説明

光学フィルムの製造方法

【課題】フィルムの白化を防止しつつ可及的速やかに基材フィルム上に密着層を形成しうる光学フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】基材フィルム上にポリウレタン系樹脂溶液を塗工し、該樹脂溶液を乾燥させて密着層を形成する密着層形成工程を備えた光学フィルムの製造方法であって、前記ポリウレタン系樹脂溶液が、ポリウレタン系樹脂の良溶媒と貧溶媒とが混合された混合溶媒にポリウレタン系樹脂が溶解されてなるものであり、該混合溶媒が、前記基材フィルムを溶解せず、且つ、前記良溶媒の少なくとも一成分が、下記式(1)t2−10≦t1≦t2+10・・・(1)(t2(℃)は前記貧溶媒の沸点を示す)を満たす沸点t1(℃)の良溶媒成分であることを特徴とする光学フィルムの製造方法による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルムの製造方法、より詳しくは、密着層を介して基材フィルムと樹脂塗工層とが積層されてなる光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置等の画像表示装置に使用される光学フィルムとして、例えば、光学補償を目的とした位相差板などが知られている。
この種の光学フィルムは、透明な基材フィルムとその基材フィルム上に積層された樹脂塗工層とを備えてなり、主として該樹脂塗工層によって所望の光学特性が発揮されるように構成されている。このような樹脂塗工層の光学特性は、特定の樹脂溶液を基材フィルム上に塗工し、更に、該塗工により形成された樹脂塗工層を所定の方向へ延伸させることによって発現されるものである。従って、基材フィルムと樹脂塗工膜との密着性を高めることは、単に基材フィルムと樹脂塗工層との剥離を防止するだけでなく、安定した光学特性を発揮させる上でも極めて重要となる。
【0003】
このような観点から、基材フィルムに予め密着層を形成しておき、該密着層の上に樹脂塗工液を塗工することにより、該基材フィルムと樹脂塗工層との密着性を高める方法が提案されている。
例えば、下記特許文献1には、透明高分子フィルム上にポリウレタン系樹脂溶液を塗布することにより密着層を形成し、且つ該密着層上に複屈折層を形成して積層フィルムとし、更に、該積層フィルムを延伸処理する光学フィルムの製造方法が記載されている。
該引用文献1記載の方法によれば、密着層によって基材フィルムと複屈折層との密着性が高められた結果、基材フィルムと複屈折層との剥離が抑制され、フィルム面方向における光学特性のバラツキの少ない光学フィルムを製造することが可能となっている。
【0004】
【特許文献1】特開2006−221188号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本発明者らの研究によれば、上記特許文献1記載の方法では、比較的低速で密着層を形成する際には問題なく所望の光学フィルムが得られるものの、密着層の形成速度を上げた際には、乾燥条件等によって得られるフィルムが白化する場合がある、という新たな問題点が見出された。
【0006】
そこで、本発明は、フィルムの白化を防止しつつ可及的速やかに基材フィルム上に密着層を形成しうる光学フィルムの製造方法を提供することを一の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、密着層の塗布時に用いる樹脂溶液の溶媒について、特定の溶媒を用いることによりフィルムの白化を抑制しつつ速やかに密着層を形成しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、基材フィルム上にポリウレタン系樹脂溶液を塗工し、該樹脂溶液を乾燥させて密着層を形成する密着層形成工程を備えた光学フィルムの製造方法であって、前記ポリウレタン系樹脂溶液が、ポリウレタン系樹脂に対する良溶媒と貧溶媒とが混合された混合溶媒にポリウレタン系樹脂が溶解されてなるものであり、該混合溶媒が、前記基材フィルムを溶解せず、且つ、前記良溶媒の少なくとも一成分が、下記式(1)
t2−10≦t1≦t2+10・・・(1)
〔ここで、t2(℃)は前記貧溶媒の沸点を示す〕
を満たす沸点t1(℃)の良溶媒成分であることを特徴とする光学フィルムの製造方法を提供する。
【0009】
尚、本発明において、良溶媒成分とは、溶媒100重量部に対する溶質(ポリウレタン系樹脂)の溶解量が50重量部以上である一溶媒成分をいい、貧溶媒成分とは、溶媒100重量部に対する溶質(ポリウレタン系樹脂)の溶解量が10重量部以下である一溶媒成分をいう。また、複数の貧溶媒成分を含む場合、前記式(1)における貧溶媒の沸点t2(℃)は、各貧溶媒成分のモル分率と沸点との積を足し合わせたものとする。
また、本発明において、基材フィルムを溶解する、とは、正方形状(一辺50mm、厚み80μm)の基材フィルムを、25℃、500mlの溶剤中に1分間浸漬させた際に、その溶解量が10g/m2/min以上となることをいう。
【0010】
密着層を形成するためのポリウレタン系樹脂溶液の溶媒として、良溶媒と貧溶媒との混合溶媒を用い、且つ、該良溶媒の少なくとも一成分が、上記式(1)を満たすような沸点t1(℃)の良溶媒成分であることにより、良溶媒の揮発速度と貧溶媒の揮発速度との差が小さくなって良溶媒と貧溶媒の揮発速度差により生じるポリウレタン系樹脂の相分離、即ちフィルム面内での該樹脂濃度のバラツキが抑制されるため、乾燥後、フィルム面に生じる凹凸が減少し、その結果、光の乱反射が抑制されてフィルムの白化が防止されるものと考えられる。
【0011】
また、本発明は、前記良溶媒の一成分としてメチルエチルケトンを含み、前記樹脂溶液が、前記メチルエチルケトン45重量%未満と、メチルエチルケトン以外の良溶媒25重量%以上と、これら良溶媒の合計量よりも少ない量の貧溶媒とを含んで構成されていることを特徴とする前記光学フィルムの製造方法を提供する。
【0012】
斯かる構成の混合溶媒を用いた場合には、上述のような白化防止効果に加え、透明性に優れた光学フィルムが得られやすいという効果がある。これは、塗布された前記ポリウレタン系樹脂溶液の溶媒が揮発する際、その揮発速度が早い場合に塗膜の急激な温度低下が生じ、該温度低下によって雰囲気等から水分が凝縮し、さらにその水分が再び蒸発する際に凹凸を生じさせる等の理由によりフィルムの透明性が低下する場合があると推測されるが、上記のような樹脂溶液を用いることにより、塗膜の急激な温度低下が抑制され、水分凝縮等に起因する透明性低下が防止されると考えられる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明に係る光学フィルムの製造方法によれば、フィルムの白化を防止しつつ、速やかに基材フィルム上に密着層を形成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に係る光学フィルムの製造方法は、基材フィルム上にポリウレタン系樹脂溶液を塗工し、該樹脂溶液を乾燥させて密着層を形成する密着層形成工程を備えた光学フィルムの製造方法であって、前記ポリウレタン系樹脂溶液が、ポリウレタン系樹脂の良溶媒と貧溶媒との混合溶媒にポリウレタン系樹脂が溶解されてなるものであり、該混合溶媒が、前記基材フィルムを溶解せず、且つ、前記良溶媒の少なくとも一成分が、下記式(1)を満たす沸点t1(℃)の良溶媒成分であることを特徴とするものである。
t2−10≦t1≦t2+10・・・(1)
〔ここで、t2(℃)は貧溶媒の沸点を示す〕
【0015】
前記ポリウレタン系樹脂としては、ポリエステル系ポリウレタン(変性ポリエステルウレタン、水分散系ポリエステルウレタン、溶剤系ポリエステルウレタン)、ポリエーテル系ウレタン、ポリカーボネート系ウレタン等を挙げることができる。これらのポリウレタン系樹脂は、自己乳化型又は強制乳化型のものであっても良い。これらのポリウレタンの中でもポリエステル系ポリウレタンが好ましい。これらのポリウレタン系樹脂は、一般的にポリオールとポリイソシアネートとから製造される。
【0016】
前記ポリオールとしては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、その他のポリオール等を挙げることができる。
【0017】
前記ポリエステルポリオールは、脂肪酸とポリオールとの反応物であり、該脂肪酸としては、例えば、リシノール酸、オキシカプロン酸、オキシカプリン酸、オキシウンデカン酸、オキシリノール酸、オキシステアリン酸、オキシヘキサンデセン酸のヒドロキシ含有長鎖脂肪酸等を挙げることができる。脂肪酸と反応するポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール及びジエチレングリコール等のグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン及びトリエタノールアミン等の3官能ポリオール、ジグリセリン及びペンタエリスリトール等の4官能ポリオール、ソルビトール等の6官能ポリオール、シュガー等の8官能ポリオール、これらのポリオールに相当するアルキレンオキサイドと脂肪族、脂環族、芳香族アミンとの付加重合物や、該アルキレンオキサイドとポリアミドポリアミンとの付加重合物等を挙げることができる。
【0018】
前記ポリエーテルポリオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、4,4'−ジヒドロキシフェニルプロパン、4,4'−ジヒドロキシフェニルメタン等の2価アルコ−ルあるいはグリセリン、1,1,1−トリメチロ−ルプロパン、1,2,5−ヘキサントリオ−ル、ペンタエリスリト−ル等の3価以上の多価アルコ−ルと、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、α−オレフィンオキサイド等のアルキレンオキサイドとの付加重合物等を挙げることができる。
【0019】
その他のポリオ−ルとして、主鎖が炭素−炭素よりなるポリオ−ル、例えば、アクリルポリオ−ル、ポリブタジエンポリオ−ル、ポリイソプレンポリオ−ル、水素添加ポリブタジエンポリオ−ル、AN(アクリロニトリル)やSM(スチレンモノマ−)を前記した炭素−炭素ポリオ−ルにグラフト重合したポリオ−ル、ポリカ−ボネ−トポリオ−ル、PTMG(ポリテトラメチレングリコ−ル)等を挙げることができる。
【0020】
前記ポリイソシアネ−トとしては、芳香族ポリイソシアネ−ト、脂肪族ポリイソシアネ−ト、脂環式ポリイソシアネ−ト等を挙げることができる。芳香族ポリイソシアネ−トとしては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネ−ト(MDI)、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネ−ト(粗MDI)、トリレンジイソシアネ−ト(TDI)、ポリトリレンポリイソシアネ−ト(粗TDI)、キシレンジイソシアネ−ト(XDI)、ナフタレンジイソシアネ−ト(NDI)等を挙げることができる。脂肪族ポリイソシアネ−トとしては、ヘキサメチレンジイソシアネ−ト(HDI)等を挙げることができる。脂環式ポリイソシアネ−トとしては、イソホロンジイソシアネ−ト(IPDI)等を挙げることができる。この他に、上記ポリイソシアネ−トをカルボジイミドで変性したポリイソシアネ−ト(カルボジイミド変性ポリイソシアネ−ト)、イソシアヌレ−ト変性ポリイソシアネ−ト、ウレタンプレポリマ−(例えばポリオ−ルと過剰のポリイソシアネ−トとの反応生成物であってイソシアネ−ト基を分子末端にもつもの)等を挙げることができる。これらは単独あるいは混合物として使用してもよい。
【0021】
該ポリウレタン系樹脂を溶解させる溶媒として、本発明では、該樹脂に対する良溶媒と貧溶媒とが混合されてなる混合溶媒を使用する。
【0022】
前記良溶媒を構成する成分としては、メチルエチルケトン(MEK)、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロペンタノン等のケトン類を用いることができる。
【0023】
また、本発明においては、良溶媒として、上記良溶媒成分の中から、前記式(1)を満たす沸点t1(℃)の良溶媒成分を少なくとも一つ含むものとする。
前記沸点t1(℃)の良溶媒成分を混合することにより、貧溶媒と良溶媒との沸点差が小さくなって両溶媒の揮発速度が近似することとなるため、樹脂成分の相分離を防止することができ、延いてはフィルム面の凹凸に起因するフィルムの白化を防止することが可能となる。
【0024】
特に、基材フィルムとして多用されるセルロース系フィルムを溶解せず、ポリウレタン系樹脂の貧溶媒として多用されるトルエンの沸点t2(℃)に近い沸点t1(℃)を有するという観点から、前記良溶媒成分としてジエチルケトン又はメチルプロピルケトンの少なくとも何れか一方を用いることが好ましい。
【0025】
一方、前記貧溶媒の成分については特に限定されるものではなく、例えば、トルエン、酢酸プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル等のカルボン酸類や、n−ブタノール、イソブタノール、2−ブタノール等のアルコール類を用いることができ、また、これらは単独あるいは混合物として使用することができる。
【0026】
該ポリウレタン系樹脂溶液中の樹脂濃度については特に限定されるものではないが、塗工し易さという観点から、1〜20重量%が好ましく、4〜6重量%がより好ましい。
【0027】
より具体的には、前記樹脂溶液として、メチルエチルケトン(良溶媒)を25〜40重量%含有し、シクロヘキサノン(良溶媒)を2〜5重量%含有し、ジエチルケトン(良溶媒)を25〜40重量%含有し、トルエン(貧溶媒)を15〜30重量%含有するものが好ましい。
また、前記式(1)を満たす沸点t1(℃)を有するような良溶媒成分が、全良溶媒成分のうち40〜50重量%であることが好ましい。
このような溶液組成の場合には、フィルムの白化防止に加えて、透明性に優れたフィルムが得られるという効果がある。
【0028】
また、前記基材フィルムについても特に限定されるものではないが、透明高分子フィルムにより形成されてなるものを好適に使用でき、該透明高分子フィルムとしては、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮蔽性、等方性などに優れるものが好ましく用いられる。該透明高分子フィルムとしては、主成分として、例えばポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル系ポリマー、ジアセチルセルロースやトリアセチルセルロース等のセルロース系ポリマー、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系ポリマー、ポリスチレンやアクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)等のスチレン系ポリマー、又は、ポリカーボネート系ポリマー等が用いられてなるフィルムが挙げられる。また、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロ系ないしはノルボルネン構造を有するポリオレフィン、エチレン・プロピレン共重合体の如きポリオレフィン系ポリマー、塩化ビニル系ポリマー、ナイロンや芳香族ポリアミド等のアミド系ポリマー、イミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、塩化ビニリデン系ポリマー、ビニルブチラール系ポリマー、アリレート系ポリマー、ポリオキシメチレン系ポリマー、エポキシ系ポリマー、又は、これらのポリマーのブレンド物などが用いられてなるフィルムが挙げられる。
これらのフィルムの中でも、トリアセチルセルロースフィルム、側鎖にイミド基、フェニル基若しくはニトリル基を有する熱可塑性樹脂により形成されてなるフィルム(以下、「HTフィルム」という場合がある。)又はノルボルネン系樹脂フィルムが好ましい。
HTフィルムとしては、主に側鎖に置換又は非置換のイミド基を有する熱可塑性樹脂により形成されてなるフィルム、主に側鎖に置換又は非置換のフェニル基ならびにニトリル基を有する熱可塑性樹脂により形成されてなるフィルム、又は、主に側鎖に置換又は非置換のイミド基を有する熱可塑性樹脂と側鎖に置換又は非置換のフェニル基ならびにニトリル基を有する熱可塑性樹脂とにより形成されてなるフィルム等を用いることができる。
【0029】
前記ノルボルネン系樹脂フィルムとは、主成分として、ノルボルネン系モノマーが重合した樹脂が用いられてなるフィルムであり、該ノルボルネン系モノマーとしては、例えば、ノルボルネン、そのアルキル及び/又はアルキリデン置換体、又はこれらのハロゲン等の極性基置換体;ジシクロペンタジエン、2,3−ジヒドロジシクロペンタジエン等;ジメタノオクタヒドロナフタレン、そのアルキル及び/又はアルキリデン置換体、又はこれらのハロゲン等の極性基置換体;シクロペンタジエンの3〜4量体等が挙げられる。
前記ノルボルネンのアルキル及び/又はアルキリデン置換体としては、例えば、5−メチル−2−ノルボルネン、5−ジメチル−2−ノルボルネン、5−エチル−2−ノルボルネン、5−ブチル−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン等が挙げられる。
前記ジメタノオクタヒドロナフタレン、そのアルキル及び/又はアルキリデン置換体、又はハロゲン等の極性基置換体としては、例えば、6−メチル−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−エチル−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−エチリデン−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−クロロ−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−シアノ−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−ピリジル−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−メトキシカルボニル−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン等が挙げられる。
前記シクロペンタジエンの3〜4量体としては、例えば、4,9:5,8−ジメタノ−3a,4,4a,5,8,8a,9,9a−オクタヒドロ−1H−ベンゾインデン、4,11:5,10:6,9−トリメタノ−3a,4,4a,5,5a,6,9,9a,10,10a,11,11a−ドデカヒドロ−1H−シクロペンタアントラセン等が挙げられる。
【0030】
前記基材フィルムには、必要に応じて光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、充填剤などの各種添加剤が配合されていてもよい。また、コロナ処理等の公知の表面改質処理が行なわれていてもよい。
【0031】
前記基材フィルムの厚さは、特に制限されないが、3〜300μmが好ましく、特に10〜100μmが好ましい。
【0032】
上述の如き混合溶媒を用いて基材フィルム上に塗工されたポリウレタン系樹脂溶液は、温度が常温〜50℃であり、風速が1〜2m/sである風を当てて溶媒の蒸発を促進させながら乾燥させた場合であっても、白化を生じることなく密着層を形成しうる。
【0033】
本発明に係る光学フィルムの製造方法は、前記基材フィルム上に、上述の如きポリウレタン系樹脂溶液を塗工して密着層を形成した後、該密着層の上に所望の光学特性を有する樹脂塗工層を積層することにより、光学フィルムを製造するものである。
【0034】
本発明の一実施形態としては、前記密着層を形成した後、該密着層の上に非液晶ポリマーを塗布することにより複屈折層を形成して積層フィルムとする積層工程と、該積層フィルムに延伸処理を施す延伸工程とを更に備えた光学フィルムの製造方法を挙げることができる。
密着層を介して複屈折層を積層することにより、基材フィルムと複屈折層との密着性を高めることができ、該積層フィルムに延伸処理を施した場合に複屈折層が均一に延伸され、光学特性のバラツキを低減することができる。
【0035】
特に、前記延伸工程が、前記複屈折層が積層されていない基材フィルムの端部のみを把持し、該基材フィルムのみを引っ張ることにより積層フィルムに延伸処理を施すような場合においては、前記密着層を介して基材フィルムと複屈折層とが強く密着していることにより基材フィルムと複屈折層との剥離が防止され、複屈折層についても均一な延伸処理が施されることとなり、光学特性のバラツキを低減しつつ好適な延伸処理を施すことができる。
【0036】
前記複屈折層は、好ましくは、下記式(2)の条件を満たすように設定される。
nx≧ny>nz ・・・(2)
前記式(2)において、nx、nyおよびnzは、それぞれ、前記複屈折層における、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向の屈折率を示す。また、前記X軸方向は、前記複屈折層の面内方向において最大の屈折率を示す軸方向であり、前記Y軸方向は、前記面内におけるX軸方向に対して垂直な軸方向であり、前記Z軸方向はX軸方向およびY軸方向に垂直な厚み方向を意味する。
非液晶ポリマーは、液晶性材料とは異なり、塗布の対象となるフィルムの配向性に関係なく、それ自身の性質によりnx>nz、ny>nzという光学的一軸性を示すものとなりうる。このため、塗布の対象となるフィルム(即ち、基材フィルム上に前記密着層が塗布形成されたもの)は、未配向性のものであっても密着層表面に配向膜が塗布されていたり、配向膜が積層されていることを要しない。
また、塗布の対象となるフィルムを加熱しながら延伸又は収縮することにより、nx>ny>nzの光学的二軸性を付与することができる。
前記複屈折層が上記式(1)の条件を満たす場合、例えば垂直配向(VA)モードの液晶表示装置に組み込んだ時、斜め方向のコントラストを大幅に向上させるという利点が有る。
尚、nx、ny、nzは、自動複屈折計(王子計測機器製 KOBRA−21ADH)を用い、測定に用いる波長を590nmとし、測定温度を25℃として測定される。
【0037】
更に、前記複屈折層は、好ましくは、その複屈折率Δn(a)が、前記基材フィルムの複屈折率をΔn(b)とした際に、下記式(3)の条件を満たすように設定される。
Δn(a)>Δn(b)×10 ・・・(3)
ここで、Δn(a)=nx(a)−nz(a)であり、nx(a)は複屈折層の面内の最大屈折率、nz(a)は複屈折層の厚み方向屈折率を示す。また、Δn(b)=nx(b)−nz(b)であり、nx(b)は透明高分子フィルム層の面内の最大屈折率、nz(b)は基材フィルムの厚み方向屈折率を示す。
前記式(3)の条件を満たす光学フィルムは、画像表示装置に使用した際に於ける表示ムラが極めて少なく、黒表示における虹ムラ等が低減され、視認性が大幅に向上するという利点を有している。
【0038】
前記非液晶ポリマーとしては特に限定されるものではなく、複屈折層の用途に応じて任意に選択することができ、例えば、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテルケトン、ポリアミド−イミド、或いは、ポリエステル−イミド等のポリマーなどが挙げられる。これらのポリマーは、いずれか一種類を単独で使用してもよく、また、例えば、ポリエーテルケトンとポリアミドとの混合物のように、異なる官能基を持つ2種類以上の混合物として使用してもよい。
このような樹脂の中でも、透明性、配向性及び延伸性に優れるという観点から、ポリイミドを好適に使用することができる。
【0039】
また、前記ポリマーの分子量は、特に制限されるものではないが、例えば、重量平均分子量(Mw)が1,000〜1,000,000の範囲であることが好ましく、より好ましくは、2,000〜500,000の範囲であることよい。また、前記ポリイミドとしては、例えば、面内配向性が高く、有機溶剤に可溶なポリイミドが好ましい。
【0040】
また、前記非液晶ポリマー等の樹脂を溶解させる溶剤としては、前記樹脂材料を溶解でき、且つ、前記フィルムを浸食しにくいものであればよく、使用する樹脂材料及びフィルムに応じ任意に選択することができる。具体的には、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、O−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、フェノール、パラクロロフェノール等のフェノール類、ベンゼン、トルエン、キシレン、メトキシベンゼン、1,2−ジメトキシベンゼン等の芳香族炭化水素類、アセトン、酢酸エチル、t−ブチルアルコール、グリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、ピリジン、トリエチルアミン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、ブチロニトリル、メチルイソブチルケトン、メチルエーテルケトン、シクロペンタノン、二硫化炭素等を用いることができる。
上記溶剤の中では、メチルイソブチルケトンが樹脂組成物の溶解性に優れ、且つ、基材フィルムを浸食することがないので特に好ましい。
これら溶剤は、1種又は2種以上を任意に組み合わせて使用することができる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0042】
(実施例1)
ポリウレタン系樹脂として、東洋紡社製「VYRON UR−1400」を用い、該樹脂成分5.5重量%、メチルエチルケトン55重量%、シクロヘキサノン3重量%、ジエチルケトン18.25重量%、トルエン18.25重量%からなる樹脂溶液を調製した。
【0043】
該樹脂溶液を、長尺のトリアセチルセルロース(TAC)フィルム上に塗布した後、温度22℃、風速0.04m/sの温風を当てて乾燥させた場合(乾燥条件a)、及び温度40℃、風速1.04m/sの温風を当てて乾燥させた場合(乾燥条件b)により、基材フィルム上に厚み0.8μmの密着層が形成された光学フィルムを作成した。
【0044】
得られた光学フィルムについて、白化の有無及び透明性の低下を評価した。
【0045】
また、25℃の各溶剤500ml中に、正方形状(一辺50mm、厚み80μm)のTACフィルムを1分間浸漬し、単位面積あたりのTAC溶解量を測定するとともに、各溶剤が配合された混合溶媒についても同様の測定を行い、TACに対する混合溶媒の溶解性を評価した。各溶剤に対するTACの溶解量を表1に示し、混合溶媒に対するTACの溶解性を表2に示す。尚、表2中、溶解量が10g/m2/min未満となったものには○、溶解量が10g/m2/min以上となったものには×を付した。
【0046】
(実施例2)
トルエンを12.17重量%、ジエチルケトンを24.33重量%とすることを除き、他は実施例1と同様にして評価を行った。
【0047】
(実施例3)
メチルエチルケトンを45.00重量%、トルエンを23.25重量%、ジエチルケトンを23.25重量%とすることを除き、他は実施例1と同様にして評価を行った。
【0048】
(実施例4)
メチルエチルケトンを45.00重量%、トルエンを15.50重量%、ジエチルケトンを31.00重量%とすることを除き、他は実施例1と同様にして評価を行った。
【0049】
(実施例5)
メチルエチルケトンを40.00重量%、トルエンを16.50重量%、ジエチルケトンを35.00重量%とすることを除き、他は実施例1と同様にして評価を行った。
【0050】
(実施例6)
メチルエチルケトンを40.00重量%、トルエンを21.50重量%、ジエチルケトンを30.00重量%とすることを除き、他は実施例1と同様にして評価を行った。
【0051】
(実施例7)
メチルエチルケトンを35.00重量%、トルエンを28.25重量%、ジエチルケトンを28.25重量%とすることを除き、他は実施例1と同様にして評価を行った。
【0052】
(実施例8)
メチルエチルケトンを35.00重量%、トルエンを18.83重量%、ジエチルケトンを37.67重量%とすることを除き、他は実施例1と同様にして評価を行った。
【0053】
(実施例9)
メチルエチルケトンを28.25重量%、トルエンを28.25重量%とし、ジエチルケトンに代えてメチルプロピルケトンを30.00重量%とすることを除き、他は実施例1と同様にして評価を行った。
【0054】
(比較例1)
メチルエチルケトンを45.75重量%、トルエンを45.75重量%とし、ジエチルケトンを混合しないことを除き、他は実施例1と同様にして評価を行った。
【0055】
(比較例2)
メチルエチルケトンを28.25重量%、トルエンを28.25重量%とし、ジエチルケトンに代えてシクロペンタノンを30.00重量%とすることを除き、他は実施例1と同様にして評価を行った。
【0056】
尚、各溶媒成分の沸点、及び溶媒成分100重量部に対する前記ポリウレタン系樹脂の溶解量は、下記表1の通りである。
【0057】
【表1】

【0058】
実施例及び比較例の樹脂溶液の組成(重量%)、及び得られた評価結果を下記表2に示す。
【表2】

【0059】
表2に示したように、貧溶媒の沸点t2に対して前記式(1)を満たすような沸点t1の良溶媒を混合しない比較例1の場合には、乾燥条件bにおいてフィルムが白化し、また、基材フィルムであるTACを溶解するような混合溶媒を用いた場合には、基材フィルムが溶解してフィルム自体が変形することが認められる。
一方、本発明に係る実施例1〜9では、フィルムの白化や基材フィルムの溶解による変形が生じることなく、特に、実施例5〜9では、そのような効果に加え、透明性に優れたフィルムが得られるという効果が発揮されることが認められる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルム上にポリウレタン系樹脂溶液を塗工し、該樹脂溶液を乾燥させて密着層を形成する密着層形成工程を備えた光学フィルムの製造方法であって、
前記ポリウレタン系樹脂溶液が、ポリウレタン系樹脂に対する良溶媒と貧溶媒とが混合された混合溶媒にポリウレタン系樹脂が溶解されてなるものであり、該混合溶媒が、前記基材フィルムを溶解せず、且つ、前記良溶媒の少なくとも一成分が、下記式(1)
t2−10≦t1≦t2+10・・・(1)
〔ここで、t2(℃)は前記貧溶媒の沸点を示す〕
を満たす沸点t1(℃)の良溶媒成分であることを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記良溶媒の一成分としてメチルエチルケトンを含み、前記樹脂溶液が、前記メチルエチルケトン45重量%未満と、メチルエチルケトン以外の良溶媒25重量%以上と、これら良溶媒の合計量よりも少ない量の貧溶媒とを含んで構成されていることを特徴とする請求項1記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記基材フィルムがトリアセチルセルロースからなり、前記貧溶媒の一成分としてトルエンを含み、前記式(1)を満たす沸点t1の良溶媒成分が、メチルプロピルケトン又はジエチルケトンの少なくとも何れか一方であることを特徴とする請求項1又は2記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記密着層形成工程の後、形成された密着層の上に非液晶ポリマーを塗布することにより複屈折層を形成して積層フィルムとする積層工程と、該積層フィルムに延伸処理を施す延伸工程とを更に備えたことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記延伸工程は、基材フィルムのみを引っ張ることにより積層フィルムに延伸処理を施すものであることを特徴とする請求項4記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記複屈折層が、下記式(2)の条件を満たすことを特徴とする請求項4又は5記載の光学フィルムの製造方法。
nx≧ny>nz・・・(2)
〔ここで、nx、ny、nzは、それぞれ、前記複屈折層における、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向の屈折率を示す。前記X軸方向は、前記複屈折層の面内方向において最大の屈折率を示す軸方向であり、前記Y軸方向は、前記面内におけるX軸方向に対して垂直な軸方向であり、前記Z軸方向はX軸方向およびY軸方向に垂直な厚み方向を意味する。〕
【請求項7】
前記非液晶ポリマーが、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテルケトン、ポリアミドイミドおよびポリエステルイミドからなる群から選ばれる少なくとも一種のポリマーである請求項4〜6の何れかに記載の光学フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2009−157020(P2009−157020A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−333746(P2007−333746)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】