℃以下である。加圧成型時に温度上昇する恐れがあるため、冷却しながらプレスすることが好ましい。セルロースエステルの種類により劣化の著しい場合、0℃以下でプレスすることが好ましい。
【0052】
造粒する際に後述する可塑剤、酸化防止剤、熱安定剤、すべり剤、等の添加剤を混合して造粒することができる。融点が造粒温度より低い添加剤を添加すると、粉体同士を練って固めるような状態になり、大きな圧力をかけずに容易に造粒することができる。
【0053】
造粒装置としては、市販のものを用いることができ、例えば、不二パウダル(株)製ディスクペレッターF−5〜440、日本製鋼所(株)大型造粒機CMP,CIM等各シリーズ、千代田技研工業(株)製プレスペレッターFMP−180N〜800N、深江パウテックス(株)製円筒造粒機FG−250〜600等が挙げられる。
【0054】
(ペレット化)
本発明でペレット化とは、セルロースエステルと添加剤とをガラス転移温度〜融点+30℃の温度にて溶融し、単軸または2軸押出し機でダイから棒状のペレットを得た後、所望の大きさに裁断する方法である。この場合、単軸または2軸押出し機にてペレット化する時の機械的ストレスによって、セルロースエステルの劣化がかなり促進される。光学フィルムを得るまでに、さらに加熱溶融押出し工程で加熱されるので、2度の熱履歴をセルロースエステル樹脂に与え、セルロースエステル樹脂の劣化が促進される。セルロースエステル樹脂の劣化が促進されると、主に分子量が低下し、機械的強度が低下する。これは、製品品質のみならず、生産時に発生する破砕品の原材料への再利用にも問題が生じる。セルロースエステルは熱による劣化が著しい材料のため、劣化しない温度にて成型することができる前記造粒の方が好ましい。
【0055】
〔セルロースエステル〕
本発明に用いられるセルロースエステルは、セルロ−スの2位、3位、6位の水酸基と脂肪族カルボン酸もしくは芳香族カルボン酸がエステル結合したセルロースエステルであることが好ましい。
【0056】
セルロースの水酸基部分の水素原子が脂肪族アシル基との脂肪酸エステルであるとき、脂肪族アシル基は炭素原子数が2〜20で具体的にはアセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、オクタノイル、ラウロイル、ステアロイル等が挙げられる。
【0057】
本発明において前記脂肪族アシル基とはさらに置換基を有するものも包含する意味であり、置換基としては上述の芳香族アシル基において、芳香族環がベンゼン環であるとき、ベンゼン環の置換基として例示したものが挙げられる。
【0058】
また、上記セルロースエステルのエステル化された置換基が芳香環であるとき、芳香族環に置換する置換基の数は0または1〜5個であり、好ましくは1〜3個で、特に好ましいのは1または2個である。さらに、芳香族環に置換する置換基の数が2個以上の時、互いに同じでも異なっていてもよいが、また、互いに連結して縮合多環化合物(例えばナフタレン、インデン、インダン、フェナントレン、キノリン、イソキノリン、クロメン、クロマン、フタラジン、アクリジン、インドール、インドリン等)を形成してもよい。
【0059】
芳香族アシル基において、芳香族環がベンゼン環であるとき、ベンゼン環の置換基の例としてハロゲン原子、シアノ、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アシル基、カルボンアミド基、スルホンアミド基、ウレイド基、アラルキル基、ニトロ、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、カルバモイル基、スルファモイル基、アシルオキシ基、アルケニル基、アルキニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルオキシスルホニル基、アリールオキシスルホニル基、アルキルスルホニルオキシ基及びアリールオキシスルホニル基、−S−R、−NH−CO−OR、−PH−R、−P(−R)2、−PH−O−R、−P(−R)(−O−R)、−P(−O−R)2、−PH(=O)−R−P(=O)(−R)2、−PH(=O)−O−R、−P(=O)(−R)(−O−R)、−P(=O)(−O−R)2、−O−PH(=O)−R、−O−P(=O)(−R)2−O−PH(=O)−O−R、−O−P(=O)(−R)(−O−R)、−O−P(=O)(−O−R)2、−NH−PH(=O)−R、−NH−P(=O)(−R)(−O−R)、−NH−P(=O)(−O−R)2、−SiH2−R、−SiH(−R)2、−Si(−R)3、−O−SiH2−R、−O−SiH(−R)2及び−O−Si(−R)3が含まれる。上記Rは脂肪族基、芳香族基またはヘテロ環基である。置換基の数は、1〜5個であることが好ましく、1〜4個であることがより好ましく、1〜3個であることがさらに好ましく、1個または2個であることが最も好ましい。置換基としては、ハロゲン原子、シアノ、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アシル基、カルボンアミド基、スルホンアミド基及びウレイド基が好ましく、ハロゲン原子、シアノ、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基及びカルボンアミド基がより好ましく、ハロゲン原子、シアノ、アルキル基、アルコキシ基及びアリールオキシ基がさらに好ましく、ハロゲン原子、アルキル基及びアルコキシ基が最も好ましい。
【0060】
上記ハロゲン原子には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が含まれる。上記アルキル基は、環状構造あるいは分岐を有していてもよい。アルキル基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがより好ましく、1〜6であることがさらに好ましく、1〜4であることが最も好ましい。アルキル基の例には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル、ヘキシル、シクロヘキシル、オクチル及び2−エチルヘキシルが含まれる。上記アルコキシ基は、環状構造あるいは分岐を有していてもよい。アルコキシ基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがより好ましく、1〜6であることがさらに好ましく、1〜4であることが最も好ましい。アルコキシ基は、さらに別のアルコキシ基で置換されていてもよい。アルコキシ基の例には、メトキシ、エトキシ、2−メトキシエトキシ、2−メトキシ−2−エトキシエトキシ、ブチルオキシ、ヘキシルオキシ及びオクチルオキシが含まれる。
【0061】
上記アリール基の炭素原子数は、6〜20であることが好ましく、6〜12であることがさらに好ましい。アリール基の例には、フェニル及びナフチルが含まれる。上記アリールオキシ基の炭素原子数は、6〜20であることが好ましく、6〜12であることがさらに好ましい。アリールオキシ基の例には、フェノキシ及びナフトキシが含まれる。上記アシル基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。アシル基の例には、ホルミル、アセチル及びベンゾイルが含まれる。上記カルボンアミド基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。カルボンアミド基の例には、アセトアミド及びベンズアミドが含まれる。上記スルホンアミド基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。スルホンアミド基の例には、メタンスルホンアミド、ベンゼンスルホンアミド及びp−トルエンスルホンアミドが含まれる。上記ウレイド基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。ウレイド基の例には、(無置換)ウレイドが含まれる。
【0062】
上記アラルキル基の炭素原子数は、7〜20であることが好ましく、7〜12であることがさらに好ましい。アラルキル基の例には、ベンジル、フェネチル及びナフチルメチルが含まれる。上記アルコキシカルボニル基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、2〜12であることがさらに好ましい。アルコキシカルボニル基の例には、メトキシカルボニルが含まれる。上記アリールオキシカルボニル基の炭素原子数は、7〜20であることが好ましく、7〜12であることがさらに好ましい。アリールオキシカルボニル基の例には、フェノキシカルボニルが含まれる。上記アラルキルオキシカルボニル基の炭素原子数は、8〜20であることが好ましく、8〜12であることがさらに好ましい。アラルキルオキシカルボニル基の例には、ベンジルオキシカルボニルが含まれる。上記カルバモイル基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。カルバモイル基の例には、(無置換)カルバモイル及びN−メチルカルバモイルが含まれる。上記スルファモイル基の炭素原子数は、20以下であることが好ましく、12以下であることがさらに好ましい。スルファモイル基の例には、(無置換)スルファモイル及びN−メチルスルファモイルが含まれる。上記アシルオキシ基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、2〜12であることがさらに好ましい。アシルオキシ基の例には、アセトキシ及びベンゾイルオキシが含まれる。
【0063】
上記アルケニル基の炭素原子数は、2〜20であることが好ましく、2〜12であることがさらに好ましい。アルケニル基の例には、ビニル、アリル及びイソプロペニルが含まれる。上記アルキニル基の炭素原子数は、2〜20であることが好ましく、2〜12であることがさらに好ましい。アルキニル基の例には、チエニルが含まれる。上記アルキルスルホニル基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。上記アリールスルホニル基の炭素原子数は、6〜20であることが好ましく、6〜12であることがさらに好ましい。上記アルキルオキシスルホニル基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。上記アリールオキシスルホニル基の炭素原子数は、6〜20であることが好ましく、6〜12であることがさらに好ましい。上記アルキルスルホニルオキシ基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。上記アリールオキシスルホニル基の炭素原子数は、6〜20であることが好ましく、6〜12であることがさらに好ましい。
【0064】
本発明で用いられるセルロースエステルは、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、及びセルロースフタレートから選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0065】
これらの中で特に好ましいセルロースエステルは、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートが挙げられる。
【0066】
本発明に用いられるセルロースエステルのアシル基の総置換度は2.5〜2.9が好ましい。2.5未満では経時や環境条件によって位相差が変動しやすくなり、2.9を超えると熱延伸によって破断しやすくなる。好ましくは、アセチル基置換度が1.5〜2.5で、炭素数3以上のアシル基の置換度の合計が0.1〜1.2、さらに好ましくはアセチル基の置換度が1.5〜2.0、炭素数3以上のアシル基の置換度の合計が0.6〜0.9であることが好ましい。より好ましくは炭素数3〜22のアシル基が上記の置換度の範囲であり、特に好ましくは炭素数3〜22のアシル基として炭素数3のプロピオニル基もしくは炭素数4のブチリル基であり、これらが上記範囲であることである。
【0067】
このようなセルロースエステルは、例えば、セルロースの水酸基を無水酢酸、無水プロピオン酸及び/または無水酪酸を用いて常法によりアセチル基、プロピオニル基及び/またはブチル基を上記の範囲内に置換することで得られる。このようなセルロースエステルの合成方法は、特に限定はないが、例えば、特開平10−45804号あるいは特表平6−501040号に記載の方法を参考にして合成することができる。
【0068】
アセチル基、プロピオニル基、ブチル基等のアシル基の置換度は、ASTM−D817−96に準じて測定することができる。
【0069】
本発明で用いられるセルロースエステルの原料セルロースは、木材パルプでも綿花リンターでもよく、木材パルプは針葉樹でも広葉樹でもよいが、針葉樹の方がより好ましい。製膜の際の剥離性の点からは綿花リンターが好ましく用いられる。これらから作られたセルロースエステルは適宜混合して、あるいは単独で使用することができる。特に置換度が異なるセルロースエステルを混合して用いることが好ましい。
【0070】
セルロースエステルの極限粘度は、1.5〜1.75g/cm3が好ましく、さらに1.53〜1.63の範囲が好ましい。
【0071】
本発明で用いられるセルロースエステルはフィルムにしたときの輝点異物が少ないものであることが好ましい。輝点異物とは、2枚の偏光板を直交に配置し(クロスニコル)、この間にセルロースエステルフィルムを配置して、一方の光源側の偏光板の透過軸に前記偏光板保護フィルムの遅相軸が平行に位置するとき、他方の偏光板の外側の面に垂直な位置で観察したときの光が漏れてくることを意味する。このとき評価に用いる偏光板は輝点異物がない保護フィルムで構成されたものであることが望ましく、偏光子の保護にガラス板を使用したものが好ましく用いられる。輝点異物はセルロースエステルに含まれる水酸基のエステル化部分が未反応であることがその原因の1つと考えられ、輝点異物の少ないセルロースエステルを用いることと、加熱溶融したセルロースエステルを濾過することによって除去し、低減することができる。また、フィルム膜厚が薄くなるほど単位面積当たりの輝点異物数は少なくなり、フィルムに含まれるセルロースエステルの含有量が少なくなるほど輝点異物は少なくなる傾向がある。
【0072】
上記は、輝点の個数としては、面積250mm2当たり、偏光クロスニコル状態で認識される大きさが5〜50μmの輝点が、フィルムを観察時のとして300個以下、50μm以上の輝点が0個であることが好ましい。さらに好ましくは、5〜50μmの輝点が200個以下である。
【0073】
輝点が多いと、液晶ディスプレイの画像に重大な悪影響を及ぼす。本発明の光学フィルムは位相差フィルムとして機能することもあり、この輝点の存在は複屈折の乱れの要因であり、画像に及ぼす悪影響は大きなものとなる点で好ましくない。
【0074】
濾過によって輝点異物の除去し、連続して溶融流延の製膜工程が実施される場合、加熱溶融時のセルロースエステルは安定剤が存在することが樹脂の劣化防止のために好ましい。
【0075】
熱溶融による輝点異物の濾過工程を含む溶融流延法は、後述の可塑剤とセルロースエステルの組成物とした場合、可塑剤が添加しない系と比較して熱溶融温度を低下させる観点から輝点異物の除去効率の向上と熱分解の回避の観点から好ましい方法である。また、後述する他の添加剤として紫外線吸収剤や微粒子(マット剤)も適宜混合したものを同様に濾過することもできる。
【0076】
濾材としては、ガラス繊維、耐熱樹脂、炭素繊維等の従来公知のものが好ましく用いられるが、特にセラミックス、金属等が好ましく用いられる。絶対濾過精度としては50μm以下のものが好ましく用いられ、30μm以下のものがさらに好ましく、10μm以下のものがさらに好ましく、5μm以下のものがさらに好ましく用いられる。これらは適宜組み合わせて使用することもできる。濾材はサーフェースタイプでもデプスタイプでも用いることができるが、デプスタイプの方が比較的目詰まりしにくく好ましく用いられる。
【0077】
別の実施態様では、加熱してフィルム構成材料を溶融する前に、該構成材料の少なくともセルロースエステルにおいては、該材料の合成後期の過程や沈殿物を得る過程の少なくともいずれかにおいて、一度溶液状態として同様に濾過工程を経由して輝点異物を除去することもできる。
【0078】
前述の溶融樹脂を濾過する方法は、溶融物の粘度が高いため溶液での濾過の方が効率がよい。
【0079】
なお、一度セルロースエステルを溶媒で溶解する場合、セルロースエステル溶液に可塑剤、紫外線吸収剤、微粒子やその他の添加剤を含有させて均一なセルロースエステル溶液とし、これを濾過した後、溶媒を乾燥させて固形物を得ることが好ましい。これを用いてセルロースエステルを含有する溶融物を得ることができる。溶媒としては、メチレンクロライド、酢酸メチル、ジオキソラン等の溶液流延法で用いられる良溶媒を用いることができ、同時にメタノール、エタノール、ブタノール等の貧溶媒を用いてもよい。
【0080】
また、上記溶液状態とするために該構成材料の溶媒への溶解の過程で−20℃以下に冷却した工程を介することもできる。セルロースエステルへの安定剤、可塑剤、その他添加剤のいずれか一種以上の添加を行うときは、本発明に用いるセルロースエステルの合成工程過程において、特に限定はないが該樹脂の合成工程後期までに少なくとも一度溶液状態で輝点異物や不溶物を濾別するために濾過を行い、その後他の添加剤の添加を行い、溶媒の除去または酸析によって固形分を分離して乾燥してもよく、ペレット化するときに粉体混合したフィルム構造材料を得てもよい。
【0081】
セルロースエステル以外の構成材料を溶融前にセルロースエステルと均一に混合しておくことは、加熱溶融させる際に均一な溶融性を与えることに寄与できる。
【0082】
セルロースエステルに添加する安定剤、可塑剤及び上記その他添加剤を添加するときは、それらを含めた総量が、セルロースエステルの質量に対して1〜30質量%であることが好ましい。
【0083】
本発明の光学フィルムはセルロースエステル以外の高分子材料やオリゴマーを適宜選択して混合してもよい。高分子材料やオリゴマーはセルロースエステルと相溶性に優れるものが好ましく、フィルムにしたときの透過率が80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは92%以上であることが好ましい。セルロースエステル以外の高分子材料やオリゴマーの少なくとも1種以上を混合することによって、加熱溶融時の粘度制御やフィルム加工後のフィルム物性を向上することもできる。
【0084】
本発明の光学フィルムはヘイズ値は3%未満であることが好ましく、より好ましくは1%未満であり、さらに好ましくは0.3%未満であり、特に好ましくは0.1%未満である。
【0085】
〔可塑剤〕
本発明の光学フィルムは少なくとも1種の可塑剤を含有する。可塑剤の添加は、機械的性質向上、柔軟性を付与、耐吸水性付与、水分透過率の低減等のフィルムの改質の観点において必要である。
【0086】
また、本発明で行う溶融流延法においては、用いるセルロースエステル単独のガラス転移温度よりも、可塑剤の添加によりフィルム構成材料の溶融温度を低下させる目的、または同じ加熱温度においてセルロースエステル単独よりも可塑剤を含むフィルム構成材料の溶融粘度が低下できる目的を含んでいる。ここで、フィルム構成材料の溶融温度とは、該材料が加熱され流動性が発現された状態の温度を意味する。
【0087】
セルロースエステル単独ではガラス転移温度よりも低いとフィルム化するための流動性は発現されない。しかしながらセルロースエステルは、ガラス転移温度以上において、熱量の吸収により弾性率あるいは粘度が低下し、流動性が発現される。フィルム構成材料の溶融温度を低下させるためには、添加する可塑剤がセルロースエステルのガラス転移温度よりも低い融点またはガラス転移温度をもつことが上記目的を満たすために好ましい。
【0088】
(非リン酸エステル系可塑剤)
本発明で用いられるセルロースエステルフィルムは、少なくとも非リン酸エステル系可塑剤を1〜30質量%含有することが好ましい。さらにその他の種類の可塑剤を含有することが好ましい。2種以上の可塑剤を含有させることによって、可塑剤の溶出を少なくすることができる。その理由は明らかではないが、1種当たりの添加量を減らすことができることと、2種の可塑剤どうし及びセルロースエステルとの相互作用によって溶出が抑制されるものと思われる。
【0089】
可塑剤は特に限定されないが、好ましくは、多価アルコールエステル系可塑剤、フタル酸エステル、クエン酸エステル、脂肪酸エステル、グリコレート系可塑剤、ポリエステル系可塑剤等から選択される。そのうち、少なくとも1種は多価アルコールエステル系可塑剤であることが好ましい。
【0090】
(多価アルコールエステル系可塑剤)
多価アルコールエステル系可塑剤は2価以上の脂肪族多価アルコールとモノカルボン酸のエステルよりなる可塑剤であり、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有することが好ましい。好ましくは2〜20価の脂肪族多価アルコールエステルである。
【0091】
本発明に用いられる多価アルコールは次の一般式(1)で表される。
【0092】
一般式(1) R1−(OH)n
ただし、R1はn価の有機基、nは2以上の正の整数、OH基はアルコール性、及び/またはフェノール性水酸基を表す。
【0093】
好ましい多価アルコールの例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール等を挙げることができる。特に、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、キシリトールが好ましい。好ましくは多価アルコールの炭素数が4以上であることが好ましく、さらに好ましくは5〜60であり、特に好ましくは6〜30である。
【0094】
多価アルコールエステルに用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸を用いると透湿性、保留性を向上させる点で好ましい。
【0095】
好ましいモノカルボン酸の例としては以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0096】
脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖または側鎖を有する脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数は1〜20であることがさらに好ましく、1〜10であることが特に好ましい。酢酸を含有させるとセルロースエステルとの相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
【0097】
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
【0098】
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。
【0099】
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタレンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。特に安息香酸が好ましい。
【0100】
多価アルコールエステルの分子量は特に制限はないが、300〜5000であることが好ましく、300〜1500であることがより好ましく、350〜750であることがさらに好ましい。分子量が大きい方が揮発し難くなるため好ましく、透湿性、セルロースエステルとの相溶性の点では小さい方が好ましい。
【0101】
多価アルコールエステルに用いられるカルボン酸は1種類でもよいし、2種以上の混合であってもよい。また、多価アルコール中のOH基は、全てエステル化してもよいし、一部をOH基のままで残してもよい。
【0102】
以下に、多価アルコールエステルの具体的化合物を例示する。
【0103】
【化1】

【0104】
【化2】

【0105】
【化3】

【0106】
【化4】

【0107】
(グリコレート系可塑剤)
グリコレート系可塑剤は特に限定されないが、アルキルフタリルアルキルグリコレート類が好ましく用いることができる。アルキルフタリルアルキルグリコレート類としては、例えばメチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等が挙げられる。
【0108】
(フタル酸エステル系可塑剤)
フタル酸エステル系可塑剤としては、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジオクチルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジシクロヘキシルテレフタレート等が挙げられる。
【0109】
また、特開平11−349537に記載の一般式(1)で表されるフタル酸エステル系二量体が好ましく用いられ、具体的には、段落番号23、26に記載の化合物−1、化合物−2が好ましく用いられる。
【0110】
【化5】

【0111】
フタル酸エステル系二量体化合物は、上記一般式(1)で示される構造式を持つ化合物であり、二つのフタル酸を二価アルコールと混合加熱して脱水エステル化反応させて得ることができる。フタル酸エステル系二量体、末端水酸基含有ビスフェノール系化合物の平均分子量は250〜3000程度が好ましく、特に好ましくは300〜1000である。250以下では、熱安定性や可塑剤の揮発性及び移行性に問題が生じ、3000を越えると可塑剤としての相溶性、可塑化能力が低下し、脂肪酸セルロースエステル系樹脂組成物の加工性、透明性や機械的性質に悪影響を及ぼす。
【0112】
(クエン酸エステル系可塑剤)
クエン酸エステル系可塑剤としては、クエン酸アセチルトリメチル、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル等が挙げられる。
【0113】
また、特開2001−48840に記載の一般式[1]で表されるクエン酸エステル化合物が好ましく用いられ、具体的には、段落番号20、24、27に記載の構造式(1)〜(3)で表される化合物が好ましく用いられる。
【0114】
【化6】

【0115】
特開2001−48840に記載の上記一般式[1]において、R1が水素原子または炭素数1〜5の脂肪族アシル基であること、R2が炭素数1〜4のアルキル基であること、R1が水素原子であり、R2がメチル基またはエチル基であること、またはR1がアセチル基であり、R2がメチル基またはエチル基であることが好ましい。R1の脂肪族アシル基としては特に制限はないが、好ましくは炭素数1〜12であり、特に好ましくは炭素数1〜5である。具体的にはホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、バレリル、パルミトイル、オレイル等を例示することができる。またR2のアルキル基としては特に制限はなく、また直鎖状、分岐を有するもののいずれでもよいが、好ましくは炭素数1〜24のアルキル基であり、特に好ましくは炭素数1〜4のアルキル基である。具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基が挙げられる。特に酢酸セルロースエステル系樹脂の可塑剤として好ましいものとしては、R1が水素原子であり、R2がメチル基またはエチル基であるもの、並びにR1がアセチル基であり、R2がメチル基またはエチル基であるものである。
【0116】
クエン酸エステル化合物の内、R1が水素原子であるものは、公知の方法を応用して製造することができる。公知の方法としては、例えば英国特許公報931,781号に記載のフタル酸ハーフエステルとα−ハロゲン化酢酸アルキルエステルからフタリルグリコール酸エステルを製造する方法が挙げられる。具体的には、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウムまたはクエン酸(以下、これらをクエン酸原料と略す。)、好ましくはクエン酸三ナトリウムの1モルに対し、R2に対応するアルキルエステルであるα−モノハロゲン化酢酸アルキル、例えばモノクロル酢酸メチル、モノクロル酢酸エチル等を化学量論以上の量、好ましくは1〜10モル、さらに好ましくは2〜5モルを反応させる。反応系に水分が存在すると目的化合物の収率が低下するので、原料はできる限り無水和物を用いる。
【0117】
(ポリエステル、ポリエーテル系可塑剤)
ポリエステル、ポリエーテル系可塑剤としては、特開2002−22956の段落番号49〜56に記載のポリマー(ポリエステルまたはポリエステルエーテル化合物)が好ましく用いられる。
【0118】
本発明に有用なポリエステルまたはポリエステルエーテル化合物は、セルロースエステルドープあるいはセルロースエステルフィルム中で相分離が起こらないのが選ばれる。本発明者が検討した結果、その重量平均分子量(以降、Mwと略すことがある)と、セルロースエステルとの相溶性との間に関係があることが分かった。本発明に有用なポリエステルまたはポリエステルエーテル化合物は、セルロースエステルドープに添加する過程、流延してフィルムを形成するまでの過程、またはでき上がりのセルロースエステルフィルムの経時、高温高湿等の悪条件に曝される状態でも、相分離したり、白濁したり、ブリードアウトしたりせず、フィルム形成後、寸法変化が非常に小さく、保留性にも優れているもので、重量平均分子量400〜10000、好ましくは400〜5000を有するポリエステル及びポリエステルエーテルが好ましい。重量平均分子量を上記範囲より大きくすると相溶性が劣化し、透湿性を小さくする効果に薄く、むしろ保留性が劣化しやすい傾向にあるため、上記のような重量平均分子量の範囲が好ましい。従って、本発明に係るポリエステルまたはポリエステルエーテル化合物はオリゴマーと呼ばれるものも含んでいる。
【0119】
また、本発明に有用な上記ポリエステルまたはポリエステルエーテル化合物は、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比Mw/Mnが1〜5の範囲にあることが好ましく、2〜5の範囲がより好ましく、3〜5の範囲が相溶性がよく、相分離ブリードアウト、白濁等を起こさず好ましい。
【0120】
さらに、本発明に有用な上記ポリエステルまたはポリエステルエーテル化合物は、ポリマーのZ平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)との比Mz/Mwが、1〜3の範囲にあることが好ましく、1〜2.5の範囲がより好ましい。この理由も上記と同様である。
【0121】
なお、Mn、Mw及びMzはGPC(Gel Permeation Chromatography)を用いて通常の方法で測定することができる。例えば、カラム(昭和電工社製、SHODEX−K806−K803)の温度を25℃として、溶離液としてメチレンクロライドを用い、流量を1.0ml/minとし、検出RI、注入量を100μl、試料濃度を0.1(質量/容量%)とし、また標準試料としてポリスチレンを用いて行うことができる。
【0122】
本発明に有用なポリエステルまたはポリエステルエーテルの添加量は、セルロースエステルに対して5〜30質量%含有することが好ましく、7〜20質量%がより好ましい。
【0123】
本発明に有用なポリエステルについて述べる。ポリエステルの片方の構成成分である二塩基酸としては、脂肪族二塩基酸、脂環式二塩基酸、芳香族二塩基酸が好ましく、例えば、脂肪族二塩基酸としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸等、芳香族二塩基酸としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,4−キシリデンジカルボン酸等、脂環式二塩基酸としては、1,3−シクロブタンジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジ酢酸等を挙げることができる。特に、脂肪族ジカルボン酸としては炭素原子数4〜12もの、脂環式二塩基性酸及び芳香族ジカルボン酸が好ましく、これらから選ばれる少なくとも一つのものを使用する。つまり、2種以上の二塩基酸を組み合わせて使用してよい。もう片方の構成成分であるグリコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,5−ペンチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等を挙げることができるが、これらのうちエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールが好ましく、さらに、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコールを好ましく用いられる。ポリエステルは結晶化しにくいものが好ましい。ポリエステルの重縮合は常法によって行われる。例えば、上記二塩基酸とグリコールの直接反応、上記の二塩基酸またはこれらのアルキルエステル類、例えば二塩基酸のメチルエステルとグリコール類とのポリエステル化反応またはエステル交換反応により熱溶融縮合法か、あるいはこれら酸の酸クロライドとグリコールとの脱ハロゲン化水素反応の何れかの方法により容易に合成し得るが、重量平均分子量がさほど大きくないポリエステルは直接反応によるのが好ましい。低分子量側に分布が高くあるポリエステルはセルロースエステルとの相溶性が非常によく、フィルム形成後、透湿度も小さく、しかも透明性に富んだセルロースエステルフィルムを得ることができる。分子量の調節方法は、特に制限なく従来の方法を使用できる。例えば、重合条件にもよるが、1価の酸または1価のアルコールで分子末端を封鎖する方法により、これらの1価のものの添加する量によりコントロールできる。この場合、1価の酸がポリマーの安定性から好ましい。例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ピバリン酸、安息香酸等を上げることができるが、重縮合反応中には系外に溜去せず、停止して反応系外にこのような1価の酸を系外に除去するときに溜去しやすいものが選ばれるが、これらを混合使用してもよい。また、直接反応の場合には、反応中に溜去してくる水の量により反応を停止するタイミングを計ることによっても重量平均分子量を調節できる。その他、仕込むグリコールまたは二塩基酸のモル数を偏らせることによってもできるし、反応温度をコントロールしても調節できる。
【0124】
本発明に有用なポリエステルエーテルは、上記ポリエステルや上記二塩基性酸あるいはこれらのアルキルエステル類と、エーテル単位の両末端にOH基を有する化合物を、ポリエステル化反応またはエステル交換反応により熱溶融縮合法か、末端OH基を有するポリエステルにエーテル化する反応法によりポリエステルエーテルを得ることができる。エーテル単位としては特に限定されないが、例えば、HO(RO)nROH(ここでRはアルキレン基、アリーレン基、アラルキレン基、2官能脂環基等でこれらが混ざり合っていてもよい、またnは1〜100)のようなジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリフェニレングリコール、ポリシクロへキシレングリコール等を挙げることができ、これらを組み合わて使用してもよい。ポリマーの分子量を調整する方法は、とくに制限なく使用でき、ポリエステルの場合と同様に行うことができる。
【0125】
本発明に適したポリエステルエーテルを市販品から求めることができる。例えば、Dupont社製のハイテレル(Hytrel)コポリエステル類、GAF社製のガルフレック(Galflex)ポリマー、「旭電化工業(株)社製アデカサイザーRSシリーズ」を挙げることができる。
【0126】
これらのポリエステルエーテルをセルロースエステルと混合して用いる量は前記ポリエステルと同様であり、フィルム形成後のセルロースエステルフィルムの透明性は低下することなく、優れた機械的性質、特に引き裂き強さ示す。
【0127】
また、特願2004−91326に記載の一般式(I)で表されるポリエステル系可塑剤が好ましく用いられる。
【0128】
一般式(I) B−(G−A)n−G−B
(式中、Bはベンゼンモノカルボン酸残基、Gは炭素数2〜12のアルキレングリコール残基または炭素数6〜12のアリールグリコール残基または炭素数が4〜12のオキシアルキレングリコール残基、Aは炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸残基または炭素数6〜12のアリールジカルボン酸残基を表し、またnは0以上の整数を表す。)
一般式(I)中、Bで示されるベンゼンモノカルボン酸残基とGで示されるアルキレングリコール残基またはオキシアルキレングリコール残基またはアリールグリコール残基、Aで示されるアルキレンジカルボン酸残基またはアリールジカルボン酸残基とから構成されるものであり、通常のポリエステル系可塑剤と同様の反応により得られる。
【0129】
本発明で使用されるエステル系可塑剤のベンゼンモノカルボン酸成分としては、例えば、安息香酸、パラターシャリブチル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸等があり、これらはそれぞれ1種または2種以上の混合物として使用することができる。
【0130】
エステル系可塑剤の炭素数2〜12のアルキレングリコール成分としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロ−ルペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル1,3−ペンタンジオール、2−エチル1,3−ヘキサンジオール、2−メチル1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用される。
【0131】
また、芳香族末端エステルの炭素数4〜12のオキシアルキレングリコール成分としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用できる。
【0132】
芳香族末端エステルの炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸成分としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、フマール酸、グルタール酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等があり、これらは、それぞれ1種または2種以上の混合物として使用される。炭素数6〜12のアリーレンジカルボン酸成分としては、フタル酸、テレフタル酸、1,5ナフタレンジカルボン酸、1,4ナフタレンジカルボン酸の他、1,4シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。
【0133】
本発明で使用されるエステル系可塑剤は、数平均分子量が、好ましくは250〜2000、より好ましくは300〜1500の範囲が好適である。また、その酸価は、0.5mgKOH/g以下、水酸基価は25mgKOH/g以下、より好ましくは酸価0.3mgKOH/g以下、水酸基価は15mgKOH/g以下のものが好適である。
【0134】
以下、本発明に係る芳香族末端エステル系可塑剤の合成例を示す。
【0135】
〈サンプルNo.1(芳香族末端エステルサンプル)〉
反応容器に、アジピン酸365部(2.5モル)、1,2−プロピレングリコール418部(5.5モル)、安息香酸610部(5モル)及び触媒としてテトライソプロピルチタネート0.30部を一括して仕込み窒素気流中で攪拌下、還流凝縮器を付して過剰の1価アルコールを還流させながら、酸価が2以下になるまで130〜250℃で加熱を続け生成する水を連続的に除去した。次いで200〜230℃で100〜最終的に400Pa以下の減圧下、留出分を除去し、この後濾過して次の性状を有する芳香族末端エステルを得た。
【0136】
粘度(25℃、mPa・s);815
酸価 ;0.4
〈サンプルNo.2(芳香族末端エステルサンプル)〉
反応容器に、アジピン酸365部(2.5モル)、安息香酸610部(5モル)、ジエチレングリコール583部(5.5モル)及び触媒としてテトライソプロピルチタネート0.45部を用いる以外はサンプルNo.1と全く同様にして次の性状を有する芳香族末端エステルを得た。
【0137】
粘度(25℃、mPa・s);90
酸価 ;0.05
〈サンプルNo.3(芳香族末端エステルサンプル)〉
反応容器にフタル酸410部(2.5モル)、安息香酸610部(5モル)、ジプロピレングリコール737部(5.5モル)及び触媒としてテトライソプロピルチタネート0.40部を用いる以外はサンプルNo.1と全く同様にして次の性状を有する芳香族末端エステル系可塑剤を得た。
【0138】
粘度(25℃、mPa・s);43400
酸価 ;0.2
以下に、芳香族末端エステル系可塑剤の具体的化合物を示すが、本発明はこれに限定されない。
【0139】
【化7】

【0140】
【化8】

【0141】
(ビニルエステル系可塑剤)
ビニルエステル系可塑剤としては、特開2002−120244の段落番号68〜70に記載のビニルエステルを主として含有する重合物が好ましく用いられる。
【0142】
本発明に有用なビニルエステルを主として含有する重合物は、その種類は特に限定されない。ビニルエステルを主とする重合物を形成するモノマーとしては、ビニルエステルモノマーとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、バレリアン酸ビニル、イソバレリアン酸、メチルエチル酢酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、イソカプロン酸ビニル、エナント酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル等を挙げることができる。ビニルエステルを主とするとは、重合物中にビニルエステルを40質量%以上含むものをいう。ビニルエステルとの共重合成分としては、ビニルエーテル類として、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等、ビニルケトン類として、メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、プロピルビニルケトン、ブチルビニルケトン等、アクリル酸またはメタクリル酸エステル類として、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、ベンジルアクリレート、フェネチルアクリレート等及びこれらアクリレートをメタクリレートとしたもの等を挙げることができる。また、上記モノマーの他にマレイン酸エステル、フマル酸エステル、塩化ビニル、ブタジエン等のモノマーと共重合成分として挙げることができる。本発明においては、特にビニルエステルモノマーからの重合物がセルロースエステルと相溶性に優れており、相溶性をよくするに十分な重量平均分子量は前記ポリエステルと同様な範囲で添加することができる。また、このようなビニルエステルを主とする重合物の分子量を調節する方法としては、特に従来の方法を制限なく使用することができる。例えば、重合開始剤の添加量を多くする方法、溶液重合の溶媒量を多量にして行う方法、重合温度を高くする方法、モノマー濃度を高める方法、連鎖移動剤や重合禁止剤を添加する方法等がある。連鎖移動剤としては、例えば、四塩化炭素、四塩化エタン、クロロホルム、三塩化エタン、四臭化炭素等のハロゲン化炭化水素類、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類、n−ブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、エチルチオグリコレート、ジスルフィド、ドデシルメルカプタン、ジアゾチオエーテル等の含イオウ炭化水素類、n−ブタノール、i−ブタノール、s−ブタノール、t−ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトンのケトン類等を挙げることができる。また重合禁止剤も用いることができ、例えば、ベンゾキノン、ニトロベンゼン、ジフェニルピクリルヒドラジル等を挙げることができる。
【0143】
また、本発明に有用な上記重合物の重量平均分子量は、1000〜150000が好ましく、3000〜100000がより好ましく、5000〜50000がさらに好ましい。重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比Mw/Mnが1〜5の範囲にあることが好ましく、2〜5の範囲がより好ましく、3〜5の範囲がさらに相溶性がよく、相分離ブリードアウト、白濁等を起こさず好ましい。
【0144】
本発明に有用なこれらの重合物のセルロースエステルフィルム中の含有量は5〜30質量%が好ましい。
【0145】
(リン酸エステル系可塑剤)
リン酸エステル系可塑剤としては、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェートあるいは特表平6−501040号記載の不揮発性リン酸エステルが挙げられ、例えば、アリーレンビス(ジアリールホスフェート)エステル等が挙げられる。また、これらのリン酸エステル系可塑剤の比率が全可塑剤の40%未満であることが好ましく、実質的に含有しないことが特に好ましい。「実質的に含有しない」とはリン酸エステル系可塑剤の含有量が1質量%未満、好ましくは0.1質量%であり、特に好ましいのは添加していないことである。前述のように、リン酸エステル系可塑剤が含まれるとハードコート層を形成する際に基材が変形しやすくなるため、好ましくない。
【0146】
その他の可塑剤として、特開2002−62430に記載の一般式(A)〜(C)で表される化合物が好ましく用いられる。
【0147】
【化9】

【0148】
上記一般式(A)において、R1はH、炭素数1〜8の置換または無置換のアルキル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、アルキニルカルボニル基またはアロイル基等を含むアシル基を表す。好ましくは、R1はH、炭素数1〜3の置換または無置換のアルキル基、炭素数1〜7のアシル基であり、具体的にはH、メチル、エチル、プロピル、2−エチルヘキシル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、カプロイル、クロロアセチル、ピバロイル、シクロヘキサンカルボニル、ベンゾイル等を挙げることができる。特に好ましいのはH、アセチル、プロピオニル、ブチロイル、ピバロイル、シクロヘキサンカルボニルである。
【0149】
2、R3、R4は、各々同じでも異なってもよく、H、炭素数1〜18の置換または無置換のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基またはアリール基であり、R1、R2、R3、R4の2つ以上が同時にHになることはない。具体的にはH、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、n−オクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、デシル、ドデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、t−オクチル、シクロヘキシル、シクロヘキシルメチル、4−メチルシクロヘキシル、フルフリル、アリール、オレイル、フェニル、ベンジル等である。好ましくは、H、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、2−エチルヘキシル、シクロヘキシル、ドデシル、フルフリル、オレイル、フェニルである。また、R2、R3、R4の炭素数の総数は3〜54であるが、好ましくは6〜36、より好ましくは9〜30である。得られる一般式(A)の化合物の沸点は、常圧で沸点が280℃以上であり、300℃以上の沸点がより好ましく、350℃以上ならさらに好ましい。
【0150】
以下に、一般式(A)で示される可塑剤の具体的化合物例を示す。
【0151】
【化10】

【0152】
なお、上記例示化合物PL−2、PL−5、PL−11、PL−13は、各々ファイザー社の商品名Citroflex−2、Citroflex−4、Citroflex A−8、Citroflex A−4として知られている可塑剤であり、好ましい。
【0153】
次に一般式(B)、(C)で表される可塑剤について説明する。
【0154】
【化11】

【0155】
一般式(B)、(C)において、R1〜R10は同じでも異なってもよく、各々水素原子、炭素数2〜18のアシル基(アシル基の炭化水素基としては、アルキル、アルケニル、アルキニル基を含む)、アロイル基、アルキル基(アルキル、アルケニル、アルキニルを含む)またはアリール基を表す。ただし、R1〜R4の2つ以上が同時に水素原子になることはなく、またR5〜R10の3つ以上が同時に水素原子になることはない。
【0156】
一般式(B)または(C)で表される可塑剤について以下に詳細に記載する。R1〜R10は、好ましくは各々水素原子、アセチル、プロピオニル、ブチロイル、ピバロイル、ヘキサノイル、ヘプタノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、オレイノイル、ベンゾイル、シンナミル等を挙げることができる。R1〜R10は、特に好ましくは水素原子、アセチル、プロピオニル、ブチロイル、ピバロイル、ヘキサノイル、デカノイル、ドデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、オレイノイル、フェニルカルボキシルを挙げることができる。また、R1〜R4の炭素数の総数は4〜72であるが、好ましくは6〜64、より好ましくは8〜48である。また、R5〜R10の炭素数の総数は6〜108であるが、好ましくは8〜96、より好ましくは10〜72である。R1〜R4の2つ以上が同時に水素原子になることはないが、より好ましくは水素原子は1個以下である。また、R5〜R10の3つ以上が同時に水素原子になることはないが、より好ましくは水素原子は2個以下が好ましい。
【0157】
以下に本発明で好ましく用いられる一般式(B)または(C)で表される可塑剤の具体的化合物例を挙げる。
【0158】
【化12】

【0159】
【化13】

【0160】
上記一般式(B)または(C)で表される化合物は、ペンタエリスリトールまたはジペンタエリスリトールとカルボン酸または酸クロライドのエステル化反応で容易に得られる。場合によって、予め作製されたペンタエリスリトールまたはジペンタエリスリトールエステル(例えば、ペンタエリスリトールテトラアセテートまたはジペンタエリスリトールヘキサアセテート)をカルボン酸化合物とエステル交換することでも作製できる。また、アルキル基、アルキレン基及びアリレン基の場合は、これらのハロゲン物(クロル、ブロム体)を原料としてエーテル結合を容易に作製できる。本発明の一般式(A)または(B)で表される化合物は、沸点が常圧で280℃以上が好ましく、より好ましくは沸点が300℃以上であり、特に好ましくは沸点が320℃以上である。
【0161】
セルロースエステルフィルム中の可塑剤の総含有量は、固形分総量に対し、5〜30質量%が好ましく、6〜20質量%がさらに好ましく、特に好ましくは8〜15質量%である。また、2種の可塑剤の含有量は各々少なくとも1質量%以上であり、好ましくは各々2質量%以上含有することである。
【0162】
多価アルコールエステル系可塑剤は1〜30質量%含有することが好ましく、特に3〜15質量%含有することが好ましい。少ないと平面性の劣化が認められ、多すぎるとブリードアウトがしやすい。多価アルコールエステル系可塑剤とその他の可塑剤との比率は1:4〜4:1の範囲であることが好ましく、1:3〜3:1であることがさらに好ましい。可塑剤の総含有量が多すぎても、また少なすぎてもフィルムが変形しやすく好ましくない。
【0163】
また、特開2003−12859号に記載の重量平均分子量が500〜10000であるエチレン性不飽和モノマーを重合して得られるポリマー、アクリル系ポリマー、芳香環を側鎖に有するアクリル系ポリマーまたはシクロヘキシル基を側鎖に有するアクリル系ポリマー等も好ましく用いられる。これらの化合物の添加量はフィルムを構成する樹脂に対して、0.5〜20質量%未満の範囲で使用することが好ましく、より好ましくは1〜20質量%未満の範囲にある。これらの化合物の添加量は、上記目的の観点から調整することができる。
【0164】
上記可塑剤の中でも熱溶融時に揮発成分を生成しないことが好ましい。揮発成分が上記可塑剤の熱分解によるとき、上記可塑剤の熱分解温度Td(1.0)は、1.0質量%減少したときの温度と定義すると、フィルム構成材料の溶融温度(Tm)よりも高いことが求められる。特に、可塑剤はセルロースエステルに対する添加量が他のフィルム構成材料よりも多く、品質に与える影響が大きいためである。熱分解温度Td(1.0)は、市販の示差熱重量分析(TG−DTA)装置で測定することができる。
【0165】
〔劣化防止剤〕
本発明の光学フィルムには、さらに酸捕捉剤、過酸化物分解剤、ラジカル捕捉剤、金属不活性化剤、ヒンダードフェノール化合物、ヒンダードアミン化合物等の劣化防止剤を含有させることが好ましい。劣化防止剤は、前記造粒またはペレット化する事前混合粒子化工程で添加することが好ましい。劣化防止剤は、特開平3−199201号、同5−1907073号、同5−194789号、同5−271471号、同6−107854号公報等に記載がある。
【0166】
(酸捕捉剤)
本発明において、フィルム構成材料の熱溶融時の安定化のために酸捕捉剤を用いることが好ましい。有用な酸捕捉剤は、米国特許第4,137,201号明細書に記載されているエポキシ化合物等が好ましい。例えば、種々のポリグリコールのジグリシジルエーテル、特にポリグリコール1モル当たりに約8〜40モルのエチレンオキシド等の縮合によって誘導されるポリグリコール、グリセロールのジグリシジルエーテル等、金属エポキシ化合物(例えば、塩化ビニルポリマー組成物において、及び塩化ビニルポリマー組成物と共に、従来から利用されているもの)、エポキシ化エーテル縮合生成物、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(即ち、4,4′−ジヒドロキシジフェニルジメチルメタン)、エポキシ化不飽和脂肪酸エステル(特に、炭素原子数2〜22個の脂肪酸の炭素原子数2〜4個程度の炭素原子のアルキルのエステル(例えば、ブチルエポキシステアレート)等)、及び種々のエポキシ化長鎖脂肪酸トリグリセリド等(例えば、エポキシ化大豆油等のエポキシ化植物油及び他の不飽和天然油(これらは時としてエポキシ化天然グリセリドまたは不飽和脂肪酸と称され、これらの脂肪酸は一般に12〜22個の炭素原子を含有している))が含まれる。特に好ましいのは、市販のエポキシ基含有エポキシド樹脂化合物 EPON 815c、及び下記一般式(2)で表される他のエポキシ化エーテルオリゴマー縮合生成物である。
【0167】
【化14】

【0168】
式中、nは0〜12の整数である。用いることができるその他の酸捕捉剤としては、特開平5−194788号公報の段落87〜105に記載されているものが含まれる。
【0169】
(ヒンダードフェノール化合物)
本発明に用いられるヒンダードフェノール化合物は、例えば、米国特許第4,839,405号明細書の第12〜14欄に記載されているもの等の、2,6−ジアルキルフェノール誘導体化合物が含まれる。このような化合物には、下記一般式(1)で表される化合物が含まれる。
【0170】
【化15】

【0171】
式中、R1、R2及びR3は、さらに置換されているかまたは置換されていないアルキル置換基を表す。ヒンダードフェノール化合物の具体例には、n−オクタデシル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、n−オクタデシル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−アセテート、n−オクタデシル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、n−ヘキシル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルベンゾエート、n−ドデシル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルベンゾエート、ネオ−ドデシル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ドデシルβ(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、エチルα−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)イソブチレート、オクタデシルα−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)イソブチレート、オクタデシルα−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−(n−オクチルチオ)エチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンゾエート、2−(n−オクチルチオ)エチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−フェニルアセテート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンゾエート、2−(2−ヒドロキシエチルチオ)エチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、ジエチルグリコールビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−フェニル)プロピオネート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ステアルアミドN,N−ビス−[エチレン3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、n−ブチルイミノN,N−ビス−[エチレン3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2−(2−ステアロイルオキシエチルチオ)エチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、2−(2−ステアロイルオキシエチルチオ)エチル7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ヘプタノエート、1,2−プロピレングリコールビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、エチレングリコールビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ネオペンチルグリコールビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、エチレングリコールビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート)、グリセリン−l−n−オクタデカノエート−2,3−ビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート)、ペンタエリトリトール−テトラキス−[3−(3′,5′−ジ−t−ブチル−4′−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,1,1−トリメチロールエタン−トリス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ソルビトールヘキサ−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2−ヒドロキシエチル7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−ステアロイルオキシエチル7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ヘプタノエート、1,6−n−ヘキサンジオール−ビス[(3′,5′−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリトリトール−テトラキス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナメート)が含まれる。上記タイプのヒンダードフェノール化合物は、例えば、Ciba Specialty Chemicalsから、”Irganox1076”及び”Irganox1010”という商品名で市販されている。
【0172】
(ヒンダードアミン化合物)
本発明に用いられるヒンダードアミン化合物(HALS)としては、例えば、米国特許第4,619,956号明細書の第5〜11欄及び米国特許第4,839,405号明細書の第3〜5欄に記載されているように、2,2,6,6−テトラアルキルピペリジン化合物、またはそれらの酸付加塩もしくはそれらと金属化合物との錯体が含まれる。このような化合物には、下記一般式(3)で表される化合物が含まれる。
【0173】
【化16】

【0174】
式中、R1及びR2は、Hまたは置換基である。ヒンダードアミン化合物の具体例には、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−アリル−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−ベンジル−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(4−t−ブチル−2−ブテニル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ステアロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−エチル−4−サリチロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−メタクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン−4−イル−β(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、1−ベンジル−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニルマレイネート(maleinate)、(ジ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−アジペート、(ジ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−セバケート、(ジ−1,2,3,6−テトラメチル−2,6−ジエチル−ピペリジン−4−イル)−セバケート、(ジ−1−アリル−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−4−イル)−フタレート、1−アセチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル−アセテート、トリメリト酸−トリ−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)エステル、1−アクリロイル−4−ベンジルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ジブチル−マロン酸−ジ−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−ピペリジン−4−イル)−エステル、ジベンジル−マロン酸−ジ−(1,2,3,6−テトラメチル−2,6−ジエチル−ピペリジン−4−イル)−エステル、ジメチル−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−オキシ)−シラン,トリス−(1−プロピル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−ホスフィット、トリス−(1−プロピル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−ホスフェート,N,N′−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−ヘキサメチレン−1,6−ジアミン、N,N′−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−ヘキサメチレン−1,6−ジアセトアミド、1−アセチル−4−(N−シクロヘキシルアセトアミド)−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン、4−ベンジルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、N,N′−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−N,N′−ジブチル−アジパミド、N,N′−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−N,N′−ジシクロヘキシル−(2−ヒドロキシプロピレン)、N,N′−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−p−キシリレン−ジアミン、4−(ビス−2−ヒドロキシエチル)−アミノ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−メタクリルアミド−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、α−シアノ−β−メチル−β−[N−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)]−アミノ−アクリル酸メチルエステル。好ましいヒンダードアミン化合物の例には、以下のHALS−1及びHALS−2が含まれるがこれのみに限定されない。
【0175】
【化17】

【0176】
上記化合物は、少なくとも1種以上含有させることが好ましく、セルロースエステルの質量に対して、含有量は0.01〜5質量%が好ましく、より好ましくは0.01〜3質量%であり、さらに好ましくは0.01〜0.8質量%である。
【0177】
上記化合物の含有量が上記範囲よりも少ないと、セルロースエステルの熱分解が生じやすく、また上記添加量の範囲よりも多いと樹脂への相溶性の観点から光学フィルムとしての透明性の低下を引き起こし、またフィルムが脆くなるために好ましくない。
【0178】
〔その他の添加剤〕
本発明の光学フィルムには下記添加剤を含有することが好ましい。
【0179】
(紫外線吸収剤)
紫外線吸収剤は、偏光子や表示装置の紫外線に対する劣化防止の観点から、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れており、かつ液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。添加時期は、前記造粒またはペレット化する事前混合粒子化工程で添加することが好ましい。
【0180】
本発明に用いられる紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物、トリアジン系化合物等を挙げることができるが、ベンゾフェノン系化合物や着色の少ないベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物が好ましい。また、特開平10−182621号、同8−337574号公報記載の紫外線吸収剤、特開平6−148430号公報記載の高分子紫外線吸収剤を用いてもよい。
【0181】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の具体例として、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、オクチル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートの混合物等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0182】
また、市販品として、チヌビン(TINUVIN)109、チヌビン(TINUVIN)171、チヌビン(TINUVIN)326(いずれもチバ−スペシャルティ−ケミカルズ社製)が挙げられる。
【0183】
ベンゾフェノン系化合物の具体例として、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニルメタン)等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0184】
本発明においては、紫外線吸収剤は0.1〜20質量%添加することが好ましく、さらに0.5〜10質量%添加することが好ましく、さらに1〜5質量%添加することが好ましい。これらは2種以上を併用してもよい。
【0185】
(微粒子(マット剤))
本発明の光学フィルムは、滑り性や光学的、機械的機能を付与するために微粒子を添加することが好ましい。添加時期は、前記造粒またはペレット化する事前混合粒子化工程で添加することが好ましい。
【0186】
微粒子としては、無機化合物の微粒子または有機化合物の微粒子が挙げられる。微粒子の形状は、球状、棒状、針状、層状、平板状等の形状のものが好ましく用いられる。微粒子としては、例えば、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、リン酸カルシウム等の金属の酸化物、リン酸塩、ケイ酸塩、炭酸塩等の無機微粒子や架橋高分子微粒子を挙げることができる。中でも、二酸化ケイ素がフィルムのヘイズを低くできるので好ましい。これらの微粒子は有機物により表面処理されていることが、フィルムのヘイズを低下できるため好ましい。
【0187】
表面処理は、ハロシラン類、アルコキシシラン類、シラザン、シロキサン等で行うことが好ましい。微粒子の平均粒径が大きい方が滑り性効果は大きく、反対に平均粒径の小さい方は透明性に優れる。また、微粒子の一次粒子の平均粒径は0.01〜1.0μmの範囲である。好ましい微粒子の一次粒子の平均粒径は5〜50nmが好ましく、さらに好ましくは、7〜14nmである。これらの微粒子は、セルロースエステルフィルム表面に0.01〜1.0μmの凹凸を生成させるために好ましく用いられる。微粒子のセルロースエステル中の含有量はセルロースエステルに対して0.005〜10質量%が好ましい。
【0188】
二酸化ケイ素の微粒子としては、日本アエロジル(株)製のアエロジル(AEROSIL)200、200V、300、R972、R972V、R974、R202、R812、OX50、TT600等を挙げることができ、好ましくはアエロジル200V、R972、R972V、R974、R202、R812である。これらの微粒子は2種以上併用してもよい。
【0189】
2種以上併用する場合、任意の割合で混合して使用することができる。平均粒径や材質の異なる微粒子、例えば、アエロジル200VとR972Vを質量比で0.1:99.9〜99.9:0.1の範囲で使用できる。
【0190】
これらの微粒子の添加方法は混練する等によって行うことが好ましい。また、別の形態として予め溶媒に分散した微粒子とセルロースエステル及び/または可塑剤及び/または紫外線吸収剤を混合分散させた後、溶媒を揮発または沈殿させた固形物を得て、これをセルロースエステル溶融物の製造過程で用いることが、微粒子がセルロースエステル中で均一に分散できる観点から好ましい。
【0191】
上記微粒子は、フィルムの機械的、電気的、光学的特性改善のために添加することもできる。
【0192】
また、本発明の光学フィルムはリターデーションを調節するための添加剤を含有させることができる。リターデーションを調節するために添加する化合物は、欧州特許911,656A2号明細書に記載されているような、二つ以上の芳香族環を有する芳香族化合物をリターデーション制御剤として使用することもできる。また二種類以上の芳香族化合物を併用してもよい。該芳香族化合物の芳香族環には、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含む。芳香族性ヘテロ環であることが特に好ましく、芳香族性ヘテロ環は一般に、不飽和ヘテロ環である。中でも1,3,5−トリアジン環を有する化合物が特に好ましい。
【0193】
本発明の光学フィルムには、液晶あるいはポリイミド等から形成された光学異方性層を設けることもでき、光学フィルムとこれらの光学異方性層とを組み合わせて最適な光学補償を行うこともできる。
【0194】
〔光学フィルムの製造方法〕
本発明の光学フィルムは、例えば米国特許第2,492,978号、同第2,739,070号、同第2,739,069号、同第2,492,977号、同第2,336,310号、同第2,367,603号、同第2,607,704号、英国特許第64,071号、同第735,892号、特公昭45−9074号、同49−4554号、同49−5614号、同60−27562号、同61−39890号、同62−4208号に記載の方法を参照して製膜できる。
【0195】
図1は本発明の一例を示す加熱溶融流延法による光学フィルムの製造装置の概略図である。
【0196】
原材料の水分除去工程では、セルロースエステル等の固形分は、減圧加熱、真空加熱が好ましい。劣化防止剤、可塑剤等の液体は、減圧加熱、真空加熱以外に固形乾燥剤(例えば乾燥シリカゲル)による接触処理も好ましい。
【0197】
原材料の事前混合粒子化工程では、ペレット化または単なる造粒処理が好ましい。粒子化処理は混練押出し機内での短時間での素材分散の均一化に有効であり、押出し機内搬送性も良好である。
【0198】
濾過工程では異物のない光学フィルムを得るために、焼結金属、焼結セラミックフィルターによる濾過が好ましい。複数の系列を設けて切り替え可能とすることも好ましい。スムーズな濾過のため高粘性液体輸送ポンプを設け、送液量を安定化することも有効である。
【0199】
流延・冷却工程のドラムは、表面エネルギー及び表面粗さが一定の非晶質クロムメッキダイキャストドラムが好ましい。また、ドラムは清掃し常に一定の清浄状態に保ち、ダイリップ先端近傍で吸引により昇華物を除去することが好ましい。ダイリップエッジのR及びリップの先端長さは規定し、ダイのスリット間隙調整手段を設け均一な膜厚とすることが好ましい。
【0200】
引き取り工程のロールは、表面を非晶質クロムメッキで被覆し、表面エネルギー及び表面粗さを一定とする。規定のRo、Rtを得るのに延伸後のRを測定しそれに応じ膜厚調整の目的に使用する。表面をマット形状(溝)にするとマット表面の光学フィルムとなる。
【0201】
延伸(テンター)工程では、延伸することで膜厚の均一化を行う。位相差フィルムでは延伸することで規定のRo、Rtを得るのに必須の工程である。左右リップの位置を同時測定し、左右チェーンに独立した駆動装置を持ち、駆動速度を変更することで安定した延伸ができ好ましい。規定のRo、Rtを得るのに縦緩和または同時2軸延伸が好ましい。
【0202】
冷却・乾燥工程は、室温に冷却し、巻き取り後の状態を安定に維持するための調湿、蒸発成分の除去が目的である。膜厚、原材料等により設定値を変更することが好ましく、外気温度、湿度により環境を調整できることが好ましい。
【0203】
スリッター工程では、ウエブの端部は膜厚が不均一であり、ここで切り落として規定の幅のロールフィルムとする。ここでは切粉が発生するので除電、吸引による切粉対策が好ましい。カッティング手段としては、ロータリーカッター、NTカッターが好ましい。
【0204】
本発明のセルロースエステル及び添加剤の混合物を、熱風乾燥または真空乾燥した後、溶融押出し、Tダイよりフィルム状に押出して、50〜150℃に温調されたロールで引取ることができる。このとき2本のロールでニップすることが平面性向上の観点から好ましい。
【0205】
溶融押出しは、単軸押出し機、多軸押出し機を用いるが、前述した添加剤を均一分散する観点から多軸押出し機を用いることが好ましい。
【0206】
さらに、原料タンク、原料の投入部、押出し機内といった原料の供給、溶融工程を、窒素ガス等の不活性ガスで置換、あるいは減圧することが好ましい。
【0207】
本発明の前記溶融押出し時の温度はTg〜Tg+100℃であることが好ましい。さらにTg+10〜Tg+90℃であることが好ましい。
【0208】
本発明の光学フィルムを偏光板保護フィルム(位相差フィルム)として偏光板を作製した場合、セルロースエステルフィルムは、幅手方向もしくは製膜方向に延伸製膜されたフィルムであることが好ましい。
【0209】
前述の冷却ロールから剥離され、得られた未延伸フィルムを複数のロール群及び/または赤外線ヒーター等の加熱装置を介してセルロースエステルのガラス転移温度(Tg)−50℃からTg+100℃の範囲内に加熱し、一段または多段縦延伸することが好ましい。次に、上記のようにして得られた縦方向に延伸されたセルロースエステルフィルムを、Tg−50〜Tg+100℃で横延伸し、次いで熱固定することが好ましい。
【0210】
横延伸する場合、2つ以上に分割された延伸領域で温度差を1〜50℃で順次昇温しながら横延伸すると、幅方向の物性の分布が低減でき好ましい。さらに横延伸後、フィルムをその最終横延伸温度以下でTg−40℃以上の範囲に0.01〜5分間保持すると幅方向の物性の分布がさらに低減でき好ましい。
【0211】
熱固定は、その最終横延伸温度より高温で、Tg−20℃以下の温度範囲内で通常0.5〜300秒間熱固定する。この際、2つ以上に分割された領域で温度差を1〜100℃の範囲で順次昇温しながら熱固定することが好ましい。
【0212】
熱固定されたフィルムは通常Tg以下まで冷却され、フィルム両端のクリップ把持部分をカットし巻き取られる。この際、最終熱固定温度以下、Tg以上の温度範囲内で、横方向及び/または縦方向に0.1〜10%弛緩処理することが好ましい。また冷却は、最終熱固定温度からTgまでを、毎秒100℃以下の冷却速度で徐冷することが好ましい。冷却、弛緩処理する手段は特に限定はなく、従来公知の手段で行えるが、特に複数の温度領域で順次冷却しながらこれらの処理を行うことがフィルムの寸法安定性向上の点で好ましい。なお、冷却速度は、最終熱固定温度をT1、フィルムが最終熱固定温度からTgに達するまでの時間をtとしたとき、(T1−Tg)/tで求めた値である。
【0213】
これら熱固定条件、冷却、弛緩処理条件のより最適な条件は、フィルムを構成するセルロースエステルにより異なるので、得られた二軸延伸フィルムの物性を測定し、好ましい特性を有するように適宜調整することにより決定すればよい。
【0214】
本発明の光学フィルムは偏光板保護フィルム用として用いることができる。偏光板保護フィルムとして用いる場合、偏光板の作製方法は特に限定されず、一般的な方法で作製することができる。得られた光学フィルムをアルカリ処理し、ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の両面に完全鹸化ポリビニルアルコール水溶液を用いて、偏光子の両面に偏光板保護フィルムを貼り合わせる方法があり、少なくとも片面に本発明の偏光板保護フィルムである光学フィルムが偏光子に直接貼合できる観点で好ましい。
【0215】
また、上記アルカリ処理の代わりに特開平6−94915号、同6−118232号に記載されているような易接着加工を施して偏光板加工を行ってもよい。
【0216】
偏光板は偏光子及びその両面を保護する保護フィルムで構成されており、さらに偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを、反対面にセパレートフィルムを貼合して構成することができる。プロテクトフィルム及びセパレートフィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。この場合、プロテクトフィルムは、偏光板の表面を保護する目的で貼合され、偏光板を液晶板へ貼合する面の反対面側に用いられる。また、セパレートフィルムは液晶板へ貼合する接着層をカバーする目的で用いられ、偏光板を液晶セルへ貼合する面側に用いられる。
【0217】
(延伸操作、屈折率制御)
本発明の光学フィルムは、延伸操作により屈折率制御を行うことができる。延伸操作としては、セルロースエステルの1方向に1.0〜2.0倍及びフィルム面内にそれと直交する方向に1.01〜2.5倍延伸することで好ましい範囲の屈折率に制御することができる。
【0218】
例えばフィルムの長手方向及びそれとフィルム面内で直交する方向、即ち幅手方向に対して、逐次または同時に延伸することができる。このとき少なくとも1方向に対しての延伸倍率が小さ過ぎると十分な位相差が得られず、大き過ぎると延伸が困難となり破断が発生してしまう場合がある。
【0219】
例えば溶融して流延した方向に延伸した場合、幅方向の収縮が大き過ぎると、フィルムの厚み方向の屈折率が大きくなり過ぎてしまう。この場合、フィルムの幅収縮を抑制あるいは、幅方向にも延伸することで改善できる。幅方向に延伸する場合、幅手で屈折率に分布が生じる場合がある。これは、テンター法を用いた場合にみられることがあるが、幅方向に延伸したことで、フィルム中央部に収縮力が発生し、端部は固定されていることにより生じる現象で、所謂ボーイング現象と呼ばれるものと考えられる。この場合でも、流延方向に延伸することで、ボーイング現象を抑制でき、幅手の位相差の分布を少なく改善できるのである。
【0220】
さらに、互いに直交する2軸方向に延伸することにより、得られるフィルムの膜厚変動が減少できる。光学フィルムの膜厚変動が大き過ぎると位相差のムラとなり、液晶ディスプレイに用いたとき着色等のムラが問題となることがある。
【0221】
セルロースエステルフィルム支持体の膜厚変動は、±3%、さらに±1%の範囲とすることが好ましい。以上のような目的において、互いに直交する2軸方向に延伸する方法は有効であり、互いに直交する2軸方向の延伸倍率は、それぞれ最終的には流延方向に1.0〜2.0倍、幅方向に1.01〜2.5倍とすることが好ましく、流延方向に1.01〜1.5倍、幅方向に1.05〜2.0倍で行うことが好ましい。
【0222】
応力に対して、正の複屈折を得るセルロースエステルを用いる場合、幅方向に延伸することで、光学フィルムの遅相軸が幅方向に付与することができる。この場合、本発明において、表示品質の向上のためには、光学フィルムの遅相軸が、幅方向にある方が好ましく、(幅方向の延伸倍率)>(流延方向の延伸倍率)を満たすことが好ましい。
【0223】
ウェブを延伸する方法には特に限定はない。例えば、複数のロールに周速差をつけ、その間でロール周速差を利用して縦方向に延伸する方法、ウェブの両端をクリップやピンで固定し、クリップやピンの間隔を進行方向に広げて縦方向に延伸する方法、同様に横方向に広げて横方向に延伸する方法、あるいは縦横同時に広げて縦横両方向に延伸する方法等が挙げられる。もちろんこれらの方法は、組み合わせて用いてもよい。また、所謂テンター法の場合、リニアドライブ方式でクリップ部分を駆動すると滑らかな延伸を行うことができ、破断等の危険性が減少できるので好ましい。
【0224】
製膜工程のこれらの幅保持あるいは横方向の延伸はテンターによって行うことが好ましく、ピンテンターでもクリップテンターでもよい。
【0225】
本発明の光学フィルムは、表面粗さRaが1μm以下であることが好ましい。Raが1μmより大きいと、前述した各種機能層を設けた場合に表面が凹凸になったり、凸状欠陥として残ったりして、平滑性、光沢感が損なわれることがある。Raを1μm以下にするためには、溶融押出し直後の引取りロールや延伸ロールの表面を鏡面としたり、ロールで引き取った直後に鏡面ロール同士でニップしたり、縦及びまたは横延伸の温度、倍率、延伸速度を適切に選定することで達成される。また、溶融押出しダイのリップエッヂをシャープ化したり、ダイ内部の溶融樹脂と接触する面を鏡面化することもRaを低減するのに有効である。
【0226】
本発明の光学フィルムを偏光板保護フィルムとした場合、保護フィルムの厚さは10〜500μmが好ましい。特に20μm以上、さらに35μm以上が好ましい。また、150μm以下、さらに120μm以下が好ましい。特に好ましくは25以上〜90μmが好ましい。上記領域よりも光学フィルムが厚いと偏光板加工後の偏光板が厚くなり過ぎ、ノート型パソコンやモバイル型電子機器に用いる液晶表示においては、特に薄型軽量の目的には適さない。一方、上記領域よりも薄いと、リターデーションの発現が困難となること、フィルムの透湿性が高くなり偏光子に対して湿度から保護する能力が低下してしまうために好ましくない。
【0227】
本発明の光学フィルムの遅相軸または進相軸がフィルム面内に存在し、製膜方向とのなす角をθ1とするとθ1は−1°以上+1°以下であることが好ましく、−0.5°以上+0.5°以下であることがより好ましい。このθ1は配向角として定義でき、θ1の測定は、自動複屈折計KOBRA−21ADH(王子計測機器)を用いて行うことができる。
【0228】
θ1が各々上記関係を満たすことは、表示画像において高い輝度を得ること、光漏れを抑制または防止することに寄与でき、カラー液晶表示装置においては忠実な色再現を得ることに寄与できる。
【0229】
(液晶表示装置)
液晶表示装置には通常2枚の偏光板の間に液晶を含む基板が配置されているが、本発明の光学フィルムを適用した偏光板保護フィルムはどの部位に配置しても優れた表示性が得られる。特に液晶表示装置の表示側最表面の偏光板保護フィルムにはクリアハードコート層、防眩層、反射防止層等が設けられるため、該偏光板保護フィルムをこの部分に用いることが特に好ましい。また光学補償層を設けた偏光子保護フィルムや、延伸操作等によりそれ自身に適切な光学補償能を付与した偏光子保護フィルムの場合には、液晶セルと接する部位に配置することで、優れた表示性が得られる。
【実施例】
【0230】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、特に断りない限り、実施例中の「%」は「質量%」を表す。
【0231】
〔光学フィルムの作製〕
下記材料を用いて光学フィルム1〜9を作製した。
【0232】
セルロースエステル:下記C−1、C−2及びC−3の等量混合物
C−1:セルロースアセテートプロピオネート(アセチル置換度1.9、プロピオニル基置換度0.8、分子量Mn=70000、分子量Mw=220000、Mw/Mn=3)
C−2:セルロースアセテートプロピオネート(CAP482−20(イーストマンケミカル社製))
C−3:セルロースアセテートブチレート(CAB171−15(イーストマンケミカル社製))
可塑剤:トリメチロールプロパントリベンゾエート
劣化防止剤:IRGANOX−1010(ヒンダードフェノール化合物、チバスペシャルティケミカルズ社製)
紫外線吸収剤:チヌビン(TINUVIN)360(チバスペシャルティケミカルズ社製)
マット剤:アエロジル(AEROSIL)200V(0.016μmのシリカ微粒子、日本アエロジル社製)
(光学フィルム1)
セルロースエステル100質量部、可塑剤8質量部、劣化防止剤0.5質量部、紫外線吸収剤0.5質量部及びマット剤0.05質量部をV型混合機で30分間混合して不二パウダル(株)ディスクペレッターF−5を用いてペレット化した後、真空加熱(0.001気圧、80℃)で水分除去し、ペレット周囲は乾燥加熱空気が満たされるように乾燥加熱空気を供給して、ペレットをテクノベル(株)製二軸押出し機の原料ホッパーに供給し、溶融押出し流延製膜し、光学フィルム1を作製した。なお、二軸押出し機の模式図を図2に示す。
【0233】
押出し機の設定温度を原料ホッパー1からバレル先端に向かって220、230、230℃とし、Tダイを240℃とした。Tダイはコートハンガータイプで、間隙を300μmとした。間隙は、押し引きボルトにより、製膜したフィルムの厚みに応じて調整可能となっている。
【0234】
溶融押出したフィルムは120℃に温調した2本のクロムメッキ鏡面ロールの間に落として引取り3本ロール間を通し、エッジをスリットした後ワインダーに巻き取った。
【0235】
巻き取ったフィルムの厚みが80μmになるように押出し量と引取りロールの回転速度を調整した。
【0236】
(光学フィルム2)
光学フィルム1の作製において、セルロースエステルのみを事前に真空加熱(0.001気圧、80℃)で水分除去し、乾燥窒素ガスを供給して大気圧とした後、乾燥窒素ガスを満たした不二パウダル(株)ディスクペレッターF−5に他の材料とともに添加し混合してペレット化し、他は同様にして光学フィルム2を作製した。
【0237】
(光学フィルム3)
光学フィルム2の作製において、添加する可塑剤及び劣化防止剤を事前に真空加熱(0.001気圧、80℃)で水分除去し、他は同様にして光学フィルム3を作製した。
【0238】
(光学フィルム4)
光学フィルム1の作製において、全部の材料を混合して不二パウダル(株)ディスクペレッターF−5でペレット化した後、0.3気圧の減圧下で100℃に加熱して水分除去し、ペレット周囲は0.3気圧の減圧が維持されるように密閉して、他は同様にして光学フィルム4を作製した。
【0239】
(光学フィルム5)
光学フィルム1の作製において、ペレット造粒機を加熱手段と減圧(0.3気圧)手段、乾燥窒素供給手段を設けた密閉可能構造に改造し、セルロースエステルのみを供給し、減圧加熱し、乾燥窒素の供給を減圧状態で行ない減圧下の気体の全てを実質的に乾燥窒素に置換、乾燥終了後に、他の材料を添加し混合してペレット化した後(減圧手段と窒素供給は断続運転して乾燥状態を維持)、減圧状態と乾燥窒素雰囲気が維持される密閉状態を維持して、他は同様にして光学フィルム5を作製した。
【0240】
(光学フィルム6)
光学フィルム5の作製において、添加する可塑剤、劣化防止剤を事前に水分除去し、他は同様にして光学フィルム6を作製した。
【0241】
(光学フィルム7)
光学フィルム6の作製において、ペレット化時に、紫外線吸収剤及びマット剤を添加し、他は同様にして光学フィルム7を作製した。
【0242】
(光学フィルム8)
光学フィルム7の作製において、紫外線吸収剤及びシリカ微粒子を事前に減圧加熱(0.01気圧、200℃)、乾燥窒素ガス供給して水分除去し、他は同様にして光学フィルム8を作製した。
【0243】
(光学フィルム9)
光学フィルム2の作製において、紫外線吸収剤及びマット剤を事前に減圧加熱(0.01気圧、200℃)、乾燥窒素ガス供給して水分除去し、押し出し機の途中(図2の添加剤ホッパー2)より添加し、他は同様にして光学フィルム9を作製した。
【0244】
〔光学フィルムの評価〕
作製した光学フィルムについて下記の評価を行った。評価の結果を表1に示す。
【0245】
(着色度)
分光光度計U−3400(日立製作所(株))を用い、波長587.5nmにおける透過率を測定した。
【0246】
(耐湿度寸法変化)
得られた光学フィルムを、長手方向150mm×幅方向120mmサイズに断裁し、フィルム表面に100mm間隔で2カ所にカミソリ等の鋭利な刃物で十文字型の印を付し、23℃55%RHの環境下で24時間以上調湿し、顕微鏡で処理前の搬送方向、及び幅方向のそれぞれの印間距離L1を測定する。次に、試料を高温高湿槽中で高温高湿処理(条件;80℃90%RHの環境下で120時間放置する)する。再び、試料を23℃55%RHの環境下で24時間調湿し、顕微鏡で処理後の搬送方向及び幅方向のそれぞれの印間距離L2を測定する。この処理前後の寸法変化率を次式によって求め、耐湿度寸法変化とする。
【0247】
寸法変化率(%)=(L1−L2)/L1×100
L1:処理前の印間距離
L2:処理後の印間距離
【0248】
【表1】

【0249】
表1より、本発明の条件で作製した試料はいずれも、寸法変化率が小さく安定性に優れていることが確認され、特に事前に全ての材料を水分除去して作製した光学フィルム8は寸法変化率が小さく、良好な結果が得られた。これに対して比較の光学フィルム1、4は寸法変化率が大きかった。
【0250】
また、着色度についても本発明の条件で作製した試料は比較の試料に比べ優れていた。
【0251】
実施例2
〔偏光板の作製〕
実施例1で作製した光学フィルム7〜9及び市販のKC8UY(コニカミノルタ社製80μmTACフィルム)を下記のアルカリケン化処理し、それぞれ偏光板7〜9を作製した。
【0252】
(アルカリケン化処理)
ケン化工程 2mol/L NaOH 50℃ 90秒
水洗工程 水 30℃ 45秒
中和工程 10質量%HCl 30℃ 45秒
水洗工程 水 30℃ 45秒
ケン化処理後、水洗、中和、水洗の順に行い、次いで80℃で乾燥した。
【0253】
(偏光子の作製)
厚さ120μmの長尺ロールポリビニルアルコールフィルムを沃素1質量部、ホウ酸4質量部を含む水溶液100質量部に浸漬し、50℃で6倍に搬送方向に延伸して偏光子を作製した。
【0254】
偏光子の液晶セル側に上記作製した光学フィルム(位相差フィルムとして使用)、液晶セルと反対側の面にKC8UYを保護フィルムとして、アルカリケン化処理面を完全鹸化型ポリビニルアルコール5質量%水溶液を接着剤として両面から貼合し、両面に保護フィルムが貼合された偏光板を作製した。
【0255】
〔偏光板の評価〕
作製した偏光板について、下記のようにして、耐久性の評価を行った。その結果、偏光板7は○、偏光板8、9は◎であった。
【0256】
(耐久性:高温−高湿耐性試験)
偏光板を、湿熱環境を維持できる恒温室で、60℃、90%RH、500時間処理した。処理後の偏光板を2枚に裁断した。23℃、55%RHで24時間放置後、光学フィルム(位相差フィルム)側が各々内側になるように2枚を直交ニコルの状態として、観察者/偏光板直交ニコル/バックライトの構成で、偏光挙動を正面から目視で観察し、高温−高湿処理しない試料との比較により下記基準で評価を行った。
【0257】
◎:変化しない
○:やや劣化したが十分黒い状態である
×:輝点が認められ、ディスプレイ用偏光板としては使用できない
その結果、偏光板7は○、偏光板8、9は◎であった。
【0258】
〔VA型液晶表示装置の作製〕
富士通製15型液晶ディスプレイVL−1530Sに貼合されていた偏光板を剥がし、上記作製した偏光板7〜9の透過軸が、貼合されていた偏光板の透過軸と同じ方向になるよう貼合し、VA型液晶表示装置7〜9を作製した。偏光板は2枚同一品を用意し、図3で示すように液晶セルに対して観察側及びバックライト側に各々1枚ずつ使用した。各々の偏光板に貼合された光学フィルム(位相差フィルム)が、液晶セル側に配置されるように貼合した。
【0259】
〔VA型液晶表示装置の評価〕
作製したVA型液晶表示装置について、下記のようにしてコントラストを評価した。
【0260】
(コントラスト)
コントラスト評価は、上記で得られた偏光板を貼合した液晶パネルを、60℃、90%RH下で500時間高温高湿処理した後、ELDIM社製EZ−contrastを用いて測定した。測定方法は、液晶パネルの白表示と黒表示時のコントラスト比が10以上を示すパネル面に対する法線方向からの傾き角の範囲を評価した。法線上を0°とすると傾き角が大きくなるほど視野角領域が広いこととなる。
【0261】
評価パネルは水平方向を0°とした時、斜め45°方位におけるコントラストの値で、下記基準で評価した。
【0262】
◎:パネル面に対する法線方向からの傾き角が80°以上である
○:パネル面に対する法線方向からの傾き角が70°以上80°未満である
×:パネル面に対する法線方向からの傾き角が70°に満たない
評価の結果、VA型液晶表示装置7は○、VA型液晶表示装置8、9はともに◎であった。本発明の偏光板を用いて作製した液晶表示装置は、高温−高湿耐性試験後も、長時間高いコントラストを維持することが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0263】
【図1】加熱溶融流延法による光学フィルムの製造装置の概略図である。
【図2】二軸押出し機の模式図である。
【図3】表示装置の構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0264】
1 原料ホッパー
2 添加剤ホッパー
1a 保護フィルム
1b 保護フィルム
2a 光学フィルム(位相差フィルム)
2b 光学フィルム(位相差フィルム)
5a、5b 偏光子
3a、3b フィルムの遅相軸方向
4a、4b 偏光子の透過軸方向
6a、6b 偏光板
7 液晶セル
9 液晶表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともセルロースエステルと可塑剤を含有し、加熱溶融流延法により製造する光学フィルムの製造方法において、セルロースエステル原料を水分除去工程で処理した後、加熱溶融流延時の温度より低い温度で、該セルロースエステル原料への外気中の水分の再吸収抑制手段を設けた、少なくとも該セルロースエステルと該可塑剤を混合して造粒またはペレット化する事前混合粒子化工程で処理し、造粒またはペレット化した混合粒子を溶融押し出し流延製膜することを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記外気中の水分の再吸収抑制手段が、減圧する手段または乾燥窒素ガスを供給する手段であることを特徴とする請求項1に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項3】
劣化防止剤、紫外線吸収剤、マット剤の少なくとも1種を、前記造粒またはペレット化する事前混合粒子化工程で添加することを特徴とする請求項1または2に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記造粒またはペレット化する事前混合粒子化工程で添加するセルロースエステル原料以外の材料の少なくとも1種について、事前に水分除去することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項5】
少なくともセルロースエステルと可塑剤を含有し、加熱溶融流延法により製造する光学フィルムの製造方法において、加熱溶融流延時の温度より低い温度で、少なくともセルロースエステルと可塑剤を混合して造粒またはペレット化する事前混合粒子化工程で処理し、造粒またはペレット化した混合粒子を溶融押し出し流延製膜するとき、事前混合粒子化工程以前に、減圧によりセルロースエステルより水分除去する密閉容器と減圧手段を設け、さらに該密閉容器に乾燥窒素ガスを供給する手段を設けて、該密閉容器内でセルロースエステルが該乾燥窒素ガスと接して、該密閉容器から該混合粒子を溶融押し出し流延製膜する工程までの経路で該セルロースエステルへの外気中の水分の再吸収抑制手段を設けることを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記減圧によりセルロースエステルより水分除去する工程は、該セルロースエステルを可塑剤と混合する前のセルロースエステル単体に対して行い、密閉容器にはセルロースエステルを加熱する加熱手段を設けることを特徴とする請求項5に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項7】
密閉容器内にセルロースエステルが存在する状態で、減圧下で該密閉容器内に供給する気体は乾燥窒素ガスであることを特徴とする請求項5または6に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項8】
劣化防止剤、紫外線吸収剤、マット剤の少なくとも1種を、前記造粒またはペレット化する事前混合粒子化工程で添加することを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記造粒またはペレット化する事前混合粒子化工程で添加するセルロースエステル原料以外の材料の少なくとも1種について、事前に水分除去することを特徴とする請求項5〜8のいずれか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の光学フィルムの製造方法で得られることを特徴とする光学フィルム。
【請求項11】
請求項10に記載の光学フィルムを偏光板保護フィルムとして使用することを特徴とする偏光板。
【請求項12】
請求項11に記載の偏光板を使用することを特徴とする液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−123177(P2006−123177A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−310619(P2004−310619)
【出願日】平成16年10月26日(2004.10.26)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】