説明

光学フィルムの製造方法

【課題】光学フィルムの光学特性の均一性を向上させる
【解決手段】溶液製膜設備11は、流延室21と、テンタ部22とを備える。流延室21には、ドープ12を吐出する流延ダイ30と、周面31aにドープ12が流延される流延ドラム31と、エンコーダ33が備えられる。流延ドラム31には駆動装置34が接続され、駆動装置34にはコントローラ35が接続される。流延ドラム31から剥ぎ取られた流延膜13が湿潤フィルム14となってテンタ部22に搬送される。テンタ部22は、湿潤フィルム14の両側端部を保持し、駆動装置40の駆動により湿潤フィルム14を延伸搬送する。コントローラ35は、エンコーダ33の信号により検出された流延ドラム31の回転速度の変動に対応させるように駆動装置40のモータを駆動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルム、特に表示装置等に用いられる光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ等の表示装置に対する要求性能は益々高くなっており、表示装置に用いる光学フィルムに対しても要求性能は高くなっている。例えば、液晶ディスプレイにおいては、解像度、輝度、コントラストなどに高い性能が求められており、これに伴い、位相差フィルム等の光学フィルムに対しては、光学特性の均一性についてより厳しい要求が出されている。
【0003】
光学フイルムの製造方法の一つとして、溶液製膜方法が挙げられる。この溶液製膜方法は、ポリマーと溶媒が含まれたドープを流延ダイから連続的に流延支持体上に流延して流延膜を形成し、流延膜が自己支持性を有するものとなった後に、流延支持体から剥ぎ取って湿潤フイルムとし、この湿潤フイルムを搬送させながら乾燥させて長尺の光学フイルムを製造する。上記の光学特性の均一性は、長尺の光学フィルムの幅方向についてより強く求められている。
【0004】
一方、光学フィルムの光学特性、特にレタデーションや配向角、膜厚を調節する方法として、湿潤フィルムを延伸することが知られている。延伸には、湿潤フィルムの長手方向に延伸する縦延伸、及び幅方向に延伸する横延伸がある。これらの縦延伸及び横延伸は、上述した溶液製膜方法による光学フィルムの製造工程の場合、流延支持体から剥ぎ取られ、乾燥前または乾燥中の湿潤フィルムに対して行われることが一般的である。
【0005】
ところが、湿潤フィルムに対して横延伸を行う場合、以下のような問題がある。光学特性の中でも、近年では遅相軸(面内における最大屈折率方向)の均一性が特に重要視されている。遅相軸は、複屈折を示す光学フィルムで発現される。そして、長尺の湿潤フィルムを横延伸した場合には、延伸前に幅方向に付した直線状のマーキングが、延伸後には長尺方向に凸の形状となり、これは延伸線あるいはボーイングラインと呼ばれる。なお、搬送しながら延伸を実施した場合には、延伸線は搬送方向に凸となる場合もあるし、反搬送方向に凸となる場合もある。遅相軸は、この曲線状になった延伸線における接線とほぼ一致する。このような光学フィルムの遅相軸のずれを抑制するため、これまで、種々の提案がされている。
【0006】
例えば、特許文献1に記載されているように、湿潤フィルムが剥ぎ取られる流延支持体の回転速度に対して、湿潤フィルムを搬送しながら横延伸を行うテンタの搬送速度を上げて、流延支持体からテンタまでの渡り時の湿潤フィルムに張力を付与する。張力が付与された湿潤フィルムを横延伸して形成された光学フィルムは、幅方向に対する遅相軸のずれ量が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3981457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1記載の製造方法では、流延膜が形成される流延支持体の回転速度、湿潤フィルムを横延伸するテンタの搬送速度に変動が生じることが考慮されていない。光学フィルムの製造設備で用いられる流延支持体は、外径、幅ともに大きく、回転軸の偏芯量や、周面の真円度の影響で、回転速度が変動しやすい。このように、流延支持体の回転速度が変動すると、流延膜に付与する張力が不安定になって幅方向に対する遅相軸のずれ量にバラつきが生じるため、光学特性の均一性が不十分になる。また、回転軸の偏芯量や周面の真円度などの精度が高い流延支持体を使用したとしても、製造設備は使用状況に応じて徐々に変化することがあり、例えば、光学フィルムの製造を長時間行っているうちに、流延支持体の表面に錆や異物が付着するなどして徐々に凹凸が形成され、これらが回転速度に影響することもある。
【0009】
また、横延伸を行うテンタについても、湿潤フィルムを把持する把持部の引っ掛かりや駆動源からの振動による影響で搬送速度に変動が生じることがある。このように、流延支持体の回転速度や、テンタの搬送速度に変動が生じると、流延支持体からテンタまでの渡り搬送時に湿潤フィルムに付与する張力も変動するため、光学フィルムの長尺方向において遅相軸にバラツキが生じる。よって、流延支持体の回転速度、テンタの搬送速度に変動が生じることが考慮されていない上記特許許文献1記載の製造方法では、遅相軸の均一性を精度良く制御することはできない。
【0010】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、光学フィルムの光学特性の均一性を向上させる製造方法及び製造設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の光学フィルムの製造方法は、連続走行する流延支持体上にポリマーと溶媒とが含まれるドープを連続的に流延して流延膜を形成する工程と、前記流延膜を前記流延支持体から剥ぎ取って湿潤フィルムとする工程と、前記流延支持体から剥ぎ取られた前記湿潤フィルムをその幅方向の両端部を一対の保持部で保持し、前記保持部を移動させて前記湿潤フィルムを延伸しながら搬送する工程と、前記流延支持体から剥ぎ取られる時の前記流延膜の移動速度の変動と、前記湿潤フィルムを前記保持部で搬送する時の搬送速度の変動とが対応するように、前記流延支持体の走行速度または前記保持部の移動速度の少なくとも一方を制御する工程とを有することを特徴とする。
【0012】
前記流延支持体の回転速度、または前記流延支持体を走行させる回転ローラの回転速度、あるいは前記走行速度を検出し、検出された前記回転速度または前記走行速度の変動に、前記保持部を移動させる駆動源としてのモータの回転速度の変動を合わせるようにして前記移動速度を制御することが好ましい。
【0013】
前記保持部を移動させる駆動源としてのモータが回転する回転速度、または前記搬送速度を検出し、検出された前記回転速度または前記搬送速度の変動に、前記流延支持体を走行させる駆動源としてのモータの回転速度の変動を合わせるようにして前記走行速度を制御することが好ましい。
【0014】
前記保持部及び前記流延支持体は、共通の駆動源から駆動力が伝達され、前記流延支持体の走行及び前記保持部の移動が同期して行われることが好ましい。
【0015】
前記流延支持体から前記保持部への前記湿潤フィルムの搬送中に、前記湿潤フィルムを湿潤状態に保つ、または冷却することが好ましい。
【0016】
本発明の光学フィルムの製造設備は、ポリマーと溶媒とが含まれるドープを連続的に吐出する吐出部と、連続走行中に、前記吐出手段から吐出されたドープが流延されて流延膜が形成される流延支持体と、前記流延膜を前記流延支持体から剥ぎ取って湿潤フィルムとする剥ぎ取り部と、前記流延支持体から剥ぎ取られた前記湿潤フィルムをその幅方向の両端部で保持する一対の保持部を備え、前記保持部を移動させて前記湿潤フィルムを延伸しながら搬送する延伸搬送装置と、前記流延支持体から剥ぎ取られる時の前記流延膜の移動速度の変動と、前記延伸搬送装置による搬送速度の変動とが対応するように、前記流延支持体の走行速度または前記保持部の移動速度の少なくとも一方を制御する制御手段とからなることを特徴とする。
【0017】
前記流延支持体の回転速度、または前記流延支持体を走行させる回転ローラの回転速度、あるいは前記走行速度を検出する検出手段を備え、前記延伸搬送装置は、前記保持部を移動させる駆動源としてのモータが設けられており、前記制御手段は、前記検出手段で検出された前記回転速度または前記走行速度の変動に前記モータの回転速度の変動を合わせるようにして前記移動速度を制御することが好ましい。
【0018】
前記保持部を移動させる駆動源としてのモータが回転する回転速度、または前記搬送速度を検出する検出手段と、前記流延支持体を走行させる駆動源としてのモータと備え、前記制御手段は、前記検出手段で検出された前記回転速度または前記搬送速度の変動に前記モータの回転速度の変動を合わせるようにして前記走行速度を制御することが好ましい。
【0019】
前記保持部及び前記流延支持体の共通の駆動源と、前記駆動源による駆動力を前記保持部及び前記流延支持体に伝達し、前記制御手段の制御により、前記流延支持体の走行及び前記保持部の移動を同期して行わせる駆動力伝達手段とからなることが好ましい。
【0020】
前記流延支持体から前記保持部への前記湿潤フィルムの搬送中に、前記湿潤フィルムを湿潤状態に保つ湿潤状態保持手段、または冷却する冷却手段の少なくとも一方を備えたことが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、流延支持体から剥ぎ取られる時の流延膜の移動速度の変動と、湿潤フィルムを保持部で搬送する時の搬送速度の変動とが対応するように、流延支持体の走行速度または保持部の移動速度の少なくとも一方を制御しているので、湿潤フィルムに一定の張力を付与することが可能であり、このようにして製造された光学フィルムの光学特性の均一性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】溶液製膜設備の概略図である。
【図2】流延ドラム及びテンタ部の構成を示す平面図である。
【図3】流延ドラムの回転速度の変動パターン(A)及びテンタ部の駆動モータを制御するときの速度変動(B)を示す説明図である。
【図4】光学フィルムの製造方法を説明するフローチャートである。
【図5】流延ドラム及びテンタ部を共通の駆動モータで駆動させる第2実施形態の一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[溶液製膜設備及び方法]
図1は溶液製膜設備11を示す概略図である。ただし、本発明は、この溶液製膜設備11に限定されるものではない。以下の説明は、ポリマーとしてセルロースアシレートを用いた場合を例に挙げて説明するが、特に限定されるものではなく、一般に溶液製膜方法で使用されているものを用いることができる。
【0024】
溶液製膜設備11には、セルロースアシレートをポリマー成分とするドープ12を流延し、溶媒を含んだ状態の流延膜13とする流延室21と、流延膜13からなる湿潤フィルム14の両側端部を保持して湿潤フィルムを延伸搬送するテンタ部22と、湿潤フィルム14の両側端部を切り離す耳切装置23と、湿潤フィルム14を複数のローラ24に掛け渡して搬送しながら乾燥して光学フィルム(以下、単に「フィルム」と称する)15とする乾燥室25と、フィルム15を冷却するための冷却室26と、フィルム15の帯電量を減らすための除電装置27と、側端部にエンボス加工を施すナーリング付与ローラ対28と、フィルム15を巻き取る巻取室29とが備えられる。
【0025】
流延室21には、ドープ12を吐出する流延ダイ30と、流延ダイ30の下方に配され、周面31aにドープ12が流延される流延支持体としての流延ドラム31と、減圧チャンバ32と、検出手段としてのエンコーダ33が備えられる。流延ドラム31には駆動装置34が接続され、駆動装置34にはコントローラ35が接続される。流延ドラム31は、コントローラ35に制御された駆動装置34によって回転軸31bを中心に回転駆動される。これにより、流延ドラム31は、その周面31aが所定の走行方向に所定速度で回転する。周面31aは、例えば、クロムメッキ処理が施され、十分な耐腐食性と強度を有する。
【0026】
ドープ12は、周方向に回転する流延ドラム31の上に流延ダイ30から連続的に流出され、これにより、流延ドラム31の上でドープ12が流延されて流延膜13が形成される。流延ダイ30の流出口から流延ドラム31にかけては、ドープ12からなるいわゆる流延ビードが形成され、この流延ビードに関して流延ドラム31の回転の向きにおける上流側のエリアは、減圧チャンバ32で空気を吸引されて減圧される。これにより、ビードの態様は安定し、均一な流延膜13が形成されるようになる。
【0027】
なお、減圧チャンバ32は、流延ダイ30よりも流延ドラム31の走行方向の上流側に配置することが好ましい。この場合、図示しない制御部の制御により、減圧チャンバ32は、流延ビードの上流側の圧力が下流側の圧力よりも低くなるように、流延ビードの走行方向上流側を所望の圧力まで減圧する。流延ビードの上流側と下流側との圧力差は、10Pa以上2000Pa以下であることが好ましい。また、流延ダイ30から流出されるドープの温度は、20〜35℃であることが好ましい。
【0028】
流延室21内及び流延ドラム31は、流延膜13が冷却固化(ゲル化)し易い温度に設定されている。流延ドラム31の内部には、伝熱媒体の流路(図示せず)が形成されており、この流路中を、所定の温度の伝熱媒体が通過することにより、流延ドラム31の周面温度が所定の値に保持される。伝熱媒体は、取り扱いやすさ及び温度制御のし易さの点から気体よりも液体の方が好ましい。流延ドラム31の周面温度は、ドープの溶剤の種類、固形成分の種類、ドープ12における固形成分の濃度、剥ぎ取りまでの時間等に応じて適宜設定する。
【0029】
流延室21には、その内部温度を所定の値に保つための温調装置(図示せず)が設けられる。流延室21の内部温度は、流延時におけるドープの温度と流延ドラム31の周面温度から適宜設定する。なお、流延ドラム31の周面31aの温度は−10℃以上、10℃以下に保持することが好ましい。
【0030】
なお、流延支持体は、流延ドラム31に限定されない。例えば、流延ドラム31に代えて、バックアップローラ対などの回転ローラに掛け渡された無端のバンドを用いてもよい。無端のバンドを流延支持体として用いる場合には、各回転ローラの内部に伝熱媒体を通過させることにより、回転ローラを通じてバンドの温度を調整する。
【0031】
流延膜13が自己支持性をもつようになったら、剥取ローラ36で支持しながら流延ドラム31から流延膜13を剥ぎ取る。流延膜13の剥ぎ取りは、後述するように流延膜13の移動速度V1と、テンタ部22における搬送速度V2(図2参照)とがV2>V1の関係を満たすように制御して流延膜13に張力を与えることにより実施する。なお、流延膜13の移動速度V1とは、周面31a上の任意の点の走行速度に略等しい。流延ドラム31から剥ぎ取られた流延膜13は、湿潤フィルム14となり、ガイドローラ37によりテンタ部22へ案内される。
【0032】
流延ドラム31から剥ぎ取られ、ガイドローラ37の案内によってテンタ部22へ湿潤フィルム14が搬送されるまでの区間には、湿潤フィルム14を冷却する冷却装置38が設けられている。冷却装置38は、湿潤フィルム14へ冷却風を吹きかけて湿潤フィルム14の乾燥を防止する。流延ドラム31からテンタ部22までの搬送中に湿潤フィルム14が乾燥収縮してしまうと、上述した移動速度V1と搬送速度V2との速度差によって湿潤フィルム14に付与される張力にバラつきが生じるが、本実施形態では湿潤フィルム14の乾燥を防止しているため、湿潤フィルム14が収縮することは無い。なお、これに限らず、冷却装置38に代えてあるいは加えて、湿潤フィルム14へ霧状の溶媒を吹きかけて湿潤フィルム14の湿潤状態を保つ、湿潤状態保持装置を設けてもよい。
【0033】
テンタ部22は、案内されてきた湿潤フィルム14の両側端部を突き抜けて湿潤フィルム14を支持するピンを複数備えるピンテンタからなる。ピンは、走行するピン台39(図2参照)に複数配されており、ピン台の走行により湿潤フィルム14は搬送される。そして、湿潤フィルム14の幅を所定のタイミングで変えたり、あるいは、幅を所定時間保持するように、ピン台39の走行路は決定される。
【0034】
テンタ部22のピン台39を走行させる駆動装置40はコントローラ35に接続される。駆動装置40は、駆動源としての駆動モータ41(図2参照)を備える。駆動モータ41は、例えばパルスモータを使用する。この場合、コントローラ35は、駆動モータ41に送信するパルスの発生周波数を変化させて駆動モータ41の回転速度の制御を行う。なお、駆動モータ41は、これに限らずサーボモータなど回転速度を制御できる駆動源であればよい。
【0035】
なお、湿潤フィルム14の両側端部をクリップで把持して湿潤フィルム14を搬送するクリップテンタを、テンタ部22と耳切装置23との間に適宜設けてもよい。あるいは、テンタ部22をピンテンタに代えてクリップテンタから構成してもよい。
【0036】
テンタ部22を出た湿潤フィルム14は耳切装置23に案内され、テンタ部22でピンにより保持された箇所を含む両側部が連続的に切断除去される。なお、このようないわゆる耳切工程は、テンタ部22と乾燥室25との間で実施する本実施態様に代えてあるいは加えて、乾燥室25と巻取室29との間で実施してもよい。
【0037】
一方、両側端部を切断除去された湿潤フィルム14は、乾燥室25に送られて、さらに乾燥される。乾燥室25には、搬送路を成す複数のローラ24が備えられ、これらのうち、少なくともひとつが駆動ローラとされる場合がある。複数のローラ24のすべてが非駆動のいわゆるフリーローラである場合には、乾燥室25と巻取室29との間に駆動ローラ等の搬送手段を設けるとよい。湿潤フィルム14は、複数のローラ24にそれぞれ巻き掛けられて、搬送される。ローラ24は湿潤フィルム14と接触する周面の温度を変える加熱機構を備えてもよく、これにより湿潤フィルム14はより効果的かつ効率的に乾燥される。
【0038】
乾燥室25の下流には、乾燥室25よりも低く内部温度が保持される冷却室26が設けられる。この冷却室26を通過することにより、乾燥工程を終えたフィルム15は略室温に冷却される。そして、除電装置27により、帯電圧が所定の範囲となるように調整された後、ナーリング付与ローラ対28に送られ、これにより細かな複数の凹凸であるナーリングが両側部に付与される。
【0039】
ナーリングが付与されたフィルム15は、巻取室29に送られる。巻取室29には、フィルム15をロール状に巻き取るための巻取ロール42と、巻き取り時におけるテンションを制御するためのプレスローラ43とが備えられる。そして、巻取ロール42には、設定された速度でフィルム15が巻き取られるように巻取ロール42の回転速度を制御して巻取ロール42を駆動する巻取制御装置(図示せず)が接続されている。
【0040】
図2に示すように、溶液製膜設備11においては、流延膜13の移動速度をV1とし、湿潤フィルム14の搬送速度をV2としたとき、両者の比V2/V1を常に一定にすることで、湿潤フィルム14に一定の張力が付与され、光学特性の均一性を向上することができる。これらの速度V1,V2については、流延膜13の移動速度V1は周面31a上の任意の点の走行速度に等しく、また、テンタ部22におけるピンの走行速度を湿潤フィルム14の搬送速度V2とみなすことができる。
【0041】
ここで、テンタ部22のピンは、湿潤フィルム14を幅方向に引っ張り幅を拡げるとき、すなわち拡幅するときには、湿潤フィルム14の搬送の向きと交差する向きに走行することになる。すなわち、この場合のピンもしくはクリップの走行速度をベクトルで示すと、このベクトルは、湿潤フィルム14の搬送の向きとこの搬送の向きと直交する幅方向との両方の成分をもつ。このような場合には、湿潤フィルム14の搬送の向きの成分ベクトルの大きさをV2とみなす。ただし、本実施形態では、図2に示すように、幅を一定に保持して湿潤フィルム14を搬送させる第1区間L1と、幅を拡げながら湿潤フィルム14を搬送する第2区間L2との両方があるため、湿潤フィルム14の搬送の向きにおけるピンの走行速度のベクトルは第1区間L1における方が大きくなるので、第1区間L1におけるピンの走行速度、すなわちピン台39の移動速度をV2とみなす。
【0042】
流延ドラム31の回転速度は、回転軸31bの偏芯量や周面31aの真円度の影響により、変動が生じることがある。流延ドラム31の回転速度が変動すると、流延膜13の移動速度V1にも変動が生じる。そこで、コントローラ35は、エンコーダ33からの信号により検出した流延ドラム31の回転速度の検出結果に基づき、移動速度V1と搬送速度V2とが対応するように速度変動して両者の比V2/V1が常に一定になるように、流延ドラム31とテンタ部22の駆動装置40を駆動させる。この速度比V2/V1は、0.95以上、1.25以下となるように制御することが好ましい。なお、湿潤フィルム14には、乾燥収縮があるため、流延膜13の移動速度V1より、湿潤フィルム14の搬送速度V2が若干遅い場合、つまりV2/V1が0.95以上、1.00以下の場合も、湿潤フィルム14に一定の張力を付与することができる。
【0043】
エンコーダ33は、複数の接点が所定角度毎に形成され、流延ドラム31の回転軸31bと同軸に固定された検出円板と、この検出円板と摺動する摺動子とを備え(ともに図示せず)、接点と摺動子の接触時に電気信号を出力する。エンコーダ33から出力された信号はコントローラ35に送信される。コントローラ35は、エンコーダ33から出力された信号をカウントして流延ドラム31の回転速度を検出する。なお、エンコーダ33としては、これに限らず、複数の検出孔が形成された検出円板と、この検出円板を挟んで設けられたフォトインタラプタとを備えた光学式のエンコーダでもよい。
【0044】
以下では、流延ドラム31の回転速度の検出結果に基づき、流延膜13の移動速度V1と湿潤フィルム14の搬送速度V2とが対応するように変動させるための制御について図3及び図4を参照して説明する。なお、移動速度V1及び搬送速度V2を制御するための方法としては以下に限定されるものではない。
【0045】
溶液製膜設備11でフィルム15を製造する前に、コントローラ35には、図3(A)に示す流延ドラム31の回転速度の変動を示す速度変動パターンが予め入力される。この速度変動パターンは、エンコーダ33からの信号によって検出された流延ドラム31の回転速度の検出結果に基づき、予め作成されたものを用いる。コントローラ35は、速度変動パターンから流延ドラム31の回転速度のピーク値R1max、及びピーク値間の周期Tを求めるとともに、この速度変動パターンに対応するテンタ部22の駆動モータ41の速度変動パターンを求める。流延膜13の移動速度V1と湿潤フィルム14の搬送速度V2とが対応するように駆動モータ41を変動させるために、本実施形態では、流延ドラム31の速度変動パターンに対して、回転速度が常に比例する駆動モータ41の速度変動パターンを設定する。
【0046】
溶液製膜設備11を用いてフィルム15の製造を行うときは、図4のフローチャートに示すように、先ず、流延ダイ30から流延ドラム31へドープの流延を開始し(st(ステップ)1)、続いてコントローラ35が駆動装置34、40を制御して流延ドラム31及びテンタ部22の駆動を開始する(st2)。流延ドラム31及びテンタ部22の駆動により流延ドラム31から流延膜13の剥ぎ取り、及びテンタ部22による湿潤フィルム14の延伸搬送が開始されたとき、エンコーダ33は流延ドラム31の回転開始とともに信号を出力し(st3)、コントローラ35はこのエンコーダ33の信号から検出される回転速度の監視を開始する(st4)。この間、コントローラ35は図3(B)に示すように、流延ドラム31及びテンタ部22の駆動開始(図3の時間t0)から、エンコーダ33の信号から流延ドラム31の回転速度のピーク値R1maxが検出される前までは(st5のN)、一定の回転速度でテンタ部22の駆動モータ41を駆動させる。なお、このときの駆動モータ41における一定の回転速度は後述するピーク値R2maxよりも低く設定する。そして、コントローラ35は、エンコーダ33の信号から流延ドラム31の回転速度のピーク値R1maxが検出されたとき(st5のY)、ピーク値R1maxの検出時間t1から、駆動モータ41の回転速度を徐々に加速させて、時間t1の次にピーク値R1maxが検出されるべき時間、すなわち、時間t1から周期Tが経過した時間t2(=t1+T)に、駆動モータ41が速度変動パターンのピーク値R2maxになるように制御する。そして時間t2以降は、予め設定された速度変動パターンに沿って駆動モータ41を駆動するように制御を行う。これにより、流延ドラム31の速度変動パターンに合わせて駆動モータ41の回転速度を変動させることができる(st6)。
【0047】
コントローラ35は、時間t2以降もエンコーダ33の信号から検出される回転速度を監視する。エンコーダ33の信号出力及び回転速度の監視は、流延ドラム31及びテンタ部22の駆動が停止するまで、すなわち、流延膜13の剥ぎ取り及び湿潤フィルム14の延伸搬送が終了するまで継続される(st7)。このとき、耳切装置23、乾燥室25の駆動ローラ、ナーリング付与ローラ対28、及び巻取ロール42がテンタ部22と同期するように駆動され、フィルム15が巻取ロール42に巻き取られる。
【0048】
そして、コントローラ35は、回転速度の監視中、エンコーダ33の信号出力から検出される流延ドラム31の回転速度のピーク値R1max検出の時間と、駆動モータ41の回転速度のピーク値R2maxを発生する時間とを合わせるように、ピーク値R1max検出の時間から周期Tが経過した時間に、速度変動パターンのピーク値R2maxになるように駆動モータ41を制御するタイミングを修正する(st7のN、st3〜6)。
【0049】
そして、流延ドラム31及びテンタ部22の駆動が停止し、流延膜13の剥ぎ取り及び延伸搬送が終了すると(st7のY)、エンコーダ33の信号出力が停止し(st8)、流延ダイ30から流延ドラム31へのドープの流延が終了して(st9)、フィルム15の製造が終了する。
【0050】
なお、流延ドラム31は、溶液製膜設備11の使用状況によって、回転速度の変動パターンが徐々に変化してくることがある。そこで、コントローラ35は、流延ドラム31の回転中は常に、あるいは定期的にエンコーダ33の検出結果を監視して、流延ドラム31の最新の速度変動のパターンを作成及び記憶し、この最新の速度変動パターンに基づいて、流延ドラム31の回転速度のピーク値R1max、及びピーク値間の周期Tを求めるとともに、流延ドラム31の速度変動パターンに対応する駆動モータ41の速度変動パターンを求めるようにしてもよい。この場合、例えば、流延ドラム31の駆動中は所定時間毎に、あるいは、流延ドラム31が駆動開始する毎に、流延ドラム31の最新の速度変動パターンを作成及び記憶すればよい。
【0051】
上述したように、流延ドラム31の速度変動パターンに合わせるように、テンタ部22の駆動モータ41の回転速度、ひいてはピン台39の移動速度を制御することで、流延膜13の移動速度V1と湿潤フィルム14の搬送速度V2との比V2/V1を常に一定にすることができ、湿潤フィルム14に一定の張力を付与することができる。これにより、テンタ部22で延伸搬送された湿潤フィルム14の幅方向に対する遅相軸のずれ量が一定になり、光学フィルム15の光学特性の均一性が向上する。
【0052】
上記実施形態では、流延ドラム31の回転速度の検出手段としてエンコーダを用いているが、本発明は、これに限るものではなく、市販の回転速度計(タコーメーターと呼ばれるもの)など、流延ドラム31の回転速度を検出可能なものであればよい。また、流延ドラム31の回転速度ではなく、周面31aの走行速度すなわち周速を計測する速度計を検出手段として備えてもよい。周面31aの周速を計測する速度計としては、例えばレーザードップラー速度計を用いることができる。この場合、速度計で検出された検出結果及び流延ドラム31の周速変動パターンに基づき、流延ドラム31の周速変動に合わせて駆動モータ41の回転速度が変動するようにコントローラ35が制御すればよい。また、流延ドラム31の周速を検出する場合は、流延ドラム31から流延膜13が剥ぎ取られる位置、またはその付近の位置に検出手段を設けることが好ましい。
【0053】
また、流延支持体として無端のバンドを用いる場合は、バンドを走行させる回転ローラの回転速度を検出する検出手段、またはバンドが走行する走行速度を検出する検出手段を備え、バンドの走行速度または回転ローラの回転速度の変動に合わせて駆動モータ41の回転速度が変動するようにコントローラ35が制御すればよい。なお、無端のバンドの走行速度を検出する場合は、バンドから流延膜13が剥ぎ取られる位置、またはその付近の位置に検出手段を設けることが好ましい。
【0054】
さらにまた、上記第1実施形態の構成に対して、回転速度または走行速度が検出される側と、検出結果及び速度変動パターンに沿って制御される側とを逆にしてもよい。この場合、テンタ部22の駆動モータ41の回転速度を検出する検出手段を設け、この検出手段の検出結果に基づき、駆動モータ41の回転速度の変動パターンと対応するように流延ドラム31またはバンドを走行させる回転ローラの回転速度が変動する速度変動パターンを設定する。このような構成によって、駆動モータ41の回転速度の検出結果及び速度変動パターンに合わせるように、流延ドラム31または回転ローラの駆動源となる駆動モータの回転速度を制御して、流延ドラム31の周面31aまたはバンドの走行速度を制御することができる。あるいは、テンタ部22で搬送される湿潤フィルム14の搬送速度V2を計測する速度計を検出手段として備え、搬送速度V2の変動と対応するように流延ドラム31または回転ローラの駆動モータの回転速度が変動する速度変動パターンを設定してもよい。なお、駆動モータ41の回転速度またはテンタ部22の搬送速度V2を検出する検出手段は、上述した流延ドラム31の回転速度または周速を検出する検出手段と同様である。
【0055】
上記第1実施形態においては、流延ドラム31の回転速度または走行速度を検出した検出結果及び速度変動パターンに基づき、流延ドラム31とテンタ部22の駆動モータ41とが対応するように速度変動する制御を行っているが、本発明はこれに限るものではなく、以下で説明する本発明の第2実施形態においては、流延ドラム31及びテンタ部22を駆動させる駆動源を共通にし、この駆動源から伝達される駆動力により、流延ドラム31及びテンタ部22を同期して動作させる例を示す。
【0056】
この第2実施形態においては、図5に示すように、流延ドラム31の回転軸31bに駆動力を伝達する伝達ギヤ51、及びテンタ部22に駆動力を伝達する伝達ギヤ52に共通の無端ベルト53が巻き掛けられ、一方の伝達ギヤ51には、駆動モータ54が接続されている。駆動モータ54はコントローラ55に接続され、回転が制御される。伝達ギヤ51,52は、流延ドラム31の周面31aの走行速度及びテンタ部22のピン台39の移動速度の速度比に合せてギヤ比が適宜決定されている。なお、これら以外の構成は上記第1実施形態と同様である。
【0057】
以上の構成により、共通の駆動源となる駆動モータ54からの駆動力が伝達ギヤ51,52及び無端ベルト53からなる駆動力伝達機構によって流延ドラム31及びテンタ部22へ伝達される。そして、駆動力伝達機構から駆動力が伝達された流延ドラム31及びテンタ部22は同期して動作するため、流延ドラム31の周面31aの走行速度及びテンタ部22のピン台39の移動速度は、速度変動が同じようになる。これにより、流延膜13の移動速度V1と湿潤フィルム14の搬送速度V2との比V2/V1を常に一定にすることができ、湿潤フィルム14に一定の張力を付与することが可能となって、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。なお、駆動力伝達機構としては伝達ギヤ51,52及び無端ベルト53からなる構成に限るものではなく、共通の駆動源からの駆動力を流延ドラム31及びテンタ部22に伝達できる構成であればよい。
【符号の説明】
【0058】
11 溶液製膜設備
12 流延ドープ
13 流延膜
14 湿潤フィルム
15 光学フィルム
22 テンタ部
30 流延ダイ
31 流延ドラム
33 エンコーダ
34,40 駆動装置
35 コントローラ
41 駆動モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続走行する流延支持体上にポリマーと溶媒とが含まれるドープを連続的に流延して流延膜を形成する工程と、
前記流延膜を前記流延支持体から剥ぎ取って湿潤フィルムとする工程と、
前記流延支持体から剥ぎ取られた前記湿潤フィルムをその幅方向の両端部を一対の保持部で保持し、前記保持部を移動させて前記湿潤フィルムを延伸しながら搬送する工程と、
前記流延支持体から剥ぎ取られる時の前記流延膜の移動速度の変動と、前記湿潤フィルムを前記保持部で搬送する時の搬送速度の変動とが対応するように、前記流延支持体の走行速度または前記保持部の移動速度の少なくとも一方を制御する工程とを有することを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記流延支持体の回転速度、または前記流延支持体を走行させる回転ローラの回転速度、あるいは前記走行速度を検出し、検出された前記回転速度または前記走行速度の変動に、前記保持部を移動させる駆動源としてのモータの回転速度の変動を合わせるようにして前記移動速度を制御することを特徴とする請求項1記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記保持部を移動させる駆動源としてのモータが回転する回転速度、または前記搬送速度を検出し、検出された前記回転速度または前記搬送速度の変動に、前記流延支持体を走行させる駆動源としてのモータの回転速度の変動を合わせるようにして前記走行速度を制御することを特徴とする請求項1記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記保持部及び前記流延支持体は、共通の駆動源から駆動力が伝達され、前記流延支持体の走行及び前記保持部の移動が同期して行われることを特徴とする請求項1記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記流延支持体から前記保持部への前記湿潤フィルムの搬送中に、前記湿潤フィルムを湿潤状態に保つ、または冷却することを特徴とする請求項1ないし4いずれか1項記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項6】
ポリマーと溶媒とが含まれるドープを連続的に吐出する吐出手段と、
連続走行中に、前記吐出手段から吐出されたドープが流延されて流延膜が形成される流延支持体と、
前記流延膜を前記流延支持体から剥ぎ取って湿潤フィルムとする剥ぎ取り部と、
前記流延支持体から剥ぎ取られた前記湿潤フィルムをその幅方向の両端部で保持する一対の保持部を備え、前記保持部を移動させて前記湿潤フィルムを延伸しながら搬送する延伸搬送装置と、
前記流延支持体から剥ぎ取られる時の前記流延膜の移動速度の変動と、前記延伸搬送装置による搬送速度の変動とが対応するように、前記流延支持体の走行速度または前記保持部の移動速度の少なくとも一方を制御する制御手段とからなることを特徴とする光学フィルムの製造設備。
【請求項7】
前記流延支持体の回転速度、または前記流延支持体を走行させる回転ローラの回転速度、あるいは前記走行速度を検出する検出手段を備え、
前記延伸搬送装置は、前記保持部を移動させる駆動源としてのモータが設けられており、
前記制御手段は、前記検出手段で検出された前記回転速度または前記走行速度の変動に前記モータの回転速度の変動を合わせるようにして前記移動速度を制御することを特徴とする請求項6記載の光学フィルムの製造設備。
【請求項8】
前記保持部を移動させる駆動源としてのモータが回転する回転速度、または前記搬送速度を検出する検出手段と、
前記流延支持体を走行させる駆動源としてのモータと備え、
前記制御手段は、前記検出手段で検出された前記回転速度または前記搬送速度の変動に前記モータの回転速度の変動を合わせるようにして前記走行速度を制御することを特徴とする請求項6記載の光学フィルムの製造設備。
【請求項9】
前記保持部及び前記流延支持体の共通の駆動源と、
前記駆動源による駆動力を前記保持部及び前記流延支持体に伝達し、前記制御手段の制御により、前記流延支持体の走行及び前記保持部の移動を同期して行わせる駆動力伝達手段とからなることを特徴とする請求項6記載の光学フィルムの製造設備。
【請求項10】
前記流延支持体から前記保持部への前記湿潤フィルムの搬送中に、前記湿潤フィルムを湿潤状態に保つ湿潤状態保持手段、または冷却する冷却手段の少なくとも一方を備えたことを特徴とする請求項6ないし9いずれか1項記載の光学フィルムの製造設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−167972(P2011−167972A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−34941(P2010−34941)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】