説明

光学機器

【課題】小型でありながらも、高周波帯域の振れによる像振れも良好に低減する。
【解決手段】光学機器は、光学系OLと、振れを検出する振れ検出手段25p,25yと、光学系の一部を構成し、印加される電圧に応じた電気光学効果によって内部の屈折率分布が変化する電気光学素子eo1,eo2と、振れ検出手段により検出された振れによる像振れを低減するように電圧を電気光学素子に印加する駆動手段23とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学防振機能を有するカメラ、交換レンズ、望遠鏡等の光学機器に関し、特に電気光学素子を用いて光学防振機能を実現した光学機器に関する。
【背景技術】
【0002】
手振れ等の振れに起因した像振れを低減するために、従来、レンズをシフトさせたり可変頂角プリズムの頂角を変化させたりして像面に向かう光束を偏向する光学防振装置が提案されている(特許文献1,2参照)。また、楔状の空間に屈折率可変液晶を封入した液晶封入素子を用い、該液晶封入素子に印加する電圧を制御することで該液晶の屈折率を一様に変化させ、光束を偏向する光学防振装置も提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−61910号公報
【特許文献2】特開平2−168223号公報
【特許文献3】特開平8−152504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般にユーザが光学機器を手で持って撮影や観察を行うときの手振れの周波数帯域は0.1〜10Hz程度であり、特許文献1,2に開示された光学防振装置によって該手振れを良好に補正することは可能である。ただし、光学機器を三脚に取り付けて撮影等を行う際に三脚に生じる振れは、4〜35Hzという手振れよりも高い周波数を持つことがある。さらに、自動車等の移動体上で光学機器を用いる際には、数Hz〜数百Hzの広い周波数帯域での振れが生じる。
しかしながら、特許文献1,2に開示された光学防振装置では、レンズや可変頂角プリズムの機械的な駆動が必要であるため、手振れの周波数帯域を超える周波数の像振れを十分に補正することが難しい。
また、特許文献3に開示された光学防振装置でも、屈折率可変液晶の応答速度が数10Hz程度であるため、数百Hz程度の高周波帯域での像振れには不向きである。しかも、屈折率可変液晶が楔形状で封入されているために、非防振状態でも光束が偏向される。このため、同一光学断面において、1つの液晶封入素子だけでは防振状態と非防振状態とを切り替えることができず、少なくとも2つの液晶封入素子を組み合わせる必要がある。この結果、光学機器が大型化しやすい。
本発明は、小型でありながらも、高周波帯域の振れによる像振れも良好に低減できる光学機器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面としての光学機器は、光学系と、振れを検出する振れ検出手段と、光学系の一部を構成し、印加される電圧に応じた電気光学効果によって内部の屈折率分布が変化する電気光学素子と、振れ検出手段により検出された振れによる像振れを低減するように電圧を電気光学素子に印加する駆動手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、電気光学素子を用いることで、小型で、かつ高周波帯域の振れによる像振れも良好に低減可能な光学機器を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】屈折率分布による光束偏向原理を説明する図。
【図2】本発明の実施例1である光学機器の光学断面図。
【図3】実施例1における光学系の横収差図。
【図4】実施例1における電気光学素子の内部の屈折率分布を説明する図。
【図5】本発明の実施例2である光学機器の光学断面図。
【図6】実施例2における光学系の横収差図。
【図7】実施例2における電気光学素子の内部の屈折率分布を説明する図。
【図8】本発明の実施例3である光学機器の光学断面図。
【図9】実施例3における光学系の横収差図。
【図10】実施例3における電気光学素子の内部の屈折率分布を説明する図。
【図11】実施例1,3における電気光学素子の電極構造を示す模式図。
【図12】実施例2における電気光学素子の電極構造を示す模式図。
【図13】実施例1〜3の光学機器の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。まず、各実施例の説明に先立って、各実施例に共通する事項について説明する。
各実施例では、デジタルスチルカメラ、ビデオカメラ、フィルム用カメラ等の撮像装置や、撮像装置に装着される交換レンズや、望遠鏡、双眼鏡等の観察装置を含む光学機器について説明する。
【0009】
そして各実施例の光学機器は、その光学系の一部を構成する素子として、内部に生じる電界の大きさに応じて屈折率分布が変化する電気光学結晶(電気光学素子)を含む。また、各実施例の光学機器は、電気光学素子に印加する電圧を制御する駆動回路(駆動手段)を有する。
まず、電気光学結晶の内部の屈折率分布の変化を利用した光学防振の原理について説明する。
【0010】
光の屈折については、一般に式(1)に示すスネルの法則を用いて説明することができる。レンズをシフトさせたり可変頂角プリズムの頂角を変化させたりする光学防振についても、このスネルの法則を用いて説明することができる。
【0011】
×sinθ=n×sinθ…(1)
ただし、n,nはそれぞれ光の入射側と射出側の媒質の屈折率であり、θ,θはそれぞれ光の入射角と射出角である。
しかし、屈折率分布によって光束の進行方向が変化する場合、スネルの法則では説明することができない。例えば、図1には、光軸と平行な方向には屈折率が一様であるが、光軸に直交する方向に屈折率分布がある結晶(例えば、電気光学結晶)を示している。
この結晶に光軸に平行に光束が入射した場合、スネルの法則に従えば光束は直進するはずである。しかし、実際には光束の進行方向は屈折率が高い方向(図1中の下側)へと連続的に変化する。この現象を説明するには、光の位相について考える必要がある。
図1のように上下方向に屈折率分布がある結晶に光束が入射する場合、該光束のうち上側の部分と下側の部分がそれぞれ通過する結晶内領域(媒質)の屈折率の値は微妙に異なる。このとき、屈折率の高い媒質を通過する光束部分の位相は遅れ、屈折率が低い媒質を通過する光束部分の位相は進むこととなる。この場合、光束の等位相面(波面)は下向きに傾くことになる。光束は等位相面に直交する方向に進行するため、結果的に結晶内で光束は徐々に進行方向を下向きに変えながら進んでいくことになる。
【0012】
したがって、屈折率分布の大きさを制御できれば、光束内の位相差(つまりは等位相面)を制御することができ、該光束の進行方向を制御することができる。
【0013】
電気光学結晶に電圧を印加することにより、該結晶の内部に電子が注入され、結晶内の電界が不均一なることがある。電界が不均一になれば、電気光学結晶内に生じる電気光学効果にも偏りが生じ、屈折率分布が生じる。また、この屈折率分布は印加電圧によって制御することができる。この原理を応用することで、電気光学素子を用いた光学防振を行うことができる。
次に、各実施例における電気光学結晶の内部において発生させる屈折率分布の特徴について説明する。
光学防振効果を得るために電気光学素子の内部に発生させる屈折率分布は、光学系の光軸に対して非対称である。つまり、光軸に直交する面内で屈折率が変化する。屈折率分布が光軸に対して対称である場合、すなわち光軸を中心として径方向に屈折率が変化する、いわゆるラジアル型屈折率分布では、光学防振効果が得られない。ラジアル型屈折率分布では、素子内を通過する光束の焦点位置を変えることはできるが、光束の進行方向を変えることはできないからである。
【0014】
次に、各実施例に用いられる電気光学素子の特徴について説明する。各実施例では、2次の電気光学効果を示す固体光学結晶を用いた電気光学素子を用いることが好ましい。
【0015】
電気光学効果には、誘電体結晶に電界をかけた際に、該電界の強さに比例して屈折率が変化する1次の電気光学効果(ポッケルス効果)と、電界の強さの2乗に比例して屈折率が変化する2次の電気光学効果(カー効果)とがある。
1次の電気光学効果を示す材料としては、KHPO(KDP)、NHPO(ADP)、LiNbO、LiTaO、GaAs、CdTe等がある。また、2次の電気光学効果を示す材料としては、KTN(KTa1−xNb)、SrTiO、Cs、ニトロベンゼン等がある。
【0016】
2次の電気光学効果を示す結晶を用いれば、結晶に印加する電圧が小さくても大きな屈折率変化を誘起することができる。特に、KTN結晶は、他の電気光学結晶と比べると非常に大きな電気光学効果を示すので、光学防振のために好ましい。なお、電気光学結晶は、2次に限らず、2次以上の電気光学効果を示すものであればよい。
【0017】
さらに、固体光学結晶の電気光学効果の応答速度は、100Hz〜kHzオーダーであり、低周波域だけでなく、高周波帯域の像振れも十分に低減(補正)することができる。
また、各実施例は、電気光学素子とは別の防振装置を含んでいる。電気光学素子を用いることで防振の応答速度を非常に速くすることが可能であるが、大きな像振れを補正するために光束の進行方向を大きく変えるには、電気光学素子への印加電圧を高くする必要がある。また、光束の偏向角が大きくなれば、電気光学素子内で発生する収差も大きくなる。さらに、一般に、大きな像振れは低周波帯域で発生し、高周波帯域での像振れは小さいものとなることが多い。
したがって、電気光学素子を高周波帯域用の防振装置として使用し、これとは別に低周波帯域用の防振装置を光学機器内に設けることが好ましい。光学機器内において、高周波帯域と低周波帯域で用いる防振装置を切り替えれば、低周波帯域から高周波帯域までの広い周波数帯域に対応した防振機能を得ることができる。
【0018】
なお、別の防振装置としては、レンズや撮像素子をシフトさせる防振装置や可変頂角プリズムを用いた防振装置等の光学防振方式を用いたものがある。また、撮像素子からの出力を用いて生成された画像からの切り出し範囲をシフトしたり、他の画像処理を行ったりする電子的防振方式を用いてもよい。
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。
【0019】
図2、図5および図8はそれぞれ実施例1,2および3である光学機器の光学系の断面を示している。これらの図において、左側が物体側(又は前側、拡大側)に相当し、右側が像側(又は後側、縮小側)に相当する。OLは光学系の全体を示す。
iを物体側から数えたレンズユニットの順番とするとき、Liは第iレンズユニットである。SPは開口絞りである。IPは像面である。像面IPには、デジタルスチルカメラやビデオカメラではCCDセンサやCMOSセンサ等の撮像素子(光電変換素子)の撮像面が配置され、フィルム用カメラではフィルム面が配置される。撮像素子およびフィルムは、光学系OLにより形成された被写体像を記録する感光部材に相当する。
1は光学系OLの光軸である。eo(i=1,2,…,m)は電気光学素子である。また、X,YおよびZはそれぞれ、光学系OLの光軸方向、高さ方向および奥行き方向を表す。
図8のレンズ断面図において、Gは差込みフィルター、光学ローパスフィルター、赤外カットフィルター等に相当するガラスブロックである。
【0020】
図3(a)〜(c)、図6(a)〜(c)および図9(a)〜(c)にはそれぞれ、実施例1,2および3の光学系の収差図を示している。これらの図において、d,gはそれぞれ、d線とg線を表し、Sはサジタル光線を表している。yは像高である。各図の(a)は像振れのない基準状態での横収差図を示している。また、(b),(c)はそれぞれ、Y方向とZ方向に像振れを発生させるような振れが光学機器に生じた際に、後述する防振電気光学素子ユニットによって防振を行った場合の横収差図を示している。
【0021】
図4、図7および図10には、実施例1,2および3における電気光学素子の内部の屈折率分布を示している。これらの図において、X軸は光学系OLの光軸1に相当し、図の紙面に垂直な方向に延びている。また、Y軸は高さ方向に、Z軸は奥行き方向に相当する。
【実施例1】
【0022】
図2に示す実施例1において、光学系OLは、焦点距離が294mmの望遠レンズである。該光学系OLのうち、第2レンズユニットL2はフォーカスレンズユニットであり、物体距離が短くなるとフォーカスのために像側に移動する。第3レンズユニットL3は、フォーカスおよび防振に際して固定(不動)の第1レンズコンポーネント3aおよび第3レンズコンポーネント3cと、防振に際して光軸1に直交する方向にシフトする防振レンズユニット3bを含む。また、第3レンズユニットL3は、電気光学素子eo1,eo2により構成される防振電気光学素子ユニット3dを含む。
防振レンズユニット3bは、主として低周波帯域の振れに起因した像振れを低減(補正)するために用いられる。また、防振電気光学素子ユニット3dは、主として高周波帯域の振れに起因した像振れを低減するために用いられる。このように、振れの周波数帯域によって使用する防振ユニットを切り替えることで、広い周波数帯域の振れに対して良好な防振性能を得ることができる。
なお、防振レンズユニット3bに代えて、像面IPに配置した撮像素子を光軸1に直交する方向にシフトさせて、低周波帯域の像振れを補正するようにしてもよい。また、前述した電子的防振方式を用いて低周波帯域の像振れを補正するようにしてもよい。
防振電気光学素子ユニット3dにおいて、電気光学素子eo1はピッチ(垂直)方向の回転振れに起因する像振れを補正し、電気光学素子eo2はヨー(水平)方向の回転振れに起因する像振れを補正する。このように、防振電気光学素子ユニット3dは、1つの光学断面に対して1つの電気光学素子を用いた小型の構成を有するので、これを備えた光学機器の小型化が可能である。
図3(a)は、前述したように像振れのない基準状態での本実施例の光学系OLの横収差図を示している。図3(b),(c)はそれぞれ、Y方向にy=−0.5mmおよびZ方向にy=−0.5mmの像振れを発生させるような振れ(0.14度の回転振れ)が光学機器に生じた際に、防振電気光学素子ユニット3dによって防振を行った場合の横収差図を示している。
防振電気光学素子ユニット3dは、電気光学素子eo1,eo2として、KTN結晶を用いている。図4には、電気光学素子eo1の内部に発生させる屈折率分布を示しており、最大の屈折率差は0.056である。電気光学素子eo2には、電気光学素子eo1の屈折率分布を90度回転させたものに相当する屈折率分布を与える。
電気光学素子eo1,eo2にはそれぞれ、駆動回路(図13参照)により、光軸1に対して直交する方向(ピッチ方向であるY軸方向とヨー方向であるZ軸方向)において電圧が印加される。これにより、電気光学素子eo1,eo2の内部に、それぞれの電圧印加方向に連続的に変化する屈折率分布が発生し、ピッチ方向とヨー方向の像振れが良好に補正される。
【実施例2】
【0023】
図5に示す実施例2において、光学系OLは、焦点距離が294mmの望遠レンズである。該光学系OLは、基本的に実施例1の光学系と同じ構成を有しており、第3レンズユニットL3に、電気光学素子eo1,eo2を含む防振電気光学素子ユニット3dが含まれる。
図6(a)は、前述したように像振れのない基準状態での本実施例の光学系OLの横収差図を示している。図6(b),(c)はそれぞれ、Y方向にy=−0.1mmおよびZ方向にy=−0.1mmの像振れを発生させるような振れ(0.03度の回転振れ)が光学機器に生じた際に、防振電気光学素子ユニット3dによって防振を行った場合の横収差図を示している。
本実施例においても、防振電気光学素子ユニット3dの電気光学素子eo1,eo2として、KTN結晶を用いている。図7には、電気光学素子eo1の内部に発生させる屈折率分布を示しており、最大の屈折率差は0.022である。
電気光学素子eo1には、駆動回路(図13参照)により、光軸1からY軸方向に15.0mm、Z軸方向に15.0mmの位置を中心として電圧を印加している。これにより、電気光学素子eo1の内部に同心円状に連続的に変化する屈折率分布が発生する。このような同心円状の屈折率分布を発生させることで、1つの電気光学素子eo1のみでピッチ方向であるY軸方向とヨー方向であるZ軸方向での像振れを良好に補正することができる。
なお、電気光学素子eo2には屈折率分布を与える必要はないが、電気光学素子eo2にも電圧を印加して屈折率分布を与えることにより、より良好な防振性能を得るようにしてもよい。
【実施例3】
【0024】
図8に示す実施例3において、光学系OLは、焦点距離が6mmと96.5mmとの間で変化するズームレンズである。該光学系OLは、物体側から順に、正の屈折力を有する第1レンズユニットL1と、負の屈折力を有する第2レンズユニットL2と、正の屈折力を有する第3レンズユニットL3と、正の屈折力を有する第4レンズユニットL4とを有する。
図8中に矢印で示すように、広角端から望遠端へのズーミングに際して、第1レンズユニットL1は像側に向かって凸の軌跡で移動し、第2レンズユニットL2は像側に移動する。また、第3レンズユニットL3は物体側に移動し、第4レンズユニットL4は物体側に向かって凸の軌跡で移動する。
第4レンズユニットL4はフォーカスレンズユニットであり、物体距離が短くなるとフォーカスのために物体側に移動する。
第3レンズユニットL3は、防振に際して光軸1に直交する方向にシフトする防振レンズユニット3aと、電気光学素子eo1,eo2を含む防振電気光学素子ユニット3bを含む。
防振レンズユニット3aは、主として低周波帯域の振れに起因した像振れを補正するために用いられる。また、防振電気光学素子ユニット3bは、主として高周波帯域の振れに起因した像振れを低減するために用いられる。このように、振れの周波数帯域によって使用する防振ユニットを切り替えることで、広い周波数帯域の振れに対して良好な防振性能を得ることができる。
なお、防振レンズユニット3aに代えて、像面IPに配置した撮像素子を光軸1に直交する方向にシフトさせて、低周波帯域の像振れを補正するようにしてもよい。また、前述した電子的防振方式を用いて低周波帯域の像振れを補正するようにしてもよい。
図9(a)は、前述したように像振れのない基準状態での本実施例の光学系OLの横収差図を示している。図9(b),(c)はそれぞれ、Y方向にy=−0.2mmおよびZ方向にy=−0.2mmの像振れを発生させるような振れ(0.17度の回転振れ)が光学機器に生じた際に、防振電気光学素子ユニット3bによって防振を行った場合の横収差図を示している。
本実施例においても、防振電気光学素子ユニット3bの電気光学素子eo1,eo2として、KTN結晶を用いている。図10には、電気光学素子eo1の内部に発生させる屈折率分布を示しており、最大の屈折率差は0.068である。電気光学素子eo2には、電気光学素子eo1の屈折率分布を90度回転させたものに相当する屈折率分布を与える。
電気光学素子eo1,eo2にはそれぞれ、駆動回路(図13参照)により、光軸に対して直交する方向(ピッチ方向であるY軸方向とヨー方向であるZ軸方向)において電圧が印加される。これにより、電気光学素子eo1,eo2の内部に、それぞれの電圧印加方向に連続的に変化する屈折率分布が発生し、ピッチ方向とヨー方向の像振れが良好に補正される。
【0025】
以上説明したように、上記実施例1〜3によれば、小型で、かつ高周波帯域の振れによる像振れも良好に低減可能な光学機器を実現することができる。
図11には、実施例1,3において用いられる電気光学素子の電極配置を示している。直方体形状に形成された電気光学結晶における光軸1とは交わらない互いに対向する2つの面に電極が配置されている。該2つの電極間に電圧を印加することで、電気光学結晶の内部に光軸1に対して直交する方向の屈折率分布を発生させることができる。また、印加電圧を変える(制御する)ことで、屈折率分布を変えることができ、これにより、光束の偏向角度を制御することができる。
【0026】
図12には、実施例2において用いられる電気光学素子の電極配置を示している。扇形状の電気光学結晶の頂点とその外周部に電極が設けられている。これら2つの電極間に電圧を印加することで、電気光学結晶の内部に同心円状の屈折率分布を発生させることができる。また、印加電圧を変える(制御する)ことで、屈折率分布を変えることができ、これにより、光束の偏向角度を制御することができる。
以下、実施例1〜3のそれぞれに対応する数値例1〜3を示す。面番号は物体側から順に数えている。Rは曲率半径(mm)、Dは面間隔(mm)、Ndとνdはそれぞれd線に対する屈折率とアッベ数を表す。また、光学系中に用いられている電気光学素子をeo1とeo2で示す。BFはバックフォーカスであり、レンズ全長は第1面から像面までの距離を表す。
非球面は面番号の後に*を付して表す。非球面形状は、Xを光軸方向の面頂点からの変位量とし、hを光軸からの高さとし、rを近軸曲率半径とし、kを円錐定数とし、B,C,D,E,…を各次数の非球面係数とするとき、以下の式(2)で表される。
【0027】
【数1】

【0028】
…(2)
なお、各非球面係数における「E±XX」は、「×10±XX」を意味する。
(数値例1)
【0029】


(数値例2)
【0030】


(数値例3)
【0031】

【実施例4】
【0032】
図13には、本発明の実施例4である光学機器としてデジタルスチルカメラ(撮像装置)を示している。このカメラには、実施例1〜3に示した光学系が撮影光学系として用いられている。
【0033】
図13において、20はカメラ本体であり、21は実施例1〜3に示した光学系である。光学系21には、実施例1〜3に示した電気光学素子eo1,eo2を用いた防振電気光学素子ユニット26が含まれている。
22はカメラ本体20に内蔵され、光学系21により形成された被写体像を光電変換する撮像素子(光電変換素子)である。撮像素子22からの出力を用いて生成された画像は、不図示のメモリに記録されたり、液晶パネル等の表示素子によって構成された背面ディスプレイ24に表示されたりする。
25p,25yはそれぞれ、カメラ本体20のピッチ方向およびヨー方向の振れを検出する振れセンサ(振れ検出手段)であり、角速度センサ等により構成されている。23は振れセンサ25p,25yにより検出された振れに起因する像振れを低減するように防振電気光学素子ユニット26(電気光学素子eo1,eo2)に電圧を印加する駆動回路である。
【0034】
このように実施例1〜3の光学系をデジタルスチルカメラ等の撮像装置に適用することにより、小型で高い光学性能を有する撮像装置を実現することができる。
【0035】
なお、本実施例では、振れセンサを用いてカメラの振れを検出する場合について説明したが、撮像素子からの出力を用いて生成された画像から動き成分(動きベクトル)を算出し、該動き成分からカメラの振れを検出するようにしてもよい。
以上説明した各実施例は代表的な例にすぎず、本発明の実施に際しては、各実施例に対して種々の変形や変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
電気光学素子を用いた、小型で、かつ高周波帯域の振れによる像振れも良好に低減可能な光学機器を提供できる。
【符号の説明】
【0037】
eo1,eo2 電気光学素子
L1 第1レンズユニット
L2 第2レンズユニット
L3 第3レンズユニット
L4 第4レンズユニット
SP 開口絞り
IP 像面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学系を有する光学機器であって、
振れを検出する振れ検出手段と、
前記光学系の一部を構成し、印加される電圧に応じた電気光学効果によって内部の屈折率分布が変化する電気光学素子と、
前記振れ検出手段により検出された振れによる像振れを低減するように電圧を前記電気光学素子に印加する駆動手段とを有することを特徴とする光学機器。
【請求項2】
前記電気光学素子の内部の屈折率分布は、前記光学系の光軸に対して非対称であることを特徴とする請求項1に記載の光学機器。
【請求項3】
前記電気光学素子は、2次以上の電気光学効果を示すことを特徴とする請求項1又は2に記載の光学機器。
【請求項4】
該光学機器は、前記電気光学素子とは別に、前記振れ検出手段により検出された振れによる像振れを低減するための防振手段を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の光学機器。
【請求項5】
前記光学系により形成された被写体像を記録する感光部材を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の光学機器。

【図12】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−27864(P2011−27864A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171735(P2009−171735)
【出願日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】